下期の市況を読む - toray · 2020-06-14 · 下期の市況を読む...

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17 繊維トレンド 2008 年 7・8 月号 世界経済、一段の減速。金融非常事態 1 年前の 4 月にワシントンで開催された財務相・ 中央銀行総裁会議(G7)は、「最も力強い景気拡大 を経験中」と謳い上げたものだが、米国を震源地 とするサブプライム問題の影響が現出した今年に なって一転して潮目が変わり、世界経済は「戦後 最悪の(金融)危機」を迎えている。去る 4 月 11 日、金融非常事態の中、ワシントンで開催された 同会議は、世界経済の一段の減速懸念を次のよう に悲嘆せざるを得なかった。 「世界経済は困難な時期に直面しており、長期的 には回復力があるとしても、短期的な世界経済見 通しは悪化すると言わざるを得ない。米英住宅市 場の低迷や、国際金融市場の緊張状態、原油や一 次産品の価格高騰、その結果としてのインフレ圧 力によって、景気は一段と減速する。新興市場国 の経済成長は明るいが、世界的な景気減速の圧力 からの影響は免れ得ない」と。 今回の会議では、金融危機とドル急落という2 つのリスク回避のために、「あらゆる措置をとる」 ことで合意されたものの、ドル安を牽制するだけ で、具体的なドル安歯止め策は示されることはな かった。また、金融機関への公的資金注入にも言 及されなかった。 [1]世界経済 「世界同時不況の可能性」、 景気減速と物価上昇が同時進行のおそれ IMF 予測 IMF は 4 月 9 日、今年の世界経済見通しを発表 した。それによると、サブプライム問題の震源地 である米国については、住宅市場の落ち込みを重 くみて、91 年以来 17 年振りの低成長となる 0.5 % と予測。ユーロ圏については、景気感の悪化鮮明 だが、実体経済は意外に底堅く 1.6 %、日本は 1.4 %と予測した。中国・インドなど新興国が急成 長しているとは言え、日米欧圏を合わせた GDP の 世界 GDP に占める割合はなお 5 割を上回る。日米 欧の成長率が 1 %台まで下がると、世界経済全体 の下押し圧力が強まるのは必至。IMF は世界経済 全体の実質成長率を 3.7 %と予測したが、「世界同 時不況の可能性がある」と警告した。 海外動向 下期の市況を読む ― 景気減速とコストアップが同時進行の中で新しい価格体系をどう構築するか ― 1 米国を震源地とするサブプライムローン問題により、世界経済は悪化することが鮮明になってきた。景気 減速とインフレが同時に進行しており、国際金融市場の混乱解決までの時間は長引きそうだ。 2 世界経済が悪化する中で、合繊メーカーの最重要課題は、原燃料コストアップ分の売値への転嫁。安定収 益確保のための新しい挑戦が続く。 要 点 〔アジアの化合繊市況〕 向川 利和(むかいがわ としかず) 特別研究員 繊維産業アナリスト 1963 年東レ(株)入社。1974 年韓国プロジェクト担当を始め、東レの海外事業の揺籃期- 苦難期-果実収穫期を経験した数少ないスタッフ。繊維市況分析、海外事業哲学に特色があ る。1998 年から(株)東レ経営研究所繊維産業アナリストを兼務。2003 年 4 月から専任。 第 1 部 マクロ経済

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Page 1: 下期の市況を読む - TORAY · 2020-06-14 · 下期の市況を読む ―景気減速とコストアップが同時進行の中で新しい価格体系をどう構築するか―

17繊維トレンド 2008年 7・8月号

世界経済、一段の減速。金融非常事態

1 年前の 4月にワシントンで開催された財務相・中央銀行総裁会議(G7)は、「最も力強い景気拡大を経験中」と謳い上げたものだが、米国を震源地とするサブプライム問題の影響が現出した今年になって一転して潮目が変わり、世界経済は「戦後最悪の(金融)危機」を迎えている。去る 4 月 11日、金融非常事態の中、ワシントンで開催された同会議は、世界経済の一段の減速懸念を次のように悲嘆せざるを得なかった。「世界経済は困難な時期に直面しており、長期的には回復力があるとしても、短期的な世界経済見通しは悪化すると言わざるを得ない。米英住宅市場の低迷や、国際金融市場の緊張状態、原油や一次産品の価格高騰、その結果としてのインフレ圧力によって、景気は一段と減速する。新興市場国の経済成長は明るいが、世界的な景気減速の圧力からの影響は免れ得ない」と。今回の会議では、金融危機とドル急落という2

つのリスク回避のために、「あらゆる措置をとる」

ことで合意されたものの、ドル安を牽制するだけで、具体的なドル安歯止め策は示されることはなかった。また、金融機関への公的資金注入にも言及されなかった。

[1]世界経済「世界同時不況の可能性」、景気減速と物価上昇が同時進行のおそれ

IMF予測

IMF は 4 月 9 日、今年の世界経済見通しを発表した。それによると、サブプライム問題の震源地である米国については、住宅市場の落ち込みを重くみて、91 年以来 17 年振りの低成長となる 0.5 %と予測。ユーロ圏については、景気感の悪化鮮明だが、実体経済は意外に底堅く 1.6 %、日本は1.4 %と予測した。中国・インドなど新興国が急成長しているとは言え、日米欧圏を合わせた GDP の世界 GDP に占める割合はなお 5割を上回る。日米欧の成長率が 1 %台まで下がると、世界経済全体の下押し圧力が強まるのは必至。IMF は世界経済全体の実質成長率を 3.7 %と予測したが、「世界同時不況の可能性がある」と警告した。

海外動向

下期の市況を読む―景気減速とコストアップが同時進行の中で新しい価格体系をどう構築するか―

1 米国を震源地とするサブプライムローン問題により、世界経済は悪化することが鮮明になってきた。景気

減速とインフレが同時に進行しており、国際金融市場の混乱解決までの時間は長引きそうだ。

2 世界経済が悪化する中で、合繊メーカーの最重要課題は、原燃料コストアップ分の売値への転嫁。安定収

益確保のための新しい挑戦が続く。

要 点

〔アジアの化合繊市況〕

向川 利和(むかいがわとしかず)特別研究員繊維産業アナリスト

1963年東レ(株)入社。1974年韓国プロジェクト担当を始め、東レの海外事業の揺籃期-苦難期-果実収穫期を経験した数少ないスタッフ。繊維市況分析、海外事業哲学に特色がある。1998年から(株)東レ経営研究所繊維産業アナリストを兼務。2003年 4月から専任。

