医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査 - 立...

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立正大学臨床心理学研究第 7 2 0 8 p . 2 3 - 3 0 専門領域の研究動向 医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査 ー近年の動向と特徴ー The R e c e n t Trends and F e a t u r e s o f t h e C l i n i c a l P s y c h o l o g i c a l T e s t s and t h e N e u r o p s y c h o l o g i c a l T e s t s i n t h e M e d i c a l S e r v i c e F e S c h e d u l e 初枝 I) H a t s u e Numa 本論文では、臨床心理・神経心理検査の日本における動向を、医科診療報酬の視点から検討 することを目的とする。医療領域で活動する臨床心理士にとって、心理検査は重要なアセスメ ント手段のひとつである。しかし医科診療報酬体系は時代に大きく左右され、臨床心理士の業 務として位置づけられてこなかった。診療報酬における臨床心理・神経心理検査の歴史を概観 し、特に平成1 8 . 平成20年度の臨床心理•神経心理検査の特徴について述ぺる。 [キーワード]医科診療報酬,臨床心理検査,神経心理検査 はじめに わが国の精神科医療の歴史において臨床心理士 は、医師や看護師を中心とする確立された臨床の 場へ、後から少しずつ参入し、臨床心理学的接近 法を基盤に心理検査や心理療法の専門家として、 医療のなかに根付いてきた。心理検査に関しては、 臨床心理士という名称もない 1960• 7 0 年代には 「テスターのみの役割」を周囲から要請されるこ とが多く、心理臨床家が自らのアイデンティティ を模索する時代であった。しかし現在では、心理 アセスメントの重要性が再認識され、チーム医療 における「心理側面のアセスメントと心理的援助 を行なう臨床心理士」として広く認識されるよう になっている。心理検査は臨床心理士にとって重 要なアセスメント・ツールの一つであり、心理検 査が、周囲の医療スタッフから臨床心理士に期待 されてきた役割であることは、昔も今も変わりは なし ' o その一方、今もって臨床心理士は国家資格では ないため、医療領域においてその責任性と経済収 益性について蚊帳の外という状況下にある。特に 臨床心理士の主たる業務と考えられている心理検 査やカウンセリングは、医科診燎報酬体系に組み 込まれていない。そのため、臨床心理士自身も、 診療報酬における臨床心理・神経心理検査の歴史 について不勉強と言わざるをえない。厚生省が省 庁再編により厚生労働省となった約この 1 0 年間に、 臨床心理・神経心理検査の内容や位置づけは大き く変化していると思われる。ここでは、その動向 を概観し、特に平成1 8 . 平成2 0 年度の臨床心理・ 神経心理検査の特徴について述ぺることにする。 1 . 医科診療報酬における臨床心理検査 の変遷 日本医療制度の大きな特徴の一つに、健康保険 法の規定に甚づき、診療報酬が定められていると いうことがある。診療報酬とは、保険診療におけ 1) 立正大学心理学部 F a c u l t y o f P s y c h o l o g y , R i s h o U n i v e r s i t y -23-

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立正大学臨床心理学研究第 7号 2008 pp.23-30

専門領域の研究動向

医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査ー近年の動向と特徴ー

The Recent Trends and Features of the Clinical Psychological Tests

and the Neuropsychological Tests in the Medical Service Fee Schedule

沼 初枝 I)

