kinect による身体動作情報と隊形を 統合的に可視化する舞踊...

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Kinect による身体動作情報と隊形を 統合的に可視化する舞踊デザイン手法の一検討 *1 A verification of a method of the dance design visualizing dance motion and formation totally by Kinect Yuya Yoshida *1 , Abstract This paper verifies a method of the dance design visualizing dance motion and forma- tion totally by Kinect. At first, We developed a choreographic design system that enables generation of dance motions and formation. This system visualizes motions of enormous dancers and their for- mations in order to not only intuitively preview total impression but also improve the choreographic design before the dancer’s real performance. We focus on the simultaneous design of the formation and motion to balance of the total view. Motion Capture data are obtained as fragments of dance influence by Kinect. The designer puts CG dancers in a virtual space by drawing reference lines or equilateral polygons on 3D-coodinate and browses the total view of dance motions from flexible view- points. Each motion is assigned to dancers’ group on multiple channels’ time-lines. This configuration enables various formations and dance motions for choreography of enormous dancers. We mention the examinations about browsability and intuitiveness. In addition, we propose a method of supporting choreographer’s improvements of the formation design with the dancer agents’ anthropomorphic ex- pression. This method’s purpose is to make choreographer be aware of the problem of the formation design a irrespective of the dancers’ ability for transference. Keywords : Motion Capture, Choreography, Dance, Design, Agent 1. はじめに における 楽に わせて ( ) 案したり, りを せるため ( ) したり, に対して それらを したりする ある.また, いう.大 りを 案してか らそれに った をデザインする. おいて 案した りを けて って みるが, していた より がある. に大 ある が, ,そ される めるタイミング, から 因が影 するため ある. ,それら いが たれているより うために, リハーサル る.しかし,こ まる がきちん された あって, リハーサルを あり, がある. をより にするために,ホワイト ボード して, から *1 大学 *1 Faculty of Informatics, Kansai University して てる アナログ シミュ レーションを われてきた.しかしこ から 栄えを する しい. に異 ったり, りに をつけて ったりす りを せるために するため, える するから る. そこ ,これま ,大 るため システムを してきた.モーションキャプ チャを データを 3DCG して するこ ,データ エージェントを いた ,デザイン し,それに よる 案, してきた. ,それら られたデータ する.また, エー ジェント し, デザインを シミュレーション ある エージェントがジェスチャー いて に対して する,エージェント より, かせ, する く,より 案するため 案し, 題を る.

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Kinect による身体動作情報と隊形を統合的に可視化する舞踊デザイン手法の一検討

吉田 侑矢∗1

A verification of a method of the dance designvisualizing dance motion and formation totally by Kinect

Yuya Yoshida∗1, 

Abstract – This paper verifies a method of the dance design visualizing dance motion and forma-tion totally by Kinect. At first, We developed a choreographic design system that enables generationof dance motions and formation. This system visualizes motions of enormous dancers and their for-mations in order to not only intuitively preview total impression but also improve the choreographicdesign before the dancer’s real performance. We focus on the simultaneous design of the formationand motion to balance of the total view. Motion Capture data are obtained as fragments of danceinfluence by Kinect. The designer puts CG dancers in a virtual space by drawing reference lines orequilateral polygons on 3D-coodinate and browses the total view of dance motions from flexible view-points. Each motion is assigned to dancers’ group on multiple channels’ time-lines. This configurationenables various formations and dance motions for choreography of enormous dancers. We mention theexaminations about browsability and intuitiveness. In addition, we propose a method of supportingchoreographer’s improvements of the formation design with the dancer agents’ anthropomorphic ex-pression. This method’s purpose is to make choreographer be aware of the problem of the formationdesign a irrespective of the dancers’ ability for transference.

Keywords : Motion Capture, Choreography, Dance, Design, Agent

1. はじめに

舞踊における振付とは,音楽に合わせて身体動作 (振

り)を考案したり,振りを効果的に見せるための舞踊

者の位置関係 (隊形)を構想したり,舞踊者に対して

それらを教示したりする事である.また,振付を行う

人を振付師という.大抵の場合は,振りを考案してか

らそれに見合った隊形をデザインする.実際の現場に

おいては,考案した振りを舞踊者に振り付けて踊って

みるが,想像していたものよりも劣る場合や,実現困

難な場合がある.特に大人数舞踊の場合が顕著である

が,隊形の形状や,その中に配置される人数,動き始

めるタイミング,現在の隊形から次の隊形への到達可

能距離の設定等の様々な要因が影響するためである.