第1部 マクロ経済

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繊維トレンド 2008年 7・8月号18

主な通貨 07年6月末相場 08年3月末相場 備 考 その後の動き ユーロ 1.3510$/ユーロ 1.5910$/ユーロ 99年ユーロ導入以来の最高値 4月22日、初の1.6$/ユーロのせ 人民元 7.6200元/$ 7.0510元/$ 05年人民元切上げ後の  〃 〃 、初の7元/$割れ、6月末6.8元/$台 豪州ドル 0.84$/A$ 0.94$/A$ 24年振り高値 5月20日 0.96$/A$円 123円/$ 95円/$ 12年7カ月振り高値

シンガポールドル 1.535S$/$ 1.356S$/$ 12年振り高値 4月23日、過去最高値1.35S$/$割れ ロシアルーブル 25.9ルーブル/$ 24.2ルーブル/$ 9年振り高値

出所:東洋経済「統計月報」、日本経済新聞

図表 2 主な通貨の対米ドル相場の推移(多くの通貨が$に対し高値に)

海外動向

図表 3 IMF の実質経済成長率見通し

2003(実績) 2004(実績) 2005(実績) 2006(実績) 2007(実績) 2008(予想) 2009(予想) 先進国 2.1 3.2 2.8 3.0 2.7 2.0 1.8 日本 1.3 2.7 1.9 2.2 1.9 1.4 1.5 米国 2.5 3.6 3.1 2.9 2.2 0.5 0.6 ユーロ圏 0.8 2.1 1.6 2.8 2.6 1.7 1.5 ドイツ ▲ 0.1 1.1 0.8 2.9 2.5 1.4 1.0 イギリス 2.2 3.3 1.8 2.9 3.1 1.6 1.6発展途上国 4.8 6.6 6.7 7.8 7.8 6.9 6.8 東アジア・太平洋地域 7.7 8.3 7.4 8.6 8.7 7.6 7.7 NIES 2.7 6.7 5.5 6.3 6.2 4.7 4.6 ASEAN 5.5 6.3 5.5 6.0 6.6 5.7 5.5 中国 10.0 10.1 10.4 11.1 11.9 9.3 9.5 南アジア地域 6.5 7.2 8.7 9.0 8.4 7.9 8.0 中南米地域 1.3 5.7 4.3 4.8 4.5 4.6 3.7 中東・北アフリカ地域 5.1 5.1 5.6 5.7 5.7 5.7 5.7世界全体 2.6 3.8 4.3 4.9 4.9 3.7 3.8

単位:%

出所:IMF

図表 1 米国を震源地とするサブプライム問題と日本のバブル崩壊後の金融危機比較米 国 日 本

1.原因 信用力の低い個人向け住宅ローンの焦げ付き バブルの崩壊で不動産向け融資の焦げ付き 2.金融機関の損失(推定) なお不透明だが、世界の金融機関の損失は97兆円との

試算(IMF) 100兆円(ほぼ確定)

3.解決までの時間 表面化から1年経つが、なお不透明 10年以上 4.主な対応策 (イ)金融機関の資金繰り支援 FRBが住宅ローン担保証券と国債を交換可能にするな

ど、欧米の中央銀行が市場に大量の資金を供給 日銀が社債などを担保に資金供給

(ロ)大幅利下げ FF金利の誘導目標を半年間で3.25%下げ(5.25%→

2.00%) 実質ゼロ金利に ゼロ金利政策

(ハ)金融機関の資本増強 公的資金活用には慎重 累計12兆円の公的資金注入

出所:新聞報道などから筆者まとめ

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19繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

[2]アジア今年も7.6 %の成長見込む6年連続7%超、中印が牽引

アジア開銀予測

ADB(アジア開発銀行)は 4 月 2 日、日本を除くアジア地域の 2008 年の実質経済成長率が 7.6 %に達し、6年連続で 7%以上の成長が続くとの見通しを発表した。成長率は 07 年を 1.1 ポイント下回るが、投資と消費の好調な中国が 10 %(08 年 1 ~3 月実績でも 10.6 %を記録)、インドが 8 %と高い伸びを維持し、両国が成長の牽引役となる。サブプライム問題に端を発した米国など先進国の景気減速や原油・食糧の高騰に伴うインフレ加速などの影響を織り込んだ上での高成長となる。

(1) 人 口

(2) GDP

(3) 貿易額

(4) 実質GDP成長率 上掲 図表3(IMF統計)参照

(5) 財政赤字

(6) 失業率

構造改革力

存在感

成長力

3.20

3.03

1.28

13.24

11.40

0 3 6 9 12 15

ユーロ15

米   国

日   本

中   国

イ ン ド

(億人)

世界の11.5%

世界の37.9%

4.42

3.80

3.42

0.20

0 2 4 6

米  国

ユ ーロ15

日   本

中  国

1人当たりGDP(万ドル) 名目GDP(兆ドル)

1 3.84

12.00

4.38

3.33

0 5 1 0 15

170

116

71

122

165

202

62

96

0 50 100 150 200 250

ユ ーロ 15

米   国

日   本

中    国 輸   出 輸  入

世界の56.4%

4.1

2.6

1.6

0 1 2 3 4 5

日    本

米   国

ユ ーロ 15

8.0

4.6

4.1

0 2 4 6 8 10

ユ ーロ 15

米   国

日    本

(%)

出所:2006年年央統計「世界人口白書」

出所:2007年各国統計(速報ベース)

出所:2007年各国統計(速報ベース)

出所:2006年各国統計

世界の58.5%

(100億$)

(2006年、対GDP比率%)

