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化学数学2 (作成中) 清裕一郎, KEK 平成 22 12 30

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化学数学2 (作成中)

清裕一郎, KEK

平成 22 年 12 月 30 日

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まえがき2011年後期の化学科の2年生の数学の授業を担当することになりました。私自身これ

まで物理を研究対象にしてきましたが、不勉強で、化学を学ぶ上でどのような数学が必要になるのか良く知りませんでした。そこで、授業の準備として、化学科の学生にとってどのような数学が必要とされているか調べることから始まりました。本やインターネットで調べてみたところ、微分積分と微分方程式が重要であるようです。よってこの講義ノートでは微積分の基礎を纏めてみました。この授業を履修するためには「高校程度の数学を理解していること」が前提となっていま

が、復習も兼ねて、よく使われる関数 (冪関数,三角関数,指数関数,対数関数)についての基本的な定義と意味を説明しました。これが第一章の内容になります。微積分に関して説明したのが第二章と三章です。あまり基礎知識を仮定せずに、論理的に数学を構築してゆくことができるようにと、基礎的なところから説明しました。初めて微積分を学ぶ学生にとっては説明が不足して箇所があるかもしれません。しかし講義ノートがあまり長いものになるのを避けるため、敢て余分なことは盛り込まないようにミニマムな事項に絞った講義ノートを作成するように努めました。 基礎的なところを何度も繰り返し勉強するためには、講義ノートはある程度コンパクトに纏まっているのが良いと考えたからです。微積分の後には、応用上重要だと思われる、微分方程式の数値解法について説明しました

(今のところ予定です)。科学を研究していく上では、全てのものを解析的にとかれるとは限りません。寧ろ数値計算を使った解析が必要になることが多いと思われます。よって微分方程式の解法を通じて、プログラミングの基本を学ぶ機会となるように、数値計算のテクニックについても触れたいと思います。この講義ノートが高校の授業では曖昧にしていたことをじっくりと考え理解する助けにな

ること願います。

この講義ノートこの講義ノート現在20ページ程でまだまだ完結していません。一週間程度の時間で作成

したので、ここまでの内容にも、修正、加筆、内容の再検討を行う必要があるでしょう。間違いや、分かりにく箇所などありましたらメイルで感想を送ってください。この講義ノートの著作権は清裕一郎にありますが、学習のために自由にコピーして使ってください。email: ykiyo At post.kek.jp (replace At by @)

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目 次

第 I部 微積分 3

第 1章 関数 4

1.1 冪関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.2 三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.3 指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

1.4 対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

第 2章 微分 10

2.1 微少量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.2 変化の割合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

2.3 微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2.4 微分の持つ性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2.5 複雑な関数の微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

2.6 逆関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

2.7 テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

第 3章 積分 18

3.1 面積と積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.2 積分と微分の関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

3.3 変数変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

第 4章 微分方程式 23

第 II部 微分方程式の数値計算 24

第 5章 常微分方程式の数値計算 25

第 6章 偏微分方程式の数値計算 26

第 III部 確率統計 27

第 7章 確率と統計の基礎 28

第 8章 統計処理 29

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第I部

微積分

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第1章 関数

高校数学でもならった関数について復習するのがこの章の目的である。微分積分を使いこなすためには、基本的な関数についての公式はいくつか暗記しておかなければならない。最小限の知識としては以下のテーブルにある程度が必要である。表の右にある導関数の公式は

関数 導関数冪関数 xa axa−1

sin関数 sin(x) cos(x)

cos関数 cos(x) − sin(x)

指数関数 ex ex

対数関数 ln x 1/x

次章で説明される。この章では関数そのものに関して高校数学で習った知識を整理して微積分学の扉を叩くための準備とする。

1.1 冪関数冪関数は最も基本的な関数である。整数冪の冪関数は,同じ数を繰り返しかける事によって

定義されている。

xn = x × x × · · · × x︸ ︷︷ ︸ (1.1)

n個の xの積

冪が分数 1/q (q ∈ N)で表される場合は

y = x1/q ⇔ yq = x (1.2)

によって x1/qという数を定義する。つまり x1/qとは q乗したら xになるある数である。

1 = x1/q × x1/q × · · · × x1/q︸ ︷︷ ︸ (1.3)

q個の x1/qの積

有理数冪の場合は冪を p/q (p, q ∈ N)と書いて

xp/q = (x1/q)p = (xp)1/q (1.4)

と定義すれば良い。ここで (x1/q)pと (xp)1/qが等しい事は二つを q乗して比べると分かる。

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最後に実数冪の場合を考える。本々実数は有理数の極限として定義されていた事を思い出します。よって実数冪の関数は有理数冪の極限として定義されるべきであると考えられます。例えば x

