医療安全の組織的推進:まとめ...盤としているモデルは総合的質マネジメント(total...

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連載 第4回 (最終回) むねちか・まさひこ1987年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了,工学博士取得。1987 年東京大学工学部反応化学科助手,1992年早稲田大学理工学部工業経営学科(現経営システム 工学科)専任講師,1993年同助教授を経て,1999年より早稲田大学理工学術院経営システム工 学科教授。主な研究分野は,TQM,感性品質,医療の質保証。主著に『組織で保証する医療の質 QMSアプローチ』『医療の質用語事典』など。 棟近雅彦 早稲田大学 理工学術院 教授 QMSアプローチとTQM 今回は,本連載の最終回である。同時に,本誌2018年8・9月号の特集「“モ グラ叩き”的な活動から仕組みの改善へ!」と,本誌2018年10・11月号から始め た全5回から成る連載「医療安全を組織的に保証するツールを使いこなす」を加 えた,3部作から成るシリーズの最終回でもある。全体での共通のテーマは,「医 療安全を組織的に推進する」であった。 TQMは必然的な活動 我々は,組織的に推進するために,質マネジメントシステム(Quality Management System〈以下,QMS〉)を構築し,運用することを基本としている。これを, QMSアプローチと呼ぶ。QMSのひな形(モデル)には多くのものがあるが,基 盤としているモデルは総合的質マネジメント(Total Quality Management:TQM) である。これは産業界,特に製造業で一定の成果を上げてきたモデルである。 図1は,商品を出荷するまでの流れ,バリューチェーンを簡略化して表したも のである。質マネジメントの初期は,検査が中心であった。しかし,検査は良品 と不良品を選別するだけであり,不良品は減らない。不良品を減らすためには, 生産しているところで不良品が出ないようにする,すなわち製造工程での質マネ ジメントを行うことが必然となる。 製造工程での質マネジメントが進んでくると,不良品が減り,市場に良品がた くさん出ることになる。競合他社も同様の活動を行うと,他社の良品もたくさん 市場に出回ることになる。すると消費者は,商品を選べるようになり,自分の気 に入ったものを選ぶ。気に入ったものでなければ,たとえそれが良品であったと しても,消費者は買わない。消費者に気に入ってもらえる仕様の商品にするため には,商品の企画,設計で頑張ることが必然になる。また,よい商品企画と設計 を行うためには,顧客の要求を把握し,顧客を満足させる商品のコンセプトを決 めて,それを仕様に変換することが必要になる。さらに,顧客の要求を的確に把 握するためには,営業や市場調査などの活動が重要になってくるので,営業部門 やマーケティング部門も頑張らなくてはならない。 このように,顧客に気に入られ,満足する商品・サービスを提供するには,つ 医療安全の組織的推進:まとめ 病院安全教育 Vol.7 No.4 68

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Page 1: 医療安全の組織的推進:まとめ...盤としているモデルは総合的質マネジメント(Total Quality Management:TQM) である。これは産業界,特に製造業で一定の成果を上げてきたモデルである。

医療安全を組織的に

保証するための知識を学ぶ

医療安全を組織的に

保証するための知識を学ぶ

連載 第4回(最終回)

むねちか・まさひこ●1987年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了,工学博士取得。1987年東京大学工学部反応化学科助手,1992年早稲田大学理工学部工業経営学科(現経営システム工学科)専任講師,1993年同助教授を経て,1999年より早稲田大学理工学術院経営システム工学科教授。主な研究分野は,TQM,感性品質,医療の質保証。主著に『組織で保証する医療の質QMSアプローチ』『医療の質用語事典』など。

