中~上級日本語学習者に対する作文指導法 ·...

69
中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 はじめに………・……’…’……- 1.作文能力について・…・……… 1.作文とは 2.作文能力とは 3.作文能力の習得 皿.作文の指導法・……………一一 1.作文指導の内容 2.指導理論の概観 3.国語教育における作文指導 4.効率的な指導法を目指して 皿.論述文の指導に向けて……・……・… 1.論述文の構造分析の必要性 2.展開パターン分析のためのデータベースの作成 3.文レベルからみたパターンについての分析 4.文段レベルの連接およびパターンについての分析 ]V.教材作成に向けて…・・ 1.日本語教育における作文教材の現状 2.教材開発の基本的な考え方 3.教材開発の手順と教材の概要 4,上級用教材の開発に向けて まとめ・…・…… )) 3﹇0 (( ・(14) ・(26) ・(53) ・(61)

Upload: others

Post on 09-Mar-2020

5 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

中~上級日本語学習者に対する作文指導法

         の研究と教材開発

佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

目 次

はじめに………・……’…’……-

1.作文能力について・…・………

 1.作文とは

 2.作文能力とは

 3.作文能力の習得

皿.作文の指導法・……………一一

 1.作文指導の内容

 2.指導理論の概観

 3.国語教育における作文指導

 4.効率的な指導法を目指して

皿.論述文の指導に向けて……・……・…

 1.論述文の構造分析の必要性

 2.展開パターン分析のためのデータベースの作成

 3.文レベルからみたパターンについての分析

 4.文段レベルの連接およびパターンについての分析

]V.教材作成に向けて…・・

 1.日本語教育における作文教材の現状

 2.教材開発の基本的な考え方

 3.教材開発の手順と教材の概要

 4,上級用教材の開発に向けて

まとめ・…・……

))3[0

((

・(14)

・(26)

・(53)

・(61)

Page 2: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

2

Abstract

Research into Teaching Japanese Composition and

Development of Teaching Materials for Intermediate              and Advanced Levels’Learners

Masamitsu SATO Kayo TOMURA

    At present, in the field of Japanese language teaching, the problem of how e伍ciently do we teach

Japanese composition to foreign students in a short period of time is urgent. We dare say, however,

the study of this subject has so far been insuf五cient.

    It is indispensible to acquire necessary writing abilities for students who stay and study at univer-

sities for a long time. They must write papers, answer questions on periodical examinations, and pre-

pare drafts for the presentations at seminars within a few months after entering the school. But few

could manage to acquire suf且cient writing abilities right after matriculating, most must acquire suita-

ble writing abilities within a couple of years after matriculation.

    The purpose and contents of this study are as follows.

    1.To discuss what kind of methods of teaching writing are more effective and more eficient,

based on preceding studies.(Chapter I, II)

    We tried to clarify how to teach and what to teach in writing Class, while reconsidering the mean-

ing of writing behavior and writing ability.

    2.To analyze argumentative essays as a test and obtain some basic data that is useful for teach-

ing the organization of an argumentative essay.(Chapter III)

    First, we collected 100 texts(sellected from‘‘RONDAN”in the、Asahi Shimbun),and then at-

tempted to analyze them. We tried to analyze them by focusing on the cohesion of sentences and the

cohesion of“BUN-DAN”paragraph. We think that, although the study is still in the testing stage,

some concrete knowledge was gained.

    3.To develop effective teaching materials for writing for intermediate and advanced levels’

learners, based on the studies of l and 21isted above and examination of problems in current text-

books.(Chapter IV)

   We pointed out the problems in current textbooks and studied the possibilities of developing new

teaching materials.

2

Page 3: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

3

《重点共同研究》

中~上級日本語学習者に対する作文指導法

    1  の研究と教材開発

佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

はじめに

1.問題の所在

 主として「会話」を中心とする話し言葉の言語行動とは異なり,書き言葉は,たいていの場合,長

い時間の努力によって培われていくものであるために,文章表現の指導も,多くの困難がつきまとう

ものである。それは,母語における教育だけでなく,第二言語における教育においても同様である。

しかしながら,一方では,より効率的に,より短期間のうちに,外国人留学生などの日本語学習者に

作文能力を習得してもらわなければならないということが緊急課題として存在している。

 大学に在籍して長期の留学生活を送る学生にとって,必要に応じた作文能力を身につけておくこと

は必要不可欠である。なぜなら,彼らは入学後数か月でレポートを提出したり,論述形式の定期試験

に臨んだり,ゼミでの発表原稿を用意したりといったことが必要となり,最終的には何十枚もの卒業

論文を書くことが要求される。しかし,大学入学時にそうした能力が十分に備わっている学生はごく

少数であり,大部分は入学後に,しかもたいていは2年間という短時間のうちに,相応のレベルに

達することが望まれている。その望まれるレベルがどの程度かは必ずしも明確ではないが(これはこ

れでまた大きなテーマになりうるであろう),理想はかなり高度なものであるように感じられる。

 このような現状はできるだけ早期に改善されるのが理想であることは言うまでもないが,効率的な

指導方法がなかなか見出せない現状では,問題の根本を検討することから始めなければ確かな解答が

得られないことも事実である。

 問題はごく基本的なことのように見えても,その根はずいぶんと深いであろう。作文(文章表現)

の指導はいかにして可能となるのか。効率的な作文指導というものは実際に存在しうるのか。そし

て,そういう指導法があるとして,それはどのようにして実現されるのか。こうした問題がそう簡単

に結論の出るものとは思えないけれども,これからの日本語教育のあり方を考えていくためには,こ

の問題についてさまざまな角度から考察を深めていくことが重要であると思われる。

2. 本研究の目的

 中~上級レベルの「書くこと」についての基礎的な研究はまだ大変遅れた状態にあると見てよく,

3

Page 4: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

4

このことはそのまま,中~上級レベルの作文指導の遅れとなって,日本語教育のバランスの悪さを作

り出しているようにも思われる。本研究の中心的テーマは,主として日本語の論述形式に焦点を当

て,作文の指導法に関しての具体的な調査研究と,論述文の分析とを通して,未開拓のままになって

いる作文の指導法を模索し,効率のよい教材の開発・改善を試行することにある。

 私たちは現在,実際に外国人留学生の作文指導を行っており,誤用文の分析を中心としたこれまで

の調査から,中~上級の日本語学習者が文章表現において抱えているさまさまな問題点を明らかにし

てきた(佐藤(1987)(1990)(1992),佐藤・戸村(1993a)(1993b)参照)。それらは,書き言葉に

関わる言語上の問題から論理的構造に関する問題まで,多岐にわたっていて,そこから問題の本質を

あぶり出すには至らなかったが,作文指導のあり方を探る上で重要な点がいくつか見出せたように思

う。

 しかしながら,やはり,それがどんな内容であれ,教育を論じるにはその教育の内容を根本的に明

確にしておくことがどうしても必要である。本研究では,最終目標を中~上級日本語学習者に対する

作文の指導法と教材の開発というところに設定してはいるが,作文指導を考える上で前提となる,作

文とその能力に関しても,多く言及することになろう。

3. 本研究の内容

 まず,第1章では,作文能力というものをどのように捉えるべきなのか,という点について考えた

い。「作文」がどのような行為であり,「作文能力」はどのようなものと考えるべきか。また,「作文

能力」はいかにして習得されるものと考えるべきなのか。こうした論点は,作文指導を行う側の立場

を明確にする上で必要なものである。

 第皿章では,中~上級の学習者に対する効率的な指導法はどのようなものであるべきか,また,重

点的に指導すべき具体的な内容は何か,という点について考えたい。

 第皿章では,論述文形式の文章にはどのような特徴が認められるか,という点について,論述文分

析の試行研究を提示する。特に,ここでの研究は,複文レベルでの連接と文段レベルでの連接とパタ

ーソ分析が中心となる。この試行研究は,論述文作成指導のための基礎資料を得ることが大きな目的

である。

 最後に,第]V章では,研究の成果としての教材例を提示してみたいと思う。

本稿の執筆分担は以下のとおりである。

第1章・……………

第皿章……………・

第皿章・第1節…

第皿章・第2節…

第皿章・第3節…

第皿章・第4節…

……・ イ藤・…… イ藤

………ヒ村

………ヒ村

……… ヒ村

………イ藤

4

Page 5: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

5

        中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

第】V章…  ……・ …・戸村

(佐藤)

1.作文能力について

 本稿のテーマは中~上級日本語学習者に対する作文指導法を考察することであるが,作文の指導法

を考えるためには,まず,作文という行為自体について考察しておく必要があるだろう。また,作文

能力をどう捉え,それがどのように習得されるものなのか,という点についても,一応の意味付けを

しておきたいと思う。

1.作文とは

 まず,作文というものがどのような行為であり,作文の能力とはどのような能力であるのか,を考

えておきたい。作文の指導法というものは,作文という行為と作文する能力を教える側がどのように

考えるかによって,大きく左右されると思われ,作文の指導法を論じるには作文という行為自体につ

いての考え方を明らかにしておく必要があると考える。

 作文という行為は,かなり広範囲な行動を含んでおり,どの部分に焦点を当てるかによって,ま

た,その行為にどのような意味づけをするかによって,様々に定義される。このことは,作文という

行為が,単なる言語行動としてだけでなく,人間の認識そのものの問題から,認識のし方,伝達,創

作の情熱に至るまで,全人間的な行為であることを示している。しかし,ここでは,作文の教育を行

う立場から見た場合に最も重要と思われる議論にできるだけ限定して考えていきたい。

 作文という行為は,それを「ことがらの認識」そのものと捉えるか,それを「ことがらの伝達」と

捉えるかによって,大きく様相を異にする。そして,この捉え方の違いは作文の指導に対して大きな

意味を持っていると思われる。

 「ことがらの認識」に注目しようとすると,現実の言語による抽象化,比喩,表現,等々が自ずと

問題となってくるだろう。

 福沢周亮氏のr言葉と教育』(1991)から引用してみる。

「文章を作ること,すなわち文章化は,文章から始まるのではなく,文章化の対象になることが

らの把握から始まる。」ω

「文章化とは,文章の構造と文章を構成する言葉を基礎として,ことがらを再構成することだと

いえる」(2)

