企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …yukiko senda...

27
人間情報学研究2120161945Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016 - 原 著 - 19 本研究平成27年度東北学院個別研究日本女性雇用労働女性する雇用管理変遷 : 官庁データの二次 分析による」(研究代表者 仙田幸子助成けてわれた東北学院感謝申げる本稿作成にあたり匿名のレフェリーから大変貴重なコメントをいただいたここに感謝するもちろ 本稿不十分があれば著者責任である企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結果から 1, 2 仙田 幸子 The Glib Excuses for Not Utilizing Female Workforces (1): Based on the Results of Basic Survey of Women Workers’ Employment Management Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companiesperceptions/opinions of the utilization of female workforce in Japan, I analysed the Basic Survey of Women WorkersEmployment Management, conducted by the Ministry of Health, Labour and Welfare since 1971. I analysed trends of the facts and the companiesperceptions/opinions on: recruitment, hiring, job assignment, transfer, training, promotion, positive action, problems in utilizing female workforce, and measures to promote female workersparticipation. Findings include: 1. Male only recruitment happens when companies recognized there is hardly any women who has qualifications and skills necessary for the job; 2. Male only hiring happens when female recruiteesachievement in the examination did not satisfy the hiring criteria; 3. Some positions, transfers, and trainings are filled with male workers only because female workers are inferior in their ability or because they do not want them; 4. While the number of companies with female managers has increased, that of female managers per company has decreased; 5. Most companies do not have the intentions to take positive action; 6. In the past the utilization of female workforce was hindered because of the shortness of continuous service by female workforcebut recently the major reason is that females have family responsibility; 7. Companies think what is necessary to

Upload: others

Post on 07-Oct-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

人間情報学研究,第21巻2016年,19~45頁

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

- 原 著 -19

1 本研究は平成27年度東北学院個別研究「日本の女性の雇用労働と女性に対する雇用管理の変遷 : 官庁データの二次分析による」(研究代表者 仙田幸子)の助成を受けて行われた。東北学院に感謝申し上げる。

2 本稿の作成にあたり、匿名のレフェリーから大変貴重なコメントをいただいた。ここに感謝の意を表する。もちろん本稿に不十分な点があれば著者の責任である。

企業が女性活用をしない理由 (1):女性雇用管理基本調査の結果から1, 2

仙田 幸子

The Glib Excuses for Not Utilizing Female Workforces (1): Based on theResults of Basic Survey of Women Workers’ Employment Management

Yukiko SENDA

Abstract

In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

of the utilization of female workforce in Japan, I analysed the Basic Surveyof Women Workers’ Employment Management, conducted by the Ministry

of Health, Labour and Welfare since 1971. I analysed trends of the facts and

the companies’ perceptions/opinions on: recruitment, hiring, job assignment,

transfer, training, promotion, positive action, problems in utilizing female

workforce, and measures to promote female workers’ participation. Findings

include: 1. Male only recruitment happens when companies recognized

“there is hardly any women who has qualifications and skills necessary for

the job”; 2. Male only hiring happens when “female recruitees’ achievement

in the examination did not satisfy the hiring criteria” ; 3. Some positions,

transfers, and trainings are filled with male workers only “because female

workers are inferior in their ability or because they do not want them”; 4.While the number of companies with female managers has increased, that of

female managers per company has decreased; 5. Most companies do not

have the intentions to take positive action; 6. In the past the utilization of

female workforce was hindered “because of the shortness of continuous

service by female workforce” but recently the major reason is that “females

have family responsibility” ; 7. Companies think what is necessary to

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 19

Page 2: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

1.はじめに

本研究の目的は、企業の女性活用の実態と企業の女性活用に対する認識の変遷を、データの信頼性の高い官庁統計データから明らかにすることである。この目的に最適なのは、厚生労働省 (旧労働省)による「女性雇用管理基本調査」である。なぜなら、この調査は、「主要産業における女性労働者の雇用管理の実態等を総合的に把握することを目的とする」(厚生労働省, 2006 p1)ものだからである。この調査のデータは、しばしば白書などに引用される。しかし、これまで企業の女性活用に関する研究にはほとんど用いられていない。この調査については、「系統立てて分析した

ものを知らない」(脇坂, 1995 p39)という指摘がある。「女性活用とか女性差別とか簡単に論じられるケースが多いが、少なくとも本調査により、統計的に過去および現在どうなっているかを確認するべきである」(脇坂, 1995 p38)のに、それがなされていない、ということである。確認のため、CiNiiの「日本の論文を探す」

機能を用いて、タイトルに「女性雇用管理基本調査」が含まれるものを検索した。すると、ほぼすべてが調査結果の概要であった3。唯一の

例外が、野城(2013)である。野城は、1993年から2011年までの期間について、男女別の育児休業取得率の変遷を整理している。さらに、CiNiiの「日本の論文を探す」機能で、全文中に「女性雇用管理基本調査」が含まれるものを検索した4。すると、高井(1993)や荻原(1993)は、それぞれのテーマについて、複数年のデータを引用している。また、駿河・西本(2002)のように、用いられているデータは単年度のものながら、多変量解析による踏み込んだ分析もある。しかし、この調査のデータを系統立てて分析する試みは、脇坂の指摘から20年たった現在でも、ほとんど行われていないと言ってよいだろう5。

20

promote female workforce’s participation is “to provide female workers

with support to continue working”. Companies’ accounts in the finding 1 and

2 do not match the realities. Finding 3 cause finding 4. Between findings 6

and 7, the companies’ perceptions/opinions regarding the reasons of under‑

utilization of female workforce and countermeasures for it do not

correspond to. When taking into account finding 5 as well, I can conclude

that Japanese companies are reluctant in utilizing female workforce by glib

excuses as a whole.

Keywords: human resource management, utilization of female workforce,

official statistics

3 「女子雇用管理基本調査」は44件中44件、「女性雇用管理基本調査」は158件中158件、「雇用均等基本調査」64件中63件が調査結果の概要であった。この方法で野城(2013)が見つかった(2015年7月14日検索)。

4 「女性雇用管理基本調査」では62件、「女子雇用管理基本調査」では41件、「雇用均等基本調査」では100

件のヒットがあったが、複数の重複があった。この方法で高井(1993)、荻原(1993)、駿河・西本(2002)が見つかった(2015年7月14日検索)。

5 CiNii の論文検索では、本に収録されている論文は検

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 20

Page 3: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

そこで、本研究は、「女子雇用管理基本調査」のデータを、企業の雇用管理にかかわるトピック別6(募集、採用、配置、配置転換、教育訓練、昇進、ポジティブ・アクション、企業の女性活用への認識)に継時的に提示する。官庁統計という信頼できるデータにより、企業の女性活用の実態と企業の女性活用への姿勢の変遷を時系列で示すことは、当たり前のようでいて、今まで行われていなかった。そこに本研究の特長がある。

2.女性雇用管理基本調査とは

女性雇用管理基本調査は、統計法に基づく一般統計調査で、厚生労働省 (旧労働省) が、「主要産業における女性労働者の雇用管理の実態等を総合的に把握することを目的とする」ことを目的に実施している。日本標準産業分類の大分類による4(1971年)から16(2008年以降)の主要産業(すべての産業を対象とはしておらず、また「主要産業」の選択基準は明示されていな

