日本建築学会 建築計画委員会 住宅地計画 小委員会...

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住宅地計画 小委員会 @大阪 コーディネート:江川直樹・寺川政司 2008年7月12日(土)・13日(日)

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Page 1: 日本建築学会 建築計画委員会 住宅地計画 小委員会 @大阪news-sv.aij.or.jp/keikakusub/s20/Osaka1.pdf · 高蔵 寺ニュータウンが主対象。企画は阿部順子先生とする。

日 本 建 築 学 会 建 築 計 画 委 員 会

住宅地計画

小 委 員 会

@大阪

コーディネート:江川直樹・寺川政司

2008年7月12日(土)・13日(日)

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住宅地計画小委員会視察行程案

2008/07/08 版

日時 場所・内容 住所 最寄駅 案内

7月 12日(土) 昼~夕方までオプション:希望者のみ

神戸・大阪界隈 希望に応じて

7月 12日(土) 17:30~19:30 小委員会

17:30 ~19:30

小委員会:視察地オリエンテーション・木賃密集市街地開発のその後(安原)・開発住宅地における「親街路性」と「親空性」(江川) ・その他視察地説明

大阪駅前第 2ビル4階 大学コンソーシアム大阪会議室

大阪

安原 江川 他

19:30~ 食事・懇親 7月 13日(日) 9:30~19:00 視察+意見交換 移動は車を想定

9:30 集合・オリエンテーション 市営日之出北住宅集会所 新大阪:西淡路 2丁目 新大阪

10:00 ~10:45 現代長屋 TEN 東中島 4丁目 12 新大阪 寺川

11:15 ~12:15 浜甲子園さくら街 西宮市古川町 3・枝川町 5 阪神

甲子園 江川

12:15 ~13:00 食事

13:30 ~14:15 デネブ←当日は現代長屋 TENの後に見学 大阪府豊中市千成町 阪急

神崎川 15:00

~17:00 ネイキッドスクエア 寝屋川市萱島南町 18・19 安原

東大利スクエアタウン 寝屋川 井上

カルチェダムール 門真

京阪 萱島

17:45~ 小委員会:意見交換・まとめ 市営日之出北住宅集会所 新大阪

19:00~ 懇親・解散

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2008.07.14作成 徳尾野

2008年度第 2回住宅地計画小委員会(第 1日目)議事録 日 時:2008年 7月 12日(土) 17:30~20:30 場 所:大学コンソーシアム大阪 会議室 参加者:横山、江川、小浦、田中、寺川、安原、徳尾野 1.13日の視察ルート確認 「密集市街地改善、その後」 大阪市営日之出北住宅集会所(大阪市東淀川区) 集合(9:30)

↓ 現代長屋 TEN(大阪市東淀川区) ↓ デネブ(大阪府豊中市) ↓ 浜甲子園さくら街(兵庫県西宮市) 昼食 ↓ ネイキッドスクエア&萱島密集市街地(大阪府寝屋川市) ↓ 東大利スクエアタウン(大阪府寝屋川市) ↓ カルチェダムール(大阪府門真市) ↓ 大阪市営日之出北住宅集会所 議論・次回予定 解散(17:00) クルマで移動とする。 2.各事例の解説(資料参照) 安原秀:デネブ・ネイキッドスクエア・カルチェダムール 江川直樹:浜甲子園さくら街

以上

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2008.07.14作成:徳尾野 2008.07.22意見付加:安原・阿部

2008年度第 2回住宅地計画小委員会(第 2日目)議事録 日 時:2008年 7月 13日(日) 17:00~18:00 場 所:大阪市営日之出北住宅集会室 参加者:横山、江川、小浦、田中、寺川、安原、徳尾野、三谷、阿部、井上、野澤、森永 1.コーポラティブ住宅の落下傘的事業の限界 密集市街地にインパクトを与えるためには 1 つのプロジェクトでは限界がある。周辺に波及していかない。デネブの周辺市街地は当時に比べてよくなっていない。工場が抜けて

空疎になっただけで落下傘降下したデネブは孤立状態である。コーポラティブ住宅を 3 箇所くらい点在させることができていれば、まちに変化の兆しが芽生えたのではないかと想

像したくなる。 現代長屋 TENの場合も、道路を挟んで反対側の敷地のプロジェクトが実現すれば、2つの住宅に挟まれた道空間が広場化して生きた街並みを感じさせるだろう。 しかし誰が仕掛けるか?→街づくり協議会が中心となるであろうが、具体化して権利の

調整となれば弱い。行政は「大変な仕事」(時間と手間のかかる仕事)に対しては、一つ目は担当者の熱意で実現することがあるが、ふたつ目からは腰が引けてしまう。 将来の街の姿(あり方)を合意形成して、時間がかかっても歩一歩変化する状況を市民

が感じ取れるような政策遂行が大切だ。 市場性・コミュニティ・法規・美観などさまざまな様相を解ける人材の育成はどうした

らよいのか、職能としての再編も考えたい。 2.密集市街地における木賃アパート建て替えマンション 建て替え地主の説得がポイント。密集市街地における地主は、地元の大地主から投機目

的で木賃アパートを購入した地主まで様々であり一様ではない。後者の場合は 30数年間一度も現地を訪れたことのない遠方地主もいる。共同建て替えといっても必ずしも地主同士、

仲がよいわけではない。そのためにそれぞれが建て替え可となる 2 重壁方式が採用されている。 東大利の現場から、同床異夢であっても街がよくなり、価値が上昇することで住民意識

も変わるだろうという期待が感じられた。 セーフティーネット以外の住宅の公共性を考えなければならない。 3.公的デベロッパーの責務

UR、住宅供給公社等の公的デベロッパーにはまちづくりに対する責務があるはず。住宅

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政策は戸数主義で、まちづくりが考えられていない。ネイキッドスクエアも当時は定借で

いけたし、それだからこそ実現した。現在ならおそらく不可能であろう。売却されてしま

い、周辺と連続性のないより高密なものが建設されるだろう。 4.集住意識の原点 まちにつながる住宅の公共性といったものがあるはず。萱島の密集市街地の長屋や木賃

アパートには街につながる「集住意識の原点」が見てとれる。おそらくそのことはディテー

ルに存在するのであろうが、現在の集合住宅の設計で展開しようとすれば特異なものとし

て見過ごされてしまう。 浜甲子園さくら街の住棟計画では「団地」的視点から「住宅市街地」形成へ意図転換さ

れていることが重要で、街路との関係付けされたデザインが大きい効果を発揮している。 5.都市住宅の「型」「構え」 京町家や大阪長屋には都市住宅としての「型」あるいは「構え」があり、繰り返し連続して

も違和感なく街並みが形成される。戦後の住宅には「型」や「構え」がない。ネイキッドスク

エアには市街地住宅としての「型」がみられる。しかし、あのまま連続すると違和感がある。

「型」は街区の状況に即応して変化しながら展開されるものである。 ネイキッドスクエアは「型」の問題だけでなく、ディテールと素材の選定が優れているた

めに、年月が経っても古さを感じさせない。→型枠コンクリートブロックは単なる外壁デ

ザインだけでなく、密集市街地における小さいスケールの工法を意識した、(例えば日乾し

レンガのような)素材の選択であった。(安原) 6.メンテナンスの重要さ カルチエ・ダムールは最近までひどく寂れた姿をさらしていたが、今回、全棟の改修工

事が行われて息を吹き返していた。街の景観維持への責務も含め、建物の長期存続をはか

った権利者の合意(への努力)を称えたい。 7.ワーキングメンバー 今回の小委員会に参加いただいた安原秀氏(ヘキサワークス)、井上守氏(井上守建築事務所)にワーキングメンバーになっていただくこととなった。 8.次回の視察場所 次回は名古屋方面で「計画的住宅地の変容と再生」をテーマに開催する(10 月予定)。高蔵寺ニュータウンが主対象。企画は阿部順子先生とする。

