月刊 8 - kkc · トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して...

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444 August 8 2016 企業広報研究 ツイッターと企業広報 Twitter Japan(株) グローバルビジネスマーケティング シニアマーケティングマネージャー 西窪恭未子 企業魅力度モデル ~生活者1万人が魅力的に感じる企業とは~ 企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 上席研究員 北見幸一 企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 主任研究員 長濱 憲 マスコミ事情 共同通信大阪経済部の編集方針と取材体制 (一社)共同通信社 大阪支社編集局経済部長 高橋雅哉 ANGLE 日本証券業協会 広報部長 笛木敦夫 第38巻第8号通巻444号2016年8月1日発行(毎月1回1日発行)1980年10月23日第3種郵便物認可

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444August

月刊 8

2016年

◆企業広報研究 ツイッターと企業広報 Twitter Japan(株) グローバルビジネスマーケティング シニアマーケティングマネージャー 西窪恭未子

企業魅力度モデル ~生活者1万人が魅力的に感じる企業とは~ 企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 上席研究員 北見幸一 企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 主任研究員 長濱 憲

◆マスコミ事情 共同通信大阪経済部の編集方針と取材体制 (一社)共同通信社 大阪支社編集局経済部長 高橋雅哉

◆ANGLE 日本証券業協会 広報部長 笛木敦夫

第38巻第8号通巻444号2016年8月1日発行(毎月1回1日発行) 1980年10月23日第3種郵便物認可

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国内2日 7月の消費動向調査結果(内閣府)5日 6月の景気動向指数速報(内閣府)

8日 7月の景気ウォッチャー調査(内閣府)6月の国際収支速報(財務省)

15日 4~6月期のGDP(国内総生産)速報(内閣府)18日 7月の貿易統計(財務省)

30日 7月の失業率(総務省)7月の有効求人倍率(厚生労働省)

海外

5日 7月の米雇用統計(米労働省)6月の米貿易収支(米商務省)

5~ 21日 リオデジャネイロ五輪12日 7月の米小売売上高(米商務省)16日 7月の米住宅着工件数(米商務省)

8 月の動き

今 月 の 表 紙

りそなホールディングスは、たくましく生きる力を持った子どもたちを地域社会と共に育むことを目的に、「りそなキッズマネーアカデミー」を中心とした「夏キッズ」「職業体験」「出張授業」などの子ども向け金融経済教育に取り組んでいる写真は、「夏キッズ」でお金の大切さを学んでいる子どもたちの様子

『経済広報』では、裏表紙に関連する写真・イラストを表紙に

掲載しています。

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月の動き

発行/一般財団法人経済広報センター 国内広報部   東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館 TEL:03-6741-0021印刷/三葉株式会社 TEL:03-3294-4751※本誌掲載の記事・写真・イラスト・図版の無断掲載を禁じます。

2016年8月号目次

企業広報研究

ツイッターと企業広報西窪恭未子

(Twitter Japan(株) グローバルビジネスマーケティング シニアマーケティングマネージャー)

2

企業魅力度モデル~生活者1万人が魅力的に感じる企業とは~北見幸一(企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 上席研究員)長濱 憲(企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 主任研究員)

4

グローバル企業のインターナルコミュニケーション②

社員のモチベーションを高める、グローバルなインターナルコミュニケーションとは矢野元子(ウェーバー・シャンドウィック シニア・バイス・プレジデント)

6

ANGLE

金融商品市場の健全な発展のために笛木敦夫(日本証券業協会 広報部長)

9

視点・観点

日本の理解促進のためにやらなければならないことケント・ギルバート(タレント/カリフォルニア州弁護士)

10

マスコミ事情

共同通信大阪経済部の編集方針と取材体制高橋雅哉((一社)共同通信社 大阪支社編集局経済部長)

12

トップが考えるダイアローグ・マネジメントの新潮流①

日本企業のインターナル・コミュニケーショントップ主導で相互交流・対話型清水正道(筑波学院大学 客員教授/日本広報学会 常任理事)

14

メディア事情

ネットで影響力のある人にどうアプローチしたらいいのか加藤恭子((株)ビーコミ 代表取締役)

16

経済広報センター活動報告

不透明な時代における経営マネジメントを議論-米国ビジネススクール教授招聘プログラム- 19

コーポレートメッセージ

世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ(株)UACJ 24

連載

経済広報センターNEWS 22企業広報ニュース(広報トピックス/Book) 25企業・団体のCSR活動((株)りそなホールディングス) 裏表紙8月の動き 表紙裏

NEW

12016年8月号〔経済広報〕

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ツイッターと企業広報西窪恭未子(さいくぼ・くみこ)

Twitter Japan(株)グローバルビジネスマーケティング シニアマーケティングマネージャー

経済広報センターは、ソーシャルネットワークと企業広報・PRの関わりをテーマに、Twitter Japanの

西窪恭未子グローバルビジネスマーケティングシニアマーケティングマネージャーによる講演会を6月14日

に開催した。当センターの会員企業・団体の広報担当者など79名が参加した。

ツイッターの特徴

ツ イ ッ タ ー は 今 年10周 年 を 迎 え た。Twitter

Japanは2011年3月に設立され、月間アクティブ

ユーザーは3500万人(2015年12月)に達し、日本語

のツイート量は世界のトップクラスである。直近の

2013年から2015年までの2年間でもユーザーが倍

増している。また、スマートフォンでどのインター

ネットサービスを使っているかを示す時間占有率で

も、ツイッターは第2位(ニールセン調べ)と上位で

ある。

ツイッターの特徴は、「今が分かる」「開かれてい

る」「会話が生まれる」「拡散される」である。

特に「開かれている」では、検索エンジンでツイー

トが検索結果として表示されるネット情報のまとめ

サイトに、ツイートが埋め込まれているなど、ツ

イッターにはユーザーでなくてもツイートに触れる

機会が多いといった公共性があると考えている。

「会話が生まれる」は、ツイッターユーザー同士は

ひとつのツイートを機に会話が始まることを示して

いる。「拡散される」はツイートの拡散のことである

が、ツイッターのイメージとしては、これが最も強

いと考えられる。

これら4つの特徴を示す現象として、ある事件に

居合わせたツイッターユーザーがその場で動画をツ

イートするという事例があった。ほかのユーザーが

そのツイートを見て、多くのユーザーに拡散、ユー

ザー同士が事件の交通機関への影響などについて情

報交換を行った。さらに動画のツイートを見たメ

ディアは、ユーザーに直接、動画の許諾について問

い合わせのツイートを入れた。また、あるニュース

サイトでは、この事件の全容をひとつにまとめたサ

イトが作成され、その中に事件に関する多くのツ

イートが埋め込まれた。

このように、ツイッターは、ユーザー同士の会話

から話題が醸成し大きく拡散することで、ツイッ

ター上だけにとどまらず、オンライン上のほかのメ

ディアでも取り上げられ、さらにテレビや新聞で話

題になるなど、最終的に多くの人に届くパブリシ

ティ効果を秘めている。

ツイッターの活用

○ユーザーの声を聞く・検索する日本のツイート量は非常に多く、その中には商品

やサービスの使用者からのものも多い。従って、ツ

イッターを日本一のクチコミ情報のプラットフォー

ムと考えることもできる。ツイッターは単にツイー

トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して

増えたクチコミ情報は、企業広報やPRにとっても

非常に有益なユーザーの声と捉えることができる。

またツイッターを検索ツールとして使う場合、2

つの大きな特徴がある。ひとつは、今、世の中で何

が起きているかを検索するツールであり、もうひ

とつは、ツイートのクチコミ情報から企業や製品、

サービスに対する意見など、みんながどのように

思っているかを検索するツールでもあるということ

〔経済広報〕2016年8月号2

企業広報研究

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だ。

○リアルタイムで多くの情報を得るツイッターはリアルタイムの情報を素早く得るこ

とができる。特に最新の商品やサービスの評判を知

りたい場合、ツイートを調べ、商品やサービスのク

チコミを検索することで生の情報をいち早く知るこ

とができる。また、ツイートを通じて、実際の使用

者の感想や、その商品やサービスについて自分より

詳しい人からの意見を聞くことで、商品やサービス

に対する本音の情報を得ることが可能となり、それ

らのツイートが購入の決め手となることも多い。

○企業がユーザーとのコミュニケーションを深める方法企業がツイッターのアカウントを作ると、最初に

目標とするのは、自社にツイートしてくれるフォロ

ワーを増やすことである。さらに、ツイートするこ

とでユーザーとコミュニケーションを深め、良好な

関係を築こうと考えるようになる。

フォロワーを増やすには、例えば、こまめにプレ

ゼントキャンペーンを継続的に行ったり、クリスマ

スなど季節のイベントに合わせたキャンペーンを

行ったりするなど、できるだけツイートしたくなる

環境を提供することが重要である。その際、ハッ

シュタグ(#)と呼ばれる機能に季節のイベント名を

使って、イベントに関する検索で自社のツイートが

ユーザーに見つけてもらいやすくすることで、さら

にフォロワーを増やすことができる。

ユーザーとのコミュニケーションを通じて関係を

深めていくには、ツイートの内容を工夫する必要が

ある。ユーザーが企業のツイートから受ける印象

は、新たな製品やサービスの発見の場であり、鮮度

の高い情報、モバイルへの最適化、人間味、素直な

声などである。新製品や新サービス発表会の実況中

継をツイートすることで、関心を集め、それらにつ

いてインターネットでさらに詳しく調べるキッカ

ケ・気付きを与えることができる。

ツイッターはスマートフォンでの利用が多いの

で、スマートフォンの画面での利用を想定した、画

像やテキスト、コミュニケーション内容を工夫する

など、モバイル環境への対応は必須である。また、

誠実なツイートのやり取りをしている企業に対して

は、良いフォローのツイートが集まりやすくなる傾

向もある。ツイッターは一方的な意見の場ではな

く、双方向のコミュニケーションの場なので、企業

との誠実なツイートのやり取りを見ると印象が良く

なり、自分もツイートしたくなり、フォロワーが増

え、コミュニケーションが深まり、良好な関係が生

まれやすくなる。

ツイッターの効果的な使い方

○より多くの人に拡散してもらうツイートを広く拡散させるための初歩的な手段が

リツイートである。リツイートとは、ボタンをク

リックするだけでフォロワーにそのツイートを届

けることができる機能である。多くの人がリツイー

トすることで情報をさらに広く拡散することがで

きる。また、希望の文字列をハッシュタグとして設

定しツイートすることで、そのハッシュタグを使っ

たツイートを検索画面で一覧表示できる。このハッ

シュタグを利用した検索で、同じイベントの参加者

や、同じ経験、同じ興味を持つ人の様々な意見が閲

覧しやすくなる。商品やサービスの情報にハッシュ

タグを設定することにより、検索などを通じて企業

のツイートをより多くの人の目に触れる機会を作る

ことができる。ツイッターではテキスト140字に加

えて、画像、動画、生中継、さらに短い動画のルー

プ再生など、幅広い表現が可能であり、ツイートを

より多くの人に拡散するためのツールを提供してい

る。

○ツイートを分析・活用する今、ツイッター上でどのような話題で盛り上がっ

ているかを知ることができるのが、トレンド機能で

ある。この機能により話題のキーワードが分かる。

適切なツイートをすることで企業名や商品名、サー

ビス名がキーワードとなれば、多くの人に拡散する

ことできる。また、発したツイートが、いつ、どれ

くらいの人の目に触れ、どのような反応があったの

かが分かるアナリティクス機能もある。分析結果

は、今後フォロワーを増やすために発信する情報の

選択やタイミングなど、その精度を上げることに活

用でき、ツイッターを活用した企業広報・PRの方

針を検討する材料となる。  k

(文責:国内広報部主任研究員 磯部 勤)

2016年8月号〔経済広報〕 3

企業広報研究

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企業魅力度モデル~生活者1万人が魅力的に感じる企業とは~

北見幸一(きたみ・こういち)企業広報戦略研究所

((株)電通パブリックリレーションズ内) 上席研究員

長濱 憲(ながはま・けん)

企業広報戦略研究所((株)電通パブリックリレーションズ内) 主任研究員

企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)では、魅力的な企業の要素と、その伝わり方につ

いて、一般生活者1万人を対象に、今年の3月に「企業魅力度調査2016」を行った。本稿では、調査結果を

基に、魅力的な企業の要素とその伝わり方について紹介したい。

企業魅力度モデルとは?

