欧州が進める脱炭素化(水素戦略)の動きとロシアの対応...2020/10/22  ·...

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 20201022調査部/ロシアグループ 担当調査役 原田 大輔 欧州が進める脱炭素化 (水素戦略)の動きと ロシアの対応 6 月に承認されたロシアにおける 2035 年までのエネルギー戦略を中心に

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独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構2020年10月22日調査部/ロシアグループ 担当調査役 原田 大輔

欧州が進める脱炭素化(水素戦略)の動きとロシアの対応〜6月に承認されたロシアにおける2035年までのエネルギー戦略を中心に〜

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免責事項本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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本日の報告事項

欧州グリーン・ディールを受けたエネルギーシステム統合戦略と水素戦略とは何か

ロシアにとってのドル箱・欧州市場が進める脱炭素化政策:楽観か悲観か達観か

欧州が目指す水素社会実現と課題•どれ位の量の石油ガスを代替できるか•いかに必要な量の水素を生産し、成熟した経済原理市場を実現できるか

欧州グリーン・ディールとシンクロし始めたロシアの反応•石油天然ガス収入に依存するロシア財政とドル箱欧州市場の重要性• 9年ぶりに改訂されたロシアにおける2035年までのエネルギー戦略」と水素•欧州が求めるグリーン水素とロシアの対応(2024年までの水素ロードマップ)•水素専用パイプライン網の構築計画と既存ガスパイプラインの活用

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(含む欧州委員会の債券発行による全額を市場から調達する欧州復興基金「New Generation EU」)。

2019年12月、欧州グリーン・ディール発表と財源確保に至る道程

2010年:欧州2020戦略

2019年:欧州グリーン・ディール

2010年:エネルギー2020

「競争力ある持続可能で安全なエネルギーのための戦略」

2014年:エネルギー同盟戦略(ユンカー委員長/中央アジア産ガス優先):2030年気候変動・エネルギー枠組み

2015年:循環型経済(Circular Economy)行動計画2016年:クリーン・エネルギー法令パッケージ2017年:クリーン・モビリティ法令パッケージ2018年:2050年長期戦略(「A Clean Planet for all」)

2000年:リスボン戦略(2005年見直し)

・2018年から次期多年度財政枠組み(2021

年~28年)の検討開始。・2020年1月末にEUを離脱した英国が負担

拠出金の減少分をめぐる加盟国間の意見の隔たりが埋まらず。・南欧・東欧加盟国と純拠出国の対立。・2020年2月、特別欧州理事会では進展なし。

・2020年5月、独と仏の強い後押しを受けた復興パッケージが提出される(含む欧州委員会の債券発行による全額を市場から調達する欧州復興基金「New Generation EU」)。

欧州で新型コロナウイルスの感染拡大

→経済復興原動力へ

多年度財政枠組み(2021年~2027年) :1兆 743億EUR

: 7500億EUR

2020年7月:多年度財政枠組みと欧州復興基金に合意

欧州委員会の債券発行により全額を市場から調達可能に(「歴史的合意」)

デジタライゼーション関連

欧州復興基金「Next Generation EU」

投資対象 投資対象

※建物のエネルギー効率向上のための改修

再生可能エネルギー

Renovation Wave

エネルギーシステム統合グリーン水素調達・水電解容量の増大

水素輸送網の整備

グリーン・低炭素水素の利用促進

グリーン・ディール関連

水素

資金調達合意形成という制約

出典: JETROレポート、立教大学・蓮見雄教授による研究、欧州委員会エネルギー総局・ボレロエネルギー戦略調整局局長によるプレゼンテーション(10月7日)

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★EUによる2050年正味排出量ゼロ政策(出典:2030 and 2050 Long Term Strategy@2018)

ロシアにとってのドル箱・欧州市場が進める脱炭素化政策19世紀後半からこれまでの気温変化

H2ケース:2050年のエネルギー消費の内、石油天然ガスシェアが29.4%に減少。

EE Energy Efficiency(全部門での省エネの強化) P2X Power to X(E-fuel、E-gasの産業・輸送等への導入)

CIRC Circular Economy(リサイクル強化) COMBO Combination(2℃上昇抑制に向けた選択肢のコンボ)

ELEC Electrification(全部門での電化) 1.5TECH 1.5 degree Technical(COMBOをベースに1.5℃抑制)

H2 Hydrogen(産業・輸送等への水素エネルギー導入) 1.5LIFE 1.5 degree Sustainable Lifestyle(上記+生活方法変更)