い)を母集団として、調査対象企業・事業所を抽出している。抽出方法は、事業所統計調査によって把握された企業リストをサンプルフレームとした産業・企業別の抽出確率が一定となるような層化二段無作為抽出法である(1971年については明記されていない)。サンプルサイズは年によって違うが、約2,500(1971年)から約11,000(2006年)である7。調査方法は自計通信法で回収率は60%(1971)から85.4%

(2006年)である。なお、調査結果は「母集団に復元後、算出した構成比を調査結果として表章」(厚生労働省雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課, 2014, p6)されている。つまり、結果はパーセントのみで示されている。平成2年度調査が抽出された事業所で働く女性労働者を対象にしている以外は、すべて、企業の雇用管理に関する調査である。この調査は、これまでに3回、調査名の変更

がおこなわれている。1977年から1986年までは「女子労働者の雇用管理に関する調査」8、1988

年から1996年までは「女子雇用管理基本調査」、

21

索の対象外である。ここに、今回の方法での先行研究の検索の限界がある。たとえば、脇坂(2001)は、平成7年度と平成8年度の「女性雇用管理基本調査」のデータを結合して分析することで、「均等度」(男女の均等がすすんでいる度合)と「ファミフレ度」(仕事と家庭の両立がすすんでいる度合)の2次元を用いて、企業規模別(大企業、中企業、小企業)に、産業ごとの特徴を示している。しかし、この論文は本に収録されているために、今回の方法ではヒットしない。

6 八代(2014)は、企業の雇用管理にかかわる学問である人的資源管理論を、「募集・採用」「配置・異動、昇進」「人事考課」「退職」「賃金・労働時間」「教育訓練」「福利厚生、コミュニケーション、労使関係」の7領域でとらえている。本研究では、この分類を参考に、「女性雇用管理基本調査」で調査されている項目について、トピックごとに分析を行った。

7 サンプルサイズは「約」でしか提示されていない(正確なサンプルサイズは提示されない)。8 「女子労働者の雇用管理に関する調査」の調査実施年 (報告書が確認できた年) は、1971年、1977年、1981年、1984年、1986年である。なお、労働政策研究・研修機構(2013)では、女性雇用管理基本調査について、「昭和61年度に「女子雇用管理調査」として調査を開始して以来、昭和63年度に「女子雇用管理基本調査」、平成9年度に「女性雇用管理基本調査」と名称変更があったものの、平成18年度まで、主要産業における女性労働者の雇用管理の実態等を総合的に把握することを目的として毎年実施されていた。」と記載されている。しかし、1986年(昭和61年)の報告書は「女子労働者の雇用管理に関する調査」という名称である。また、今回調べた限りでは、毎

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 21

Page 4: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

1997年から2006年までは「女性雇用管理基本調査」、2007年以降は「雇用均等基本調査」という名称で実施されている。ただし、厚生労働省図書館のOPACでは、「雇用均等基本調査」は、タイトルに「旧女性雇用管理基本調査」と併記されており、「女性雇用管理基本調査」という呼び方が、最も一般的であるようだ。そこで、本稿では、この調査を、調査年次にかかわらず、「女性雇用管理基本調査」と一括して呼ぶ。

3.データ

本研究では、女性雇用管理基本調査各年の報告資料に掲載されている基礎集計表をデータとする。この調査に関する資料、つまり、この調査の報告書を系統立てて所蔵している図書館は、ほとんど見当たらない。厚生労働図書館が最も系統立てて所蔵しているが、ここには「昭和52年 女子労働者の雇用管理に関する調査 結果報告書」「昭和56年 女子労働者の雇用管理に関する調査 結果報告書」「昭和61年度 女子労働者の雇用管理に関する調査 結果報告書」「平成元年度 女子雇用管理基本調査 結果報告書」および「平成5年度 女子雇用管理基本調査 結果報告書」はない。本研究では、基本的に厚生労働図書館で資料を収集し、同図書館に所蔵がない資料は、主に大阪府立中央図書館で収集した。まず、データを紙媒体で収集した。その上で、紙媒体のデータをエクセルファイルに入力して電子化した。なお、本調査の調査対象は、1995年までは本

社において常用雇用者を30人以上雇用している民間企業・事業所であったが、1996年から2008

年までは5人以上の年と30人以上の年がある。2009年からは企業調査と事業所調査に分かれ、女性の雇用管理に関する企業調査は常用雇用者10人以上を雇用している民間企業となる。本研究では、継時的な比較をより正確にするために、どの年度についても常用雇用者30人以上の企業・事業所のデータを用いる。

4.分析

以下では、「女子雇用管理基本調査」のデータを、企業の雇用管理にかかわるトピック別(募集、採用、配置、配置転換、教育訓練、昇進、ポジティブ・アクション、企業の女性活用への認識) に継時的に分析して提示する。

4.1 募集

4.1.1 男性のみ募集

4.1.1.1男性のみ募集の企業割合

男性のみ募集の企業割合については、1981年から1998年までのデータがある。学歴別にみることができ、大卒の方が男性のみ募集の企業割合は高く、最も高い1981年では、7割の企業が男性のみを募集している(同年について、高卒では2割)。高卒、大卒とも、男子のみ募集の企業割合は1989年までは一貫して減少している。特に1984年と1989年の間で大きく減少している。その後、1995年までは、高卒で1割程度、大卒で3割前後で揺れ動いた後、1998年には、高卒で1割弱、大卒で1割強と再び減少している(表1)。

4.1.1.2 男性のみ募集の理由

以下では、回答方法が複数回答の場合、結果

22

年調査が実施されるようになったのは、昭和61年度(1986)年以降ではなく、昭和63年度(1988年)以降である。

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 22

Page 5: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

を2通りの方法で示す。第一の方法は、各項目を選択した企業のパーセンテージを足し合わせて示す方法である。複数回答であるから、合計は100%を超えるし、複数回答の頻度が年次ごとに異なるので、年次ごとに合計%も異なる。これは回答傾向を最も素朴に示す方法であろう。第二の方法は、年次ごとの回答数の合計を100とした時の比率で各項目の割合を示す方法である。複数回答の頻度の年次別の比較を犠牲にする代わりに、各年次で、どの項目がどのくらい重視されているのかを最もわかりやすく示すことができる。また、以下では、女子/女性、男子/男性については、調査票の文言はそのままとし、そのほかについては、女性、男性に統一する。男性のみ募集の理由については、1992年と

1995年についてのデータがある。この質問に回答したのは、男性のみ募集を行っている企業のみであり、高卒では1割、大卒では2~3割の企業が該当する。選択肢は「女子は補助的業務に従事している」「女子は勤続年数が短い」「女子に対して、顧客、取引先の理解がない」「男子の方が使いやすい」「募集しても女子の応募がない」「業務に必要な資格や技能、技術を持つ女子がほとんどいない」「深夜には及ばないが、時間外労働が多い」「労働基準法で女子に認められていない深夜業がある」「労働基準法で女子に認められていない重いものを運搬したり、有害物質を発散する場所での作業がある」「出張、全国転勤がある」「その他」の12個で、複数回答である。「業務に必要な資格や技能、技術を持つ女子がほとんどいない」から男性のみ募集するという回答は、どちらの時点でも、最も割合が高い(表2)。次に、各年度で、どの項目がどのくら

