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1 PEN September 2012 September 2012 Volume 3, Number 6 PEN Public Engagement with Nano- based Emerging Technologies N E W S L E T T E R ISSN 2185 - 3231

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  • 1PEN September 2012

    September 2012

    Volume 3, Number 6

    PENPublic Engagement with Nano-based Emerging TechnologiesN E W S L E T T E R

    ISSN 2185 - 3231

  • 2 PEN Stember 2012

    Table of Contents

    文郚科孊省科孊研究費新孊術領域

    「生物倚様性を芏範ずする革新的材料技術」 開始にあたっお 


 3

    連茉 生物芏範工孊 第十二回 フラクタル日陀け 生物から孊ぶもの  
 7

    連茉 生物芏範工孊 第十䞉回 生物芏範飛行の孊理ず

    バむオミメティクス 









 18

    海倖動向 


























 30

    韓囜のナノテクノロゞヌの研究開発 フォロヌアップ 










 33

    囜内動向 


























 37

    Cutting-Edge Technologies

    プレスリリヌスより 





















 42

    豊蔵レポヌトより 





















 57

    台湟 ITRI より 






















 79

    韓囜 NNPC より 





















 83

    韓囜科孊技術政策動向 


















 85

    PE ヘッドラむンより 




















 89

    バむオミメティクス研究䌚より 
















 94

    むベント案内 

























 98

    線集埌蚘 


























 101

    Food for Thought 高い科孊技術研究開発ポテンシャルず䜎迷する囜際競争力 










 55

    Column 構造色をも぀鳥 ⑥ アオバト 



























 36

    Column さよなら、 ニホンカワり゜ 





























 88

    Cover蓮田のタマシギ

    目の呚りに癜い募玉状の斑王をも぀こずから「タマシギ」ず名付けられたこのシギは、皮の繁栄のために「䞀劻倚倫」ずいう独特の生態を遞択したした。メスは巣を䜜っお産卵した埌、抱卵ず子育おのすべおをオスに任せたす。メスは次の巣䜜りず産卵を行うために、他のオスを探しに出かけたす。鳥の䞖界では倧倉珍しいオスより矎しい矜をたずったメスは、春から秋たでこのような繁殖行動を繰り返したす。霞ヶ浊の蓮田に隠れおいるタマシギをみかけたした。手前がメスで、奥がオスです。近幎急速にその数が枛少しおいるこずから、ほずんどの郜道府県で絶滅危惧皮に指定されおいたす。

  • 3PEN September 2012

    文郚科孊省科孊研究費 新孊術領域研究領域名「生物倚様性を芏範ずする革新的材料技術」領域名称「生物芏範工孊」

    研究総括 東北倧孊・原子分子材料科孊高等研究機構 教授 䞋村政嗣

    【本領域の目的】

    生物が有する倚様性は、長い進化の過皋においお環境に適

    応した結果であり、「生物の技術䜓系」ずも蚀うべき、「人

    間の技術䜓系」ずは異なる「生産プロセス」「䜜動原理」「シ

    ステム制埡」によっお獲埗されおきたものです。昆虫や怍

    物の䜓衚面には、“ サブセルラヌ・サむズ構造 ” ずも蚀う

    べきナノ・マむクロ構造があり、それらは特城的な機胜を

    有しおいたす。その圢成過皋ず機胜発珟機構をもたらした

    「生物の技術䜓系」を明らかにするこずは、「人間の技術䜓

    系」が内包し解決すべき喫緊の課題である、環境・資源な

    らびに゚ネルギヌ問題の解決に寄䞎する「生物芏範工孊」

    ずも蚀うべきパラダむムシフトをもたらすものず期埅され

    たす。図 1

    本領域は、自然史孊、生物孊、蟲孊、材料科孊、機械工孊、

    環境科孊などの孊際連携により、環境政策・包括的技術ガ

    バナンスの芳点から「生物倚様性」に孊び「人間の叡智」

    を組み合わせた技術䜓系を創出いたしたす。生物倚様性ず

    生物プロセスに孊ぶ材料・デバむスの蚭蚈・補造を通しお、

    技術革新ず新産業育成のプラットフォヌムずなる「バむ

    オミメティクス・デヌタベヌス」を構築するずずもに、生

    物孊ず工孊に通じた人材を育成するこずを目的ずしおいた

    す。

    図 1 生物芏範工孊ず

    は䜕か

  • 4 PEN Stember 2012

    【本領域の内容】

    生物に暡倣する重芁性は叀くから指摘されおきたした。今

    䞖玀になっお、ナノテクノロゞヌの展開によっお走査電子

    顕埮鏡が広く普及したこずで、これたで未開拓であった「现

    胞内郚や衚面に自己組織化的に圢成される数癟ナノメヌ

    タから数マむクロメヌタの “ サブセルラヌ・サむズ構造 ”」

    ずその機胜が芋いだされ、それらを暡倣した材料の開発が

    泚目されはじめおいたす。生物は、有機物を䞭心ずする限

    られた元玠を甚いお構造を圢成し、様々な機胜を発珟する

    こずで、持続可胜性を実珟しおいるのです。さらに自己組

    織化によっお圢成された構造は、「人間の技術䜓系ずは異

    なる」䜜動原理で機胜しおいる。“ サブセルラヌ・サむズ

    構造 ” が有する機胜の発珟機構ず圢成プロセスを解明する

    こずで「サブセルラヌ・サむズ構造の孊理」を確立し、持

    続可胜性に向けた技術革新をもたらすパラダむムシフトの

    ヒントを芋出す必芁がありたす。図 2

    図 2 パラダむムシフトをも

    たらす “ サブセルラヌ・サむ

    ズ構造 ”

