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これで分析が   になる! ラク mSAFER による行動分析の コツ インシデント報告書 “工夫・改善” ポイント ImSAFER研究会 ImSAFERインストラクター 春日道也 かすが・みちや●東海大学文学部史学科卒業。2002年に河野龍太 郎氏(自治医科大学医学部教授,メディカルシミュレーションセン ター長)と出会い,事例分析について学ぶ。2010年「自治医大ヒュー マンファクターズ」を修了。2014年ImSAFER研究会発足(会長:河野龍太郎)。ヒューマン エラー事例分析手法「ImSAFER」のインストラクターとして,全国の病院や医療関連団体 などで指導。趣味はモータースポーツ。ユイ・レーシング・スクールで,運転のインストラク ターとしても活躍中。 資格 :ImSAFERインストラクター(自治医科大学医療安全学認定),医療情報技師(一般社 団法人日本医療情報学会認定) mSAFER 連載第3回 皆さんこんにちは。前回(本誌Vol.4,No.5) ではImSAFER分析の進め方のうち,事実把 握ための「①時系列事象関連図の作成」と, 「②問題点の抽出」について解説しました。 今回は,分析作業の中でも苦手と考えている 人が多い,なぜなぜ分析(③背後要因の探索) について解説していきます(図1)。 「②問題点の抽出」作業は,なぜなぜ分析 を実施する候補を選ぶために行います。最終 的なエラーの引き金に以前の問題点や,さら にそれ以前の問題点が関係している,いわば 問題点が連鎖していることがあります。時系 列事象関連図を作り問題点をマークしていく と,事故の構造がよく俯瞰できると思いま す。初めは大変かもしれませんが,ぜひ院内 事例を使って一度作図してみてください。 なぜなぜ分析を容易にしたいなら 「行動」を選ぼう さて,今回は3番目の手順「③背後要因の 探索」,つまり「なぜなぜ分析」です。おそ らく本連載を読んでいる方のうち9割以上 が,「なぜなぜ分析は難しい」「苦手」「何度 やってもうまくできない」と思っているので はないでしょうか。今回は,皆さんのなぜな ぜ分析アレルギーを緩和できるよう,そのコ ツを解説していきたいと思います。 「間違って投与した」は × 実際に皆さんがなぜなぜ分析を行っている のを見ると,非常に多いのが「濃い点滴を患 者に投与した」のはなぜか,それは「看護師 が間違ったから」という「間違って○○した」 という背後要因の推定です。 はっきり言いますが,これではダメです。 分析が短絡的で,かつとても浅いです。背後 要因の探索は対策立案の手がかりになります ので,「間違った」「怠った」という表現が出 てくると,「ちゃんとしろ」「しっかりやれ」 という個人向けの根性論的な対策しか出てき ません。このような分析を避けるためには, 「間違って投与した」ではなく,「投与した」 という「行動」にだけ着目してください。結 果として,間違った事実はあるのかもしれま せん。しかし,その間違ってしまった要因が 何かを探っていくのがなぜなぜ分析ですの 分析の流れ②(なぜなぜ分析) 図1 ImSAFERの手順 分析 時系列事象関連図の作成 手順❶ 問題点の抽出 手順❷ 背後要因の探索 手順❸ 対策 考えられる改善策の列挙 手順❹ 実行可能な改善策の決定 手順❺ 実施 改善策の実施 手順❻ 評価 実施した改善策の評価 手順❼ KASUGA, Michiya 2017Ⓒ 病院安全教育 Vol.4 No.6 76

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Page 1: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

これで分析が   になる!ラク

ⅠmSAFERによる行動分析のコツ

インシデント報告書の“工夫・改善”ポイント

ImSAFER研究会ImSAFERインストラクター春日道也

かすが・みちや●東海大学文学部史学科卒業。2002年に河野龍太郎氏(自治医科大学医学部教授,メディカルシミュレーションセンター長)と出会い,事例分析について学ぶ。2010年「自治医大ヒュー

マンファクターズ」を修了。2014年ImSAFER研究会発足(会長:河野龍太郎)。ヒューマンエラー事例分析手法「ImSAFER」のインストラクターとして,全国の病院や医療関連団体などで指導。趣味はモータースポーツ。ユイ・レーシング・スクールで,運転のインストラクターとしても活躍中。

