風力発電システムiec/tc88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3...

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■ウィンドウズ オブ Wind (風の窓) 風力発電システム IEC/TC88 国際標準化の動向 一般社団法人日本電機工業会 新エネルギー部 技術課 課長 石山 卓弘 1.はじめに ここでは,一般社団法人日本電機工業会 (JEMA)が審議団体を努める風力発電システム の国際標準(設計基準・試験方法などの規格) を制定・管理している IEC/TC88 の概要,風力 発電事業における位置づけ及び最近の動向を 紹介する。 風力発電システムの国際標準化は,IEC(国 際電気標準会議)の Technical Committee 88 (通称:TC88)でなされ,概要を以下に示す。 TC88 名称:Wind Turbines 設 立:1988 年 議長国:米国 幹事国:デンマーク 参加国:P メンバー 25 か国,O メンバー 13 か国 風車の国際規格:IEC61400 シリーズ 国内審議団体:JEMA 2.風力発電システムの国際標準化 2.1 世界における風力発電の動向 図 1 に世界の風力発電導入量の変遷を示す。 欧州を中心に市場が形成され,続いて米国,中 国,インドなどの大規模な市場が形成された。 日本の風力累積導入量(GWEC 2013 年末)は, 2,661MW(1922基)世界の第 18位(シェア 0.8%) で,我が国の消費電力おける風力発電による発 電電力量の割合は,0.3%と留まっているが,政 府による固定価格買取制度(FIT)の導入によ り今後の躍進が見込まれている。 風力発電システムの標準化もこの導入量の 変遷と同様に,欧州が主導して始まるが,米国, 続いて,アジア諸国(日本,韓国,中国など) において新市場創出や技術開発に合わせた標 準化への課題が顕在化し,国際標準化の重要性 が増している。そのため,規格作成においても グローバルな審議が活発になされている。 2.2 風力発電導入のステークホルダー 風力発電システムは火力発電等の発電単価 より高い為,導入拡大には図 2 に示すように, 政府のエネルギー政策にも依存する。導入に当 たっては様々なステークホルダーが係わって いることが分かる。 図 3 に風力発電導入における標準化の位置づ けを示す。一般的な標準化は,製品に対する設 計基準及び試験方法など製造者が主に活用す るものと思われがちだが,風力発電システムの 標準化は,製造者に留まらず,風力発電事業者 など広いステークホルダーの意見集約が求め られている。 2. 風力発電導入の原動力 1. 世界の風力発電累積導入量と日本の ポジション(出典 GWEC

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Page 1: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

■ウィンドウズ オブ Wind (風の窓)

風力発電システム IEC/TC88 国際標準化の動向

一般社団法人日本電機工業会 新エネルギー部 技術課 課長 石山 卓弘

1.はじめに

ここでは,一般社団法人日本電機工業会

(JEMA)が審議団体を努める風力発電システム

の国際標準(設計基準・試験方法などの規格)

を制定・管理している IEC/TC88 の概要,風力

発電事業における位置づけ及び最近の動向を

紹介する。

風力発電システムの国際標準化は,IEC(国

際電気標準会議)の Technical Committee 88

(通称:TC88)でなされ,概要を以下に示す。 TC88 名称:Wind Turbines

設 立:1988 年

議長国:米国

幹事国:デンマーク

参加国:P メンバー 25 か国,O メンバー 13 か国

風車の国際規格:IEC61400 シリーズ

国内審議団体:JEMA

2.風力発電システムの国際標準化

2.1 世界における風力発電の動向

図 1 に世界の風力発電導入量の変遷を示す。

欧州を中心に市場が形成され,続いて米国,中

国,インドなどの大規模な市場が形成された。

日本の風力累積導入量(GWEC 2013 年末)は,

2,661MW(1922 基)世界の第 18 位(シェア 0.8%)

で,我が国の消費電力おける風力発電による発

電電力量の割合は,0.3%と留まっているが,政

府による固定価格買取制度(FIT)の導入によ

り今後の躍進が見込まれている。

風力発電システムの標準化もこの導入量の

変遷と同様に,欧州が主導して始まるが,米国,

続いて,アジア諸国(日本,韓国,中国など)

