地方自治体における環境税のあり方に関する研究ecogis.sfc.keio.ac.jp/gis/2005/refers/地方自治体における環境... ·...

80
地方自治体における環境税のあり方に関する研究 UFJ総合研究所 地域・環境室 研究員 村上一真 住所:〒550-8543 大阪市西区阿波座 1-6-1 Tel06-6534-7306Fax06-6534-7315 e-mail[email protected] 平成 15 10

Upload: others

Post on 22-May-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

地方自治体における環境税のあり方に関する研究

UFJ総合研究所 地域・環境室 研究員 村上一真

住所:〒550-8543 大阪市西区阿波座 1-6-1

Tel: 06-6534-7306,Fax: 06-6534-7315 e-mail: [email protected]

平成 15年 10月

目次

I. はじめに................................................................. 1

II. 環境税の概要............................................................ 3

1. 地域環境税の導入議論の背景............................................ 3

2. 環境税を捉える視点.................................................... 6

3. 環境税の範囲および種類............................................... 10

III. 環境税の評価に係る基準および外部条件.................................. 15

1. 評価基準の設定....................................................... 15

2. 評価に影響を与える外部条件の把握..................................... 17

IV. 環境税のメリット・デメリット........................................... 27

1. 環境効果............................................................. 29

2. 静学的効率性......................................................... 37

3. 動学的効率性......................................................... 43

4. 公正・公平性と分配問題............................................... 49

5. 競争力などの経済への影響............................................. 52

6. 応用力............................................................... 54

7. まとめ............................................................... 55

V. 環境税導入の論点整理.................................................... 58

1. 全体の検討プロセスのあり方........................................... 59

2. 環境税の性格および目的の検討......................................... 61

3. 課税標準の検討....................................................... 63

4. 税率の検討........................................................... 65

5. 納税義務者と徴税方法の検討........................................... 67

6. 税収使途の検討....................................................... 69

7. 税の免除・軽減措置などの補助制度の検討............................... 71

8. 評価システムなどの体制およびしくみの検討 ............................. 72

VI. おわりに............................................................... 73

I. はじめに

政策手段としての環境税は、直接規制との比較において、理論的に効率性が優れているこ

とが挙げられる。しかし、海外での環境税事例からも明らかなように、現実は理論どおりに進

んでいるとは言えない。これは、環境税が政策手段として単体で機能している訳ではなく、理

論通りの制度設計となっていないことや、地域特性や社会経済システムなど、様々で複雑な

影響を受けていることが要因として挙げられる。 これより、現在多くの地方自治体において検討されている環境税の導入において、まず必

要なことは、理論としての環境税の評価だけではなく、ポリシーミックスとして存在する実際の

環境税の評価を行い、現実社会で作動する環境税の姿を的確に認識することである。そして、

環境税を政策手段として活用するために必要な作動条件や制度基盤を明らかにする必要が

あり、さらに、環境税導入の手順を提示することも必要となる。これらにより、地域の環境問題

解決に資する環境税の制度設計が可能となり、その導入の検討プロセスと合意形成のあり方

も明らかにすることとなる。 したがって、本研究では、理論に基づく規範的な環境税と、現実の環境税の違いを明確に

し、実際に環境税を導入し、効果的に機能させるための視点を整理すること目的とする。また、

環境税という政策手段を導入・運用することを通じて、環境政策のあり方とその基盤となる人・

組織やインフラなどの社会経済システムのあり方を検討する。 まず、環境税導入議論において、経済学の理論に基づく規範的な環境税の導入を思い描

く(環境)経済学者と、租税論に立ち財源調達手段としての環境税の導入を考える行政(主に

税務担当者)における、環境税のイメージの乖離の考察から、環境税の捉え方の視点を整理

し、環境税が二重の性格を持つことを示す。 次に、環境税の対応可能な範囲を明らかにするために、環境税の分野と制度・しくみの類

型化を行う。そして環境税のメリット・デメリットを検討するための評価基準を設定し、評価に影

響を与えるであろう外部条件を抽出した後、環境税のメリット・デメリットを明らかにする。 最後に、理論および現実の両面からの視点による、環境税導入の検討プロセス、合意形成

のあり方、そして具体的な制度設計などの論点の整理を行う。これらの研究フローを図示する

と次ページのとおりとなる。 なお、本稿は、村上(2001)「地方分権時代における「地域のあり方」と法定外税導入に関しての総論的な考察」から続くものであり、そこでは、政策決定プロセス全体を踏まえた上での

環境税導入の検討プロセスについて考察している。したがって、本稿は、環境税の導入がふ

さわしいと判断された際に、環境税の具体的な制度設計にかかる視点や方法論などを考察

することを目的とした研究である。したがって、排出枠取引などの他の政策手段やビジネスと

しての環境管理方策についてはここでは触れない1。

1

図表 1 研究フロー図

環境税の評価に係る基準および外部条件 1. 評価基準の設定 2. 評価に影響を与える外部条件の把握

環境税のメリット・デメリット 1. 環境効果 2. 静学的効率性 3. 動学的効率性 4. 公正・公平性と分配問題 5. 競争力などの経済への影響 6. 応用力

環境税導入の方法論および論点の整理 1. 全体の検討プロセスのあり方 2. 環境税の性格および目的の検討 3. 課税標準の検討 4. 税率の検討 5. 納税義務者と徴税方法の検討 6. 税収使途の検討 7. 税の免除・軽減措置などの補助制度の検討 8. 評価システムなどの体制およびしくみの検討

環境税の概要 1. 地域環境税の導入議論の背景 2. 環境税を捉える視点 3. 環境税の範囲および種類

2

II. 環境税の概要

1. 地域環境税の導入議論の背景

地域における環境税導入議論高まりの背景は、以下の(1)ポリシーミックスの必要性の高まり、(2)地方分権の推進の大きく二つに分けられる。ここで、この2つにも共通する、国レベルではなく地域レベルでの環境税検討の必要性と意義については、2001 年の地方分権推進委員会最終報告が以下のように述べている。そこでは、地域ごとに異なる環境問題に対して柔

軟に対応するためのしくみづくりを行なうために、実際の現場での環境対策を担うべき地域の

行政組織において、検討を進める必要がある、とされている。これがそもそもの地域環境税の

根拠となろう。 「地域固有の問題はもとより、全国で広く発生する問題についても、地域により影響の度合

いが異なることから、それに応じた課税標準や税率等を採用でき、国が画一的な税制を導入

するよりも、効率的で望ましい環境汚染活動の抑制が可能になることが少なくないと考えられ

るため、法定外税の活用が望ましい」(地方分権推進委員会最終報告より抜粋) (1) ポリシーミックスの必要性の高まり

一つ目は、環境問題の多様化・広域化に対してポリシーミックス(政策手段の組み合わせ)

の必要性が高まってきたことである2。(図表 2 参照)現在問題となっている多くの環境問題は、従来の大気汚染や水質汚濁などの汚染源が特定化できる局地的な公害問題と異なり、大量

生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムに起因する日常生活そのものが環境負荷

を発生させる汚染源となり、多様性および広域性という性質を保持しているため、従来型の規

制的手法だけでは十分に対応できなくなってきた。 そのため、新たな政策手段の開発や既存の政策手段の改良、適用範囲の拡大などを行い、

それぞれの手法の適性や有効な範囲を踏まえて、複数の政策手段を適切に組み合わせるこ

とで、最大限の政策効果を発揮させることが必要となってきている。つまり、従来の行政による

特定の汚染発生源に対する監視・指導という直接規制に加えて、他政策手段を含んだポリシ

ーミックスの必要性が高まってきている。 そのなかでも、環境税などの経済的手法は、環境保全への取組に経済的なインセンティブ

を与え、経済合理的な行動を導くことで、環境と経済の両立を目指す手法として注目されて

いる。経済的手法は、従来の規制的手法に比べ、多数の汚染排出源への対応、および経済

効率性に優れているとされ、実際に欧米諸国を中心に、排出量取引や環境税、デポジット制

度などが導入されている。このように、経済的手法は、新たな環境政策手段として、実務的な

必要性が高まっており、環境税に関しては、地球温暖化対策としての炭素税を中心に導入議

論が進んでいる。

3

(2) 地方分権の推進 二つ目は、地方分権の推進、および景気の低迷などにより、地方の独自財源確保が求めら

れていることである。地方分権の推進に関しては、2000 年 4 月の地方分権一括法の施行により、①法定外目的税の新設、②法定外税(法定外普通税、法定外目的税)の創設における

総務省の許認可制の事前協議性への変更が決定され、地方の課税自主権が拡大されたこと

が挙げられる。 また、地方自治体における景気低迷や地方財政制度の制度疲労による財政悪化の進行

や、昨今の地方交付税制度の見直し議論にあるように、地方独自財源確保が迫られている状

況でもある。東京、大阪などの大都市圏の自治体においては、法人事業税に着目して、銀行

に対して外形標準課税を法定税として創設することが、その制度の是非はともかくとして、有

効なオプションとなっているが、地方の自治体においては、企業の集積状況や現在の景気動

向等を考えると、外形標準課税は困難であるといえる。そうなると、新設された法定外目的税、

および法定外普通税をターゲットとし、自治体の財政基盤の強化を目指すという方策が考え

られる。 そこで、法定外税の導入に際しては、地域の環境政策を支える政策手段としてのアピール

や、地域の理解、特に税負担者の理解を得るため、「地域社会の共有基盤(地域公共財)で

ある環境を保全する」という目的のもとに、環境保全に関する税、つまり環境税を選択するとい

うことに繋がっている。ただ、これには、地方税法における法定外税の要件を考えると、法定

税とかち合わない法定外税としては、環境関連の租税しか見あたらないという現状もあること

は確かである。 これら二つの環境税の導入をめぐる背景が、地域における環境税導入に際しての、環境経

済学者と行政(主に税務担当者)の議論の食い違いを起こす要因となっている。つまり、それ

ぞれが、環境税を、①環境経済学からみた場合の政策手段、②租税論からみた場合の財源

調達手段、として捉えていることに起因するものである。 これら地域における環境税導入に関する両者の齟齬を解きほぐすためにも、まず、「環境

税とは何か」、ということについて、環境税の理論的背景を踏まえて、環境税が二重の性格を

持つという視点から考察し、現実の環境税の姿を示す。

4

図表 2 ポリシーミックスとして組み合わせられる環境政策手段

環境政策手段 概要

直接規制 特定の汚染発生源や行動に対する規制、例えば法律で設定された排出基

準や技術基準の遵守状況について、行政当局が一元的に監視と指導を行う

手法。

経済的手法 環境保全への取組に経済的なインセンティブを与え、経済合理的な行動

を導くことで、環境と経済の両立を目指す手法。排出量取引や環境税、デポ

ジット制度などが挙げられる。

枠組規制的手法

直接的に制限や義務づけを行わず、到達目標や一定の手順や手続きを

踏むことを義務づける手法。PRTR 法による化学物質移動の届出制度や、廃棄物の移動管理と適正処理を目的とするマニフェスト制度などがあげられ

る。

自主的取組手法 各種業界団体や事業者が、自主的行動計画などを策定し、設定した努力目標に基づき、対策を実施する手法。

情報的手法 環境保全への取組情報の公開と提示を進めることにより、利害関係者の行

動を環境保全型へと誘導する手法。環境報告書、環境ラベル、環境会計な

どがあげられる。環境学習などもこの範疇に入れることができる。

手続的手法

社会経済活動での意志決定過程において、環境配慮のための判断が行

われる機会を盛り込み、環境保全というマインドを恒常的に意識させる手法。

ISO14001 などの環境マネジメントシステムや、環境影響評価制度などがあげられる。

5

2. 環境税を捉える視点

環境税には、前述したように、立場の違いによって捉え方が異なるなど、社会的にも共通で、

かつ厳密な定義づけはなされていないように思える。環境経済理論と租税論、二つの視点か

ら環境税を考察することで、環境税が二重の性格を持つことを明らかにする。

(1) 環境経済理論に基づく政策手段 環境税は、いわゆる経済的手法と一般的に呼ばれる政策手段の一つである。 経済的手法とは、環境破壊という外部不経済を内部化するために、環境負荷を生じさせる

財・サービスの価格・費用に何らかの経済的なインセンティブを与えることで人々の行動を変

化させ、財・サービスの提供等に伴う環境負荷を低減させるという政策手段である。具体的に

は、図表 3 のように、税・課徴金、排出許可証取引、補助金等がある。そして、経済的手段は、効率性基準において、直接規制よりも優れているという経済理論が政策手段としての環境税

の優位性の根拠となっている。 その中で、環境税とは、環境負荷を生じさせる財・サービスに対して、税金をかけることによ

り財・サービスの価格を上昇させ、その財・サービスの提供量、購入量、廃棄量などを抑制す

ることにより環境負荷の低減を目指す手法である。つまり、環境税の本質は、財やサービスの

過大生産・消費を抑制するという、循環型社会形成の目的にも沿うことになる。なお、環境税

には、廃棄物を例に取ると、図表 4 のように、環境負荷をどの段階で捉え課税するかという課税段階別に類型化できる。 この政策手段としての環境税は、課税による価格変化(上昇)により、人々の行動を変化さ

せるという方法・プロセスをとるが、課税により人々の行動を変化させるのは望ましくないという

租税論の原則から外れていることに関しては、政策手段としての環境税の目的が、財源確保

ではなく、あくまでも環境負荷の低減であることとして説明できる。つまり、課税により人々の行

動に影響を与える税が、政策手段としての環境税であるということができ、このような役割から

政策手段としての環境税は、インセンティブ税や政策税制という言い方もされる。 実際、政策税制としての根拠として、「地方税にあっても、特別土地保有税は、土地の投機

的取引を抑制し、土地の有効利用を促進する目的の税であり、投機的取引の「抑制」を目的

としているが、そのことのみで、同税の課税が許されないわけでない」(碓井 2001)とあり、税収目的でない誘導型税も、制度的に許可されるものである。 また、政策手段としての環境税は、税対象とした環境負荷を与える財・サービス量がゼロに

なれば、税収もゼロになるという税が厳密な意味での環境税ということになる。ただ、税対象と

する財・サービスの代替性、つまり技術や費用などにもよるが、財・サービスが直ちにゼロにな

るというのは現実的ではない。したがって、税収が減るのと環境負荷が低減していくのが比例

していくものが政策手段としての環境税、つまりインセンティブ税としての性格が強いものとし

て判断できる。 ここで、現実の課税対象は、直接、環境負荷量に対してではなく、環境負荷を与える財・サ

ービスの提供量、購入量などの間接的な数量に課されることが多いことに注意する必要があ

6

る。現実には財・サービス量と環境負荷量はある程度の比例関係にあるとして、財・サービス

の環境影響に関する質の変化は考慮せずに課税する方法が考えられている。施策執行にか

かる費用や手間を考えれば、環境負荷量を課税対象とするのは困難となるため、現実的な課

税方法であると考える。 ポイントとして、環境経済理論に基づく政策手段とは、①税の目的は環境負荷の低減、②

課税により人々の行動を変化させる、③税収と環境負荷量が比例関係にある、と言える。 図表 3 経済的手法の概要

経済的手法 概要 税・課徴金 ・環境負荷を生じさせる財・サービスなどに対して、税金をかけることにより

財・サービスの価格を上昇させ、その財・サービスの提供量、購入量、廃棄

量などを抑制することにより環境負荷の低減を目指す手法 ・海外では排水、廃棄物、容器包装、電池、タイヤなどが対象となっており、

国内では、産業廃棄物や森林(水源涵養)などが対象となっている 補助金、税制

上・金融上の

優遇措置

・理論的な環境補助金は、環境負荷の削減量に応じて補助金を支給するも

のであるが、実際には、環境負荷につながる技術開発に対する補助金や

技術の導入に対しての低利融資や特別償却が主となっている ・補助金は、PPP(汚染者負担原則)の違反、補助財源の必要性、既得権益の固定化などの問題により、活用の抑制が求められている ・ただ、海外、国内問わず、補助金の事例は多くあり、実施の根拠として、実

施期間の限定、対応の困難性、経済への歪みの少なさなどが挙げられる 排出許可証取

引 ・ある一定の基準により、各排出者に排出許可証を配分し、排出者が保有許

可証を売買することを通じて、目標とする排出総量を、効率的に達成させる

手法 ・米国では、鉛、Nox、SO2などが対象となっており、ドイツではフッ素が対象

となっている その他

・廃棄物分野においては、デポジット・リファンド制度(預託金払戻制度)があ

り、また、グリーン調達なども経済的手法と捉えることができる 図表 4 廃棄物対策における税・課徴金の概要

税・課徴金 概要

①排出課徴金

・不用物を排出する際に、その排出量や質に応じた費用を徴収することに

より、環境負荷をもたらす不用物の排出を抑制しようとするもの ・家庭等から排出されるごみ(一般廃棄物)を対象とする排出課徴金は、廃

棄物処理施設等の利用にかかるユーザー課徴金と同義になる

②ユーザー課

徴金

・不用物の処理のための公共の施設又はサービスを利用する際に、その利

用に応じて費用を徴収するもの ・地方自治体におけるごみ処理手数料の徴収は、このカテゴリーに含めら

れる ③最終処分課

徴金 ・廃棄物の最終処分を行う際に、その量や質に応じた費用を徴収するも

④製品課徴金 ・その消費・廃棄に伴って廃棄物の排出など環境に負荷を与える製品の生

産、輸入等に際し、その量や質に応じた費用を徴収することにより、消費

後の不用物の発生が少ない製品を優遇するもの ⑤天然資源課

徴金 ・再生品以外の原材料の使用、採取、輸入等に際し、その量や質に応じた

費用を徴収することにより、再生品を原材料にすることを優遇するもの

資料:環境省(2002)より作成

7

(2) 租税論に基づく財源調達手段 租税論からみた環境税とは、所得税や法人税、消費税などと同様な租税の一つであり、財

源調達手段としての役割を持つ。 そもそも租税とは、政府、自治体が公益のために必要とする経費の財源を調達するもので、

明確な課税の根拠が必要とされているが、環境税は、社会の共有基盤である環境を利用し、

経済活動を行っている主体に対して、環境負荷を与えている程度に応じて財政負担をさせる、

という説明ができる。これは、租税論における応益原則としての課税根拠として捉えることがで

きる。 そうすると、必然的に、税収使途は環境負荷の低減のための事業等に使われる目的税とい

う制度においてのみ論理的整合性が取れる。また、財源の調達が主目標であるため、税収使

途に対応する環境保全の事業等の財政規模を前提に、税率が決定されるのが論理的と言え

る。 実際、自動車取得税、軽油引取税、都市計画税、事業所税、入湯税など、地方税法にお

ける目的税は存在し、税収使途は定められ、運用がなされている。ただし、税率設定に関して、

事業内容や規模などについての議論がなされているとは言えず、予算の硬直化という問題に

つながっている。したがって、目的税としての制度を設計する際には、透明性が確保されたプ

ロセスで、客観的な必要性に基づいた税収使途および事業規模の決定が求められる。 また、純粋な財源調達手段としての環境税は、同額の税収を確保しようとすると、税対象と

する環境負荷を与える財・サービス量が減少するにつれて、税率引き上げを行うというプロセ

スを辿ることになる。なお、その環境負荷量低減を政策目標とする場合には、財源規模を縮

小するという判断もあり得、税率を固定することも考えられる。 さらに、租税論の原則として、課税により人々の行動を変化させるのは望ましくないことが挙

げられる。つまり、このことは課税対象者の行動変化を促さないような低い税率設定につなが

る。税段階での副次的な環境保全効果よりも、税利用における環境保全効果をターゲットと

するのが望ましいということである。 ポイントとして、租税論に基づく財源調達手段とは、①税の目的は財源の調達、②課税に

より人々の行動は変化させない、③税率と環境負荷量が反比例の関係にある、と言える。(た

だし、③については、毎年同規模の税収を得るために、税率を変動させる作業を行なうという

前提に基づくものである) (3) まとめ

以上、環境税における二重の性格をまとめると、政策手段としての環境税は、環境目標の

達成が主目的で税収はその結果であり、財源調達手段としての環境税は、税収確保および

税収の分配が主目的で、環境目標の達成はその結果である、と言える。 ここで、現実の環境税は、これら二つの性格を併せ持っており、必然的に環境税の目的に

おいて環境保全、税収確保も共存することになり厳密に区別できない、ということに注意する

必要がある。つまり、現実においては、純粋な経済的手法としての環境税というよりも、財源調

8

達手段という目的をも併せ持った、ハイブリッドな形での環境税というスタイルとなる。 したがって、この二重の性格から得られる示唆は、地域での環境税の導入において、環境

保全に対するアプローチの選択を迫るということである。つまり、地域の環境保全におけるア

プローチとしての 2 オプション、①環境税により人々の行動を環境保全型に変化させるのか、②環境税の税収を利用し、環境保全型の地域づくりを行うのか、の選択問題として現れる。 実際には、税率水準、それに伴う税収額に関する問題であり、人々の行動を変化させるレ

ベルの税率を設定するか否か、ということが議論の中心となる。ただ、現実には、対象とする

環境問題の性質などから、ある程度、税率範囲が規定される部分があることに留意する必要

がある。

9

3. 環境税の範囲および種類

(1) 範囲・分野の設定 地域固有の環境の課題は、地域での環境税による対応が求められるが、そもそも、どのよう

な環境問題に対して環境税というしくみ・制度が有効であるかを示す必要がある。そこで、環

境税の対応可能な範囲(分野)について検討する。 考え方としては、環境問題を捉えるいくつかの視点の中で、分野の特定化に必要な視点を

選択することとなる。その視点には、①環境問題の空間的広がり、②環境問題の分散性、③

環境問題の影響の大きさ(時間的広がり)、④環境問題の性質、⑤環境対策の現状が挙げられる。これらを踏まえて、対象とする環境問題の特性を把握し、その解決に環境税が適してい

るのか、また、その制度設計のポイントは何かを明らかにすることとなる。

① 環境問題の空間的広がり

環境問題の空間的広がりに対しては、行政主体(国、県、市町村)の機能分担により対応

するのが合理的であり、それに基づき、地域が担当すべき環境問題および環境税の対象分

野が検討できる3。図表 5に行政主体ごとの環境政策に関する機能分担を示した。ただし、境界を超える問題については、隣接自治体間の連携・調整が必要となり、環境税についても、

