地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源...

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地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び 社会的影響の予測に関する研究(1) 誌名 誌名 水利科学 ISSN ISSN 00394858 巻/号 巻/号 328 掲載ページ 掲載ページ p. 35-57 発行年月 発行年月 2012年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び社会的影響の予測に関する研究(1)

誌名誌名 水利科学

ISSNISSN 00394858

巻/号巻/号 328

掲載ページ掲載ページ p. 35-57

発行年月発行年月 2012年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量

及ぴ社会的影響の予測に関する研究(1 )

要旨

大平一典

目次

I はじめに

2 本研究の「推計モデル」の全体構成

3 推計対象とした主要農産物

4 本研究に使用した各種統計データ等

5. 主要農産物生産量及び潅概用水需要量の推計方

6. ["作付面積J,["濯概面積J,["平均的単収」の将来

推計方法

7. ["作付面積」と「濯淑面積」の推計結果

8. i墓j段用水の将来需要量の推計結果

9. 主要農産物 4品目の将来生産量の推計結果

10. おわりに

食料の多くを海外からの輸入に頼っている日本は,世界各国が気候変動によ

って蒙る様々な影響と無縁ではない。本研究は,気候変動による世界の水資源

量と食料生産に関する推計モデルを作成し,世界の水の安全保障の観点から我

が国の技術的な貢献の在り方について検討することを目的とするものである。

農産物の生産量に関する本推計モデルは,気温上昇による耕作品種の転換や

洪水による減収が反映されていないこと 「実際の収穫量は農業用水の充足度

のみに左右される」との仮定が前提となっていることなど改良すべき点はある

(中央大学理工学部特任教授)

水利科学 No.328 2012

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が,気候変動による降雨量の変化や将来の水資源開発を含む濯概用水の増減が

生産量の推計に反映できるものとなっている点が特筆すべき特徴である。

1. はじめに

2007年に公表された「気候変動に関する政府間パネル (IPCC:

Intergovernmental Panel on Climate Change) Jの第 4次報告書1)は, C02等

の排出に起因する地球の温暖化によって気温や海面水位などの変化と干ばつ・

洪水などの極端な気象現象のリスクが増加すること,そして,水資源の確保が

困難になる地域が生じるなど地域的あるいは社会的な弱者に大きな影響と脆弱

性が表れることを指摘した。

水と食料は,人間の生命の維持に欠くことができないものであり,健康で安

定した生活の基礎として重要な物資である。世界の安定と持続的発展のために

は,将来にわたって良質な水と十分な食料が合理的な価格で安定的に供給され

ることが極めて重要であるが,最近の食料をめぐる国際情勢をみると,

①途上国を中心に世界人口が増加し, BRICs (ブラジル,ロシア,イン

ド,中国の 4か国)を始めとする国々が急速な経済成長を遂げる中で食

料に対する需要が量的・質的に大きく変化している

② 原油価格の高騰に呼応してバイオ燃料の原料となるトウモロコシ等の穀

物需要が増加し食料用需要との奪い合いが懸念されている

③ 地球温暖化により,世界各地で異常気象が頻発し,食料供給に影響を及

ぼしている中で,地球温暖化に起因する大規模な気象変動が世界の水資

源量や農業生産に影響を及ぼすことが懸念されている

などの問題点や懸念が顕在化しつつある2)。

このような中にあって,我が国は カロリーベースで約 6割の食料を海外か

らの輸入に頼っており,近年提唱されているバーチャルウォーターの概念から

見るならば我が国の豊かな生活は海外の水に大きく依存している。したがっ

て世界の水と食料に関する将来の動向は,日本の安全保障にとって極めて重

要な意味を有していると言える。

以上のような背景を踏まえ,本研究は,人口増加や経済発展による将来の水

需要量と世界各国の気候変動による水資源量の変化に対応した都市・工業・農

業の各用水供給量,さらに,将来の穀物の生産と消費の状況を推計するモデル

水利科学 NO.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源景及び社会的影響の予測に関する研究 (I) 37