以上

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住宅地計画小委員会@大阪 団地再生&密集市街地開発その後

大阪市営日之出北住宅集会所からの眺め(大阪市東淀川区)

現代長屋 TEN(大阪市東淀川区)

デネブ(大阪府豊中市)

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浜甲子園団地さくら街(兵庫県西宮市)

ネイキッドスクエア(大阪府寝屋川市)

萱島密集市街地アパート(大阪府寝屋川市)

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東大利スクエアタウン(大阪府寝屋川市)

カルチェダムール(大阪府門真市)

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2008.07.12-13 2008年度 第 2回住宅地計画小委員会資料

現代住宅 TEN (大阪市東淀川区)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01-03 *「新建築住宅特集」2003年 8月号記事

浜甲子園さくら街 (兵庫県西宮市)・・・・・・・・・・・・・・・・・・別冊 デネブ (大阪府豊中市)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・04-13 *「建築文化」1984年 6月号記事

ネイキッドスクエア (大阪府寝屋川市)・・・・・・・・・・・・・・・・・14-18 *「新建築」1999年 8月号記事 *「2007年度日本建築学会大会(九州)建築計画部門 PD資料抜粋

カルチェダムール (大阪府門真市)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19-20 *「日経アーキテクチュア」1990年 11月 12日号記事

東大利スクエアタウン (大阪府寝屋川市)・・・・・・・・・・・・・・・・20-23 *「建築設計資料集成[地域・都市Ⅰ-プロジェクト編」pp122~125 *「事例で読む現代集合住宅のデザイン」(彰国社) pp42~43

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2007 年度日本建築学会大会(九州)

建築計画部門

パネルディスカッション資料

ネイキッドスクエア

安原 秀 (ヘキサworks)

■ 事業の背景

萱島新町家と称したネイキッドスクエアは1999年

3月に完成した。企画内容を地域の人々に説明し意見交

換をする→コーポラティブ参加者を募集する→設計→工

事に約3年半を要しているので、企画が開始されたのは

1995年である。 寝屋川市萱島東地区では1980年期から密集住宅市

街地整備促進事業(48.6ha)が推進されており、生活道路整備と住環境整備が主課題であった。 建設用地は、行政が府営住宅、公社特定優良賃貸住宅

などの建設と農業用水路改修、親水公園、緑道整備を計

画的に実施する拠点的開発地区に位置しており、大阪府

住宅供給公社が先行取得したものである。 計画は「庶民的な街並みを生かした集合形態の、地元

の人でも購入できる価格の住宅をコーポラティブ方式で

建設する」というコンセプトで大阪府住宅供給公社が企

画募集し、土地の定期借地契約をした参加者が建設組合

を結成して建設事業を行った。 ■ 計画の目標

計画内容の根幹は企画者側が提案し、それを承認した

参加者が建設組合で共通の利害、施設計画のあり方と実

施内容、コスト等を議論して修正し決定するという進め

方を原則とした。 (事業レベルのこと) ・ 土地は一般定期借地権・地上権方式・期間60年・

地代一括前納(権利金として公示価格の約50%)

とし固定資産税相当額を借地人が毎年支払う。 ・ 地域での住宅供給は戸建が主流であり、顧客は「戸

建・庭付き・増改築可能」への願望が強い。計画す

る建物は地域防災のために耐火建築とするが、事業

を成功させるためには、耐火で集合系だからマンシ

ョン、コストを下げるから高容積という短絡発想か

図―1 外観・街路

ら脱して「戸建でもなくマンションでもない、全戸

接地型」のビルディングタイプを創出する。 ・ 定期借地ゆえ、かならずしも容積の完全消化を第一

義にせずに、空間の魅力アップを重視した計画で事

業採算を計ることができる。 ・ 土地の権利は、住戸と駐車場の用地は位置、面積を

戸別に確定しており、共用部分は準共有である。 (街並みレベルのこと) ・ 周辺地域とスケールの断絶が起こらないよう考慮し

ながら、秩序の無いままに発展してきた街並みに基

準軸をつくる。 ・ 「接地3階建・長屋建て・2重戸境壁」の建築形式

で、20戸程度を単位とする住戸群を連ねて街区を

構成して、住まう街区と明確な街路の空間をつくる

ことを意図する。 ・ 街路に対する建物外観の表情には、コーポラティブ

方式による個性の表出を期待する。そして各戸ごと

の屋上利用が建物のスカイラインを作っていくこと

をイメージする。 (図―1) ・ 住戸群連結の形式は、分節を繰り返しながらエンド

レスに展開する型を追及し、市街地住宅のモデルつ

くりを目指す。 (図―3・4) (住戸集合レベルのこと) ・ ゼロロットで街区を形成した住戸群が、内側では囲

み庭型にオープンスペースと構内通路をつくり、中

央に集合体のアイデンティティを示す広場をイメー

ジする。主たる駐車場は広場に取り込む。構内側で

もゼロロットで住戸を配置して、構外側と入れ子関

係になったセミパブリック空間が街路につながる。 (図―2・3)

・ すべての住戸が構内通路に面して玄関をもつ。住人

が各々の面する通路際を住戸計画や植栽で個性表現

図―2 構内広場・通路

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2007 年度日本建築学会大会(九州)

建築計画部門

パネルディスカッション資料

をして管理し、中心広場は駐車スペース(個人所有)

も含めて共同管理を行う。駐車スペースは地面を緑

化し、上屋は設けないことを取り決める。(図―2・3) ・ 構内のセミパブリック空間と街路との結界にはゲー

トを設けず、心理的結界となる空間をつくる。(個人

所有地の使用制限の取り決め) (図―2・3) (住戸レベルのこと) ・ 建物の構造は型枠コンクリートブロック造、壁式構

造とし、外壁仕上げは全戸共通仕様とする。(図―2) ・ 基礎構造は一体だが、地上部分は2重壁で隣家とは

独立した戸建構造とする。 (図―2・3・4) ・ 用地に建築可能範囲を定め、その範囲内での各戸の

計画は自由。ただし隣戸と長屋建ての法基準を満た

す状態で接し、壁面のゼロロットラインを守ること。

高さは3階建て以内とし、基準階高を一定とする。

建築制限ライン内でのポーチ、バルコニー等の位置

は自由。最高高さを10mとし、屋上は全戸緑化可

能な構造とする。 (図―2・3・4) ・ 各戸の住宅計画は自由。 ・ 増改築は決められた建築制限の範囲内で自由。ただ

し建築基準法を遵守し、法適用以外の改造も構造強

度のチェックを厳密に行うこと。 ・ 以上の取り決めで全体の建蔽率、容積率は満足する。 ■ 具体化に際して

(法規との関係で) ・ 街並み形成の将来イメージから団地型の中高層集合

住宅ではなく街区形成型低層タウンハウス形式を計

画目標にしたが、ここでも一団地設計への課題が存

在した。複数の住棟に分割すると構内の通路幅員そ

の他への規制を満足する必要があり、敷地分割する

と敷地周辺での空地の規制が生じる。苦慮した挙句

に到達した全体を一棟の長屋にする形のプランニン

グで全部が解けた。構内通路の幅員を建物スケール

にマッチさせて計画する、住戸の奥行きと庭のバラ ンスを考えて棟間隔を決定する等々である。

(図―2・3・4) ・ 最も悩ましいのは常に駐車場のとり方である。この

図―3 1階平面図

計画でも開発基準で100%の設置義務が定められ

ている。建設組合の会議では車を持たない主義の人

がいて議論になったが、基準通りとして、オープン

スペースを駐車場と兼用する計画でまとめた。空間

的にはちょうど良かったし、時には車を外に移動し

てイベントなどへの活用が行われている。(図―2・3) (住人の個性とエリアへの帰属意識) ・ プランニングの基本形と建物ボリュームはきわめて

単純である。しかしコーポラティブ方式での建設が

威力を発揮して、随所に変化に富んだ豊富さと面白

さを醸し出したようである。 (図―1・3・4) ・ 共用部に集団のアイデンティティを表現して、心地

よくしようという意識は完成後も維持されており、

外から見る限りでは全体の敷地、個人の敷地といっ

た意識の消えた空間になっているように感じる。 ■ 街並みの変化 ・ 完成時に較べて最も顕著なのは植物の成長である。

当初から計画されていた、緑道を隔てた対面の建物

が完成して成熟した街路ができている。残念なのは

既存市街地側で、道路整備は出来たが対面の建物に

変化が無く、目標とする街並み形成には至っていな

い。しかし少なくともこちら側の準備は出来ている

と考えて、時間経過を見ていかねばなるまい。 (図―1)