    図 3 研究の戊略ず組織

  • 5PEN September 2012

    研究項目 A01「生物芏範基盀」では、生物倚様性をデヌタ

    ベヌス化するこずで、オヌプン・むノベヌション・プラッ

    トフォヌムの基盀ずなる「バむオミメティクス・デヌタベヌ

    ス」を構築するずずもに、生物孊ず工孊に通じた人材を育

    成したす。

    研究項目 B01「生物芏範蚭蚈」では、サブセルラヌ・サむ

    ズ構造がも぀機胜ず圢成プロセスを解明するこずによっお

    “ 生物の技術䜓系 ” を明らかにするずずもに、生物倚様性

    に孊ぶ材料・デバむスの戊略的蚭蚈・䜜補を達成いたした

    す。

    研究項目 C01「生物芏範瀟䌚孊」では、環境政策に基づく

    ゜シ゚タル・むンプリケヌション瀟䌚的関䞎の芳点か

    ら、新たな科孊・技術ずしおの「生物芏範工孊」を䜓系化

    し、その産業化を図るずずもに、持続可胜性瀟䌚の実珟ず

    技術革新に資するこずを目指したす。図 3

    【期埅される成果ず意矩】

    生物暡倣の基盀は生物倚様性にあり、膚倧な生物孊デヌタ

    から工孊的発想を導きだす必芁がありたす。「生物孊から

    工孊ぞの技術移転」や「生物孊ぞのフィヌドバック」を可

    胜ずする「発想支揎型デヌタベヌス」を構築するこずで、

    オヌプン・むノベヌション・プラットフォヌムが圢成され

    たす。これを実珟するためには、「生物孊、工孊ず瀟䌚科

    孊の連携」に基づく、総合的な研究戊略ず実斜䜓制が必芁

    になり、本領域によっお新たな孊術領域が創出されるずず

    もに、次䞖代を担う人材育成に倧きく寄䞎するこずずなる

    のです。さらに、持続可胜性に寄䞎する新産業創出のため

    には、䜓系化した技術が瀟䌚に受容されねばなりたせん。

    生物を芏範ずするこずで、持続可胜性を達成するパラダむ

    ムシフト技術革新が可胜になるのです。具䜓的には、生物

    の「動き」「構造」「制埡」に着目するこずで、゚ネルギヌ

    消費の少ない生産工皋、再生可胜゚ネルギヌず効率的な゚

    ネルギヌ利甚・倉換、汎甚元玠の利甚、に寄䞎する新芏材

    料やシステムを実珟したす。たた、バむオミメティクスの

    囜際暙準化に関する提蚀を行い、我が囜の囜際競争力に資

    するこずずしたした。図 4

    【研究期間】

    平成 24 幎床 28 幎床

    【ホヌムペヌゞ等】

    生物倚様性を芏範ずする革新的材料技術

    http://biomimetics.es.hokudai.ac.jp/

    図 4 本研究に期埅される成

    果ず意矩

  • 6 PEN Stember 2012

    1. すべおは「物たね」から始たる

    䞖の䞭の職業の䞭で、最も創造性、独創性を芁求される芞

    術家も、倚くの堎合、先ずは先人のコピヌをするこずから

    修行を始める。他人の圱響を受けずに独力で玠晎らしい䜜

    品を䜜るのは、よほどの才胜ず幞運に恵たれなければでき

    ないであろう。そういう意味で、やはりビヌトルズは倩才

    である。

    䞀方、科孊の䞖界では、たず基本的な論理を孊び、それを

    応甚する圢で䞖界を広げおゆく。ずは蚀うものの、基本的

    論理に関しおは、先人の知識を「たね」するわけで、「物たね」

    から始めるずいう意味では、同じようなものかもしれない。

    ただし、同じ物たねでも、たねの仕方はずいぶん違っおい

    お、芞術家の堎合は衚珟された「結果」をたねするこずか

    ら始めるのに察しお、科孊の堎合には根本的な考え方をた

    ねするずころから始めるのが基本である。

    こう曞くずもっずもらしいが、実は、そう単玔ではない。

    特に自然科孊の堎合、盞手は地球や生物などで、圌らは高

    床な芞術家である。人間の論理だけで、圌らの真䌌はそう

    簡単にはできない。科孊である以䞊、根本的論理を捚おる

    わけにはいかないが、時には芞術家的センスで、圌らの物

    たねをしおみお、あずから理屈を぀けるこずもしばしばで

    ある。こういう堎合でも、論文にするずきには、あたかも

    最初から理屈がわかっおいたような曞きぶりで曞くから、

    䞀般には䞊蚘のような挔繹的アプロヌチが正攻法であるか

    のような印象を䞎えおしたう。しかし、自然にずっお、そ

    んなこずはどうでもよいのだ。自然界はもずもず「結果オヌ

    連茉 生物芏範工孊 第十二回

    フラクタル日陀け 生物から孊ぶもの

    京郜倧孊倧孊院 人間・環境孊研究科 酒井敏

    ラむ」であっお、最初から理屈があるわけではないのだか

    ら。

    2. ヒヌトアむランドの倧きな誀解

    2000 幎頃から、ヒヌトアむランドが瀟䌚問題化し、「ヒヌ

    トアむランド」ずいう蚀葉は、倏の季語になっおしたった。

    ここでの論調は決たっお「人間掻動により自然が倱われお

    環境が悪化した」ずいうものである。しかし、この「人間

    掻動悪」ずいう単玔な論調には正盎なずころ匷い違和感

    を感じる。そもそも、生物は呚囲の環境を倉えながら生き

    おいくもので、生物の生き方に「正解」や「正しい道」が

    あるわけではない。自らの圱響で環境が倉わっおしたうこ

    ずが䞍郜合なら、そうならないように察凊するか、そうなっ

    おもよいように適応するかのどちらかである。どちらでも

    構わないが、最もうたく察凊したものが生き残るだけであ

    る。これは、人類も䟋倖ではない。人類が他の生物ず違う

    のは、詊行錯誀だけに頌っお最適解を探るのではなく、倚

    少の論理的予枬や、他の生物や自然のしくみの真䌌をする

    こずで、少し「賢く」察凊できるずいう点である。そのた

    めには、圓然ながら、珟圚の状態を正しく認識する必芁が

    ある。

    この点で、ヒヌトアむランド問題に関しおは、倧きな誀解

    がある。実は、昌間の気枩は、郜垂郚も郊倖もほずんど差

    がないのである。郜垂郚の気枩が郊倖よりも高くなる珟象

    そのものは、昔からよく知られおいる珟象であるが、それ

    は昌間ではなく倜の珟象である図 1。そしお、それが

  • 7PEN September 2012

    図 1 郜垂郚ず郊倖の気枩の日倉化。郜垂郚ず郊倖の気枩の差がヒヌトアむランド匷床Heat Island Intensityで、倜間に倧きな倀を持぀が、昌間はほずんど 0 である。[1]

    顕著に珟れるのは、倏ではなく空気が柄んで攟射冷华が効

    く冬の倜である。これは今も基本的には倉わらない。

    昌間に郜垂郚の気枩が郊倖ずほが同じになるのは、気象孊

    的な理由がある。昌間は郜垂郚であろうず郊倖であろうず、

    匷い日射によっお地衚面が熱せられ、匷い察流が起こる。

    この察流の高さは玄 1km で、この郚分を倧気境界局ず呌

    ぶ図 2。これより䞊は、自由倧気ず呌ばれ、地衚面の

    圱響をあたり受けない1 日の枩床倉化がない領域であ

    る。昌間の倧気境界局の䞭は、この察流によっおよくかき

    たぜられ、枩床差正確には枩䜍差はほが 1℃以内ずな

    る。したがっお、地衚付近の気枩が倉わるためには 1km

    の厚さのある倧気境界局党䜓の枩床が倉わらなければなら

    ない。そしお、倧気境界局内にはそれなりに颚が吹いおい

    るので、郜垂郚から郊倖たでほずんど枩床が倉わらない状

    態になるのである。

    これに察しお倜間は、この察流が起こらず、倧気が地衚面

    付近で安定成局をするため、地衚面の局所的な特性が倧き

    く圱響するこずになる。郜垂郚ではアスファルトやコンク

    リヌト等、熱容量の倧きな玠材で地衚面がおおわれおいる

    ため、倜間にもそれらの枩床が䞋がりにくく、その䞊の倧

    図 2 昌間の倧気の状態の暡匏図。地衚面から玄 1km の高さたでの倧気境界局は、倪陜によっお枩められた空気が、匷い察流を起こしおおり、よくかきたぜられおいる。

  • 8 PEN Stember 2012

    気もその圱響を受けお枩床が䞋がりにくい。これが、昔か

    ら蚀われおいた「ヒヌトアむランド珟象」である。

    では、昌間の郜垂郚が暑いずいうのは間違いなのか、ずい

    うず、それも違う。図 3 は LANDSAT で枬定した郜垂郚京

    郜の地衚面枩床である。呚囲の郊倖ず比べお明らかに枩

    床が高いこずがわかる。ここで、泚意しおいただきたいの

    は、これは「地衚面枩床」であっお、「気枩」ではないこ

    ずである。地衚面の枩床が高ければ、その䞊の倧気の枩床

    だっお高くなるだろう、ず想像しおしたいがちである。し

    かし、昌間に関しおは、前述のずおり匷い察流のため、地

    衚付近の気枩も䞊空 1km の気枩枩䜍も同じになっお

    したい、地衚面のごく近くだけが倧きく枩床が異なる。そ

    の境目は、地衚面から 1cm 皋床のずころにある。぀たり、

    地衚面の枩床の圱響を受ける倧気は、地䞊 1cm 皋床の範

    囲に限られおいるのである。

    地衚面枩床が高くなるず、䜕が起こるのかずいうず、地衚

    面から匷い茻射熱が発せられるこずになる。路面の枩床が

    気枩より 30℃皋床高くなったずするず、路面枩床が気枩

    に等しい時に比べお、その䞊に立っおいる人は 100W 繋

    床䜙分に熱を受け取る蚈算になる。100W ず蚀っおもピン

    ずこないかもしれないが、これは䜿い捚おカむロ 100 枚

    分に盞圓する。これで、暑くないわけはない。぀たり、昌

    間のヒヌトアむランドは気枩が問題なのではなくお、地衚

    面枩床が問題なのだ。

    ただ、困ったこずに茻射熱の正䜓である赀倖線が目に芋え

    ないために、気枩は同じでも、茻射熱が匷いために暑いの

    だず説明しおも、なかなかわかっおもらえない。さんざん

    説明した挙句に「で結局、気枩はどのくらい倉わるんです

    か」ずいう質問を最埌に受けるこずになる。

    さらに困ったこずに、昌間の地衚面枩床が郊倖のそれより

    非垞に高い、ずいう事実は、玠盎に考えお、昔から蚀われ

    おいる倜のヒヌトアむランドの説明ず矛盟する。郜垂郚に

    はアスファルトやコンクリヌトなどの熱容量の倧きなもの

    があっお、倜、枩床が䞋がりにくいので、郜垂郚が郊倖に

    比べお暑くなる、ずいうのが倜間のヒヌトアむランドの説

    明である。だずすれば、昌間の郜垂郚は倧きな熱容量のた

    図 3 京郜垂呚蟺の LANDSAT の熱赀倖 画 像。 撮 圱 日 時2000 幎 8 月 25日午前 10 時 25 分。

  • 9PEN September 2012

    めに、枩床が䞊がりにくく、逆にクヌルアむランドになる

    はずだ。ずころが、昌間の地衚面枩床は郊倖に比べお明ら

    かに熱い。そしお、その地衚面ずは熱容量が倧きいなはず

    のアスファルトやコンクリヌトそのものである。

    このような事実が明らかになったのは、人工衛星から地

    衚面枩床が枬定できるようになった 1980 幎ころからであ

    る。そのころから、ヒヌトアむランドの説明は歯切れが悪

    くなり「ヒヌトアむランド珟象は、様々な芁因が耇雑に絡

    み合っお起こる」などずいう説明がなされるようになっお

    したった。これは、ほずんど「䜕もわからない」ず蚀っお

    いるに等しい。こんな状態では、郜垂郚で昌間に気枩が高

    いわけではない、ず蚀っおみたずころで、説埗力に乏しい。

    3. 郜垂郚の地衚面枩床はなぜ高いのか

    矛盟があるずいうこずは、䜕かがおかしい。いろいろ調べ

    おみおも、昔の倜のヒヌトアむランドの説明は、間違っお

    いるようには芋えない。倜に関しおは、この説明が芳枬事

    実ずよく合う。䞀方、昌間の地衚面枩床が高い、ずいうの

    も疑いようのない事実である。しかし、だからず蚀っお「郜

    垂郚の熱容量が小さい」ずいうのは、ちょっず飛躍がある。

    少なくずも、アスファルトやコンクリヌトが玠材ずしお熱

    容量が倧きいこずも間違いない。ずいうこずは、熱容量が

    倧きくおも、枩床が高くなっおしたう理由があるに違いな

    い。

    䞀芋、もっずもらしく、よくある説明ずしおは、郜垂郚で

    人間が熱を出すからだ、ずいうものがある。しかし、人間

    が出しおいる熱量人口排熱は倪陜熱に比べるず通垞䞀

    桁以䞊小さい。たた、゚アコンの宀倖機より、人間が熱を

    出しおいるわけではない道路のアスファルトのほうがはる

    かに高枩である。

    もう䞀぀の説明ずしお、郜垂郚には怍物が少なく、氎を

    蒞発させおいないからだ、ずいうものもある。これも倚

    くの人々が信じおいる説明だが、倪陜からやっおくる熱

    量は半端じゃない。倏の晎れた日なら 1 日 30MJ/m2 く

    らいの熱量がやっおくる。この熱量で氎を蒞発させるず、

    1 日 15mm の氎が蒞発するこずになる。幎間降氎量を

    1500mm ずすれば、1 日平均の降氎量は 5mm である。こ

    れを党郚蒞発させおしたったら、川が干䞊がっおしたうの

    で、半分皋床しか䜿えないず考えるず、氎の蒞発熱が地衚

    面枩床に決定的に効いおいるずは考えにくい。

    さらに、もし、そんなに氎を蒞発させおいるのであれば、

    晎れた日には朝よりも倕方のほうがかなり倧気䞭の氎蒞気

    量が高くなっおいるはずだが、そんな傟向が顕著にみられ

    るわけでもない。

    そんなこずを考えおいたある日、ある事実に気が付いた。

    盎射日光䞋に眮かれた車は、觊れないくらいに熱くなるの

    に、ミニカヌは熱くならないのだ図。実は、これは

    私が発芋したものではない。䌝熱工孊の教科曞にちゃんず

    曞いおある。䌝熱工孊を勉匷しなくおも、ランダり・リフ

    図 4 盎射日光䞋に眮 か れ た 実 物 の 自動 車 ず ミ ニ カ ヌ の衚面枩床。[2]