 ここで,「ことがらの把握」「ことがらの再構成」とはことがらの認識そのものと言い換えることが

できる。作文の行為をこのように捉えるのは,書き言葉による表現(文章化)と認識のし方に注目し

5

Page 6: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

6

て作文のプロセスを説明しようとしているからであり,同書が,「ことがら」が「文章化」される前

段階として「言語化」の段階を示し,「ことがら」の「言語化」ということが一通りではなく,いく

通りもの「言語化」が可能であることを取り上げているのも,(文章)表現の多様性を問題にするた

めであろうと思う。このような説明はそれなりに納得できるものであり,理解もしやすいものであ

る。

 だが,実際の教育という観点から考えると,こうした捉え方では不十分な点が残るのも事実であ

る。なぜかというと,教育という現場で作文というものを考えた時に一番苦労するのは,「なぜ書く

のか」という作文の目的を教育の場でどのように現実化するかということだからである。学習者の多

くは作文の目的あるいはその必然性がないために学習の発展が阻害されるのであり,「なぜ書くのか」

の問題を棚上げにしては作文教育は成立しないように思う。

 では,作文教育において,作文というものをどのように捉えるべきであろうか。より具体化して言

えば,「なぜ書くのか」の問題を直視して作文を捉えるには,作文をどのような行為として見つめて

いかなければならないのだろうか。

 私たちが「なぜ書くか」を問うのは,書く目的を明確にしたいということである。書く目的を明確

にするには,書くという行為の中に,「読者」「伝達」「話題(テーマ)」「コミュニケーション」とい

う概念と「場」(それは現実のものであっても想像上のものであってもかまわない)が設定されてい

なくてはならないだろう。

 こう考えてくると,作文という行為は次のように捉えておくのが妥当であるように思う。

「いわゆる4技能の中の『書く』領域の活動は,言語の書記記号(文字)に関わる側面と書記記

号を道具として意思を表現・伝達する側面を併せ持っていると言ってよいであろう。」③

 そして,さらに,「書く」行為は,それを「読む」行為と切り離して捉えるのではなく,両者の相

互行為の中において捉え直すということが重要である。もちろん,話し言葉と違って読み手は,たい

ていの場合,物理的には存在しない。しかし,「書く」という行為はどこかに未知の読者を想定して

はじめて成り立つものであるということができる。

 このようにして,作文という行為の中に「伝達」という側面を付加し,「伝達」という行為を基盤

として,

①だれに伝えるか。→読者の存在(あるいは読者の意識)

②何を伝えるか。 →明確なテーマ・話題の存在

③如何に伝えるか。→方法論

という,いわばコミュニカティブな捉え方が可能となる。上記の①②は「なぜ書くのか」の問題に帰

着する問題であり,③は,語彙の選択,レトリック,構成など,技能の問題として集約することがで

6

Page 7: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

7

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

きる。このように考えてくると,書き言葉も,言語行動という点では,話し言葉と異なるところはな

いとも言えよう。

 ところで,ある行為がコミュニカティブになるということは,その活動に参加している行為者(書

き手と読み手)が共に,ある「場」を形成しているということである。この「場」は,会話のように,

話し手・聞き手という当事老たちとともに具体的な世界として実際に存在するものではないが,書き

手の頭の中には確かに存在するものと考えられる。

 作文というものを人間の様々な認知活動の一つとして見れば,このように考えるのが妥当であろ

う(4)。

2.作文能力とは

 作文というものを以上のように考えるとして,それでは,このような作文を可能にする能力につい

ては,どのように考えるべきだろうか。これは,視覚や手・指の運動など,肉体的メカニズムの問題

は別にして,読み手が書かれたものをどう読みこなし,それをどう評価するかという問題と実は密接

に関わっており,正確に作文の能力を定義付けることは不可能に近い。

 一般的には,作文能力というものを,

①文字の書写能力→②言葉の表記能力→③ことがらの表現(伝達)能力

という三段階に分けて考えることが多いが,もちろんこれは便宜的なもので,それぞれの段階が複合

的な能力からなっていることは当然である。文字の書写といっても,表意文字である漢字の場合は意

味と結びついているのであるから,すでに概念としての「言葉」の段階にまたがっている側面もある。

言葉の表記能力では,語の綴りや句読法といった,主として形式的規則に関わるものから,意味の形

成に関わるものまで含まれている。ことがらの表現(伝達)能力では,主に伝達内容に関わってはい

るが,日本語の言語習慣に則した語句や文型の使用という側面も重視されることになるであろう。要

は,この問題は作文のどのような点を指導するのかということに帰着する問題でもある。

 作文の指導内容の確定という観点から,作文能力を捉え直してみよう。

 J.B.ヒートン(1975)はライティソグ・スキルを次のように分類している(5)。

(i)文法的技能:正しい文章を書く能力

(ii)文体的技能:文章を操り,言語を効果的に使用する能力

㈹ メカニカルな技能:書き言葉に特有な伝統的規則(句読法,綴りなど)を正しく使用する能力

㈹ 判断の技能:関連する情報を精選し,編成し,秩序立てる能力とともに,心の裡に或る特定の

        聴き手を伴いながら,特定の目的のために適した様式で書く能力

ヒートソは,上の4技能の中で最も重要なのは「判断の技能」であるとしており,それはそれな

7

Page 8: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

8

りに当然のこととしてうなずけるが,(i)と㈹以外は技能の性質が明確とは言えない。

 また,ウィルガM.リヴァーズはr外国語習得のスキルーその教え方(第2版)』において,次

のように作文に必要な能力を説明している(6>。

「書いた物がネイティブ・スピーカーに理解され,満足なものであるためには,生徒は文字体系

を学び,その言語の慣例に従って綴ることができなければならない。さらに,優れた書き方の規

範に従って構文を扱うことも学ばなければならない。生徒たちは,単語や語句の可能な組み合わ

せの中から,彼らの意図する意味を伝えてくれるものを選ぶことを学び,しかも,究極的には,

適切な言語の使用域の持つニュアソスを書くことを通して表現するためにそれらの選択ができな

ければならない。この段階に到達するためには,生徒は,優れた書き方の技術面を掌握し,可能

な組み合わせの中から選択する過程に全精力を集中できるようになっていなければならない。」

(天満美智子・田近裕子訳)

 ヒートンにしても,リヴァーズにしても,その内容に大きく異なるところはないし,ともに,作文

能力のおおよその全体像を説明しているように思う。しかし,どちらも,個々の技能の全体的位置づ

けを構造的にうまく説明しているとは言いがたい。この点を分かりやすく説明していると思われるの

は,A.ピソカス(1982)である(7>。

 ピンカスは,文を正確に書くこと(文法力)と,適切な語彙を選択すること(語彙力)のほかに(B),

「伝達(Communication)」「文章構成(Composition)」「表現形式(Style)」という三つの分野に大別

される九つの領域の技能(skills)が要求されると言う(9)。

1人々とのコミュニケーショソ

2特定の主題への適合

3思考内容の提示

4文章の構成

5パラグラフの利用

6文の連接(cohesion)の利用

文章構成(Composition)

7四つのスタイル(叙述,描写,説明,議論)による記述

8望ましい丁寧さの度合いの決定

9望ましい感情表現の創出

表現形式(Style)

