本邦のmrsaの 薬剤感受性とsccmecの タイプ
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343
原 著
順 天 堂 医 学49(3)
p.343~354(2003) 本邦のMRSAの 薬剤感受性 とSCCmecの タイプ
今 井 大 助*1)2)馬 笑 雪*1)柳 川 宏 之*1)
DAISUKE IMAI XIAO XUE MA HIROYUKI YANAGAWA
伊 藤 輝 代*1)平 松 啓 一*1)黒 澤 尚*2)
TERUYO ITO KEIICHI HIRAMATSU HISASHI KUROSAWA
目的:1999年 に本邦 で分 離 されたMRSA138株 の各種 抗菌剤 に対 す る感 受性 を測定 す る とと
もに,メ チシ リン耐性 を規定 す る動 く遺 伝 因子で あ るSCCmecの タイ プ と接合 プ ラス ミ ドの分
布 を検討 した.
材料 と方 法:供 試菌 株 と して は全国 の14の 大学 病院 か ら分与 い ただ いたMRSA138株 を使 用
した.MIC測 定 はNCCLS法 に準 じた寒天平 板法 で行 った.耐 性遺伝 子 の検 出 とSCCmecの タ
イピ ング にはPCR法 を用い た.ま た 多剤 耐性 の伝 達 に関与す る接 合 プ ラス ミ ドの存在 を伝 達実
験 を行 って確認 した.
結果 ・結論:MIC測 定の 結果 は β-ラ ク タム薬 に高度 耐 性を示 し,テ トラサ イク リン系薬 ・マ
クロライ ド系薬 ・アル ベカ シン以外 の ア ミノ系配糖 体系薬 ・キ ノロ ン系薬 に耐性 であった.SCC
mecの タイプ を調 べ た所,138株 のMRSAの126株(91%)はtype-II SCCmecを 持 ち,type-I
SCCmecお よびtype-IVSCCmecを 持 つ株 は,そ れぞれ1株 お よび6株 で あった.type-IIISCC
mecを 持つ株 は存 在せず,い ずれ の タイプに も分類 で きない株 が5株 で あ った.ま た138株 中13
株(9.4%)に 接 合 プラス ミドの存在 が確認 され た.
キ ーワー ド:MRSA, SCCmec, mecA,接 合 プラス ミ ド
は じ め に
黄色ブ ドウ球菌は新 しい化学療法剤が使用され
ると,す ぐにその薬剤に対する耐性を獲得 してき
た.ペ ニ シ リンGが 臨床使用 されて まもない
1940年 代半ばには,ペ ニシリンGを 不活化す る
酵素 β-ラクタマーゼ産生性 を獲得 して耐性化 し
た.1950年 代にはその後開発 されたテ トラサイ
クリン ・エリスロマイシン ・ゲンタマイシンに対
しても耐性を獲得 した多剤耐性黄色ブ ドウ球菌が
出現 した1).こ れら多剤耐性黄色ブ ドウ球菌によ
る感染症は当時,日 本では病院ブ ドウ球菌感染症
と呼ばれ,1950年 代後半には,重 大な問題 とな
っていった.こ れらの多剤耐性黄色ブ ドウ球菌に
対処する薬剤 としてペニシリナーゼに加水分解 さ
れない狭域半合成ペニシリンであるメチシリンが
開発 されたが,こ の薬剤が臨床使用 された翌年の
1961年 には,早 くもメチシリン耐性黄色ブ ドウ
球菌(methicillin-resistant Staphylococcus au-
reus;MRSA)が 報告 されてい る2).そ の後,
MRSAは β-ラ クタム系薬に対 して高度耐性 を示
*1)順 天堂大学医学部細菌学講座
*2)順 天堂大学医学部整形外科学講座
*1)Department of Bacteriology, Juntendo University
School of Medicine, Tokyo, Japan
*2)Department of Orthopedic Surgery, Juntendo
University School of Medicine, Tokyo, Japan
〔Nov.22,2002原 稿 受領 〕(Sept11,2003掲 載決 定)
344 今井他:薬 剤感受性 とSCCmecの タイプ
す よ う に変 化 し,1990年 代 に は イ ミペ ネ ム な ど
の カル バ ペ ネ ム薬 ・キ ノロ ン系 薬 ・ミノサ イ ク リ
ンに対 して も耐 性 と な る な ど,多 剤 耐性 化 は 進 行
し続 け た3).
MRSAは メチ シ リン感 受 性 黄色 ブ ドウ球 菌(me-
thicillin-susceptible Staphylococcus aureus;
MSSA)に は存 在 しな い ペ ニ シ リン結 合 蛋 自2'
(penicillin-binding protein2'; PBP2')を 産 生
す る.PBP2'は ペ ニ シ リ ン ・ア ン ピシ リ ン以 外 の
β-ラ ク タ ム薬 に 親 和 性 が きわ め て 低 い た め,こ
れ らの 薬 剤 の 存 在 下 で もMRSAの 細 胞 壁 合 成 は
阻 害 されず,増 殖 す る こ とがで き る4)‾6).
