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Meiji University Title �(�) Author(s) �,Citation �, 68(1): (1)-(26) URL http://hdl.handle.net/10291/1392 Rights Issue Date 1995-09-05 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Meiji University

 

Title 司法・裁判制度の改革(一)

Author(s) 納谷,廣美

Citation 法律論叢, 68(1): (1)-(26)

URL http://hdl.handle.net/10291/1392

Rights

Issue Date 1995-09-05

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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(1)

法律論 叢 第68巻 第1号(1995・9)

【翻 訳 】

司法 ・裁判制度の改革(1)

納 谷 廣 美

訳者 まえが き

A年(1995年)は 、 戦 後50年 目の 記 念 すべ き年 で あ る。 新 聞 ・ラ ジ オ ・テ レ

ビ さ らに は各 種 出 版物 に お い て、 「戦後50年 」 特 集 が企 画 され、 終 戦 記 念 日の

8月15日 を 中心 に数 多 くの 催 しが実 施 され るこ とで あ ろ う。

1992年7月 、(株)日 本 図 書 セ ン タ ー か ら私 あ て に 、竹 前 栄 治 ・中 村 隆 英

監修 「日本 占領GHQ正 史 」(連 合 国最 高 司令 官総:司令 部GHQ/SCAPの 編 集

に か か る もの で 、 原題"HistoryofNon-militaryActivitiesofOccupationof

Japan,1945-1951")の 全55巻(後 掲(2頁)「 日本 占領GHQ正 史」 巻 構 成 参

照)の うち第14巻 「司 法 ・裁判 制 度 の 改 革LegalandJudicialReform」 の翻

訳依 頼 を うけ 、既 に発 刊 して い る共 訳本 ・A・ オプ ラ一 著 「日本 占領 と法 制 改

革 」(日 本 評 論社 、1990年)と の関 連 もあ り、 た だ ちに受 諾 した。 そ の仮 訳 を

重 ね て、 ほ ぼ 翻 訳 の完 成 をみ たが 、 現 時 点 で 第 一 陣 グル ー プ(1~11巻)の 出

版 が 当初 予 定 よ り大 幅 に遅 れ て い る こ とか ら、 私 の 担 当す る翻 訳本 の発 刊 も遅

れ る よ うに 見 込 まれ る の で、 と りあ えず、 本 誌 にお いて仮 訳 の形 で発 表 させ て

い た だ くこ とに した。 本 書 では私 の専 門分 野 で な い とこ ろ まで、 そ の 内容 が 及

ん で い る こ とか ら、翻 訳 に 際 して 思 わ ぬ ミス に陥 っ てい る こ とが発 生 し うるか

も しれ な い。 そ の場 合 に は 、是 非 、厳 しい御 指摘 ・御 批 判 を賜 わ りた い と思 う。

日本 図書 セ ン ター か ら単行 本 として正 式 に発刊 す る場 合 、再考 させ て いた だ き、

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(2)法 律 論 叢一

正確 性 を 高め た い と思 って い る。

本 仮 訳 に あ た って は、 明治 大学 短 期大 学 助 手(当 時)の 大 下 す みの さん に大 変

に世 話 に な っ たほ か 、 同僚 の高 地 茂 世助 教 授 お よ び法務 図書 館 々 長(当 時)向

英 洋 氏か ら資 料 の 提供 を うけ てお り、 こ の場 をか りて厚 く御 礼 を 申 し上 げ る。

な お、 原注 お よび 訳 注 は各 車 ご とに番 号 をふ り、 原 注 は脚 注 と し、 訳 注 は 各

車 の後 注 と し た。 本文 中、 原 注 は(1)(2)(3)_.と し、訳 注 は*1*2*3一..と して

表 示 した。 訳 注 に つ い て は、 これ に か えて[]で 括 って 訳語 を補 っ た場 合 が

あ るほか 、明 白 な原文 の誤 記 につ いて は 真 の事 実 に即 して 訳 出 して い る。

「日本占領GHQ正 史」巻構成

巻 内容

1 Introduction序(付 ・解 説解 題)

2 AdministrationoftheOccupation占 領 行 政

3 LogisticSupport物 資 と労 務 の調 達

4 Population人 口

5 TrialsofClas:"B"andClass"C"WarCriminalsB・C級 戦犯 裁 判

6 ThePurge公 職 追 放

7 ConstitutionalRevision憲 法 改 正

8 NationalAdministrativeReorganization国 家行 政 の再 編

9 DevelopmentofLegislativeResponsibilities立 法 責 任 の 発展

10 ElectionReform選 挙 制 度 改 革

11 DevelopmentofPoliticalParties政 党の 発 展

12 ReorganizationofCivilService官 吏 制 度 の再 編

13 LocalGovernmentReform地 方 自治 改 革

14 LegalandJudicialRefbrm司 法 ・裁 判制 度 の 改 革

15 PoliceandPublicSafety警 察 と治 安

16 TreatmentofForeignNations且s外 国人 の 取 扱 い

17 FreedomofthePress出 版 の 自由

18 RadioBroadcastingラ ジ オ放 送

19 TheaterandMotionPictures劇 場 ・映 画

20 Education教 育

21 Religion宗 教

22 Pub[icHealth公 衆 衛 生

23 PublicWelfare公 共 福 祉

24 SocialSecurity社 会 保 障

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司法 ・裁判制 度の改革(1)(3)

25 Reparations賠.償

26 ForeignPropertyAdministration外 国人 の 資産 管 理

27 JapanesePropertyAdministration日 本 人の 資産 管 理

28 EliminationofZaibatsuContro1財 閥解 体

29 DeconcentrationofEconomicPower経 済 力の 集 中排 除

30 PromotionofFairTradePractices公 正取 引 の促 進

31 DevelopmentoftheTradeUnionMovement労 働 組 合 運動 の 発 展

32 WorkingConditions労 働条 件

33 TheRuralLandRefbrm農 地 改革

34 AgricultureCooperatives農 業協 同組合

35 PriceandDistributionStabilization=Food価 格 ・配 給 の安定 一食糧

Program部 門 の計 画

36 PriceandDistributionStabilization:NonFood価 格 ・配 給 の安定 一非 食

Program糧 部 門の 計 画

37 NationalGovernmentFinance国 家財 政

38 LocalGovernmentFinance地 方 自治 体財 政

39 MoneyandBanking通 過 と金 融

40 FinancialReorganizationofCorporate法 入企 業 の 財政 再 編

Enterprise

41 Agriculture農 業

42 Fisheries水 産業

43 Forestry林 業

44 RehabilitationoftheNon-FhelMiningIndustries不 燃 鉱 業 の復 興

45 Coal石 炭

46 ExpansionandReorganizationoftheElectric電 力 ・ガス産 業 の 拡 大

PowerandGasIndustriesと 再 編

47 ThePetroleumIndustry石 油産 業

48 TheHeavyIndustries重 工業

49 TextileIndustries繊 維工 業

50 TheLightIndustries軽 工業

51 ReorganizationofScienceandTechnologyin日 本 の科 学技 術 の 再 編

Japan

52 ForeignTrade外 国 貿 易

53 LandandAirTransportation陸 上 ・航 空運 輸

54 WaterTransportation水 上 運輸

55 Communications通 信

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(4)一 法 律 論 叢一

司法 ・裁判制度の改革

目次

第1章 政策および初期 の活動5.1恩 赦

1.1基 本政策'5.2請 願

12連 合 国最高司令 官の計画5・3国 家賠償

1.3人 権 に対す る制限の除去5・4人 身保護

5.5刑 事補償第2章 新 しい司法組 織の骨格の

確立5.6人 権擁護局

5.7人 権擁護委員2.1新 憲法

2.2司 法規定 第6章 新 しい司法組織

2.3人 権規定6・1裁 判所の概 要

2.4臨 時の立法(以 上本号)・62最 高裁判所

6.3下 級裁判所第3章 民事分野 におけ る法改革

6.4司 法行政3.1民 法

6.5占 領下 におけ る裁判権 の3.2戸 籍 制限

3.3家 族関係6.6海 難審判所

3.4民 事訴訟法 第7章 裁判官 お よびその他 の裁

3。5行 政訴訟法 判所職員

3.6国 籍法7.、 任命 と資格

第4章 刑事分野における法改革7 .2身 分の保 障

4.]刑 法 .7.3報 酬 と手当

4..刑 事訴訟法7.4そ の他 の裁判所職員

4.3刑 事被告人の権利 ・7.5人 事 お よび裁判権の移行

4.4捜 査お よび逮捕7.6最:高 裁判所の構成員の選出

4,5上 訴制度 第8章 補足的な改革

4.6改 正の効 果8 .]法 務庁

第5章 個人の自由[尊 厳]と 人権8.2検 察庁

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一 司法・裁判制度の改革(1)一(5)

