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Vol. 10 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 Incubation Report インキュベーション事業 2018年度活動報告

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Vol.10

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

IncubationReport

インキュベーション事業 2018年度活動報告

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

https://www.smrj.go.jp/incubation/

(本部)創業・ベンチャー支援部 創業・ベンチャー支援課〒105-8453 東京都港区虎ノ門3-5-1 虎ノ門37森ビル TEL.03-5470-1574

(2019年8月制作)

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インキュベーション事業 2018年度活動報告01

大学など地域の支援機関地域の企業など研究成果の産業化技術面での指導設備の利用など

自治体・都道府県・市区町村入居者への賃料補助IM配置など

独立行政法人 中小企業基盤整備機構施設運営、IM配置、入居者の支援など

IM:Incubation Manager

ラボタイプ

・機構IM(常駐) ・自治体IM・支援機関IM ・大学IM などの

専門スタッフが多面的に企業を支援

施設内IM室

オフィスタイプ

中小機構インキュベー

全国29拠点、入居企業数約480社以上。中小機構は国内最大級のインキュベーション事業者です。

インキュベーションは、英語の「Incubation(卵などがふ化する)」という意味で、これから転じて、新しいビジネスの成長・事業化を促進することを「Business Incubation:BI」と呼びます。新事業創出に注力いただくために、中小機構がビジネス拠点の設置や組織運営、資金繰りといった経営課題のクリアをサポートする、それが中小機構のインキュベーション事業です。公的セクターとしての特性、規模、ネットワークを活かし、入居企業の成長を支援するとともに、将来に向けて新産業の創出や地域経済の発展への貢献を目指しています。

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Incubation Report Vol.10 02

大学など地域の支援機関地域の企業など研究成果の産業化技術面での指導設備の利用など

自治体・都道府県・市区町村入居者への賃料補助IM配置など

独立行政法人 中小企業基盤整備機構施設運営、IM配置、入居者の支援など

IM:Incubation Manager

ラボタイプ

・機構IM(常駐) ・自治体IM・支援機関IM ・大学IM などの

専門スタッフが多面的に企業を支援

施設内IM室

オフィスタイプ

中小機構インキュベー

インキュベーション事業 2018年度活動報告目次Incubation Report vol.10 CONTENTS

インキュベーション事業活動

P.03 インキュベーションの活動概要(2018年度)

P.04 IMによるコーディネート支援

P.05 2018年度インキュベーション事業トピックス

P.07 2018年度BIネットワーク構築支援事業

BI活動事例

P.09 神戸医療機器開発センター(MEDDEC)

P.11 名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)

入居企業の活動

P.13 入居企業の概要(2018年度)

P.14 2018年度入居企業トピックス

BI入居企業活動事例

P.17 株式会社GEホールディングス〈 神戸医療機器開発センター(MEDDEC)入居企業 〉

P.19 株式会社ケミカルゲート〈 名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)入居企業 〉

P.21 KIT-CC株式会社〈 くまもと大学連携インキュベータ 入居企業 〉

P.23 AWL株式会社〈 北大ビジネス・スプリング 入居企業 〉

P.25 インテグレーションテクノロジー株式会社〈 和光理研インキュベーションプラザ 入居企業 〉

P.27 株式会社HIROTSUバイオサイエンス〈 東大柏ベンチャープラザ 入居企業 〉

P.29 株式会社パリティ・イノベーションズ〈 クリエイション・コア東大阪 入居企業 〉

卒業企業に聞く!

P.31 カルー株式会社〈 慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)卒業企業 〉

発行にあたって

 独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)のインキュベーション事業は、全国に29拠点を構え、入居企業数は約480社に上ります。企業の属性としては外部資金を調達して大きな飛躍を目指すベンチャー企業から大学などと連携して第二創業に取り組む企業まで、業種、分野を含めて幅広く、中小機構は、事業スペース提供によるハード支援と中小機構の多様な支援ツールと広域ネットワークを駆使したソフト支援との両面から、総合的に新規事業展開をサポートしています。

 本誌では、インキュベーション施設をハブとした中小機構の創業・ベンチャー支援について具体的にご理解いただけるよう、2018年度の活動実績をデータや事例でご紹介しています。 今号の企業事例では、高い応用性でものづくりの革新を目指すハイテクベンチャーやバイオのモデル生物の特性をがんの早期検出に応用する大学発ベンチャーのほかITソリューションや未来デバイスの開発企業などを紹介しています。また、生活者の視点から立ち上げた事業を拡大して成長する卒業企業の事例も掲載しました。

 本誌に掲載している内容は、中小機構のインキュベーション事業の一部ではありますが、一人でも多くの方に興味を持っていただければ幸いです。個別施設や入居企業など詳細については、地域本部担当職員並びに各施設の専門支援スタッフである「インキュベーションマネージャー」がご案内させていただきます。ぜひ、一度お近くのインキュベーション施設にお立ち寄りいただくか、本部・地域本部の各担当までご連絡ください。

2019年8月独立行政法人 中小企業基盤整備機構

創業・ベンチャー支援部長 松尾 一久

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インキュベーション事業 2018年度活動報告

IMによる入居企業支援

地域・BIとのネットワーク活用 成果の発信

中小機構の支援ツール活用

各拠点に常駐するIMが中心となり、入居・地域企業の経営課題に助言・支援●販路開拓、資金調達、技術支援などの コーディネート支援を1,800件以上●セミナー、ワークショップを約340回開催

●専門家派遣、経営実務支援、販路開拓など 中小機構の支援事業を入居企業9社が活用●中小機構が出資するファンドから 入居企業39社に投資●中小機構が主催するビジネスマッチング イベント(新価値創造展)に入居企業33社が出展

入居企業の技術力や新製品への注目を喚起●中小機構のインキュベーション施設に入居する

ことで得られる信用を活かし、メディア露出を促進、マスコミなどメディアへの掲載数710件

●創業の啓発や促進を目的とする表彰への積極的な参加

のべ1,875機関と連携●中小機構のインキュベーション施設をハブとして、 全国339機関との支援ネットワークを強化●他機関や共催で実施される展示会やセミナーでの

交流・マッチング●地域企業のニーズに応じた支援ツールの紹介や

産学連携の仲介

2018年度もビジネスを

ソフト面から総合サポート

03

ソフト面

入居企業・地域のニーズや経営課題に対応し、ハードとソフトの両面で新事業展開を支援

インキュベーションの活動概要(2018年度)

ハード面

中小機構のインキュベーション事業の特徴は、新しく起業しようとする個人(起業家)や創業期企業(ベンチャー企業、スタート

アップ)、第二創業を目指す企業に対してのハードとソフトの両面からの総合的な支援です。

全国29拠点のインキュベーション施設で、さまざまなニーズに応える事業スペースを提供、年間累計583社が入居(拠点の詳細は33〜34ぺージをご覧ください)

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Incubation Report Vol.10 04

入居企業の活動

インキュベーション事業活動

IMの経験やネットワークを活かし、経営課題の解決を支援

IMによるコーディネート支援

中小機構が運営する全国29拠点のインキュベータでは、IMが中心となり、支援企業の事業化に向けて、事業提携先、金融機関、

支援機関などとの各種マッチングをコーディネートしています。

今年度のコーディネート件数は1,800件を超えました。内容では「販路支援」が最も多く、ついで「技術支援」「資金調達」となっ

ています。販路支援については、IMが自らのあるいは全国・地域のネットワークを活かし、企業が求める販路開拓先につなぐ

「個別アレンジ」の件数が多くなっています。資金調達では、IMが適切な情報提供や申請書作成などのアドバイスを行った

結果、補助金の獲得総額は約16億円に上りました。このほかにも、ベンチャーキャピタルなどからの投資総額は約90億円、金融

機関からの融資総額は約8億円となっています(いずれも非公表案件を含まない金額)。

年間1,800件を超えるコーディネート支援の

44%が成功(ほか45%が支援継続中)

入居企業の売上計上率が向上(2018年度卒業企業)

+5%

年度初め 卒業時点

売上計上の定義 : 卒業(施設退去)時に、商品・サービスなどとして市場に提供出来る段階に達しており(試作段階のものは除く)、その売り上げが計上されていることをいう。

販路開拓-展示会

-ツールの活用

-個別アレンジ

-その他

技術支援-産学連携

-産産連携

-その他

資金調達-補助金

-投資

-融資

-その他

広報・宣伝-メディア

-イベント

-その他

人(専門家)-制度の活用

-個別紹介

-その他

その他

800 700 600 500 400 300 200 100 0(件)

35%

19%

16%

14%

9%

8%

コーディネート支援の内容

83% 88%

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インキュベーション事業 2018年度活動報告05

新価値創造展2018

農工大・多摩小金井ベンチャーポート 岡山大インキュベータ 和光理研インキュベーションプラザ

10周年を迎えたインキュベーション施設で記念イベントを開催

「新価値創造展」や「Bio Japan」などに入居企業が共同出展

2018年度インキュベーション事業トピックス

開設から10周年を迎えた以下の3施 設では、記 念の

フォーラムやセミナーなどのイベントを開催しました。

地域のネットワーク機関や卒業企業などを含め、総計

723名にご参加いただきました。

中小機構が主催する「新価値創造展2018(第14回中小企業総合展 東京)」(2018年

11月14〜16日、東京ビッグサイト)には18施設から入居企業33社が共同出展しました。

また、バイオビジネスの大規模展示会「Bio Japan 2018」(2018年10月10〜12

日、パシフィコ横浜)に15施設から入居企業33社が共同出展しました。

この他、多くの入居企業が取り組む事業分野に関連する展示会への地域横断的な出展

や、イベントの主催・共催など、ビジネスチャンスの創出に積極的に取り組みました。

・「ファインケミカルジャパン2018」に10施設から入居企業15社が出展(2018年4月18〜

20日、東京ビッグサイト)

・「国際フロンティア産業メッセ2018」に3施設から出展(2018年9月6〜7日、神戸国際展示場)

・「アンチエイジングジャパン2018」に5施設から入居企業8社が出展(2018年9月10〜12日、

東京ビッグサイト)

・「RINK FESTIVAL2019」に4施設から入居企業6社が出展(2019年2月8日、ライフ

イノベーションセンター)

・「関西バイオビジネスマッチング2019」に3施設から入居企業14社が出展(2019年2月8日、

千里阪急ホテル)

その他、「人とくるまのテクノロジー展2018横浜」(5/22〜24)、「BIO Tech 2018」

(6/27〜29)、厚生労働省主催「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2018」

(10/10〜12)、「nano tech 2019」(1/30〜2/1)、「九州カーエレクトロニクス展示商談会

in刈谷」(2/27〜28)、「くまもと産業復興支援プロジェクトフォーラム2019」(2/27)など

● 農工大・多摩小金井ベンチャーポート 2018年11月22日● 岡山大インキュベータ 2018年11月30日● 和光理研インキュベーションプラザ 2019年2月13日

Bio Japan 2018

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Incubation Report Vol.10 06

入居企業の活動

インキュベーション事業活動

国内外から約3,300名がインキュベーション施設を視察・来訪

地域や入居企業の状況に合わせ全国各地で起業家育成や事業化支援を実施

2018年度インキュベーション事業トピックス

今年度は、国内3,100名、海外170名を超える方々がインキュベーション施設および入居企業

の視察に来訪されました。動物を使い医療機器の研究・開発・評価や手術・手技トレーニング

ができるオペ室を有するMEDDECには引き続き国内外から多くの視察がありました。また、

次代の起業家である学生・生徒の来訪も多く、クリエイション・コア名古屋では地元中学生向け

の社会見学授業として、インキュベーションの説明見学会や、大学生の実習授業として、入居・

卒業企業への受け入れを行いました。また、ベンチャープラザ船橋では、日本政策金融公庫

の主催する高校生のビジネスプランコンテストの千葉県選抜大会を共催しました。

各インキュベータでは、今年度も入居企業のみならず地域の創業支援ニーズにも対応してセミナーや相談会を実施しました。

また、地域本部とともに創業支援力の強化に取り組み、連携機関の拡大や特徴ある事業分野での連携強化など、より緊密で

広範囲な創業支援活動への展開を図りました。とくに組織、地域、分野横断的に支援活動を拡大する取り組みは「BIネットワーク

構築支援事業」として推進しました(詳細は7〜8ページ参照)。

・T-Bizでは、東北地域の早期成長発展型ベンチャー育成エコシステム形成のため、2017年より東北大学と連携して起業家育成

コンソーシアム「東北大学スタートアップガレージ」を運営しており、今年度も11月には東北大学、山形大学との共催によるブート

キャンプ型ビジネスプランコンテスト「みちのくイノベーションキャンプ」を開催。また、東北大学が強みを有するものづくりや

バイオ分野の大学発ベンチャーと投資家とのマッチングイベント「BIP MEETS BUSINESS」を仙台(6月)、東京(2月)で開催

・東大柏ベンチャープラザではつくば-柏-本郷イノベーションコリドーの中間に位置する柏の葉地域に医療機器イノベーションの

エコシステム構築を目指して講演・交流イベント「メディカルデバイスイノベーション in 柏の葉」を6月、12月に開催

・HI-Cubeではハイテク・スタートアップ創出に向けた交流会を1月に開催

・NALICでは新事業戦略セミナー「VR/ARを活かすヘルスケアビジネス」を12月に名古屋大学協力会と共催

・MEDDEC、HI-DECでは神戸市、神戸医療産業都市推進機構と共同で地元大学生・高専生向けの「デジタルヘルス人材育成

セミナー」を開催

・D-FLAGでは長崎大学と共同でビジネススクール「IT大国『インド』との連携のススメ」を開催 など

みちのくイノベーションキャンプ メディカルデバイスイノベーション in 柏の葉

中学生向け社会見学授業

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インキュベーション事業 2018年度活動報告07

全国各地の機構 BIをハブとして他のインキュベーション事業や支援機関とのネットワークを構築し、起業支援の輪を拡大・強化

2018年度BIネットワーク構築支援事業

BI(ビジネスインキュベータ)ネットワーク構築支援事業は、中小機構のインキュベータが中核となり他のインキュベータや

支援機関、金融機関、大学などとの連携を強化(ネットワーク構築)する事業です。

今年度は24件の支援事業を行い、全国339機関によるネットワークを構築しました。

中小機構のインキュベータ単独での支援に留まることなく、広域化や規模の拡大、特定分野での支援力強化に努めています。

北陸 北陸発の産官学金連携マッチングイベントに出展

北陸先端科学技術大学院大学が主催する北陸発の産官学金連携マッチングイベント「Matching HUB Kanazawa 2018」に中小機構およびi-BIRD入居企業4社のブースを出展し、プレゼンテーションや商談を実施した。