を構築することにより,世界の水の安全保障の観点から我が国の技術的な貢献

の在り方について検討することを目的とするものである。

2. 本研究の「推計モデル」の全体構成

本研究における「推計モデル」は 各種の統計データを用いて2050年までの

水の需給量や穀物の生産量等を推計するものであるが,大別すると 5つのパー

トから構成されている(図 1)。

本稿では,このうち「主要農産物生産量及び、農業用水需要量推計モデル」に

ついて報告するものである。

3. 推計対象とした主要農産物

主食あるいは家畜の飼料として生産量の多い「米j,r小麦j,rトウモロコ

シJ.消費カロリー量が比較的大きい植物性油の主原料である「大豆」の 4つ

の農産物を推計対象とした。

なお, rジャガイモj,rサツマイモ」等のいも類については,生産量は比較

的大きいが,消費カロリーに占める比率が小さいことから推計対象とはしなか

った。

4. 本研究に使用した各種統計データ等

1) 本研究に適用した気候変動の将来予測シナリオ

気候変動の将来予測シナリオとしては,気候変動枠組条約における議論の経

緯,特に, C02を大量に排出している米国や経済発展が目覚ましい BRICsな

どの国々が C02の削減に消極的な姿勢を見せていることや,依然として C02

の排出量が増加している現状を勘案し IPCCの温室効果ガス排出シナリオ

(SRESシナリオ)の rAlBjを採用した。

2) 水資源賦存量

水資源賦存量データは,東京大学生産技術研究所の沖大幹教授の研究グルー

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図 1 本研究の[推計モデルJの全体構成

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及ぴ社会的影響の予測に関する研究 (1) 39

表 1 2000年の生産量 表 2 2000年の消費カロリー(世界平均)

農作物比率

食 ロロロ消費カロリー 比率

(百万トン) (%) (Kcal!人目) (%)

米(水田)注) 599.3 22.3 米(水田) 541. 7 19.9

小麦 585.5 21. 8 小麦 544. 7 20.0

トウモロコシ 592. 1 22.0 トウモロコシ 131. 0 4.8

その他穀物 283.3 10.5 大豆 4.4 O. 2

大豆 161. 4 6.0 いも類 146.9 5.4

ジャガイモ 327.3 12.2 植物性油 246.4 9.0

サツマイモ 139.0 5.2 その他植物性食物 656.5 24. 1

合計 2,687.9 100.0 牛肉 39.1 1.4

豚肉 113.2 4.2 注)["米(水田)Jとは, ["水田から収穫 家禽 43.4 1.6 された(もみ殻の付いたり状態。 牛乳(除くバター) 119.7 4.4

その他動物性食物 139. 7 5.1

合計 2, 726. 6 100. 0

プが 1AIBj シナリオに即して算出した 1990年~2050年の世界各国別の「月別

降水量j,1月別蒸発散量j,1越境流出量」及び「越境流入量」の計算データの

提供を受け,モデルの入力値とした。

3) 主要農産物生産量及び農業用水需要量推計に使用した各種データ等

-農業用水の需給データ及び穀物生産と消費に関するデータ(耕地面積,穀

物生産量,単位面積当たりの収穫量,穀物消費量等)は国連の

AQUASTATとFAOSTATからそれぞれ入手した。

. IGDP jと「人口」の将来予測値は, CIESIN (Center for International

Earth Science Information Network, EARTH INSTITUTE/ Columbia

U niversity) のものを用いた。

4) r予測モデルjの対象国

CIESINには, 184の固と地域 (1セルビァ」と「モンテネグロ」を 1か国と

カウント)が掲載されているが, IGDP jの数値が記載されていない国や極端

に小さく予測されている国(エリトリア,西サハラ,グルジア等)と

AQUASTATに取水量データがない国(香港,マカオ,サモア・仏領ポリネ

シア・レユニオン等の島興国)の合計18か国のデータは,各種相関式の推定及

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表 3 使用した各種データ等

区分 項 目 出 典 データ年 備考農作物の 生産量 FAOSTAT 1970-2010 実綴値生産関係 作付面積 FAOSTAT 1970-2010 実績値

単収 FAOSTAT 1970-2010 実績値j藍j段面積(全農地合計) AQUASTAT 1990-2000 実績値作物別j蓬j既農地面積 AQUASTAT 2000 実績値

用水関係 表流水からの取水量AQUASTAT 1980-2008 実績値(生活,工業,農業)

地下水からの取水量AQUASTAT 1980-2008 実績値及び脱塩淡水製造量

作物別月別濯瓶パターン AQUASTAT 2000 実績値年間降水量 AQUASTAT 1982-2008 実績値

農作物の 食料供給量 FAOSTAT 1970-2007 実績値用途関係 加工・飼料等供給量 FAOSTAT 1970-2007 実績値

輸入・輸出・国内供給 FAOSTAT 1970-2007 実績値人口 CIESIN 1990-2100 予測値

基本指標 GDP CIESIN 1990-2100 予測イ直国土面積 AQUASTAT 2007 実績値

び本研究の予測モデルには使用しないこととした。

これら 18か国・地域の「人口」の世界的シェアは, 1990年時点.2050年将来予測値ともに0.4%弱,また, rCDpjの世界的シェアは, 1990年時点で0.5%弱, 2050年将来予測値では1.7%弱であり,世界的に見るとごく小さく,全体に与える影響は小さい。