・ 定期借地期間の終了時には建物を解体して更地返還

すると定めてあり、付帯事項はついていない。契約

時にはそれ以外の決定は出来なかったのだが、将来

の社会情勢、街の出来かたの状態次第で、建物を改

修して継続使用するという判断が出てくるかどうか

注目したい。約50年後のことである。 所在地 大阪府寝屋川市萱島南町 敷地面積 4,084.01㎡ 建築面積 1,885.07㎡ 延面積 4,809.77㎡ 住戸区画 40

図―4 2階平面図

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タウンスケープをつくる集住環境のデザイン

江川直樹 (関西大学/現代計画研究所大阪)

1.タウンスケープの視点 住宅とマチのありかたを空間デザインの視点から考

えるうえで、「タウンスケープ」という視点が重要である。

タウンスケープは、建ち並ぶ家々でつくられる都市景観

であるが、その性格上、法制度に拠ってしまうところが

大きい。しかし、従来の法制度には、この「タウンスケ

ープ」という視点がない。「タウンスケープ」という言葉

は、「まちなみ景観」ということであるが、決して、表層

の見え方だけを言及するものではない。むしろ、人々の

生活の背後に潜む本質が表出した結果の、生活そのもの

の総体的な風景を指し、そのためには、そういった生活

の舞台となる環境の骨格が重要であり、建ち並ぶ個々の

家々が協調して作り出す環境の骨格性をどのように実現

するかといった視点が重要なのである。 タウンスケープを考える上で、私は、「親空性」と「親

街路性」という2つの視点が特に重要だと考えているが、

本稿では、この2つの視点、なかでも「親街路性」に特

に力点をおいて、3つの事例を取り上げる。 2.親街路性 「親街路性」とは、建ち並ぶ家々が、いかに街路、道路

空間と親しめる関係性を持ちうるか、という視点である

が、高さ緩和の代表的要因でもある壁面後退、セットバ

ックによる、道路空間の連続性・親密性の喪失、その乱

れと、その一方で近年流行のオートロックマンションの

建設手法に代表される、マチとの関係性を消してしまう

閉鎖性に対して異議を唱える視点である。壁面後退は、

道路に面する空間の開放性、公共性を謳ってはいるが、

建築そのものと街路空間の関係性をより遠いものにして

しまいがちなのである。そのうえで、パブリックな空間、

特に、何もないヴォイドな空間をいかに、まちのなかに 配置していくのか、パブリックな空間は誰のもので誰が

維持管理していくのか、プライベートな空間はパブリッ

クたりえないのか、などの視点から、親密さの感じられ

る、結果として安心安全な「人気=ひとけ」の感じられ

る市街地の道路空間、まちなみ空間を、集住空間のデザ

インとしてつくっていくことが重要だと考えている。 3.親空性 「親空性」とは、いかに空とつきあう生活環境を形成

するか、その結果として、いかに空とつきあう都市景観

を形成するかという視点であり、言い換えると屋根並み

の視点であるが、古今東西、美しく魅力的とされる都市

や集落の屋根並みを思い浮かべるとき、そこには、低く

平坦なだけであるというよりは、美しいリズムや適切な

プロポーションによる変化ある屋根並みが存在していた。

空との境界が、横一直線の町並みではなかった。大きな

伽藍や教会、神社仏閣や市庁舎の塔、広場を望む塔、あ

るいは民家の屋根でも同様に、変化ある屋根並みの都市

景観があったのである。これに対し、現在の高さ規制は、

日照条件が主たる要因であり、物理的に決められた、つ

まりデザインの視点ではなく決められた斜線による醜い

とも言える屋根並み景観を創出し、あるいは、巨大な規

模のマンションが、住宅市街地の空並みを大きなスケー

ルで横一直線に切り取ってしまい、暴力的な景観を創出

してしまっている。また、心ある地区の住民は、地区計

画等で地域の高さを規制するのだが、容積率とのバラン

スを考えないと、低いが隙間のない、風通しの悪い都市

環境を創出してしまう危険性もある。特に、高建蔽率地

区においては、暮らしにくい住宅環境となることが危惧

される。 4.浜甲子園さくら街(建て替え1期) キーワード: 中層住棟と塔状高層住棟の混在、沿道型集合住

宅配置、住宅市街地景観を形成するペントハウス型分節デザイ

ン、2ウェィアクセス型専用庭付き1階住戸(沿道からの直接

アクセスが可能)、既存の環境財産を生かした“原っぱ”/マス

ターアーキテクト方式/タウンスケープをつくる団地再生 浜甲子園さくら街は、阪神間に位置する、旧公団住宅

団地の建て替えのプロジェクトであり、2005 年 10 月末

に一部が竣工し、入居が始まって1年半ほどが経過する

集合住宅街区である。この集合住宅街区は、旧公団住宅

の建て替えであることから、ヒューマンで人間性の高い

生活環境、親密な生活環境の実現を目的としており、住

宅とマチの親密な関係、親しげな関係、安心安全感のあ

る関係性の具現化を図るべく、マスターアーキテクト方

式によって、住宅市街地の町並みを形成する集合住宅団

地の実現を目指した。 (旧・日本住宅公団)浜甲子園団地は、阪神電鉄鳴尾

駅と甲子園駅の南に位置する敷地面積 31 万㎡、150 棟、

4,613 戸の住宅に約 1 万人が暮らす関西でも有数の大規

模団地で、戦後の住宅問題を解消するために設立(昭和

30 年)された日本住宅公団が、昭和 37 年から 39 年にか

けて、わずか 2 年程の短期間でこれだけの住宅を供給し、

都市部への急速な人口移動に伴う住宅不足解消に大きく

貢献したとされている。 平成7年度より建替再生の検討

調査が開始され、平成 13 年度春に第Ⅰ期事業に先行着手

した。再生事業では、浜甲子園独特の雰囲気ある歴史を

別冊 「浜甲子園さくら街」等に関する資料

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次代へ継承しつつ、郊外型の団地から、都会的な多様性・

機能性を備え、広く地域との一体感のある住宅市街地へ

と、新たなまちづくりを目指すこととなり、特に、海に

近いアーバンリゾート的な特徴を活かし、健康的な雰囲

気を併せ持つ、気持ちの良い住宅市街地へと展開するこ

とが目標とされた。全体の土地利用としては、住宅団地

として他と隔絶される巨大な配置形状を見直し、一般市

街地のような街区に分割し、用途も混在することが目標

とされた。 建て替え1期となるさくら街では、2005 年 10 月 29 日

に第Ⅰ期(その 1、658 戸)の戻り入居が開始され、2007年春に第Ⅰ期(その2)が着工している。 アーバンデザインの目標と、既存住民、今後入れ替わ

る新規住民にとっての浜甲子園らしい居住環境を創り出

すべく、プロポーザルコンペによって新しい集住の形態

を模索することになった。そこで、浜甲子園の街にふさ

わしい、大きすぎないボリュームの実現を目指し、高層

棟を細い搭状のものとして中層棟と混在させ、浜甲子園

の気持ちの良い、広い青空が感じられるように提案した。 従来の最高高さ規制が 20Mであったので、地区のメイ

ン幹線となるバス通り沿い(道路境界から 30Mまで)に

関しては、従前の町並みイメージを継承するために、最

高高さ規制 20Mを残し、その背後のみ、45Mを可とする

道路斜線を地区計画でかけている。 さらに、市街地からの道が団地で分断されていたもの

を新しく再編し、鳴尾川(新しく河岸プロムナードとし

て再整備される予定)まで延びる公共の道として整備し、

その道に沿って建築が建ちならぶ沿道型、街区型の配置

とし、団地から住宅市街地への転換を目指した。沿道型

の中層住宅は、ペントハウスを持ちながら4層程度で建

