icuにおける 鎮痛・鎮静・せん妄管理 · icu. における....
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ICUにおける
鎮痛・鎮静・せん妄管理
日本大学医学部救急医学系
救急集中治療医学分野
古川 力丸(こがわ りきまる)
「ちんせい」の新しいガイドライン出ました…
米国集中治療医学会(SCCM)の鎮静ガイドライン
CCM 2002; 30: 119-41
⇒2012年 SCCM総会にて内容が発表(流出!?)
⇒2013年 SCCM総会に合わせてパブリッシュ
Clinnical practice guidelines for the
management of Pain, Agitation,
and Delirium in Adult Patients
in the Intensive Care Unit CCM 2013; 41: 263-306
新ガイドライン
スポンサー組織:
ACCM(American College of Critical Care Medicine)
SCCM(Society of Critical Care Medicine)
ASGP(American Society of Health- System Phermacists)
2006年からタスクフォース活動開始
チームリーダーはDr. Juliana Barr(Stanford Univ.)
21名からなる他職種チーム
key word
iPad
ICU-Pain, Agitation and Delirium
新しい人工呼吸患者管理方針
ABCDEバンドル
A Awaken the patient daily(Sedation Cessation)
B Breathing(daily interruption of mechanical
ventilation)
C Coordination(A + B) Choice of sedation or analgesic exposure
D Delirium monitoring and management
E Early mobility and Exercise
Chest 2010; 138: 1224
鎮痛
WHO疼痛ラダー
ステップ1
軽度の痛み
ステップ2
軽度から中等度の強さの痛み
ステップ3
中等度のから高度の強さの痛み
弱オピオイド リコ酸コデイン
オコシコドン
強オピオイド モルヒネ
フェンタニル
オキシコドン
非オピオイド
±鎮痛補助薬
±非オピオイド
±鎮痛補助薬
±非オピオイド
±鎮痛補助薬
痛みの残存ないし、増強
痛みの残存ないし、増強
がんの疼痛からの解放
苦痛
身体的苦痛
創痛
チューブ類による痛み、違和感
人工呼吸器との不同調
疾患によるもの(癌、低酸素、呼吸困難感など)
体位
嘔気
掻痒感
精神的苦痛
不安、不理解
摂食、排せつ、清潔、睡眠のニードが満たされない
プライバシーが確保されない
その他の痛みの治療についての
新・ガイドライン①
侵襲的な手技を行う際にも鎮痛薬の投与を考慮する(+2C)
神経因性疼痛以外では静注オピオイドを第一選択とすることを推奨する(+1C)
全ての静注オピオイドは同等と考えられる(C)
オピオイドの総投与量を減量するため、もしくは副作用を減らすために非オピオイド性鎮痛薬の併用もしくは切り替えを検討する(+2C)
神経因性疼痛に対してはガバペンチンやカルバマゼピンの追加が推奨される(+1A)
経口気管挿管は痛い行為なのか?