図表 4 数字でみる日米ユーロの実力

2003 2004 2005 2006 2007 2008 (実績) (実績) (実績) (実績) (実績) (予測) アジア 2.7 6.7 5.5 6.3 6.2 4.7 香 港 3.3 8.1 7.5 7.0 6.3 4.5 韓 国 3.1 4.6 4.0 5.1 5.0 5.0 星 港 1.1 8.4 6.6 8.2 7.7 5.2 台 湾 3.2 5.7 4.0 4.9 5.7 4.2中 国 10.0 10.1 10.4 11.1 11.9 10.0ASEAN 5.5 6.3 5.6 6.0 6.6 5.7 印 尼 4.1 5.1 5.7 5.5 6.3 6.0 馬 来 5.2 7.1 5.2 5.9 6.3 5.4 比 島 4.5 6.1 5.0 5.4 7.3 6.0 泰 国 6.7 6.1 4.5 5.1 4.8 5.0 越 南 7.1 7.5 8.4 8.2 8.5 7.0南西アジア 6.9 7.2 8.7 9.0 8.4 7.6 インド 7.3 7.5 9.0 9.6 8.7 8.0 パキスタン 5.1 6.4 8.6 6.6 7.0 6.3アジア太平洋地域全体(日本を除く) 7.3 7.3 7.4 8.6 8.7 7.6

単位:%

出所:ADB「アジア開発展望2008」「アジア経済モニター2008」

図表 5 ADBの実質経済成長率見通し

0

5

10

1996 2000 03 04 05 06 07 08

98年 アジア通貨危機

出所:ADB(08年は見通し値)

00年 ITバブル崩壊

07年サブプライム問題

図表 6 アジア・太平洋地域の実質成長率(日本を除く)

0

5

1 0

1 5

2 0

2 5

3 0

3 5

199 4 2 00 0 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8

出所:ADB、IMF(08年は見通し値)

経済成長率 固定資産投資の伸び

図表 7 中国の経済成長率と固定資産投資の伸び

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[3]ユーロ圏1.7 %成長に鈍化。信用収縮・物価上昇響き、景況感悪化鮮明。

欧州委員会予測

欧州委員会は、ユーロ圏(ユーロ採用 15 カ国)の 2008 年の実質経済成長率見通しを 1.7 %と発表した。07 年の実績成長率を 0.9 ポイント下回る。同時に発表した「景況感指数※」は、3 月時点で99.6 となり、景気判断の基準となる 100 を 2 年 4カ月振りに割り込んだ。一方で、消費者物価の上昇率を 3.2 %と予測し、連鎖的なインフレの進行を警戒した。※ユーロ圏の景況感指数

欧州委員会がまとめる景気の先行指標。製造業・サー

ビス業・建設業・流通業の景況感と消費者の心理を加重平

均して算出される。長期的な平均値である 100 が基準で、

指数が 100以下になると景気の下振れリスクが高まる。先

行き不安で設備投資や個人消費が手控えられるため。

ユーロが高い、1人勝ちの様相

サブプライム問題による金融市場の混乱で、米英の中央銀行が利下げに転換する中、ECB(欧州中央銀行)は、07 年 6 月以降、4 %を据え置いている。インフレ圧力が根強く、物価安定を優先している格好。しかし、このため外国為替市場では、欧米の政策金利の逆転に伴い、ユーロの対ドル相場、対ポンド相場に上昇圧力が掛かっており、外為市場でユーロ独歩高の展開となっている。例えば、4 月下旬のドル/ユーロ相場は、初めて

1.6$/ユーロと、99 年のユーロ発足以来の最高値、ポンド/ユーロ相場は、0.80 ポンド/ユーロとこの半年で 20 %近く切り上がっている。因みに 08 年 4 月末の日米ユーロ圏の政策金利

は、日本が 0.5 %(日銀の無担保コール翌日物金利の誘導指標)、米国は 2.00 %(FF金利の誘導目標)、ユーロ圏が 4.00 %(市場介入金利)、イギリスは5.00 %。

[4]アメリカ0.5 %予想 ― 91年以来17年振りの低成長。景気の両輪(個人消費と設備投資)陰り、実体経済の停滞感一段と。

米国で景気後退が鮮明になってきている。雇用者数は 1 ~ 5 月で 31 万人以上減り、5 月の失業率は 22 年振りの高い水準となる 5.5 %にはね上がった(4月は 5.0 %)。雇用減少の長期化が GDP の柱である個人消費を冷え込ませる。事実、3月の個人消費支出は、前月比 0.1 %増で物価上昇分を除くと、実質 0%。1~ 3 月の企業の設備投資も 1年 3 カ月振りに前期比マイナスとなった。3月の住宅着工件数は 2 月比▲ 11.9 %の大幅減で年率換算 947 千戸と 91 年 3 月の 921 千戸以来 17 年振りの低水準。なお、07 年の実質経済成長率は 2.2 %。経常赤字は 7,386 億$(貿易赤字は 7,900 億$)、財政赤字(06 年 10 月~ 07 年 9 月)は 2,442 億$。但し、08年度上半期(07 年 10 月~ 08 年 3 月)は、一気に悪化して 3,114 億$の赤字。景気後退による税収減とイラク戦費の膨張が背景にあり、景気減速が鮮明な 08 年度通期は、史上最大の財政赤字となることが確実だ。また、07 年 10 ~ 12 月の GDP成長率は、年率換算で 0.6 %、08 年 1 ~ 3 月も 0.9 %と、2四半期連続で 1%を割り込む低成長が続いたのは91 年以来 17 年振り。

繊維トレンド 2008年 7・8月号20

海外動向

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

(実績) (実績) (実績) (実績) (実績) (実績) (予測)

ユーロ圏 0.9 0.8 2.0 1.6 2.7 2.6 1.7

15カ国 ドイツ 0.0 ▲ 0.1 1.1 0.8 2.9 2.5 1.8

イタリア 0.3 0.1 1.0 0.2 1.9 2.0 0.5

フランス 1.1 1.1 2.3 1.7 2.2 1.9 1.6

スペイン 2.7 3.1 3.3 3.6 3.9 3.8 2.2

EU25カ国 1.2 1.3 2.5 1.8 3.0 2.8 1.7

イギリス 2.1 2.8 3.3 1.8 2.9 3.1 1.6

スウェーデン 2.4 1.9 4.1 3.3 4.1 2.6 2.2

単位:%、▲マイナス

(注)ユーロ15もEU25も参加国が増えるたびに遡及して、拡大修正されている。

出所:欧州委員会、内閣府(海外経済データ)

図表 8 ユーロ圏と EUの経済成長率見通し

07/ 3 5 7 9 11 08/ 3 5

5. 0

4 . 0

2 . 0

0 . 5

0

1

2

3

4

6

5

英中銀

欧州中銀

米連邦準備理事会 (FRB)