いの重要性を持っているか(全体を100としたときに占める割合)を見る。「業務に必要な資格や技能、技術を持つ女子がほとんどいない」が最も多く、2割を占める。詳しく年次間の増減をみてみると、「女子は補助的業務に従事している」「女子は勤続年数が短い」「深夜には及ばないが、時間外労働が多い」「労働基準法で女子に認められていない深夜業がある」の割合が増加している。「募集しても女子の応募がない」は減少している。こうしてみると、男性のみを募集する企業は、採用時に業務に必要な資格や技能、技術を持ち、入社後は中核的業務に従事し、長期勤続し、時間外労働と深夜業を遂行できる人材を募集したく、これらの条件を満たすのは男性だと考えているということになる(表3)。

4.1.2 女性のみ募集

4.1.2.1女性のみ募集企業の割合

女性のみ募集をしている企業の割合については、学歴別に1981年から1998年までのデータがある。高卒、大卒とも、女性のみ募集の企業割合は男性のみ募集の企業割合にくらべて低い。特に大卒の場合、女性のみ募集の企業の割合は、どの年次でも1割未満と非常に低い。詳しく見ると、女性のみ募集企業の割合は、高卒、大卒とも1995年までは増加したのち、1998年に減少している(表4)。

4.1.2.2 女性のみ募集の理由

女性のみ募集の理由については、1992年と1995年のデータがある。これは女性のみ募集企業の割合が相対的に高かった時期のデータになる。選択肢は「補助的・定型的業務である」「女子は勤続年数が短いのでまた新たな人を採

23

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 23

Page 6: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

用できる」「男子に比べるとコストが低いと考えられる」「女子の多い職場である」「女子の職域を拡大したい」「女子の方がソフトな対応ができ、顧客が好む、又は女子の感性を生かすことができる」「女子の方が優秀な人材が採用できる」「募集しても男子の応募がない」「その他」の9個で、回答方法は複数回答である。「補助的・定型的業務」「女子の方がソフト

な対応ができ、顧客が好む、又は女子の感性を生かすことができる」という2項目を理由にする企業の割合が各年とも各4割から5割と高い。ポジティブ・アクションともいえる「女子の職域を拡大したい」は、1割程度と、理由として

挙げる企業は少ない(表5)。全体を100としたときに占める割合で見ると、女性のみ募集をする企業では、主に「補助的・定型的業務」または「ソフトな顧客対応」に従事する要員として、女性を募集している。特に「ソフトな顧客対応」を理由とする企業の割合は増加している(表6)。

4.2 採用

4.2.1 男性のみ採用の企業

男性のみ採用の企業の割合については、学歴別に1977年から2010年までのデータがある。高卒より大卒のほうが、男性のみ採用の企業割合は明らかに高い。最も高いのは、高卒でも大卒でも、1981年で、高卒2割強、大卒7割である。その後、男性のみ採用の企業の割合は1998年までは一貫して減少する。特に1984年と1992年の間の減少幅が大きい。しかし、その後は、高卒は1割~2割、大卒は3割~4割の間を上下している(表7)。

4.2.2 男性のみ採用の理由

男性のみ採用の理由については、2003年、2006

年、2010年の3時点で、調査が行われている。

24

表1 男性のみ募集の企業割合

表2 男性のみ募集の理由(単純集計)

表3 男性のみ募集の理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注1 公募・募集した企業を100とする注2 1989年は「事務」について、1992年以降は、「事務・営業系」について掲載

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 24

Page 7: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

選択肢は「女性の応募がなかった」「女性の応募はあったが、試験の成績等が採用基準に達していなかった」「女性の応募はあったが、内定を出す前の途中段階で辞退された」「女性にも内定を出したが辞退したので結果的に男性のみになった」「重量物の取扱いや危険有害業務で女性の就労が禁止されている職種があった」「一括採用後の配属段階において配属先の部門長の理解が得られず、結果的に男性のみとなっ

た職種・コースがあった」(2003年のみ)、「募集・採用人数が1人だった」(2003年、2006年のみ)「その他」の8個である。回答方法は複数回答である。男性のみの採用の理由は、2003年、2006年では、「女性の応募がなかったから」が、半数以上を占めているが、2010年になると、その項目の回答は2割に落ち込む。代わりに「(試験の成績等が)採用基準に達していなかった」が、1

25

表4 女性のみ募集の企業の割合

注1 公募・募集した企業を100とする注2 1989年は「事務」について、1992年以降は、「事務・営業系」について掲載

表7 男性のみ採用の企業の割合

注1 採用のあった企業を100とした場合注2 1992年以降は「事務・営業系」について掲載

表5 女性のみ募集の理由(単純集計)

表6 女性のみ募集の理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 25

Page 8: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

割から5割強に急上昇している(表8)。各年ごとに、全体を100としたときに占める

割合で見てみよう。2003年、2006年では、「女性の応募がなかった」が、5割弱を占めているが、2010年になると、2割に落ち込む。代わりに「(試験の成績等が)採用基準に達していなかった」が、1割から5割強に急上昇する。2010

年には、それまであった「募集・採用人数が1

人だった」という項目が削除されたが、その代わりなのか、2010年には「(試験の成績等が)採用基準に達していなかった」「女性の応募はあったが、内定を出す前の途中段階で辞退された」という回答の割合が増加している(表9)。

4.3 配置

4.3.1 男性のみ配置

4.3.1.1 男性のみ配置あり企業の割合

男性のみ配置がある企業の割合については、1977年から2011年までのデータがある(1977年から1984年については、「女子を全く配置していない仕事がある」、1989年以降は「男子/男性のみ配置(の職場がある)」)。

1977年には9割以上の企業で男性のみ配置があった。しかし、1984年には6割に急減し、その後も減少を続け、1990年代以降は約4割になった。ところが、2011年には反転して、約5割である(表10)。なお、表10では、1989年以降は営業部門への配置状況を示している。営業部門をとりあげたのは、当該部門がある企業の割合が比較的高く、かつ男性のみ配置の割合が高かったからである。

4.3.1.2 男性のみ配置の理由

男性のみ配置の理由に関しては、1977年から1998年までの約20年について、企業の見解の変

遷をみることができる。ただし、同一項目ですべての期間を比較できるわけではない。(1) 1977年から1984年

1977年から1984年については、「女子を全く配置していない仕事がある」理由から、企業の女性活用の姿勢をみることができる。選択肢は「深夜には及ばないが残業が多い」「深夜労働がある」(1984年のみ)「外部との折衝が多い」「外勤・出張等が多い」「かなり高度の判断力を必要とする」「高度な技能や資格を必要とする」「筋力、体力を必要とする」「その他」の8個で、回答方法は複数選択である。回答傾向としては、どの年でも「筋力、体力を必要とする」「高度な技能や資格を必要とする」が多い(表11)。全体を100としたときに占める割合で見ると、「筋力、体力を必要とする」はどの年でも変わらず、多く選択されている。また、年次が最近になるにつれて、「かなり高度の判断力を必要とする」「高度な技能や資格を必要とする」「外部との折衝が多い」など、仕事の性質を理由とする割合は減少する。代わって、「深夜には及ばないが残業が多い」「深夜労働がある」など、働き方を理由とする企業の割合が増える(表12)。(2) 1992年から1998年

1992年から1998年については、「男子/男性のみ配置の職場がある」理由から、企業の女性活用の姿勢をみることができる。「深夜には及ばないが残業が多い」「労働基準法で女子/女性に認められていない深夜業がある」「労働基準法で女子/女性に認められていない重いものを運搬したり、有害物質を発散する場所での業務がある」「労働基準法上の就業制限業務ではないが、体力・筋力を必要とする業務がある」「出張、全国転勤がある」「外部との折衝が多い」