Hatsue Numa

本論文では、臨床心理・神経心理検査の日本における動向を、医科診療報酬の視点から検討

することを目的とする。医療領域で活動する臨床心理士にとって、心理検査は重要なアセスメ

ント手段のひとつである。しかし医科診療報酬体系は時代に大きく左右され、臨床心理士の業

務として位置づけられてこなかった。診療報酬における臨床心理・神経心理検査の歴史を概観

し、特に平成18. 平成20年度の臨床心理•神経心理検査の特徴について述ぺる。

[キーワード]医科診療報酬,臨床心理検査,神経心理検査

はじめに

わが国の精神科医療の歴史において臨床心理士

は、医師や看護師を中心とする確立された臨床の

場へ、後から少しずつ参入し、臨床心理学的接近

法を基盤に心理検査や心理療法の専門家として、

医療のなかに根付いてきた。心理検査に関しては、

臨床心理士という名称もない1960• 70 年代には

「テスターのみの役割」を周囲から要請されるこ

とが多く、心理臨床家が自らのアイデンティティ

を模索する時代であった。しかし現在では、心理

アセスメントの重要性が再認識され、チーム医療

における「心理側面のアセスメントと心理的援助

を行なう臨床心理士」として広く認識されるよう

になっている。心理検査は臨床心理士にとって重

要なアセスメント・ツールの一つであり、心理検

査が、周囲の医療スタッフから臨床心理士に期待

されてきた役割であることは、昔も今も変わりは

なし'o

その一方、今もって臨床心理士は国家資格では

ないため、医療領域においてその責任性と経済収

益性について蚊帳の外という状況下にある。特に

臨床心理士の主たる業務と考えられている心理検

査やカウンセリングは、医科診燎報酬体系に組み

込まれていない。そのため、臨床心理士自身も、

診療報酬における臨床心理・神経心理検査の歴史

について不勉強と言わざるをえない。厚生省が省

庁再編により厚生労働省となった約この10 年間に、

臨床心理・神経心理検査の内容や位置づけは大き

く変化していると思われる。ここでは、その動向

を概観し、特に平成18. 平成20 年度の臨床心理・

神経心理検査の特徴について述ぺることにする。

1 . 医科診療報酬における臨床心理検査

の変遷

日本医療制度の大きな特徴の一つに、健康保険

法の規定に甚づき、診療報酬が定められていると

いうことがある。診療報酬とは、保険診療におけ

1) 立正大学心理学部 Faculty of Psychology, Rissho University

-23-

沼:医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査

る医療行為などについて計算される報酬の対価の

ことであるが、 2年ごとに厚生労働省が告示する

診療報酬点数表によって算定されている(消費税

の導入などにより、一年後に見直されるなどの例

外はある)。歴史をたどれば、昭和33 年10 月厚生

省は、「健康保険法の規定に基づき、療養に要す

る費用の額の算定方法を次のように定める・・・(略)」

として、保険医療機関に係る診療や療養に要する

費用の額を、歯科診療以外の診療に関する別表第

1診療報酬点数表(甲)から別表第 4診療報酬点

数表(乙)に区分して制定した。またその費用の

額は、 1点の単価を10 円として、各別表に定めら

れた点数に乗じて算定することとした。以降、現

在に至る約半世紀のあいだ、厚生省は厚生労働省

に統合され、医療の世界は飛躍的に変化し、何度

か診療報酬体系の改革が行なわれたが、この診療

報酬点数の考え方は(日本の保険医療制度は)甚

本的に一貫している。

診療報酬の点数は、社会保険庁から医科診療報

酬点数表として 2年に一度出版され、広く周知さ

れている。ここでは臨床心理・神経心理検査の部

分だけ取り出し、特に大きく変化した具体的な内

容を、年度順に追って概観する。尚、社会保険研

究所が発行する各年度の「医科点数表の解釈」を

参考にした。

1) 昭和56 年 5月

従前の臨床心理検査について整理が行なわれ、

臨床心理・神経心理検査として以下のように規定

された。少し長くなるがそのままを引用する。

【臨床心理・神経心理検査】

ア 検査を行なうに当たっては、個人検査用と

して標準化され、かつ、確立された検査方法

により行う。

イ 各区分のうち、「 1. 」操作が容易なものと

は、検査及び結果処理に概ね40 分以上を要す