近年、様々な場所で「魅力」という言葉を耳にする

ようになった。そもそも「魅力」とは、辞書*1 によ

れば「人の心を引きつけて夢中にさせる力」である

が、企業においても、人、モノ、カネ、情報を引き

つけて強い企業となるために「魅力」は重要な要素で

ある。

企業広報戦略研究所では、企業の魅力を可視

化するためのモデルとして、「企業魅力度モデル

(Attractiveness Marketing Model)」(図表)を開発し

た。企業魅力度モデルは、ステークホルダーがどの

ような企業行動(ファクト)に魅力を感じているのか

を、「人的魅力」「会社的魅力」「商品的魅力」の3要素

から構成したものである。

「人的魅力」は、企業を構成している「個人」や「法

人」に関する魅力のことであり、具体的には、「リー

ダーシップ」「誠実さ・信用」「職人のこだわり」「職場

風土」「ソーシャルイシュー対応力」「アイデンティ

ティー」などから構成されている。

「会社的魅力」は、優れた財務パフォーマンスと、

それらを支える仕組みや取り組みに関する魅力のこ

とである。「成長戦略」「安定性・収益性」「リスク・ガ

バナンス対応」「投資・財務戦略」「市場対話・適時開

示力」「社会共生」に関する項目から構成されている。

「商品的魅力」とは、商品・サービスを通じて伝わ

る魅力のことである。「ソリューション力」「コストパ

フォーマンス」「リコメンド・時流性」「共感」「安全

性・アフターサービス力・クレーム対応」「独創性・

革新性」から構成されている。

北見幸一氏 長濱 憲氏

■図表 「企業魅力度モデル」と3つの魅力    (人的魅力、会社的魅力、商品的魅力)

*1 デジタル大辞泉

©Getty Images

〔経済広報〕2016年8月号4

企業広報研究

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各魅力項目は、「若々しい」「親しみやすい」「センス

のある」のようなイメージではなく、例えば、「チャ

レンジスピリットにあふれたリーダー・経営者がい

る」(人的魅力)、「優れた成長戦略がある」(会社的魅

力)、「ネット上で評価の高い商品・サービスを提供

している」(商品的魅力)など、具体的な企業のファク

トに基づく魅力が想起できるようなものとしている。

調査概要

企業魅力度モデルを、より精緻なものにするた

め、インターネット調査で全国の20 ~ 69歳の一

般生活者男女計1万人を対象に「企業魅力度調査

2016」を実施した。調査では10業種、計150社*2の

企業を挙げて、企業の魅力を構成する「人的魅力」

「会社的魅力」「商品的魅力」について尋ねた。具体的

には各魅力12項目ずつ、合計36項目について、対

象企業にどのような魅力を感じているのかを調査し

ている。

「人的魅力」の高さが企業の魅力度を牽引する

企業の魅力として、36項目の中から魅力として

感じている項目を複数回答してもらった。その数を

「人的魅力」「会社的魅力」「商品的魅力」ごとに合計し

た。その結果、全体では「人的魅力」(37.3%)、「商品

的魅力」(35.6%)、「会社的魅力」(27.1%)の順番で回

答が多かった。

「人的魅力」の構成要素で見てみると、1位は

「リーダーシップ」(55.3%)、2位は「職人のこだわ

り」(32.7%)、以下3位「職場風土」(32.1%)、4位

「ソーシャルイシュー」(31.2%)、5位「アイデンティ

ティー」(39.2%)、「誠実・信頼」(20.0%)であった。

業界を牽引するリーダーシップや信頼できるリー

ダーの存在といった「人的魅力」が、企業の魅力度に

大きく影響している。また、企業としての姿勢や商

品・サービスの品質にも影響を与える職人のこだわ

りや、自由な議論ができる風通しの良い職場環境な

ども、「人的魅力」に影響を与えている。

業種別に見てみると、「人的魅力」の占める割合が

最も高かった業種は「不動産・建設」(41.6%)、「エ

ネルギー」(41.6%)、「金融」(40.4%)、「情報・通信」

(40.0%)、「サービス・その他」(38.3%)、「鉄道・航

空・運輸」(38.1%)であった。商品そのものだけで

はなく、商品を提供するプロセスで人的要素が多分

に存在する業種や、サービスの提供が多い業種であ

る「不動産・建設」「エネルギー」「金融」「情報・通信」

「サービス・その他」「鉄道・航空・運輸」では、企業

の魅力の中で「人的魅力」の占める割合が比較的高

い。

企業の魅力とソーシャルメディア時代

本調査では、企業の魅力をどこで見聞きしたか

についても尋ねている。調査結果では、「番組や記

事」(41.6%)、「企業が直接発信する情報」(27.6%)、

「ウェブを通じた口コミ」(18.9%)、「広告・チラシ」

(17.0%)であり、メディアを経由した伝わり方が

全体の54.4%であった。その一方で、「商品・サー

ビスを直接体験して」(37.4%)、「社員・店員を通じ

て」(15.1%)、「身近な人から」(14.3%)、「店頭から」

(11.3%)などのリアルな体験は合計で45.6%となっ

ており、企業の魅力を伝達する上でリアルな事柄は

重要になっている。

近年、スマートフォンの普及やソーシャルメディ

アの発達により、生活者や個人投資家などのステー

クホルダーが、企業に関する情報を発信することが

可能になっている。記者ではなく一般の人が、経営

者・従業員の言動について評価し、容易にシェアで

きる時代になった。一億総ジャーナリスト社会と言

えよう。リアルな場での経営者・従業員の言動が評

価され、拡散していくのである。ソーシャルメディ

ア時代においては、リアルの場での評価にも応える

「人的魅力」を、常日ごろから高めておくことが重要

である。 k

*2 10業種は、不動産・建設(三井不動産、三菱地所、住友不動産ほか)、エネルギー(東京電力、関西電力、東京ガスほか)、サービス・その他(日本郵政、リクルート、セコムほか)、金融(三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、第一生命保険ほか)、情報・通信(NTT、ソフトバンク、KDDIほか)、電気機器(日立製作所、ソニー、パナソニックほか)、鉄道・航空・運輸(JR東日本、日本通運、JR東海ほか)、自動車(トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車ほか)、医薬品・生活用品(武田薬品工業、富士フイルム、花王ほか)、食品(サントリー、明治、味の素ほか)。詳しくは、http://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-outline/20160609-2.htmlを参照。

2016年8月号〔経済広報〕 5

企業広報研究

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社員のモチベーションを高める、グローバルなインターナルコミュニケーションとは矢野元子(やの・もとこ)ウェーバー・シャンドウィック シニア・バイス・プレジデント