MRSAは 検 査 室 で はオ キ サ シ リ ンな どの 薬 剤 感
受 性 で判 定 され るが,遺 伝 学 的 に はPBP2'を コ ー
ドす る遺 伝 子mecAを 持 つ 菌 と定 義 され る.わ れ
わ れ は,preMRSA N315(1982年 に 日本 で 分 離
され た株mecAの 上 流 に制御 遺 伝 子mecl[レ プ
レ ッサ ー蛋 白MecIを コ ー ド]お よ びmecR1[シ
グ ナ ル 伝 達 蛋 自MecR1を コ ー ド]を 完 全 な形 で
持 ち,か つ メ チ シ リ ンに感 受 性 を示 す の で,MR-
SAのprototypeと 考 えて この よ うに呼 ん で い る)
のniecA遺 伝 子周 辺 の 領 域 を ク ロー ニ ング し,当
時mecDNAと 呼 ば れ た外 来 性DNAの 全領 域 の塩
基 配 列 を決 定 した7).そ の 結 果,そ のmecDNA
は非 常 に特 徴 の あ る一 つ の 単位 を形 成 して い る こ
と,お よび そ の 中 に は,部 位 特異 的組 み替 え酵素
と高 い ホ モ ロ ジ ー を示 す 二 つ のorf(蛋 白 を コ ー
ドして い る と推 定 され る読 み と り枠)が 存 在 す る
こ とが 明 らか とな っ た.こ の二 つ のorfの 働 き に
よ りmecDNAは 特 定 の 部 位 で脱 落 をお こす 非 常
に特 徴 の あ る一 つ の単 位 を形 成 して い る こ とが 明
らか に な っ たの で,わ れ わ れ は メ チ シ リ ン耐 性 を
コー ドす る染 色 体 上 の領 域 を ブ ドウ球 菌 属 にの み
存 在 す る新 しい 動 く遺 伝 因 子 と してStaphylococ-
cal Cassette Chromosome mec(SCCmec)と 命
名 した8).ま たSCCmec上 に存 在 して い る脱 落 と
挿 入 に関 与 す る部 位 特 異 的 組 み 替 え酵 素 遺 伝 子 を
cassette chromosome recombinase A・B(ccrA・
ccrB)と 命 名 した8).
MRSAお よび メ チ シ リ ン耐 性 コ アグ ラー ゼ 陰 性
ブ ドウ球 菌(methicillin-resistant coagulase-
negative staphylococci; MRC-NS)がmecAお
よ び その 制 御 遺 伝 子 を持 つ こ と は従 来 か ら報 告 さ
れ て い た が9)10),実 際 にPCRで これ らの遺 伝 子
お よび その 近 辺 の 挿 入 配 列(Insertion sequence
; IS)の 存 在 を検 討 した と ころ,mec遺 伝 子複 合
体(mecAと 近 傍 の遺 伝 子mecI・mecR1,お よ
びISの 配 列 様 式)は 四つ の ク ラ ス に わ か れ る こ
と が明 らか とな った11).他 方,N315のSCCmec
上 のDNA断 片 を プ ロ ー ブ と して 用 いて 他 のMR-
SA株 との 反 応 性 を ドッ トプ ロ ッ ト法 に て 調 べ て
み る と,ほ とん ど反 応 しな いMRSAが あ る こ と
を見 い だ した12).そ こで,そ れ らの株 の 中か ら2
株NCTC10442(1961年 に イギ リス で最 初 に報
告 され たMRSA)お よ び85/2082(1985年 に
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ドで 分 離 され たMRSA)を 選 び,
そ のSCCmecの 全 塩 基 配 列 を決 定 した.そ の 結
果,SCCmecの 共 通 性 を見 い だ す と同時 に,SCC
mecの 多 様 性 も明 ら か と な っ た.こ れ ら三 つ の
SCCmecは,共 通 してccrA・ccrB遺 伝 子 を持 っ
て い る が,そ れ らは,同 一 で は な く約80%の 相
同 性 を示 す.ま たmec遺 伝 子 複 合 体 も そ れ ぞ れ
異 な っ て い た.そ こ で,わ れ わ れ はNCTC10442
のSCCmecをtype-I SCCmec,N315のSCC
mecをtype-II・85/2082のSCCmecをtype-III
と命 名 した13).
MRSAは 院 内 感 染 菌 と して知 られ て き た が,近
年,外 来 患 者 を は じめ,市 中か ら も多 く分 離 され
る よ うに な っ た.こ の理 由 と して,病 院 で 蔓 延 し
て い るMRSAが 市 中 に広 が っ た と も最 初 は 考 え
られ た.し か し,わ れ われ が米 国 で 分 離 され た市
中獲 得MRSA(community-acquired MRSA;
C-MRSA)のSCCmecの 全 塩 基 配 列 を決 定 した
と こ ろ,C-MRSAのSCCmecは 先 に見 い だ され
た三 つ の タ イ プ と はccr遺 伝 子 とmec遺 伝 子 複 合
体 の 組 み 合 わ せ が 異 な っ て い た た め,こ れ を
type-IV SCCmecと 命 名 した14).実 際 に 由来 の
明 らか なC-MRSAのSCCmecの タイ プ を調 べ て
み る と,ほ とん どはtype-IV SCCmecを 持 つ株 で
あっ た15).