単独で導入の検討を進めながらも、将来的に近隣自治体で共同導入するという方向性も想

定しておく必要がある。 図表 5 行政主体ごとの環境政策に関する機能分担(例)

行政主体 主な環境問題・環境政策

市町村 一般廃棄物、水管理(上下水道)、都市計画(景観を含む)、大気汚染(固

定発生源対策)、土地利用(土壌、地下水)

都道府県 産業廃棄物、大気汚染(移動発生源対策)、水管理(流域管理)、地域計

画(森林保全を含む)

国 全国的な交通体系の管理、環境に関する最低要求水準の設定、広域的

な大気汚染(酸性雨問題を含む)、地球温暖化問題

資料:神奈川県地方税制等研究会生活環境税制専門部会(2001)各種資料より作成

ここで、特異な空間的広がりにも注意する必要がある。それは、香川県豊島への産業廃棄

物不法投棄などにみられるように、環境問題が行政の機能分担範囲を超える可能性があると

いうことである。そのため、環境問題の原因が固定的なものか、移動するものか・できるものか

の把握も必要となる。 これを環境税に即していえば、税源の移動性の有無ということになり、移動性が高い財・サ

ービスに課税することは、単独自治体での環境税導入が、近隣地域の環境に逆に悪影響を

与える可能性があるということになる。このことは、自治体が連携して環境税を導入する根拠と

して十分なものとなる。実際、都道府県における産業廃棄物については連携の動きが見られ

る。ただ、環境税における移動性への対策としては、課税を嫌がり他地域へ税源対象を移動

させるコストよりも、低い税率設定を行うという方策も選択することができる。

10

しかし、一方で自治体および首長の環境に対する取り組み姿勢を示すものとして、国に先

駆けて環境税を導入するという目的においては、これらの役割分担に必ずしも厳密にとらわ

れる必要はない。これまで、地方先導の環境影響制度の整備、公害防止協定の締結など、

地方主導の環境政策の歴史も多く存在している。ただし、地方自治および地方分権の名をか

ざしての強引な環境税やあまりにも行政の機能分担を無視した環境税は許されない。 そして、この場合、全国的にある程度共通的な環境問題であれば、最終的には、「先進的

な地域の取り組み→取り組み地域の拡大→国政改革」という方向に進むのが最善であり、税

導入後の他地域との連携推進なども期待される。また、最終的には、国税での対応になるとし

ても、地域の特性に合わせて税の任意性を残す必要があり、標準税率の設定などの画一的

なルールは必要ないと考えられる。 ② 環境問題の分散性

環境問題の分散性とは、①環境問題の空間的広がりにも一部関連するが、環境問題の原

因者、つまり環境負荷の発生源が無数で、小口・分散化しており、問題解決には、課税段階、

税収活用段階いずれにおいても多くの主体の行動変化を引き起こす必要があるかどうかとい

うことである。具体的には、一般廃棄物や二酸化炭素の排出、自動車の排ガスなど、主に日

常生活に起因する環境問題が挙げられる。 ③ 環境問題の影響の大きさ(時間的広がり)

環境問題の影響の大きさとは、その環境問題が人体に著しい悪影響を与えるもので、対策

の緊急性が高いものか否かという、環境問題の緊急性の程度によるものである。罰則規定を

含んだ直接規制が採用されるのは、このような緊急性を持つ環境問題に多く、経済的手法の

一つである環境税は、経済合理的な判断としての経済性の追求は認められない状況となり、

単独での導入は困難となる。 また、環境問題の不確実性、つまり環境リスクにも留意する必要がある。環境ホルモンなど、

不十分な科学的知見の蓄積により、影響や閾値が科学的に明確に説明できないものについ

ても、予防的原則に基づいた環境政策という社会的要求から環境税の導入は困難となる。つ

まり、蓄積性のある環境問題に対しても単独では導入困難といえる。これらのことは、直接規

制がある環境問題と、ない環境問題の区別という形で、ある程度判断することが可能となる。 ただし、米国ではSOxやNOxなど、日本では直接規制で対応されている物質が排出枠取引制度の下で、排出主体の経済合理性に基づいて売り買いされている状況であり、科学的な

解明がなされ、適切な排出基準、および環境基準が設定されている汚染物質に対しては、直

接規制とともに経済的手法、アメリカでは排出権取引、が導入されている。つまり、特定の汚

染物質(環境問題)に対する、人間の対策の状況により、環境税や排出権取引などの経済的

手法の実現性は異なるものである。このことからも、中長期的には経済的手法の新しい分野

への導入が生まれてくる可能性があるということであり、このことは排出権取引だけでなく、環

境税においても当てはまる。

11

④ 環境問題の性質

環境問題の性質とは、図表 6 にあるように、それぞれの環境要素の性質からくるものであり、対策の緊急性や必要性などに関連する。環境問題は、大気汚染、水質汚濁などの典型 7 公害や資源・廃棄物などの「循環」に関する環境問題と、生態系や森林や水辺などの自然環境

やアメニティの保全などの「共生」に関する環境問題の大きく 2つに分けられる。この「循環」、「共生」の2区分ごとに性質は大きく異なり、ここでは責任を担うべき主体が異なることを示す。 「循環」に属する環境問題は、空間的広がりなどを考慮せずその性質だけを見た場合、環

境負荷を与える主体とその負荷量が明確である場合が多いといえる。このように、原因者が明

確な場合は、環境対策において原因者負担原則を用いることが望ましい。 一方、「共生」に属する環境問題は、環境負荷を与える主体とその負荷量は明確でない、も

しくは特定できない場合が多いといえる。このように、原因者が明確でない場合は、環境対策

において受益者負担原則を用いることで対応することとなる。この違いは、環境税に限らず環

境政策全般における問題解決に対する主体のかかわり方を示すことにもなる。 また、これらの環境問題における原因および受益の程度に応じて環境税の税率が設定さ

れることになる。 図表 6 環境問題の性質

区分 環境の要素 環境問題 (例) 大気 大気質(CO2、CFC、SOx含む)、悪臭 水 水質、水量、水循環、地下水 土壌・地盤 土壌汚染、地盤沈下 資源・廃棄物 資源循環、廃棄物処理

有 害 化

学物質

音・振動 音環境、騒音、振動

循環

都市の新たな環境問題 都市気候、日照、電波、ビル風害、光害、エネルギー アメニティ 緑、水辺、景観、歴史・文化、その他アメニティ資源

共生 自然環境(生きもの) 生態系、種の多様性、生息空間

資料:神奈川県地方税制等研究会生活環境税制専門部会 (2001)各種資料等より作成

⑤ 環境対策の現状

環境対策の現状とは、既存の環境政策が対象とする環境問題に対して、どう作動している

かを把握することである。つまり、環境税が対応可能な分野かを判断するために、環境の現状

と環境政策の評価を行い、環境税の必要性について根拠があるかないかを示すことが必要と

なる。具体的には、直接規制が存在するか、そして環境目標の達成状況はどうかについて検

討し、既存の環境政策で効果が上がっていない分野、もしくは経済的な政策手段により効果

をあげようとする分野など、環境税導入についての合理的な説明がつくように現状を把握し、

説明する必要があるということである。 また、既存の環境政策のメリット、デメリットを明らかにするとともに、環境税との政策の組み

合わせ(ポリシーミックス)による総合的な評価はどのように想定されるかなども、環境税の対

象分野を検討する際に必要となる。

12

(2) 環境税の制度・しくみの類型化 ここまで、環境税については、法定外目的税制度の新設という背景に即して、新税導入を

イメージして考察してきたが、新税導入という視点だけでなく、新税導入を含めた税体系その

ものの改革についても、環境税という「制度・しくみ」の範疇で捉え、狭義の環境税としての法

定外税の新設による「新税導入」だけでなく、既存税制における環境を基準とした税率などの

変更としての「税制改革を含めたの広義の環境税」として捉える4。 これは、前項で述べたように、特定化された対象分野ごとに、適応可能もしくは最適な環境

税の制度・しくみは異なると考えられるからである。ここでは、環境税の制度を分類化して提示

するのにとどめ、制度設計における考え方や論点などは「Ⅴ 環境税導入の論点整理」において述べる。

① 新税導入

地域においては法定外税(法定外目的税、もしくは法定外普通税)の導入が考えられる。さ

らに、課税対象の違いにより、P7に示したように、天然資源課徴金、製品課徴金、排出課徴金、ユーザー課徴金、最終処分課徴金のように分類できる。

② 税制等改革

税制改革等には以下のような方法が考えられる。 a) 税率の変更

既存の税制において、超過税率や不均一課税、課税免除、減免などの根拠として、環境

に関する基準を設定することで、財・サービスの環境負荷の度合いと連動させて税率を変更

させ、環境負荷低減のインセンティブを喚起させるものである。自動車税のグリーン化や低公

害車への減税措置などがこれに当たる。 これは、排出者責任(PPP)さらに拡大生産者責任(EPR)など、結果に対して原因者が責任を取るという、現在の潮流となりつつ考え方の基礎に基づくことになる。

b) 租税以外の負担額の変更

課徴金、使用料・手数料、負担金なども、環境に関する基準に沿って、負担額を変動させ

ることができる。下水道受益者分担金などの変更がこれに当たる。また基金や協力金なども考

えられる5。

c) 税収構成の変更

上述した環境税導入や税制改革により、環境に関する税収等を高めるとともに、税収中立

性や低所得者に対する逆進性の回避という考え方のもと、社会保険料や所得税などの減税

を行うことで、公平性を持った増税にはならない、環境保全型の税制の整備を行う。これは、

雇用創出、住民厚生(福祉)の最大化などとも合致し、既存の税制を成り立たせている価値観

に環境という要素を加えることにより、労働や福祉の問題解決の契機にもなり得る6。

13

(3) まとめ 一口に環境税と言っても、その制度設計においては、対象とする環境問題(要素)の性格を把握し、現在の環境政策体系も踏まえて、最も適切な環境税の制度・しくみを導入する必要

があり、最終的な形状は様々なものとなる。ただ、どの環境問題に対して、どういう制度・しくみ

が望ましいかについては、次項で述べる環境税に影響を与える外部条件などにも影響される

ため一概には言えず、地域ごとに異なるものと考えられる。したがって、ここまでにおいては、

(1)二重の性格、(2)範囲・分野設定の視点、(3)制度・しくみという環境税の基本的な概念について整理し、次項以降の議論にそなえることとした。

図表 7 環境税の基本的な概念

(1) 二重の性格 (2) 範囲・分野設定の視点 (3) 制度・しくみ ①環境経済理論に基づく政

策手段 ①環境問題の空間的広がり ①新税導入

②環境問題の分散性 ③環境問題の影響の大きさ ④環境問題の性質

②租税論に基づく財源調達

手段 ⑤環境対策の現状

②税制等改革 税率の変更 租税以外の負担額の変更 税収構成の変更

なお、ここでは、環境税の導入を前提として議論を進めているが、村上(2001)において、そこに至るまでには、下図のような検討プロセスを経る必要があることを述べた。最初から、環境

税ありきの議論ではなく、その必要性と他政策との優位性の比較検討により、例えば、受益者

負担金、基金設置、環境税などから最適な制度の導入を進める必要があるということである。

つまり、①地域のあり方の明確化、②適切な政策課題の設定、③政策代替案の作成および

比較・検討、④政策選択および決定、⑤詳細な制度設計というプロセスを十分に経ることによ

り、アカウンタビリティと論理性が確保された、政策決定が求められるということである。 図表 8 環境税導入にいたる検討プロセス

 

①地域のあり方の明確化

 

③政策代替案の作成および比較・検討

 

④政策選択および決定

 

②適切な政策課題の設定

 

⑤詳細な制度設計

資料:村上(2001)

14

III. 環境税の評価に係る基準および外部条件

環境税が政策手段として選択されるためには、現実社会で作動する際の環境税のメリット、

デメリットを明らかにし、評価しておく必要がある。そのためには、評価基準の設定、そして環

境税に影響を与える外部条件の把握が必要となる。 評価基準については、理論的に優位性が示される経済効率性基準だけでなく、それ以外

の基準についても設定する。これは、実際の政策手段選択の現場においては、経済効率性

は基準の一つでしかないといえ、経済効率性以外の基準を含む多基準での総合的な評価に

よるプロセスが採られるからである。 また、外部条件は、理論上は考慮されないため、現実の環境税が理論どおりに作動しない

要因の一つとなっている。ここでは、外部条件を排除した形でのメリット、デメリットの提示は現

実的ではなく、政策選択には使えないため、評価に影響を与える外部条件を把握する。 ただし、「Ⅴ 環境税導入の方法論および論点の整理」において示すが、詳細な制度設計によっては、環境税のメリット・デメリットの程度も変わってくることに留意する必要がある。

1. 評価基準の設定

環境政策の評価における先行研究において、Davies and Mazurek(1998) 、OECD(1997,2001)らは、環境政策の評価基準として、図表 9 のように示している。また、政策評価という少し大きな観点から斎藤(1999)の基準を示した。

図表 9 評価基準の事例

先行研究 評価基準

Davies and Mazurek(1998)

・効果基準 ・効率性基準 ・社会的価値基準 ・国際比較基準 ・将来課題への対応能力基準

OECD(1997,2001) ・環境効果(環境面での実効性) ・経済効率性 ・動学的効率性(技術革新の促進効果) ・管理・運営費用 ・遵守費用 ・経済全体に与える効果 ・「ソフト」効果(環境保全や生活行動に対する意識への影響)

経済社会のグリーン化メカ

ニズムの在り方検討チー

ム(2000)

・国際貿易 ・政治的・社会的受容性 ・実行可能性 (上記の OECDの基準に加えて)

斎藤(1999) ○効率性(①効果、②コスト) ○公正性(①必要性、②公平性、③応能性) ○安定性(①継続性、②柔軟性) ○参加性

資料:Davies and Mazurek(1998)、OECD(1997,2001)、斎藤(1999)等より作成

15

本稿では、この中で、図表 10のように(1)環境効果、(2)静学的効率性、(3)動学的効率性、

(4)公平・公正性と分配問題そして、(5)競争力などの経済への影響、(6)応用力に絞って考察する。

図表 10 評価基準の事例

基準 概要と視点 (1)環境効果 環境目標を達成する確実性が高いか (2)静学的効率性 費用効率的であるか (3)動学的効率性 技術開発を促すか (4)公平・公正性と分配問題 個々の費用負担が公平か (5)競争力などの経済への影響 競争力が低下しないか (6)応用力 今後の環境問題に対応できるかなど

ただし、環境税が常にこれら全てを満たすことを期待されるわけではなく、ポリシーミックスと

しての環境税においては、他政策手段との機能分担のもと、期待される機能についてのみ評

価されることになる。また、そもそも、これらの基準の中にはトレードオフがおこる関係の要素も

ある。逆に、この基準を全て満たすために、ポリシーミックスとしての環境政策を進めていくと

いう根拠がなりたつともいえる。 また、これら多基準の統合的な評価については、地域ごとの各基準に対する価値観の差

異や前述したような環境税の範囲、種類によって個別に判断する必要がある。したがって、環

境政策の評価軸としての経済効率性の意義や重要性については絶対的な評価は下せず、

結局は様々な地域の事情の中で判断していくしかないとも言える。 ここでは、あくまで環境政策を判断するための基準を挙げ、各政策手段と比較した場合の

相対的な比較を行うことを目的とし、環境政策手段の選択の妥当性を判断する。そして、個々

の基準のメリットを最大限に発揮させるため、また、デメリットを抑制させるの制度づくりへの示

唆を導き出すことにつなげる。

16

2. 評価に影響を与える外部条件の把握

評価に影響を与える外部条件として、(1)地域における各主体の環境意識の高さと行動力、(2)地域性、(3)ポリシーミックスの実際、(4)環境問題の状況を考える。

(1)地域における各主体の環境意識の高さと行動力とは、地域の行政、企業、住民等の各主体の地域の環境に対する役割分担と期待される機能・効果が環境税に与える影響のことで

ある。 (2)地域性とは、地域特有の土地利用や気象などの自然環境と、産業や交通などの社会経済環境が環境税に与える影響のことである。

(3)ポリシーミックスの実際とは、実際に作動している多様な環境政策に加えて、他分野の関連政策などが環境税に与える影響のことである。

(4)環境問題の性質等とは、地域性にも関連する部分もあるが、P10において前述したような環境問題を捉える視点としての、環境問題の空間的広がり、分散性、影響の大きさ、性質、

対策の現状が環境税に与える影響のことである。 これらを図表化すると以下のようになる。

図表 11 環境税に影響を与える主な外部条件

(2)地域性 ・立地・土地利用 ・生活様式・アメニティ ・まちづくり・都市計画 ・産業 ・交通 ・科学技術 など ・人口

環境税

(1)地域における各主体の環境意識の高さと行動力 ①行政 ②事業者 ③住民・NPO等

(3)ポリシーミックスの実際

(4)環境問題の状況 ・空間的広がり ・分散性 ・影響の大きさ ・性質 ・対策の現状

また、本項は、環境税という政策手段を導入するプロセスを通じて、環境問題への行政の

あり方と、その社会経済システムのあり方についても検討することとなる。このことは、環境税

の実行(効)性を支えるための、主に行政のなすべきことや各主体のなすべきことを提示する

こととなり、地域全体での環境への取り組みのあり方を示すことになる。そして、結論的に言え

ば、ここで外部条件としてあげる要件をそなえるような、総合的な環境政策の推進が必要とい

うことになる。

17

(1) 地域における各主体の環境意識の高さと行動力 まず、各主体の役割および果たすべき機能を最初に述べ、次にその現状および課題につ

いて述べる。なお、環境税導入に際しては、②事業者、③住民・NPO等がステークホルダー

(課税対象者)となる可能性があることを踏まえて、現状を把握する必要がある。 ① 行政

行政に関しては、ハード、ソフト両面での行政の役割と、それを遂行するための行政機構に

ついて述べる。 行政の役割は下表のようなものであるが、具体的には、環境政策の基盤整備として、公共

投資による下水道やごみ処理処理施設などのハードの整備がある。そして、その運用・管理

におけるモニタリングシステム整備や監視・指導・罰則規定、補償制度、修復制度などの環境

法制度の整備がある。さらに、その前段階としての各種調査研究や、環境基本計画、一般廃

棄物処理計画などの条例や計画づくりがある。また、もっと広範に、道路整備計画、都市マス

タープランの策定やそれに基づく社会経済インフラ整備、そして、情報システムや GIS(地理情報システム)、環境教育、男女共同参画などの状況も地域の環境管理に関連してくる。

図表 12 行政の役割

行政の役割 概要 (1)環境対策の総合的な枠組みを構築す

る役割

①科学的知見に基づいた法制度づくり 環境に関する様々な調査研究を行い、それに基づいて環境保全

のための法制度を策定し、達成すべき目標も併せて設定する。 ②各種計画の整備と各主体の役割の設定 法制度に基づいて、環境保全のための具体的な計画を体系的に

整備し、市民・事業者・行政それぞれの役割を設定する。 (2)個別の規制・施策を進行管理する役割

計画に基づく規制や施策の効果を高めるために、市民や事業者

が施策などで定められたように行動しているか、そして結果として定

められた基準を遵守しているかをチェックする。 (3)住民、事業者の環境保全活動を支援

する役割

環境保全活動に関する情報提供や、環境教育、環境学習の機会

を提供するなどして、住民、事業者の自主的な環境保全への取り組

みを支援する。また、住民・事業者・行政間の恒常的なパートナーシ

ップの枠組みを作り上げる。 (4)一事業者として環境保全活動を実施す

る役割

資源・エネルギーを使い、廃棄物を排出する一事業者として、市

民、事業者に率先して環境保全活動を進める。また、公共事業にお

いて、環境アセスメント等により環境配慮を行う。

そして、これらを遂行するための環境行政機構の組織体制システムおよび政策決定システ

ムの整備が挙げられる。これに関して、植田(1996)は、「これまでの環境政策の問題点として、環境の不可逆性ゆえの事後対策の限界や、低い費用効率性、時間的・空間的に環境問題

のシフトなどの欠陥をもつ対症療法にならざるを得なかった」としている。これには、経済偏重

の時代背景ということもあろうが、政府によるマネージメントの失敗が指摘されている。そして、

この環境政策における政府の失敗の要因として、「不完全な情報、行政機構の中央集権的官

僚制、行政権優位による三権分立の形骸化、インセンティブの欠如、環境政策の効果の測定

ができない」を挙げており、行政組織の問題点として、「レントシーキング活動、官僚制、プリン

18

シパル・エージェント」を指摘している。 実際、組織体制システムについては縦割り行政として、森林セクションにおける林業振興と

公益的機能保全部門の分離や、建設・土木セクションと環境セクションの交流の欠如などが

見られる。このような横の連携が上手くいかない組織体系のもと、環境に関しての総合的な視

点からの判断と対策が取れない状況になっており、問題の根本的解決に迫れずにいる。 また、政策決定システムについては、行政内部での既存施策や事業の評価がなされてお

らず、実施中の施策・事業は、効果が測定されないまま見直されず、ほとんどが継続される状

況となっている。これには、評価・見直しの手法が未確立であることもあるが、硬直化した予算

配分のもとでの代替案立案・実施のしくみの未整備や、責任体制とそれに伴う報酬体制の未

整備によるインセンティブシステムの欠如などが挙げられる。 そして、行政評価導入が進んでいる自治体においても、評価・見直しにおいては、「政策」

-「施策」-「事業」と階層化されたシステムの中での、個別事業の見直しにとどまっており、

大きな変革の流れには至っていない。また、施策や事業の経済性の考慮を伴った環境影響

評価がなされていないことも、環境政策における意思決定の方法論を確立できない要因でも

あろう。 以上、環境税という新たなしくみを進めて行く上での主に行政の役割としての環境インフラ

などのハード、条例や計画などのソフト、そしてその運用を担う組織および人の必要性および

現状について示した。特に、ソフトや組織・人に関しては、環境政策の方針およびその中での

環境税の位置付け、徴税能力や活用のしくみの整備と、首長のリーダーシップ、組織構造お

よび人員配置、評価制度と予算分配のしくみ、住民参加のしくみなど、環境行政の整備の度

合いが、環境税そのものに影響を与えることとなる。 事実、三重県の産業廃棄物税の導入においては、「みえ政策評価システム」の導入、率先

実行計画やISO14001の取得、知事のトップダウンと新価値創造予算としての庁内コンペに

よる事業実施とそれによる政策立案能力の向上、県民懇談会や産業界とのコミュニケーション

のしくみ整備、森林GIS導入などの情報化の進展などの背景が産廃税導入・運用にプラスに影響したものと考えられる。

19

② 事業者

法人に対して課税を行う環境税のしくみを想定すれば、地域の企業の環境意識の高さと行

動力の差により、税導入に対しての企業の理解と協力の程度が異なる。また、法人に対して

の課税が無い場合でも、環境意識の高い企業の社員は、ある程度一市民として家庭での行

動にも、現れてくるものと想定される。 企業の役割として、(a)環境に対する企業の意識・姿勢、(b)直接的な環境活動、(c)環境マネジメント、(d)財・サービスの提供における活動、(e)環境コミュニケーションを示す。

