「災害時の廃棄物に備える」企画の趣旨 国立環境研究所 山田...

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「災害時の廃棄物に備える」企画の趣旨 国立環境研究所 山田正人 北海道大学 東條安匡 今世紀末までに巨大地震が人口密集地帯で発生する可能性が指摘されている.そのような大規模災害に今 日・明日にでも罹災した場合,発生する廃棄物に対応するために現在我々が持ちうる知見は十分であろうか, 被災域から廃棄物を迅速に撤去し,適正に処理する仕組みを,災害という特殊環境下で円滑に構築するため に必要なツール(道具),情報を今,我々はどの程度備えているだろうか. 災害によって発生する廃棄物を迅速に撤去・処理することは,被災地の早急な復旧・復興に極めて重要で ある.1995 年の阪神淡路大震災から 11 年が経過したが,本地震災害で経験された膨大な量の災害廃棄物の 処理は,現代社会が激甚災害に襲われた際に必然的に遭遇する災害廃棄物問題に関する貴重な事例として, 多くの情報,データを提供すると共に,問題提起と多数の教訓を残した.そのため,この教訓に基づき,阪 神大震災以降,災害発生後の危機管理,迅速な復旧・復興の実現を目指し,多くの自治体や関係機関におい て災害発生時の廃棄物処理に関するマニュアルや対策指針が整備される状況にある.研究面からも,阪神大 震災以降の 1990 年代後半から 2000 年代初頭にかけて災害廃棄物の撤去・輸送・処理・処分等に関して,活 発な研究・報告がなされ,さらに近年の災害に関しても多数の事例研究と共に,震災・水害等に関する,廃 棄物量,廃棄物の質,対応状況などが詳細に報告されている.災害廃棄物の発生量予測手法,収集輸送シス テム支援シミュレーション等の手法においてはかなり有用で高度な知見が蓄積されていると思われる. では,今のこの準備状況(レベル)は,実際の災害が生じた際の廃棄物処理にどこまで適用可能であろう かという疑問は当然生まれる.災害時においては,逼迫した時間的制約の中で,適正で効率的な廃棄物の被 災域からの撤去,輸送,処理,処分が求められる.このとき,どの地点でどの程度の廃棄物が発生するのか を明確にし(発生域の把握・発生量と質の予測),被災後の既設システムの能力を把握し(既存システム罹災 状況把握),臨時の仮置施設はどこに(位置)どの程度の大きさで(規模)配置すべきかを決定し(仮置場の 必要量と候補地選定),道路などのインフラの罹災状況を鑑みて撤去・収集輸送計画を立案し(廃棄物の撤去・ 収集・輸送システムの整備,経路選定),また,それらを処理する仕組みや処分先ルートを立案すること(処 理計画・処理システム整備,周辺自治体や業者の支援等)が迫られる. こうした一連の作業には,基本的な体制の構築と共に,必要情報の収集,作業レベルの認識,発生量予測 や輸送ルートの最適化,処理システムの選択などにおいて科学的知見や手法の援用が不可欠であり,それら を有機的に連携させることが,より効率的な復旧・復興支援につながる.すなわち,マニュアルや対策指針 に,これら一連の作業が形式的に記述されているだけでなく,その手法や手段が存在し,それが具体的に提 供されて,はじめて実践可能となる.現実的な問題は,実際に災害に直面した際の緊急対応の実践という観 点から,1)これまでに集積された知見(情報,研究成果)が現実の災害廃棄物対策において十分なもので 真に適用可能か.2)マニュアルや対策指針にこうした知見がどの程度反映され,また実現する具体的手法 は存在するか.3)緊急時にそれを具体的に利活用する体制やシステムは整備されているか,といった点で はないだろうか.災害廃棄物への対応に関して多くの知見や研究成果が蓄積されていることは前記したとお りであるが,それらが現実に利活用できる形態で情報やシステムとして存在しているかというと,残念なが らこうした知見や情報が離散して存在するため,災害時はもとより,平常時に危機管理体制を検討する上で も十分有効に,且つ容易に利用され難いというのが現状であると思われる. 近年の災害事例における他分野の具体的な取り組みを調べてみると, 2005 年の米国のハリケーン(カトリ

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「災害時の廃棄物に備える」企画の趣旨

国立環境研究所 山田正人 北海道大学 東條安匡 今世紀末までに巨大地震が人口密集地帯で発生する可能性が指摘されている.そのような大規模災害に今

日・明日にでも罹災した場合,発生する廃棄物に対応するために現在我々が持ちうる知見は十分であろうか,

被災域から廃棄物を迅速に撤去し,適正に処理する仕組みを,災害という特殊環境下で円滑に構築するため

に必要なツール(道具),情報を今,我々はどの程度備えているだろうか. 災害によって発生する廃棄物を迅速に撤去・処理することは,被災地の早急な復旧・復興に極めて重要で

ある.1995年の阪神淡路大震災から 11 年が経過したが,本地震災害で経験された膨大な量の災害廃棄物の

処理は,現代社会が激甚災害に襲われた際に必然的に遭遇する災害廃棄物問題に関する貴重な事例として,

多くの情報,データを提供すると共に,問題提起と多数の教訓を残した.そのため,この教訓に基づき,阪

神大震災以降,災害発生後の危機管理,迅速な復旧・復興の実現を目指し,多くの自治体や関係機関におい

て災害発生時の廃棄物処理に関するマニュアルや対策指針が整備される状況にある.研究面からも,阪神大

震災以降の 1990年代後半から 2000年代初頭にかけて災害廃棄物の撤去・輸送・処理・処分等に関して,活

発な研究・報告がなされ,さらに近年の災害に関しても多数の事例研究と共に,震災・水害等に関する,廃

棄物量,廃棄物の質,対応状況などが詳細に報告されている.災害廃棄物の発生量予測手法,収集輸送シス

テム支援シミュレーション等の手法においてはかなり有用で高度な知見が蓄積されていると思われる.

では,今のこの準備状況(レベル)は,実際の災害が生じた際の廃棄物処理にどこまで適用可能であろう

かという疑問は当然生まれる.災害時においては,逼迫した時間的制約の中で,適正で効率的な廃棄物の被

災域からの撤去,輸送,処理,処分が求められる.このとき,どの地点でどの程度の廃棄物が発生するのか

を明確にし(発生域の把握・発生量と質の予測),被災後の既設システムの能力を把握し(既存システム罹災

状況把握),臨時の仮置施設はどこに(位置)どの程度の大きさで(規模)配置すべきかを決定し(仮置場の

必要量と候補地選定),道路などのインフラの罹災状況を鑑みて撤去・収集輸送計画を立案し(廃棄物の撤去・

収集・輸送システムの整備,経路選定),また,それらを処理する仕組みや処分先ルートを立案すること(処

理計画・処理システム整備,周辺自治体や業者の支援等)が迫られる.

こうした一連の作業には,基本的な体制の構築と共に,必要情報の収集,作業レベルの認識,発生量予測

や輸送ルートの最適化,処理システムの選択などにおいて科学的知見や手法の援用が不可欠であり,それら

を有機的に連携させることが,より効率的な復旧・復興支援につながる.すなわち,マニュアルや対策指針

に,これら一連の作業が形式的に記述されているだけでなく,その手法や手段が存在し,それが具体的に提

供されて,はじめて実践可能となる.現実的な問題は,実際に災害に直面した際の緊急対応の実践という観

点から,1)これまでに集積された知見(情報,研究成果)が現実の災害廃棄物対策において十分なもので

真に適用可能か.2)マニュアルや対策指針にこうした知見がどの程度反映され,また実現する具体的手法

は存在するか.3)緊急時にそれを具体的に利活用する体制やシステムは整備されているか,といった点で

はないだろうか.災害廃棄物への対応に関して多くの知見や研究成果が蓄積されていることは前記したとお

りであるが,それらが現実に利活用できる形態で情報やシステムとして存在しているかというと,残念なが

らこうした知見や情報が離散して存在するため,災害時はもとより,平常時に危機管理体制を検討する上で

も十分有効に,且つ容易に利用され難いというのが現状であると思われる.

近年の災害事例における他分野の具体的な取り組みを調べてみると,2005年の米国のハリケーン(カトリ

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ーナ)罹災,2004 年の中越地震,2005 年の福岡西方沖地震等においては,状況把握,情報共有・連携,復

旧・復興支援に GIS(地理情報システム)が活用され,その有用性が広く認識されるようになっている.国

の機関はもとより,多方面で災害時の危機管理のために GISを利活用するための情報の整理,集約が進めら

れている.国内の具体例である平成 16年 10月の中越地震(新潟県中越地震復旧・復興 GISプロジェクト),

平成 17年 3月の福岡県西方沖地震(福岡県西方沖地震復旧・復興 GISプロジェクト)では,関係機関,企

業の枠を超えた協力により,被災状況やライフライン復旧情報などを GISを用いて一元的にデジタルマップ

上に集約し,住民やボランティア団体,防災関係機関等の間での情報共有を図るプロジェクトが展開されて

いる.しかし,残念ながら,これらのプロジェクトにおいても,データ化されている情報の中に廃棄物処理

関係のものはない.災害時,被災地域では「迅速で的確な情報」が極めて重要であり,それは災害廃棄物の

被災域からの撤去・輸送・処理・処分等に関しても同様のはずである.

すなわち,災害時の廃棄物処理を迅速・効果的に実現するために具体的に取り組むべき方向性の一つとし

て,こうした他分野で構築の進む情報提供システムに廃棄物に関連する情報も導入し,発展させていくとい

うアプローチは十分に有効かつ必要な取り組みであると考えられる.その場合,具体的には,過去の災害時

の情報を整理し,処理計画立案に不可欠な情報(発生量予測のための建物種別,仮置場配置のための土地利

用形態,被災域周辺に存在する廃棄物処理施設,廃棄物処理業者等の情報)と共に GISに利用できる形態に

することや,これまでの研究成果(発生量予測,収集輸送計画支援等)を現実的に利用可能な形態として GIS

と連携させることなどが考えられる.こうした情報やツールの提供手段が構築されることは,現在整備が進

む災害廃棄物対策マニュアルや対策指針等の実践をサポートする上でも有用ではないだろうか.

こうした観点から,本企画では専門家の方々に以下のような趣旨で講演をお願いし,過去の災害対応の経

験,また他分野における取り組みを踏まえて,事前に整備すべき「情報」という観点から,廃棄物処理分野

における災害への備えのあり方について議論したい.