2015年12月パリ協定合意

2019年9月国連気候変動サミット

2017年6月米国のパリ協定離脱

出典:資エ庁、欧州委員会(写真はホワイトハウス・Wikipediaから)

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ベースラインケース:2050年のエネルギーミックスにおいて、エネルギー消費の内、49.8%

を石油天然ガスから調達。石炭も含めれば51.8%を化石燃料に依存する見通し。

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EGDは、欧州の復興計画とEU予算とともに、EUが短期的および長期的な行動を活用して、EU経済のクリーンで回復力のある公正な復興を実現するための優れたフレームワークです。 EGDは、今後5年間の長期的な脱炭素化に必要な投資と技術の進歩を早送りし、長期にわたる緩和努力を円滑にする可能性を秘めています。大事なことを言い忘れましたが、EGDは、EUのポリシーの一貫性を高める機会であり、産業の変革、テクノロジーを促進するための共通のフレームワーク内で、EU全体、および2030年以降2040年および2050年に向けてセクター間で費用効果が高く安全でガイド付きの移行を可能にします。 、そしてイノ

ベーションのリーダーシップと「ただの移行」

<参考>IEA:国別審査における欧州のエネルギー政策評価抜粋(2020年5月)

出典:IEA European Union 2020 Energy Policy Review

https://www.iea.org/reports/european-union-2020?fbclid=IwAR0Nd5363K6FNbEgy96AYhjsrhGJLmPZU2SQ5a-nWz6SMb_eyKE2h9HOsWo

IEA国別審査訪問団@2019年9月

• 欧州グリーンディール(2019年)は、欧州の復興計画と共に、EUが短期的及び長期的に、経済のクリーンで適用能力のある、公正な復興を実現するための優れたフレームワークであり、長期的な脱炭素化に必要な投資と技術の進歩を加速させる可能性を秘めている。

• 2019年12月、EU加盟国は、2050年までに気候中立目標に合意。EUは、2030年の目標を達成するための「エネルギー効率優先」の原則と、2050年までに正味ゼロ排出量に向けた長期的な道筋を完全に実装する必要がある。

• EUは、長期目標に従って再生可能エネルギーのシェアを引き上げることも、エネルギー効率を向上させることも現時点では軌道に乗っておらず、大規模なシステム変革が必要。熱供給及び輸送部門を脱炭素化するために、特にエネルギーシステム統合における新たな戦略を立てつつ、2018及び19年に採択されたクリーンエネルギーパッケージの実施を加速する必要がある。

• 欧州グリーンディールの下での域内の経済回復のために、クリーンエネルギー移行への投資を促進する真の機会を提供するだろう(→2020年7月に欧州復興基金が成立し、欧州委員会が債券を発行して市場から資金調達を行う債務共有化が、限定的ながら実現)。

• エネルギーシステム統合はEUの規制上の優先事項となる。本レビューでは、エネルギーシステム全体のアプローチを採用することでEUが柔軟性、信頼性、脱炭素化のメリットを最大限に活用できることが明らかに。エネルギーシステム統合戦略は政策調整と障壁撤廃を支援しなくてはならない。例えば、フランス、ドイツ、オランダによって開発されているクリーンな水素(CCSによる化石燃料または再生可能エネルギー起源の電力から生成)の生産、輸送及び使用に対するEU全体の障壁の撤廃である。

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2030年及び2050年に向けた気候変動目標の引き上げ

クリーンで手頃な価格の安定したエネルギーの供給

クリーンかつ循環型(Circular)経済のために産

業を動員する

エネルギー資源効率の良い方法での建物の建築・改修

持続可能な将来を目指す

EU経済の構造転換

研究の結集とイノベーションの促進

環境に害を及ぼさないために汚染ゼロを目指す

エコシステムと生物多様性を保護し、再生させる

「農場から食卓まで」:公正、健全、環境に優しい食糧システム

持続可能なスマートモビリティへの移行

を加速する

転換のための資金調達

誰も取り残さない(公正な移行)