資格:ImSAFERインストラクター(自治医科大学医療安全学認定),医療情報技師(一般社団法人日本医療情報学会認定)

ⅠmSAFER

連載第3回

 皆さんこんにちは。前回(本誌Vol.4,No.5)ではImSAFER分析の進め方のうち,事実把握ための「①時系列事象関連図の作成」と,「②問題点の抽出」について解説しました。今回は,分析作業の中でも苦手と考えている人が多い,なぜなぜ分析(③背後要因の探索)について解説していきます(図1)。 「②問題点の抽出」作業は,なぜなぜ分析を実施する候補を選ぶために行います。最終的なエラーの引き金に以前の問題点や,さらにそれ以前の問題点が関係している,いわば問題点が連鎖していることがあります。時系列事象関連図を作り問題点をマークしていくと,事故の構造がよく俯瞰できると思います。初めは大変かもしれませんが,ぜひ院内事例を使って一度作図してみてください。

なぜなぜ分析を容易にしたいなら 「行動」を選ぼう

 さて,今回は3番目の手順「③背後要因の探索」,つまり「なぜなぜ分析」です。おそらく本連載を読んでいる方のうち9割以上が,「なぜなぜ分析は難しい」「苦手」「何度やってもうまくできない」と思っているのではないでしょうか。今回は,皆さんのなぜなぜ分析アレルギーを緩和できるよう,そのコツを解説していきたいと思います。●「間違って投与した」は× 実際に皆さんがなぜなぜ分析を行っているのを見ると,非常に多いのが「濃い点滴を患者に投与した」のはなぜか,それは「看護師が間違ったから」という「間違って○○した」という背後要因の推定です。 はっきり言いますが,これではダメです。分析が短絡的で,かつとても浅いです。背後要因の探索は対策立案の手がかりになりますので,「間違った」「怠った」という表現が出てくると,「ちゃんとしろ」「しっかりやれ」という個人向けの根性論的な対策しか出てきません。このような分析を避けるためには,「間違って投与した」ではなく,「投与した」という「行動」にだけ着目してください。結果として,間違った事実はあるのかもしれません。しかし,その間違ってしまった要因が何かを探っていくのがなぜなぜ分析ですの

分析の流れ②(なぜなぜ分析)

図1 ImSAFERの手順

分析 時系列事象関連図の作成手順❶

問題点の抽出手順❷

背後要因の探索手順❸

対策 考えられる改善策の列挙手順❹

実行可能な改善策の決定手順❺

実施 改善策の実施手順❻

評価 実施した改善策の評価手順❼

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

病院安全教育 Vol.4 No.676

Page 2: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

で,初めから「間違った」と決めつけてしまうと分析ができなくなったり,むりやり間違えたことばかり掘り下げたりしてしまいます。 「濃い点滴を患者に投与した」のはなぜか,それは「点滴を患者に投与することが正しいと判断したため」というように,「正しいと判断した」というフレーズを行動の背後要因にワンクッション入れてみてください。●当事者は正しいと判断して行動している 前回で少し述べましたが,人間は行動する時,自分の頭の中のイメージに従って物事を判断します。この頭の中のイメージを,「心理的空間」と言います。そして,誰しもが自らの心理的空間の中で物事を都合よく解釈し判断しているのです。分かりやすい言葉で表現するなら,「正しいと判断」「合理的と判断」ということになります。 例えば,あなたが自動車を運転しているとします。交通量の少ない直線道路を快適に走っている状況を想像してみてください。イメージが頭に浮かびますね。これが「心理的空間」です。 快適に走行している中,300mほど前方の信号が変わりそうです。併設されている横断歩道の歩行者向けの青信号が点滅を始めました。この後,あなたならどうしますか? アクセルペダルから足を離して減速しますか?それとも,様子を見つつアクセルはそのままにしますか? または,一気に通過できるようにぐいっと加速しますか? いずれにしても,心理的空間の中で「正しいと判断」「合理的と判断」をしていることが分かると思います。では,時として,人によって判断した結果が異なるのはなぜでしょう。●当事者になったつもりで環境を見てみる 判断結果が異なるのはなぜか,それは判断材料がその都度違うからです。周囲に歩行者も車もいなければ,そのまま速度を維持する