順 天 堂 医 学49巻3号(2003) 345
この報告は,SCCmecの タイピングを行 うこ
とによりMRSAの 分子疫学において,従 来から
用い られていた リボタイプやPulsed Field Gel
Electrophoresis (PFGE)な どの染色体DNAを
対象 とする方法のみではわか らないMRSAの 種
類の違いを区別できることを報告 した最初の報告
であった15).MRSAの 多剤耐性化が進行 してい
ることは,既 知の事実であるが,そ の耐性化には
外来性の耐性遺伝子獲得が大きな原因となってい
る.こ のような耐性の伝播には菌種問を接合伝達
で移 り動 く遺伝因子の関与が大きくSCCmecは
その一つであるが,わ れわれはもう一つの動く遺
伝因子 として接合プラス ミドに着目した.接 合プ
ラス ミドは1980年 代初頭 に米国で,続 いてオー
ス トラリアおよび ドイツで報告 された各種の耐性
遺伝子をコー ドする大きなプラスミドであり,プ
ラスミド上に伝達に関与する遺伝子群を持ち,菌
種間を接合伝達する16)~18).
われわれは,1999年 に分離 されたMRSA臨 床
分離株 を使用 して,そ の薬剤感受性 を測定 し,
MRSAの 薬剤耐性の現状 を把握す ると同時に,
SCCmecの タイプを決定 し,さ らに接合プラス
ミドの分布 を検討 した.本 報告は,MRSAの 多剤
耐性の現状を,耐 性 を担 う遺伝因子の分布の側面
から明らかにしようとするものである.
材 料 と方 法
1.供 試菌株
MRSA138株.以 下の14の 大学病院から分与頂
いた.:帝 京大学(10株)・ 福島県立医科大学
(10株)・ 神戸大学(10株)・ 広島大学(10株)・
滋賀大学(10株)・ 三重大学(10株)・ 防衛医科
大学校(10株)・ 久留米大学(9株)・ 秋田大学
(8株)・ 東京慈恵会医科大学(10株)・ 東京大学
(10株)・ 福 岡大学(10株)・ 佐賀医科大学
(10株)・ 岩手医科大学(11株).最 小発育阻止
濃度(minimum inhibitory concentration ; MIC)
測定にはStaphylococcus aureus ATCC29213株
を対照として用いた.フ.ラ スミド伝達の受容菌と
して はStaphylococcus aureusRN4220 (rifr,
nOVr)を 使 用 した.
2.供 試 薬 剤
以 下 の10薬 剤 は 各 製 薬 会 社 よ り供 与 頂 い た:
ア ンピ シ リン と スル バ ク タ ム(ABPCとSBT);
フ ァイ ザ ー 製薬,レ ボ フ ロキ サ シ ン(LVFX);
第 一一製 薬,ア ル ベ カ シ ン(ABK);明 治 製 菓,ミ
ノサ イ ク リン(MINO);日 本 ワ イ ス レ ダ リー,
テ イ コ プ ラニ ン(TEIC);A▽entisPharma,リ ネ
ゾ リ ド(LZD);フ ァル マ シ アーア ップ ジ ョン社,
イ ミペ ネ ム(IPM);万 有 製 薬,ト ブ ラマ イ シ ン
(TOB);塩 野 義 製 薬 セフチ ゾキ シ ム(CZX);
藤 沢 薬 品 工 業.
以 下 の5薬 剤 は シ グ マ社 よ り購 入 した:バ ン コ
マ イ シ ン(VCM)・ オ キサ シ リン(MPIPC)・ ゲ
ンタ マ イ シ ン(GM)・ エ リス ロマ イ シ ン(EM)・
テ トラサ イ ク リン(TC).
3.MIC測 定
MIC測 定 はNCCLS法(National Committee
for Clinical Laboratory Standards:ア メ リカ臨
床 検 査 標 準 委 員 会 で 定 め た薬 剤感 受 性 測 定 にお け
る標 準 法)に 準 じた寒 天 平 板 法 で 行 っ た.前 培 養
に はTryptic soy broth (TSB, Difco社)を,
MIC測 定 に はMueller-Hinton寒 天 平 板(Difco
社)を 用 い た.37℃ 一 夜 培 養 菌 をTSBに て1-2×
108/mlに 調 製 し た後,生 理 食 塩 水 に て10倍 希
釈 し(107/ml),ミ ク ロプ ラ ン ター(佐 久 間 製
作 所)を 用 い て寒 天 平 板 に接 種 した.好 気 的 条 件
下 に て37℃20時 間 培養 後 に判 定 を行 な っ た.コ
ロニ ー数 が2個 以 上 の 場 合 を発 育 陽 性 と して 判 定
した.感 受 性 の 判 定 は表 一1に示 す.
