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IoT ビジネス研究会 報告書
IoT の新たなビジネスの可能性について
- 九州の中堅・中小企業への影響と処方箋 -
(一社)九州経済連合会 産業振興委員会・情報通信委員会
2017年6月
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[報告書目次]
はじめに ........................................................................................................................................................................... 1
1.IoT の本質 .............................................................................................................................................................. 2
(1)あらゆる産業分野での新しい商品・サービスへの置き換え ............................................................. 3
(2)ドイツ・アメリカの国際標準戦略 .................................................................................................................. 3
(3)アナログ産業からデジタル産業へのデータのトレース現象 .............................................................. 5
2.国内外の先進事例と IoT の三つの視点 .................................................................................................... 6
(1)国内外の先進事例 ......................................................................................................................................... 6
(2) IoT の三つの視点と地域の事例 ............................................................................................................... 8
①既存事業の改善・効率化 .......................................................................................................................... 8
②新規事業の開拓 ........................................................................................................................................... 9
③事業の再定義 ............................................................................................................................................. 10
3.地域の中堅中小企業への IoT ビジネスの処方箋 .............................................................................. 12
(1)危機意識と目的の明確化〈能動的な IoT〉 ........................................................................................ 12
(2)現場にある気づきの可視化〈小さな IoT〉 ............................................................................................ 12
(3)新たな価値の創出〈攻めの IoT〉............................................................................................................. 12
(4)事業の再定義〈守りの IoT〉 ....................................................................................................................... 12
(5) IT/ICT の死角〈アナログの IoT〉 ............................................................................................................. 13
[参考資料]
IoT による新ビジネスの可能性にかかる 20 の提言 .................................................................................. 14
(1) IoT が何をもたらすのか ............................................................................................................................. 14
(2)企業・地域に与える影響 ............................................................................................................................ 14
(3)企業・地域はどうすべきか ......................................................................................................................... 15
本研究会で採り上げた事例 ................................................................................................................................ 16
(1)お茶防霜ファン故障検知システム<富士通九州ネットワークテクノロジーズ> .............................. 16
