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2014- 9「車両技術 248 号」 60 JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車) ※杉 すぎ やま よし かず 写真 1 外観 要旨 日本貨物鉄道株式会社(JR 貨物)では、2015 年度末予定の北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業に向け、 海峡線と新幹線との共用走行区間に対応する新形交流電気機関車 EH800 形式の開発を行っている。青函トンネ ルを含む海峡線の共用走行区間については、在来線及び新幹線の双方の車両が走行できるように三線軌条化され るとともに、新幹線規格の架線電圧及び運転保安設備に変更される。このため、在来線及び共用走行区間を走行 可能な機関車の開発が必要となった。EH800 形式は、EH500 形式交直流電気機関車をベースとした 2 車体箱形 構成を採用した 8 軸機関車であるが、機関車では日本初となる交流 20 kV 及び 25 kV の 2 つ架線電圧に対応した 主回路をもち、異なる複数の運転保安設備、共用走行区間の架線偏 へん に対応した集電装置などを搭載した交流電 気機関車である。以下に、EH800形式901号機(試作車)の概要を紹介する。 (編集部注:EH500 形式交直流電気機関車は本誌 217 号 1999 年 2 月参照) 1 はじめに 1.1 概要 2015 年度末予定の北海道新幹線開業によって、海峡線 (新 しん なか ぐに 信号場~木 ない 間)の大部分は、在来線(軌間 1067 ㎜)と新幹線(軌間1435 ㎜)との双方の車両が走行で きるように三線軌条化され、共用走行区間となる(図1)。 JR 貨物では、これまで、EH500 形式交直流電気機関車 (EH500形式)及び ED79 形式交流電気機関車(ED79 形式 50 番代)を海峡線で運用してきたが、北海道新幹線開業後 は、共用走行区間の新幹線規格の架線電圧(交流25kV 50Hz)及び運転保安設備(DS-ATC)に対応する機関車が必 要となるため、新形交流電気機関車 EH800 形式の開発を 行っている。 1.2 津軽海峡線の貨物列車の現況 1988 年に開通した青函トンネルによって、それまで青 ※ 日本貨物鉄道㈱ 鉄道ロジスティクス本部 車両部技術開発室 機関車グループ 写真 2 ED79 形式 50 番代及び EH500 形式

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Page 1: JR貨物 EH800形式901号機交流電気機関車(試作車)...JR貨物 EH800形式901号機交流電気機関車(試作車) 61 函連絡船が担っていた本州~北海道間の輸送は、陸続きで

2014- 9「車両技術 248 号」60

JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車)※杉

すぎ

山やま

 義よし

一かず

 

写真 1 外観

要旨日本貨物鉄道株式会社(JR 貨物)では、2015 年度末予定の北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業に向け、

海峡線と新幹線との共用走行区間に対応する新形交流電気機関車 EH800 形式の開発を行っている。青函トンネルを含む海峡線の共用走行区間については、在来線及び新幹線の双方の車両が走行できるように三線軌条化されるとともに、新幹線規格の架線電圧及び運転保安設備に変更される。このため、在来線及び共用走行区間を走行可能な機関車の開発が必要となった。EH800 形式は、EH500 形式交直流電気機関車をベースとした 2 車体箱形構成を採用した 8 軸機関車であるが、機関車では日本初となる交流 20 kV 及び 25 kV の 2 つ架線電圧に対応した主回路をもち、異なる複数の運転保安設備、共用走行区間の架線偏

へん

倚い

に対応した集電装置などを搭載した交流電気機関車である。以下に、EH800 形式 901 号機(試作車)の概要を紹介する。(編集部注:EH500 形式交直流電気機関車は本誌 217 号 1999 年 2 月参照)

1 はじめに1.1 概要

2015 年度末予定の北海道新幹線開業によって、海峡線(新

し ん

中な か

小お

国ぐ に

信号場~木き

古こ

内な い

間)の大部分は、在来線(軌間1 067 ㎜)と新幹線(軌間 1 435 ㎜)との双方の車両が走行できるように三線軌条化され、共用走行区間となる(図 1)。JR 貨物では、これまで、EH500 形式交直流電気機関車(EH500 形式)及び ED79 形式交流電気機関車(ED79 形式50 番代)を海峡線で運用してきたが、北海道新幹線開業後は、共用走行区間の新幹線規格の架線電圧(交流 25 kV 50 Hz)及び運転保安設備(DS-ATC)に対応する機関車が必要となるため、新形交流電気機関車 EH800 形式の開発を行っている。1.2 津軽海峡線の貨物列車の現況