気管挿管時のみならず、経口気管挿管管理中には相応の痛みを伴う。
⇒気管挿管時の薬剤選択(麻酔時、緊急時)
⇒経口挿管人工呼吸管理中のオピオイドの使用
⇒気管切開後は…
早めの鎮痛薬投与、リラクゼーションなどの非薬物による手段を抜管まで行うことを推奨する(+1C)
人工呼吸器患者では鎮痛ありきの鎮静がよいのかもしれない(+2B)
ICUに入室する患者の多くは疼痛を感じており、とくに気管吸引、体位交換に伴う疼痛が大きいとされている
Jm J Crit Care 2002 11 415
倫理上、診断で疼痛の知覚が必要である場合を除き、適切な疼痛管理を受ける権利を有する
CCM 2002 30 s97
成人のICU患者は安静時、ケア時も常に痛みを感じている(B)
とくに、心臓手術の患者は痛みをしばしば感じているが治療されていないことが多い(B)。
ICUでの処置・手技には疼痛を伴うことが多い(B)
その他の痛みの治療についての
新・ガイドライン
腹部大動脈瘤術後の患者には胸椎硬膜外麻酔を推奨する(+1B)。腰椎硬膜外麻酔は推奨しない(A)
胸部の手術や非血管手術では胸椎硬膜外麻酔はエビデンス不十分のため推奨しない(B)
外傷の四肢骨折には胸椎硬膜外麻酔を考慮(+2B)
内科系ICU患者には硬膜外麻酔や局所麻酔の併用はエビデンス不足のため推奨せず
痛みのアセスメント
成人ICU患者では、ルーチンの疼痛評価を推奨する(+1B)
自ら痛みを訴えることのできないICU患者では、BPSなどの客観的評価を行う。他のICU患者における妥当性、外国語での妥当性については検討が必要(B)
バイタルサインを痛みの指標としない方がよい(-2C)
(バイタルサインをスコアに組み込むことは推奨:+2C)
疼痛スコア
Numeric Rating Scale(NRS)
:今まで経験した一番痛い痛みを10として、今の痛みを数値化してもらう
Visual Analog Scale(VAS)
:疼痛の程度を10㎝の直線上で示してもらう
NRSはVASよりも理解が容易であり、道具も必要ないためICUにおける疼痛スケールとして頻用されている CCM 2002 30 s97
鎮痛に関するガイドラインまとめ
全てのICU患者は痛みを伴うと思え
鎮痛薬の1st選択はオピオイド静注、神経因性疼痛はガバペンチン
痛みもスケール評価が必要
鎮痛補助薬や硬膜外麻酔も患者によっては有用
鎮静
鎮静薬の種類について
ミダゾラム: 安価。ミダゾラム及び代謝産物が腎不全時には長時間効果が残存する。欧米ではロラゼパムが使用されることが多い。
プロポフォール: 肝代謝。脂肪をリッチに含むため、高脂血症に注意。半減期が短い。
デクスメデトミジン: 呼吸抑制が少ないとされる。保険適応上の制限があり、人工呼吸管理中でなければ用いることができない。
鎮静薬の選択に関して…
副作用を考慮して、嫌な薬剤を避ける。
少しくらい血圧が下がっても大丈夫なのか?
徐脈に耐えられるのか?
呼吸抑制が発生してもいいか?
代謝経路は大丈夫か?(肝不全・腎不全など…)
非ベンゾジアゼピン系鎮静薬(プロポフォール、デクスメデトミジン)がベンゾジアゼピン系鎮静薬(ミダゾラム、ロラゼパム)に比べて臨床的アウトカムを改善させるために好まれるかもしれない(+2B)
鎮静の評価
RASSとSASは最も妥当性のある信頼できる指標(B)
BISなどの客観的モニターは主観的モニターの代用とするには不適切(-1B)
筋弛緩管理中や昏睡状態など、客観的モニタリングが困難な患者では上記客観的モニタリングを併用することを考慮(+2B)
鎮静の管理法
過鎮静は人工呼吸器時間やICU滞在日数が長引く要因となる
NEJM 2000; 342: 1471-7
Lancet 2008; 371: 126-34
浅い鎮静レベル(light sedation)を保つことと、臨床的アウトカムが関連している(B)
臨床的に禁忌でなければ、deep sedationよりlight sedationをめざして鎮静薬を調節することを推奨する(+1B)
浅い鎮静は怖い?