以上より,最終的に166か国を対象とした。

5) 対象166か国の「地域区分Jと「経済的区分J

経済規模が水使用や農業生産と密接な関連があることから,気候変動枠組み条約の構成も参考にしつつ,経済発展状況及び現況の水利用状況を考慮して「先進国j,r経済発展国j,r産油国jr農業国」の 4つの経済的区分を設定した(表4)。

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び社会的影響の予測に関する研究(1) 41

表4 経済的区分

先進国 経済発展国 産油国

イギリス オランダ ベラルーシ スロノTキア サウジアラビア

オーストリアルクセンブルグ ブルガリア 中華人民共和国 アラブ首長国連邦

ベルギー ノルウェー ルーマニア インド イラン

カナダ ポルトガル ロシア ブラジル クウェート

デンマーク スペイン ウクライナ 大韓民国 エクアドル

フィンランド スウェーデン クロアチア メキシコ ベネズエラ

フランス スイス スロベニア インドネシア ノてーレーン

ドイツ アメリカ合衆国 チェコ 南アフリカ アルジエリア

ギリシャ 日本 ハンガリー イスラエル イラク

アイルランドオーストラリア ポーランド リピア

アイスランドニュージーランド カタール

イタリア オマーン

5. 主要農産物生産量及び濯概用水需要量の推計方法

1) 農産物生産量の推計方法の基本

農作物の収穫量に影響を与える主要な要因としては ①日照・気温・降雨量

等の「自然条件j.②収穫量,病虫害への耐性,自然条件への適合性に関連す

る事項としての「品種j.③「濯i既」の有無,④「施肥」の有無と量,⑤耕作

形態(人力,機械化)の 5つであるが.r自然条件」と「濯i既」の有無の影響

が支配的要因であると考えられる。

もし,必要十分な「降水量」があり.r品種j. r施肥」等その他の条件が同

じであれば,結果的に「濯概農地」と「非濯i既農地」の単位面積当たりの収穫

量(以下.r単収」と称する)は同じになるはずであるが,自然由来の降雨量

(以下. r天水」と称する)のみで必要な時期に必要な量の農業用水を安定的に

確保することが困難で、あるが故に,古来より「濯概」が行われて来たわけであ

る。

したがって,生産量を推計するためには,農地を「濯蹴農地」と「非濯瓶農

地」に区分する必要がある。

水利科学 No.328 2012

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j墓j段作付面積を AHi,i蓮j既農地単収を Yi,非濯j既作イ寸面積を AHη,非濯j既

農地単収を Yη,生産量を Ptとすると,これらの関係は次の (1)式で表すこと

ができる。

Pt= AHix Yi+ AHη×九(1)

( 1)式は,非常にシンプルなものではあるが, FAOSTAT統計における

「生産量」と「作付面積」は, I濯j既農地」と「非濯概農地」に区分されておら

ず合計量のみが示されている。そして, I単収」は,一期作・二期作の考慮も

なく,単純に「生産量」を「作付面積Jで割った値である。さらに

AQUASTAT統計における濯j既に関するデータは,中華人民共和国・インド

等開発途上国又は農業国のみで,アメリカ合衆国や日本等先進国については掲

載されていないことから,統計値からは合理的な「濯蹴農地単収」と「非濯j既

農地単収」を設定することはできない。

したがって,農作物の生産量と農業用水需要量を算出するためには,いく

つかの仮定と多くの工夫を必要としたが,まずは,農作物の栽培に必要な用

水量が100%満たされている状態の単収を『期待濯蹴農地単収j(Yo) という

概念で定義し, I実際の収穫量は農業用水の充足度のみに左右される」と仮定

する。

ここで,濯j既農地及び非濯概農地の「農業用水充足度J(以下, n墓概水スト

レス』及び『天水水ストレス』と称する)を日.s, FAOSTATの収穫量を

PFAO,作付面積を AHFAO,米の二期作を考慮した平均的単収を YFAOとする

と,(1)式は次 (2)式のように表すことができる。

PFAO= AHFAOX YFAO= AHixれ×日 +AHηxYo X s (2)

(ただし, a, s孟1.0)

2) i濯減水ストレスjと「天水水ストレスj

農作物 1トンを生産するために必要な農業用水量(以下, r穀物水消費原単

位』と称する)を cwとすると, (2)式の α'sは次の (3)式及び (4)式

のように表すことができる。

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源最及び社会的影響の予測に関する研究 (1) 43

_w.lR+ WPRi一 (WEViXy) 日 (i蓋j段水ストレス)ー (3)

AHiX YOX CW

ただし,WIR 濯蹴期間内の濯瓶農地への濯j既用水供給量

WPRi 耕作期間に濯概農地に降った降水量の総量

WEVi 耕作期間の濯淑農地からの蒸発散量の総量

y 係数(農産物の生産に寄与しなかった比率)

1VPRn一 (WEVnX y) s (天水水ストレス) fY Pf{~TT .~::~.~n~~T:! (4)