1988 年に開通した青函トンネルによって、それまで青

※ 日本貨物鉄道㈱ 鉄道ロジスティクス本部 車両部技術開発室 機関車グループ

写真 2 ED79 形式 50 番代及び EH500 形式

Page 2: JR貨物 EH800形式901号機交流電気機関車(試作車)...JR貨物 EH800形式901号機交流電気機関車(試作車) 61 函連絡船が担っていた本州~北海道間の輸送は、陸続きで

JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車) 61

函連絡船が担っていた本州~北海道間の輸送は、陸続きで行えるようになった。貨物列車は、本州側から、東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)の津軽線、北海道旅客鉄道株式会社(JR 北海道)の海峡線及び江差線(以下、3 線を津軽海峡線と称す。)を経由して、コンテナ車 20 両(1 000 t けん引)で道内各地へ運行している。

主な輸送品目としては、北海道からは、農産品、乳製品、紙製品などを全国の消費地に発送しており、とりわけ、関東及び関西地区に発送される農産品の鉄道シェアは、大変高いものになっている。一方、全国各地からは、宅配貨物、飲料、加工食品、衣類、雑貨及び書籍などの生活必需品が北海道へ到着している(図 2)。津軽海峡線の列車本数(2010 年度現在)は、貨物列車 51 本 / 日(68%)、旅客列車 24 本 / 日(32%)となっており、貨物列車のウェイトが高い線区である。

現在、JR 貨物では、旧日本国有鉄道(旧国鉄)が 1988 年の津軽海峡線開業を目的に開発した ED79 形式をベースとする ED79 形式 50 番代 9 両及び 1996 年に首都圏~五稜郭間を直通運転する目的で開発した EH500 形式 70 両をこの区間の貨物輸送に投入している(写真 2)。

2 車両の概要2.1 形式名称及び性能

機関車では日本初となる 20 kV 及び 25 kV の複電圧に対応する新形交流電気機関車の形式名称は、8 動軸の交流電気機関車で、交流誘導電動機駆動であるため、“EH800”形式とした。

EH800 形式は、青函トンネル内の 20 ㎞以上連続する 12

‰勾配で、コンテナ車 20 両(1 000 t)のけん引を行うため、共用走行区間での引張力特性は、EH500 形式と同じく、1 時間定格 4 000 kW が必要となる。この共用走行区間の架線電圧 25 kV に合わせて最大性能を設定したため、在来線区間の架線電圧 20 kV では、電圧の低下に応じて共用走行区間の約 80%の出力(1 時間定格 3 435 kW 相当)となる。運転整備質量は、EH500 形式と同じく、134.4 tとし、起動引張力は、42 t を確保することとしている(図8 参照)。また、抑速回生ブレーキを装備し、1 000 t けん引で 12‰下り勾配を一定速度で走行できる性能を有している。なお、最高運転速度は 110 ㎞/h である。

デザインは、赤色を基調とし、新幹線を意識したスピード感を躍動感のあるシルバーのラインで表した。また、車体を一周する白線は、本州と北海道とを結ぶイメージを示している。

3 車体及び機器配置3.1 車体

車体は、EH500 形式をベースとした 2 車体箱形構成としており、2 車体間は、球面軸受を使用した中間引張装置で結合している。外板は、腐食防止を考慮し、耐候性鋼板を使用している。2 車体ともに運転台を片端(機関車としては両端)に配置し、真空遮断器をはじめとする特別高圧機器を搭載した車体を“1 端車”、他方を“2 端車”と呼んでいる。また、機器室の構成は、EH500 形式と同様に、通年で約 20℃・湿度 90%以上の環境である青函トンネル内での冬季の結露を考慮した構造及び機器冷却システムを採用している。

EH500 形式との主な相違点としては、屋上機器を 25 kVでの絶縁離隔を考慮した配置とし、“2 端車”の両側面にLCX(漏えい同軸ケーブル)アンテナを設置した。また、床下への着雪を防止するため、床下機器間を防雪カバーで

[貨物待避線あり]

新函館北斗

奥津軽いまべつ

湯の里知内信号場[貨物待避線あり]