振付師は,それらの釣り合いが保たれているより良い

振付を行うために,発表の期限まで舞踊者との相談や

リハーサル等,試行錯誤を重ねる.しかし,この様な

作業行程は,振付師と舞踊者が集まる日程や,場所等

がきちんと整備された場合にのみ成り立つのであって,

実際には全員でのリハーサルを繰り返し行う事は困難

であり,振付師や舞踊者の体力にも限界がある.

 この様な行程をより効率的にするために,ホワイト

ボードと磁石を使用して,地面を真上から見た状態で,

*1:関西大学 総合情報学部*1:Faculty of Informatics, Kansai University

磁石を舞踊者として見立てる事でアナログ的なシミュ

レーションを行う方法が元来行われてきた.しかしこ

の場合,動きのない磁石から実際に舞踊者が踊る場合

の見栄えを想像する事は難しい.隊形毎に異なる振り

を踊ったり,同一の振りに時間差をつけて踊ったりす

る等,振りを効果的に見せるために様々な演出方法を

駆使するため,人数が増える程に複雑化するからであ

る.

 そこで,これまで,大人数舞踊の振付を最適化す

るためのシステムを開発してきた.モーションキャプ

チャを利用し舞踊データを 3DCGとして可視化するこ

とで,データの視覚的な編集や舞踊者エージェントを

用いた隊形の可視化,デザイン手法を実装し,それに

よる効果を提案,検証してきた.本稿では,それらの

実験で得られたデータの考察する.また,舞踊者エー

ジェントの対話可能性に注目し,隊形デザインを行う

上で,実現困難なシミュレーションである場合,舞踊

者エージェントがジェスチャー等の身体表現を用いて

振付師に対して表現する,エージェントの身体表現に

より,振付案の問題点を気付かせ,実際に現場で試行

錯誤する事なく,より良い振付を考案するための手法

を提案し,今後の課題を述べる.

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図 1 ホワイトボードの使用例Fig. 1 use of the whiteboard

2. 振付作業の難しさに関する聞き取り調査

振付師の現場の声に即したシステムを開発するため

に,振付作業においてどの様な点が問題となっている

のか,16名の振付師に対して事前に以下の様なアン

ケート形式での聞き取り調査を行った.

2. 1 振付において大変だった点,苦労した点

振付作業の経験から実際に感じた事のある振付の難

しさについて質問した.以下に主な回答を抽出した.

図 2は,回答内容を振り,構成,衣装,曲の項目に分

類し,その回答数をグラフに表したものである.

• 曲のフレーズ毎に分けて振付した後,全体を通し

てみると全体的な構成に合わない場合がある

• 人数によって振りの見栄えが変わる事がある

• 振りを見栄えさせる構成になっているかどうかが

わからない

• 衣装がどう見えるかわからない

• 大人数で移動した場合の見栄えが想像できない

• 曲にあった振付ができているかわからない

回答では,図 2に示される様に,衣装や曲について

の意見は少数であり,振りと隊形についての意見が大

多数であったため,振付作業の可視化には意義がある

と考えられる.その他に,「メンバーの間で踊りの経

験に差がある場合,実際に振り付けた(教示した)と

しても全員が同じ水準で踊れるとは限らない」という

意見があった.振りを覚える段階でより豊富な情報を

持って練習を行う事ができると,経験の深さに関わら

ず,振りと隊形を客観的に理解することができる様に

なり,踊りをより効率的に覚えることもできると推測

される.

図 2 回答の分類Fig. 2 the classification of answers

2. 2 隊形デザインに使用する道具,またその使用

法について

振付作業を円滑に進めるために使用する道具につい

て質問した.結果,前述のホワイトボードや磁石の他

に,方眼紙やMicrosoft Excel,動画サイト (YouTube

等)に投稿されている動画や DVD等を使用する事が

わかった.方眼紙や Excelは図4の様に,一セルを一

人の舞踊者に見立て,塗りつぶしたり名前を記入した

りする事で隊形をデザインする.動画は,過去の振付

例を参考にするために閲覧するものである.しかし,

Excelや方眼紙に関しても,前述のホワイトボードと

同様に,振りを視認する事ができないため,より視覚

的な方法の方が良いと思われる.