1.「災害廃棄物に対応した経験から」:実際に災害が起こったとき現場では何が起こり,被災者および行政として廃

棄物を処理する上で何がわかっていて,何がわからなかった(困った)か,情報は十分なのか,あるべき情報提供,

支援とは何か

演題:災害廃棄物に対応した経験から~福井豪雨災害での対応事例~

講演:田中宏和氏 福井県衛生環境研究センター生活科学部

2.「災害時の廃棄物とは」:災害時に生ずる廃棄物はどのようなものか.平常時と同じもの違うもの,またそれらの

発生量の実績と予測方法.今,我々はどのような緊急時対応の技術・ツールを持っているのか

演題:行政の災害対応からみた災害廃棄物発生量に関する研究

講演:平山修久氏 (財)阪神・淡路大震災記念協会 人と防災未来センター

3.「災害時に備える」:自治体レベルで策定した災害廃棄物処理計画の概要.想定する事態と予測,またそれらに対

応する体制.

演題:さいたま市における災害廃棄物対策への備え

講演:脇坂純一氏 埼玉県環境防災部温暖化対策課

4.「災害の情報を伝える」:災害の事前および事中に情報を伝える仕組み.特に地理情報システムを用いた取組み.

演題:大規模災害下の廃棄物処理 -阪神大震災と新潟中越地震における倒壊家屋撤去の行政事務支援-

講演:角本繁氏 独立行政法人防災科学技術研究所 地震防災フロンティア研究センター

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災害廃棄物に対応した経験から~福井豪雨災害での対応事例~

福井県衛生環境研究センター (正)田中宏和 1. はじめに 大規模災害の被災地では、電気、上下水道、ガスなどのライフライン、生活基盤道路、公共交通機関等

の復旧と同様に、大量に発生する災害廃棄物を迅速かつ適正に収集・運搬・処理することが重要である。

これは、被災者の健康保護のために被災地の衛生状態を良好に保つだけでなく、生活基盤施設の円滑な復

旧に寄与することが期待できるからである。 しかし、災害に強い街づくりを推進する際、ライフラインの耐震化等は重視されるが災害廃棄物に備え

る視点は見落とされやすい。また、過去の災害事例においても災害廃棄物に関する対応情報は少ない。 そこで今回、2004年 7月に発生した福井豪雨災害における、被災者および行政による災害廃棄物への対応事例について紹介する。

2.福井豪雨発生までの気象概況と被害概要

2004年7月13日から15日にかけて新潟県に豪雨を降らせた梅雨前線は 16 日頃から南下をはじめ、18 日には日本海沿岸から福井県北部にかけて停滞した。(図1)そこへ西

日本を覆っていた太平洋高気圧の北縁を周りこむように暖

かく湿った空気が前線に流れ、北陸沿岸で発生した強い雨

雲が線状の形を呈して福井県に次々に流れ込んだ。 その結果、18日未明から昼頃にかけて福井県嶺北地方で局地的集中豪雨が降り、1時間に 80mm以上の猛烈な雨を観測した。福井市美山町のアメダス観測点では降り始め(17日 15時)からの総降水量は 285mmを記録した。(図2,3) この豪雨は足羽川流域を中心とする県内各所で越水や破

堤、がけ崩れや土石流などによる甚大な被害をもたらした。

(表1) 筆者の自宅も一部床上浸水の被害を受けた。(図4)

[連絡先]〒910-8551福井県福井市原目町39-4 福井県衛生環境研究センター 保健衛生部 環境衛生研

究グループ 田中宏和 Tel(0776)54-5630 Fax(0776)54-6739 E-mail:[email protected]

図1 地上天気図(2004.7.18 09時)

【資料提供:福井地方気象台】

図2 等雨量線図日雨量

【資料提供:福井県県産材活用課】

図3 福井市美山降雨状況

【資料提供:福井地方気象台】

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3.災害廃棄物への対応 他の大規模水害と同じく、福井豪雨においても、泥だら

けになった家財道具、被災家屋の解体廃棄物、堆積土砂、

漂着流木等、多種多様な災害廃棄物が大量に発生した。

以下、主に家庭や事業所から排出された災害ごみの処理

について、対応を紹介する。

3-1.被災者の対応

浸水被災地の水位が低下しはじめたのは日没後であった

ため、浸水家屋の清掃作業は翌日から始まった。 道路や自宅周辺には上流から流されてきた様々なものが

散在し、その上に泥が堆積していた。大きいものでは建材

用の木材や丸太、タイヤ等があり、比重が軽いあらゆるも

のを浮かせ、移動させることができる水の力を実感した。 床上浸水被害家屋の清掃では、最初に畳やカーペット、ソファーなど、泥水を吸い込んで使用できなく

なった粗大ごみの撤去・廃棄を行う必要がある。これは衛生的な室内環境を確保することに加え、清掃作

業を行う上で限られた屋内スペースを有効に利用するためと、畳の下板を外して床下基礎部に溜まった泥

水や汚泥を除去するためである。 時間の経過により悪臭を放つ家財(畳や布団

等)は不快かつ不衛生で、洗浄再生が困難であ

ることからすみやかに廃棄された。その他の家

財(木製品や家電製品)については、廃棄する

か洗浄・修理するかは被災者の判断によるが、

洗浄しても価値が低いもの(磨り減った冬用タ

イヤ等)、使用予定の無いもの(不用になった子

供用自転車等)は廃棄されるものが多くみられ

た。木製品については洗浄再生しても、乾燥す

るに従い、板が反るなどして利用できなくなる

ケースもみられた。 洗浄・修理可能な家財の廃棄行為に対してモ

ラルを問う批判もあったが、被災者の精神的な

疲労や清掃作業のための労力、時間の不足を考

表1 被害状況

区分 細分 被害状況

人的被害 死者 4 人

行方不明 1 人

負傷者 19 人

住家被害 全壊 57世帯

半壊 139世帯

一部破損 211世帯

床上浸水 3,313世帯

床下浸水 10,324世帯

避難勧告等 対象世帯 41,944世帯

避難人数 9,141 人

河川被害 堤防決壊 2箇所

護岸破損 36箇所

越水 23箇所

漏水 3箇所

閉塞 15箇所

道路被害 通行規制等 29路線

砂防関係 がけ崩れ 29箇所

土石流 91箇所

ライフライン 停電 6,300世帯

断水 3,247世帯

電話不通 600回線

※人的・住家被害は2005年4月1日現在

【資料提供:福井県危機対策・防災課】

家庭・事業所

臨時災害ごみ捨て場(公園、公民館等)

災害ごみ一時集積所(公共施設敷地等) 分別処理

中間処理施設(焼却、破砕等)

リサイクル 埋立処分

搬出

直接持ち込み

収集・運搬

運搬

埋め戻し

運搬運搬 運搬 土砂

運搬

中間処理不要

家庭・事業所

臨時災害ごみ捨て場(公園、公民館等)

災害ごみ一時集積所(公共施設敷地等) 分別処理

中間処理施設(焼却、破砕等)

リサイクル 埋立処分

搬出

直接持ち込み

収集・運搬

運搬

埋め戻し

運搬運搬 運搬 土砂

運搬

中間処理不要

図5 災害ごみの流れ

図4 浸水し孤立した住宅(鯖江市片上地区)

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慮すれば、特に悪質なものを除き、容認せざるを得ないのではないかと感じた。 災害ごみの収集・運搬・処理の方法は各自治体によって異なったが、概略は図5のとおりである。 福井市や鯖江市等の市街地では公園や道路の一角、公民館駐車場等を活用し、災害ごみ専用の臨時ごみ

捨て場が設営された。(図6)山間集落では空地が利

用された。場所は市町村や地区が決め、分別の要否、

使用期限などは口頭にて伝達された。 家屋からの粗大ごみ搬出には人手が必要だったが、

隣近所の協力や被災を免れた親戚、仕事仲間の援助

を得て搬出した。一方、清掃作業の人手不足につけ

こみ、あたかもボランティアや公的機関の職員を装

って廃棄物を回収し、後で料金を請求する悪質商法

もみられた。 災害ごみは全ての市町村で分別が免除され、粗大

ごみや家電製品の処理料金は減免された。 筆者の居住地区の災害ごみ捨て場では、設営当初

は可燃物と不燃物の分別が指導されたが、周知が徹

底できなかったこととスペースに対して搬入量が多

かったことから、災害ごみは最終的に混在した。ま

た、2日間の使用期限を過ぎても撤去されず、約1

週間そのまま放置された。 被災の程度にもよるが、浸水家屋の清掃作業は消

毒を含めると1~2週間を要し、防蟻処理や床板の

取替え等を含めると家屋の完全復旧までには2~3

ヶ月を要した。 3-2.行政の対応 被災当初は、人、住家、公共施設、ライフライン

の被害把握とその復旧対応が注目される。しかしこ

れらの復旧活動が進むにつれて、発生した災害廃棄

物処理がクローズアップされ、関係市町村や県廃棄

物対策課は対応に追われた。 大規模災害により発生した災害廃棄物であっても

原則的に廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下

「廃掃法」という)に基づき処理処分することが求

められる。つまり一般廃棄物は市町村、産業廃棄物

は事業者の責任で対応しなければならない。家庭や

事業所から排出される災害ごみは、ほとんどが一般

廃棄物であるため、市町村主体で対応が進められた。 臨時ごみ捨て場に出された災害ごみは市町村が定

めた一時集積所に収集運搬され、仮置きされた。(図

7)一時集積所としては、中間処理施設の敷地や下

水道終末処理施設の敷地、一般廃棄物最終処分場跡

地、スポーツセンター駐車場、多目的グラウンド、

小学校校庭等が利用された。また、市町村の要望を

受けて福井県が管理する産業廃棄物最終処分場敷地

も利用された。

図6 臨時災害ゴミ捨て場の様子

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

図8 ボランティアによる分別作業

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

図7 災害ごみが集められた一時集積所

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

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一時集積場所に搬入される災害ごみは 2~5m高に積上げられ、粉塵飛散防止のための散水や消毒剤散布がなされ、必要に応じて飛散防止ネットやブルーシートで被覆された。 積上げられた廃棄物は、順次、重機による粗選別や手作業による細分別が行われた。分別区分の詳細は

各市町村により異なったが、可燃物、不燃物(瓦、がれき等)、家電製品、金属類、木くず(解体家屋含む)、

丸太類、畳、タイヤ類、土砂等に分別された。(図8,9,10)