(2)広域農業支援サービス<スカイディスク> ........................................................................................ 17
(3)スマート農業<オプティム> .................................................................................................................... 18
(4)漁場環境監視システム<NTT ドコモ> ............................................................................................... 19
(5)医療機器 遠隔監視・予知サービス<日立製作所> ................................................................... 20
(6)産業機械 故障予知・リモートメンテナンス<安川電機> ........................................................... 21
(7)設備機器の故障予測サービス<スカイディスク> ......................................................................... 22
(8)シリアスゲーム<九州大学> .................................................................................................................. 23
(9)眼底診断支援サービス・在宅医療支援パッケージ<オプティム> ......................................... 24
(10)IoTシミュレーション・支援サービス<Fusic> ............................................................................... 25
(11)鉄道 遠隔監視・予知サービス<日立製作所> ......................................................................... 26
(12)下水道氾濫検知<富士通九州ネットワークテクノロジーズ> ............................................................. 27
(13)自動運転バス<NTTドコモ> .............................................................................................................. 28
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1
はじめに
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)1は、さまざまなモノをセンサーなどによってインターネット
でつなぐことでデータを集め、情報を“可視化(見える化)2”して、相互に制御する仕組みである。
本報告書は、(一社)九州経済連合会の産業振興委員会および情報通信委員会が平成 28 年 6 月
に設置した「IoT ビジネス研究会」の活動を主体に、IoT ビジネス研究会の中に設けたアドバイザー会議の
活動を統合して報告するものである。IoT ビジネス研究会の活動目的は、IoT ビジネスの国内外の先進
事例を検証して、地域の中堅・中小企業に新たなビジネスの可能性を探ることにある。その一方で、地
域に焦点を当てると、“攻めの IoT”ばかりでなく、“守りの IoT”(既存のビジネスの防衛)の重要性も高い。
本稿では、先進事例を紹介しながら、IoT が企業に与えるプラスとマイナスの影響を踏まえて、企業
がとるべき対応を三つの視点で示した後、IoT ビジネスの処方箋を提示する。最後に、IoT ビジネス研究
会の意見交換における発言を集約して、「新たなビジネス創出の可能性にかかる 20 の提言」としてまと
めている。
座長 (一財)日本経済研究所 チーフエコノミスト
専務理事・地域未来研究センター長 鍋山 徹
1:関連用語として IoS(Internet of Services)、IoE(Internet of Everything)などがある。インターネットにつながる際、センサーな
どのモノを介するので、広義では IoT の一部という整理もある。ここで示された「モノ」とは狭義の物理的な“物”ばかりでなく、
“情報、人、人の心”まで含まれる点に留意 2:人類の歴史は可視化の歴史、と云われている。私達の先祖は、紀元前から、目に見えないものを見える形にして、より良い
暮らしを実現してきた。砂時計や日時計によって時間を可視化し、風速計によって風の強さを可視化した
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2
1.IoT の本質
IoT は、“つながる技術”である。モノにセンシングデバイスが装着されてインターネットに接続される
ことで、これまで測定できなかったものが測定できるようになったり、測定したデータを統合できるよう
になったりする。結果として、新たな価値や派生的な価値を生み出すビジネスモデル(事業で収益を
上げるためのシステム)を創出することができる。その背景には、センサーの小型軽量化・低コスト化、
ネットワーク環境の整備、記憶媒体の高密度化、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置。コン
ピュータの構成部品)の高速化などがある。
まず IoT を理解するうえで、良く見受けられる、三つの誤解を解いておきたい。
《誤解Ⅰ》「IoT は IT(Information Technology:情報技術)/ICT(Information and Communication
Technology:情報通信技術)において、これまでのインターネット革命と大きな違いはない」
(回答)大きく違う。特に、インターネットに参加する数。これまでの IT/ICT は、「人と人の会話」が中心
だった。したがって、70 億人の世界人口は増え続けるにしても、人口以上には増えない。これに対し
て、IoT は「機械と機械の会話」(Machine to Machine)であるため、その数に上限がない。機械同士が
会話する IoT の端末は 500 億台とも 1000 億台ともいわれる。カメラやセンサーなど、IoT の端末に
よって、大量のデータが得られるようになり、機械や装置の性能や安全性を大きく高めることができ
る、そのスケールとバリエーションに注目しなければならない。
《誤解Ⅱ》「IoT は第 4 次産業革命と言われるが、これまでの IT/ICT の延長線にある。すでに、FA(フ
ァクトリー・オートメーション)など、自社で取り組んでいる。そこに、センサーなどのオプションが加わって
いるという認識だ」
(回答)IoT の影響を矮小化してはならない。FA など、これまでの発想は“縦割り”でしかない。IoT のゴ
ールは“横割り”である。ドイツは、日本同様、業界内の大企業・中小企業の“縦割り”型の連携で競