  • 10 PEN Stember 2012

    シッツの流䜓力孊をかじったこずがある人ならば、次元解

    析から即座にこの法則を導き出すこずができる。しかし、

    である。粟密にコントロヌルされた颚掞実隓ならばずもか

    く、「さたざたな芁因が耇雑に絡み合った」屋倖で、こん

    な単玔な話が成り立぀ずは、党く想像だにしおいなかった。

    さらに驚いたのは、この実隓結果が極めおロバストである

    ずいうこずである。少々雲が出ようが、颚が吹こうが、定

    性的にはほが間違いなくこのような結果になる。これは、

    極めお重芁なこずである。粟密に条件をコントロヌルしな

    ければ実珟しないような法則は、自然界の䞭ではほずんど

    意味をなさないからである。いいかげんな実隓でも、垞に

    成り立぀法則が重芁なのだ。

    ミニカヌの倧きさは、倚くの怍物の葉っぱのサむズに近い。

    䞀方、郜䌚の屋倖にある人工物は倧抵車よりも倧きい。理

    論的に蚈算するず、このサむズの違いが、衚面枩床を倧き

    く巊右する図 5。そしお、この倧気ずの枩床差は、物

    䜓の衚面から数 mm の厚さの熱境界局内で起こる。

    たた、図 3 の LANDSAT の画像から、衚面枩床のヒストグ

    ラムをずっおみるず、きれいな二山構造が芋える図 6。

    ぀たり、郊倖ず郜垂郚では、兞型的な衚面枩床がだいたい

    決たっおいお、その䞭間的な枩床を持぀地衚面はほずんど

    ない。これは、自然の葉っぱが数 cm の倧きさを持぀のに

    察しお、屋倖人工物の衚面は倚くの堎合、1 よりも倧き

    く数十 cm 皋床の倧きさを持぀ものがほずんどないずいう

    こずを考えるず、自然に理解できる。

    ぀たり、郜䌚の地衚面枩床が高いのは、人工排熱のためで

    も氎の蒞発が少ないためでもなく、衚面の「倧きさ」が問

    題だったのだ。

    4. シェルピンスキヌ四面䜓

    郜䌚が暑いのは、その衚面が倧きな面で芆われおいるこず

    が問題であるこずがわかった。それならば、その衚面を小

    さくちぎっおしたえばよい。しかし、それをタむルのよう

    にきれいに䞊べおしたったら、元の朚阿匥である。小さな

    ものが熱くならないのは、空気に熱を逃がすからで、その

    すぐ䞋流に入っおしたうず、小さくした埡利益ないだろう。

    では、どのように、小さくちぎった小片を配眮すればよい

    のだろうか

    そんなこずを考えおいたある日、数孊の先生からフラクタ

    ル図圢の䞀぀であるシェルピンスキヌ四面䜓図 7のフ

    ラクタル次元が 2 であるこずを聞いた。その時、私は非

    敎数の実数次元を持぀図圢がフラクタルだず思っおいたの

    で、「そんなのフラクタルじゃないじゃん」ず蚀っおしたっ

    た。しかし、目の前のシェルピンスキヌ四面䜓は、どう芋

    おも兞型的なフラクタル図圢である。30 幎前、数孊者は

    非敎数の次元を定矩しお、䞖の䞭の人々をビックリさせた

    ず思ったら、今床は敎数次元のフラクタル図圢を持っおき

    た。「たあ、数孊者は暇なこず考えるねぇ。。」ずいうのが、

    正盎な感想であった。泚シェルピンスキヌ四面䜓自䜓は、

    100 幎䜍前の数孊者シェルピンスキヌが考えたもので、フ

    図 5 物䜓のサむズず衚面枩床の関係。物䜓のサむズが倧きくなるにしたがっお、衚面ず気枩ずの枩床差も倧きくなるが、ある皋床の枩床差数十℃を超えるず、熱境界局が䞍安定になっお、それ以䞊枩床差は぀かなくなる。1cm から 1m 䜍のずころで、急激に枩床差が倧きくなる。

  • 11PEN September 2012

    図 6 衛星画像図 3のヒストグラム。党䜓で芋るず、明瞭な二山構造がある。郜垂郚ず郊倖を郚分的にヒストグラムをずるず、それぞれ、䞀぀ず぀の山に察応しおいるこずがわかる。

    図 7 シェルピンスキヌ四面䜓

  • 12 PEN Stember 2012

    ラクタルずいう抂念ができる前から知られおいる。

    その晩、昌間の話は忘れお、垃団の䞭で郜垂の衚面を小さ

    くちぎっおばら蒔く方法を考えおいた。「芁するに、2 次

    元の平面を小さくちぎっお、3 次元空間にどうやっおばら

    蒔くか、ずいう問題だよね」ず぀ぶやいた瞬間、昌間の話

    がよみがえった。シェルピンスキヌ四面䜓は 3 次元空間を

    占めおいるのにもかかわらず、2 次元である。たさに、こ

    れが求めおいたものではないのか

    次の朝、倧孊に向かう途䞭で画材屋に寄り、黒い玙を買っ

    おきおシェルピンスキヌ四面䜓を䜜っおみた。それず同じ

    倧きさの通垞の四面䜓を䞊べお盎射日光䞋に眮き、サヌモ

    カメラで枩床を枬っおみた。するずなんず、シェルピンス

    キヌ四面䜓は枩床がかなり䜎いではないか。

    これをもっず倧がかりに実隓しおみたものが、図 8 であ

    る。シェルピンスキヌ四面䜓を䞊べた「フラクタル日陀け」

    ず、通垞のトタン屋根を 4 畳半くらいの倧きさに䜜っおみ

    お、その䞋で昌寝ができるか、ずいう実隓である。シェル

    ピンスキヌ四面䜓は特定の方向から芋るず、穎が塞がっお、

    100% 光を遮るこずができる。その方向を正午の倪陜の方

    向に向けお四面䜓を䞊べおある。図 8 の写真は倏の正午の

    写真で、フラクタル日陀けの䞋もほが 100% 圱になっおい

    るこずがわかる。この時、倪陜の光を吞収しおいる屋根の

    郚分の枩床がたるで違う。トタン屋根はずおも熱いので、

    そこから茻射熱を出し、その䞋で昌寝をするず陰にはなっ

    おいおもゞリゞリ暑い。それに察しお、フラクタル日陀け

    は、それ自䜓の枩床が䞊がらないので、そのような茻射熱

    を感じるこずはなく、颚通しもよくお気持ちが良い。

    図 8 盎射日光䞋におけるトタン屋根ずフラクタル日陀けの枩床比范

  • 13PEN September 2012

    図 9 楠ずケダキのフラクタル次元。右偎のグラフの傟きがフラクタル次元である。[2]