グローバル・リーダーとしてのEU

欧州気候変動協定

気候法

再生可能エネルギー

エネルギーシステム統合 水素

クリーンな循環型経済の産業戦略

炭素国境調整メカニズム

持続可能なスマートモビリティ

「農場から食卓へ」戦略

生物多様性の保存と保護

汚染ゼロ実現に向けた目標

EUの全政策に持続可能性を重視

グローバルリーダーとしてのEU

欧州気候変動協定

Renovation Wave

2020年~21年

2020年

気候目標

クリーン、安価で安全なエネルギー

2020年

2020年~21年

2020年~21年

2020年~21年

2020年~21年

2020年~21年

2019年~20年

2020年

欧州グリーン・ディールにおける行動計画と戦略★欧州グリーン・ディール実現に向けた戦略提示スケジュール

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★欧州グリーン・ディールの概念図

出典:欧州委員会による「欧州グリーン・ディール」公開資料より作成

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「エネルギーシステム統合に関するEU戦略」

=化石燃料の段階的廃止を3つのレベルで加速するためのロードマップ

①エネルギー効率と循環性(Circularity)及び地域の再生可能資源の使用。

②可能な限り電化し、ガス、石炭、石油の使用を再生可能エネルギーから生産された電力の直接使用に置き換える。

③電気に置き換えられない工程における化石燃料(の使用)を再生可能エネルギーベースの新しい燃料に置き換える。なお、ガスに関しては、天然ガスを水素や合成メタンといった再生可能資源をベースとした持続可能で再生可能なガスや新しい合成ガスに置き換える道筋を提案する。

出典:欧州委員会:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/qanda_20_1258

「エネルギーシステム統合に関するEU戦略」と「欧州水素戦略」★欧州水素戦略

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★エネルギーシステム統合に関するEU戦略

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いかに必要な量(石油ガス代替分)の水素を生産し、成熟した経済原理市場を実現できるか

出典:IEA「The Future of Hydrogen」、「Hydrogen」(https://www.iea.org/reports/hydrogen)

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エネルギーの未来に重要な役割を果たす水素の可能性を活用する時が到来している。 水素はCO2排出量を大幅に削減することが困難な分野を脱炭素化する方法を提供する。 水素は今日利用可能な技術により、生成、貯蔵、輸送(PL及び液化)、使用することができる。 水素は貯蔵及び輸送する手段として、再生可能エネルギーの可能性を拡げる。 水素への投資は新技術開発・産業発展を促進し、熟練した雇用を創出するのに役立つ。 水素は現在、石油精製や肥料製造に使用されているが、クリーンなエネルギーの移行に大きく貢献する。ために、輸送、建物、発電等、現時点では利用されていない分野でも採用する必要がある。

課題①

コスト

再生可能電力のコストの低下と水素生産のスケールアップの結果として、再生可能電力から水素を生産するコストは2030年までに30%減少する可能性がある。

課題②

規制緩和

消費者の水素価格は、給油所の数、使用頻度、1日あたりの水素供給量に大きく依存する。 国や地方自治体、業界、投資家を結びつける計画と調整が必要。

課題③クリーンな生産量確保

現在天然ガスと石炭からの生産に伴うCO2の年間排出量はインドネシアと英国を合わせたものと同等。グレー・ブラウン水素生産のCCSとグリーン水素の供給双方が必要。

<参考>低炭素水素の2030年までの生産見通し

★IEAによる分析「水素の将来」(2019年6月)

実績(~2019年)

発表計画累計(~2023年)

持続可能な開発シナリオに基づく生産拡大(~2030年)

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<参考①>一次エネルギー供給における石油天然ガスの比率(2019年)★エネルギー源別一次エネルギー供給量

出典:BP Statistical Review 2020、財務省通関統計

世界全体33%を原油価格40USD/BBLとして試算すると、1.43兆USD(約157兆円)

40%に当たる2019年の日本の原油輸入総額は、7.96兆円(輸入総額の10%余りを占める)

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日量1331万BBL

日量226万BBL 日量160万BOE(年間89BCM)

日量849万BOE(年間470BCM)

ドイツ: 石油ガス消費合計60%=日量 386万BBL@2019年

欧州連合:石油ガス消費合計62%=日量2180万BBL@2019年

<参考>欧州と域内最大のエネルギー消費国ドイツのエネルギーミックス

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<参考②>欧州連合の石油天然ガスの需要実績と長期見通し 11