26

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 26

Page 9: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

27

表8 男性のみ採用の理由(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表9 男性のみ採用の理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表10 男性のみ配置がある企業の割合

注 1989年以降は営業部門への配置状況

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 27

Page 10: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

「かなり高度の判断力を必要とする」「技能や資格を持つ女子/女性がいない」「女子/女性の適任者がいない」「関連/当該部署が女子/女性の配置を希望しない」(1995年(関連部署)、1998

年(当該部署))「配属を希望する女性がいない」(1998年のみ)「その他」の12個で、回答方法は複数回答である。年次が最近になるほど総回答数が減るので、

年次推移を見るには注意が必要だが、1995年の回答傾向は、1992年、1998年と異なるように見える。すなわち、「深夜には及ばないが残業が多い」「労基法で女子/女性には認められていない深夜業がある」「労基法で女子/女性には認められていない重いものの運搬等がある」など、身体的負担のかかる業務は男性のみ配置するという回答傾向が、ほかの年次より強く出ている。1998年は、総回答数が減っているのに、「部署が女性の配置を希望しない」「女性の適任者が

いない」の割合が増加している(表13)。全体を100としたときに占める割合で見ると、

「外部との折衝が多い」「かなり高度の判断力を必要とする」など、仕事の性質を理由とする回答は減少している。代わりに、「技能や資格を持つ女子/女性がいない」「女子/女性の適任者がいない」「部署が女子/女性の配置を希望しない」「配置を希望する女性がいない」など、女性であることが理由に含まれる回答が増加している(表14)。

4.3.2 女性のみ配置

4.3.2.1女性のみ配置あり企業の割合

女性のみ配置がある企業の割合は、1989年から2011年までのデータがある。1989年には2割だったが、1992年に急減し、それ以降は、1割程度である(表15)。ここで人事・総務・経理(・教育訓練)職務のデータを取り上げている

28

表11 男性のみ配置の理由・1977年から1984年(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表12 男性のみ配置の理由・1977年から1984年(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 28

Page 11: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

29

表13 男性のみ配置の理由・1992年から1998年(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表14 男性のみ配置の理由・1992年から1998年(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表15 女性のみ配置がある企業の割合

注 1989年は「人事・教育訓練」職務と「総務・経理」職務がある企業のうちで、「女子のみ配置」がある企業の割合、1992年以降は「人事・総務・経理」職務について

のは、該当職務のある企業が多く、かつ、女性のみ配置あり企業の割合が高いからである。

4.3.2.2 女性の配置の基本的考え方

1989年から1995年については、企業の女性の配置の基本的考え方についてのデータがある。これは女性のみ配置がある企業の割合が2割から1割に減少した時期のデータである。選択肢は「すべての職務に配置」(1992年は「能力や適性に応じてすべての職務に配置」、1995年は「能力や適性に応じて男性と同様の職務に配置」)「特質、感性をいかせる職務に配置」(1992年からは「女子/女性の特質、感性…」)「補助業務にのみ配置」(1995年は「女性は一般的に家庭責任が重いので補助的業務を中心に配置」)「専門技能を生かせる職務に配置」(1989

年のみ)「その他」の5個で、あてはまるものを

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 29

Page 12: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

一つ選ぶ回答方法である(このほかに、回答なし/不明がある)。

1989年、1992年、1995年の3時点で安定して高いのは、「特質、感性をいかせる職務に配置」である。「すべての/男性と同様の職務に配置」は1989年には2割に過ぎないが、1992年、1995

年では約5割である。もっとも、「すべての/男性と同様」といっても「能力や適性に応じて」という限定つきである。1995年の選択肢が、「女性は一般的に家庭責任が重いので補助的業務を中心に配置」と、女性が家庭責任を負うことが前提になっていることが興味深い(表16)。

4.4 配置転換

配置転換は日本企業における技能形成の手段である。配置転換は、職場で新たな仕事を経験させるという OJT(On‑the‑job Training)による教育訓練機会の提供ともいえよう。

4.4.1 女性には配置転換を行わない企業の割合

(1) 事業所内配置転換

事業所内配置転換については、1977年から2000年までのデータがある。1981年の5割から1984年の2割に急減したのちも、1995年の1割弱まで減少する。しかし、1998年以降、増加に転じ、2000年には2割と、1984年と同水準に戻っ

ている(表17)。

(2) 転居を伴わない事業所間配置転換

転居を伴わない事業所間配置転換については、1984年から2000年までのデータがある。1984年の4割から1986年の2割へと急減し、その後も1995年の1割まで減少する。しかし、1998

年以降、反転し、2000年には3割強と、1984年に近い水準に戻っている(表18)。

4.4.2 配置転換を女性には行わない理由

女性には配置転換を行わない理由は、1981年、1984年、1992年、1995年に調査が行われている。ちょうど、女性には配置転換を行わない企業が減少する時期にあたり、そうした風潮の中で、あえて配置転換を女性に行わなかった企業の理由が示されているといえる。なお、1984年は「男子のみに配置転換を行う理由」を質問しているが、選択肢として設置された項目がほぼ同一なので、分析に含める。選択肢は、年次によって多少文言の違いはあるが「女子の補助的性業務の性格から不必要」「女子は短期雇用を前提としているので不必要」「女子は配置転換を希望しない」「女子には法制上の制約があるから」(1984年以降)「女子には家庭責任がある」(1992年以降)「その他」の6

30

表16 女性の配置の基本的考え方

注1 四捨五入しているので、合計は必ずしも100.0にならない注2 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 30

Page 13: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

個で、複数回答である。総回答数でみると、「女子の補助的業務から

不必要」「女子は配置転換を希望しない」が理由として多く挙げられている(表19)。全体を100としたときに占める割合で見ると、

1981年には「女子の補助的業務から不要」という項目を理由として選択する割合は6割近い。しかし、その割合はその後減少し、1995年には2割弱となる。「女子は短期雇用を前提」は1割前後と年度による変動はあまりない。「女子は配置転換を希望しない」は1981年には3割弱だが、1995年には5割弱を占める。1992年に設置された「女子には家庭責任がある」は、1995年には2割弱と一定の割合を占めるようになる。総括すると、1981年には、女性には配置転換

を行わないのは、女性の仕事の性質(補助的業務)が理由とされた。それが、1995年には、「女性は配置転換を希望しない」という女性の選好や「女性には家庭責任がある」という事情が理由であるというように、企業の認識に変化がみられる(表20)。

4.5 教育訓練

従業員への教育訓練はOff‑JT(Off‑the‑job

Training)である。職場内で実地に仕事をさせることで行うOJTと違い、Off‑JT では、賃金を払って、職場外の講習会や研修などに参加させ教育を受けさせる。これは企業にはコストがかかることだから、十分なリターンが見込める場合に実施すると考えてよいだろう。教育訓練に

31

表17 女性には事業所内配置転換を行わない企業の割合

注1 1977年と1981年は配置転換ありの企業のうち、「女子には行っていない」企業の割合注2 1986年は、事業所内配置転換を行っている企業を100とし、「法施行前から男女とも同じ取扱いであったので、変更する必要はなかった」と「すべて男子と同様に行うこととした」の合計を引いた注3 そのほかの年次は、事業所内配置転換を行っている企業を100とし、「男子/男性のみ」

表18 女性には転居を伴わない事業所間配置転換を行わない企業の割合

注1 1986年以外は、転居を伴わない事業所間配置転換を行っている企業を100とし、「男子/男性のみ」注2 1986年は、転居を伴わない事業所間配置転換を行っている企業を100