棟近雅彦 早稲田大学 理工学術院 教授

QMSアプローチとTQM 今回は,本連載の最終回である。同時に,本誌2018年8・9月号の特集「“モ

グラ叩き”的な活動から仕組みの改善へ!」と,本誌2018年10・11月号から始め

た全5回から成る連載「医療安全を組織的に保証するツールを使いこなす」を加

えた,3部作から成るシリーズの最終回でもある。全体での共通のテーマは,「医

療安全を組織的に推進する」であった。

TQMは必然的な活動 我々は,組織的に推進するために,質マネジメントシステム(Quality Management

System〈以下,QMS〉)を構築し,運用することを基本としている。これを,

QMSアプローチと呼ぶ。QMSのひな形(モデル)には多くのものがあるが,基

盤としているモデルは総合的質マネジメント(Total Quality Management:TQM)

である。これは産業界,特に製造業で一定の成果を上げてきたモデルである。

 図1は,商品を出荷するまでの流れ,バリューチェーンを簡略化して表したも

のである。質マネジメントの初期は,検査が中心であった。しかし,検査は良品

と不良品を選別するだけであり,不良品は減らない。不良品を減らすためには,

生産しているところで不良品が出ないようにする,すなわち製造工程での質マネ

ジメントを行うことが必然となる。

 製造工程での質マネジメントが進んでくると,不良品が減り,市場に良品がた

くさん出ることになる。競合他社も同様の活動を行うと,他社の良品もたくさん

市場に出回ることになる。すると消費者は,商品を選べるようになり,自分の気

に入ったものを選ぶ。気に入ったものでなければ,たとえそれが良品であったと

しても,消費者は買わない。消費者に気に入ってもらえる仕様の商品にするため

には,商品の企画,設計で頑張ることが必然になる。また,よい商品企画と設計

を行うためには,顧客の要求を把握し,顧客を満足させる商品のコンセプトを決

めて,それを仕様に変換することが必要になる。さらに,顧客の要求を的確に把

握するためには,営業や市場調査などの活動が重要になってくるので,営業部門

やマーケティング部門も頑張らなくてはならない。

 このように,顧客に気に入られ,満足する商品・サービスを提供するには,つ

医療安全の組織的推進:まとめ

病院安全教育 Vol.7 No.468

Page 2: 医療安全の組織的推進:まとめ...盤としているモデルは総合的質マネジメント(Total Quality Management:TQM) である。これは産業界,特に製造業で一定の成果を上げてきたモデルである。

まり売れる商品・サービスを作るには,図1に示すどこか1つの部門が頑張っただけでは

できない。検査も,製造も,設計も,企画も,

営業も,すべての部門が頑張らなくては,顧

客を満足させられる質のよい商品はできない

ということである。質がよい=顧客要求を満

たすことであるから,質マネジメントは

“Total”な活動になるのが必然になる。この

活動が,TQMである。

 これは,医療でもまったく同様である。図2に,患者に与薬する場合の流れを示した。

検査技師は正確な検査結果を出し,医師はそ

れを受けて正しく診断して正しい処方を行

い,薬剤師は正しく薬を調剤し,看護師は正

しく患者に与薬することで,適切に与薬が行

われることになる。直接患者に投与するのは

看護師であるが,看護師だけでなく,みんな

が頑張る必要がある。このように,医療にお

いてもTQMは必然的な活動である。

TQMを構成する要素 TQMは,表1に示す構成要素から成り立っ

ている1)。フィロソフィー(基本的考え方)