    5. 暹朚のフラクタル次元

    䞊蚘の実隓から、郜垂を党郚緑化しなくおも、シェルピン

    スキヌ四面䜓で芆い尜くせば、ヒヌトアむランド問題は解

    決である、ず蚀いたいずころだが、「シェルピンスキヌ四

    面䜓が最適なのか」ずか「フラクタル図圢でなければな

    らないのか」ずいろいろな疑問が出おくる。いちいち理

    屈を぀けないず玍埗しないのが、私を含め人間の困ったず

    ころである。

    かずいっお、その問題は極めお奥が深く、そう簡単に決着

    させられるずは思えない。そもそも、フラクタル図圢がヒヌ

    トアむランドに関係しおいるなんおこずを、いたたで誰も

    考えたこずがなかったのだから、考えるべき問題は山ほど

    ある。ずおも、私が生きおいる間に党郚解決できるずも思

    えない。

    そこで、ずりあえず、暹朚のフラクタル次元を枬っおみる

    こずにした。そんなこずくらい、すでに誰かがやっおいる

    だろう、ず思うかもしれないが、これが意倖にもほずんど

    研究がない。これはフラクタルの研究が流行った 1980 幎

    代はコンピュヌタヌの胜力が䜎く、3 次元空間の情報を扱

    うこずが困難だったためではないかず思われる。そのため、

    暹朚に関する研究も、ほずんどは 2 次元に射圱した「写真」

    の䞊での話である。

    幞い、珟代のコンピュヌタヌは膚倧な 3 次元情報を難なく

    扱える゚クセルでは無理だったが。たた、3 次元蚈枬

    技術も進歩しおいるので、レヌザヌで葉っぱの 3 次元的な

    䜍眮座暙を mm 単䜍で蚈枬するこずが可胜である。その

    ようにしお、葉っぱの䜍眮座暙を求め、ボックスカりンティ

    ング法でフラクタル次元を求めたのが図 9 である。暹圢が

    倧きく異なる楠ずケダキを枬ったが、フラクタル次元はど

    ちらもほが 2 である。

    フラクタル次元が 2 以䞋だず面積がないので、怍物ずしお

    はどうしおも 2 以䞊の次元が必芁である。しかし、3 次元

    に近くなるず、䞭がぎっしり詰たっおしたうので、颚通し

  • 14 PEN Stember 2012

    良く受ける。日垞感芚からそのように思うのは圓然である

    が、先にも曞いたように昌間の倧気の熱茞送効率の良さは、

    我々の日垞感芚をはるかに超えおいる。昌間に地衚付近で

    少々熱を出したずころで、倧気党䜓の枩床はそう簡単には

    倉わらない。それよりも、地衚面枩床を䞋げお熱茻射を抑

    えるこずが重芁なのだ。

    そもそも、地衚面が倪陜から受け取った熱量は、いずれす

    べお倧気に返さなければならない。それを貯め蟌んでした

    えば、どんどん熱くなっおしたう。熱を消すこずはできな

    いのだ。昌間に受け取った熱を倜たでため蟌んでしたうず、

    倜の倧気はそう簡単に熱を運べないので、なかなか地衚面

    を冷やせない。熱垯倜である。昌間に受け取った熱は、察

    流が盛んな昌間のうちに倧気に攟出しおおくこずが第䞀に

    重芁なのだ。

    7. おわりに

    「いったい、どうやっお、こんなこずを思い぀いたんです

    か」ずよく聞かれる。答えは「私が玠人だった」からで

    ある。私の専門は、気象孊でも建築孊でもない。もちろん、

    数孊でも生物孊でもない。海掋物理孊である。そしお、そ

    の私が昔所属しおいたのは「教逊郚」であった。教逊郚で

    は、12 回生向けの基瀎的授業をするこずが仕事なので、

    教える内容ず、私自身の研究テヌマはたったく関係なくお

    もよかった。ずころが、1990 幎代の倧孊改革の流れで、

    教逊郚は廃止され、新しい孊郚ず倧孊院ができおしたった。

    そうなるず、孊生ず教員の研究内容が党く別ずいうわけに

    はいかない。そこで、私ず孊生の興味の接点を探った結果

    が「ヒヌトアむランド」だったのだ。2002 幎のこずである。

    それから 10 幎、過去の文献調査はろくにせず、自分たち

    が玍埗できるたで、ひたすら芳枬や実隓を繰り返しおきた。

    もずもず知識がないので、長期の研究蚈画など立おられる

    わけもなく、芳枬や実隓の結果によっお、それたでの蚈画

    はどんどん倉わっおいった。特に、フラクタル日陀けを思

    い぀いおからは、半幎先に自分がどんなこずをやっおいる

    か、自分でもたったく想像が぀かない状態で、完党に行き

    圓たりばったりである。

    そしお、ブレヌクスルヌは、たったく想定倖の堎面から始

    たった。実は、ミニカヌが熱くならないこずは、倧孊が独

    立行政法人化されたために、第䞀皮衛生管理者の資栌を取

    らなければならなくなり、その受隓勉匷をしおいるずきに

    気が付いたものである。たた、シェルピンスキヌ四面䜓ず

    が悪く、いろいろ問題がありそうである。光を吞収する面

    積が確保できお、颚通しを良くするこずを考えるず、2 よ

    りちょっず倧きいくらいがちょうどよいように思われる。

    䞀方、シェルピンスキヌ四面䜓自䜓のフラクタル次元は

    ちょうど 2 で、南䞭時の倪陜光は 100% 遮蔜できるが、そ

    れ以倖の時間ではかなり倪陜光を透過する。このあたりが、

    次元の小数点以䞋の倀で、実際の暹朚ず若干異なるずころ

    ず関係しおいるものず思われるが、ずりあえず、シェルピ

    ンスキヌ四面䜓を暹朚の第 0 次モデル出発点ずしお考

    えよいだろう。

    6. 人工のクヌルアむランド

    このように地面が生きた怍物に芆われおいるかどうかでは

    なく、面の倧きさが地衚面枩床を決めるのだずすれば、フ

    ラクタル日陀けを「地衚面」ず思えるくらいの広さで蚭眮

    し、人工的な地衚面で図 3 のような熱画像をずっおみたい。

    詳しい理屈はずもかく、ずりあえず自然の物たねができる

    か詊しおみたいのである。そんな思いで 2009 幎の倏、東

    京お台堎の日本科孊未来通前に玄 250m2 のフラクタル日

    陀けを蚭眮する実隓展瀺を行った図 10。

    この堎所のメリットは、ちょうど倪陜光を 100% 遮光する

    方向に近い堎所に、7 階テラスがあっお、ここからサヌモ

    カメラで枬定するこずが可胜なこずである。比范のため、

    日陀けの䞀郚は、同じ玠材からなる平板の屋根ずした。

    図 11 にこの実隓の結果を瀺す。この熱画像を芋るず、人

    工的な小さな小片の集たりであるフラクタル日陀けの枩床

    は、呚囲の道路や芝生などず比べおかなり枩床が䜎く、気

    枩に近い倀になっおいるこずがわかる。これは、郜䌚の䞭

    の小さなクヌルアむランドである。さらに、䞀郚平板屋根

    ずしたずころは、非垞に枩床が高く、小さなヒヌトアむラ

    ンドになっおいるこずがわかる。日陀け䞋の環境も、日射

    をほが 100% 遮っおいるにも関わらず、高枩になっおいる

    ずころはほずんどなく、茻射熱も十分に抑えられおいる。

    このように、昌間のヒヌトアむランドを抑えるには、必ず

    しも生きた怍物で緑化しなくおも、その圢を真䌌た構造物

    で地衚面を芆うこずで、自然の物たねができるこずがわか

    る。

    この日陀けは熱を倧気に効率よく逃がすこずで、枩床䞊昇

    を抑えおいる。それでは、倧気を熱しおいるわけだから、

    ヒヌトアむランドを助長するのではないか、ずいう指摘を

  • 15PEN September 2012

    図 11 フラクタル日陀けの衚面枩床。[2]

    図 10 日本科孊未来通前での実隓展瀺。2009 幎 7 月 8 月。

  • 16 PEN Stember 2012

    M. Onishib, I. Iizawac, J. Nakataa, K. Yamajid,R. Asanod, K.

    Tamotsue, Sierpinski’s forest: New technology of cool roof

    with fractal shapes., Energy and Buildings (in press).

    いう敎数次元のフラクタルの存圚を知ったのも、研究ずは

    無関係の䞖間話に近い䌚話からである。こんなこずがきっ

    かけで、即座に方針倉曎できるのは、もずもずたいした長

    期蚈画などないからだ。

    そもそも研究ずは、新しいこずを芋぀けるこずである。新

    しいこずは、教科曞には曞いおない。したがっお、教科曞

    を読んだずころで、新しいこずを芋぀けるための綿密な蚈

    画など立おようがないのだ。むしろ、綿密な蚈画をたおら

    れるずいうこずは、既存の枠に瞛れおいるこずに他ならな

    い。新しいこずを芋぀けるのに、「知らない」ずいうこず

    は最倧の歊噚である。そしお、その歊噚は䞀生に䞀床しか

    䜿えない。䞀旊、䜕かを知っおしたうず、その発想から逃

    れるのは難しい。だから、我々は玠人であるこずをいいこ

    ずに、自分でデヌタをずっお解釈できるようになるたでは、

    あえお教科曞を読たなかったのである。これは、科孊者ず

    いうより芞術家のスタンスに近いかもしれない。

    人間は生物の䞭で恐らく唯䞀「蚈画的な行動」がずれる存

    圚である。だからこそ、高床な文明を発達させるこずがで

    きた。しかし、カオス的な䞖界では、この胜力は圹に立た

    ない。なぜなら、䜕が起こるかわからないカオスの䞖界で

    は、䜕かを予枬しおも無意味だからである。こういう䞖界

    では、ずにかく行き圓たりばったりに察凊する胜力がもの

    を蚀う。そしお、人間以倖の生物は基本的にこの䜜戊で生

    きおいる。

    近幎、瀟䌚のルヌルがどんどん厳しくなり、高床な蚈画性

    ず結果の厳密な評䟡が求められるようになった。しかし、

    これは生物の本胜に反した行動だず私は思う。これを突き

    詰めおいけば、予期せぬ事態にたったく察応できなくなっ

    おしたう。もちろん、党く無蚈画がよいずいうわけではな

    い。蚈画を立おるずいう行為は人類の英知である。しかし、

    それが有効な範囲は限られおいお、基本的に自然界はた

    ぶん人間瀟䌚もカオスであるこずを忘れおはいけない。

    明日の倩気はある皋床予枬できおも、1 か月先の倩気は予

    枬䞍可胜なのだ。そしお、予期せぬ事態は必ず起こる。

    我々人間が他の生物から孊ぶべきこずは数倚くある。しか

    し、最も重芖すべきこずは、行き圓たりばったりに生きお

    ゆく、その生き方そのものではないだろうか

    References[1] IAUC Teaching Resources. http://www.urban-climate.

    org/UHI_Canopy.pdf

    [2] S. Sakaia, M. Nakamuraa, K. Furuyaa, N. Amemuraa,

  • 17PEN September 2012

    芁玄

    昆虫や小鳥のような生物の飛行は、バむオミメティクスの

    重芁な分野の䞀぀ずしお泚目されおいる。近幎生物芏範飛

    行を䞀぀の耇雑なシステムずしお捉え、生物の矜ばたき飛

    行における空力性胜、安定性及び制埡原理を統合的に研究

    し、生物を芏範した超小型矜ばたき飛行ロボットの蚭蚈指

    針の創出及び開発が進められおいる。本皿では、生物芏範

    飛行のバむオメカニズム孊理ずバむオミメティクス生

    物暡倣に぀いお解説する。

    1はじめに

    地球䞊のおよそ 1 侇 3 千皮類の鳥や哺乳類のような枩血

    脊怎動物のうち、玄 1 䞇皮の鳥玄 9 千皮類やコりモ

    リ玄 1 千皮類が倧空を舞うず蚀われおいる。昆虫は曎

    に皮の数が倚く、100 䞇皮ずも 1000 䞇皮を超えるずも蚀

    われる。生態孊的圱響や生物資源の総量を考えるず昆虫

    はこの地球䞊でもっずも繁栄しおいるグルヌプで、支配的

    な地䜍を占めおいるず蚀っおも過蚀ではなかろう。飛翔生

    物、こずに昆虫がこれほど異䟋な繁栄をもたらした数倚く

    の理由の䞀぀に、たずその優れた飛翔胜力があげられる。

    今から 4 億䞇幎も前、デボン玀時代の地球䞊に最初に出珟

    した昆虫は、氎䞭を泳いだり地䞊を走り抜けたりするこず

    よりも、ずっず省゚ネの飛行行為を遞択するこずにより、

    行動範囲を栌段に広げるこずができた。昆虫の倚くは、空

    䞭で静止飛行や前進飛行、急旋回や急䞊昇及び急降䞋など

    連茉 生物芏範工孊 第十䞉回

    生物芏範飛行の孊理ずバむオミメティクス

    千葉倧孊倧孊院工孊研究科 劉浩

    の曲技飛行をごく自然にこなしおいる。長い間の自然淘汰

    によっお、飛翔の習性は粟巧で効率的になり、飛行に䜿う

    噚官は極限たで進化しおきた。その結果、昆虫は人工物の

    飛行機よりずっず優れた飛翔胜力を有する。

    飛翔生物は人工物の飛行機よりずっず優れた飛翔胜力を有

    する。人間は最高速のスプリンタヌでもせいぜいその速さ

    は 3  4 身長 / 秒であるが、地䞊をもっずも速く走り抜け

    る動物であるチヌタでもそのトップ速床は玄 18 䜓長 / 秒

    ずなる。人工飛行䜓の傑䜜である超音速戊闘機では、最高

    速床がマッハ 3 3200km/h、およそ 32 機長 / 秒に

    達する。䞀方普通の鳩でも、通垞 90km/h の速床で悠々ず

    倧空を飛び、これは秒速 75 䜓長以䞊になる。ゞェット機

    は、時速 1000km/h でおよそ 5 機長 / 秒に達するが、䜓

    長 1cm ぐらいのミツバチは、通垞 50km/h の速床で飛ん

    でいお、925 䜓長 / 秒にも達する。さらに飛行䜓胎䜓の回

    転ロヌル運動を芋おみよう。高床な曲技飛行 (aerobatics)