争力があるが、そのドイツが“横割り”の国家戦略を本気で打ち出している。グーグルやアマゾンなど、
IT の新興企業には、〇〇業界というカテゴリーがないことがその証左である。
《誤解Ⅲ》「IoT は、IT 関連のグローバル企業や大企業の収益に貢献する。とくに、欧米企業にとって
有利だ」
(回答)そうではない。IoT がこれまでの IT/ICT と異なるのは、欧米企業がリードしてきたインターネット
上のサービスと異なり、ソフトウェア技術だけでは実現できない点である。アップルが横浜市に海外初
の研究開発拠点を設けた意味は、そこにある。“世界の工場”である中国企業との競争優位性があ
れば、ものづくりに強い日本企業がふたたび主導権を握れるチャンスでもある。
以下に、IoT を理解するための重要な視点を示す。
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(1)あらゆる産業分野での新しい商品・サービスへの置き換え
IoT は IT/ICT の発展形態の一つである。また、IT/ICT は、汎用技術(General Purpose
Technologies)3に位置づけられている。
図表1は、産業革命の変遷である。第 1 次産業革命では、汎用技術である蒸気機関によって、輸
送分野で馬車から鉄道への“置き換え(replace)”が発生した。鉄道の登場は、郵便、銀行、新聞など
の登場を促した。巨大な鉄道会社は巨額の資金や多くの中間管理職を必要としたことから、ウォール
街やビジネススクールの新たな職業につながった。諺で言えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」。「風」
が汎用技術の蒸気機関、「桶屋」がウォール街やビジネススクールである。それだけ予測ができない
現象が起きることになる。これから 10~30 年かけて、あらゆる産業分野で新しい商品・サービスへの
置き換えが発生して、「風」である IoT によってさまざまな「桶屋」のビジネスが生まれてくる。
図表1 第 1 次~第 4 次産業革命(汎用技術、主導した国、時代)
第 1 次産業革命:繊維産業など、蒸気機関による工場の機械化/イギリス/18 世紀後半
第 2 次産業革命:自動車産業など、ベルトコンベアによる大量生産/アメリカ/19 世紀後半~
20 世紀初頭
第 3 次産業革命:自動車/電機産業など、コンピュータによる生産自動化/日本/20 世紀後半
第 4 次産業革命:全産業、IoT活用による柔軟な生産システム・サービス化4/ドイツ・アメリカ/
21 世紀前半
(資料)各種資料より座長作成
(2)ドイツ・アメリカの国際標準戦略
第 4 次産業革命は、ドイツとアメリカが主導している。図表2に示すように、ドイツは、産官学連携に
よる国際標準戦略(デジュール・スタンダード)をとっている。欧州最大のソフトウェア会社の SAP やロ
ーランド・ベルガー、シーメンス、ボッシュ、ドイツテレコム、などを軸に「インダストリー4.0(industrie
4.0:I4.0)」という国家プロジェクトを前面に出して、自国でシステムを確立するとともに、中国など世界
への輸出も視野に入れている。国内では、フラウンホーファー研究機構(約 24,000 人)5やシュタイン
バイス財団(約 6,000 人)6の研究スタッフや専門大学の教授に、地域の中小企業の応用研究や商
品の共同開発を請負わせている7。これに対してアメリカは、民間企業主体の事実上の標準戦略(デ
ファクト・スタンダード)である。ゼネラル・エレクトリック(GE)は、「インダストリアル・インターネット
(Industrial Internet)8」という概念を提唱している。航空機エンジンなど故障予知のアルゴリズム9でメン
テナンスコストを削減するなど、インターネットを活用して付加価値の高い“予兆管理サービス”を提供
3:人類の歴史を発展させてきた、影響力や浸透力が大きい技術。あらゆる産業のビジネスが変化するため、社会に与える影
響が大きい 4:デジタル経済に関しては、Erik Brynjolfsson,Andrew McAfee(2014)「The Second Machine Age」が有名。邦訳は、村井章
子訳(2015)「ザ・セカンド・マシン・エイジ」日経 BP 社
5:欧州最大級の応用研究所。合計 66 の研究所がドイツ中に配置されて、地域活性化やイノベーション創出に重要な役割を
果たしている。非営利団体で、運営資金の 7 割超を企業や個別のプロジェクト報酬でカバーしている 6:中心は 200 ほどある専門大学の教授。大学などの技術を企業に移転する事業では、欧州で最大規模の財団。中小企業主
体に 1 万社以上が顧客 7:中小企業への波及は課題とされている
8:機械(モノ)中心の発想。これに対して、ドイツの「インダストリー4.0」は工場中心の発想(スマート工場、考える工場) 9:問題を解いたり、課題を解決したりするための方法や手順。フローチャート(流れ図)で図式化。プログラミングを作成する基礎
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する試みである。GE、IBM、インテル、シスコシステムズ、AT&T は、民間企業による連合体として、
「IIC(Industrial Internet Consortium)」を発足させた。また、IoT の開発競争で米国とともに存在感を増
している中国は、“世界の工場”であり、ドイツとのつながりも深い。IoT を環境対策、高齢化、賃金上
昇の解決手段として捉えていて、5G(第 5 世代移動通信)で強みをもつ華為技術(Huawei、ファーウ
ェイ)を筆頭に、これからの成長が見込まれる。
日本では、政府が「日本再興戦略 2016」で、GDP600 兆円に向けた「官民戦略プロジェクト 10」
の筆頭に、「第 4 次産業革命(IoT・ビッグデータ・人工知能)」を掲げている。ウェアラブル端末からリ
アルタイムで取得できる体温や脈拍など生体情報をもとにした健康・医療サービスはその一例であ
る。
図表2 世界の主要国の国際戦略
(資料) 「平成 26 年度ものづくり白書」の資料に三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング加筆 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング 吉本陽子「データのバリューチェーンが生み 出す新たな価値の創造」 第 13 回九州地域戦略会議夏季セミナー 第 2 分科会 2016/8/3
ドイツのデジュール戦略(I4.0)に対する米国のデファクト戦略(IIC)
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(3)アナログ産業からデジタル産業へのデータのトレース現象
IT/ICT 機器を介して、リアルタイムで、凄まじいデジタルデータがトレース(追跡・収奪)されている。
スマートフォンの無料・有料アプリケーション、マイクロソフトの Windows 10、そしてアメリカの家電見本
市「CES2017」10で話題になった Amazon Alexa(アレクサ)などの音声対話 AI(Artificial Intelligence:
人工知能11)搭載の家電・デバイス群12などがトレースの役割を担っている。このトレース現象によって
クラウド13上に蓄積されたデータをもとに、異業種の企業が新たな挑戦と枠組みづくりを始める素地が
出来つつある。生産現場では、IoT によってデジタルのデータを“リアルタイム”で活用して“柔軟”にカ