図 3 Excelの使用例Fig. 3 use of Excel

3. 関連研究

3. 1 「舞踊符」による民族芸能の記録・創作支援

海賀・湯川 [1]らは,磁気式モーションキャプチャを

用いて民族芸能の保存,伝承,学習のためのシステム

を開発した.その中で,「舞踊符」という造語を用いて

おり,一つの舞踊によく使われる振りのパターンを,

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一意に意味付けたものとしてデータベースに保存して

いる.舞踊符は,「舞踊コンポーザ」というシステム

を用いて,同一時間軸上で組み合わせることが可能で

ある.ここで組み合われた舞踊符らを,一纏めに「舞

踊譜」と呼んでいる.舞踊譜生成後に「舞踊コンバー

タ」というシステムを通すと,3DCGアニメーション

として確認することができる.

 本研究との大きな違いは,隊形のデザインという点

において論じられていない点である.舞踊において振

りは最も重要な要素の一つであるが,民族芸能の保存,

伝承という点において,隊形も必ず取り入れなければ

ならない要素の一つであると考える.本研究では,振

りに対して意味付けを行ってはいないが,典型的な振

付を行う場合には,モーションキャプチャデータを扱

う手間を省くことが出来るため,今後検討する必要が

ある.

3. 2 クラシック・バレエにおける対話型振付シス

テム

曽我,海野 [2]らは,光学式モーションキャプチャに

より記録したクラシック・バレエにおける基本的なス

テップをデータベース化し,Web上でクラシック・バ

レエの振付をシミュレーションすることのできるシス

テムを開発した.このシステムではモーションキャプ

チャデータをバレエダンサーの人体モデルに適応し,

より視覚的に振付のイメージを得られる.視点の変更

や,基本ステップのプレビュー,背景の変更,ステッ

プの速度変更,編集機能などが実装されており,複数

人を並べて舞踊の構成をシミュレーションすることも

可能となっている. しかし,クラシック・バレエに

特化した振付システムであるため,一般的な舞踊の振

付には使用できない.加えて,データベースの内容を

ユーザの意思で編集できないため,データベースの内

容がクラシック・バレエのモーションを網羅しない限

りは,ユーザのイメージに沿ったシミュレーションが

得られない可能性もある.仮に舞踊の種類をクラシッ

ク・バレエに限らなければ,多種多様な舞踊のデータ

ベースを作成することはとても困難であるため,舞踊

の種類を限定する場合のみ有効であると思われる.

3. 3 市販の 3DCGアニメーションを作成するた

めのアプリケーション

現在,3DCGアニメーションを作成するためのアプ

リケーションは多数存在する.高価な物もあればWEB

上に無償で公開されている物ものあり,3DCGの専門

家でなくとも,手軽に高品質な作品を制作することが

できる.中でも,MikuMikuDance(MMD) という無

償で提供されているアプリケーションは,モーション

キャプチャである Kinectからモーションキャプチャ

データを取得し,用意されているエージェントに踊ら

せることができる.しかし,パソコン初心者にとって

使いこなすには難しく,機能をよりシンプルにする必

要があると思われる.

4. 舞踊者エージェントとは

振り(身体動作)と隊形を統合的に可視化するため

のエージェントを,舞踊者エージェントと呼んでいる.

舞踊者エージェントは 3DCGにより表現され,モー

ションキャプチャデータを基に人体骨格モデルとして

表現される.本章では,モーションキャプチャデータ

の収録方法から,舞踊者エージェントを用いた隊形デ

ザイン手法について記述する.実際の舞踊者の代理と

して,図5の様な頭・首・肩・肘・手首・腰・膝・足首の1

5関節を有する人体骨格モデルを使用した.動きや踊

りのデータ生成には,Microsoft社のKinectモーショ

ンキャプチャを使用した.Kinectから得られる3次元

座標はカメラ座標系(原点:実世界における Kinect

の位置,X軸:左右,Y軸:上下,軸:奥行き)であ

り,距離の単位はmm(ミリメートル)である.本シ

ステムに付随して開発した収録用のプログラムを起動

し,舞踊者の各関節の追跡が開始されると,1フレー

ム毎に各関節の座標データが,1行が1フレームとし

てファイルに書き込まれる.