において新市場創出や技術開発に合わせた標

準化への課題が顕在化し,国際標準化の重要性

が増している。そのため,規格作成においても

グローバルな審議が活発になされている。

2.2 風力発電導入のステークホルダー

風力発電システムは火力発電等の発電単価

より高い為,導入拡大には図 2 に示すように,

政府のエネルギー政策にも依存する。導入に当

たっては様々なステークホルダーが係わって

いることが分かる。

図 3に風力発電導入における標準化の位置づ

けを示す。一般的な標準化は,製品に対する設

計基準及び試験方法など製造者が主に活用す

るものと思われがちだが,風力発電システムの

標準化は,製造者に留まらず,風力発電事業者

など広いステークホルダーの意見集約が求め

られている。

図 2. 風力発電導入の原動力

図 1. 世界の風力発電累積導入量と日本の ポジション(出典 GWEC)

Page 2: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

2.3 規格の発行状況

風力発電システムの標準化では,風車本体の

設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

などを規定している。規格の体系を図4に示す。

現在の IEC 規格は,先進的な欧米での気象条

件や知見が基礎となり策定されている。我が国

では,これまでこの IEC 規格と整合(完全一致)

した日本工業規格(JIS)を策定している。こ

れまでの IEC 規格及び JIS の発行状況を図 5に

示す。

風車の国際規格は,一部電機部品を除き,

1988 年より IEC/TC88 で審議が行われており,

IEC61400 シリーズとして発行されている。これ

までに国際規格(IS)が 17 件,技術仕様書(TS)

が 5 件発行されている。IEC/TC88 に対しては,

一般社団法人日本電機工業会が日本の窓口(審

議団体)として,委員会を運営して国際会議対

応及び JIS 審議を行っている。現在の審議体制

を図 6に示す。

風力発電システムの JIS は,IEC61400 として

発行されている規格を翻訳して JIS C1400 シリ

ーズとして発行されている。全ての IEC 規格を

JIS として発行しているわけではなく,国内で

の必要性を鑑みて現時点で IEC と整合した JIS

を 5 件,日本独自の JIS を 1 件,技術資料(TR)

を 1件発行している。

IEC61400-1 大形風車設計 IEC61400-2 小形風車設計 IEC61400-3 洋上風車設計 IEC61400-3-2 浮体式洋上風車

本体の設計

IEC61400-4 ギヤボックス IEC61400-5 ロータブレード IEC61400-6 タワー・基礎 IEC61400-7 パワーコンバータ IEC60076-16 風車用変圧器

部品の設計

IEC61400-11 騒音測定 IEC61400-12-1 性能試験方法

(パワーカーブ認証)

IEC61400-12-2 性能試験方法 (ナセル風速計)

IEC61400-13 機械的荷重計測 IEC61400-14 音響パワーレベル IEC61400-15 風条件のサイトアセス

IEC61400-21 電力品質 IEC61400-23 実翼構造強度 IEC61400-24 雷保護 IEC61400-26 シリーズ

利用可能率(風車/発電所)

性能評価

IEC61400-25 シリーズ 監視制御用通信 IEC61400-27 シリーズ 電力シミュレーション

互換性・その他

IEV60050-415 用語-風力発電分野

用語

IEC61400-22 適合性試験及び認証

適合性評価

図4. 風力発電システムの国際規格体系 (IEC61400シリーズ)

図 3. 風力発電導入における標準化の位置づけ

Page 3: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

図 5. 風力発電システムの IEC 規格及び JIS の発行状況

WGs 規格名称 IEC 作業段階

JIS

MT1 風車の設計要件 IEC 61400-1 Ed. 3.0 IS JIS C 1400-1:2010IEC 61400-1-am1 Ed. 3.0 IS JIS C 1400-1:20XX (審議中)

IEC 61400-1 Ed. 4.0 WD

MT2 小形風車の設計要件 IEC 61400-2 Ed. 2.0 IS JIS C 1400-2:2010IEC 61400-2 Ed. 3.0 IS JIS C 1400-2:20XX (審議中)

WG3 洋上風車の設計要件 IEC 61400-3 Ed. 1.0 IS JIS C 1400-3:20XX (制定予定)