日本

出所:東洋経済「統計月報」及び新聞報道

【参考】図表 9 日米欧の政策金利の推移

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21繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

-10

0

10

20

30

40 万人

4.0

4.5

5.0

5.5

05/1 7 06/1 7 07/ 1 7 08/1

雇用者数の増減 (非農業部門前月比)

失 業 率 (軍人を除く)

出所:東洋経済「統計月報」

図表 10 米国の主要雇用者指標

▲黒字   赤字▼

- 8 - 6 - 4 - 2 0 2 4

- 1 0

- 8

- 6

- 4

- 2

0

2

4

8 0 8 3 8 6 8 9 9 2 9 5 9 8 2 0 0 1 0 4 0 7 0 8

経常収支GDP比

双子の赤字額

財政収支GDP比

千億ドル

経常収支 財政収支

(予測)

出所:米商務省、米財務省 IMF「World Economic Outlook」

(注)経常収支は暦年(1~12月)、財政収支は会計年度(10~9月)

図表 12 米国の双子の赤字の推移

年月 FFレート 公定歩合(NY連銀) プライムレート 長期国債(10年) 住宅抵当金利

1994 4.20 3.60 7.15 7.09 8.35

5 5.83 5.21 8.83 6.57 7.95

6 5.30 5.02 8.27 6.44 7.80

7 5.46 5.00 8.44 6.35 7.60

8 5.35 4.92 8.35 5.26 6.94

9 4.97 4.62 8.00 5.65 7.43

2000 6.24 5.73 9.23 6.03 8.06

1 3.88 3.40 6.91 5.02 6.97

2 1.67 1.17 4.67 4.61 6.54

3 1.13 2.12 4.12 4.01 5.82

4 1.35 2.34 4.34 4.27 5.84

5 3.22 4.19 6.19 4.29 5.86

6 4.97 5.97 7.96 4.80 6.41

7 5.02 5.52 8.05 4.63 6.34

06年1月 4.29 5.26 7.26 4.42 6.15

2月 4.49 5.50 7.50 4.57 6.25

3月 4.75 5.75 7.75 4.90 6.32

4月 4.79 5.75 7.75 4.93 6.51

5月 4.94 6.00 7.93 5.11 6.60

6月 4.99 6.00 8.02 5.11 6.68

7月 5.25 6.25 8.25 5.09 6.76

8月 5.25 6.25 8.25 4.88 6.52

9月 5.25 6.25 8.25 4.72 6.40

10月 5.25 6.25 8.25 4.73 6.36

11月 5.25 6.25 8.25 4.60 6.24

12月 5.25 6.25 8.25 4.56 6.14

07年1月 5.25 6.25 8.25 4.76 6.22

2月 5.25 6.25 8.25 4.72 6.29

3月 5.25 6.25 8.25 4.70 6.30

4月 5.25 6.25 8.25 4.72 6.35

5月 5.25 6.25 8.25 4.70 6.34

6月 5.25 6.25 8.25 4.68 6.30

7月 5.25 6.25 8.25 5.00 6.70

8月 5.02 6.02 8.25 4.67 6.57

9月 4.94 5.50 8.03 4.52 6.38

10月 4.75 5.25 7.74 4.53 6.38

11月 4.50 5.00 7.50 4.15 6.20

12月 4.25 4.75 7.33 4.10 6.10

08年1月 4.00 4.44 6.98 3.74 5.76

2月 3.00 3.50 6.00 3.74 5.92

3月 2.61 2.50 5.66 3.51 5.97

4月 2.25 2.50 5.25 3.68 5.92

5月 2.00 2.25 5.00 4.06 6.36

単位:%/年

(注)FFレート(Fenderal Fund Rate)は、短期金利の指標でその目標金利は、FRB定例のFOMC(米連邦公開市場委員会)で決められる。公定歩合の変更については、全米12の地区連銀に発議権があり、上表ではNY連銀の数値をとっている。

出所:FRB/東洋経済「統計月報」各金利は月中平均値。

図表 13 米国の金利動向

0

50

100

150

200

250

05/ 1 7 06/ 1 7 07/ 1 7 08/1

万戸

出所:東洋経済「統計月報」

図表 11 住宅着工件数(年率計算)

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原油高騰、円高ドル安、米国景気失速に伴う世界経済の減速。08 年の事業環境は急変している。合繊ファイバーセクターでは、今年も原燃料価

格 up 分の転嫁が最重点課題とされる。合繊メーカーが値上げを打ち出し「新価格体系の構築」を声高に叫ぶものの、川中、川下の反応は鈍い。国産生地を必要としたり、あるいは SCMであれば応分の負担は当然と思うが、価格引き上げに対する抵抗感は依然として強い。08 年も価格改定を最大の課題として粘り強い取り組みを進めることになるだろう。

[1]原油・ナフサドル安連動で一段高の可能性残る米利下げ → ドル安 → インフレ懸念原油はドル離れの受け皿

80 ~ 90 年代は成熟した先進国が世界景気を牽引し、原油などの資源需要は抑えられていた。ところが人口 30 億人の新興国経済が立ち上がったことで様相は一変した。原油価格が上昇を始めて 6 年。原油をはじめとする国際商品価格の上昇はサブプライム問題をきっかけに米国経済とドルへの不安が高まった影響も大きい。01 年の 9・ 11 テロを発端に、米国に集中していたマネーの分散が始まり、サブプライム問題は膨張したペーパーマネーから実物資産へというバランス修正に弾みを付けたとも言える。米国が利下げに動く程、金融不安やドル安を招き、インフレ懸念と相俟って商品市場への投機マネーの流入は加速する。世界景気の同時拡大と連動していた 2002 年から昨年までの価格上昇は、中東などの資源国経済を成長させ、資源マネーが米国の赤字を埋めるプラスの循環が働いた。「しかし、需給実勢を超えた投機マネー主導の急騰が、世界経済に打撃を与えることになれば、原油価格は急落し、資源マネーは逆流する。そうなると原油の急落は上昇のリスクより大きい」(日経新聞編集委員、志田富雄氏)と指摘する声もある。

08 年 1 月 2 日、初めて 100$/バレルを突破したNY 原油(WTI)先物相場は、2 月中旬頃までいったん下落したが、2月 19 日再び 100$を超え、3月12 日ドルが急落すると、ドル安に連動するように110$を突破、4 月に入っても、米国の景気後退と