8.3弁 護士 法9。2裁 判手続の実例

8.4司 法書士9.3家 庭裁判所 の手続

第9章 諸改革の実務的観点9.4改 革の民主化

9.1審 理の方法

付 録

1連 合 国 最 高 司令 官 指 令 第93号(1945年10月4日)

2連 合 国 最 高 司令 官 指 令 第458号(1945年12月19日)

3日 本 国 憲 法(1947年5月3日)

4憲 法 の 施 行 に伴 う民 事 訴 訟 法 の 応 急 的措 置 に関 す る法 律(1947年4月19

日法 律75号)

5刑 事 訴 訟 法(1948年7月10日131号 、 改正 と しての1948年12月21日

法律260号 、1949年5月28日 法律116号)(抜 粋)

6首 相 と連 合 国最 高 司令 官 との不 敬 罪の 廃 止 に 関す る書簡 の交 換

A吉 田茂 首相 か ら最 高 司令 官 へ の 書簡(1946年12月27日)

B連 合 国最 高 司令 官 か ら 日本 国 首相 へ の書 簡(1947年2月25日)

7裁 判 所 法(1947年4月16日 法律59号)

8連 合 国最 高 司 令 官指 令 第756号(1946年2月19日)

9連 合 国最:高司令 官指 令 第2127号(1950年10月18日)

10裁 判 所 法 施 行 法(1947年4月16日 法律60号)

11連 合 国最 高 司 令 官 か ら 日本 国 首相 へ の書 簡(1947年9月16日)

12法 務 庁 設 置 法(1947年12月17日 法 律205号)

13弁 護 士 法(1949年6月10日 法 律205号)

第1章 政策および初期の活動

1.1基 本 政 策

司法 ・裁判制度の領域における改革の基本政策は、ポツダム宣言に由来して

いる。同宣言は、日本政府に対 して、 日本国民の間における民主的傾向の復活 ・

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(6)一 法 律:論 叢

強化 に対 す る二 切 の 障害 を 除去 す る こ と、 お よ び 言論 思 想 の 自由 と基 本 的 人権

の擁 護 を確 立 す る こ とを求 め て い た(1)。 降 伏 文 書 は、連 合 軍 に対 して 、次 の よ

うな こ とを要 求 す る権 利 を与 えて い た。 す な わ ち、 国民 に対 して責 任 あ る政 府

が 樹 立 され る こ とな らび に民 主 主 義 諸 国 の 市民 が通 常 享受 して い る諸 権 利 を認

め か つ 擁 護 す るこ との ため に、 日本 の 基本 法が 変 更 され るべ きこ とを要 求 す べ

き権 利 を認 め て い た。 同文 書 は、 さ らに 、天 皇 お よ び政府 の権 能 を最 高 司令 官

の そ れ に服 しめ てお り(subordinated)*1、 最 高 司令 官 に は 自 己の権 能 を 自 ら適

当 と考 え る とお りに行 使 す る こ とが授 権 さ れ て い た。

降伏 後 の初 期 政 策 は、 連 合 国 が 民 主 的 な 自治 政 府 の 原則 に で き る限 り接 近 し

て い る政府 の樹 立 を望 ん で い た こ と を宣 言 して い たが 、他 方 で、 連 合 国が 日本

に 対 して 国 民 の 自由 に表 明 した意 志 に よっ て維 持 され な い よ うな政 府 の いか な

る形 態 を も押 しつ け な い こ とを明 らか に して い た ② 。 同 文 書 は 、 人 種 、 国籍 、

信 条 また は政 治 的意 見 に よ る差別 を定 め て い る法 令 ・規 則 が 廃 止 され なけ れ ば

な らな い こ と、 お よ び、 占領 の 目的 ・政 策 と矛 盾 す る諸 法 規 が 、 要 求 どお りに

廃 止、停 止 また は修正 され な けれ ば な ち ない こ と を、 は っ き り とう た って い た。

そ れ らの法 規 の施 行 を担 って い た政 府 機 関 は、 廃 止 また は然 るべ き改 組 を しな

け れ ば な らなか っ た(3)。

以上 の諸政 策 は、後 に承 認 され た基本 占領指 令*2に お いて再 確 認 され て い る(4J。

同指 令 は、 さ らに 、 ポツ ダ ム 宣言 にお いて 設定 され た諸 目的 の達 成 の妨 げ とな

る法 令 ・規 則 、 あ るい は 、 降伏 文 書 も し くは発 せ られ た指 令 と矛 盾 す る一切 の

法 律 ・勅 令 ・命 令 ・規 則 につ き、 それ らの廃 止 を求 め る こ と を、最 高 司令 官 に

命 じて い る。

その 同指 令文 書 に お い て、 日本 の 司 法 ・裁 判 所 制 度 の全 面 的 改革 の 必要 性 が

明 らか に され て い る*3。 司 法 ・裁 判 お よ び警 察 の 制 度 は 、 で きるか ぎ りす みや

(1)ポ ツ ダ ム宣 言 、1945年7月26日

②1945年9月22日 付定 期 刊 行 物Serial10号、 第1部B項

(3)1945年9月22日 付定 期 刊 行 物10号 、 第3部3項

(4)1945年11月8日 付定 期 刊 行 物18号 、 第1部4f項

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司法 ・裁判制度の改革(1)(7)