IEC 61400-3 Ed. 2.0 WD

PT61400-3-2 浮体式洋上風車の設計要件 IEC/TS 61400-3-2 Ed. 1.0 1CD -

JWG 1 風車のギヤボックスの設計要件 IEC 61400-4 Ed. 1.0 IS -

PT 61400-5 風車翼の設計要件 IEC 61400-5 Ed. 1.0 ANW -

PT 61400-6 風車のタワー及び基礎の設計要件 IEC 61400-6 Ed. 1.0 ANW -

PT 61400-7 風車用パワーコンバータの安全要件 PNW 88-493 Ed. 1.0 PNW

MT 11 騒音測定方法 IEC 61400-11 Ed. 2.0 IS JIS C 1400-11:2005

IEC 61400-11-am1 Ed. 2.0IS JIS C 1400-11:2005

/AMENDMENT 1:2010IEC 61400-11 Ed. 3.0 IS JIS C 1400-11:20XX: (審議中)

MT 12-1 発電用風車の性能試験方法 IEC 61400-12-1 Ed. 1.0 IS JIS C 1400-12-1:2010IEC 61400-12-1 Ed. 2.0 2CD -

PT 61400-12-2 ナセル風速計による風車の性能計測方法 IEC 61400-12-2 Ed. 1.0 IS JIS C 1400-12-2:20XX (審議中)

PT61400-12-4 発電用風車性能計測のための数値シミュレーションにもとづく風速推定法

IEC61400-12-4 (提案検討中)- JIS C 1400-12-4:20XX (審議中)

MT13 機械的荷重の計測方法 IEC/TS 61400-13 Ed. 1.0 TS -IEC 61400-13 Ed. 1.0 1CD -

WG14 風車の音響パワーレベル及び純音性評価値の表示 IEC/TS 61400-14 Ed. 1.0 TS -

WG15 風力発電所の風条件に関するサイトアセスメント IEC 61400-15 Ed.1. ANW -

MT21 系統連系風車の電力品質特性の測定及び評価 IEC 61400-21 Ed. 2.0 IS JIS C 1400-21:2005

系統連系風車の電力品質特性の測定及び評価 IEC 61400-21-1 Ed. 1.0 1CD

風力発電所の電力品質特性の測定及び評価 PNW 88-499 Ed. 1.0 PNW

MT22 適合性評価方法及び認証 IEC 61400-22 Ed. 1.0 IS JIS C 1400-22:20XX (制定予定)

MT23 実翼構造強度試験 IEC/TS 61400-23 Ed. 1.0 TS -IEC 61400-23 Ed. 1.0 APUB -

MT24 風車の雷保護 IEC 61400-24 Ed. 1.0 IS JIS C 1400-24:20XX (制定予定)

JWG25 風力発電所の監視制御用通信:原則及びモデル全般IEC 61400-25-1 Ed. 1.0 IS

-

(MT25) 風力発電所の監視制御用通信:情報モデル IEC 61400-25-2 Ed. 1.0 IS -IEC 61400-25-2 Ed. 2.0 CCDV -

風力発電所の監視制御用通信:情報交換モデル IEC 61400-25-3 Ed. 1.0 IS -IEC 61400-25-3 Ed. 2.0 CCDV -

風力発電所の監視制御用通信:XMLベースの通信プロファ

イルへのマップIEC 61400-25-4 Ed. 1.0

IS-

風力発電所の監視制御用通信:適合性試験 IEC 61400-25-5 Ed. 1.0 IS -

風力発電所の監視制御用通信:状況監視用ロジカルノードクラス及びデータクラス

IEC 61400-25-6 Ed. 1.0IS

-

PT 61400-26 時間基準による風車の利用可能率 IEC/TS 61400-26-1 Ed. 1.0 TS -

利用可能率を基準とする風車の設備容量 IEC/TS 61400-26-2 Ed. 1.0 TS -

風力発電所の利用可能率 IEC/TS 61400-26-3 Ed. 1.0 ANW -

WG27 風力発電の電力シミュレーションモデル IEC 61400-27-1 Ed. 1.0 ADIS -

風力発電所における風力発電の電力シミュレーションモデル IEC 61400-27-2 Ed. 1.0 ANW -

AHG1 風車:用語 PNW 88-477 Ed. 1.0 PNW -

- 風力発電システム―第0部:風力発電用語 - JIS C 1400-0:2005- 小形風車を安全に導入するための手引き - TR C 0045:2006

[IEC文書略称] NP:新業務提案,WD:作業原案,CD:委員会原案,CDV:投票用委員会原案,FDIS:最終国際規格案,IS:国際規格,TS:技術仕様書

TR:技術報告書 [IEC作業段階の略称] PNW:新業務の提案,ANW:新業務の承認,AMW:改正業務の承認,ACDV:CDV回覧の承認,CCDV:CDVの回覧