ちならぶイメージに工夫している。 街区内部は、昔から地区にあった桜などの樹木を残し、

いわゆる市場主義のマンションではなかなか実現できな

い「原っぱ」の風景を創出した。さらに、アプローチ空

間のまわりは、できるだけ小さなスケールの低層建築物

を設け、ヒューマンスケールの界隈性の実現に努めた。

街区道路沿いはもちろん、街区内部の中庭に面するとこ

ろも含めて、すべての1階住戸に外部から出入りできる

専用庭を設け、沿道や街区のアプローチ空間、中庭界隈

を歩く人々にとって、生活感が表出された安心安全で気

持ちの良いヒューマンな風景が実現している。沿道は、

将来は住戸だけに留まらず、街に開いた様々な用途に展

開できるように考えている。 ここでは、建物を道路からセットバックさせ、そのあ

いだを緑化するという一般的な考え方ではなく、むしろ、

道路沿いに低層の壁面を設けても良いから、むしろ、そ

ういったコートハウス的な手法を採用して、道路からア

クセスできる専用庭を1階住戸に設けることとし、住宅

と道路との密接な関係性を築こうとした。結果は、生活

写真1-4:親空性と親街路性をテーマとした浜甲子園さくら街

感や人気(ひとけ)が好ましい形態で表出し、ともすれ

ば空虚になる集合住宅の足元をヒューマンなものにする

のに成功している。セットバックし、緑を植えるだけの

公共性の向上ではなく、むしろ低層の住宅を近づけると

いう発想によって、より、安心安全な住宅地環境を作り

出しているのである。 (2006年度関西まちづくり賞・日本都市計画学会関西支部 受賞)

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5.若宮地区震災復興住環境整備 キーワード: 修復的再生、戸建と公営住宅の混在、分節・分

棟・分散配置、通り抜け路地/住民参加、まちづくり協議会/

新しいが懐かしいまちなみ、人間サイズのまちの再生 若宮地区は、芦屋市のほぼ中央に位置しており、人口

は、261 世帯、約 550 人、約 2.3ha の小さなエリアだが、

震災前から密集市街地で、阪神・淡路大震災により、甚

大な被害を受けた。芦屋市は、いち早く若宮地区を復興

事業地区に位置づけ、再生案を住民に提示した。地震か

ら4ヵ月後の5月に市が提示した案は、震災で壊れたす

べての家を撤去し、その地区をすべて集合住宅にしてし

まうという案。多くの住民の反対により、さらに2ヶ月

後の7月に提示した案は、地区にある4つの街区のうち、

2つの街区を集合住宅の街区に、ひとつをタウンハウス

(庭付きの集合住宅)に、もうひとつの街区を独立住宅

の街区に再生しようという案だった。これでは、自分達

が今まで暮らしてきた街の再生にはならないと、「まちづ

くり協議会」を設立し、まちづくりコンサルタントや建

築家といった専門家の支援を得て、自分たちが納得でき

る案をつくり、市長に提出、芦屋市はこれに賛同し、行

政・まちづくり協議会・専門家の協働によって具体の計

画を推進することになった。 もともとの街は、密集市街地で、安全上も環境上も問

題があったが、「路地」などもあり、雰囲気の良い部分も

あった。新しく再生する街は、もともとの街の問題点を

解決しながら、その雰囲気の良さをさらに高めていこう

という提案である。つまり、自力復興する独立住宅の間

に、小規模な公営集合住宅を分散して配置し、独立住宅

と小さな集合住宅が混在する街に再生しようという提案

で、建築の中に、「路地」のような雰囲気の良い小さなフ

ットパスを挟み込み、街の公共的な空間、つまり道路や

広場と連続させようという案である。新しくつくる街に

は、制度上、狭い幅員の道路はできないが、こうするこ

とによって、「路地」のような気持ちの良い狭い通路がで

きる。こうすれば、建築の中に「すき間」をつくること

になって、街の中を気持ちの良い風が吹き抜けていく。

また、「すき間」からは、地区の北方にある六甲山を見る

ことができる。六甲山を見るということは、昔からこの

地区に住んでいる住民にとっては、大切なことであり、

そういった地域性をなくしてはいけない。地区の中に分

散して配置される小規模な集合住宅も、できるだけ、地

区内の独立住宅と馴染むように、ボリュームのスケール

を小さくした。色や、素材も、小さなスケールに分割し、

すき間の「路地」や「開放的な階段」には、木陰を作り

出す樹木を植えている。駐車場や広場も、できるだけ緑

で仕上げ、昔あった「原っぱ」のような仕上げにした。

街の中には、自分達で花を植え、育てることが出来るよ

うなスペースを沢山ちりばめて、いつも人気(ひとけ=

人のいる気配)が感じられるようにした。その結果、安

図-1:

当初、市か

ら提示され

た復興提案

図-2: 最終的に実現

した配置構成

写真5-8:

集合住宅が町

に溶け込む若

宮地区

心感のある「まちなみ」が実現している。 (2001 年度兵庫県人間サイズのまちづくり賞/2001 年度関西まちづく

り賞・前掲/2006 年度地域住宅計画賞・地域計画協議会/2006 年度都

市住宅学会賞・業績賞 受賞)(注1)

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6.御坊市営島団地の再生(1-5期)

キーワード: 分節・分棟、南廊下型立体街路、増殖増築型、

立体集落=立体集住街区、積層接地型/住民参加、ワークショ

ップ・ハウジング/生活と風景のリノベーション 和歌山県御坊市、島団地は、日高川沿いに位置し、総

戸数 226 戸の市内ではもっとも大きな規模の団地で、2階建ての木造住宅群に囲まれた環境の中で、4 階建ての

いわゆる羊羹型のRC造の集合住宅は、荒廃していた。 1990 年に団地の実態調査を委託された平山洋介(神戸

大学、現教授)は、この環境を良好なものに再生するた

めには、団地の建築的な建て替えだけではなく、周辺の

まちなみと連続しながら、周辺も含めた環境を良くする

と共に、なによりも、住民の生活意欲の回復、再生が重

要であると指摘し、そのために団地の問題に専念する「現

地立地行政」の組織設置が必要なこと、そこに住民参加

を積極的に巻き込む「アクション・ユニット」を構築す

べきことを提案、1992 年 4 月に「島団地対策室」が現地

立地の課クラスの行政組織として発足した。 1993 年に我々が参加してハウジング・プログラムを策

定することになった。提案の趣旨は、周辺地域との融合

性を意図したボリューム計画、住棟の分節化、地域性に

配慮した景観計画、コミュニティ形成に配慮した閉じつ

つ開く囲み型配置、共用空間の豊富化、ワークショップ

方式の導入等、島団地の全体的な問題を解決しながら、

地域の環境形成を図るというものである。 既存の島団地は 289 戸/ha と、御坊市においてはかな

りの高密度であり、それゆえ差別のシンボル化とされて

きたわけでもある。100 戸/ha 程度の低密度とすること

が重要であるとし、住棟は2~4階とし、囲み型配置と

して、形態的にはまちに閉じつつ開き、地域の環境的構

造となる広場空間を内在する形態を提案した。住宅は二

戸一の単位に分節してあいだに路地をとり、勾配屋根の

小さな単位が丘状に寄り集まった、周辺住宅になじむス

ケールの立体的なマス構成で、住戸も水周りを除いてフ

リーなプラン構成の可能な形状として提案した。 我々の建築的提案は、すきまやあいまいな領域をでき

るだけ多く創り出し、それを環境の骨格として、住民の

生活が表出する立体的な環境が形成されることを狙った

ものである。 分節された住棟間や廊下、バルコニーは

すべて不整形として、異なる場所を創出させ、さらに良

好な下町的環境を立体的に実現した、いわば”立体集落”