とし、「法施行前から男女とも同じ取扱いであったので、変更する必要はなかった」と「すべて男子と同様に行うこととした」の合計を引いた

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 31

Page 14: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

ついては、1977年から1998年についてデータがある。このうち、比較が困難な1989年のデータを除いた結果を表21に示す。教育訓練には様々なレベルがあるが、ここでは、新人研修と管理職研修の中間に位置すると考えられる「業務の遂行に必要な能力を付与する研修」を取り上げる。

1977年は、すべてのレベルの教育訓練が念頭に置かれているのか、男女とも対象として実施する企業の割合は2割と低い。1984年には6割に急増するが、その後、4割から8割の間で上下し、明確な方向性が見えにくい(表21)。

4.6 昇進

昇進は企業内キャリア形成の最も顕著な指標

である。企業内での男女格差が論じられるとき、よく女性管理職割合の低さが取り上げられる。4.6.1 女性にも昇進機会のある企業の割合

1977年から1984年については、女性にも昇進機会のある企業の割合が調査されている。これは実際に女性管理職がいるかとは別である。1981年までは、女性にも昇進機会のある企業の割合は半数以下で、1984年に半数を超える(表22)。4.6.2 女性管理職のいる企業の割合

女性管理職のいる企業の割合については、1984年から2013年までのデータがある。1984年には、女性管理職のいる企業の割合は4割に満たないが、1989年には急増し、5割を超える。その後も、上昇を続け、2013年には約7割の企

32

表19 配置転換を女性には行わない理由(単純集計

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表20 配置転換を女性には行わない理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 32

Page 15: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

業に女性管理職がいる(表23)。職階別の傾向では、どの年次でも、部長相当職までは、職階が高くなるほど、その職階に女性管理職のいる企業の割合は少なくなる。ただし、1984年と1989年以降では、傾向が異なる。1984年は、女性管理職のいる企業の割合は4割に満たないが、そこだけを取り出すと、係長相当職の女性管理職のいる企業は5割を超え、課

長相当職でも2割強である。しかし、たとえば1989年には、女性管理職のいる企業は5割を超えるが、そこだけを取り出すと、係長相当職女性管理職のいる企業は3割、課長相当職の女性管理職のいる企業は2割弱である(表23)。そこで、各職階の割合を合計したもの(表23

の「係長相当から部長以上まで計」)を女性管理職がいる企業の割合で割ってみた(表23の右端の行)。すると、1984年には2.4だったが、1989年には1.1である。これは、「1984年には、女性管理職のいる企業は少ないが、いる企業には複数の女性管理職がいた。1989年には、女性管理職のいる企業は増えたが、いる企業では「紅一点」になった」ということであろう9。4.6.3 女性管理職が少ないあるいは全くいない

管理職区分が1つでもある企業の割合

女性管理職のいる企業は2013年には7割に達するが(表23)、それらの企業で、すべての職階に女性管理職がいるわけではない。2006年以降のデータでは、むしろ、女性管理職が少ないあるいは全くいない管理職区分が1つでもある企業のほうが、最新の時点(2013)でも8割近くと圧倒的だ。ただし、2011年と2013年の間で、9割から8割へと1割減少している(表24)。4.6.4 女性管理職が少ない/いない理由

女子雇用管理基本調査では、女性管理職が少ない/いない理由ついては、継続して注目されてきた。1970年代から2010年代まで、継続的に調査が行われている。ただし、全期間を通じて調査されている項目は「女子/女性は勤続年数

33

表21 いずれの教育訓練も男女とも対象として実施している企業の割合

注1 1977年は「教育訓練を実施しているうちで男女全く同じに受けさせている」企業の割合注2 1986年は「業務の遂行に必要な能力を付与する研修を実施しているうちで、法施行前から、男女とも同じ取扱いであったので、変更する必要がなかった企業」の割合と、何らかの変更した企業のうち、「教育対象を男女同一にした企業」の割合の合計注3 ほかの年次は、多少の文言の違いはあるが、「業務の遂行に必要な能力を付与する研修を実施しているうちで、いずれの教育訓練も男女とも対象として実施」している企業の割合

表22 女性にも昇進機会のある企業の割合

9 1984年と1989年の間で、「女性雇用管理基本調査」の調査方法が変わったということはない。一つの可能性として、1986年に施行された男女雇用機会均等法が関係しているかもしれない。

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 33

Page 16: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

が短い」(1992年以降は「勤続年数が短く、役職者になるまでに退職する」)だけである。選択肢は、1977年から1984年までと、1992年以降に大別される。1977年から1984年の選択肢は「女子は勤続年数が短い」「女子は管理能力・統率力が劣る」「女子の補助的業務の性格から無理」「女子には法制上の制約があるので無理」「その他」の5個で、複数回答である。

1992年以降の選択肢は「必要な知識や経験、判断力等を有する女子/女性がいない」「将来就く可能性のある者はいるが、現在役職に就くた

めの在職年数等を満たしている女子/女性はいない」「勤続年数が短く、役職者になるまでに退職する」「時間外労働が多い、又は深夜業がある」「出張、全国転勤がある」「管理職については、顧客が女子/女性をいやがる」(1992年から2003年まで)「家庭責任があるので責任のある仕事に就けられない」「仕事がハードで女子/

女性には無理である」「女子/女性が希望しない」「上司・同僚・部下となる男子/男性が女子/女性管理職を希望しない」(1995年以降)「その他」の11個で、複数回答である。理由として多く挙げられているのは、1984年までは「女子の補助的業務の性格から無理」、1992年以降は「必要な知識や経験、判断力等を有する女子/女性がいない」である(表25)。全体を100としたときに占める割合で見ると、

1984年までは「女子の補助的業務の性格から無理」と「女子は勤続年数が短い」が、女性管理職が少ない/いない理由とされる。1992年以降

34

表23 女性管理職のいる企業の割合

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表24 女性管理職が少ないあるいは全くいない管理職区分が1つでもある企業の割合

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 34

Page 17: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

は「必要な知識や経験、判断力等を有する女子/女性がいない」の割合が最も高く、しかも割合が増加していく。「女子/女性が希望しない」も1割弱から1割強へと若干の増加傾向にある。逆に「勤続年数が短く、役職者になるまでに退職する」と「将来就く可能性のある者はいるが、現在役職に就くための在職年数等を満たしている女子/女性はいない」は、1992年にはそれぞれ2割を占めるが、その後、減少し、2013年には1割程度になる(表26)。

4.7 ポジティブ・アクション

2000年以降は、ポジティブ・アクションについ

ても調査されている。ポジティブ・アクションは1997年の改正均等法に盛り込まれた内容で、施行(1999年)の翌年から調査されていることになる。4.7.1 ポジティブ・アクションへの取り組み

ポジティブ・アクション実施企業の割合は、2割から3割を上下している。一方、実施しておらず、取り組む予定のない企業は、2009年に2

割(2006年)から6割に急増した後、5~6割の間を行き来している(表27)。4.7.2 ポジティブ・アクションに取り組まない

理由

ポジティブ・アクションに取り組まない理由に

35

表25 女性管理職が少ない/いない理由(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表26 女性管理職が少ない/いない理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 35

Page 18: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

ついての企業の回答がある。選択肢は年度で若干異なるが、比較できないというほどではない。年次による選択肢の差異は複雑すぎるので説明を割愛するが、表28 のとおりにまとめた。2013年のみ複数回答で、それ以前はあてはまるものを一つ選択する回答方法である。理由として多いのは、「既に十分に女性が活