 ピンカスは,文章を書こうとする時はいつでも誰でも,この九つの領域でそれぞれ必要な選択をす

ると考え,作文の教育においても,最初は個々の領域の練習から徐々に総合的な練習に進むのが効果

8

Page 9: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

9

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

的だと言う。

 このピンカスの分類は,実際に作文指導をする上で大変役に立つものであると考える。これに,分

類の前提となっている,「文字」,「綴り」,「語彙」,「文法」,「句読法」を加えたものを作文能力と考

えるのが実際的ではないだろうか。

3.作文能力の習得

 それでは,上に述べた作文能力はどのようにして獲得することができるのだろうか。

 私たちは,文章を書こうとすると必ずと言っていいほど悩むものである。まず,私たちは何を伝え

ようとするかについて悩むであろう。さらに,書こうとするテーマが決まっていても,筋立ての方向

と結論づけが明確になっていない状態であれば,やはりそのことで大いに悩むものである。そしてま

た,如何に伝えるかについても悩むことが多い。語彙のレベルから,語句,表現,筋立てのレベルま

で,そして,そもそもどのような伝達材料を利用すればいいかについて,悩むものである。しかし,

「悩み」は同時に少しずつ解決に向かって歩みつづけている状態でもある。この悩む行為の内容と原

因を追究することは,作文能力の習得の糸口を見つけることにつながっているように思う⑩。

3.1クラシェンの結論

 このやっかいな問題を考えるのに,私はクラシェン(1984)の習得理論(「1)を出発点としたい。クラ

シェンの理論は,作文能力の習得について考えるとき,最も根本的な問題を論じており,かつ,彼の

理論は多くの示唆に富むアイデアを提示していると考えるからである。また,彼の理論は作文指導の

あり方を問うために提出されたものであり,教育と直結した形で問題が論じられていることも,本稿

のねらいと一致している。

 クラシェソ(1984)の説得力は,先行の調査研究⑫を踏まえて,そこから首尾一貫した理論を構築

しようとしている点にある。

 クラシェソが先行の調査研究から得た結論は以下に示すような諸点であった。急いで付け加えてお

かなければならないが,ここでの先行調査研究とは母語(英語)話者の作文についてのものである。

(1)自発的で楽しい「読み」は作文能力の発達に貢献する。さらに,作文の回数よりは「読み」の

  量をふやすほうが効果的である。

 「読み」が作文能力の発達のために重要なファクターであることは容易に想像される。作文能力の

習得のためには,同時に書き言葉の習得がそこに伴っていなければならない。書き言葉は話し言葉と

異なり,独自の言語体系を形作っていると考えるべきである⑯。書き言葉の様々なコード(書き言葉

を形成する諸要素)は書き言葉による文章の「読み」を通してしか習得されないと考えるべきであろ

う。クラシェソ(1984)が言うように,上手い書き手(good writers)が下手な書き手(poor

writers)に比べてより多く読んでいるωのもごく当然のこととして理解できる。また,「読み」と作

9

Page 10: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

10

文との相関関係を調べた調査もこのことを裏付けている⑮。

 しかしながら,作文の回数が作文能力の開発にあまり役に立たないという結果は,何を示している

のであろうか。これはクラシェンが論拠としている調査レポートを詳細に分析してみなければ判断は

難しい。だが,書き言葉の習得が不十分な学習老にいたずらに回数を多くしても効果はなく,そうい

う学習者にはまず「読み」を多くさせる必要があると言うことは容易に想像できる。

(2)いくつかの作文技能については教えることができるが,それにも限界がある。たとえば,形式

  や構成という最も一般的で明瞭なものは指導が可能である。

作文の練習(特に説明文の作文練習)は作文能力の改善と関連性があるという実証例は得られたが,

しかし,それでも「読み」の効果ほどの収穫は報告されていないという。

(3)フィードバックは,それが作文過程の途中で行われたときは有益だが,最終段階で行われたと

  きは無駄である。

 学習者が書いたものを回収し,添削し,それにコメントを付けて返却するのが作文指導におけるフ

ィードバックだが,教師が添削した部分がどのように学習老に認識され,それが改善されたかを教師

が確認できなければ意味がない。また,調査の結果は,学習者に推敲を促したり評価したりするフィ

ードバックは,より効果的であることを物語っているという。

(4)文法指導は作文のためには効果的ではない。文法を犠牲にして「読み」を増やすほうが作文は

  より改善される。

 この結論は,母語の作文については,ある程度納得できる面もあるが,第二言語における作文で

は,必ずしも同様の結論になるとは思えない。また,ここでの「文法指導」というのはその指導内容

と指導方法もその効果に大いに関係してくるであろうと思われる。

(5)作文の上手な者は,構想,読み返し,推敲,そして時には再考とやり直しといった,自分の考

  えを文章に書き写すために必要となる作文のプロセスを知っている。不得手な者は,それを知

  らない。

 作文の上達には,アウトライン作り,試し書きなどに時間を割くことが必要である。また,書いて

いる途中で筆を休めたり,読み返したりといったことが,全体の構想を反省したり,欠陥を探してみ

たり,新しい観点を導入してみたりするときに必要である。作文の上手・下手を大きく分けているの

はまずこの点であると言える。こういうことが行われれば,学習者自身による推敲ということも,完

一10一

Page 11: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

11

          中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

全ではないにしても,同時に行われると考えられる。ある意味では,この推敲という行為こそが,

「会話」という言語行動と明確に区別される作文の本質であるということもできよう⑯・

 また,クラシェン(1984)は,作文経験の多い者ほど,内容に関する推敲に焦点を当てるという。

さらに,作文の巧みな老は,必ずしも最初のプラソや筋立てに固執せず,推敲の結果,文章の再構成

をしたり,再出発したりということを忌避しないという。

(6)作文の上手な老は,絶えず読み手を意識し,読み手に与える効果を考える。不得手な者はそれ

  をしない。

 私たちは,同じ内容の文章であっても,読み手がはっきり決まっている場合には,自ずと相手との

コミュこケーショソに相応しい文体を用いるものであるが,このような行動を起こすのは,自分の文

章が読み手に与える効果を考え,読み手が有する知的背景を計算し,どのように読み手に興味を覚え

させるか,といったことに,書き手の注意が向かうからである。クラシェンはこのことを,フラワー

(1979)のことばを借りて,より能力の高い書き手は「書き手本位の文章」から「読み手本位の文章」

への変換ができると説明している。

3.2 クラシェンの理論

 以上のような調査結果をもとに,クラシェソは,作文(writing)という言語行動を,作文能力

(competence)と作文遂行力(performance)とに分けてとらえ,その能力の習得について次のよう

な一般化を試みている。

1.作文能力は,興味や楽しみのための自発的な「読み」を大量に行うことによってのみ習得される。

 「読み」が「興味や楽しみのため」の「自発的な」ものでなければならないのは,能力の習得とい

うものは無意識のうちに行われるものであり,興味や楽しみの伴わない,意識的・学習的読みでは真

の習得は実現されないと考えるからである。これは次の2の理論とつながることなので,そこで詳

述しよう。

 また,「読み」は「大量」でなければならないとするが,その量の実数は挙げられていない。この

「読み」の量については,時間的制約の多い第二言語教育での作文指導においてどこまで実現可能か

が問題となろう。

2.作文の能力は,第二言語習得と同じ形で習得される。

 この理論を理解するには,クラシェン(198ユ)その他の第二言語習得理論の考え方を見ておかな

ければならない。クラシェン(1981)の第二言語習得理論ODは,言語「習得」と言語「学習」とを区

一11一

Page 12: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

12

別して考える。言語「習得」は,子供が第一言語を獲得するのと同じように無意識下の過程で起こる

ものであり,言語についての知識を学習することとは異なると考える。そして,話したり書いたり

(ことばの産出),聞いたり読んだり(ことばの理解)できるのは「習得」された言語システムによっ

てであり,意識的な「学習」は,非常に限られた条件下で,産出される言語の形を整えるためのエデ

ィター機能ないしはモニターとしてのみ役立てられるにすぎないと考える。

                学習されたシステム                    ↓    習得されたシステム’一…一一…一一…一一…一…一…一一…一…一…一→発話

〔成人の第二言語運用モデル〕⑯

では,その「習得」はどのようにして起こるのであろうか。

 「第二言語習得理論によれば,我々は唯一の方法で一つまり,理解可能なイソプットによって,

習得する。習得は,話したり書いたりの練習,形の訂正でのフィードバックをしてもらうことによっ

ては起こらない。それは,第二言語での伝達内容を理解するときに起こるのであり,それが「どのよ

うに」表現されているかというよりは,「何」が話され,「何」が書かれているかを理解するときに,

我々が形ではなく意味に焦点を当てているときに,起きるのである。」⑲

 さらに,このイソプットが十全たる形で習得されるためには,心理的障害(これを「感情フィルタ

ー」と呼ぶ)が完全に取り除かれた状態で実現されなければならないと考える。「習得」は,今自分

が別の言語を聞いたり読んだりしていることを忘れたときに,最も効果的に起きるという。

 作文能力の習得が第二言語の習得と同様に起こるとすると,作文能力は学習されるものではなく,

伝達内容に注意が集中された「読み」,真に興味のための,楽しみのための多くの「読み」によって

習得されることになる。このことから最初の1の理論が意味を持ってくるのである。このインプッ

トが完全なものであれば,作文に必要な文法的構造やディスコースに関わる規則なども自動的に習得

が可能だと,クラシェン(1984)は言う。

 一方,意識的な「学習」は作文能力の発展において限られた役割しか担っておらず,「学習」は習

得が不完全だったことで残った問題点を埋めるために用いられるという。しかし,大人の学習者であ

っても,意識的に学習可能な言語規則はごく少量であるという。

3.作文能力にとって,「読み」は,必要条件ではあるが,十分条件ではない。

 これは「読み」の限界を説明したもので,本を読む人間がだれでも有能な書き手になれるわけでは

ないということである。作文能力が十分に実現されるためには,読書以外に二つの要因が必要とさ

れ,一つは,習得が実現されないのでは,あるいは困難なのではという予想などをしないこと,もう

一12一

Page 13: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

13

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

一つは,読んでいる自分が作家(あるいはそういった資質を持った人間)の一員であると見なすこと

が重要であるという。

4.作文遂行力を促進させるのは,作文練習である。

 これまでの理論からすると,作文教育における教師の役割は何かということが大いに問題になりそ

うである。彼の理論を極端な形で考えれば,教師はおもしろく読める本を学習者にたくさん与えてお

くだけで良さそうでもある。実際,無能な教師に教わるよりはそのほうが有益である場合もないわけ

ではなかろう。しかし,言語の学習は,多くの例から分かるように,有能な良い教師に教われるので

あれば,一人で学ぶよりずっと効率的であり,習得も早いものである。教師の役割は間違いなく存在

する。クラシェンは,その教師の役割を主として学習者の作文遂行力を促進させることに見ているよ

うである。

 作文能力が自発的読みの結果として発展していくのだとすると,作文の練習そのものは能力の発展

には関与しないことになる。ただし,説明文のような作文の練習は,学習者が効果的な作文のプロセ

スを発見する手だてとなる,とクラシェンは言う。

「適切な練習は,多くの学習者が,試行錯誤を通じて,構想立て,読み直し,推敲の必要性を理

解するのを促進するし,彼らがしっかりした構想立てや推敲のストラテジーを身につけていくこ

とを促進する。指導の真価は,学習老が作文遂行のための適切なストラテジーをより早く身につ

けることを促進し,効果が薄かったりこんがらがったりした作文のプロセスを正常に戻したり,

あるいは,そうなる危険を回避したりすることを促進することができる,という点にある。」㈲

 作文能力の習得に関するクラシェソの理論は以上のように整理できる。これは主として母語におけ

る作文能力の習得に関する言及であるが,彼は第二言語における作文についても触れており,第二言

語の作文については研究が不足しているとしながらも,母語と第二言語の,作文能力と作文遂行力と

の間には,大きな類似点があるという。書き言葉の習得のための「読み」,効果的な作文のプロセス

を身につけるための作文練習ということについても同様であるという。母語の書き手と比べると,第

二言語の書き手は文法と語彙選択においてより多くのエラーを犯すものであり,そして,教師はそれ

らを訂正し,正しい形を教えようという気持ちに駆られるものであるが,このような指導方法はごく

限られた範囲でしか効果がない,とクラシェソは言う。

3.3残された問題

 クラシェソ(1984)は,作文の指導を行う際に示唆的な,多くの点を論じている。特に,「読み」

と作文能力習得との関係を具体的に論じたこと,そして,何よりも,作文という言語行動を,書き言

葉コードの習得と作文遂行力とに区別して考えたことは,今後,作文指導上の諸問題を整理する上

一13一

Page 14: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

14

で,大変有意義な指摘であると思う。

 しかし,同時に,いくつかの疑問点も明白になってきたように思われる。たとえば,「読み」と作

文との関係は指摘された通りであろうが,しかし,書き言葉コード習得のために,どのような文章を

どれだけ多く読ませればいいのか,ということに関しては,今後十分な検討が必要である。特に,効

率的な指導が必要とされる第二言語教育においては,これは重要な課題と言える。

 また,彼のインプット理論に従うとすると,理解のし方によっては,作文指導の成果の大部分は学

習者の「読み」による十分なインプットを待つしかないということになり,このことは,「作文より

も読解」という,非常に消極的な指導理論に結びつき,指導方法を停滞させる要因にもなりうるもの

と言えよう。教育においては,学習者側の資質も興味もそれぞれに異なる部分が常にあると考えるべ

きで,学習老が自ら積極的に求めるものであれば,たとえそれが「学習」とクラシェンが呼んだ内容

であっても,大きな効果が期待できないわけではないと思う。

 今後は,クラシェソの理論を批判的に継承発展させていくことが何よりも重要であると考える。そ

ういう意味で,次章以降では,作文習得を効率的に促進するためには,どのような指導方法が望まし

いのか,そして,特に論述文作成の指導においてどのような練習が必要とされるのか,といった点に

ついて考えることにしたい。そこでは,教師の側の作文指導における学習老への積極的な関わり方も

問題になるし,作文の際の構想力という,学習者の思考領域にまで踏み込むことの是非も,大きな問

題になると思われる。

皿.作文の指導法

 本章では,前章で取り上げたクラシェンの作文の習得理論を下敷きにして,中~上級日本語学習者

に対する作文指導はどのようなものでなければならないかを考えていきたい。

1.作文指導の内容

1.1クラシェンの指導理論から

 クラシェン(1984)は,作文行動を阻害する問題点を次のように整理しているe’)。

1.書き言葉特有の語句や符号,スタイル,規則(書き言葉コード)が未習得である場合(作文能

力の未習得)

2.作文を進める際に経なければならないプロセス(作文プロセス)が未熟であったり,非能率で

あったりする場合

 作文行動が完遂されない原因としては,①作文能力の習得に問題があり,かつ,作文プロセスにも

問題がある場合と,②作文能力は習得しているが,作文プロセスに問題がある場合,の二つのタイプ

を想定する。

一14一

Page 15: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

15

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 そして,まず,書き言葉コードの習得のためには,学習老を本好きにすることが肝要だとする。教