■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長

日本企業の事業展開がグローバル化し、世界各地の外国人社員とどのようにコミュニケーションを行えば

よいのかに関心を持つ広報関係者が増えている。このため本誌では、「グローバル企業のインターナルコミュ

ニケーション」をテーマに、PRコンサルタント、企業関係者のインタビューを連載する。今回はその第2弾

として、ウェーバー・シャンドウィックの矢野元子シニア・バイス・プレジデントに話を伺った。

インターナルコミュニケーションは世界で共通の経営課題

■グローバルなインターナルコミュニケーションに

ついて、企業の関心は高いと感じていますか。

矢野 グローバルに事業展開をしている企業の中で

も特に、M&A(Merger and Acquisition:合併と買

収)をするなどして、事業を拡大している企業から、

インターナルコミュニケーションについての問い合

わせが増えています。

M&Aをした場合、拠点や人員リソースの再配置

や、新しい企業文化の浸透と事業拡大の両立など

様々な課題が生じますが、それらを解決するスピー

ドや感度の高さは、ビジネスやグローバルな競争力

に大きな影響を与えます。社員をはじめとするス

テークホルダーが多様化していく中、どのようにイ

ンターナルコミュニケーションを行って企業をドラ

イブする力にしていくのかは、日本だけでなく海外

の企業でも経営課題として重く受け止められ、多く

の企業が力を入れているのが現状です。

しかし、日本企業と特に欧米企業では、「グローバ

ル化」についての捉え方は異なっています。

■それは、どのように異なるのでしょうか。

矢野 欧米企業は、国によっては元からマルチな言

語・文化・宗教などが背景にあり、そもそも多様性

がある中で企業文化やビジネスモデルが存在しま

す。そのため、もともと多様性を前提とした企業文

化や理念への共感を得ながら広げていくという手法

が取られます。歴史的にも多民族、多言語を前提と

してグローバルにビジネスを広げてきたため、多様

性についての捉え方や経験という面では、日本企業

よりも一歩先に出ています。

一方日本企業は、M&Aの相手先企業に伝統や文

化などローカルの特色がある場合、それを尊重しな

がら時間をかけて融和を図るアプローチが多いよう

です。

■日本企業がグローバル化を展開していく際、どの

ような点に注意をすればよいでしょうか。

矢野 日本企業は、体制や仕組みづくりなどの「H

OW」から入ってしまう傾向があるように感じてい

ます。しかし当社ではお客さまに、まずどのような

グローバル企業になりたいのか(企業のミッション、

ビジョン)、そしてコミュニケーションの目的がな

んなのかを明確にする、あるいは再確認することを

お勧めしています。そして、社員はどのような特徴

を持つのか、企業や業務に対する認識や価値観、コ

〔経済広報〕2016年8月号6

グローバル企業のインターナルコミュニケーション②

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ミュニケーション行動、彼らに影響を与える因子は

何かを理解すると、国や地域によって特徴があるこ

とが多いものです。そこからコミュニケーションの

目的を達成する上での課題やギャップを見つけ、戦

略や施策を考えます。そうすると、おのずと最適な

コミュニケーション体制や具体的なプログラムが見

えてきます。この一連のフローは、エクスターナル

コミュニケーションを考えるときと同じですね。

企業によって、インターナルコミュニケーション

の目的は、「ビジョンや価値観を統一したい」「危機管

理上、社内のコンプライアンスを徹底したい」「リブ

ランディングを実施したい」など様々です。これら

を、社員にどのような意識を持ってもらいたいの

か、どのような行動をとってもらいたいのかといっ

た社員起点に置き換えます。当社では、このような

社員の意識・行動変容によって事業目標を達成しよ

うというコミュニケーションを、エンプロイ・エン

ゲージメントと呼んでいます。

コミュニケーション・ギャップは国単位だけでは

なく、同じ企業の中でも部署によって異なることも

あります。課題はなんなのか、ギャップはどこにあ

るのかを、アンケートやフォーカスグループ、ワー

クショップなどの手法で調査します。このようにし

て課題を見つけ、企業にとってドライバーとなるも

のが何かを見極めた上で、メッセージやコミュニ

ケーションフローを考え、これに沿ったアクション

プランへと落とし込みます。

■エンプロイ・エンゲージメントプログラムのPDCAサイクル

■クライアント企業から、どのような依頼がありま

すか。

矢野 グローバルに事業を展開する企業から、社員

のモチベーションが下がっており、業務効率にも影

響を与えているという相談がありました。その企業

は過去に起こした不祥事によってレピュテーション

が低下したままでした。

調査では、社員のモチベーション低下の原因だけ

でなく、どういう層の社員にメッセージや刺激を与

えればよいのかなど、社員のロイヤリティを高める

ための要素を調べました。トップや直属の上司から

のインプットやコミュニケーションも重要でした

が、外部からのインプットが非常に効果的であるこ

とが分かりました。

そこで、その企業の社員の関心が高く、事業戦略

と環境対策に共通していた「水」をテーマとして、グ

ローバルな社員参加型キャンペーンを実施すること

にしました。その際のコミュニケーションプランで

は、社外に対してトップが水事業を通じた社会貢献

の意思を宣言し、NPO共催の下、社員参加型の

キャンペーンを社内、社外双方で実施しました。象

徴的なイベントには、キャンペーンの主旨に賛同し

たキーオピニオンリーダーを巻き込むことで、メ

ディアや顧客など社外からの反響が増大し、ブーメ

ラン効果によって社員の自社に対する社会的存在意

義や価値への理解を深めることができました。その

結果、社内と社外のパーセプションの統一や、社員

のロイヤリティの向上といった、高い効果を挙げる

ことができました。

エンプロイ・エンゲージメントの向上のために

●ブーメラン効果で理解促進

■社内と社外を区別せず、ブーメラン効果を期待し

たアクションプランは最近の傾向として多いので

しょうか。

矢野 ブーメラン効果を活用したコミュニケーショ

ンは、特に新しいものではありません。ただ、企業

にとって社員は一番身近でアクセスしやすいステー

クホルダーです。ブランドのバリューやメッセージ1

①コミュニケーション環境分析、課題の特定

②訴求価値の特定とストーリーの開発

③エンゲージメント・プログラムの策定

④エンゲージメント促進のための施策の

検討

⑤評価と改善

・企業幹部の行動・ _発言ガイド ・社員への報酬・表_彰制度 ・実施プロセスや体_制の整備

・企業のミッション、ビジョン、 _文化 ・ビジネスの現状、背景 ・意識・行動変容の要因や_過去事例 ・アンケート調査、オーディッ_ト等の実施

・目的とビジョン、企業_文化、行動基準の適_合確認・変更 ・全体戦略/ストーリー_の作成 ・ステークホルダー分析 ・キーメッセージの策定

・コミュニケーション・ロード_マップの策定 ・統合型エンゲージメント・ _プランの策定 ・チャネル、コンテンツ、ス_ _ポークスパーソンの設定

・評価指標の _設定 ・意識・行動変1 _容レベルの評価 ・コミュニケーショ1 _ン・プログラムの_見直しと改善

ビジネス目標

©Weber Shandwick

2016年8月号〔経済広報〕 7

グローバル企業のインターナルコミュニケーション②

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を一番に理解し、さらには、メディアやほかのス

テークホルダーなど、社外に対してメッセージを発

信してくれる存在です。社員が発信した価値観は、

企業の評判の基盤となり、結果企業に対する信頼感

や親近感としてブーメラン効果をもたらすと考えら

れています。

今までは社員に情報を与えてしまうことを、社

外に対して好ましくない情報を発信するかもしれない

「リスク」として、慎重に捉える傾向が強くありました。

しかし、いかに社員に対外的に情報発信を行う

“アンバサダー”となってもらい、社外にポジティブ

に働き掛けられる社員を増やすかを意識したコミュ

ニケーションが、最近のトレンドといえます。その

ためにも、社員のモチベーションを高めることが肝

要で、エンプロイ・エンゲージメントに重点を置く

企業が増えています。

■社員のモチベーションを高めるためには何が必要

でしょうか。

矢野 社員はある程度同じような価値観を持ってい

る者が集まっており、大まかなことは理解している

という前提から入る企業が多いと思いますが、まず

は、社員をよく知ることが重要だと思います。

例えば、ミレニアム世代は物心がついたころに

は、ITデバイスやインターネットが普及していた

「デジタルネイティブ」です。今後10年以内で、こ

の世代が主流になっていくことが考えられる中で、

想像を超える判断基準や創造力、そして、何に関心

があり、何に心を動かすのかといった価値観を知る

ことは、社内および社外に対し、どのような情報を

どのようなフォーマットで発信するのかを知ること

となり、リスク管理にも繋がります。

●Facebook at Workの活用

■エンプロイ・エンゲージメントを向上するため

の、最新のインターナルコミュニケーション手段

について教えてください。

矢野 当社は、今年から社員の情報シェアツールと

して全事業拠点で「Facebook at Work」を導入してい

ます。近年重要性の高まる、既存・潜在顧客層との

関係構築や、社員間の絆づくりを支援するための、

最新のデジタル技術を活用する取り組みの一環です。

「Facebook at Work」は、スマートフォンなどモ

バイルデバイスからアクセスがしやすく、自発的に

コミュニティも作れるため、“いいね!”の活用やタ

イムラインでの情報のシェアなど、気軽に参加しア

クティブに情報を共有することが可能です。これま

ではイントラネットでの情報の一括収集・共有や一

対多型のコミュニケーションが主流でしたが、SN

S(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のよ

うなネットワーク型のコミュニケーションは、“個”

の発信力が高まるため、新しいインプットが融合す

ることでイノベーションが起こることも期待できま

す。また、マネジメントの観点からも、コミュニ

ケーションのテーマや受け止め方、抱えている課題

などについてもオープンに共有でき、日常の中でア

クティブに社員の考えを理解することもできるで

しょう。

個々や社員間の関係構築・強化、コミュニケー

ション促進、レピュテーション向上、また、生産性

の高い職場環境づくりに非常に有効なツールであ

り、各社員の地理的条件や産業、専門分野にかかわ

らず、会社全体で活発な情報共有が進むのではない

かと考えています。また、このような自社での経験

をお客さまにも共有していければと考えています。

●増加する動画配信

■社員へメッセージを伝える際、見せ方や伝え方で

効果的な手法を教えてください。

矢野 グローバルに共通の認識をつくる上では、動

画が非常に有効です。クライアント企業の中にも、

スローガンやトップのメッセージを視覚化し、動画

で配信する企業が近年増えています。

例えば、ある企業では社員向けに、テレビの

ショーを模してMC、ゲスト、観客などを社員らが

担当し、オリジナル音楽なども制作し、ライブ中継

するといったグローバルなイベントを実施していま

す。そして番組は、全世界の拠点で同時に鑑賞し、

コンテンツはイントラネット、SNSで企業のバ

リューやメッセージを社員間で共有、共感し、楽し

みながらベクトルを合わせていくといった取り組み

も実施しています。 k

(文責:国内広報部主任研究員 古川典子)

〔経済広報〕2016年8月号8

グローバル企業のインターナルコミュニケーション②

Page 11: 月刊 8 - KKC · トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して 増えたクチコミ情報は、企業広報やPRにとっても 非常に有益なユーザーの声と捉えることができる。

日本証券業協会(以下、日証協)

は、金融商品市場の公正かつ

円滑な運営、金融商品取引業の健全

な発展および投資者の保護を目的と

して設立されており、一般的な業界

団体の性格に加え、金融商品取引法

の規定による認可を受けた日本で唯

一の認可金融商品取引業協会とし

て、自主規制機関の機能も担ってい

ます。

日証協の業務は多岐にわたってお

り、自主規制業務では、自主規制

ルールの制定、法令・自主規制の遵守状況について

の監査、協会員および役職員の法令・自主規制など

の違反に対する制裁の発動、外務員の登録事務や資

格試験の実施、有価証券市場全般の制度整備・市場

管理業務などを行っています。

また、業界団体として、金融商品市場に関する調

査研究や意見表明、株式市場および公社債市場に関

する統計の集計・公表、国際交流、金融・証券知識

の普及活動、制度周知のための業界広報といった業

務も行っています。

日証協の広報部では、マスコミに向けて、定例会

見、記者との懇談会、取材の受け入れなどを行って

います。広く一般や教育関係者に向けては、ホーム

ページ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・

サービス)、TOKYOMXTV「ストックボイス」などを

通じて日証協の活動を幅広く情報発信しています。

内部向けには組織内の情報共有や相互理解の促進の

ための社内広報システムの運営も行っています。

現在、通常の広報業務に加え取り組んでいること

が2つあります。

1つ目は、「少額投資非課税制度(NISA・ジュ

ニアNISA)」の普及・推進のため

の広報活動です。投資家の裾野拡大

の観点や少子高齢化の進展、日本の

財政状況などを踏まえると、個人の

自助努力による資産形成は極めて重

要な課題であるとして、個人の投資

による中長期的な資産形成を支援す

る制度であるNISA・ジュニアN

ISAの普及に向けて、業界を挙げ

て取り組んでいます。日証協では、

テレビコマーシャルをはじめ、新

聞・雑誌広告、特設サイトの運営や

一般向けの出張講座の実施、NISA相談コールセ

ンターの開設など、認知向上や制度を理解してもら

うための幅広い活動を行っています。今年度は、4

月からスタートした「ジュニアNISA」の普及に向

け、8月と11月を中心に広報活動を行います。

2つ目は、「株や社債をかたった投資詐欺」の防止

のための広報活動です。高齢者を中心に深刻な被害

が生じていることや実在の証券会社をかたる手口が

横行するなどの現状から、詐欺の防止と業界の信頼

確保の観点から、シンボリックな取り組みとして、

全国47都道府県で警察、財務局、証券会社などの

参加を得て街頭活動を行うとともに、公共施設へ

のポスター掲示、全国の老人クラブへの注意喚起、

コールセンターの運営、ホームページでの注意喚起

を行っています。

これらの活動は、日証協ホームページやNIS

A特設サイト「みんなにいいさ!NISAがいい

さ!!」に掲載しておりますのでぜひご覧ください。

最後に、10月4日は制定20周年を迎えた「投資の

日」です。全国各地で記念イベントを開催しますの

でぜひご参加ください。 k

金融商品市場の健全な発展のために

笛木敦夫(ふえき・あつお)

日本証券業協会 広報部長

2016年8月号〔経済広報〕 9

ANG LE

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日本の理解促進のためにやらなければならないことケント・ギルバートタレント/カリフォルニア州弁護士

■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長

経済広報センターは3月、「地域活性化と観光立国に関する意識調査」を実施した。そのアンケート結果に関

連して、日本で長年生活するケント・ギルバート氏に「日本の理解促進」「国際交流の促進」「日本人の英語力」

をテーマに話を聞いた。

なぜ、目黒に鷹番という地名があるのか

■経済広報センターには約4000人の社会広聴会員(モニター会員)がいます。そのうちインターネットで回答が可能な3000人に「外国人観光客」をテーマにアンケート調査をしたところ、外国人観光客には「経済活性化」「日本の理解促進」