かに改革されなければならず、しかも、その後に、それらの制度が前向きに個

人の自由および人権を擁護することになった。法律の領域における積極的改革

は、政治的、経済的、社会的諸制度における民主的な傾向とプロセスの強化 を

達成するために求められていた㈲。

最高司令官は、通常の刑事 ・民事裁判所が彼の規制 ・監督 ・管理のもとに機能

するよう権限を与えること、ならびに、受け入れがたい裁判官その他の裁判所

職員をできるだけすみやかに解任することを、特に指示されていた⑥。彼は、

司法審査に関する全権を保持し、また、 占領目的と相容れない裁判を拒否する

ことができ、さらに、廃止されるべ き類型の法律または規則のみで拘留されて

いた者を釈放することもできた(7)。占領利権のさらなる権益保護 として、最高

司令官は、日本の裁判所から、連合国の個人および法人に対する民事 または刑

事の裁判権 を奪 うことができた(8)。

極東委員会の憲法改正に関する政策声明の後、最高司令官は、1946年7月6

日に、独立の司法権、 日本の裁判権に服する者に対する基本的人権の保障、お

よび貴族階級のような特定の社会集団に対する特権の否定に関する諸規定 を責

任をもって実現するよう指示されている(9>。

極東委員会によって採用された占領政策に関する1947年6月19日 付一般声

明*4は、裁判 ・司法および警察制度の改革を求める初期の決定を再確認し、さ

らに、これらの制度にかかわる全公務員に対し個人の自由および人権 を擁護す

るよう求めるべきことを指示 した(10)。

1.2連 合国最高司令官の計画

これらの指令によって連合国最高司令官に課せ られた任務は、自ずと、次の

(5)定 期 刊 行 物10号 第3部3項 、 お よび定 期 刊 行 物18号2項

(6)定 期 刊 行 物18号5e項

(7)定 期 刊 行 物18号4e,fお よび1946年6月11日 付 定 期 刊 行 物51号2e項

(8)1946年8月23日 付 定期 刊 行 物58号

〔9)1946年7月6日 付 定期 刊 行 物54号1b・c項

(10)1947年6月28日 付 定期 刊 行 物82号 第3部3項

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(8)一 法 律 論 叢

3つ の 局 面 に わ た る活動 に な る。

(1)人 権に関する法令 ・行政上の制限の即晴撤廃

(2)占 領 目的との適合を達成 し、下級の行政法規 を通 じて個人の諸権利の侵

害を許 している抜け道を封 じるために、現行の実体法 ・手続法の改正お

よび社会制度の修正

(3)改 正法で具体化された諸権利 を守るために適当な統治機構の組織化、な

らびに国民が新 しく獲得 した諸権利の行使に関す る国民教育

上記活動計画の第1、 すなわち、圧政的な法律および制度の一掃は、連合国

最高司令官が 日本政府に対 して発 した一連の実施命令 を通 じて行われた。第2

および第3の 計画においては、人権に関する新 しい考え方を育成するという、

よりデリケー トな任務 を含んでいることから、さらなる忍耐と穏健な政策が求

められていた。この問題へのアプローチに際 して、連合国最高司令官は、法曹

界および労働界における進歩的趨勢 を利用 した。それらの団体 では、長年にわ

たって法制度の近代化 と、基本法における改正を模索していたが、成功してい

なかった。それらの運動は、1930年 以降、政府によって厳 しく抑圧されてきた

が、それにもかかわらず、彼らは、連合国最高司令官の任務にとって、必要な

改革 を誘発する手近な手段であった。それゆえ、連合国最高司令官は、一貫し

て、現存の機構および機関を通 じて、改革を励まし、勇気づけてきた。そのや り

方は、日本人に対 し、彼らの意見や反応を公表 したり、新 しい法律の中に日本

的な慣習と調和 した固有の法思想を、具体化することを許すということであっ

た(11)。

占領軍は、概 して、改正法の制定 を国会に委ねていた。 もっとも、多くの場

合、その活動は、連合国最高司令官指令SCAPINま たは政府に対する命令(そ

(11)ア ル フ レ ッ ド ・C・ オ プ ラー 「連合 国 占領 下 に おけ る 日本 司法 ・裁 判制 度 の 改革The

ReformofJapan'slegalandjudicialSystemunderAUiedOccupation」 ワ シン ト

ン ・ロー ・レ ビ ュー24巻3号(1949年8月)292頁

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司法 ・裁判制度の改革(1)(9)

れ は、 望 まれ て い る改 革 の本 質 を一般 的 な用 語 で記 述 して い た)に よ っ て、 導

か れ て い た。

純粋 の 司法 ・裁 判 改革 に 関す る領 域 に お い て、連合 国最 高 司令 官 指令 が 、一 度

も発せ られ なか っ たこ とは、 注 目に値 す る。 そ のか わ り、連 合 国最 高 司令 官 の見

解 は、 たい て い公 に さ れ て いた し、 意見 が 食 い違 う点 は 、協 議 お よ び ラ ウ ン ド

テー ブ ル 方 式 の討 論 で 、徹 底 的 に 検 討 され て い た*5。 こ の領 域 にお い て、 連合

国最 高 司令 官 が立 法 を要 請 した事 例 は、 最 高 司 令 官 か ら首相 に あ て た次 の 書 簡

2通 だ け で あ る。 そ の一 つ は、1947年2月 に、不 敬 罪 の廃 止 を求 め た もの(12)で

あ り、 もう一 つ は、1947年9月 に、 警察 の 非 中 央集 権 化 と法務 庁 の設 置 を指示

した もの(13)で あ る(14》。

1.3市 民 的 自由[人 権]に 対 す る制 限の 除去

連合国最高司令官の司法 ・裁判改革計画における最初の措置は、日本国民の精

神 を支配し続けてきた圧政的な法律および機関を一掃すること、および、そう

した法律の違反によって拘留ないし保護観察されていた者を釈放することであっ

た。既述のとおり、この初期の職務は、大権的(prerogative)行 動を必要とし、

占領直後の数週間内に発せ られた一連の最高司令官指令において遂行 された。

これらの指令の うち最 も重要なものは、1945年10月4日 の人権指令(15)で、

日本政府に対 して、政治的、市民的および宗教的な自由の法的制限を廃止する

ことを求め、 もって、その法令適用の結果、何人も人種、国籍、信教 または政

治的信条を理由に、便宜が不平等に与えられた り、または不利に陥れられたり

することがないことになった。そのほか、いくつかの連合国最高司令官指令は、

軍国主義者および帝国主義者の支配に対す る反対を抑圧するのに役立っていた

(12》 連 合 国最 高 司令 官 か ら 日本 国首 相 に あ て た1947年2月25日 付 書簡(付 録6B,原

書41-42頁 参 照)

(13}連 合 国 最 高 司令 官 か ら 日本 国首 相 に あ て た1947年9月16日 付 書 簡(付 録11,原 書

88頁[77頁 以 下]参 照。

(14)オ プ ラー ・前 掲[前 注11)]文 献295頁

(15)1945年10月4日 付 連 合 国最 高 司令 官 指 令SCAPIN93号(付 録1参 照)。

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(10)一 法 律 論 叢一

法律 の廃 止 を命 じて い た(16)。

これ らの 指令 に よ って 、政 府 は 、1945年10月5日 に、新 聞事 業令(17)、 出版

事 業 令(18》お よび新 聞 紙 等掲 載 制 限令(19)を 廃 止 した(20>。10月13日 に は、 言論

出 版 集会 お よ び結社 に 関 す る臨時 取 締 法 は もち ろん 、出 版 を制 限 して い た そ の

他 の 法律 も廃 止 され た(21>。 この 時 に、 国 防保安 お よ び軍 事 秘 密保 護 に 関 す る諸

制 限 法令 も同時 に廃 止 され た。

軍 国 主義 者 と超 国 家 主 義 者[国 粋 主 義 者]が 反 対 派 を抑 圧 す る際 の 法 的 手段

であ った諸 法 律 とそ の施 行 規 則 は 、10月15日 に 廃 止 され た(22)。 その 中 には 、

治 安 維 持法 お よ び思 想 犯 保護 観 察 法 が含 ま れて いた 。 内務 省 は、 戦 時 特別 刑 事

法 第7条4号 を廃 止 し(23)、 司 法 省 は 、 治安 維 持 と思 想犯 に関 して発 せ られ た

諸 法 規 を廃 止 した(24)。 治 安 警 察 法 は 、11月21日 に廃 止 され た(25)。 この 局 面

にお け る司 法 改 革 の 重要 な行 為 は 、12月28日 の宗 教 団体 法 廃 止 を も って 完 了

(16)1945年9月10日 付連合 国最高 司令官指令16号[言 論及び新 聞の 自由に関す る総:

司令部 覚書]、1945年9月24日 付連合国最 高司令官指令51号[新 聞及び通信社に対

す る政府 の統制廃 止方 に関す る総:司令部覚書]、1945年9月27日 付連合 国最高司令

官指令66号[言 論、出版及び通信の 自由についての追加措置に関する総司令部覚書]

(17)1941年 の勅令1107号

(18)1943年 の勅令82号

(19)1941年 の勅令37号

(20)1945年10月5日[6日]付 勅令562号[新 聞事業令、出版事業令お よび新聞紙等

掲載制限令廃止]

(21)1945年10月13日 付勅令568号[国 防保安法、軍:機保護法、軍用 資源秘 密保護法、

不穏文書臨時取締法、言論 ・出版 ・集会 ・結社 等臨時取締法等廃止](22)1945年10月15日 付勅令575号[治 安維持法、思想犯保護観察法、思想犯保護観

察法施行令等廃止]'(23)1945年10月15日 付 内務 省令27号[言 論、出版、集会、結社 等臨時取締法施行規

則廃 止](24>1945年10月15日 付司法省令52号[昭 和11年 司法省令 第35号 仮 出獄思想犯処

遇規定、昭和11年 司法省令 第36号 保護観察費用規則、昭和11年 司法省令第38号

(各保護観察所ハ其 ノ司掌事務 二係ル民事訴 訟二付国 ヲ代表 ス)、昭和16年 司法省令

第47号 弁護士指定規程、昭和16年 司法省令第49号 予防拘禁手続令、昭和16年 司法

省令 第50号 予 防拘禁処遇令 等廃止]