近畿 滋賀県の成長期待企業創出に向けてBIと金融機関などとのネットワークを構築

立命館大学BKCインキュベータでは、存在価値の高い、かつ成長を実感できるベンチャー企業を滋賀県で創出することを目的に、金融機関や支援機関と連携して創業期やベンチャーの課題を整理し、起業家向けのセミナーを開催した。

近畿 異分野連携・地域連携によるベンチャー支援戦略の強化

複雑化するベンチャー支援環境を踏まえ、新たな成長・出口戦略を検討するため、MEDDECがハブとなって機構の5BIで再生医療とナノテクノロジーとの異分野連携、近畿・関東での地域連携戦略を検討した。

近畿 けいはんな沿線でのものづくり支援ネットワーク構築

クリエイション・コア東大阪では拠点のある「けいはんな沿線」での支援機関とのネットワーク構築を目指して学研都市との交流を行った。また、ものづくり中小企業の集積する生駒、京田辺、木津川地域の支援機関との関係構築を行った。

近畿 大学連携型BIの発展戦略を研究・考察

D-eggがハブとなって近畿の大学BIと連携し、ベンチャー経営を専門とする同志社大学教授をアドバイザーに迎えて各BIの課題や大学連携型BIの戦略を研究・考察。関東のBI視察や5BI合同ビジネスマッチングなどを実施した。

近畿 バイオ関連産業でのマッチングイベントを共催

近畿バイオインダストリー振興会議と「関西バイオビジネスマッチング 2019」を共催。京大桂ベンチャープラザがハブとなり近畿・中部・九州のBIに入居するバイオ関連企業14社が参加して大手企業などと多数のマッチングにつながった。

九州 自治体と連携した「IoT推進ラボ」の長崎県内活動

D-FLAGがハブとなって長崎県、長崎市、南島原市が連携して「IoT推進ラボ」活動を実施。IT活用による中小企業の課題解決に関する講演やIoT関連入居企業と地域企業とのマッチングなどを行った。

九州 熊本地域のBIネットワーク構築フォーラムを開催

くまもと大学連携インキュベータがハブとなって、熊本県内の創業支援に取り組む自治体、産業支援機関や各大学が参加するネットワーク構築フォーラムを開催。他県の創業支援事例の共有化や意見交換を実施した。

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Incubation Report Vol.10 08

入居企業の活動

インキュベーション事業活動

2018年度BIネットワーク構築支援事業

北海道 機能性食品・化粧品分野のネットワーク広域化

北大ビジネス・スプリングでは、入居比率の高い事業分野のネットワーク強化に継続して取組んでおり、今年度は首都圏で開催されたアンチエイジングの大規模展示会に近畿本部と共同出展した。入居企業の成約・商談につながったほか、九州本部とも連携を開始した。

東北 東北大学との連携協定に基づき起業支援事業を共催

中小機構と東北大学の組織的連携協定に基づき、東北大発ベンチャーの創出を促進するイベントを開催。仙台、東京でCVCやVCなどとのマッチングイベント「BIP MEETS BUSINESS」を開催。東北大学が強みを有するものづくりやバイオの研究シーズに特化したピッチなどネットワークづくりに貢献した。

東北 早期成長発展型ベンチャーを育成するエコシステム構築

T-Bizでは山形大学、東北大学と共同で、起業を目指す学生・大学研究者を対象に「みちのくイノベーションキャンプ」を開催。事業計画立案やピッチコンテストに3日間でのべ417名が参加した。山梨県甲府市で「Mt.Fujiイノベーションキャンプ」を開催している団体との連携も開始した。

関東 柏の葉地域に医療機器ベンチャー支援エコシステムを構築するプロジェクト始動

柏の葉に国立がん研究センター東病院を核とした医療機器イノベーションのエコシステムを構築するべく、東大柏ベンチャープラザがハブとなり「メディカルデバイスイノベーション in 柏の葉」を開催。関東・近畿の機構BIや連携BIに入居する企業 が講演やピッチイベントに参加、商談や日常的交流につながった。

関東 理化学研究所と新事業創出加速プログラムを共催

和光理研インキュベーションプラザでは理研と共同で、新事業を生み出し、成長させるプロセスを「加速」させる「『加速』アクセラレーター・プログラム in WAKO」を開催。18機関の支援を受けて、関東・北海道の機構BIを含むのべ118人が7回シリーズで起業・新事業立ち上げのプロセスを学び、起業化も具体化した。

関東 IoT & AI産業革新マッチングプロジェクトを始動

中小機構ではAI、IoTおよび先端ものづくりに関わる入居企業のリスト「Tech200」を発行している。HI-Cubeでは関東の機構BIとともに、このリストを活用するべく浜松の支援機関と連携してマッチングイベントを開催。セミナーやマッチングを通じ、ハイテク・スタートアップ拠点としての地域での存在感をアピールした。

関東 湘南地域のものづくり企業を対象に知財力強化を支援

慶應藤沢IVでは地域金融機関・企業とのネットワーク強化に継続して取り組んでおり、金融機関と共催で昨年度開催した知財セミナーのフォローアップを中心に個別相談会などを開催した。

関東 船橋地域のものづくり産業のネットワークを強化

ベンチャープラザ船橋をハブとして6機関が連携。高い技術力を持つものづくりの中小企業から提案型高付加価値事業を創出するべく、共同で「新価値創造展」に出展したほか、事業発表イベント「めいどいんふなばし」を開催し、4千名あまりが来場した。

関東 東葛・つくばエリアでものづくり企業と医療機器関連企業がマッチング

東大柏ベンチャープラザがハブとなってエリアに集積する5つのBIとものづくり企業が連携。セミナー、見学会をはじめ、ものづくり企業と医療機器製造販売企業の連携商談会を開催した。

中部 女性起業家を支援するセミナーを開催

NALIC、クリエイション・コア名古屋では、女性の起業家を対象に、事業をスケールアップするために必要なアクションプランのセミナーを愛知県、日本政策金融公庫と共催で開催した。

中部 ソーシャルビジネス起業支援セミナーを連続開催

NALIC、クリエイション・コア名古屋では、24機関が参画する事 業 者支 援ネットワーク「ソーシャルビジネスサポートあいち」および愛 知県との共 催で、地域の課題を解決するソーシャルビジネスでの収益モデルを構築するセミナーを昨年度に引き続き開催した。

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インキュベーション事業 2018年度活動報告09

BI活動事例

神戸医療機器開発センター(MEDDEC/メデック)は、神戸市が推進する神戸医療産業都市構想の中核施設の一つであり、動物実験や手術手技トレーニングができるオペ室やMRI(磁気共鳴画像装置)、またウエットラボ(動物の器官を用いて手術手技の練習が行なえる研究室)を備える日本で最初の公的インキュベーション施設です。

インキュベータ概要

神戸医療産業都市内に立地 MEDDECが立地するポートアイランドは、神戸市が推進する神

戸医療産業都市構想の下、先端医療技術の研究開発拠点が整

備されている地域である。神戸医療産業都市の構想開始から20

年が経過し、現在までに約350の先端医療の研究機関、高度専門

病院群、先端技術企業や大学の集積が進み、日本最大のバイオメ

ディカルクラスターに成長した。

 近隣には神戸市立医療センター中央市民病院を初めとする医

療機関、再生医療で世界をリードする理化学研究所生命機能科

神戸医療機器開発センター(MEDDEC)

オペ室で動物を使い医療機器の研究・開発・評価や手術手技トレーニングができるインキュベーション施設

01

学研究センター(BDR)、スーパーコンピューターが設置されている

理化学研究所計算科学研究センターと言った最先端の研究機

関がある。中小機構では、MEDDECのほか、HI-DEC(神戸健

康産業開発センター)の2BIを構えている。

MEDDECの概要 MEDDECでは、カテーテル・ステント・内視鏡・腹腔鏡などを用い

た低侵襲手術治療(注1)や新しい治療器具の技術評価や改良を推

進しており、医療関連分野における新事業の創造に貢献している。

近年、低侵襲手術のための手術ロボットや人工関節に関する技術

などに関心が高まってきており、かかる分野にも携わっている。

(注1): 皮膚を切る範囲を減らし、出血を減少させ、手術時間

を短縮することができる手術。その中心となるのが鏡

視下手術で体に数ヶ所小さな穴をあけ、炭酸ガスを

注入し腹腔鏡や胸腔鏡を挿入して行なう。患者さんの

体に対する負担(侵襲)を減らした優しい治療方法。

 2005年にMEDDECが設立されて以来13年経過したが、西

日本に手技トレーニング(注2)施設が少ないことから、医師が集

まりやすい週末は脳血管や心臓血管のカテーテル手技、整形外

科の脊髄内視鏡手技、呼吸器内視鏡手技、消化器内視鏡では

内視鏡的粘膜下層剥離(ESD)手技(注3)、肝移植手技などが数

多く行なわれている。

(注2): 医療技術や医療安全の向上を図ることを目的に、医師

がOJT(on the job training)で臨床経験を積んだ上、神戸医療産業都市空撮

神戸医療機器開発センター外観

所 在 地 〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-16

竣 工 2005年11月

賃 貸 居 室 面 積 3,599㎡

U R L https://www.smrj.go.jp/incubation/meddec/

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Incubation Report Vol.10 10

入居企業の活動

インキュベーション事業活動

神戸医療機器開発センター(MEDDEC)更に模型や動物などを使用して十分な練習を行なう

方法。

(注3): ESD, Endoscopic Submucosal Dissectionの略称。

病変の周囲の粘膜を内視鏡専用の電気メスを用いて

切開した後、粘膜下層を少しずつ剥離し病変を切除

する方法。高効率に病変を一括切除でき、高い根治

が期待できる新しい治療法。

 また、IM(インキュベーションマネージャー)室には中小機構、

(公財)神戸医療産業都市推進機構のIMが常駐し、新たな事業

展開を図ろうとする企業、研究者に医工連携のマッチングから販

売、事業化、資金調達までシームレスで、かつ、個社の体力にあっ

たテーラーメイドな支援を行なっている。

生体ブタによる手術手技及び医療機器開発の支援 MEDDECの施設の目玉は最新医療機器を備えたオペ室。

3室を備え、各室の利用者が出合わないよう秘匿性を考慮し

た導線設計となっており、医療学会や大学病院による手技ト

レーニング、医療機器の設計・開発目的で行なう機器の評価な

どに利用されている。研究・開発をはじめ、自社製品のトレー

ニングやセールスプロモーションなどさまざまな用途に利用

できる。トレーニング目的で行なわれる手技では、カテーテル

や内視鏡、腹腔鏡を使った低侵襲手術が増えている。また、

MRIも備えており、1.5T(テスラ)のMRI(注4)で動物の撮像が

できる。

(注4): 磁気共鳴画像装置(Magnetic Resonance Imaging)。

強力な磁石による”強い磁場”と電波を利用して生体内

の状態を画像にする装置。エックス線を使用しないので、

放射線による被爆がない。テスラとは磁気の強さを表す

単位。1.5T(テスラ)MRIはMRI装置性能の目安である静

磁場強度(磁石の力)が1.5T(テスラ)あり、静かで短時間

に鮮明な画像が撮像できる装置。

積極的なマッチング及び広報活動を実施 MEDDECのIM室は、入居者及び地域企業に対し個別マッチン

グ、展示会出展などを通じ大手メーカーや商社などへの個別販路

開拓や事業化、出口戦略の構築、また補助金を含む資金調達など、

さまざまな支援を数多く行っている。以下の支援事例を紹介する。

・新規事業への参入支援

MEDDEC・HI-DEC交流会に参加したJFEテクノリサーチ㈱

から、金属分析の実績を踏まえ、新規事業として医薬品解

析業務に参入したいとの相談があった。事前に市場調査を

行なう必要があると判断し、当時入居者であった㈱大阪合

成有機化学研究所との面談などを手配した。その後、度重な

る協議の上、MEDDECに先端医薬分析・解析センターを立上

げるとともに、大手ジェネリック/新薬メーカーなど10数社を

MEDDECにて紹介し、売上高を伸ばしている。

・広報活動の支援

化学工業日報、神戸新聞ほかと連携し、入居者及び地域支援

企業の事業内容・出口戦略などを紹介いただいている。

これからのインキュベータ

 オペ室を使った医療機器の研究開発・評価、手術手技トレー

ニングに関しては、引き続き医療学会ほかを通じ啓蒙活動を

行い、多くの企業、大学、研究室に利活用を呼びかけたい。

 また、医療だけでなく IIoT(インダストリアルIoT)、AI(人工

知能)など、先端ものづくり技術を取り込んだデジタルヘルスケ

ア分野での新規技術及び商材の開発支援、及びこれらの技術/

製品とAIを搭載したネットワークシステムを利活用し、地域の社

会的課題解決に貢献する事業、プロジェクトの構築も支援して

いきたい。人、もの、通信の融合が今後の医療にも不可欠となる

中、関連する企業との連携を加速させていく。

 そのために、業界動向、市場動向情報を素早くキャッチし、

医療分野に係るM&Aや、中小・ベンチャー企業と大手企業との

戦略連携の橋渡しを行い、入居者及び地域支援企業のスピー

ディーな成長、事業化に注力する。こうした活動を通じ、医療分

野における新たな産業育成を担うイノベーションハブとして機能

することで、地域経済への貢献と発展に寄与していく。

オペ室での手技トレーニングの様子

支援スタッフ一同

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インキュベーション事業 2018年度活動報告11

BI活動事例

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC/ナリック)は、3大学(名古屋大学・名古屋工業大学・名古屋市立大学)をはじめとする地域の大学が有する医工連携・ライフサイエンス分野の技術シーズ・人材などの蓄積を活かし、大学発ベンチャー、中小企業などの育成を行うことにより、新事業・新産業の創出を図り、地域産業の活性化を目指す大学連携型起業家育成施設です。

インキュベータ概要

名古屋地域の特徴

 名古屋地域は、戦前から現在に至るまで、自動車・航空機・工

作機械・セラミックスなどを中心に、ものづくり産業がさかんな

地域である。

 また、当地域は、名古屋大学、名古屋工業大学、名古屋市立大

学をはじめとする大学や、公的研究機関が多数立地しており、医

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)

医工連携・ライフサイエンスビジネスの育成を応援するインキュベータ

02

療技術・細胞・遺伝子・食品・ものづくり技術などの潜在的技術

シーズが存在する。

 このような状況のもと、ものづくりの技術やノウハウを有する

企業と、潜在的技術シーズを有する大学・研究機関が連携する

「医工連携」を推し進め、医療機器・創薬・再生医療・健康食品・

健康機器などのライフサイエンス分野の新事業創出を図るため、

NALICが整備された。

NALICの概要 NALICでは、常駐する IM(インキュベーションマネージャー)