(a)環境に対する企業の意識・姿勢として、持続可能な発展と企業の社会的責任の認識、および環境効率の追求が挙げられる。前者は、原因者負担の原則、拡大生産者責任などの

一般化してきた考えに基づいた、環境に配慮した持続可能な発展を目指すことである。また、

環境効率とは、環境対策を費用効率的、費用効果的に実施することで経済的な持続性も同

時に達成するということであり、これらが企業としての持続的発展といえる。特に経済的に環境

対策を進めるという意味では、一律の直接規制よりも企業行動の選択の余地があるような柔

軟性を持つ環境税であることが、企業の創意工夫による環境対策により、経済性を確保する

ことになる。そして、短期的なコストと便益の把握については、環境会計などの手段の開発が

進んできている。また、中長期的に捉えた場合のブランドイメージの構築による便益なども経

済性としてカウントできる。 (b)直接的な環境活動では、地域における清掃活動などのボランティア活動、NPO 支援、基金設置、海外での植林事業などが挙げられる。

(c)環境マネジメントは、自ら設定した環境に関する方針や目標等の達成に向けた取り組みのプロセス管理のためのツールである。外部認証によって取得できる規格としては、

ISO14001 や KES(京都・環境マネジメントシステム・スタンダード)、エコステージなどがある。環境マネジメントにより自社の環境対策を体系的に管理できるため、次に述べる財・サービス

の提供段階ごとの環境配慮の度合いを把握することができる。また、環境税に関連づけると、

事業者自らの環境負荷量およびその削減費用の把握や、削減の優先順位などのしくみの整

備が、環境税への対応として求められる。したがって、環境税導入に際しては、環境マネジメ

ントシステムの整備と適正な運用が必要となる。 (d)財・サービスの提供における活動は、企業活動における環境に対する意識・行動は、グリーン調達、環境関連技術開発、省エネ・省資源・長寿命化設計、製品のモジュール化、循

環利用(リデュース、リユース、リサイクルなど)、修理・交換等などが挙げられる。なお、環境ラベルを規定する ISO14020では、図表 13のような 12の行動が、環境ラベルタイプⅡの環境宣言として認められている。

(e)また、環境コミュニケーションには、テレビや雑誌での環境広告や、環境会計・環境パフォーマンス評価などを含んだ環境報告書などによる企業の環境対策の情報交流がある。また、

エコラベルなどの環境ラベルによる製品の環境情報の提供もある。 これら、地域の企業の環境意識および行動力の差により、環境税の導入および運営に影

響を与えることとなる。ただ、そもそもの企業数や規模、業態などによっても、環境税に与える

20

影響は異なることにも留意する必要がある。 図表 13 環境ラベルタイプⅡの環境宣言ができる環境配慮行動

環境主張 用語の使用法

1 コンポスト化可

製品、包装又はそれらの構成要素が、生分解して比較的均質で安定

的な腐植質の物質を生成する特性

2 分解可能 一定の条件下で、所定の時間内に一定の程度まで分解できる製品又

は包装の特性

3 解体容易設計

使用期間が終了したときに、製品の構成要素及び部品が再使用、リサ

イクル、エネルギー回収、その他の方法によって廃棄物の流れから転用

できるように、製品が解体できる製品設計上の特性

4 長寿命化製品 耐久性の向上又は機能向上によって、使用期間を延長するように設

計され、その結果、原料及び廃棄物の削減をもたらす製品

5 回収エネルギー

廃棄処分される代わりに、管理された工程によって収集された材料又

はエネルギーから回収されたエネルギーを用いて製造された製品の特

6 リサイクル可能

利用可能な工程及び計画によって廃棄物の流れから取り出すことが

可能であり、更に原材料又は製品の形で使用するために収集され、加工

され、再生されることが可能な製品、包装若しくはそれら構成要素の特性

7 リサイクル材含

有率

製品又は包装中に含有するリサイクル材料の重量比。プレコンシュー

マ材料及びポストコンシューマ材料だけをリサイクル材料とみなされなけ

ればならない

8 省エネルギー

想定した機能を発揮する製品の使用に伴うエネルギーと、他の製品が

同等の機能を発揮するときに消費されるエネルギーとを比較しての減少

量。省エネルギーの主張は、一般にはエネルギーの効率化、エネルギ

ー保全、又はエネルギー節減と表現する

9 省資源 製品、包装又は特定の関連部品を製造し、又は配送するために使用

する材料、エネルギー又は水の削減

10 節水 想定した機能を発揮する製品の使用に伴う水量と他の製品が同等の

機能を発揮する水量とを比較したときの減少量

11 再使用可能及

び詰替え可能

<再使用可能>意図され、設計された製品又は包装の特性の1つ。ラ

イフサイクルの中で意図どおりの目的のために何回かの使用ができる特

製<詰替え可能>製品又は包装の特性の一つ。洗浄などの特定の要

求事項を除く追加的な処理を行わないで、当初の形で1回以上同じ製品

又は類似の製品が充填できる特性

12 廃棄物削減 製品、工程又は包装の変更によって、廃棄物の流れに入る材料の量

(質量)の削減。廃棄物には、製造工程又は取扱工程からの固形廃棄物

と同じく、大気系及び水系への放出物を含んでもよい

資料:ISO14020 環境ラベルタイプⅡ資料より作成

③ 住民・NPO 等

生活者としての家庭等における日常生活での環境対策が挙げられる。例えば、廃棄物やリ

サイクル対策、省エネルギー活動、低公害車への買い替え、さらには、エコラベルなどのグリ

ーン購入、エコファンドなどのグリーン投資、グリーン電力への協力などが挙げられる。 また、個人ではなく NPO活動や住民活動など団体での活動として、清掃活動や資源回収、廃食油回収や菜の花プロジェクトへの参加、地域の自然資源を活用した環境教育活動、さら

には、エコマネーや市民発電、地域の各研究会・審議会への参加などが挙げられる。事例と

21

して、滋賀県野洲町はエコマネーを活用した市民協力発電を進めており、また、豊中市では

住民が主体となり環境基本計画を策定している。ただ、これらは住民の自発的な行動のみで

形になるものでなく、行政の意識やしくみなどにより影響をうけるものであり、これら2者、そし

て事業者も加えた3者の環境意識の高さと行動力にはある程度の相関があり、地域全体の環

境意識と行動力の底上げのために、行政-事業者-住民・NPO 等のパートナーシップの構築が重要となり、この水準が環境税の導入・運用に影響を与えることとなる。 なお、住民等の潜在的な環境意識をいかに行動に結び付けていかせるか、そのしくみを担

うものとして環境税はひとつのきっかけとなりうる。ただ、その円滑な導入と運用・実施に際して

は、各主体の意識と行動力を高めるような総合的な環境政策の推進が求められる。

22

(2) 地域性 前述したそれぞれの主体の意識および行動に影響を与えるものとして、図表 14のような地域性が関連してくる。地域性とは、地域固有の様々な資源により形づくられるものであり、そも

そも環境問題の原因となり得たり、環境被害の大きさを規定したり、逆に環境対策への取り組

みやすさや効果に影響を与えることから、環境税についても直接影響を与える要素となる。ま

た、前項で示した各主体の意識や行動に影響を与えるものだけでなく、各主体の役割の結果

としても現れてくるものもある。なお、宮本(1989)は、環境を決定する政治経済構造として、①資本形成(蓄積)の構造、②産業構造、③地域構造、④交通体系、⑤生活様式、⑥国家の公共介入の態様を挙げ、これを中間システムと呼んでいる。 また、地域性は環境税の設計に影響を与える外部条件ではあるが、環境税の設計次第で

は、環境税がこの地域性に影響を与えることも可能となる。ここで、地域の自然資源をインフラ

とする農林漁業の活性化を、環境税の狙いとして設計することも考えられる。 図表 14 地域性の事例

項目 項目(例)

立地・土地利用 ・都市部、非都市部 ・宅地、田畑、山林、原野、公園等、工業・商業・住居地域の割合 ・河川、海岸、里山、遊休地などの状況 など

まちづくり・都市計画 ・防災、廃棄物処理場、下水処理場の立地の有無 ・住居・建築物着工状況、情報通信インフラ ・開発事業の進捗 など

交通 ・主要道路や鉄道の状況 ・自動車保有台数の変化 ・駐車場、駐輪場の状況 など

人口 ・人口密度における過疎、過密状況 ・少子高齢化、世帯数変化、昼間人口比率の状況 ・新住民と旧住民の割合 など

生活様式・アメニティ ・資源、食料、エネルギーの消費・廃棄等の状況 ・自治会・町内会等のコミュニティ活動 ・歴史・文化としての伝統芸能、建造物の保存状況や景観 など

産業 ・農林漁業の状況 ・製造業、商業・サービス業の状況 ・地産地消、観光・レジャー業の地域活性化事業 など

科学技術 ・環境技術、環境産業の開発・導入状況 ・大学、研究所などの産学連携の状況 ・技術開発・導入インセンティブの有無 など

23

(3) ポリシーミックスの実際 ポリシーミックスとは、複数の政策手段を組み合わせて、政策目標を達成しようとするもので

あり、複数の政策目標の達成や政治的摩擦の回避などが狙いとされる。環境政策におけるポ

リシーミックスには、図表 15 のような概念と、図表 16 にある実際の事例にもとづくパターンが考えられる。また、図表 17 にポリシーミックスの事例として英国の気候変動プログラムの概要を示した。

図表 15 ポリシーミックスに用いられる政策手法のイメージ

自主的手法

枠組規制的手法

直接規制的手法

具体的行為の禁止・義務付け

総量規制大気汚染防止法による化学物質の規制

PRTR法

マニフェスト制度

経済的手法

排出量取引

補助金

環境に関する税

税制優遇措置

グリーン購入

自主協定

自主的行動計画

手続的手法

戦略的環境アセスメント

環境マネジメントシステム

環境影響評価制度

環境適合設計

情報的手法

環境ラベリング

環境報告書

環境パフォーマンス評価

環境会計

LCA

環境問題の性質

原因が限定されておりナショナルミニマムを維持するために対策が急務である

問題の因果関係が複雑で原因が限定できないため、予防的な処置が必要である

問題の原因者が多岐に渡り、解決に向けて多くの主体の行動を変化させる必要がある

小                     

     

政策対象者の意思決定の自由度

資料:環境省中央環境審議会資料(2001)より作成

図表 16 環境問題の事例

政策手段 排出許可証 税 直接規制 補助金

手段数 事例

1 ○ ○ 2 事例多数 2 ○ ○ 2 排水課徴金(ドイツ) 3 ○ ○ ○ 3 排水課徴金(ドイツ)

4 ○ ○ 2 排出取引プログラム(アメリカ) 排出許可証取引制度(ドイツ)

5 ○ ○ 2 気候変動プログラム(イギリス) 6 ○ ○ ○ 3 気候変動プログラム(イギリス)

資料:諸富(2000)より作成

24

図表 17 英国気候変動プログラムの政策パッケージの概要

制度のねらい 制度の概要

気候変

動税

・英国における温室効果ガス削減目

標達成のための主要な政策手段

で、イギリス気候変動プログラムの

重要な要素をなす。 ・省エネの推進、雇用の増大、新技

術への投資を促進する。

・国内で消費する産業用(農業含む)・民生業

務用の天然ガス、石炭、LPG 電力消費について課税。 ・家庭用、運輸用、エネルギー転換用の燃料

及び電力は対象外、並びに再生可能エネル

ギー等は免税。 ・税と協定の政策パッケージにより、2010 年までに年間 250万 t-Cの削減効果を期待。

気候変

動協定

・英国の産業界の省エネルギー対

策を最大限強化し、従来からの取

組を超えた排出削減を進める。 ・協定締結時(協定を既に締結した

40業界団体については 2001年 4月)から 2010年までの長期間の協定は、競争力を保ちながら、長期

的な視野に立った投資を行うことを

可能にする。

・政府との間で、CO2削減または省エネルギ

ーの目標値を設定する協定を締結すること

により、気候変動税が 80%減税される。 ・目標は、2010 年の長期目標と 2 年ごとの短期目標が設定され、短期目標を達成できな

かった場合、次の 2 年間は気候変動税の減税が適用されなくなる。

排出量

取引

・産業の競争力を損ねずに費用効

率的な手法で温室効果ガスの削減

目標を達成する。 ・ボランタリーで開かれた取引制度

を構築する。 ・英国の証券市場(シティ)を活性化

させる。

・5年間(2002年 4月~2007年 3月)のパイロットプロジェクトとして導入。 ・全ての温室効果ガスを対象とし、鵜入、電

力、家庭を除く全ての分野を対象。 ・協定締結事業者のうち、原単位目標設定の

事業者と総量目標の参加者との間の取引に

制限(Gateway)が設けられている。

資料:環境省中央環境審議会資料(2001)より作成

このように、いくつかの規制的要素、誘導的要素を持つ政策手段を補完的に組み合わせる

ことで、総合的に環境問題を解決することが可能となるが、逆に、いいとこどりの反面、環境税

そのものの機能は、理論的に期待されるほどは発揮できない。 したがって、ポリシーミックスとして共存することになる既存の政策手段を評価し、メリット、デ

メリットを把握することで、環境税に求められる機能が設定されることとなる。つまり、他政策手

段のありようが、環境税の機能を形づくる外部条件となる。例えば、直接規制が環境目標を達

成する機能を持つならば、環境税は経済性の確保という機能を担うこととなる。そしてその経

済性がどの程度であるかを評価することが求められる。ただ、環境税による経済性への貢献

をポリシーミックスの中で厳密に切り離して評価することの困難性もある。 なお、このポリシーミックスを構成する政策手段の状況は、地域ごと、場面場面で異なるた

め、それにあわせて環境税に求められる機能は異なる。このように、環境税の導入において

形づくられるポリシーミックスが、環境税の評価に影響を与えることとなる。

25

(4) 環境問題の状況 P10において前述したように、環境問題の空間的広がり、分散性、影響の大きさ、性質、対策の現状に導かれる環境問題の状況も、環境税に影響を与える外部条件となる。 ただし、環境問題自体がそもそもの環境税の対象であり、外部条件と表現することの問題

はある。しかし、環境税の導入効果が見られないという評価結果を想定した場合、環境問題

解決の困難の大きさも考慮しなければならないことがいえる。 ただ、そのような場合は、環境税で対応するべきか、するべきでない環境問題かどうかの判

断は最初になされる必要がある。また、環境税導入による環境問題解決の目標水準の設定も

必要となる。 以上、(1)地域における各主体の環境意識の高さと行動力、(2)地域性、(3)ポリシーミックスの実際、(4)環境問題の状況について、評価に影響を与える外部条件をみた。地域でこれらの状況を踏まえた上で、環境税の設計を進めていく必要がある。 また、環境税のしくみに限らず、その運用を支える地域の社会経済システムの構築や環境

政策全般の推進も同時に進めていくことが求められる。

26

IV. 環境税のメリット・デメリット

ここでのメリットおよびデメリットは、前章で述べたような外部条件により、その程度が変わっ

てくることに留意する必要がある。また、逆にこのことは地域における外部条件を基に、環境

税の制度設計を進めていくべきことも示している。 評価基準として、(1)環境効果、(2)静学的効率性、(3)動学的効率性、(4)公平・公正性と分配問題、(5)競争力などの経済への影響、(6)応用力の観点より、理論的に示されているメリットおよびデメリットを、現実での観点から再検証するものである。その際に、主に直接規制など

の他政策手段との比較を通じることで、環境税のメリット、デメリットを指摘する。なお、評価基

準は、(1)~(4)が中心となり、(5)、(6)はそれらの結果に影響を受ける部分が大きく、いわば視点を変えて示したものであるといえる。

図表 18 評価基準

基準 概要と視点

(1)環境効果

○環境目標を達成する確実性が高いか ①環境目標の達成のしくみと不確実性 ②環境効果の大きさ ③緊急性 ④偏在性 ⑤強制力・拘束力 ⑥ポリシーミックスにおける環境効果

(2)静学的効率性

○費用効率的であるか ①直接規制における効率性 ②制度設計における情報効率性(設計効率性) ③制度運用における情報効率性(執行効率性) ④ポリシーミックスにおける静学的効率性

(3)動学的効率性

○技術開発を促すか ①直接規制における動学的効率性 ②制度設計および制度運用における情報情報効率性 ③不確実性 ④ポリシーミックスとしての静学的効率性

(4)公平・公正性と分配問題

○個々の費用負担が公平か ①制度設計における公平性と分配問題 ②執行における公平性 ③ポリシーミックスにおける公平性

(5)競争力などの経済への影響 ○競争力が低下しないか (6)応用力 ○今後の環境問題に対応できるかなど

27

なお、これ以降議論の対象とする環境税の前提は、図表 19のように設定する。 図表 19 議論の対象として前提とする環境税の性質

① 新税導入を想定

② 環境税はボーモル=オーツ税7を想定

③ 環境目標の設定は、疫学による閾値やリスクアセスメントなどの科学的知見等によって定

められるものとする8

④ 環境政策手段としての、インセンティブを与えるような高い税率の環境税を中心に検討

(財源調達手段を主とする環境税は付随的に検討)

⑤ 環境負荷量に直接課税する(代替的な指標を用いる場合は付随的に検討)

⑥ 原因者負担として、環境負荷量の程度に応じて負担させる(受益者負担、また、一律の

税率を用いる場合は付随的に検討) ①、②、③については、理論の現実への適応について現実性が高いことから前提として設

定した。また、④については、環境経済理論から説明できるインセンティブ税を考察し、税収

を主目的とする環境税は、その比較において議論する。 ⑤については、インセンティブを与える環境税が理論どおりの効果を発揮するための基本

的事項であることから前提として設定した。ただ、現実的には、制度設計および運用における

実現可能性や静学的効率性などを踏まえて、環境税を環境負荷量以外、つまり環境負荷量

と代替的な投入財量や生産財量、例えば、石油消費量や水消費量、化学物質の消費量等

に課税せざるを得ない状況もあり得ることから、その場合についても別途言及する。なおここ

では原因者負担原則に基づいて環境負荷量と表現しているが、後述する受益者負担原則に

基づく環境便益量についても同様の考えとなる。 ⑥については、理論において、外部経済としての環境問題への費用負担は、原因者負担

を想定して組み立てられており、実際、社会の動向もPPP(汚染者負担原則)や EPR(拡大生産者責任)という基本方針どおりに進んでいる。ただ、P12の「共生」に属する、原因者を特定することが困難な環境要素においては、受益者負担原則に沿わざるを得ない。例えば、「循

環」に類型化される環境問題解決のための税項目としての、駐車場税、廃棄物税、レジ袋税

と、「共生」に類型化される、水道使用量にかかる森林環境税との違いである。 また、「共生」については、インセンティブ税として、原因者負担のように原因を抑制するよう

な行動変化を促すことはできない。そのため、「共生」の環境問題に対し、環境税によりどのよ

うな行動変化を促すのかが課題となる。そして、受益を抑制するような行動変化というのも現

実的かどうかの検証が必要となる。 また、特に受益者負担の場合であるが、その受益の程度により、異なる費用負担を行うの

が望ましいが、受益が特定できない環境問題に対しては、人頭税的に一律の金額徴収を行う

ことも想定される。その場合も別途言及する。なお、人頭税的に一律課税する場合には、税と

いうしくみで適切かどうかの検討プロセスを経ている必要がある。 なお、これらは議論の前提としているが、これが現実的かつ望ましい制度設計としても捉え

ることができる。

28

1. 環境効果

環境税による環境目標の達成に関して、直接規制と比較してその違いをみることでメリット・

デメリットを示す。その際に、(1)環境目標の達成のしくみと不確実性、(2)環境効果の大きさ、(3)緊急性、(4)偏在性、(5)強制力、(6)ポリシーミックスに分けて検討する。

(1) 環境目標の達成のしくみと不確実性

直接規制は、科学的根拠などを基に定められた環境負荷量や濃度などの環境目標に対し

て、モニタリングシステムや罰則規定などの規制執行システムにより、個々の主体の環境負荷

の排出を環境目標以下に制限する基準・規制アプローチ(数量規制)である。 一方、環境税は、科学的根拠などを基に定められた環境負荷量での環境目標に対して、

社会的な限界排出削減費用を基に環境負荷量に対する税率を設定し、個々の主体の環境

負荷の排出を環境目標以下に制限する基準・価格アプローチである(価格規制)。つまり、経済的な負担を課すことで、環境負荷を与えるような行為の抑制を目的とするしくみである。 なお、この限界排出削減費用とは、環境負荷量を一単位削減するために必要な追加的な

費用のことである9。その際、社会的な限界排出削減費用の把握と税率設定については、

個々の排出者の限界排出削減費用の情報を統合し税率を設定するか、もしくは、下図のよう

に試行錯誤的に最適税率を決めていくことになる。

e*れは

誤的

(限界排出削減費用について 諸 15)