師の役割は,学習老の読書への接近の道を作ってやることだというわけである。

 こうしたクラシェンの考えは,前章の彼の習得理論から導かれる当然の帰結と言えるが,しかし,

このような指導はあまりにも基本的すぎて,実際の指導の際の参考にはならないのではという感じが

しないでもない。確かに,本が嫌いで読書をしない学習者に作文の指導をしても,効果はほとんど期

待できないであろう。教師の役割が,そうした,本が嫌いな学習者を作らないようにすることである

ことも正しい指摘である。しかし,この問題は,根本的に見れば,家庭,地域,さらには国レベルの

行政のあり方にまで関わらざるを得ない問題も孕んでおり,問題の中心が拡散してしまう恐れも大い

にあると思われる。

 もう一つの問題点としてあげられている作文プロセスについて考えてみよう。大事なのは能率的な

作文プロセスを育成していくことだとクラシェンは言う。そして,そのためには,まず,作文の形式

的な訂正作業などは後回しにし,書き手本位の文章を用いるべきであるという。書き手本位の文章か

ら始めることは,認知的負荷を軽減し,書き手が自分自身の思考を活動させている間,多くの形式へ

の注意を棚上げにしておいてくれるからである。もちろん,次の段階として,書き手本位の文章から

読み手本位の文章へ㈱,読み手に注意が向けられた文章へと転換されていくことが必要だが,読み手

本位の文章への転換は,作文プロセスのどの段階においても実現されうるものだという。

 指導理論についてのクラシェンの基本的な考えは以上のようなものであるが,彼は指導の際の留意

点として,さらにいくつかの点を指摘している。たとえば,学習者が,間違った情報をもとに,作文

にはプロセスは存在せず,経験豊かな書き手は何の計画もなしにいきなり原稿用紙に書き始めるもの

だ,と思っていれば,そうした誤解をただす必要がある。また,作文という行為が,たとえば教室な

どで1時間という限定された枠の中で完結するものと学習者に印象づけるのも,読み直し,書き直

し,という作文プロセスの大事な作業をおろそかにさせてしまう原因となるという。

 練習は,学習者に一般的な作文プロセスがどのようなものかを示すことができるばかりでなく,ど

のような形でプラソを立てるか,アウトライソの形,まとめ方をどうするかなど,具体的な形で選択

の幅を広げることができる。また,上手な書き手はどのように文章を組み立てているかということを

示すことは,学習者に選択の幅を広げさせるだけでなく,作文プロセスの大切さを認識させることに

もなると言う。

 また,教師の与える助言も有効である。助言の内容は次のようにまとめられている。

1.書き始める前に,少なくともおおよそのアウトラインや構想を作ること。書いていくにしたが

 って,そして,アイデアが発展していくにしたがって,そのアウトライソを変えていくことをた

 めらわないこと。

2.初期の原稿から手を入れすぎないこと。原稿は単なる原稿にすぎない。自分の文章の内容に満

足するまでは,技術的なこと,綴り,句読法などを考えないこと。

3.書いているときは全体の構成を常に心に留めておくこと。書き手はいつも簡単に方向を見失っ

一15一

Page 16: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

16

てしまう。時々は立ち止まって,全体の構成を思い出すために,読んだ内容について考えるこ

と。

 これまで見てきたクラシェンの考え方については,次のように評価したい。

 まず,作文能力を身につけるためには,基礎的段階として,表現手段となる書き言葉コードが習得

されていなければならないこと。この習得は教師による知識の詰め込み式教育によっては決して実現

されるものではなく,学習者の主体的自然的習得に頼らざるを得ないこと。そして,この書き言葉コ

ードは「読み」というインプットによってしか習得され得ないこと。

 このクラシェンの理論は否定することができない真実を含んでいると思われる。こうした能力が学

習者に不足している場合,あるいは,中途半端な習得にとどまっている場合には,どんなに多くの練

習を課しても能力の進展は期待できないであろうe3)。

 しかし,作文能力を高めるための「読み」のインプットはどのようなものでなければならないか,

という点や,「読み」の内容的吟味とそのイソプットの方法については,依然今後の課題として残さ

れている。

 一方,潜在的な作文能力を身につけた学習者が実際に作文行動を遂行するには,作文プロセスにつ

いての知識を学習することが,より能率的に作文を行うために重要である。そして,クラシェンの理

論にしたがえば,この作文プロセスは,教師が積極的に指導して効果が期待できる教育内容と考えら

れるものである。

 では,学習者が作文プロセスについて学習ができる,具体的な教育内容とはどのようなものである

べきだろうか。

1.2 留学生に要求される作文能力

 日本語学習者の中で作文能力が重視されるのは,主に大学などの高等教育機関で学ぼうとする留学

生である。専攻によって要求される内容や形式にはかなりの差が認められるものの,定期試験での答

案作成,レポート作成,論文作成(そのほか,ゼミ発表のための原稿作成も含めて考えるべきであろ

う)というふうに,作文能力は学業成績を決定づける最も大きな要因の一つとなっていると言うこと

ができる。

 このような作文能力の重要性を考慮すれば,留学生は大学入学時にすでに相当程度の作文力を有し

ていなければならないし,さらに,大学入学後もできるだけ早期に必要なレベルまで作文能力を高め

る必要があると言えよう。ここ数年,日本語教育において作文能力の重要性についての認識は高まっ

てきており,以前と比較して全体的な作文能力の向上が見られるが,満足できる状態にあるとは決し

て言えない。作文の指導が十分に効果を上げていない理由としては多くのことが考えられるが,一番

の理由はその指導方法が確立されていないことである。

 大学で学ぶ留学生,この場合彼らの日本語力は中~上級にあると考えていいが,彼らが必要として

いる書き言葉は主として論述文形式のものである。このことは「読解力」よりも「作文力」について

一16一

Page 17: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

17

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

特に言えることであり,彼らが身にっけなければならないのは何よりも論述文形式の作文力であると

考えていいであろう。したがって,私たちが作文指導の際に留意しなければならないことは,論述文

形式の文章表現に的を絞った授業展開を如何に効率的に行うか,ということである。

 論述文形式の作文に焦点を当てることにはいくつかの大きな利点がある。第一に,学習者にとって

学習項目が明確になり,何を学ぶかについての方向性が見えやすくなること。第二に,論述文は様々

な文章形式の中で最も明確な形式性を備えており,学習者に文レベル,段落レベルでの表現形式を示

しやすいと思われること。第三に,論述文は,もちろん絶対的な構成上のルールがあるわけではない

が,たとえば序論・本論・結論といった形で,どんな場合にも応用が可能で,発展性も有する基本的

な文章構成を教えることが可能であること。また,さらに第四番目を付け加えれば,論述文作成の練

習では,書き手の意見,ものごとの把握,事実の説明ということを,書き手自身の責任で整理し直す

ことが求められ,そのこと自体が,大学において最も有意義な学習である,知的認識と思考の鍛錬と

もなるということがあげられる。

2.指導理論の概観

 作文指導上押さえておくべき理論上のポイソトと思われるものについて,主なものを取り上げてお

きたい。

2.1作文指導の位置と範囲

 作文指導を日本語教育の中でどのように位置づけるべきか,また,作文指導はどのような範囲に及

ぶと想定すべきなのだろうか。

 作文指導の位置づけについては,もちろん最終的な段階では,「聞く」「話す」「読む」とともに,

言語の四技能の一つとして位置づけることができるであろうが,学習段階によっては独立した位置づ

けができないのが普通である。初級段階では,文字の学習を除けば,作文が独立して教えられること

はまずないと言っていいであろう。また,日本語教育では,rr作文』という書く場を設けることによ

って,話し方学習で学習した語彙・文型を使用する機会を増やし,文法,表記と併せて,その練習量

を増やして定着化を図るということが作文教育の第一の目的となる。」⑭という考え方もある。このよ

うな考え方は,「主題のとらえ方や文の構成については,個人的な差はあるが,学習老が高校卒程度

以上の年齢層の場合,すでに母語等における教育課程のなかでその能力を身につけているので,日本

語教育の場で取り立てて指導することは必要とはしない。」㈲という理由に基づいている。しかしなが

ら,この指導法はかなり文法教育に偏った指導法であるとも言え,真の作文能力がこの方法で発展し

ていくかどうかは,クラシェン(1984)の指摘もあるように,疑問点が多い。

 一方,作文の構成や構想は実際の作文そのものと同じくらいに重要と考える立場がある。たとえば,

F.L.ビローズはr外国語教育の指導技術』で次のように述べている。

「もしいろいろな要点が論理的順序に順次並んでいて,各要点がその前の要点から発展して,そ

一17一

Page 18: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

18

れを強化したり指示したりするようになっていれば,作品全体を累積的に発展させる力は,その

なかのどのひとつの要素よりも強いであろう。」㈲

 作文の構想を独立して教えることができるかどうかについては,ビローズも懐疑的であって,その

指導方法については今後も試行錯誤が必要であるが,しかしながら,母語においても外国語において

も,作文指導は作文の構想をも含めて考えなければ真の実りは期待できないように思われる。高校卒

業程度の学習者は確かに作文構成についての知識をたいてい持っていると想定できるが,その知識が

実際に彼らの作文に活かされているかといえば,実際の指導においてはそれが大いに疑問であること

を私たちは経験する。知識が実際に活用されるようになるにはそれなりの練習がどうしても欠かせな

いようである。

 作文指導の位置をこのように見てくれば,その指導の範囲も自ずと次のように考えざるを得ないよ

うに思われる。

 池尾スミ(1974)は,日本人を対象として行う国語教育の体系内の作文教育と,日本語を母国語

としない学習者に対する日本語教育の場での作文教育を区別しながらも,どちらにも共通して求めら

れる役割として,次の4点をあげている⑳。

(1)文章作成に関する基礎的な表現能力を養うこと。

(2)文章を構成し,まとめるための思考力を養うこと。

(3)表現形式の効果的な運用能力を養うこと。

(4)書く場合には,文字・符号等,表記一般の能力を養うこと。話す場合には,発表法に関する能

  力を養うこと。

それぞれ具体的な点についての異論は出てくるかもしれないが,実際の指導の場で考えれば,この

ような内容を指導の範囲とせざるを得ないであろう。

2.2 形式重視か内容重視か

 実際に作文の指導を行っていて,日常の添削作業から最終的な評価まで,教師を悩ませるのが,形

式と内容のどちらをより重視すべきか,という問題である。この問題は古典的でありながら現在でも

常に指導原理の中心に存在し,その両極への揺れ具合によって教育内容が左右されていると言ってい

い。この対立は,「質」重視か「量」重視か,「アキュラシー」重視か「フルーエンシー」重視か,自

由作文派か制限作文派か,エラー防止かエラー許容か,「文法」重視か「表現」重視か,といった対

立ともなって教師の教育態度を決定づけていると言えるだろう㈱。

 この問題については,私もかつて論じたことがあるが⑳,こうした対立は,絶対的な指導原理とし

ては成立しがたいものであって,学習者の質,人数,教育目標,等々によって揺れ動くのが自然と考

えるべきなのではないだろうか。

一18一

Page 19: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

19

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 たとえば,内容やフルーエンシーを重視すれば,文法上,語法上の誤りはあまり気にせず,最初か

ら自由作文を多く与え,書く経験をできるだけ多く積むことによって作文力を習得させようとするよ

うになるであろうし,また,したがって,評価の対象は内容の豊富さや書き手の意図がどれだけ成功

しているかが中心となるであろう。学習者自身の書きたい内容を尊重しようとすれば,こういう方法

を取りがちである。しかし,この方法ではどうしても指導の大部分が個別的にならざるを得ず,学習

者の数が増すにつれて指導の効率はどんどん悪くなることは避けられないであろう。

 一方,形式やアキュラシーを重視すれば,文法上,語法上の誤りはできるだけ訂正し,また練習も

いきなり自由作文を課すことはせず,できるだけ誤りを少なくするようなコソトロールを工夫し,徐

々に自由作文に近づける方法を取るであろう。そして,評価の対象も,文法の正確さや書きことばの

スタイルなどに重点が置かれることになるであろう。だが,この方法にも,これで本当に学習者の作

文力を伸ばしていることになるのか,といった疑問や,学習意欲の高い学習者でないと学習の目的が

見失われがちになるのでは,といった問題点が指摘される。

 学習者の「書こうとする意欲」を尊重するということでは,内容重視を基本におくことに異論はな

いが,その他の指導面では,学習者との相互交渉を通して,何を重視するかの色合いが決まってくる

と考えていいのではないか,というのが現在の私の結論である。

2.3 コミュニカティブ重視およびその他の作文指導上の議論

 作文の指導理論はこれまでに様々に議論されてきたが,それらを整理するにはA.ライムズ

(1983)によるのが便利である。

 ライムズは,書き手が作文行動の中で操作している諸要素を次のような図で示している㈹。

        PrOducing a Piece of Writing

   SNYTAX          CONTENT   SentenCe StrUCtUre,   releVanCe, Clarity,   sentence boundaries,      originality,   Sty正iStiC ChOiCeS, etC。       IOgiC, et‘.

         \  //環言躍㎜

                     getting ideas,                     getting started,          Clear, fluenl, and      writing drafts,

                     「ev1Slng            °f塞deas \

                     AUDIENCE                 \伽幽

ORGANIZATION               PURPOSEparagraphs,                      theτeason for writing

topic and support,   WORD CHOICEcohesion and unity    vocabulary,

          idiom, tone

上図に示された諸要素のどれを教える側が重視するかによって様々な指導法が生まれることになる

一19一

Page 20: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

20

とライムズは言い,それらを大きく六っのアプローチ(指導方法)に分類している㈹。

1「制限から自由へ」(The Controlled-to-Free Approach)

 1950年代と60年代の初期に中心的な教授法であった,いわゆるオーディオ・リソガル・メソッド

の考え方に根差すもので,書き手のオリジナリティよりは,エラーを少なくし,形式的な正確さを重

視する。

2「自由作文重視」(The Free-Writing Approach)

 作文の「質」よりは「量」を重視する考え方で,主に中級レベルの学習者に対して,最初からいろ

いろなテーマについて数多くの課題を与え,エラーを気にせず書きつづけることで書くことの抵抗感

を徐々に克服し,形式的な正確さを自然と身につけさせようとするものである。

3 「パラグラフ・パターソ重視」(The Paragraph-Pattern ApProach)

 モデル文のパラグラフをまね,分析し,文の配列を考えることによって,パラグラフの構成を身に

つける。この指導法は,異なる文化の学習者は異なったやり方でコミュニケーショソを組み立てると

いう原理に基づいている。

4「文法一文型一構成重視」(The Grammar-Syntax-Organization Approach)

 ある特定の要素を重視するのではなく,文法,文型と同時に構成面へも学習老の注意を向けさせ

る。あるテーマが与えられたときに,学習者は,必要な語彙,文法・文型,そしてどのようなパター

ンの文の配列が内容伝達のために必要か,を同時に学ぶことになる。

5 「コミュニカティブ重視」(The Communicative Approach)

 この指導法の特微は,「なぜ書くか」「読み手は誰か」という点を重視していることである。したが

って,指導内容は必然的に現実生活に密接に関わるものが選ばれることになる。この指導法は,書く

という行為そのものの意味を問うことから出発していると考えられ,作文指導を論じる上で大変重要

な問題を含んでいると思われるので,後に詳述したい。

6 「プロセス重視」(The Process Approach)