浅い鎮静群と深い鎮静群の比較研究。
浅い鎮静群では人工呼吸器管理期間がおよそ1日短縮。ICU滞在日数も1.5日短縮した。
事故抜管、不穏、身体抑制、再挿管、気管切開などの確立は両群間で差はなかった。
Crit Care Med 2009; 37: 2527-34
鎮静薬のdairy interruption(後述)かlight
sedationでの管理をルーチンに行うことを推奨する(+1B)
新・ガイドライン
鎮静に関するいろいろ
環境や、光、音を調節したり、ケアの時間の工夫によって夜間の睡眠をとらせるように工夫する(+1C)
眠りやすい換気モードについてはエビデンス不足
鎮静に関するガイドラインまとめ
鎮静薬は非ベンゾジアゼピンが有用
デクスメデトミジンが臨床的アウトカムの改善と関連
鎮静はスケールを用いて評価する
Sedation vacationがスタンダードだが、light
sedationでもOK
せん妄
せん妄の判断
注意を集中できない
環境、周囲の認知ができない
日内変動、時間での変動がある
せん妄を引き起こしうる原因(身体疾患の異常)がある
興奮(不穏)のみがせん妄ではないことに注意。
Hyper active derilium
Hypo active derilium (quiet derilium)
Mixed derilium
ICU症候群という用語は、せん妄の原因を環境に求め、医学的な原因の探索を怠る原因となる
Arch Intern Med 2000 160 906
せん妄は、人工呼吸を必要としないICU患者の48%
Crit Care 2005 9 R375
人工呼吸患者では44-80%がせん妄と判定される
JAMA 2001 286 2703
CCM 2005 33 1260
ICM 2007 33 1726)
せん妄は人工呼吸患者において死亡率の予測因子
JAMA 2004 291 1753
CCM 2004 32 2254
人工呼吸患者のせん妄のうち、
過活動性せん妄は0-1%であり、低活動性せん妄は88-90%、混在型が12%とする報告もある
ICM 2007 33 1726
せん妄はICU患者の予後を悪化させる(A)
ICU滞在や入院の期間を延長させる(A)
ICU退室後の認知機能の悪化に関連する(B)
せん妄のモニタリング
せん妄アセスメントツールは、
CAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)が有名
ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)はCAM-ICUよりも簡便で、患者の協力をほとんど要さない
ICU患者ではルーチンのせん妄モニタリングを推奨する(+1B)
CAM-ICUとICDSCがもっとも妥当性があり信頼できる指標(A)
ルーチンのせん妄モニタリングは実臨床でも実行可能である(B)
新・ガイドライン せん妄のリスクファクター
認知症、高血圧、アルコール多飲、入室時の重症度が背景因子として重要(B)
昏睡はせん妄発症の独立危険因子(B)
オピオイドの使用とせん妄発症の関係は、さまざまなデータがあり不明(B)
ベンゾジアゼピン系鎮静薬はせん妄のリスクとなるかもしれない(B)
プロポフォールとせん妄発症を関連付けるデータは不十分(C)
人工呼吸管理をされるICU患者ではベンゾジアゼピン系薬剤よりもデクスメデトミジンによる鎮静がせん妄頻度を減少させるかもしれない(B)
せん妄、昏迷、
昏睡の原因…
しばしば代謝性脳症の初期症状としてせん妄を呈する
せん妄の治療
ハロペリドール(セレネース)2.5-5㎎を2-4時間毎に増量。高齢者では半量、8時間ごと。必要に応じて20-30分ごとに追加投与。落ち着いたらトータル使用量の1/4量を8時間毎。
せん妄期間短縮のエビデンスはない
非定型向精神病薬:リスペリドン(リスパダール)、クエチアピン(セロクエル)、オランザピン(ジプレキサ)など
非定型向精神病薬はせん妄の期間を短縮するかも(C)
ハロペリドールとの併用はやめた方がよい(-2C)
QT延長やTdPの既往・リスクがある場合は避ける(-2C)
アルコールやベンゾジアゼピンの離脱症状でなければ、ベンゾジアゼピン系よりもデクスメデトミジンの方がせん妄期間を減少させるかもしれない(+2C)
新・ガイドライン せん妄の予防
できる限り早期に患者を動かすと、せん妄の頻度や期間を減少することができる(+1B)
ICU患者に対するせん妄予防の薬剤は、データ不十分なため推奨しない(C)
薬物と非薬物を組み合わせての予防も同様(C)
デスクメデトミジンによるせん妄予防はデータ不十分なため推奨しない(C)
せん妄に関するガイドラインまとめ
せん妄もスケールを用いて評価
せん妄へのアプローチは包括的患者管理で臨む
デクスメデトミジンはせん妄に有用
ただしせん妄予防を目的には使用しない
ICUとは…
インテンシブ・ケア・ユニット
大切なことは、「場所」ではなく「ひと」
その場所に、どんな医療スタッフがいるのか。
他職種でのチーム・アプローチを推奨する(+1B)
(プロトコル作成、ガイドライン使用のチェックリスト・ラウンドを業務内容に含める)
Fin…