0 e1 e2

MAC1

t1

環境負荷量

費用

e*

t*

t2

という環境負荷量の達成を目的とするならば、t*の税率を設定すればよいが、そ限界排出削減費用がMAC1と分かっているときであり、実際にはt1、t2と試行錯

に税率を設定することで、t*に接近することとなる。

29

ただ、試行錯誤的に税率を設定し変更していくのは社会的には許容されないと想定される

とともに、個々の排出者の限界排出削減費用の把握には多大な労力がかかることとなる。そ

のため、パイロット的にモデル地域を設定し、そこで知見を集積して本格実施に移ることが考

えられる。また、地域規模等から利害関係者が限られる場合には、地域内での社会的な限界

排出削減費用をある程度把握することも可能ではある。 ただ、環境税のしくみの中に、このような情報の不確実性が存在するということは、環境目

標達成においても不確実性があるということに他ならない。つまり、下図のように、限界排出削

減費用関数を正しく把握できない場合には、定められた環境目標よりも過剰に削減する場合

もあり、また逆に、環境目標を大幅に越えてしまうこともありうる。またそもそも個別の課税主体

が自らの限界排出削減費用を把握しておらず、税率との比較による合理的な判断ができない

場合も想定され、その場合も定められた環境目標どおりの達成は見込めない。

また、そも

用を考慮せ

頭税的に環

当然のこと

つながらな

担っている

は技

ると、

を促す

ての不

(しくみと不確実性の図表 諸 60)

0 e1 e2

MAC1

t1

環境負荷量

費用

e*

t*

t2

MAC2

t3

実の限界排出削減費用がMAC1にも関わらず、誤って、MAC2とみなす、もしく

術開発等によりMAC2にシフトしたことを気づかずに、t*の税率を設定(維持)す環境負荷量はe*ではなく、e1の水準での達成となり、目標のe*よりも過大に削減こととなる。このことは、環境税のしくみとして、環境負荷量の目標達成につい

確実性が高いことを意味する。

そも、環境税の趣旨が税収確保を主目的とするものであれば、限界排出削減費

ずに、確保すべき税収額を念頭に上図t3のような低い税率を設定することや、人

境負荷量にかかわらず低税率で税を徴収することができる。ただ、この場合には、

ながら、環境負荷低減へのインセンティブは存在しないし、環境効果の達成には

い。したがって、ポリシーミックスを想定し、直接規制が環境目標を達成する役割を

前提で、環境税に財源調達の役割を担わせるしくみを創り上げることとなる。

30

つまり、環境税は、環境効果に関して不確実性が高く、一方、直接規制は効果を事前に予

測することができるしくみであるため確実性が高い。ただし、それにはモニタリングシステムや

法制度への社会的な合意および信頼性が前提となる。

(2) 環境効果の大きさ 一般的には、前述した不確実性を回避できた際には、直接規制、環境税ともに、適切な制

度設計・運営がなされれば、環境目標の達成としての環境効果は等しくなるとされている。た

だ、Oates et al.(1989)の研究によると、直接規制は、全ての個別排出源が環境基準を達成するように作用し、排出許可証取引は地域全体での規制の達成を目指すという性質から、直

接規制は経済的手段よりも過剰な排出削減をもたらすことを指摘している。これは環境税に

ついても当てはまり、対象者にとっては経済合理的な行動にもとづき環境目標を達成する点

が、最も費用効率的となるためである。 ただ、留意すべきは、直接規制には図表20のように様々な型があり、一概に直接規制を性格付けられず、上述したような作用が必ずしも起こりえないことである。実際、Oates el al.(1989)の研究は、個別排出源に対しての規制で、排出源の種類と環境基準達成の状況ごとに特定の技術の導入を義務付けるアメリカの Command and Control と呼ばれる直接規制を想定した研究であり、日本のように、工場単位での規制で、技術選択の余地が与えられ

ているような、柔軟性を持った直接規制とは異なっている。この違いは、直接規制の中でも、

環境排出基準(ambient based standard)と、技術基準(technology based standard)とに区別されている。

図表 20 大気環境に関する米国と日本の直接規制の違い

○米国の排出基準 環境基準(National Ambient Air Quality Standards:NAAQS)は、オゾン、窒素酸化物、一酸化炭素、粒子状物質、二酸化硫黄、鉛の 6 種類の基準大気汚染物質について、各地域(air quality control regions)の基準値が設定され、この基準値の達成地域(attainment area)と未達成地域(non-attainment area)に分類され、それぞれに排出基準が設定される。なお、BACT、LAER、RACTは州ごとに設定される。 排出基準 適用対象と概要

LAER (Lowest Achievable Emission Rate)

○適用対象

排出源:新規および改造された大規模排出源

適応地域:基準未達成地域

○概要

最も厳しい基準であり、州の SIP(State Implementation Plan)における最も厳格な汚染規制か、現実に実施されている最も厳しい汚染規制のいずれか一方の、よ

り厳格な規制基準を採用することが義務付けられている。 BACT (Best Available Control Technology)

○適用対象

排出源:新規および改造された大規模排出源

適応地域:基準達成地域

○概要 大規模汚染排出源の新規の設置および改造は許可制度とされ、BACT の採用が

義務付けられる。 NSPS ○適用対象

31

(New Source Performance Standard)

排出源:新規および改造された排出源

適応地域:全ての地域

○概要

1970年の大気浄化法(The Clean Air Act of 1970)で導入され、施設の原料または生産物の単位当たりの汚染排出許容限度を定めたものであり、BACT と LAERの下限を定めている。

RACT (Reasonable Available Control Technology)

○適用対象

排出源:既存の排出源

適応地域:基準未達成地域

○概要 1990年の大気浄化法(The Clean Air Act of 1990)により、揮発性有機物質に加えて窒素酸化物も対象物質として加えられ、汚染の著しい地域においては 100 トン以下の排出源に対しても適用されている。

○日本の排出基準(例 大気汚染防止法) 環境基準を達成することを目標に、固定発生源において、物質の種類ごと、排出施設の種類・規模

ごとに排出基準が定められている。 例えば、ばい煙の排出規制には、以下のような排出基準が設定されている。これら排出基準には、

量規制、濃度規制及び総量規制の方法がある。なお、「ばい煙」とは、物の燃焼等に伴い発生する硫

黄酸化物、ばいじん(いわゆるスス)、有害物質( 1)カドミウム及びその化合物、2) 塩素及び塩化水素、3) 弗素、弗化水素及び弗化珪素、4) 鉛及びその化合物、5) 窒素酸化物)をいう。 排出基準 適用対象と概要

一般排出基準 ばい煙発生施設ごとに国が定める基準 特別排出基準 大気汚染の深刻な地域において、新設されるばい煙発生施設に適用されるより厳し

い基準(硫黄酸化物、ばいじん) 上乗せ排出基

準 一般排出基準、特別排出基準では大気汚染防止が不十分な地域において、都道府

県が条例によって定めるより厳しい基準(ばいじん、有害物質) 総量規制基準 上記に挙げる施設ごとの基準のみによっては環境基準の確保が困難な地域におい

て、大規模工場に適用される工場ごとの基準(硫黄酸化物及び窒素酸化物) 資料:新澤(1997)、三枝(1993)より作成

ただし、理論的には、環境負荷量に課税される環境税は、技術開発を進めることにより課

税分の費用負担を抑制できるため、環境負荷削減のインセンティブは直接規制よりも強いこと

が指摘されている。したがって、環境目標以下の環境負荷量の削減につながりやすいとされ

る。ただし、そもそもの環境税のしくみは、環境負荷量が環境目標以下になった場合には、税

率を下げることにより、対象者は環境目標まで環境負荷量を大きくする行動をとることになる。

したがって、中長期的にみれば、環境負荷量は環境目標の水準に落ち着くこととなる。 ただし、そもそも環境目標は科学的根拠等を基にして決定されており、その目標以上の削

減についての社会的な意義を問われると答えに窮する。しかも、そのプロセスにおいて経済

性を犠牲にするならばなおさらである。 したがって、環境目標水準以上の環境負荷量削減のインセンティブがあるしくみかどうかは、

そもそも社会ニーズに即してないという点で、その環境効果の大きさのみを比較することにあ

まり意味はない。ただ、環境効果を費用対効果、費用対便益の視点で評価する場合などは、

環境効果の大きさは意味をなす。ただし、これは効率性の議論となる。

32

(3) 緊急性

直接規制は、短期的かつある程度確実に環境目標が達成可能であることから、局地的に

健康被害を引き起こすような環境問題に適しているとされている。ただ、これは、経済偏重の

時代背景のなかで深刻化した公害問題に対して、環境負荷量制御の容易さという直接規制

のメリットが、緊急性という社会的要請の中で高く評価された結果であり、環境税が試行され

たわけでもなく、環境税が緊急性に対応できないと評価されているわけではない。また、環境

負荷量削減のための代替手段がないか、もしくは直ちに実用化・導入するのが困難な場合、

特定の技術指定という直接規制により対応でき、環境税のメリットが発揮できないということか

ら、環境税が導入されていないということも要因のひとつとして考えられる。 ただ、環境税は価格規制というアプローチにより、狙いではなく「結果」として量の規制につ

ながるしくみであるということと、前述した不確実性があることから、一般的に考えると、緊急性

の優位性は小さいといえる。

(4) 偏在性 環境税では、個々の排出主体ごとに限界排出削減費用に大きな差があれば、個々の排出

主体ごとの環境負荷量の格差は大きくなり、例えば、大口で限界排出削減費用の高い事業

体が集積している地域の環境負荷量が高くなるなど、地域ごとに環境負荷の偏在化が起こり

うる。一方、直接規制は、個々の排出主体に一律の規制値を設定するため、排出主体数の

集積の度合いにより環境負荷の偏在化は見られるが、環境税ほどの偏在化は起こらない。特

に蓄積性汚染、集積性汚染などを引き起こす汚染物質については、環境税による対策では

問題が深刻化する可能性もある。 直接規制では、特定の地域に特別な規制値を設けることで対応可能となる。例えば、大気

汚染防止法のばい煙の排出基準では、大気汚染の深刻な地域を指定地域とて設定し、特別

排出基準、上乗せ排出基準、総量規制基準などの適用が可能である。環境税においても、

地域ごとに税率を変化させることで、理論的には対応可能となるが、制度の効率性や公平性

などの面から現実的とはいえない。 一方、環境負荷が均等に拡散し広域的に影響を及ぼす環境問題においては、偏在性の

考慮は必要なく、環境税の適用について問題はないと考える。このことが二酸化炭素に対し

ての炭素税の導入推進議論につながっている。したがって、環境税は蓄積性汚染、集積性

汚染などを引き起こす環境要素に対しては、中長期的な影響を踏まえた場合、適用は難しい

といえる。

(5) 強制力・拘束力 直接規制に限らず環境税もモニタリングシステムと罰則規定の規制執行システムの適切な

運用により強制力を発揮し、制度としての効果をもたらすこととなる。 モニタリングの目的として、直接規制は、規制基準以上の環境負荷を排出するという規制

33

違反を監視することであり、環境負荷量が規制基準を満たしているかを測定することで、環境

目標の達成を図ろうとするものである。 一方、環境税は、申告された環境負荷量と、実際の環境負荷量が異なることが規則違反と

なり、申告された環境負荷量と実際の環境負荷量を監視し、適正な税収確保を図るものであ

る。そして、環境目標は、社会的限界排出削減費用を基に設定された税率により、自動的に

結果として達成される。したがって、環境税では、環境負荷量を正しく申告させることが目的と

なる。 また、モニタリングに必要な情報量に関しても、内容は環境負荷量を測定することであり、

直接規制と環境税においてはほぼ同じといってよい。ただ、環境税では、環境目標は適切な

税率が設定された時点で達成されるしくみであり、税収の確保を目的としないのであれば、モ

ニタリングを緩和することも可能である。 ただ、環境税は環境負荷量全体に課税され、直接規制は排出基準を超えた環境負荷量

に対して罰則が与えられるため、負担が重い環境税のほうが、規制違反のインセンティブ、つ

まり、環境負荷量を過少申告するインセンティブがより強く働くと想定される。そのため、モニタ

リングの緩和に対しては、環境税の場合はより強く規制違反へと反応すると考えられる。そし

て、虚偽申告により環境負荷量は過小に申告されることになるため、実際は環境目標を達成

しないにもかかわらず、環境目標が効率的に達成できた、という結果も起こり得る。 そこで、罰則の厳しさと、違反の発覚する確率を掛け合わせた「違反リスク」が大きければ大

きいほど違反は減ると想定されるため、罰則金を高く設定するなど、罰則の厳しさをより強化

することで対応できる。ただ、日本だけでなく、諸外国においても、公害犯罪に関する量刑は

軽く、罰則金は低く設定されている10。そのかわり、行政指導や操業停止、会社名の公表など

により対応されており、環境税においてもそれらの制度を活用することができる。 また、ペナルティではなく、規制遵守に対して、プラスのインセンティブを与えることも考えら

得る。インセンティブを与える要素としては、直接的な経済性に訴えるものが最も効果があると

想定されるが、企業の環境対応が、投資や生産・販売などの経営面に影響する現在におい

ては、環境が企業イメージやブランドの要素となるため、情報公開や顕彰などもインセンティ

ブの対象となる。 ただ、環境負荷を与える主体が多く、対象が広範囲に分散しているような環境問題であれ

ば、費用面の考慮からモニタリング対象を規模等によって絞り、モニタリングすべき箇所を限

定する必要がある。そして、対象外となった主体に対しては、定期検査や燃料規制などの環

境負荷量ではない代替的な指標を設定し簡易な方法で把握するのが現実的である。また、

個人に課税することになれば、既存の徴税システムやモニタリングシステムの活用方策も検討

する必要がある。さらに、住民参加および第三者による監視という、参加と透明性の観点を踏

まえて、それらの可能性を検討することも可能である。そして、結果の評価やフォローアップの

しくみの整備も必要となる。 環境税と直接規制では、モニタリングのしくみは環境負荷量を測定することに変わりなく、

その評価対象が異なるだけであり、既に直接規制で用いられているモニタリングシステムを活

34

用することで、追加のコスト発生は避けられる。ただ、モニタリングシステムの有無と運用状況、

つまり、常時観測か定期的自己測定か、当該記録の保持はされているか、また、テレメータ・

システムが設置され、地方の環境当局の管理センターに接続されているかなどの考慮が必要

となる。

(6) ポリシーミックスにおける環境効果 以上、環境税は、しくみとしての不確実性により、期待される環境効果の結果は、直接規制

よりも不確実性が高いといえる。ただし、不確実ではあるが、しくみとしては達成される環境効

果は等しくなる。つまり、不確実性を回避することができ、それが過大な費用負担とならなけれ

ば、環境税の環境効果は現実的に評価されるものとなる。また、不確実性ゆえの緊急性にお

けるデメリット、また、蓄積性汚染、集積性汚染などを引き起こす環境要素には偏在性のデメ

リットが生じることが指摘できる。逆に言えば、環境税は、不確実性の範囲が許容できるような

環境要素に対しての適応が望ましいといえる。 なお、財源調達を主とし、低い税率を設定する場合は、環境税単独では環境効果の達成

は困難であり、また、環境負荷量に直接課税しない・できない場合、また、人頭税的に一律に

課税する場合においても、環境効果の達成は難しくなる。 ただ、これらの環境効果は、直接規制、環境税ともに、強制力・拘束力としてのモニタリング

システムや罰則規定としての規制執行システムによりその程度が決まる。したがって、小口で

分散型の対象へのモニタリング、つまり、住民などに対する規制に対しては、直接規制の環

境効果は低下することもあり得る。したがって、制度設計で期待される環境効果は、規制執行

において必ずしも期待通りに発揮されるわけでなく、また、その逆もある。そのため、実際の環

境効果は、制度設計および規制執行システムのあり方までも含めて検討する必要がある。 ポリシーミックスでの環境効果において重要な点は、環境税の不確実性を考慮に入れたポ

リシーミックスの中で、環境税の役割をまず明確化することである。つまり、直接規制が確実に

環境効果を確保する状況においては、環境税の役割は効率性や公平性などを担うなどの機

能を定めるということである。 ただ、現在の直接規制の有無、環境目標の達成状況により、環境税の役割は異なる。直接

規制がない場合とは、緊急性が低い環境要素か、科学的な不確実性が高い、政治的・社会

的に規制への摩擦が大きいなどが考えられるが、ポリシーミックスとして、環境税に環境効果

の機能を持たせることも考えられる。また、環境目標が未達成の状況においては、当然のこと

ながら、環境効果の機能が要求されることとなる。 ここで、環境税の適応可能な対象および範囲を考えると、環境税の性質として、濃度に対し

ては課税できないが、量に対して規制ができることがあげられる。つまり、環境問題の本質が

濃度でなく量である場合、直接規制が濃度規制しかできない状況であれば、環境税が量規

制をするという補完的な役割、この場合は主となる役割を担わせることが可能となる。

35

ただ、環境税においても、環境負荷量に課税できず、代替財に課税せざるを得ない場合に

おいて、環境負荷量との関連性が低ければ環境効果は下がる。それだけでなく、生産にとっ

てマイナスの影響を及ぼすこともある。ただ、モニタリング実施の容易性と捕捉性の高さにより、

全体的な環境効果が高まる可能性もある。 なお、ここでは、社会全体での環境効果についてみたが、利害関係者ごとの効果がどのよ

うに異なるか、つまり環境効果の帰結についても検討が必要となるが、一概には言えない。こ

れについては、「4. 公正・公平性と分配問題」の項で触れる。

36

2. 静学的効率性

(1) 理論上の静学的効率性 環境経済学の基礎的な理論に現実の視点を加えて、実際の環境税における静学的効率

性の検討のための視点を示す。理論上は、環境税は直接規制に比べて静学的に効率的で

あると一般的に理解されている。この静学的効率性とは、簡略化して言うと、環境目標を最小

費用で達成できるという意味である11。 つまり、下図のように、環境税は限界排出削減費用を課税対象者間で均等化させることに

より、環境目標達成のための費用を社会的に最小化することができる。

出削

いる

合の

は△

△dgこ

用が

総費

大き

環境

0 30 100

MAC1

t1

環境負荷量

費用

MAC2

50 70

a

b d

e f g h

c

t3

術力などの要因により、企業 1の限界排出削減費用がMAC1、企業 2の限界排減費用がMAC2と異なり、両企業とも 100(合計 200)の環境負荷量を排出して状況において、社会において環境負荷量を 100 に削減する必要に迫られた場、直接規制と環境税の社会的な費用負担の差は以下のようになる。 接規制:企業 1、2 ともに 50の削減を迫られることとなり、企業1は△afh、企業2cfhの費用負担 境税:100の削減量のために環境税率t1が設定され、企業 1は 30の削減によりh、企業 2は 70の削減により△behの費用負担 れより、環境税の導入において、企業 1 は直接規制の場合と比べ、□afgh の費減少し、企業 2 は□befc の費用が増加する。したがって、直接規制と環境税の

用の差は、これら 2 つの費用の差となるが、図表より明らかに、□afgh の費用がいため、環境税の方が、限界排出削減費用が均等化することで、直接規制よりも

目標達成のための費用が抑制できることとなる。

37

また、環境税を用いることによる、静学的効率性上のメリットは、①環境負荷削減に向けて

対象者が柔軟な対応が採れる場合、②目標とする環境負荷削減量が大きい場合において大

きく現れる。 ①については、主体ごとに限界排出削減費用が異なる場合、つまり、対応技術が多様であ

るなど、対象者が各自の経済合理性に基づいて、柔軟な対応が取れる場合のことである。こ

の場合、対応技術が多様であればあるほど、つまり、対象者の対策費用の差が大きければ大

きいほど(P37の図表においては限界排出削減費用曲線の傾きが様々であるほど)、各対象者の対策費用を厳密に考慮しないような直接規制による一律規制よりも、静学的効率性にお

けるメリットは大きくなる。 ②については、P37の図表において、削減量が 0 に近づけば近づくほど、つまり左に設定されればされるほど、直接規制と環境税の総削減費用の差である、□afgh-□befc が大きく

なり、相対的な負担度は大きくなる。 逆にこの差が小さければ、課税対象者は直接規制の強化を望む可能性が高くなると想定

される。したがって、政治的・社会的な受容性の側面を考慮すると、目標とする排出削減量が

大きい場合でなければ、環境税導入の根拠は弱くなるともいえる。 なお、税収を主目的とする環境税においては、P37の図表のt3のような低い税率を設定す

ることや、人頭税的に環境負荷量にかかわらず低税率で税を徴収することができるが、これら

単独ではそもそも環境目標の達成にはつながらない。そのため、直接規制とのポリシーミック

スで考えることになるが、その場合は、環境税は固定費として限界排出削減費用曲線を上方

にシフトさせることと同義となり、課税段階時点では静学的効率性は低くなる。 また、現実の環境税を考えると、この理論上の検討に加え、現実の直接規制の効率性と情

報効率性の考慮が必要となる。情報効率性とは、制度の設計および運用に関して必要な情

報収集等に係る費用効率性のことであり、現実の政策実施において無視できないものである。

なお経済学的にはこれを取引費用と表わす。 ここでは、ポリシーミックスとして想定される直接規制が非効率であるという一般的な解釈を

否定的に検討し、また、情報効率性を含んだ形での環境税における静学的効率性は低下す

ることを示す。そして最後に、ポリシーミックスにおける静学的効率性について示す。なお、情

報効率性は、①制度設計、②制度運用の段階に分けて考察する。

(2) 直接規制における効率性 直接規制はP37の図表のように、環境税と比較すると、理論上は静学的効率性は低くなる。ただし、規制基準の設定において、産業分類別、規模別、生産物別、工程別など、排出削減

費用の違いに応じた、決め細やかな規制基準を設ければ設けるほど、区分ごとに限界排出

費用の考慮がなされるため静学的効率性は改善する。したがって、確かに環境税は限界排

出費用が均等化するため、理論上は最小費用で環境目標を達成することができるが、直接

規制においても、規制プロセスやしくみの工夫により、ある程度、静学的効率性の改善が可

38

能となる。 実際、日本の環境政策の歴史を見ると、直接規制においても効率性の確保に向けた取組

がなされ、過大な経済的負担を与えるような規制となっていないものと考えられる。そして、環

境税の導入が進まなかった要因として、環境税の静学的効率性を社会に対して説得的に説

明できなかったことや、そもそも、環境政策における経済性という価値観の相対的地位が低か

ったこと、補助金や低利融資などの再分配制度の整備などともに、実際の直接規制がそこま

で非効率ではなかったことが指摘できる。つまり、環境目標の達成を、最小費用とまではいか

ないが、ある程度、費用効率的に行い得たといえるのではないか。それには、規制側と被規

制側とのコミュニケーションにより情報格差を縮小するプロセスと両者の協力関係構築などの

政策決定方法が要因の一つとしてあるといえる。 また、直接規制は非効率的である、という印象を与えているのは、公害問題を中心とした環

境問題に対して対処療法的な対応を取らざるを得なかった折に、直接規制が用いられること

になったためであり、直接規制と対処療法的な施策が混同されて論ぜられている部分もある。

今後の予防原則的な環境政策の方向性の中で、直接規制をデザインしていく際の評価は全

く異なるであろう。 ただ、後述するが、きめ細やかな排出基準の設定は、その区分ごとの情報収集に費用がか

かるため情報効率性を低下させることとなり、また、細かな規制で絞ることにより動学的効率性

(中長期的観点からみた場合に費用を抑えるということで、技術開発・導入を促すインセンティブが働くこと)の発揮を妨げる恐れもあることに留意する必要がある。したがって、現実的には、直接規制においては、情報効率性を含む静学的効率性の優劣を一般化して示すことはでき