 この指導法は,教師の学習者への関わり方に特徴がある。これまでの指導法では,教師の役割は書

かれたもののチェックが主であったが,学習者には「どのように書くのか」「どのように書き始める

ことができるのか」という切実な問題もあり,この問題解決のためには,作文プロセスの諸局面につ

いても教師が積極的にコミットしていくべきだという考え方である。

 これらの諸方法のうち,1~4についてはおおむね意識的無意識的に実際に取られてきた(あるい

は今も取られている)指導法であると思われるので,ここでは特に5と6について言及しておきた

い。

2.3. 1コミュニカティブ・アプローチ

 コミュニカティブ・アプローチと呼ばれる言語の指導法は80年代にイギリスを中心として広まっ

たものと言われるが,この考え方は作文指導においても大きな影響を与えてきているように思われ

一20一

Page 21: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

21

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

る。作文を単に「ことがらの文章化」と捉えるのではなく,現実生活のコミュニケーションの一形態

として見ることからこの考えは出発しているのであろう。このような考え方は,広い視野で捉えれ

ば,教師側の詰め込み式教育方法に対する反省から起こった学習者中心の教育方法の一環と見ること

もできるが,これはクラシェンの考え方とも共通するところが多く,先の議論で言えば,形式重視か

ら内容重視への移行と言うこともできる。

 たとえば,A.ピンカス(1982)の指導理論を概観してみると,まず,作文教育というものを,①

既習の語彙や構文の運用能力を広げるものとして捉える見方と,②様々な書き言葉のスタイルを通し

てコミュニカティブな表現能力を目指すものとして捉える見方,の二つを想定し,後者に力点を置い

て理論を展開している。

 しかし,実際の指導方法でピソカスが取っている練習形態は,内容重視に偏ったものではなく,次

に示すように,むしろ形式重視に近いオーソドックスなものと言える㈱。

①Familiarisation

② Controlled Writing

③Guided Writing

④ Free Writing

練習する作文内容についての理解と熟知

制限作文(エラーのない練習)

自由作文への橋渡し(選択などの自由が増す)

トピックなどの制限のある自由作文

 ピソカスはこうした指導法の論拠をD.バーン(1976)の,①presentation,②practice,③produc-

tionという三段階説によっているようである。

 また,ピンカスは,学習者が作文能力を身につけるために学ばなければならない具体的な作文技術

をも提示しており,作文練習はその技術の習得に焦点を当てることとなっている。こうした方法は,

二つの基本的な指導原則といったものがその背景となっている。

 一つは,「作文能力は,語彙と文法の力が十分であるからといって,それによって自動的に発現す

るものではなく,それ自身全く独自の方法で指導されなければならない」㈹ということであり,この

考え方から作文能力習得に必要な具体的な作文技術というものが取り上げられていくことになる。こ

うした考えは,書き言葉を話し言葉の延長線上に捉えるのではなく,話し言葉とは別個の言語体系を

想定するクラシェン(1984)やA.S.ホーニソグ(1987)のそれに近いと言えるだろう。

 もう一つの原則は「学習者は自分が今何をしようとしているのかを明確に認識している必要があ

る」㈱ということである。そして,そのためには「どのような作文の練習であっても,そのタイプな

どが何らかのモデルの形で提示されていなければならない。学習者はこれから練習しようとしている

作文のタイプに慣れることから始めることが必要である。学習者はそれを理解・熟知することができ

れば,そのなかにある技術の訓練をすることができる。このような練習の後,学習者は自分自身の作

文を産出する試みを行うことができる。」㈹というものである。上掲の①Familiarisationから④Free

Writingまでの練習の順序はこの原則に基づいていると言える。

 学習者が学ばなければならない作文技術としてピンカスが提示しているものは,第一章にも取り上

一21一

Page 22: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

22

げた,「伝達(Communication)」「文章構成(Composition)」「表現形式(Style)」の三つの分野に

おける九つの領域のスキルであるが,その中から作文指導上参考になると思われるものを三つほど取

り上げておこう。

 ピンカスは「伝達」の分野の中で,書き手の「思考内容の提示」に使用される様々な「論理的機能

(logical functions)」を10項目に分類して具体的に示している㈹。

1ものごとの姿・形の説明(a定義,b分類, c物の形状,感じ,等)

2ものごとのプロセスの記述や説明

3出来事の時間的経緯の説明

4ものごとの原因と結果(あるいは結果と原因)の関係の説明

5行為や状態の理由の説明

6ものごとの類似点の説明

7ものごとの相違点の説明

8ものごとの一般化と関連する事実の説明

9様々な仮説とそれらに対する議論

10賛成論と反対論

同時に,ピンカスは,文章の表現形式の伝統的なものとして,

1物語文(出来事の流れを記述する)

2描写文(ものごと,人物,概念などの様相を記述する)

3説明文(事実に関する情報の概略や詳細について記述する)

4論述文(様々な意見や問題について論述する)