「国際交流の促進」を期待するとのことでした。ギルバート 「日本の理解促進」のために、私にはひ

とつ提案があります。私は、目黒(東京都)に33年

間、住んでいます。自分が生活している目黒の歴史

を知りたいと思い、めぐろ歴史資料館に行きまし

た。すると、日本語の説明しかありませんでした。

英語がありませんでした。たしかに、外国人観光客

が、いきなり、このような資料館を訪問することは

ないでしょう。しかし、目黒区には多くの外国人が

住んでいます。住んでいる外国人に、自分の住んで

いる地域について知ってもらうことも「日本の理解

促進」のためには重要ではないでしょうか。

私の知り合いに、ご主人が米国人、奥さまが日本

人という夫婦がいます。その子どもは、カソリック

系の私立中学に通い、ボーイスカウト活動をしてい

ました。その学校には、日本語と英語が分かる子ど

もたちと親がいたので、資料館の説明を英訳しよう

ということになりました。アプリによりQRコード

を読み込むことで、英語で説明を読むことができま

す。これからは、これを音声化し、さらに英語以外

の言語にすることもできます。これを全国の歴史資

料館、博物館などに広めていけないかなと考えてい

ます。

お金はかかりません。この話をすると、自治体か

らは「予算がない」と言われそうですが、今の高校生

は、スマホを使うことなどお手のもの。簡単にやっ

てくれます。高校生が地元の歴史を学ぶのにも役立

ちます。歴史教育、地域教育にもなります。

私も目黒の歴史について調べました。なぜ目黒駅

が品川区にあるのか。本来は、もっと目黒川沿いに

駅ができるはずだったこと。中世時代には目黒氏と

碑文谷氏の武士団が支配していたこと、江戸時代に

は将軍の鷹狩りの地だったため、いまも鷹番という

地名が残っているなど興味深いことばかりです。

このような博物館、資料館には、私のように地元

に住んでいる外国人が、まず訪問します。そして、

外国から友人が来た時には案内することもあるので

はないでしょうか。

私は、息子と目黒通り沿いに住んでいますが、マ

ンションから富士山が見えます。息子が、目黒坂

から富士山が見える浮世絵を見つけてきたので家

に飾っています。日本で生活している外国人向けの

「日本理解促進」が不足しています。

外国人観光客のマナーに思うこと

■「経済活性化」についてはいかがでしょうか。ギルバート 外国人観光客が来ることにより「経済

〔経済広報〕2016年8月号

視点・観点

10

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の活性化」になるといいながら、特に中国人のマ

ナーの悪さが強調されていますね。「爆買い」は決し

て悪いことではありません。

タバコを街中で吸ったり、並んでいる列に横入り

するなど、マナーの悪さが指摘されていますが、そ

れはあらかじめ注意しないツアーガイドが悪いので

はないでしょうか。

戦後、米国人が欧州を旅行し始めたころは、米国

の若者がTシャツにジーンズで出掛け、大きな声で

話し、うるさかったためアグリーアメリカン(ひど

い米国人)と呼ばれました。その後、日本人がハワ

イで駐車違反はするし、マナーが悪いといわれまし

た。そして今、中国人が批判されていますが、その

うち落ち着くと思います。

地名のローマ字表記は日本人のため?

■アンケート調査では、「交通表示、観光案内、レストランのメニュー」などのハード面は対応が進んでいるが、「外国語のできるスタッフ、ボランティア」といったソフト面が遅れているとの結果が出ています。「国際交流の促進」についてお考えは。

ギルバート 「交通表示」や「観光案内」は改善され

てきていると思います。ただ、「国会議事堂前」なん

ていうのは「Kokkaigijidoumae」と書いてあっても、

瞬時に読めません。せめて「Kokkai Gijidou Mae」

のように区切ってほしいですね。あるいは英語で

「National Diet」と書いてほしいです。もっとも日本

ではかなりの地方に行っても、地名の下にローマ字

表記がありますが、あれは外国人向けではないので

はないか。日本人でも漢字の地名をどう読んだら

いいのか分からないことがありますね。そんな時、

ローマ字があると読み方が分かります。だから、あ

のローマ字は日本人のために書かれているのではな

いかと思ってしまいます。

「ボランティア」が課題といいますが、日本では、

オリンピック・パラリンピックのボランティアと

いっても行政が仕切っています。英語検定何級以上

とか、何点以上にこだわっています。そうではな

く、案内ができる程度の英語力でも堂々とした態度

の人の方がいいと思いますね。

母音が発音できれば英語はできる

■なぜ、日本人は英語が苦手なのでしょうか。

ギルバート 英語を通じさせる技術が不足していま

す。つまり、発音の問題です。日本では、まずロー

マ字を教えます。これがネックになっています。発

音がローマ字読みになっています。もちろんローマ

字を先に教えてもいいのですが、英語を学ぶ時に

は、ローマ字を忘れてもらう必要があります。英語

をきちんと話せるようになるには、母音の発音を覚

えることが必要です。外国人が学校で英語を教える

ALT(外国語指導助手)制度にしても、地方自治体

は推進しようとしましたが、文科省は、教員免許を

持たない者が教壇に立つことに反対だった。また、

外国人慣れしていない地方に外国人の女性が行くこ

とにも消極的でした。いじめられるのではないかと

心配したのですが、実際には、行けば外国人は珍し

いので憧れの的になりました。

この制度で、日本の子どもたちは英語は少しはう

まくなりました。また、外国人コンプレックスも少

なくなったと思います。「国際交流の促進」に役立っ

たと思います。

■日本人に欠けていることは。ギルバート 米国では、中学2年生の時に、半年近

くかけてスピーチの授業があります。リンカーンの

有名な演説などを暗記してみんなの前で発表しま

す。声の抑揚、姿勢、目線、ジェスチャー、感情移

入などの表現力を向上させるものでした。このほ

か、『ニューズウィーク』の記事などを10分程度読ん

だ後、その内容を要約し、自分の意見を述べるとい

う授業があります。この授業は、テレビ番組で簡潔

にコメントするのに役に立っています。模擬議会、

ディベートの授業もあります。ディベートは、自分

の意思に関係なく賛成派・反対派に分かれて意見を

戦わせるので、「自分の意思と異なる立場で議論する

ことはいかがなものか」との意見もありますが、私

はそうは思いません。賛成でも反対でもいいが、反

対の意見も知った上で判断することは重要です。ま

た、反対側の意見を知ることで意見が変わるかもし

れません。 k

ケント・ギルバート1952年、米国アイダホ生まれ、ユタ育ち。米国ブリガムヤング大学で経営学修士号を取得。1971年、初来日。1980年、企業の法律コンサルタントとして再来日。テレビの人気クイズ番組「世界まるごとHOWマッチ」に出演し、一躍有名人に。最近は、米国大統領選を取り上げた番組に出演が続く。カリフォルニア州の弁護士資格を持つ。

2016年8月号〔経済広報〕

視点・観点

11

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共同通信大阪経済部の編集方針と取材体制高橋雅哉(たかはし・まさや)

(一社)共同通信社 大阪支社編集局経済部長

経済広報センターは6月3日、会員企業・団体の広報担当者を対象に、大阪で「企業広報講座」を開催した。

共同通信社大阪支社の高橋雅哉経済部長が、同社大阪経済部の取材体制や関西における経済報道について講

演した。参加者は約40名。

共同通信社の組織体制

共同通信は、全国紙、地方紙、各地の民放各社に記事や写真、グラフィックス、動画を提供している。そのほか、インターネットやスマートフォンなどの新しいツールに対応して、きめ細かく記事や写真、映像を提供している。また、英語、中国語などに翻訳したニュースを海外メディアや在外公館にも配信している。

加盟新聞社の合計発行部数は約2700万部に上る。この部数は読売、朝日などの全国紙の部数を超え、圧倒的な規模である。また、全国の地方新聞が共同通信の記事を掲載するため、東京や大阪だけではなく、全国一律に記事が流れることが特徴である。

本社は東京、国内の支局は札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡など都道府県庁所在地を中心に46カ所である。海外支局は、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、北京、バンコクなど、世界の主要42都市にあり、日本メディアで唯一、平壌にも支局が置かれている。

共同通信の編集の流れ

加盟社の朝刊向けの配信記事は、まずは14時45分から始まる編集会議で議論される。編集局長など本社だけで50人以上が出席するほか、大阪支社からも支社長、編集局長、局次長、社会部長、文化部長、運動部長などがオンラインで出席し、見出しのイメージや解説のトーン、総合面の展開などを議論する。その後、大阪支社だけで会議を行い、大阪から出稿する記事のメニューに過不足がないかを検討。19時50分に「第2朝刊会議」、22時50分に「第3

朝刊会議」を開いて編集会議以降の状況の推移を点検するとともに、残りの作業や翌日の夕刊用のメニューを確認し、25時45分ごろに朝刊用の原稿の送信を終える。ただ、この後でも重大ニュースが起きれば、いつでも動ける態勢を組んでいる。

一方、夕刊用の記事は午前3時から送信が始まる。ここでは、その日に予定されている国会論戦やイベント、株主総会などのニュースを未来形で送信している。記事はテレビのキー局も受信しており、早朝のニュース材料として活用される。電車内のサイネージやスマホ向けニュースなど、早朝の出勤時間に役立つコンテンツも配信されている。9時に朝の編集会議が開かれる。前日夜の編集会議で大まかな方向性を議論しているが、朝の会議では、各部のその日の早番デスクが顔をそろえる。そして、10時30分より編集局デスク会議が開かれ、編集局長が出席し、各紙の朝刊を見比べながら、共同通信全体の出稿が適切であったか、記事の扱いや内容に過不足がないかを点検している。そして、14時ごろには、夕刊用の記事の送信を終え、前述したような、翌日の朝刊向け記事の制作に入っていく。

大阪経済部の体制と編集方針

○編集体制大阪支社は、支社の中で唯一編集局が置かれてい

る。大きなニュースは東京本社と連携して編集している。大阪経済部はデスク3人、記者9人の体制。東京本社はデスク15人、記者50人。名古屋支社はデスク1人、記者4人となっている。

大阪経済部は機械グループ(機械、鉄鋼、情報通信、総合通信局)、流通グループ(食品、流通、中

12 〔経済広報〕2016年8月号12

マスコミ事情

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小企業・生活経済、運輸、建設、証券・商品市場、経産局、運輸局)、エネルギーグループ(電力・ガス、財界、科学・製薬、金融、日銀・財務局)の3つに分かれている。また、近畿・中国・四国の経済ニュースも大阪経済部が担っている。グループごとに分かれてはいるが、大きなニュースには、全員で取材するなど、臨機応変な体制となっている。○編集方針

編集方針は3つ。1つ目は「特ダネを狙う」。他社よりも早く、発表前のニュースを報じる。全国紙に載っていないニュースを加盟社に届ける。これらを最大の目標としている。特ダネを取るための勝利の方程式はないが、社長など企業の幹部の自宅を訪問する「夜討ち・朝駆け」を取材の中心としている。

2つ目は「地域目線」。加盟社の多くは地方紙であり、ほかの地域ではバリューがない内容でも、ある地域では大ニュースになることがよくある。工場の増強や廃止、新店舗のオープンや、地域限定商品の発売などが典型例である。また、次期社長の出身地にある地方紙から手厚い記事を求められることもある。このような要望にはできる限り応えるようにしている。この点が、全国紙とは異なる。

3つ目は「話題もの」。個別企業の枠にとどまらず、関西発だからこその面白い記事を多く出すことを心掛けている。例えば、「クールジャパンで街復活」という記事があった。大阪の日本橋にある電気街がインバウンド効果で復活し、海外から多くのアニメオタクが訪れるという内容であった。このような記事は、大阪経済部の特色のひとつである。

全国紙との関係

また、共同通信に加盟している全国紙の中には、“看板となる記事”は自社の記者が取材し、記事にしている一方で、“小さめのニュース”は、共同通信が配信した記事を使っている新聞社もある。そのため、大阪の企業に関するニュースが共同通信を経由して、全国紙に掲載されているケースも多い。ある日の某新聞の朝刊経済面では、大阪経済部が配信した記事が、本数で半分ぐらい、面積で3分の1を占めることもあった。加盟している全国紙はライバルでもあるが、より良い紙面づくりのために、意見交換も積極的に行っている。関西のニュースが全国紙を通じて首都圏の読者にも多く読まれていることをご理解いただければと思う。