    胜力を有する、䟋えば旋回性胜のよい飛行機のロヌル率は

    毎秒玄 720 床ず蚀われるが [6, 7]、ツバメは䜕ず 5000 床

    以䞊のロヌル率をこなせる。普通、航空機の最倧蚱容の正

    の重力加速床は、4  5G であり軍甚機の堎合で 8  10G

    であるのに察しお、倚くの鳥は毎日 100 回以䞊の 10 

    14G の加速床を繰り返し受けおいるず蚀われる [6, 7]。

    近幎灜害時における空撮、蟲薬散垃や沿岞監芖、テロ珟堎

    での情報収集等を目的ずしお、長さ・幅・高さ共に 15cm

    以䞋、質量ず荷重合蚈が 50g 以䞋の小型飛行䜓Micro

    Air Vehicle、MAVの研究開発が盛んに行われおいる。そ

  • 18 PEN Stember 2012

    こで、生物孊や力孊、蚈算工孊や生物暡擬工孊等を専攻ず

    する倚くの研究者が昆虫ず鳥のような飛翔生物からその蚭

    蚈指針を芋出そうず、昆虫や鳥の矜ばたき飛行の原理解明

    を急いでいる。我々の身の呚りには、翌長 1m 皋床の鳥か

    ら 1mm 皋床の昆虫たでさたざたな飛翔生物が存圚しおい

    るが、それらは長い自然淘汰の結果、それぞれの環境䞋で

    力孊的に掗緎されたものであるため、その䞭に MAV 蚭蚈

    の指針ずなる優れた蚭蚈図が無数に存圚するず思われる。

    昆虫ず鳥のような飛翔生物は、矜ばたき飛行を駆䜿し、ホ

    バリング、前進及び急旋回のような曲技飛行を簡単にこな

    すこずができ、人工飛行䜓よりはるかに優れた飛翔胜力を

    有する。近幎スヌパヌコンピュヌタを䜿っお、実際昆虫を

    察象に、厳密な幟䜕孊、運動孊及び力孊のモデルに基づき、

    静止飛行、前進飛行及び急旋回のような自由飛行を蚈算機

    の䞭に再珟できる力孊シミュレヌション研究が行われお

    [1-5]、生物飛行に朜んでいる新しい力孊珟象や生物の自由

    飛行メカニズムを明らかにするず同時に、鳥や昆虫サむズ

    の小型飛翔䜓のためのブレヌクスルヌずなる蚭蚈指針の創

    出が期埅されおいる。

    2. 昆虫ず鳥の飛翔

    昆虫や鳥のような生物の飛翔は、滑空飛行gliding and

    soaring、すなわち矜ばたき運動がなく固定翌による゚ネ

    ルギヌ消費最小の受動的飛行passive flight、たたは無

    パワヌ飛行unpowered flightず矜ばたき飛行flapping、

    ぀ た り 胜 動 的 飛 行active flight、 た た は パ ワ ヌ 飛 行

    powered flightずに分かれる。矜ばたき飛行は、飛翔生

    物が重力に逆らいながら空気抵抗を克服しお掚進する際に

    䜿われる。昆虫や鳥は、自分の䜓重を支えながら前進飛行

    や埌退飛行、そしお急旋回や方向転換などのための掚進力

    を同時に発生させなければならない。それ故に、矜ばたき

    飛行の流䜓力孊の基本原理は、矜ばたき翌ずたわりの空気

    の流れずの盞互䜜甚によるものであり、぀たり矜ばたき翌

    の圢状や運動がどれだけ有効に揚力liftず掚力thrust

    を同時に発生させるこずができるのかずいうこずになるの

    である。

    2.1 パワヌ飛行矜ばたき

    鳥、コりモリ及び昆虫は、静止飛行や前進飛行の際に様々

    な矜ばたき運動を䜿っお揚力ず掚力を発生させおいる。図

    1 に瀺すように、倧型鳥は、比范的に簡単な翌端の軌跡を

    残す。䟋えば、アホりドリの矜ばたき翌は楕円のような軌

    跡を描くが、バッタやショりゞョりバ゚のような小さな昆

    虫は、盞圓耇雑な矜ばたき様匏を芋せる。たたハトやハチ

    は 8 の字のパタンを、カブトムシやホホアカクロバ゚は

    もっず耇雑な軌跡を瀺す。

    静止飛行Hovering Flight静止飛行は、前進速床がな

    い故に最も゚ネルギヌを消費する矜ばたき飛行である。あ

    る飛翔生物が静止飛行をこなせるかどうかは、その生物

    のサむズや翌の慣性モヌメント、翌運動の自由床や翌圢状

    などの諞芁玠に䟝存する。静止飛行には、察称ホバリング

    図 1 Wing tip paths relative to the body for a variety of flyers, as indicated by the arrows. (a) albatross, fast gait; b

    pigeon, slow gait; (c) horseshoe bat, fast flight; (d) horseshoe bat, slow gait; (e) blow fly; (f) locust; (g) June beetle; (h) fruit

    fly. Adopted from Alexander, (Alexander, 2002).

    (a) (b)

    (c) (d)

    (e) (f)

    (g) (h)

  • 19PEN September 2012

    図 2 Schematic of hover ing

    f l a p p i n g w i n g k i n e m a t i c s : a

    s y m m e t r i c h o v e r i n g a n d b

    asymmetric hovering (Norberg,

    1990).

    symmetric hoveringず非察称ホバリングasymmetric

    hoveringずの 2 皮類のモヌドがある。察称ホバリング

    は、ハチドリや昆虫がよく利甚するもので、通垞胎䜓が

    立っおおり翌が氎平面内を倧きな角床で矜ばたきする図

    2a。この堎合は、矜ばたき翌が打ち䞋しず打ち䞊げの時

    にほずんど察称な運動を行うため、翌の反転する時以倖

    ほずんど揚力が発生しおいる。非察称ホバリング図 2b

    は、䞻にコりモリや鳥の飛行に芳察されおおり、矜ばたき

    面stroke planeが通垞傟斜しおおり、翌が䜎速前進飛

    行のような矜ばたき運動を行う。こういう飛翔生物は、打

    ち䞋しず打ち䞊げの間では翌を反転させるこずができない

    ため、䞻に打ち䞋ろす際に揚力を発生し、打ち䞊げ時に翌

    を埌方ぞ曲げるこずにより抵抗を䜎枛させる。

    前進飛行Forward Flight図 1 に瀺すように、昆虫や鳥は、

    通垞高速前進飛行の際に垂盎面内においお倧きな振幅で翌

    を䞊䞋矜ばたかせるが、前進速床を枛少する時に、ヘリコ

    プタヌがロヌタヌ角床を倉えるようにその矜ばたき面をよ

    り氎平に傟斜させるようにする。前進飛行の流䜓力孊性胜

    は、匏1のような矜ばたき速床ず前進飛行速床の比を

    衚す、ある無次元呚波数で評䟡するこずができる。

                            1

    ここでは、ω、c 及びUref はそれぞれ矜ばたき翌の角速床、翌の代衚翌匊長及び前進速床である。図 3 に瀺すように、

    矜ばたき翌の非定垞流䜓力孊効果が無次元呚波数に䟝存す

    るため、飛翔生物の揚力ず掚力ぞの定性的な評䟡がその質

    量ず無次元呚波数の盞関を調べるこずにより行うこずがで

    きる。党䜓的に、無次元呚波数は生物の倧きさず質量が増

    倧するに぀れ枛少する傟向にあり、小さな飛翔生物が倧き

    なものより非定垞な流䜓力孊を利甚するこず瀺唆する。

    2.2 無パワヌ飛行滑空飛行

    飛翔生物は、滑空の際に通垞翌を䞀杯䌞ばしながら空気の

    流れ方向に察しお運動方向をやや䞋向きにするこずによ

    り、降䞋する際に重力によっお掚力を埗る、ず同時に揚力

    も発生する。結果ずしお運動方向ず氎平方向より滑空角床

    が埗られ、揚抗比揚力ず抗力の比で定矩される。この

    揚抗比は、生物のサむズ及び飛行速床に関係しおおり、通

    a b

    図 3 Mass versus reduced frequency

    for birds and insects (Shyy et al. 2007).

  • 20 PEN Stember 2012

    垞レむノルズ数慣性力ず粘性力の比の増加ずずもに向

    䞊する。それ故に揚抗比は高ければ高いほど滑空は浅くな

    る。倧きな飛翔生物は高いレむノルズ数で飛行する故に、

    倧抵倧きな揚抗比を持぀。たた、倚くの鳥は重力のパワヌ

    を利甚しお滑空する際に、矜ばたきせずに䞊昇するこずも

    できるが、これは soaring ずいう。぀たり、重力を甚いる

    よりも、倧気䞭の浮力により発生する䞊昇気流の゚ネル

    ギヌを巧みに利甚するのである [8]。

    2.3 幟䜕孊盞䌌則ずスケヌリング

    幟䜕孊盞䌌則Geometric similarityは、慣性力、重力、

    粘性力及びダむナミック力のオヌダヌを枬る尺床ずしお、

    次元解析を通じお異なる物理量間を関係付けるこずができ

    る。もし昆虫や鳥は幟䜕孊的に盞䌌であるず仮定するなら

    ば、䞀定速床の飛行に関しおその重量 W などは、匏 2 の

    ように代衚長さl により衚せる。

                            2

    次元解析に基づいた生物飛行スケヌリングscalingは、

    諞パラメヌタによる飛行特性の空気力孊効果を評䟡するに

    は非垞に有効である。Tennekes[9] は、図 4 の The Great

    Flight Diagram に瀺されるように、昆虫や鳥から飛行機に

    至っおそれらの巡航速床、重量及び翌荷重の関係を考慮し

    お興味深いスケヌリング則にたずめた。この図 4 から、飛

    行䜓のサむズの盞違から、簡単に異なる皮間の比范や関係

    づけを行うこずができる。぀たり、このスケヌリング解析

    によるず、飛行䜓のあるパラメヌタ、䟋えば、翌長さがど

    れだけ他のパラメヌタ、䟋えばその胎䜓質量に関係するか

    を掚枬するこずができる。

    図 4 Relationship between wing loading,

    weight and cruising speed. The shaded region

    indicates the expanded parametric range

    surrounding the projected size, speed and

    weight for MAV. Adopted from Tennekes

    (Tennekes, 1996).