るもの、「 2. 」操作が複雑なものとは、検査

及び結果処理に概ね 1時間以上を要するもの、

「3. 」操作と処理が極めて複雑なものとは、

検査及び結果処理に概ね 1時間30 分以上要す

るものをいう。なお、臨床心理・神経心理検

査は、医師が自ら検査及び結果処理を行なっ

た場合のみ算定する。

ウ 診療録に分析結果を記載する。

068 発達及び知能検査

1. 操作が容易なもの120 点

2. 操作が複雑なもの250 点、これは MCC ベビー

テスト、 WISC 、WAIS 、鈴木ビネーテスト、

田中ビネーテスト等である。

068- 2 人格検査

1. 操作が容易なもの120 点

2. 操作が複雑なもの250 点、これは SCT 、P-F

スタディ、 MMPI 、ゾンディーテスト等であ

る。

3. 操作と処理が極めて複雑なもの(ロールシャッ

ハテスト、 TAT テスト、 CAT テスト等) 400

068- 3 その他の心理検査

1. 操作が容易なもの120 点

2. 操作が複雑なもの250 点、これは ITPA 、ベ

ンダーゲシュタルトテスト等である。

3. 操作と処理が極めて複雑なもの(標準失語検

査等)、これは、 WAB 失語症検査、老研版失

語症検査等である。

各区分において、複数の検査を行なった場合で

あっても 1種類のみの所定点数により算定する。

2) 平成 2年 4 月

上記に加えて「長谷川式簡易知能評価スケール

及び国立精研式痴呆スクリーニングテストの費用

は、基本診察料に含まれているものであり、算定

できない。」と付け加えられる。

3) 平成 6年 4月

昭和33 年以来の診療報酬体系の改革を図るとい

う観点から、診療報酬点数表である甲表・乙表を

一本化するなど、医療保険全体として大きな制度

改革が行なわれた。

(1) 臨床心理・神経心理検査は上記制度改革に従っ

-24-

て、区分番号D283-D285 に変更になり、保険

点数も以下のように変更となった。

操作が容易 操作が複雑 操作と処理が極

なもの なもの めて複雑なもの

平成6年120 点 250 点 400 点

3月以前

平成6年135 点 280 点 450 点

4月以降

立正大学臨床心理学研究第7号 2008

ントしたり、記銘力や認知機能のための検査で

ある。(表2) D283- D285 太字の心理検査

7) 平成20年4月

大きくは以下の 2点で大きな変更があった。

(1) 同一日に実施した複数の検査は、各区分番号

において主たる検査一種類のみ算定する。

(例 知能検査と人格検査を同Hに実施しても、

(2) しかしそれ以外に、具体的な検査内容や、実 それぞれ算定できるようになった。)

施にまつわる規程に変更はなかった。 (2) D285 その他の心理検査は「D285 認知機能検

査その他の心理検査」名称変更になり、実際に

4) 平成12年4月 認知機能検査に代表されるような神経心理検査

D283-D285 において、具体的検査名が明記さ が多く追加になった。(表 2) D283- D285

れた。その一覧を表 lに示す。今までの「ロール 網掛けの心理検査

シャッハテスト、 TAT テスト、 CAT テスト等」

と検査内容に幅を持たせていた「等」が取り払わ 以上、臨床心理・神経心理検査の保険点数上の

れ、点数化できる検査が明確になった。 変遷を概観した。心理検査に関わる臨床心理士に

5) 平成14年4月

点数の一部変更、操作が容易なもの 120 点→

80点

6) 平成18年4月

この年度は、臨床心理・神経心理検査の診療報

酬点数において、以下の 3点で大きな変更がみら

れた。特に太字の部分は、臨床心理士に大きく影

響するところである。

(1) 同一日に複数実施した検査は、区分番号にか

かわらず、主たるもの 1種類のみ算定する。以

前は区分番号が違えば(例 知能検査と人格検

査を同日に実施する)それぞれ算定できていた。

(2) 検査者及び結果処理者は、医師でなくても点

数の算定が可能になる。『なお、臨床心理・神

経心理検査は、医師が自ら、又は医師の指示に

より他の従事者が自施設において検査及び結果

処理を行い、かつその結果に基づき医師が自ら

結果を分析した場合にのみ算定する。』と変更

された。

(3) DSM-IV の影響と思われる検査が新しく加

えられた。それは主として、 PTSD をアセスメ

とって一番大きな問題点は、昭和56年 0981 年)