を創り出すために、南廊下タイプの立体路地を設けてい

る。二期から三期へと立体街路は北廊下や東廊下、西廊

下とまるで曲がりくねった道のように連続し、回遊して

いく。 住民とのワークショップは、模型を前にして仮想空間

を体験し、議論を重ね、将来の生活を思い描きながら、

場所と生活にあった独自の住戸プラン、南廊下型立体路

地への緊張、対話、同意などに発展していった。平山は

図-3:島団地配置 写真9-13:立体路地のある島団地

御坊におけるワークショップに立ち会うなかで、ワーク

ショップは矛盾、対立、反発を引き起こし、人々の求め

る相反する両義性、両面性、二重性を”可視化”させ、

しかし、それらは対決的な関係ではなく、説明不能の中

間領域の空間を形成させることに効果的で、それゆえに

意味があると、理論化している。 従来の平等・標準の観点からは想像しにくいこの建て

替えプロジェクトであるが、予想されたように、生き生

きとした生活の表出が親しみのある新しい都市景観を形

成している。その後の調査(2006-07住総妍助成)では、われ

われが「南廊下型」と考えた立体路地が、住民には「廊

下」ではなく、ほぼ「大地」として捉えられ、積層接地

型集落といった認識で利用されていることが確認された。 (2001 年度日本都市計画学会賞・計画設計賞/2000 年度和歌山県ふる

さと建築景観賞/1999年度関西まちづくり賞・前掲 受賞)(注2)

注1:『住まいと街の仕掛人』学芸出版社2003 他

注2: 同 上、『積層集住空間の計画手法に関する研究』住宅総合研

究財団、丸善1999 他

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21 戸で 2838 ㎡の共有庭園を持つ住宅街区 -アルカディア21-

関西大学工学部建築学科教授 江 川 直 樹 1.21 世紀住宅展 「春夏秋冬、こもごもに移ろう空や遠くの山なみ

のすがた、まちの広場や通りの樹木や花々、そして、

みちや生垣のたたずまい、これらのまちなみはただ

美しいだけではなく、住む人にまちへの愛着を与え、

大切にし、育てていこうとする心を生みだしてくれ

ます。いわば、良いまちなみづくりはふるさとづく

りともいえるのです。ここ 21 世紀住宅地区では、

豊かな自然を背景に、石と緑を生かしたまちなみの

骨格づくりをすすめ、いままでに例を見ない美しく

落ちついたまちなみづくりをめざしました。これか

らは、ひとつひとつの家がすぐれているだけでなく、

家々のまわりの環境やまちなみ、そして、まちへの

人々の愛着から生まれるコミュニティのよさが、そ

の住まいの価値を決めていく時代となります。まち

なみは住む人たちの資産です。」(21 世紀住宅展案内

文より) 兵庫県は、神戸市北区から三田市にかけての北神

北摂地区に、9 つのクラスターから構成される 1240ヘクタールに及ぶ神戸三田・国際公園都市、いわゆ

る北摂ニュータウンを事業展開し、新住宅市街地の

整備を進めてきた。そのなかで、いち早くまち開き

をしたのが、兵庫県が事業主体となったフラワータ

ウン(340 ヘクタール)である。 兵庫県は、1988 年に、開発の進むこの北摂ニュー

タウンとこれに隣接する丹波地区において、地域イ

ベント「北摂・丹波の祭典」を開催した。フラワー

タウンでは、「活気と自由あふれる交流都市」をテー

マに、21 世紀公園都市博覧会を開催し、その公園都

市博内において、「21 世紀住宅展」を開催し、来る

べき 21 世紀に求められる住環境のあり方、まちづ

くりや家づくりの手法を実物展示した。冒頭の文章

は、その 21 世紀住宅展の案内文である。 兵庫県住宅供給公社から、「21 世紀住宅展」の住

宅街区の計画・設計と住宅の環境コーディネイトを

依頼されたわれわれは、後で述べる<居住環境街区

>の考えを導入し、この場所にふさわしい形での展

開を考えた。公園都市博後は、街区の全体を分譲し、

実際に住んでもらおうという企画でもあった。 事業的には、兵庫県住宅供給公社が街区の整備と

まちなみ基本外構(一次外構)の整備をおこない、 写真-1 アルカディア 21 住宅街区

写真-2 街区内のナチュラルコモン(共有庭園)

