振動観測記録を用いた...

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振動観測記録を用いた 構造物のモデルの更新 東京大学 肥田剛典 2

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振動観測記録を用いた構造物のモデルの更新

東京大学 肥田剛典

2

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モデルの更新とは?

・建設後の状況を踏まえた構造特性の更新

・地震等の経験後の構造特性の変化を把握

システム同定手法を利用し、構造物の地震時や常時微動観測記録から、地震応答解析モデルのパラメータを推定し、更新する。

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4

建物の強震観測例※)

※) 吉田昴希, 川島学, 鹿嶋俊英, 井口道雄, 肥田剛典, 永野正行: 長期間に亘るSRC造建物の振動特性と2011年東北地方太平洋沖地震時の損傷評価, 2011年度日本建築学会関東支部研究報告集Ⅰ, pp. 321-324, 2012. 3

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5

固有振動数の経年変化

3.11地震

建物の振動特性は年々変化する

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1.システム同定手法の種類と特徴

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1.1 時間領域の手法

・カルマンフィルタ・ARXモデル・部分空間法

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カルマンフィルタ

• 直前までの情報と、新しく得たデータをもとに、最適なシステムの状態を推定する手法。

• 離散時間系において、タイムステップが進むたびに、システムは観測値を入手し、その前のステップで予測した値と比較して予測値を更新する。

• 次のステップでは、新たな観測値を入手してその予測値を補正してゆく。

• この繰り返しによって、より確からしい予測を行う。

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初期値x1

カルマンフィルタの概念図

濾波

初期値x0 初期値x0

濾波値 𝑥0

観測値y0

入力値u0

濾波

濾波値 𝑥1入力値u1

観測値y1

・・・・・・

モデルのパラメータ(剛性、減衰等)を状態とし、逐次更新してパラメータを同定する

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ARXモデル

• モデル構成が単純で,入出力のデータに対してブラックボックス的に適用できる。

• 線形の最小2乗法でパラメタ推定ができるた

め,初期値の仮定や,繰り返し計算をする必要がない。

• 基本的に1入力1出力システムを扱うが、多入

力多出力システムに拡張した「モード解析型多入力多出力ARXモデル」も提案されている。

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部分空間法

• システムを状態空間表現で表し、それに合うモデルを同定する。

• 多入力多出力システムに適用できる。

• アルゴリズムがいくつか提案されており、それぞれ同定精度が異なる。(MOESP, N4SID, ORT法等)

• 少ないデータ数でも高い精度で同定可能

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Fre

quency

(Hz)

Dam

pin

g f

acto

r

(%

)

Time (s)

Time (s)

Time (s)

図 5 同定された固有振動数と減衰定数 25) (T=2s, r=10)

a) Ordinary MOESP, Natural frequency

b) Ordinary MOESP, Damping factor

c) N4SID, Natural frequency

d) N4SID

e) PO-MOESP, Natural frequency

f) PO-MOESP, Damping factor

Tru

e v

alu

e

Tru

e v

alu

e

Damping factor

アルゴリズムによる同定精度の違い※)

Ordinary MOESP N4SID PO-MOESP

12※)肥田剛典, 永野正行: 部分空間法に基づくシステム同定による建物の固有振動数と減衰定数の推定精度, 日本建築学会構造系論文集, Vol. 79, No. 701,pp. 923-932,2014. 7

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1.2 周波数領域の手法

・カーブフィット法・FDD法・CMIF法

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カーブフィット法

• 伝達関数の解析式を想定し、その式中の固有振動数、減衰比、振動モードなどのモーダル・パラメータを適当な値にすることにより、実測された伝達関数とモデルの伝達関数を近似させる。

• 各振動モードのピークが離れていて、相互に影響を及ぼさない場合には、1自由度系のカーブ・フィットが使われる。

• 隣接する振動モードの特性が互いに重なり合った場合には、多数の振動モードの影響を考慮する必要がある。

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FDD(Frequency Domain Decomposition)法

• 多点で測定した建物の応答のパワースペクトル行列を特異値分解し、固有モード、固有振動数、減衰定数等のモード特性を同定する。

• モードが近接する場合や狭帯域に多数のモードが存在するシステムでも、モード特性を高精度で同定出来る。

• 構造物の応答データのみを用いる。

(常時微動観測データを用いたシステム同定に適している)

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特異値スペクトルの例

飯山他: 2011 年東北地方太平洋沖地震で損傷した鉄筋コンクリート造3階建て建物のモード特性と損傷階の推定, 地震工学会論文集, 第12巻, 第5号(特集号), pp. 207-224, 2012 16

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CMIF(Complex Mode Indicator Function)法

• 基本的にはFDD法と同様。• 入出力システムに適用できる。• 多入力多出力システムに適用可能。

(地震動等の不規則外乱を受ける構造物のシステム同定に適している)

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2.振動観測記録を用いた構造物の振動特性同定の例

18

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2.1 建築物

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例1)地震時におけるRC造超高層集合住宅の振動

特性の変動評価例※)

-300

0

300

0 50 100 150

-300

0

300

0 50 100 150

-300

0

300

0 50 100 150

加速度時刻歴波形(EW)Time (s)

Acc. (cm/s2 )

c) B1F, max. = 78.6 cm/s2

b) 12F, max. = -145.0 cm/s2

a) RF, max. = 268.3 cm/s2

Acc. (cm/s2 )

Acc. (cm/s2)

検討対象建物の建設位置

Target building

20※)肥田剛典, 永野正行: 部分空間法に基づくシステム同定による建物の固有振動数と減衰定数の推定精度, 日本建築学会構造系論文集, Vol. 79, No. 701,pp. 923-932,2014. 7

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0.1

1

10

0 50 100 1500

5

10

15

20

0 50 100 150

固有振動数 減衰定数

Nat

ura

l fre

qu

en

cy (

Hz)

Dam

pin

g ra

tio

(%

)Time (s) Time (s)

21

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例2)逐次部分空間法※)による時々刻々の各層剛性の推定

Acc.