かもしれません。パトカーの影がちらりと見えれば,あたかも模範運転手のようにスムーズに減速し停車するでしょう。朝の通勤時間帯か,いつもより遅刻気味であれば,アクセルを踏み込むことは十分にあり得ます。 このように,人が行動する際にはどの場合においても,「正しいと判断」していることが分かります。そこである当事者の「行動」を紐解く場合には,まずはその当事者の判断根拠を整理してみて,「『間違えた』のではなく『正しいと判断』してしまったのはなぜか?」と考えてみるとよいでしょう。 心理学者レヴィンの行動の法則(表)にあるように,人間の行動は,その人の情報や知識といった人間側の要因と環境側の要因がありますが,判断においては特に環境の影響を大きく受けます。 先述の運転の例で言えば,その時の周囲の「環境=E」が大きく関係してきます。例えば,今回の例では,結果に関係する次のような判断材料が山ほど考えられます。・周囲にはどのくらいほかの車がいますか?・あなたの運転している車は何ですか?・軽自動車ですか?・馬力があるスポーツタイプですか?・すぐには止まれないような大型トラックですか?

・天候は晴れですか? 滑りやすい雨ですか? 小雨ですか? 土砂降りですか?

・昼ですか? 夜ですか? それとも夕方ですか?

・交差点には信号待ちをしているほかの車両

表 レヴィンの行動の法則

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の要因の2つが関係していると説明

B=f(P,E)B:Behavior(行動)P:Person(人)E:Environment(環境)を示す

病院安全教育 Vol.4 No.6 77

Page 3: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

はいますか?・交差点の手前にコンビニがあり,そこに出入りする車がありますか? このように,環境側の要因は行動に大きく影響しますので,まずは環境側の要因を考えてみましょう。 「人間=P」についても,次のような要因を考えることができます。・体調はどうか・時間的余裕はあるか・いきなり電話がかかってきていないか・LINEのメッセージに返信しなきゃと思って

いなかったか・運転歴は長いのか・運転は得意なのか,苦手なのか

なぜなぜ分析の例 前回の時系列事象関連図(図2)の作図で紹介した事例を基に,背後要因の探索方法を考えてみましょう。なお,ImSAFERでは背後要因の探索をどの程度行うか選択できるようにレベル分けがしてありますが,今回は,ある当事者のある行動のみを分析する「レベル1:ワンポイントなぜなぜ分析」で探索し

図2 時系列事象関連図

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

10:00

10:05

10:20

10:25

患児A3歳男児

アレルギーあり

患児Aが入院

患児Aがおやつを摂取

摂取後,嘔吐と全身発疹が出現した

看護師B経験15年目小児外科2年目

栄養士C経験5年目 栄養部のFAX 男児の母親 備考

予定入院リストに患児AのIDと名前を書いた

栄養部にFAXした

病棟におやつが届いた

「食べます」と言われた

「牛乳を使っていますか?」と聞かれた

患児Aのカルテを開き,アレルギーを知った

母親に「マッシュポテトですが,おやつを食べますか」と聞いた

食札を手書きした

マッシュポテトとオレンジジュースを上膳した

患児Aの情報を受信した

禁止食品に記載がなかった

食札を記入する際は電子カルテを確認することになっている

〈栄養士C〉FAXは不鮮明で,小さな文字や細い線は非常に分かりにくい

おやつ配膳時は電子カルテを確認することになっている

「食べます」と返事をした

こどもにおやつを食べさせた

「もしかして牛乳を使っていますか?」と聞いた

患児Aにおやつを配膳した

×(1)×(1)

×(2)×(2)

×(3)×(3)

×(4)×(4)

×(6)×(6)

×(7)×(7)

×(9)×(9)

×(10)×(10)

×(5)×(5)

×(8)×(8)

患者に与えた影響が最大の問題点には×を忘れずに付けるこの事例では×(10)