図 1 津軽海峡線の概要図

図 2 陸上貨物輸送の鉄道シェア(2010 年度)

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図3 

形式

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JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車) 63

会社・車両形式 日本貨物鉄道㈱・EH800 形式(EH800-901 号機)

使用線区青い森鉄道線、奥羽本線、津軽線、海峡線、江差線、東青森~五稜郭間

軌間(㎜) 1 067使用線区の最急勾配 20 ‰

用途 貨物列車けん引用 電気方式 交流 20 kV / 25 kV(50 Hz)車体製作会社 ㈱東芝 製造初年 2013 年台車製作会社 川崎重工業㈱ 1 次製作両数 1 両主回路装置製作会社 ㈱東芝 車両技術の掲載号 248

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 110

1 時間定格出力(kW) 4 000(25 kV)、3 435(20 kV)速度(㎞/h) 58.5引張力(kN) 240.5(25 kV)、187.0(20 kV)

力行制御方式

PWM 方式電圧形インバータ装置による電圧、周波数制御(空転再粘着制御、軸重移動補償制御付き)

ブレーキ制御方式PWM 方式電圧形インバータ装置による電圧、周波数制御

抑速制御 抑速回生ブレーキ

運転保安装置ATS-SF、ATC-L、EB 装置、TE 装置

列車無線

B/C タイプ列車無線、青函 Bタイプ列車無線、防護無線、新幹線デジタル無線、構内無線、防護無線(準備工事)

凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 ><;パンタグラフ軸配置 (Bo-Bo)・(Bo-Bo)運転整備質量(t) 134.4軸重(t) 16.8構体材料 / 構造 耐候性鋼板

その他の主要設備

主幹制御器

形式 / 質量(㎏) FMC8 / 67方式 縦軸 3 ハンドル

速度計装置 電子式表示器(車内信号付き)

標識灯前部標識灯 シールドビーム後部標識灯 赤色 LEDその他

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式 / 質量(㎏) FMH3105-FTC2000 / 410圧縮機容量 2 075 ㍑/min圧縮機方式 往復形単動 2 段圧縮

空気タンク

元空気タンク 440 ㍑供給空気タンク 440 ㍑

ブレーキ装置

形式 / 質量(㎏)FBCD102A / 158(1 端車)FBCD101C / 270(2 端車)

記事

主要寸法

長さ(㎜) 24 667連結面間距離(㎜) 25 000車体幅(㎜) 2 808(最大 2 972)高さ(㎜)

屋根高さ 3 711屋根取付品上面 4 280(パンタ折りたたみ)

全軸距(㎜) 20 900台車中心間距離(㎜) 6 750、4 900、6 750車輪径(㎜) 1 120(新製時)

特記事項

表 1 JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車) 車両諸元

覆う構造とした。全体機器配置を図 5 に示す。3.2 主回路機器

EH800 形式では、交流 25 kV 対応として、屋上機器、真空遮断器及び主変圧器については、EH500 形式から変更を行い、交直切換器、主ヒューズ及び高速度遮断器などの直流機器の一部を廃止した。真空遮断器などの 25 kV対応機器については、新幹線で実績のある製品を採用した(図 7 参照)。3.3 屋根上機器配置

屋根は、機械室内の機器の着脱を考慮して、分割して取り外すことが可能な構造としている。また、在来線軌道中心と新幹線軌道中心との中心となる位置(在来線軌道中心と新幹線軌道中心とからそれぞれ 92 ㎜偏

へ ん

倚い

した位置)に、架線の位置が変更される共用走行区間に対応するため、新規にばね上昇式のシングルアームパンタグラフを開発し

た。3.4 床下機器配置

床下の台車間には、補助電源装置、主変圧器送風機及び

写真 3 運転台

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電気駆動系主要設備

集電装置形式 / 質量(㎏) FPS6 / 121方式 シングルアーム式

主変圧器

形式 / 質量(㎏) FTM5 / 3 850

方式単相外鉄形無圧密封式、送油風冷式

定格容量(kVA) 2 598

主変換装置

コンバータ

方式 PWM 方式電圧形インバータ

形式 / 質量(㎏)FMPU17 / 2 360(インバータ一体)

冷却方式 沸騰冷却強制風冷式

インバータ

方式 PWM 方式電圧形インバータ

形式 / 質量(㎏)FMPU17 / 2 360(コンバータ一体)