インフレの同時進行が現実のものとなり、インフレに強いとされる原油や金に投機マネーの流入が再び加速。5月 5 日には 120$台に乗せ、5月 21 日には 130$突破とわずか 2 週間で 10$以上上昇した(7月 3日に 145.85$と更に上昇)。年初からの原油急騰に、いくつかの要因が指摘

されてきた。いわく、米国の原油在庫減少、トルコ軍によるイラク北部への越境爆撃、ナイジェリアでの武装勢力による石油施設破壊、イスラエルによるイラン核施設攻撃など…。これらは目先の話だが、根本的には「供給不安」即ち、「オイルピーク説」があると指摘する人もいる。最も悲観的な人は、2010 年に原油の産出量がピークを迎え、それ以降は産出量が減少し、価格はなおも上昇するだろうと言う。それはともかくも、こうした原油市場の価格急騰は、石炭など他のエネルギー市場に波及し、あらゆる資源の価格を底上げした。

繊維トレンド 2008年 7・8月号22

海外動向

102030405060708090100110120130140

89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08

1バレル・ドル

湾岸危機・戦争 アジア通貨危機 米同時テロ

イラク危機・戦争

ロシア・ユーコス経営危機

出所:日経商品情報

図表 14 NY原油(WTI)先物価格(期近月末値)

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

130

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

ドバイ(東京・現物・FOB) ($/バレル)

DUBUY (Tokyo・SPOT・FOB)

出所:日経商品情報

図表 15 ドバイ原油スポット価格(東京現物 FOB)

第2部 下期の東南アジア繊維市況を読む

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23繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

ナフサ、原油高につられ高値追い

アジアでナフサ価格の指標となっている東京オープンスペックナフサは、07 年末の水準よりやや下げ 855$近辺からスタート。その後は原油価格の上昇と共に新値追いとなり、5月 22 日には 1,125$/トンと、年初比 270$(32 %)高の水準まで上げた。原油価格の上昇の他、中東で現地需要が高まり、アジア市場への流入が絞られているのが背景にある。一方、国産ナフサの基準価格は、四半期ごとに

後決めしている。貿易統計による輸入ナフサ価格の3カ月平均値に備蓄費用などの名目で、2,000 円/kl を加えている。今年 1~ 3 月期には、史上最高となる 66,700 円/kl を付けた。4~ 6 月期は 8 万円超えが確実。

[2]合繊原料 軒並み高騰 中国中心に需要堅調、但し、原油連動に変化の兆し

今年上半期の合繊原料価格は、原油高・ナフサ高を受けて軒並み高騰した。下半期も夏場にかけての原油・ナフサ高からジリ高となる見込み。中国中心に需要も堅調だ。但し、中国で大増設された PTA はこれ迄ほどは原油に連動することがなくなり、逆に増設のない AN は原油との連動性を強めている。

①PTA(テレフタル酸)中国・インドの需要好調で過去最高値 1,100$突破

ポリエステル主原料の 1 つ PTA は、昨年 1 年を通じ、06 ~ 07 年中国での PTA 設備の立ち上がりから 900$/トンを割り込む弱い相場展開が続いた。06 ~ 07 年の中国の PTA 設備増設は、一説に 420万トンとされているが、原料 PXが不足しているため、フル稼働しているわけではなく、また、PX 高が PTA 価格の閂となっており、PTA 能力の過剰感からの 800$以下への下放れを抑え込む格好となっていた。このため、08 年年明け後は原油・ナフサ・ PX 高で PTA もようやく 3 月に 900$/トンラインを突破し、高値取りの局面となり、4 月には 1年半振りに 1,000$/トンを回復した。6 月積では1,100$/トンを突破、過去最高値を更新した(2 月中頃の直近安値からは 29 ~ 30 %高)。とは言え、PTA の相場は、原油の急騰にもかか

わらず頭が重い。原油に連動していたかつての

【参考】図表 16 主要国際商品の相場動向

商品名 A.02年

年初価格 B.08年 年初価格

C.4月末 価格

02年からの 上昇率(C/A)

07年の 上昇率

08年年初来の 騰落率(C/B)

買い材料 売り材料

NY原油 $/バレル 19.70 99.61 113.96 6.0倍 57.2% 13.9% 産油国の地政学的リスク オイルピーク説、ドル安

米国景気減速悪化による減少懸念

ドバイ原油 〃 15.00 93.20 110.00 7.3倍 67.6% 18.0% 〃 〃

NY金 $/トロイオンス 281.50 857.17 862.80 3.4倍 31.4% 0.7% ドル安、インフレ懸念 新興国の宝飾品需要不振

LME銅 $/トン 1,504 6,757 8,655 5.3倍 5.5% 28.1% LME在庫の減少 米国景気悪化による需要減退

シカゴトウモロコシ $/ブッシェル 2.07 4.63 6.10 2.7倍 16.7% 31.8% バイオエタノール需要増 買われ過ぎ感

シカゴ大豆 〃 4.36 12.32 13.38 3.2倍 75.4% 8.6% 中国やインドなど新興国の需要増   〃

シカゴ小麦 〃 3.00 9.15 8.14 4.1倍 76.6% ▲11.0% 〃   〃

NYコーヒー ¢/ポンド 47.80 134.01 132.40 3.2倍 7.9% ▲1.2% 新興国の消費増、産地在庫の歴史的低水準

ブラジルの生産増

NY綿花 〃 36.88 67.40 72.25 2.0倍 18.6% 7.2% 米国綿花作付面積の減少 バイオ綿花の生産増

(▲マイナス)

(注)トウモロコシのブッシェルは56lbs(25.4kg)俵 大豆と小麦の  〃  60lbs(27.2kg)俵

出所:日経商品情報及び日経新聞市況より筆者作成

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

1,200

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

ナフサ(東京オープンスペック) NAPHTHA(Tokyo Open Speck)

(注)07年最高値 882$/トン(12月) 07年最安値 503$/トン(1月)

出所:日経商品情報

($/t)