病院安全教育 Vol.4 No.678

Page 4: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

てみます。これは行動分析の基礎となる考え方です。●看護師Bの行動分析 図3は「PSF分析表」と言って,簡単に言えば,その当事者の判断材料を「P=人間側」と「E=環境側」で整理するものです。時間がなければこの表は作らなくてもよいですが,なるべく頑張って作ってみてください。その方が抜けや漏れが少なくなり,分析の精度が上がりますし,分析者が当事者に対する先入観を排除できます。 PSF分析表を作る際には,「環境」を先に時系列に書いてみてください。看護師Bは一体どういう情報を持っていて,何を見聞きしたのでしょうか? それにはまず,看護師Bになりきることが大事です。事故が起こったのは何時だったのでしょう? 図2を見ると10時25分だということが分かりますので,環境側に10時25分と記入します。こうすると,午前中の忙しい時間帯だったんだなぁということも分かりますね。おやつを配膳する相手の患児Aとその母親がいますので,その存在も書きます。そのほか周囲にあることも列挙していきます。予定入院患者リスト,栄養部へのFAX,上膳されたマッシュポテトとオレンジジュースなどです。 それと大事なのが,「実際にはあるのに当事者が見ていない,聞いていないこと」です。ここでは,電子カルテのアレルギー情報が該当します。環境上は存在するのに,当事者がマッピングしていないことについてはカッコでくくったり,※マークをつけたりして工夫をすると,分析がしやすくなります。テレビのドッキリ番組はこれを逆手に取ったものだということが分かりますね。 「環境」を書いたら,次に看護師Bの情報や知識,経験などに目を向けます。新人のエラーとベテランのエラーは種類が異なりま

す。なぜなら,人の行動には知識や経験も大きく関係しているからです。 看護師Bは看護師経験15年目,小児外科2年目で,9月10日は日勤だという情報があるので「人間」側に記入します。自らの行動は過去の記憶になりますから,「患児Aのおやつのオーダーをした」「予定入院患者リストにID・名前を記入して栄養部にFAXした」という事実も書きます。推測になりますが,おそらく「ほかの患児と一緒におやつを食べさせてあげたい」とも考えていたでしょう。 さらに重要なのが,当事者である看護師Bが持っていた,あるいは持っていなかった情報です。看護師Bの場合,患児Aのアレルギー情報を持っていませんでした。よって,「アレルギーがあることを知らない」と必ず記入します。人は「知っていて行動した」場合と「知らないで行動した」場合とでは全く行動の結果が異なりますので,P(人間)側を考える場合にはまず情報の有無を確かめると,分析しやすいでしょう。このようにしてPSF分析表を作ると,背後要因探索が容易になります。 仕事中に,わざと間違える当事者はいませ

図3 看護師BのPSF分析表

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

マッピングされていない環境要因はカッコでくくる

・看護師経験15年目,小児外科2年目・9月10日は日勤・患児Aのおやつのオーダーをした・予定入院患者リストにID・名前を記入して,栄養部にFAXした・ほかの患児と一緒におやつを食べさせてあげたい・アレルギーがあることを知らない

・10時25分・患児Aの存在・患児の母親の存在・予定入院患者リスト・栄養部へのFAX・マッシュポテトの存在・オレンジジュースの存在・電子カルテのアレルギー情報

分析対象者:看護師B

分析対象行為:マッシュポテトを配膳した

②B=f(P,E)を整理する

P(人間) E(環境)

病院安全教育 Vol.4 No.6 79

Page 5: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

ん。「見間違えた」のは,当事者が見た環境の中に大きな要因があるのかもしれません。知っておいてほしい表現として,図4の中の「マッシュポテトを上膳された」という表記のように,受動態=受身形で記述すると当事者の心理空間上の認識を示すようになり,行動に影響を受けた背後要因として分かりやすい表現になりますので,覚えておいてください。 それから,「患児Aにアレルギーがあることを知らない」のような「知らなかった」場合には,さらに「誰かが教えていない」「本人

が確認していない,調べていない」といった背後要因があります。ワンポイントなぜなぜ分析であっても,当事者だけの背後要因ではなく,そのチームや組織の要因まで掘り下げれば,環境や周囲の改善策にもつながります。●栄養士Cの行動分析 看護師Bの場合と同様に,マッピングされていない環境=Eはカッコでくくるとよいでしょう(図5)。図6の背後要因関連図の中の背後要因「患児Aの禁止食品欄に記載がなかった」ですが,さらにその背後要因には「看護師Bが書かなかった」と挙がっています。またさらにその背後要因を掘り下げると,看護師Bの行動になります。ワンポイントなぜなぜ分析では,当事者以外の行動が出てきたら,背後要因をそれ以上掘り下げる必要はありません。時間があれば「看護師Bが書かなかった」という行動を別途ワンポイントなぜなぜ分析してみるのもよいでしょう。