が、中部経済産業局、愛知県、名古屋市などの行政機関やさ

まざまな支援機関と連携の上、会社設立、ビジネスプラン作

成支援、大学などとの連携、販路開拓、資金調達支援、技術

的問題解決のサポートなど、経営・技術の両面から入居企業

の目標達成を強力にバックアップしている。施設は、ライフサ

イエンス分野に対応 可能なウェットラボ(実験 室)を中心と

した居室で構成されており、生化 学実験(BSL2/P2レベル

まで)が可能となっている。

特徴的な支援活動内容

 NALICでは、ヘルスケア産業への参入支援や経営課題の解

決を支援するための多彩なセミナーを行っている。以下、こうし

た支援活動や入居企業の一部を紹介することとしたい。

名古屋医工連携インキュベータ外観

所 在 地 〒464-0858 愛知県名古屋市千種区千種2-22-8

竣 工 2005年11月

賃 貸 居 室 面 積 3,298㎡

U R L https://www.smrj.go.jp/incubation/nalic/

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Incubation Report Vol.10 12

入居企業の活動

インキュベーション事業活動

ヘルスケア産業参入の支援 中部地区の医療機器開発を促進するため、医療機器開発を

目指している大学・研究機関、ベンチャー企業などを対象に、

「PMDAレギュラトリーサイエンス総合相談【医療機器】出張面

談in名古屋」を開催している。また、医療機器開発に関わるコー

ディネータや支援者を対象に、「医療機器伴走コーディネータ研

修」を開催している(いずれも、独立行政法人 医薬品医療機器総

合機構(PMDA)の協力のもと実施)。 その他、ヘルスケア産業

参入を目指す地域の中小企業などに向けては、参入のヒントとな

るセミナーも開催している。

定期セミナーを開催 入居企業の事業化達成に向けてさまざまな経営課題の解決

を支援する一環として、セミナールームで定期的に「NALICビ

ジネスセミナー」を開催している。テーマは「ビジネスマナー」、

「人材育成 」、「事 業化のポイント」、「資 金調 達(投 資・融

資)」、「助成金獲得」、「知財活用」、「展示会出展ノウハウ」

など多岐にわたる。

おもな入居企業の概要株式会社ヘルスケアシステムズ

名古屋大学農学部発ベンチャー。大学で培われた研究データと

検査技術に基づき、産学連携によって予防・健康増進に特化し

たバイオマーカー(検査指標)及び検査装置の研究開発を行っ

ている。また、その技術を活かし、生活習慣を見直すための一

般向けの郵送検査サービスを事業展開している。今後、測定技

術をさらに改良し、従来法と比べて圧倒的な低コストでの未病

検査の実現へ向けた研究開発を進めていく。なお、株式会社ヘ

ルスケアシステムズは、「2018年度はばたく中小企業・小規模

事業者300社」に選ばれている。

株式会社生命科学インスティテュート(旧:株式会社Clio)

Muse細胞は、2010 年に東北大学の出澤真理教授らのグルー

プにより発見された細胞で、脂肪、骨髄や皮膚(真皮)などの

体内に元々存在し、体を構成するさまざまな細胞に分化できる

多能性幹細胞である。入居当初は株式会社Clioとして研究開

発を行っていたが、2015年5月に株式会社生命科学インスティ

テュートが子会社化。その後、吸収合併の上、株式会社生命科

学インスティテュートがMuse細胞を用いた再生医療製品の研

究開発事業を本格化し、臨床試験も開始。現在はNALICを卒

業して川崎市殿町に新設した製造拠点に移転。

これからのインキュベータ

 次世代産業として成長が見込まれるヘルスケア産業振興に向

けて自治体・各大学・各支援機関とも連携しながら入居企業の

事業化をサポートし、健康寿命の延伸に貢献する企業を排出し

ていくことはもとより、地域の中小企業・ベンチャー企業に対し

ても、ヘルスケア産業への参入支援、医療機器開発に役立つ情

報提供や相談会の開催、コーディネータの育成イベントを通じ、

幅広く支援していく。

 NALICは今後も「ヘルスケア産業の事業化促進・交流拠点」

として、自動車・航空機などの輸送機器製造産業が突出した中

部エリアにおいて、そのものづくりのポテンシャルを医工連携分

野に活かした産業を創出するとともに、創薬・再生医療・機能

性食品などのバイオ産業も育て、中部エリアの産業構造の多様

化にも貢献していきたい。そのために、業界動向、市場動向を素

早くキャッチし、医療分野におけるM&Aや、中小・ベンチャー企

業と大手企業との戦略連携の橋渡しを行い、入居者及び地域

支援企業のスピーディーな成長、事業化に注力する。このような

活動を通じ、医療分野における新たな産業育成を担うイノベー

ションハブとして機能することで、地域経済への貢献と発展に寄

与していく。

セミナーの様子

支援スタッフ一同

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インキュベーション事業 2018年度活動報告13

全国29拠点に約480社が入居

入居企業の概要(2018年度)

中小機構が運営する全国29拠点のインキュベータでは、2018年度の年間累計で約580社、2019年3月時点では約480社の

入居者に本社または新事業開発拠点などとしてご利用いただいています。

今年度退去した企業88社(支援機関などを除く)のうち、8割以上の企業が売上計上を達成して、卒業されました。

中小機構のインキュベータの特徴として、「電子・機械関連」と「医薬・バイオ・アグリ関連」を事業分野とする入居企業が、それ

ぞれ全体の3割程度を占めていることが挙げられます。また、創業前の個人を含め、小規模企業者に多く利用されています。

入居企業の事業分野 (2019年3月時点)

入居企業の属性 (2019年3月時点)

支援機関を含まない

2018年度入居者数583社

支援機関を含む年間累計数新規入居者中1社退去済

支援機関を除く88社

入居中 418社

売上計上率87.5%

新規 62社 退去 103社 未達成 12.5%

電子・機械関連 36%

医薬・バイオ・アグリ31%

情報・通信関連

17%

環境・リサイクル5%

販売・サービス5%

その他6%

支援機能など7% 個人(創業前)

3%大企業3% 小規模企業

56%

中小企業31%

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Incubation Report Vol.10 14

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

京大桂ベンチャープラザに入居する㈱FLOSFIA代表取締役社長の人羅 俊実

氏が、中小機構が主催する「Japan Venture Awards(JVA)2018」 で大賞で

ある経済産業大臣賞を受賞しました。(2019年2月5日)

画期的な新材料「コランダム構造酸化ガリウム」を用いた超低損失・低コストな

パワー半導体の事業化と独自成膜技術「ミストドライ®法」の応用展開が認めら

れたものです。他の入居・卒業企業も、大臣賞をはじめ各賞を受賞しました。

入居・卒業企業では、今年度も売上計上や研究開発進展につながるプログレスがあり

ました。

(事例)

・コネクテッドロボティクス㈱が、たこ焼きロボット(OctChef)、ソフトクリーム

ロボット(レイタ)を長崎ハウステンボスでサービス開始(2018年7月20日/

農工大・多摩小金井ベンチャーポート)

・㈱Studio Ousiaが、㈱電通国際情報サービス(ISID)と資本・業務提携(2019年

2月27日/慶應藤沢IV卒業企業)

・㈱テクニカルサポートが、浜松に新工場、3割増産(2019年2月1日/HI-Cube

卒業企業)

・iHeart Japan㈱の細胞培養施設が、厚生労働省より「特定細胞加工物製造許可」

を取得(2019年3月8日/クリエイション・コア京都御車)

・㈱MGコンサルティングが、ベトナムに量産工場、シンガポールに研究所設立

(クリエイション・コア東大阪)

・アンジェス㈱が、厚生労働省より慢性動脈閉塞症において血管を再生させる国内

初の遺伝子治療 薬「コラテジェン」の条件及び 期限付製 造 販 売 承認を取得

(2019年3月26日 /彩都バイオインキュベータ卒業企業)

2018年度入居企業トピックス

入居企業が Japan Venture Awards(JVA)2019 で経済産業大臣賞受賞

入居・卒業企業のプログレス

入居企業名 受賞名 入居先BI

㈱ FLOSFIA Japan Venture Awards 2018(経済産業大臣賞) 京大桂ベンチャープラザ

㈱マテリアル ・コンセプト 大学発ベンチャー表彰 2018(文部科学大臣賞) T-Biz

iHeart Japan ㈱ 大学発ベンチャー表彰 2018(日本ベンチャー学会会長賞) クリエイション・コア京都御車

㈱ケミカルゲート 新価値創造賞(特別賞) NALIC

㈱パリティ・ イノベーションズ 新価値創造賞(特別賞) クリエイション・コア東大阪

㈱ PiezoStudio 新価値創造賞 T-Biz

エムバイオテック㈱ 新価値創造賞 千葉大亥鼻イノベーションプラザ

JVA 2019 経済産業大臣賞

コネクテッドロボティクス㈱

㈱MGコンサルティング

㈱テクニカルサポート

(事例)

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インキュベーション事業 2018年度活動報告15

2018年度入居企業トピックス

10 億円を超える大型投資を含め今年度も多くの投資を調達

公的研究資金など、政府・ 関連団体からの支援を獲得

入居企業名 調達額 調達先 入居先BI

ボールウェーブ㈱ 6億円 東北大学ベンチャーパートナーズ ほか T-Biz

㈱スーパーナノデザイン 1.8億円 東北大学ベンチャーパートナーズ T-Biz

㈱マテリアルコンセプト 5億円 JX 金属㈱ T-Biz

㈱ HIROTSU バイオサイエンス 14億円 事業会社 6 社、銀行系キャピタル 2 社 東大柏ベンチャープラザ

㈱ TL Genomics 3億円 ニッセイ・キャピタル㈱、SMBC ベンチャーキャピタル㈱、DBJ キャピタル㈱ 農工大 ・ 多摩小金井ベンチャーポート

㈱オンチップ・バイオテクノロジーズ 約4億円 事業会社及びベンチャーキャピタル 農工大 ・ 多摩小金井ベンチャーポート

NapaJen Pharma, Inc. US$12.4MM ㈱ INCJ ほか 農工大 ・ 多摩小金井ベンチャーポート

スペースリンク㈱ 1.3億円 リアルテックファンド ほか 慶應藤沢IV

ITD lab ㈱ 6.3億円 ニッセイ・キャピタル㈱、富士エレクトロ二クス㈱ ほか 慶應藤沢IV

メディギア・インターナショナル㈱ 1億円 エムスリーグループ 東工大横浜ベンチャープラザ

ティエムファクトリ㈱ 約4億円 ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター㈱ ほか クリエイション・コア京都御車

㈱ iPS ポータル 約3億円 ㈱片岡製作所、香川証券㈱、㈱ NTTデータ クリエイション・コア京都御車

㈱ステムリム 14.45億円 ベンチャーキャピタル 6 社、事業会社 1 社 彩都バイオインキュベータ

クリングルファーマ㈱ 2億円 東北大学ベンチャーパートナーズ㈱ 彩都バイオインキュベータ

㈱ chromocenter 約3.7億円 大阪大学ベンチャーキャピタル㈱、そーせいコーポレートベンチャーキャピタル㈱ ほか HI-DEC

大豆エナジー㈱ 3億円 QB キャピタル合同会社、かごしまバリューアップ投資事業有限責任組合 ほか くまもと大学連携インキュベータ

入居企業名 規模 支援先 入居先BI

㈱アルガルバイオ 7.4億円 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)/国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 東大柏ベンチャープラザ

㈱オンチップ・バイオテクノロジーズ 約1億円国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、東京都立産業技術研究センター、東京都中小企業振興公社、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

農工大 ・ 多摩小金井ベンチャーポート

㈱ FLOSFIA 25億円 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/内閣府 京大桂ベンチャープラザ

ティエムファクトリ㈱ 3億円 戦略的省エネルギー技術革新プログラム(実用化開発フェーズ)/国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) クリエイション・コア京都御車

iHeart Japan ㈱ 2億円 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) クリエイション・コア京都御車

(事例)

(事例)

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Incubation Report Vol.10 16

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

2018年度入居企業トピックス

国の選定 ・ 認定を受けた入居企業

テレビ番組・新聞記事などマスメディアで紹介

入居企業名 メディア 番組名など 入居先BI

アール ・ ナノバイオ㈱ TBSテレビ 教えてもらう前と後 和光理研インキュベーションプラザ

㈱ HIROTSU バイオサイエンス テレビ東京 ガイアの夜明け 東大柏ベンチャープラザ

㈱ HIROTSU バイオサイエンス テレビ東京 ワールドビジネスサテライト 東大柏ベンチャープラザ

セルジェンテック㈱ 日本経済新聞 遺伝子治療の臨床試験開始 千葉大亥鼻イノベーションプラザ

㈱ヘルスケアシステム NTV 世界一受けたい授業 NALIC

OHTA 合同会社 テレビ朝日 林修の今でしょ!講座 i-BIRD

㈱グランゼーラ テレビ朝日 羽鳥慎一モーニングショー i-BIRD

㈱グランゼーラ テレビ朝日 ワイド!スクランブル i-BIRD

㈱アトレックス MBS 池上彰のどーなる?ジャーナル クリエイション・コア東大阪

オンコリスバイオファーマ㈱ 日本経済新聞 「難治がんウイルスで退治」を紹介 HI-DEC

㈱ D&Tファーム NHKほか 「皮まで食べられるもんげーバナナ」を紹介 岡山大インキュベータ

㈱システムJD 日本経済新聞 「太陽光パネルのリサイクル事業」で台湾市場への進出 福岡システム LSI 総合開発センター

㈱ワイズ ・ リーディング NHK おはよう日本 くまもと大学連携インキュベータ

(一社)日本漁場藻場研究所 NHK 潜れ!さかなクン D-FLAG

入居企業名 実施機関 名称 入居先BI

㈱幹細胞&デバイス研究所 内閣府 国家戦略特区認定事業 クリエイション・コア京都御車

ジーンデザイン㈱ 内閣府 国家戦略特区認定事業 彩都バイオイノベーションセンター

㈱ジィ・シィ企画 経済産業省 地域未来牽引企業 北大ビジネス・スプリング

㈱二葉科学 経済産業省 地域未来牽引企業 東大柏ベンチャープラザ

㈱ツー・ナイン・ジャパン 経済産業省 地域未来牽引企業 京大桂ベンチャープラザ

㈱ FLOSFIA 経済産業省 地域未来牽引企業 京大桂ベンチャープラザ

㈱幹細胞&デバイス研究所 経済産業省 地域未来牽引企業 クリエイション・コア京都御車

エーアイシルク㈱ 経済産業省 J-Startup T-Biz

スペースリンク㈱ 経済産業省 J-Startup 慶應藤沢IV

㈱ FLOSFIA 経済産業省 J-Startup 京大桂ベンチャープラザ

レグセル㈱ 経済産業省 J-Startup クリエイション・コア京都御車

(事例)

(事例)