本システムでは,実世界の地面の代わりに,VR空

間上に 1000mm間隔に格子状の線分を表示する.舞

踊者エージェントは,その上で舞踊する様に描画され

る.空間上では,三次元空間内での視点を,マウス操

作により方位角方向,仰角方向に対し任意に変更する

事ができ,空間の原点に対して視点の距離を調整する

こともできる.これによって隊形全体を俯瞰したり,

振りに注目したりすることもできる.

5. 隊形デザイン手法

これまで,舞踊者エージェントをVR空間に配置す

る事で隊形をデザインする手法を提案してきた.図 7

の様に,XZ平面上に線分型や正多角形型(正三角形

~正二十角形)の隊形を作成する事ができる.隊形に

は個別の踊りや踊り始めるタイミングを指定できるた

め,時間差の着いた隊形をデザインすることもできる.

以下では,それらの手法について述べる.

5. 1 エージェント位置の移動

図 12の様に,舞踊者エージェントの足下部分をク

リック&ドラッグすると,XZ平面上で位置を変更する

事が出来る.これにより,用意されている線分型や正

多角形等で表現出来ない複雑な形状もデザインできる.

5. 2 参照線を用いた線分型隊形

XZ平面上において線分の始点と終点を図 12の様

に指定すると,その間に等間隔にエージェントが配置

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図 4 モーションキャプチャの収録イメージFig. 4 an image of capturing by Kinect

Motion Capture

図 5 Kinectを使用してモーションキャプチャデータを取得するシステム

Fig. 5 A system capturing motion cap-ture datas by Kinect

される.配置する座標は,始点,終点の座標を線形補

間することで生成している.補間する間隔は,150cm

で割った線分の長さを四捨五入して算出している.

5. 3 参照図形を用いた正多角形型隊形

XZ平面上において,正三角形の重心と一頂点まで

の距離を指定すると,各辺上に等間隔にエージェント

が配置される.正方形においては,図 11の様に重心

から一辺までの距離を指定する.指定後は,各頂点間

を線分の手法と同様に線形補完する.

5. 4 時間軸におけるモーションキャプチャデータ

の扱い

隊形毎に別々の振りを割り当てたり,同一の振りを

開始するタイミングをずらす事で時間差のある踊り

を作成するために,舞踊者エージェントの動きの基で

あるモーションキャプチャデータを読み込む際,本シ

ステムでは5つの異なったデータを同時に扱う事が出

来る様にした.なお,本システムにおけるモーション

キャプチャデータを扱うインターフェースは,Adobe

図 6 人体骨格モデルFig. 6 an anatomical model of the hu-

man body

図 7 舞踊者エージェントによる隊形例Fig. 7 an example of formations by

dancer agents

Premiereや iMovie,Windows Movie Maker等の主

な映像オーサリングシステムにおいて採用されている

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図 8 始点と終点の指定Fig. 8 the selection of the start and the

end of a figure

図 9 始点から終点の補間Fig. 9 the interpolation from the start

to the end

図 10 補間点上に配置された舞踊者エージェントFig. 10 dance agents arranged on the in-

terpolated positions

図 11 中心点・サイズの指定Fig. 11 the specification of the center

and the size of a figure

ビデオクリップという概念を参考に実装した物である.

ビデオクリップとは,あるデータの時間軸上の幅を矩

形の二次元的な横幅として表現したインターフェース

図 12 エージェント位置の変更Fig. 12 the modification of agents’ posi-

tion

であり,モーションキャプチャデータは動画とは異な

るが,アニメーションを扱うインターフェースとして,

現在世に広く使われている事から最適であると考え

る.そこで,本システムにおいてもビデオクリップの

概念を用いたインターフェースを実装した.以後これ

をモーションクリップとして記述する.また,前述の

通り読み込む事のできるデータの総数は5つであるが,

これらは同一時間軸上に配置され,図 13にある様に,

再生ボタンをクリックすると,アニメーションとして

の経過時間が計測され,それぞれのモーションクリッ

プの始点以上,終点以下の範囲に経過時間がある時の

み,データは再生される.この仕組みから,時間差が

付与された隊形が作成される.