4.PCR法 に よ る遺 伝 子 の 検 出 とSCCmecタ イ
ピ ング
表2に 示 すprimerの セ ッ トを使 用 し定 法 に よ
りPCR反 応 を行 い,0.8%ア ガ ロー ス ゲ ル 電 気 泳
動 にて 生 成 され たDNA断 片 を検 出 した.PCR反
応 は反応 混液50μ1(10mMTris-HClpH8.3,50
mMKCI1.5mMMgC120.001%(w/v)gelatin,
0.2mMdNTP混 液,0.1mMの 各 種 フ。ライ マ ー,
鋳型DNA10ng,1unitのTaqDNAポ リメ ラー ゼ)
346 今井他:薬 剤感受性 とSCCmecの タイプ
を調 製 し,95℃30秒 ・50℃1分 ・72℃2分 を30
サ イ クル 繰 り返 した.
鋳 型 と して 使 用 したDNAは 簡 便 法 で抽 出 した.
各 菌 株 の 一 夜 培 養 液1mlを1.5ml遠 心 管 に 採 取 し
たの ち遠 心 分 離 し,沈 査 をT10E10に て 一 度洗 浄
した.遠 心 沈 査 をT10E10(100μl)に 浮 遊 し,
0.2mg/Lの リゾ ス タ フ ィン5μlを 加 えて 溶菌 さ
せ た.そ の 後 プ ロテ イ ン カ イ ネ ー スK(10mg/
L)を4μlと10%Sodium Dodecyl Sulfate)24
μ1加 え て37℃ で1時 間 処 理 した後,等 量 の フ ェ
ノ ール/ク ロ ロホ ル ム24:1混 液 を加 え,十 分 撹
i絆した の ち,遠 心(15000回 転,5分)し,水 層
を別 の新 しい容 器 に移 す.こ の操 作 を も う一 度 繰
り返 した の ち,新 しい 容 器 に分 取 した 水 層 に5M
NaCl(最 終 濃 度0.2M)添 加 後2倍 量 の エ タ ノ ー
ル を加 えて 染 色 体DNAを 沈 殿 させ た.生 じ た沈
殿 を80%エ タ ノー ル で2回 洗 浄 後,T10E1に 浮
遊 し,鋳 型DNA液 と した.
5.メ ン ブ レ ン フ ィル ター上 で の 接 合 プ ラス ミ ド
の 伝 達
供 与 菌 お よ び受 容 菌 をL-broth(10ml)に て
30℃ で 一 夜 培 養 した.供 与 菌 と受 容 菌 の 等 量 混
合 液2m1,あ るい は そ れ ぞれ 単 独 な もの1mlを メ
ン ブ レ ン フ ィル タ ー(直 径2.6cm,孔 径0.45μm
;ミ リポ ア社)に て濾 過 して 集 菌 し,そ の メ ンブ
レ ン フ ィル タ ー をBrain heart infusion(BHI)
寒 天 平 板 上 にの せ,37℃ に て 一 夜 培 養 した.培
養 後 の メ ン ブ レ ンフ ィル ター を15ml遠 心 管 に移
し,L-brothlm1を 加 えて メ ンブ レ ン フ ィル ター
上 の 菌 を十 分 に懸 濁 した の ち,10倍 段 階 希 釈 を
行 い,そ の それ ぞれ を ゲ ンタ マ イ シ ン(20mg/
L)・ ノ ボ ビオ シ ン(1mg/L)・ リ フ ァ ン ピシ ン
(25mg/L)含 有 バ ー トイ ンフ ユ ー ジ ョ ン(HI)
寒 天培 地,あ るい は ゲ ン タマ イ シ ン(20mg/L)
含 有HI寒 天 平 板 に 塗 布 し,37℃ で 一 夜 培 養 し,
平板 上 に生 育 した コ ロニ ーの 数 を算 定 した.
結 果
1.薬 剤 感 受 性 テ ス ト
検 討 した15薬 剤 に対 す るMRSA138株 のMIC
値 の累 積 百 分 率 を図-1aお よび 図-1bに,MIC50%
値 ・MIC90%値 お よびMICの 範 囲 を表-3に 示 す.
β-ラ ク タ ム系 薬 の 中 で は,第3世 代 セ フ ェ ム
系 薬 で あ るセ フ チ ゾ キ シ ムのMIC50%値 は>512
mg/L,狭 域 半 合 成 ペ ニ シ リン で あ る オ キ サ シ
リ ンのMIC50%値 は256mg/Lと 高 く,ほ とん
ど の菌 が 高 度 耐 性 を示 した(図-1a).カ ル バ ペ
ネ ム薬 で あ る イ ミペ ネ ムのMIC50%値 は32mg/
Lで あ り50%以 上 の 菌 が 耐 性 で あ っ た.む しろ'
ア ン ピ シ リ ンの 効 力 が イ ミペ ネ ム とほ ぼ伺 等 で あ
り,β-ラ ク タ マ ー ゼ 阻 害 薬 と の合 剤 で あ るア ン
ピ シ リ ン/ス ル バ ク タ ム のMIC50%値 お よ び
MIC90%値 は ア ン ピ シ リン単 独 時 の1/2で あ っ
た 点 が 着 目 され る(図-1a,表3).
エ リ ス ロ マ イ シ ン に 対 して は,MIC50%値
表-1感 受性の判定基準
表-2本 研究 で 使用 したプ ライマ ーの セ ッ ト
順 天 堂 医 学49巻3号(2003) 347
も>512mg/Lと 高 く,ほ とんどのMRSA高 度
耐性を示した.