最も浸水世帯が多かった福井市にお

ける災害ごみの内訳を表2に示す。総量

約 19,000t のうち、燃やせるごみ量が14,000tであり、73%以上を占めた。羽田らは福井市の一時集積所にて廃棄物

組成等についてサンプリング調査を行

い、70mm以下の廃棄物が過半数を占め、見かけ比重平均は 0.52t/㎥であったと報告している。1) 分別された災害ごみは種類ごとに、そ

れぞれ、焼却施設や破砕施設などの中間

処理施設に運搬、処理され、リサイクル

または埋め立て処分された。(図5) 上述したとおり、災害ごみの処理処分

は市町村主体で進められたが、県の関係各課も情報収集や支援、指導監督に当たった。例えば、災害ごみ

集積・処分状況調査、被災地の粉塵調査、泥土の病原性微生物と重金属含有量調査、周辺自治体への協力

依頼、災害派遣車両の分配、ボランティア事業者と被災自治体との連絡調整、消毒作業や土砂撤去作業へ

の職員派遣、災害廃棄物処理事業国庫補助の採択要請と被災市町村への情報提供、国への被害状況報告、

災害廃棄物の適正処理指導などである。 これら県の対応の中で特に困難であったと推察されるのは災害ごみ発生量の推計である。水害廃棄物は

水を含み腐敗しやすいため、迅速かつ円滑な収集運搬、処理が重要となる。各被災地から発生する災害廃

棄物量を推計し、被災自治体が設営した一時集積場所用地や廃棄物処理能力で対応可能か否か、発生量に

対する収集処理の進捗度はどの程度なのかを把握することは、適切な処理を指導監督する上でも、また災

害派遣車両やボランティア等を効率よく配分して効果的な応援を行うためにも重要である。

表2 福井市(当時)における福井豪雨災害ごみの内訳

排出源 種 類 排出量(t) 処理・処分方法

一般家庭 土砂 3,500 埋め戻し

鉄類 500 リサイクル

木材類 200 リサイクル

タイヤ類 110 破砕・埋立等

処理困難物 520 破砕・埋立等

リサイクル家電4品目 10 リサイクル

燃やせるごみ(粗大ごみ含む) 12,000 焼却・埋立

燃やせない粗大ごみ 170 破砕・埋立

事業所 燃やせるごみ 2,000 焼却・埋立等

計 19,010

【資料提供:福井市清掃整備課】

図9 分別された畳

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

図10 分別されたタイヤ類

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

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当時の県廃棄物対策課職員は過去に水害や地震災

害を経験した自治体から、廃棄物量やその処理方法

について聞き取り調査を実施している。また、県内

解体事業者から木造住宅解体時に発生する廃材量を

聞き取り調査して、住家被害軒数から廃棄物量を推

計するなどしている。 県は上記の推計結果や収集した情報を踏まえ、被

災自治体単独の処理能力では対応できないと判断し、

周辺自治体や県外自治体へ災害廃棄物の処理に係る

協力を依頼した。さらに、廃掃法第 16条の 2(焼却禁止の特例)に基づき、一定の要件を満たす場合は

野外焼却も承認している。この特例措置は被災日の

5日後から 11日間続けられ、土石流やがけ崩れの被害が大きかった山間集落では、有効だったと考えら

れる。(図11) 災害廃棄物処理量としてこれまで把握されてい

る量は表3のとおりである。処理総量は約33,000tであり、「福井市(旧福井市)」の処理量が全体の

約 60%を占めた。 予測されたとおり、被災世帯数が多いと処理量

が多くなる傾向がみられたが、他の被災地に比べ

鯖江市で被災世帯数に対しての廃棄物処理量が多

い。これは鯖江市で最も激しく被災した河和田地

区が全国の業務用漆器の約 8割以上を生産する産地であり、これに関連する事業系の廃棄物が多か

ったためと推察される。 3-3.土砂、流木類への対応 発生した土砂量や流木等に関しては山間集落豪雨

災害対策検討委員会が調査しており、家屋被害が大

きかった5地区12渓流を対象とした土砂収支計算で

の生産土砂量は 802,378 ㎥、足羽川流域の主な河川

での流木発生材積は3,157㎥と推定している。2)

表3に示した災害廃棄物には回収された流木や堆

積土砂の一部が含まれるが、日本海へ流出するなど

して回収処理できなかった廃棄物や、現在も川底や

山間部に堆積している土砂等は含まれていない。堆

積土砂の撤去や河川改修工事は現在も進められてお

り、災害に起因する自然物を含めた不要物を広義の

災害廃棄物と定義するならば、これらは今も処分が

続いている。 土砂については復旧工事をはじめとする多くの公

共工事に活用されるなど、有効利用が図られている。 回収された流木については小石や砂を多く含み、建材への利用は不可能であったため、破砕処理でチッ

プに加工され、土木資材や堆肥、暖房用燃料として利用された。

表3 被災世帯数と災害廃棄物処理量

地 域 被災世帯数※ 処理量(t)

福井市(旧福井市) 11,319 19,353

福井市(旧美山町) 412 959

鯖江市 1,109 10,840

越前市(旧今立町) 893 1,521

池田町 136 172

計 13,869 32,845

※被災世帯数は住家が全半壊、破損、浸水した世帯数

【資料提供:福井県危機対策・防災課、廃棄物対策課】

図11 野外焼却の様子

【資料提供:福井県廃棄物対策課】

図12 農道に漂着した流木類

【資料提供:福井県総合グリーンセンター】

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4.対応を振り返っての課題 日本には四季があり、梅雨には前線が停滞し、夏から秋にかけては台風による被害を受けやすい。さら

に近年、集中豪雨の多発が言われており、いつ、どこで大規模水害が発生してもおかしくない。そのため

過去の被災経験を生かし、水害発生時の対応に備えることは大切である。 今回の被災経験で課題に感じたことを以下にまとめる。 4-1.可能な限り分別収集が重要 臨時ごみ捨て場において分別してから回収されたものも一部あったが、未分別で収集された災害ごみは

一時集積所での分別に莫大な労力と費用、時間を要した。 全半壊した家屋や事業所では可燃物と不燃物の混在が激しいため分別は困難であるし、排出される廃棄

物量も多い。しかし、被災状況にもよるが、住家被災の大多数を占める浸水被災者にとって粗分別はそれ

ほど大きな負担にならない。分別の妨げになるのは、臨時ごみ捨て場や自宅周辺で十分なスペースを確保

できない点や、収集能力不足により細やかな分別回収ができない点にある。被害の比較的少ない地域のご

み捨て場では、粗大ごみ、可燃物、不燃物、混在物程度の区分をし、大きな被害を受けた地域と区別して

収集するのが効率的と感じた。 4-2.災害廃棄物を想定した廃掃法の改正と運用 災害廃棄物の処理処分を行う上で、廃掃法を遵守することが非常に困難に感じた。 例えば災害廃棄物には一般廃棄物と産業廃棄物、自然物が混在する。ドラム缶に保管された産業廃棄物

など明らかに区別できるものは良いが、製材所から流出した木くずと家屋損壊で発生した木くずの区別は

できない。また、散在する産業廃棄物の所有者を特定することは難しく、事業者にとっても流出した廃棄

物を探し出すことは現実的に不可能である。災害に便乗した悪質な違法処理に注意を払う必要はあるが、

野外焼却の特例措置のように災害時の廃棄物発生を想定した法律の改正や弾力的な運用が必要と感じた。 4-3.災害が発生することを想定した対策 福井豪雨から約2年を経過し、現在、河川改修をはじめ、自然災害を発生させないための対策工事が進

められている。これらの対策は重要であり、急務である。 しかし、被災時に浸水し、避難施設や復旧作業の拠点として十分機能できなかった小学校や公民館はそ

のままの状態で残されている。また、新たに造成されている新興住宅地では雨水調整池を兼ねた、地面が

低い公園が平然と整備されている。 災害を発生させない方策と同時に、発生した場合に有効に機能する公共施設や公共スペースの確保・整

備が重要だと思われる。 5.おわりに 災害廃棄物処理をはじめとする様々な災害復旧活動にご支援、ご協力いただいた事業者や官公庁、各種

団体、ボランティアの皆様に厚くお礼申し上げる。 最後に本報告を行なうにあたり、貴重な資料をご提供いただいた関係機関、関係者に感謝するとともに、

被災に遭われた方々に心からお見舞い申し上げる。

[参考文献] 1)羽田賢一、伴野茂、青山和史、曽根佑太、上田長司、山崎修二、杉本敬一:福井豪雨に伴う水害廃棄物の処理について、第 16回廃棄物学会研究発表会講演論文集、pp.288-290、2005年 10月、2) 山間集落豪雨災害対策検討委員会:山間集落豪雨災害対策検討委員会報告書、2005年 3月

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行政の災害対応からみた災害廃棄物発生量に関する研究

人と防災未来センター 平山修久

1.はじめに水害などの自然災害発生時には,家屋建築物の倒壊や被災住宅より家財等の災害廃棄物が大量に発生す

る.災害廃棄物処理施策を的確かつ合理的に策定するためには,災害廃棄物処理量の推定が必要となる.災害時における廃棄物発生量を推定し,これに対応して,いかに迅速に市街地から廃棄物を取り除き,復旧・復興において主役となるべき市民に対して,衛生面から安全・安心を提供することが重要である.また,災害廃棄物の処理においては,被災地からの搬出方法,仮置き場や最終処分場での対応,焼却,リサイクルのための破砕・選別方法など,様々な観点から検討していくことが求められる.自然災害における廃棄物処理対策という観点からは,災害廃棄物処理で適用された処理技術について検

討したもの 1)や,家屋建築物の倒壊に伴う解体廃棄物の発生原単位を算出したもの 2)や,災害廃棄物の特徴,その処理における課題について検討したもの 3)などがある.一方,水害廃棄物という観点では,平成 16年 7月福井豪雨に伴う水害廃棄物の量と組成について調査したもの 4)があるが,住民,地域,水害ボランティア,行政という自助,共助,公助という視点から水害廃棄物処理対策について検討した例はなく,迅速かつ適正な処理を可能とする水害廃棄物処理施策策定のための科学的知見の導出まで至っていない.このような観点から,これまでに,被害報における住家被害を考慮した水害廃棄物の発生量原単位を推定し,水害時における水害廃棄物発生量推定式を提案した.また,平常時の一般廃棄物排出量からみた災害廃棄物発生量である災害廃棄物量相対値を導出し,災害初動時に推定される災害廃棄物発生量を,廃棄物処理担当部局のみだけではなく,防災担当部局なども含めた行政が,災害対応においてどのように活用していくことができるかについて検討している.本稿では,これらの研究成果について報告し,行政,地域,市民の協働という観点からみた水害廃棄物処理について考察する.また,阪神・淡路大震災における災害廃棄物発生量に関する研究についてレビューし,今世紀前半に発生が確実視されている東海・東南海・南海地震,あるいは,首都直下地震における災害廃棄物発生量予測について,行政の災害対応という視点から考察する.