スタマイズする低コストの多品種少量生産(マス・カスタマイゼーション:mass customization)が実現で
きるようになる。たとえば、高級オートバイメーカーのハーレーダビッドソン(Harley-Davidson、アメリカ)
は、消費者がインターネット上でマフラー、シート、ハンドルなどパーツを自分好みにカスタマイズする
データを工場に自動発注するシステムを構築して納期短縮、在庫削減を達成している。
サイバー・フィジカル・システム(CPS:Cyber Physical System)14の用語に象徴されるように、グーグ
ル15、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなどのデジタル産業の IT 企業は、スケールとスピードを武器
に、インターネット環境を支配して既存のビジネスであるアナログ産業の収益を吸い上げる“プラットフ
ォーム”戦略を仕掛けている。企業や業界の枠を超えたビッグデータから共通項や相関を抽出して、
標準的な土台(プラットフォーム)をクラウド上に構築する。書籍や日用品などネット通販で新たな戦略
を打ち出すアマゾン・ドット・コムは、20 年前から取り組んできた自動発注(Amazon Dash
Replenishment Service)の分野で、食品など個々の商品専用の小型通信器(Dash Button)を消費者
に支給して、ボタン一つで宅配するサービスを始めている。
図表3は、IoT ビジネスの開発フローである。人や機械に装着されたモノ(=IoT 端末を介したセンサ
ー)から情報を収集して、クラウド上のビッグデータを解析して、新しいビジネス(価値創出・課題解決)
を開発する。とくに AI と組み合わせることで、人間の五感では計測できなかったデータから、新たな意
味やパターンを発見して、革新的な成果を生み出せる可能性が出てきた16。さらに、VR(Virtual
Reality:仮想現実)17や AR(Augmented Reality:拡張現実)18も登場して、実用範囲が大幅に広がり
始めている。
10:Consumer Electronics Show。アメリカ(ラスベガス)で毎年 1 月に開催される世界最大規模のコンシューマー向け家電見本
市(BtoC)。なお、BtoB では、ドイツ(ハノーバー)で毎年 4 月に開催されるハノーバー・メッセ(世界最大の産業見本市)が有名 11:人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、またはそのための一連の基礎技術
12:“声の革命”と呼ばれている。日本語対応の家電・デバイス群は、2017 年末頃の予定
13:“クラウド(Cloud)”とは英語で「雲」。クラウドコンピューティングの略で、インターネット(Web)経由の接続により使用できるコンピ
ュータサービス、利用形態のこと
14:リアル空間(Physical System)の情報をデジタルデータに置き換えて、コンピュータに吸い上げ、サイバー空間(Cyber
System)で人工知能(AI)など IT の力を活用して、効率のよい高度な社会を実現するためのサービスおよびシステム
15:グーグルの目標は、「すべての情報をクラウドにあげる」ことである。リアルな世界を“地上都市”に喩えれば、そこにある膨大
なアナログデータをデジタルに変換して、バーチャルな世界である“雲に浮かぶ空中都市”に吸い上げている
16:クラウド上のデータを有益な情報や意思決定に資する情報に変えられるソフトウェア企業が最も収益力が高くなると予想さ
れている
17:コンピュータ上に人工的な環境をつくり出して、あたかもそこにいるかのような感覚を体験できる技術
18:現実の風景にコンピュータの情報を重ね合わせて、リアルな空間を拡張する技術。スマートフォン向け位置情報ゲームの
“Pokemon GO(ポケモンゴー)”が代表例。リアルな空間とバーチャルな空間がつながるため、人やモノが物理的に移動する
点が特徴
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2.国内外の先進事例と IoT の三つの視点
これまでみてきたように、新しい商品・サービスへの置き換え、ドイツ・アメリカの国際標準戦略、プ
ラットフォーム戦略を仕掛ける企業(プラットフォーマー)の台頭、さらには AI や VR/AR の組み合わせ
による新しいビジネスの登場など、企業を取り巻く環境は激変期を迎えている。こうしたなか、図表4に
示すように、国内外の先進企業において、IoT を活用して新しい商品・サービスを生み出して、顧客に
新たな価値を提案する事例が出てきている。
(1)国内外の先進事例
図表3 IoT ビジネスの開発フロー
(資料) 各種資料より座長作成
図表4 IoT の産業、社会の分野と用途
産業、社会の分野 用 途
□ 公共・インフラ □ 環境エネルギー □ オフィス機器 □ 医療機器 □ 産業機械 □ 輸送機械 □ 業務用車両 □ スマートメーター □ 農林水産機械 □ 建設機械 □ 店舗 □ 監視カメラ □ 自動車 □ ライフログ
□ 気象災害、地震・火山災害の予兆検知、遠隔画像監視 □ 仮想発電所の電力供給調整 □ 予兆保全 □ 遠隔監視・制御 □ 使用状況管理 □ 安全向上 □ 集荷・配送効率化 □ 検針・制御・課金 □ 生産最適化、動植物の状況・位置管理 □ 作業員教育 □ マーケティング(販売・在庫管理) □ セキュリティ(子供・老人の位置情報把握) □ 保険・シェアリング □ 予防医療・遠隔医療、医療アセット管理
産業用途
(注) 産業、社会の分野」(左欄)と「用途」(右欄)の各項目(□)は、ほぼ 1 対 1 対応 (資料)各種資料より座長作成
IoT
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7
〈GE(アメリカ)-1%効率向上の使用状況管理(提案型支援)サービス〉
航空、電力、医療、鉄道、石油・ガスなどの分野で、同社のソフトウェア技術者とデータ・サイエン
ティスト19の解析によって既存ビジネスの効率を 1%向上させるサービス。航空会社への航空機エン
ジン運用サービスでは、エンジンの飛行中リアルタイムでの状況把握によって、航空機の路線ネットワ
ークやルートを最適化して、1%の燃費削減をめざす。
〈ケーザー・コンプレッサー(Kaeser-Kompressoren、ドイツ)-生産効率化とサービス化〉
工業用圧縮空気コンプレッサー・メーカー。製造コストの大半が電気代で、コンプレッサーと周辺装
置のシステムと制御方法を工夫して、電力消費量を低減させた。コンプレッサーの販売に加えて、圧
縮空気の販売事業を開始した。顧客はコンプレッサーで使用した圧縮空気の分だけの対価を払う。
機器の売り切りからサービスへの転換である。
〈ハグレイトナー(Hagleitner、ドイツ)-清潔・快適な空間サービス〉
ペーパータオルのデリバリー業者。トイレの使われ方に関する詳細なデータ収集と解析により、リア
ルタイムに清掃員を派遣するアプリケーションを開発したほか、利用頻度の低いトイレの従量課金管
理システムを導入した。デリバリー業から、清潔・快適なトイレを低コストで運営する空間サービスへ転
換している。
〈㈱小松製作所(コマツ、東京都)-遠隔監視・制御/使用状況管理サービス〉
建設機械に GPS(Global Positioning System:衛星測位システム)を搭載して、位置情報の把握や
遠隔監視によるメンテナンスや盗まれた機械の探索など、車両管理サービス「KOMTRAX(コムトラッ