アミノ配糖体系薬の中では トブラマイシンに対
してはエ リスロマイシン同様にほとんどの株が高
度耐性を示 したが,ゲ ンタマイシンに対 しては,
感受性株 と高度耐性 を示す株 と大 きく二つのグ
ループがあることが判明 した.抗MRSA薬 とし
て使用 されているアルベカシンのMIC90%値 は
4mg・/Lで ほとん どのMRSAは 感受性であると
判断されたが,中 には64mg/LのMIC値 を示す
株 も2株 存在 した.
二つのテ トラサイクリン系薬(テ トラサイクリ
ン ・ミノサイクリン)に 対 して耐性を示 したが,
テ トラサイク リンに較べて,ミ ノサイクリンの
図-la β-ラクタム薬 のMRSA138株 に対す る抗菌 力
図-lb 10薬 剤のMRSA138株 に対す る抗菌 力
348 今井他:薬 剤感受性 とSCCmecの タイプ
MIC値 が低 か っ た.キ ノ ロ ン系 薬 の レボ フ ロ キ
サ シ ン に 対 す るMIC50%値 は8mg/L,MIC
90%値 は64mg/Lで あ り,レ ボ フ ロ キ サ シ ンに
対 して も耐 性 で あ る と判 断 され た.
グ リ コペ プ チ ド系 薬 で あ るバ ンコ マ イ シ ン ・テ
イ コ プ ラ ニ ン お よ び リ ネ ゾ リ ドに は い ず れ も
MIC値 か ら は感 受 性 で あ る と判 断 され た.
2.mecA遺 伝 子 の検 出 とSCCmecの タ イ ピ ング
表-2に 示 した プ ラ イ マ ー を 用 い てPCRに て
mecA遺 伝 子 の 検 出 を行 った 結 果,138株 はす べ
てmecA遺 伝 子 を保 有 して い た.図-2に 示 す よ う
にSCCmecの タ イ プ はccr遺 伝 子 の タ イ プ とmec
表-3 15薬 剤の日本で分離されたMRSA138株 に対する抗菌力
図-2 SCCmecの 構 造 とプラ イマーの 位置
順 天 堂 医 学49巻3号(2003) 349
遺 伝 子 複 合 体 の ク ラ スの 組 み合 わせ に よ り決 定 さ
れ る.そ こ で,次 にSCCmecの タ イ プ を決 め る
た め に,ccr遺 伝 子 の タ イプ とmec遺 伝 子 複 合 体
の ク ラ ス を検 出 す る た めのPCRを 行 った.ccr遺
伝 子 の タ イ プ の 決 定 は,ccrB遺 伝 子 上 に 設 計 し
た三 種 類 のccrB遺 伝 子(ccrBl・ccrB2・ccrB3)
に共 通 な プ ラ イマ ー(βc)と それ ぞ れ のccrA遺
伝 子 に特 異 的 な領 域 に設 計 した三種 の プ ライ マ ー
(ccrA1特 有[α1]・ccrA2特 有[α2]・ccrA3
特 有[α3])を 用 い たmultiplexPCR(複 数 の 遺
伝 子 を同 時 に検 出 す るPCR)に て 行 う.図 一3に
示 す よ うに,type-1の 場 合 約0.7kb,type-2の 場
合 約1kb,type-3の 場 合 約1.6kbのDNA断 片 が
生 成 され,増 幅 され たDNA断 片 の 大 き さか ら,
ccr遺 伝 子 の タイ プ を決 定 で き る.mec遺 伝 子複
合 体 の ク ラ ス は 挿 入 配 列IS1272-mecA複 合 体 を
検 出 す るプ ライ マ ー,mecl遺 伝 子 お よ びmecRl
遺 伝 子 の3'側 を検 出 す る プ ラ イマ ー を用 い たPCR
に よ り判 定 した.mecJ-mecRlが 存 在 す る もの が
ClassAmec遺 伝 子 複 合 体 ・IS1272-mecA複 合 体
図-3 PCRに よ るSCCmecの タ イ ピ ング
表-4日 本のMRSA株 の保持 す るSCCmecの タイプ とその判 定 基準
350 今井他:薬 剤感受性とSCCmecの タイプ
が 検 出 されmecl-mecRl複 合 体 が 検 出 され な い
もの がClassBmec遺 伝 子 複 合 体 で あ る.type-1
ccr遺 伝 子 とClassBmec遺 伝 子 複 合 体 を持 つ も
の をtype-I SCCmec・type-2ccr遺 伝 子 とClas-
sA mec遺 伝 子 複 合 体 を持 つ もの をtype』SCC
mec・type3ccr遺 伝 子 とClassAmec遺 伝 子 複
合 体 を持 つ もの をtype-III SCCmec・type2ccr遺
伝 子 とClassBmec遺 伝 子 複 合 体 を持 つ もの を
type-IV SCCmecに 分 類 した.そ の結 果 を表-4に
示 す.MRSA138株 中126株(91%)はtype-U
SCCmecを 持 つ こ と が明 らか と な っ た.type-M
SCCmecを 持 つ株 は今 回調 べ た138株 中 に は存 在
せ ず,type-I SCCmecを 持 つ 株 が1株,type-
I VSCCmecを 持 つ 株 が6株 で あ っ た.い ず れ の
タ イ プ に も現 時 点 で 分 類 で き な い も の は5株 で
あ っ た.