√2は

√2を与える数列  : 1.4 → 1.41 → · · · → 1.414213562 · · · =

√2

x√

2を与える数列  : x1.4 → x1.41 → · · · → x1.414213562··· = x√

2 (1.5)

最も簡単な冪関数ですら全ての実数冪に対して定義しようとすると、無限回の操作を必要とする。我々は数学という論理の助けを借りて、そういった無限回の操作を一瞬に行っている。通常こういった事は意識しないが、微分積分を使うという行為は無限を相手にすることである。

1.2 三角関数高校数学では三角関数は幾何学的に導入された。半径1の円上の点は角度変数 θ で指定さ

れるが、位置座標をデカルト座標で指定すると三角関数が現れる (図を参照)。

単位円上の点の位置 = (cos θ, sin θ) (1.6)

三平方の定理は二つの三角関数の二乗和が一になるという性質に読み替えられる。

sin2 θ + cos2 θ = 1 (1.7)

その他の三角関数として tan θ, cot θなどもよく使われるが、それらは cos,sin関数で次のように書かれる。

tan θ =sin θ

cos θ, cot θ =

cos θ

sin θ(1.8)

Θ

cosΘ

sinΘ

1

半径1の円の中に現れる三角関数。三角関数の全ての性質はこの円の中から幾何学的に導かれる。

加法定理三角関数に関する重要な定理として、2つの角度αと βの和をそれぞれの角度の三角関数

として表す加法定理がある。

sin(α + β) = sin α cos β + cos α sin β

cos(α + β) = cos α cos β − sin α sin β (1.9)

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Α

Β

O

A

B

CD

OC = cos β

BC = sin β

6 DBC = α

⇒ DC = BC tan α, DB = BC/ cos α

三角関数は幾何学的に導入された関数であり、加法定理も幾何学的に導出される。下に角度α, βとその和が第一象限にある場合の場合の図を描いた。点Bから垂直に下ろし

た線がAOと交わる点がDであるが、その周りにある角度の関係から 6 DBC = αが分かる。この事よりDC,DBが α, βの関数として求まる(図を参照)。これらの関係式から以下のように三角関数に関する加法定理が導かれる。

DC = sin β tan α

↪→ OD = OC − DC = cos β − sin β tan α

↪→ cos(α + β) = OD cos α

= cos α cos β − sin α sin β

sin(α + β) = OD sin α + DB

= sin α cos β + cos α sin β (1.10)

微小角に対する三角関数三角関数の微分を考える際に微小角に対する三角関数値が必要となる。下の図で θ ' 0と

して微小角に対する三角関数 sin α の値を調べる。ラジアン単位の定義は、角度 θをそれが単位円上に作る弧の長さで測ることであった。図からAB, ADは三角関数を使って表せる。

Θ

A

B C D

AB = sin θ

AD = 1 × tan θ

θ = 弧AC ⇒ AB < θ < AD

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以上の関係式は sin θ < θ < tan θを導出する。ハサミうちの原理を使って θ → 0の極限を考えると

limθ→0

sin θ

θ= 1 (1.11)

が得られる。これは有限な θ ¿ 1に対して

sin θ ' θ (1.12)

が成り立つ事を意味している。cos関数は θ ¿ 1なら 1に近づくのだが、後々もう少し精度の高い式が必要になるので、1からのズレを考えてみよう。

cos θ − 1 =√

1 − sin2 θ − 1

この式の右辺で分母分子に√

1 − sin2 θ+1を掛けてやると巧い具合に cos θ−1が評価できる。

√1 − sin2 θ − 1 =

(√1 − sin2 θ − 1

) (√1 − sin2 θ + 1

)(√

1 − sin2 θ + 1)

=− sin2 θ√

1 − sin2 θ + 1

最後の式で、分子に sin θ ' θを使い、分母は小さい θの極限で2と評価できることから

cos θ − 1 ' −θ2

2(1.13)

を得る。これらの公式は θが小さい場合に三角関数がどのように収束してゆくのかを教える。

1.3 指数関数ネイピア数 e = 2.718 · · ·は最も重要な数学定数の一つである。その定義は

e ≡ limn→∞

(1 +

1

n

)n

(1.14)

で与えられる。ネイピア数を使った指数関数として exを考えたい。xが自然数の場合には

ex = e × e × · · · × e︸ ︷︷ ︸ = limn→∞

(1 +

1

n

)nx

(1.15)

x個の e積

が自然な定義である。ここで nx → nと変数変換して

ex ≡ limn→∞

(1 +

x

n

)n

(1.16)

を得るが、これは一般の数 xに対しての exの定義として採用することができる。

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指数関数に対する別な表式を導出しておこう。先ず二項定理を使い (1 + x/n)nを展開する:

(1 +

x

n

)n

=n∑

k=0

nCk

(x

n

)k

=n∑

k=0

n!