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住宅メーカーや工務店によって、住宅と、まちなみ

外構につきあう二次外構の整備を連動的に行い、共

同分譲事業として全体を供給するというものであっ

た。 戸建て住宅街区に、独立した形での共有地(=コ

モン)を導入した、当時としては新しい考え方のこ

の住宅街区は、竣工後 15 年(分譲時の各種制限事

項は 10 年)を経て、当初の計画理念のそのままに、

静かで落ち着いた住宅地の佇まいを呈している。こ

の住宅街区の設計者として、現状を確認しつつ、当

初の計画理念と維持管理の仕組みを報告する。 2.居住環境街区という考え方 まちなみや都市景観の豊かさは、生活空間の豊か

さであり、人々が生き生きと暮らすことのできるよ

うな環境に負うところが大きい。つまり、生活の舞

台としての環境が、いかに、ふところ大きく、人々

のさまざまな生活を温かく包み込むようにつくられ

ているかということである。それを、われわれは、

<環境をいかに構造的につくるか>といった捉え方

をしている。環境が構造的に、つまりは、長期にわ

たって地域の骨になるように考えられているならば、

結果的に生き生きとした生活の舞台、気持の良い住

環境が自然に育まれていくような生活の舞台になる

に違いない。住宅地の道路のつくり方を考えてみて

も、その道路の先には何がどのように見え、歩くに

つれて、あるいは、車が進むにつれて、どのように

変化していくのか、それがどれほどの気持ちよさに

つながるのか、そういった、空間のあり様から考え

ていかねばならないだろう。交通量から決められる

標準的な幅員や効率的な配置だけでは、個性的で愛

着間のある風景、住宅地景観はつくれない。地域や

周辺の固有の条件が背景にあり、そこで暮らす市民

の生き生きとした姿や、生活の様が重ねあわされて、

豊かな都市景観になる。背景となる環境の構造の質

が問題なのである。 環境を構造的につくるということは、建物の建た

ない空間、空地空間を環境の構造としてつくるとい

う事でもある。建物は建ちならんで空間を規定する。

だから、建ちならぶ建ちならび方が問題であり、そ

の結果できあがる建物の建たない空間、たとえば、

その代表選手としてのとしての道の計画がとても重

要だということにもなる。

われわれはこのように、集住環境のデザインを考

える際に、構造化された空間が気持ちの良い住環境

のベースになるということをいつも意識している。

構造化された空間は、特に独立住宅(一戸建て)の

街区では、それがそのまま街の絵姿になり、あるい

は地図になって、環境構造的な空間構成は視覚化さ

れる。 たとえば、区画街路が格子状に配されて構成され

図-1 柔らかなアンジュレーションの芝生広 場が築山樹林に囲まれたナチュラルコモン

図-2 21 戸で囲まれたナチュラルコモンを持

つアルカディア 21 住宅街区 街区内道路は公共

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る一般的な独立住宅地構成手法は、基本的に住民の

属するコミュニティの領域が明確ではないし、空間

構成も拡散的であり、拠ってたつ構造的な空間には

なりにくい。車の通行という側面からも速度の低減

をうながすような仕組みもなく、住居の前の道が気

持の良い生活空間になりにくい。そこで、こういっ

た従来の手法に対して、居住環境街区といった考え

方を提案し、いくつかの地域で実現してきた。 環境構造的にも明確に意識でき、住民の属する領

域性が明確で、かつ、生活道路の色彩の強い部分は

車の通行速度を構造的に制限し、より生活道路の色

彩の強い屋外空間を実現し、その安全な生活道路に

とりつくように建ちならぶ家々は、その道路空間を

気持ちよく包み込む、そんなまとまりのある街区単

位が集まってできる住宅地という考え方である。基

本的には、それぞれの街区について、街区中央に身

近な屋外空間としての道路広場(または緑地広場)

を持ち、街区内の道は、居住者と彼らのサービス対

応以外の車が入って来ないように構造的に工夫され 写真-3 ナチュラルコモンへの入り口広場

写真-4 芝生築山のナチュラルコモン

ている。たとえばアイストップ効果のあるL字型に

配された幅員の少し狭い道で構成されているといっ

たように。居住区域道路と呼ばれる街区内のこの道

は、異なる街区をつなぐ骨格の役目を果たし、まち

全体に、車からより安全で歩いて楽しい、いえなみ

景観の楽しめる歩行者中心の道のネットワークをつ

くりあげるという考え方なのである。(参考文献 1、2) 3.石と緑の居住環境街区 そういった経緯のなかで、ここでは、まさに、環

境骨格としての公園を中央に持つ居住環境街区を構

想した。安全でヒューマン、時代に耐えうる本物の

素材による居住区域道路、築山樹林に囲まれたナチ

ュラルコモンと呼ぶ芝生広場、そして、まちなみ共

通外構、これらが内包された「北摂庭園型居住環境

街区」である。 想定された敷地規模はゆったりとしており、余裕

があったので、周辺をも含めたまちづくりに寄与す 写真-5 子供たちは芝生の上を転げまわる。

写真-6 はてなの形の石の椅子は関根伸夫作

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るため、ここでは各々の敷地をいっぱいに利用する

のではなく、それぞれが供出した土地を街区中央に

まとめ、築山樹林に囲まれたやさしく曲線的でナチ

ュラルな芝生広場を作った。芝生広場はナチュラル

コモンと言っているように、住民の共有地であり、

住民によって管理されているが、地域に開放され、

一般市民が自由に使える空間になっている。個々の

住宅とこの芝生広場の間の道路は公共に移管される

道路となっており、公道をはさんで共有のスペース

があるという極めて珍しいかたちとなった。 公共移管された道路は、幅員2mの路地(写真-

7)、4mの歩行者専用道路(写真-8)、6mの居住

区域道路(写真-1.、9、15、16 など)からなって

いる。幅員4m、6mの道路については、その中に

適宜中木を植え、閉じつつ開いた空間意識の感じら

れる、つまり、領域性の高い生活空間としての道と

した。各戸の玄関前のスペースや芝生広場のエント

ランス部分も、道路に開かれたアルコーブ状になっ

写真-7 アイストップに住宅を見る2m路地

写真-8 街区内へのアプローチ歩道(4m)