2.水害廃棄物の発生量予測2.1.水害廃棄物について大規模な水害が発生した場合,一時に大量の廃

棄物が発生し,また道路の通行不能等によって,平常時と同じ収集・運搬・処分では対応が困難となる 5).また,復旧・復興において主役となるべき市民に対して,公衆衛生面での安全・安心を供給するという観点から,水害廃棄物の迅速な処理が求められる.図 -1に 2004年台風第 23号による水害における兵庫県但馬県民局の被災者創造相談窓口で受けた相談ニーズの推移を示す 6).これより,市街地から水が引いた直後の 23日には,水害廃棄物に関する問い合わせが多いことがわかる.したがって,水害廃棄物の処理を迅速かつ的確に行う

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水害廃棄物家屋消毒被害状況生活融資資金道路状況

相談件数(件)

図 -1 台風第 23号による豊岡水害における相談ニーズの推移

[連絡先] 〒 651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通 1-5-2防災未来館 6階 TEL:078-262-5077 FAX:078-262-5082 E-mail:[email protected][キーワード] 災害廃棄物発生量予測,原単位,水害,想定地震,災害対応

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ためには,地域防災計画,水害廃棄物の処理計画に基づき,迅速かつ適正な対応を行うことが必要である.また,水害廃棄物の発生量を予測することは,処理計画を検討するための基礎的資料となるものである.このような観点から,被害報における住家被害を考慮した水害廃棄物の発生量原単位を推定し,実務的に使いやすい水害廃棄物発生量推定式を提案した.2.2.住家被害を考慮した水害廃棄物発生量推定手法 7), 8)

災害対策基本法第 53条では,災害の被害状況やそれに対してとられた措置は上部機関の当該災害に対する応急対策の基礎又は参考となるものであるから,各関係機関ともこれを速やかに報告する必要があるとしている 9).そこでは,市町村及び都道府県の行う報告として,被害の程度が報告事項のひとつに定められている.その被害の程度のなかに,住家の被害に関する事項があり,(1)全壊,(2)半壊,(3)一部破損,(4)床上浸水,(5)床下浸水,について,それぞれの棟数ならびにこれに住居している者の人員及び世帯数が定められている.また,被災者生活再建支援法の一部を改正する法律 10)では,被害区分に大規模半壊が追加され,(1)全壊,(2)大規模半壊,(3)半壊,(4)一部損壊,(5)床上浸水,(6)床下浸水,について被害状況の把握を行っているところもある.ここでは,これらの被害状況から水害廃棄物の発生量を推定することを試みる.したがって,この被害状況に対して以下に示すような水害廃棄物発生量推定式を考える. �� � ��� �� (1)ここに,ここに,WDは水害廃棄物発生量(t),iは住家被害区分,Ciは住家被害状況からみた水害廃棄

物発生量原単位(t/世帯),Niは住家の被害状況(世帯)である.2.3.分析結果と考察水害廃棄物に関するアンケート調査から回答を得られた 71市町村に対して,水害廃棄物処理量を従属変数,住家の被害状況である全壊,大規模半壊,半壊,一部損壊,床上浸水,床下浸水,それぞれの世帯数を説明変数として回帰分析を行った.その結果,重回帰モデルの決定係数は,R2 = 0.951であり,モデルの説明力は十分であるといえる.分散分析結果は,F(6, 43) = 138.354 (p < .001)であることから,5%水準で帰無仮説が棄却されることとなり,この回帰モデルは有意であるといえる.しかしながら,説明変数のうち,全壊の非標準化係数のみが,t

検定において 5%水準で統計的に有意とは認められなかった.これは,被害認定の指針として内閣府より災害に係る住家の被害認定基準運用指針が示されているが,市町村により住家被害調査の運用体制が異なること,などによるものと考えられる.以上のことから,住家の被害状況を考慮した水害廃棄物発生量原単位は,全壊 12.9(t/世帯),大規模

半壊 9.8(t/世帯),半壊 6.5(t/世帯),一部損壊 2.5(t/世帯),床上浸水 4.6(t/世帯),床下浸水 0.62(t/世帯)と推定された.図 -2に水害廃棄物推定量と上述の原単位を用いて推定された水害廃棄物発生量との散布図を示す.本研究は,あくまでも,水害時に被害報における住家被害を用いて,限られた情報しか得られない災害初動時においてもある程度の精度で,かつ,簡易に水害廃棄物量を推定したものである.これらのことから,本研究で推定した水害時の災害廃棄物発生量原単位は,水害廃棄物発生量の推計に用いることができると考える.

3.行政対応からみた水害廃棄物発生量 11)

3.1.災害廃棄物量相対値について災害初動時に,都道府県あるいは政府関係機関が,災害が発生した市町村の被害状況を把握し,応急対策を実施する場合,物理的な被害状況だけではなく,

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災害廃棄物処理量(t)

災害廃棄物推定量(t)

図 -2 水害廃棄物処理量と水害廃棄物推定量

10 103102 104 10510

103

102

104

105

y = 1.13 x

R2 = 0.904

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その当該市町村の災害対応力についても考慮することが必要であるといえる.しかしながら,被害情報である人的被害や住家被害は,物理的被害を示す絶対数であり,必ずしも当該市町村の災害対応力を反映したものであるとはいえない.つまり,同時多発的,あるいは広域的に災害が発生した場合に,上部機関が当該被災地域への応援体制構築に際して,物理的被害状況のみだけでは判断できかねる場合も生じうるといえる.そこで,本研究では,被災市町村の災害対応力を考慮した被害状況を示すひとつの指標として,物理的

な被害情報である住家被害から災害廃棄物発生量推定式により推定された水害廃棄物量を,平常時の 1年間での一般廃棄物排出量であるごみ総排出量で除した災害廃棄物量相対値を検討する.つまり,その市町村の平常時の一般廃棄物排出量の何ヶ月分の災害廃棄物が発生する水害であるのか,を把握するものである.同じ世帯数の床上浸水被害が生じたとしても,平常時のごみ総排出量が大きな市町村では災害廃棄物量相対値は小さくなり,ごみ総排出量が小さな市町村では災害廃棄物量相対値は大きくなる.ごみ総排出量は,行政の廃棄物処理に係る住民サービスを実施する際に必要となる業務量を示すひとつの指標であると考えられることから,行政の災害対応業務を住民へ安全・安心を提供するサービスであるとみなすことで,災害廃棄物量相対値は,行政の災害対応力を考慮した災害廃棄物発生量である,といえる.ここでは,平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害について災害廃棄物量相対値を算出し,その実践法など

について考察する.なお,ここでは,平常時の一般廃棄物排出量として,一般廃棄物処理事業実態調査結果 12)を用いることとする.3.2.2004年 7月新潟・福島豪雨災害における災害廃棄物量相対値平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害における被害速報 13)を用いて,災害廃棄物量相対値を算出した.図-3に市町村別の災害廃棄物量相対値を示す.これより,Sa市の災害廃棄物推定量,災害廃棄物

量相対値ともに大きな値であることから,Sa市の被害が大きいことがわかる.Na町は災害廃棄物推定量が 3339tであるにもかかわらず,災害廃棄物量相対値は 10.6ヶ月と最も大きいことから,これらの市町村の中では Na町の被害が最も大きく,Na町のみで対応できる範囲を超えた災害であるといえる.Na市では,1272tの災害廃棄物が発生したと推定されるが,災害廃棄物量相対値は 0.2ヶ月であることから,Na市が災害対応を十分に実施できるレベルの災害であるといえよう.一方,Mi市,Wa村は,豪雨災害に起因する災害

廃棄物発生量は,その他の被害が大きな市町と比較してそれほど大きな値とはいえないが,その災害廃棄物量相対値はそれぞれ 3.5ヶ月,4.4ヶ月となっており,迅速かつ適切に災害廃棄物を処理するためには,応援体制を構築する必要があるといえる.また,平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害における

被害速報 13)の第 1号(7月 13日午前 10時 00分現在)から第 60号(9月 14日午前 8時 00分現在)を用いて,災害廃棄物量相対値を算出したものを図 -4に示す.なお,被害速報において,床上浸水,床下浸水を併せた世帯数については,その半数を床上浸水とみなして災害廃棄物発生量を推定した.これより,発災から 12時間経過した時点で,当該市町村のおよその災害廃棄物量相対値を把握できていることがわかる.

101272 1861854894

9503339

394333557

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Ni市

Na市

Sa市

Ka市

O市Mi市

To市

Na町

Mi町

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Wa村

災害廃棄物量相対値(ヶ月)

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災害廃棄物推定量(t)

災害廃棄物量相対値 災害廃棄物推定量

図 -3 平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害における市町村別の災害廃棄物量相対値

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経過時間(時間)

災害廃棄物量相対値(ヶ月)

Ni市 Na市 Sa市 O市 Mi市To市 Na町 Mi町 Yo町 Wa村

図 -4 平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害における市町村別災害廃棄物量相対値の推移

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つまり,被害速報による被害状況と災害廃棄物量相対値とを用いることで,自治体の災害対応力を考慮した被害状況の把握ができ,上部機関が,どの地域に,どの程度の応援体制を構築するべきかを検討するための指標となりうる,といえる.

Na町,Mi町については,災害廃棄物量相対値を把握するのに,約 60時間もの時間を要しているが,行政の災害対応力を上回る規模での大きな災害である,といえよう.したがって,行政の災害対応力を超える甚大な被害が発生している地域での被害情報をいかに迅速に把握するかについては検討しておく必要がある.3.3.災害廃棄物量相対値に対する考察ここでは,災害廃棄物量相対値を導出し,一例として平成 16年 7月新潟・福島豪雨災害についてその

活用手法について検討した.その結果,災害廃棄物量相対値を考慮することで,被害地域の自治体の災害対応力を考慮した被害状況把握を容易に行うことができ,かつ,どの地域にどの程度の支援体制を構築すればよいかを検討する際の指標のひとつになりうる,と示し得た.つまり,水害時あるいは広域災害時においては,住家被害などの被害速報のみだけではなく,災害廃棄物量相対値も併せて把握することで,災害廃棄物処理施策を策定する廃棄物担当部局だけではなく,防災担当部局をはじめとした自治体が,より効果的かつ効率的な災害対応を実施することができる,といえよう.

