【日本農業新聞会長賞】 農家の部 石川県能美市 有限会社 ......- 58 -...
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【日本農業新聞会長賞】
農家の部
石川県能美市
有限会社たけもと農場 竹本た け も と
彰しょう
吾ご
氏
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1.能美市の概要
能美市(のみし)は、石川県南部の加賀地方に位置し、市域は県内最大の河
川である手取川の左岸の平坦部を中心にひらけ、日本海に面している(図1)。
金沢市や小松市などに近く、北陸自動車道など交通網も発達していることから、
工場の進出や住宅団地の造成が進み、人口も増加している。 農業は水稲作を中心として、加賀丸いも(やまといも)、かぼちゃなどの野菜
やハトムギなどの生産も盛んである。
図1 能美市の位置
2.竹本氏の経営概要
竹本彰吾氏(36 才)は有限会社たけもと農場の代表として、能美市牛島町に
おいて大規模な水田作経営を夫婦 2人と父、従業員4名とともに行っている(図
2)。
竹本氏は大学卒業後からたけもと農場において、豊富な農業経営経験を有す
る先代代表である父親から技術習得をするとともに、全国農業青年クラブ連絡
協議会での活動やコメの直販などを通じた異業種とのコラボレーション、Z-GIS
営農管理システム開発での実証研究協力、トヨタ自動車と連携した工程管理シ
ステムの導入など、新たな農業経営のあり方を追求した幅広い活動を実践する
若き農業リーダーである。
竹本氏が 2 年前に経営を引き継いだたけもと農場は能美市牛島町内の水田約
48ha で水稲・大麦・大豆を栽培している。圃場はいずれも通年借地である(表
能美市 金沢
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1)。20 年前の事業面積は 8ha 程度であったが、地域農家の高齢化を背景とし、
コメの直売による経営や栽培管理技術の改善などによって、事業規模を拡大し
てきている。大麦の作付けは水稲とのバランスの中で年次によって調整してい
る。圃場は平均 100a 程度で団地化され、Z-GIS で効率的な管理をおこなってい
る(表2)。
図2 竹本氏の経営及び連携する地域組織
表1 経営作目の概要
表2 大麦作の作付体系及び団地化の概要
麦 361a
水 稲 4,270a
主要作目名 作付、栽培面積、飼養頭数等
大 豆 317a
8%
-
水稲-麦-大豆田
主な作付体系
畑
区
分
当該作付
体系による
麦作付比率
0 0a
3 平均100a 361a
麦作付面積 団地数1団地当た
り作付面積
0a -
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3.大麦の生産実績
竹本氏の 10a当たりの収量は、561㎏で、石川県平均収量(323㎏)に比べて
174%の収量水準を達成している(表3)。1 等麦比率も 79%で、石川県平均
(69.3%)に比べて高く、硝子率も基準値を満たす 38%に抑え、収量と品質を
両立させた麦づくりを達成している。
表3 作付面積、単収、上位等級比率の推移
4. 技術上の特色
(1)栽培技術
大麦づくりにおいて重要な排水対策では、すべての圃場に弾丸暗きょのほか、
額縁明きょ、圃場内明きょを早期に設置して水稲収穫後の圃場乾燥に努めてい
る(図3)。また、土づくりについては大型機械を利用した深耕土壌改良材「カキ鉄エース」の施用のほか、水稲作での珪カル施用により積極的に土づくりを
進めている。
また、JA や県普及センターとの情報連携を密にし、暖冬による一発肥料の早
期溶出による肥切れに対応した春季追肥(3/6、N1.1kg・K1.1kg/10a)のほか、
生育の劣る一部圃場については秋季追肥(11/21、N1.5kg/10a)も行っている。
また、圃場管理を検討するなかで、雑草害が増加傾向にあることがわかり、除
草剤を新たな銘柄に変えたことによって、雑草の完全抑制ができたことなど、
多くの基本技術の集積、圃場管理の的確さが多収達成の要因となっている。
当たり収量 比 率
3年前
2年前
361a 361a
ファイバースノウ
a
522a
大麦 ファイバースノウ
大麦
a 561㎏
(323㎏)
79%
(69.3%)a
前 年
本 年
a 78.0%
(66.5%)
225㎏
(220㎏)a ファイバースノウ
a
a a 252㎏
(325㎏)
52.6%
(57.0%)
522a
a a
10アール 上位等級
a 843a
作業受託 全面
作業受託
a
大麦
品種
ファイバースノウ
作付面積 経営受託
a
年産
大麦 843a
通年借地
847a 847a
麦種 期間借地
313㎏
(335㎏)
68.7%
(61.8%)
a a
a
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図3 明渠を排水溝までしっかりつないだ排水対策
(2)Z-GISを利用した効率的管理
竹本氏は営農管理システム Z-GIS の開発段階から JA 全農と連携協定を結び、