冷却方式 沸騰冷却強制風冷式

主電動機

形式 / 質量(㎏) FMT4A / 1 600

方式三相かご形誘導電動機、強制風冷式

1 時間定格(kW) 565回転数(min-1) 1 470特記事項

主回路標準限流値

力行(A)ブレーキ(A)

電気ブレーキの方式 回生ブレーキ

ブレーキ抵抗器

形式 / 質量(㎏) FBMR7 / 800容量(kW) 2 320冷却方式 強制風冷式

補助電源設備

補助電源装置

形式 / 質量(㎏) FAPU8 / 2 140方式 PWM 方式電圧形インバータ出力 150 kVA×2

蓄電池種類 / 質量(㎏) アルカリ / 425容量(Ah) 12(5 時間率)主な用途 制御用

台   車

形式

第 1 台車 FD7O第 2 台車 FD7P第 3 台車 FD7Q第 4 台車 FD7R

支持装置車体 空気ばね直結ボルスタレス式軸箱 軸はり式

けん引装置 Z リンク形けん引ばり式まくらばね方式 空気ばね式軸ばね方式 コイルばね式軸距(㎜) 2 500

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね

軸ばね

コイルばね総合防振ゴム

リンクばね -台車最大長さ(㎜) 4 166

基礎ブレーキ

第 1~3 台車 片押し式ユニットブレーキ

第 4 台車片押し式ユニットブレーキ、駐車ブレーキ付き

ブレーキ倍率 4制輪子 焼結合金制輪子ブレーキシリンダ×個数 4駆動方式 1 段歯車減速つり掛け式歯数比(減速比) 5.125(82:16)継手 -

軸受密封式複列つば付き円すいころ軸受

質量(t)

第 1 台車第 2 台車第 3 台車第 4 台車

記事

軌道中心から 92 ㎜偏倚した架線に対応するシングルアームパンタグラフ採用

ATS-SF 車上子(5.12 参照)を設け、車両前端には、ATC受電器を設置している。また、2 車体間を結合する中間引張装置下部には、DS-ATC 用(5.12 参照)のトランスポンダ車上子を新設した。なお、DS-ATC 用の地上子は、新幹線軌道中心に設置され、在来線軌道中心から偏倚した位置となるため、上下線用で 2 組を搭載している。

4 運転室運転室内は、EH500 形式をベースとして、運転台には

ブレーキ設定器、主幹制御器、各スイッチを設け、前面計器盤には、架線電圧計、空気圧力計、速度計、電流計、TE 装置(5.12 参照)の押しスイッチ及び表示灯を設けている(図 4)。EH800 形式では、DS-ATC に対応するため、速度計を電子式(高輝度液晶タイプ)とした上、2 重系とした。また、共用走行区間と在来線区間とで列車防護方式が異なる a)ため、TE 装置の押しスイッチ付近に“在来”及び“共用”の表示灯を設けた。また、DS-ATC を利用した共用走行区間での進路制御に対応するため、運転台右側に配置したモニタ装置(5.11 参照)に列車番号入力機能を設け 写真 4 主変換装置(FMPU17)

表 1 JR 貨物 EH800 形式 901 号機交流電気機関車(試作車) 車両諸元(続き)

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た。なお、前面窓ガラスは、EH500 形式同様に、導電性皮膜付き合わせガラスを使用し、運転視界の確保を図っている。そのほか、運転室は、気密性を高めるとともに、屋根上に冷房装置を設置し、運転台下部に、温風暖房器を備えている。

注 a) 新幹線では、き電停止による列車防護方式(保護接地スイッチを使用)としているが、在来線では発炎信号、発報信号(防護無線)及び発光信号による列車防護方式としている。

5 主要機器5.1 主変圧器

20 kV 及び 25 kV の複電圧に対応する主変圧器は、JR東日本の新在直通新幹線(山形・秋田新幹線)で使用されている 3次電源タップ切換方式を採用した。EH800形式は、20 / 25 kV の異電圧セクションで地上子からの地点情報を受けて、交流接触器を作動させ、補助回路に出力する 3 次巻線のタップ切換を行う予定である。そのほかの構成は、EH500 形式同様の送油風冷式の外鉄形無圧密封方式とし、冷却油にはシリコン油を使用している。2 次巻線は、2 分割 2 群構成とし、各々に主変換装置のコンバータ部と接続している(写真 5)。5.2 主変換装置5.2.1 概要