とは,質マネジメントを進める上での根底に

ある考え方である。用語や概念の定義なども

含まれ,TQMを理解し,実践する上での基

礎となるものである。コアマネジメントシス

テムとは,フィロソフィーを具現化するため

に活用される,経営管理の仕組みである。こ

の仕組みを運営することで,質が達成できる。

 QC手法とは,問題解決,課題達成におい

て用いられるさまざまな技法である。仕組み

を効果的,効率的に動かすには道具が必要で

あり,統計手法や言語データを分析する手法

など,さまざまなものが活用される。運用技

術とは,TQMを推進する上でのさまざまな

工夫である。フィロソフィー,コアマネジメ

ントシステム,QC手法があれば,必要な機

能はそろっているのであるが,それを組織に

導入・推進するのは容易なことではない。な

るべくスムーズに進めるための制度,仕組

み,ツールがこれに含まれる。

 表1には,これまでの一連の記事がどの要

素に対応するかがわかるように,3列目に本

誌の年・号を,4列目に記事のタイトルを示

した。なお,記事は複数の要素にかかわる場

合があるので,重複しているものもある。

 ここからわかるように,本連載(表1の⑫~

⑮)ではすべての要素を取り上げた。ただし,

要素内のすべての項目を取り上げたわけでは

なく,特に医療の質マネジメントを推進する

に当たって重要な項目に絞っている。中でも,

業務の可視化・標準化,これに関連するPFC,

POAM,内部監査といったプロセス指向を実

践するためのツール,そしてQMSの最も重要

な要素である人を育てるための教育を,我々

は重視していることを理解いただけると思う。

QMS-H研究会QMS-H研究会とは QMSの一つのモデルであるTQMは,産業

界で一定の効果を示してきた。TQMの要素

をそのまま医療に適用できる場合もあるが,

医療にはハードウェア製品とは異なる特徴が

図2●患者への与薬の流れ

検査技師

医師

薬剤師

看護師

患者

検査結果

処方箋

薬剤

与薬

図1●商品が出荷されるまでの流れ

営業・市場

企画

設計

製造

検査

出荷・市場

病院安全教育 Vol.7 No.4 69

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あるので,医療に合うように修正したり,新

たに開発したりすることも必要である。我々

は,医療向けのQMSのモデルであるQMS-H

(Quality centered Management System for

Healthcare)モデルの開発と,それを病院に

導入・推進する方法の必要性を強く感じてい

た。しかも,大学の研究者だけで,机上で絵を

描くだけのことはやりたくないと思っていた。

 そこで,大学の理工系で質マネジメントを

研究する研究者と,医療を実務とする医療者

がタッグを組んでQMS-H要素を開発し,それ

を病院で実践して検証する研究会を設立する

ことにした。それがQMS-H研究会で,2007年

に設立された。前述した記事のコンテンツは,

この研究会で開発してきたものである。

 現在の参加病院を表2に示す。いろいろな

経営母体,病床数,機能の病院が参加してお

り,偏った視点で議論することなく,普遍性

のある仕組みやツールの開発ができるメン

バーがそろっていると考えている。

研究会の活動 この研究会に出席するための交通費は病院

の自弁であるが,特に参加費などはない。参

加するための唯一の条件は,「病院長がやる

気があること」である。まずは,トップの理

表1●TQMの構成要素と特集記事(丸数字は連載での通し番号)

構成要素 関連項目 年・号 関連する本誌の特集記事

フィロソフィー

(基本的考え方)