(cm/s2)

T

②③④⑤

⑦⑥

⑧…t

逐次部分空間法

建物模型の振動台実験

板バネ

錘(各階2.5kg)

振動台

加速度計

20

0m

m2

00

mm

加速度計

ブレース(糸, 1階のみ)

※) H. Oku and H. Kimura (1999): A Recursive 4SID from the Input-Output Point of View, Asian J. Control, 1(4), 258-269.

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-10

-5

0

5

10

0 50 100 150 200

Time (s)

Acc

ele

rati

on

(m

/s2)

1.8

2

2.2

2.4

0 50 100 150 200

Time (s)

1st

na

tura

lfr

eq

. (H

z)

屋上階加速度

800

1000

1200

1400

1600

0 50 100 150 200

Time (s)

Sto

ry s

tiff

ne

ss (

N/m

)

1階

2階

1次固有振動数

層剛性

ブレース1本破断

ブレース2本破断

1階のブレース破断による剛性低下を検出可能

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Story stiffness

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例3)2点強震観測による剛性分布の推定とモデル更新※)

※)李尚元, 肥田剛典, 田沼毅彦, 小田聡, 永野正行, 高田毅士: 超高層建物の2点強震観測記録に基づく層剛性の高さ分布推定手法に関する実証的研究, 日本建築学会大会学術講演梗概集(九州), pp. 965-966, 2016. 8

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② 最適化1① システム同定

観測記録 固有周期

減衰定数

伝達関数

刺激関数

剛性分布③ 最適化2

剛性分布推定手順

部分空間法 カーブフィット

逆固有値問題

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観測概要

構造形式 RCラーメン

階数 30

観測位置 B1, 15F, 30F

1999.07

~2012.3

観測記録数 83

観測期間

Target Building

(ただし、3.11本震時の記録は損失)

対象建物建設位置

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全観測記録を用いて、2016年東北地方太平洋沖地震(3.11本震)前後の剛性低下率の分布形状を推定

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0

1

2

固有周期

(s) 1st 2nd 3rd 4th

0

1

2

3

4

5

減衰定数

(%)

1999.7 2000.11 2005.2 2008.8 2011.11

3.11本震固有周期の同定結果

減衰定数の同定結果

固有周期と減衰定数の経年変化

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剛性分布剛性低下率

0

5

10

15

20

25

30

0 20 40

層せん断剛性 (kN/m x106)

3.11本震前

3.11本震後

※)山根義康, 永野正行, 肥田剛典, 保井美敏, 山本健史, 井川望, 田沼毅彦: 2011年東北地方太平洋沖地震時における超高層集合住宅の室内被害の分析と建物応答との対応, 日本建築学会技術報告集, 第20巻, 第44号, pp. 67-72, 2014. 2

0 0.5 1

0

5

10

15

20

25

30

0 1 2

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

層剛性損傷率

内装材亀裂評価数値(アンケート)

標準化階

(アンケート

)

アンケート調査

本手法

※)

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29

モデル更新

3.11

2011年4月26日の地震

2010年3月14日の地震

2011年4月12日の地震

2011/3/11(東日本大震災)

更新後モデル更新前モデル

(欠測)

Time

シミュレーション

更新前と更新後のモデル(線形)でその後の地震時挙動をシミュレーションし、結果を比較

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30

-20

0

20

0 20 40 60 80 100 120Time (s)

Acc

. (cm

/s2)

-20

0

20

0 20 40 60 80 100 120Time (s)

Acc

. (cm

/s2)

-20

0

20

0 20 40 60 80 100 120Time (s)

Acc

. (cm

/s2)

-20

0

20

0 20 40 60 80 100 120Time (s)

Acc

. (cm

/s2)

30F

15F

30F

15F

更新前モデル

更新後モデル

観測 解析

観測 解析

観測 解析

観測 解析

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0

5

10

15

20

25

0.1 1 10Period (s)

pSv

(cm

/s)

0

5

10

15

20

25

0.1 1 10Period (s)

pSv

(cm

/s)

0

5

10

15

20

25

0.1 1 10Period (s)

pSv

(cm

/s)

0

5

10

15

20

25

0.1 1 10Period (s)

pSv

(cm

/s)

31

30F15F

30F15F

観測

解析

観測

解析

観測

解析

観測

解析

更新前モデル

更新後モデル

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1) 時々刻々の剛性変化を推定し、損傷位置の推定結果が実現象と一致

2) 実建物の強震観測記録から、3.11本震前後の剛性低下率を推定し、損傷位置の特定が可能

3) 推定された剛性分布を用いてモデルを更新し、応答解析結果と観測記録を比較し、推定した実建物の剛性分布の妥当性を示した

32

まとめ