図 13 時間軸におけるモーションクリップ表現Fig. 13 the expression of the motion-clip

on the timeline

5. 5 舞踊者エージェントの身体表現

振付師に対して実現困難な状況である事を提示する

手法として,舞踊者エージェントにジェスチャー表現

を実装した.例えば,複数の隊形を作成した際に隊形

同士が衝突或いは狭すぎる場合,衝突している舞踊者

エージェントは,「倒れる」「しゃがむ」「反発する」等

の反応を返し,それらのエージェントをぶつからない

位置まで移動させないと,それらの舞踊が開始されな

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い.また,隊形移動においては,規定時間内に到着で

きない場合,舞踊者らは「倒れる」「急ぐ」等の反応

を返す.

図 14 近すぎる場合の反応(しゃがみこむ)Fig. 14 A reaction each agent is too close

( Squat down )

図 15 間に合わない場合の反応(倒れる)Fig. 15 A reaction each agent is too close

( Squat down )

5. 6 隊形間の移動シミュレーション

本システムにおいては,現在の隊形の位置から次の

位置まで移動する場合,舞踊者らが目的地まで最短距

離の経路を選択し,等速直線運動で行動すると仮定す

る.実際の移動においての再現性は低いと推測される

が,結果的な到達可能性のみを示すため,到達過程に

おける速度の変化等は想定しない.1フレーム毎の x

と zの増加量は,以下の数式 (1)から算出される.

(sx, sz) =

(s× fx√fx2 + fz2

,s× fz√fx2 + fz2

)(1)

図 16 に示す様に,隊形の現在の位置座標を F(fx,

fz),目的地の座標をD(dx, dz),到達するまでの速度

を s(px/frame)とする.△DEFと△PQFは相似の関

係にあるので,速度 sを決定すると,FP : FQ = FD

: FEから増加量 sx, szが求まる.なお,点 Fは隊形

の中心点である.

図 16 移動経路の算出方法Fig. 16 Calculation method of a trans-

ferring process

6. 振りと隊形の視認性に関する評価実験

視点変更機能について,視点変更の自由度を以下の

様に限定したシステムをそれぞれ実装し,各システム

を比較する実験を行った.

• 方位角方向のみ視点変更可能

• 仰角方向のみ視点変更可能

• 方位角方向と仰角方向へ視点変更可能

実験の手順:

被験者 20名(学生,振付経験無し)に,本システ

ムの使用方法について解説した後,それぞれのシステ

ムにおいて隊形を作成してもらい,視点を変更するこ

とで作成した隊形の全容を把握することができたかと

いう質問をし,5段階評価でアンケートに回答しても

らった.

1. 当てはまらない

2. あまり当てはまらない

3. どちらとも言えない

4. だいたい当てはまる

5. 当てはまる

実験の結果:

アンケート結果を集計し被験者内一要因計画におい

て,有意水準を p=0.05として反復測定分散分析を行っ

た.結果は図 17の様に,F=37.948,p<.01となり,

有意差が得られた.質問の主効果における多重比較

(Ryan’s method)においても,全種で有意差が得ら

れた.また,アンケートの自由記述に対して得られた

被験者の意見を,ポジティブ(+)かネガティブ(ー)

に分類し,表 1にまとめた.

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* **図 17 各種視点変更への評価

Fig. 17 the result of all kind of view-point

表 1 視点変更の各パターンに対する自由記述Table 1 the comments of all kind of

viewpoint

視点 意見横から見える為動きが理解しやすい

方位角方向

+ 正面から見ると被ってしまっていても,横からも見れるので前後の動きがわかりやすい実際の観客の目線に近い配置した位置を確認し辛い

ー モデルの数が多いとわかりにくい正面がわからなくなることがある図形を配置する際見やすかった

仰角方向

+ 奥の方の隊形も把握できた

全体の形を把握するには便利隊形の横側も見たい.