の四つを挙げている(3Dが,この四つの表現形式は10項目の論理的機能の組み合わせによって生じてく

るものとしている。

 さらに,ピンカスは文章を組み立てていくときの技術として大切な,文やパラグラフの連接の方法

を六つあげている㈲。

1指示語による連接

2接続語による連接

3置換による連接

4語彙的関連性による連接

5省略による連接

6パターン使用による連接

一22一

Page 23: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

23

中~上級日本語学習老に対する作文指導法の研究と教材開発

 以上の作文技術は,英語による文章表現についてのものであるので,そのまま日本語に当てはめる

ことはもちろんできないかもしれないが,全体的には普遍性が高く,日本語教育においても参考にす

べき点が多いと思われる。

 これまで見てきたとおり,コミュニカティブな作文指導は,指導理論が非常に具体的かつ綿密であ

り,多くの教育現場で活用することができる面を持っているものであると言っていいであろう。ただ

し,コミュニカティブ・アプローチによって作文能力の全体が改善・発展していくものかどうか,疑

問がないわけではない。その疑問は,主として扱うことができる教材の限定性に関わっている。日常

的,あるいは現実の場面に近いことがらについては,コミュニカティブな指導法というものの効果は

大変大きいものがあると想像されるが,たとえばある程度学術的な論述文など,抽象度の高いものに

ついては読者の想定ということが難しくなり,コミュニカティブな指導の手だてが見つからないこと

も多くなるのではないかと思われる。

2.3.2プロセス・アプローチ

 作文という行為は,ある観点から見れば,それは書き手の主体的な創造行為であるからこそ意味が

あると考えることができる。これは一つの伝統的な文章観を生みだす考え方でもある。こうした考え

方は現在でもかなり根強く残っていて,作文の指導方法に関する教師への影響も相当強いものがあ

る。行為そのものの中に教師が立ち入って書き手の意図や文章の流れに影響を与えるような指導や示

唆は従来教育とは見なされていなかったという点が多分にあったように思う。特に外国語の言語教育

においては,文字通り,文字や語彙,文法を中心とした言語の習得が教育の中心的な範囲であって,

学習者の思考内容,思考方法に触れる部分につていは避けられることが多かったのではないだろう

か。

 このような指導の消極性への批判として,作文のプロセスに教師が積極的にコミットしていくこと

によって,作文をどのように書いたらいいのか,どのように書き始めたらいいのか,という学習者の

切実な問題を解決しようという動きが出てきた。こうした動きのなかから生まれてきた指導法の一つ

がプロセス・アプローチであると言える。

 プロセス・アプローチでは,学習者は当初のプランによって順当に文章を書き進めていくというわ

けではなく,書き始めた後に,教師その他の読者からのフィードバックによって,新たな考え,新た

な文章,新たな語句を発見し,推敲が進んでいくという面を重視する。ライムズは,こうした観点か

ら,「書くプロセスに働く書き手の内容創造的要素を一層促すために,タイトルの与え方,題材の集

め方,訂正法,書き方のヒントを得るための読みの指導,にわたって具体的な手順を展開してい

る」eg)という。

 このようなアプローチは,クラシェンの指導理論で見た,作文遂行力を伸ばすための「作文プロセ

ス」に関わる練習を重視することと一致するが,私はこのようなアプローチを,学習者に対する教師

の積極的なリーダーシップの発揮と見るのではなく,学習者と教師,あるいは,学習老同士のイソタ

ラクティブな関わりによる「発見的な作文練習」として捉えることが適当であろうと思う。このよう

一23一

Page 24: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

24

な練習のあり方は中・上級の学習者に対して特に求められるものであると考えたい。

2.3.3 文化的思考パターンが作文に与える影響

 ある国民の思考パターンが作文の内容に影響を与えることは大いに考えられることである。この方

面の研究としてよく取り上げられるのは,R. B.カプラソ(1966)の次の図である㈹。

β噌〃曲 Semitic

ウ暢 11  !! ノ

Oγiθntal Romα,ICθ Rt‘ssian

Lノ斗

 /二

  乙

 カプランは,話者の母語の違いによって,表現される文章にもそれぞれ異なった論理構造が見られ

る,ということを上の図で示しているわけであるが,しかし,この図式によってどこまでその国民性

・民族性をうまく説明できるかは私には分からない。特に,カプランがオリエンタルの特徴としてい

る「螺旋形」のタイプについては(この場合中国と韓国を指していて日本は含まれていないようであ

るが)それが当たっているかどうかも疑問である。また,ある解説書では,日本の典型的な「起承転

結」の構造は,ロマンス語やロシア語に近いものになる㈹,と述べているが,それも私にはよく分か

らない。ついでに言えば,一般の学習者に日本語の論理構造として「起承転結」を代表的なものとし

て教える必要性は全くないとも思う。いずれにせよ,この分野の研究はまだまだ未知の部分が多く,

安易なコメントは差し控えるのが無難であろう。

 ところで,文章の論理構造に国民性の違いが反映するという点について,個人的には異論があるわ

けではないが,しかしながら,たとえば,「序論・本論・結論」といった形の論述文の場合には,そ

の論理構造もかなり普遍性の高いものとして提示することが可能であり,こうした国民性による違い

がそれほど重大な問題となるとは考えなくていいのではないだろうか。また,このような国民性によ

る論理構造の違いという点を考慮して考えられたのが「パラグラフ・パターソ」重視のアプローチで

あったわけであるが,自国の特殊な論理構造を作文指導の中で取り上げることは,指導の中心部分か

ら大きくずれることになってしまうということにも留意する必要があろう。

3.国語教育における作文指導

 国語教育における作文指導と日本語教育における作文指導とでは,対象となる学習者に大きな違い

があり,その指導のあり方にも一線を画するところがあるのは当然のことである。小学校国語では

「国語を適切に表現する能力」を育てること,「思考力」「想像力」「言語感覚」を養うこと,「国語を

尊重する」態度が強調されているし,高等学校でも,「国語を適切に表現する能力」のほかに「思考

力」「心情」「言語感覚」「国語を尊重する」態度が学習目標となっている㈹。全体的に見て,国語教

一24一

Page 25: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

25

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

育でのこうした,人格形成,日本語を尊重する態度などは,日本語教育においては無縁のものであ

る。

 しかしながら,実際の指導においては,共通する問題も決して少なくはない。特に,経験や読書

量,文学的才能や感覚に裏打ちされた,いわゆる「うまい」文章を書く鍛錬から離れて,論理的な文

章を書く技能に焦点が当てられ始めた最近の国語教育の現状と,学習者の「思考力」「想像力」「言語

感覚」の育成にも配慮が必要と考えられつつある日本語教育の作文指導の現状とを見ると,国語教育

の作文指導と,特に中・上級の日本語教育での作文指導が目指そうとするところとは相互に重なり合

う点が広がってきているように思われる。

 国語教育における変化は,澤田昭夫氏のr論文の書き方』や『論文のレトリック』㈹,木下是雄氏

の『理科系の作文技術』や『レポートの組み立て方』(‘D,木原茂氏の『文章表現十二章』㈲などの出版

物によっても推し量ることができる。これらは,主として大学生や一般人を対象とした作文技術指導

書とでも言うべきものであるが,いずれも大変具体的な作文プロセスあるいは文章の論理構造に焦点

を当てたものとして,日本語教育での作文指導にも大いに参考になるものであると考える。

4.効率的な指導法を目指して

 作文指導上の問題点を整理し,効率的な指導法へ向けて,私たちがさらに検討を進めていかなけれ

ばならない諸点を明確にしておきたい。

 過去の作文能力の習得についての研究からは,クラスでの学習効果がある程度期待できるものと学

習効果が期待できないものとがあるという点が明確になりつつあると考えていいようである。厳密に

何が指導できて何が指導できないか,ということは今後の一層の研究の進展を待つしかないが,少な

くとも,教育の力点をどこに置くべきか,ということを検討する上では大きな前進であるように思

う。そのほかの点では,次の3点について確認ができたと思う。

L 書き言葉コードの習得のためには,多くの適切な「読み」のイソプットが不可欠であること

2.具体的な作文練習を積み重ねて「作文プロセス」についての知識を身につけることが,作文行

動を能率的に促進させること

3.練習の際には,学習者が必然的に負うことになる精神的困難さを取り除く努力が必要であるこ

 と

 1については,「読解」の授業とも深く関わることであるが,作文指導の観点からの「読み」の指