㈱ヘルスケアシステム「郵送検査キット」 ㈱D&Tファーム「もんげーバナナ」

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インキュベーション事業 2018年度活動報告17

組み込み系ソフトウェア受託開発業で創業し、現在はバイオテクノロジーとIT技術との融合により、優れた最先端技術の創出を目指す株式会社GEホールディングス。代表取締役社長 荒川健一氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話を伺いました。

株式会社GEホールディングス01

起業、会社のおいたち

― 起業したきっかけを教えてください 私が子供のころに、大手自動車部品メーカーに勤めていた父か

らパソコンを買ってもらいスーパープログラマーを志したことが起

業につながっています。小学生のころから賞金を稼ぎ、高校生では

月に数十万円を稼ぐレベルになっていました。

 ある時、バブルが崩壊した影響で県内のIT企業が破綻して、その

フォローをする形で病院システム、血液分析装置、店舗のPOSレジ

システムなどさまざまな開発・保守に携わりました。20歳で創業し

た際には数千万円の貯金がありました。

 私は自動車系列のシステム開発企業に一度就職をしています。

スーパープログラマーとしての腕を買われ最先端の研究開発にも

携わりました。当時は兼業禁止規定など知らずに個人事業と二足

の草鞋を履いていました。資金は潤沢で競合他社の高級スポーツ

カーに乗っていました。ある時、兼業が明るみに出て役員室に呼ば

れました。この時、会社に残るか否かを迫られましたが、退社して

ITからバイオへ新しい分野へ挑戦し続けるベンチャー企業

起業する道を選択しました。1998年2月1日に有限会社グローバル

エンジニアリングを設立しました。周囲からは前代未聞だと言われ

つつ、特別に口座を開設していただき、そのまま開発を継続するこ

とができました。

事業の展開と現在

― 事業は順風満帆でしたか 友人4人、その他メンバー3人の合計7人でIT関連事業をスタート

したのですが、初年度から売上高は1億3千万円ありました。自動

車関連業界でQCDやドキュメンテーションを徹底的に鍛えていた

だいたおかげで、前職の企業の他に大手2社とすぐに契約してい

ただきました。やがてメンバーは30名に増えて色々な問題が発生

しました。この時にスーパープログラマーでは会社経営はできない

と感じて、アメリカのMBAコースで学びましたが、彼らの株主第一

優先という考え方が受け入れられずに帰国します。

 この頃に、神戸への進出を考えていたのですが、神戸商工会議

所から地元の大学の教授をご紹介いただき、「若手会社員のため

のMBA」というコースに参加しました。そこでは「先に義理あり、後

に利あり」という先義後利の哲学も学ぶことができ、今でも生かし

ています。

 しかし、経営管理を学んだばかりのころは、組織づくりや規

則・ルールの徹底をしようとして、自由を好む古い時代のメン

バーはみんな辞めてしまうという経験もしました。その後は新た

に人を採用して事業は比較的順調に推移しました。資金的に苦

しい局面は3回ほどありましたが、都度外部からの資金調達を

行いながら切り抜けて、2016年にはIT関連事業の売却に成功

しました。その時には従業員が80名、外注まで含めれば200名

の事業になっていました。

― なぜ、IT関連事業からバイオ事業分野に進出したのですか 上記の教授から「君は何を実現したいのか」とビジョンを問われ

る機会がありまして、私は「バイオとITの融合、ロボット」と答えてい

トリプルフローラ生きたまま腸に届く3種の菌「BiProGER納豆菌」「有胞子性乳酸菌」「ビフィズス菌」をバランスよく配合。腸内環境を整える美腸効果で、身体の中からすっきり・キレイをサポートするサプリメントです。

製 品 紹 介

神戸医療機器開発センター(MEDDEC) BI入居企業活動事例

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Incubation Report Vol.10 18

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

株式会社GEホールディングス

ました。プログラムはライブラリー化が進み、いずれAIが自動でプ

ログラミングする時代が来ると予測していたことと、新たなチャレ

ンジがしてみたいということで、バイオの世界に進出することにし

ました。IT関連事業の受託開発はどれだけ規模が大きくなっても

人海戦術ですが、バイオ関連事業の場合は機械を使うことで人を

増やさずともスケールアップが可能です。IT関連事業はB to Bです

が、バイオ関連事業ではB to Cです。完全に違う方向に舵を切った

のですが、これまでと違うビジネスモデルであるということにも魅

力を感じていました。起業して間もないころから金融機関、顧問弁

護士、顧問税理士など優秀な方とお付き合いしてきたことが影響

しているかもしれません。

 今はバイオ関連の第二創業に集中していく方向で動いていま

す。ただ、第二創業でバイオの優秀な人材を採用しようとすると

規則・ルールで動く人材では立ち上がりません。0から1を創る

メンバーと、1を10にするメンバーは違うのだということを感じ

ています。事業を拡大して行く上では、組織づくりが重要です。

昔、退職した人材の中から信用できる人材に声をかけて協力し

てもらっています。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 乳酸菌や納豆菌といった当社独自の原材料を主軸にして化粧品

やサプリメントを開発していきたいと考えています。これまでは比

較的安全性のデータを取りやすいペット関連商品や人向けの石鹸

で事業展開してきましたが、ここにきて人向けの機能性試験、安全

性試験のデータもそろうようになってきて、まさに次の展開を準備

しているところです。微生物のライブラリーはバイオ関連事業の要

です。これを増やして化粧品やサプリメントなど新たな機能性の商

品を世の中に提供していきたいと考えています。

 おかげさまでポートアイランドの中に1,000平方メートルの研究所

を建設することになり、2018年10月に長年お世話になったMEDDEC

を卒業することになりました。今は働き方改革

にも取り組んでいます。残業申請がない限り

は17時30分でシステムがダウンするようにし

ています。いずれは9時に出社して15時に帰れ

るような会社にしたいと思っています。

■入居のきっかけ  神戸進出を考えている時に神戸商工会議所を通じて中小機構と縁がで

きました。この時にMEDDEC建設の情報を得て、MEDDECの開設と同時

に入居することにしました。

■入居しての変化  バイオジャパンなどの展示会情報をいただき、当社の社員も展示会に出

展させました。細胞の研究者などは培養のことについては何も言うことが

ありませんが、人前で話すことが得意でなかった。それがしっかり話せるよ

うになりましたし、市場の声なども具体的に把握してくれています。このよ

うなことが一番の変化ではないでしょうか。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  やはり展示会や商談会の情報が増えたことではないでしょうか。日頃か

ら常駐するインキュベーションマネージャーが当社のために出展準備など

はじめ色 と々汗を流してくださっています。また、本社から離れた研究所で

良き相談相手になっていただいていると大変感謝しております。

 ㈱GEホールディングスはIT企業として名古屋で創業し、2006年 事業多角化の一環として、バイオ事業を始める目的でMEDDECに入居されました。バイオ事業の発展・拡大に向けITとの融合は不可欠との経営理念の下、土壌、植物、果物から菌を抽出し、効率且つ大量に培養を行なう技術を確立し、特許を取得。当該技術を活用した健康食品や化粧品を複数上市し、バイオ事業を次世代の中核事業として育て上げられました。 結果、同社の本来の中核であったIT部門を売却し、バイオ事業に特化することを決断、現在自社ラボ研究棟をMEDDECの近隣に建設中であります。10月末MEDDECを退去されますが、卒業企業として支援を継続していきたいと思っています。

(役職等は2018年9月現在のものです。)

代表取締役社長

荒川 健一

会 社 名 株式会社GEホールディングス

代 表 取 締 役 荒川 健一

所 在 地愛知県名古屋市中村区名駅1-1-1JPタワー名古屋14階

事 業 概 要

・食品・化粧品原料の研究開発・生産及び企画・販売・認知症関連商品の開発及び販売・e-コマース事業・ロボット製造販売事業

U R L https://ge-hd.co.jp/

1998年4月 有限会社グローバルエンジニアリング設立

1998年12月 株式会社グローバルエンジニアリングへ組織変更

2000年9月 東京都中央区に東京事業所設立

2001年9月 兵庫県神戸市に神戸事業所設立

2006年4月 MEDDECへ入居し神戸研究所設立

2011年11月 ニッポン新事業創出大賞・アントレプレナー部門受賞

2016年7月 株式会社GEクリエイティブ設立(IT部門 分社化)

2017年8月 株式会社GEクリエイティブの株式譲渡契約締結

2017年12月 株式会社GEホールディングスを設立2018年2月 各子会社を新設分割

(株式会社GEウェルネス、株式会社ビオラボ、株式会社はからめ認知研究所、株式会社CHIKEN、株式会社グローバルエンジニアリングを設立)

2018年4月 株式会社グローバルエンジニアリングを株式会社GEホールディングスへ吸収合併

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

神戸医療機器開発センター(MEDDEC)チーフインキュベーションマネージャー

片山 健

担当マネージャーからのコメント

MEDDECは、3つのオペ室など医療機器の開発などを行うための充実した設備を整えています。神戸市が進める神戸医療産業都市では、約350の医療関連企業や理化学研究所などが集積するほか、iPS細胞を使った臨床研究が予定されるなど医療関連ビジネスに適した環境が整っています。

〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-16https://www.smrj.go.jp/incubation/meddec/

神戸医療機器開発センター(MEDDEC)BI紹介

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インキュベーション事業 2018年度活動報告19

化粧品、電池、バイオ、そしてロケットまで、あらゆる産業に素材からアプローチし、これまでの「不可能」を「可能」にすることを目指す株式会社ケミカルゲート。代表取締役の山田展也氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話を伺いました。

株式会社ケミカルゲート02

起業、会社のおいたち

― 起業したきっかけを教えてください 最初は代表取締役・工学博士の私とその他のメンバー2名が、

2014年の秋に「NEDO・研究開発型ベンチャー支援事業」の起業

家候補(SUI)に採択されたことがきっかけでした。この3名が創業

メンバーとなり2015年3月3日に株式会社ケミカルゲートを設立し

ました。その時にNEDOのメンターを務めていたのが、取締役会長・

工学博士の曽我弘と顧問・工学博士の安友 雄一です。この事業

は1億円の出資を受けて、2年間で目標を達成するというものでした

が、2016年10月に終了する段階で目標を達成することができず、

他のメンバーは退社することになりました。残った私は「このまま

微粒子製造プラットフォームでアプリケーションに革新をもたらすハイテク・スタートアップ

終わらせたくない」という思いで、曽我と安友に相談し、2人に経営に

参画してもらうことになりました。新生ケミカルゲートのスタートです。

事業の展開と現在

― 微粒子製造プラットフォームで何を実現しようとしているのですか

 我々はスタートアップで、潤沢に資金があるわけではありませ

ん。そこで有望で社会的意義が大きい市場を2つ定めました。1つ

が歯科材料分野です。近年の医学により高齢者にとっての奥歯の

重要性が明らかになってきました。奥歯がなくなると転倒リスクが

高まり、噛む力が弱まることで脳への刺激が減るため認知症リ

スクが高まるというものです。すでに奥歯の歯科材料は存在しま

すが、1本10万円以上で保険が効かない自由診療になるために誰

もが受けられる環境とはいえないのが現状です。そのため我々は、

頑丈な奥歯を現状の価格帯より安くする微粒子とその製法を開

発中です。大手企業と共同研究契約を締結し、強度の信頼性を高

める段階まで進めています。原料はすでに薬事承認を受けている

化学組成ですので、新たな薬事承認は必要ありません。「死の

谷」を早期に脱出できる分野を選定しました。

 もう一つは、熱膨張制御の分野です。一般の材料は温度が上

がると膨張しますが、半導体・電子部品・自動車・通信機器など

多くの産業において、熱膨張制御はスペックや性能にかかわる

重要な課題となっています。この課題を解決するのが、温度が

上がると収縮する負熱膨張特性を持つ材料です。名古屋大学大

学院工学研究科の竹中康司教授が発明し、当社の技術によって

更なる微粒子化・量産性の向上に成功しました。2019年1月に

出展した「nano-tech2019」以降、さまざまな分野の企業から

サンプルの引き合いをいただいています。

― これまでのご苦労を聞かせてください 一番は資金調達です。我々はスモール・ベンチャーになるつもり

はありません。リスクを取ってでもJカーブで大きく成長するハイテク・

革新的微粒子我々のコア技術は、原料を含むミストを噴霧させることで標的となる化合物の化学組成を維持したまま微粒子に転換させる「微粒子製造プラットフォーム」です。化学組成や粒径を制御し、一定かつ均一に製造することができるため、さまざまなアプリケーションに革新をもたらすことができます。

製 品 紹 介

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC) BI入居企業活動事例

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Incubation Report Vol.10 20

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

株式会社ケミカルゲート

スタートアップを目指しています。そのためには開発段階で多くの

資金を必要とします。2017年にベンチャーキャピタルから1億円の

出資を受けることができました。2018年1月に名古屋医工連携イ

ンキュベータ(NALIC)に拠点を構え、日本政策金融公庫からも資

本制ローン4,000万円を受けて、新生ケミカルゲートの本格的な

活動がスタートしました。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 歯科材料と負熱膨張微粒子の事業化を早期に目指し、更なる

技術革新を進めていきます。

 将来は、IoTの技術を利用して製造装置を遠隔でコントロール

できるような仕組みや、AIの技術を利用して材料製造に最適な

パラメータを早期に発見できるような仕組みを構築していきたい

と考えています。

 そのためにも、微粒子の量産化に向けて製造技術を任せる

ことができるエンジニアを求めています。我々のビジョンに共感

してくれる方は是非参画してみませんか。

■入居のきっかけ  2017年までは福井大学の研究室を借りて活動をしてきましたが、教授

が退官されることになったので新たな拠点を求めていました。私が福井、

曽我が横浜、安友が名古屋なので、候補地探しをしていました。愛知県に

はセラミック関連の大企業や研究機関が集積していることと、目指す分野

が歯科材料であったのでNALICに決めました。

■入居しての変化  今までは集まることが大変でしたので、皆が一つの拠点に集結できて良

かったです。ここは名古屋大学、名古屋工業大学が近く、共同研究を進め

るにも便利です。また、大学の実験装置・評価装置を利用することができ

るので、スタートアップにとっては最適な場所です。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  常駐のインキュベーションマネジャー(IM)が助成金、展示会、連携先な

どを微に入り細に入りサポートしてくれます。地の利も良く研究開発環境と

して素晴らしいと思います。

 ㈱ケミカルゲートが誇る「微粒子製造技術」は、化粧品、電池、バイオ、ロケットに至るまでのあらゆる産業に素材からアプローチし、これまでの「不可能」を「可能」に変える可能性があるものです。リスクを取ってでもJカーブで大きく成長するハイテク・スタートアップを目指す同社。IM室でも更なる成長をサポートしていきます。