躍している」「男女にかかわりなく人材を育成している」である。次いで「その他」が多く、ポジティブ・アクションに取り組まない理由は、一概にはまとめられないことが分かる。ただし、2013年のデータをみると、このうちの半分程度は、「女性が少ない/全くいない」で説明できるのかもしれない。「トップの意識が伴わない」「男性の理解が得られない」「中間/現場管理職の理解が得られない」「コストの上昇につながる」という理由は少ない。興味深いのは、「女性の意識が伴わない」という理由を選択する企業が徐々に増加していることである。この項目が最初に設置された2010年には1割であったが2013年には2割に増えている(表28)。全体を100としたときに占める割合で最新の

2013年の傾向をみると、「男女にかかわりなく

人材を育成している」という回答が、3割と最も多く、ついで「女性が少ない/全くいない」の2割である。すでにポジティブ・アクションが不要なほど十分に「男女にかかわりなく人材を育成している」と認識しているのか、「女性が少ない/全くいない」ので、そもそもポジティブ・アクションが不要だと認識しているのか、回答は割れている(表29)。

4.8 企業の女性活用への認識

4.8.1 女性の活用方針

企業の女性活用方針については、昭和50年代の調査(1977年、1981年、1984年)で測定されている。回答方法は複数回答である。選択肢は、ほぼ同一の文言で、「女子に教育

訓練や昇進の機会を与えて積極的活用をはかっていく」「以前から男女区別なく扱う方針できており、今後ともその方針でいく」「女子は補助的な分野で活用をはかっている」「女子の活用は特定の業務範囲のみ」「女子には体力的に無理な仕事が大部分なので特に考えていない」(1977年、1981年のみ)、「女子は雇用管理上困難な面が多いので、できれば男子にきりかえていく」(1977年、1981年のみ)、「女子には法制上以外にも雇用管理上むずかしい面があるので、活用には限界がある」(1984年のみ)「女子は法制上の制約があるので活用には限界がある」「その他」の9個である。結果は、「補助的分野で活用」と「特定分野

で活用」がどの年次でも高い(表30)。全体を100としたときに占める割合で見ると、この2つを合計すると約5割で、年次による変化はほとんどない(表31)。続いて「以前から男女の区別なし」が約2割である。「女子に教育訓練や昇進の機会を与えて積極的活用をはかっていく」

36

表27 ポジティブ・アクションへの取り組み

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 36

Page 19: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

37

表28 ポジィティブ・アクションに取り組まない理由(単純集計)

注1 ポジティブ・アクションに取り組む予定のない企業のみの回答注2 2000年から2012年までは、あてはまるものを一つ選ぶ回答方法だが、四捨五入しているので、合計は必ずしも100.0にならない注3 2013年は複数回答注4 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表29 ポジィティブ・アクションに取り組まない理由(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表30 女性の活用方針(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 37

Page 20: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

「女子には体力的に無理な仕事が大部分なので特に考えていない」「女子には法制上以外にも雇用管理上むずかしい面があるので、活用には限界がある」がそれぞれ約1割ずついる。まとめると、昭和50年代には、企業のうち5

割は女性を補助や特定分野で活用するつもり、2割は男女の区別なく活用しているつもり、1割は今後、女性を積極的に活用していくつもり、2割は女性活用に消極的だったということになる。4.8.2 女性活用に当たっての問題点

企業の女性活用への認識については、1984年からは、「女性活用に当たっての問題点」という項目で、その変遷を見ることができる。年次によって選択肢の項目が若干異なるが、比較できないというほどのことではない。

1984年の選択肢は、「女子の勤続が短い」「女子に意欲・能力がない」「女子には家庭責任がある」「法律の制約がある」「社会の理解が不十分である」「その他」である。1989年の選択肢は、「女子に意欲・能力がない」が「女子の職業意識が低い」になり、「雇用管理の見直しに時間がかかる」がなくなり、「同僚男子の理解がない」が加わる。1992年からは、「女子/女性

の活用の仕方が分からない」が加わる。1995年以降の選択肢には、「特になし」が加わる。1998年からは、「時間外労働・深夜労働をさせにくい」「女性のための就業環境の整備にコストがかかる」が加わる。このうち、後者は、1984年の「雇用管理の見直しに時間がかかる」と同一カテゴリーとしてまとめてよいだろう。2006年以降の選択肢からは、「女性の活用の仕方が分からない」がなくなり、「ポジティブ・アクションの概念が分かりにくい」が加わるが、これらも同一カテゴリーとしてよいだろう。大まかな傾向として、2000年以前は「女性は勤続が短い」ことを指摘する企業の割合が5割近かったが、その後減少し、2011年には3割であることがまず挙げられる。「女性は職業意識が低い」は、2000年以前は3割程度の指摘があったが、その後、減少し、2011年には1割強になっている。同様に「同僚男性の理解がない」「社会の理解が不十分である」を指摘する企業も減少している。反対に、「女性には家庭責任がある」を指摘する企業の割合は、1984年には3割強だったが、その後上昇し、2011年には5割を超えている。「特になし」という企業は1995

年には1割を満たなかったが、2011年には2割弱

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

38

表31 女性の活用方針(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 38

Page 21: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

39

表32 女性活用に当たっての問題点(単純集計)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

の企業が選択している。多少の差はあるが、どの年次でも、企業は平均して2項目の理由を挙げている(表32)。全体を100としたときに占める割合で見ると、

1984年には「勤続年数が短い」が、3割と最も大きな割合を占めていたが、その後、徐々に減少していく。「女子に意欲・能力がない」も1984年には2割弱を占めていたが、減少していく。「家庭責任がある」はどの時点でも2~3割と大きな割合を占めている。「時間外労働・深夜労働をさせにくい」が占める割合は、ほぼ変わらず2割弱である。これら4項目で、どの年次についても、全体の6割~7割が説明される。ただし、「勤続年数が短い」や「女子に意欲・能力がない/女性の職業意識が低い」の割合は低くなる。「家庭責任がある」はやや増え、それ以外では、「ポジティブ・アクションの概念が分かりにくい」も増える(表33)。4.8.3 女性の活躍推進のために必要だと考える

取組事項

2012年度調査では、企業が女性の活躍推進のために必要だと考える取組事項についての調査

が行われている。回答方法は複数回答である。女性の活躍推進のためには、「女性の継続就

業に関する支援」への取り組みが必要であるとする企業が6割を超えている。ついで、「研修機会の付与」と「公正・透明な人事管理制度、評価制度の構築」が各4割弱である。「ワーク・ライフ・バランスを促進させる取組」「人材育成の機会を男女同等に与えること」「女性の活躍の必要性についての理解促進」は4分の1程度にすぎない(表34の上の行)。なお、参考までに、全体を100としたときに占める割合を表34の下の行に示す。

5. 考察

「女性雇用管理基本調査」を継時的に分析することよって示された日本企業の女性活用への態度と実践の変遷はどのようなものであったろうか。男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の施行、改正を受けて、近年になるほど、企業は女性活用に積極的になっているのだろうか。以下ではこの点について考察を行う。考察に先立ち、「女性雇用管理基本調査」で