AHnX YoxCW

ただし WPRn 耕作期間に非濯蹴農地に降った降水量の総量

WEVn 耕作期間の非濯j既農地からの蒸発散量の総量

y 係数(農産物の生産に寄与しなかった比率)

本研究で使用している「水資源賦存量」には IAIBJシナリオに即して算出

された 1990年~2050年の世界各国別の「月別降水量J , I月別蒸発散量」が与え

られているので,単位面積当たりの「月別降水量」と「月別蒸発散量」から濯

瓶農地及び非濯概農地への「天水量」を算出することができるが,この αとF

の値は,気候変動による影響を反映したものとなっている。

降水量は,地表からの浸透によって地下水となる水量もあることから降水量

の全量が農作物の生産に寄与するものではない。一方,与えられた蒸発散量

は,時間をかけて徐々に蒸発する量の総和であり,蒸発散量のすべてが農作物

の生産に寄与せずに失われるわけで、もない。

しかしこの寄与の程度を合理的に算出することができなかったので合理性

に欠ける面もあるが,次善の策として,本推計モデルでは (3)式及び (4)式

に示したように,降水量の全量を有効量とし,蒸発散量の一部を無効な水量と

してカウントした。

3) r穀物水消費原単位j

日本は,降水量が多く濯j既設備が整備されていることを考慮すると,全作付

農地は濯i既農地,かつ j蓮j既水ストレス値はほぼ1.0以上と考えることができ

ることから, IFAOSTAT単収=濯i既農地単収=期待濯概農地単収」となる。

そこで,東京大学生産研究所の沖大幹教授が提案している日本の「穀物水消

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費原単位J(米:3, 600m3/ t.小麦:2, 000m3/ t, トウモロコシ:1,90仇ポ/t,

大豆:2,500m3/t) を使用して,各国別・農産物品目毎の「穀物水消費原単

位」を設定した。

「穀物水消費原単位」は,次式で定義されている。

穀物水消費原単位=1/単収×必要水量×生育期間×歩留り率

品種や耕作形態が異なれば必要水量も異なるはずであるが,各国の「穀物水

消費原単位」に関するデータはほとんどないことから,次善の策として「必要

水量と生育期間と歩留り率が同じである」と仮定すると, N国の「期待濯概

農地単収JNY.。と「穀物水消費原単位JNCWは次の (5)式で表すことができ

る。

一日本CWX日本YNCW= CJ_""~"~ , <3/+"0 (5) N10

(5)式を (3)式と (4)式に代入すると,次の (6)式及び (7)式のように

なる。

日(濯蹴水ストレス)

s (天水水ストレス)

1VIR+ WPRi- (WEViX y)

AHiX日本CWX日本L

WPRn一 (WEVηXy)

AHη×日本CWX日本Y。

(6)

(7)

日'sのイ直は, この (6)式及び (7)式から以下に示すように国別・年別に

算出することができる。なお, i穀物水消費原単位」に対応する日本の「期待

濃概農地単収」の値は, 2000年~201O年の平均値を与えた。

4) r天水量」

AQUASTAT統計には,発展途上国等の月別の濯瓶パターンが示されてい

る(表5)。

日本,アメリカ合衆国等の先進国には,表5に示されるパターンが掲載され

ていないので同じ気候帝に属する国を参考に設定した。

また, (6)式と (7)式に示した濯概農地と非濯瓶農地の天水量は,表 5の

濯蹴期間に対応する水資源賦存量計算データの「月別降水量」と「月別蒸発散

水利科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び社会的影響の予測に関する研究 (1) 45

表 5 2000年の作物別-月別濯瓶パターンの例

Irrigated

BANGLADESH area

(1000 ha)

Rice目。ne 5671

Rice-two 5671

All irrig,αted cγops

(mm/年)

4,000

~ 3,000 iiIin 話量ト-

~ 2,000 ω 〈

コg1000

坦事EtiIK

Crop area as percentage of the total area

equipped for irrigation by month

J F M A M J A S 0 N 0

76 76 76 76 76

76 76 76 76 76

969696965 5808080808096

(All irrigated crops合計890)

• • • • •

1,000 2,000 3,000 4,000

「水資源賦存量J計算値 (mm/年)

