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NTT技術ジャーナル 2016.12 55 NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレ クトロニカ ・ フューチャーラボ(オーストリア)は, ICTとアートの融合による新しいユーザ体験のコンセプ ト創出や研究の推進をめざし,2016年 9 月 8 日,共同研 究について合意しました. 今回の共同研究によって,NTTが持つ人工知能やメ ディア処理技術等の最先端テクノロジと,アルスエレク トロニカ ・ フューチャーラボが持つクリエイティブシン キングに関するスキル ・ ノウハウを持ち寄り,2020年に 向け公共空間における「深い感動,新しい体験,おもて なし」の提供をめざし,新しいコンセプトの創出や研究 の推進を図っていきます. ■背 景 NTTの研究所は情報通信分野において世界屈指の総 合的な研究機関として,新たなコミュニケーションサー ビス,コミュニケーションネットワークを実現する基盤 技術,10年後を見据えた最先端の基礎技術等に関する研 究開発を進めています.また,2020年における訪日外国 人を含めた多様かつ大勢の人々のおもてなし ・ 感動体験 の実現に向け,羽田空港国際線ターミナル,なんばエリ ア商業施設,SXSW2016(世界最大級のビジネスとコン テンツの祭典),Japan KABUKI Festival in Las Vegas 2016等の公共空間にて実証実験を行っています. アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボはオースト リア ・ リンツ市のアルスエレクトロニカ ・ センターを拠 点とし,設立以来メディアアートに関する研究 ・ 教育 ・ 社会活動を行ってきました.拠点であるリンツ市は,ア ルスエレクトロニカの長年の活動により,現代芸術が発 展 ・ 振興した都市として世界的に知られています.アル スエレクトロニカ ・ フューチャーラボは先端テクノロジ とアートに関するグローバルなリーダーやビジョナーと のコネクションを有しており,アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボが創造した未来志向の新しいコンセプ トやビジョンは,世界中のクリエイティブな企業に強い 影響力を与えています. ■共同研究の概要 NTTの強みである最先端のICTのさらなる革新だけで なく,アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボの強み であるクリエイティブシンキングに関するスキルやノウ ハウを組み合わせることによって,新しいコンセプトの 創出や研究を推進し,人間の感性や感情に訴えかける今 までにない新しいサービスや未来コンセプトモデルの開 発,新しい感動体験の創造をめざします.具体的には,「人 工知能」「IoT・ロボティクス」「高臨場メディア」「ビッ グデータ」「UI/UX」「人間情報科学」等をテーマとし た共同研究を実施します. ■アルスエレクトロニカ ・ フェスティバル2016における 成果第 1 弾の出展について アルスエレクトロニカが主催する,アルスエレクトロ ニカ ・ フェスティバル2016(オーストリア, 9 月 8 ~12 日)は革新的なメディアアートの展示やテクノロジに関 するシンポジウム等,世界的なメディアアートの祭典と して知られています.今回の共同研究の成果を,以下の ように共同出展しました. (1) 参加者体験を深める展示会アプリ: Ars Wild Card+ 展示物のQRコードを読み取り展示物を認識するアル スエレクトロニカ ・ フューチャーラボの展示会アプリ 「Ars Wild Card (1) 」にNTTのアングルフリー物体検索 技術 (2) を適用し,QRコードがなくてもスマートフォン アプリのカメラ機能によって展示物を認識させ,さらに 展示物をポストカードとして印刷し,持ち帰ることがで きます(図1 ). (2) 驚きを与える誘導サインと参加型ワークショップ NTTの技術である変幻灯 (3) によって,本来動くはず のない印刷された展示会場内の案内看板や,来場者が描 いた絵が動いているように見えます(図2 ).デジタル サイネージのような,動的コンテンツを表示する機器で はなく,本来動かない印刷物 ・ 看板 ・ 床等が動くことに よって見る者に驚きを与える誘導サインを実現します. また,フェスティバルのメインテーマである「現代の錬 金術師(Alchemists of Our Time)」に合わせて来場者 が架空の錬金術師を描くワークショップでは,来場者が 描いた顔がその場で動き出します. NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボが 「ICTとアートの融合」によるユーザ体験の高度化に関する共同研究を開始

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Page 1: NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレ …図1 Ars Wild Card+による展示物情報の取得 図2 変幻灯による誘導サインの例(左側へ誘導するように見える)

NTT技術ジャーナル 2016.12 55

NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボ(オーストリア)は,ICTとアートの融合による新しいユーザ体験のコンセプト創出や研究の推進をめざし,2016年 9 月 8 日,共同研究について合意しました.

今回の共同研究によって,NTTが持つ人工知能やメディア処理技術等の最先端テクノロジと,アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボが持つクリエイティブシンキングに関するスキル ・ ノウハウを持ち寄り,2020年に向け公共空間における「深い感動,新しい体験,おもてなし」の提供をめざし,新しいコンセプトの創出や研究の推進を図っていきます.

■背 景NTTの研究所は情報通信分野において世界屈指の総

合的な研究機関として,新たなコミュニケーションサービス,コミュニケーションネットワークを実現する基盤技術,10年後を見据えた最先端の基礎技術等に関する研究開発を進めています.また,2020年における訪日外国人を含めた多様かつ大勢の人々のおもてなし ・ 感動体験の実現に向け,羽田空港国際線ターミナル,なんばエリア商業施設,SXSW2016(世界最大級のビジネスとコンテンツの祭典),Japan KABUKI Festival in Las Vegas 2016等の公共空間にて実証実験を行っています.

アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボはオーストリア ・ リンツ市のアルスエレクトロニカ ・ センターを拠点とし,設立以来メディアアートに関する研究 ・ 教育 ・社会活動を行ってきました.拠点であるリンツ市は,アルスエレクトロニカの長年の活動により,現代芸術が発展 ・ 振興した都市として世界的に知られています.アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボは先端テクノロジとアートに関するグローバルなリーダーやビジョナーとのコネクションを有しており,アルスエレクトロニカ ・フューチャーラボが創造した未来志向の新しいコンセプトやビジョンは,世界中のクリエイティブな企業に強い影響力を与えています.■共同研究の概要

NTTの強みである最先端のICTのさらなる革新だけで

なく,アルスエレクトロニカ ・ フューチャーラボの強みであるクリエイティブシンキングに関するスキルやノウハウを組み合わせることによって,新しいコンセプトの創出や研究を推進し,人間の感性や感情に訴えかける今までにない新しいサービスや未来コンセプトモデルの開発,新しい感動体験の創造をめざします.具体的には,「人工知能」「IoT ・ ロボティクス」「高臨場メディア」「ビッグデータ」「UI/UX」「人間情報科学」等をテーマとした共同研究を実施します.■アルスエレクトロニカ ・フェスティバル2016における成果第 1弾の出展についてアルスエレクトロニカが主催する,アルスエレクトロ

ニカ ・ フェスティバル2016(オーストリア, 9 月 8 ~12日)は革新的なメディアアートの展示やテクノロジに関するシンポジウム等,世界的なメディアアートの祭典として知られています.今回の共同研究の成果を,以下のように共同出展しました.

(1) 参加者体験を深める展示会アプリ: Ars Wild Card+展示物のQRコードを読み取り展示物を認識するアル

スエレクトロニカ ・ フューチャーラボの展示会アプリ「Ars Wild Card(1)」にNTTのアングルフリー物体検索技術(2)を適用し,QRコードがなくてもスマートフォンアプリのカメラ機能によって展示物を認識させ,さらに展示物をポストカードとして印刷し,持ち帰ることができます(図 1).

(2) 驚きを与える誘導サインと参加型ワークショップNTTの技術である変幻灯(3)によって,本来動くはず

のない印刷された展示会場内の案内看板や,来場者が描いた絵が動いているように見えます(図 2).デジタルサイネージのような,動的コンテンツを表示する機器ではなく,本来動かない印刷物 ・ 看板 ・ 床等が動くことによって見る者に驚きを与える誘導サインを実現します.また,フェスティバルのメインテーマである「現代の錬金術師(Alchemists of Our Time)」に合わせて来場者が架空の錬金術師を描くワークショップでは,来場者が描いた顔がその場で動き出します.

NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレクトロニカ ・フューチャーラボが「ICTとアートの融合」によるユーザ体験の高度化に関する共同研究を開始

Page 2: NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレ …図1 Ars Wild Card+による展示物情報の取得 図2 変幻灯による誘導サインの例(左側へ誘導するように見える)

NTT技術ジャーナル 2016.1256

■参考文献(1) http://awc.aec.at/(2) http://www.ntt.co.jp/news201₅/1₅02/1₅0216a.html(3) http://www.brl.ntt.co.jp/cs/human/hengentou/

◆問い合わせ先NTTサービスイノベーション総合研究所 企画部広報担当TEL 046-859-2032E-mail randd lab.ntt.co.jpURL http://www.ntt.co.jp/news2016/1609/160908a.html

2020年に向けて「深い感動,新しい体験,おもてなし」を実現するには,革新的な技術に加え,デザインやアートなど,人の感情や感性を揺さぶるためのスキル・ノウハウが必要と考えられます.本年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルでは,NTTの「アングルフリー物体検索」「変幻灯」の2つの技術を,人と人を結び付けるソーシャルインフラとして実装し,展示を行いました.NTTとアルスエレクトロニカ・フューチャーラボが共同でコンセプトから議論し,NTTは主に技術検証を,アルスエレクトロニカ・フューチャーラボは主に演出面を担当しました.具体的な演出やチューニング,プロトタイプによる確認と改善をフェスティバル直前まで繰り返しました.今後も定期的なイベント出展をマイルストーンに共同研究を続け,互いの技術,スキルやノウハウを組み合わせてこそ実現可能な新しいコンセプトを打ち出し,研究所内外へこの活動を広げていきます.

渡邊は,2002年から断続的にアルスエレクトロニカ・フェスティバルにおいて展示を行い,さらに,ミュージアムでの常設展示や,作品コンペティションの審査員など,アルスエレクトロニカとは深いかかわりがありました.今回,2020エポックメイキングプロジェクトとアルスエレクトロニカ・フューチャーラボが共同研究を行うにあたり,個人的ではありましたが,これまでの交流に基づく信頼関係が,迅速にプロジェクトを進める1つの要因になったと考えられます.今回の異分野との協働は,研究所にこれまでにない文化を呼び込み,新たな価値を生み出すための基盤となると考えています.

NTTの研究所とアルスエレクトロニカ ・フューチャーラボとの取り組みについて──フェスティバル展示の振返りと今後に向けて

千明 裕NTTサービスエボリューション研究所 2020エポックメイキングプロジェクト

渡邊 淳司NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部NTTサービスエボリューション研究所 2020エポックメイキングプロジェクト(兼任)

研究者紹介研究者紹介

(左から)千明裕/渡邊淳司

図 1  Ars Wild Card+による展示物情報の取得 図 2  変幻灯による誘導サインの例(左側へ誘導するように見える)