「リリース」と「人」がニュースをつくる

プレスリリースは記者との最大の接点である。大阪経済部では毎日、記者1人当たり十数件のプレスリリースが届く。記者は9人いるので、単純計算で約100件のリリースが届くことになる。その中から選ばれて記事に取り上げられるためには、「地域目線」といった大阪経済部の基準もあるが、それにも増して広報担当者がいかに“読まれる”“目に留まる”リリースをつくるかが重要になる。

取材したくなるリリースとは、①世界初・日本初・関西初または最大。②防災や少子高齢化、インバウンドなどの社会問題や流行もの。③「高級なポッキー」「しゃべる自販機」などのギャップがあるもの。④「○年ぶり復活」「あの○が見直される」などの懐かし系。⑤「絵になる」もの。見た目が面白そうなもの。このような内容が絡めば記者の目に留まりやすく、記事になりやすい。

ただ、これらのリリースよりもさらに重要なのは広報担当者の「人」である。言い換えると広報担当者と記者との人間関係である。広報が会社の一部門であり、利益追求に貢献しなければいけない面もあるだろう。だが内向きの論理にとらわれ、時として閉鎖的になりがちな企業にあって、広報は社会の常識が通じ、社会常識に沿って活動する唯一の組織だ。

我々が広報にアプローチするのは、取材の深まりによって、「通告」だったり「確認」だったり、形態は様々だ。取材に絶対の自信があっても、広報には通告するよう指導している。社内の関係部署と様々な連絡調整が必要だろうし、他のメディアからの問い合わせに備える必要もあるだろう。それが信頼関係ということだと思っている。

広報の側で絶対に避けていただきたいのは「嘘をつく」ことだ。「当社から発表したものではありません」という対応も困る。間違っていれば否定し、詳細は決まってないが方向性は間違っていないのなら、そう対応してほしい。

また、広報の方々には“第二の記者”として社内を取材し、記者が魅力を感じるような情報を提供していただけるとありがたい。社内調整など大変なことが多いと思うが、生産や営業の現場を直接取材させていただけると大変うれしい。事業に直結するニュースだけでなく、教育研修や採用など社内の取り組みがニュースになることもある。広報の皆さんには、記者に大いに提案をしてほしい。 k

(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)

132016年8月号〔経済広報〕 13

マスコミ事情

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トップが考えるダイアローグ・マネジメントの新潮流①

第1次調査とインターナル・コミュニケーション(IC)

2013年秋のこと。日本広報学会会員企業25社の

広報部課長に重点課題を伺ってみると、社内広報を

挙げる企業が多かった。なぜなのか。素朴な問い

からスタートした研究会に参画した4社(アサヒグ

ループ、味の素、積水化学、東レ)の事例には、[社

内広報=社内報+イントラネットの編集・配信]と

いう枠組みには収まり切らない活動が報告された。

今、従来の「社内広報」が変容しつつあるのかもし

れない。この仮説を象徴する言葉として「インター

ナル・コミュニケーション」を設定して、23社の

ヒアリング調査(第1次)を2014年7~8月に進め

たところ、経営理念の浸透・共有、グループ連携、

トップ対話、SNS(ソーシャル・ネットワーキン

グ・サービス)・動画・広告活用から他部門連携ま

で、グローバル化を背景とした多様な経営課題に対

応するコミュニケーション活動の模索や展開の動き

が指摘された。

すなわち「経営理念・ビジョンの制定・浸透」「戦

略シナリオの策定・推進」「企業文化・組織風土の醸

成」「企業ブランド・新事業創造」の試みであり、そ

の背景には、企業規模の拡大やグローバル化に伴う

事業戦略や制度変更など、新たな経営環境にふさわ

しい従業員マインドの形成や働き方(人事慣行)改革

などの取り組みがあることも分かった。

一方、IC担当部門やツールも多様化してサイロ

化の懸念を表明する企業もあり、また事業情報の多

言語対応やセキュリティ確保、伝達スピード向上な

どグローバル化に対応するための課題も多数観察さ

れることになった。これらの課題を整理・体系化

し、実務にも役立てるようにできないか。それが第

2次調査の目的として設定された。

経営理念のコミュニケーションは「言葉プラスα」

第2次ヒアリング調査は2015年12月から開始さ

れた。調査テーマを、ICを象徴する「経営理念の

浸透」に絞るとともに、英国『フィナンシャル・タイ

ムズ』紙の定義にならって「組織内で行われるすべて

のコミュニケーション」を対象として1社当たり複

数回の取材を行った。また経営理念の定義を、信念

や価値観、行動規範など「表現された言葉」だけでな

く人の態度や表情、行動様式など「暗黙知として共

有されているイメージ等」を含むと設定した。

すなわち、可能な限り企業トップへのヒアリング

を実施したが、不可能な場合には社内限定の画像や

音声、文書の提供または関係者によるトップの発言

や行動についての証言を依頼した。この結果、幸い

なことに7社からの協力が得られた(表1)。協力企

業の皆さまにお礼を申し上げたい。

なぜこのような手間のかかる依頼を行ったかとい

うと、わが国のグローバル化が進む中で、欧米企業

のIC活動との比較可能性を考慮したためである。

そこでの活動ツールは、社内報(誌)やイントラネッ

多くの企業トップが経営理念の浸透に向けて、従業員対話に注力するだけでなく、従業員の積極的な貢献行動(エンゲージメント)実現に向けた全社活動も展開している。日本広報学会「新しいCCを考える会」が、経営理念の浸透活動について7社のトップおよび担当役員、広報部長などにヒアリングした結果、インターナル・コミュニケーションの新たな形が浮かんできた。4回にわたり事例と考察結果を報告する。

清 水 正 道(しみず・まさみち)

筑波学院大学 客員教授/日本広報学会 常任理事

日本企業のインターナル・コミュニケーショントップ主導で相互交流・対話型

〔経済広報〕2016年8月号14

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ト、Eメール・Eニュースレターの配信、掲示板の

活用などにとどまらず、「マネジメント・カンファレ

ンス」や「グループ・ブリーフィング」などの対面で

行われる対話活動も含まれる。

マネジメント・カンファレンスとは、CEOが全

社のスタッフに直接メッセージを伝え相互に話し合

うこと、またグループ・ブリーフィングは様々な階

層別の対話集会を行うことで、いずれも上からだけ

でなく、下から上への「相互交流・対話型コミュニ

ケーション」も用いられるのが特徴である。

■表1 調査企業と調査メンバー

○企業:旭硝子、伊藤忠商事、NTTデータ、西武ホールディングス、大阪ガス、オムロン、ブラザー工業 

○メンバー:雨宮和弘(クロスメディア・コミュニケーションズ)、池田勝彦(ソフィア)、北見幸一(電通パブリックリレーションズ)、斎藤智文(組織と働きがい研究所)、柴山慎一(NRIみらい)、中村昭典(名古屋大学大学院)、 増淵弘樹(かんぽ生命)、大和佐智子(日本能率協会)、山村公一(早稲田大学)

経営者はなぜ従業員対話に奮闘するのか

昨年12月から毎月行ったヒアリング調査で、

我々調査チームを驚かせたのは、トップ自身の身を

粉にした態度・行動である。

詳しい内容は、本誌9月号から3回にわたり報

告するが、「1年間で全社87拠点の社員と対話した」

「毎週末に若手との対話を継続し、すでに5000人の

顔と名前を覚えた」「全役員で従業員と直接対話を

269回行った」など、7社の事例だけ見ても「直接対

話」にかける努力は並大抵ではない。

それでもトップ退任後になって「もう一度トップ

になったら何をしたいか」という質問に、「従業員の

声をもっと聞きたい」と明言した方が複数いるので

ある。なぜこれほどまでに、経営者が従業員とのコ

ミュニケーションに力を入れるのだろうか。組織コ

ミュニケーションの観点から経営史を振り返ると、

1938年に米国で刊行されたチェスター・バーナー

ド著『経営者の役割』にたどり着く。

バーナードは、組織とは「2人以上の人々の意識

的に調整された活動ないし諸力の体系」と定義し、

組織は「共通目的」を達成するために、他人と協力

しようという気持ち「協働意欲」を持った人々と話

し合ったり、彼らに指示したりする「コミュニケー

ション」の3要素を駆使するものであるとした。そ

して「経営者の機能の第一は、コミュニケーショ

ン・システムを発展させることだ」と提示する。

さて今日も、企業をめぐる大きな環境変化が進行

している。

企業は、様々な法制度の変更、M&A(企業の合

併・買収)や事業再編、組織規模の拡大にとどまら

ず、社会情勢の変化に伴って組織運営の仕組みも変

えざるを得ない。グループ経営を導入すれば、グ

ループ全体を考えた経営や人事の仕組みに変え、意

志決定から従業員の処遇や配置も変更しなくてはな

らない。

また異文化企業と一緒になれば、制度から文化ま

で異なる。国内他企業と一緒に仕事をしようとして

も、業務用語や仕事の手順が違うことから始まり人

事評価まで異なり、数年経っても協働作業に苦労す

るという話をよく聞く。つまりグループを「新たな

組織」して再編成しようとすれば、一人ひとりの従

業員が組織の共通目的である「新たな経営理念」を再

度共有し、協働意欲を高めることが求められる。

企業変革のIC活動と広報の役割

しかしそれは、経営者・役員だけでできるもので

はない。経営施策の担い手である広報部門にも、あ

らためてその役割が問われているのではないか。

経営理念のコミュニケーションにおいても、言葉

や制度などの「認知的文化」領域は従来のツールや手

法で伝えられ、理解されるにしても、暗黙知として

共有される「情緒的文化」を浸透させていくことは至

難である。そのことに経営者たちは挑戦しているの

だと思う。文献調査によれば、GEやGAPのよう

な企業も、同様の試みを始めていると聞く。

広報部門は社内広報の“常識”を変革し、企業変革

に向けたIC活動にチャレンジしていくことが求め

られているのではないだろうか。

次号から調査メンバーによる各社のIC事例を紹

介していくが、同時に日本広報学会「新しいCCを

考える会」では引き続き、事例収集・分析を踏まえ

て実践手法の開発にも取り組む予定である。ご関心

のある方はぜひ連絡をいただきたい。  k

2016年8月号〔経済広報〕 15

Page 18: 月刊 8 - KKC · トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して 増えたクチコミ情報は、企業広報やPRにとっても 非常に有益なユーザーの声と捉えることができる。

ネットで影響力のある人にどうアプローチしたらいいのか加藤恭子(かとう・きょうこ)