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 39

Page 22: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

日本企業の女性活用への態度と実践の変遷をとらえることの限界を指摘しておきたい。この調査は、「主要産業における女性労働者の雇用管理の実態等を総合的に把握することを目的」としている。これは、この調査の結果が産業構造の変化を受けることを意味する。国勢調査 (総務省統計局)、労働力調査 (総務省統計局) 国民経済計算(内閣府)のどれを参照しても、近年になるほど日本の産業構造は、第二次産業が減少し、第三次産業が増加している。つまり、日本の「主要産業」の構成は、時代によって変遷している。もし産業によって女性活用の特徴が違うとしたら、本研究における「女性雇用管理基本調査」の継時的分析で示された日本企業の

女性活用への態度と実践の変遷は、時代効果というよりも産業効果によるものとなるだろう。時代効果をみるには、本来は同一企業を対象とした継時的調査によらなくてはならない。本研究における分析は、産業構造の変化による効果も含んだ、日本企業の女性活用の全体像をとらえたものに留まっているという限界があることを明示しておきたい。

1990年代後半においても、約1割の企業が男性のみ募集をしている(表1)。業務に必要な資格や技能、技術を持つ女性がほとんどいないから男性のみ募集になる、というのが、本調査にみられる1990年代の企業の見解である(表2、表3)。しかし、一方では、日本企業の新卒採用

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

40

表33 女性活用に当たっての問題点(年次ごとに回答数の合計を100とした時の比率)

注 「‑」は、当該年次には選択肢が設置されていなかったことを示す

表34 企業が女性の活躍推進のために必要だと考える取組事項

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 40

Page 23: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

では、専門性や資格はほとんど重視されないというデータがあり10、そのデータと照らし合わせると、なぜ女性を募集するかしないかには、「業務に必要な資格や技能、技術があること」が検討されるのか、不思議といえば不思議である。また、女性のみ募集する場合、補助的・定型的業務か、顧客が好むソフトな顧客対応に従事させるため、というのが、本調査にみられる企業の主な見解である。

2010年においては、高卒で2割、大卒で3割の企業が、男性のみ採用をしている(表7)。女性の採用がない理由は、「女性の応募がなかった」「女性の応募はあったが、試験の成績等が採用基準に達していなかった」が多い(表8、表9)。この点を検討してみよう。まず、「女性の応募がなかった」のは、募集

はしたのに応募がなかったのか、募集自体がなかったのかが不明である。次に、「試験の成績等が採用基準に達していなかった」というのは、内容に踏み込んで検討する必要がある。安田(2015)によれば、大学の成績についていえば、女性の方がよい。したがって、筆記試験で、女性の方が男性より成績が低いとは考えにくい。企業が新卒採用で最も重視するコミュニケーション力(日本経済団体連合会, 2014)が女性より男性の方が高いということかもしれないが、それはそれで問題をはらんでいる。というのも、コミュニケーションの効率性は、同類性に左右される(青池1993)。例えば面接試験において、試験官が男性だった場合、受験者が女

性の場合より、男性の場合のほうが、メッセージの交換がうまくいく。仮に、メッセージの交換がうまくいったことをもって、コミュニケーション力の高さと評価されるのであれば、試験官が男性の場合、同性の男性の方が、面接試験においては有利なのである。このように、採用の時点で、女性には男性より高いハードルが課されている可能性がある11。入社後はどうだろうか。男性のみ配置は1970

年代には9割、1980年代には5~8割、1990年代から2000年代には4割、2010年代には5割である(表10)。男性のみ配置の理由については、1970

年代は「高度な判断力が必要」「高度な技能や資格が必要」「外部との折衝が多い」「外勤・出張が多い」など、仕事の性質が理由とされてきた(表11、表12)。1980年代には「残業が多い」「深夜労働が多い」など、働き方を理由とする企業の割合が増える(表11、表12)。1990年代になると、「女子/女性の適任者がいない」「技能や資格を持つ女性がいない」「部署が女子/女性の配置を希望しない」など、女性であることを理由とする回答が増加する(表13、表14)。ただし、1990年代の理由は、1970年代の理由と似通っている部分がある。配置転換については、最新のデータである

2000年のデータによると、事業所内配置転換については2割、転居を伴わない事業所間配置転

41

10 日本経済団体連合会(2014)によると、新卒採用にあたって特に重視した項目として、専門性は13.1%、保有資格は0.8%である。コミュニケーション力は82.8%の企業が重視しており、新卒採用で最も重視される項目である。

11 厚生労働省(2015)によると、コース別雇用管理制度導入企業のうち118社に訪問調査を行ったところ、2014年に総合職に応募した女性のうち採用されたのは2.3%、男性では3.3%である。一般職に応募した女性のうち採用されたのは4.4%、男性では8.8%である。なお、5年前(2009年)には、2.0%、8.8%(総合職 :

女性、男性)、11.6%、24.3%(一般職 : 女性、男性)であった。

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 41

Page 24: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

換については3割強の企業が、女性には配置転換を行っていない(表17、表18)。1990年代後半以降に、男性のみに行う傾向が再び強まっている。男性のみに配置転換を行い女性には配置転換を行わないのは、1981年には、女性の仕事の性質 (補助的業務) が理由であった。しかし、1995年には、配置転換を希望しないという女性の意志や家庭責任という企業の認識では女性のみにある事情が理由である(表19、表20)。教育訓練については、最新のデータである

1998年のデータでは、男女とも対象としているのは6割である(表21)。男女を同じ基準で採用していれば、採用した女性については、採用時には能力や意欲において、男性との差はないはずである。しかし、上述したように、企業は、入社後、女性は適任でない、希望しない、家庭責任があるからと、ある部分について、男性のみの配置、配置転換、教育訓練を行っている。そして、能力が不足しているからと、女性を管理職に登用しない。女性管理職がいる企業の割合は、1980年代には4割だったが、2010年代には7割である。しかし、1社当たりの女性管理職者数は2人から1人に減少している(表23)。女性管理職が少ない/

いない理由は、1980年代前半までは「女子の補助的業務の性格から無理」、1990年代以降は「必要な知識や経験、判断力等を有する女子/女性がいない」である(表25、表26)。こうして、募集に始まり入社後も続く男性との異なる処遇が絡まり合って、昇進において、男女間格差が生じる。しかし、企業の認識では、それは、女性の意志や事情を汲んだ結果なのである。企業はポジティブ・アクションでこの問題をときほぐそうとしているのだろうか。最新の2013年のデータをみると、6割の企業はポジテ

ィブ・アクションに取り組む予定がない(表27)。その理由は「男女にかかわりなく人材を育成している」が最も多く、ついで「女性が少ない/全くいない」である(表28、表29)。しかし、「男女にかかわりなく人材を育成している」という認識は、配置、配置転換、教育訓練、管理職への登用という観点からみた場合、現実からずれている。「女性が少ない/全くいない」のでポジティブ・アクションが不要という認識は、性別職務分離を放任しているという点で問題がある。女性活用に当たっての問題点についての企業の認識については、1980年代後半以降のデータがある(表32、表33)。それによると、1990年代後半から「勤続年数が短い」や「女性の職業意識が低い」の回答率が低くなり、「家庭責任がある」の回答率が高くなる。女性の平均勤続年数は6.8年(1985年)から9.9年(2014年)に伸びている12。「勤続年数が短い」「女性の職業意識が低い」という説明が難しくなり、20代後半に多くが直面する結婚や出産を念頭に、「家庭責任がある」を理由とするようになったのだろう。しかし、なぜ家庭責任といえば女性のものなのだろうか。男性には家庭責任はないのだろうか。では、企業が女性の活躍推進のために必要だと考える取組事項は何だろうか。最新の2012年のデータでは、「女性の継続就業に関する支援」と考える企業が最も多く、6割を超えている。「ワーク・ライフ・バランスを促進させる取組」と「人材育成の機会を男女同等に与えること」は、それぞれ4分の1程度の企業しか必要だと考