クス)」を拡充させている。また、ドローンと 3D レーザースキャナーも加えて、建設・土木現場の施工作
業の可視化など、支援サービス「KomConnect(コムコネクト)」で建設現場の効率化や安全性の向上
を実現している。
これらの先進事例でわかるように、「どのようなデータを採取して、それをどのように分析して、その
結果を何のために使うのか」という営みを新たにおこなう選択肢と自由度が大きくなっている。その場
合、コストはあまり制約にならず、イマジネーションの勝負になっている。
その一方で、サイバー攻撃によるウイルス被害など、IoT のリスク面には留意が必要である。グロー
バル企業の一拠点であった電子部品工場が、生産プロセスを可視化した結果、他国の工場と比較し
てパフォーマンスが低いと判断されて、立地していた地域から撤退した事例がある。
19:センサーなどで収集したデジタルデータ(ビッグデータ)を科学的、統計的に分析する職業に就く人。AI などのソフトウェアを駆
使しながら、分析したデータを意味ある形にして、付加価値のあるビジネスにつなげるか、アイデアを考えることも期待されて
いる
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8
(2) IoT の三つの視点と地域の事例
IoT が企業に与える影響とその対応を図表5に示す。これまで述べてきたように、IoT によって産業
の垣根がなくなって、業界構造・秩序は変化する。企業に与えるプラスの影響としては、他業界への
新規参入の機会や、事業領域・ビジネスの見直しによる事業機会の発見などが挙げられる。その一
方で、他業界からの新規参入の増加や大企業・プラットフォーマーの事業領域の拡大など、マイナス
の影響もある。
既存のビジネスモデルのまま何も取り組まなければ、新規参入企業との競争によるマイナスの影
響は避けられない。IoT にはさまざまな可能性がある、という認識をもって、危機感と共に自社のビジ
ネスモデルの水準をワンランク上げる良い機会と捉えるべきであろう。
①既存事業の改善・効率化
IoT の本質は、これまで測れなかったことが測れるようになることにある。既存のビジネスでのフロー
を可視化して、データの“バラつき”を改善することで、生産量の増加やコストの削減を通じて収益を
改善することができる。IoT によるビジネスモデルの構築では、大企業よりはむしろ意思決定が早く、し
がらみのない中小企業や新興企業の方が取り組みやすいという特性がある。以下の事例でわかるよ
うに、企業規模に関係なく、IT 企業と連携して、低コストかつ短時間に自らのアイデアをビジネス化で
きる時代になっている。
〈小規模農業の「灌水・施肥」の自動化システム-IT ベンチャーとの連携、売上増・効率化〉
熊本県のほか、岩手県、福島県、茨城県、群馬県、神奈川県、徳島県、沖縄県の 8 県 50 拠点
で、施設栽培(トマト、キュウリ、イチゴなど)の小規模農家20と IT ベンチャー企業の㈱ルートレック・ネッ
トワークス(神奈川県)の連携で、ICT 養液土耕・施設栽培支援システム「ゼロアグリ」を導入して、生産
収量の増加と品質の向上に取り組んでいる。IoT と独自の栽培アルゴリズムによって、もっとも経験と
勘が必要な「灌水・施肥」を自動化して、水分・養液の過不足のバラつきを改善した。
20:施設栽培のうち植物工場、複合環境制御装置のある温室を除く、パイプハウス(含むガラス温室)
図表5 IoT が企業に与える影響とその対応
(資料)各種資料より座長作成
■ あらゆる産業で商品・サー ビスの置き換え ■ ドイツ・アメリカの国際標準 戦略 ■ デジタル産業へのデータの トレース現象
《プラス》 ■ 他業界への新規参入 ■ 事業領域・ビジネスの見直し による事業機会の発見 ■ 異なるビジネスモデルを用い ることによる競争力の向上
《三つの視点》 ■ 既存事業の改善・効率化 バラつきの改善、現場の気づき、
小さな成果の積み重ね、派生効果
■ 新規事業の開拓 攻め(ゴール)、ビジネスモデル創造、異
業種・サプライチェーン、社会問題解決 ■ 事業の再定義 守り(IoT、非 IoT)、ビジネスモデル再構
築、規模/範囲、サービス化、UX(体験)
■ 産業の垣根が消滅 ■ 業界構造・秩序の変化
《マイナス》 ■ 他業界からの新規参入 ■ 大企業・プラットフォーマーの 事業領域の拡大 ■ 異なるビジネスモデルとの競争
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生産収量は約 2 割上がり、50%の節水と減肥も達成している。年収 1000 万円の農家で、初期
投資回収(通信費込み)は 1 年半、作業時間の大幅削減で、施設の栽培面積がシステム導入前の
2 倍に拡大した農家も出始めている。
〈畜産業の牛の発情期サイクルの検知システム「牛歩」-派生効果と異業種連携〉
㈱コムテック(宮崎県。通信機器・畜産飼料の生産・販売)は、これまで酪農家の人と勘に頼ってい
た牛の発情期を的確に検知する機器システム「牛歩」を開発・販売した。歩数の増加と、排卵を誘起
する LH サージ(血液中の黄体形成ホルモンの急上昇)とが一致するという科学的根拠に着目して、
牛の足首に加速度センサーや歩数計を装着して、データ解析に成功した。発情の開始時がスマート
フォンでわかるため、受精のタイミングを逃すリスクが減った結果、飼料代や人件費の負担が減り、出
産率が向上している。
この事例では、開発時点で気づかなかった派生的な効果が生まれている。同システムによって、
分娩に障害がある牛を早期に発見できるようになり、治療が可能になった。また、建設業の会社が畜
産業へ参入している事例でもある。異業種の企業マッチングが、業種間の壁を超えるツールとしてビ
ジネスモデルをつくる上で重要な役割を担っている。
②新規事業の開拓
日本企業が陥りやすい課題は、「IoT を既存のビジネスにどう活用するか」という発想に囚われて、
これまで当たり前のように取り組んでいる改善活動や業務効率化の延長線上で捉えている点にある。
IoT によってめざすべきゴールは、つながっている“モノ”を売るのではなく、つながることによって起こる
“コト”を売る、つまりサービス化にある。新規事業の開拓をめざして、ビジネスモデルを創造することが
重要になる。ここには、異業種間のコラボレーションばかりでなく、同業種内の川上から川下のサプラ
イチェーンの再構築も含まれる。
〈産業機械メーカーの生産現場からのビジネスモデルの創造-コア事業と新規事業の両面〉
㈱安川電機(福岡県、モーションコントロール21、ロボットおよびシステムエンジニアリングなどの事
業)は、自社製品をネットワークで接続し、IoT、M2M22や AI を活用して生産性と品質を限りなく追及す
る中で、新たな製品や生産モデルの創出に取り組んでいる。産業用ロボットの今後の展開では、クラ
ウドやビッグデータおよびネットワークの技術も活用し、故障予知・リモートメンテナンスやリモートティー
チングなど顧客サービスの強化を通じてコア事業の領域を拡大している。
同時に、「2025 年ビジョン」の実現に向けて、“安川版インダストリ 4.0”のコンセプトの具現化のほ
か、「食」の生産自動化、医療・福祉分野への展開など新規事業の開拓に挑戦している。
21:AC サーボ・コントローラ、インバータ
22:machine to machine。機械同士がネットワークで接続され、相互に情報のやりとりをして、人手を介さずに情報収集や管理・
