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P harma M edica Vol.36 No.12 2018 13 特 集 心不全診療の現状と展望 は じ め に 心臓のポンプ機能は,収縮能,拡張 能,前負荷,後負荷の4つの因子によっ て規定されるが,そのなかの収縮能を 評価する代表的指標として,左室駆出 率(left ventricular ejection fraction; LVEF)が古くから用いられてきた。 1980年代には慢性心不全に対する無 作為化比較試験(randomized clinical trial;RCT)が盛んに行われ,患者登 録基準としてLVEF低値が広く用いら れたことで,LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF)に対するエビデンス が蓄積されてきた。HFrEFはLVEF 40%未満とするのが一般的であり,拡 張障害を主体とした心不全は,LVEF の保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction;HFpEF) として,主にLVEF 50%以上と定義さ れてきた。その結果,LVEF 40~49% の心不全がどちらにも属することな く,病態や治療に関するエビデンス が構築されてこなかったことから,こ のギャップを埋めるために,2016年 の欧州心臓病学会ガイドラインにおい て新たにLVEFが軽度低下した心不全 (heart failure with mid-range ejection fraction;HFmrEF)という概念が提 唱された 1) 。HFpEFについては有効な 治療法がほとんど確立していないが, HFmrEFにおいては,HFrEFにおい て有効な治療薬がある程度の効果を示 すことも報告されており 2) ,HFmrEF を独立したカテゴリーとすることで, 新たなエビデンスの創出を期待しての 分類提唱でもあった。最近改訂された 日本循環器学会の急性・慢性心不全診 療ガイドラインにおいても,HFmrEF の概念が新たに採用されている() 3) Ⅰ.HFmrEFを分ける意義 HFmrEFについての臨床的特徴は十 分に明らかにされておらず,治療の選 KEY WORDS HFmrEF: Will be able to become a new categorization in heart failure? Toshihisa Anzai(教授) ●心不全 ●左室駆出率 ●無作為化比較試験 ●予後 HFmrEF 新しい心不全層別化指標となり得るか 北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教室  安斉 俊久 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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Pharma Medica Vol.36 No.12 2018  13

特 集 心不全診療の現状と展望

は じ め に

 心臓のポンプ機能は,収縮能,拡張

能,前負荷,後負荷の4つの因子によっ

て規定されるが,そのなかの収縮能を

評価する代表的指標として,左室駆出

率(left ventricular ejection fraction;

LVEF)が古くから用いられてきた。

1980年代には慢性心不全に対する無

作為化比較試験(randomized clinical

trial;RCT)が盛んに行われ,患者登

録基準としてLVEF低値が広く用いら

れたことで,LVEFの低下した心不全

(heart failure with reduced ejection

fraction;HFrEF)に対するエビデンス

が蓄積されてきた。HFrEFはLVEF

40%未満とするのが一般的であり,拡

張障害を主体とした心不全は,LVEF

の保持された心不全(heart failure with

preserved ejection fraction;HFpEF)

として,主にLVEF 50%以上と定義さ

れてきた。その結果,LVEF 40~49%

の心不全がどちらにも属することな

く,病態や治療に関するエビデンス

が構築されてこなかったことから,こ

のギャップを埋めるために,2016年

の欧州心臓病学会ガイドラインにおい

て新たにLVEFが軽度低下した心不全

(heart failure with mid-range ejection

fraction;HFmrEF)という概念が提

唱された1)。HFpEFについては有効な

治療法がほとんど確立していないが,

HFmrEFにおいては,HFrEFにおい

て有効な治療薬がある程度の効果を示

すことも報告されており2),HFmrEF

を独立したカテゴリーとすることで,

新たなエビデンスの創出を期待しての

分類提唱でもあった。最近改訂された

日本循環器学会の急性・慢性心不全診

療ガイドラインにおいても,HFmrEF

の概念が新たに採用されている(表)3)。

Ⅰ.HFmrEFを分ける意義

 HFmrEFについての臨床的特徴は十

分に明らかにされておらず,治療の選

KEY WORDS

HFmrEF: Will be able to become a new categorization in heart failure?

Toshihisa Anzai(教授)

●心不全

●左室駆出率

●無作為化比較試験

●予後

HFmrEF―新しい心不全層別化指標となり得るか―

北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教室 安斉 俊久

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