代表取締役

山田 展也

会 社 名 株式会社ケミカルゲート

代 表 取 締 役 山田 展也

所 在 地愛知県名古屋市千種区千種2-22-8名古屋医工連携インキュベータ 210

事 業 概 要 革新的微粒子の製造販売事業

U R L https://chemicalgate.co.jp/

2014年10月 NEDO・スタートアップイノベーター(SUI)に採択

2015年3月 株式会社ケミカルゲート設立

2017年4月 福井大学から「ナノ粒子高速製造」の特許(第5413898号)を取得

2017年8月 イノベ—ジョン・ジャパン2017に出展及びプレゼン発表2017年10月 イノベーションリーダーズサミット2017に出展及びプレゼン発表

TOP20ベンチャーピッチに選ばれ、登壇2017年12月 インデペンデンツクラブ(福井開催)にて事業計画発表

2017年12月 ベンチャーキャピタルより出資を受ける

2018年1月 名古屋医工連携インキュベータ入居

2018年8月 日本政策金融公庫・資本性ローンによる資金調達を実施

2018年9月 NEDO・企業間連携スタートアップに対する事業化支援(SCA)に採択

2019年1月 負熱膨張粒子「CG-NiTE」の展示とサンプル受注開始

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)チーフインキュベーションマネージャー

石黒 裕康

担当マネージャーからのコメント

名古屋医工連携インキュベータ(Nagoya Life Science Incubator/略称:NALIC)は、名古屋大学・名古屋工業大学・名古屋市立大学をはじめとする地域の大学などが持つ医工連携・ライフサイエンス分野の技術シーズ・知財などを事業化するベンチャー企業・中小企業に対しあらゆる面でビジネスを支援します。

〒464-0858愛知県名古屋市千種区千種2-22-8https://www.smrj.go.jp/incubation/nalic/

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)BI紹介

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インキュベーション事業 2018年度活動報告21

インクジェット技術の特徴を活かし、顧客と共に新たな価値を創出し、ものづくりに関するさまざまな課題を解決する技術集団として創業したKIT-CC(キット)株式会社。代表取締役の冨田健二氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話を伺いました。

KIT-CC株式会社03

起業、会社のおいたち

― 起業したきっかけと社名の由来を教えてください 私は大手電機メーカーで産業用途のインクジェットヘッドの開発

に携わってきました。早期退職後にインクジェット関連の装置メー

カー2社の役員を経て、仲間と共に2015年11月にKIT-CC株式会社

を設立しました。専務の小島は大手事務機器メーカー出身、常務

の野口は大手ケミカルメーカー出身で、ともにインクジェットに深く

関わったメンバーの集まりです。役員2名のほか、従業員が4名

いますが、何れもインクジェット関連で開発を共に行ったメンバー

です。平均年齢は53.3歳です。

 KIT-CCはKey of Inkjet Technology - Creative Company

の略です。インクジェット技術を生かして、新たな価値を提供し、社

会に貢献したいという思いが込められています。

インクジェットテクノロジーで価値創造に挑戦する、熊本発ものづくりベンチャー

事業の展開と現在

― 御社の強みを聞かせてください 紙やフィルムへの印刷は大手印刷メーカーと大手装置メーカー

にはかないません。ところが世の中にはインクジェットによる印刷

ニーズは多く、多様化が進んでいます。従って、一つの装置ですべて

を解決できるわけではありません。大手メーカーは量産型の開発

製造を得意としていますが、個別用途に合わせたカスタマイズや

数台の装置を開発製造することには消極的です。創業当初、我々

が過去から繋がりがある大手装置メーカー、大手ヘッドメーカー、

大手インクメーカーからさまざまな案件をご紹介していただいて

事業を始めました。

 インクジェット関連装置は、印字アプリケーション、ヘッド駆動基

板、ヘッドユニット、インク供給機構、ワーク搬送機構、全体を取り

まとめる装置制御システムで構成されています。一つ一つが特殊

な要素技術を必要としています。これらすべてに強いネットワーク

(高い要素技術を有するメーカー)を有しているということも我々

の強みの一つです。

 また、お客様からは企画、構想、提案、装置試作、装置完成、納

入まで非常に小回りが利き短納期開発できるという点を評価され

ています。また、大手企業時代の人脈、技術力、人柄も商談の推進

において、プラスに働いていると信じています。

― 紙とフィルム以外にはどのような用途がありますか 菓子類への印刷など食品用プリンターの最大手にOEM供給を

しています。今年、飲料用金属缶への印刷実験機を製作し、展示

会にて発表を行い、事業の柱として成長させていきたいと思ってい

ます。季節ごとの絵柄の入替、ひとりひとりの名前や顔などのオン

デマンド印刷は、オンリーワンのオリジナル品としての楽しみが拡

がります。また、環境に配慮して金属缶への印刷には特殊水性イン

クを用いています。加えて、飲料を充填した缶にも印刷可能で物流

の簡略化にも繋がります。

 その他には、GLM株 式会社(大手自動車メーカー以外で電

缶、フィルムへのインクジェット印刷実験機

金属缶をはじめとする円筒形の地金面やフィルムに下地処理なしで、花王が開発した水性ルナジェットインクを、ダイレクトに印刷できるIJ方式のデジタル印刷機です。内容物が充填されたアルミ缶への直接印刷も可能です。

製 品 紹 介

くまもと大学連携インキュベータ BI入居企業活動事例

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Incubation Report Vol.10 22

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

KIT-CC株式会社

気自動車認証を初めて取得)から発売されている電気自動車

「Tommykaira ZZ」のシートベルトに当社の印刷技術が採用さ

れています。従来の単色印刷では実現できないデザイン性を追求

したカラフルなシートベルトです。

そして、これから

― 今後のビジョンをお聞かせください 事業領域としては、新たに2つの柱を成長させたいと考えて

います。一つの柱はプリンテッドエレクトロニクス分野です。具体

的には量子ドット(Quantum dot)材料を用いたディスプレイの

製造プロセス開発にチャレンジしたいと思っています。世の中で

はバックライトで発光させる液晶ディスプレイ(LCD)が普及して

いますが、今後は素子が自発光する有機ELディスプレイ(OLED)

の量産化や更に次世代の量子ドット用いた高画質ディスプレイ

(QLED)の開発が見込まれています。QLEDの一つの特徴は低

価格化でインクジェット印刷技術を欠かすことができません。

我々は、この分野で存在感を示したいと考えています。

 もう一つの柱は、医薬(錠剤)分野です。錠剤への印刷は誤

飲防止の為、視認性向上が必要です。現在、打錠、スタンプ、

レーザー、インクジェットといった方式があります。視認性の観点か

らはスタンプとインクジェットが優位になりますが、インクジェット

印刷技術は錠剤に触れることがなく、印刷ができることが高く評

価されています。

 ここ2、3年はさまざまな分野に対応するために即戦力として熟

年技術者を採用して一気に技術基盤を確立させたいと考えていま

す。また、今後の事業継承を踏まえて同時に優秀な若手技術者の

採用も行いたいと考えています。近い将来、社会の公器として株式

公開を目指せるように努力していきたいと思います。

■入居のきっかけ  大手電機メーカーを退職した後に役員に就任した装置メーカー2社で

も、くまもと大学連携インキュベータを活用していました。くまもと大学連

携インキュベータやインキュベーションマネージャー(IM)の良さを知って

いましたので、会社を設立した時に迷わず決めました。

■入居しての変化  設立当初は、技術コンサルティングが中心でした。入居してから、周りの

環境変化もあり、「ものづくりをやろう」と決め、今では食品分野、産業印

刷分野、テキスタイル分野、プリンテッドエレクトロニクス分野、医薬分野

などへ展開を始めています。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  仕事に専念できることが最大の魅力です。研究や商談以外のことは一

切気にする必要はありません。共用施設が充実していて、入居者はメンテ

ナンスや掃除のことを心配する必要はありません。また、展示会情報や助

成金情報など常駐するIMが提供してくれます。特に中小機構本部を含め

て熊本県、熊本市などの公的機関との連携も深まり、信用力が向上したこ

とで外部機関からも注目され始めています。今後は、他の入居企業とのコ

ラボレーションも含めて新たな価値が創造できることを期待しています。

 KIT-CC㈱は、社員の平均年齢が53.3歳の会社です。しかし、皆さん若々しく、「感謝報恩(社会に恩返し)、創造革新(ワクワクする開発)、心身健康(志を高く持つ)」をモットーにインクジェットの技術革新に取り組んでいる企業です。また、新しい分野(プリンテッドエレクトロニクス分野、医薬(錠剤)分野)にも積極的に取り組んでいます。これからの成長が期待されます。(役職等は2018年9月現在のものです。)

代表取締役

冨田 健二

会 社 名 KIT-CC株式会社

代 表 取 締 役 冨田 健二

所 在 地 熊本県熊本市中央区南熊本3-14-3

事 業 概 要

・食品・医薬:可食インクを用いたインクジェット印刷装置及びユニット(食品用プリンター、錠剤用印字ユニットなど)の製造開発

・プリンテッドエレクトロニクス関連:インクジェット印刷実験機(レジスト塗布など)の製造開発

・研究開発、要素開発:インクジェット評価装置の製造開発・上記関連装置に関する、インク吐出、インク供給装置

など、必要な関連技術に関しての価値提供及び技術開発コーディネート

U R L http://www.kit-cc.net/

2015年11月 KIT-CC株式会社設立

2015年11月 高速FOODプリンター開発に着手

2016年6月 高速FOODプリンターを製品化

2017年4月 水性インクを用いた缶印刷の開発に着手

2017年6月 くまもとベンチャーマーケット二火会に登壇2017年7月 テキスタイル装置(布地印刷)の

制御基板開発に着手2018年5月 テキスタイル印刷用の制御基板の量産開始

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

くまもと大学連携インキュベータチーフインキュベーションマネージャー

堀 義親

担当マネージャーからのコメント

くまもと大学連携インキュベータは、中小機構が、熊本県、熊本市及び熊本大学をはじめ地域の大学などと連携して運営する大学連携型インキュベーション施設です。IMが常駐し、産学連携や知財戦略、事業計画の作成や資金調達、販路開拓など入居企業のさまざまな課題解決をサポートします。

くまもと大学連携インキュベータBI紹介

〒860-0812熊本県熊本市中央区南熊本3-14-3https://www.smrj.go.jp/incubation/kdri/

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インキュベーション事業 2018年度活動報告23

AIテクノロジーを活用し、「店舗」×「人」×「テクノロジー」の組み合わせによって生み出される価値の創出を追求するAWL株式会社のCTO 兼 AI HOKKAIDO LAB所長の土田安紘氏に、起業の経緯、会社の特徴、今後の展望についてお話を伺いました。

AWL株式会社04

起業、会社のおいたち

― 社名の由来と起業の経緯について教えてください 社名であるAWL(アウル)は「AI(人工知能)+OWL(フクロ

ウ)」を足した造語です。当社のソリューションが、店舗を見守り、人

間の「目と頭脳」を補完することで、人間と調和し、店舗の生産性

向上、業務効率化、付加価値創出を実現するという思いが込めら

れています。

 起業の経緯については二人の創業者である代表取締役社長

の北出とAI第一人者の川村教授(北海道大学・調和系工学研究

室)の出会いについて語る必要がありますね。北出は、大学卒

業後に、北米にてITコンサルティング、リサーチ&マーケティン

グを担当し、帰国後は、複数のITビジネスの立ち上げに参画しま

した。その後、大手企業のコンサルティング、ソリューションサー

ビスの提供を行ってきました。

 2012年ごろからアメリカでディープラーニングが注目され、

日本でも2014年ごろにAIへの関心が高まるなかで、多くの取

引先からさまざまな課題をAIで解決できないかという問い合

わせをいただく機会が増え、北出はAIの最先端に立つ研究者

を求めていました。この時に出会ったのがもう一人の創業者の

川村教授です。北出からの相談を受けて川村教授を紹介した

のが、北海道内を中心にドラッグストアーを多店舗展開する

現・サツドラホールディングス株式会社(以下、サツドラHD)