利用を始めている。作付け計画、圃場管理などが一筆ごとにマップデータとと
もに簡単に記録、確認ができている(図4)。Z-GIS 導入前の圃場管理は手書き
マップを基本としていたが、導入後は計画、管理記録、地力情報などがスマホ
上で共有できるようになっており、将来的には EC、可変施肥などへつなげたい
と考えている(図5)。そのため、年に数回、システム開発者との意見交換を行
い、現場利用者としてより使い勝手の良いシステムへの改善を求めている。
図4 Z-GIS データをプリントアウトした作付け図
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図5 スマホでの Z-GIS圃場管理データの現場確認
(3)トヨタ自動車方式「カイゼン」システムの導入
竹本氏は農業経営の改善のために、トヨタ自動車方式「カイゼン」システム
の導入をすすめてきている。「技術の見える化」、「小集団活動」などを通じて、
社員の技術レベルアップが図られている。週 1回 1時間程度の小集団活動(テー
マは各種の圃場管理技術、資材発注の改善、倉庫管理の改善、受注・発送の効
率化など)、月 2回の全体すり合わせを行っている。打ち合わせには社員のほか
に、JA営農指導員、県の普及職員などが加わることもある。「現状把握→対策→
ふりかえり」が明確になり、若手社員も含めて一人一人が考えて動けるように
なってきている。また、優れた栽培技術をもつ先代社長(竹本氏の父親)のノウ
ハウを共有・伝授するための「見える化マニュアル」も多くのテーマで作られ、
社員のレベルアップに用いられている(図6)。
こういった活動から「作業の見える化」がすすみ、作業効率がアップして、
稲刈りと麦播種準備の効率化、分担進行が可能になり、弾丸暗渠の早期施工な
ど圃場排水の改善などにもつなげられている。
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図6 技術共有のための「見える化シリーズ」(テーマ別マニュアル)
5.品質の改善
前述の排水対策、土づくりや生育診断に基づく追肥のほか、適期播種などの
基本技術を遵守することを心がけ、種子は毎年 100%更新するとともに、JA無人
ヘリによる赤カビ病の 2回防除の徹底など品質改善に努めている。また、乾燥・
調製は、JA能美の共同乾燥施設に委託し、調製の篩目は 2.4mm とし、細麦を
除去した高品質麦を出荷している。
6.労働時間・コストの低減
竹本氏の 10a当たりの所要時間は 3.03 時間で、全国平均 4.34 時間(H29 調
査、六条大麦)に比べて約 30%短くなっている(表4)。これは先述の「カイゼ
ン」活動による作業の効率化を基本として、ブロックローテーションにより団
地化していること、ツーウエイロータリーでの耕起・播種・施肥の同時作業化、
播種までに余裕を持った時期にサブソイラによる弾丸暗渠施工による良好な土
壌条件の確保によるものである。
また、農閑期に行う保有する農業機械の整備においては社員を機械とともに
JA農機センターに派遣し、修繕整備を JAとともに実施してコスト削減を進める
とともに、社員の整備技術向上の場としている。
前述のような優れた収量・品質、効率的な経営によって、大麦作の所得率は
48.3%を確保している(表5)。
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表4 10a当たりの機械使用時間及び労働時間
種 子 の 準 備 ~
堆 肥 散 布 ~
排 水 作 業 サブソイラ 9. 20 ~ 9.27 15 15 弾丸暗渠
石灰、 肥 料 散 布 ブロードキャスター 10.12 ~ 10.14 3 3 酸度矯正資材
耕 起 ロータリー 10.15 ~ 10.17
播 種 クリーンシーダ 10.15 ~ 10.17 20 60 3人で作業
覆 土 クリーンシーダ 10.15 ~ 10.17 播種同時
除 草 剤 散 布 散布機 10.15 ~ 10.17
雪害防除(消雪) ~ 6 18 3人で散布
追 肥 動力散布機 11.21 ・ 3.6 6 36 3人で散布 × 2回
刈 取 、 脱 穀 自脱型コンバイン 6.10 ~ 6.5 40 40
運 搬 トラック 7.18 ~ 26 10 10
乾 燥 ~
調 製 、 包 装 ~
残 稈 処 理 ~
182分
3.03時間
(4.34時間)
( )内はH29全国平均の労働時間。
合 計
JAへ委託
備 考作 業 名 稼 働 日機 械 名機械使用時間(分)
労働時間(分)
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表5 収益の明細
円 円 円
(主食用途) 498,443 13,807
(ビール用途)
(種子用途)
(飼料用途)
粗収益 73,692,000 副産物
A (くず麦) 66,168 1,833
(麦 稈)
(うち畑作物直接支払交付金) 2,162,160 59,894
(うち水田活用直接支払交付金) 1,263,500 35,000
(うちその他補助金) 829,300 22,972
小計 4,819,571 円 133,506 円