(株)ビーコミ 代表取締役

はじめに

インターネットやガジェットの普及により、ス

マートフォンやタブレットPCから情報を得る人が

増えています。彼らの見ているものは、従来の4大

マスメディアではありません。つまり、企業の広報

部門が4大マスメディアとだけ付き合っていては、

ステークホルダーに情報を届けることが難しくなっ

ているのです。またここ数年では、ソーシャルメ

ディアの普及やキュレーションメディア(ニュース

アプリ)の登場により、シェアされたり、機械的に

アクセスの多い記事が上位に表示されるなどして、

特定の記事が加速度的に広まる傾向があります。情

報の広がり方も大きく変容しているのです。

ところで、インターネットで拡散の基となる情報

を発信しているのはどこの誰でしょうか。もはや

「メディア」と名乗っているサイトやアプリだけで

はなくなっています。そこでキーとなるのが「イン

フルエンサー」です。本稿ではインターネットで情

報発信し、影響力を持つ人を「ネットインフルエン

サー」と定義し、話を進めていきたいと思います。

ここまで書くと「記者と名乗っていない人に情報

提供することのリスク」を気にされる方もいること

でしょう。本稿では、インターネットで影響力を持

ち、情報発信をしているインフルエンサーを幾つか

に分類し、彼らに対しての適切な情報提供方法と付

き合い方について考えていきます。

様々なネットインフルエンサー

ネットインフルエンサーの走りとして、まず

2004年ごろから注目され始めたのはブロガーでし

た。当時は大きな影響力を持つブロガーはアルファ

ブロガーなどと呼ばれていました。ある飲料メー

カーは、これら注目されているブロガー向けにイベ

ントを行い、多くのインターネット上でのブログ記

事を獲得しました。その後もアルファブロガーは力

を持ち続け、ネタフルのコグレマサト氏などは注目

を集め続けています。

ここ数年のブロガーの傾向としては、広告のリン

クを掲載したことによるブログ収入をメインとして

会社勤務をやめる人が出てきていることです。ブロ

ガーは、日常生活に関わる広範な情報を扱っている

場合と専門に特化しているタイプに分かれます。前

者としては、地方に移り住み、個性的な意見を発

信していつも注目を集める「まだ東京で消耗してる

の?」のイケダハヤト氏や、特に幅広い情報を頻繁

に発信している「め~んずスタジオ」の瀬長明日香氏

などが挙げられます。両氏共に会社勤務にピリオド

を打ち、執筆活動をメインにしているブロガーの代

表格といえるでしょう。

専門的な内容に特化したブログ(ニュースを発信

するウェブサイト)を運営している人もいます。例

えばPublickeyは、IT専門のブログサイトです。

運営者の新野淳一氏は「ブログで飯が食えるか?」

と題して毎年ブログでの広告収入を公開しており、

2015年の売上額は1129万円だったことを明かして

います。クラフト(地)ビール専門ブログの「クラフ

トビール東京」も注目を集めています。運営者の川

野亮氏は、ビール業界で一目置かれる存在となり、

ラジオや雑誌連載、イベント講師、書籍の監修など

16 〔経済広報〕2016年8月号16

メディア事情

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でも頻繁に声が掛かり、多忙を極めています。また

大手ビールメーカーもこの川野氏を記者会見に呼ん

でいます。これら特化型ブログのすごいところは読

者層が絞り込まれていることです。ビールのサイト

を訪れる人はビールが好きな人です。よって幅広い

内容を扱う媒体よりも、より絞り込まれた人にリー

チできるのです。いわゆる業界紙のような役割を

持っています。先述した大手ビール会社の発表は、

川野氏のブログやソーシャルメディアを通じて大き

く拡散することとなりました。そのほかにも、カリ

フォルニアワインのお勝手口(ワイン)、日本ベジカ

フェガイド(マクロビオティック)、建設ITワール

ド(建設とIT)など多数あります。自社の該当分野

に、そのような専門的なブログがないかどうかを探

してみるとよいでしょう。

まとめサイトや、誰でも記事を投稿できるサイト

も数多くあります。こういった場で情報発信をする

人も「ネットインフルエンサー」です。例えば鳴海淳

義氏(現在はBuzzFeedのエディターとして活躍され

ています)は、2013年10月、個人のブログやまとめ

サイトを通じ、コンビニエンスストアのサラダチキ

ンに最初に注目して紹介、それが流行のきっかけと

なりました。その後サラダチキンは店頭から消える

ほどのブームになりました。鳴海氏はブログやまと

めサイトの中で「ダイエット効果」をうたいました。

このブームがきっかけとなり、同氏はコンビニおで

んによるダイエット本を出版するなど、ますます活

躍の場を広げました。

様々な場に寄稿をしたり、多くのフォロワーを抱

えている人も、忘れてはなりません。例えばイン

ターネットコミュニケーションの分野でいえば徳

力基彦氏(Facebook 友達数3424人、フォロワー数

2265人)が挙げられるでしょう。徳力氏は企業勤務

ながらも、数多くの記者会見やインターネットマー

ケティング系のイベントなどにも招かれ、それらの

情報をオンラインメディアへの寄稿、ソーシャルメ

ディアでの投稿、自分のブログでの発信と3つの異

なるアウトプット方法で発信を続けています。

ソーシャルメディアマーケティングの分野でいえ

ば、Facebookで2万1910人のフォロワーを持つルー

プス・コミュニケーションズの代表取締役である齋

藤徹氏(友達数は非公開)や、メディアの分野でいえ

ば、スマートニュースの執行役員の藤村厚夫氏(友

達数1614人、フォロワー数1582人)、イーコマー

スの分野であれば、村山らむね氏(友達数3618人、

フォロワー数2986人)も挙げられるでしょう。これ

らの人たちは「記者」ではありませんが、メディアへ

の寄稿も行っており、様々な情報拡散のキーとなる

専門家たちです。

インフルエンサーへ積極的に情報発信

今年4月には、サイクロン型掃除機で有名な海外

メーカーが出したユニークなドライヤーの記者会

見に数多くのブロガーが招待されていることも話

題となりました。招待されているブロガーの中には

Facebookのフォロワーが数百人の人も入っていま

した。会場では高額のドライヤーが記事執筆用に配

布され、いろいろなブロガーが様々な切り口で記事

を書き、インターネットを通じて非常に大きく拡散

しました。

とはいえ「個人のブログや、数百のフォロワー数

では拡散力は小さいのではないか?」と考えた人

もいるかもしれません。実は2016年5月10日付の

DIGIDAYの記事で興味深いものがありました。「イ

ンスタ(グラム)で今注目すべきは『マイクロインフ

ルエンサー』:影響力が最大となる最適解」という記

事です。また2016年6月6日には「マイクロインフ

ルエンサーに右往左往するソーシャルメディアマー

ケティングの実態」という記事を小川浩氏が書いて

います。ここでは、マイクロインフルエンサーは、

「全国区的な知名度があるわけではないが、特定の

領域では熱狂的なファンを有する、狭い範囲でのカ

リスマ的存在」と定義されています。人々の趣味や

ライフスタイルが多様化する中で、規模は小さいも

のの、影響力を持つ人の数は増えているのです。そ

して、とにかく万人に知られている著名人の場合、

いくらフォロワーが多かったとしても、そのフォロ

ワーの興味・関心はそれぞれ大きく異なっているこ

とでしょう。フォロワー数が多過ぎない人の方が、

コアでロイヤルティの高いフォロワーを抱えている

ケースが多いのです。そういった、特定分野のネッ

トインフルエンサーに企業の情報をお知らせする方

が高い効果を上げることができます。前述の掃除機

メーカーは従来メディアと、そういったマイクロイ

ンフルエンサーとにバランスよく声をかけ、幅広い

情報拡散を勝ち取ったといえるでしょう。

172016年8月号〔経済広報〕 17

メディア事情

Page 20: 月刊 8 - KKC · トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して 増えたクチコミ情報は、企業広報やPRにとっても 非常に有益なユーザーの声と捉えることができる。

ネットインフルエンサーと関わる際の注意点

では、ネットインフルエンサーに情報提供を行う

際の注意点はなんでしょうか。まずは、その人の過

去の記事や投稿に目を通すことです。過去の記事や

投稿を見れば、その人の興味・関心、文章力、記事

での製品やサービスの取り扱い方などが分かるから

です。

写真を多用する人もいれば、文章を長く書く人、

詳しい解説を書く人もいれば、イベントの演出を重

視する人もいます。傾向を考慮し、それぞれの人に

合った情報提供が求められます。

また、相手に対して「報酬は発生しない」「ブログ

に書くときはモニターとして(記事執筆の際に体験

して書けるように)製品の提供を受けていることを

明記してほしい」などと、事前に取り決めを明文化

して確認することも重要です。「暗黙の了解」などと

思ってしまうと、書き手が製品の授受があったこと

を書き忘れてしまった場合にステマ(ステルスマー

ケティング)だと言われてしまうリスクもあります。

インフルエンサーへのアプローチ法

では、どのようにすれば、こういった方々に接触

できるのでしょうか。まずはソーシャルリスニング

を行い、話題の基となる情報を発信している人を見

つけることが重要でしょう。最近注目度が高まって

いるインスタグラムなどであれば、ハッシュタグを

入れて検索する方法も有効でしょう。

また、専門性の高いインフルエンサーを見つける

場合は、自社サービスや業界動向について情報発信

をしている人やオンラインメディアに寄稿している

専門家を探し、それらの人とソーシャルメディアで

繋がったり、「企業側から、プレスリリースなどの情

報提供をしたい」ことを連絡し、相手が興味を持っ

たら適宜連絡をするという方法があります。連絡先

や連絡方法が公開されていることも多くあります。

またブロガーやインフルエンサーが多く集まるイベ

ントに参加し、そこで名刺交換をする方法もありま

す。単にメールやメッセンジャーなどでの依頼より

も、対面の依頼の方が重視される傾向があります。

人によっては取材や情報提供を受け入れていない

こともあるので、確認が必要です。(ネットで見掛け

た面白い情報だけを取り上げるというスタンスのブ

ロガーもいます)

また、見つけ方として、業界有識者に推薦しても

らう、ステークホルダーにフォローしている人や購

読しているブログのアンケートを取るなどの方法も

あります。

トラブルシューティング

最後にトラブルシューティングについても少し触

れておきたいと思います。間違った内容が出た場合

は、通常のメディアと同じく、修正を依頼しましょ

う。また、新製品発表会に招いたインフルエンサー

が、発表会の不満(質疑応答がなかった、時間が長

かった)もネットに書いていた場合は実はかえって

味方になってくれる可能性もあるので、次に問題点

を改善してまた招くことも有効でしょう。全く書い

てもらえなかった場合は、何かまずい点はなかった

か調査をして仮説を立て、次に向けた改善を行って

いくことが重要です。

以上、ネットインフルエンサーへのアプローチに

ついて簡単にまとめました。まずはスモールスター

トで取り組んでみてはいかがでしょうか。 k

アプローチ10カ条 1. 最終的に誰に情報を届けたいのかを考える。 2. 必ず過去のブログ(投稿)を読む。取材をしてい

るのか、公開情報だけを基に発信しているのか、自社サービスと合致しているか、クオリティを見る。単に有名だからといって連絡しない。

3. 適切な方法で連絡する。連絡の時間帯を考慮する(企業勤務のインフルエンサーも多い)。

4. 報酬がないことを伝える。広告ではないこと、記事のネタになるようであれば情報を提供したい旨を伝える(広告企画の場合は、その旨を伝える)。

5. 個別の取材なのか、記者発表会なのか、言葉の定義も含めて共有する。

6. 記事にしやすいような配慮を行う(資料の準備)。 7. 製品やサービスを記事執筆用に無償提供する場

合は、その旨を記事中に明記してもらうようにする(いわゆる「ステマ」を避ける)。

8. インスタなどの場合は、「絵になる素材」を必ず用意する(顔出し看板など)。

9. ネットで拡散しやすい仕掛けやハッシュタグを用意しておく。

10. 企業側の都合で何度も呼び出さない(相手の時間を奪うことになる。相手は打ち合わせに出ても、記事を書いても報酬をもらえない)。

18 〔経済広報〕2016年8月号18

メディア事情

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不透明な時代における経営マネジメントを議論-米国ビジネススクール教授招聘プログラム-