出典:BP Statistical Review 2020、IEA-WEO 2020

千BD BCM/年欧州石油需要 欧州ガス需要

1979年及び2005年をピークに減退。

2005年から2019年で需要は15%減。

2025年までに更に最大38%減少。

2040年までに更に最大77%減少。

▲15%

▲38% ▲77%

2010年に需要はピークアウト。

2010年から2019年の10年で需要は10%減。

2040年には需要は現在から最大57%減少。

▲10%▲57%

STEPS SDS STEPS SDS

★STEPS(Stated Policies Scenario)シナリオ:コロナウイルスが制御下に置かれ、世界経済が2021年に危機前のレベルに戻る。 今日発表された全ての政策と目標を反映したシナリオ(IEA-WEO 2020)。★SDS(Sustainable Development Scenario)シナリオ:クリーンエネルギー政策と投資の急増により、パリ協定等で規定された持続可能な目標を完全に達成するためのエネルギーシステムが軌道に乗っているシナリオ(同上)。

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いかに必要な量(石油ガス代替分)の水素を生産し、成熟した経済原理市場を実現できるか

★世界の水素生産量推移:過去45年間で日量400万BBL規模 ★現在の水素利用国:生産地との近接性と関連

日量9,827万

BBL@2019年

全世界輸送燃料合計55%

=日量

5,405万BBL

EU

その15%=日量

811万BBL

★世界の部門別石油消費内訳

・現在、水素生産の95%が天然ガス及び石炭起源。5%は塩素生産反応の複合物。

・水素消費は生産地と近接にあり(地産地消)、中国、欧州、中東、米国に偏重。世界的な取引市場の昇華・輸送手段の確立が不可欠。

出典:Lambert Energy Advisory、BP統計

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いかに必要な量(石油ガス代替分)の水素を生産し、成熟した経済原理市場を実現できるか 13

出典:国際再生可能エネルギー機関、石油連盟及び欧州委員会公表資料

★再生可能エネルギー及び化石燃料による水素製造コストLeveliz

ed

Cost

of

Hyd

rogen(水素の均等化発電単価)

リッター2.8円

リッター53.8円

消費税10%

★化石燃料税制の存在

<参考>欧州域内における現在の共通燃料税

燃料 単位 課税額(EUR)

有鉛ガソリン 1000リッター当たりEUR 421

無鉛ガソリン 1000リッター当たりEUR 359

軽油 1000リッター当たりEUR 330

灯油 1000リッター当たりEUR 330

LPG 1000kg当たりEUR 125

天然ガス GJ当たりEUR 2.6

リッター0.359EUR

=約45円

3.4~6.25USD/kgH2

2.65~6.0USD/kgH2

1.1~2.4USD/kgH2

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★ノヴァク・エネルギー大臣による最近の発言(World Energy Week@2020年10月9日)• ロシアとドイツは、再生可能エネルギー源と水素についてもヨーロッパのパートナーになるべく、新しいグリーン技術を使用した発電に関する共同研究に関する覚書に署名することに合意。

• ロシアは、エネルギーの供給者として、将来も新しい技術でエネルギー供給者であり続けるべく、他の国々と一緒にこれらの研究に参加する準備ができている。

• 現在喫緊のトピックは、水素について、その生産、貯蔵及び将来のエネルギー源としての利用である。ロシアでは、この点について特に注意を払っている。

• Gazprom、Rosatom等の企業が積極的に取り組んでおり、技術研究開発を進めている。• 将来エネルギーバランスにおける水素のシェアは最大25%に達する可能性がある。• 太陽と風力から電力を生産する技術が安くなっており、これらの技術は価格の観点から活発に開発されている。それは水素の生産価格の引き下げを可能にするだろう。

• 天然ガスはいわゆるグレー及びブルー水素の主要な生産源である。出典:エネルギー省プレスリリース(https://minenergo.gov.ru/node/19043)

★ミシュースチン首相がエネルギー戦略を承認(首相府@2020年6月9日)• 優先事項は、エネルギーに対する国内需要への対応、エネルギー輸出の促進、インフラストラクチャのアップグレードとそのアクセシビリティの向上、技術的独立性の達成、デジタライゼーション及びエネルギー安全保障の確保。

★国境炭素税に対する反応• レシェトニコフ経済開発大臣(2020年7月24日):国境炭素税の導入はWTO規則に違反すると信じている。気候変動問題を利用して新たな障壁を作り出そうとする試みを懸念する。

• メドヴェージェフ国家安全保障会議副議長(2020年8月26日):EUによる国境炭素税の導入はロシアの石油・石炭輸出を著しく低下させるだろう。

欧州グリーン・ディールとシンクロし始めたロシアの反応 14

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2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年推定

石油ガス産業からの歳入(十億RUB) 2,944 2,897 4,389 2,984 3,831 5,642 6,453 6,534 7,434 5,863 4,844 5,972 9,018 7,924 5,322