(25)1945年11月21日 付勅令638号[治 安 警察法等廃止]

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司法 ・裁判制度の改革(1)(11)

した(26)。

関 連 す る活 動 と して、 第89回 帝 国国 会 は、 裁 判所 構 成 法 戦 時 特例(27)お よび

戦 時 民事 特 別 法(28)な らび に戦 時刑 事 特 別 法(29>を 廃 止 して い る。

人 権 指 令(30)は 、 さ らに、 「保 護 お よ び観 察 」 の も とに おか れて 、拘 留 ・投 獄

され た者 、 お よび思 想 、 言 論 、 宗教 、政 治 的信 念 ま た は集 会 法違 反 とい う理 由

だけ で、 その 自由 を制 限 され て い た 者 をすべ て釈 放 す べ き こ と を命 じて い た。

この 指令 に よ り、 日本 政 府 は、 収 監 者439名 、 「予 防拘 禁 」 者17名 、 スパ イ

容 疑 者39名 、 そ して投 獄 され て は い ない が 「保 護 よび観 察 」 の も とに おか れ て

い た 者2026名 を釈放 した。(31)(32)1945年12月19日 に は、連 合 国最 高 司 令 官

は 、釈 放 され た政 治 犯 の 選挙 資格 回復 を命 じ、 彼 らが 投 票 した り、 公 職 候補 者

に な るこ とを認 め た(33)。 こ の指令 に従 って、 日本政 府 は 、各 関係 部 署 に対 して

個 別 に選 挙 権 の 回復 を告 げ るこ とを命 じた(34)。

天皇 が1945年10月17日(35)お よ び1946年11月3日(36)に 発せ られ た恩 赦

は、 投 獄 また は保 護観 察 か ら釈 放 した り、 も し くは 宣告 刑 を減 刑 した り、 さ ら

に政 治 犯(選 挙 法 と戦 時 経 済 統 制 の違 反 者 を含 む)の 政 治 的 市 民 的権 利 を 回復

した。 それ らの 恩赦 令 は 、 さ らに、 「思 想」 犯 として有 罪 とされ て い た者 で 、他

に重 大 な犯 罪行 為 に よ っ て も有 罪 と され て い る こ とを理 由 と して 未 だ釈 放 され

(26)1945年12月28日 付勅 令718号[宗 教 団体 法 等 廃 止]

(27)1945年 法 律45号(12月19日[20日]公 布)

(28)1945年 法 律46号(同)

(29)1945年 法 律47号(同)

(30)1945年10月4日 付 連'合国最 高 司令 官 指令93号

(31)海 軍 省1945年10月4日 付 通 牒(instraction)、 司 法省1945年10月5日 付 通 牒 、

内務 省1945年10月6日 付 通牒 、 陸 軍 省1945年10月7日 付 通牒

(32)民 政 局 月報(1945年9月 ・10月 号)。 この 月報 に よ る と、釈 放 老 は507名 と され

て い るが 、12以 上 の修 正 数 値 も示 して い る。

(33)1945年12月29日 付 連合 国最 高 司 令 官 指令458号(付 録2参 照)

(34)1945年12月29日 付 勅 令730号[政 治 犯 人 等 ノ資 格 回復 二関 ス ル件]、1945年12

月29日 付 勅令731号[衆 議 院議 員選 挙 人名 簿 ノ特 例 二 関 ス ル件]

(35)1945年10月17B付 詔 書

(36)1946年11月3日 付 詔書 。 この恩 赦 は、 新 憲 法 の公 布 に関 連 させ て発 せ られ た。

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(12)一 法 律 論 叢一 一

て い な か った少 数 の その他 の 者 を も釈 放 した。(37>(38)

人権 指 令 は、 司法 省 お よび 内務 省 の行 政 機 構 と人事 に も影響 を与 え た。 この

指 令 は、 日本政 府 に 対 して、 司法 省 所轄 の保 護 観察 部 局 すべ て を廃 止す る こ と、

お よ び、 その執 行 につ き告 発 され た者 す べ て を、今 後 の公 職 か ら排 除 し追放 す

る こ とを求 め て い た(39)。

上 述 の こ とは10月 中に行 わ れ た(40)。 司法 省刑 事 局 思 想 課 は、1942年 に この

課 を創 設 した省 令 を無 効 に す るこ とに よって 、廃 止 された(41)。 内務 省 にお いて

は、 外事 課 、検 閲課 お よび 治安 課(特 別 高 等 警 察部 を含 む)が 廃 止 さ れ た(42)。

上 述 の 諸活 動 に 関与 した職 員 を罷免 す る命 令 に従 って、 政 府 は、1945年10

月22日 に 、 保 護 観 察 部局 の職 員977名 の 罷 免 を報 告 し(43)、 さ ら に1946年4

月15日 に は、 司 法省 職 員1013名 の罷 免 を報 告 して い る(44)。

1946年1月4日 の 追放 指 令(45)に 関 す る政 府 見 解 は、1946年2月 に実 施 さ

れ(46)、 さ らに1947年1月 お よび3月 に拡大 され(47)、 警察 署 お よび裁 判 所 の職

員 に 対 して追 放 を適 用 した 。 軍事 侵 略 の期 間 中に 、 残虐 も し くは圧 政 的 な行 為

を な し、 あ るい は、 「思想 」 統制 事 件 に お い て重 要 な役 割 を演 じた検 察 官 で あ っ

た者 は、[同 様 な役 割 を演 じた]裁 判 所 ・警 察 署職 員 と と もに 、 罷免 さ れ た。

(37>1945年10月18日 付 ニ ッポ ン タ イム ズ(東 京)

(38)民 政局 月報(1956年11月 号)

(39)1945年10月4日 付 連 合 国最 高 司令 官指 令93号

(40)司 法省 の1945年10月6日 付 告 示noti丘cati・n7号 お よび1945年10月13日 付 告

示33号 、1945年10月20日 付 勅 令590号[保 護観 察 所 官 制 廃止 等]

(41)1945年10月15日 付勅 令575号[治 安 維持 法廃 止 等]

(42)1945年10月13日 付 勅 令[国 防保 安 法廃 止等]

(43)中 央連 絡 事 務 所CLOの1945年10月22日 付[報 告]332号

(44)中 央 連絡 事 務 所 の1946年4月15日 付[報 告]1733号

(45)1946年1月4日 付 連 合 国最 高 司令 官 指 令550号

(46)1946年2月27日 付 勅 令109号[就 職 禁 止 、退 官 、 退職 等 二 関 ス ル件]

(47)1947年 の 閣令 ・内閣省 令1月4日 付1号[昭 和21年 勅令109号 の施 行 に関 す る命

令 の 改 正]お よ び3月11日 付4号[同 改正 令 の一 部 改正]

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一 司法 ・裁判制度の改革(1)(13)