の富山社長でした。北出と川村は2016年6月にエーアイ・トウ

キョウ・ラボ株式会社を設立し、1年後の2017年6月にサツド

ラHDと資本業務提携して、サツドラグループに参画しました。

その後、2019年3月に会社分割し、商号をAWL株式会社に変

更してAIソリューション事業に経営資源を集中させました。な

お現在、サツドラHDの富山社長はAWL(株)の代表取締役会

長を務めています。

― 御社の提供する小売業界向けAIサービスの特徴は  どのようなものでしょうか

 小売事業の世界ではEC通 販サイト(eコマース、電子商取

引)と実店舗におけるリアルな販売があります。EC通販はウェ

AIテクノロジーをもとに、小売業とそこで働く人々の未だない革新的な未来を創造するスペシャリストチーム

ブサイトを通してアクセス数から販売実績につながるまでの

プロセスがデータで管理できるようになっていて、データを活

用した改善が可能ですが、実店舗ではそのような取り組みが

遅れており、生産性が低い、あるいは、お客様に対する価値提

案が十分にできていないというような課題があります。当社の

サービスはディープラーニングを応用したAIカメラによって、

お客様の性別、年齢、店舗内の行動履歴(どのルートを通っ

て、どの商品を見て手に取って、購入したか否かなど)といっ

た、これまで取得することができなかったお客様の行動を把握

し、データとしてサーバーに伝送し、そこで機械学習によるデー

タ解析を行うことで改善点を明らかにすることができます。例

えば、お客様の行動分析により、店舗エリア別にレイアウトや

商品配置、接客体制の改善や、複数のデータと組み合わせるこ

とで効果的な施策の実施、スタッフの配置や在庫管理といっ

た新たな価値の提案につなげるなど、経営に生かせるという点

が特徴です。

事業の展開と現在

― なぜ北海道にR&D拠点として「AI HOKKAIDO LAB」を  設けたのですか

 サツドラHDは北海道を中心に200店舗以上のドラッグスト

アーを経営しております。また、POSレジのクラウド化や、地域

共通ポイントカード「EZOCA」といった、ドラッグストアー経営

だけにとどまらない事業活動を展開するユニークな企業です。

サツドラグループ独自のネットワークとデータと、実店舗を持

つ強みを活用できることから、実証実験を行わせてもらいなが

ら、研究開発を日々進めております。また、北海道大学連携に

よる最先端の技術開発の応用や、川村教授の研究室をはじめ

北大の優秀な学生の協力を得られること、北出自身の出身地で

もあったことから、北海道に進出することは、ごく自然な流れで

あったと振り返ります。

― 設立2年で急成長しているとお聞きしました おかげさまで、創業から2期連続で黒字を達成しながら、拡大を

北大ビジネス・スプリング BI入居企業活動事例

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Incubation Report Vol.10 24

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

AWL株式会社

続けています。従業員数は42名(2019年6月現在)おり、最先端技

術の調査や開発に携わってもらっています。特に「AI HOKKAIDO

LAB」のメンバーのバックグラウンドは多様であり、公用語も英語と

言っても過言ではありません。中国、韓国、ロシア、コロンビア、それ

からカナダとさまざまな国で生活していた仲間で構成されていま

す。学生の専攻内容もさまざまであり、情報系や工学系の学生が主

となりますが、農学部や文学部の学生も実際の開発現場で活躍い

ただいております。

 会社が大きく成長する中で、マネジメントを強化する必要性によ

り、2018年より大手電機メーカーにて人事を担当していた妻に人

事・総務マネージャーとして加わってもらいました。所長である私と、

管理全般を行う女将さんと、たくさんの若い従業員が在籍する「AI

HOKKAI DO LAB」は「相撲部屋」とも呼ばれているわけです。

優秀なメンバーが集まる、イキイキとした職場環境にあることを

感謝します。

そして、これから

― 今後のビジョンと事業展開について教えてください 現在開発を進めております小売業界向けAIサービスが、リテー

ルAIのグローバル・スタンダードとなることを目指します。我々が開

発し、立ち上げようとしているサービスの本格的な提供に向けて、

リアル店舗×多店舗展開を急ピッチで進めております。第一ステッ

プは北海道、その次は東京、日本全国、更には世界展開も視野に

入っています。

 急速なる事業拡大を見据え、我々はまだまだエンジニアやプロ

ジェクトマネージャーを必要としています。当社のビジョンに共感し

てくれる方を、広く募集しております。職務発明の規定も整備して

います。我々が開発するテクノロジーが現在の構想を超えて新た

な領域へ発展し、拡大し、事業とともにメンバー一人ひとりも大き

く活躍できる会社です。

■入居のきっかけ  川村教授から、北海道で拠点を置くならば北大ビジネス・スプリングが

北海道大学との連携のもと、北海道、札幌市、地元経済界などが一体で

運営しており、最適であるという推薦を受けました。

■入居しての変化  北海道大学やサツドラHDとの連携が非常に行いやすい環境にあります。技

術開発の面では、学生の協力も得やすく、更には北海道大学をはじめ、実践的

インターンシップ受け入れのモデル的存在になっているとも聞いています。

  常駐するインキュベーションマネージャーの企画であるAI/IOT部会のセ

ミナーで講演させてもらったことをきっかけに、行政関係者とのつながり

もできました。現在は、北海道庁や札幌市の協力を得て、AI教育事業も展

開しています。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  北大ビジネス・スプリングは、大学・研究機関の知的資源を有効に活用

できるというメリットと合わせて、キャンパス内にありながら、さまざまなビ

ジネスに携わる人の行き来もあり、更には学生が企業にアクセスしやすい

環境にあります。「北大ビジネス・スプリング」を起点に新たな技術・アイディ

アが生まれ、それらが製品・サービスとして世の中に出ていく、良い意味で

特殊性のある場所です。ここにはダイヤの原石が転がっています。是非、こ

の場を活用し多くのビジネスが北海道から生まれて欲しいと思います。

  最後になりますが、私たち「AI HOKKAIDO LAB」は、北大キャンパス内

にありながら、最先端技術を社会実装し、リアルに事業化するポジション

を築いてきました。いずれは、当社ラボが大学研究室を超えるような超最

先端の開発を行っていく意気込みです。

 AWL㈱は、川村教授の紹介で北大ビジネス・スプリングに入居されました。土田所長と土田チーフマネージャーは、明るい性格で社員の皆さんからはもちろん、他の入居企業からも慕われています。今年のハロウィーンは仮装して出社され、楽しませていただきました。北大生のアルバイト社員も多くフレッシュな企業です。これからは企業としての体制作りが課題となると思いますが、今後、北大ビジネス・スプリングから世界に羽ばたく企業になると思います。

CTO兼 AI HOKKAIDO LAB所長

土田 安紘

インキュベーションの利用

北大ビジネス・スプリングチーフインキュベーションマネージャー

佐々木 身智子

担当マネージャーからのコメント

会 社 名 AWL株式会社

代 表 取 締 役 北出 宗治

所 在 地

(本社)東京都千代田区九段北1丁目12番4号    徳海屋ビル6階(北海道オフィス)北海道札幌市北区北21条西12丁目2           北大ビジネス・スプリング105

事 業 概 要 AIソリューション事業

U R L https://awl.co.jp

2016年6月 エーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社を設立AIソリューションの開発、コンサルティングを開始

2017年6月 サツドラホールディングス株式会社に連結子会社化

2017年8月 北海道大学と共同開発した「AI人材育成講座」の提供を開始

2017年8月 社名をAI TOKYO LAB株式会社に変更2017年10月 R&D部門である「AI HOKKAIDO LAB」(札幌)を

開設

2019年3月 会社分割して商号をAWL株式会社に変更

2019年3月 ベトナム・ハノイに、R&D拠点となる、「AWL Vietnam, Inc.」を設立

会社情報 会社略歴

北海道大学北キャンパス内に立地する北大ビジネス・スプリングは、大学などの研究機関やオープンラボなどの施設が集積するビジネスに最適な立地環境にあります。自治体、地元経済界などとの連携や多彩な支援メニューをフル活用して、入居者の事業活動を強力にサポートします!

北大ビジネス・スプリングBI紹介

〒001-0021北海道札幌市北区北21条西12丁目2https://www.smrj.go.jp/incubation/ho-bis/

Page 26: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

インキュベーション事業 2018年度活動報告25

理化学研究所発のベンチャー企業として、製造業の研究開発における技術革新に大きく貢献するインテグレーションテクノロジー株式会社。代表取締役社長の船田浩良氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話をお伺いしました。

インテグレーションテクノロジー株式会社05

起業、会社のおいたち

― 起業の経緯について教えてください 大学卒業後、大手自動車メーカーにて金型設計などに携わり、

その後、シンクタンクに入社し営業からプロジェクト企画も含めて

さまざまな経験を積みました。コンピューターシミュレーションに

ついては、自動車メーカー時代に将来的に可能性が大きい技術

だと感じていましたが、リーマンショックを契機に、シミュレーショ

ンの世界は大きな環境の変化を迎えました。各社が、ワールドワ

イドな市場の中で生き残りをかける中、社内完結型ではなく社外

リソースを活用することで、差別化・効率化を図ることになりまし

た。そこで、これからはベンチャーらしさを生かし顧客ニーズを分

析し、必要な要素技術をインテグレーションして提供することが必

要だと考え、2011年7月に会社を設立しました。同8月には理研ベ

ンチャーとしての認定も受けることができ、社会的な信用の基盤を

確立することができました。

最先端のシミュレーション技術で日本のモノづくりをリードする理研ベンチャー

事業の展開と現在

― 御社のシミュレーションの特徴を教えてください 当社のシミュレーション技術は自動車分野や精密機器分野など

における「モデルベース開発」と呼ばれるものです。このような技

術はEU、特にドイツが先行しています。EUの自動車開発において

は、F1などのレース文化にも支えられて数多くのエンジニアリング

会社が自動車開発、特にモデルベース分野などの新しい技術分野

で活躍しておりハードウェアのみならずシミュレーションソフトウェ

アにおいても大きな存在感を発揮しています。我々はまず日本で

確たるポジションを確立していきたいと考えています。

 自動車はセンサー・コンピュータの塊になりました。近年、自動

車は自動運転の方向に進んでいて高効率な制御技術が重要に

なっています。このためセンサー・コンピュータがますます増える

と同時に自動車の開発プロセスが劇的に複雑化していきます。

我々の「モデルベース開発」は増え続けるその開発プロセスを効

率化するために欠くことの出来ない技術です。従来の自動車開

発プロセスは機能を実現するためにCADで形状を設計し、CAE

でシミュレーションを行い、試作品を製作して現物で評価して設

計変更するという流れであり「形状データ」中心の開発手法でし

た。我々が推進する「モデルベース開発」はさらに上流工程で、

個々の部品やユニットについての機能とシステムとしての関連性

をモデル化し、物理や数学を駆使して解析することで最適な設

計を行うことを狙いとしており、「機能」を重視する手法です。こ

れにより設計の手戻りが削減され開発期間短縮や試作コストの

大幅な削減を実現することができ、同時に部品点数を削減する

ことが可能になります。

 精密光学機器分野においても、従来は球面レンズを磨くことで

性能を向上させてきましたが、近年は非球面レンズを活用してレン

ズの枚数を減らして、性能向上、軽量化、コスト削減を実現するな

ど、製品のイノベーションが加速しています。高価な金型をつくっ

て、試作品で評価するという方法ではなく、シミュレーション技術を

駆使することで金型を削減することが求められています。

機械モデル、電気モデル、油圧モデルを統合したシステムモデルの作成が可能で、 試作前にシステムの動作や性能の評価、及び課題の抽出が可能となります。

製 品 紹 介

オートマティックトランスミッション(自動変速機)のシミュレーションモデル

和光理研インキュベーションプラザ BI入居企業活動事例

Page 27: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

Incubation Report Vol.10 26

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

インテグレーションテクノロジー株式会社

― 事業は順調ですか 起業して半年間は売上ゼロで苦戦しましたが、その後はおかげ

さまで順調に売上高を伸ばし、継続的な成長曲線を描けていま

す。自動車関連商社の投資子会社からも出資を受けることができ

ました。従業員も現在は約30名になりました。まだまだ事業を拡

大することは可能ですが開発者が不足している状況です。そのよう

な環境もあり、競合企業とも協力関係が確立されています。また、

この分野に参入したいという取引先企業からその企業のホープを

給料自社負担で送り込んでくれる企業もあります。数ヵ月後に母

体企業に戻っても関係性が継続しています。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 我々は「物理モデル」で世界一になりたいというビジョンを掲げ

ています。現在、理化学研究所と5カ年計画で共同研究を進めてい

ます。モデルベース開発を活用して開発された自動車がこれから

続 と々発売されます。我々が取り組んでいることは、今後の成長が

期待される分野です。航空宇宙分野も視野に入っています。我 と々

一緒に戦ってくれる若いエンジニアを求めています。ストックオプ

ションの制度も準備したいと考えていますので、一緒に世界一を目

指しましょう。

■入居のきっかけ  起業する前は、理研ベンチャー(当社への出資会社の一つ)の一員とし

て和光理研インキュベーションプラザで働いていましたので、起業と同時

に入居しました。和光理研の隣にあるという環境もここを選択した要因の

一つです。

■入居しての変化  和光理研や入居企業との連携、あるいは外部の機関との連携が増えま

した。助成金情報、展示会情報をはじめ、資金調達に関するサポートや専

門家派遣による資本政策の検討など、自社だけではできないことをサポー

トしてくれます。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  スタートアップにとってこれほど良い環境はありません。和光理研のIM

室は非常に相談しやすい。ちょっとしたことでも真剣に相談に乗っていた

だけると感じています。インキュベーションマネージャー(IM)は身近な存在

で非常にフレンドリーな関係を構築することができています。

 旺盛な成長意欲と幅広い人脈を持つ船田社長と、同じ場所で仕事ができることはとてもエキサイティングです。頼れる相談先のひとつとしてIM室を活用いただくために、お話を掘り下げて伺い、船田社長の視点から物事を考えるようにしています。また、日常業務の中での数多くの企業、機関とのやりとりを通じてIMが得た普遍的なアイデアや人的なネットワークを、船田社長にこれからもご紹介、ご提案してまいります。

代表取締役社長

船田 浩良

会 社 名 インテグレーションテクノロジー株式会社

代 表 取 締 役 船田 浩良

所 在 地埼玉県和光市南2-3-13和光理研インキュベーションプラザ105号

事 業 概 要シミュレーション技 術に基づく製 造 業 への統合的なサービス提供

U R L http://www.int-tech.co.jp/

2011年7月 インテグレーションテクノロジー株式会社 設立

2011年8月 理研ベンチャー認定

2011年10月 和光理研インキュベーションプラザ入居

2012年12月 科学技術振興機構(JST)のA-STEPに採択

2013年8月 マスワークス社パートナー認定

2013年9月 資本金1450万円から1750万円に増資

2014年7月 ものづくり補助金に採択

2015年11月 東京事務所開設

2017年5月 資本金2450万円に増資

2019年3月 資本金2950万円に増資

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

和光理研インキュベーションプラザチーフインキュベーションマネージャー

吉田 憲司

担当マネージャーからのコメント

和光理研インキュベーションプラザは、中小機構が埼玉県、和光市、理研と連携して運営しており、特に理研との関係が深いことが特徴です。理研の敷地内にあり、理研発企業も多く、理研と共同研究・開発も行われています。入居企業には常駐するIMが販路開拓や企業連携などを支援しています。

和光理研インキュベーションプラザBI紹介

〒351-0104埼玉県和光市南2-3-13https://www.smrj.go.jp/incubation/wrip/

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インキュベーション事業 2018年度活動報告27

線虫を活用した早期がん検査『N-NOSE』の事業化を目指して、大学の助教を辞して「HIROTSUバイオサイエンス」を起業した代表取締役 広津崇亮氏に、起業の経緯、会社の特徴、今後の展望についてお話を伺いました。

株式会社HIROTSUバイオサイエンス06

起業、会社のおいたち

― どのようなビジョンをお持ちですか 当社では、心身ともに健やかな未来、生物の能力を生かす未来、

研究者が輝く未来という3つの未来をビジョンに掲げております。

 がんの治療は早期発見が最大の鍵です。線虫によるがんの検査

『N-NOSE』は、これまで検出が難しかったステージ0、ステージ1

の段階でも高い精度で発見が可能です。世の中では素晴らしいが

ん治療薬も出てきていますが、まだまだ高額で国の財政を圧迫す

る原因になっています。我々の提供する検査は、低コストで早期に

がんの検出ができるというメリットがあり、早く実用化をしなけれ

ばいけないという使命を感じています。

― 起業の経緯について教えてください 大学生の時に研究を始めて、大学院博士課程で線虫の嗅覚につ

いての論文(注1)がネイチャーに掲載されました。線虫はバイオの世

界では、ハエやマウスと同じくらい研究されているモデル生物で、

線虫を題材としてノーベル賞を受賞した研究者は6名もいます。

世界初の線虫がん検査で世界を変える大学発ベンチャー

 線虫の嗅覚が優れているとうことは以前から知られていました。

2013年にがん患者の尿と健常者の尿を線虫が嗅ぎ分けることが

できることを発見しました。半年間かけて実験を繰り返したところ、

次 と々仮説が検証され効果を確信し、2015年に2つの論文(注2)を書

きました。これがテレビで大きく取り上げられ起業の機運が高まり

最初の起業をしました。この時は自分自身は大学に籍を置き、CTO

としての参画でした。

 しかし、この最初の起業はすぐに行き詰りました。研究と事業の

二足の草鞋ではなく、研究を一番よく理解している自分が退路を

断って事業に専念しようと腹を括り、私が代表取締役社長になって、

2016年8月に株式会社HIROTSUバイオサイエンスを設立しました。

(注1):『 The Ras-MAPK pathway is impor tant for

olfaction in Caenorhabditis elegans. Hirotsu T.,

Saeki S., Yamamoto M. and Iino Y. Nature, 404,

289-93 (2000) 』

(注2):『Cancer screening test using C. elegans scent

detection. Hirotsu T. Aroma Research,16,134-136

(2015) 』、『A Highly Accurate Inclusive Cancer

Screening Test Using Caenorhabditis elegans

Scent Detection. Hirotsu T., Sonoda H., Uozumi

T., Shinden Y., Mimori K., Maehara Y., Ueda N.,

Hamakawa M. PLOS ONE, 10(3):e0118699(2015)』

事業の展開と現在

― 事業は順調に進んでいますか おかげさまで事業は順調に進んでいます。2018年8月には事業

会社6社、銀行系ベンチャーキャピタル2社を割当先とした総額14

億円の第三者割当増資ができました。現在、従業員も43人になり

ました。わずか、2年間でここまで到達できたことは喜びです。

 ただし、ここに来るまでにはいろいろと苦労がありました。研究

開発は一直線には進みません。研究を進めるには資金は欠かせま

せん。研究開発を加速する上では研究員を採用する必要がありま

C. elegans(シー・エレガンス)H I ROTSUバイオサイエンスが開発する線虫がん検 査『N-NOSE』で使用する線虫「C. elegans」(シー・エレガンス)。体長は約1mmほどながら犬よりも多い約1,200の嗅覚受容体を持ち、嗅覚が非常に優れていることで知られている。