まとめ 背後要因探索(なぜなぜ分析)は難しいと思うかもしれません。なぜなら,分析者にある程度のスキルが要求されるからです。しかしそれは,決して高難易度のスキルではありません。「人の立場で物事を推測できる」というスキルがあれば,ワンポイントなぜなぜ

図5 栄養士CのPSF分析表

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

マッピングされていない環境要因はカッコでくくる

・栄養士経験5年目・おやつを毎日上膳している

・おやつのみの場合は,予定入院患者リストで対応している

・患児Aの禁止食品の欄に記入がないことを確認

・電子カルテでの確認を忘れた

・おやつの配膳時間よりも遅かった

・10時20分・予定入院患者リストの存在 患児AはID・患者氏名のみ記載あり

・当日におやつメニューの存在〈マッシュポテトとオレンジジュース〉・患児Aの牛乳・乳製品のアレルギー情報

・電子カルテ内のアレルギー情報の存在

分析対象者:栄養士C

分析対象行為:マッシュポテトを病棟に上膳した

②B=f(P,E)を整理する

P(人間) E(環境)

図4 看護師Bの背後要因関連図

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

マッシュポテトを配膳した

マッシュポテトに牛乳が入っていることを知らなかった

母親が伝えなかった母親から

伝えられていない

カルテを見ていない

この患児だけ食べられないとかわいそう

マッシュポテトを上膳された

自らおやつをオーダーした

食べさせてあげたいと思った

患児Aにアレルギーがあることを知らない

正しいと判断した

実在の世界=物理的空間実在の世界=物理的空間

マッピングマッピング

受身形で記述すると,心理空間上の認識としてとらえやすい

「知らない」のは「誰かが教えていない」「本人が確認していない,調べていない」

に分解できる

マッシュポテトの存在

心理的空間心理的空間

病院安全教育 Vol.4 No.680

Page 6: mSAFER 団法人日本医療情報学会認定) 分析の流れ② ......KASUGA, Michiya 2017 レヴィンは,人間行動には人間側の要因と環境側の 要因の2つが関係していると説明

分析を十分に行うことができると思います。 「正しいと判断した」理由として,1つの要因だけが大きく関係していることはまれで,多くの場合はいくつもの要因が少しずつ関係しています。背後要因を探っていく場合,1つの要因についてなぜなぜと掘り下げるよりは,正しいと判断した背後要因をいくつもいくつも考えていき,分析が行き詰まったら背後要因の背後要因を掘り下げてみる方が,効率よく分析ができます。 また,より深いレベルⅢのトップ事象を起点にする,事故の構造に基づく分析の場合,物理現象を観察するスキルが必要になってきます。これには多少の訓練が必要になります

ので,ぜひ一度ImSAFER研修のアドバンスコースを受講していただければと思います。 次回は最終回となりますが,対策・立案の考え方やImSAFERの効果などについてお話ししたいと思います。引用・参考文献1)河野龍太郎:ImSAFERによるヒューマンエラー事象分析手順,医療安全へのヒューマンファクターズアプローチ入門,自治医科大学医学部メディカルシミュレーションセンター,2010.

2)河野龍太郎:医療におけるヒューマンエラー―なぜ間違える どう防ぐ,第2版,医学書院,2014.

3)河野龍太郎:行動分析の基本を事例から学ぶ―行動モデルをベースとした「行動分析」の医療現場への導入を目指して,看護管理,Vol.26,No.6,P.485 ~493,2016.

4)春日道也:ImSAFERによる行動分析のコツ,これで分析がラクになる! インシデント報告書の “工夫・改善” ポイント,病院安全教育,Vol.4,No.5,P.61~68,2017.

図6 栄養士Cの背後要因関連図

KASUGA, Michiya 2017Ⓒ

マッシュポテトを病棟に上膳した

正しいと判断した

マッシュポテトの存在

通常のおやつメニューがマッシュポテトだった

カルテのアレルギー情報を見なかった

患児Aの禁止食品欄に記載がなかった

FAXにはアレルギー情報がなかった

急いでいた

入院予定リストのFAXが来ていた

間に合わない場合,FAXで運用するルール

看護師Bが書かなかった

見なくてもよいと判断した

早く届けたかった

この先は看護師Bの

行動になるのでここでストップ

正しいと判断した要因は複数ある場合がほとんどなので,1つを掘り下げるよりは

横に並べる方が効率が良い

病院安全教育 Vol.4 No.6 81