図2 年間降水量 (1990年~2000年平均値)の相関図

量」から算出したが,計算値の年間降水量と AQUASTAT統計による国別の

実績年間降水量についての 1990年~2000年の平均値の比較を行い,実績と合う

ように補正した(図 2)。

さらに,計算値は,一つの国全体の総和の値となっていることから,例えば

ロシアや中華人民共和国のように国土面積が大きく気候条件が大きく異なる地

域から構成される国の数値を耕作地に適用することは不適当で、あると考え,耕

作地に相当すると考えられる地域の実績年間降水量に合うように値を補正し

た。加えて,中華人民共和国の濯概パターンは,東北部,西部,南東部の 3地

域に区分されているが,降雨パターンの違いを考慮して,南東部には隣接する

ベトナムの降雨パターンを適用した。

水利科学 No.328 2012

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表6 逆算した yの値

米(水田) Q 10

小麦 0.35

トウモロコシ 0.50

大豆 0.55

なお,実際の二期作は,前年に田植えをして収穫は翌年となるが,計算モデ

ルでは同じ年に田植えから収穫までを行うように取り扱った。

また, (6)式と (7)式に示した係数 yは,本来であれば気候帯別・作物品

種別の異なる値となることが想定されるが,合理的に決定するデータがないこ

とから次善の策として,世界最大の農産物生産国であることi-墓j既施設が整っ

ていることから全作付農地は濯概農地,かつ i蓋i既水ストレス値はほぼ1.0で

あると考えられること, 2000年の年間降水量が約920mmで166か国中84位と

中位にあることを考慮してアメリカ合衆国の濯瓶水ストレス値がほぼ1.0とな

るように逆算して設定した(表 6)。

5) i濯海用水供給量」

表5には,月別に全穀物及び、主要作物の濯概用水供給ポイントが示されてい

る。このポイントを使用して国別・主要穀物別の「濯概用水供給量」を算出し

た。バングラデシュの例では次のとおりとなる。

Rice-one給水量=年間濯蹴用水供給量x80/890 x 76/80 x 5か月

Rice-two給水量=年間濯概用水供給量x96/890 x 76/96 x 5か月

ただし 2000年~201O年の収穫量の実績及び、将来の「濯i既水ストレス」計算

値を考慮して若干の調整を行った(表 7)。

6) i期待濯漉農地単収jと農産物の将来生産量

「期待濯蹴農地単収」は, (2)式から次の (8)式で求めることができる。

ρμ

O一×

h一民

×一

A

O

一+

品一

α

H一×

A一同一AL

(8)

(ただし, 日 's三五1.0)

この (8)式で計算した「期待濯瓶農地単収」は,水資源賦存量の計算値を

水市j科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び社会的影響の予測に関する研究(l) 47

表7 主要国の農産物別濯獄用水供給量比率の例

国名 米(水田) 小麦トウモ

大豆 その他 合計ロコシ

日本 350 10 5 164 530

中華人民共和国 1,300 1,215 15 15 41 2,586 ノfングラデ、シュ 760 75 5 。 50 890

インド 1,930 860 20 5 74 2,889 アメリカ合衆国 70 200 200 167 。 637

ブラジル 350 45 230 5 II 641

使用しているものの,この計算値や係数 yなどによる実際との差異などを反映

したうえで FAOSTAT統計に示された生産量と適合するように逆算した値と

なっている。

すなわち,過去の実績への適合には優れているが,将来の作付面積と単収の

推計値を基に (8)式で設定した「期待濯概農地単収JY.。を使って計算した将

来生産量は,気候変動による影響が反映されない(作付面積と単収の推計値か

ら計算した生産量になる)という問題を内在している。

そこで,将来の生産量の推計計算に使用する「期待濯概農地単収JFY,。は,

2000年の濯蹴給水量をベースに FAOSTAT統計値と適合するように計算した

2000年~201O年の値の平均値を用いることとした。

ただし平均単収の増加を設定した固にあっては,平均単収の2000年~2010

年の平均値との比率で増加させた。

将来の生産量の推計計算に使用する「期待濯概農地単収JFY.。は,次の式

(9) のようになる。

将来平均単収推計値FYo = 2000 -201 OAve YO X 市J.L.山 .IT?.-......一一 一噌《ですすよL 品 (9)

したがって,将来の生産量 FPは, (2)式と (9)式から次の (10)式のよ

うに表すことができる。

FP= AHiX FYoXα+ AHn X FYo X s (10)

(ただし, 日 , s三五1.0)

この(10)式は,作付面積と平均単収の将来推計値,気候変動による降雨量

水利科学 No.328 2012

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48

の影響$墓概用水の増減による効果を将来生産量の計算に反映できる推計式と

なっている。

「水ストレスjによる「収穫量jの減収効果

( 10)式により算出される「収穫量」は, I水ストレス」日 'sの値が小さく

(農業用水量が不足している状態)なると「収穫量」は減少することになるが,

「水ストレス」が1.0より小さくなってもある闘値まで、であれば生産量の減収は

緩やかで,関値を超えると生産量の減収が生じると考えられる。

日本における渇水調整の例で、は農業用水を一時期20%の取水制限をしたとし

ても生産量の減収への影響は小さいことが知られているが,この点を考慮して

農産物の収穫量と「水ストレス」との関係を図 3のように設定した。

7)

i蓋j既用水の将来需要量

( 10)式で「α=s = 1. oJとして求めた生産量は,十分な量の農業用水が与

えられた場合の生産量(以下, r期待生産量Jと称する)となるが, 2000年の

濯概用水量 (AW2000) と(10)式から計算した2000年及び将来の期待生産量

(FP20oo及び、FP将来)から次の (11)式で「濯蹴用水の将来需要量J(AW将来)