5月厚生省告示(第95号)であろう。それまでの

漠然とした臨床心理検査を整理しなおし、「操作

が容易なもの、操作が複雑なもの、操作と処理が

極めて複雑なもの」の定義を、検査と結果処理に

かかる時間で明確にした。さらに、点数を算定で

きるのは、「医師が検査し結果処理を行なった場

合のみ」とし、公には臨床心理検査は医師の業務

となったのである。しかし現実には、臨床心理検

査は、医学部ではなく心理学系の大学で教育・指

導され、臨床心理士養成に当たっては、臨床心理

査定の柱として心理検査習得が必須である。ほと

んどの精神科医は、臨床心理検査は臨床心理士の

業務であると考えているし、心理検査について専

門的知識を有している医師は決して多いとはいえ

なし'o

2. 平成1 • 20年度診療報酬改定の特徴

ところが平成18年度、突如、上述のように「臨

床心理・神経心理検査は、医師が自ら、又は医師

の指示により他の従事者が自施設において検査及

び結果処理を行い、かつその結果に甚づき医師が

自ら結果を分析した場合にのみ」と変更になった。

-25-

沼:医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査

「他の従事者」という極めて曖昧な文言ではある

が、医療機関で臨床心理士がロールシャッハ・テ

ストを施行することができるようになったのであ

る。しかし裏を返せば、臨床心理士に限らず、看

護師でも言語聴覚士でも作業療法士でも、誰でも

検査可能ということでもある。

成1 • 20年の臨床心理・神経心理検査の表を

よく眺めてみると、新しく加えられた検査は、今

までの心理検査とは特徴の迩う検査が多い。例え

ば、 SCID は確かにアセスメントの手段ではある

が、心理検査ではなく構造化面接である。そうい

う意味で、大多数の臨床心理士が、その名前も知

らない検査もある。特に平成20年に「その他の心

理検査」は「認知機能検査とその他の心理検査」

に改められた。それら認知機能検査のなかには、

日本人を対象にまだ椋準化されていない検査やー

般の心理検査代理店では手に入らない検査もあり、

かなりの検査が研究に用いられている段階である。

従来の心理学系大学院では、教えていなかった認

知機能検査が多々あり、臨床心理士にとっての心

理検査というものを改めて考えさせられるのであ

る。

3. 新しく算定された諸検査の概要

平成1 • 20年度に加えられた臨床心理・神経心

理検査について簡単に説明する。非常に多くの検

査が追加されたので、詳しい検査内容については、

参考文献などを参照されたい。

1) DSM と関連した臨床評価法や検査法

① PTSD の診断や評価にかかわるもの

IES- R : 出来事インパクト尺度 Impact of

Event Scale-Revised

外傷後ストレス症状に関する22項目からな

る自記式質問紙。 PTSD の診断基準に合わ

せて、「再体験」「回避」「覚醒充進」三次

元の下位尺度で構成されている。

PDS : Posttraumatic Stress Diagnostic Scale

DSM-IV による PTSD の17症状について、

過去一ヶ月間の症状頻度を 4段階評価する。

CAPS : Clinician-Administered PTSD Scale