制御を実現する技術のこと。M2M によって、遠隔監視・操作など空間・時間を超えた価値創出が可能になる。なお、M2M の
“2”は“to”と同義。音楽アーティストのプリンス(1958-2016)が歌詞のアルファベットを数字に置き換えたことから、B2B、B2C
などの用語がビジネス界で普及した
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〈林業でのサプライチェーンの再構築-世代交代と情報の共有化〉
北信州森林組合(長野県。中規模23の広域森林組合)は、山元の施業集約化に向けた境界明確
化、森林資源調査によるデータのデジタル管理から、原木生産、そして流通まで、IoT を活用した生
産管理手法を導入している。森林調査は、航空レーザーによる解析と森林 GIS24の位置情報を組み
合わせて、組織管理のアプリケーションのデータとリアルタイムでつないでいるほか、山での検収/伐
採・集材・造材/運搬の個々の林業機械25の動きをリアルタイム情報で把握して、作業の進捗を管理
している。
組織内の世代交代を進めて、欧州型フォレスターのような総合型役割を担う“北信州フォレスター
ズ”(10 名、平均年齢 30 歳代前半(2016/2))を結成している。透明性が高く、精度の高い生産情報
を共有できたことで小さな在庫を実現したが、これを可能にしたのは、山元・川上から川中に至るサプ
ライチェーン間の情報の共有化26である。
③事業の再定義
IoT によって業界の垣根を超えるハードルが低くなり、伝統的な商習慣や規制で守られてきた業界
は大きな影響を受ける。そのため、既存のビジネスの防衛について、つねに先手を打って策を講じて
いく必要がある。その際に欠かせないのが、自社の事業の見直しによる顧客への新たな価値提供の
ために、事業を再定義することである。ただし、IoT ありきではない。はじめにビジネスモデルの創造や
再構築があって、次にそのなかで IoT というツールは活用できるのか、という意思決定プロセスが重要
である。
〈零細弁当工場を束ねてバーチャルの大企業に-移出型ビジネスへ〉
お弁当テレビ㈱(東京都八王子市。宅配弁当)は、地域のリアルな空間で分散している 500 社の
中小零細の弁当工場をインターネット上のバーチャルな空間で束ねて、企業向け限定の弁当の受
発注・配達システムを構築した。日々のメニューを標準化してコストを削減し、受注生産で食材ロスを
なくして、弁当箱も再利用するなど、社会問題の解決(環境負荷の低減)にも貢献している。バーチャ
ル空間において、毎日約 10 万食という大企業並みの規模になることで、昼間人口が多い首都圏の
オフィス街へ配送するまでになり、移出型ビジネス(地域外に商品・サービスを提供するビジネス)に成
長している。
23:組合員数約 5,800 人、民有林面積約 3.8 万 ha(2015 年度末) 24:Geographic Information System:地理情報システム。森林の基本情報をデジタル処理し、図面や帳簿を一元管理するシ
ステム
25:ハーベスタ、スイングヤーダ、プロセッサ、フォワーダなど
26:企業の壁を越えた、相互の信頼関係の構築が決定的に重要。その条件は、「地域の森林資源を守るための資金循環をつ
くりだす」などの“目標の共有”と、目先の利益ではなく長期的な利益に目を向ける、“人望のある実践型リーダー”の存在
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図表6 IoT 活用の事例-海外事例・全国事例・地域事例・研究会で取り上げた事例
(注) ★:参考資料に掲載している事例
*:シリアスゲーム:エンターテインメント性のみではなく教育・医療など社会問題解決を目的とするコンピュータゲーム
(資料) (一社)九州経済連合会 IoTビジネス研究会作成
業 種 ・ 分 野
(A)農林水産業 (B)製造業 (C)サービス業 (D)行政、インフラ他
①既存事業の改善・効率化
②新規事業の開拓
③事業の再定義
スマート林業(売上、効率)(北信州森林組合)
★お茶防霜ファン故障検知システム(効率)(富士通九州ネットワークテクノロジーズ)
施設栽培・灌水施肥自動化(売上、効率)(ルートレック・ネットワークス)
★産業機械 故障予知・リモートメンテナンス
(空間・時間、顧客満足)(安川電機)
★医療機器 遠隔監視・予知サービス(空間・時間、顧客満足)(日立製作所)
電子部品・工場 人タグ(コスト)(半導体業界)
コネクティッドカー(ライフスタイル)(トヨタ自動車)
KOMTRAX他(保守サービス・効率・安全性)(小松製作所)
航空機エンジン運用サービス(1%効率)(GE)
工業用圧縮空気コンプレッサー(効率、サー ビス) (ケーザー・コンプレッサー)
トイレ清潔快適空間サービス(売上、効率)(ハグレイトナー)
★自動運転バス(過疎地域)(効率)(NTTドコモ)
★シリアスゲーム(ヘルスケア・エン
ターテイメント・アート)(九州大学)
温泉旅館(思い出販売、UX(顧客体験))(五龍館)
通販・自動発注サービス(空間・物流)(アマゾン)
民泊サイト(時間・空間)(エアビーアンドビー)
花火スマートフォン振動(UX:顧客体験)(通信業界)
スマート建設(効率化、省力化)(建設業界)
★下水道氾濫検知・豪雨対策(空間・時間)(富士通九州ネットワークテクノロジーズ)
★鉄道 遠隔監視・予知サービス(空間・時間、顧客満足)(日立製作所)
お弁当生産・通販(集約・標準化、移出)(お弁当テレビ)
★IoTシミュレーション・支援サービス(空間)(Fusic)
★広域農業支援サービス(効率)(スカイディスク)
★設備機器の故障予測サービス(効率)(スカイディスク)
★スマート農業(効率)(オプティム)
★漁場環境監視システム(効率)〈NTTドコモ〉
★眼底診断支援サービス、在宅医療支援パッケージ
(空間)(オプティム)
畜産・発情検知システム「牛歩」(効率)(コムテック)
:海外事例 :全国事例 :地域事例 ★:参考資料に掲載している事例
高齢者見守りサービス(空間)(第一交通産業)
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〈旅館業の再定義で連泊需要やリピート率の向上-UX(顧客体験)〉
ホテル五龍館(長野県白馬八方温泉。旅館業)は、「かぶと虫体験」、「ホテル&キャンプ 2 泊 3 日」
など、親と子の思い出づくりをコア事業に据えている。飲食や温泉という旅館業から、楽しい空間を演
出する“思い出販売業”に事業を再定義することで、連泊需要やリピート率の向上を実現している。こ
の背景には、先進国では、モノを買って所有する経済から、必要なときに必要な分だけ利用する共有
型経済(シェアリングエコノミー)へ転換し始めていることがある。所有の欲求が乏しい若い世代は、体
験することに価値(UX:ユーザー・エクスペリエンス、顧客体験)を見出し始めている。
3.地域の中堅中小企業への IoT ビジネスの処方箋
IoT や AI などの第 4 次産業革命による影響は、地域の中堅中小企業にも及ぶ。何もしなければ、
大企業やプラットフォーマーなど新規参入企業との激しい競争にさらされる。この影響をいかに回避
するのか。とくに、地域に焦点を当てると“攻めの IoT”(新規事業の開拓)ばかりでなく、“守りの IoT”(事
業の再定義)の重要性が高い。以下に、IoT ビジネスを五つの類型で処方箋を提示する。
(1)危機意識と目的の明確化〈能動的な IoT〉
経営者が危機意識をもって、IoT や AI に関する十分な知識を習得する。経営者が何を知りたいの