ず、制度設計によるところが大きい。

(3) 制度設計における情報効率性(設計効率性) 直接規制では、科学的知見や技術可能性などに基いて環境基準や排出基準などの規制

基準が設定され、実施に移される。一方、環境税においては、この基準の設定に加えて、P

37の図表にある社会的限界排出削減費用を把握し、税率を設定する必要があり、それには個々の排出主体の限界排出削減費用の情報を収集することが求められる。ただ、直接規制

での規制基準の設定において収集すべき情報として、限界排出削減費用が把握されるなら

ば、環境税の制度設計において、追加的な情報収集費用は発生しないことになる。 これに関して、規制基準の設定時において、おおまかな対処費用の推計は行われたが、

規制基準を定めるための資料ではなく、補助金額の算定などに用いられたという研究事例が

ある一方12、排出基準や総量規制基準を決定する過程で排出削減技術や費用に関する情

報がかなり組み込まれている、という点も指摘されており13、直接規制において、詳細に限界

排出削減費用が把握されるかどうかは一概には言えない。 また、環境税は、社会的な限界排出削減費用の変化に応じて、税率を変更する作業が発

生するため、改定ごとの情報収集費用も無視できない。ただ、限界排出削減費用の把握につ

いては、ドイツ排水課徴金のように、計算によりある程度の税率設定や更新が可能であり、ま

39

た、対象主体が少なければ、企業および業界団体などへのヒアリングなどである程度把握し、

パイロット地域での試行錯誤により税率を設定するなど、費用抑制の工夫は考えられる。ただ、

税率変更、特に税率引き上げにおいては、ステークホルダーの合意形成が必要であり、それ

にかかる困難性や費用などを考慮する必要がある。 一方、直接規制においても、主体の特性、つまり、業種別、規模別、生産物別、工程・設備

別など、排出削減費用の違いに応じた、決め細やかな規制基準を設ければ設けるほど、情報

効率性は低下する。その点、環境税はあくまで対象とする環境負荷に対して、一律の税率で

課税するのが基本であるため、社会的限界排出費用の把握という点にのみで情報効率性が

定まる。 ただ、情報収集費用については、そのしくみにより費用の帰結が異なる。例えば、直接規

制において、施設の申請手続き等にあわせて費用に関する情報を定期的に報告させること

にすれば、規制側の費用は抑制できることになる。 (4) 制度運用における情報効率性(執行効率性)

直接規制、環境税ともに、制度の実効性の確保においては、モニタリングシステムや罰則

規定、および徴税・税収執行システム等の規制執行システムの整備が必要となる。そこで、そ

のための費用、つまり執行効率性について直接規制と環境税を比較する。 まず、モニタリングについては、P33の「1. 環境効果 (5)強制力・拘束力」の項でも述べたが、直接規制は環境目標の達成のため、一方、環境税は環境負荷量を正しく申告させ、適切

な税収を確保することが目的であり、モニタリングの目的は異なる。ただ、環境負荷量を把握

するという内容には変わりなく、モニタリングに必要な情報はほぼ同じと考えてよい。しかし、

環境税のしくみとして環境目標の達成を主目的とするのであれば、環境税はモニタリング確

率を下げるなど緩和し、モニタリング費用を節約することにより、執行効率性を向上させること

も可能である。ただ、モニタリング対象が濃度と量で測定の困難性が異なる場合であれば、費

用面においても差が生じることになる。 ただし、環境税のしくみとして税収を主目的とする場合には、モニタリング確率が下がれば

虚偽申請が増加し、税収の低下が想定される。ただ、環境負荷量の虚偽申請のインセンティ

ブは税率の高さ、つまり負担の大きさにより変わる。したがって、税収目的という低い税率での

環境税の実施では、環境負荷量の虚偽申請のインセンティブは弱くなると想定される。その

ため、モニタリング確率の適正な設定により、執行効率性も向上させることができる。 ただ、後述するが、ドイツの排水課徴金の例にあるように、環境目標の達成および公平・公

正の観点から、モニタリングを綿密に行うことになれば、環境税における執行効率性の優位性

は無くなる。また、既存のモニタリングシステムが活用できるか、簡易で安価なモニタリングシ

ステムを構築し運営することが可能かどうかも、執行効率性に影響する。 なお、直接規制において対象者が小口で、広域に分散する場合は、厳格な対応において

は多額の管理費用がかかることになるが、環境税の場合はモニタリング確率の低下により対

応することも可能ではある。このことから、効率的な徴税という視点から、環境税の導入を進め

40

るという考え方もできる。実際、オランダでは、行政管理費用の削減とより効率的な徴税を目

的として、従来の課徴金制度を廃止し、環境関連税制改革を導入したとされている14。 次に、徴税システムについては、他の税目に合わせて徴税するか、また新たな徴税のしく

みを整備するかにより、電算システムの変更など新たに要する初期費用の大きさが異なる。ま

た、税収執行については、税収を一般会計に組み込むか、もしくは特定財源とするかにより

異なる。また、税収を主目的とする環境税においては、税収を再配分するための新たな施策

の立案が求められ、その実施に要する人員および費用なども考慮する必要がある。加えて、

還付措置や減税措置などの特別規定がある複雑な制度や、税収額が大きく適切な算定・管

理が求められる場合などは、管理にかかる費用の増加が見込まれる。 以上、モニタリングや既存設備や組織・人員の整備などの既存制度に相乗りできるかどうか、

つまり追加的な費用負担の程度が、現実的には大きなポイントとなる。 したがって、制度設計および制度運用における情報効率性をみると、一般的に言われてい

るような環境税の直接規制に対する優位性は必ずしも言えず、また、執行費用だけでなく、対

象者にとっての遵守費用の大きさも制度設計によるところが大きい。

(5) ポリシーミックスにおける静学的効率性 以上、静学的効率性について、直接規制の効率性改善の可能性と、制度の設計および運

用における情報収集の費用を含んだ静学的効率性は低下することを示し、実際の環境税は

必ずしも直接規制よりも静学的効率性が高いとは言えないことを述べた。そして、環境税の静

学的効率性の確保は、詳細な制度設計や周辺環境の整備、そして直接規制や補助金とのポ

リシーミックスの状況によることを指摘した。 また、低税率での環境税導入、環境負荷量に直接課税しない・できない場合、また、人頭

税的に一律に課税する場合においては、モニタリングしやすい代替指標や徴税しやすい代

替指標により、制度設計や執行を進めることが可能となり、モニタリングに必要な情報等は少

なくてすむことから、制度設計および執行における情報効率性は高くなる。ただし、この場合

は、環境目標の達成を担保する直接規制とのポリシーミックスを考える必要がある。そして、直

接規制での費用負担に対して、追加的に費用が発生することに留意する必要がある。 なお、ポリシーミックスの静学的効率性において重要な点は、ポリシーミックスによって環境

税自体が持つ静学的効率性が向上することはなく、必ず低下するということである。ポリシーミ

ックスによる対応の目的は、環境効果、効率性、公平性などの複数の目標を達成することであ

り、直接規制が環境目標を確実に達成させることを第一とし、その過程で静学的効率性を確

保するようなしくみをつくるアプローチとして考えると、環境税の理論的な静学的効率性は、直

接規制による静学的効率性発揮のためのしくみや、そもそもの直接規制のしくみなどにより制

限されることは明白である。そして、公共政策では、社会的な影響がどうか、という視点が最も

求められ、規制側と被規制側での費用分担の変化、また、個々の対象者間の費用負担の違

いなどに対して、分配や公平性の観点から、補償的な性質をもつ補助金などにより再配分が

行われ、静学的効率性に影響を与えることになる。

41

また、理論どおりの環境税の実施は困難であり、そして、理論どおりの環境税は現実にお

いて求められていないこともあげられる。つまり、必要なことは、ポリシーミックスの中で、求めら

れる環境税の役割を明確にし、そのための制度設計を図るということである。制度設計時に意

図したかは不明であるが、ドイツの直接規制と補助金とのポリシーミックスにおける排水課徴

金は、理論上想定される水準の効率性は達成できていないが、ある程度のインセンティブを

供与するとともに、制度の運営を通じて汚染制御の人的・技術的レベルが上昇し、排出側の

対応も洗練されたものになった、とされている15。 また、日本の公建法賦課金においては、直接規制が相対的に緩い中小の排出主体には、

直接規制ではなく、賦課金が汚染削減インセンティブを与えたという評価がなされている16。 一方、ドイツの排水課徴金は、補助金配分により静学的効率性が低下したという評価がある。

これは、静学的効率性と分配のトレードオフ問題となるため、公平・公正基準と分配問題の項

において検討する。

42

3. 動学的効率性

(1) 理論上の動学的効率性 環境経済学の基礎的な理論と現実の視点を加えて、実際の環境税における動学的効率

性の検討のための視点を示す。 理論上は、環境税は直接規制に比べて、動学的にも効率的であると一般的に理解されて

いる。この動学的効率性とは、中長期的観点からみた場合に費用を抑えるということで、技術

開発・導入を促すインセンティブが働くこととされている。つまり、環境税による税負担を抑制

しようと根本的に環境負荷量を削減する技術開発・導入を進めるインセンティブのことだとい

える。下図では、限界排出削減費用のMAC1をMAC2にシフトさせる動きで示される。

と、t用負

また

減分

性が

ブが

【動学的効率性 28+植田 140図表】

0 d

MAC1

t1

環境負荷量

費用

MAC2

b a

c

e 2 e 1

t2

t3

業 1 の限界排出削減費用がMAC1の場合、排出基準e1が設定される直接規制

1が設定される環境税では、同じ点aを達成する。ただし、直接規制と環境税の費担の差は以下のようになる。 接規制:△ae1dの費用負担 境税:△ae1dに加えて残余負荷量分である□at10e1の費用負担 、技術開発等により、限界排出削減費用曲線をMAC2にシフトした場合の費用削

の差は以下のようになる。

接規制:△acdの費用削減 境税:△acdに加えて、△abcの費用削減 れらの費用負担および費用削減額の差が、環境税が直接規制よりも動学的効率

強い、つまり、技術開発により限界排出削減費用曲線をシフトさせるインセンティ

強くなると考えられている。

43

ただ、そもそも環境税の主目的が財源確保であれば、一般的に図の t3 のように低い税率が設定され、税導入による追加的な費用負担は小さいことから考えると、技術開発へのインセ

ンティブは低くなる。 また、現実の環境税を考えると、この理論上の検討に加え、現実の直接規制の動学的効率

性と、制度設計および制度運用にかかる情報効率性の考慮が必要となる。また、動学的効率

性の不確実性、つまり技術開発そのものに関する不確実性についても指摘する。 ここでは、ポリシーミックスとして想定される直接規制が非効率であるという一般的な解釈を

否定的に検討し、また、情報効率性を含んだ形での環境税における動学的効率性は低下す

ることと、技術開発の不確実性を示す。そして最後に、ポリシーミックスにおける動学的効率性

のあり方について示す。 (2) 直接規制における動学的効率性

環境税だけでなく、直接規制においても、技術開発・導入のインセンティブは存在している。

P43の図表において、直接規制においても費用負担はかかっており、技術開発により、限界排出削減費用曲線を下方にシフトさせることで費用削減となり、これがインセンティブとなる。 ここで、直接規制と環境税を比較すると、直接規制にも技術開発インセンティブは存在する

が、環境税のインセンティブの方が大きいとされている。ただし、これは、費用負担が大きいこ

とが、より技術革新を進めるインセンティブが大きいだろうということを前提としており、ほとんど

実証されていないことに留意する必要がある。ここで、課税対象者は現在の税負担額は固定

費用として所与のものとして位置づけ、負担の増加額(率)の大きさを見越しながら、技術開発のインセンティブが決定されると考えれば、規制強化による負担の増大にしたがい、現行の技

術水準を前提とした費用のかからない対応から、生産工程の改善、そして新たな技術開発と

導入というプロセスをとることで、技術開発が推進される可能性があることも考えられる。 実際、日本の環境政策をみると、直接規制のもとで、自動車排ガス対策や排水対策などに

おける動学的効率性の向上、つまり環境負荷低減のための技術開発が進んだことが指摘さ

れる17。これは、公害問題が深刻となった当時は、経済優先という社会経済状況のもと、事業

者に過剰な負担をかけず、産業の競争力を維持したまま環境対策を進めるという基本姿勢で

あり、生産性維持を主とした技術開発が推進され、それに伴い、まずはエンド・オブ・パイプ型

(終末処理型技術)、そしてクリーナー・プロダクション技術の環境対策技術の開発が促進されたと想定される。日本の当時の直接規制には、P45の図表のような技術開発を推進する工夫・しくみがあったと想定され、この中でも、一定の目標とスケジュールの設定にしたがい規制

基準を段階的に厳しくする方法が、技術開発を推進したものと想定される。

44

図表 21 仮説としての日本の直接規制の技術開発インセンティブ要因

要因 内容

① 環 境 に

関する基準

の 設 定 方

・SO2、NO2の基準設定プロセスより、科学的根拠を元にしながらも、技術的、

経済的、政治的、社会的観点から政府と企業の利害調整により、達成可能性

の高い基準が設定されたといえる。 ・O'Connor(1996)は「訴訟によるよりも行政指導にその多くを依拠するというシステム」と日本の行政システムを表現しており、政府と企業の協力関係の存在

も要因として指摘できる。

②排出基

準設定

・大口排出源をもつ大企業から段階的に規制し、技術開発力の高い大企業に

技術開発へのインセンティブを継続的に与え、中小企業の技術開発に対する

不確実性を回避させる。 ・排出基準の設定は規模、設備の新旧によって差をつけており、企業が設備更

新にあわせた対応を採ることを可能にしている。 ・技術指定を行う技術基準までも設定せず、工場閉鎖、生産縮小、投入物の代

替、操業改善、生産物構成の変更、EP(End-of-Pipe)技術の設置、CP(Cleaner Production)の設置等、様々な選択の余地を残している。

③地方自

治 体 の 役

・国の法律よりも厳しい条例、総量規制制度、環境影響評価制度などの、地方

自治体の環境対策の国に対しての先行姿勢や公害裁判の結果が、モニタリ

ングシステムや公害防止協定による技術開発を促した。 ・モニタリング・システムの完備とその的確な運用が、企業に基準遵守のインセ

ンティブを与え、技術開発・導入を促したと考えられる。 ・公害防止協定という自治体と企業との間に交わされる法的根拠のない紳士協

定は、汚染排出源ごとに柔軟な指導が行えるメリットを有し、技術開発の進捗

状況に合わせた技術導入の取り決めや、一律的な排出基準を満たした企業

に対しても継続的に技術開発・導入へのインセンティブを与えつづけることが

可能であった。

④技術開

発・導入に

際しての助

成措置

・アメとムチとして、政府は技術進歩にあわせた段階的な規制強化とともに、技

術面、金融面での助成措置を講じ、費用負担の軽減により企業の技術開発を

促進させ、厳しい基準値への対応を可能にしたと考えられる。 ・(旧)通産省の大型工業技術研究開発制度による大型の研究開発プロジェクトや、重要技術研究開発費補助金制度での一般技術よりも高い補助率で公害

防止に関する研究開発助成、塩化ビニール環境技術研究組合などの共同研

究組合での技術開発を推進した。 ・技術導入に関しては、低利融資制度、特別償却等、税制上の優遇措置、利

子補給などの助成を進めた。 ただし、直接規制にはいろいろな型があり、全ての直接規制が技術開発を推し進める作用

を持っているわけではない。このなかで、動学的効率性を向上させるような型とは、企業が創

意工夫・イノベーションを発揮できるような柔軟な規制、つまり、特定の技術を指定しない規制

であり、日本の直接規制もこれにあたると考えられる。また、O'Connor (1996)は、直接規制の効果は、①精力的な執行に取り組む政府の政治的意思の強さ、②規制の設計や実施を担

当する者の技術的な能力、③規制された産業が必要な防止技術に投資する資金力、の 3 つに依存しているとし、日本はすべての条件を満たしていると述べている。この日本型の直接規

制が技術開発を促進してきた要因の一つであるといえる。

45

ここで、直接規制と環境税の動学的効率性に関する重要な違いは、技術開発のインセンテ

ィブの大きさの他に、技術開発の結果として達成される状態が異なることが挙げられる。 直接規制と環境税の費用負担のしくみとして、直接規制は排出削減にかかる費用を低下さ

せることが費用負担の軽減となり、環境税は排出量を減らすことが費用負担の軽減となる。し

たがって、技術開発の目的は、直接規制は費用削減の技術開発を進め、限界排出費用関数

を下方へシフトさせようとする。一方、環境税は排出量を減らす技術開発を進め、限界排出費

用関数を左方へシフトさせようとする。 その結果、技術開発によりP43の図表において、限界排出削減費用曲線がMAC2にシフト

した場合、直接規制は排出量などの規制基準は不変であるため、点aから点cへと下に垂直に移動する。一方、環境税は、短期的には税率は不変であるため、点bへと左に水平に移動する。したがって、技術開発の結果として、直接規制は限界排出削減費用の低下、環境税は

排出量の削減の状態をもたらすこととなる。 ただし、環境税は、環境目標としての排出量等の規制基準が決まっているため、その基準

以下の削減は、個々の排出者にとって支払い税額の削減とはなるが、環境税の環境目標の

達成のしくみから外れる。したがって、環境目標としての排出量等を維持するためには、t1か

らt2への税率の引き下げが必要となり、最終的に直接規制による結果と同じ、点cに移動する。その際の費用負担は、□bt1t2c分が削減されることとなり、技術開発による費用負担と、税率

低下による費用負担の、二重の費用負担の削減が達成される。

(3) 制度設計および制度運用における情報効率性 前述したように、環境税の場合、技術開発の結果として限界排出削減費用が低下した場合

は、排出量等の規制基準維持のため、税率を下げる必要がある。ただ、その場合には、変化

した新たな社会的な限界排出費用を把握する必要があり、その情報収集費用がかかり、また、

不確実性も残ることとなる。 しかし、税率の変更がなされなければ、過剰な排出量等の削減につながり、環境税のしく

みが成り立たず、環境税の理論的な動学的効率性の低下、つまり技術開発インセンティブの

低下をもたらす。したがって、環境税では、定期的な限界排出削減費用の把握につとめ、税

率改定の準備を行っていく必要がある。そのため、環境税では、理論的な制度を維持するた

めには、直接規制よりも情報効率性は低下するといえる。 また、財源確保を主目的とし、低い税率設定をしたり、人頭税的な課税方式の環境税であ

れば、規定の財源額確保のために税率を引き上げることで、技術開発を推進させることも可

能である。税率の上昇と技術開発のインセンティブの変化については、前述した直接規制の

強化と技術開発インセンティブの関係と、ほぼ同じような状態になる。

(4) 不確実性 上記の定期的な情報把握の困難性も不確実性として捉えることができるが、ここでは、技術

46

開発自体の不確実性を考察するため、①課税対象者の違いによるインセンティブの差、②課

税標準の違いによるインセンティブの差、③技術開発の費用と成果、④開発技術の中身とい

う区分に沿って、不確実性を指摘する。 ①課税対象者の違いによるインセンティブの差について、技術開発のインセンティブは、直

接の課税対象者には強いと想定されるが、間接的な影響しか受けない主体には、インセンテ

ィブは弱くなると想定される。直接の課税主体から、下流の事業主体へ税の影響が転嫁され

ることもあるが、それが下流の事業主体の環境負荷低減のための技術開発に結びつくとは必

ずしも言えない。ただ、企業間のさまざまな取引条件において IS14001や環境技術の採用などの環境対策を要件とする事例もでてきており、今後は、法規制とは別のルールで技術開発