図表 17 ナフサ(東京オープンスペック)価格

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PTA 相場からは様変わりした。PTA のアジアのスポット価格は 5 月末で 1,100$/トン前後。原油価格(WTI)が 1 バレル 20$から 140$強へ 7 倍に跳ね上がった過去 6 年間を見ると、PTA は 500$から 1,100$へ 2.2 倍になったに過ぎない。中でも、ここ 3 年だけを見ても、原油の 3 倍近い値上がりに対して、PTA はほぼ同値圏で推移している。コスト増にもかかわらず、価格が上がらない理由は、PTA の中国における大増設・大増産に尽きる。07 年の世界の生産能力は 4,230 万トン、3 年間で38.5 %拡大した。とりわけ中国がこの間 3 倍に増え、今や世界全体の 1/3 を占める。08 年にも 250万トンを増設・竣工する見込み。同期間に世界需要は 25 %しか伸びず、07 年で 600 万トン(14 %)もの供給過剰となった。「確実に需要が伸びる」という安心感が PTA の大増設を促したと見られる。ポリエステルは加工しやすく、価格も安いとあって、ナイロンやアクリルなど他の合成繊維を圧倒

する。実際 07 年の世界の合繊設備 4,850 万トンの81 %がポリエステルだ。綿花や羊毛など天然繊維の増産が期待できない中、世界の繊維需要を支える素材としてポリエステルの成長は約束されていると見てよい。逆の現象は、アクリルステープルの原料 ANに起きている(ANの項参照)。

②EG(エチレングリコール)地相場は1,000$/トンだが…

07 年の EG の価格は、大波乱を演じた。波乱の原因は、SABIC の事故(07 年 8 月)。事故後急騰を続けた EG は 11 月に 1,650$/トンまで上げ、年初比 2 倍までかけ上った。年が明けて 08 年に入ってからは、プラント修理も終わり、稼働率も上昇。つれて 2月には 1,000$/トン迄急落した。3月以降は原油・ナフサ高につれて 1,100 ~ 1,200$/トン迄戻しているが、地相場は 1,000$/トンレベルと見られ、なお波乱はあろう。

繊維トレンド 2008年 7・8月号24

海外動向

国別 設備 生産 輸入 輸出 国内消費 日本 1,500 1,254 35 317 972 台湾 5,000 4,416 0 2,098 2,318 韓国 5,900 5,645 0 3,011 2,634 中国 11,660 7,398 6,016 0 13,414 タイ 2,640 2,247 2 1,487 762 インド 4,780 2,800 12 10 2,802

(注)インドネシア、マレーシアはデータ未公表 出所:アジア工業白書2007

単位:千トン

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 960$/トン(5月) 07年最安値 820$/トン(11月)

出所:日経商品情報

P T A相場 PTA Market Price

($/t)

図表 18 東南アジアの PTA相場

国別 設備 生産 輸入 輸出 国内消費 日本 910 754 18 167 605 台湾 2,225 1,704 217 1,177 744 韓国 885 882 491 245 1,128 中国 1,942 1,798 4,802 2 6,598 タイ 443 310 192 118 384 インド 920 640 99 21 718

単位:千トン

(注)インドネシア、マレーシアはデータ未公表 出所:アジア化学工業白2007

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

1,200

1,300

1,400

1,500

1,600

1,700

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 1,650$/トン(11月) 07年最安値 840$/トン(1月)

出所:日経商品情報

E G 相 場 EG Market Price

($/t)

図表 19 東南アジアの EG相場

(参考資料)アジア主要国の PTA需給(2007) (参考資料)アジア主要国の EG需給(2007)

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25繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

③CPL(カプロラクタム)最高値圏維持の公算、ベンゼン高が閂

ナイロン繊維やナイロン樹脂の原料となる CPLは、下期、最高値圏を維持する公算が大きい。指標となる中韓台向け価格が需給の引き締まり

を背景に強張っており、粗原料のベンゼンが 4 月以降、1,200 ~ 1,350$/トンと 2 年振りの高値となり、CPL の安値玉は全く姿を消している。タイヤコードなど産業用途向けの需要は好調な

ので、ベンゼン高と合わせ、需給環境が CPL 価格を最高値圏に維持する公算が大きい。

④AN(アクリロニトリル)需給しっかりで最高値更新、2,000$/トン突破

アクリルステープルや ABS 樹脂の原料となるANの下期価格は、アジア市場において最高値圏で推移し、更に小幅上昇する見通し。原油・ナフサが高く、主原料のプロピレンも値上がりが濃厚。

需給は引き締まった状況が続く。アジア向け価格は、06 年末にプロピレン安を受

けて 70$値下がりしたものの、3 月からは切り返して 1,600$/トン台を回復したあとは、右上がりの上昇曲線を描いた。年明け後、一時、下押す場面もあったが、4 月以降は原油高に連動、2,000$/トンを突破した。PTA と異なり、世界需要はここ数年、年間 500 万トン台で横ばい。「成長しないため魅力がなく新規参入がない」上、ANは初期投資が大きく、参入障壁が高い。生産設備には、年産 1 万トン当たり 20 億円(日産トン当たり 20 万円)程度の投資が必要とされる。有害な排ガスや排水を処理する公害防止設備にもコストがかさむ。このため世界の AN設備もここ数年 580万トンで増設がない。PTA と違い、原油高に連動して相場も動いてい

る。アジア市場のスポット価格は、過去 6年間で 3倍になった。その上、需要のすそ野の広がりも価格動向を決める要素だ。AN の 40 %は家電向けABS 樹脂用であり、収益性が繊維より高い。PTAに比べ、需要家からの値下げ圧力が強くなく、値上げしやすい環境にあると考えられる。

国別 設備 生産 輸入 輸出 国内消費 日本 500 467 0 234 233 台湾 280 257 464 1 720 韓国 265 268 40 61 247 中国 338 296 475 0 771 タイ 115 110 5 47 68

(注)インドネシア、マレーシアはデータ未公表 出所:アジア工業白書2007

単位:千トン

700

900

1,100

1,300

1,500

1,700

1,900

2,100

2,300

2,500

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 2,520$/トン(11月) 07年最安値 2,280$/トン(2月)

出所:日経商品情報

C P L 相 場 CPL Market Price

($/t)

図表 20 東南アジアのCPL相場

(参考資料)アジア主要国のCPL需給(2007)

国別 設備 生産 輸入 輸出 国内消費 日本 742 743 36 170 609 台湾 470 484 154 139 499 韓国 520 530 131 185 476 中国 1,122 1,096 436 2 1,530 タイ 0 0 146 0 146

単位:千トン

出所:アジア工業白書2007

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 1,925$/トン(11月) 07年最安値 1,575$/トン(1月)