か、何をやりたいのかを明確にする。IoT によって何かが生まれるのではなく、何かを生み出すために
IoT を活用するという発想に立たなければならない。
(2)現場にある気づきの可視化〈小さな IoT〉
まず、業務・作業の効率化を目的とした可視化から始めてみる(前述の①既存事業の改善・効率
化)。現場での仮説や顧客の声をもとに、データで検証する。興味深いデータ特性は、現場で“うすう
す気づいている”ことが多い。バラつきの改善など、小さな成果を積み上げていくことが効果的である。
また、派生効果にも目を配る。
(3)新たな価値の創出〈攻めの IoT〉
次に、既存事業で成果が出てくれば、トップダウンで企業全体のプロジェクトを立ち上げる(②新規
事業の開拓)。組織の壁を越えて、さまざまなデータを組み合わせて、イマジネーションを膨らませる
ことで、新たな価値が生まれる。自社ばかりでなく、業界全体あるいは異業種とも連携して、地域一体
となって収益を上げていくアプローチも有効である。
(4)事業の再定義〈守りの IoT〉
その一方で、IoT ビジネスに関心のない企業であっても、既存のビジネスの防衛のために顧客との
関係性を一度洗い出して、新たな価値を見出さなければならない(③事業の再定義)。非 IoT も含め
て、モノからコトへのサービス化や UX(顧客体験)、共感・共創27の場、社会問題解決からのアプロー
チ28などがキーワードである。
27:SNS(Social Networking Service)による消費行動の変化や、大企業支配型の垂直統合型から顧客同士がコミュニケートす
る水平協働型へシフトする時代のキーワード。共感とは、「企業が提供する商品・サービスの感性価値。体験を通じて、相手
の気持ちを自分の気持ちとして理解すること」。共創とは、「企業が提供する商品・サービスを、顧客(生活者)と共に創ること」
28:“ありうる”社会や“あるべき”社会ではなく、“ありたい”社会につながる、“未来に点を打つ”提案型の商品・サービス
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(5) IT/ICT の死角〈アナログの IoT〉
インターネットと接点がないアナログの世界は、グーグルやアマゾン・ドット・コムなどプラットフォーマ
ーの“死角”である。少子高齢社会におけるヘルスケアやセキュリティなどの分野は、IoTビジネスの活
用範囲が広がっている。たとえば、衣類や履物にセンサーを装着して、認知症の高齢者の位置情報
をリアルタイムで把握するなど、IT/ICTとつながっていない高齢者や子どもが気づかない状況下でIoT
ビジネスの活用範囲が広がっている。
日本社会の高齢化が進むなか、経営者の IT/ICT リテラシーが国際的に劣位に陥っている点29は
やむを得ないとしても、地域の課題は、「地域全体で共通の基盤をつくれるかどうか」である。多くの日
本企業には内向き体質がみられるうえに、個人情報保護や安全性(失敗リスクへの受容低下)を理
由にデータを囲い込む傾向がある。これまでの“縦割り”意識を捨てて、デジタル時代の産業のコメで
あるデータを相互に活用できる環境をつくっていくことが必要である。
地域には、農林水産業から、製造業、観光・サービス業、行政・インフラまで、多様な産業基盤に
存在する豊富なリアルデータが集積している。大都市とは異なり、異業種の現場や人間関係の距離
が近く、「気づき」を生みやすい環境でもある。企業が出会うための場や IoT ビジネスの実証フィールド
の設置を進めるとともに、アジアの富裕層・中間所得層などの成長市場も見据えて、地域一体となっ
た IoT ビジネスの創出に取り組む良い機会ではないだろうか。
29:Wi-Fi 環境の理解、モバイル機器の操作など、IT/ICT 機器を一人で活用できる“IT ネイティブ”の総人口に占める比率は、
日本は 3 割、世界は 5 割以上。詳しくは、立教大学木村忠正教授の書籍・論文を参照されたい
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[参考資料]
IoT による新ビジネスの可能性にかかる 20 の提言
本研究会の意見交換における発言を集約して 20 の提言としてまとめたものを、以下に示す。なお、
【 】内の数字アルファベットは、図表6の「三つの視点」と「業種・分野」を表す。(例:【2B】は「(2)新規事
業の開拓」と「(B)製造業」)
(1) IoT が何をもたらすのか
・[特徴] IoT(モノのインターネット)のモノには、情報、ヒト、人の心まで含まれる。「人と人」ではなく「機械と機
械」の会話であるため、IoT 端末の上限がない
e.g.電子部品・工場 人タグ【1B】、自動運転バス(過疎地域)【2D】
・[海外] ドイツ(インダストリー4.0)は国家レベルのデジュール戦略。縦割りから横割りの産業構造へ
e.g.工業用圧縮空気コンプレッサー【1B】
・[海外] アメリカは、企業レベルのデファクト戦略。グーグルやアマゾンなど IT 企業のプラットフォーム戦
略にも、留意が必要である
e.g.航空機エンジン運用サービス【1B】
・[展望] 現場のリアルデータが付加価値の源泉。ソフトウェアだけではビジネスにならず
e.g.スマート建設【1D】、鉄道 遠隔監視・予知サービス【1D】
・[展望] ビッグデータ、AI との組み合わせや、VR/AR で、分野が拡大している
e.g.医療機器 遠隔監視・予知サービス【1B】、産業機械 故障予知・リモートメンテナンス【1B】
(2)企業・地域に与える影響
・[経済] 九州の人口減と所得格差是正のため IoT による生産性向上が必要である
e.g.スマート農業【1A】、漁場環境監視システム【1A】
・[プラス面]中堅・中小企業でも、IT ベンチャーの活用で成果が出る可能性がある
e.g.施設栽培・灌水施肥自動化【1A】、広域農業支援サービス【1A】、設備機器の故障予測サービス【1B】
IoT シミュレーション・支援サービス【2C】
・[プラス面]当初の目的と異なる、派生した効果が出てくると利益への貢献が大きくなる
e.g.畜産・発情検知システム「牛歩」【1A】、トイレ清潔快適空間サービス【1C】
・[マイナス面]大企業・プラットフォーマーなど、他業界からの新規参入で影響を受ける
e.g.通販・自動発注サービス【2C】、民泊サイト【2C】
・[マイナス面]生産プロセスの可視化で、グローバル企業の一拠点の工場が撤退した
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(3)企業・地域はどうすべきか
・[理念] IoT にはさまざまな可能性がある、という認識をもって、危機感と共に自社のビジネスモデルの
水準をワンランク上げる良い機会と捉えるべき
・[経営] トップが一番勉強・理解しなければならない。課題や目的を明確化にすべき
・[既存事業]現場で“うすうすわかっている”情報をデータで可視化して“バラつき”を改善すれば、小さ
な成果につながる
e.g.お茶防霜ファン故障検知システム【1A】
・[新規事業]トップダウンで組織の壁を壊す。そして業界全体、地域全体へと展開する
e.g.眼底診断支援サービス、在宅医療支援パッケージ【2C】
・[新規事業]一つの商品・サービスのデータ一化による、サプライチェーンの再構築は、IoT 活用の前提
である。九州の一次産業の域外市場への展開は、有効な出口戦略
e.g.スマート林業【2A】
・[事業の再定義]IoT ビジネスに関心のない企業にも、“守りの IoT”が必要である。非 IoT、モノからコトへ