3.接 合 プ ラ ス ミ ドの 検 出 と伝 達
多剤 耐 性 の 伝 達 に関 与 す る接 合 プ ラス ミ ドの 存
在 を検 討 す るた め に,接 合 プ ラス ミ ドの持 つ 転 移
に関 与 す る遺 伝 子 領 域(tra遺 伝 子 複 合 体)の 中
のtraK遺 伝 子 上 に プ ライ マ ー を設 計 し(表-1),
PCR法 に よ りtraK遺 伝 子 の 有 無 を検 討 した.そ
の 結 果,138株 中 で表 一5に示 す13株(9.4%)が
陽 性 と な っ た.そ こで,こ れ らtraK遺 伝 子 を保
有 す る株 を供 与 菌,リ フ ァ ンピ シ ン ・ノ ボ ビオ シ
ン耐性RN4220株 を受容 菌 と して,プ ラ ス ミ ドの
伝 達 を試 み た.こ の伝 達 実 験 に おい て は,こ れ ま
で に 知 られ て い る接 合 プ ラ ス ミ ドの 多 くは ゲ ン タ
マ イシ ン ・トブ ラマ イ シ ン耐 性 をコ ー ドす る二 機
能酵 素 遺 伝 子aac(6')/aph(2")を 保 持 して
い る こ とが報 告 され て い た の で,プ ラ ス ミ ド伝 達
の指 標 と して ゲ ン タマ イ シ ン耐 性 を使 用 し,伝 達
実 験 を行 っ た.結 果 は表-5に 示 す.す べ て の 株
の場 合 に,リ フ ァ ン ピ シ ン ・ノボ ビオ シ ン ・ゲ ン
タマ イ シ ンの3剤 に耐 性 を示 すRN4220が 出現 し,
プ ラス ミ ドが接 合伝 達 され た と判 断 され た.供 与
菌 株 あ た りの プ ラス ミ ド接 合 伝 達 株 の 出 現 頻 度 は
お よそ10『6で,あ る程 度 の頻 度 で プ ラ ス ミ ドが
伝 達 され た と推 定 され た.3剤 含 有 平 板 上 に 生 育
した プ ラ ス ミ ド接 合 伝 達 株 を単 離 した後,プ ラ ス
ミ ドDNAを 抽 出 して,プ ラ ス ミ ドDNAのi導 入
を確 認 した(デ ー タ未提 示).ま た,こ れ らの プ
ラ ス ミ ド接 合 伝 達 株 のMICを 測 定 した と こ ろ,
ゲ ン タマ イ シ ンに 対 して32~128mg/L,ト ブ
ラマ イ シ ン に対 して16~64mg/Lと 耐 性 を示
し,耐 性 遺 伝 子 が 同 時 に伝 達 され た と判 断 され た.
考 察
日本 の 病 院 か ら分 離 され るMRSAは1990年 代
に は,バ ン コマ イ シ ン と アル ベ カ シ ン以外 の ほ と
ん どの 薬剤 に 高 度 耐 性 を示 す こ とが,こ れ まで に
指 摘 され て い る3).今 回 の 測 定 結 果 に お い て も,
β-ラ ク タ ム薬 に高 度 耐 性 を示 す の み な らず,テ
トラサ イ ク リ ン系 薬 ・マ ク ロ ラ イ ド系 薬 ・ア ル ベ
カ シ ン以外 の ア ミノ配 糖 体 系 薬 ・キ ノ ロ ン系 薬 に
耐性 で あ っ た.
MIC測 定 の 結 果 か らMRSA治 療 薬 と して 有 効
と判定 され た の はバ ン コマ イ シ ン ・テ イ コ プ ラニ
ンな どの グ リコ ペ プ チ ド ・アル ベ カ シ ン ・リネ ゾ
リ ドで あ っ た.
ア ミノ配 糖 体 系 薬 耐 性 は,薬 剤 の 修 飾 に よ る不
活 化 に よ る もの が ほ とん どで あ る.修 飾 酵 素 と し
て は,ア セチ ル 化 酵 素(AG acetyltransferase ;
AAC)・ アデ ニ リル 化 酵 素(AG adenylyltrans-
ferase ; AADあ るい はAG nucleotidyltransferase
; ANTと も い う),お よ び リ ン酸 化 酵 素(AG
phosphotransferase ; APH)が あ る.ア ル ベ カ
表-5traK遺 伝 子 を持 つMRSA株 か らの プ ラス ミ ド
の 接合 伝達
順 天 堂 医 学49巻3号(2003) 351
シンは,APH(3')・APH(2")・AAD(4')・
AAD(2")・AAC(3)な どのアミノ糖配糖体系
薬 を不活化す る酵素により不活化 されず,AAC
(6')に も抵抗性 を示す.MRSAの ゲンタマイシ
ン ・トブラマイシン耐性などのほとんどが,AAC
(6')・APH(2")・APH(3')に よることから,
アルベカシンはMRSAに 株に対 して も有効に作
用する19).蛋 白合成を阻害する静菌的薬剤であ
るリネゾリ ドは抗MRSA薬 として認可 されてい
ないが,MICの 上では有効である.バ ンコマイ
シン ・テイコプラニンに関 しては,MICの 上で
は感受性を示すが,ポ ピュレーション解析 を行 う
と耐性度の上昇 した菌が一定の割合で生 じるとい
うヘテロ耐性を示す株が臨床上問題 となる場合が
あることが報告 されている20).わ れわれの今回
検討 した株の中にはそのような株が13.6%の 割
合で存在 していた(今 井;未 発表データ)。 この
ような株に対 しては,バ ンコマイシンの投与を続
けるだけでは,治 療効果が期待できず,別 な薬剤
に切 り替えることも考慮する必要がある.
