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mono Hohner ●[ホーナー] SINCE 1857~ VOL.37 使6 7 ハーモニカはその構造から 吹奏する楽器であるが、 管楽器のような管体を持っていない ために、小型のリードオルガンとして 分類されるのが一般的なようだ。 中国や第二次世界大戦以前の日本では 「口琴」という名で呼ばれていた。 Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP) Moridaira Musical Inst.co.,ltd. Text / Teruhiko Doi (WPP)

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Page 1: monomono Hohner [ホーナー] SINCE 1857~ VOL.37 ことは間プリミティブな原始音楽であったアフリカ大陸を中心とした、少なくともその発祥が手にしたのかは定かではないが、人類がいつの頃から音楽を

mono

Hohner●[ホーナー]SINCE 1857~

VOL.37

人類がいつの頃から音楽を

手にしたのかは定かではないが、

少なくともその発祥が

アフリカ大陸を中心とした、

プリミティブな原始音楽であった

ことは間違いない想像だろう。

もちろん、その発祥時は

娯楽というよりは、社会的かつ

宗教的な意味合いが強かった

はずで、そこで使われるように

なった楽器も叩いたり、鳴らしたり

というリズム楽器的なものが

ほとんどだった。

そういう意味からすると、

音楽に厳格な音階を持たせ、

音楽を教会やサロンで聴くための

文化として完成させた、

ヨーロッパの王侯貴族たちの

創造性には驚くばかりである。

同時に、それを演奏するための

楽器の進化も特筆すべきだろう。

特に職人が作り上げた工芸的な

楽器作りから、産業革命を経て

機械化された技術で楽器が

生み出されるようになり、

音楽はより大衆のものになる。

ハーモニカという、複雑かつ

精密な構造を持つ楽器の誕生も

また、産業革命以降の技術が

あったからこそ考案されたものだ。

幕末の日本にも伝わったという

ハーモニカの、揺ぎ無き

トップブランド『ホーナー』の

歴史を探ってみることにしよう。

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ハーモニカはその構造から吹奏する楽器であるが、管楽器のような管体を持っていないために、小型のリードオルガンとして分類されるのが一般的なようだ。中国や第二次世界大戦以前の日本では「口琴」という名で呼ばれていた。

Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP)Moridaira Musical Inst.co.,ltd.

Text / Teruhiko Doi(WPP)

Page 2: monomono Hohner [ホーナー] SINCE 1857~ VOL.37 ことは間プリミティブな原始音楽であったアフリカ大陸を中心とした、少なくともその発祥が手にしたのかは定かではないが、人類がいつの頃から音楽を

mono20世紀初頭に研究・開発が進められた半音階(クロマチック)ハーモニカ。マシアス・ホーナーは、画期的なスライドレバー式による半音階上がり配列のハーモニカを考案した。現在も基本的な考え方はまったく変わらずこのシステムは存続している。