ており、連続した空地空間を目指した。 植栽の管理については、後述するが、共有地(=

ナチュラルコモン)についても、公共道路内につい

ても、管理は管理組合で行うこととしている。(公共

道路内の植栽の所有は市) 4.中間領域の構造化 道路のような公共部分を<公>、敷地内の住民専

用の部分を<私>としたとき、その分かれ目、つま

り敷地の境界領域の部分であったり、道路からよく

見える部分を、<公>と<私>の中間の部分、<中

間領域>と言う。この中間領域を骨格構造的にしつ

らえることが、良好なまちなみづくりには効果的だ。

ここでは、中間領域の構造化として、公共移管する

道路と民地の擁壁、アルコーブ状のアプローチの前

庭、共有の公園の低い擁壁、広場といったもののす

べてが一体となった地域環境となるべく計画した。

環境的に<公>と<私>の境界をなくすこと、<私

>と<私>の境界もなるべくなくして連続させるこ 写真-9 早朝の樹影の中を歩き抜ける通学生

写真-10 公私の境界が連続したディテール

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図-3 平面的にもうねって連続するデザイン

とに力を注いだ。まちかどや長い擁壁の中間部分、

宅地と宅地の間では、宅地内で擁壁をセットバック

させ、道路レベルに中高木の植栽を施した(写真 11、12)。アプローチ部分にあっては、隣の住戸の擁壁

がセットバックしているために、自分の家のための

ように中木が植えられている。こうしたことはちょ

っと普通では考えられないことだが、全てがそうな

っているのだからお互い様なのである。宅地のコー

ナー部分も同様になっており、街区内のみちがすべ

て自分たちの場所、<協空間>であることが、実際 写真-11 敷地内で擁壁を後退した街角部分

に実現し住むことによって、住民には理解される。 5-石を連続的に使う 構造的な連続感を強調するように、ここでは環境

骨格としての形をすべて、柔らかく、大きくうねっ

た曲線にして、宅地の擁壁と道路もひとつの曲線で

連続した断面とした(写真 10、図3)。擁壁と道路

の使用材料は同じ素材、桜色の暖かい質感の御影石

で、90 ミリの立方体状のピンコロと、400×800 ミ

リで厚さ 100 ミリの平板に使い分けている。石はそ

れ自身、すでに長い年月を経てきた歴史を持ってい

るし、ピンコロは、特に割った肌の部分が一様には

ならず、偶然性の自然な感じがあるので、手技の適

度な不揃いと相まって、柔らかで気持ちよい質感を

呈する。長い年月を支える環境づくりには格好の素

材である。一般には、<公>と<私>の境界を分断

することになる排水溝も、全てピンコロ舗装の下部

に見えないように設けた。道路は公共移管されるの

で、もちろん維持管理ができるようになっているし、

公私の境界も実は線状の目地で分かれているが、境

界があるようには見えないのである。排水溝の上の

ピンコロを敷いた蓋の部分は、工場で石を埋め込ん 写真-12 敷地内で擁壁を後退し植えられた木

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で作って来るのだが、現地で敷き並べていくものと

同じような感じに仕上げることは、実はとても難し

かった。何度もやり直し、方法を変え、ようやく目

指したものになった(写真-10)。 ピンコロ石の擁壁には少し勾配がつけてあり、擁

壁上の2段植栽の足元からたれて茂るつたが、季節

ごとに異なった表情を見せる。擁壁の目地には、そ

の勾配のゆえに時間が経過するにつれてコケが生え

てくる(写真-13)。硬い石もピンコロ状にして曲

線状に積めば柔らかい雰囲気にもなり、コケが生え

ればさらに柔らかさを増す。車止めも、同じ桜御影

石を削りだしてつくっている。ここでは、<公>と

<私>の中間領域化が、空間的にも素材的にも、環

境構造としての一体化として実現しているのである。 気持ちの良いまちなみを形成するためには、自然

の変化を敏感に受けとめ、表情として見せるような

素材の選び方、使い方が重要だ。例えば、影。時間

と共に移ろい、四季の中で濃淡をつくる影、影をき

れいに映しだすような質感、素材感にこだわった(写

真-14、15)。その他、雨に濡れた時の様、枯れ葉

の落ちた様、歩く人や遊ぶ子供たちの背景としての

様、そういった様を思い描きながら、素材や使い方

を考えた。 6-固定資産税の減免 アルカディア21で特筆すべきことは、街区中央

の、一般に開放された住民共有、住民管理のナチュ

ラルコモンについて、三田市がその公共性を評価し

て、固定資産税の減免を行っていることである。そ

れも、実態に即して見直しが行われ、減免率が大き

くなったことである。住民にとってはお荷物ともな

りかねないこの共有の公園が、地域にとっての愛着

ある場となり、したがって住民にとっても誇りうる

場となっていくことのサポートになっており、公共

移管か否かといった二者選択を越えた、新しい可能

性が示されたことは意義のあることである。まさし

く、地域の環境がソフト・ハードの両面から構造化

されていると言えよう(写真-16)。 7-管理(管理組合)の仕組み アルカディア 21 の街区面積は、13.627 ㎡であり、

各戸の専有敷地は、概ね 400~420 ㎡で、21 戸から

成り立っている。共有の庭園(=コモン)面積は

写真-13 コケの生育を目論んだ擁壁

写真-14 きれいな影を映し出す舗装面

写真-15 時とともに移り行く影が気持ちよい

2.838 ㎡(135 ㎡/戸)である。事業的には、当初、

この中庭庭園は公共移管されることも想定しながら

の計画であったことから、ほとんど販売価格に含ま

れていないと考えて良い。いわば、公共移管するほ

どのスペースを、住民所有とし、住民管理としたの

である。 アルカディア 21 分譲時の募集パンフレットに記

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写真-16 一般市民に公開されているコモン

図-4 公共移管道路をはさんで共有地をもつ

図-5 植栽の管理区分

載されている制限事項、管理に関する事項等のうち、

本稿で特筆すべきものを、以下に記す。

a) 制限事項 ①宅地造成工事完了公告日(昭和 62 年 10 月 13 日)

から 10 年間(1997 年 10 月 13 日まで=筆者注)は

次のとおりの制限があります。 (1)建物を居住の用途以外に供することはできま

せん。 (2)共有地を庭園の用途以外に供することはでき

ません。 (3)所有権等を移転しようとするときは、あらか

じめ公社を経由して、兵庫県知事の承認が必要です。 ② 建物引渡し後5年以内に模様替え及び増改築を

する場合は公社の承認が必要です。 b) ご了解いただく事項

③防犯灯及び植栽の管理について 道路(公道)、共有地内に設置されている防犯灯(フ

ットライト等)及び植栽については、皆様方の所有

物(但し、公道内の植栽については三田市に帰属)

でありますので、住宅引渡し後は、皆様方(管理組

合)で維持管理していただくことになります。 ⑧アルカディア 21 は良好な住環境を保持するため

に別図のとおり緑化ゾーンを設けております。又、

既設外構は街並景観を維持するために宅地造成工事

完了公告日(昭和 62 年 10 月 13 日)から 10 年間は

変更できませんのでご了承ください。 c) 共有地・共用施設の管理(管理組合)

(1)共有地及び共用施設(防犯灯・植栽等)の維

持管理は、この住宅の購入者全戸(21 戸)で構成さ

れる管理組合に加入し、規約にしたがって、皆様で

共同管理をしていただきます。上記管理組合設立基

金として当初 50万円を一括納入していただきます。 (2)また共有地、共用施設の維持管理、管理組合

の運営などの費用として1ヶ月 15.000 円を管理組

合に納入していただきます。 (3)共有地の固定資産税については、前記(2)と

は別に管理組合から三田市に支払っていただきます。 文中にもあるように、昭和 62 年 10 月の宅地造成

工事完了公告後、住宅の建設が行われ、21 世紀住宅

展で有料公開展示された(展示住宅は 14 戸)後、

昭和 63 年 10 月にその 14 戸分が販売され、引き続

き残りの 7 戸が建設、分譲された。管理組合は昭和

63 年 12 月に設立されたが、ディベロッパーとして

の公社は、規約の作成、役員の選出等の設立支援ま

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でを行った。また、自治会は隣接戸建て地区の自治

会に入っており、ここでいう管理組合は共用部の管

理を主としたものであり、自治活動は自治会となっ

ている。先に述べた共有地の固定資産税の減免であ

るが、1/2の減免措置がとられている。 つぎに、管理組合規約の中から、特筆すべきもの

は以下のとおりである。 第 1 章 総則 から (目的) 第 1 条 この規約は、アルカディア 21 の共有財

産の管理等に関する事項について定めることにより、

各住宅所有者(以下「所有者」という。)の共同の利

益を増進し、良好な住環境を確保することを目的と

する。

第 2 章 共有部分の範囲及び持分 から (共有部分の範囲) 第 5 条 この規約の対象となる共有部分の範囲は、

別表に掲げるとおりとする。 (別表 1 共有部分の範囲として、別図Aに示す共

有地(共有庭園敷地)、地目は公園、面積 2.838 ㎡、

付属施設に、樹木、ベンチ、散水栓、防犯灯。三田

市道路占用物件として、防犯灯(独立柱)2 箇所、

(フットライト)8 箇所、引込柱 1 箇所、ハンドホ

ール 1 箇所、電線管。=筆者注) (共有部分の持分) 第 6 条 所有者の共有持分は、21 分の 1 の持分と

する。 (分割請求及び単独処分の禁止) 第 7 条 所有者は、共有部分の分割を請求するこ

とはできない。 2.所有者は、専有部分と共有部

分の共有持分とを分離して、譲渡、貸与、抵当権の

設定等の処分をしてはならない。 (共有部分以外の管理) 第 8 条 公道上の樹木(別図B)については、共

有部分の樹木と同様管理組合で管理するものとする。 第3章 用法 から (共用部分の用法) 第 9 条 共有地内は、現況以外の構造物、建築物、

工作物等を築造することはできない。 2.共有地

は、良好な環境を永久に維持するため、現況以外の

目的にしようすることはできない。3.所有者は、

共有部分を通常の用法に従って使用しなければなら

ない。 (占有敷地内の制限) 第 10条 アルカディア 21の街並景観を保持する

ため、所有者は、占有敷地内と言えども、次の各号

に定める基準を遵守しなければならない。 (1)建築物は、1 区画につき 1 戸建てとし、個人専

用住宅とすること。 (2)敷地から道路に通じる出入り口は、現況以外

に位置の変更および親切してはならない。 (3)別図Cに示された「緑化ゾーン」は、将来と

も保持すること。(A緑化ゾーン「東南の街区外歩行

者専用道路部分に面するゾーン」は、指定された範

囲のなかで、2mが絶対ゾーン、残りの 2mが協力ゾ

ーン。B緑化ゾーン「街区内道路、街区内歩行者専

用道路、一般区画度道路に面するゾーン」は、指定

された範囲の中で、1mが絶対ゾーン、残りの 1mが

協力ゾーン。絶対ゾーンとは必ず緑化する区域、協

力ゾーンとはなるべく緑化に努める区域=筆者注) (4)別図Dに示された現況構築物は、変更しない

こと。(各敷地外周の、分譲時に整備されていたピン

コロ擁壁の部分=筆者注) 第 4 章 管理 から (損害保険) 第 12 条 所有者は、共有部分に関し、管理組合

が損害保険の契約を締結することを承認する。 (組合費等) 第 13 条 組合員は、当初の管理組合設立時に、

基金として 50 万円を管理組合に納付するものとす

る。 2.組合員は、次の各号について毎年度当該

予算に定める額を組合費として負担しなければなら

ない。ただしその額の変更については、総会の同意

を経て理事長が決める。 (1)共有部分の維持管理費 (2)修繕引当金 (3)前各号のほか組合の業務遂行に関して組合員

が共同して負担しなければならない費用 3.組合

員の負担割合は均等負担によるものとする。 4.(略) 第 5 章 管理組合 から

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(業務) 第 17 条 管理組合は、次の各号に掲げる業務を