ー 距離感がわからない動きが見え辛い.上空から図形を配置できることに加え,左右から見ることができて全体を把握しやすかった

方 位角・仰角方向

ー 構成がわかりやすく,後ろの動きも見えるため,実際に演舞をみるのと似た目線で見られる前方からの観客視点でも見ることができ,隊形の確認もしやすい

7. 隊形デザイン手法に関する評価実験

7. 1 隊形デザイン手法に関する評価実験

それぞれの手法のユーザビリティと直感性を検証す

るために,本システムの隊形デザイン手法を比較する

実験を行った.前者のユーザビリティに関する実験で

は,舞踊者エージェントの位置を一個体ずつ移動する

手法(以後個体移動とする)や,線分型の隊形デザイ

ン手法(以後線分型とする),正三角形型のデザイン

手法(以後正三角形型とする),正方形型のデザイン

手法(以後正方形型とする)の4種を用い,後者の直

感性に関する実験では,線分型,正三角形型,正方形

型の3種を比較した.

実験手法:

被験者 15名(男性 8名,女性 7名,学生,振付経

験無し)に,本システムの使い方を説明し,時間を制

限せずに隊形デザイン手法を用いてそれぞれに任意の

隊形を作成してもらった.終了後,5段階評価のアン

ケートに解答してもらった.以下がアンケートの質問

事項である.

1. 舞踊者エージェントの位置を移動する方法は,思っ

た通りの隊形を作成しやすい

2. 線分を引き,線上に舞踊者エージェントが並ぶ隊

形を作成する方法は,思った通りの隊形を作成し

やすい

3. 正三角形を描画することで,正三角形の各辺上に

舞踊者エージェントが並ぶ隊形を作成する方法は,

思った通りの隊形を作成しやすい

4. 正方形を描画することで,正方形の各辺上に舞踊

者エージェントが並ぶ隊形を作成する方法は,思っ

た通りの隊形を作成しやすい

5. 線分を引く際に,違和感なく直感的に隊形を作成

することができた

6. 正三角形を描く際に,違和感なく直感的に隊形を

作成することができた

7. 正方形を描く際に,違和感なく直感的に隊形をす

ることができた

実験の結果:

アンケート結果を集計し被験者内一要因計画にお

いて,有意水準を p=0.05 として反復測定分散分析

を行った.各手法のユーザビリティに関する評価は,

F=15.607,p<.01となり,有意差が得られた.多重

比較 (Ryan’s method)では,図 18に示す様に,舞踊

者エージェントの個体移動,線分型,正方形型,正三

角形型で有意差が得られなかった.

 各手法の直感性に関する評価は,F=7.46,p=0.025

となり有意差が得られた.多重比較 (Ryan’s method)

においては,以下の図 19に示す様に,正方形型と正

三角形型で有意差が得られなかった.正方形型,正三

角形型の描画においては,描画方法自体が理解しにく

いという意見が多く見られた.

7. 2 予備実験:ホワイトボードと本システムとの

比較

本システムの隊形デザイン手法において,デザイン

時に振りが見える事により,実際の舞踊者が踊る場合

の完成像のわかりやすさと,隊形毎に割り振られる振

りのわかりやすさを調べるための予備実験を行った.

実験の手順:

被験者 6名(男性 4名,女性 2名,学生,振付経験

無し)に,南中ソーラン節の映像(「ソーラン節 振り

付け 高齢者・小学校低中学年編(前向き)」)の 1:08

Page 8: Kinect による身体動作情報と隊形を 統合的に可視化する舞踊 ...yone/research/pdf_graduate...Excel や方眼紙に関しても,前述のホワイトボードと

図 18 各手法のユーザビリティに関する実験結果Fig. 18 the result of the examination

about the usability of all kind ofdesign methods

図 19 各手法の直感性に関する実験結果Fig. 19 the result of the examination

about the intuitiveness of allkind of design methods

~1:15を参照してもらい,前述のホワイトボードを用

いた従来の隊形デザインを体験してもらった.続いて,

本システムについての解説を行い,ホワイトボードの

時に参照した振りと同一の動きをする舞踊者エージェ

ントを用いて,隊形をデザインしてもらった.作業が

終了すると,以下の質問について,それぞれ5段階評

価のアンケートに回答してもらった.