を算出した。

8)

)

EA

EA(

FP将来AW将来=AW2000X一一一一一一

FP2000

1.0

収穫量の減収比率

0.8 0.9 1.0

「水ストレス」による「収穫量」の減収効果

水ストレス値

図3

水利科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源最及びヰ士会的影響の予測に関する研究 (1) 49

6. I作付面積J, I濯概面積J, I平均的単収」の将来推計方法

1) 主要農産物4品目全体の生産状況

FAOSTAT統計値及ぴAQUASTAT統計値から将来の推計を行ったが,主

要農産物 4品目の「作付面積」と「平均単収」の推計にあたり,まずは穀物全

体の生産状況の推移を分析する。

分析結果の概要は,以下の通りである。

① 穀物全体の生産量は増加しているが,一人当たりの消費量は横ばいかや

や減少傾向にある(図 4,図 5)。

② 対象4品目別に見ると,生産量はいずれも増加している(図 6)。

特に, 2003年以降の「トウモロコシ」増加が著しいが,増加量の61%を

アメリカ合衆国と中華人民共和国が占めている。

③ 「作付面積」について見ると, Iトウモロコシ」と「大豆」はやや増加し

ているが, I米(水田)jと「小麦」はほぼ横ばいである(図 7)。

④ 「単収」についてみると,主要国では4品目ともに近年横ばい傾向にある

(図 8)。

2) i作付面積jの将来推計

以下に, I米(水田)jを例に推計方法を示すが, I小麦j,Iトウモロコシj,

「大豆」も同様の方法で推計した。

米の作付面積と関係があると思われる指標は 「米の消費量j,I人口j,

IGDP (1990年 US$換算)j, I国際取引相場価格」の 4つであるが,このうち

「国際取引相場価格」については 「取引相場価格」と作付面積を連動させた予

測手法が提案されてはいるが 2050年までの長期予測の信頼性・妥当性には疑

問があるので割愛し,前者 3つの指標との関係を分析した。

分析結果の概要は,以下の通りである。

①米を主食とする国のうち インドネシアなどは「消費量」と「作付面

積」の聞に正の相関関係が認められたが マレーシア・バングラデシュ

のように消費量が大きく増加しでも作付面積がほぼ横ばいの国もある。

また,日本,大韓民国,中華人民共和国の 3か国は,近年一人当たり

水平J科学 No.328 2012

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50

(百万トン)

2,500

2,000

1,500

1,000 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005

図 4 全世界の穀物全体生産量の推移 (1970年~2007年)

(gl人/日)

1,200

川一寸十J1,000

800

600

(年)

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年)

図5 全世界の一人当たり穀物消費量の推移 (1970年~2007年)

(百万トン)

1000

800

600

ほ三手民主:400

200

. _.-.-・-・0

b是正一ri:# V'.

J骨.・1一;.;,

";''V

,・、.ー ー-ー-・-・圃..._. .-

ì!.;~・『/;. 、・3

-ー._.

H ・H ・米 (水田)

一一-小麦

一一一トウモロコシー一大豆

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 (年)

図 6 166か国合計の主要 4 品目別の生産量推移 (1970年~2010年)

水利科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及ひ干土会的影響の予測に関する研究(I) 51

(百万ha)

300

250 , , 、_'rーー -.‘ 、ャ・ー、 '1、,-

200

出 t竺宝

…米(水田)

ーーー小麦

一一ートウモロコシ

ー一大豆

:::医院お半平戸~50 4 拝こニヰニ'

一・ー,.,.-

-、・

0 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 (年)

図 7 166か国合計の主要 4 品目別の作付面積推移 (1970年~20lû年)

(Hg/ha)

米(水田)100,000

:::::h-寸.1三 I._...J

40,000

20,000 ー、1,-ー1-甲

0 2000 2002 2004 2006 2008 2010

トウモロコシ120,000

100,000

80,000 " ・ー」ー-ー

ユ4三

:~:~~~ t.~t...J 川200020022004200620082010

小麦50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

…日本一一一中華人民共和国ーーーインド一一アメリカ合衆国

0 200020022004200620082010

一豆大40,000

30,000 '-1-._1.矛寸._J 守I、,

n

u

n

u

nunu

n

u

n

U

'

'

n

u

n

u

n〆白

4E

0 200020022004200620082010

図8 主要国の「単収」の推移 (2000年~2010年)

水利科学 No.328 2012

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GDPが増加するにつれて消費量が減少している。以上から, I消費量」