訳註

*1こ の 「服 しめ て お り(subuordinated)」 との文 言 は 、昭 和20年9月2日 付 降

伏 文 書 の本 文 最 後 尾 に あ り、 「国体 の保 持 」 との 関係 で、 そ の解 釈 をめ ぐって 日

本 国 政 府 内 の対 立 が あ っ た。

*2こ の指 令 は、 トルー マ ン米 国大 統 領 が マ ッ カー サー 元 帥 宛 に送 付 した 昭和20

年(1945年)8月29日 付 日本 管 理 政 策 「降伏 後 に お け るア メ リカの初 期 の 対 日

方 針」(同 年9月22日 公 表)を 指 して い る。

*3.前述 日本 管 理 政策 の 「第3部 政 治 」 中 の 「第3節 個 人 の 自由 及 び 民主 主

義 的過 程 へ の 企及 の助 長 」 の 項

*4極 東 委 員 会 は、1946年(昭 和21年)2月26日 、 ワ シ ン トン に 設け られ た 。

そ の構 成 メンバ ー は、 連合 国 日本 管 理 理事 会(対 日理 事会)を 構 成 す る米 ・英 ・

ソ ・中の4国 の ほ か、 フ ラ ンス 、 カ ナYオ ー ス トラ リア、 ニ ュー ジー ラ ン ド、

イ ン ド、 フ ィ リピン お よ び オ ラ ン ダ で あ る。 この極 東委 員 会 の決 定事 項 は 、 ア

メ リカ合 衆 国 大 統領 を通 じて 、連 合 国 最 高 司令 官SCAPに 伝 え られ る。 実 際 的

には 、 名 目上 の対 日管 理 最 高 機 関 す ぎな か っ た と評 され て い る。 極 東 委 員会 が

1946年6月 に採 択 した 「降伏 後 の対 日基 本政 策 」 は、 前注*2の 日本管 理 政 策 を

受 け継 い だ もの とい え る。

*5日 本 政 府 ・GHQ間 の 意志 疎 通 につ いて は、 オプ ラ一 著 ・納 谷=高 地 共 訳 「日

本 占領 と法 制 改 革」(日 本 評 論 社 、1990年)34頁 以下 お よび64頁 参照 。

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(14)一 法 律 論 叢

第2章 新 しい司法組織の骨格の確立

占領軍が次にとりあげた大きな計画は、実体法と手続法につき、人権の積極

保障を擁護する法典をつ くることであった。この計画にとって、明治憲法とく

に天皇の地位が大 きな障害であることが、ただちに、認識された。明治憲法は、

日本の歴史に足跡をを残 した多 くの封建的かつ全体主義的な傾向と結び付いて

お り、市民的自由権[人 権]の 行使制限および司法部の政府行政部門への従属

という点で、基本的な占領政策 と真っ向から対立 していたからである。そこで、

日本国憲法の抜本的な改正が、重要な占領政策 となった。

2.1新 憲 法

1945年9月 、 最 高 司令 官 は 、東 久 爾 稔 彦 首相 に対 し、憲 法 改正 が ポ ツ ダム 宣

言 の もとで最 重 要 の必 要 課題 で あ る と告 げ た(1)。 内 閣 は、 憲法 改正 にむ け て 取

り組 む こ とを渋 って い た が 、3週 間後 に 、 こ の要 求 が 繰 り返 され る と総 辞 職 し

た。10月11日 、新 首相 に就 任 した 幣原 喜 重郎 は最:高司令 官 を訪 問 したが 、 そ こ

で 日本 国 憲法 の 自由化 の実施 を厳 し く警告 され た。 さらに、最 高 司令 官 は 、 「国

民 は、 その 日常生 活 に対 す る官 憲 的秘 密 糾 問(こ れ が 国民 の精 神 を事 実 上 奴隷

状 態 に して いた)の 一 切 の 形 態、 な らびに 、思 想 の 自由 ・言 論 の 自由 ・宗 教 の 自

由 を抑圧 し よ う とす る統 制 の 一 切 の 形態 か ら、 開放 され な けれ ば な らな い。 そ

れ が 政 府 の い か な る統 治名 目の 下 に な さ れ よ う とも、能 率 の装 い ま たは 要 求 の

も とに大 衆 を画一 組 織 化 す る こ とは 、停 止 せ らるべ きで あ る」 と付 言 した ② 。

[憲法]改 正 の 手 続 は、 た だ ち に開 始 され た。 内 閣の最 終 草 案 を検討 した後 、

連 合 国最:高司 令 官 は 、1946年5月6日 、国 会 へ の 法 案提 出 を認 め た。 国会 は、

徹 底 的 な 討論 とい くつ かの 修 正 を経 て、10月7日 に、 これ を可 決 した。 新 憲 法

は 、11月3日 に公 布 され 、 そ の半 年 後 の1947年5月3日 に施 行 され た(3)。

(1)総:司 令部 太 平 洋 陸軍 司 令官(GHQ ,AFPAC)広 報 プ レ スの1945年9月16日 付 声 明

(2)同1945年10月11日 付 声 明

(3》 日本 国憲 法(1947年5月3日 施行 、 付 録3)。 詳 細 につ い て は、 本 シ リー ズ 「日本

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司法 ・裁判制度の改革(1)一(15)

新憲法は、明治憲法 と多 くの重要な点で異なるものであるが、採択の形式上、

明治憲法 との法的連続性が維持された。明治憲法が廃止ないし停止されたので

はない。新憲法は、明治憲法の定める憲法改正の方式に したがい、枢密院顧問

の語詞[お よび帝国議会の議決]を 経た後、天皇によって公布 された。

2.2司 法 規 定

新憲法は、天皇主権ではなく、国民主権を確立した。抑制 と均衡のシステム

で結び付けられた権力分立は、行政府 ・立法府 ・司法府に関する規定において

堅固に具体化された(4)。行政府(内 閣)に は[最 高裁判所]裁 判官を任命する

権利が、立法府(国 会)に は弾劾によって裁判官を罷免する権利が、国民には

国民審査によって最高裁判所裁判官の罷免を投票する権利が、それぞれ与えら

れている⑤。

憲法は、司法権の裁判事件に対する行使について、完全な独立を与えている(6)。

司法省の裁判官および裁判所職員に対する人事権は、廃止された。司法省は、

その監督のもとに検察官を残すことができたが、裁判所に対する以前のような

権力および影響力を失った。裁判所は、 自らの人事問題を処理 したり、内部規

律 ・事務処理 ・訴訟手続に関する規則を制定する権限を与えられた。検察官、弁

護士および裁判所に出頭する著すべては、これらの規則に従 うことと定められ

た⑦。

新 しい最高裁判所に与えられた最 も重要かつ至高の権限は、法令および行政

処分を違憲かつ無効 と宣言する権限[違 憲立法審査権]で ある(8)。この権限は、

最高裁判所を憲法の番人とし、行政および立法上の行為によって、憲法の定め

占領GHQ正 史 」 第7巻 所 収 の 専 攻 冊 子 「憲 法 改 正ConstitutionalRevision」 参 照

(4)司 法制 度 の規 定 は 、憲 法76条 ~82条 。 第90回 帝 国議 会 貴族 院 ・1946年8月27日

付 「貴 族院 審 議 議事 録 」

(5》 憲 法64条 ・78条 ・79条

(6)同76条

(7)同77条

㈲ 同81条

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(16)一 法 律 論 叢

る内容 な い し趣 旨が変 更 され る こ とを防 い で い る。 この広 い権 限 は、 国会 議 員

に よ る質 疑 応 答 な しに は、 認 め られ なか った。 その 主 張 す る とこ ろ は、 こ の よ

うに統 治 権 を分 割 す る と混 乱 と衝 突 が 避 け が た い とい う こ と、 な らび に 、 国民

の代 表 に よ って 誠実 に制 定 さ れ た法 律 を無効 に す る権 限 は 、 国会 が 国権 の最 高

機 関 で あ る とい う考 え方 に 明 らか に反 す る とい うこ とで あ った(9)。

2.3人 権 規 定

憲 法 は、 司法 ・裁 判制 度 の 改革 につ いて 明確 な方 針 を定 め た 。 そ の規 定 の 中

に は 、 以下 の こ とが 含 まれ て い る。

(1)基 本 的 人権 の保 障(10)

(2)す べ て の国 民 が個 人 と して尊 重 され る こ と(11>

(3)法 の も との 平 等 、 す な わ ち、 人種 、信 条、 性別 、 社 会 的 身分 また は 門

地 に よ り、政 治 的、 経 済 的 、社 会 的 関係 にお いて差 別 さ れ な い こ と(14)

(4)成 人 の普 通 選 挙権(13)

(5)思 想 お よ び 良心 の 自由(14)

(6)信 教 の 自由(15)

(7)集 会 、 結 社 、 言 論 、 出版 その他 一 切 の 表 現 の 自由(16)

(9)第90回 帝 国議 会 衆議 院 ・1946年6月27日 お よ び1946年8月26日 付 「衆 議 院 審

議 議 事録 」、 第90回 帝 国 議 会 貴族 院 ・1946年8月27日 付 、1946年8月30日 付 お よ

び1946年10月6日 付 「貴 族 院 審議 議 事録 」。

(10)憲 法11条 .