品質とは,全員参加,改善,後工程はお客様,管理サイクル(PDCAサイクル),プロセス管理,事実に基づく管理,人間性尊重など

2019年8・9月号2019年10・11月号

⑫「QMSの基本概念とその意義」⑬「QMSの構成要素と導入・推進に当たってのポ

イント」

コアマネジメント

システム

経営トップのリーダーシップ,ビジョン・戦略,日常管理,方針管理,経営要素管理,品質保証システムなど

2018年8・9月号

2018年8・9月号 2018年12・2019年1月号 2019年10・11月号 2019年12・2020年1月号

③「個々人の力(知)を組織の力(知)へ!~文書管理による文書の活用活動」

⑥「仕組みの改善によって得られる効果とは?」⑧「手順書やマニュアルは宝の山! 病院の標準

化を管理する」⑬「QMSの構成要素と導入・推進に当たってのポ

イント」⑭「日常管理と方針管理」

QC手法

統 計 手 法,QCス ト ーリ ー, 新QC七 つ 道 具,商品企画七つ道具,戦略立案七つ道具,品質展開と品質表,FMEA,FTAを含む信頼性技法など

2018年8・9月号

2018年8・9月号 2018年10・11月号 2019年6・7月号 2019年10・11月号

②「仕組み改善のベースは業務の可視化!~PFC作成から内部監査の活動まで」

⑤「個人への注意喚起から業務・仕組みの改善へ!~POAMを用いた業務改善」

⑦「PFCに基づいて業務や問題点を見える化する」⑪「短時間でスムーズに仕組みを改善する事故分

析手法」⑬「QMSの構成要素と導入・推進に当たってのポ

イント」

運用技術

導入・推進の方法論(標準ステップ,TQM推進室),組織・人の活性化

(提案制度,表彰制度,QCサークル),トップ診断,TQM診断,QCチーム,教育など

2018年8・9月号

2018年8・9月号 2018年8・9月号 2019年2・3月号2019年4・5月号2019年10・11月号 2020年2・3月号

①「こんな症状が起こっていませんか? 自病院の医療安全活動を診断してみよう」

②「仕組み改善のベースは業務の可視化!~PFC作成から内部監査の活動まで」

④「思いつき・単発の研修から体系的な人づくりへ!」

⑨「教育を仕組化する」⑩「組織的な改善風土を醸成する(内部監査)」⑬「QMSの構成要素と導入・推進に当たってのポ

イント」⑮「医療安全の組織的推進:まとめ」

病院安全教育 Vol.7 No.470

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解,コミットメントがないことには,QMS活

動は絶対にうまくいかない。推進者の立場に

ある方が「ぜひうちの病院でも取り組みた

い」と研究会への入会を希望したケースも少

なからずあるが,病院長が積極的に関与する

可能性が低い場合はお断りをしてきた。

 この研究会では,次のように研究を進めて

いる。まず,モデル開発病院と研究者が共同

でQMSモデル,導入・推進方法を開発する。

モデル検証病院は,開発されたQMSモデル

を用いて自律的に導入・推進を行っていく。

その際,研究者によるキックオフの支援や導

入・推進の支援を適宜行っていく。そして,

モデル開発病院,モデル検証病院と研究者が

4カ月に1回の頻度で会合を持ち,進捗状況

や課題について議論を行っている。その会合

でのフィードバックを受けて,各病院ではさ

らに導入・推進を進めていく。

 研究会の成果は,その多くを本誌で紹介し

てきた。各病院の取り組み内容は,文献2)

でも紹介している。研究会は現在も継続して

おり,最新の研究成果は,毎年度末に成果報

告シンポジウムを開催し公表している。一般

参加者にも参加費無料で公開している。詳細

は,QMS-H研究会のホームページ(http://

qms-h.org/)を参照されたい。

QMSアプローチの普及・啓発テキスト QMSは,質のよい医療を提供するための

仕事の仕組み,やり方であるので,すべての

病院で運用されなければならない。正確にい

うと,手順書がない病院はないであろうか

ら,その出来不出来はあるものの,すでにす

べての病院は持っているものである。しか

し,その活動がしっかりしたものであるか,

改善活動が活発に行われているかどうかが

違っているのである。

 QMS-H研究会の最終ゴールは,研究会に

参加している10病院だけでなく,9千弱ある

日本のすべての病院で,しっかりしたQMSが

運営されることである。QMS-H研究会の大き

な課題の一つは,図3に示すようにQMSア

プローチの普及・啓発である。我々だけです

べての病院を支援することはできないので,

自律的に進められるようになることを目指し

ている。そのためには,QMSアプローチを

学ぶための場,教材などが必要である。

 テキストとしては,QMS-H研究会の成果

として,次の3冊がある。

①『医療の質用語事典』3)

 1冊目は,QMSに関連する用語,概念に

表2●QMS-H研究会の参加病院(2019年11月現在)病院 機能 病床数 QMSの取り組み開始時期,認証(ISO9001)