非石油ガス産業からの歳入(十億RUB) 3,335 4,884 4,886 4,354 4,475 5,726 6,402 6,486 7,063 7,797 8,616 9,117 10,437 12,265 12,861

石油ガス産業からの歳入(%) 47% 37% 47% 41% 46% 50% 50% 50% 51% 43% 36% 40% 46% 39% 29%

非石油ガス産業からの歳入(%) 53% 63% 53% 59% 54% 50% 50% 50% 49% 57% 64% 60% 54% 61% 71%

参考情報 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年推定石油ガス産業からの歳入(十億USD) 108 113 177 94 126 192 208 205 193 96 72 102 144 122 76

非石油ガス産業からの歳入(十億USD) 123 191 197 137 147 195 206 204 183 127 129 156 166 190 184

ロシア政府の歳入総額(十億USD) 231 304 373 231 273 387 414 409 376 223 201 259 310 312 261

ドル換算レート(RUB/USD・実勢) 27.19 25.58 24.86 31.78 30.38 29.39 31.06 31.86 38.57 61.22 67.01 58.34 62.76 64.71 69.71

原油価格(ブレント:USD/BBL・実勢) 65.14 72.39 97.26 61.67 79.50 111.26 111.67 108.66 98.95 52.39 43.73 54.19 71.31 64.21 42.35

★ロシア政府の歳入:石油ガス産業の割合推移(下表に2006年~2020年までの詳細内訳)

★欧州におけるロシア産石油シェア

石油天然ガス収入に依存するロシア財政とドル箱欧州市場の重要性

出典:ロシア財務省、BP統計

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★欧州におけるロシア産ガスシェア

日量307万BBL

=約719億USD

@2019年

年間208BCM

=約396億USD

@2019年

ロシア政府歳入に占める石油天然ガス産業税収

=過去10年で45%

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11年ぶりに改訂されたロシアにおける2035年までのエネルギー戦略と水素 16

1995年エネルギー戦略「経済回復の原動力」

2010年までの15年間を対象。市場経済に見合っ

たエネルギー安全保障確保。ガス生産シェアの拡大、西シベリアでの原油生産安定化、石炭必要量の確保、エネルギー資源の輸出促進。

2003年エネルギー戦略

「経済成長・東方シフト」

2020年までの18年間を対象。国民生活向上と経

済成長達成のための燃料・電力資源の最大限の効率的利用。アジア・太平洋地域への石油・ガスの輸出。

2009年エネルギー戦略「オランダ病脱却」

2030年までの22年間を対象。経済での燃料エネ

ルギー産業の比重減少。エネルギーの国際市場における不確実性とリスクの増大。

2020年エネルギー戦略

「安全保障・多角化」

2035年までの16年間を対象。最重要事項はエネ

ルギー安全保障。新たなエネルギー源としての再生可能エネルギー、水素生産。エネルギー部門のデジタル化、資源輸送手段の拡充。

2013年07月:プーチン大統領が2014年を目指し策定を指示。2013年10月:ウクライナ問題発生。2014年02月:ウクライナでのクーデター。2014年03月:クリミア併合と欧米制裁発動。2015年03月:メドヴェージェフ首相が策定を指示。2017年02月:草案公表。2019年10月及び12月:草案公表。 ノヴァク大臣

(2012年5月~)

★ソ連解体後、ロシア政府によるエネルギー戦略の変遷 ★2020年エネルギー戦略に急遽盛り込まれた「水素エネルギー」

出典:エネルギー省

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欧州が求めるグリーン水素とロシアの対応(2024年までの水素ロードマップ)

Source:China Customs and SIA Energy, World Bank欧州グリーンディール

2019年12

月想定される供給種別水素 ロシアの対応

ロシアにおける2035年までのエネルギー戦略

グレー水素 化石燃料、特に天然ガスから生産される水素。その生産にはかなりの量の二酸化炭素排出が伴う。

ブルー水素 水素を製造する過程で生成される二酸化炭素を回収・地中貯留(CCS)することで、二酸化炭素排出量正味ゼロを達成して生産される水素。

CCS技術に関する記載なし。

エネルギーシステム統合に関するEU戦略

2020年7月

グリーン水素EUのプライオリティ

再生可能エネルギー起源の電力を用いた水の電気分解によって生成される水素。

ロシアにおける再生可能エネルギーは水力メイン(供給シェア20%)。遠隔地に位置。戦略への記載なし。

EU国境炭素税導入議論ターコイズ水素 メタンの熱分解によって生成される水素。

炭素は生成されるが気体ではなく固体となって生成される。条件として高温反応炉は再生可能エネルギー起源の電力等二酸化炭素排出量正味ゼロのエネルギー源を用い、生成された炭素を永久に封じ込めること。