19世紀前半に考案され、小型で

機動性に優れた楽器であったために

広く普及したハーモニカであるが、

誕生当初は半音を出せない構造で、

プロの演奏家が選ぶような

楽器ではなかった。

その足りない部分を解決したのが、

マシアス・ホーナーが研究・開発を

進めたクロマチック・ハーモニカである。

その1912年に登場した

クロマチック・ハーモニカ

生誕100周年を機に新発売の

モデルが『Discovery48』。

人間工学的にデザインされ、

快適な手触りのカバープレート、

マウスピースからカバープレート

までスムーズな感触を実現し、

非常に完成度の高い

生誕100周年に相応しい

モデルとなっている。

また、メンテナンスを容易にした

構造やABS樹脂によるボディ、

そしてスライドの組み換えで

左利き用への仕様変更も簡単に。

使いやすさが追求された逸品

といえるだろう。

100年の時を経た名品の味を

実感できるモデルである。

ホーナーの歴史を感じさせるホーロー製の看板。

高い工作精度がひと目でわかる逸品。クロマチック・ハーモニカ生誕100周年を機に発売された『Discovery48』。マシアス・ホーナーの肖像画は

信頼すべきハーモニカ・ブランドの品質の証でもある。

半音階の切り替えを行うレバーはホーナー社の創業者であるマシアス・ホーナーが完成させた機構である。吹き口の穴あき板を操作することで多彩な音が。

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Page 3: monomono Hohner [ホーナー] SINCE 1857~ VOL.37 ことは間プリミティブな原始音楽であったアフリカ大陸を中心とした、少なくともその発祥が手にしたのかは定かではないが、人類がいつの頃から音楽を

金属リードの発音体が

産業革命で鳴り響く

 

1820年頃、楽器製作・

修理の職人であり調律師でも

あったオーストリアのクリス

チャン・F・ブッシュマンと

いう人物が、オルガン用のピ

ッチパイプを作り、そのアイ

デアを活かしてハーモニカの

原型を考案し特許を取得した。

ただ、このハーモニカの原型

は吹く音のみの楽器だった。

ドイツやオーストリアという

のは言うまでもなく、豊かな

音楽の発祥と発展の地であり、

数多くの作曲家や音楽家、そ

して楽器が生まれた土地でも

ある。幸運なことにこうした

土地柄は、まだその楽器の存

在すら知らなかった人たちに

も比較的容易に受け入れられ、

優秀な時計職人を多く抱えて

いたスイスとの国境近くで、

産業として発展するほど生産

されるようになったのである。

1826年になるとボヘミア

ホーナーの歴史と共に語られるロングセラーモデルの「Super Chromonica 270」。クロマチック・ハーモニカの代名詞的存在であり、世界中のミュージシャンに愛用される名品でもある。

それぞれの経営手腕による差

で統廃合が繰り返されている。

ホーナー社は豊富な人材に恵

まれ、ハーモニカ製造産業の

中で着実にその足場を固めて

いった。近隣の老舗ハーモニ

カ工房を積極的に統合し、優

秀な職人たちを束ねていった

のである。マシアス・ホーナ

ーは絶対的な高品質の維持に

努め、話題の製品を次々と世

に送り出し、類まれなる商才

でいち早く政府の品質保証・

登録商標を取得した。そして

け上り、20世紀初頭には10

00人もの従業員を抱える大

企業へと発展する。

 

20世紀初頭の世界は戦争の

時代でもあった。手軽でシン

プルなハーモニカは戦意高揚

政策に乗って戦場へ持ち出さ

れることが多くなり、ハーモ

ニカ・メーカーはいわゆる軍

事特需の恩恵を受けた。同時

に、ラリー・アドラーに代表

されるような名手が出現し、

アーティストと楽器(ブラン

ド)の関係性が売り上げに影

896年に発表された10ホー

ルズ・ハーモニカ「マリンバ

ンド1896」は、音楽史に

おいても特筆されるべき名品。

この名機はブルースやカント

リーミュージックの繁栄には

かり知れない影響を与え、幾

多のアーティストが愛用し、

そして数え切れないほどの名

曲、名演奏を残す原動力にも

1868年にはアメリカ

大陸への輸出を開始。ト

 

ホーナー社には数多く

までもない。

いうことは言う

の名品が存在する。まず1

ップブランドへの階段を駆

響するようになる。同社はそ

うしたアーティスト戦略も

次々と成功させた。その要因

として、妥協のない高品質な

モノ作りを続けた創業者の意

思を守り続けたことが、芸術

家たちの耳に適ったホーナー

の製品を選ばせたであろうと

なった。20世紀に入ると、同

社の歴史的モデルとして知ら

れる「270 Super C

hromini-

ca

」が登場。半音階機能を持

つこのクロマチック・ハーモ

ニカは、現在に至るまでロン

グセラーを続けている。その

後も枚挙にいとまが無いほど

の名品を世に送り出している

同社であるが、現在では10

0種類近くの製品がラインナ

ップされている。

参考資料:「ハーモニカレヴュ

No.65」世界ハーモニカ

連盟日本支部刊

同じ金属リードを発音体とする楽器、アコーディオンは、ハーモニカの誕生から20~30年後にその原型が出現している。ホーナー社のアコーディオンも、長く生産されている。