  • 21PEN September 2012

    翌長さWingspan、b飛翔生物の翌長さは 、通垞次元解析を行う際にその質量に関係づけられる。

    翌面積Wing Area、S昆虫や鳥の翌面積はそれらの翌長さより比范的に倧きな倉化を瀺すNorberg, 1990[10]。

    䟋えば、ハチドリは䞀般に同皋床の他の鳥よりも倧きな翌

    面積を有するず知られおいる。

    アスペクト比Aspect Ratio、 ARアスペクト比は、翌長さず翌面積の関係を衚し、矜ばたき飛行生物の飛行特性の

    指暙ずしお匏3のように定矩される。

                            3

    䞀般に小さいアスペクト比は高い機動性や操瞊性をもたら

    すが、高いアスペクト比は揚力に由来する誘導抵抗を䜎枛

    させる効果がある。同様に高アスペクト比を有する揚抗比

    L/D、すなわち滑空比glide ratioはアスペクト比ずずもに増加する。最倧なアスペクト比を有する鳥は、実際滞

    空時間の倧半を矜ばたきではなく滑空飛行に䜿っおいる皮

    に属するず芳枬されおいる。

    翌荷重Wing Loading、W/S定垞飛行における揚力ず重量の釣り合いを考えるず匏4が成り立぀。

                            4

    ここでは、U は空気速床、ρは空気密床である。これにより、翌荷重ず巡航速床は䞀般に重量ずずもに増加しおいるこず

    が明らかであり、぀たり翌荷重が倧きいほどその生物が早

    くお飛べねばならぬずいうこずになる。

    矜ばたき呚波数Wing-beat frequency翌の骚栌の䞻芁

    機胜は飛行䞭に呚囲に力を䌝達するこずである。しかしな

    がら、この䌝達される力は倧きくなりすぎるず骚栌や筋肉

    の損傷に぀ながる。こういう制限は、飛行筋肉に䟝存する

    パワヌずずもに、矜ばたき飛行生物の矜ばたき呚波数の䞊

    限ず䞋限をきめるこずになるPennycuick, 1996[11]。

    2.4 矜ばたき翌のパワヌ制限

    倧きい飛翔生物は小さい飛翔生物より䜎い呚波数で矜ばた

    きする。Pennycuick[11] は、飛翔生物にある固有呚波数

    natural frequencyが存圚し、しかもそれがその翌の物

    理特性ず克服すべく力に䟝存するこずを仮定するこずに基

    づき、匏5のような矜ばたき呚波数の盞関を導出した。

                            5

    これはある飛翔生物の矜ばたき呚波数を掚定するに䜿える

    ずいう。ただし、その生物の質量m、翌長さb、翌面積S、翌の慣性モヌメントI、そしお 空気密床ρ は既知量ずする。

    䞊限ず䞋限Upper and Lower Limitsスケヌリング解析

    は、矜ばたき呚波数f がパワヌず構造の制限を圱響するため、鳥のサむズや矜ばたき生物の運動限界に察しお有甚な

    情報を提䟛するこずができる。これたでは、パワヌ出力及

    び矜ばたき呚波数レベルの掚定ず筋肉の占める割合に関し

    おは倚くの研究は行われおきる [10, 11]。Pennycuick[11]

    は、パワヌ飛行時の最も倧型鳥のサむズに基づき、矜ばた

    き飛行できる飛翔生物の質量の䞊限が 12  15kg になる

    ず結論づけた。倧型鳥は氎平飛行すなわち静止飛行を

    維持するだけの揚力を発生できない。小型鳥は色んな矜ば

    たき呚波数を利甚する胜力が備えおいる。しかしながら䜓

    重 1g 前埌の飛翔生物は筋肉が収瞮埌にその収瞮メカニズ

    ムをリセットするのに時間がかかるずいうもうひず぀の䞊

    限が存圚する [10]。これにより静止飛行できる鳥ずコりモ

    リの最小質量はそれぞれ 1.5 g ず 1.9g ず掚定される。

    抵抗ずパワヌDrag and power 飛行機のように飛翔生

    物は、飛行のために十分なパワヌを生産しお揚力を発生し

    ながら抵抗を克服しなければならない。矜ばたき無しの滑

    空飛行のずき、必芁ずされる倧半のパワヌはポテンシャル

    ゚ネルギヌから運動゚ネルギヌぞの倉換により生み出しお

    いる。矜ばたき飛行の堎合は、パワヌは飛行筋肉のなす仕

    事率ずなる。この際に飛行䜓に働く党空気力孊抵抗Daeroは、揚力に由来する誘導抵抗 (induced drag, Dind)、翌圢状及び摩擊抵抗に䟝存する圢状抵抗 profile drag, Dpro、そしお胎䜓だけに䟝存する有害抵抗parasite drag, Dpar ずいう぀の成分からなり、぀たりD = Dind + Dpro + Dpar ずなる。たた前進飛行は、これらの぀抵抗性分に察応する

    ぀のパワヌ成分 : その反力が揚力ず掚力を生み出す枊䌎流

    の発生に必芁な仕事率である誘導パワヌinduced power,

    Pind、圢状抵抗を克服するに必芁な仕事率である圢状パワヌprofile power, Ppro、そしお胎䜓の有害抵抗を克服するのに必芁な仕事率である有害パワヌparasite power,

    Pparがある。他に翌だけを動かすのに必芁なパワヌ、すなわち慣性パワヌinertial power, Pinerがある。埓っお、飛行に必芁な党パワヌPtotはこれらの和、 Pto = Paero + Piner = Pind + Ppro + Ppar + Piner なる。ただし、このパワヌは、単なる飛行に必芁なパワヌであるが、パワヌ入力には等し

    くない。これは、飛行筋肉がその機械的効率η < 1 により制限され、なおか぀あらゆる生物がかれらの自分自身の新

    陳代謝に調敎されるため、パワヌ入力は通垞必芁な党パ

    ワヌを䞊回るこずになる。たた最も共通のパワヌ飛行の速

  • 22 PEN Stember 2012

    床カヌブは、図 5 のように U 字型ずなり、倚くの飛翔生

    物の飛行で芳枬されおいる。

    3生物芏範飛行の力孊シミュレヌション

    自分の瞄匵りを守るために正確な䜍眮にぎったりず停留ホ

    バリングしおいるハナアブSyrphidaeの飛行安定性や、他の昆虫を逌ずしお捕たえるずきのトンボの䞊はずれた機

    動性など、昆虫は極めお鋭敏な飛行制埡を芋せる。昆虫が

    劂䜕にしお、矜ばたき飛行の安定性ず機動性を実珟しおい

    るかを解明するこずは、その飛行性胜を暡倣し、同皋床サ

    むズの MAV の開発にずっお非垞に興味深い研究テヌマで

    ある。昆虫の驚くべき飛行性胜は、豊かな感芚フィヌドバッ

    クや矜ばたきのための耇雑な筋肉系、運動の幅広い倉化や

    非定垞空気力孊メカニズムの倚様性など、数倚くの芁玠の

    総合的な結果である。その䞭、矜ばたき飛行の空気力孊は

    非垞に重芁である。

    飛翔生物たわりの流れは、いくら耇雑でもその流䜓を

    支配するナノィ゚・ストヌクス方皋匏Navier-Stokes

    equationによっお蚘述できるため、矜ばたき飛行の流䜓

    力孊は実際昆虫や鳥のような飛行䜓に察しお翌の動的矜ば

    たき運動及び翌・翌ず翌・胎䜓の盞互䜜甚を考慮した倚物

    䜓系たわりの非定垞流れの解を求めるこずになる。以䞋で

    は、著者が最近開発した、生物の矜ばたき飛行を厳密な幟

    䜕孊、運動孊及び力孊のモデルに基づき、静止飛行、前進

    飛行及び急旋回のような自由飛行を蚈算機の䞭に再珟でき

    る力孊シミュレヌタに぀いお、生物飛行の幟䜕孊モデリン

    グ、生物飛行の運動孊モデリング、そしお生物飛行の流䜓

    力孊モデリングずいった぀の項目に぀いお簡単に説明す

    る。たたその昆虫矜ばたき飛行の流䜓力孊メカニズム解明

    ぞの応甚、ずくに昆虫飛行のサむズ効果に぀いお玹介する。

    3.1 生物矜ばたき飛行モデリングの座暙系

    図 6 に瀺すように、生物矜ばたき飛行モデリングにおい

    おは 3 ぀の座暙系が導入される。1 翌固定座暙系xw、

    yw、zw、原点が右翌の回転軞にあり、その呚りを矜ばた

    きする。2 胎䜓固定座暙系xb、yb、zb、原点が質点䞭

    心にあり、胎䜓ず䞀緒に動く。3 グロヌバル座暙系X、Y、

    Z、すなわち慣性座暙系ずなる。胎䜓姿勢は、氎平方向

    に察しおなす矜ばたき面角床stroke plane angle η ず

    胎䜓角床body angle χで衚し、3 ぀の回転角床を胎䜓固定座暙系においおはそれぞれ pitch 角β、roll 角ψ及び

    yaw 角γず定矩する。たた翌䜍眮パラメヌタは矜ばたき面

    においお、打ち䞋しず打ち䞊げの時の翌端軌跡をそれぞれ

    実線ず点線で衚し、たた矜ばたき角positional angle φ

    を ysp 軞ず yw 軞の矜ばたき面に射圱した yw’ 軞のなす角

    ず、面内運動角elevation angle Ξを翌軞 yw ず矜ばた

    き面内軞 yw’ の間の zw 軞たわりの回転ず、迎え角angle

    of attack αを翌 yw たわりの回転featheringずそれ

    ぞれ定矩する。

    図 5 Pectoralis power as a function of flight velocity. Comparative mass-specific pectoralis power as a function of flight velocity in cockatiels, doves and magpies. Bird silhouettes are shown to scale, digitized from video (Tobalske et al., 2003) .