技 術 紹 介

東大柏ベンチャープラザ BI入居企業活動事例

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Incubation Report Vol.10 28

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

株式会社HIROTSUバイオサイエンス

すが、やはり資金がなければ採用は出来ません。一方で、実用化が

見えてこなければ事業会社から出資を受けることはできませんの

で、これらをシンクロさせなければいけません。

 組織が急拡大したことで歪みも生まれました。世間ではよく言

われることですが、規模が拡大して組織体制・管理体制を明確に

しようとすると、創業期に活躍した人材からすると窮屈に感じる面

もあるようで、今は過渡期を迎えていると感じています。

 世の中では研究者が社長を務めると上手くいかないという説

がありますが、私は研究者をやめて事業に専念しました。私がリー

ダーシップをとることが事業化を実現する上で最短であると信じ

たからです。私は、ビジネスモデルの構築も好きです。資本政策策

定や資金調達も嫌いではないという気付きがありました。事業セ

ンスは実践しながら勉強するしかないと思っています。研究者を辞

めて、事業に専念することに対する不安はなかったかという質問を

受けることも多いのですが、新たなことにチャレンジすることは楽

しいと考えています。

― どのようなビジネスモデルになりますか 通常の健康診断で尿検査をする際に、オプションで『N-NOSE』

も行えるようにしたいと考えています。医療機関を通して尿を採取

して、解析センターに輸送して解析を行い、医師を介して検査結果

をお伝えする想定です。解析センターをどこに置くか、検査費用を

いくらにするかは現在検討中です。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 現在、症例数を増やしてエビデンスを構築している段階です。

診断ではなく検査なので薬事承認は必要ありませんが、人の命

にかかわる仕事なので、やはりデータに確証を持たせる必要があ

ります。まずは、低価格でがんの早期発見ができる『N-NOSE』

の実用化を目指していますが、同時に、がん種判定、ステージ

判定をするための研究開発も東大柏ベンチャープラザで行っ

ています。

 今後は海外にも進出する予定です。人種間で結果に差がない

かを調べるためオーストラリアで基礎研究を行ったところ、驚く

ことに結果は日本とほぼ同じでした。今後はアメリカにも事業

拠点を置く予定です。

■入居のきっかけ  九州大学内の施設で最初のベンチャーを立ち上げて失敗したのちに、

大学を辞めて東京で新たに起業しようと考えたときに、いろいろな施設を

見て回りました。生物実験環境が整っていて、東京大学にも近く、安かった

ということが決め手でした。

■入居しての変化  東大柏ベンチャープラザ主催のイベントを通じて、国立がん研究セン

ターが関心を示してくれて共同研究したいというお声がけをいただきまし

た。また、バイオジャパンへの出展機会をいただいたことで、協業や共同研

究が進みました。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  ここにはヘルスケア関連のネットワークがあり、イベントが頻繁に開催さ

れています。登壇機会をいただくことも多く、自社だけでは構築できない

ネットワークづくりを、常駐のインキュベーションマネジャーが支援してくれ

ます。また、研究者同士の連携も進んでいます。

  ㈱ HIR O T SUバイオサイエンスが 事 業 化 を 進 める線 虫 が ん 検 査『N-NOSE』は、線虫という生物の卓越した嗅覚と自己複製・繁殖能力を活用した、高精度・低コスト・非侵襲などの優れた特性を併せ持つ画期的なスクリーニング検査です。 IM室では、健康寿命の延伸や医療費の削減といった国の課題を解決するイノベーションとして、速やかな事業化に貢献すべく、最大限のサポートをしてまいります。

代表取締役

広津 崇亮

会 社 名 株式会社HIROTSUバイオサイエンス

代 表 取 締 役 広津 崇亮

所 在 地東京都港区南青山2-24-11フォーラムビルディング2階

事 業 概 要生 物 診 断 研 究:線 虫 およ び 線 虫 嗅 覚 センサー を 利 用した が ん 検 査 装 置 の 研 究・開発・製造・販売

U R L https://hbio.jp/

2016年8月 株式会社HIROTSUバイオサイエンス設立

2016年11月 東京都港区内で本社移転

2017年5月 東京都港区内で本社移転

2017年7月 千葉県柏市に中央研究所設立

2017年7月 福岡県福岡市に福岡研究所設立

2017年7月 オーストラリアに子会社を設立

2017年10月 愛媛県松山市に四国解析研究所設立

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

東大柏ベンチャープラザチーフインキュベーションマネージャー

原田 博文

担当マネージャーからのコメント

東大柏ベンチャープラザは、中小機構が東京大学、千葉県、柏市と連携して運営する大学連携型のインキュベータです。近隣に東京大学や国立がん研究センターなど我が国最高峰の研究機関を擁する好適な立地のもと、常駐するIMが多様な支援機関のネットワークを駆使して、入居企業や地元企業の課題解決をサポートしています。

東大柏ベンチャープラザBI紹介

〒277-0882千葉県柏市柏の葉5-4-19https://www.smrj.go.jp/incubation/tkv/

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インキュベーション事業 2018年度活動報告29

空中映像で不思議な世界を演出する情報通信研究機構(NICT)発ベンチャーの株式会社パリティ・イノベーションズ。代表取締役の前川 聡氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話を伺いました。

株式会社パリティ・イノベーションズ07

起業、会社のおいたち

― 空中映像技術の開発秘話と起業の経緯を聞かせてください 大学時代は原子核物理を専攻し、その後大手電機メーカーに就

職をしましたが、大学院に戻りニューラルネットワークの研究で博

士号を取得しました。ニューラルネットワークというのは、今流行り

のディープラーニングのことなのですが、博士号取得後はNICTの

研究員として研究を続けました。

 しかし、当時はニューラルネットワークの研究が下火になり予算

が減ったことで、最終的には研究室がなくなってしまいました。新

たな研究テーマを模索している時に、神戸大学でホログラフィーの

研究をされている的場先生、仁田先生と出会い、交流する中で立

体ディスプレイが出来ないかと考えるようになり、2005年秋に空

空中映像技術で「スター・ウォーズの世界」を実現する情報通信研究機構(NICT)発ベンチャー

中映像の着想を得るに至りました。

 2006年3月には第一試作が完成して空中映像を実現すること

ができ、特許を出願しました。その後、第二試作が完成して、10月に

学会発表したところ、空中に浮かび上がる奇麗な映像に驚かれま

した。展示会に出展しても多くの皆様から『スター・ウォーズの世界

だ』などと驚かれ、何か新しい価値を提供できると確信しました。

 よく混同されるのですが、ホログラフィーは光の波としての性質

を応用したもので、一方、空中映像は光が直進する性質を応用し

たものであり、全く原理が異なります。直進する光をミラーで反射

させることで、光源と面対称の位置(空中)に「実像」を浮かばせる

ことが可能になります。アミューズメント的な要素の映像にとどま

らず、実像をタッチすることで反応するスイッチなどのデバイスへの

展開も期待ができるシステムです。

 NICTでも毎年予算が付きプロジェクトが発足しました。ところが、

ここからが苦労の連続でした。原理が確立しても、量産化しなけれ

ば事業にはなりません。最初は金属を切削することで結像光学素

子「パリティミラー®」を製作していましたが、画像の精度を保ちつつ

量産化に向けたコストダウンに挑戦するためには、樹脂化して製造

プロセスを革新するしか方法がないと考えました。2010年に遂に

5cm角の「パリティミラー®」が完成し起業することにしました。

事業の展開と現在

― 事業は順調に進みましたか 5cm角が完成してからも順 風満帆とはいきませんでした。

10cm角に挑戦したのですが、3年かけても量産レベルの製品が

出来ずに思考錯誤が続きました。起業後しばらくはNICTとの兼業

で、開発費もNICTから出ていましたが、プロジェクトが終了してし

まい、いよいよ自力で開発を進めなければいけなくなりました。

戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)などの助成金を

活用しながら開発を継続し、材料と製造プロセスの革新を繰り返

すことで、ようやく2018年夏に10cm角、秋に15cm角の量産化に

耐え得る装置での試作に成功しました。

パリティミラー®

技 術 紹 介

パリティ・イノベーションズが開発する光学素子「パリティミラー®」は、2面コーナーリフレクタアレイ構造を持ち、離散的な単位光学素子によって光線を細かく分割、幾何光学的にそれらを集めて結像させるものです。「パリティミラー®」による空中映像は、距離や方向に関わらず空中の確定した位置に見られるため、現実の物体の様な存在感・臨場感があります。10cm角程度の小型の「パリティミラー®」を用いることにより、空中映像は手が届く程の短距離で観察されるパーソナルな装置として実現できます。

クリエイション・コア東大阪 BI入居企業活動事例

Page 31: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

Incubation Report Vol.10 30

インキュベーション事業活動

入居企業の活動

株式会社パリティ・イノベーションズ

 おかげさまで関心を示していただける企業は増えてきましたが、

まだまだ認知度が低いと感じています。大企業の開発部門を訪問

しても存在を知られていないことがあります。また、これまでは空

中映像に関心を示してくれる企業があっても、事業の話になると先

に進めませんでした。理由は量産化の目途が立たなかったので納

入価格などを提示することが出来なかったからです。今後は具体

的な商談が可能になります。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 今後は事業展開を加速することが最優先事項です。SF映画「ス

ター・ウォーズ」のような空中映像が世の中にあふれる社会を実現し

たいと考えています。キャラクターの静止画・動画を浮かび上がらせ

て楽しむということもできます。ゲームの「Pokémon GO」はスマホ

の画面の上で実空間を拡張しているかのように見せていますが、「パ

リティミラー®」を活用した空中映像は実空間そのものを拡張できる

手法です。不思議な世界を演出する可能性を秘めたデバイスです。

 また、非接触のユーザー・インターフェイスとして、病院の手術

室内に置かれる機器のスイッチや自動車のフロントパネルを空中

映像として運転席の前方に表示することも可能になります。

 このようにアミューズメント関連企業をはじめ医療機器や自動

車関連企業、ゼネコン、デベロッパーなどさまざまな分野への展

開を目指しています。

 これらを実現するには消耗品である型の製作費用が必要にな

ります。現在資本金は7,220万円ですが、外部からの出資は受け

ていません。今後は外部からの資金調達も積極的に受け入れてい

きたいと考えています。ご

興味も持っていただける

企業があれば、是非我々

とともに一緒に新しい未

来を創造しませんか。

■入居のきっかけ  東大阪市立産業技術支援センターにいたのですが、サポインに採択され

たことをきっかけに装置を入れることになり、耐荷重面で条件を満たしてい

たクリエイション・コア東大阪に入居することを決めました。東大阪市による

賃料補助制度があり、賃料の50%が出ることも決め手になりました。

■入居しての変化  常駐のインキュベーションマネージャー(IM)が居て、いつでも気軽に相

談できるということが一番の変化です。助成金情報、イベント情報などが

増えました。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  イベントに参加する機会も増えてネットワーク構築に役立っています。IM

が全国ネットワークでつながっていて、東京の大手企業とのマッチングを

サポートしてくれたり、資金調達前に必要となる資本政策の指導をしてく

れたり、とても満足しています。交通の便もよく、会議室が無料で使用でき

るなど利点も多いです。

代表取締役

前川 聡

会 社 名 株式会社パリティ・イノベーションズ

代 表 取 締 役 前川 聡

所 在 地 京都府相楽郡精華町光台3-5 NICTビル

事 業 概 要光 学 素 子 研究開 発・空中ディスプレイ応 用システム研究開発

U R L http://www.piq.co.jp/

2010年12月 NICT発ベンチャーとして設立

2014年12月 「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業に係る補助金」交付決定

2015年6月 東大阪市立産業技術支援センター入居

2017年1月 南都銀行<ナント>サクセスロード特別賞受賞

2017年9月 2017年度戦略的基盤 技 術高度化支援事 業(サポイン事業)採択

2017年10月 池田泉州銀行「ニュービジネス助成金」地域創生賞受賞

2017年11月 クリエイション・コア東大阪入居

2018年9月 三菱UFJ技術育成財団研究開発助成金採択

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

クリエイション・コア東大阪チーフインキュベーションマネージャー

冨田 和之

担当マネージャーからのコメント

 『“空中映像”と言う面白い技術に取組んでいるベンチャー企業がある』と言う噂は、以前から聞いていました。なんとかクリエイション・コア東大阪に引込めないかと思っていたところ、偶然にも同社が入居の希望で相談に来られました。それが(株)パリティ・イノベーションズとの出会いでした。大変驚いたことを思い出します。 「SF・ファンタジーの世界を現実の世界で実現したい」と言う前川社長の強い思いに、つい引込まれてしまいました。“空中映像”のコアデバイスが光学素子「パリティミラー®」です。現在サポインで量産工法の開発を進め、コスト面も含め目途が立ちました。 さあいよいよ事業開始です。幸いにも家電・自動車・医療・アミューズメントなどさまざまな分野の方々に関心を持って頂いています。早期実用化に向けて、IMとして最大限の支援を行っていきたいと思います。

クリエイション・コア東大阪は、「ものづくりの町 東大阪」に立地し、インキュベート機能だけでなく、常設展示機能、行政支援機能、産学官連携支援機能など、複合的機能を持ったものづくりの総合支援拠点です。大阪府、東大阪市、中小機構などが連携し、ワンストップでの支援を行なっています。

〒577-0011大阪府東大阪市荒本北1-4-1クリエイション・コア東大阪 南館https://www.smrj.go.jp/incubation/higashi-osaka/

クリエイション・コア東大阪BI紹介

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インキュベーション事業 2018年度活動報告

卒業企業に聞く!