Bob Dylan

Johnny Cash

Toots Thielemans

Steven Tyler

John Lennon

のリヒターが10穴のハーモニ

カを製作。その生産が一気に

広まった翌1827年が、ハ

ーモニカ発祥の年とされてい

る。イギリスで始まった産業

革命の波がヨーロッパ各地に

広まったこの時代、リヒター

のハーモニカは1829年に

はウィーンで大量生産される

ようになった。ドイツ・トロ

シンゲンの時計職人であった

マシアス・ホーナーが、ハーモ

ニカの量産を始めたのは18

57年。蒸気機関を動力とす

る自動リード打ち抜き機を導

入して、大量生産を開始した。

 

ハーモニカに限った話では

ないが、当時のヨーロッパで

は、重労働が伴う農場経営よ

りも利益の大きい製造産業に

転身する人が多かった。いわ

ゆる〝近代化〞の始まりであ

る。しかし多くのブランドや

工場が生み出される一方で、

1920年代、南部プランテーションの農場の片隅に建つ粗末な小屋で

毎週末のように繰り広げられていた黒人労働者たちの音楽と賭博の集い「ジュークジョイント」。現在もそのカルチャーは南部に残っている。

Photo / Toshiaki Honda

1925年に「The Chromonica-40」の商標で販売戦略を築いたホーナー社。このモデルは10穴タイプで、現行の260モデルにあたる。そして1928年に現在の12穴、270モデルにあたる「Super Chromonica-48」を発売。3オクターブ配列の音域を有していた。

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mono

ポケットの中に

ジョンの魂を

 

ビートルズ時代も、ソロ活

動を始めてからも、ジョン・

レノンはハーモニカで印象的

な曲を残している。デビュー

時の「ラブ・ミー・ドゥ」が

そうだし、オノ・ヨーコのこ

とを唄った「オー・ヨーコ」

でもハーモニカのパートが耳

に残っている。今年6月から

日本国内でも発売された『ジ

ョン・レノン・シグネチャー

モデル』には、イマジンのロ

ゴとイラストが入る。パッケ

ージも含めて最高の仕上がり

である。

左:ドイツ・トロシンゲンにあるホーナーの工場。右:創業者マシアス・ホーナー。

現在、最もポピュラーな存在のブルースハープ。ドシェール材の枯れた音色がブルース音楽の哀愁を表現する。木製ボディ。価格3675円

Blues Harp

ホーナー製品に関する問い合わせモリダイラ楽器☎03-3862-5041http://www.moridaira.jp/

クロマチック・ハーモニカ生誕100周年記念モデル。人間工学的にデザインされた、新時代のハーモニカ。価格1万4700円

Discovery 48

ハーモニカのために開発された樹脂ボディ採用。スティービー・ワンダーを始め、ジャズ、ポップスの世界で幅広く愛用される人気モデル。価格2万4150円

Chromonica 280

クロームメッキのカバーは、柔らかなカーブがかかって、手にフィットする。樹脂ボディ。価格3990円

Golden Melody

クロマチック・ハーモニカ誕生から100周年の今年限定発売される記念モデル。世界限定200本の職人によるハンドメイド。ドイツ生産。価格12万6000円

Hohner C

クロマチック・ハーモニカの代名詞。21世紀の現在も売れ続けるロングセラー・モデルである。価格1万6800円

Super Chromonica 270

「ジョン・レノン・シグネチャーモデル」カバープレートには白い塗装が施され5色のプリントによるジョンの似顔絵も。価格8400円

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