古賀総合病院 急性期 363 2002年認証取得(その後2015年に更新をやめ,自主的なTQM活動へ移行),2011年からQMS再構築

株式会社麻生 飯塚病院 急性期 1,048 2006年QMS導入,2008年認証取得

国立病院機構仙台医療センター 急性期 660 2007年QMS導入,2008年認証取得

大久野病院 慢性期 158 2007年QMS導入,2009年認証取得

前橋赤十字病院 急性期 555 2006年QMS導入,2013年認証取得

武蔵野赤十字病院 急性期 611 2009年QMS導入,認証は目指していない

国立病院機構埼玉病院 急性期 478 2011年QMS導入,2012年認証取得

川口市立医療センター 急性期 539 2011年QMS導入,認証は目指していない

明石市立市民病院 急性期 329 2017年QMS導入,2019年認証取得

金沢循環器病院 急性期 184 2018年QMS導入

病院安全教育 Vol.7 No.4 71

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ついて解説したものである。これは,単に用

語の定義を並べたものではなく,見開き2

ページで用語,概念を解説し,テキストとし

て“読んで”もらうことを意図している。

②『組織で保証する医療の質QMSアプローチ』2)

 これは,QMS-H研究会でQMSアプローチ

に取り組んできた10病院の,約10年間の活動

をまとめたものである。事例だけでなく,各

病院の事例が理解できるように,QMSとは

何か,QMS手法・技法などについても解説

している。このテキストは,QMSを導入・

推進するとはどのような活動を行うことなの

か,その全体像を知ることができる。

③『医療安全と業務改善を成功させる病院の文書管理実践マニュアル』4)