主変圧器の 2 次側以降の主回路は、EH500 形式と同等であるため、EH500 形式の主変換装置をベースに、25 kVに対応するため、制御ユニットのソフトを変更した。主回路は、20 / 25 kV で切換を行わず、架線電圧の低下に応じた出力制限を行う。主変換装置は、コンバータ及びインバータを内蔵し、“1 端車”及び“2 端車”にそれぞれ 2 台づつ、

車両としては、合計 4 台を搭載している(写真 4)。5.2.2 コンバータ

コンバータは、IGBT 素子を使用した PWM 方式 3 レベル電圧形の PWM コンバータを採用しており、各群の制御搬送波の位相をずらすなどの方法で、高次高調波の低減にも努めている。5.2.3 インバータ

インバータは、コンバータと同じく IGBT 素子を使用した PWM 方式 3 レベル電圧形インバータを採用している。主電動機の制御は、1 インバータ 2 モータ制御の台車制御としている。5.3 主電動機

主電動機は、JR 貨物の新形式機関車と共通の FMT4A形を搭載している。FMT4A 形は、強制風冷式の三相かご形誘導電動機で、定格出力は 565 kW である。歯数比は、5.125(82 / 16)とし、安定した起動トルクを確保しつつ、小形・軽量化にも配慮した構造にしている(写真 6)。5.4 補助電源装置

補助電源装置は、EH500 形式では機器室内に搭載していたが、EH800 形式では、1 台当たり出力 150 kVA の補助電源装置を“1 端車”及び“2 端車”の床下の台車間にそれぞれ 1 台づつ、車両としては、合計 2 台を搭載している。従来の機器室内から床下へ配置を変更したため、EH500形式に比べて防水及び防塵を強化した構造を採用している。補助電源装置の構成は、IGBT 素子を用いた 2 レベルインバータであり、常時、CVCF 運転を行う。また、片群故障時は、他群からの延長給電を可能としており、EH500 形式同様に冗長性を確保している(写真 7)。5.5 電動送風機

電動送風機は、EH500 形式と共通の FMH3105-FFK16

写真 5 主変圧器(FTM5) 写真 6 主電動機(FMT4A)

写真 7 補助電源装置(FAPU8) 写真 8 ATC 車上装置

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図4 

運転

室機

器配

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図5 

全体

機器

配置

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図5 

全体

機器

配置(

続き

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図6 

動台

車(FD

7O、

FD7P

、FD

7Q、

FD7R

写真

9 FD

7P

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図7 

主回

路つ

なぎ

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形を 4台搭載しており、230 m3/minの性能を有している。5.6 ブレーキ抵抗器

EH800 形式 901 号機(試作車)では、青函トンネルの連続 12‰の勾配区間において、抑速走行が可能な容量の強制風冷式のブレーキ抵抗器 4 群を、“1 端車”及び“2 端車”の機器室内にそれぞれ 2 群づつ搭載している。5.7 蓄電池

蓄電池は、制御回路の電源として、QFGM60 形 100Vニッケルカドミウムアルカリ蓄電池を搭載している。容量は、1 時間率で 60 Ah の性能を有している。5.8 集電装置

集電装置は、共用走行区間の架線偏倚に対応するため、新形となる FPS6 形シングルアーム式パンタグラフを採用した。共用走行区間の架線偏倚に対応するため、既存の機関車と比較して、集電舟の幅を広げている。5.9 ブレーキ装置

ブレーキ装置は、電気指令式自動空気ブレーキシステム

で、回生ブレーキ併用(停止ブレーキ及び抑速ブレーキ)としている。また、耐雪ブレーキを有している。

青函トンネル内の約 20 ㎞におよぶ下り 12‰連続勾配の走行では、交流区間専用の ED79 形式には、抑速回生ブレーキ、交直両用の EH500 形式は、抑速発電ブレーキを使用している。そこで、ED79 形式と同じ交流区間専用のEH800 形式についても、回生ブレーキの使用を基本とした。なお、試作車(901 号機)は、発電ブレーキも併せて搭載しており、主変換装置のソフトウェア設定で、回生ブレーキと発電ブレーキとの切換えができるようにしている。5.10 電動空気圧縮機