経済広報センターは、5月30日から6月3日にかけて、米国のビジネススクールの教授を日本に招聘し、

経済界、政府関係者、有識者と世界経済における企業経営の課題について意見交換を行った。

今回来日したのは、デューク大学ビジネススクールのシム・シトキン教授、コロンビア大学ビジネスス

クールのギータ・ジョハール教授、ミシガン大学ビジネススクールのプニート・マンチャンダ教授、マサ

チューセッツ工科大学経営大学院のレツェフ・レヴィ教授、ノースウエスタン大学経営大学院のマイケル・

マッツェオ准教授の5名。一行は、コニカミノルタの山名昌衛代表執行役社長、JR東日本の小縣方樹取締

役副会長、トヨタ自動車の早川茂取締役専務役員をはじめ、10社の経営幹部と面会し、経営戦略や国際事業

展開などについて活発なディスカッションを行った。また、岡田直樹財務副大臣と日本の経済財政運営など

について懇談するとともに、各界の有識者と面会した。

最終日には、不透明なグローバル経済を乗り切るためのカギを議論するシンポジウム「激動する世界経済に

おけるマネジメント」に参加した。以下は、同シンポジウムにおける5名の講演概要である。

不透明な時代のリーダーシップシム・シトキンデューク大学 ビジネススクール教授

不透明な時代のリーダー

は、人々に、状況の複雑さを

認識させた上で、適切なリ

スクをとる必要性を理解させ

る役割を果たさなければな

らない。このために不可欠な

のは、リーダーに対する信頼

である。信頼がなければ、組織内の人々は、決して

複雑な問題に主体的に対応したり、リスクをとった

りはしない。そもそもリーダーシップとは、専門知

識や個人的特徴などに由来するものではなく、リー

ダーとフォロワーとの関係から生まれる。

また、仮にリーダーが重要だと考えることであっ

ても、人々が同じような考えを持つとは限らない。

複雑で不透明な時代ほど、リーダーは分かりやすく

問題を説明し、その対策に関して組織内の支持を高

めることが求められる。

文化、創造性、イノベーションギータ・ジョハールコロンビア大学 ビジネススクール教授

変化の激しい現代こそ、イ

ノベーションを成長の原動力

としていかねばならない。世

界60カ国の企業1500社のC

EOを対象に、IBMが実施

した調査によれば、先進5

カ国(日米英独仏)すべてで、

約80%のCEOが「イノベーションは経済成長のカ

ギ」と回答した。しかし、興味深いことに、「CEO

自身が創造性のポテンシャルを十分発揮している

か」との問いに対しては、米国では39%のCEOが

「Yes」と回答したのに対し、日本では17%にすぎ

なかった。

また、ミシガン大学や東京大学などが共同で実施

した国民の意識調査によれば、米国では35%が自

分自身を「アイデアに溢れ、創造的」と評価している

のに対し、日本では20%だった。加えて、米国で

2016年8月号〔経済広報〕

経済広報センター活動報告

19

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は16%が「冒険、リスクをとるなどの刺激が大切」

と答えたのに対し、日本では3%だった。日米の文

化的違いはあるだろうが、創造的な活動にリスクが

伴うことは不可避である。日本には、積極的にリス

クをとる文化が必要なのではないだろうか。

中国eコマースに学ぶことプニート・マンチャンダミシガン大学 ビジネススクール教授

現在、eコマースなどのイ

ンターネットサービス10大

企業のうち4社は中国企業だ

(京東〔ジンドン、3位〕、テ

ンセント〔5位〕、アリババ

〔6位〕、百度〔バイドゥ、7

位〕)。これらは、欧米の単な

るまねや、中国固有の事情に合わせたシンプルなカ

スタム化という段階を既に脱している。例えばアリ

ババは、BtoC、BtoBのみならず、消費者オーク

ションなど、幅広い分野で、地方企業の国際的発展

に資するプラットフォームなどを提供し、経済的に

も社会的にも大きな成果を挙げている。

中国企業の発展の背景には、一般的には、中国政

府の明確な政策的な支援があると考えられている。

しかし、興味深いことに、eコマース業界に対して

は、中国政府は自由な発展を認めてきた。これが、

今日の成功の基盤となっている。

決定のための分析レツェフ・レヴィマサチューセッツ工科大学 経営大学院教授

小売業やヘルスケアなどの

広い分野で、ビッグデータの

分析の重要性が注目されてい

る。しかし、企業の意思決定

において、ビッグデータの分

析結果がまだまだ十分に活用

されていないのも事実だ。私

が直接関わった企業でも、90%以上は、十分な分

析をするに至らなかった。この大きな理由は、なん

のために、ビッグデータを活用するのかが、そもそ

も明確になっていないことだ。まずは、企業として

の意思決定の目的を明確にし、これを達成するため

に必要なデータは何か、どのように入手し、どう活

用すべきか、といったプロセスを一つひとつクリア

していくことが不可欠だ。

不確実性、投資と成長マイケル・マッツェオノースウエスタン大学 経営大学院准教授

不透明な時代には、投資を

検討しても、マイナス面に意

識がいきがちで、結局は、二

の足を踏んでしまう、といっ

たケースが多い。しかし、こ

のような不透明な時代でも、

成長のためには投資が不可欠

であり、常にポジティブな側面を正当に評価するこ

とが極めて重要だ。また、不透明が故に、他社が投

資を行わないとすれば、自社で投資を決定すること

自体が、大きなプラス要因となる可能性もある。

加えて、固定観念にとらわれないことも必要だ。

自社技術の活用策を柔軟に検討することによってこ

そ、新規分野の成功の可能性が見えてくる。米国で

は、消火用ホースを製造する中小企業が、ホースの

技術をシェールオイルの掘削分野に転用して大きな

利益を上げたケースもある。  k

(文責:国際広報部主任研究員 長谷川正彦 

国際広報部主任研究員 藤原慎二)

シンポジウムの様子

〔経済広報〕2016年8月号

経済広報センター活動報告

20

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「米国ビジネススクール教授招聘プログラム」主要日程(敬称略)

5/30(月) 三浦 潤 外務省北米局北米第二課長

「日米経済関係とグローバル連携」

岡田直樹 財務副大臣/参議院議員

「日本経済と財政」

平賀富一 ニッセイ基礎研究所主席研究員アジア部長/新潟大学大学院教授

「アジア大競争時代における日本企業の戦略と変化」

冨浦英一 一橋大学大学院教授

「日本の製造業による国境を越えた事業活動」

5/31(火) 板垣靖士 三菱東京UFJ銀行執行役員

「MUFGのグローバルビジネス」

赤塚 庸 野村證券常務執行役員

「野村グループにおけるイノベーションへの取り組み」

森田 守 日立製作所執行役常務

「日立の成長戦略」

6/ 1(水) 平野正雄 早稲田大学商学学術院教授

「日本企業のグローバル化」

茂木 修 キッコーマン常務執行役員

「キッコーマン社のマーケティング戦略

-米国で醤油文化を浸透させるために」

佐藤雅敏 三井不動産取締役常務執行役員

「三井不動産の経営戦略」

6/ 2(木) 中原俊也 JXエネルギー執行役員

「激動する石油業界におけるマネジメント」

早川 茂 トヨタ自動車取締役専務役員

「トヨタの持続的成長に向けた取り組み」

6/ 3(金) 山名昌衛 コニカミノルタ代表執行役社長

「コニカミノルタの成長戦略」

岡添 清 三菱重工業執行役員

「三菱重工業の米国での事業活動」

小縣方樹 JR東日本取締役副会長

「JR東日本の成長戦略」

シンポジウム「激動する世界経済におけるマネジメント」

岡田直樹財務副大臣(右から3番目)と

コニカミノルタの山名昌衛社長(右奥)と

JR東日本の小縣方樹副会長(右奥)と

「KKC米国ビジネススクール教授招聘プログラム」米国のビジネススクール教授の対日理解促進と、経済界や政府・政界、学界関係者との意見交換を目的に1994年にスタート。これまでの招聘者は約200名。

2016年8月号〔経済広報〕

経済広報センター活動報告

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N E W S

Keizai Koho Center News

6月1日~6月21日

米 国( ペ ン シ ル ベ ニ ア

州フィラデルフィア)で、

日立製作所の八丁地隆顧問を講

師に、「第20回ビジネス・スピー

カー・シリーズ」を開催した。

早稲田大学国際教養学

部で「企業人派遣講座」を

実施した。(テーマ:「日本企業論

~日本企業の国際戦略とその経

営理念~中間試験」、講師:樋口

清秀 早稲田大学 国際教養学部教

授)

「共同通信大阪経済部の

仕事」をテーマに、「企業広

報講座(第2回大阪会場)」を開催

した。講師は、共同通信社の高橋

雅哉大阪支社編集局経済部長。(詳

細は、本誌12ページを参照)

慶應義塾大学商学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「人口減少下にお

ける日本経済と企業の成長戦略」、

講師:平子 勝介 みずほフィナン

シャルグループ コーポレート・

コミュニケーション部長)

同志社大学経済学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「科学と技術~イ

ノベーションと企業価値~」、講

師:阿波 誠一 ヤマト運輸 執行役

員)

横浜国立大学大学院都

市イノベーション学府(横

浜市と共催)で「企業人派遣講座」

を実施した。(テーマ:「都市マネ

ジメント~環境未来都市の実現へ

~産業界の挑戦と都市マネジメン

ト」、講師:和久 俊雄 JXエネ

ルギー 新エネルギーカンパニー

水素事業推進部副部長)

上智大学で「企業人派遣

講座」を実施した。(テー

マ:「日本の産業とイノベーショ

ン~グリーン・イノベーションと

水素エネルギー」、講師:斎藤 健

一郎 JXリサーチ 執行役員エネ

ルギー技術調査部長)

早稲田大学国際教養学

部で「企業人派遣講座」を

実施した。(テーマ:「日本企業論

~日本企業の国際戦略とその経営

理念~日本の建設機械製造業と国

際戦略」、講師:駒村 義範 コマ

ツ 特別顧問)

米国戦略国際問題研究

所 の ア ー ネ ス ト・ バ ウ

ワー シニア・アドバイザー/

BowerGroupAsia CEOを講師

に、懇談会「東南アジアにおける

競争:その現状と日米協力の重要

性」を開催した。参加者は60名。

日 本 経 済 新 聞 に「 第 5

ス テ ー ジ の 経 済 社 会 ―

Society 5.0 ―」と題する「意見広

告」を掲載した。

「長寿企業の技術革新」

をテーマに、愛知県名古

屋市で「在日中国留学生企業見学

会」を開催した。講師は、ノリタ

ケカンパニーリミテドの左合澄人

経営管理本部人事部長。

Twitter Japanの 西 窪

恭未子グローバルビジネ

6/7

6/8

6/8

6/10

6/14

6/8

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6/9

6/1

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6/3

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〔経済広報〕2016年8月号22

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スマーケティング シニアマーケ

ティングマネージャーを講師に、

企業広報講演会「Twitterと企業広

報」を開催した。(詳細は、本誌2

ページを参照)

慶應義塾大学商学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「人口減少下にお

ける日本経済と企業の成長戦略」、

講師:矢島 晃 鹿島建設 経営企画

部企画グループ長)

同志社大学経済学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「科学と技術~イ

ノベーションと企業価値~」、講

師:伴野 拓司 日本郵船 海洋事業

グループグループ長)

「第5回評議員会」を開

催し、2015年度決算に関

する件、役員などの選任に関する

件について原案通り承認された。

また、2015年度事業について報

告した。

横浜国立大学大学院都

市イノベーション学府(横

浜市と共催)で「企業人派遣講座」

を実施した。(テーマ:「都市マネ

ジメント~環境未来都市の実現へ

~産業界の挑戦と都市マネジメン

ト~横浜の工場と地域との関わり

など、キリンのCSV活動につい

て」、講師:大北 博一 キリン C

SV推進部主幹)