(n − k)!k!

xk

nk(1.17)

指数関数の定義では n → ∞の極限をとるので、この式で nに依存している部分を簡単化できる。

n!

(n − k)!nk=

n(n − 1)(n − 2) · · · (n − k + 1)(n − k)

nk

=(1 − 1

n

) (1 − 2

n

)· · ·

(1 − k − 1

n

) (1 − k

n

)n→∞→ 1 (1.18)

よって指数関数として次の表式を得る。

ex ≡∞∑

k=0

xk

k!(1.19)

この式は非常に扱いやすいので今後指数関数の定義としては専らこちらを用いる。指数関数の持つ性質でもっとも本質的なものは「和の指数関数が、それぞれの指数関数の

関となる」ことである。式で書くと

ex+y = ex × ey (1.20)

これを証明しておこう。定義式 (1.19)を用いて

ex+y =∑k

1

k!(x + y)k

=∞∑

k=0

k∑l=0

xk−l

(k − l)!

yl

l!

=∞∑l=0

∞∑k=l

xk−l

(k − l)!

yl

l!

=∞∑l=0

∞∑k=0

xk

k!

yl

l!= ex × ey (1.21)

一行目は指数関数の定義、2行目は (x + y)kを二項定理で展開した。三行目は和の取り方の順序を変えた式である。

1.4 対数関数対数関数は指数関数の逆を考える操作として定義される。

y = loga x ⇔ ay = x (1.22)

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科学の応用上 eを底とした指数関数が重要で ln x ≡ loge xを用いる事が多い。対数関数の性質として以下のようなものが有るが、これらは全て対数関数が指数関数の逆であるという意味を考えれば導出される。

loga(xy) = loga x + loga y (1.23)

loga(xb) = b loga(x) (1.24)

loga(x) =logb(x)

logb(a)(1.25)

数学団らん: 0乗をどう考えるか¶ ³anは nが正の整数 aを n回掛けるという事である。これが最初に習う数の n乗の定義である。しかしながら、この定義だと a0はどう考えれば良いのか分からない。

an ≡ a × a × · · · × a︸ ︷︷ ︸ (1.26)

aの n個の積

ところで二つの冪で割り算をつくると

an ÷ am = (a × a × · · · × a)︸ ︷︷ ︸÷ (a × a × · · · × a)︸ ︷︷ ︸ = an−m (1.27)

n個の積 m個の積

ここで nやmは「n個の」とか「m個の」のように個数を表す文字だとして扱っているため、正の整数だというのが前提である。ところでこの式の右辺ではn = mの場合 a0が現れてしまう。上の式が n = mの場合にも成立するとすれば a0 = 1でなければならない。このような理由から0乗に対する答えを定義として与えるのが便利である。

a0 ≡ 1 (a 6= 0) (1.28)

つまり a0のように《ナイーブな定義》からは決まらないものに関しては、《壊したくない関係式》が成立するように冪関数の値を「定義」する。《ナイーブな定義》とは n個の積として an、つまり n = 1, 2, · · ·の場合にしか意味をなさない。ナーブな定義から決まらないものには a−1などの負冪の場合もある。負冪に対しては《壊したくない関係式》an ÷ am = an−m において n = 0,m > 0とすると

a0 ÷ am = a−m ⇒ a−m ≡ 1

am(1.29)

と「定義が決まる」。µ ´

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第2章 微分

この章では関数を微分する、つまり関数から導関数を得る方法を学ぶ。微分は次の章で学ぶ積分と合わせて、微分積分学と呼ばれ、解析学の中心的な部分を担う。科学においては微分は、何らかの測定量の変化を調べる事に対応する。積分は測定量を足し合わせてゆく操作に対応する。後者は測定値をグラフ化した際に、グラフが座標軸と囲む面積に対応する。

2.1 微少量微分という概念を理解するために、微少量とその極限操作について考える。微少量とはそ

の名のとおり小さい量であるが、微少量をゼロにもってゆく極限操作を考えることが微分である。微少量は∆xなどのように、適当な文字に∆をつけて表す。微少量は非常に小さい数であると考える事ができるので

1 À ∆x À ∆x2 À ∆x3 À · · · (2.1)

のようにベキに関する大小関係が成立する。特に断りがない限り「微少量は問題に応じて十分に小さい量」と考える。よって多項式では

∆x + 1000∆x2 = ∆x + O(∆x2) (2.2)

などのように高次のベキを無視する近似が成立する。(右辺第二項のO(∆x2)は二次のベキを無視したことを示す記号である) この場合∆x ¿ 10−3が成立することが暗黙の仮定である。