PBP2'は β-ラ クタム薬の中でも,ペ ニシリン
やアンピシリンに対 しては,親 和性が高い.こ の
ためアンピシ リンのMIC値 はセフチゾキシムや
オキサシリンに較べてはるかに低い.従 ってベニ
シリナーゼ阻害剤とPBP2'に も親和性の高いアン
ピシリンとの合剤(ア ンピシリン/ス ルバクタム
など)は,そ の有効性は先に述べた,4薬 剤(バ
ンコマイシン ・テイコプラニン ・リネゾリド・ア
ルベカシン)に は及ばないが,他 の薬剤 との併用
を考えるには有望な薬剤である.In vitroの実験
ではあるが,ア ンピシリン/ス ルバクタムとアル
ベ カシン ,あ るいは リネゾ リ ドの併用はその
MIC値 を下 げたり,殺 菌活性を上昇させ るなど
の結果が得 られている(加 藤;未 発表データ)
日本の病院から分離 されるMRSAの 特徴を明
らかにする目的で,わ れわれはメチシリン耐性 を
運ぶ動 く遺伝因子であるSCCmecの タイフ.を検
討 した.そ の結果,わ が国の病院で分離 され る
MRSAのSCCmecの91%はtype-2ccr遺 伝子 と
clas$Amec遺 伝子複合体 を持つtype』 である
こ とが 明 らか と な った.図-1に 示 すN315のtype-
II SCCmec上 に は メ チ シ リン耐 性 を コ ー ドす る
mecAに 加 えて マ ク ロ ラ イ ドー リ ン コス ア ミ ドー
ス トレプ トグ ラ ミ ン耐 性(MLS耐 性)を コ ー ド
す る遺 伝 子ermAお よ び ス ペ クチ ノマ イ シ ン耐 性
遺 伝 子ant(9)を 運 ぶ トラ ン スポ ゾ ンTn554お
よ び トブ ラ マ イ シ ン ・カ ナ マ イ シ ン耐 性 遺 伝 子
aadDを 保 持 す るプ ラ ス ミ ドpUB110が 挿 入 され
て い る.即 ち,こ のSCCmecの 存 在 自体 で,β-
ラク タ ム系 薬 耐 性 に加 え て,マ ク ロ ラ イ ド ・リン
コ スア ミ ド ・ス トレフ。トグ ラ ミン ・カナ マ イ シ ン ・
トブ ラ マ イ シ ン に耐 性 に な る と判 断 され る 。
最 近,市 中か ら分 離 され たtype-ISCCmecの
中 に は図-2に 示 す 領 域 が異 な り,pUB110が 挿 入
され て い な い もの も存 在 す る こ とが 明 らか と な っ
た た め,さ らに サ ブ タ イ プに 分類 し,図-2に 示 す
N315のtype-IISCCmecをtype-II subtype a
そ して,市 中 由来 株 のtype-II SCCmecをtype-
II subtyp ebと して 区 別 した.126株 のtype-II
SCCmecの 中,120株(93.8%)はtype-II sub-
typeaSCCmecで あ つ た.
Type-III SCCmecは ヨー ロ ッパ 諸 国 ・オ ー ス
トラ リア ・ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド,ま た,タ イ ・ベ ト
ナ ム ・シ ンガ ポ ール ・フ ィ リ ッピ ン な どの ア ジ ァ
諸 国 のMRSAに 見 い だ され るSCCmecで あ るが,
日本 のMRSAに は全 く見 い だ され な か った13)21).
138株 中エ リス ロマ イ シ ン感 受 性 株 は6株 で あ っ
た.こ れ らの 株 のSCCmecの タイ プ はtype-IVが
3株,type-II subtypeaが3株 で あ っ た.Type-
IV SCCmecはC-MRSAに 多 く見 られ る タ イ プ で
あ り,SCCmec上 に エ リス ロマ イ シ ン耐 性 遺 伝
子 を保 持 して い ない.type-II subtype a SCCmec
を持 ち な が ら,エ リス ロ マ イ シ ン感 受 性 で あ る の
は,遺 伝 子 の 変 異 あ る い は 欠落 に よ り,耐 性 遺 伝
子 が発 現 しな い た め と考 え られ るが,そ の 理 由 は
現 在 の と こ ろ あ き ら かで は ない.