1. ホワイトボード上で磁石を動かし隊形を考案する

方法は,隊形に対して振りを想像しやすかった

2. ホワイトボード上で隊形を作成した結果,実際に

踊る場合の見栄えを想像することができた

3. システム上で隊形を考案する方法は,隊形に対し

て振りを想像しやすかった

4. システム上で隊形を作成した結果,実際に人間の

舞踊者が踊る場合の見栄えを想像することがで

きた

実験の結果:

アンケート結果を集計し,被験者内一要因計画にお

いて,有意水準を 0.05として反復測定分散分析を行っ

た.「隊形に対して振りを想像しやすかった」という質

問においては,F=7.353,p=0.0422となり,有意差

が得られた(図 21).これは,ホワイトボードでは実

図 20 実際の見栄えの想像しやすさFig. 20 the easiness to image real forma-

tions and dance

図 21 隊形毎の振りの想像しやすさFig. 21 the easiness to image the dance

motion every formation

際の地面を真上から見た視点のみに限られるが,本シ

ステムでは,あらゆる角度から隊形を視認できるため

であると思われる.

 「実際に人間の舞踊者が踊る場合の見栄えを想像

することができた」という質問においては,F=62.5,

p=0.0005となり,有意差を得ることができた(図 20).

アンケートの自由記述から,「振りの動画を見ながら隊

形を作成するのは,想像の域から出ないが,システム

上で隊形を作成すると,実際に踊ってみている様に隊

形を考察することができた」や「ホワイトボードでは

舞台の広さや距離感が曖昧で,実際に踊ってみた際の

見栄えが難しかった」という意見が得られた.

8. 考察

8. 1 視点変更機能に関する評価実験

図 17から,方位角方向のみの場合よりも仰角方向

のみの場合の方が隊形全体を把握する事ができ,仰角

方向のみの場合よりも方位角方向,仰角方向に視点変

更できるパターンの方が把握する事が出来ることがわ

かる.このことから,隊形全体の形態を認識するには

奥行き感を知覚することができるかどうかに依存し,

隊形を俯瞰することのできる仰角方向の様子が影響し

Page 9: Kinect による身体動作情報と隊形を 統合的に可視化する舞踊 ...yone/research/pdf_graduate...Excel や方眼紙に関しても,前述のホワイトボードと

たと思われる.

 方位角方向のみの場合,舞踊者エージェントの側面

から様々な角度から確認できるので振りの視認性は高

い.しかし,隊形を俯瞰できないために,隊形がどう

いった形であるか,舞踊者エージェントがどれほど配

置されているか分かりづらい.仰角方向のみの場合,

図形を配置したり隊形の形態はわかりやすいが,舞踊

者エージェントの前面か上面しか見る事ができないた

め,正面から見た際にはエージェント同士の距離感が

分かりづらい.

8. 2 隊形デザイン手法のユーザビリティに関する

評価実験

図 18から,舞踊者エージェントの個体移動,線分型

間の評価が,正三角形,正方形型よりも高く,正三角

形,正方形型の間ではそれぞれ有意差が得られなかっ

た.この事から,任意の隊形を作成したい場合には,

正多角形型の隊形の様な複雑な形態よりも,より単純

な形態又は,より細かな配置ができる方が使いやすい

事がわかる.また,正多角形の評価が低くなった事は,

後述の直感性が影響していると推測される.

8. 3 隊形デザイン手法の直感性に関する評価実験

図 19から,前述のユーザビリティと同様に,線分型

間の評価が,正三角形,正方形型よりも高く,正三角

形,正方形型の間ではそれぞれ有意差が得られなかっ

た.これについては,被験者のペイントツールやモデ

リングツールの使用経験に影響したと推測する.つま

り,今回実装したシステムにおいて正多角形を描画す

るには,図形の中心を指定し,ある頂点までの距離を

マウスクリックで指定するという行程がある.これは,

2DCGをデザインするペイントツールにおいてはあま

り採用されていない手法である.対して,3DCGのモ

デリングツールは,本システムの手法と類似している

物が多い.これが今回の結果に影響したと思われ,今

後被験者をどちらのツールに慣れているかで分類し,

それぞれにおいて直感性に差が出るか検証する事が考

えられる.しかし,本研究の対象は振付師であるため,

重きを置かない.