DSM- IV の基準に合わせた PTSD と

ASD 双方を診断することが可能な構造化

面接法。現在のところ最も精度の高い

PTSD の診断面接法として各国の臨床研究

で使用されている。

②その他

SCID 構造化面接法: Structured Clinical

Interview for DSM -IV DSM -IVの第 1

軸と第II軸にある精神障害を診断するうえ

で、必要な情報を収集できるように編集さ

れた面接マニュアル。

2) 認知機能や記銘力に関連する検査

①記憶・記銘力障害の評価

COGNISTAT : The Neurobehavioral Cogni-

tive Status Examination 認知機能検査。

11の下位項目(見当識、注意、語り、理解、

復唱、呼称、構成、記憶、計算、類似、判

断)があり、結果はプロフィールで表示さ

れる。

リバーミード行動記憶検査: H常生活をシュミ

レーションし、 H常記樟の障害を検出。人

名の記銘と遅延再生、未知相貌と日用品の

記銘と再認、道順の記銘と再生遅延、予定

記憶などがある。

ROCFT : Ray-Osterrieth Complex Figure

Test 知覚的構成能力と視覚性記憶を評

価。 18のコンポーネントから構成された複

雑な幾何学図形を題材にして、図形模写、

即時再生、遅延再生を課題とする。

WMS-R: Wechsler Memory Scale-Revised

記位のさまざまな側面を総合的に測定。認

知症をはじめ種々の記憶障害を評価。 13の

下位検査で構成され、言語性と視覚性の検

森が交互に配骰され、一般的記憶、注意・

集中力、言語性記憶、視覚性記憶、遅延再

生などの記位指標が導き出される。

②認知症の評価

SIB : Sever Impairment Battery 高度に障害

-26-

された認知機能を評価。 9の下位項目(社

会的相互行為、記憶、見当識、注意、実行、

視空間能力、言語、構成、名前の志向)、

40の質問項目から構成されている。

Coghealth : 5種類のトランプゲームからなり、

脳機能を測る。 5の下位項目(単純反応、

選択反応、作動記憶、遅延再生、注意分散)

からなる。

NPI : Neuropsychiatric Inventory 脳病変を

有する患者の精神症状を評価。患者の行動

をよく知る介護者を情報提供とした構造化

インタビュー。 10項目の精神症状(妄想、

幻覚、典奮、うつなど)について、頻度と

厘症度を評価する。介護者の介護負担度を

みる。

Behave-AD: アルツハイマー型認知症行動ス

ケール 認知症患者の異常行動や精神症状

を測定。患者の行動をよく知る介護者を情

報提供とした構造化インタビュー。 7下位

尺度25項目(妄想観念、幻覚、行動府害、

攻撃性、日内リズム障害など)についてた

ずねる。

ADAS : Alzheimer's Disease Assessment

Scale アルツハイマー型認知症の治験で、

もっとも広く用いられている検査であり、

認知機能の変化を評価。認知機能検査

(ADAS-cog) と非認知機能検査 (ADAS-

る。 •

成の 3領域を測定。

③前頭葉機能の評価

WCST ウィンスコンシン・カード分類検査:

Wisconsin Card Sorting Test 64枚一組の

• • 星形・十

字形・円形、 1個-4 個)。これらの要素

を組み合わせてできるカードの、正しい分

類規則を推論させ、「抽象的行動」や「構

え(セット)の変換」を調べる。 PC版が

ありダウンロードが可能。

遂行機能障害症候群の行動評価 (BADS) : Be

havioural Assessment of the Dysexe-

立正大学臨床心理学研究第 7号 2008

cutive Syndrome 日常生活上の遂行機能

に関する問題点を検出するため開発される。

カードや道具を使った 6種類の検査と 1つ

の質問表で構成された検査バッテリーであ

る。

④その他

K-ABC : Kaufman Assessment Battery for

Children 幼児・児童の知能と習得度を個

別に測定。知能を「継次処理ー同時処理」

という認知処理過程モデルでとらえ、教育

や指導に生かす目的で作られた。

3) その他

JART : Japanese Adult Reading Test 知的

機能を簡便に評価。熟語の音読課題50語で

あり、認知症や統合失調症などの患者の病

前IQ を推定する。

HDRS ハミルトンうつ病症状評価尺度:観察

者による評価尺度。うつ病を中心とする臨

床研究や抗うつ薬の臨床試験に用いられ、

世界に一番普及しているうつ状態の重症度

評価尺度。研究目的や用途により多くの要

約版、改変版などがある。

WHO QOL26: WHO の健康概念を国際比較

することを目的に、 15カ国で同時に開発さ

れた。 QOL26 は臨床用であり、 26項目の

自記式質問紙法であり、心理・身体・社会

的関係・環境の 4領域から構成されている。

4. 医療現場における臨床心理・神経心

理検査

平成1 • 20年診燎報酬改訂表を眺めると、そこ

には何か大きな意図が流れ、時代の特徴を感じ取

ることができる。例えば、平成18年には、 DSM

診断基準に碁づいた PTSD の診断のため、市販

されていない尺度が臨床心理検査に追加された。

この背景には、医療機関に PTSD の診断の有無

を求めて受診する患者が増えたということが関連

しているであろう。 PTSD の診断は、災害や犯罪

といった被害に巻き込まれた患者の訴訟にかかわ

-27-

沼:医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査

る問題になってきている現状がある。 PTSD とい

う言葉は広く社会に知られるようになったが、

PTSD という障害の理解は十分ではない。医療場

面では、 PTSD の診断甚準を明確にし、診断の精

度を上げる必要がある。そのためのアセスメント

は早急に整えられなければならなかっただろう。

厚生労働省は平成20年 7月に「認知症の医療と

生活の質を高める緊急プロジェクト」を打ち出し

た。このプロジェクトの柱には、「研究開発の促

進(予防法の発見や確実な診断技術の確立、治療

薬の開発研究)」、「早期診断の推進と適切な医療

の提供(認知症疾患医療センターを全国に150 ヶ

所設置)」や「若年性認知症への対策」などがあ

る。これらプロジェクトを中心に、認知症関連の

平成21年度予算要求額は、平成20年度の倍以上と

な ている。 の •

介入に力を入れ、初期診断におけるうつ病やその

他の疾患との鑑別診断や、軽度認知症 (MCI

Mild Cognitive Impairment) への対応はより重

要となってくる。平成20年に、認知機能検査とし

て多くの記銘力検査や認知症重症度検査が導入さ

れたのが理解できる。こうした神経心理アセスメ

ントを、臨床心理士が使いこなせるようになるこ

とが、高齢者医療における臨床心理士の活動の場

を、より確かなものにしていくであろう。

医療現場において、臨床心理に携わる専門家が

必要とされているのは自明のことである。現実に、

幅広いさまざまな医療分野で臨床心理士は活動の

場を広げている。しかし厚生労働省の文書のなか、

精神科、児童・思春期病棟、緩和ケア関連では臨

床心理技術者(この名称や立場がどうであるかは

別問題であるが)という言葉は明文化されている

ものの、臨床心理士の名称は見当たらない。激動

の医療現場では常に大きな変化が起きている。何

十年と変化のあまりみられなかった臨床心理・神

経心理検査の内容でさえ、この数年間に様変わり

している。このような状況下、臨床心理士である

われわれ自身が、医療制度の方向性や厚生労働省

の動向をしっかり把握し、そこで発揮できる力を

育てていかなければならない。

5. 引用文献・参考文献

厚生労働省保険局医療課編集 医科点数表の解釈

社会保険研究所

1) MURIEL D.LEZAK 鹿島晴雄総監修 (2005) レザッ

ク神経心理学的検査集成 創造出版

2) 上里一郎監修 (2001) 心理アセスメントハンドプッ

ク第2版西村書店

3) 氏原寛、岡堂哲雄、亀口憲治ら編集 (2006) 心理

査定実践ハンドブック 創元社

4) 小山充道編集 (2008) 必携臨床心理アセスメント

金剛出版

5) 高橋三郎監修 (2003) 精神科診断面接マニュアル

SCID 使用の手引き・テスト用紙 日本評論社

6) 田川皓一編集 (2004) 神経心理学評価ハンドプッ

ク 西村書店

7) 臨床精神医学編集委員会 (2004) 精神科臨床評価

検査法マニュアル 臨床精神医学2004 年増刊号

-28-

立正大学臨床心理学研究第7号 2008

表 1 臨床心理•神経心理検査に る 平成12年

操作が容易なもの (120 点) 操作が複雑なもの (280 点)操作と処理が極めて

複雑なもの (450 点)

発津守式乳幼児精神発達検査 MCC ベビーテスト

達 牛島幼児簡易検査 PBT ピクチュアー・プロック知能検査

お 日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査 新版k式発達検査よび 遠城寺式乳幼児分析的発達検査 WPPSI 知能診断検査