(11)同13条

(12>同14条

(13)同15条

(14》 同19条

(15)同20条

(16)同21条

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一 司法 ・裁判制 度の改革(1)一(17)

(8)居 住 お よび 職 業 を選 択 ・変 更 す る 自由(17)

(9)両 性 の 本 質 的 平 等(18)

(10)法 律 の定 め る手 続 に よ らず に 、 生 命 も し くは 自由 を奪 わ れ 、 また は 、

そ の他 の 刑 罰 を科 せ られ な い こ と(19)

(11)裁 判 を受 け る権 利(20)

(・2)裁 判官による逮癬 状の要求・…

(13)被 疑 者 の 弁 護 人 依頼 権 お よ び被 疑 事 由 を直 ちに告 知 され る権 利(22)

(14)正 当 な理 由 に基 づ い て発 せ られ た令 状 に 基づ く場 合 を除 き、 捜 索 また

は 押収 の禁 止(23)

(15)拷 問 お よび残 虐 な刑 罰 の禁 止(2S)

(16)刑 事 被 告 人 の公 平 な裁 判所 に よ る迅 速 な公 開 裁 判 を受 け る権 利(25)

(17)自 己に不 利益 な供 述 を しな い被 告 人の 権 利 、 な らび に 、 脅迫 に よ り獲

得 され た 自 白の証 拠 能 力 排 除(26)

(18)二 重処 罰 お よび遡 及 処 罰 の禁 止(27)

(17》 憲 法22条

(18)同24条

(19)同31条

(20)同32条

(21)同33条

(22}同34条

(23}同35条

(24)同36条

(25)同37条

(26)同38条

(27)同39条

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(18)法 律 論 叢 一一

新 憲 法 の原 理 を現行 法 に採 り入れ る ため に 、実 体 法 お よび手 続 法 の改 正 が 必

要 で あ るこ とは 、 憲 法 末尾 の条 文 「その[憲 法]条 規 に 反 す る法 律 、 命 令 、 詔

勅 お よ び国務 に関 す るその 他 の行 為 の全 部 また は一 部 は、そ の効 力 を有 しな い」

との文 言か ら明 らか で あ る(28J。

2.4臨 時 の立法

新 しい憲法草案および占領の基本 目的 と適合するように法令 を改正す る必要

を認めて、1946年3月 、政府は、臨時基制調査会 を提案した。この官制級の委

員会は、1946年7月 に、首相を会長 として設置された。(29)*1その構成員には、

弁護士、学者、立法 ・司法部の官僚、国会議員、実業家、 ジャーナ リス ト、お

よび婦人その他の利益団体の代表が含まれていた。

委員会は、4つ の部会、すなわち、皇室および内閣、国会、司法、金融その

他の事項という4つ の部会に組織された、司法部会は、裁判所の構成に関する

法律の起草および民 ・刑事の分野における法典改正について責務 を負った。

1946年7月 、司法省内に司法法制審議会が、主要法典の改正を準備するため、

司法大臣によって設置され、臨時法制調査会の活動 を補助 した。この審議委員

会は、基本法典改正案の起草に責務を負っているが、さらにまた、その改正案

は親委員会[臨 時法制調査会]の 司法部会で調査 と承認をうるために提出され

ることになっていた。1946年9月 までには、この2つ の委員会は、構成員およ

び活動の点で、事実上、一体のものになっていた。

集中的な努力にもか ・わらず、これらの委員会は、1947年5月3日 の新憲法

施行以前に、最終的な改正法案 を起草 し、可決することができなかった。それ

ゆえ、彼 らは、これに代えて、法典の応急的な措置に関する改正法案の準備に

全力をあげた、生成期における急場の活動は、改正に関する真の考え方につい

て結論 を決めかねていた。熟慮の末に示された改革の基本的特質は、可能なか

ぎり広範囲に公表を求め、改正案の諸規定につき国民の理解 と批判 を求める点

(28)憲 法98条

(29)1946年7月3日 付 勅令348号[臨 時 法制 調 査 会 官制]

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一 司法 ・裁判制度の改革(1)(19)

に あ っ た。

そ こ で採 用 され た コー ス は、 主 要 な 変 更 に 「試 走 」 を与 え、 そ の試 走 に お い

て、 改 正 に対 す る時 勢 の 試練 と反 応 を受 け る とい う もの であ った。

1947年2月 まで に、委 員 会 の仕 事 は、 本 来 の機 関 に代 わ っ て意 見 を ま とめ る

ため に、 司 法 省 と法 制局 の代 表 者 か ら構 成 され る特 別 法 案 改 正委 員 会 を設 置 す

る段 階 ま で進 ん で い た(30)。

民 法 お よび 民 ・刑 事 訴 訟法 を応 急 的 に 改正 す る法 案 は 、1947年3月17日 に、

国会 に提 出 され た。

これ らの 応 急 的措 置(31)*2は 、3月31日 に国会 を通 過 し、4月19日 に公 布 さ

れ 、 さ らに 、新 憲 法 の施行 と と もに5月3日 に施 行 され た。 立 法 の応 急 的 性 格

は、 法 律 の有 効 期 間 を1948年1月 ま でに 限 る こ とで示 され 、 内閣 は最 終 改 正

を促 進 せ ざ る をえ な か っ た。 しか し、 そ の後 、 応 急 的 措 置 法 の有 効 期 間 は 、 民

事 訴 訟 に つ い て は、1948年7月15日 まで*3、 また、 刑事 訴 訟法 典 に つ い て は、

1949年1月1日[失 効]ま で延 長 され る こ とに な っ た。[失 効]刑 法 の 暫 定 的

な改正 は 、1938年 に制 定 され た 同法 典*4が 、 国 際 的 に承 認 され た 原理 を組 み 入

れ て い た の で 必要 とされ なか った。

(30)民 政局長宛1947年3月18日 付覚書 「司法省 の改正法案に関す る臨時報告」

(31》憲法の施行 に伴 う応急的措置に関す る法律 は、民法典については1947年4月19日

付 法律74号 、民事訴訟法典 について は同 日付法律75号(付 録4)、 刑事訴訟法典 に

つ いては同 日付 法律76号 である。

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(20)法 律 論 叢

訳註

*1勅 令第348号(官 報7月3日)

臨時法制調査 會官制

第一條 臨時法制調査會 は、内閣総理大 臣の監督 に属 し、 その諮問に応 じて、憲

法改正に伴 ふ諸般の法制の整備 に關す る重要事項を調査審議する。

第二條 調査會は、會長一 人、副會長一 人及び委員若干人で、 これ を組織す る。

第三篠 會長 は、内閣総理大 臣を以って、これに充てる。

委員は、内閣総理大臣の奏請 によ り、内閣でこれを命ず る。

第四條 會長 は會務 を総理 する。

副會長は、會長 を補佐 し、又、會長に事故が あるときは、その職務 を代理す る。

第五條 内閣総理大臣は、 必要に磨 じ、調査會に部會 を置き、 その所掌事項 を分

掌 させ ることが できる。

部會に部會長 を置 き、内閣総理大 臣の指名 によ り、副會長又は委員を以 って、

これに充てる。

部會所属の委員 は、會長が、これを指名す る。

第六條 調査會は、その定 める ところによ り、部 會の決議 を以 って調査會の決議

とす ることがで きる。

第七條 調査會に幹事長 及び幹事 を置 く。

幹事長は、法制局長官 を以って、 これに充て る。

幹事は、内閣総理大臣の奏請 によ り、内閣でこれを命ず る。

幹事長及 び幹事は、上 司の命 を承け、庶務 を整理 し、會議事項 につ いて、調

査及 び立案を掌 る。

第八條 調査會に主事 を置 き、 内閣でこれを命ず る。

主事は、上司の指揮 を承け、庶務 を掌 る。

附 則

この勅令は、公布 の 日か ら、これを施行す る。

*2日 本 国憲法の施行 に伴 う応急的措置 に関す る法律は、次の3つ である。

①民法の応急的措置に関す る法律(昭 和22年4月18日 法律第74号)

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司法 ・裁判制度の改革(1)(21)