円 70,178 円 1,944 円
443,782 12,293
203,652 5,641
64,836 1,796
経営費 12,409 344
B 34,406,000 75,810 2,100
634,003 17,562
0
452,152 12,525
0
12,000 332
270,750 7,500
0
252,700 7,000
小計 2,492,272 円 69,038 円
所 得 39,286,000 2,327,299 円 64,468 円
A-B (所 得 率 48.3%)
支払利子
支払地代
物件税・公課諸負担
農機具費
建物費
自動車費
雇用労働費
農業薬剤費
光熱動力費
その他の諸材料費
土地改良及び水利費
賃借料・料金
自家消費等
補助金
種苗費
肥料費
うち、麦に係る部分 10a当たり換算
麦売渡代金
項目農業経営
全体
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7.流通の合理化
大麦の乾燥調製は JA能美の共乾施設を利用し、高品質調製を心がけるととも
に、全量フレコン出荷としている。
8.今後の麦作への取組み
地域の農家が減少傾向にあることも踏まえ、竹本氏は Z-GIS やトヨタ流カイ
ゼン手法を武器に大麦作の拡大にもチャレンジしており、栽培面積を次年度 361
a、2 年後 370a、最終的には 500aの麦作団地化を目指している。また、竹本
氏は 30年度の全国農業青年クラブ連絡協議会会長やアグリファンド石川の会長
を務めるなど、今後の農業を担う若手リーダーとしても期待されている。
執筆者:農研機構・中央農業総合研究センター畑作物育種グループ長 長嶺 敬
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参考
資料
作
物名
収
穫期
大麦
6月
1日
~6
月5
日
条
間30
cm
株
間20~
25
cm
播
幅cm
大麦
一発
N3
5
施肥
方法
40kg
kgkg
条播
管理
11月
21日
施
肥方
法
追肥
硫安
散播
7kg
kgkg
病虫
害防
除
作
物名
大豆
1
.
耕
種
概
要
播
種、
植付
時期
6月
10
日~
6月
15
日播
種後
作物
実
施時
期及
び方
法
(薬
剤名
、10a当
たり
使用
量、
散布
機械
等)
4月
12
日
赤か
び病
トッ
プジ
ンM
ゾル
0.8
ℓ/10a無
人ヘ
リコ
プタ
ー、
4月
23
日
赤か
び病
チル
ト乳
剤0.8
ℓ/10a無
人ヘ
リコ
プタ
ー
なし
害
虫名
病
名
化学
肥料
合計
硫安
N
K1
7号
N
1.5
・1.1
kgP
0・
0
kg
K
0・1.1
kg
3月
6日
NK
17
号
7kg
施
用時
期
肥
料名
施
用量
(10a当
たり
)
(中
耕、
土入
、踏
圧、
除草
等)
実
施時
期及
び方
法
・播
種後
除草
剤散
布(10月
23日
)動
力散
布機
によ
る
・排
水路
の確
認作
業(3
月)
耕起
有
10月
15日
~10月
17日
播種
方法
等
化
学肥
料合
計
N
14
kg
P
2
kg
K
1.6
kg
播
種様
式
条播
作
業名
6kg
/10a
前作
の栽
培状
況等
種
子予
措の
方法
耕
起整
地及
びう
ね立
の有
無
播
種時
期耕
起、
整地
、播
種
基肥
収量
(10ア
ール
当た
り)
播
種量
肥
料名
(有
機物
、土
壌改
良資
材含
む)
施
用量
(10a当
たり
)kg
56
1kg
有
機物
及び
土壌
改良
材の
種類
と施
用量
土壌
改良
資材
:カ
キ鉄
エー
ス、
施用
量:100㎏
/10a
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稼動
面積
稼動
期間
個人有
共 有
借 用
a 月 日~ 日
(共
通作
業機
)65Ps,50Ps,
76Ps,
44Ps,
23Ps
5台
暗きょ、明
きょ
65Ps
2連
1台
361a
10月3日~6日
4日
耕起
1台
361a
10月15日~17日
3日
整地
1台
ーー
ーー
ー
溝切
り1台
ーー
ーー
ー
基肥
7連
1台
361a
10月15日~17日
3日
一貫作業
播種
7連
1台
361a
10月15日~17日
3日
ふく
土7連
1台
361a
10月15日~17日
3日
追肥
3台
361a
11月21日・3月6日
2日
踏圧
防除
R-MAX
361a
4月12日・4月23日
2日
JA委託
刈取
りER108
1台
361a
6月1日~5日
5日
脱穀
ER108
1台
361a
6月1日~5日
5日
運搬
2トン
1台
361a
6月1日~5日
5日
乾燥
・調
製全量JA
委託
生産
管理
Z-GIS
クラウド型営農管理
システム
2.農業機械利用状況
作業
名型式、規格、馬力
トラクター、散布機
トラクター、播種機
トラクター、播種機
トラクター、ロータリ
トラクター
トラクター
台 数
実稼働日数
備考
使用
機械
名
トラクター
トラクター
、サブソイラ
動力散布機
トラック
JAへ委託
普通型コンバイン
}JA無人ヘリコプターによる