i デンパー式発達スクリーニング 全訂版田中ビネー知能検査

DAM グッドイナフ人物画知能検査 鈴木ビネー式知能検査

フロスティッグ視知覚発達検査 WISC-ill 知能検査D 脳研式知能検査 WISC-R 知能検査2

8 コース立方体組み合わせテスト WAIS-R 成人知能検査 (WAIS を含む)3

レーヴン色彩マトリックス 大脇式盲人用知能検査

パーソナリティーインベントリー パウムテスト ロールシャッハテス

モーズレイ性格検査 SCT 卜

命塁Y-G 矢田部ギルフォード性格検査 P-F スタディ TAT 絵画統党検査

TEG- II束大式エゴグラム MMPI CAT 幼児児童用絵画

TPI 統覚検査

D EPPS 性格検査2 8 16P-F 人格検査

4 描画テスト

ゾンディーテスト

PIL テスト

CAS 不安測定検査 ベントン視覚記銘検査 ITPA

SDS うつ性自己評価尺度 内田クレペリン精神検査 CLAC-III

そCES-D うつ病(抑うつ状態)自己評価尺 三宅式記銘力検査 標準失語症検査

の 度 CLAC- II WAB 失語症検査他

•特 検査 老研版失語症検査の心 POMS 理 TK式診断的新親子関係検査嬰CMI 健康調査票D GHQ 精神健康調査票2 8 MAS 不安尺度5 プルドン抹消検査

ベンダーゲシュタルトテスト

MEDE 多面的初期認知症判定検査

注:改訂長谷川式簡易知能評価スケールを用いた検査及び国立精研式認知症スクリーニング

テストの費用は、基本診察料に含まれているものであり、別に算定できない。

-29-

沼:医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査

表2 臨床心理 神経心理検査に る 平成1 • 20年)

操作が容易なもの (80 点) 操作が複雑なもの (280 点)

津守式乳幼児精神発達検査 MCC ベビーテスト

発 牛島幼児簡易検査 PBT ピクチュアー・プロック知能検査達

日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査 新版k式発達検査およ 遠城寺式乳幼児分析的発達検査 WPPSI 知能診断検査び デンパー式発達スクリーニング 全訂版田中ビネー知能検査知能 DAM グッドイナフ人物画知能検査 田中ビネー知能検査v

嬰フロスティッグ視知党発達検査 鈴木ビネー式知能検査

D 脳研式知能検査 WISC-III 知能検査2

コース立方体組み合わせテスト WISC-R 知能検査8 3 レーヴン色彩マトリックス WAIS-R 成人知能検査 (WAIS を含む)

JART 大脇式盲人用知能検査

パーソナリティーインベントリー パウムテスト

モーズレイ性格検査 SCT

芯命Y-G 矢田部ギルフォード性格検査 P-F スタディ

TEG- II束大式エゴグラム MMPI

新版TEG TPI D EPPS 性格検査2

16P-F 人格検査8 4 描画テスト

ゾンディーテスト

PIL テスト

CAS 不安測定検査 ベントン視覚記銘検査

SDS うつ性自己評価尺度 内田クレペリン精神検査

CES-D うつ病(抑うつ状態)自己評価尺 三宅式記銘力検査

度 ペンダーゲシュタルトテスト

HORS ハミルトンうつ病症状評価尺度 WCST ウィンスコンシン・カード分類

認 •特 検査 検査知POMS SCIO 構造化面接法冒IES-R CLAC-II

嬰PDS 遂行機能障害症候群の行動評価

そ TK式診断的新親子関係検査 BADS のCMI 健康調査栗 リバーミード行動記泣検査他

の GHQ 精神健康調査票 Ray-Osterrieth Complex Figure Test 心理 MAS 不安尺度 (ROCFT) 検 プルドン抹消検査査

ベンダーゲシュタルトテスト→280 点へD 2 MEDE 多面的初期認知症判定検査8 5 WHO QOL26

COGNISTAT

SIB

Cog health

NPI

BEHAVE-AD

注:改訂長谷川式簡易知能評価スケールを用いた検査及び国立精研式認知症スクリーニング

テストの費用は、甚本診察料に含まれているものであり、別に算定できない。

-30-

操作と処理が極めて

複雑なもの (450 点)

ロールシャッハテス

CAPS

TAT 絵画統党検査

CAT 幼児児童用絵画

統覚検査

ITPA

CLAC-m

標準失語症検企

WAB 失語症検査

老研版失語症検査

K-ABC

WMS-R

ADAS

平成20年 4月現在