微少量の極限操作それでは微少量に関する極限操作について説明する。次のような具体例から始める。

F1 = lim∆x→0

∆x + 100∆x2

2∆x − ∆x2(2.3)

微少量のベキに関する大小関係を使うと、分母と分子でベキの高い項をそれよりベキが低い項にくらべ無視する事ができる。

F1 = lim∆x→0

∆x + 100∆x2

2∆x − ∆x2= lim

∆x→0

∆x

2∆x=

1

2(2.4)

次の例を考える。

F2 = lim∆x→0

(x + ∆x)2 − x2

(x + ∆x) − x(2.5)

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分子と分母で高次の微少量を無視すると

分子 = (x + ∆x)2 − x2 = (x2 + 2x∆x + ∆x2) − x2 = 2x∆x + O(∆x2)

分母 = (x + ∆x) − x = ∆x

これを元の式に代入して、分子分母を整理すると

F2 = lim∆x→0

(x + ∆x)2 − x2

(x + ∆x) − x= lim

∆x→0

2x∆x

∆x= 2x (2.6)

2.2 変化の割合変数 xの関数を f(x)と表す。fが関数に対する名前であり、名前の後に ( )の中に変数を書

き入れる。関数に特定の値を代入した場合、例えばx = 1なら f(1)などと書く。関数 f(x)の具体系が分かる場合は、例えば f(x) = x2などのように書く。この場合 x = 1では f(1) = 12

となる。さて、関数 f(x)において、xの値が少し変わったときに関数の値がどのくらい変わるかを

考えてみよう。科学では関数の変化∆f(x) ≡ f(x + ∆x) − f(x) よりも変化の割合に着目する事が多い。変数が xから x + ∆xと変化した際に、関数は f(x)から f(x + ∆x))と変化する。変化の割合は

変化の割合 =f(x + ∆x) − f(x)

(x + ∆x) − x=

∆f(x)

∆x(2.7)

で与えられる。変化の割合を,簡単な関数 f(x) = 5x2 − x3を例として考えてみよう。下に関数 f(x)のグラ

フと幾つかの点での値を表にしたものがある。変化の割合は∆xの値によって変わる。例えば x = 3の点における変化の割合は∆x = 1の場合と∆x = 0.1とで符号さえも異なる。左のグラフから x = 3の点は f(x)の値が下がり始める点1に近いため、∆x = 1では変化の割合が負になり、∆x = 0.1 を取ればこの関数は x : 3 → 3 + 0.1においても多少正の増加を受けることがわかる。

0 1 2 3 4 50

5

10

15

x

fHxL

x 0 1 2 3 4 5

f(x) 0 4 12 18 16 0∆f(x)

∆x|∆x=1 4 8 6 -2 -16 -36

∆f(x)∆x

|∆x=0.1 0.49 7.19 7.89 2.59 -8.71 -26.01

表 2.1: 左が関数 f(x) = 5x2 − x3のグラフであり、右は関数値と変化の割合の表。

下衆な例えではあるが、関数 f(x)が貴方がもっている株価だとしてみよう。xとしては1日を単位とした時間の経過としよう。そのような場合、変化の割合は株価が上昇するのか下

1微分を学んだ後には、この関数が x = 10/3で最大値を取る事がわかる。

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落するのかに対する情報を与えるであろう。価格が上昇し続ける限り株を保有し、株価が落ちる直前に売りさばく事ができれば確実な儲けが得られるであろう。このような場合に株価の変動を∆x = 1日で考えるか、もっと細かい時間変動として∆x = 0.1日 ' 2.4時間と取るかで株の取引は全く異なる。∆xとして無限に小さい微少量を考えると、最も精密な変化の割合が得られるであろう。これが関数に対する微分の概念へと繋がってゆく。

2.3 微分関数 f(x)の変化の割合に関して、∆xを無限に小さくしてゆく極限操作を考えよう。この操

作を関数 f(x)に対する微分と呼び df(x)dx

, f ′(x)などと書く。微分の定義は以下のようになる。

df(x)

dx≡ lim

∆x→0

∆f(x)

∆x= lim

∆x→0

f(x + ∆x) − f(x)

(x + ∆x) − x(2.8)

微分という概念になれるために、簡単な関数の微分を実行してみる。

n次式準備として二項展開を用意する。

二項定理¶ ³(a + b)n =

n∑r=0

nCran−rbr, nCr =

n!

(n − r)!r!.