第一条 この法律は、 日本国憲法の施行に伴 い、民法につ いて、個 人の尊厳 と両

性の本質的平等に立脚する応急的措置を講ず ることを 自的 とす る。

第二条 妻又は母であることに基いて法律上 の能力 その他 を制限す る規定は これ

を適用 しない。

第三条 戸主、家族その他家に関する規定 は、 これ を適用 しない。

第四条 成年者の婚姻、離婚、養 子縁組及び離縁ついては、父母の同意 を要 しない。

第五条 夫婦 は、その協議で定める場所に同居す る もの とす る。夫婦の財産関係

に関す る規定 で両性の本質的平等に反す るものは、これを適用 しない。

配偶者の一方に著 しい不 貞の行為 があった ときは、他 の一方 は、 これ.を原因

として離婚 の訴 を提起することがで きる。

第六条 親権 は、父母 が共 同 して これを行 う。

父母が離婚 す るとき、又は父が子 を認知 する ときは、親権 を行 う者は、父母

の協議 でこれ を定め なければな らない。協議が調 わない とき、又は協議 をす

ることがで きないときは裁判所が、 これ を定め る。

裁判所は、子の利益のため に、親権者 を変更す ることができる。

第七条.家 督相続に関する規定は、これを適用 しない。

相続 については、第八条及 び第九条の規定 によるの外、遺産相続 に関す る規

定 に従 う。

第八条 直系卑属、直系専属及び兄弟姉妹 は、その順序 によ り相 続人となる。

配偶者は、常 に相続人 となるもの とし、その相続分は、左 の規定に従 う。

一 直系卑属 とともに相続 人であるときは、三分の一 とす る。

二 直系専属 とともに相続 人であるときは、二分の一 とす る。

三 兄弟姉妹 とともに相続 人であるときは、三分の二 とす る。

第九条 兄弟姉妹以外の相続人の遺留分 の額 は、左 の規定に従 う。

一 直系卑属のみが相続人 であ るとき、又は直系卑属及び配偶者が相続人で.

あるときは、披相続人の財産 の二分の一 とする。

二 その他 の場合は、被相続 人の財産の三分の一 とす る。

第一〇条 この法律の規定 に反す る他 の法律の規定は、これ を適用 しない。

附 則

この法律は、 日本国憲法施行 の 日か ら、 これを施行す る。

この法律は、昭和二十三年一 月一 日か ら、その効力 を失 う。

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(22)法 律 論 叢一

② 日本国憲法の施行 に伴 う民事訴訟法の応急的措置に関す る法律(昭 和22年

4月19日 法律第75号)

第一条 この法律は、 日本国塞法の施行に伴い、民事訴訟法 について応急的措置

を講 ずることを目的 とす る。

第二条 民事訴訟法は、 日本国憲法及び裁判所法の制定 の趣 旨に適合す るように

これを解釈 しなければ ならない。

第三条 判決以外の裁判は、判事補 が一 人でこれ をす ることがで きる。

第四条 上告 は、高等裁判所が した第二審又は第一審の終局判決に対 して最高裁

判所 に、地方裁判所 が した第二審の終局判決 に対 しては高等裁判所に これ を

するこ とがで きる。

第一審 の終局判決について、上告 をす る権利 を留保 して、控訴 を しない 旨の

合意 を した場合 には、簡易裁判所の判決 に対 しては高等裁判所 に、地方裁判

所 の判決に対 しては最高裁判所 に、直ちに上告 をするこ とがで きる。

第五条 高等裁判所が上告裁判所である場合に、最高裁判所の定め る事由が ある

ときは、決定 で事件 を最高裁判所に移 送 しなければない。

第六条 高等裁判所が上告審 として した終局判決 に対 しては、その判決にお いて

法律、命令、規 則又は処分が憲法に適合す るか しないかについて した判断が

不 当であることを理 由 とす るときに限 り、最高裁判所 に更 に上告 をす ること

ができる。

前項の上告は、判決の確定を妨げ る効力 を有 しない。但 し、最 高裁判所 は、同

項の上告があっ たときは、決定 で強制執行の停止を命ず ることができる。

第七条 民事訴訟法の規定に より不服 を申し立てることが できない決定又は命令

に対 しては、その決定又は命令 において法律、命令、規則 又は処分が憲法に

適合す るか しないか について した判 断が不 当であ るこ とを理由 とす るときに

限 り、最 高裁判所に特 に抗告 をすることがで きる。

前項の抗告 の提起期 間は、五 日とす る。

第八条 行政庁の違法 な処分 の取消又は変更を求め る訴は、他 の法律(昭 和二十

二年三月一 日前 に制定 された ものを除 く。)に 特別の定のあ るもの を除いて、

当事者がその処分が あった ことを知っ た 日か ら六箇 月以 内に、 これを提起 し

なければな らない。但 し、処分 の 日か ら三年 を経過 した ときは、訴を提起す

ることができない。

附 則

この法律 は、 日本国憲法施行 の 日か ら、 これ を施行す る。

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司法 ・裁判制度の改革(1)(23)

この法律は、昭和二十三年一 月一 日か ら、 その効 力を失 う。

東京高等裁判所 が裁判所法施行法の規定 に基 いて審理及 び裁判 をすべ きもの

とされた事件(同 法施行の際東京控訴院に係属 していたもの を除 く。)に ついて

した終局判決に対 しては、 その判決において法律、命令 、規則 又は処分が憲法

に適合す るか しないかにつ いてした判断が不 当であることを理 由 とす るときに

限 り、最 高裁判所に上告 をす ることができる。

前項の上告 については、第六条第二項の規定 を準用する。 \.

③ 日本国憲法の施行 に伴 う刑事訴訟法の応急的措置に関す る法律(昭 和22年

4月19日 法律第76号)