 文書管理は,QMSの中でも特に重視して

いる活動である。文書すなわち標準は,QMS

における2つの活動,すなわち「なるべくよ

い仕事のやり方を定めてそれに従って業務を

行っていくこと」と,「不具合が起きたなら

ば,それが再発しないようによりよい仕事の

やり方に変えていくこと,改善すること」の

基盤になるからである。したがって,特集で

も解説したように,単に手順書を作ってファ

イリングすればよいといったものではなく,

しっかりした仕組みをつくるとともに,その

導入・推進方法も必要である。このテキスト

は2部構成で,第1部で文書管理とは何かを

わかりやすく解説し,第2部で導入・推進の

ステップを示している。

医療のための 質マネジメント基礎講座 QMS-H研究会では,日本品質管理学会が主

催する形で,「医療のための質マネジメント基

礎講座」を開講している。2020年度に開講予

定の講座の日程表を表3に示す。この講座は,

3時間を1コマとし,全14コマで合計42時間

となっている。医療安全管理者養成研修の要

件を満たしており,全14コマを修了した方は,

医療安全管理者の申請が可能となる。また,

この講座は全14回通しで受講せずに,聞きた

いコマを選択して受講することも可能である。

 QMS活動を進めるにあたっては,質・安

全に関する教育が不可欠である。産業界で

は,このような教育が階層(職位)別,職種

別などの形で体系的に行われている。「QCは

教育に始まり教育に終わる」という格言が生

まれるほど,教育は重視されてきている。

 病院でQMSアプローチを進めるにあたって,

医療者にもこのような教育は不可欠であり,

QMS-H研究会では医療者用の質・安全教育は

いかにあるべきかについて研究し,2006年に

第1回を開催した。その後,毎年講師会を開催

してカリキュラムの見直しを行い,現在は表3に示したカリキュラムになっている。なお,

表3には対応する記事の通し番号も示した。

 現在,医療安全管理者養成研修は,数多く

の団体が実施している。我々が開講している

基礎講座の特徴は,「医療安全をQMSアプロー

チで組織的に推進する」という考え方が基盤

となっていることである。つまり,医療安全

管理者に知っておいてほしいQMSの要素を

中心にカリキュラムを組んでいる。特に業務

の可視化・標準化(第3回,第4回),文書

図3●QMSアプローチの普及・啓発

QMS-H研究会参加病院への実装

モデル開発モデル検証

一般病院への普及

普及・啓発のために•テキスト•講師•セミナー•医療の質マネジメント基礎講座•文書管理セミナー

QMS-H

基本的な考え方

QMS-Hモデル

手法技法

病院安全教育 Vol.7 No.472

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管理(第5回),内部監査(第6回)などは,

おそらくほかの研修では取り上げていないと

思われる。さらに,事故分析手法も,プロセ

スを重視した手法(第9回),そしてエラー

プルーフを活用した対策立案(第10回)を教

えている点は,大きな特徴である。詳細は,

基礎講座の案内(http://qms-h.org/kisokoza.

html)を参照されたい。●おわりに 今回は,「医療安全を組織的に推進する」

一連の記事の最終回として,各コンテンツが

TQMのどの要素と関連するかを示し,その

位置づけを明らかにした。また,これらの成

果を生み出してきたQMS-H研究会の活動と,

その普及・開発活動を紹介した。

 日本全国どの病院にかかっても,安全で質

の高い医療を受けられるようにすることが,

我々の目標である。まだまだ道半ばである

が,TQMをベースにしたQMSアプローチを

確立し,広めていく活動を粘り強く続けてい

くつもりである。

参考文献1)TQM委員会編:TQM21世紀の総合「質」経営,日科技連出版社,1998.

2)飯塚悦功,棟近雅彦,水流聡子監修:組織で保証する医療の質 QMSアプローチ,学研メディカル秀潤社,2015.

3)飯田修平,飯塚悦功,棟近雅彦監修:医療の質用語事典,日本規格協会,2005.

4)矢野真,棟近雅彦監修:医療安全と業務改善を成功させる病院の文書管理実践マニュアル,メディカ出版,2017.

表3●2020年度開講予定の「医療のための質マネジメント基礎講座」(丸数字は表1参照)回 日時 テーマ 関連記事

第1回 2020年4月18日(土)9:30 ~12:30 医療の質マネジメントシステムの基本 すべて

第2回 2020年4月18日(土)13:30 ~16:30 医療の質向上をめざしたQMSの導入と推進 ⑬

第3回 2020年5月15日(金)9:30 ~12:30 PDCAサイクルによる日常管理の基礎 ⑭

第4回 2020年5月15日(金)13:30 ~16:30

プロセスフローチャート(Process Flow Chart)を用いた医療業務プロセスの可視化 ②⑦

第5回 2020年5月16日(土)9:30 ~12:30 文書管理から取り組む組織基盤構築の推進 ③⑧

第6回 2020年5月16日(土)13:30 ~16:30 「内部監査」の枠組みを活用した業務改善 ①②⑩

第7回 2020年6月12日(金)9:30 ~12:30

医療の質・安全保証を実現する患者状態適応型パスシステム(PCAPS)

第8回 2020年6月12日(金)13:30 ~16:30 医療安全管理システムと医療安全に関わる制度 ⑫⑬

第9回 2020年6月13日(土)9:30 ~12:30 “注意不足”にしないためのプロセス型事故分析 ⑤⑪

第10回 2020年6月13日(土)13:30 ~16:30 同じ事故を再発させないための対策立案 ⑤⑪

第11回 2020年7月3日(金)9:30 ~12:30 危険予知トレーニング(KYT)手法

第12回 2020年7月3日(金)13:30 ~16:30 転倒・転落事故の防止対策と5Sの実践法

第13回 2020年7月4日(土)9:30 ~12:30 医療の質・安全を高める教育カリキュラムの作成とその実践 ④⑨

第14回 2020年7月4日(土)13:30 ~16:30 問題解決法(QCストーリー等)と組織的改善活動 ⑥⑬

病院安全教育 Vol.7 No.4 73