電動空気圧縮機は、EH500 形式と共通の FMH3105-FTC2000 形電動空気圧縮機を 2 台搭載して、冗長性の向上を図っている。5.11 電子制御装置(モニタ装置・運転状況記録装置)

電子制御装置は、FECU3 形を“1 端車”及び“2 端車”の運転室に搭載している。この装置は、モニタ装置及び運転

図 8 力行性能曲線

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状況記録装置の機能を備えている。モニタ装置は、運転画面、検修画面を備えており、故障時は、故障画面に切り替わる。今回、DS-ATC 区間での列車番号伝送に備え、列車番号設定画面を設けたほか、ATC 情報画面及び給電区分画面を追加した。5.12 運転保安装置

ATS 装置は、JR 北海道及び JR 東日本の ATS-SN 形など、JR 各社の ATS-S 改良形に対応した ATS-SF 形を搭載している。また、ATC 装置は、JR 東日本の新幹線で採用されている DS-ATC 車上装置を搭載しているが、当面は、海峡線用の ATC-L 機能のみを使用する(DS-ATC 及び無線 ATC 機能は、準備工事としている。)(写真 8)。

また、EB 装置及び TE 装置を搭載した。TE 装置は、非常ブレーキ作動、主回路開放、在来線防護無線発報、車両用信号炎管点火、砂まき及び汽笛吹鳴などを同時に行うほか、在来線区間では、パンタグラフ降下を同時に行う。共用走行区間では、列車防護方式を新幹線と共通にするため、パンタグラフを降下せず、保護接地スイッチ(EGS)を作動させる機能を準備工事した(新幹線での列車防護方式は、保護接地スイッチによる架線停電が主であるため)。このほか、架線停電を検知する無電圧継電器(NVR)を準備工事した。5.13 列車無線装置

列車無線装置は、在来線区間で使用する C タイプ無線に対応するため、B/C タイプ列車無線を搭載するほか、海峡線で使用する青函 B タイプ無線を搭載している。また、新幹線用デジタル列車無線(構内・防護対応)を準備工事した。“2 端車”側に、新幹線用デジタル列車無線の LCXアンテナを車体両側面に配置し、両運転台上部に、静電アンテナを有している。

6 台車台車は、JR 貨物の新形式機関車で標準台車としている

ボルスタレス式 2 軸ボギー台車を採用した。車体支持方式は、空気ばね式とし、駆動方式は、1 段歯車減つり掛け式、軸箱支持方式は、軸はり式としている。引張力の伝達は、伝達点を極力低くした心皿によって行う低心皿方式である。駆動方式は、1 段歯車減速つり掛け式とし、主電動機の車軸支え軸受部をころ軸受としている。基礎ブレーキ装置は、焼結合金制輪子を用いたユニットブレーキを採用している。また、“2 端車”の第 4 台車は、留置ブレーキとして、ばね作動式の駐車ブレーキ付きを備えてる。

さらに、EH800 形式では、非接触式の速度発電機への変更、軸温・振動センサの追加を行ったほか、地震時の車両逸脱を考慮して、軸箱体の下部に、JR 東日本の新幹線に採用されている車両逸脱防止用の L 形車両ガイドの追設を行っている(図 6 及び写真 9)。

7 おわりに現在、EH800 形式の試作車(901 号機)は、仙台総合鉄道

部配置としており、試作車を使用した各種性能確認走行を2013 年 1 月から開始している。現在までに、交流 20 kV区間の性能の確認を終了し、今後は、交流 25 kV 区間の性能確認、共用走行区間用の運転保安設備(DS-ATC 及び新幹線デジタル列車無線装置)の性能確認試験などを行っていくことにしている。

JR 貨物では、本州~北海道間(主に隅田川駅~札幌貨物ターミナル駅)を“北の大動脈”と称しており、重要な輸送ルートと位置付けている。今後、津軽海峡線の一部区間では、日本初の取組みとなる新幹線と在来線との共用走行が開始されるが、これまでと同様に、本州~北海道の鉄道貨物輸送を安定して担うべく、EH800 形式の性能確認走行試験及び量産車の設計・製作を鋭意進め、北海道新幹線開業に備えたいと考えている。

EH800 形式の開発に当たって、御協力頂いている関係各位に感謝申し上げる。