第一条 この法律 は、 日本 国憲法の施行 に伴 い、刑事訴訟法につ いて応急的措置

を講ずることを目的 とす る。

第二条 刑事 訴訟法 は、 日本 国憲法、裁判所法、及 び検察庁 法の制定の趣 旨に適

合す るよ うに これを解釈 しなければならない。

第三条 被疑者は、身体 の拘 束を受けた場合 には、弁護人 を選任す ることができ

る。この場合には、刑事訴訟法第三 十九条第二項 の規定 を準用す る。

第四条 被告人が貧 困その他 の事由 により弁護人 を選任す るこ とができない とき

は、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附 しなければならない。

第五条 判決以外の裁判は、判事補 が一人でこれをす るこ とが できる。

第六条 引致 された被告人又は被疑者に対 しては、直ちに犯罪事実 の要 旨及び弁

漢人 を選任す ることがで きる旨を告げなければな らない。

勾留については、申立 によ り、直 ちに被告人又は被疑者及 びこれ らの者の弁

護人の出席す る公開の法廷 でその理由を告 げなければ ならない。

第七条 検察官又は司法警察官は、勾引状及び勾留状 を発するこ とがで きない。

検察官又は司法警察 官は、裁判官の令状 がなければ、押収、捜索又は検証 を

す ることがで きない。但 し、現行犯 人を逮捕す る場合及 び勾 引状又は勾留状

を執行す る場合は、 この限 りでなし㌔

検察官又は司法警察 官は、 身体 を検査 し、死体 を解剖 し、又は物 を破壊す る

処分 を必要 とする鑑定は、これを命ず るこ とがで きない。

第八条 逮捕状及び勾留状の発付並 びに公訴の提起については、左 の規定による。

一 検察官又は司法警察官吏は、被疑者が罪を犯 したことを疑 うに足 りる相当

な理由があるときは、裁判官の逮捕状を得 て、これ を逮捕す ることができる。

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(24)一 法 律 論 叢一

二 検察官又は司法警察官吏は、死刑又 は無期若 しくは長期三年以上の懲役

若 しくは禁銅 にあたる罪を犯 したこ とを疑 うに足 りる充分 な理由があ る場合

で、急速 を要 し、裁判官の逮捕状 を得 るこ とがで きない ときは、 その理由 を

告げ て被疑者を逮捕す ることがで きる。 この場合 には直 ちに裁判官の逮捕状

を求め る手続を しなければ ならなレ㌔ 逮捕状が発せ られ ないときは、直 ちに

逮捕者 を釈放 しなければならない。

三 現行 犯人が逮捕 された場合には、遅滞 な く刑事訴訟法第百二十七条及び

第百二十九条に定め る時間の制限内に検察官か ら裁判官に対す る勾留状 の請

求が されなければな らない。 この制 限され た時間は、逮捕の時か らこれ を起

算す る。検察官 又は司法警察 官吏がやむ を得 ない事情 によ り時間の制 限に従

うことがで きなかっ た場合において、 その事由が適 当に示 された ときは、裁

判官はその遅延 がやむ を得 ない事情 に基 く正当な ものであると認定す ること

がで きる。勾留状が発せ られない ときは、直 ちに犯人 を釈 放 しなければな ら

ない。

四 第二号の規定 によ り被 疑者が逮捕 され た場合 には、逮捕状 と同時に勾留

状 を発するこ とが できる。第一号及 び第二号の規定 によ り被疑 者が逮捕 され

た場合 には、前号の場 合に準 じ、遅滞 な く同号に定め る時間の制 限内に検察

官か ら裁判官 に対す る勾留状 の請求が され なければならない。 勾留状 が発せ

られない ときは、直ちに被疑者 を釈放 しなければならない。

五 第一号乃至前号の場合 その他被疑者が逮捕され たすべ七の場合 において

は、公訴 の提起 は、遅滞な くこれ をしなければならない。勾留状 の請求 があ

った 日から十 日以内に公訴の提起が なかった ときは、直ちに被疑 者を釈放 し

なければならない。

第九条 予審は、 これ を行 わない。

第一〇条 何 人 も、 自己に不利益 な供述 を強要 されない。

強制、拷問若 しくは脅 迫による自白又は不 当に長 く抑留若 しくは拘禁 され た

後 の自白は、これを証拠 とすることがで きない。

何 人 も、 自己に不利益 な唯一の証拠が本人の 自白である場合に は、有罪 とさ

れ、又は刑罰を科 られ ない。

第一一条 検察官及び弁護 人は、公判期 日において、裁判長 に告げ、被告人、証

人、鑑定人、通事又は翻 訳人を訊問す るこ とがで きる。

被告人は、公判期 日において、裁判長に告げ、共同被告人、証人、鑑定人、通

事又は翻 訳人を訊問す るこ とが できる。

第一二条 証 人その他 の者(被 告人 を除 く。)の 供述 を録取 した書類又は これに

代 わるべ き書類 は、被告人の請求が あるときは、その供述者又は作成者 を公

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一 司法 ・裁 判制度の改革(1)一(25)

判期 日にお いて訊問する機会 を被告人に与 えなければ、これを証拠 とす るζ

とが できない。但 し、その機会 を与えるこ とができず、又は著 しく困難 な場

合 には、裁判所は、 これらの書類につ いての制限及び被告 人の憲法上の権利

を適 当に考慮 して、 これを証拠 とす るこ とが できる。

刑事訴訟法第三百四十三条 の規定は、これ を適用 しない。

第一三条 上告 は、高等裁判所 が した第二審 又は第一審の判決 に対 しては最高裁

判所 に、地方裁判所 が した第二審の判決に対 しては高等裁 判所 にこれ をする

ことがで きる。

刑事訴訟法弟四百十二条乃至第四百十四条の規定は、これ を適用 しない。

第一四条 刑事訴訟法 第四百十六条各号の場合 には、地 方裁判所が した第一審の

判決 に対 しては最高裁判所に、簡易裁判所が した第一審 の判決に対 しては高

等裁判所に、控訴 をしないで、上告 をす ることがで きる。

第一五条 高等裁判所 が上告裁 判所 である場合 に、最高裁判所の定める事由があ

るときは、決定 で事件 を最高裁判所 に移送 しなければならない。

第一六条 上告裁判所 においては、事実の審理 は、 これ を行 わない。

第一七条 高等裁判所が上告 審 として した判決に対 しては、その判決において、

法律、命令、規則又 は処分 が憲法に適合す るか しないか につ いて した判 断が

不 当であ ることを理 由 とす るときに限 り、最 高裁判所に更 に上告 をす ること

ができる。但 し、事件 を差 し戻 し、又 は移 送す る判決に対 しては、この限 り

でない。

前項の上告は、判決の確定 を妨 げる効力を有 しない。但 し、最:高裁判所 は、同

項の上告 があったときは、決定で刑 の執行 を停 止す ることがで きる。

第一 八条 刑事 訴訟法の規定によ り不服を申 し立て ることがで きない決定又は命

令におい法律、命令、規則又は処分が憲法に適合す るか しないかについてし

た判断が不当であるこ とを理由 とする ときに限 り、最高裁判所に更に抗告 を

す るこ とができる。

前項の抗告の提起期 間は、五 日とす る。

第一 九条 検察事務官は、捜査及 び令状 の執行 については、司法警察官に準 ずる

もの とす る。

第二〇条 被告 人に不利益な再審 は、 これを認めない。

第二一条 この法律の規定の趣 旨に反す る他の法令 の規定 は、これ を適用 しない。

附 則

この法律 は、 日本国憲法施行 の 日か ら、これを施行す る。

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(26)一 法 律 論 叢

この法律 は、昭和二十三年一 月一 日か ら、その効力 を失 う。

第十二条の規定 は、 この法律 施行前 に既に その証拠調が終ってい る書類 につ

いては、その審級に限 り、 これ を適用 しない。

この法律施行前 に終結 した弁論に基いて言 い渡 された判決に対 して、なお刑

事訴訟法の規定 によ り上告 することがで きる。

*3民 事 訴 訟 法の 応 急 的措 置 法 は 、 その 有効 期 間 に つい て、 当 初 は 昭和23(1948)

年1月1日 に失効 す る と定 め て い たが 、 そ の後 、 昭和22年12月 法 律 第198号

に よ って 「昭和23年3月15日 」 と、 昭 和23年2月 法 律 第10号 に よっ て 「昭

和23年7月15日 」 と、 さ らに 昭和23年7月 法律 第106号 に よっ て 「昭 和24

年1月1日 」 と変 更 し た。 した が っ て 、本 文 中の 「1948年7月15日[失 効]

まで」 は誤 りで、 昭 和24年(1949年)1月1日 失効 と訂 正 すべ き で あ る。

*4旧 刑 法 は 明治13年(1880年)の 制 定 であ り、 「フ ラン ス刑 法 と くにナ ポ レオ

ン刑 法典 か らの 影 響 が 強 く、 啓 蒙 主義 的 な市 民 的 自由主 義 思 想 を背 景 と し た法

典 で あ った 」(大 塚 仁 「刑 法概 論(総 論)[改 訂 版]33頁)と いわ れ て い る。 そ

の 後 、 ドイ ツ刑 法 学 の影 響 を受 け て 現 行 刑 法 が 明治40年(1907年)制 定 、 同

41年(1908年)10月1日 施 行 され た が、 その 特色 に つ い て はL九 世 紀 末 期

の、 自由主 義 を修 正 しよ うとす る思 想的 動 向 に根 ざす 、当 時 の刑 法理 論 、刑 事 政

策 に学 ん だ もの 」(大 塚 ・同書34頁)と 評 され る。 その 後 に お け る主 要 な法 改

正 は、 昭和16年(1941年)の 法 律61号 と昭和22年(1947年)の 法律124号

で あ るが 、 本文 中の 「1938年 に制 定 され た刑 法 典」 に該 当す る もの は な い。 し

た が って 「1938年 」の 表 記 は 「1907年 」 の誤 りと思 わ れ る。 な お、 刑 法 に関 す

る応 急 的措 置が 用 意 され なか っ た理 由 に つ い て は、 本文 の指 摘 事 由 よ り も、 む

しろ刑 法 中 の特 定 規 定 が 憲法 と対 立 ・矛 盾 す る こ と(も っ と も一 部 の規 定 と く

に天 皇 制 関連 規 定 等 の取 扱 い の点 で、 日本 政府 ・GHQ間 で 見解 の 鋭 い対 立 が あ

り、 政 治 問 題化 さ れ て い た。 後 述 の 第4章 参 照)が 明 白で あ るこ とか ら、 その

改正 法 の制 定 が 新 憲 法 の施 行 日に間 に 合 う と見 込 まれ て い た ため で は な いか と

憶 測 して い る。