8. 4 ホワイトボードと本システムとの比較

図 20,21から,ホワイトボードよりも本システム

を使用した場合の方が,隊形に割り振られた振りを想

像しやすく,実際に踊る際の見栄えも推定しやすいと

いう事がわかる.これらの結果は,地面を俯瞰するこ

としかできないホワイトボードでの作業に対して,本

システムでの視覚変更機能による視認性の向上のため

であると考える.また,舞踊者エージェントの動きが

静止した状態であっても,より人間に近い形態である

舞踊者エージェントの方が想像しやすかったと考えら

れる.

9. 今後の展望

9. 1 エージェントの観点における課題

本システムを用いて隊形のデザインを行う上で,舞

踊者エージェントの身体表現によって気付きを与え得

るか主観評価により検討する.エージェントが近すぎ

る場合や,隊形移動が間に合わない場合に示すエージェ

ントの反応の比較対象として,表 2のパターンを用い

る.これらを実装したシステムをそれぞれ実行し,間

隔が近すぎる場合は適切な位置まで移動し,間に合わ

ない場合は速度を図 22に表示されているスライダー

バーを動かして調節する事で,間に合う速度になる様

に試行する.また,それぞれの身体表現が持つ意味合

いを SD法を用いて,状況の表現が適切に行われたか

について評価する.

舞踊者エージェントとは別に,指揮者エージェントの

実装を行う.指揮者エージェントは,舞踊者エージェ

ントが状況をノンバーバルな表現を用いて伝えるのに

対して,画面上に文字で隊形に対して評価や意見を行

う.また,指揮者エージェントに対して言語的に命令

する事で,舞踊者エージェントへ間接的な命令を行う

事を検討している.これは,舞踊者エージェントや隊

形移動に関する詳細な設定を省く事を目的とする.

図 22 隊形移動Fig. 22 Transformation

表 2 実験予定の比較パターンTable 2 the comparing kind of the

scheduled examination

  近すぎる場合 間に合わない場合A 無反応(踊り続行) 無反応(遅延して到着)B 一瞬動きを止めて続行 目的地まで一気に移動C しゃがむ 速度を上げて急ぐD ぶつかって反発する 倒れる

10. おわりに

本研究では,振付作業を最適化するためのシステム

を提案してきた.特に,振付における隊形デザインの

可視化に着目し,隊形デザインに特化した機能を実装

し,その有意性を検証するための実験を行ってきた.

初めに,視点変更の自由度による振りと隊形の視認性

を調べるための実験を行った.視点変更の自由度を,

方位角方向のみ,仰角方向のみ,方位角方向と仰角方

Page 10: Kinect による身体動作情報と隊形を 統合的に可視化する舞踊 ...yone/research/pdf_graduate...Excel や方眼紙に関しても,前述のホワイトボードと

向の場合にそれぞれ限定したシステムをそれぞれ比較

した結果,方位角方向と仰角方向を合わせて視点変更

を行う事で,振りと隊形の両方が最も理解しやすいと

いう事がわかった.つまり,やはりこれらの視認性は

視点の自由度が影響しているのである.

次に,隊形デザイン手法のユーザビリティと直感性に

関して実験を行った.それぞれにおいて正三角形型と

正方形型の間には有意差がなく,正三角形型と正方形

型よりも線分型の方が良いという結果になった.この

事から,デザイン手法のユーザビリティは直感性と相

関があると考えられる.

 従来よく用いられるホワイトボードを用いた隊形デ

ザイン手法と,本システムにおける隊形デザイン手法

を比較した結果,本システムを使用した場合,実際に

人間の舞踊者が踊る場合の見栄えを想像しやすく,隊

形に対して振りを想像しやすくなったという結果が得

られた.又,本システムにおける隊形デザイン手法を

それぞれ比較した結果では,参照図形を用いるよりも,

参照線を用いる手法の方がより任意の隊形を作成しや

すく,違和感なく直感的に隊形を作成することができ

たという結果になった.しかし,それぞれの手法にお

ける操作方法に依存する結果となった可能性があるの

で,今後各手法の操作方法に幾つかパターンを用意し,

再度実験をする事を検討している.

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