4.自助,共助,公助からみた水害廃棄物処理4.1.水害廃棄物の分別方法水害廃棄物の迅速かつ適正な処理,リサイクルの推進は分別排出によるところが大きい 12). したがって,水害発生時に,平常時と同じ分別方法とするのか,あるいは災害時の特例としてどのような分別ルールとするのか,などの水害廃棄物の分別方策について検討することが重要である.ここでは,水害廃棄物に関するアンケート調査対象市町村が,水害時に水害廃棄物分別に関してどのような対応を行ったのかについて分析した.図 -5に水害廃棄物の分別程度を示す.ここに,災害時の特例としては,平常時の分別方法と異なる方法で実施したものであり,市民に可燃ごみ,不燃ごみ,家電 4品目のみの分別で行った市町村や,市民は分別せずに地区集積所に搬出し,積み込み時に,混合可燃ごみ,不燃ごみ,畳,木質ごみ,家電,タイヤ等に分別した市町村など,平常時とは異なる方法であるが,その特例による分別ルールは市町村によって異なっている.ここでは,76%の市町村が,平常時の分別方法とは異なる災害時の特例としての分別方法を用いていた.平常時と同じ分別方法とした市町村では,非常によく分別されていた,ある程度は分別されていた,の割合が 66%となっている.一方,分別方法として災害時の特例を用いた市町村では,まったく分別されていなかった,あまり分別されていなかったと回答した割合がそれぞれ 32%,26%となっている.このことから,分別方法として,平常時と同じ分別方法を用いた場合にはある程度の分別されることが期待できるが,災害時の特例を用いた場合には,あまり分別されない傾向にあることがわかる.4.2.水害廃棄物に関する情報提供水害発生時,廃棄物の排出方法に対する住民の

理解を得るため,また,分別排出を徹底するため,住民に対し利用可能なメディアを活用し,できる限り速やかに必要な情報を広報することが重要である 12).アンケート調査対象のほとんどの市町村が,収集方針・方法,分別方法,収集場所,収集期間に関して市民へ情報提供を行っていた.また,水害ボランティアに対する情報提供につ

いて,図 -6に廃棄物担当部局と水害ボランティアとの情報連携の割合を示す.これより,災害対策本部や社会福祉協議会などから水害ボランティアの活動状況,内容に関する情報を入手した自治体

平常時と同じ

災害時の特例

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非常によく分別されていた ある程度は分別されていたどちらともいえない あまり分別されていなかったまったく分別されていなかった

図 -5 水害廃棄物の分別程度

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においては,5割が社会福祉協議会や水害ボランティアセンターに対して情報提供していることがわかる.一方,情報を入手しなかった自治体では,ボランティアに対して情報提供を行っていないといえる.4.3.自助,共助,公助からみた水害廃棄物処理水害廃棄物の発生量予測における分析結果から,床上浸水による被害では 1世帯当たり 4.6tもの水害廃棄物が発生することとなる.高齢化社会を迎えている現在,高齢者世帯では,自助努力だけで水害後の水害廃棄物の排出,分別,あるいは家屋の片付けができるとはいいがたい.また,水害後の復旧・復興過程において主役となるべきは市民であるといえる.したがって,水害後の廃棄物処理計画において,いかに市民の視点を組み込むのかが重要であるといえる.また,現在では,比較的大きな災害が発生すると,被災地に災害ボランティアセンターが設置され,災害ボランティア活動の中枢機能として機能してきている.2004年は,全国で約 60箇所の災害ボランティアセンターが設置され,延べ 26万人以上ものボランティアが被災者支援活動を行っている 14), 15) ,16).このことから,自助や公助だけでは対応できない被災者ニーズに対して,水害ボランティアを含めた共助との協働によりいかに対応していくのか検討することが必要である.一方,水害廃棄物処理の流れの観点からは,図 -7に示すように,排出,収集,分別,仮置場などは水

害発生時の水廃棄物処理計画にしたがって水害時の対応が可能であるが,中間処理,最終処分については平常時と同じシステムで対応しなければならない.つまり,平常時と同じシステムに入れるためには,災害時の特例を用いたとしても,誰かが,どこかの段階で平常時と同じように分別をしなければならない,ということである.また,水害発生時に,いかに迅速に適正に水害廃棄物処理を遂行し,水害からの復旧・復興において主役となるべき市民に対して,都市インフラとして積極的に環境衛生面から安全・安心を提供することが重要である.したがって,自助,水害ボランティアを含めた共助,公助の協働の上で,迅速かつ適正な水害廃棄物処理を行うことが必要である.

5.阪神・淡路大震災における災害廃棄物発生量阪神・淡路大震災では,甚大な被害により,都市機能が麻痺し,社会的,経済的影響がきわめて大きく,阪神・神戸地域の都市機能の停止が日本全国に大きな社会的不安と経済的損失を生じさせているという特別の事情に鑑み,損壊した家屋,事業所等の解体,処理については,被災者の負担の軽減を図るため,廃棄物として市町が解体・処理し,国はその費用の二分の一を補助する,という特別の措置,つまり公費による処理方針が講じられた 17).災害廃棄物発生量の推定は非常に困難であり,解体必要家屋数等が次第に判明するにともない適宜修正

された.阪神・淡路大震災で発生した災害廃棄物の量は,住宅・建築物系で 1450万 t,公共公益施設系で550万 t,総計 2000万 tと推計されている 18).これまでにも,災害廃棄物対策分野においても,災害廃棄物の発生原単位の検討はなされてきている.高月ら 19)は,阪神・淡路大震災での木造家屋の廃棄物重量原単位を 0.40~ 0.61t/m2と推定している.渡辺 20)は,阪神・淡路大震災での廃棄物発生の見積もり方法について調査し,大阪市での 800棟の解体実績から,廃棄物発生量を 96m3/戸であったと推定している.また,住宅作業解体処理業連絡協議会など業界で得られている値として,39.7t/戸~ 44.7t/戸と報告している.

情報入手しなかった

情報入手した

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情報提供した 情報提供しなかった 不明

図 -6 水害ボランティアとの情報連携平常時と同じ水害発生時の水害廃棄物処理計画による

排出 中間処理 最終処分収集 分別

仮置場・分別

分別収集

図 -7 水害時の廃棄物処理の流れ

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本研究で得られた全壊による水害廃棄物発生量は,従来の調査研究結果よりも小さくなっている.これは,水害による全壊と地震による全壊という全壊の起因となる災害現象が異なること,従来の結果が家屋解体作業に伴い発生する災害廃棄物量に基づいて算出されていることなどがあげられる.国における災害の被害認定基準は,平成 13年 6月に内閣府より災害の被害認定基準を改める通知が出され,災害に係わる住家の被害認定基準運用指針として,住家の被害認定にかかわる標準的な調査方法および判定方法が示されている.ここでは,地震による被害に代表されるように部材等が外力により物理的に破壊される被害が発生する住家と,浸水被害に代表されるように外力による部材等への物理的な被害が生じていない,あるいは軽微であっても,吸水により機能劣化が生じるなどの被害が発生する住家を想定して作成されている 21).しかしながら,本指針が法的根拠を持つ制度として位置付けられているものではなく,運用は自治体に任されており,建物被害認定結果に,調査方法の違い等に起因する自治体間格差が生じるなどの課題が指摘されている 22).また,住家全壊の認定基準として,住家の損壊,焼失若しくは流失した部分の床面積がその住家の延床

面積の 70%以上に達した程度のもの,または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し,その住家の損害割合が 50%以上に達した程度のものとしている.しかしながら,阪神・淡路大震災では,滅失した住宅は,り災証明書ベースで全壊家屋の約 6割,半壊家屋では 4%程度であった 23).つまり,災害に係わる住家の被害認定で全壊と認定されたとしても,必ずしも住家が災害廃棄物となっているとはいえない.これらのことから,災害時に廃棄物処理施策を策定するためには,建築物の解体に伴う廃棄物の発生量

を建築物の延べ床面積から算定する手法とともに,災害時に,精度の高い,かつ実務的に使いやすい災害廃棄物発生量の推定手法を検討することが重要である.つまり,災害の被災状況から,災害廃棄物の発生,排出過程を考慮した災害廃棄物発生量を推定し,災害廃棄物対策を的確かつ合理的に策定する手法を開発していくことが必要である.

6.想定地震における災害廃棄物発生量予測西南日本外帯における南海トラフに沿うフィリピン海プレートの沈み込みによる巨大地震である想定東海地震,東南海・南海地震,あるいは首都直下型地震の切迫性が指摘され,その発生が危惧されている.政府の中央防災会議における専門調査会では,これらの想定地震に係る被害想定を実施している 24), 25), 26).そこでは,地震の揺れ,液状化など各要因による建物被害量と 1棟あたり床面積から被害面積を算出し,表 -1に示す面積当たり災害廃棄物発生量原単位を用いて,災害廃棄物発生量の推定を行っている.表 -2に,想定東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震として東京湾北部地震の被害想定結果と阪神・淡路大震災での被害,ならびに,全国のごみ総排出量 27)からみた災害廃棄物量相対値を示す.これより,阪神・淡路大震災では全国のごみ総排出量からみた災害廃棄物量相対値は 4.7ヶ月であったが,想定東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震では,それぞれ 9.5ヶ月,16.0ヶ月,22.3ヶ月となっている.つまり,現状のわが国のごみ処理能力では,これらの想定地震に係る災害廃棄物のみを処理するだけで約 1年から 2年の時間を要する,と

表 -1 被害想定手法における災害廃棄物発生量原単位

被害要因 面積当たり災害廃棄物重量(t/m3)木造 0.6非木造 1.0

火災による焼失 0.23

表 -2 想定地震における災害廃棄物発生量の想定

想定東海地震 東南海・南海地震 首都直下地震 阪神・淡路大震災建物被害(棟) 23万~ 46万 328,600~ 628,700 23万~ 85万 104,004避難者数(人) 190万 500万 700万 316,678断水人数(人) 550万 1,600万 1,100万 (127万戸)災害廃棄物(t) 4,100万 6,900万 8,300万~ 9,600万 2,000万

