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1 教育の国際化と学生の国際化 -チューニングと学外学修の試み-

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教育の国際化と学生の国際化

-チューニングと学外学修の試み-

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21世紀グローバル社会が直面するのは、グローバル・チャレンジ、グランド・チャレンジと呼ばれる人類社会共通の諸課題:

グローバル化のなかで生じてきたこれらの課題に対しては、解決方法もグローバル化させていくほかない。人的・経済的資源を自国に投入して解決策を深く探る「タテ型」の対策だけでは不十分。国境や文理の専門性や職場の壁を超えた「合わせ技的取組み」「ラウンドテーブル型」という「ヨコ型」連携が強く求められる時代。ICT技術の革新を前提に、そうしたグローバル・チームを組織・牽引し、人類・国際社会の共通課題の発見と解決に向かうイノベイティブな人材の養成が喫緊の課題。

医療 食料と水 エネルギー 環境 人口激増と少子高齢化 世代間格差 ・・・

1. いま求められている「大学教育の国際化」とは何か

21世紀型教育・知の在り方にこのようなパラダイム転換が生じているいま、わが国の高等教育はそれに応える「国際化」を志向しなければならない。

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① 教育の国際的通用性 validity の強化

→ チューニング事業の推進による教育の国際的な比較可能性・等価性の確立とそれに基づく学術的信頼性の共有

② 学生の国際流動性 mobility の向上

→ 留学生の派遣と受入の拡大

機能強化事業の柱としての①②

「国際化」は、グローバリゼーションの先にある世界 globalization and beyond を捉え、構想し、その実現を志す人間を育成する土台

この新たな「国際化」への志向性をもつ受験生の確保と入学者の学修意欲をさらに高める工夫

①②ともに学内外における学生の主体的な学びへの意欲が前提

2. 一橋大学の教育改革方針

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3. チューニングの世界的拡大

1.チューニングとは何か?

域内の大学間で教育環境や科目の内容、評価方法、学修支援、得られる能力等について共通の認識を持ち、互換性を認め合うための手続き

2.チューニングの目的チューニングはカリキュラムの統一化、規格化、標準化を目的としない。学生主体の learning 重視の観点から、専門分野別に、次の達成を目指す。

① 教育課程に関するアカウンタビリティの強化② 学生の流動化や学修機会の多様化促進

③ その上での各大学における教育の独自性や特色のさらなる強化

3.チューニングの歴史

EUの高等教育改革計画であるボローニャ・プロセスが起源。1990年にイタリア・ボローニャにヨーロッパ29カ国が集まって着手。EU域内の国々では、教育システム

がばらばらで相互参照性が低かったため学生が自分の大学・国から出にくく、EUが

目指す「ヨーロッパ人」の育成につながりにくかった。そこで、ボローニャでの宣言を実現するために、欧州委員会の指導のもと、2000年に大学主体の事業として TuningEducational Structures in Europeを開始。

2008 Tuning USA 2010 Tuning Russia2011 Tuning Australia

Tuning América LatinaTuning Africa

2012 Tuning CanadaTuning AHELO

2013 Tuning ChinaTuning Central Asia

2013 Tuning Japan

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4.多様性強化と国際流動性実現の二つの戦略

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戦略1:単一の教育組織の内部で多様性と流動性を実現

戦略2:複数の教育組織が共同で多様性ある教育プログラムを構成 (図は一橋大学森有礼

高等教育国際流動化センター松塚ゆかり教授作成)

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5. 一橋大学森有礼高等教育国際流動化センター

平成26年4月設置

チューニングを中心とするモビリティー促進計画を研究・開発し、その実践を支援するセンター

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アジア協働基盤

TUNING

JAPAN

フィージビリティ・スタディ・メソッド

キャンパス・アジア、共同研究体制アジア・太平洋社会科学ネットワーク

教育改革推進懇話会 12大学チューニングWG

TUNING ASIA

6. 一橋大学チューニング事業の視野

森有礼高等教育国際流動化センター

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学生・院生、教員、卒業生、企業その他の雇用主を対象に、大学・大学院で養成することが期待される知識や技能に関し、汎用的コンピテンス及び分野別コンピテンスを調査。以下の諸点の解明が期待できる。

1. 各大学は分野ごとにどのようなコンピテンスの形成を目指して教育を実践しているのか

2. 学生・院生はそれをどのように捉えているのか

3. その学科・専攻の卒業生・修了生は、職業実践のなかでそれをどのように役立てているのか

4. 大学の教育実践と雇用者の要請の間にはどのような一致と不一致があるのか

以下のような具体的成果を想定:

① コンピテンスについて、大学(教員)、学生・院生、卒業生・修了生、雇用主の認識における同一性と相違性を確認できる。

② それは大学院を含めた大学教育の説明責任を果たすことに資するとともに、社会や経済のニーズを汲み取った教育課程の編成、カリキュラム改善、教育内容の向上をもたらす。