メタン熱分解技術に関する記載なし。

欧州政府内で需要者だけでなく生産者にも炭素税を導入する議論が高まっている。その場合、影響大。グレー水素供給による移行期の水素市場参入ができるガス会社と限定される石油会社で影響に差が出る。

欧州水素戦略

2020年7月

イエロー水素 原子力発電による電力を用いた水の電気分解によって生成される水素。

ブラウン水素 石炭から生成される水素。グレー水素に分類されることもある。その生産にはかなりの量の二酸化炭素排出が伴う。

戦略への記載なし。

ホワイト水素 他の製品生産プロセスの中で副産物として生成された水素。生産量は限定的。

戦略への記載なし。

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出典:ガスインフラ企業グループ「European Hydrogen Backbone」及びEuropean Network of Transmission System Operators for Gas (ENTSOG)

Gazpromがソ連時代に建設された既存ガスパイプラインに最大20%、Nord Streamタイプの新たに建設されたガスパイプラインに最大70%の水素を混合して輸送できる。

ウクライナの天然ガスパイプラインは古く、水素を輸送することを可能にするか

どうか十分な検討が必要。金属パイプの内側にプラスチックパイプを挿入する技術により輸送の可能性はあり得るが、水素は攻撃的なガスであり、鉄の腐食を引き起こす可能性がある。

2040年までに約2.3万kmの水素パイプライン網が完成し、他国からの輸入ルートと接続。供給ルートして北海、ウクライナ、ギリシャ、北アフリカに加えてロシアからの水素輸入も想定。

既存のパイプラインを転用する場合の資本コストは、新たな水素パイプラインを建設する場合の10~25%で収まるという試算も。

水素専用パイプライン網の構築計画と既存ガスパイプラインの活用

欧州天然ガスパイプライン網(2019年)

★ガスインフラ企業グループ「European Hydrogen Backbone」による水素パイプライン網計画

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本日のまとめ

水素に対する関心が、国際的にも高まり、欧州でも遂に戦略が出された結果、ロシアの長期エネルギー戦略にも水素エネルギーが俄かに組み込まれることとなった。但し、ロシアは水素を石油天然ガスに置き換わる敵と見ているよりは、欧州が望む気候中立な水素(ブルー水素やイエロー水素)を生産するプロセスの研究(Gazprom及びRosatom)を進めて行き、当然、石油天然ガスより高く売れる水素をプラスアルファの商機として、捉えようとしている

のが現状だろう。長年、原料輸出経済から付加価値を加えた製品輸出による国益の最大化を図ろうとしているロシアの方向性にも合致する。

欧州水素戦略に対するロシア政府及び石油天然ガス企業の認識は、• 2050年までに二酸化炭素正味排出量ゼロを目指しても、石油天然ガスは移行期のエネルギー源として必要なはずであり、産油ガス国との競争に対しては本意ではないが、価格で対抗し、シェアを維持していく。

• 2050年二酸化炭素排出量正味ゼロと言っても化石燃料の使用が全く無くなるわけではない(化石燃料はベースケースで2050年時点過半を占める)。いずれにしても欧州需要は既に縮小に入っているから、その分を中国(原油・ガス共パイプライン稼働)やアジア諸国(LNG)で攻めて行く。

• 欧州が現在の化石燃料を全て水素に置き換えるという方針は非現実的。紆余曲折を経て、いずれにせよ化石燃料に頼らざるを得ないと楽観視。

他方、この水素導入が欧州で大々的に計画通り進む場合、欧州市場の化石燃料需要は2050年時点でベースケースの過半から30%を切るシナリオになる可能性も出てきた。また、欧州が検討を進めている国境炭素税(炭素国境調整メカニズム)導入と生産者への課税という動きは、ロシアの危機感を高めている。

今後、年末にかけてロシアで出される「2035年までのエネルギー戦略」を受けた「水素エネルギー」発展のための課題と対策(一部は7月の水素開発ロードマップ)、欧州における国境炭素税導入に向けた議論(課税対象と具体的な

方法)の双方は、ソ連時代から安定的に続いてきた欧露エネルギー関係に、大きな変化をもたらすものであり、その一挙手一投足が注目される。

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