が進む可能性もある。 これらより、課税対象者により技術開発のインセンティブの大きさが異なり、技術開発の結

果も異なることから、技術開発を進めることで最も効率的かつ効果的に環境負荷の削減が見

込まれる主体への課税が求められる。 ②課税標準の違いによるインセンティブの差について、環境税が投入財量や生産財量な

どの環境負荷量以外に課税された場合は、環境負荷低減の技術が評価されずに課税額が

決定されるため、技術開発のインセンティブは小さくなる。投入財量に課税されると、投入財

量を抑制しようというインセンティブが働くため、生産性向上の技術開発が進むこととなる。そ

して、この生産性向上技術と環境負荷低減技術が必ずしも両立するものとは限らないことから、

生産の拡大とともに環境負荷の増大という事態も起こり得る。また、生産物量への課税は、生

産の抑制につながる可能性も否定できず、経済への影響も懸念されることとなる。そのため、

これらの環境負荷量以外に課税せざるを得ない場合には、環境負荷低減の技術開発を推進

するために、協定や補助金を交付するなどのポリシーミックスで対応する必要がでてくる。また、

人頭税的に課税されることも、各主体の限界排出削減費用を考慮していないこととなり、技術

開発が促進されるとは限らない。 ③技術開発の費用と成果について、技術開発の費用が高く、節約可能な税額が小さいと

想定される時は、技術開発のインセンティブは低くなる。また、そもそも、技術開発自体が不

確実性の高い選択であるため、費用だけでなく成果の不確実性も高くなる。したがって、技術

開発費用を含んだ限界排出削減費用関数の形状が不確実のまま、技術開発が進められるこ

ととなる。 ④開発技術の中身について、エンド・オブ・パイプ技術という対処療法的な技術ではなく、

生産工程のクリーン化を進めるクリーナー・プロダクション技術や、汚染の未然防止技術など、

抜本的な技術開発・導入を進めることが理想であるが、実際の技術の中身までも要求するの

は困難である。したがって、エンド・オブ・パイプ技術かクリーナー・プロダクション技術、さらに

他技術のどれが導入されるかは不明となる。加えて、現在の技術開発のための補助金政策

においては、特定技術が指定されており、エンド・オブ・パイプ技術に偏りがみられることも指

摘できる。つまり、抜本的な技術開発を進めるノベーションを発揮させるしくみが必要となる。

47

(5) ポリシーミックスとしての動学的効率性 以上、動学的効率性について、直接規制の効率性改善の可能性と、制度の設計および運

用における情報収集の費用を含んだ動学的効率性は低下することを示し、実際の環境税は

必ずしも直接規制よりも動学的効率性が高いとは言えないことを述べた。また、そもそも技術

開発には様々な不確実性が伴うものであり、詳細な制度設計や周辺環境の整備、そして直

接規制や補助金とのポリシーミックスにより、動学的効率性を向上させる必要があることを指

摘した。 ポリシーミックスでの動学的効率性において重要な点は、直接規制が環境目標の達成とい

う役割を担うとすれば、環境税は技術開発の推進、特に省エネ、再生利用などの生産性の向

上にもつながるクリーナープロダクション技術の開発インセンティブを与える役割を担わせるこ

とを考えることとなる。特に、技術進歩のスピードが早い分野、また、ブレイクスルーが見込ま

れる技術に対しては効果的であり、共同研究開発形式による技術開発プロジェクトの推進や、

普及費用の低下を促すことが必要となる。そして、技術開発のインセンティブだけでなく、技

術の導入・普及のインセンティブを分けて考え、そのための施策も検討する必要がある。 ここで、直接規制における規制強化プロセスの経験を環境税に適用することで、動学的効

率性の向上に向けた環境税の役割が果たせると考えられる。つまり、技術開発を推進してき

た日本の直接規制と同様に、費用、技術可能性をもとにした中長期的な規制強化スケジュー

ルを提示し、それをアナウンスすることにより、段階的な規制強化を推進することで技術開発

を推進させるという方法を、環境税においても採用するということである。その結果、例えば、5年後の税率上昇を提示された課税対象者は、自らの限界排出削減費用と税負担額、そして、

予測される技術開発費用と成果を比較して、技術開発に関しての意思決定を行うこととなる。 このように、中長期的な経済性を認識させ、技術開発に向かわざるを得ない状況を作り出

すことで、抜本的な技術の開発・導入が進められるものと考える。ただ、これには、規制当局と

税負担者のコミュニケーションのしくみの整備が求められるとともに、地域での技術開発・導入

に関する社会的ニーズを作り出すしくみや、税負担者自身の意識・行動改革などの周辺環境

の整備も同時に求められる。 また、自主協定や補助金との組み合わせも考えられる。ただ、補助金は汚染者負担原則に

反するという公平性や社会的公正、補助金の財源の存在の問題などがある。また、補助金は、

制度の性質上、生産性向上とは関連しない技術である必要があるため、エンド・オブ・パイプ

型の汚染の処理技術に対する補助といった、技術指定型の補助にならざるを得なかった。こ

のことは、前述したように、課税対象者の限界排出削減費用の考慮がなく、技術開発への創

意工夫・イノベーションを妨げるため、動学的効率性の低下につながる。これは、財源確保が

主目的の環境税において、その財源を環境負荷低減技術への補助金として活用するしくみ

の場合に特に当てはまる。財源確保に加えて、動学的効率性の向上を進めるため、前述した

直接規制の規制強化プロセスのように徐々に税率を上げていくことで技術開発を推進する機

能を持たせるなどの工夫が必要となる。

48

4. 公正・公平性と分配問題

そもそも環境負荷量もしくは環境便益量に応じた課税を行う意味とは、社会的公正の観点

から考えた場合、政策目的および財源調達目的の環境税いずれにおいても、社会の共有基

盤である環境に与えた損害にかかる適正な額の費用を支払っていない、もしくは、環境の活

用に関する適正な額の費用を支払っていないということが根拠となっている。そのため、この

環境の維持・改善のために環境税を用いることにより、環境負荷の程度に応じた公平に負担

させるしくみをつくりあげようということである。 その際に、社会経済的な状況を踏まえ、公正および公平性を保ちつつ、特定の主体に過

剰な負担がかからないような、適正な分配のしくみの整備が求められることになる。そして、具

体的な費用負担の方法として、環境問題の性質により異なるが、原因者負担原則を基本とし

て用い、また、それが困難である場合には、受益者負担原則を用いることにより、公平性が確

保される必要がある。なお、人頭税的に環境負荷および環境便益の程度に限らず一律の費

用負担をさせる場合には、その原因者および受益者が特定できない、もしくは程度が等しい

ということを明確にする必要が、公正・公平性の面から求められる。 実際においては、効率性と公平性の両立は困難な面が多いため、両者のバランスが取れ

るようなしくみを整備する必要がある。ここでは、(1)制度設計、(2)制度運用、(3)ポリシーミックス、それぞれにおける公平性について述べる。

(1) 制度設計における公平性と分配問題

環境税の制度設計における公平性には、いくつかの「公平性」が存在する。原因者負担原

則により、全ての対象となる主体が環境負荷量に基づいて負担がなされるか、また、場合によ

っては受益者負担原則による負担設定がなされるか、という公平性が挙げられる。さらに、こ

れまで環境負荷低減に努力してきた主体が損しない、つまり主体ごとの環境効果の分配の帰

結なども公平性が確保されるべきものとして挙げられる。 ただ、円滑な制度設計・導入において最も重要な公平性とは、費用負担の軽減に関する

分配の公平性となる。つまり、税導入の帰結として、社会的な観点ではなく、相対的に重い費

用負担がかかる個々の主体の負担軽減という意味での公平性が問題となる。したがって、ここ

では、「分配の公平性」を主に検討する。 環境税は、直接規制の場合から追加的な負担が課されることが多いため、導入に際しては

対象者からの反対が起こることが予想される。そして、負担額は全ての産業分野や規模に一

様でないため、特に大幅に負担増となる主体からの抵抗が大きくなる。また、環境税としての

環境目標が現状とあまり変わらない水準、つまり、多少の努力で目標達成可能であるならば、

環境税のメリットは小さくなり、他の政策手段であってもいいのではないか、また、単なる増税

である、という批判を受けることにもなる。 この制度設計における負担平準化のため、つまり分配問題の緩和として、①既存税の減税

による税制中立の確保、②減税、税控除、補助金などの助成措置とのポリシーミックスが考え

られる18。

49

①については、国レベルでは、消費税減税や所得税減税、社会保障税減税などにより税

負担の軽減が可能であるが、地域においては、国の税制度を前提とする必要があるため、税

の還付制度などの特例措置による対応が考えられる。また、課税自主権内での対応、つまり

不均一課税や課税免除などが、可能性として考えられる。これらは、いわゆる「二重の配当」と

呼ばれている効果であり、環境面での効果に加えて、既存税制の負担軽減により経済性を上

昇させる効果を持つ。 ただ、環境問題の性質にもよるが、環境税の費用負担が消費者に転嫁されると、逆進性を

引き起こす可能性があるため、所得水準の低い層への負担が重くなる。特に家庭のエネルギ

ー消費への課税には弱い逆進性があるとされている19。この税の逆進性に対応するためにも、

環境税単独ではなく、地域の税体系そのものの改革につなげていくことが望まれる。 ②については、環境目標の一定基準の達成や自主協定を遵守した場合には減税や税控

除を行ったり、導入機器に対しての補助金や特別償却などの租税特別措置、長期の低利融

資などの助成措置を行うなど、税収の還元を進めることで対象者の負担額を軽減し、不満を

緩和させるしくみが挙げられる。ただ、これは、環境税の効率性とのトレードオフとなり、実際、

ドイツの排水課徴金は、補助金配分により静学的効率性が低下したという評価がある20。 また、補助金に関しては、これまでの環境政策において直接規制とともに一般的に用いら

れてきたという経験がある一方、汚染者負担原則に反するとの指摘もある。ただ、補助金も環

境政策手段としての役割を担ってきており、これまでの補助金などの助成措置のあり方も含め

た、税収の還元のしくみの検討が必要となる。例えば、税収を環境負荷低減のためのインフラ

整備やソフト事業に用いることで、環境負荷低減効果により環境目標が下がることになれば、

税率の低下がなされ、対象者の負担の軽減に繋がる可能性もある。 また、指定された技術・施設の導入を補助金の対象とするのではなく、補助金制度そのも

のを柔軟なしくみとし、対象者に環境負荷低減にかかる企画提案型のプロジェクトを提示して

もらい有望なものを採択し助成するなど、対象者が主体的に納税分を取り返そうとするインセ

ンティブを起こさせるようなことも考えられる。税収使途還元による公平性の確保のしくみとし

ては、機会の均等を提供するということで、技術開発促進という動学的効率性を高めるという

目的も合わせて視野に入れるということも考えられる。つまり、静学的効率性を低下させる助

成措置を、動学的効率性や環境効果の向上を促すような制度設計にすることで、ポリシーミッ

クスとしての機能が最大限に発揮されることとなる。ただ、一方で、制度の簡潔性が公平性を

担保する要素としてある中で、複雑な特例措置の組み合わせが増えれば増えるほど、公平性

自体の評価が困難になり、実際に公平性が確保されないという状況も起こりうることに留意す

る必要がある。

(2) 制度運用における公平性 制度の執行、つまりモニタリングや徴税制度における公平性とは、規制対象者を漏れなく

捕捉することだといえる。環境負荷を発生させている主体を全て対象とするのが制度設計に

おける公平性の一つだとすれば、制度執行における公平性は、その対象者の状況を全てモ

50

ニタリングし、ルールを遵守させるということにある。ただ、対象者を漏れなく捕捉するということ

は、費用を要することを意味し、静学的効率性とのトレードオフが発生する。したがって、対象

者の規模や分野において線引きをし、異なるモニタリングや徴税の方法を採用し、公平性と

ある程度の効率性を確保することとなる。これにより、対象者間の不公平感を抑え、モラルハ

ザードを起こさせないしくみを整備することとなる。 また、ドイツの排水課徴金において、静学的効率性を多少犠牲にしてまでも、周到なモニタ

リングが行われている事実は、課徴金の支払いを逃れるという社会的公平にかかわる問題に

対処しようとしたためではないかと指摘されている21。

(3) ポリシーミックスにおける公平性 環境目標が強化される場合には、ポリシーミックスとして、直接規制の強化を進めるか、税

率を引き上げる対応をとるかの決断に迫られ、その対応の結果として、公平性、つまり、分配

に変化が生ずる。 ここで、税率引き上げの場合は、新たな分配問題に対応する必要が生じ、環境税の理論的

な静学的効率性は、公平性の確保を進めることでその効果の一部を失う。ここで、ドイツの排

水課徴金は、環境目標の強化に対し、直接規制の強化に頼り分配問題を回避しつつ目標を

達成するという手法を取ったことが指摘されている22。このように、分配の公平性については、

環境税だけで解決することは困難となる。 一方、直接規制では、これまで環境負荷低減に努力してきた主体が、その努力が考慮され

ずに、業種なり規模ごとに一律の厳しい規制値を設定されることになれば、負担の初期配分

の方法としての公平性について問題が生じる。その点、環境税は基本的に環境負荷削減に

かかる費用が考慮されるため、対象者のこれまでの努力が制度設計の中に盛り込まれること

となる。 なお、税収を主目的とした環境税においては、基本的には低税率での課税となるため、負

担額の大きさの差に対する不公平感は少ないといえ、また、人頭税的に徴収するならば、分

配の面での公平性は確保できる。ただし、環境負荷および環境便益の程度が等しいという前

提の説明が求められることとなる。 このように、公平性に関しては、分配問題や初期配分に関して、環境税、直接規制、補助

金ともにメリット、デメリットがあり、これらを組み合わせ、ポリシーミックスの形として環境政策を

進める必要がある。その際には、結果としての公平性の確保だけでなく、情報公開などによる

透明性の確保、利害関係者の合意という検討プロセスを経ることで、政治力などにより特定の

産業、企業に有利な目標設定がなされる状況などを回避する必要がある。このように、公平性

は社会的な信頼性のもとに成り立つことになる。

51

5. 競争力などの経済への影響

競争力は、これまで述べてきた静学的効率性、動学的効率性、公正・公平性と分配問題に

影響を受けるものであり、また、これらの結果として表れてくるものである。 現在、国レベルでの炭素税の議論において、導入反対の意見が聞かれるのは、環境税が

産業界に新たな費用負担を課し、経済活動を阻害することで、国際的な競争力が低下すると

いう持論によるものである。また、地域における産廃税においても競争力、つまり経営圧迫で

あるとしての反対の声が多い。 したがって、環境税の導入および円滑な運用に関して、利害関係者の理解と協力を得るた

めには、環境税と競争力の関係について明らかにすることが必要である。内容的には前述し

た項と関連する部分は多いが、「競争力」という新たな視点から検討する。 環境税による費用負担の増加と競争力との関連性は、単純に考えれば論理性はあるが、

実証されているわけではない。また、環境税と一口に言っても、税収の還元としての分配によ

り、費用負担軽減につながる制度設計を行うことも可能であり、様々な経済性確保のための

方策はある。また、環境税そのものだけでなく、不均一課税や課税免除などの課税自主権内

での対応により、税制中立的な税体系への改革を進めることも可能である。 また、環境規制への対応が、逆に企業の競争力を高めるという仮説も提示されている。これ

は、「ポーター仮説」として知られており23、以下のような研究がなされている。これらの研究結

果からは、ポーター仮説を支持する結果は得られていないが、P31にあるアメリカの環境規制の弊害、つまり、企業の創意工夫の余地の少ない柔軟性に欠ける規制がネックになっている

と考えられる。 図表 22 環境規制が生産性に与える影響の実証研究の結果

研究 分析期間 分析産業 環境規制強化による

生産性低下の寄与度

Dension (1979) 1972 年-1975 年 Business sector 16%

Haveman and

Christainsen (1981) 1973 年-1975 年 Manufacturing 8%-12%

Norsworthy, Harper,

and Kunze (1979) 1973 年-1978 年 Manufacturing 13%

Barbera and

Maconnell (1990) 1970 年-1980 年

chemicals; stone, clay and

glass; iron and steel 10%-12%

Barbera and

Maconnell (1990) 1970 年-1980 年 Paper 30%

Gray (1987) 1973 年-1978 年 450 manufacturing sectors 17%

資料:OTA (1994)、Jaffe at al. (1995)、Dension (1979)、Haveman and Christainsen (1981)、Norsworthy,

Harper, and Kunze (1979)、Barbera and Maconnell (1990)、Gray (1987)より作成

52

ここで、このポーター仮説が成立するための規制の姿は、生産方法や技術についての多

様性と選択肢があり、個々の主体の状況に応じて判断し行動でき、技術開発のイノベーション

を促すものとして考えられており、技術指定型の直接規制ではあり得ない。とすれば、環境税

は適切な性質をもつ規制と言えるのではないか。 また、環境税の制度設計においては、原則的には、投入物や生産物ではなく、環境負荷

量に直接課税することにより、環境負荷削減のための技術開発を推進するのが望ましい。し

かし、制度設計および執行上困難な場合、環境負荷量に相関があると想定されるものへ課税

とならざるを得ないが、その際にも、技術開発のインセンティブを供与するしくみが必要となり、

例えば、技術指定型の補助金ではなく、創意工夫が発揮できるような柔軟な助成措置が考え

られる。そして、技術開発の中身としては、生産性の向上にもつながるような技術、つまり、環

境負荷低減と生産工程の効率化が同時に達成できるような、抜本的な技術および施設の開

発・導入が期待される。 つまり、競争力の源となる静学的効率性や静学的効率性に関して、環境税のしくみが対象

者の経済合理性に沿った方向性であり、自主性を促すしくみとなっているかという点がチェッ

クされるべきとなる。そのしくみが競争力の向上につながることとなる。 また、競争力の要素としての「ブランド」を、環境に配慮した製品やゼロエミッションなどの環

境対策をもとに構築する例も増えてきており、環境税の負担を企業の経営戦略の一環として

考慮し、経済合理的な行動として積極的に捉えることも可能である。 以上より、環境税の導入は、一概に競争力にマイナスの影響を与えるものではなく、競争

力を損なわないような制度設計が可能である。そして、その結果として環境と経済を両立させ

ることにもつながる。

53

6. 応用力

応用力または波及力、つまり、将来課題への対応能力や、地域の環境管理能力形成につ

いて考察する。今後、大気汚染、水質汚濁など、典型 7公害以外の環境問題、例えば、廃棄物、CO2排出、そして、森林や水辺、緑地などのアメニティの保全や景観に関する環境問題

への対応がさらに求められることになり、予防原則に基いた環境政策の考慮が必要となる。こ

れらの環境問題は、原因者が特定できなかったり、また、非常に多くの主体が環境負荷を与

える、また受益を受けるという性質を持っており、これらに対しメリットを持つ環境税の果たす

役割は大きく、有効なツールとなり得る。そして、環境税は、今後の環境政策のターゲットとな

る住民の行為自体に対して何らかの規制を行うことができることが利点として挙げられる。 また、このことは、地域の環境政策への住民参加を促し、当事者意識のもとでの環境教育

や環境学習の役割として機能することとなり、地方分権における、地域性に即した環境政策

の実施が可能となる。そして、環境税が地域全体を巻き込むツールとして機能し、地域の環

境管理能力の向上にもつながることが期待される。 また、環境政策に限らず、今後の政策全般の立案・実施においては、より一層、評価、透明

性、アカウンタビリティの発揮などが求められることになる。したがって、環境税の導入におい

ては、既存の施策の評価を行い、環境税の必要性とともに、ポリシーミックスとしてどのような

役割を担うかを明らかにし、その役割および機能、そして詳細設計についての合意を進めて

いくプロセスをたどる必要がある。そして、運用においては、税収使途までも含めた形での評

価システムや住民・NPOを中心とした第三者機関の監視システムの導入を進める必要がある。

このように、環境税の導入・運用に際しては、既存の環境政策全般の評価、見直しを図り、制

度の導入意義とその制度に対する社会的な信頼の確保を満たすことが必要であり、それによ

り、制度の政治的、社会的な受容性および実行可能性を高めることとなる。これら市場でのチ

ェック機能の発揮、多様な主体を巻き込むためのツールとして環境税を用いることができる。

この点において直接規制と異なるのは、当事者意識を持たせることにより、ある意味、強制的

に地域の環境管理への参加を促すということであり、その結果もおのずと直接規制と環境税

の場合では異なることが想定される。 以上、応用力または波及力として、環境問題における「個」への対応の必要性、地域の環

境管理能力の向上、政治的・社会的受容性と実行可能性の確保という社会的なニーズへの

対応可能性として、環境税の利点を述べた。これは、ポリシーミックスにおいても制限されない

利点であり、環境効果、効率性(静学的、動学的)、公平・公正がトレードオフにならないようなしくみを追求していく過程においても、十分に発揮されるものと考える。

54

7. まとめ

以上、環境税について、いくつかの基準ごとにメリット・デメリットを見てきた。ただし、これら

は、P14に示した環境税の基本的な概念としての、(1)二重の性格、(2)範囲・分野設定の視点、(3)制度・しくみなどによって、メリット・デメリットの程度が異なる。 また、P17に示した外部条件としての、(1)地域における各主体の環境意識の高さと行動力、

(2)地域性、(3)ポリシーミックスの実際、(4)環境問題の状況によっても、メリット・デメリットの程度が異なる。 さらに、環境負荷量もしくは環境便益の大きさに応じて課税する場合と、それらは考慮せず

人頭税的に課税する場合、また、環境負荷量もしくは環境便益に直接課税できる場合とでき

ない場合でも異なる。 これらより、「環境税とはこうである」、ということは一概に言えず、例えば公平性を確保しよう

と特定の評価基準を高めようとするなど、目的に応じていかようにも制度設計できるということ

である。逆にいえば、環境税導入の目的や性格が明確でないと、税制度の設計において「拠

り所」がなくなり、論理的な環境税の導入・運用ができなくなるということである。 したがって、環境税とは、地域での合意形成のもと、地域の課題解決のために用いられる

手段であると認識し、地域ごとの状況に応じて個別に制度設計を進める必要があるといえる。

ただし、ケースバイケースということで、地域ごとに常にゼロから検討するというわけではなく、

本稿で述べたような地域を捉える視点や環境税の評価基準や特定の前提をおいたメリット・

デメリットなどを照らし合わせて、地域の環境税を性格づけ設計していくことができる。そのた

めの指針として、メリット・デメリットに影響を与える項目を再整理した。 なお、ここでは、どういう環境問題に環境税が最も有効か、という一般的な問いと答えは、対

応すべき問題の明らかな現場においては必要ではないため、ここでは示さない。目の前の環

境問題を解決するための一手段として環境税が適用できるか、そして、どのような制度設計が

望ましいかについて本稿の視点および基準等をもとに検討していくことが望まれる。また、逆

に、環境税の効果を最大限に発揮させるために行うべき、地域の社会経済システムの整備も

含めて検討していくことも同時に必要となる。

55

図表 23 メリット・デメリットに影響を与える項目

1.環境税の基本的な概念 (1) 二重の性格 (税施策の妥当性・論拠: あり orなし)

(環境政策手段 or 財源調達手段) ①環境問題の空間的広がり (国 or 都道府県 or 流域 or 市町村 or 自治会・・・) (税源の移動性: あり or なし) ②環境問題の分散性 (発生源: 無数 or 少数) (発生規模: 大口 or 小口) ③環境問題の影響の大きさ (緊急性: 高い or 低い) (蓄積性: 高い or 低い) ④環境問題の性質 (性質: 「循環」 or 「共生」) (負担原則: 原因者負担 or 受益者負担) (原因・受益の特定化: 容易 or 困難)

(2) 範囲・分野設定

⑤環境対策の現状 (直接規制: あり or なし) (環境目標達成状況: 達成 or 未達成) (環境対策の評価: あり or なし)

(3) 制度・しくみ (形態: 新税導入 or 税制等改革) (税制等改革: 税率変更 or 租税以外の負担額の変更 or 税収構成の変更・・・) ・・・・・・・・