µ ´(x + ∆x)n, n ∈整数の場合には二項定理を使い

(x + ∆x)n = xn +n

1!xn−1∆x +

n(n − 1)

2!xn−2∆x2 + · · ·

= xn + nxn−1∆x + O(∆x2) (2.9)

を得る。ここで ∆xの二次以上の項は極限操作に関係ないために無視した。微分の定義に従って

dxn

dx= lim

∆x→0

(x + ∆x)n − xn

∆x

= lim∆x→0

(xn + nxn−1∆x + · · ·) − xn

∆x= nxn−1 (2.10)

を得る。

2.4 微分の持つ性質微分の持つ性質を理解しておくと、複雑な関数の微分が可能になる。以下に微分の持つ性

質として「積の関数に対する分配則」と「合成関数に対する微分則」について説明する。

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分配則二つの関数 f1(x)の f2(x)の積 F (x) = f1(x)f2(x)を微分することを考える。定義に従って

微分を実行してゆくと

F ′(x) = lim∆x→0

f1(x + ∆x)f2(x + ∆x) − f1(x)f2(x)

∆x

= lim∆x→0

(f1(x + ∆x) − f1(x)) f2(x + ∆x) + f1(x) (f2(x + ∆x) − f2(x))

∆x

= lim∆x→0

{f1(x + ∆x) − f1(x)

∆xf2(x) + f1(x)

f2(x + ∆x) − f2(x)

∆x

}= f ′

1(x)f2(x) + f1(x)f ′2(x) (2.11)

を得る。結果をまとめるとd

dx(f1(x)f2(x)) = f ′

1(x)f2(x) + f1(x)f ′2(x) (2.12)

更に一般の場合への拡張も容易だろう。分配則の使用例¶ ³

分配則の使い方の例として、fn(x) = xnを分配則を使って微分してみよう。自然数 nに対しては fn(x) = xfn−1(x)の関係式が成立する。これを分配則を使い微分してゆく。

f ′n(x) = (xfn−1(x))′

= x′fn−1(x) + xf ′n−1(x)

= fn−1(x) + xf ′n−1(x)

= fn−1(x) + x(fn−2(x) + xf ′n−2(x))

= · · ·= fn−1(x) + xfn−2(x) + x2fn−3(x) + · · · + xnf0(x)

= nxn−1 (2.13)µ ´合成関数の微分関数f(x)の変数として関数をとるようなものを合成関数と呼ぶ。例えばf(x) = sin(x), g(x) =

x2とすると、合成関数 f(g(x))は

f(g(x)) = sin(g(x)) = sin(x2)

となる。ここでは、合成関数の微分についての一般公式を導出する。まず微分の定義に沿ってd

dxf(g(x)) = lim

∆x→0

f(g(x + ∆x)) − f(g(x))

∆x

= lim∆x→0

∆g

∆x

f(g(x) + ∆g) − f(g(x))

∆g

= lim∆x→0

∆g

∆x× lim

∆g→0

f(g(x) + ∆g) − f(g(x))

∆g(2.14)

13

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ここで∆g = g(x+∆x)− g(x)なので∆x → 0の極限では∆g → 0であることを使った。よって合成関数の微分に関する次の公式を得る。

d

dxf(g(x)) =

dg(x)

dx

df(g)

dg(2.15)

この式において、df(g)dgの部分は、f(g(x))を gが変数だと考えて微分する事を意味している。

合成関数の微分の使用例¶ ³f(x) = x1/pの逆を取れば (f(x))p = xである。x = (f(x))pの両辺を xで微分すると

1 = (f(x)p)′ =df(x)

dx

dfp

df= f ′(x) pfp−1 = f ′(x)px1− 1

p

⇒ (x1p )′ =

x1p−1

p(2.16)

が導かれる。この式は 1/p = aとおけば、(xa)′ = axa−1と等価である。実はベキ関数のxnに対する微分公式 (xn)′ = nxn−1は、n=整数のみではなく任意の実数に対して成り立つ公式なのである。µ ´

2.5 複雑な関数の微分ここまでに導出した微分公式は、ベキ関数 f(x) = xaに対する微分公式 (xa)′ = axa−1 だけ

であった。この章では応用上重要な関数の微分公式を導出する。

三角関数三角関数の微分は基本的であるが、その導出には幾何学的に導出された二つの公式を使う。

一つ目は角度 (ラジアン)が小さいとき, θ ¿ 1, の三角関数の近似式

sin θ ' θ

cos θ − 1 ' −θ2

2(2.17)

そして二つ目は幾何学的な考察から導かれた加法定理

sin(x + y) = sin(x) cos(y) + cos(x) sin(y)

cos(x + y) = cos(x) cos(y) − sin(x) sin(y) (2.18)

これらを使って sin関数の微分を計算することができる。

d sin(θ)

dθ= lim

∆θ→0

sin(θ + ∆θ) − sin(θ)