上智大学で「企業人派遣

講座」を実施した。(テー

マ:「日本の産業とイノベーショ

ン~ANA商品サービスにおけ

る世界との競争」、講師:岡 功士

全日本空輸 商品戦略部部長)

早稲田大学国際教養学

部で「企業人派遣講座」を

実施した。(テーマ:「日本企業論

~日本企業の国際戦略とその経営

理念~日本における資産管理サー

ビス」、講師:高橋 秀行 ステー

ト・ストリート信託銀行 取締役

会長)

慶應義塾大学商学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「人口減少下にお

ける日本経済と企業の成長戦略」、

講師:江尻 良 東海旅客鉄道 執行

役員広報部長)

同志社大学経済学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「科学と技術~イ

ノベーションと企業価値~」、講

師:箕輪 憲良 ヤフー 社会貢献推

進室公益活動支援リーダー) k

(国内広報部 鈴木陽子)

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定価:1300円(税込)編集・発行株式会社宣伝会議購読申込月刊「広報会議」読者サービスセンターTEL:03-3475-7670インターネットからもお申し込みいただけます。http://sendenkaigi.com/

9月号

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PRになぜクリエイティブが必要か[特集] 広報部がエントリーできる!国内外アワード一覧付き

「カンヌライオンズ」PR部門レポート[シリーズ] 次世代メディアのキーパーソンたちBuzzFeed /ハフィントンポスト/NewsPicks

PR・IR・危機管理

2016年8月号〔経済広報〕 23

Page 26: 月刊 8 - KKC · トし拡散することだけが使い方ではない。拡散して 増えたクチコミ情報は、企業広報やPRにとっても 非常に有益なユーザーの声と捉えることができる。

Corporate message

コーポレートメッセージ

このページでは、企業の「コーポレートメッセージ」や「コーポレートステートメント」など、事業活動を行う上で大切にしている想いやストーリーについて紹介します。

急ピッチで進むグローバルな製造拠点展開

古河スカイと住友軽金属工業との経営統合から約

3年。統合シナジーを最大限に生かしながらUAC

Jはこの間、「世界的な競争力を持つアルミニウムメ

ジャーグループ」の実現を目指し、積極的なグロー

バル戦略を展開してきた。

幅広い分野でアルミニウムの需要が拡大するアジ

ア市場に対応し、タイで鋳造から仕上げ工程までの

一貫生産を手掛けるUACJ (Thailand) Co., Ltd. ラヨン

製造所を建設。2015年8月から高品質と低コスト

を両立した一貫生産体制を確立している。また、米

国で、子会社Tri-Arrows Aluminum Inc.の下でアル

ミニウム缶の世界最大規模の工場Logan Aluminum

Inc.を運営。さらに、自動車用アルミパネル材の

事 業 会 社Constellium-UACJ ABS LLCの 設 立 や、 自

動車用アルミニウム構造材の製造・販売会社UACJ

Automotive Whitehall Industries, Inc.の設立などに

よって、自動車用アルミニウム材事業のさらなる強

化、拡大を推進している。こうした製造拠点の展開

を通して、UACJはアルミニウムのグローバル市

場において確

固たるプレゼ

ンスを確立し

つつある。

アルミニウムの可能性が独自のCSRを実現する

グローバルアルミニウムメジャーグループの実現

を目指すUACJは多岐にわたるアルミニウム製品

を生み出している。身近な飲料缶から自動車用部

材、エレクトロ機器・スマートフォンや医療用品、

さらにはロケット・航空機の部材まで。いずれもア

ルミニウムの多様な機能を生かした素材を提供する

ことで、様々な業界の技術イノベーションを支えて

いる。

また軽量・

リサイクル性

など、アルミ

ニウムの環境

にやさしい特

徴を活用した

製品を開発す

ることで、UACJは独自のCSR(企業の社会的

責任)を実践している。例えば、CO 2(二酸化炭素)

削減のため軽量化による燃費向上が大きな課題と

なっている自動車。UACJは高度な加工技術で、

自動車部品のアルミニウム化による軽量化の推進に

貢献している。また、UACJの主要製品のひとつ

であるアルミニウム缶はリサイクル率約9割を誇

り、循環型社会の形成に寄与。持続可能な社会の実

現に向けて、UACJはアルミニウムの無限の可能

性を開発することで大きな社会的貢献を果たしてい

る。 k

(国内広報部主任研究員 平澤 徹)

2013年10月1日、UACJは古河スカイと住友軽金属工業との統合によって誕生した。世界のアルミニウム圧延品の需要は確実な拡大が見込まれており、この有望な成長マーケットにおける新たな飛躍を期しての経営統合である。UACJ誕生時に発信された「日本発のグローバルアルミニウムメジャーグループ」というメッセージには、アルミニウムメーカーとして長い歴史と実績を培ってきた2社の統合によるシナジー効果を生かして、世界のアルミニウム圧延業界をリードしていこうとする強い決意が込められている。

世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ(株)UACJ

〔経済広報〕2016年8月号24

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Book

広  報トピックス

企業広報ニュース

少子高齢化や人口減少、グローバル競争などが加速し、ますます企業の価値が問われる時代となっている。今、企業がすべきことは優秀な人材を獲得・定着させるために、“良さ”や“強み“を見いだし、そこで働く社員やステークホルダーに対してその想いを伝え、浸透させていくことだろう。そして、目標とするビジョンや独自の企業カルチャーを”ブランド“まで高めることで、競合との差別化や企業の成長へと繋がっていく。著者は、ブランディングは攻めるための経営戦略であり、ブランディングに終わりはないと主張している。同書は、ブランディングの実践事例として、独自のビジネスモデルで急成長する家具業界の「ニトリ」をはじめ、「アカデミー」「ひかり建設」「タカギ」「アルタコンサルティンググループ」「美濃焼ブランディングプロジェクト」「にんべん」「イマジナ」といった、有名企業から自治体のプロジェクトまで8事例を紹介している。業種や事業規模は多種多様だが、共通していることは、現状維持を良しとせず問題意識を持って永続的に継続する企業として、成長するために必要なことは何かを真剣に考えて取り組んでいることだ。企業ブランディングの重要性を認識することができる貴重な機会となることはもちろん、登場するリーダーたちの熱い志と情熱を感じることで、ビジネスマンとして成長できるヒントが満載の一冊だ。 k

(国内広報部主任研究員 古川典子)

『今、企業がブランド力を上げる理由

想いを伝える企業ブランディング』

経済産業省は東京証券取引所と共同で、積極的にITを利活用する企業を「攻めのIT経営

銘柄2016」として選定した。今年で2回目となり、今回選定されたのは26社である。「攻めのI

T経営銘柄」とは、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化といった視点から経営革新、収

益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業である。また、長

期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力のある企業として紹介するこ

とを通じ、「攻めのIT経営」の取り組みを促進することを目指している。

選定に当たっては、東京証券取引所の上場企業に対して「攻めのIT経営に関するアンケー

ト調査2016」を実施し、「経営方針・経営計画における企業価値向上のためのIT活用」や「企業

価値向上のための戦略的IT活用」など、5つの項目についてスコアリングするとともに、財

務状況によるスクリーニングを行い、最終的に26社が選定された。2年連続で選定されたの

は、積水ハウス、アサヒグループホールディングス、東レ、エフピコ、ブリヂストン、JFE

ホールディングス、日立製作所、日産自動車、トッパン・フォームズ、東日本旅客鉄道、三

井物産、東京センチュリーリースだった。新たに選定された14社は、大和ハウス工業、花王、

新日鐵住金、IHI、コニカミノルタ、東京ガス、日本郵船、日本航空、ヤフー、三菱商事、

Hamee、日本瓦斯、みずほフィナンシャルグループ、セコムである。  k

(国内広報部主任研究員 磯部 勤)

「攻めのIT経営銘柄

2016」に26社を選定

関野吉記著、(株)イマジナ2016年4月発行、1000円(税別)

2016年8月号〔経済広報〕 25

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発行:一般財団法人 経済広報センター   Printed in Japan

企業・団体のCSR活動

平成28年8月1日発行(毎月1回1日発行)

昭和55年10月23日第3種郵便物認可

http://www.kkc.or.jp/

第38巻第8号通巻444号

2016

8

りそなホールディングスは、「お客さまの喜びがりそなの喜び」という基本姿勢の下、「CSR経営=持

続可能な社会づくりへの貢献」と位置づけ、「コーポ

レートガバナンス」「人権」「ダイバーシティ」「コンプ

ライアンス」「消費者課題/お客さまサービス」「コ

ミュニティ」「環境」の7つの課題解決を通じて、地

域社会と共に発展する創造性に富んだ金融サービス

企業を目指している。

さらに、「地域」「次世代」「ダイバーシティ」「環境」

をCSR(企業の社会的責任)の重点課題とし、子ど

もたちへの育成支援に積極的に取り組んでいる。そ

の代表的な取り組みが、毎年夏休み期間に開催す

る「りそなキッズマネーアカデミー(以下、「夏キッ

ズ」)」を中心とした「職業体験」「出張授業」などの子

ども向け金融経済教育だ。この活動は、教育界、経

済界、NPO法人などと構築している地域のプラッ

トフォームを活用し、たくましく生きる力を持った

子どもたちを地域社会と共に育むことを目的として

いる。特に「夏キッズ」では、従業員が講師となり、

クイズやゲームを通じてお金の流れや銀行の役割に

ついて授業をし、子どもたちは楽しみながら学んで

いる。

また、「食」や「化学」「ものづくり」といった生活を

していく上で欠かせないもの、知ってほしいものな

ど、金融経済にとどまらないテーマを組み合わせて

取り上げていることも特徴だ。このようなテーマ

は、地域の企業・団体とのコラボレーション企画と

して開催され、「夏キッズ」の目玉のひとつとなって

いる。

2005年に東京・埼玉・大阪の3カ所、参加者90

人からスタートしたこの取り組みは、2015年には

210カ所、参加者4496人と過去最高になり、11年間

で卒業生は2万5000人を超えた。参加した子ども

たちからは「お金の大切さが分かった」「銀行の仕事

に興味を持った」という声が寄せられ、従業員のモ

チベーションアップにも繋がっている。

2016年に開催している「りそなキッズマネーアカ

デミー 2016」には7000人を超える申し込みが寄せ

られている。「小さいころからお金について学ばせ

たい」という要望が近年増加しているため、りそな

ホールディングスは小学校低学年向けの開催にも力

を入れるなど、今後も地域社会の力を結集し、多様

な金融経済教育を通じて次世代を支える子どもたち

の育成に取り組んでいく考えである。   k

(国内広報部主任研究員 守谷ちあき)

(株)りそなホールディングス

お問い合わせ先コーポレートコミュニケーション部 CSR推進室TEL:03-6704-1650

HP http://www.resona-gr.co.jp/holdings/csr/index.html

りそなホールディングスの「りそなキッズマネーアカデミー」

クイズやゲームなどを通じて、お金に関する知識や銀行の社会的役割などを楽しく学ぶ

発行人/渡辺 良 編集人/佐桑 徹

[ISSN0918–4600

東京都千代田区大手町一-

三-

経団連会館

(本体価格三〇〇円+税)

電話〇三-

六七四一-

〇〇二一 〒一〇〇-

〇〇〇四

(送料別、賛助会員の購読料は会費に含む)

普段見られない銀行の中を探検

予算内で材料をそろえてカレー作りに挑戦するなど、社会体験を通して、子どもたちの「生きる力」を育む企画も多数実施している