災害廃棄物量相対値(全国)(ヶ月) 9.5 16.0 19.3~ 22.3 4.7

(兵庫県:98.3)

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いうことである.したがって,災害廃棄物を処理するために平常時のごみ処理能力からどの程度能力を向上させるのかをごみ処理能力係数 a(-)で表すと,災害廃棄物量 WD(t),平常時の 1年間でのごみ総排出量 W0(t),災害廃棄物処理年数 T(年)は以下の式で表される. ��� �� � � ��� � (2)図 -8に想定地震でのごみ処理能力係数 aと災害

廃棄物処理年数 Tとの関係を示す.これより,想定地震に係る災害廃棄物を 5年間で処理するためには,全国のごみ処理能力を活用した場合においても,想定東海地震では 15.9%,東南海・南海地震では 26.7%,首都直下地震では 37.2%,現状のごみ処理能力を向上することが必要となる.つまり,首都直下地震では,全国の自治体が,平常時の 1年間のごみ総排出量 5160.7万 tに加えて,さらにその約 4割の 1919.8万 tの首都直下地震に係る災害廃棄物を 1年間で処理するという応援活動を 5年間継続することで,首都直下地震における災害廃棄物処理が完了する,といえる.一方,都道府県別のごみ総排出量 27)という観点からは,阪神・淡路大震災では,兵庫県のごみ総排出量からみた災害廃棄物量相対値は 98.3ヶ月,8.2年であった.首都直下地震の東京湾北部地震では,東京都をはじめとした 1都 3県で甚大な被害となり,それぞれの都県での災害廃棄物量相対値は,東京都で155.4ヶ月,12.9年,神奈川県で 47.2ヶ月,3.9年,千葉県で 41.4ヶ月,3.4年,埼玉県で 37.1ヶ月,3.1年となる.したがって,東京都が,平成 15年現在の一般廃棄物処理実績の 1.5倍の処理能力を有した場合でも,東京都だけで処理を完了するためには 25.9年の処理年数が必要となる.以上のことから,スーパー広域災害となる東海・東南海・南海地震やスーパー都市災害となる首都直下地震は,国難であるとの共通認識のもとで,この国難をいかに克服していくのかについて,災害マネジメントサイクル(Disaster Management Cycle)のすべての段階で検討しておくことが重要であり,急務である.つまり,スーパー広域都市災害においても災害時に迅速かつ適正な災害廃棄物処理を可能とするためには,災害発生直後からの効果的な応急対応を可能とする組織・体制,広域応援,災害廃棄物処理計画について検討し,国,都道府県,市町村,廃棄物関係団体,災害ボランティア,市民の情報共有手法や広域連携を可能とするための情報システムの整備などの応急対応策とともに,住宅の耐震化や災害時にも効果的なリサイクル手法など災害時に発生する廃棄物をいかに減量するのかについても検討していくことが重要であるといえる.

7.まとめ本稿では,水害時における水害廃棄物発生量推定手法とその活用方法について述べ,行政,地域,市民の協働という観点からみた水害廃棄物処理について考察した.また,阪神・淡路大震災における災害廃棄物発生量に関する研究についてレビューし,今世紀前半に発生が確実視されている東海・東南海・南海地震,あるいは,首都直下地震における災害廃棄物発生量予測について,行政の災害対応という視点から考察した.本研究は,あくまでも,行政の災害対応において,災害発生直後の限られた情報から災害廃棄物対策にいかに活用できるのかについて,災害廃棄物発生量という観点から検討したものである.したがって,今後,災害廃棄物処理施策を策定するにあたり,災害廃棄物の性状や組成などを考慮した災害廃棄物処理過程についても検討していくこと可能となる科学的知見を蓄積していくことが重要である.また,災害廃棄物量原単位など水害や地震などの災害現象により異なるものがあるが,どのような災害においても,災害後に市街地から災害廃棄物が取り除かれることは,被災地が復旧・復興に向けて踏み出すためには必要なことであり,災害廃棄物対策は,復旧・復興において主役となるべき市民に対して,環境衛生面から安全・安心を提供する都市インフラのひとつであるといえる.したがって,自助,災害ボランティアを含めた共助,公助の協働の上で,迅速かつ的確な災害廃棄物処理施策を実施することが必要で

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図 -8 想定地震に係る災害廃棄物処理年数

首都直下地震

阪神・淡路大震災

東南海・南海地震想定東海地震

災害廃棄物処理年数

T(年)

ごみ処理能力係数 a(-)

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あり,国,都道府県,市町村,廃棄物関係団体,市民,災害ボランティアが,それぞれの役割を積極的に担い,環境衛生面から安全・安心を確保することが可能となる災害廃棄物処理を行うことが重要である.

参考文献1) 中道民広,井上求:災害時の廃棄物処理技術,廃棄物学会誌,第 6巻,第 5号,pp.394-401,1995.2) 高月紘,酒井伸一,水谷聡,浦野真弥,小林純一郎,伊藤宏:震災により生じる廃棄物の性状と発生量に関する検討,災害廃棄物フォーラム,pp.19-29,1996.

3) 島岡隆行:自然災害における災害廃棄物の発生特性と処理方策に関する調査研究,廃棄物学会誌,第 6巻,第 5号,pp.360-372,1995.

4) 羽田賢一,伴野茂,青山和史,曽根佑太,上田長司,山﨑修二,杉本敬一:福井豪雨に伴う水害廃棄物の処理について,第 16回廃棄物学会研究発表会講演論文集,pp.288-290,2005.

5) 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課:水害廃棄物対策指針,2005.6) 人と防災未来センター:平成 16年 10月台風 23号災害調査,DRI調査レポート,No.9,2004.7) 平山修久,河田惠昭:水害時における行政の初動対応からみた災害廃棄物発生量の推定手法に関する研究,環境システム研究論文集,Vol.35,pp.29-36,2005.

8) 平山修久,河田惠昭:水害時における災害廃棄物発生量推定式に関する研究,環境衛生工学研究,第 19巻,第 3号,pp.193-196,2005.

9) 逐条解説災害対策基本法,防災行政研究会,pp.264-271,2002.10) 内閣府:被災者生活再建支援法の一部を改正する法律の施行について,府政防第 361号,2004.11) 平山修久,河田惠昭:水害時の行政対応における災害廃棄物発生量に関する研究,地域安全学会論文集,No.7,

pp.325-330,2005.12) 環境省:平成 14年度一般廃棄物処理事業実態調査結果,廃棄物処理技術情報,2005.13) 新潟県災害対策本部:7月 13日からの大雨等による被害速報(第 1号 -第 60号),2004.14) 内閣府防災担当:災害ボランティアセンターに関する調査,第 1回防災ボランティア活動検討会,2005.15) 菅磨志保,福留邦洋,越村俊一:災害ボランティアを含めた被災者支援システムの展開- 7.13新潟豪雨災害における災害救援ボランティアセンターの事例より-,地域安全学会,No.7,pp.405-410,2005.

16) 栗田暢之:災害ボランティアが果たした役割と今後の課題,災害情報,No.4,pp.23-28,2006.17) 兵庫県,財団法人 21世紀ひょうご創造協会:がれき等の災害廃棄物の処理,阪神・淡路大震災復興誌,第 1巻,

pp.215-225,1997.18) 兵庫県:阪神・淡路大震災兵庫県の 1年の記録,pp.244-251,1996.19) 高月紘,酒井伸一,水谷聡:災害と廃棄物性状-災害廃棄物の発生原単位と一般廃棄物組成の変化-,廃棄物学会誌,第 6巻,第 5号,pp.351-359,1995.

20) 渡辺信久:阪神・淡路大震災における災害廃棄物の発生特性,災害廃棄物フォーラム講演論文集,pp.93-110,1996.

21) 内閣府:災害に係る住家の被害認定基準運用指針,2001.22) 重川希志依,田中聡,堀江啓,林春男:新潟県中越地震における建物被害認定調査の現状と課題,地域安全学会,

No.7,pp.133-140,2005.23) 兵庫県まちづくり部:住まい復興の記録-ひょうご住宅復興 3カ年計画の足跡-,2000.24) 中央防災会議「東海地震対策専門調査会」:東海地震に係る被害想定結果,2003.25) 中央防災会議「東南海,南海地震等に関する専門調査会」:東南海,南海地震の被害想定について,2003.26) 中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会」:首都直下地震の被害想定について,2005.27) 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課:日本の廃棄物処理平成 15年度版,2006.

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さいたま市における災害廃棄物対策への備え

埼玉県 脇坂純一

報告の視点

大規模地震の際に発生する大量の廃棄物の処理は、自治体(とりわけ市町村)にとって大きな課題であ

る。阪神淡路大震災の経験を踏まえた多くの報告があるが、本稿は、さいたま市における対応マニュアル

を紹介するとともに、自治体における災害廃棄物対策の備えについて、処理計画整備の視点を中心に課題

と今後の方向を整理したものである。なお、意見に関わる部分は、すべて私見である。

1 さいたま市の概況

さいたま市は、面積人口 118万人(H18.4.1現在)、旧浦和市、大宮市、与野市、岩槻市が合併した政令指定都市であるが、災害廃棄物対策の視点から見ると、次の特徴がある。

・海に面していないので、海への埋め立てによるガレキの最終処分ができない。

・山間部、丘陵地がないことから、最終処分場好適地がなく、大きな市有の最終処分場を有していない。

・首都圏に位置し、都市化が進み建物が多く人口密度が高く、被害想定でもワーストケースでは大量の災

害廃棄物の発生が見込まれている。

2 さいたま市環境部災害対応マニュアル作成の背景と位置づけ

(1)背景

・市の地域防災計画における災害廃棄物処理の規定が不十分である。

・市の地域防災計画において、各部は災害に備えた具体的な取り組みを定めることとなっている。

・当時の地域防災計画には仮置き場が1カ所しか明記されていなかった。

・担当局長以下、そうした現状に対する危機意識があった。

(2)作成手順

・災害対策本部の環境部の業務分担に即し、班ごとに原案を作成して取りまとめ、防災担当課との調整の

上、平成 17年3月に作成した。部内はもちろん、全庁へも周知した。 (3)特徴

・正式名称は「さいたま市地域防災計画 環境部災害対応マニュアル」(以下「マニュアル」)である。

法定計画である地域防災計画のパーツという位置づけにしてある。

・災害廃棄物処理計画ではなく、部内全課所の災害時の役割を定めているため、部全体の災害マニュアル

としている。したがって、公害対策等も明記している。(反例:千葉市震災廃棄物処理計画 H17年 3月) ・マニュアルの見直しの責任者を部の次長(市防災会議の幹事・部の災害時の動員責任者)としている。