∆θ

= lim∆θ→0

{sin(θ) cos(∆θ) + sin(∆θ) cos(θ)} − sin(θ)

∆θ

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= lim∆θ→0

sin(∆θ)

∆θcos(θ) + lim

∆θ→0

cos(∆θ) − 1

∆θsin(θ)

= cos(θ) (2.19)

最後の式変形で cos(∆θ)− 1 ∼ −∆θ2/2なので二項目は∆θ → 0の極限で寄与しない事を使った。結果、sin関数の微分は cos関数になる。

cos関数に関して同様にして微分公式を得る事ができるが、別な方法として合成関数の公式から cos関数の微分を導出してみよう。

(cos(θ))′ =d

√1 − sin2(θ)

=d sin(θ)

[d√

1 − s2

ds

]s=sin(θ)

= cos(θ)

[1

2

−2s√1 − s2

]s=sin(θ)

= − sin(θ) (2.20)

途中のステップをいくつか省略したが、ゆっくり計算をおえば特に難しいところはないだろう。よって sin関数と cos関数の微分の公式が得られた:

(sin θ)′ = cos(θ)

(cos θ)′ = − sin(θ) (2.21)

指数関数指数関数の微分公式を求めてみよう。

(ex)′ = lim∆x→0

ex+∆x − ex

∆x

= lim∆x→0

exe∆x − ex

∆x

= ex lim∆x→0

(1 + ∆x + 1

2!∆x2 + · · ·

)− 1

∆x= ex (2.22)

指数関数は微分してももとの指数関数、これは指数関数が持つもっと重要な性質である。実際これを用いて指数関数を定義することさえできる。

対数関数対数関数 f(x) = ln xの微分公式をつくろう。log関数の定義から

f(x) = ln x ⇒ x = ef(x) (2.23)

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得られた式の両辺を xで微分してみると

1 =d

dxef(x)

=df(x)

dx

d(ef )

df

= f ′(x)ef(x) (2.24)

この式から

(ln x)′ =1

x(2.25)

が導出される。数学団らん:三角関数と回転¶ ³

三角関数の微分公式は

(sin θ)′ = cos θ (cos θ)′ = − sin θ

この公式は非常に美しい対称性を持っている。sin関数の微分は cosで、その cos関数の微分は(負号つきの)sin関数である。つまり二回微分を繰り返すともとの関数に(負号つきで)戻ってくる。三角関数の持つこの性質は、三角関数が指数関数と関係している事を示唆する。これはRoger Cotesによって発見され、後に Leonhard Eulerに因みオイラーの公式と名付けられた関係式に集約される。オイラーの公式は

eiθ = cos θ + i sin θ (2.26)

である。θ = πの特殊例は

eiπ = −1 (2.27)

これは、円を特徴づける数 π = 3.14 · · ·, 数の基本単位 1, 負の数を表す−,そして代数学で最も重要な虚数単位 i。これらが斯くもシンプルな関係式で関係づけられていることに感動を覚える。

円の世界に終わりはない。回って戻る、巡って回る。繰り返しの世界。µ ´

2.6 逆関数関数 y = f(x)は xが決まるとその値 yが決まるという意味で「yは xの関数」である。逆

に yの値が決まると xを決める事も可能である(ここでは x → yにおいて1対1対応がつくグラフだけを考える)。 下に関数 y = f(x) = x2を xの関数としてプロットしたもの(左

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図)、そして y = x2を xについて解いて x = y1/2と求めた場合の「xを yの関数とみて作ったグラフ (右図)」がある。グラフから分かるように xの関数としての yがあると yの関数としての xも存在するわけである。y = f(x)のように xの関数としての yに対して x = g(y)の

0 1 2 3 402468

101214

x

y

y=fHxL=x2

0 2 4 6 8 10 12 140

1

2

3

4

yx

x=y1�2

ように xを yの関数としてみた場合の g(y)を f(x)の逆関数と呼び f−1と表す (1/f(x)と誤解の恐れがある場合にはどちらを意味するのか記述する必要があるだろう)。

y = f(x) ⇒ x = f−1(y) (2.28)

さて関数 f(x)の微分と逆関数に対する微分の関係を考えよう。定義より逆関数の導関数は

d

dyf−1(y) = lim

∆y→0

f−1(y + ∆y) − f−1(y)

(y + ∆y) − y(2.29)

と与えられる。ところが x = f−1(y), x + ∆x = f−1(y + ∆y)であるから

d

dyf−1(y) = lim

∆y→0

f−1(y + ∆y) − f−1(y)

(y + ∆y) − y

= lim∆y→0

(x + ∆x) − x

f(x + ∆x) − f(x)

= lim∆x→0

(f(x + ∆x) − f(x)