42

12 賃金構造基本統計調査による。同期間に男性の平均勤続年数は11.9年から13.5年に伸長した。

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 42

Page 25: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

えていない(表34)。いったい、企業が女性の活躍推進のために必要だと考える取組事項の傾向は、企業が認識している女性活用の問題点と対応しているだろうか。「勤続年数が短い」ことが女性活用の阻害要因であるという見方は少なくなっているにもかかわらず、企業は「女性の継続就業に関する支援」が女性の活躍推進のために最も必要だと考えている。逆に、「家庭責任がある」ことが女性活用の阻害要因であるという見方が強くなっているにもかかわらず、「ワーク・ライフ・バランスを促進させる取組」を重視する傾向はあまり強くない。また、配置、配置転換、教育訓練については、男女で異なる扱いがあるが(たとえば2011年には5割の企業が男性のみ配置をしている)、「人材育成の機会を男女同等に与えること」を重視する傾向はあまり強くない。このように、企業が認識する女性活用の問題点と企業が女性の活躍推進のために必要だと考える取組事項の傾向は、対応していない。

6.おわりに

企業の女性活用に対しては、「「平等に採用しましたが、結果的に良い人材は男性ばかりでした」、と言えば法律違反にならない」(岩田・川口 2015, p6)という批判がある。しかし、女性管理職基本調査を継時的に見たところ、そもそも、企業が男女平等に採用しているのかについて、疑問がでてきた。

1990年代後半でも、募集の段階で、1割の企業が男性のみ募集をしていた。その後についてはデータがないのでわからないが、少なくとも均等法施行から10年以上たっても、男性のみ募集が続いていたことは確認できた。しかも、男性のみ募集の主な理由は、企業が新卒採用では

あまり重視しないはずの、「業務に必要な資格や技能、技術」を持つ女性がほとんどいないから、であった。また、2000年代になると採用に関するデータが得られるが、最新のデータである2010年においても、高卒で2割、大卒で3割の企業が男性のみ採用をしている。その主な理由は、(女性は)「(試験の成績等が)採用基準に達していなかった」である。しかし、肝心の「採用基準」がはっきりしない。学業成績は女性の方が男性より高い傾向があるので、筆記試験とは考えにくい。コミュニケーション力とすれば、面接官との同類性というバイアスにより、男性が有利である。結局、女性雇用管理基本調査のデータを参照する限りでは、今現在、そもそも、男女平等な採用基準による採用が行われているかどうかは、正確なところはデータがないのでわからないが疑問はある、ということになる。一方、入社後については、女性に適性がない、女性が希望しない、女性には家庭責任があると、女性に理由があるとして、配置、配置転換において、2000年代以降も男性に有利な処遇が行われていることが分かった。教育訓練も、最新(1998)のデータでは、4割の企業が、男女平等には行っていない。結果、2010年代においても、管理職割合の男女差は大きい。しかし、2013年には、6割の企業がポジィティブ・アクションに取り組む予定がない。企業はポジティブ・アクションには消極的である。また、女性活用の問題点についての企業の認識と、企業が必要だと考える女性の活躍推進のための取組事項 ―言い換えれば、女性活用に関する問題の把握と、把握した問題への対処方法― は、対応していない。総括すると、日本においては、2000年代以降

43

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 43

Page 26: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

仙田幸子

人間情報学研究 第21巻 2016年3月

も、配置や配置転換について、男女で異なる処遇が行われている。また、管理職割合の男女差は、1社当たりの人数という点では、むしろ後退・停滞傾向にある。そして、2010年代において、女性活用の問題点についての企業の認識と、企業が必要だと考える女性の活躍推進のための取組事項は対応していない。以上が、企業の女性活用の実態と企業の女性活用に対する認識の変遷について、女性雇用管理基本調査のデータを継時的に概観することで得られた結果である。個別企業のレベル(ミクロレベル)では、女性活用に積極的に取り組んでいる企業はあるだろう。しかし、本研究のように、マクロデータを用いて概括するという方法をとった場合には、2010年代においても、日本企業は女性活用について場当たり的にしか考えていないとみなされても仕方がないだろう。そのような女性活用に関する場当たり的な認識ゆえに、マクロレベルで見た場合には、今日においても、日本企業は女性活用に消極的であるということになるのであろう。

<参考文献>

青池愼一(1993)「コミュニケーション・ネットワークの構造 : 地域社会における事例研究」『慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要 :

社会学・心理学・教育学』36, 31‑40.

岩田三世・川口章(2015)「ジェンダーと社会」『季刊家計経済研究』107, 2‑16.

荻原勝(1993)「男女雇用機会均等法の雇用管理への影響」『日本大学経済学部経済科学研究所紀要』17, 135‑148.

厚生労働省(2006)『平成18年度女性雇用管理基本調査』.

厚生労働省(2015)『平成26年度コース別雇用管理制度の実施・指導状況<速報版>』http://www.mhlw.go.jp/file/04‑Houdou

h a p p y o u ‑ 1 1 9 0 2 0 0 0 ‑ K o y o u k i n t o u j i

doukateikyoku‑Koyoukintouseisakuka/

270623̲1.pdf(2015年9月7日閲覧).厚生労働省(各年)『賃金構造基本統計調査』.

厚生労働省雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課(2014)『平成25年度雇用均等基本調査結果報告書』.

日本経済団体連合会(2014)『新卒採用(2014

年4月入社対象)に関するアンケート調査結果』https://www.keidanren.or.jp/policy/2014

/080̲kekka.pdf(2015年9月4日閲覧).駿河輝和・西本真弓(2002)「育児支援策が出生行動に与える影響」『季刊社会保障研究』37‑4, 371‑379.

高井寛(1993)「男女雇用機会均等法施行後における女性の教育訓練の状況」『教育學雑誌』27, 28‑40.

野城尚子(2013)「育児休業取得率をめぐる動向 : 政策的な観点から」『東洋大学人間科学総合研究所紀要』15, 101‑113.

安田宏樹(2015)「大学4年生の成績に関する男女間差異」『東京経大学会誌 . 経済学』285,

127‑153.

労働政策研究・研修機構 (2013) 「雇用管理基本調査」 http://www.jil.go.jp/kokunai/

statistics/shozai/html/k32.html(2015年9月5

日閲覧).脇坂明(1995)「女子雇用管理基本調査」『日本労働研究雑誌』419, 38‑39.

脇坂明(2001)「仕事と家庭の両立支援制度の分析」『雇用政策の経済分析』大竹文雄・猪木武徳編, 東京大学出版会, 195‑222.

44

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 44

Page 27: 企業が女性活用をしない理由 (1): 女性雇用管理基本調査の結 …Yukiko SENDA Abstract In order to examine the realities and the companies’ perceptions/opinions

企業が女性活用をしない理由 (1) : 女性雇用管理基本調査の結果から

Journal of Human Informatics Vol. 21 March, 2016

八代充史(2014)『人的資源管理論 第2版』中央経済社.

[2015年11月6日受理]

45

02̲仙田2016̲基本体裁 平成 28/02/19 9:06 ページ 45