ADIS:FDIS回覧の承認,CDIS:FDISの回覧,APUB:発行の承認,PPUB:発行物(IS/TS/TRで表示)

現在作業中の規格(未発行)

発行済みの規格

イタリック ・・・最近の発行文書

Page 4: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

2.4 風力標準化の最新トピックス

最近の話題として以下にいくつか紹介する。

TC88 のスコープ拡大と名称の変更

Wind turbines ⇒ Wind Energy Systems

へ名称変更される予定である。

TC88 の幹事国の変更

オランダ ⇒ デンマークへ幹事国が交代

した。(2013 年 5 月)

IECRE の設立

風力発電システムを含む再生可能エネル

ギーの国際認証制度構築開始(2014 年 6 月)

新規格:風条件に関するサイトアセスメント

米国より規格化が提案され WG15 設置・審

議開始された。(2014 年 2 月)

新規格:風車用パワーコンバータの安全要件

スペインが新規提案した。(2014 年 7 月)

新規格:浮体式洋上風車の設計要件

IEC/TS61400-3-2 の素案完成(2014 年 6 月)

JIS 発行の予定(2014 年 8 月)

JISC1400-3(洋上風車設計要件)

JISC1400-22(適合性及び認証試験)

JISC1400-24(雷保護)

2.5 規格の活用状況

(1)世界での活用

現在設置されている風車及び部品は,IEC 規

格,JIS 等の地域規格もしくは IEC 規格をベー

スとしたドイツ船級協会(GL)などの民間ガイ

ドラインに適合したものとなっている。また,

製造メーカ自身が,規格に適合していることを

証明することもあるが,信頼担保の為,第三者

機関が評価する認証(第三者認証)を取得する

ことが一般となっている。

風車は,巨大な構造物・電機設備であるが,

これら統一された基準及び第三者認証の活用

により信頼性の高い製品が量産・供給され,よ

り信頼性の高い風力発電事業が可能となって

きている。また,これら基準及び認証も更なる

信頼性向上のための見直しが行われている。

(2)日本での活用

日本においては,海外と同様に規格に適合し

た風車が設置されており,その多くは第三者認

証を取得している。その為,国内の導入ガイド

ラインとしても利用されている JEAC 5005(風

力発電規程)においても IEC61400 シリーズを

引用している。

また,20kW 未満の小形風車については固定価

格買取制度(FIT)の設備認定において

JISC1400-2をベースとしたJSWTA0001による認

証の取得が求められており,認証制度が 2012

年 7 月より運用されている。

風力発電システム標準化委員会(28 名)

風力発電設計要件分科会 (20 名)

小形風車設計要件分科会 (9 名)

洋上風車設計要件分科会 (21 名)

図 6. JEMA 標準化(IEC 及び JIS)委員会の体制

ギヤボックス設計要件分科会 (10 名)

風車音測定方法分科会(8 名)

浮体式洋上風車設計要件分科会 (19 名)

風力発電性能試験方法分科会 (21 名)

風力発電雷保護分科会 (11 名)

風力発電認証システム分科会 (16 名)

タワー・基礎設計要件分科会 (19 名)

※括弧内の人数は,委員数

IEC TC88 (Wind Energy Systems)