(x + ∆x) − x

)−1

=

(df(x)

dx

)−1

(2.30)

つまり逆関数の微分はもとの関数の微分の逆数になっている。

2.7 テイラー展開

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第3章 積分

積分には二つの理解があり得る。一つは関数 f(x)のグラフが x軸と囲む部分の面積を求める事が積分であるとする理解。二つ目は幾何学的な理解から離れ、微分の逆の操作としての積分がある。もちろん二つの理解は繋がるものであるが、我々は先ず第一の幾何学的な理解から積分法に入ってゆく。

3.1 面積と積分下の図に f(x) = x2を描いたグラフがある。グラフと x軸の囲む領域(但し a ≤ x ≤ b)の

面積を微小分割の方法によって求める問題を考える。微小分割の方法とは、領域 a ≤ x ≤ b

を小さな幅∆x の短冊に分割して各領域を四角形の面積で近似するという方法である。左が∆x = 1, 右が∆x = 1/10の場合の図である。直感的に予想されるように∆xを小さくしてゆくと、求めたい面積と近似的な四角形の面積のズレは小さくなってゆくだろう。∆x → 0の極限が取れたとき厳密な面積が得られる事になる。このような微小分割によって面積を求める方法をリーマン積分と呼ぶ。

0 2 4 6 8 100

20

40

60

80

100

x

f

0 2 4 6 8 100

20

40

60

80

100

x

f

それでは面積を求める計算を実行してみよう。先ず a ≤ x ≤ bの領域をN分割する。分割の幅は∆x = (b− a)/N で与えられる。N分割された点 xi = a + i∆xでのグラフの値は f(xi)

である。微小区間の面積は

微小区間 (xi, xi+1)の四角形近似の面積 : Si = ∆x × f(xi) (3.1)

で与えられる。微小区間の面積を i = 1, 2, · · · , N にわたって和を取ると求めたい面積が得ら

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れる。

S(a, b) =N∑

i=1

Si =N∑

i=1

f(xi)∆x (3.2)

ここでN → ∞又は∆x = (b − a)/N → 0の極限が取れたとき、これをリーマン積分の値と呼び

∫ b

af(x)dx ≡ lim

∆x→0

N∑i=1

f(xi)∆x (3.3)

と書く。

冪関数の積分f(x) = xnに対して領域 (a, b)で積分してみよう。定義に従い積分を書くと

∫ b

axndx ≡ lim

∆x→0

N∑i

xni ∆x = lim

∆x→0

N∑i

(a + i∆x)n ∆x

∆x =b − a

N, xi = a + i∆x (3.4)

となる。ここでも2項展開の公式を使い∫ b

axndx = lim

∆x→0

n∑k=0

N∑i

nCkakin−k∆xn−k+1 (3.5)

と変形しておく。以下の証明は、多少長くなるので具体的に n = 0, 1, 2, 3の場合を実行して結果を確認する事。さて、iに関する調和数の和のN → ∞の極限の公式から

lim∆x→0

N∑i=1

in−k∆xn−k+1 = limN→∞

Nn−k+1

n − k + 1

(b − a

N

)n−k+1

=(b − a)n−k+1

n − k + 1(3.6)

が分かる。これによって iに関する和とN → ∞の極限操作が完了して残りは kに関する和だけになる。 ∫ b

axndx =

n∑k=0

nCkak (b − a)n−k+1

n − k + 1

=1

n + 1

n∑k=0

n+1Ckak(b − a)n−k+1

=1

n + 1

[ n+1∑k=0

n+1Ckak(b − a)n−k+1 − an+1

]

=bn+1 − an+1

n + 1(3.7)

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結果を纏めると ∫ b

axndx =

[xn+1

n + 1

]b

a(3.8)

となる。ここで [F (x)]ba ≡ F (b) − F (x)を意味する。調和数HN のN → ∞極限¶ ³HN ≡

N∑i=1

inN→∞→ Nn+1

n + 1(3.9)

なる関係式が存在する。導出には∑Ni=1 eai = ea(eaN − 1)/(ea − 1) から aに関しての n回

微分を行い∑inに関する公式を得る方法を使った。ここでは具体的にいくつかの場合を

計算してこの公式を確認しておこう。N∑i

i0 =1

1N

N→∞→ N

1

N∑i

i1 =1

2N(N + 1)

N→∞→ N2

2

N∑i

i2 =1

3N(N + 1)(N +

1

2)

N→∞→ N3

3µ ´3.2 積分と微分の関係冪関数の積分公式 ∫ b

axndx =

[xn+1

n + 1

]b

a(3.10)