出所:日経商品情報

A N 相 場 ($/t)

AN Market Price

図表 21 東南アジアの AN相場

(参考資料)アジア主要国の AN需給(2007)

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[3]合 繊原燃料高、製品価格への転嫁不可欠

下期も、原燃料高の製品価格への転嫁が合繊ファイバー業界の最大の課題となろう。既に、合繊素材はアジア市場が一体化しており、差別化品を主体に高価格、高スプレッドをキープしている日本のメーカーも、原燃料高の製品価格への転嫁が不可欠となっている。そもそも、日本国内はもちろん東南アジアの合繊需給ギャップ解消に向けた努力が水泡に帰する恐れのある直接の原因は、中国の合繊設備の過剰にある。中国紡織工業協会がまとめた「中国の主要繊維

生産高」を見ると、07 年のポリエステルファイバーの生産量は 1,918 万トンで、日本の 41 倍になり、世界の実に 6 割強のシェアを有する。ほんの10 年前、中国のポリエステルファイバーの生産量は 180 万トンで、日本の 2倍に過ぎなかった。日米欧メーカーは、82 年頃から過剰設備の削減

を進め、過剰解消に成功したのも束の間、「過剰は中国に移転」した。中国での巨大な過剰が解消できなければ、日本はもちろん、東南アジアひいては世界の需給ギャップ解消に向けた努力も意味はない。

以下、合繊主要品種について、下期の東南アジア市況を展望する。

①P-FY(ポリエステルフィラメント)原料高転嫁進み、12年振り高値更新

中国の生産増で、原燃料高を転嫁するための値上げは限定的で、東南アジア市場での市況の改善が進んでいない。昨年 7 月以降、東南アジアのP-FY 相場(150d DTY)は 1.5$/kg の水準で推移していたが、ようやく 5/6 月積から 20¢/kg の価格転嫁に成功し 1.7$/kg と 96 年以来 12 年振りに高値を更新した。先にも見たように、原料(PTA ・ EG )価格が、

原油・ナフサ高をテコに 1 年半振りに 1,100$/トン台に乗せ、なお先高感が強いため、ファイバーメーカーの市況改善努力はまだまだ続く。95 年の高値 2.57$/kg を目指す。戦略的には衣料用途の苦戦が続く中で、産業用途への傾斜がますます強まりそうだ。日韓台及びタイでそのスピードが加速してきた。なお、世界の 07 年の P-FY 生産量は、1,818 万トンで、うち中国が 65 %の 1,178 万トン。インドが 8%の 139 万トンと続く。

繊維トレンド 2008年 7・8月号26

海外動向

年 日 本 中 国 合繊 ナイロン アクリル ポリエステル 合繊 ナイロン アクリル ポリエステル

1961 153 50 23 37 0 0 0 0 1971 1,165 310 296 400 45 10 10 0 1981 1,369 301 349 631 324 35 62 170 1991 1,497 279 366 729 1,489 149 132 1,129 2 1,521 267 375 751 1,734 161 144 1,367 3 1,442 240 355 716 1,872 188 149 1,494 4 1,475 227 380 732 2,119 218 206 1,825 5 1,510 215 374 743 2,282 250 274 1,759 6 1,517 213 393 724 2,712 271 297 2,050 7 1,562 210 421 731 3,527 314 331 2,758 8 1,487 191 421 684 4,407 314 412 3,652 9 1,418 184 375 665 5,235 347 414 4,439 2000 1,433 186 381 665 6,158 390 488 5,101 1 1,368 171 369 628 7,323 445 534 6,326 2 1,254 132 358 564 8,849 504 587 7,721 3 1,157 127 298 528 10,441 565 629 9,232 4 1,118 127 267 520 12,768 670 662 11,381 5 1,091 124 261 496 15,003 717 865 12,702 6 929 123 243 483 18,603 852 839 16,046 7 1,032 122 236 465 22,018 997 859 19,177

単位:千トン

出所:日本化繊協会

図表 22 日本と中国 主要合繊生産量の推移

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1.6

1.7

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 1.50$/kg(7月) 07年最安値 1.40$/kg(1月)

出所:ITS営業月報より筆者作成

($/kg)

図表 23 東南アジアの P-FY 相場(150d DTY)

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27繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

②P-SF(ポリエステルステープル)下期は綿花相場に連動して上げるか?

P-SF は値動きの乏しい展開が続いている。活況とはしばらく無縁だった P-SF 相場は、06 年 9 月、PTA・EG高に突如反応して 10年振りに 1.45$/kgへ上伸したものの、すぐに往って来い相場となり、その後は 1.2 ~ 1.3$/kg のボックス相場となった。08 年に入っても、原料高には反応鈍く、4月までには 1.35$/kg の出来値一本が続いていたが、5月積

からようやく 5¢/lb 上がり 1.4$/kg となった。下期以降も P-SF が目立って値を戻す展開は考えにくいが、綿花先物にようやく投機筋の買いが入り、70~ 80¢/lb 水準まで上げてきているため、綿花相場につられて P-SF も動意付くかもしれない。なお、07 年の世界の P-SF 生産量は、1,260 万トンで、うち、中国がシェア 58 %の 729 万トン。インドはシェア 7 %ながら、84 万トンを生産し、米国を抜いて世界第 2位の生産国となった。

国 別 生産能力 A 生産量 B 輸入 C 輸出 D ミル消費 B+C-D 稼働率 B/A

05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年

日 本 433 433 427 282 270 262 91 94 103 40 39 37 333 325 328 65 62 61

韓 国 1,492 1,492 1,193 866 730 705 85 110 93 277 236 222 674 604 576 58 49 59

台 湾 2,203 2,203 1,869 1,275 1,185 1,223 13 9 9 597 562 562 691 632 670 58 54 65

中 国 8,832 12,367 14,679 7,848 9,913 11,780 296 273 254 261 400 757 7,883 9,786 11,277 89 80 80

ASEAN 1,530 1,530 1,606 1,289 1,256 1,241 55 118 96 729 750 782 615 624 555 84 82 77

イ ン ド 1,096 1,396 2,022 1,020 1,208 1,387 135 109 106 80 164 176 1,075 1,153 1,317 93 87 69

パキスタン 124 124 124 80 80 94 32 34 30 0 0 0 112 114 124 65 65 76

計 15,710 19,545 21,920 12,660 14,642 16,692 707 747 691 1,984 2,151 2,536 11,383 13,238 14,847 81 75 76

