なぜ、 カリキュラム・ マネジメントが 必要なのか...19 教職研修 2015.6...

教職研修 2015.6 18 これからの 学校管理職に求められる カリキュラム・マネジメント 特集1 千葉大学教授 天笠 茂 文部科学省初等中等教育局 教育課程課長 合田 哲雄 対 談 なぜ、 カリキュラム・ マネジメントが 必要なのか 11 11 ※①「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」

Upload: others

Post on 25-May-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: なぜ、 カリキュラム・ マネジメントが 必要なのか...19 教職研修 2015.6 これからの学校管理職に求められる カリキュラム・マネジメント

教職研修 2015.6 18

これからの学校管理職に求められるカリキュラム・マネジメント

特集1

千葉大学教授

天笠 茂

文部科学省初等中等教育局教育課程課長

合田 哲雄

対 談

なぜ、カリキュラム・マネジメントが必要なのか

カリキュラム・マネジメント

とは何か?

●2008年中教審答申で登場

天笠 昨年11月に中央教育審議会になされた

諮※

問①

のなかで、「カリキュラム・マネジメン

ト」(以下CM)という言葉が登場し、注目

されています。

 

そもそもこの言葉が文部科学省の文書に登

場したのは、2008年の中央教育審議会答

※②申

が最初だったと認識しています。そのねら

いは何だったのでしょうか。

合田 前回の改訂においては、「ゆとり」か

「詰め込み」か、という二元論をどう乗り越

えるかが最大のテーマでした。

 

その結果、高校の指導内容になっていた

「二次方程式の解の公式」や「遺伝の規則性」

などを中学校に戻し、教科の内容の体系性を

回復したことはもちろんですが、同時に、各

教科等で「言語活動」に取り組み、発達の段

階に応じて思考力等を一歩一歩着実に育成す

る体系をつくっていく方向性が打ち出されま

した。

 

そのため、各教科等の内容項目と、言語活

動を通じて資質・能力を育むこととの間を、

これまで以上に意識的に関連づけることが大

きなポイントとなりました。このようなな

か、天笠先生などにご提起いただいたのがC

Mという考え方だったのです。

 

2008年の答申では、教師が子供と向き

あう時間の確保などの条件整備の文脈で、C

Mという言葉が登場します。もちろんまず教

職員定数の改善の重要性が指摘されています

が、ただ先生を増やすだけではなく、効果

的・効率的な指導のために、教育課程におけ

るPDCAサイクルの確立が必要で、そのた

めのCMという位置づけです。

●改訂学習指導要領とCMの関係

合田 昨年11月の諮問も、この観点からCM

に着目しています。現行学習指導要領の内容

や言語活動の重視といった考え方は各学校に

おいてしっかり受け止められていて熱心に教

育活動に取り組んでいただいています。

 

次の改訂では、このような各学校の取り組

みや成果を前提に、教え方や学び方の質をど

う転換するかが問われています。アクティ

ブ・ラーニング(以下AL)は「能動的な学

習」と言われますが、アクティブであればよ

い、ということではありません。深く思考す

るためのALです。

 

学習指導要領に位置づけられるALの基本

的な考え方や理念を踏まえ、全国の学校にお

※①「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」

Page 2: なぜ、 カリキュラム・ マネジメントが 必要なのか...19 教職研修 2015.6 これからの学校管理職に求められる カリキュラム・マネジメント

19 教職研修 2015.6

これからの学校管理職に求められるカリキュラム・マネジメント特集1

ける具体的な各教科等の指導のなかで、深く

思考するための教育実践が展開されるように

なるためには、教員養成や教員研修の改善・

充実とともに、CMが不可欠です。ALの理

念を支える学習指導要領、その実践を支える

CMという文脈のなかで、CMが学習指導要

領改訂にとってもきわめて重要な考え方にな

っているという状況です。

●カリキュラム・マネジメントの定義

天笠 まずはCMについて整理したいと思い

ます。今は、論者がそれぞれの立場から使っ

ている状況にあります。それらを整理する

と、CMは次の三つに捉えられます。

 

まず一つ目は、PDCAサイクルを回すと

いうことです。2008年中教審答申にも、

この意味で登場しています。学校教育目標を

実現するために、教育課程を編成し、その教

育課程を計画・実施・評価して、と回してい

くことが、CMだということです。

 

二つ目は、教育内容を相互に関連づけ、横

断するという意味合いです。たとえば総合的

な学習の時間をどう組み立てるのかというと

きに、この教科とあの教科の基本を学習し

て、その先に課題意識を発展させ展開してい

くとか、教科横断的な取り組みを考えるとい

う場合の、教育課程全体を捉えるに当たって

のCMということです。言語活動の充実とい

うことも、各教科を横断的に見るという発想

がCMに結びつき、理解することができます。

 

三つ目は、とかく個々に捉えられがちな教

育内容と条件整備を、一体として扱う発想で

あり、手法としてCMを捉える立場です。両

者の相互関係を全体的・総合的に把握し、カ

リキュラムをヒト・モノ・カネ・情報・時間

など経営資源との関連で捉える発想であり手

法とするものです。

 

今後学校現場で取り組まれていく際には、

この三つの側面のどこに強調点を置いている

のか、どう具体化していくのかを自覚的に捉

えていく必要があるのではないでしょうか。

合田 おっしゃるとおりですね。

 

前回改訂の際は、学校評価のガイドライン

が改訂されるなど教育活動におけるPDCA

サイクルをどう回し、カリキュラムをいかに

効果的に実施していくかが問われるようにな

っていました。このような観点からCMが大

事だと指摘され、天笠先生の整理で言うと、

一つ目の意味でのCMが意識され始めたと申

し上げることができようかと思います。

 

同時に、いわゆる「ゆとり教育」批判のな

かで、文部科学省や教育委員会も含めた教育

行政のPDCAサイクルの必要性が強く指摘

されていたのも事実です。三つ目の意味での

CMを、教育行政も学校自身も考えるように

なってきたのだと思います。

 

そして、最後に、二つ目の意味が、今回の

改訂において非常に重要になっています。深

く思考するためのALや学び方の改善に当た

っては、とくに中学校・高校において教科等

を超えて資質・能力をはぐくむという視点が

非常に重要です。

 

次代を担う子供たちに必要な資質・能力に

着目したうえで、各教科等のあり方を考え、

つなげていくことが問われている。そのた

め、今回の改訂では、知識の体系であった学

習指導要領を資質・能力の体系に転換すると

いう観点が重要になりますが、この質的転換

にとってCMの役割がこれまで以上に大きく

なっていると思います。

●学習指導要領にCMはどう位置づけられる

のか

天笠 CMをどう示すかについて、従来どお

りであれば、学習指導要領・指導書・解説書

の三点セットのなかで、解説書に「CMとは

こういうものだ」と定義し、具体的な実践例

を示すということになるでしょう。

 

しかし、今回の学習指導要領改訂のための

審議においては、学習指導要領のあり方その

※②�「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」