は積分の中で最も簡単な例である。しかし最も簡単な例であっても、その導出にはかなりの計算を必要とした。このような方法でこれ以上複雑な関数に対する積分を導出するなど気が遠くなるような話である。以下に見るように実は積分は微分の逆の操作になっている事が分かる。この事実によって

多くの関数に対して積分公式を得る事ができる。準備として「関数 f(x)に関する原始関数F (x)」なる概念を導入する。原始関数とは関数 f(x)の積分を与えるものであって、次のような関係にあるものである。 ∫ b

af(x)dx = [F (x)]ba (3.11)

つまり原始関数 F (x)に積分領域の上端と下端を代入すれば積分が得られる。原始関数を求める事が積分を実行する事に他ならない。

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さてここで原始関数 F (x)に対する微分を考えてみよう。それには原始関数と積分の関係式において b = a + ∆aとおいて

[F (x)]a+∆aa =

∫ a+∆a

af(x)dx (3.12)

右辺の積分は ∆a ¿ 1 の極限では a ≤ x ≤ a + ∆a の微小領域が囲む面積であるから∫ a+∆aa f(x)dx = ∆a × f(a) と近似できる。また左辺では原始関数に x = a, bを代入して差を取れば

F (a + ∆a) − F (a) = ∆a × f(a) ⇒ F (a + ∆a) − F (a)

∆a= f(a) (3.13)

を得る。∆a → 0の極限をとれば、原始関数 F (x)の微分が被積分関数 f(x)になる事を意味している。 ∫ b

af(x)dx = [F (x)]ba ⇔ F ′(x) = f(x) (3.14)

積分領域を陽に書かずに ∫f(x)dx = F (x) (3.15)

と省略することもよく有る。この場合原始関数としてF (x)がある場合、原始関数に定数を足したもの F (x) + const.も原始関数である。つまり原始関数は定数の部分だけ任意性がある。積分と微分の関係から、関数 f(x)に対する原始関数 F (x)として次の表を得る。

f(x) f ′(x) F (x) =∫

f(x)dx

冪関数 xa axa−1 xn+1

n+1

sin関数 sin(x) cos(x) − cos(x)

cos関数 cos(x) − sin(x) sin(x)

指数関数 ex ex ex

対数関数 ln x 1/x x(ln x − 1)

3.3 変数変換我々は、グラフを微小区間に分割してその和を考えることによって積分を定義した。つま

りは積分とは和を取る事に他ならない。以下に微小区間の和の取り方を変更する事によって積分変数に対する変換公式を導出する。次のような合成関数 f(g(x))の積分について考える。

∫ b

af(g(x))dx = lim

∆x→0

N∑i

f(g(xi))∆x, ∆x = (b − a)/N (3.16)

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ここで g(x)に対する微小変化を考える。

∆g ≡ g(x + ∆x) − g(x) =

(g(x + ∆x) − g(x)

∆x

)∆x (3.17)

ここで∆x → 0を考えると括弧で括られた項は g(x)の導関数になる。つまり

∆g =dg(x)

dx∆x ⇒ ∆x =

dx(g)

dg∆g (3.18)

これは合成関数の積分の定義に代入すると∫ b

af(g(x))dx = lim

∆x→0

N∑i=1

f(g(xi))∆x

= lim∆g→0

N∑i=1

f(gi)

(dx(g)

dg

)∆g

=∫ g(b)

g(a)f(g)x′(g)dg (3.19)

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第4章 微分方程式

オイラーの公式¶ ³オイラーの関係式を発見法的に導いてみよう。指数関数の虚数冪 eiθ (θ=実数, i=虚数)を考えてみよう。これは

eiθ(eiθ)∗ = eiθe−iθ = e0 = 1 (4.1)

を満たすので絶対値が1の関数である。つまり極座標表示で

eiθ = cos(f(θ)) + i sin(f(θ)) (4.2)

と表せる筈である。なぜなら cos2 x + sin2 x = 1だから。次に指数関数の微分公式より(eiθ)′ = ieiθ = − sin θ + i cos θ を得る。ここで合成関数の微分を使った。一方で f(θ)を使った表示の方は

d

dθ(cos f + sin f) =

df

dθ(− sin f(θ) + cos f(θ)) (4.3)

これら二式を比較すると

f ′(θ) = 1 ⇒ f(θ) = θ + cost. (4.4)

を得る。const.は任意定数を意味するが、θ = 0で eiθ = 1より f(0) = 1 ⇒ const. = 0を得る。よってオイラーの公式

eiθ = cos θ + i sin θ (4.5)

が導出された。µ ´

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第II部

微分方程式の数値計算

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第5章 常微分方程式の数値計算

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第6章 偏微分方程式の数値計算

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第III部

確率統計

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第7章 確率と統計の基礎

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第8章 統計処理

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