2.外部条件 (1)地域における各主体の環境意識の

高さと行動力

①行政 (環境政策の基盤整備(ハード)①廃棄物処理施設: あり or なし) (環境政策の基盤整備(ハード)②モニタリング設備: あり or なし)

・・・・・・・・ (環境政策の基盤整備(ソフト)①環境基本計画: あり or なし)

・・・・・・・・ (環境政策の基盤整備(その他)①GIS整備: あり or なし)

・・・・・・・・ (環境政策の基盤整備(行政組織)①横の繋がり: 強い or 弱い) (環境政策の基盤整備(行政組織)②人員数: 多い or 少ない)

・・・・・・・・ (環境予算: 増加 or 減少) (政策・施策・事業評価 あり or なし)

・・・・・・・・

56

②事業者 (事業者の立地①業種別事業者数 1)農業: 多い or 少ない) ・・・・・・・・ (事業者の立地②規模別事業者数 1)4人以下: 多い or 少ない)

・・・・・・・・ (環境意識等①基金・助成金設置事業者業数 :多い or 少ない)

・・・・・・・・ (環境活動①清掃活動参加事業者数 :多い or 少ない)

・・・・・・・・ (環境製品①グリーン調達事業者数 :多い or 少ない) ・・・・・・・・

(環境マネジメント①ISO14001取得事業者数 :多い or 少ない) ・・・・・・・・

(環境コミュニケーション①環境報告書数 :多い or 少ない) ・・・・・・・・

③住民・NPO等 (環境学習・教育実施数 :多い or 少ない) (住民活動団体数 :多い or 少ない) (住民活動参加者数 :多い or 少ない)

・・・・・・・・ (2)地域性 ・立地・土地利用

・まちづくり・都市計画 ・交通 ・人口 【P23の項目(例)参照】 ・生活様式・アメニティ ・産業 ・科学技術

(3)ポリシーミックスの実際

(ポリシーミックスの状況: 直接規制 or 経済的手法・・・) (ポリシーミックスの評価①直接規制: 高い or 低い)

・・・・・・・・ (ポリシーミックスの課題①直接規制: あり or なし) ・・・・・・・・

(4)環境問題の状況 【「1.環境税の基本的な概念 (2) 範囲・分野設定」参照】 3.環境税の前提 (環境政策手段 or 財源調達手段)

(負担原則: 原因者負担 or 受益者負担) (課税対象:環境負荷量(便益量)に直接課税 or 代替財の量に間接的に課税) (負担額: 環境負荷量(便益量)の程度に応じる or 一律)

・・・・・・・・

57

V. 環境税導入の論点整理

ここでは、P27にある環境税の評価基準およびそれ以降の評価を踏まえ、実際の環境税導入の検討において必要な視点および留意点について考察する。主な論点は以下のとおりである。これ

らを参考にして検討が進められることを期待するものである。 1.全体の検討プロセスのあり方 2.環境税の性格および目的の検討 3.課税根拠の検討 4.税率の検討 5.納税義務者と徴税方法の検討 6.税収使途の検討 7.税の免除・軽減措置などの補助制度の検討 8.評価システムなどの体制およびしくみの検討

図表 24 検討のフロー図

② 環境税の性格および目的の検討

③ 課税標準の検討

⑧ 評価システムなどの体制およびしくみの検討

①全体の検討プロセスのあり方

④ 税率の検討

⑤ 納税義務者と徴税方法の検討

⑥ 税収使途の検討

⑦ 税の免除・軽減措置などの補助制度の検討

58

1. 全体の検討プロセスのあり方

(1) 検討の進め方 検討の進め方においては、P14にあるような検討プロセスを経る必要があり、環境税ありきではなく検討をスタートさせる必要がある。さらに具体的に示すと、透明性やアカウンタビリテ

ィの面から、(1)「論理的」で「多様な参加」に基づく適切な合意形成プロセスを経ること。そして、地域の目指すべき姿・ビジョンの欠如や税ありきで最初から財政論や制度設計の技術論

の展開という、実際にいくつかの地域で見られる税導入議論にかかる問題点をクリアするため

に、(2)目的と手段を明確にすることが必須となる。 ただし、「環境」に対するニーズは人々の多様なニーズの中の一つでしかなく、強制力のあ

る税制度の導入の妥当性も検討される必要がある。 また、一方で、地方分権時代においては、横並びではなくフライングすること自体に意義を

見出し、地域の環境政策への積極的な姿勢を示すことも、環境税の積極的な活用の根拠と

することもあり得る。そして、地域の環境問題解決の第1歩として、戦略的かつできることから

取り組むことにも理はある。

(2) 視点および留意点 ① 検討プロセスの論理性の確保

具体的な検討項目については、①地域の目指すべき姿・ビジョンの明確化、②既存の施

策・事業の評価(環境の状態の評価、既存施策・事業の効果の評価)、③財源確保の手段の

検討、④使途や体制も含めた制度設計の検討、という論理的な検討プロセスを経る必要があ

る。そして、まず認識すべきことは、環境税のために環境問題が存在しているのではなく、「環

境問題の解決のための一手段として環境税が考えられる」という、目的と手段の関係を再確

認することである。 そのためには、環境税の位置づけ・導入目的を、地域の課題解決・地域づくりのなかで明

確する。その過程において、地域における環境問題の深刻さと解決の必要性など、現状認識

不足の状況であれば、情報共有により、意識醸成していくことで当事者意識を持ってもらうこ

とが求められる。 そして、既存の施策・事業が問題に対して機能しているかの評価を行い、そこで、様々な政

策手段を比較しながら、税制度が活用可能か、また、適切であるかを検討する必要がある。そ

の際には、環境税導入による費用対便益、費用対効果といった施策の経済性の評価や地域

経済への波及効果などの検討も求められる。 これらを踏まえて、より詳細な制度設計を進めていくことになり、課題解決策の一つとしての

環境税の導入の是非・方策を、行政、住民、事業者で話し合うこととなる。

59

② 検討プロセスへの多様な参加による透明性の確保

多様な参加に基づく合意形成プロセスを経る必要がある。ワークショップやセミナーなどに

より、現地調査や住民参加の場の創設、情報公開を進め、税の枠組み構築において、構想

段階から事業者や住民、NPO の参加を促すべきである。それにより、アカウンタビリティを果たすことにもつながり、また税負担者への環境学習・教育や、双方向の情報交流になる。そし

て、最終的な合意形成においても、協力が得やすくなると考えられる。さらに、環境税の理念

や目的、そして最終的な姿に関しての合意を最初の時点で得ておくことにより、税率などの制

度変更もある程度容易になると考えられる。 また、制度評価の役割分担・ルール化や、公平性・透明性を満たすような実施手続きのル

ール化を多様な参加のもと進めることも必要となる。 ③ 多様な価値観の尊重

地域の目指すべき姿・ビジョンや求める環境の水準は、地域の人々ごとにニーズが異なっ

ていることに留意すべきである。つまり、環境、経済、福祉など、個人により重きを置く価値観

は異なっているものであるし、それが多様な価値観が混在する実際の社会の姿である。さらに

環境に価値を認める人においても、求める水準については人それぞれで異なっている。 したがって、環境税により強制的に環境負荷低減活動を行わせることにより、個人それぞれ

の豊かさ、幸せを侵害するものであってはならない。ただし、行政と住民の情報の非対称から

くる地域の環境に対する無知や無関心は、情報共有により解消すべきであるし、行政の役割

として、公共性の高い環境を守るという姿勢は積極的に打ち出していくべきである。 ④ 強制力とインセンティブ、公平性のあり方

地域の環境に対する住民ニーズが異なる状況において、税という強制力のある制度の導

入は、慎重を期すべきことは当然のことと言える。しかし、一方で、強制的な価格誘導的な方

策が導入されなければ、意識変化や行動改善は難しいことも挙げられる。任意的な制度とし

て、自発的コスト負担を行わない人々を放置しておくことは、不公平性をもたらすだけでなく、

自発的負担を行う人々の意識をも後退させてしまうことになる。したがって、自発的負担のイン

センティブとなるようなしくみづくりや、そもそもの議論への参加の動機づけも必要となる。この

ように、多様な価値観の中で、強制力と公平性と効率性確保のパラドックスをいかに解決して

いくかが大きな論点となることを認識する必要がある。

60

2. 環境税の性格および目的の検討

(1) 検討の進め方 環境税による地域の環境保全におけるアプローチとしての 2 オプション、①環境税により人々の行動を環境保全型に変化させる(環境政策手段)、②環境税の税収を利用し、環境保

全型の地域づくりを行う(財源確保手段)の選択を行う必要がある。実際には、税率水準、そ

れに伴う税収額および使途の決定によるものであり、つまり、人々の行動を変化させるような

高い税率を設定するか否か、ということである。 これは、地域の課題解決および地域づくりの方向性、また、首長や地域の独自性の PR などの環境税導入の目的や、対象とする環境問題の性質、税導入による税対象行為の回避行

動の可能性などの前提・制約要因を踏まえて検討・決定していくことになる。 ただ、環境効果や効率性、公平性などから求められる水準を踏まえつつ、政策目的が効率

的に達成できるアプローチを取るべきであり、最初から、受容性などの政治に関わる部分に

重きをおくべきではない。また、実際に導入される環境税は、比重の違いはあるが、環境政策

手段と財政調達手段の性質を併せ持った、ハイブリッドな環境税のスタイルとなることに留意

する必要がある。

(2) 視点および留意点 ① 地域の課題解決および地域づくりの方向性など、環境税導入の目的の明確化

地域の環境負荷低減が直接の目的となるが、導入そのものに加え、検討プロセスまでも環

境税導入の目的として捉えるならば、環境税は、「自分たちの地域をどのようにしていきたい

のかという理念を、様々な主体の協働・連携とエンパワーメントを通じ、実現していくための手

段の一つ」と位置づけられる。 そのため、当初は、自主財源確保あるいは環境保全などの政策的なシンボルとして、トップ

の積極的な姿勢と独自性をアピールする狙いから検討が始まることもあり得るが、検討プロセ

スへの参加により、行政運営に対する住民の関心を呼び起こす契機になり、結果として地域

としての独自性の発揮や地域の PR につながる可能性もある。また、そのように展開させていくべきである。具体的な効果としては、環境改善は環境を重視する住民の転入や環境に配慮

企業の進出などによる人口や経済規模の拡大や土地価格の上昇、また、自然資源を活用し

たグリーンツーリズムやエコミュージアム、農林水産物のブランド化などの形で、地域の経済を

活性化させる可能性も有している。 また、同然のことながら、検討を通じて、実際の利害関係者としての当事者意識のもと、環

境学習・教育などの効果も持つこととなり、各主体のネットワーク化、そして地域全体のエンパ

ワーメントにもつながる。

② 環境政策手段としてのインセンティブ付与に重きを置く際の検討の視点

強制的に行動を変化させるという税の利点を最大限に活かす、という考えに基づき課税対

象および税率を設定することになり、行動変化を起こさない主体に対して、罰則的な意味合

61

いを与えるものとなる。 環境問題を財政的な観点だけで解決しようとするのではなく、各主体のインセンティブを促

すことに重きを置くことで、予防原則と原因者負担原則(または受益者負担原則)という環境

政策の指針に沿って、地域の課題解決、地域づくりをも価格メカニズムのもとに進めていくこと

になる。 ただ、インセンティブを促進する方向を間違えないようにすることが求められる。例えば、廃

棄物を例に取ると、①リデュース、②リユース、③リサイクル、④サーマル(熱)リサイクル、⑤適正処分の順という、廃棄物処理方策の優先順位の高い方策が採られるようにインセンティブ

が掛かるようにするということである。また、商品購入量の減少など、地域の経済・産業へマイ

ナスの影響とならないように、インセンティブの方向として、環境以外の要素の考慮も必要とな

る。

③ 財源確保手段としての税収使途に重きを置く際の検討の視点

単に税収を求めるにとどまらず、地域の課題解決、地域づくりにつながる重要な施策の立

案・実施推進に資する必要がある。そのためには、税収使途の中身の検討が重要となり、納

税者の議論および事業への参加のしくみづくりを進め、「自分たちの税をうまく使おう」というイ

ンセンティブを持たせることが求められる。 そして、地域の新たな財政需要に対して、利害関係者間で合意形成できた税収使途として

の施策・事業を進め、これまでの財源ではできなかった内容や、既存の施策・事業の質の向

上を目指す必要がある。逆に言えば、一般財源の欠落を埋める性質という税金という位置づ

けとなると、環境税の論理的整合性が取れず、環境税導入や税収活用に関する説明責任を

果たすことにはならない。

62

3. 課税標準の検討

(1) 検討の進め方 課税対象となる行為等の根拠は、環境税導入の目的から導かれるものであるが、往々にし

て、効率性の確保などの制度設計・運用面の影響から、環境税導入の目的と、何に対して課

税するかという課税対象(課税標準)が乖離するという現象が生じる。この目的と課税標準の

乖離に対しては、制度設計における困難性や、課税が目的達成に寄与する流れなどについ

て、その根拠や検討過程を論理的に示すことにより、はじめて課税対象となる行為等の根拠

が説得力を持つこととなる。 ただ、課税標準については、直接的な環境負荷低減に向けて課税することをまず目指す

べきである。そして、原因者負担という原則に立ち、課税対象者を決定することとなるが、原因

者が特定できない場合などは、受益者負担の考えに基づき対象者を検討していく。しかし現

実には、環境負荷量そのものに課税するのは困難である場合が多いことも確かである。 また、環境政策手段としての環境税を目的とする場合は、インセンティブが起こるような課

税対象の設定が必要となる。さらに、二重課税が発生しないように、既存税項目の考慮や税

の逆進性などの公平性に配慮した検討が求められる。

(2) 視点および留意点 ① 課税根拠の明確化

課税対象の根拠を明確に示す必要がある。それには、原因者負担として、地域に環境負

荷を与えている状況についての税金、または受益者負担として、地域の環境から特別な利益

を受けている状況についての税金、という意味が付与される。そのため、地域の環境そのもの

および環境から受ける便益を維持・保全するために、原因者および受益者に負担を求めるこ

ととなり、その根拠に基づくような課税対象を設定することが求められる。ただし、過去からの

環境負荷量のストックを、現在の原因者なり受益者へのフローの課税で対応することの意味

について、地域全体で、将来世代のことも踏まえて、合意形成を図る必要がある。

② バッズ課税の理念の具現化

理念としてのバッズ課税原則に基づき、課税対象を決めることになる。バッズ課税とは、環

境に対して負荷をかける行為(Bads)に対して課税するということである。そして、グッズ課税割合を減らして、バッズ課税の割合を高めるという、課税ベースの移行につながれば、地域づ

くりにおいて大きな特徴を出せる。このように、環境を地域社会において高く評価するような租

税原則が組み入れられれば、人々のライフスタイルそのものの転換に大きな役割を果たすこ

ととなる。 このバッズ課税が一般化すれば、中長期的には、事業税の外形標準として、廃棄物排出

量、エネルギー消費量などを課税標準として用いるという可能性もある。

63

③ 二重課税の回避

既存税制との二重課税の回避が図られなければならない。税の目的が異なることを示して

も、現実に課税標準が見た目重なることになれば、増税であるとして理解が得られないことに

もなりかねない。そのため、税収使途をこれまでにない政策・施策の実施にあてることや、

人々の行動を変えるための政策税制である、ということに関して、論理的な説明を行うことが

求められる。 なお、実際には、水源の森の育成のために水道料金に上乗せをしている事例もあり、水道

利用料と水源林管理という異なる目的を、水道利用という課税標準で対応していることが認め

られており、環境税の目的と手段の論理的な説明と、その客観性が保たれていれば問題ない

と想定される。

64

4. 税率の検討

(1) 検討の進め方 環境税の性格を、環境政策手段および財源調達手段、どちらを主目的とするかにより、税

率の設定方法が異なる。環境政策手段であれば、「税対象とする主体と行為の明確化→イン

センティブに値する税率等の設定→(税収使途の決定)」というプロセスをたどることとなる。一

方、財源調達手段であれば、「税収使途の決定→税源必要額の推計→課税対象とする主体

と行為の明確化→必要財源額確保のための税率等の設定」となる。 また、環境政策手段においては、税金を取られないようにすること、税金を取り戻そうとする

こと、これら両方のインセンティブが働くような税設計にするため、税収使途と連動して考える

べきである。 ただ、対象とする問題や地域性によるが、環境問題を財政的な観点からだけで解決しようと

するのは、これまでの経験を踏まえると不十分であるといえ、環境政策手段としてのインセン

ティブを促す機能を強く持たせることが望ましいといえる。実際、環境税はインセンティブと財

源確保のハイブリッドのスタイルになることから、この機能バランスを偏重化させるような、ある

程度高い税率の設定としてもよいと考える。 このことにより、利害関係者の関心を引きつけることで地域全体での議論および取り組みに

つなげていくことが可能となり、また、制度のアナウンスメント効果により、税導入前での環境

負荷低減につながる効果も期待できる。

(2) 視点および留意点 ① 税率設定プロセスの論理性および透明性の確保

地域の個別の状況および既存の施策状況などを踏まえると、同じ環境問題というだけで、

他の地域の事例を踏まえて横並びで同じ税率を設定するという根拠は薄い。このことは逆に、

国税ではなく、地方環境税としての意義があるということであり、税率の意味を論理的に説明

できるような適切な検討プロセスを経ることが求められる。 例えば、財源確保手段としての税率設定においては、必要な財源額が最初にあり、それを

予測環境負荷量で除することで税率が決定される。ただ、その際には、必要な財源額におい

て、資本コスト、人件費、徴税コストを含めるのかについては、別途検討する必要がある。 また、環境問題への寄与度により、物質ごとの税率を変化させることも考えられる。例えば、

廃棄物税であれば、廃棄物の種類により税率を変化させることも可能であり、その際の基準は、

①環境負荷量、②処理コスト(困難性)などが考えられる。ただし、その差異における科学的

根拠が薄ければ、説得力のある説明にならないことに留意する必要がある。

② 経済性評価の必要性

環境政策手段としての環境税では、インセンティブを与える税率の設定のため、環境負荷

削減にかかる社会的な限界排出削減費用の把握が求められる。 また、CVM、コンジョイント分析などの評価手法を用いて、環境価値の評価または施策の

65

受容性を計測し、現実的な税率設定を検討する必要がある。具体的には、環境の改善に対

する支払意思額(WTP: Willingness to Pay)や、環境の悪化に関する支払受入額(WTA: Willingness to Accept)を把握したり、費用負担と施策の組合せの選択をしてもらうことで、施策のあり方に関する意向も把握することができる。 さらに、異なる税率のもとでの地域経済への影響や、他分野への波及効果などの検討も求

められることとなる。これは、財源調達手段としての環境税においても、税収使途の経済波及

効果を考察する上でも必要となる。

③ 高い税率設定による副次的効果

税率は、財政需要およびインセンティブの大きさと、納税者の納得のいくレベルとの調和か

ら設定する必要があるが、はじめから妥協するのではなく、本当に必要であれば、議論を巻き

起こす程度の高い税率に設定することも考えられる。最小限の負担という受容性は大切だが、

お金だけ払えば良いという関心の薄さによって成り立つ制度はどこか歪んでいるといえる。 このように、高い税率設定のメリットとしては、課税対象者の意識改革、継続的な取り組みの