  • 23PEN September 2012

    3.2 幟䜕孊モデリングMorphological modeling

    昆虫は矜ばたきで自重を支える䞊向きの揚力ず前向きの掚

    進力を同時に発生する その矜は通垞䜓重の数パヌセント

    しかない超軜量構造にもかかわらず、毎秒数癟回もの埀埩

    運動をこなす超高匷床を有するものである。図 7 の䞭の䜓

    長 5cm ぐらいの倧型昆虫、スズメガHawkmothの矜

    圢態や内郚構造、矜ばたき飛行の 3 ぀の運動を瀺す。衚面

    の麟粉を萜ずした昆虫の矜が矜の付け根から攟射線状に䌞

    びる内郚が空掞ずなる 20 数ミクロンの翅脈ず、それらの

    間を芆う 2 ミクロンぐらいの薄膜からなっおいるこずがわ

    かる。曎に生きおいる昆虫の矜の翅脈の䞭を液䜓血液

    が流れおいお、それは高呚波数で矜ばたく矜の匷床を補匷

    する重芁な圹割を果たしおいるず掚枬される。

    生物の自由飛行を再珟するため、矜・胎䜓の 3 次元圢状

    だけでなく、慣性力や慣性モヌメントの蚈算に必芁な矜の

    厚みや翅脈分垃などをも正確に蚈枬できる手法を開発し

    た [3]。実際の昆虫の矜・胎䜓のリアリスティックな 3 次

    元幟䜕孊圢状モデリングや蚈算力孊栌子生成等の諞手法や

    技術を開発した。本方法では、幟䜕孊モデリングは、昆

    虫や鳥の翌・胎䜓の 3 次元幟䜕圢状を楕円近䌌ずした埮

    分幟䜕孊手法ず構造栌子生成法ず耇雑な圢状ず矜ばたき

    運動を有する倚物䜓システムに察応できる重耇栌子法を

    導入した [4, 5]。図 7 にリアリスティックな翌胎䜓圢状を

    も぀スズメガhawkmoth、 Agrius convolvuli、ミツバチhoneybee、 Apis mellifera及びショりゞョりバ゚fruitfly、

    Drosophila melanogasterの幟䜕孊モデル及び蚈算栌子を瀺す。

    3.3 運動孊モデリングKinematic modeling)

    飛翔昆虫は、䞻に翅の矜ばたき運動で飛んでいる。倚くの

    昆虫はハチやパのように察の翅をもっおいるが、なか

    にはトンボやチョりのような 4 枚の翅を有するものも倚々

    ある。昆虫の矜ばたき呚波数は倧抵 20 から最倧 1000Hz

    を超えるずもいわれおいる。鳥類ず異なっお、昆虫の矜ば

    たきを匕き起こす筋肉及び制埡系統は、党お固い倖骚栌の

    䞭に収められおいる。アホりドリのような倧型の鳥は、矜

    の付け根ず䞭ほどにそれぞれ間接を持぀ 2 関節型の矜ば

    たき機構を持ち、打䞋ろしず打䞊げで矜の面積を倉えるこ

    ずができる。䞀方、ハチドリなどのような小さい鳥類ず昆

    虫の矜ばたきに䜿われる筋肉や骚栌の構造は、矜の付け根

    にのみ関節を有する 1 関節の機構をもち、ガのような倧型

    昆虫の盎接飛翔筋駆動タむプず、パのような小型昆虫の

    間接飛翔筋駆動タむプの 2 皮類に倧別できる。生物の筋肉

    は、機械ず異なっお収瞮する際にのみ力を発生し、䌞匵す

    る際にぱネルギヌを蓄えるこずができない。倧型昆虫は

    矜ばたき呚波数が䜎いため、飛翔筋の収瞮が神経パルスに

    同期しお行われるが同期筋、小型昆虫では神経パルス

    がなくおも、自動的に繰り返されるようになる非同期筋。

    䞡者の境界は玄 80Hz ず芋られおいる。

    図 6 Definitions (a) of the wing-fixed system (xw, yw, zw), the body-fixed system (xb, yb, zb), and the global system (X, Y,

    Z); the stroke plane angle η and the body angle χ ; the angles of pitch β , roll ψ , and yaw γ with respect to the body-

    fixed system. (b) Wing position parameters within the stroke plane: the wingtip path, the positional angle φ , the elevation

    angle Ξ , and the angle of attack α . (Liu, 2009)

  • 24 PEN Stember 2012

    運動孊モデリングは、胎䜓角床や矜ばたき面角及び翌運動

    の 3 ぀角床の時間的倉化ず矜ばたき運動に䌎っお移動・倉

    圢する動的栌子生成を統合させお、矜ばたきによる自由飛

    行を再珟可胜なものである [4]。図 8 はスズメガ、ミツバ

    チ及びショりゞョりバ゚の翌運動の 3 ぀角床の時間的倉

    化、衚 1 はそれらの 矜ばたき振幅、矜ばたき呚波数、矜

    ばたき面角、胎䜓角及びアスペクト比、そしおそれらによ

    り蚈算されたレむノルズ数ず無次元呚波数を瀺す衚 1。

    ただし、空気の動粘性係数を 1.5 × 10-5 m2sec-1 ずする。

    生物矜ばたき飛行の力孊シミュレヌションを行う際に、力

    孊盞䌌性を考慮しお無次元パラメヌタのレむノルズ数ず

    無次元呚波数Reynolds number and reduced frequency

    はよく䜿甚される。通垞静止飛行に察しおレむノルズ数は

    匏6のように定矩するこずができる。

                            6

    ここでは、代衚長さ Lref を平均翌匊長 cm ず、代衚速床Urefを Uref= ω Rただし、R は翌長さ、ωは翌平均角速床、ω =2 Ίf 、Ίは矜ばたき振幅、f は矜ばたき呚波数ずそれぞれする。たた静止飛行時の無次元呚波数は匏7の

    ように定矩される。

                            7)

    図 7 Morphological models and computational grids: a) hawkmoth, Agrius convolvuli, honeybee, Apis mellifera, and fruitfly,

    Drosophia melanogaster (Liu and Aono, 2009); (b) A hawkmoth and its wings without scales.

    図 8 Hovering wing kinematics: a) hawkmoth, Agrius convolvuli, b) honeybee, Apis mellifera, and c) fruitfly, Drosophia

    melanogaster (Liu and Aono, 2009)

    a b

  • 25PEN September 2012

    4昆虫芏範飛行の孊理

    昆虫や鳥の矜ばたき飛行の流䜓力孊は、倧抵 O101から O105に至るたでの䜎レむノルズ数領域においお高い非定垞性を有し、通垞耇雑な矜ばたき運動や柔軟構造を

    も぀翌の倉圢などによる倧芏暡な枊流れずいった特城を瀺

    す [4, 12]。それ故に埓来の高いレむノルズ数領域におけ

    る飛行機の流䜓力孊理論に比べお、ただ倚くの疑問が残り

    理路敎然ず説明できる理論がないず蚀われおいる。この生

    物矜ばたき飛行における流䜓力孊メカニズムを解明するの

    に䞀぀チャレンゞングな問題ずしおは、぀たり矜ばたき翌

    たわりの倧芏暡な枊流れや䌎流構造がどうのように発生し

    おいるのか、さらにそれらがどのように揚力や掚力の発生

    ず関係づけおいるのかずいった本質的な質問に解を出すこ

    ずになるのである。最近の研究では、昆虫や鳥及びモりモ

    リの矜ばたき飛行における非定垞空気力孊原理の倚様性ず

    重芁性が明らかになっおいる。それらは、殆ど非定垞的な

    揚力を向䞊させるメカニズムであり、いわゆる、䞡翅が倧

    きな角床で矜ばたきし反転の際に互いにぶ぀かり、か぀迅

    速に反転するような矜ばたき運動であり、小さいな昆虫の

    矜ばたき飛行によく芋られる clap-and-fling、翌の急速な

    回転により迎え角を増倧させる pitch-up rotation、反転前

    の翌が通過した埌にできた埌流を捕獲する wake-capture 、

    そしお打ち䞋しず打ち䞊げの際に翌前瞁に芋られる匷い前

    瞁枊が倧きな力をもたらす leading-edge vortices などがあ

    る [4, 5, 6, 12]。

    4.1力孊シミュレヌションが解き明かす昆虫芏範飛行のバむオメカニズム

    静止飛行はあらゆる昆虫に芳枬されおいる昆虫の特技であ

    る。昆虫静止飛行の流䜓力孊のサむズ効果はレむノルズ

    数によっお特城づけられる。図 9 は䞊述の 3 皮類の昆虫

    近傍の枊構造ahawkmoth、Re=6300 bhoneybee,

    Re=1000, cfruitfly, Re=134、図 10 は埌流構造及び䞋

    向きのゞェット流れdownwashをそれぞれ瀺す。3 çš®

    è¡š 1 A summary of stroke plane angles, aspect ratio, Reynolds numbers, and reduced frequencies for three insects

    (hawkmoth, honeybee, and fruitfly) (Liu and Aono, 2009).

    類の昆虫のサむズ及びレむノルズ数や矜ばたき運動が異な

    るにもかかわらず、ある共通しおいる特性が芋られる。぀

    たり、矜ばたき翌が䞊進運動を開始する間もなく、䞀察の

    銬蹄枊a pair of horseshoe vorticesが圢成され、それ

    が前瞁枊、埌瞁枊及び翌端枊からなり、尚か぀次第に䞀぀

    翌党䜓を包むような匷い枊リングvortex ringに発展し

    おいくこずず、その枊リングの䞭心coreを䞋向きの匷

    いゞェットが流れおいくこずが皮類の昆虫の静止飛行に

    共通に芋受けられる。この枊リングは打ち䞋しず打ち䞊げ

    の終わりに翌から剥がれ、埌流に倧きな栌子状の枊構造を

    残す。しかしながら、レむノルズ数の違いによっお枊ダむ

    ナミクスや埌流構造及び揚力などの発生 ( 図 11) ずの盞関

    には、定量的に顕著な盞違も芋受けられる。

    さらに図 11 に瀺される時系列の垂盎力より呚期平均垂盎

    力を蚈算するこずにより、打ち䞋し時ず打ち䞊げ時に発生

    する力がサむズたたはレむノルズ数に䟝存するこずが分

    かる。぀たり、スズメガは 6:4  7:3、ミツバチでは 5:5、

    そしお ショりゞョりバ゚では 4:6 ずなっおおり、その比

    率はサむズやレむノルズ数ずずもに枛少するずいう。䞀方、

    鳥の堎合は Warrik ら [13] は PIV 蚈枬に基づいた解析によ

    りハチドリの静止飛行では 7.5:2.5 ずなっおいるず報告し

    おいる。これは、぀たり矜ばたき翌の非定垞な空気力発生

    には、明らかにサむズ効果たたはレむノルズ数効果が存圚

    するこずを瀺すず同時に、矜ばたき運動も重芁な圹割を果

    たすこずを瀺唆する。さらにショりゞョりバ゚ずミツバチ

    ずは、ほが同じような矜ばたき角ず胎䜓角を有するにも関

    わらず、時間的に倉化する垂盎力が明らかに異なる振る舞

    いをみせるずいう興味深い珟象が芋られる。これは、おそ

    らくミツバチが高い矜ばたき呚波数ず䜎矜ばたき振幅を利

    甚するずいう独特な矜ばたき運動によるであろう。

  • 26 PEN Stember 2012

    図 9 Vortex structures in terms of leading-edge vortex (LEV), trailing-edge vortex (TEV), wing tip vortex (TV), downstroke

    vortex ring (DVR), and upstroke vortex ring (UVR) about a hovering insect: a) hawkmoth, Agrius convolvuli, b) honeybee,

    Apis mellifera, and c) fruitfly, Drosophia melanogaster. Note that magnitude of iso-vorticity surfaces is 0.6 and color of iso-

    vorticity surfaces is normalized by helicity density. (Liu and Aono, 2009)

    図 10 Downwash wake topologies about a hovering insect: a) hawkmoth, Agrius convolvuli, b) honeybee, Apis mellifera,

    and c) fruitfly, Drosophia melanogaster (Liu and Aono, 2009)

  • 27PEN September 2012

    図 11 Time courses of vertical force

    coefficient over a flapping cycle:

    a) hawkmoth, Agrius convolvuli,

    b) honeybee, Apis mellifera, and c)

    fruitfly, Drosophila melanogaste.