導のあり方,目的に即したモデル文の選定あるいは作成ということが重要であろう。また,そのため

には,たとえば論述文の構造分析といった基礎研究が必須であると思われる。このテーマについて

は,第皿章で試行研究を紹介したい。

 2にっいては,指導理論の検証作業と試行錯誤を通して指導内容の具体化(特に,中・上級の学習

者を対象として)を図り,作文教材を充実させていくとともに,その効果の検証作業を進めていくこ

一25一

Page 26: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

26

とが大切であろう。これについては第]V章で一つの報告を行いたい。

 3については,作文指導に限らず,教育全般に言えることであるが,何よりも学習者と教師との間

に信頼関係を築くことが重要である。その上で,作文練習に特有の困難点を克服する手だてを講じる

べきである。

 書くことの困難さについて,もう少し付け加えたい。D.バーソ(1979)が作文活動の困難点を次

のように整理している㈹。

1.心理学的問題:作文が相手との直接交渉がない孤独な行為であることによる困難さ

2.言語学的問題:話し言葉と違って,作文が言語的不完全さを許容せず,相手からのフィードバ

        ックなしにまとまった文章として完結していなければならないことによる困難

        さ

3.認知論的問題:作文は,自然習得が可能な「話すこと」とは対照的に,指導されることによっ

        て身に付く能力であること。さらに,書かれたものが未知の読者によって理解

        されることを常に考えながら自分の思考を組み立てていく方法を学ぶ必要があ

        る,ということによる困難さ。

 さらに,バーソは,私たちが書くことを強いられた時には,「何を書くか」という内容決定の際に

感じる「困惑」も困難点の大きなものとしてあげている㈲。このような困難点は作文の学習を考えた

ときに不可避的に決定づけられていることであり,ある程度は学習者の意欲と動機付けによって克服

されなければならないものと思われるが,たとえば,コミュニカティブ・アプローチやプロセス・ア

プローチなどの指導法はそうした困難点を学習者に乗り越えさせる方法として再吟味する価値がある

と言えよう。

皿.論述文の指導に向けて

L 論述文の構造分析の必要性

 日本語教育における中~上級レベルでの「書くこと」については,基礎的研究も教材開発も非常に

立ち遅れた状況にある。大学等の高等教育機関で学ぶ留学生が急増し,そのほとんどが日本語でのレ

ポート・筆記試験に取り組んでいる現状を考えれば,このような不備を補い作文指導の指針を見いだ

すことは急務となっている。

 日本語を母語としない中~上級レベルの学習者の作文を不自然で分かりにくいものにしている要因

は,個々の学習者の母語習得環境・日本語学習到達度によっても異なり,極めて複雑なものであるこ

とは間違いない。それを踏まえた上で,実際の授業で何に焦点を当てていくべきかを考えるために,

我々は二つの方法を採った。一っは,日本語学習者が実際に書いた作文を基礎資料としてそこに見ら

れる誤用を分析することであり,もう一つは日本語母語話者の書いた文章を分析し,その特徴を考察

一26一

Page 27: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

27

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

して,指導すべき学習項目を抽出しようというものである。

 佐藤・戸村(1993a, b)は前者の研究内容をまとめたもので,中~上級の日本語学習者の約200例

の文章を包括的に分析し,作文教材・教授法の開発・改善に向けてしかるべき根拠に基づく提案をす

ることを目指した。ここで明らかになったことの中で特に注目すべき点は,接続助詞・接続詞等の接

続表現に関する誤用の出現率が極めて高く,文章全体の流れを分かりにくいものにしている場合が多

いということである。もちろん,他の助詞の誤用,テソス・アスペクトの誤用,副用語の誤用,語彙

選択の誤用等々も決して看過すべきものではなく,誤用の実態・原因を見極めた上で学習項目として

取り上げていかなければならないということは言うまでもない。しかし,これらの項目が一文レベル

の例文提示・練習を行うことが可能であると考えられるのに対して,接続表現の場合には単に複数の

文を繋ぎ合わせるための統語上の形式を整える能力ばかりでなく,前後の文,さらには前後の段落と

の意味上の関係を把握していなければ適切な運用は望めない。殊に接続詞は段落を越えて機能する場

合も多く,その誤用は文章構成全体の流れを大きく左右する。また,文末表現やモダリティ表現とも

深く関わっている。これらのことから,接続表現に関わる正しい運用能力,そしてその能力に支えら

れた適切な日本語の文章展開の能力の向上を目指す作文指導は欠かすことができない。

 後者の日本語母語話者が書いた論述文の構造分析は,本研究の中核の一つを成すもので,上記の誤

用分析から得られた示唆に基づくものである。すなわち,留学生の作文を不自然で分かりにくいもの

にしている原因は,単に統語上の不備や接続表現の選択の誤りばかりにあるのではなく,段落構成の

不備や文章の展開が不明瞭なことにあるという点に注目している。学習者が数千字に及ぶレポート作

成ができるようになることを到達目標として設定した場合,具体的な学習項目を設定し指導上の指針

を見いだすためには,個々の接続表現に関する断片的な分析だけではなく,より包括的なディスコー

スレベルでの分析が必要なのである。その分析によって日本語の論述文に見られる幾つかの「文章展

開パターン」を明示的なかたちで提示することができれば,作文指導ばかりでなく,読解においても

展開パターソに基づく「予測読み」㈹を可能にするなど,大きな効果を生み出すことができると考え

られる㈲。

2.展開パターン分析のためのデータベースの作成

 従来の日本語教育の作文指導では,表現形式の正確さや作文のテーマといった事柄が注目されるあ

まり,文章の展開に重点が置かれることが少なかった。幾つかの教科書では,「起・承・転・結」や

「序論・本論・結論」などが紹介されているが,これらはあまりにマクロ的な分類に過ぎて,効率を

重視せざるを得ない日本語教育の観点からはそのままの形では利用できない。また,国語学の分野の

林四郎(1973),市川孝(1975),永野賢(1986)等によって提示された接続関係の類型も同様であ

る。そこで,本研究では,佐藤政光(1990)で用いられた分類を基礎に文段機能,文機能を分類し,

論説文の文章展開の基本的パターンを抽出・類型化することを目指した研究の基礎資料となるデータ

ベースの作成をした。

一27一

Page 28: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

28

2.1分析対象

 データベース作成に際しては,大学における日本語学習者の到達目標が「レポート・論述試験の解

答の作成」であることを考慮して論述文㈹に的を絞った。また,分析対象は,朝日新聞掲載の「論壇」

の文章100例⑪を採用した。これは,文章の構造分析を行う際に分析者による判断の揺れを最小限に

押さえるためには,文章の長さに一定の枠組みを設ける必要があると判断したこと,さらに,意見の

主張・反論を内容とした文章がまとまった数で入手できることによる。

 データとなる文章の平均文数は約27文,平均文長は約48字,句読点・その他の記号を除いた1文

章あたりの平均文字数は約1,350字である。

2.2データベースの構成とラベル設定

2.2.0 全体の構成

 「論壇」は,字数制限が1600字に設定されている。作業手順としては,まず,一つの文章を内容的

に一定のまとまりを持つユニット(=文段)pmに分割し,それを1レコードとした。1レコードには一

つまたは複数の文が含まれ,次に示すような情報構成をとる。

①レコードID番号

②大分類:文段機能ラベル

③中分類:文番号および文機能ラベル

④ テキスト内容

2.2.1レコードIDとテキストタイプ

 レコードID番号は,【nnnXXnnn】(三桁の数字+アルファベット2文字+三桁の数字)の形をと

り,前から順に文章番号,テキストタイプ,文段番号を表している。先頭の三桁の数字が同じ複数の

レコードは,一つの文章を構成し,末尾の数字が0~nとなる集合を成す。同一文章であるため,当

然のことながらテキストタイプを表すアルファベット・コードも一致する。

 テキストタイプは「論壇」に見られる論述文を6つに分類したもので,次のようにコード化され

ている。

コード 論述文のテキストタイプ

AS 主 張 文

PR 提 議 文

RT 報 告 文

EX 解 説 文

OB 反論 文SP 支 持文

一28一

Page 29: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

29

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 文段番号は0~n(実際には三桁で表示)で示されるが,「0」には該当の文章のタイトルが割り当