S.aureusに お け る テ トラサ イ ク リ ン系 薬 の 耐
性 に はtetK・tetM・tetOな どの 耐 性 遺 伝 子 が 関
与 す る こ とが報 告 され て い る21).ま た,ゲ ノ ム ー
プ ロ ジェ ク トの 結 果,1996年 に分離 され たVRSA・
352 今 井他:薬 剤 感 受 性 とSCCmecの タイ フ.
Mu50の 染色体上にテ トラサイクリン耐性遺伝子
tetMを コー ドする トランスポゾンTn5801が 見い
だされている22>.Tn 5801は 菌種間を接合伝達す
る腸球菌の トランスポゾンTn917と 非常に構造
が良く似ていることから菌種問を接合伝達する接
合 トランスポ ゾンであ ると推定 され てい る.
tetK・tetMの 存在をPCRで 調べた限 りではtetK
を持つ株が1株 で在 るのに対 して,tetMを 持つ
株が84株 と数多く,接 合 トランスポゾンTn5801
が広く分布 していることが示唆 されるが,結 論を
下すまでには至っていない.
ゲンタマイシン耐性 をコー ドする遺伝子のなか
でも2機 能酵素であるAAC(6')/APH(2")
をコー ドす る遺伝子aac(6')/aph(2")は,
トランスポゾンTn4001上 に存在 し,染 色体上や
菌種問を接合伝達する接合プラスミド上にも存在
し,S.aureusに 広 く分布 していることが報告 さ
れている16)~18).
われわれは,接 合プラスミドの分布 を検討する
ため,最 初にPCR法 により接合伝達に関与する
tra遺伝子の存在をPCRで 確認 したところ,13株
(9.4%)が 陽性 となった.ま た,こ の接合プラ
スミドが実際に伝達 されることをフィルター上で
の伝達実験 により確認 した。接合プラス ミドは,
黄色ブドウ球菌ばか りでなく,他 のブ ドウ球菌属
の問を広 く伝播す ることがすでに報告 されてお
り,プ ラス ミド自体の伝達はもとより,他 の非伝
達性プラス ミドを他の菌に移すこともできると報
告 されている.こ のようなプラス ミドの存在 は,
すでに別のグループからも報告されている23)が,
伝達性プラス ミドの存在は耐性遺伝子の伝播に大
きな役割を果たしていると推察 される.
抗菌薬の使用は,耐 性菌を選択 し,蔓 延させる.
その意味からも,抗 菌薬の使用に当たっては,感
受性 を確認 して使用すると同時に,そ の使用を必
要最小限に押 さえるべきであると考える.
ま と め
1999年 にわが国の14施 設か ら分 離 され た
MRSAの15薬 剤に対する感受性を測定 した.そ
の結果,MIC値 の上で有効とされる薬剤は,ア
ルベカシン ・リネゾリド・バ ンコマイシン ・テイ
コプラニンであり,他 の薬剤に関しては耐性であ
ることが明らかとなった.薬 剤耐性を担 う遺伝因
子の解析 として,メ チシリン耐性を規定する遺伝
因子であるSCCmecの タイプを調べ,日 本の病
院から分離されるMRSAのSCCmecはtype-II
subtype aが 多いことを明らかにした.ま た接合
プラス ミドの保有状況 を調べ,1割 強のMRSA株
が接合プラス ミドを持っている現状を明 らかにし
た.今 後,ミ ノサイク リン耐性をコー ドする接合
トランスポゾンの保有状況を解析すれば,日 本の
MRSA株 が外来性の動 く遺伝因子を獲得 して,多
剤耐性化 している現状をさらに明らかに出来ると
考える.
本研究の遂行にあたり多大なご援助をいただきま
した日本子孫基金および朝日ライフアセットマネジ
メント株式会社に心より感謝申し上げます.
文 献
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354 今井他:薬 剤感受性 とSCCmecの タイプ
Summary
Characteristics of MRSA strains isolated in Japan in 1999
Objective : To investigate the characteristics of MRSA strains isolated in Japan in 1999 by de-
termination of MIC , types of SCCmec, and prevalence of conjugative plasmid.
Materials and methods : One hundred thirty-eight MRSA strains were generously donated by
14 university hospitals. MICs of 15 antibiotics were determined by the agar dilution method rec-
ommended by NCCLS. PCR reactions were carried out to identify traK gene, ccr genes, and the
genes in mec gene complex. Filter-mating method was used to test the transferability of the con-
jugative plasmids.Results and conclusions : MRSA strains showed MIC values indicating resistance to β-lactams
(oxacillin, ceftizoxim, imipenem, and ampicillin), tetracyclines, erythromycin, levofloxacin,
tobramycin and gentamicin. However, these strains had susceptible MIC values to arbekacin,
linezolid, vancomycin and teicoplanin. One hundred twenty-six of 138 MRSA strains (91.3%)
carried type- II SCCmec (other strains : 1, type- I ; 6, type- IV ; 5, untypable) . There were MR-
SA strains carrying type- III SCCmec. Thirteen of the MRSA strains (9.4%) carried conjugative
plasmids.We found that MRSA strains with type- II SCCmec that carry multiple antibiotic resistance genes
were widely disseminated in Japanese hospitals.
Key words : MRSA, SCCmec, ccr genes , conjugative plasmid