は将来推計の指標とはしなかった。

② 「人口」は, I消費量」との関係性が大きいと思料されるが,消費量と同

様の傾向を示したことから将来推計の指標とはしなかった。

③ タイ,イラン,アルゼンチン等では GDPが大きく増加しでも作付面積

はほぼ横ばいとなっていることから, IGDP (1990年 US$換算)Jは将

来推計の指標とはしなかった。

以上のように当初想定した 3つの指標は,作付面積の将来推計のための有効

な指標にはならなかったことから,次善の策として2000年~201O年の増減傾向

を延長する方法で将来値を設定することとした。

ただし,中華人民共和国は,米消費量の減少傾向を反映させるために人口が

減少に転じる2030年以降の「米(水田)Jの作付面積を人口減少比率で減少さ

せる設定を行った。

3) 2000年の「濯海面積Jの設定

AQUASTAT統計に濯j既面積が示されている国は,その値を採用した。統

計値が示されていない国のうち, I先進国」と経済力のある「産油国」は,濯

i既設備が整備されていると考えられることから,作付面積の全体を濯i既面積と

した。それ以外の「経済発展国JI農業国」は, FAOSTAT統計値を参考に

2000年の作付面積に対する濯蹴農地の比率を表8のように設定した。

4) r濯海面積」と「非i蓋海面積jの将来推計

-経済力が相対的に大きい「先進国」と「産油国Jについては,全作付面積

を「濯概面積」とした。

. I経済発展国」については,作付面積の増加分は「濯概面積」に加算し

減少分は「非濯概面積」から差しヲ|いた。

表8 2000年の作付面積に対する濯概農地の比率

一w

h

J

V

D

米一 麦一%%

3

A

U

J川

dvhJV

トウモロコシ 大豆

33% 25% 15% 25%

7](利科学 NO.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源最及び社会的影響の予測に関する研究 (1) 53

-経済力が小さい「農業国」については 作付面積の増加分は li蓮概面積」

と「非濯概面積」の面積比率で按分しそれぞれに加算した。減少分は「非

濯概面積」から差し51いた。

5) 米(水田)の「平均単収Jの将来推計

「平均単収」についてもいくつかの指標との相関関係を地域別に分析したが,

将来推計のための有効な指標を見いだせなかったことから,次善の策として

2000年~2010年の傾向を延長する方法で将来値を設定することとした。

7. r作付面積」と「濯瓶面積」の推計結果

「米(水田)Jの将来推計値は,全体的な横ばい傾向を反映してほとんど増加

しない推計となった(図 g,表 g)。

他の 3品目のうち, I小麦」は微増, I大豆」は世界最大の輸入国である中華

人民共和国の作付面積が2005年をピークに近年減少しているが,アルゼンチ

(百万ha)

180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 2000 2010 2020 2030 2040

ロ非;甚波面積

層濯漉面積

2050 (年)

図9 r米(水田)Jの推計「作付面積」

表9 主要4品目の推計「作付面積」と「濯獄面積」の倍率

~ 2050年/2000年 2050年/2010年

作付面積 濯j飯面積 作付面積 i産j既面積

米(水回) 1.04 1. 18 1.04 1. 04

小麦 1. 03 1. 21 1. 02 1. 01

トウモロコシ 1. 31 1. 79 1.11 1. 15

大豆 1. 53 1. 75 1.11 1. 08

水利科学 No.328 2012

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;:に λλ 斗 -j:::士;プー50

0 2000

! 一一小麦 l -一一卜ウモロコシ「-一大豆 |

2010 2020 20叩 2040 2050 (年)

図10 主要3品目の推計「作付面積」

表10 生産量の対全世界比率 (2000年)

国名トウモロコシ生産量 大豆生産量

対全世界比率(%) 対全世界比率(%)

アメリカ合衆国 42.5 46.5 中華人民共和国 17.9 9.5

ブラジル 5.4 20.3 アルゼンチン 2.8 12.5

ぷ口込 計 68.6 88. 9

ン,ブラジjレ,パラグアイ等の増加傾向を反映して2050年/2010年比で1.11

倍, 11. 2百万 haの増加となった。「トウモロコシ」は,アメリカ合衆国,中

華人民共和国等で増加傾向を反映して2050年/2010年比で1.11倍, 17.8百万

haの増加となった。(図10,表 9)。

「トウモロコシ」については,特に,肉類の消費量が増加傾向にある中華人

民共和国の増加量が大きい。また,最大の生産国であるアメリカ合衆国は,

2007年にバイオ燃料への原材料用途で作付面積を大きく増加させた(対前年比

22.5%増,増加面積643万 ha)が, 2008年には大きく減少し以降は微増とな

っている。さらに,アメリカ合衆国の品目別作付面積は,価格動向等によって

変動するものの全耕地面積はほぼ変化しないとの報告もある3)ことから作付面

積の上限値を設置したが このため2025年ころからは横ばい傾向の推計となっ

ている(図10,表 9)。

「大豆」と「トウモロコシ」の主要生産国は,特定の国に偏っており(表

10) ,生産はどちらかに重点が置かれる傾向が認められるが,上記の推計結果

水利科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源最及び社会的影響の予測に関する研究 (1) 55