推進などが挙げられる。ただし、高い税率設定だが、税収中立の過大な増税ではないしくみ

をあわせて検討する必要がある。 また、アナウンスメント効果として、制度施行までの長い準備期間を設けることは、制度の周

知徹底だけではなく、費用負担削減につながる動きの喚起、また、他手段の政策の効果が現

れてくる可能性がある。このアナウンスメント効果は大きいと想定され、小さい負担額であって

も、社会的に環境負荷削減への動機づけがなされることもメリットの一つである。

66

5. 納税義務者と徴税方法の検討

(1) 検討の進め方 「3.課税標準の検討」において前述したような環境税導入の目的と課税対象の乖離に加

えて、課税対象者と納税義務者の乖離も起こりうる。つまり、環境負荷を与えている直接の原

因者、つまり課税対象者が納税義務者となるのが分かりやすいが、費用効率的な制度設計

および執行においては、課税対象者と納税義務者が異なる場合も考えられる。その際、税負

担額だけでなく徴税費用も含めて、徴税者としての行政、実質の課税対象者(税負担者)、納

税義務者などの各主体の役割分担・費用負担割合を明確にすべきである。 また、財・サービスの生産・提供などの行為等が環境負荷を与えていることに対して課税す

る場合には、その財・サービスの上流から下流への流通において、どの段階に課税するのか、

そして、誰が支払うのかについての2点について検討し、直接の原因者に対して価格転嫁が

進み、原因者が間接的にでも負担を担うしくみにすることが求められる。

(2) 視点および留意点 ① 直接の原因者に対して価格転嫁が進むような課税段階の選択

直接の原因者に負担義務感を与えないまま、間接的な納税義務者が肩代わりし、税収だ

けが確保されるのは、制度的に問題が大きい。課税段階の選択によっては、主体間の力関係

により直接の原因者に対して価格転嫁が進まない場合もあり、環境負荷量の削減という問題

の本質的な解決につながるメカニズムが働くように工夫すべきである。 なお、少数および特定の対象者を納税義務者とする課税は、徴税において費用効率的で

ある一方、公平性に課題が残る可能性があることに留意する必要がある。実際に狙い撃ち課

税であるとして、いくつかの税が導入困難となったという事例がある。 また、家庭ごみ有料化については、有料化開始時においては、多少ゴミが減るが、次第に

元に戻るという事例も報告されており、継続的なインセンティブがかかるようなしくみにするとい

う考えからも、課税段階を慎重に検討する必要がある。

② 公平性および効率性の観点を踏まえた納税義務者の範囲の設定

環境効果、費用効率性の確保と、公平性の達成、いずれに重きを置くかということで、納税

義務者となる主体の範囲が変わってくる。環境税の対象・目的により異なるが、環境効果や効

率性を重視する場合であれば、税負担者は事業規模および環境負荷量の大きさで足切り・

限定されるが、誰もが負担すべきであるという公平性を重視するのであれば、対象者は限定さ

れない。 また、取りこぼしなし、という意味での公平性も求められるため、徴税方法との兼ね合いも考

慮して、徴税義務者の範囲を設定する必要がある。 ただし、対価を支払う人にそれに見合う水準の資源を利用させ、適切な資源配分が成り立

つという市場機能の確保が基本となるべきであり、税負担なしに受益を得るフリーライダーに

対しても、不公平感が政策の効果を減じることがないように、何らかの処置を取る必要がある。

67

その際には、環境税という制度内だけでなく、他政策手段とのポリシーミックスにおいて対

応することも考えられる。特に、中小の事業者など、財政的・人材的余裕により、環境問題に

対してあまり積極的に動けない事業者に対しては、罰則ではなく恩賞などのプラスのインセン

ティブを与える方策の検討が求められる。 一方、効率性に関しては、政策手段としての税であれば、徴税費はある程度大きくても容

認されるが、財源確保を目指す税であれば、徴税コストはその税収入の大きさに見合う必要

がある。したがって、予想される総税収入額と税収使途を踏まえて徴税コスト上限を設定し、

徴税対象者や徴税方法を検討する必要がある。

68

6. 税収使途の検討

(1) 検討の進め方 税収を目的税化するか、一般財源化するかを決定することになる。ただ、これは、環境税の

性格によるところが大きい。財源調達を主目的とする環境税においては目的税化することで、

税収の活用による環境負荷低減を進めることとなる。 一方、環境政策としての環境税においては、税収は副次的なものであり、その使途を目的

税もしくは一般財源とするかについては、特に強い根拠は無いといえる。

(2) 視点および留意点 ① 目的税化の根拠

ここでは、主に財源確保を主目的とした環境税について述べることとなる。 分かりやすい根拠で言えば、課税対象行為が行われていることによって発生する財政需要

に対して、税収を充てるのが論理的である。 また、税の使途として、不公平感が生じることも避けなければならない。例えば、産廃税の

使途について、適正処理している事業者の税金を、不法投棄された産廃の除去費用に使う

のは不適当との意見があるのは、不公平感が生じるしくみの典型である。 ただし、税収固定化による既得権益の発生と、財政の硬直化の問題を考える必要がある。

ただ、これは国レベルでの炭素税という莫大な税収額での議論であり、地域での税収ではこ

こまで大きな問題になるとは考えられない。

② 税収使途の決定方法

既存施策・事業の現状把握と評価(実施主体、効果、費用、取り組み実績、課題など)から、

今後考えられる施策・事業選択および優先度の設定と、財源負担の合意を得る必要がある。

また、場合によっては、環境経費額の他都市との比較、時系列での比較などと、問題の大きさ

を示す必要もでてくる。 施策・事業の選択においては、新税で対応する事業と、今までの財源で行ってきた事業と

は分けて考え、新たな事業に対する財源とすれば、住民の理解は得やすくなる。また、既存

事業についても、今までは十分に実施できていなかった要因を明らかにし、実施主体や方法

を変えるなどにより、もっと丁寧に、重点的に実施することを示すことも考えられる。 このように、検討プロセスにおいては、透明性・論理性の確保と参加の推進として、税負担

者とともに税収使途を考えていき、納得のいくような税収使途にすべきである。そして、住民の

理解と行動に結びつけていくためには、分かりやすさが必要となる。 例えば、三重県の産廃税の場合、税収を単純に廃棄物予算の補填ではなく、そのまま上

乗せして、廃棄物行政の拡充に努めるという方針のもと、まず初めに税収使途を明確にして、

事業者との話し合いを通じ、項目の一つ一つの積み上げ式により、税率を決定している。

69

③ 税収使途としての施策・事業の内容の範囲の設定

税収使途は、結果が具体的に目に見えるような内容に絞り、環境が良くなったことを実感で

きること、または、自主的参加が促されたことなどにつながれば望ましい。そして、その目標に

ついても、10年後、20年後の目標・姿として表す必要がある。 狭義の使途は、課税対象行為が行われていることによって発生する財政需要に充てるの

が論理的で、環境そのものおよび便益を得ている環境の維持・保全等に用いられるべきであ

る。また、少し広く環境という視点で捉えると、環境に関連する社会基盤整備、環境産業の活

性化支援、環境関連ビジネスの誘致、環境技術の振興、ISO14000 認証取得の促進などが考えられ、環境関連雇用の促進環境改善事業提案に対する補助金などを含めることも可能

である。 また、環境税の目的にも関連するが、自然を活用した観光や産業振興のために幅広に活

用することも考えられる。例えば、第一次産業など、地域の基幹産業の活性化を狙うなどの目

的を持つ環境税を構想する場合などである。ただし、その際は積極的な産業の育成と位置づ

けるべきであって、保護方策ではないということを明示する必要がある。また、税収を事業者

に配分する際には、第三者のチェックが必要となる。 また、中長期的な使い道を想定する場合であれば、基金設立なども考えられる。自然再生

推進法に基づく、市民型公共事業の財源としても検討することが可能である。 そして、各主体の役割分担を明確にするなど、効率的な財・サービス供給・提供体制の確

立の検討も求められる。 ④ 税率と税収使途の一体的な検討の必要性

インセンティブ供与を主とする環境税としての性格であれば、税収使途にもインセンティブ

があるような内容が求められる。つまり、税金を取られないようにすることだけでなく、取り戻そ

うとすることの、両方のインセンティブが働くような税設計にすることが望ましい。 税収使途が補助的政策中心で、市場メカニズムを阻害するようなものであると、インセンテ

ィブ型の環境税の狙いが薄れることとなる。つまり、一律な保護的政策ではなく、主体的に取

り組もうとする主体に対して重点的に支援していく内容にすることなどが求められる。また、そ

の場合、一般財源にするかも目的財源にするかは、これら考えとその制度設計ができれば、

どちらでもいいといえる。

70

7. 税の免除・軽減措置などの補助制度の検討

(1) 検討の進め方 税収中立に基き既存税制項目の軽減や特例措置を設けたり、設定目標の達成などに対す

る軽減措置など、極端な増税とならないようにするとともに、過度の負担がかかる主体に対し

ては、公平性の観点から、何らかの補助制度を検討することが必要となる。 ただし、それは環境税という経済的手段の持つインセンティブを減退させないしくみである

必要があり、補助制度においても、環境負荷低減のインセンティブを付与するようにすべきで

ある。さらに、税の徴収だけでなく、税収使途においての補助制度も、一体的に検討すること

が求められる。

(2) 視点および留意点 ① 税収中立、および急激な負担への対応

事業規模や環境負荷量の大きさによる課税対象者の制限という免税措置だけでなく、税負

担者に対する減税措置や還付措置を検討する必要があり、英国の気候変動プログラムのよう

に自治体との自主協定における環境負荷低減の約束を担保とするしくみなどが考えられる。

また、税負担者が、税収を活用して環境負荷低減にかかる事業を実施できるなどの、税を取

り返すというインセンティブを与えるしくみとすることも可能である。 なお、個人や中小事業者への負担が大きくなると、法定外目的税導入にかかる消極用件3

(国の経済政策に照らして適当でないこと)に抵触する可能性があるとともに、税の逆進性の

問題が指摘されることがあり、急激な負担増加への対応を考える必要がある。 望ましくは、税制中立をベースとし、グリーン税制改革として、社会保障、労働コストの低減

などで相殺されるしくみにできればベストであるが、既存の税制度の枠組みでは、困難な場合

が多いと想定される。

② 施策・事業の認知・準備期間の設定による戦略的な行動の促進

施策・事業の実施において、一定の猶予期間を十分に設けることで、アナウンスメント効果

を狙い、負担の軽減を目指すことが考えられる。対象者が事業者であれば、技術開発や組織

改革などが想定され、住民であれば生活改善を行うなどにより、制度実施前に負担の軽減が

可能となる。 実際、東京都杉並区のレジ袋税は、制度は成立しているが、施行はレジ袋数量の推移等

を踏まえて実施するとしており、強制的な制度実施をちらつかせて、消費者の意識改革と行

動改善を促すという方法を採っている。 また、他地域の様々な対策の先進事例などの情報を公開・共有するなど、情報的手法など

とのポリシーミックスにより、地域全体での対応を進めていくことも必要となる。

71

8. 評価システムなどの体制およびしくみの検討

(1) 検討の進め方 環境税の効果を継続的かつ最大限に発揮させるために、PDCA(Plan-Do-Check-

Action)の評価システムの活用により、継続的な制度の改善を進めていくことが求められる。 これには、これまでの決定項目の検討に加え、波及効果の推計などの事前評価や、事後

評価システムの設計、また、これらを基にした環境税の作動環境の整備が含まれる。

(2) 視点および留意点 ① 他地域および地域の経済への影響

経済側面および環境側面における影響を事前に把握することが、制度設計において必要

となる。経済側面においては、地域の産業・経済などの地域競争力、消費・生産活動、雇用

問題に与える影響などを検討する必要がある。また、環境側面においては、税収予測や環境

負荷量削減、他環境問題に与える影響などを検討する必要がある。また、地域内だけでなく、

国や近隣自治体への影響も把握することも望まれる。

② 実施および評価体制の整備

税金が公正妥当に、しかも効率よく使われているかのチェック機能の付与が求められる。そ

のためには、各主体の役割分担の明確化が求められ、環境税制度の評価体制と評価方法な

どの検討もあわせて必要となる。

72

VI. おわりに

(1) まとめ 環境税を地域の課題解決のための政策手段として用いるためには、理論として外部条件を

取り除いた上でその機能を評価するのではなく、取り除かれた外部条件の中で、環境税がい

かに作動するか、また作動させるかということが重要となり、その評価を行った上で制度設計

を行う必要がある。 このことは外部条件が異なる地域ごとに、その状況を踏まえた環境税の姿があるべきであり、

その状況を踏まえた合意形成のあり方があり、個別の制度が設計されることになる。外部条件

という地域固有の状況においては、環境税の制度設計という技術的な課題の前に、まず、地

域をどうするのかという「地域の哲学」を明確にする必要がある。そして、そのための手段の一

つとして環境税を考えるというプロセスを辿るべきである。つまり、環境税のために環境問題が

存在しているのではなく、「環境問題の解決のための一手段として環境税が考えられる」という

ことを認識する必要がある。 環境税は市場メカニズムに基づいた合理的な制度として推奨されることが多いが、実際に

おいては、ある意味理論にとらわれすぎないことが必要となるかもしれない。それは理論上の

優位性の発揮は困難であるという現状と、効率性などの理論上の優位性を発揮させるために、

公平性などの他の機能発揮を抑制するためである。多様な価値基準により判断される政策選

択および政策評価では、バランスの悪さにより低評価に位置づけされるかもしれない。 ただし、本稿で示した地域を捉える視点や理論に基づいた環境税の評価基準や特定の前

提をおいたメリット・デメリットなどを照らし合わせて、地域の環境税を性格づけ、設計していく

ことは可能であり、理論の使い道はそこに存在すると考える。 環境税の意義は結果としてのアウトカムだけでなく、検討および実施プロセスで、地域の

様々な主体を、受益と負担がある程度明確なしくみにおいて、「当事者」として巻き込むことが

できることにもある。つまり、強制的に多様な主体を巻き込むツールとして環境税は使えるとい

うことである。 また、環境税の設計においては様々な評価が求められる。既存の施策の評価、環境負荷

削減に係る費用の評価、住民等の環境価値の把握や施策選択のための CVM やコンジョイ

ント分析、環境税導入に係る地域経済への影響、環境税施策の事業評価などである。環境

税導入に向けて、地域の多様な主体での合意形成を進めていく上で、アカウンタビリティや透

明性を発揮させるために、これらの経済評価結果を材料として議論を進めていくことが求めら

れる。

73

(2) 今後の展望

環境税は政策手段であり、基本的には行政が用いる市場メカニズムに基づいたツールで

あるが、現実においては、行政を介さずにビジネスとして資源管理を進めようとする動きも出て

きている。民間企業間の炭素排出量取引だけでなく、生態系、水、森林を対象とした「エコシス

テムサービス」に対して、民間資金が流れ込むスキーム、例えば、資源の証券化や所有と経営

の分離方策などが検討されている。ただ、これらがビジネスとして立ち上がるのは、炭素マー

ケット成立よりもまだ先のことである。 しかし、市場の失敗により外部不経済としての環境破壊を生み出し、行政介入の必然性に

基きこれまで主に行政主導で管理されてきた環境および自然資源という公共財・サービスが、

今後、新たな価値が認識され、再び市場で取引され、管理されることになるかもしれない。し

たがって、行政が地域の環境をマネジメントするのは、この市場の動きが本格化するまでのつ

なぎになるのかもしれない。ただし、地域の環境が市場で「高く」取引されるためには、地域の

環境の価値を把握し、適正にマネジメントしていくことが求められる。 このような中長期的な動向も見越して、環境税の意義を地域それぞれで考え、環境税の優

位性をどのように発揮させるのかを検討し、そのための制度設計および社会経済システムの

整備を進めて行くことが求められる。

74

参考文献 天野明弘(1997)地球温暖化の経済学, 日本経済新聞社 石弘光(1999)環境税とは何か, 岩波書店 植田和弘(1996)環境経済学, 岩波書店 植田和弘他編(1997)環境政策の経済学, 日本評論社 植田和弘・松野裕(1997)公健法賦課金, 植田和弘他編, 環境政策の経済学, 日本評論社 宇沢弘文(1994)社会的共通資本の概念, 東京大学出版会 OECD著, 天野明弘監訳(2002)環境関連税制~その評価と導入戦略~, 有斐閣 岡敏弘(1997)環境政策手段の経済理論, 植田和弘他編, 環境政策の経済学, 日本評論社 岡敏弘(1999)環境政策論, 岩波書店 環境省, 環境白書, 各年版 倉阪秀史(1999)地方における環境税の可能性について, 千葉大学経済研究第 14(3) 斎藤達三(1999)実践自治体政策評価,ぎょうせい 田中廣滋(1998)公共経済学, 東洋経済新報社 中里実(2002)地方環境税のあり方について, 税 2002年 1月号 中西準子(1994)水の環境戦略, 岩波書店 新澤秀則(1997)排出許可証取引, 植田和弘他編, 環境政策の経済学, 日本評論社 浜本光紹(1997)ポーター仮説をめぐる論争に関する論争と実証分析, 経済論叢(京都大学),

160(5・6) 浜本光紹(1998)環境規制と産業の生産性, 経済論叢(京都大学), 162(3) 松岡俊二(2000)途上国における環境政策の効率的実施とは何か?-規制の諸手段と効率性-, 国際開発研究,9(2) 松本茂(2001)環境税の利用可能性 -概念から手段へー, 関西大学経済学論集 51(2) 松野裕(1996)公害健康被害補償制度成立過程の政治経済分析, 経済論叢 157(5・6) 三枝有(1993)アメリカ大気浄化法概観, 名古屋女子大学紀要(人・社), 39 宮本憲一(1989)環境経済学, 岩波書店 村上一真(2001) 地方分権時代における「地域のあり方」と法定外税導入に関しての総論的な考察, http://www.ufji.co.jp/chiiki_kankyo/index.html 諸冨徹(1996)ドイツ排水課徴金の経済分析、経済論叢(京都大学), 157(5・6) 岡山県税制懇話会(2002)岡山県税制懇話会報告書 神奈川県地方税制等研究会生活環境税制専門部会(2001)各種資料 環境省(2002)廃棄物・リサイクル対策における経済的手法の活用に向けて 環境庁(2000)税制調査会基本問題小委員会御説明資料 高知県総務部税務課新税制検討プロジェクトチーム(2002)森林環境保全のための新税制(森林環境税)のための考え方

高知県総務部税務課新税制検討プロジェクトチーム(2001)水源かん養税試案

75

埼玉県税制調査懇話会(2002)埼玉県税制調査懇話会報告書 杉並区(2001)レジ袋税を実施した場合に発生する課題調査報告書 杉並区レジ袋税調査会議(2001) 杉並区レジ袋税調査会議報告書 第 5 回日本廃棄物会議ウェスティック 2001(2001)環境税の時代における廃棄物処理・リサイクルの行方 地球温暖化防止のための税の在り方検討会(2001)地球温暖化防止のための税の論点報告書 地方分権推進委員会(2001)地方分権推進委員会最終報告 中央環境審議会地球環境部会英国調査団(2001)英国気候変動政策調査報告 東京都税制調査会(2001)平成 13年度東京都税制調査会答申 -地方における新しい環境税制の構築― 徳島県企画総務部税務課(2002)森林の公益的機能を維持向上するための県民参加の新しい税制の創設に関する意識調査 新潟県庁内税制研究会(2002)税制研究会報告書 三重県県税若手グループ研究会(2000)産業廃棄物埋立税(試案) Coase, R.H.著, 宮沢健一・後藤晃・藤垣芳文訳(1992)企業・市場・法, 東洋経済新報社 Denison E. F. (1979), Accounting for Slower Economic Growth: The United States in

the 1970s, The Brookings Institution Jaffe, A. B., Perterson, S. R., Portney, P. R. and Stavins, R. N. (1995), Environmental

Regulation and the Competitiveness of U.S. Manufacturing: What Does the Evidence Tell Us?, Journal of Economic Literature, 33

OTA (U.S. Office of Technology Assessment) (1994), Industry, Technology, and the Environment: Competitive Challenges and Business Opportunities

Haveman, H. R. and Christaninsen, G. B. (1981), Public Regulation and the Slowdown in Productivity Growth, American Economic Review, 71(2)

Norsworthy, J. R., Harper, M. J. and Kunze, K. (1979), The Slowdown in Productivity Growth: Analysis of Some Contributing Factors, Brookinngs Papers on Economic Activity, 2

Barbera, A. J. and McConnell, V. D. (1990), The impact of Environmental Regulation on Industry Productivity: Direct and Indirect Effects, Journal of Environmental Economics and Management, 18

Gray, W. B. (1987), The Cost of Regulation: OSHA, EPA and the Productivity Slowdown, American Economic Review, 77(5)

O'Connor, D.著, 寺西俊一・吉田文和・大島堅一訳(1996)東アジアの環境問題, 東洋経済新報社

Porter, M. E. (1991), America's green strategy, Scientific American, April 1991 Porter, M. E. and Van der Linde, C. (1995), Toward a New Conception of the

Environment-Competitiveness Relationship, Journal of Economic Perspective, 9(4)

76

脚注

1 排出枠取引は、アメリカにおいて酸性雨プログラムとしてSO2が取引されているほか、ドイツ

ではフッ素が対象とされるなどの事例がある。 2 環境問題に対する公共政策の必要性は、市場の失敗として、最適な資源配分が達成されずに環境破壊という外部不経済を発生させることに対して、公共財・サービスとしての環境

を、保全・維持する役割を担う主体として、公共が介入するという理屈がある。 ただし、Coase(1988)は「コースの定理」において、取引費用が無い場合においては当事者間での取引で、最適な資源配分がなされると示した。公共介入の必要性が否定されてい

る。ただし、取引費用ゼロの非現実性、所得分配の非公平性などが指摘されており、現実

には政府の介入の必要性が支持され、様々な環境政策や経済的手法の活用においても、

そのルールづくりなどが、政府の手により実施されている。 3 フリーライダーの問題、つまり、費用負担せずに受益を得る人間への対応においても、環境問題の空間的広がりにあわせて、適当な行政主体が担うのが望ましい。そのため、より小さ

い行政単位での対応のほうが、大きい行政単位での一律的な対応よりも、効率的にフリーラ

イダーを抑えられる可能性が高いと想定される。 4 諸富(2001)は①新環境税の導入、②環境税制改革、③既存税制のグリーン化、④課徴金・料金・負担金などのグリーン化の4つに区分している。

5 村上(2001), p6-8 6 諸富(2001)はこれらを環境税改革と述べている。 7 ボーモル=オーツ税とは、限界排出削減費用の均等化により、環境目標達成の効率性を確保しようとするものである。また、ピグー税とは、それに加えて、実現される環境目標が経

済的に最適汚染水準となっている。最適汚染水準とは、環境負荷に伴う損害費用と、環境

負荷削減にかかる対策費用の和が最小になる水準である。この2つの大きな違いは、環境

目標を費用便益の視点を用いて設定するか否か、というところであり、ボーモル=オーツ税

は環境目標の最適汚染水準での達成はあきらめられている。 8 ボーモル=オーツ税においては、環境目標は経済性原則に基づいた最適汚染水準ではなく、科学的知見などを踏まえた最小安全基準が現実の環境目標として設定される。一方、

前述したピグー税は、最小安全基準として基準が設定される。現実においては、環境政策

の目標は、医学的知見に基づいて設定されることが多い。ここでは、環境目標の設定方法

を問うことはせず、その達成について、いかに効率的に対処することができるかに焦点を当

てて検討している。このことは、ピグー税を環境税の理想としてみなすのではなく、環境税の

実行可能性から検討するということを示す。 9 限界排出削減費用の逓増、つまり一単位の削減を進めるにつれて、次第にその費用が大きくなっていくことについては、被規制主体が費用の安い対策から進めていくという前提に基

づいている。 10 松本(2001) 環境税の利用可能性 -概念から手段へー, 関西大学経済学論集 51(2) 11 ここではボーモル=オーツ税を想定しているため、2つの静学的効率性、つまり、達成される環境目標が経済的に最適汚染水準に設定されていること、また、限界排出削減費用が均

等化することの2つのうち、後者の達成のみを静学的効率性としてみなしている。 12 岡(1997), p135 13 新澤(1997), p189 14 OECD(2002),p134 15 諸富(2001),P126 16 植田和弘・松野裕(1997) ,P95-96 17 岡(1997), P29 18 諸富(1997)は、分配問題回避モデルとして、料率格差モデルと目的税モデルで制度設計のあり方を検討している。料率格差モデルでは、環境目標における最低要求水準を越える

77

排出削減に対して料率を割り引くしくみであり、目的税モデルは課徴金収入を環境目標達

成の事業等に投入し、料率を下げるというものである。 19 OECD(2002), p125 20 諸富(2001), p126 21 諸富(2001), p126 22 諸富(2001), p125 23 Porter, M. E. (1991), America's green strategy, Scientific American, April 1991 ※ 本研究は、平成 13年度科学研究費補助金(奨励研究(B)(13911006)「地方自治体における環境税のあり方に関する研究~国内外先進事例の比較分析を通じて~」において

実施したものである。

78