MT21,JWG25,PT61400-26,WG27,etc

MT1,MT13,MT23,PT61400-5

MT2

PT61400-3-2

PT61400-6

WG3

MT11

MT12

WE OMC

JWG1

CAB IECRE - Renewable Energy

MT24

MT22

国内標準化審議体制 IEC61400 シリーズの開発

IEC61400 シリーズによる認証スキームの運用

一般社団法人日本電機工業会

Page 5: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

3.風力標準化における我が国の取り組み

3.1 我が国における標準化の課題 我が国では,国土の約7割が山岳地帯であり,

これに起因した高乱流並びに季節風あるいは

熱帯性低気圧起因の台風などによる極値風,雷

が原因と思われる故障・事故が顕在化したこと

から,独立行政法人新エネルギー・産業技術総

合開発機構(NEDO)は,我が国における風車の

設備利用率向上のため,風力発電施設の故障・

事故データの収集・原因分析を行い,利用率向

上に向けた報告書を取り纏めた。

また,これと平行して日本の環境に適合した

風車規格(指針)又は対策法の策定を目的に,

日本型風力発電ガイドライン(日本型風力発電

ガイドライン策定事業[H17-H19])を取り纏め

るとともに,次世代風力発電技術研究開発事業

(基礎・応用技術研究開発[H20-H24]及び自然

環境対応技術等/落雷保護対策[H20-H24])に

おいて,我が国の風及び雷条件に合致した風車

設計基準案及び対策方法を策定している。

これら成果の一部の標準化を推進しており,

規格化が順次取り纏められている。これにより,

国内の風力発電所の安定操業の確保,これら同

様の国内外の設置環境への市場拡大が見込ま

れる。さらに,厳しい日本の立地環境を満足す

ることによる日本製品等の評価向上による輸

出促進効果,国内関連産業技術向上なども見込

まれる。これは,NEDO が平成 22 年 7 月に発行

し た再 生可 能エ ネル ギー 技術 白書 で示

された「①様々な立地制約を克服する技術的対

策を推進し,国内導入量の拡大を図る。②国内

市場で培った技術力を背景として海外市場で

競争力を有する国内企業を育成する。」という

目指す姿(目標)に向けた活動の一環である。

3.2 標準化の範囲拡大に向けた動向

前述の通り,国内設置環境を考慮した新たな

設計基準の IEC規格への提案及び JISの策定を

行っている。

現在,風力発電システム標準化委員会で推進

している主な活動は以下の通りである。

大形風車設計に係わる台風,乱流,地震,

雷の基準及び評価方法の標準化

洋上風車(着床式,浮体式)の標準化

CFD を使った風速推定方法の標準化

ナセル風速計を用いた性能評価法の JIS 制定

小形風車の設計要件に関する JIS 改正

風車音測定方法の JIS 改正

タワー・基礎設計要件の国際標準化

電力品質の測定・評価の国際標準化

風車の国際認証制度の対応

これらの標準化を推進することにより,国内

に設置される風車への適切な設計基準の提供,

風力発電事業への標準的な評価ツールの提供,

を行い,設置環境の厳しい地域(国内/海外)

の市場拡大,国内設置風車の安全・信頼性の確

保を目指している。

3.3 標準化活動における日本の主な成果

(1)IEC 規格への日本意見の反映

① IEC61400-1 Ed4.0(大形風車の設計)

日本提案の台風トロピカルサイクロン用

風車クラス T(Vref,T=57.0m/s)が採用さ

図 8. 日本の国内環境に対応した基準の導入

図 7. 日本特有な気象条件と設置環境への対応

Page 6: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

れる見込みである。

日 本 提 案 の 極 高 乱 流 カ テ ゴ リ ー H

(Iref=0.18)が採用される見込みである。

極値風速及び地震荷重の評価法が採用さ

れる見込みである。

② IEC61400-2 Ed.3.0(小形風車の設計)

日本提案(小形風車の EMC 測定方法)が

採用された。

③ IEC61400-3 Ed2.0(洋上風車の設計)

日本の海象条件・評価法を提案中である。

④ IEC/TS61400-3-2 Ed1.0(浮体式洋上)

日本意見を反映した文書構成及び内

容・基準・評価法で審議が進行中である。

⑤ IEC61400-6 Ed1.0(タワー・基礎)

日本の建築基準法の土木学会指針の内

容をプレゼンし,提案中である。

(2)IEC 規格の開発への貢献

我が国からの規格開発への貢献が高まるに

つれて,日本での国際会議の開催の頻度が増加

し,日本のプレゼンスが向上している。2013 年

は下記の 6 つの国際会議を日本がホストした。

2013.4.4-5 : 風車認証諮問委員会

2013.4.8-10 : TC88 全体会議

2013.4.11-12 : WG3(洋上風車)

2013.4.15-16 : PT61400-3-2(浮体式)

2013.9.24-26 : MT1(大形風車の設計)

2013.9.27-28 : PT61400-6(タワー・基礎)

図 9. TC88 全体会議の日本開催(2013 京都) (3)JIS の審議・作成・制定

以下のJIS 3件が,2014年8月20日に公示(第

1 版発行)される予定である。

JIS C 1400-3(洋上風車の設計)