31

インターネットが普及したのに、生活者が必要とする病院検索サイトがない。世の中にないなら自分が作ってみようと起業したカルー株式会社 代表取締役の具志 林太郎 氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話を伺いました。

起業、会社のおいたち

― 学生時代から起業を考えていたのですか 慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)には学生時代に起

業する方もいますが、私の場合は当時は起業など全く考えていま

せんでした。卒業後は外資系金融機関に入社し、生まれ育った神

奈川県を離れて東京都で生活していましたが、結婚して1歳の子

供に病院を探そうとした際にとても苦労したのです。そのころイン

ターネットで検索しても病院情報はほとんどありませんでした。住

まいを替えたら内科、外科、小児科・・・と一揃いの病院の心当たり

が必要になります。そこで、病院についても「食べログ」のような口

コミサイトがあったら役立つのではと考えたことが起業のきっかけ

になりました。

 ただ、実際に起業したのは、外資系金融機関に5年間勤めて区切

りをつけ退職してからです。とくに最後の1年間は、起業して成功して

いるSFC出身の先輩たちのような生き方をするのか、それとも金融

機関で働き続けるのかをしっかり考えたうえで決断しました。妻は

カルー株 式 会社クリニック経営をサポートするプラットフォーム構築を目指す慶應藤沢IV卒業企業

不安があったでしょうが、反対はされませんでした。SFCで同じサー

クル(NPO法人でのボランティア)の後輩だった松原(現CTO)と今

村(現デザイナー)の3人で2010年3月に会社を立ち上げました。

事業の展開と現在

― 起業後のご苦労について教えてください 我々が目指したビジネスは受託開発ではなく、サービスを提供す

ることにより収益を上げるモデルでしたから、利用者がいなけれ

ば売上げにはつながりません。

 まず、病院検索サイト完成まで半年かかりました。ここまでは覚

悟していましたが、サイト完成後もアクセス数ゼロが続き、毎月の

売上高が0円だったので最初は焦りました。よく考えてみると世の

中に存在しないサイトを大海原にオープンしたようなものですか

ら、アクセスがなくて当たり前ですね。そこでポスティングを実行し

てみたのですが、それでもアクセス数はゼロで全く効果がありませ

んでした。その後、徐々にアクセス数が増えて黒字化に転換するこ

とが出来ました。ちなみに、当初はクリニックや患者からはお金を

いただかず広告収入で運営を始めました。

 営業マンがいない5,6名の体制が4年間続きましたが、営業を

採用するようになってから事業は拡大基調になり、事業の拡大に

伴ってエンジニアを採用し、さらにアルバイトのスタッフがつくとい

うサイクルが回るようになりました。現在では従業員は26名、アル

バイトが16名の企業に成長することが出来ました。その内訳は、営

業が16名、デザイナーが3名、残りはエンジニアです。現在は病院

口コミ検索サイト「Caloo」と動物病院口コミサイト「Calooペッ

ト」を運営しています。

― 採用や組織運営で気を付けていることはありますか 世の中のベンチャー企業でありがちなのは、資金調達を行っ

て優秀な経営層クラスを採用するというパターンですが、当社は

資金調達しておらず株式公開のプレッシャーがありませんので、

事務長代行サービスカルー株式会社が提供する「事務長代行サービス」は、事務

長のいないクリニックに対し、増患(患者数を増やす)対策、

レセプト(明細書)分析、マーケティング、スタッフ管理などの

経営業務を代行し、院長の経営課題をサポートしています。

サ ー ビ ス 紹 介

代表取締役具志 林太郎

Page 33: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

Incubation Report Vol.10 32

常に今いる従業員よりも若い人材を採用するようにしていま

す。企業の成長速度は遅くなるかもしれませんが、着実に成長す

ることが出来ます。というのも、先輩が後輩を育成してくれます

し、責任感や愛社精神も生まれます。「部活カルチャー」とでも

言いましょうか、ここには私の学生時代のサークル活動での経

験が生かされています。

 また採用する際には、会社のカルチャーとフィットする人材かと

いう点を大事にしています。わが社が大事にしたいカルチャーは

「誠実・真摯である」ということです。たとえば営業先では自社以

外のサービスも顧客に提案することが多々あります。あくまで結果

的にですが、営業経験者を採用したことはありません。「正しい在

り方を追求する」、「長

期 的な関 係を構 築す

る」ということが、事業

の拡大につながると信

じています。

そして、これから

― 今後の展望をお聞かせください 営業担当者を採用してクリニックへの訪問を増やした結果、

色々な課題や新たなサービスの必要性に気づきました。世の中

には医科約10万軒、歯科約6万軒、合計で約16万軒のクリニッ

クがあります。このうちの約7割は、患者の獲得という点ではじ

つは困ってはいません。

 課題は全く別のところにあります。一言で言うならば「院内マネジ

メント」です。そもそもクリニックの世界は、医師がオーナーであり、

経営者であり、プレイヤーです。クリニック内では看護師の採用、新し

い設備を導入するための業者との打合せ、税金関係の手続きに至

るまで、多くの業務があり、医師はかなりの高負荷状態にあります。

 たとえばコンビニや薬局はそれぞれ約6万軒程度といわれ、

チェーン化が進んでいます。ところがクリニックは16万軒もあるの

に、先生一人ひとりが苦労されているクリニックがじつに多いので

す。私が考えているビジョンは、当社がクリニックの経営をサポート

するプラットフォームになるということです。先生を支える存在であ

りたいと思います。

■入居のきっかけ  学生時代には、慶應藤沢IVの事を知りませんでした。起業してしばらく

は自宅兼オフィスで仕事をしていたのですが、わが社に4番目に加わったメン

バーが、慶應藤沢IVで起業した経験があり、その存在を教えてくれました。

  学生時代のサークルの先輩が慶應藤沢IVで㈱パンカクを起業して

おられたので、CTOの松原と一緒に話を聞きに行きました。

■入居しての変化  最初はSFCからエンジニアを採用できればと考えていましたが、結果的

にはゼロでした。しかし、藤沢、辻堂エリアに拠点を構えたことで、通勤環

境の厳しい東京で働くよりも地元で働きたいという人材を採用することが

出来ました。

■入居して良かったこと、将来の入居者へのメッセージ  湘南には、本当は地元で働きたいのに希望する職場がないと考えている

人材が多くいることを知りました。藤沢市という立地は人材採用という面

では競争力があります。

  慶應藤沢IVでは、事業の拡大に合わせて部屋を増やして拡充しやす

い点が助かりました。また、さまざまな面で常駐のインキュベーション

マネージャー(IM)がサポートしてくれるのも大変心強かったです。

 カルー㈱は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の卒業生がチーム組成し、慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)を拠点として成長された後、藤沢市内に定着したベンチャー企業です。今や40人を超える雇用を藤沢市に創出され、地域貢献度も高い理想的な創業スタイルを実践しておられます。 今後は、SFC-IVや湘南産業振興財団とのコラボレーションで、藤沢市の創業機運醸成事業にも参画していただくことを予定しており、共に地域のベンチャー支援に貢献していく大事なパートナーです。

会 社 名 カルー株式会社

代 表 取 締 役 具志 林太郎

所 在 地東京都目黒区中目黒1-1-26(本社)神奈川県藤沢市辻堂神台2-2-1 アイクロス湘南8E(ラボ)

事 業 概 要 医療機関検索サイトの運営

U R L https://caloo.co.jp/

2010年3月 東京都目黒区にてカルー株式会社を設立

2010年9月 病院口コミ検索サイト「Caloo」公開

2011年10月 動物病院口コミサイト「Calooペット」公開

2012年5月 神奈川県藤沢市の慶應藤沢イノベーションビレッジにラボを開設

2018年3月 神奈川県藤沢市のアイクロス湘南にラボを移転

会社情報 会社略歴

インキュベーションの利用

慶應藤沢イノベーションビレッジチーフインキュベーションマネージャー

中井 彰人

担当マネージャーからのコメント

インターネットの病院口コミ検索サイト「Caloo(カルー)」

SFC-IVは、慶應義塾大学との大学連携型インキュベーションとして、神奈川県、藤沢市との連携の下、中小機構が運営する施設です。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の一角に位置し、学生向けのシェアードオフィスを備え、創業前からの支援も行っています。湘南藤沢の地に起業家を生み出すべくサポートを行っていきます。

慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)BI紹介

〒252-0816神奈川県藤沢市遠藤4489番105https://www.smrj.go.jp/incubation/sfc-iv/

Page 34: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

インキュベーション事業 2018年度活動報告33

お問い合わせ・ご相談北海道

北海道本部/企業支援課〒060-0002 北海道札幌市中央区北2条西1-1-7 ORE札幌ビル6階Tel.011-210-7471

中 部中部本部/支援推進課〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦2-2-13 名古屋センタービル4階Tel.052-201-3068

東 北東北本部/支援推進課〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町4-6-1 仙台第一生命タワービル6階Tel.022-399-9031

北 陸北陸本部/企業支援課〒920-0031 石川県金沢市広岡3-1-1 金沢パークビル10階Tel.076-223-5546

近 畿近畿本部/支援推進課〒541-0052 大阪府大阪市中央区安土町2-3-13 大阪国際ビルディング27階Tel.06-6264-8617

関 東関東本部/支援推進課〒105-8453 東京都港区虎ノ門3-5-1 虎ノ門37森ビルTel.03-5470-1616

03 和光理研インキュベーションプラザ〒351-0104 埼玉県和光市南2-3-13Tel.048-450-2041 Fax.048-450-2051

04 東大柏ベンチャープラザ〒277-0882 千葉県柏市柏の葉5-4-19Tel.04-7136-8815 Fax.04-7136-8850

05 千葉大亥鼻イノベーションプラザ〒260-0856 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-15千葉大学亥鼻キャンパス内Tel.043-221-0981 Fax.043-221-0982

06 ベンチャープラザ船橋〒273-0864 千葉県船橋市北本町1-17-25Tel.047-426-9014 Fax.047-460-7722

07 農工大・多摩小金井ベンチャーポート〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16東京農工大学小金井キャンパス内Tel.042-382-3855 Fax.042-382-1566

08 慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)〒252-0816 神奈川県藤沢市遠藤4489-105Tel.0466-49-3910 Fax.0466-49-3911

09 東工大横浜ベンチャープラザ〒226-8510 神奈川県横浜市緑区長津田町4259-3Tel.045-989-2205 Fax.045-989-2206

10 浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)〒432-8003 静岡県浜松市中区和地山3-1-7Tel.053-478-0141 Fax.053-473-7221

14 京大桂ベンチャープラザ 北館〒615-8245 京都府京都市西京区御陵大原1-36Tel.075-382-1062 Fax.075-382-1072

15 京大桂ベンチャープラザ 南館〒615-8245 京都府京都市西京区御陵大原1-39Tel.075-382-1252 Fax.075-382-1262

16 クリエイション・コア京都御車〒602-0841 京都府京都市上京区河原町通今出川下る梶井町448-5Tel.075-253-5242 Fax.075-255-4684

17 D-egg(同志社大学連携型起業家育成施設)〒610-0332 京都府京田辺市興戸地蔵谷1同志社大学京田辺キャンパス業成館Tel.0774-68-1378 Fax.0774-68-1372

18 クリエイション・コア東大阪 北館クリエイション・コア東大阪 南館〒577-0011 大阪府東大阪市荒本北1-4-1クリエイション・コア東大阪 南館Tel.06-6748-1009 Fax.06-6745-2385

20 彩都バイオインキュベータ彩都バイオイノベーションセンター〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7-7-15バイオ・サイト・キャピタル(株)内Tel.072-640-1060 Fax.072-640-1080

22 神戸医療機器開発センター(MEDDEC)〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-16Tel.078-306-1162 Fax.078-306-1163

23 神戸健康産業開発センター(HI-DEC)〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町6-7-4Tel.078-304-6227 Fax.078-304-6890

24 立命館大学BKCインキュベータ〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1Tel.077-566-8333 Fax.077-566-8361

01 北大ビジネス・スプリング〒001-0021 北海道札幌市北区北21条西12-2Tel.011-728-8686 Fax.011-728-8687

11 クリエイション・コア名古屋〒463-0003 愛知県名古屋市守山区下志段味穴ヶ洞2266-22Tel.052-736-3909 Fax.052-736-3909

12 名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)〒464-0858 愛知県名古屋市千種区千種2-22-8Tel.052-744-5110 Fax.052-744-5160

02 T-Biz(東北大学連携ビジネスインキュベータ)〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-40Tel.022-726-5866 Fax.022-721-0630

13 いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)〒921-8836 石川県野々市市末松3-570Tel.076-246-4150 Fax.076-246-4270

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Page 35: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

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中 国中国本部/支援推進課〒730-0013 広島県広島市中区八丁堀5-7 広島KSビル3階Tel.082-502-6689

九 州九州本部/支援推進課〒812-0038 福岡県福岡市博多区祗園町4-2 サムティ博多祇園BLDG.Tel.092-263-0302

26 福岡システムLSI総合開発センター〒814-0001 福岡県福岡市早良区百道浜3-8-33(財)福岡県産業・科学技術振興財団 先端半導体部Tel.092-832-7151 Fax.092-832-7152

27 クリエイション・コア福岡〒818-0041 福岡県筑紫野市上古賀3-2-16Tel.092-929-2218 Fax.092-929-2238

28 くまもと大学連携インキュベータ〒860-0812 熊本県熊本市中央区南熊本3-14-3Tel.096-364-5115 Fax.096-364-5116

29 ながさき出島インキュベータ(D-FLAG)〒850-0862 長崎県長崎市出島町1-43Tel.095-811-6800 Fax.095-811-6801

25 岡山大インキュベータ〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1Tel.086-214-5711 Fax.086-214-5712

大学連携型起業家育成施設産学官連携による研究開発を促進し、新事業創出に資する大学等と連携した起業家育成施設の運営を行います。

新事業創出型事業施設地域における新たな事業の創出に取り組む事業者の用に供する施設の運営を行います。

Page 36: Incubation Report › ebook › incubation_report_10 › book.pdfIncubation Report Vol.10 02大学など 地域の支援機関 地域の企業など 研究成果の産業化 技術面での指導

Vol.10

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

IncubationReport

インキュベーション事業 2018年度活動報告

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

https://www.smrj.go.jp/incubation/

(本部)創業・ベンチャー支援部 創業・ベンチャー支援課〒105-8453 東京都港区虎ノ門3-5-1 虎ノ門37森ビル TEL.03-5470-1574

(2019年8月制作)