単位:千トン、%

出所:日本化繊協会

図表 24 アジア地域の P-FY 需給

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 1.35$/kg(7月) 07年最安値 1.20$/kg(4月)

出所:ITS営業月報より筆者作成

($/kg)

図表 25 東南アジアの P-SF 相場(綿混用)

国 別 生産能力 A 生産量 B 輸入 C 輸出 D ミル消費 B+C-D 稼働率 B/A

05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 日 本 290 290 290 214 213 204 11 14 17 45 47 44 180 180 177 74 73 70 韓 国 608 608 608 523 516 535 3 4 3 417 428 438 109 92 100 86 85 88 台 湾 982 982 906 732 613 550 9 8 6 567 504 361 174 117 195 75 62 61 中 国 5,302 7,951 9,213 4,853 6,133 7,288 346 262 201 217 294 398 4,982 6,101 7,091 92 77 79 ASEAN 1,190 1,190 1,233 963 967 886 59 69 55 411 432 411 611 604 530 81 81 72 イ ン ド 680 1,117 1,117 605 730 836 16 15 15 63 97 143 558 648 708 89 65 75 パキスタン 629 629 869 475 495 690 23 25 20 0 0 0 498 520 710 76 79 79 計 9,681 12,767 14,236 8,365 9,667 10,989 467 397 317 1,720 1,802 1,795 7,112 8,262 9,511 86 76 77

単位:千トン、%

出所:日本化繊協会

図表 26 アジア地域の P-SF 需給

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繊維トレンド 2008年 7・8月号28

海外動向

③N-FY(ナイロンフィラメント)3$/kgの壁突破。16年振り3.25$実現も強い

N-FY の下期価格は 3$/kg を固めて強基調で推移しそうだ。原料 CPL 価格が最高値圏で推移しており、需要も産業用中心に好調だ。日本国内では、自動車関資材向けなどの高付加価値品へと生産シフトを進めており、衣料用が中心の海外品と競合することが少ない。それと何よりもポリエステル

と異なり、アジア地域の需給がバランスしており異常な供給過剰となっていない。なお、世界のナイロンの 07 年の生産は N-FY は

353 万トン、N-SF 31 万トンの合計 384 万トン。うち、中国が 98 万トンで、とうとうアメリカの 97万トンを抜いて、世界第 1 位の生産国となった。中国は、これで P-FY、P-SF、アクリル、ナイロンと主要品種すべてで、世界最大の生産国となった。

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

2.6

2.8

3.0

3.2

3.4

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 3.00$/kg(5月) 07年最安値 2.90$/kg(8月)

出所:ITS営業月報より筆者作成

($/kg)

図表 27 東南アジアのN-FY 相場(75SD-FOY)

国 別 生産能力 A 生産量 B 輸入 C 輸出 D ミル消費 B+C-D 稼働率 B/A

05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 日 本 189 189 205 118 118 117 25 27 25 24 24 25 119 121 117 62 62 57 韓 国 207 207 186 175 163 144 27 24 23 61 65 61 141 122 106 85 79 77 台 湾 567 567 486 416 414 385 28 28 27 203 211 204 241 231 208 73 73 79 中 国 748 1,005 1,293 658 804 964 250 267 223 79 97 128 829 974 1,059 88 80 75 ASEAN 255 255 258 101 100 130 58 60 65 30 38 52 129 122 143 40 39 50 イ ン ド 88 108 92 80 88 92 31 40 44 10 11 9 101 117 127 91 81 100 計 2,054 2,331 2,520 1,548 1,687 1,832 419 446 407 407 446 479 1,560 1,687 1,760 75 72 73

単位:千トン、%

出所:日本化繊協会

図表 28 アジア地域のN-FY 需給

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29繊維トレンド 2008年 7・8月号

下期の市況を読む

④A-SF(アクリルステープル)原料高・羊毛高で強含み、生産品種は特化品へシフト加速

07 年下期以降、原料 AN 高と共に右上がりに続騰していた A-SF 相場は、4 月に入って史上最高値となる2.45$/kgを付けた。原料ANが 2,000$/トンを突破したまま高止まりしており、加えて、日本・タイ・台湾など A-SF 輸出国の通貨高で、アクリルメーカーも強気の offer を出している。2.5$/kg の新値を取りに行く可能性もある。A-SF と競合する豪州羊毛は、06 年以来の安値水

準まで下げているものの、アクリル紡績糸の日本

国内相場が 2/32 で 650 円/kg と 86 年以来の高水準にあり、A-SF の相場を押し上げる要因となっている。世界の A-SF 生産は、05 年 264 万トン、06年 252 万トン、07 年 241 万トンと減少基調で推移している。事業採算的には、ANが一本調子に上がる一方で需要は今一つ振るわない状況が続いており、非常に厳しい局面にある。特に、レギュラー品が苦戦続きで、メーカーは特化品へのシフトを加速させている。今後とも採算重視の姿勢を強めることになりそ

うだ。

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

00.1 01.1 02.1 03.1 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1

(注)07年最高値 2.41$/kg(10月) 07年最安値 1.95$/kg(1月)

出所:ACTEM営業月報より筆者作成

($/kg)

図表 29 東南アジアの A-SF 相場

国 別 生産能力 A 生産量 B 輸入 C 輸出 D ミル消費 B+C-D 稼働率 B/A

05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 05年 06年 07年 日 本 326 326 326 261 243 236 1 1 1 233 238 228 29 6 9 80 75 72 韓 国 145 58 58 95 47 50 7 7 6 86 38 36 16 16 20 66 81 86 台 湾 146 158 158 140 149 137 6 1 1 114 131 111 32 19 27 96 94 87 中 国 794 1,065 1,165 798 830 859 465 337 279 3 4 3 1,260 1,163 1,135 101 100 74 ASEAN 73 97 97 74 81 97 120 71 65 40 79 75 154 73 87 101 84 100 イ ン ド 149 127 127 118 105 77 12 11 10 13 3 3 117 113 84 79 83 61 計 1,633 1,831 1,931 1,486 1,455 1,456 611 428 362 489 493 456 1,608 1,390 1,362 91 79 75

単位:千トン、%

出所:日本化繊協会

図表 30 アジア地域の A-SF 需給