③ 個々の大学がそれぞれの強みと特色を確認し、その強化を図ることができる。

④ 上記工程をチューニング世界ネットワークと共通の枠組みで行い、他の地域の調査結果と比較検討することにより、対象分野の国際的比較可能性と等価性を高めることができる。8

7. チューニングの前提としてのコンピテンス・サーベイ①

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⑤ 上記作業の積み重ねにより、教科の相互認証性の確保から学位の相互認証性の向上へと発展し、共同学位や連携学位の学術的信頼性を高めることができる。

⑥ 主要分野において学士課程・修士課程・博士後期課程教育で修得されるコンピテンスについて、具体的な定義を作成することができる。

これらを広く把握し、今後のわが国の高等教育実践の改善に寄与することが調査の目的。海外の先進的事例に倣い、チューニング実践の準備段階として、各教育分野において卒業時に学生が身に付けることが期待されている能力や技能について理解を共有し、そこに各大学がもつミッションやポリシー、教育的特色を反映させてカリキュラムを形成していくことが、グローバル化時代における各大学の教育的リソースや強みを活かしつつ分野ごとの教育の質保証を実現するための有力な方法になる。

これは、調査結果をもって大学教育の「共通化」や「標準化」を図るものではない。各大学の特色と機能を認識・強化する機会とし、学生・教員の流動性の向上と各大学の国際競争力強化を同時に実現させる手立てとする。各大学が有する海外大学パートナーとのチューニングへと発展的に展開することにより、国際的に高レベルの課程調整が可能となる。その成果をもとにモデルを構築し、日本国内全大学への配信と普及を図ることは、日本の高等教育の国際化に深く貢献する。

8. チューニングの前提としてのコンピテンス・サーベイ②

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1. 一橋大学は昭和62(1987)年度から海外派遣留学制度を、平成20(2008)年度から海外語学研修/短

期海外研修を制度化してきた。近年の入学者について、留学の成績や進路への影響を見ると、次の傾向があることが分かる。

①【グラフ1】 短期の海外語学研修/短期海外研修

のあとに長期の海外派遣留学制度に応募し選抜されるという、短期留学が長期留学へとつながる傾向がより強くなっている。

②【グラフ2】 大学が公募し経済支援をする長期・短期の学生留学制度の経験者のGPA値は向上する傾向にある。

③【グラフ3】 大学が公募し経済支援をする長期・短

期の学生留学制度の経験者は、大学院に進む割合が高い傾向にある*1 。

2. このように、近年のデータからは、短期を含めた留学にはその後の学修や進路にポジティブな影響を認めることができる。

【グラフ2】留学前と留学後のGPA比較(2010年度入学者 N=1005)

*1 2009年度入学者のうち、長期の派遣留学経験者の大部分は2013年度卒業となるため、【グラフ3】はその

大学院進学を含んでおらず、短期留学プログラムの経験者で大学院に進学した者のみの数値である。2014年度

に大学院へ進学する大学公募の留学制度経験者は一層増加すると思われる。

2.5

2.6

2.7

2.8

2.9

3

3.1

3.2

3.3

3.4

3.5

公式

短期

留学

公式

長期

留学

公式

短期

+長

公式

留学

未経

験者

9. 学生の国際流動性の向上 (学部時代の留学の効果)

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目標1(学生): なるべく早期にグローバル環境を経験し、学修エンゲージメントを向上させる 。

目標2(学生):在学中に高度の英語運用力を獲得する。

目標3(大学): 現在約20%の在学中留学率(学士課程)を第3期中期目標期間中に100% に近づけ、「留学の一橋」ブランドを強化する。

海外留学モニターの募集について

問合せ先:教務課・国際課 Mail: [email protected]

対象:学部1・2・3年生100名程度

【スケジュール(予定)】12月18日(水)12:10~ ・・・説明会[第1講義棟 304番教室]12月26日(木)12:10~ ・・・説明会[第1講義棟 304番教室]12月27日(金)12:10~ ・・・説明会[第1講義棟 304番教室]12月下旬 ・・・募集開始1月10日(金) ・・・募集締切1月中旬 ・・・渡航者発表1月22日(水) ・・・TOEFL-ITP受検1月下旬~2月上旬 ・・・オリエンテーション2月下旬~3月下旬頃 ・・・留学帰国後 ・・・留学報告・アンケート等提出4月1日(火) ・・・TOEFL-ITP受検

留学に興味がある、本格的な留学の前に試しに短期留学の経験をつみたい、以前の留学先とは異なる国を体験してみたい、英語は苦手で留学は他人事だと思っていたが、良い

機会なので留学体験をしてみたい、など希望のある方はふるってご応募ください。

説明会は昼休みに行います。昼食を食べながら参加してもらって構いません。

あなたは短期留学に興味がありますか?プログラムの中身、環境、学生の取り組み方の何が短期留学を成功させると思いますか?一橋大学は、学生の留学機会の増大を考えています。それには、短期留学の過程や成果に関するデータが必要です。そのデータ集めに協力しませんか? モニターになる学生には、