・必要性は認識しつつも未調整で決められなかった課題を、なるべくマニュアルにを明記し、今後順次修

正していくこととした。(例:初版では未調整だった市建設業協会との協定を、新版では明記できた。)

3 マニュアルの概要

ここでは、マニュアルの中から主な項目を紹介する。

(1)役割分担

・災害対策本部の環境部の業務分担に沿って記述(例:環境統括班、廃棄物処理班、し尿処理班 等)

・災害廃棄物対策組織(プロジェクトチーム)の役割、業務分担を明記

[連絡先]〒330-9301 さいたま市浦和区高砂3-15-1 埼玉県環境部温暖化対策課

脇坂純一 Tel 048-830-3042 Fax 048-830-4777 E-mail [email protected]

〒330-9588 さいたま市浦和区常磐6-4-4 さいたま市環境部環境施設課

三品雅昭 Tel 048-829-1342 Fax 048-829-1991 E-mail [email protected]

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(2)被害想定によるさいたま市における災害廃棄物

表 1 過去の災害時の災害廃棄物発生量とさいたま市の被害想定 災害名 市 名 人口(万人) 全壊戸数 半壊戸数 全焼戸数 災害廃棄物 阪神・淡路大震災 神戸市 149 67,421 55,145 6,965 804 万t 同上 西宮市 43 209 万t H16年台風16号 高松市 33 浸水被害 15,000 2.5万 t

H16年台風23号 洲本市 4 浸水被害 3,000 1.2万 t

定 東京-埼玉直下型地震

綾瀬川断層地震 さいたま市 さいたま市

106 106

5,433 11,913

14,985 33,250

最大5,055 最大5,509

最大 433 万t 最大 744 万t

注:さいたま市の被害想定は旧3市(浦和市・大宮市・与野市)当時のもの。

ちなみに、旧3市の年間の一般廃棄物発生量は約 43万トン。

(3)仮置場の選定 表 2 仮置き場候補地 名 称 面 積 有効面積

1 高木第一処分場(閉鎖済) 2.35 ha 2.35 ha 2 高木第二処分場(閉鎖済) 3.85 ha 3.85 ha 3 環境広場北側洪水調節池 2.84 ha 2.84 ha 4 クリーンセンター大崎調節池 2.38 ha 2.38 ha 5 (仮称)見沼大崎緑地事業用地 0.65 ha 0.65 ha 6 農業者トレーニングセンター 8.27 ha 2.0 ha 7 大宮花の丘農林公苑 11.2 ha 1.5 ha 8 市民の森(見沼グリーンセンター) 14.0 ha 1.7 ha 9 農村広場(春おか広場) 3.7 ha 1.1 ha10 見沼通船堀公園 4.41 ha 4.41 ha11 川通公園 2.9 ha 1.45 ha

市内の旧最終処分場跡地、公園、遊休地

などの市有地から、11カ所、約24haを選定した。所管は環境部、他部、土地開発公社

などだが、必要性を説明して了承を得た。

しかし、他の用途との競合が予想される

ので、被災時にその全部が使えるとは考え

にくい。 〈競合が予想される用途〉

① 一時避難場所(公園など一時的に身 の安全を確保する場所)及び避難場所

② 仮設住宅建設場所 ③ ライフライン復旧工事の資材置き場

合 計 56.55 ha 24.23 ha

(4)市の処理能力を超える場合の留意事項 さいたま市は、市有地が限られているため、被害が甚大な場合、市有地だけで仮置き場を充足すること

は不可能である(上記の仮置き場を全部利用してもコンクリート系で 48 万トン程度)。また、処理施設も

不足が予想される。そうした場合には、県内市町村が相互協力できるよう、埼玉県清掃行政研究協議会(埼

清研、会長市はさいたま市で事務局は県環境部)の中に県及び県内市町村からなる協議組織を設置し、県

内全域及び都県を超えた協力体制を作っていくことを検討することとした。なお、現在も、一般廃棄物に

ついては、埼清研の「災害時の一般廃棄物処理県内協力体制実施協定書」により協力体制ができている。

(5)民間事業者との事前協定と契約

災害廃棄物の処分に市が関与する場合、解体、収集・運搬、中間処理、最終処分のいずれについても、

民間事業者と契約して事業を行う必要がある。混乱時に契約・事業をスムーズに行うためには事前協定の

締結が有効である。現在の関係する協定は次のとおり。

① 埼玉県産業廃棄物協会と埼玉県の協定

平成 16 年に埼玉県と(社)埼玉県産業廃棄物協会が「地震等大規模災害時における災害廃棄物の処理等に

関する協定」を締結した。本市も県を通じて協会に依頼する。

② さいたま市とさいたま市建設業協会との協定の活用

さいたま市と市建設業協会は「災害時における応急復旧業務に関する協定」を締結しており、その対象

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業務に、廃棄物処理業務も対象とすることを、文書確認した(平成 18年2月)。 合意事項については、市側がマニュアル、市建設業協会側は次期改訂時に「震災応急復旧マニュアル」

に記載することとした。

4 災害廃棄物処理における各行政主体の役割

(1)国

・震災廃棄物対策指針(平成 10年 10月 厚生省生活衛生局水道環境部) ・水害廃棄物対策指針(平成 17年6月 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部) ・支援制度:災害廃棄物処理事業国庫補助金、廃棄物処理施設災害復旧費補助金、災害復旧事業債

(2)県

市町村の支援中心の位置づけとなっている。

埼玉県地域防災計画第3章「震災応急対策計画」からの抜粋(下線は筆者) 第2 廃棄物処理 1 実施責任者

(1)市町村は災害により生じた廃棄物の処理を適正に行うものとする。

(2)県は県内の市町村及び関係団体に対して広域的な支援を要請し、支援活動の調整を行うものとする。

(3)県は必要に応じ、国及び他都道府県等に支援要請を行うものとする。

2 がれきの処理

(1)市町村は、危険なもの、通行上の支障のあるもの等を優先的に収集運搬するものとする。また、選別・保管

のできる仮置き場の十分な確保を図るとともに、大量のがれきの最終処分までの処理ルートの確保を図るもの

とする。

(2)県は、市町村のがれきの処理計画をまとめ、処理事業の進行管理等を行うための全体計画を作成するものと

する。また、必要に応じ、市町村の参加する協議会を設置し、情報収集・提供及び相互の協力体制づくりを図

るものとする。

(3)市町村

第一当事者であるが、市町村の規模や、被害の程度等により、自力執行が無理な場合も想定される。

5 計画策定の視点からみた課題

(1)さいたま市マニュアルに関して

① 仮置き場の不足 平時において、民地の借り上げることを土地所有者と取り決めておくことが望まれるが、未実施。マニュアルには、どこを借りるか、想定だけでもしておくことを定めた(今後の課題)。

広域連係の具体的な方策についての取り決めは未実施。 ② 区役所等との連携方策の詳細が未定 区役所が担当する苦情・相談受付や、公費解体実施時の具体的な手順が未定。

また、建物の被害状況を一戸毎に行うのは、区役所の税担当課だが、その調査結果と固定資産税台帳のデータベースを使ったがれきの発生量等の具体的な積算方法システムの検討は未実施。

③ 民間事業者(業界団体)との協定 一部にとどまっている(3-(5)参照)が、他市の例を参照に徐々に拡充する必要がある。 ④ 仮設の破砕機、焼却炉の設置、仮置き場での具体的な作業手順など、詳細な事項は未定。 ⑤ 実践力の強化(研修・訓練等の必要性) 手法が確立しておらず、実施が難しい。平成 17年度には、手探りで状況付与対応訓練を実施したが、手軽に内部でできる階層的・体系的訓練体系はない。

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(2)各都道府県・市町村に共通の課題

① 策定市町村の増加方策 埼玉県の埼玉県清掃行政研究協議会では、H17 年度にモデル計画を作成した。基本的なフォーマットにデータを入力し、庁内調整をすれば策定できることを目指している。それでも庁内の必要性の認識を喚

起する必要性がある。(誰が喚起するのか?)

② 都道府県の役割 市町村支援の具体的役割を定める必要がある。支援の内容としては、処理計画策定の動機付け、技術的

な支援、被災時の調整機能の具体的な方策などが考えられる。

③ 広域的な連携の具体的な取り決め 都県、市町村を超えて、ガレキを実際に移動できるのか。八都県市・知事会などの協力の枠組みがある

が、うまく機能できるか。

④ アスベスト飛散防止の具体的確保 ・時間、業者数、費用の制限の中で飛散防止の指導体制をどのように確立できるのか。 ・市民から信用のおける解体業者の紹介要望があったとき、責任を持った対応ができるのか。

・特定の建物がアスベストを含有しているか、という問い合わせに対応できるか。

なお、さいたま市においては、マニュアルには、「民間建築物における石綿使用状況については、建築部建築総務課が平成 17 年7月から行った延べ床面積 1,000 ㎡以上の民間建築物に対するアンケート調査結果を参

考とする。」と記述している。

むすび

マニュアル策定に関わった者として感じたことは、結局詳細は決めきれない、ということであり、「何

とかなるさ」という割り切りも部分的には必要ではある。市マニュアルの冒頭の使い方にも、「災害時に

はマニュアルを参考に臨機応変の対応をする」と記述した。

だが、日頃災害時の対応の準備をしていない多くの職員にとって、マニュアルの備えは混乱軽減に大き

な役割を果たすものと考えられる。既定の他自治体の計画や国の指針、さらには阪神淡路大震災を踏まえ

たレポートなどにより、マニュアルに盛り込むべき内容は標準化されていると考えられる。また、策定に

は大きな時間は必要なく経費もかからないのでためらう理由はないはずである。仮置場を定めるだけでも

意味はある。未策定の自治体が早急に策定することを希望したい。

参考文献 ・「災害廃棄物処理事業業務報告書」(平成 10 年3月 神戸市環境局)『都市政策 no.93』(平成 10 年 9

月号)

・「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」(平成 11 年編集(財)阪神・淡路大震災記念協会)

(http://www.hanshin-awaji.or.jp/kyoukun/index.html)

・「震災廃棄物の適正管理に関する報告書(平成 11 年度版・12 年度版)」(七都県市首脳会議廃棄物問

題検討委員会)(http://www.8tokenshi.jp/date/main_01.html)