JIS C 1400-22(適合性試験及び認証)

JIS C 1400-24(雷保護)

4.IEC 規格への適合性評価

風車製造メーカは,自社の製品が安全及び性

能に関する技術基準である「IEC 規格」に適合

していることを示すことにより,ユーザへの安

全性・信頼性を得ている。この適合の示し方と

して,①自己適合宣言,②第三者による認証の

2つの方法がある。

4.1 風力発電の国際認証制度

(1)IEC の認証の種類

認証基準(GL ガイドライン,IEC61400-22)

で規定された認証の種類及び概要は,図 10 の

通りである。

(2)認証基準で引用している主な規格

IEC61400-1(大形風車の設計要件)

IEC61400-2(小形風車の設計要件)

IEC61400-3(洋上風車の設計要件)

IEC61400-4(ギヤボックスの設計要件)

IEC61400-11(騒音測定方法)

IEC61400-12-1(性能試験方法)

IEC61400-13(機械的荷重の計測方法)

IEC61400-21(電力品質特性の測定・評価)

IEC61400-24(雷保護)

IEV60050-415(用語)

(3)民間の風車認証機関

DNV・GL,日本海事協会(ClassNK),TUV,UL,

KR,CGC 等が,風車認証サービスを提供してい

る。

図 10. 風力発電に関する認証の種類

Page 7: 風力発電システムIEC/TC88国際標準化の動向jwpa.jp/2014_pdf/90-46mado.pdf2.3 規格の発行状況 風力発電システムの標準化では,風車本体の 設計基準,部品の設計基準,及び性能評価基準

(4)新たな認証制度の枠組み

風力発電システムの認証は,安全性・信頼性

の確保,輸出促進を目的に,市場及び製造メー

カが集中していた欧州で開始された。欧州の風

車メーカはもちろん,後発の欧州以外の風車メ

ーカも経験豊富な欧州の認証機関に依頼し,こ

れまでは,欧州機関の寡占状態であった。

しかし,グローバル化が進み各地域の要求が

増える中で認証機関の多様化の要望が増して

きた。このような背景から国際規格をベースと

した国際認証制度構築に向けた活動が開始さ

れている。(図 11 参照)

2011 年 5 月に国際風車認証諮問委員会(WT

Certification Advisory Committee)が設置

され,2010 年 6 月に発行された適合性試験及び

認証( IEC 61400-22 )を再構築する活動が開

始されている。2013年4月には,CAB WT CAC/SC22

と TC88/MT22 との合同会議が設置され,規格改

定作業が開始された。

さらに議論を続けるにつれて,風力発電シス

テムだけでなく,太陽光発電システム,海洋エ

ネルギーを含めた再生可能エネルギーシステ

ムの認証システム(IECRE)を新たに設置する

ことが,2014 年 6 月の IEC の適合性評価評議会

(CAB)で承認された。図 12 に示す審議体制に

おいて,制度構築に向けたルール,手順の整備

が進められている。

5.まとめ

日本においても,IEC/TC88 風力発電システム

国際標準の主要な審議に参画し,日本の提案が

採用されるようになっている。成果が有効活用

され,さらなる信頼性・安全性の向上とコスト

低減を目指し,日本でも経済的で持続可能なク

リーンエネルギーの利用を最大化され,将来の

日本が目指す中長期ビジョンの原動力の一助

となることを祈念している。

謝辞

平成 26 年度の風力発電の標準化は,経済産業

省の新エネルギー等共通基盤整備促進事業の

支援を得て推進しているものである。ここに記

して関係者の皆様に感謝する。

風車の国際認証システム

IEC/CAB 適合性評価評議会

電子部品品質認証制度(IECQ)

適合性評価システム

電気機器・部品適合性試験認証制度(IECEE)

防爆機器適合試験制度(IECEx)

再生可能エネルギーシステム認証制度(IECRE)

風力エネルギー運用管理委員会(WE OMC)

太陽光発電運用管理委員会(PV OMC)

海洋エネルギー運用管理委員会(ME OMC)

認証機関グループ(CBC)

試験機関グループ(TL)

エンドユーザグループ(End User)

風車・部品製造者グループ(OEM)

小形風車グループ(SWT)(SWT)

図 12 再生可能エネルギー認証制度(IECRE)の概要

図 11. IEC 国際認証スキームへの変革