来春、自己負担の軽微な英語圏留学(4週間程度)の機会が与えられます。(語学能力に応じた少人数クラス(15人程度)で、多くの国籍の学生と授業を受けられる環境が用意されます。)出発前から留学中、帰国後までe-ポートフォリオを通じて質問に答え、報告を行うこと、1月22日と4月1日の大学主催のTOEFL-ITP試験を受けることが条件です。※希望者のなかからモニターを選考します。詳細については、12月に実施される説明会にて発表します。

10. 海外短期語学留学の試行

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11. 第1回試行(平成25年度)の結果①

今回の短期留学は

意義あるものでしたか人数

1 とても意義があった 75

2 どちらかというと意義があった 24

3 どちらかというと意義がなかった 1

4 ほとんど意義がなかった 0

計 100

帰国直後のアンケート回答結果

留学前の参加動機アンケート回答結果

1 英語のスキルアップ 922 長期留学の準備 493 費用が安い 434 何かに挑戦したい 325 もっと海外に行きたい 316 異文化に触れたい 307 海外に行ったことがない 168 外国人の友達がほしい 69 その他 7

合計 306

出典:落合一泰・中村弘子 2014 「『全員留学』の実現に向けた海外留学モニター派遣が始動」Hitotsubashi Quarterly 44:19

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出典: 落合一泰・中村弘子 2014 「『全員留学』の実現に向けた海外留学モニター派遣が始動」Hitotsubashi Quarterly 44:20-21

12. 第1回試行(平成25年度)の結果②

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13. 短期留学経験から長期留学希望へ

第1回試行参加者の平成27年度長期留学(1年)への志願率は、応募したが選抜されなかった者の約2倍。4週間と

いう短期間であっても、実際に海外の地を踏み英語を学び生活したモニター経験が、学生の長期留学への意欲を高め決断を促した可能性がある。今後、国際通用性ある学内教育の充実を図るとともに、留学経験者のGPAや大学院進学率を追跡したい。

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14. 考察

1. グローバル化の進展とともに「大学教育の国際化」の意味が大きく変化。国際社会や人類の共通課題の発見とその解決を図る「ヨコ型」人材の養成が、わが国高等教育に求められる最先端の「国際化」課題。しかし、特定領域の専門的進化という日本がこれまで強みを発揮してきた「タテ型」の発想だけでは新たな高等教育を設計しきれない。高等教育における21世紀型「国際化」の要請に応えるには、日本の大学の歴史的性格を見直す必要もあろう。

2. そのひとつは、各大学が自己完結性を重視してきたこと。入学試験からカリキュラム構成、単位認定、卒業判定、そして進路指導にいたるまで、大学はすべてを自前でまかなおうとしてきた。その結果、大学間の学生や教員の流動性が国内でも十分に高いとはいえない状況が今でも続いている。たとえばA大学の学生が自分の専門分野についてB大学で1学期勉強し、さらにC大学でもう1学期勉強してそれぞれの学風を身に付け、そして本籍のあるA大

学に戻り学位を得るというような各大学の強みを吸収して学生を育てる仕組みは、まだ国内にない。教育の国際通用性の向上と学生の流動性の強化、すなわち「大学のコントロールされた開放」の導入を妨げる自前主義という歴史意識がそこにあるのではないか。

3. もうひとつは、日本が学位より資格が優先する社会であること。学位は国際的な信認に基づくが、資格は国内資格が大部分。その取得に努める場として大学が存在するのであれば、資格取得に直結しない「教育の国際化」の推進には限界があるのではないか。

4. いま日本の大学に求められているのは、こうした日本の歴史的・社会的性格を乗り越えるようなパラダイム変換ではないか。「国際化」という言葉は、日本の高等教育に内在する根源的問題を照らし出しているのかもしれない。

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【参考文献等】

落合一泰 2013 「日本の大学の歴史的性格とチューニング」国際フォーラム「『チューニング』の実践と普及」キーノート・スピーチ、一橋大学戦略推進経費事業

落合一泰 2013 「学生の国際的流動性、教育プログラムの国際的通用性向上に向けた《チューニング》」Hitotsubashi Quarterly 39:18-19

落合一泰 2013 「タテ型からヨコ型へ:グローバル社会が求める高等教育の設計とチューニング」第2回チューニング国際シンポジウム「チューニングによるグローバル産学官連携」キーノート・スピーチ、一橋大学戦略推進経費事業

落合一泰 2013 「森有礼高等教育国際流動化センター:日本の高等教育のパラダイム変換を推進する新センターが誕生!」Hitotsubashi Quarterly 43:12-14

落合一泰 2014 「タテ型からヨコ型へ―一橋大学が目指すグローバル時代の新たな高等教育」『月刊経団連』8月号、pp.60-62

落合一泰・中村弘子 2014 「『全員留学』の実現に向けた海外留学モニター派遣が始動」Hitotsubashi Quarterly 44:18-21

落合一泰・中村弘子 2014 「一橋大学と如水会のコラボレーション―海外留学モニター学生と海外支部の交流会報告」『如水会会報』1007:96-98(12月号)

ご清聴ありがとうございました。