・「千葉市震災廃棄物処理計画」(平成 17 年3月 千葉市環境局)

・「災害廃棄物対策検討部会報告書」(平成 18 年3月 埼玉県清掃行政研究協議会)

・「震災廃棄物対策指針」(平成 10 年 10 月 厚生省生活衛生局水道環境部)

・「水害廃棄物対策指針」(平成 17 年6月 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部)

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大規模災害下の廃棄物処理 -阪神大震災と新潟中越地震における倒壊家屋撤去の行政事務支援-

(独)防災科学技術研究所 地震防災フロンティア研究センター

角本 繁 1.背景 大規模災害が起こると、「予想外の事態」が起こるのが恒である。災害対策は、災害を経験す

る毎に改善され、地震に対しても耐震化や事前・事後の対応も良くなっているが、改善の余地は

多い。廃棄物処理に関しては、倒壊家屋が産業廃棄物になるため、大量の家屋の撤去を行う必

要が生じる。 1-1. 神大震災の事例 1995年の阪神大震災に際しても、多くの予想外の事態が起こり、多くの改善が行われた。ボランティア活動や家屋の応急危険度判定が定着したと言える。耐震化、情報システムの高度化

も前進した。

阪神大震災のスナップ

市庁舎の倒壊でコンピュータ室が被災

落ちないはずの橋桁が落下

壊れないと思っていたビルが倒壊

事前にできた?対応

自治体に頼る住民の列

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倒壊した高速道路、木造家屋は全て産業廃棄物として処理された。撤去業務は公費負担にな

るため、自治体では大量の撤去受付業務が必要であった。

指定の最終処分場までは、大型トラックの長い列ができ、1日に 2、3往復がやっとであった。そのために、一時的には野焼きも行われていた。 1-2. 新潟中越地震の事例 阪神大震災から 10 年後の新潟中越地震では、連絡の取れなくなった集落や雪による家屋倒壊などの問題が大きかった。 家屋撤去については、業務処理能力が小さな自治体では、撤去家屋の申請業務は大きな負担

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になった。雪によって現況が変わるために、短期間に現場写真を撮ることなどが求められた。

山古志村の事例(1)•家の前の道路の損壊によって避難所にも行けなかった。

役場への連絡もできなかった•電話が使えなかったため 。•消防自動車は、車庫の前の段差で動かせなかった。                         (火事がなかったので影響なし)。

坂の上の方向

山古志村の事例(2)養殖池(棚田)の棚の再建で土地の所有が変わる?土地と家屋の管理は、自治体の業務になる。

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2.時空間 GISによる倒壊家屋撤去申請業務の支援 阪神大震災に際して神戸市長田区役所で、倒壊家屋撤去業務の支援を行った。当時は、支援

活動も始めての経験であるため、要求される情報処理の内容も明らかでなかった。全て手探り

の状況下で、自治体職員と一緒に問題解決に望んだ。

5 88

1 0 20

1 39 4

70 1

5 4 1

3 85

2 4 5

1 12

34 63 7 0

2 362 2 9

1 3 9

58 4 5

2 99

2 0 8

1 3 4

25 5

1 2 5

0 2

2 61

12 31 4 81 088 1

737

3 0 0

1 29

4 3 53 963 6 3

2 4 73 08

4 0 43 533 1 02 4 9

1 78

2 2 1

47 0

4 24

4 2 5

0

2 0 0

4 0 0

6 0 0

8 0 0

1 0 0 0

1 2 0 0

1 4 0 0

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1/29

1/31 2/

22/4

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2/82/10

2/12

2/14

2/16

2/18

2/20

2/22

2/24

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2/28 3/

23/4

3/6

3/83/10

3/12

3/14

受付日 (1995) 

受付件数

倒壊家屋解体撤去業務支援活動の評価と問題点

情報システムを導入することで迅速で効率的な対応が可能になる情報システムを導入することで迅速で効率的な対応が可能になる

300件

家屋解体

搬送

情報システムの導入

阻害要因:データの不備,人の確保

ゼンリンデータのみでは不十分

普段から使っていない自治体職員では受け入れに時間がかかる

長田区役所では、受付を開始した 1 月 29 日には、3000 人の申請者が役所に並んだという。実際の受付は、600件弱である。全期間の受付件数は、平均 1日 300件程度になる。同区役所で平常時に受け付ける固定資産の滅失処理は 1年で 300件程度であるから、毎日 1年分の産業廃棄物と固定資産移動に関する行政業務を行うことを意味する。また、ピークとしては、1 日で 3000件の処理、つまり 10年分の処理、をすることが期待されることになる。 事務手続きは行っても、家屋の解体が進まない事態も発生した。原因は、①単純に住所から

物件の特定が出来ない、②物件の特定は出来ても位置的に奥まっていたり段差があったりして

処理できない、などの理由であった。地図データによる位置の確認と位置関係の分析が能率を

上げるためのブレークスルーになった。日々変化する変化情報の蓄積と利用も重要であった。

申請の取り消しなどの処理が必要であり、時間的な推移を地図データ上で管理できる情報シス

テム(時空間 GISと応用システム)の開発に行き着いた。申請の受付段階で、その内容を地図

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上に登録することで、この情報処理の改善を図ることができた。

図 発注されたが解体できなかった物件(平成7年1月~4月:一部)

住所から位置の確定が困難

解体の順番管理が必要

解体できなかった理由

倒壊家屋解体撤去受付の流れ

申請者

申請書

住宅地図(紙地図)

発注依頼書

現地地図

転記

コピー

手作業

書類担当者

記入

確認

家屋情報調査

住宅地図(電子地図)

入力

手作業

ソフト

書類

電子データ

地図DB

申請者DB

統合DB

発注依頼書

現地地図

申請書

家屋情報調査

申請者

記入

確認

担当者

情報システム導入前

情報システム導入後

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図 地図データを用いたまとめ発注

解体処理手続きの効率化 個別(家屋ごと)→「地域」  「地域」:行政区に拘束されない 住所管理→(座標+時間)管理

申請情報を地図上の位置に対応付けることで、まとめて解体撤去をするための計画が立てら

れるようになった。

日経新聞(1995年3月31日)

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3.災害対応の情報処理と「リスク対応型地域管理情報システム(RARMIS)」 災害対応に必要な情報は、平常時に蓄積しておくことが出来る。被災後に収集した情報はそ

の後の復興処理の基礎データになる。平常時には、各種の異動届の処理として収集される情報

を位置情報として管理することで、緊急対応に活用できる基礎情報になる。

災害対応のサイクルの中で情報処理に期待されること

災害発生

復興期(~数年)[新しい町づくり]

復旧期(~数月)[仮生活基盤確保]

初動期(~数週)[危険物撤去]

混乱期(~数日)[人命救助]

平常時

家屋・道路の被災状況の整理,ボランティアなどの支援体制の確立,

復旧計画策定の支援など

罹災証明などの各種証明書の発行支援,ライフラインや道路の復旧状況のモニタリング,復旧計画の策定支援,生活情報の共有など

固定資産管理,住民管理など

被災地の特定や概要把握,安否確認,救助支援など

被災状況・復興状況の整理分析,風土・地域の立地条件などによる災害分析,再開発計画立案の支援災害分析,

基礎データ収集(被災地区の再測量)など

○ 大量のデータ処理(コンピュータによる処理)○ 視覚化技術の利用(GIS,マルチメディア)○ 距離(時間)の短縮(ネットワーク)○ データ発信の同報性(インターネット)

平常時に使用していない専用の防災情報システムは、緊急時に使うことは難しい。操作がで

きない、情報が古いなどの問題がある場合が多い。そこで、平常時に使用しているシステムで

緊急対応をするという平常時と緊急時の連続性を前提にしたシステム構築が求められる。この

概念を「リスク対応型地域管理情報システム」として提案してきた。 自治体の業務は、縦割りで壁をもって行われる。これは、個人情報を守るための仕組みであ

ると考えているが、緊急時には情報の統合が必要になる。倒壊家屋の撤去業務でも、家屋情報

と居住者情報の統合が必要であった。 自治体の情報は、住民情報、土地家屋情報、ライフライン情報などに大別される。それぞれ

を直接統合することは難しくても、地図上の位置情報とすれば、統合は可能になる。時間的な

位置を合わせて、時空位置情報とすれば、必要な情報を要求に応じて統合することができる。 時空間情報システムは、関連情報を時空間位置に対応付けて記述する情報システムで、従来

型の GISと区別して「時空間 GIS」と呼ぶ。データベース管理機能も必要に応じて包含される

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ことを特徴としている。

災害時 平常時

時空間情報システムによるデータ管理

災害時と平常時の連続性

被災者の安全確保

災害廃棄物処理

生活環境の回復

都市の復興

住民情報管理

固定資産情報管理

道路・上下水施設管理

都市計画

位置座標/時間履歴を基準に管理

必要に応じて相互参照

ライフライン情報

住民情報 家屋情報

時空間データベース

基本地図

測量/調査

コンピュータ

時空間データベース

モデル化/更新

目的に応じた地図

実世界の地理的・歴史的モデル

時間指定

過去

未来

時間指定

出力/ プレゼンテーション

図  時空間情報システムの概念

データ参照 ―指定された:時間/場所/オブジェクト/他

集積データt = t0

1:10000

1:500

……

画像/ 表/ 地図/ 他

x y z A t t r .

・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ 時間

N

場所指定

アプリケーション - 解析/総合化/ 他

統合された情報

場所指定

時間

変化する実世界

t = t0(未来)

(過去)

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4.防災情報システムの研究の狙い

大都市大震災軽減化特別プロジェクトにおける研究の狙い

IT技術によって、地震被害を大幅に削減する。

地震被害の削減は、建築物の耐震化が必須であるため、IT技術のよる減災は補助的な役割になる?

減災シナリオの作成とその実現を目指す。

•人的被害の削減(注)•経済的損失の削減  復興の加速化  復興経費節減

注:建物・家具の下敷きでの死亡者(概数)   阪神大震災:75%、新潟中越地震:35%

大量に発生する廃棄物の処理を効率的に行うことは、災害時の経済損失削減において重要な

課題である。平常業務に使われる時空間 GISによって、緊急時の稼動も保証される情報処理基盤を構築することが出来る。システムを定着させるために、データベースの更新を含めて、費

用対効果を十分に考慮した設計・計画をすることが求められる。