    Orange and blue lines indicate

    vertical force acting on two wings

    and body, respectively (Liu and

    Aono, 2009).

    4.2生物芏範メカニクス • システム

    生物芏範飛行からさらに芖野を広げお生物の動き運動

    における生物芏範メカニクス • システムを敎理するず、図

    12 のようにナノサむズの分子やタンパク質から、ミクロ

    ンサむズの现胞やバクテリア、ミリサむズの昆虫や魚類、

    そしおメヌトルサむズのむルカやクゞラたで、実に 11 桁

    もの広倧なスケヌルにわたり、生物の運動は、これだけ倚

    様性に富んだ生物の圢態や運動には共通しおいる性質があ

    り、぀たり生物運動ず生物運動における力孊珟象に呚期的

    倉化が空間方向に䌝播する珟象、ミクロスケヌルのブラ

    りン運動、ミリスケヌルの屈曲運動や矜ばたき、メヌタス

    ケヌルの乱流など、いわゆる波動性が存圚するこずがわか

    る。生物の動きは、各スケヌルにおいお船や飛行機の人工

    物のような “ 盎線的な掚進 ” ではなく、暪の運動、いわゆ

    る波動によるものが殆どであり、これらの “ 最適化された ”

    運動機構が非定垞性ず波動性の調和によるものず考えられ

    る。筆者は、この珟象を「生物流動波Biofluid-wave」

    ず称したい。今埌はこの生物流動波ずいうコンセプトを導

    入し、新しい芖点に立っお、生物芏範メカニクス • システ

    ムにおける非定垞性ず波動性を考察し、統䞀的に取り扱う

    孊理を創出するこずを期埅しおいる。

    図 12 Toward multi-scaled mechanics system: a biofluid-wave theory

  • 28 PEN Stember 2012

    䟋えば、现胞のミクロメカニクスは、その呚囲における

    皮々の静的ないし動的な機械力孊的環境力孊堎を感知

    しお自らの機胜现胞の力芚特性を調節する。现胞を医

    療甚資源ずしお最倧限に掻甚しその機胜を十二分に制埡し

    お甚いるためには、现胞倖環境の生物孊的条件のみならず

    力孊堎条件の䞡芁因の適切な蚭蚈に基づく现胞操䜜材料

    メカノバむオミメティック材料の確立が極めお重芁であ

    る。䞀方、昆虫飛行のマクロメカニクスは、耇雑な神経 -

    筋 - 運動 - 力孊などからなる生物飛行システムであるず同

    時に、時空的に動的倉化飛行行為の維持や修埩、環境倉

    化ぞの適応・進化を行うこずから、䞀぀の開攟型システ

    ムずなる。昆虫飛行の圢態・機胜の最適珟象ず環境倉化に

    察する適応機構の統合的な解明が自埋飛行可胜な昆虫芏範

    型飛行ロボットの開発ず、生物飛行の倚様性や進化ぞの理

    解にずっお極めお重芁である。

    5生物芏範飛行のバむオミメティクス

    生物芏範飛行のバむオミメティクスの研究、こずに昆虫

    サむズの MAV の研究開発が近幎急速に発展を遂げおいる

    が、昆虫レベルたでのダりンサむゞングの過皋における理

    論䜓系や蚭蚈指針などが確立されおいない [4, 5, 12]。珟

    圚自埋飛行可胜な MAV 機䜓が殆ど固定翌や回転翌を有す

    るものであり、静止飛行可胜な者が宀内無颚状態で 5~10

    分間しか飛べない回転翌型に限っおいお昆虫の矜ばたき飛

    翔性胜には遠く及ばない。䞀方長い自然淘汰により掗緎さ

    れた昆虫飛翔メカニズムを解明し究極な蚭蚈指針を芋出

    そうずいう研究が 90 幎埌半から䞖界的に急増し䞀流科孊

    誌 Nature ず Science に 20 線もの論文が掲茉され、熟烈な

    競争ずなっおいる [1, 2, 14]。昆虫や MAV のようなミリサ

    むズの飛翔マむクロマシンになるず、䟋えば翌のような翅

    脈を有する匟性膜構造が倚機胜を同時発揮する可胜性が極

    めお倧きい故に、昆虫飛行の最適珟象の解明ず自然環境に

    おいお自埋飛行可胜な昆虫サむズ MAV の開発には、矜ば

    たき飛行における構造・流䜓・ダむナミクスずいった倚物

    理的珟象を統合的に解明するこずが䞍可欠である。これた

    では最も成功しおいる生物芏範型矜ばたき飛行ロボットず

    しおは、AeroVironment 瀟が開発したサむズ玄 15cm、重

    さ玄 20g のナノハミングバヌドhttp://www.avinc.com/

    nanoが挙げられる。この矜ばたき MAV は、鳥を芏範し

    た胎䜓ず翅を持ち、分間皋床のホバリング飛行を実珟し

    お尚か぀静止飛行から時速 18 km/s ぐらいの前進飛行ぞ

    の遷移を可胜である。ただし、飛行時の制埡システムはほ

    が埓来のぞりず同じものを䜿甚し、飛行モヌドに関係なく

    飛行䜓の姿勢は垞にほが垂盎に保぀必芁がある。

    近幎筆者のグルヌプでは厳密な幟䜕孊・運動孊・力孊モデ

    ルに基づき生物矜ばたき飛行を再珟できる、「生物型飛行

    の力孊シミュレヌタ」[3-6] を開発し、倚様な生物矜ばた

    き飛行における非定垞流䜓力発生メカニズムの解明を行

    い、生物飛行ず生物芏範型小型飛行䜓ぞの応甚を進めおい

    る。これにより昆虫や小鳥の矜ばたき飛行時の非定垞力発

    生メカニズムの統䞀的な解明 [3 - 6, 12]、線圢ず非線圢の

    動的安定性解析により矜ばたき飛行安定性解析及び制埡モ

    デリング、さらに昆虫膜翌の構造・流䜓連成解析や自由飛

    行における空気力孊・飛行力孊の連成解析などの統合的な

    研究を実斜しおいる。䞀方、これらの研究成果に基づき、

    重さ 2.6 g 前埌の昆虫やハチドリのサむズのような超小型

    生物芏範型矜ばたき飛行ロボット図 13を開発した。4

    枚の翌をもち、ハチドリず同皋床の倧きさで、重さ 2.6 、

    超小型モヌタヌによっお 1 秒間に 30 回以䞊の高速で矜根

    を動かし、空䞭で数分間矜ばたくこずができる。搭茉しお

    いる赀倖線センサヌによっお䞊䞋巊右に向きを倉えたり、

    8 の字飛行も可胜である。ただしホバリングや倖乱時の

    安定飛行を実珟するには、さらに䟋えば、昆虫が利甚しお

    いるoptic flowなどのような生物独特な制埡原理を解明し、

    超小型矜ばたき飛行ロボットに適甚するこずが䞍可欠であ

    る。

    図 13 A hummingbird-inspired, flapping robot ( 千 葉 倧

    孊、劉浩研究宀 ).

    䞀方、生物芏範飛行のバむオミメティクスのもう䞀぀の応

    甚は、最近昆虫や鳥の優れた空気力孊性胜を有する翅翌

    を芏範しお、高性胜の颚力発電颚車や扇颚機のような回転

    型流䜓機械の研究開発が盛んに行われおいる。自然に孊ぶ

    ものづくりずしお、超䜎環境負荷で高機胜の生物のメカニ

    ズムやシステムを孊び、それらをテクノロゞヌずしおデザ

    むンしなおす研究開発は、今、泚目され、䞖界䞭で掻発に

    進められおいたす。これは、単なる生物のある特定な翅圢

  • 29PEN September 2012

    状や機胜を真䌌るのではなく、生物倚様性に富んだ生物芏

    範システムの゜フトデザむン思想を工業補品のデザむンに

    取り蟌むこずが重芁であり、぀たり「環境 • 人間 • 機械の

    調和」ず目指す生物芏範工孊の創出が持続発展可胜な瀟䌚

    の䞀぀の切り札になるこずを瀺唆し、今埌倧いに期埅され

    おいる。

    6おわりに

    生物飛行は、数ミリのパから数センチのチョりやガたで

    の昆虫、数センチのハチドリからm の癜鳥、倪叀の数メヌ

    トルず蚀われる空飛ぶ翌恐竜に亘り、倚様なサむズや圢態、

    運動性胜や機胜を芋せる。ずりわけ、最近泚目されおいる

    昆虫は、毎秒数十回から数癟回も矜ばたきする翅の運動が

    数倚くの飛翔筋によっお制埡され、その結果自重揚力

    を支えながら、静止飛行や急旋回、急速なタヌンや突颚な

    どに察しおも姿勢を保っお飛行を継続できる。この飛行制

    埡は、神経 - 飛翔筋 - 矜ばたき運動 - 空気力の発生にいた

    る内郚・倖郚間の双方向の制埡機構が同時に働いお初めお

    自埋飛行を実珟できる。この倖郚の空気力の発生機構だけ

    でも、実に翅の非線圢なᅵ