(サービス化)、UX(顧客体験)、共感・共創(感性工学:五感に働きかけて価値を上げること)な
どで、顧客との関係性を洗い出して新たな価値を見出す
e.g.温泉旅館【3C】、花火スマートフォン振動【1C】、お弁当生産・通販【3B】
・[逆張り] インターネットとの接点がないアナログの世界は、プラットフォーマーの死角。少子高齢社会の
ヘルスケア/セキュリティや社会問題解決の分野などがある
e.g.シリアスゲーム【2C】、高齢者見守りサービス【2D】
・[人材] 人手不足への対策として、IoT 活用は必要である
e.g.下水道氾濫検知・豪雨対策【1D】
・[人材] IoT 導入には、IT に関する専門知識をもつ人材の登用・育成が不可欠である
・[資金] 実証実験段階で自己資金を拠出する姿勢がないと、成果につながりにくい
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本研究会で採り上げた事例
事例 No は図表 6 の「三つの視点」と「業種・分野」を表す。
(1)お茶防霜ファン故障検知システム<富士通九州ネットワークテクノロジーズ>
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(2)広域農業支援サービス<スカイディスク>
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(3)スマート農業<オプティム>
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(4)漁場環境監視システム<NTT ドコモ>
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(5)医療機器 遠隔監視・予知サービス<日立製作所>
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(6)産業機械 故障予知・リモートメンテナンス<安川電機>
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(7)設備機器の故障予測サービス<スカイディスク>
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(8)シリアスゲーム<九州大学>
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(9)眼底診断支援サービス・在宅医療支援パッケージ<オプティム>
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(10)IoTシミュレーション・支援サービス<Fusic>
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(11)鉄道 遠隔監視・予知サービス<日立製作所>
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(12)下水道氾濫検知<富士通九州ネットワークテクノロジーズ>
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(13)自動運転バス<NTTドコモ>
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参考文献
・Erik Brynjolfsson,Andrew McAfee(2014)「The Second Machine Age/Work, Progress, and
Prosperity in a Time of Brilliant Technologies」W.M.Nortin and Co.,Inc.
・九州経済連合会・情報通信委員会 企画部会ビッグデータ活用検討 WG(2014)「ビッグデータ
~九州における取り組みと活用事例~」九州経済連合会
・尾木蔵人(2015)「決定版 インダストリー4.0」東洋経済新報社
・大前研一(編著)(2016)「IoT 革命」プレジデント社
・松島聡(2016)「UX の時代-IoT とシェアリングは産業をどう変えるか」英治出版
・増田貴司「2017 年の日本産業を読み解く 10 のキーワード」2017/1・2 経営センサー(東レ経
営研究所)
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■ IoTビジネス研究会 構成員
(敬称略)
氏 名 企業名・所属・役職
座 長 鍋山 徹 (一財)日本経済研究所 チーフエコノミスト 専務理事・地域未来研究センター長
アドバイザー 淵上 豊崇 ㈱NTT ドコモ 九州支社法人営業部 担当課長
アドバイザー 中川 敬基 (公財)九州経済調査会 調査研究部 研究主査
アドバイザー 前田 真 ㈱産学連携機構九州 社長
アドバイザー 林 龍平 ㈱ドーガン 副社長
アドバイザー 齋藤 民雄 富士通九州ネットワークテクノロジーズ㈱ 執行役員 兼)技術戦略室長
委員 鉈落 幸広 RKB毎日放送㈱ 技術局 技術推進部 部長
委員 藤田 知子 ㈱エヌ・ティ・ティ・アド 九州支店 課長
委員 柳瀬 隆志 嘉穂無線ホールディングス㈱ 代表取締役社長
委員 塚本 寛 北九州工業高等専門学校 校長
委員 松崎 真典 九州通信ネットワーク㈱ 執行役員サービス開発部長
委員 神山 勝司 九州電力㈱ 情報通信本部 ICTソリューショングループ長
委員 松下 公彦 (一財)九州地域産業活性化センター 調査部長
委員 西田 真三 (一社)九州ニュービジネス協議会 事務局次長
委員 植木 裕一朗 ㈱システムクレオ 事業統括 部長
委員 原 幸 ㈱正興電機製作所 事業統括本部 事業開発推進部 主管技師
委員 小嶋 寿見子 ㈱セルブ 会長
委員 藤本 浩司 ㈱電通九州 コミュニケーションプラニング局長
委員 山田 勝 ㈱にしけい 経営企画部 次長
委員 塩崎 真治 ㈱西日本新聞社 グループ経営委員会 副委員長
委員 東野 正典 ㈱西日本新聞総合オリコミ 営業部 部長
委員 御手洗 祐一 西日本電信電話㈱ 九州事業本部 ビジネス営業部 ビジネス推進部門長
委員 植木 俊一 ニシム電子工業㈱ 取締役 ネットワーク技術本部長
委員 水木 祐一 ㈱日本政策投資銀行 九州支店 企画調査課長
委員 田中 和幸 ㈱日立製作所 企画部 部長代理
委員 宮嶋 寛幸 福豊帝酸㈱ 社長
委員 松木 茂夫 富士通㈱ 九州支社 ビジネスイノベーションセンター エキスパート
委員 森田 暢達 丸紅㈱ 九州支社 情報・物流・ヘルスケア本部 本部長付
委員 青木 道裕 三井物産㈱ 業務部地域戦略室 室長補佐
委員 福元 邦雄 三菱商事太陽㈱ 代表取締役社長
委員 下池 正一郎 ㈱安川電機 技術開発本部 技術企画部 部長
委員 坂本 光弘 ㈱ワイビーエム システム部 部長
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氏 名 所属・役職
事務局 筬島 修三 (一社)九州経済連合会 産業振興部 部長
事務局 文野 唯史 (一社)九州経済連合会 産業振興部 副部長
事務局 古谷 郁男 (一社)九州経済連合会 産業振興部 副部長
事務局 金城 均 (一社)九州経済連合会 社会基盤部 次長
事務局 植木 辰典 (一社)九州経済連合会 社会基盤部 課長
※企業名は掲載許可を頂いた企業。また所属・役職は研究会発足当時のもの。
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