行う。 (1)管理組合が管理する共有部分(以下「組合管

理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒

及び塵芥処理 (2)組合管理部分の修繕 (3)共有部分に係る損害保険等に関する業務 (4)修繕積立金の運用 (5)その他組合員の共同の利益を増進し、良好な

住環境を確保するために必要な業務 (業務の委託) 第 18 条 管理組合は、前条に定める業務の全部

又は一部を第三者に委託し、又は請け負わせて執行

することができる。 (役員) 第 19 条 管理組合に次の役員を置く。 (1)理事長 1 名 (2)理事 若干名 (3)監事 1 名 2.(以下 略) (役員の誠実義務等) 第 21 条 役員は法令、規約並びに総会及び理事

会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を

遂行するものとする。2.役員は別に定めるところ

により、役員として活動に応じる必要経費の支払い

と報酬を受けることができる。 (組合員の総会招集権) 第 26 条 組合員が組合員総数の 5 分の 1 以上に

あたる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総

会の招集を請求した場合において、理事長は臨時総

会の招集の通知を発しなければならない。 (議決権) 第 27 条 組合員は、その居住する住戸につき1

個の議決権を有する。2.(以下 略) (総会の会議及び議事) 第 28 条 総会の会議は、前条第 1 項に定める議

決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなけれ

ばならない。2.総会の議事は、出席組合員の議決

権の過半数で決し、可否同数の場合においては、議

長の決するところによる。3.次に掲げる事項に関

する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数

の 4 分の 3 以上で決する。

(1)規約の変更 (2)共有部分の変更又は処分 (3)その他総会において、本項の方法により決議

することとした事項。 (総会の決議に代わる書面による合意) 第 30 条 規約により総会において決議すべきも

のとされた事項について、組合員全員の書面による

合意があるときは総会の決議があったものとみなす。 (召集) 第 33 条 理事会は、理事長が招集する。2.理事

が 2 分の 1 以上の理事の同意を得て理事会の招集を

請求した場合においては理事長は速やかにt理事会

を招集しなければならない。 (理事会の会議及び議事) 第 34 条 理事会の会議は、理事の半数以上が出

席しなければ開くことができず、その議事は出席理

事の過半数で決する。 第 6 章 会計 から (略) 第 7 章 雑則 から (行政官庁及び近隣住民との協定の遵守) 第 42 条 所有者は、管理組合が行政官庁又は近

隣住民と締結した協定についてこれを誠実に遵守し

なければならない。 8-アルカディア 21 の現在 このように、アルカディア 21 住宅街区は、共有

部分そのものの扱いと維持管理について、管理組合

規約で規定している。宅地造成工事完了公告日(昭

和 62 年 10 月 13 日)から 10 年間(1997 年 10 月

13 日まで=筆者注)が過ぎていることから、住民自

らが望めば、この共有部分の扱いは自由である。計

画の理念として、地区整備計画や建築協定等のしば

りをかけることも検討した経緯があるが、あえて、

管理組合に委ねることにした。住民がこのナチュラ

ルコモンを将来どうしていくかは住民自らの意思な

のである。聞くところによれば、共有地の維持管理

費用がかかるので、三田市へ公園として移管したい

という話も時折でるようであるが、現在までのとこ

ろ、相変わらず当初の姿のままのコモンとして存し

ている。今後の姿が注目されるところでもある。

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植栽の管理に関しては、住民自らが剪定するよう

なところと、専門家に委ねている部分が共存してい

る。おもしろいと思うのは、ナチュラルコモンの芝

生である。公共の公園などでは、まず芝生の上には

入るなといわれるのだが、ここでは自由に入れる。

しかも、春になると芝は伸びて、草のようになり、

自然の植物であることをダイレクトに見せる。管理

された芝は、管理が良すぎて、きれいに刈られた芝

の状態が普通のようであるが、この伸びた芝を知る

ことは地域の子供にとって意味があるだろう。そん

な状態を見せた後、専門家の手を借りながら、みん

なで芝刈りをするのである。 すばらしい佇まいをみせるアルカディア 21 であ

るが、一つだけ気になるところがある。現状を見る

と、人の目の行き届く玄関前などには、見事に手入

れされたプランターの花々なども飾られ(写真 17、18、19、20)、また、人通りの多い、庭からよく見

える街路部分の中木などは、計画の趣旨どおりに愛

着がもたれて木も生い茂っているのであるが、残念 写真-17 つつじの咲き誇るアルカディア 21

写真-18 良く手入れされた玄関前

ながら、人通りの少ない北庭部分の、連続した擁壁

中間のセットバック部分だけは、あったはずの木が

なくなり、支柱のみが残されているところがある。

木戸でも設けて道路側に出やすく、メンテしやすく

するという配慮が必要だったかと、この部分は反省

しなくてはいけないところだ。管理の仕組みも、専

有部分は個人、共有部分が管理組合となっていて、

このセットバックされたアルコーブ状の部分は、個

人の管理に委ねられているのだが、自分の家からの

アクセスが遠いところについては、メンテがしにく

く、したがって、愛着も持ちにくい。この部分だけ

は管理組合で管理すべきところであったのかもしれ

ない。 9-理想郷と名づけられた住宅街 「テクノロジーが長足の進歩を見せるなか、私た

ちはこれからのまちづくりや家づくりをメカニカル

なものに求めるのではなく、最新のテクノロジーの

成果をふんだんに採り入れながらも、人にやさしく 写真-19 伸びた芝はやがてきれいに刈られる

写真-20 佇まいは今も変わらなく美しい

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潤いのある、そして暮らしそのものが愉しくなるよ

うな住空間「石と緑の庭園街」をつくりました。時

代はどんなに変わろうと、人もまた自然の一部であ

る以上、大地や緑や花や鳥とゆったり仲良く暮らす

未来こそ理想です。そんな願いをこめて「アルカデ

ィア 21」と名づけました。」 アルカディアとは、古代ギリシャ山間の牧歌的田

園のことで、純朴・平和な理想郷を意味しているの

である。 (本稿は、現代計画研究所『住まいと街の仕掛人』

学芸出版社 2003 年所収の拙稿「理想郷と名づけら

れた住宅地 アルカディア 21 住宅街区」をベース

に、本特集の趣旨にあうべく、加筆増補したもので

ある。居住環境街区という考え方、管理の仕組み、

アルカディア 21 の現在 等の部分が、大幅に増補

加筆されている。) なお、アルカディア 21 住宅街区は、竣工後 20 年

を経て、2007 年度土木学会デザイン賞を受賞した。

維持管理を行い、見事に住み続けてこられた住民が

土木学会デザイン賞の受賞者の一員であることをこ

こに特記しておきたい。 参考文献 1) 現代計画研究所「歩いて楽しい居住環境街区」 『住まいと街の仕掛人』学芸出版社、2003 年p150-157 2)江川直樹「<集まって住む形>をデザインする」 『都市環境デザイン』学芸出版社、1995 年p66-82 3)図-4、5、6 出典 住宅生産振興財団編「フラ

ワータウン・アルカディア 21」『日本のコモンとボ

ンエルフ』日経事業出版社発行 日本経済新聞社発

売 p234-235

図-21 住民によって植えられた花がきれい

図-6 アルカディア 21 の概要

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