表11 i産税農地「期待生産量」と瀧j段用水「将来

需要量」の倍率

~ 2050年/2000年

期待生産量 将来需要量

米(水田) 1. 23 1. 46

小麦 1. 34 1. 59

トウモロコシ 1. 99 3.00

大豆 1. 97 4.22

主要4品目の濯淑用水合計 1. 57

は,飼料用やバイオ燃料の原料として需要の多いトウモロコシの生産に重きが

置かれている現状を反映したものとなっている。

8. i墓蹴用水の将来需要量の推計結果

i韮j既用水の将来需要量は,式 (11)から算出されるが, 4品目合計では1.57

倍となっている。品目別に見ると, IトウモロコシJ,I大豆」の倍率が大きく

なっている(表11)0 I大豆」の濯概用水の将来需要量が「トウモロコシ」より

も多くなっているのは,水消費原単位の大きさに起因するものである。

9. 主要農産物 4品目の将来生産量の推計結果

本推計モデルにおける農産物の将来生産量は,農業用水の供給量の多寡によ

って変化するものであるが, 2000年の取水量が2050年まで変わらない,すなわ

ち,新規の水資源開発が無いという条件を与えた場合の主要農産物 4品目の将

来生産量の推計結果を図11,表12に示す。

図11の「トウモロコシ」などに見られる上下変動は,気候変動による降水量

の変化が反映されたものである。また,表11の「期待生産量」に比べて表12の

倍率が小さくなっていることは,十分な農業用水が供給されていないことを意

味している。すなわち,農業用水の供給量を増やせば農作物の生産量を増加さ

せることが可能であるが,人口増加に伴う「生活用水」や経済発展に必要不可

欠な「工業用水」の需要量が増加することを考え合わせると,十分な食料を確

水利科学 No.328 2012

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(百万トン)

1,200

....+ー~ v------1,000

800 600 W広三~.~""..':.:".,.....

400

200 ー_.ー・み・ー._._,_.ー._.吟・ー・_._.

……米(水田)

ーーー小麦

一一一トウモロコシー一大豆

0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 (年)

図11 主要農産物 4品目の将来生産量の推計結果

表12 主要農産物4品目の将来生産量の

推計結果(倍率)

主要農産物

米(水田)

小麦

トウモロコシ

大豆

2050年/2000年

1.11

1. 14 1. 62 1.64

保するためには将来的に大規模な水資源開発が必要となることを示唆している

とも言える。

10. おわりに

本推計モデルは,気温の上昇による耕作作物品種の転換や洪水による減収が

反映されていないこと, ["実際の収穫量は農業用水の充足度のみに左右される」

との仮定が前提となっていることなど改良すべき点はあるが,気候変動による

降雨量の影響や将来の水資源開発を含む濯瓶用水の増減による効果を農作物の

生産量の推計計算に反映できるようにした点は,特筆すべき特徴であると考え

ている。

人間の社会活動の結果として排出される CO2等の温暖化ガスの排出量は,

西ヨーロッパ諸国では減少しているものの日本を含む多くの国々では増加を続

けていることから,官頭で述べたように地球の温暖化は不可避であり将来的に

進行することが想定される。

水利科学 No.328 2012

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大平 地球温暖化に起因する気候変動による世界の水資源量及び社会的影響の予測に関する研究 (1) 57

食料の多くを輸入に依存している日本はもとより,食料や清浄な水にアクセ

スできないでいる世界の多くの人々が健康的で文化的な生活を享受できるよう

に,ダム等による新規の水資源の開発と効率的な運用システムの構築,濯瓶施

設の整備や農地の改良など多くの分野で日本が有する優れた技術が貢献できる

ことは多々ある。同時に,世界への日本の技術的貢献は,日本自身の安全保障

の観点からも有益で、あることは自明の理である。

本研究の成果が日本の技術的貢献の実現や拡大の一助になってくれれば幸い

である。

参考文献

1) IPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約(翻訳),平成19年11月30

日,文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省

2) 食料をめぐる国際情勢とその将来に関する分析,国際食料問題研究会報告書,平成

19年11月,農林水産省

3) 穀物価格の高騰と国際食料需給(国立国会図書館「調査と情報第617号J),平成20

年 6月20日,樋口修,国立国会図書館農林環境調査室

(原稿受付2012年 5月9日,原稿受理2012年 7月20日)

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