ててある。rn」はその文章を構成する文段の数を示す。ある文章をいくつの文段に分けるかは,分

析者の「読み」がいかなるものであるかによって違いが生じる可能性があるが,判断の揺れを最小限

にするために,5以上10程度までの数の文段に分けることを目安とした。実際のデータでは,「n」の

値は「6~9」の文章が多く,平均値は「7.7」,最大値は「11」となっている。

2.2.2文段機能ラベル

 各々の文段が文章の中でどのような機能を担っているかを見るためには,二つの視点が必要であ

る。一つは,文段そのものの「内容」であり,もう一つは「先行するの文段との関係」である。した

がって,分段機能の分類ではでは,これら二つの視点を軸としてラベル付けをおこなうことにした。

 まず,「内容」を軸とした分類では,以下に示す7種のラベル設定をした。

内容軸ラベル 内容からみた文段機能

① 事実 事実の提示

② 主題 主題の設定

③ 問題 問題の提起

④ 意見 筆老の意見

⑤ 他者 他者の意見

⑥ 分析 問題の分析

⑦ 結論 結論

実際の分析を行った結果,「論壇」の文章には手紙形式をとって論述されているものがあり,これら

の分類では収まりきらないため,「あいさつ」というラベルを追加設定した。論述文の中に「あいさ

つ」が入るのは「論壇」の特殊性によるところが大きいとも考えられ,このラベルの扱いについては

検討を要する。

 次に,「先行する文段との関係」を軸とした分類として,次の13種類のラベルを設定し,内容軸に

よる文段ラベルの後ろに必要に応じて括弧付きで表示させることとした。

文段間関係軸ラベル ラベルが示す文段間の関係

① (対比) 先行する文段と対比関係にある

② (分類) 先行する文段で述べられた事柄を分類して,その内容を述べる

③ (因果) 先行する文段の内容と因果関係にある事柄を述べる

④ (付加) 先行する文段で述べた情報にさらに情報を付加して説明する

⑤ (論拠) 先行する文段で述べた事柄の論拠を示す

⑥(<方向)

i〉方向)

後続する文段で述べる分類への方向付けを示す

謐sする文段のまとめを述べる

一29一

Page 30: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

⑦ (疑問) 先行する文段で述べた事柄を疑問視していることを述べる

⑧ (帰結) 先行する文段の内容からの論理的帰結を述べる

⑨ (展開) 後続する文段を展開させるための導入部となる

⑩ (修正) 先行する文段で述べた内容に修正を加える

⑪ (転話) 先行する文段と話題・場面的な差異がある

⑫ (転時) 先行する文段と時間的な差異がある

⑬ (転論) 先行する文段と論理的な矛盾・差異がある

 さらに,文章を構成する文段が階層構造を成している場合,一段下位レベルの文段には先頭に「*」

を,二段下位レベルの文段には先頭に「**」を付した。また,全体として論旨が不明瞭であると判

断される文章,文章の展開のさせ方が不適切であると考えられる文章については,タイトル(IDの

末尾が“~000”のレコード)に対応する文段ラベルとして,それぞれ「*」,「#」を付け加えた。

2.2.3 文機能ラベル

 文機能の分類は,佐藤政光(1990)で提案された機i能分類をもとに検討を行った。その結果,文

章の展開を視野に入れながら文機能を分析するためには,従来のような文単位での分析だけでは不十

分であるとの結論に達した。そこで,以下に示すような,先行または後続する文との間の関係を表す

「文関係表示ラベル」と文そのものが担う独立した機能を表す「文機能ラベル」の二段階のラベル設

定を行った㈹。

 文関係表示ラベルは次の12種類である。

文関係表示堰@ベ ル 文   間   関   係 表   現   例

1 〈改〉 先行する文の内容を修正する 一方~。それに対して~。

2 〈添〉先行する文の内容に情報を添加する(強調,例示,追

チ,詳説,換言,等)たとえば~。つまり~だ。

ウらに言えば~。特に~。また~。

3 〈対〉 先行する文の内容との対照・対比を表す だが,しかし,~のに,

4 〈比〉 比較 それに比べて~。

5 〈転〉 話題の転換 さて,ところで,実は,

6 〈入〉 話題を発展させる/本題・論点に入る では,それでは,

7 〈類〉 先行する文の内容を分類する 一つは~だ

8 〈ま〉 先行する文の内容をまとめる

9 〈MP>エッセイ・マップ:後に続く文章の展開を示す「分類」

@       への導入など~は以下の通りだ。

`は次のようになる。

10 〈導〉 必然的に導かれる結果(順接の接続語を伴う)したがって,それゆえ,だから,その

級ハ,このため,そこで,すると,~

ゥら,~の結果,~ために,等

11 〈反〉 反論

12 〈同〉 同意

Page 31: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

31

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

また,各文の文機能を表示するラベルは次の26種類である。

文機能表示堰@ベ ル 表    現    例 補 足 説  明

[問題の提起に関わりが強いもの]

1 問題提起 (~については)これでいいのだろうか。 「問いかけ」を含む

2 主題設定 ここでは~について論じたい。

[事実の提示に関わりが強いものコ

3 報告 “何々があった/誰々は何々した・こう述べた” 経緯・推移の説明,ある説の紹介

4 引用 「・・一」

5 伝聞 ~と聞いている。~とのことだ。~だという。

[問題の分析・意見述べ・結論付けに関わりが強いもの]

6 定義 ~とは~のことだ・~を意味している。

7 仮定 もし~としたら,~れば,

8 推論 (もし,~なら)・…ということになるだろう。 「仮定」と対になることが多い

9 前提 仮にそれが正しいとすると(~となる) 「判断」と対になることが多い

10 判断 ~と思う。~ようだ。~と言える。~のではないか。 反語は()付きで入れる。含「疑念」

11 解釈 これはつまり~ということだ。

12 原因 ~のために,~が原因で

13 理由 判断や行為のきっかけ

14 結果 ~となった,~という結果になった。

15 根拠 ~をもとに……。

16 同意 ある特定の意見に対して賛成する

17 反論 ある特定の意見に対して反対する

18 限定 ~とは限らない。全てが~ではない。 部分否定を含む

19 感想 実に憂慮に耐えない。情けないことだ。悲しいことだ 心の動きを示す

20 主張~べきだ。~た方がいい。~なければならない`ことが必要だ。~する必要がある。      玉

21 提案 ~たらどうだろうか。

22 希望 ~たい。~となってほしい。 個人的な希望

23 決意 ~ようと思う。 筆者自身の行動を決定する

24 予測 ~となるだろう。 将来の展望を含む

25 意図

26 試行 ~てみる

 ここで一文として扱うのは句点で区切られたものではなく,接続助詞等が用いられた複文は,複数

の文が結合したものとして扱う。一方,データベース上の文番号は句点の示す区切れによって機械的

に割り振られている。そのため,複文の場合には複数のラベルが存在することになり,それらは「・」

一31一

Page 32: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

32

によって結ばれている。ただし,文が名詞(または名詞句)を修飾する,いわゆる連体修飾構造をと

っている場合は,全体として一つの大きな名詞句として扱い,文ラベルを与えていない。

 例えば,次のような複文(3つの文が形式的には一文として表現されている)の場合には,下に示

すようなラベル付けが行われている。

【文ラベル例1】

カネ,モノ,ヒトの支援に比べて知的支援は計量化や金銭換算が困難である

ことから,とにかくその効果を軽視しがちだが,有史以来諸外国から日本が

受けた知的支援の恩恵は計り知れないものがある。

 (レコードID:068ASOO3/文番号:007)

[文ラベル:理由〈導〉・報告〈改〉・判断]

つまり,「・」によって結ばれたラベルに対応するテキストは,そうでないものと比べて形式上強い

結合関係をもっていることが示されることになる。また,上記の文ラベル設定例からもわかるよう

に,〈文関係表示ラベル〉の記述位置は,該当のテキスト中の接続に関わる言語形式(この場合は「~

から」と「~が」)の位置に対応している。

 さらに,句点を越えていくつかの文が論理的に強い関係で結びつき合っており,一つのかたまりと

して理解される場合,またその一かたまりの文の集合と別の文が一つのユニットを形成していると理

解される場合には,【文ラベル例2】に示されるように,[]・{}によってそれらの結合関係を明

示し,文段内部の階層的構造が明確になるようにした。

【文ラベル例2】(レコードID:069RTOO3/文段ラベル:「*事実(付加)」)

005途上国側の主張は,地球環境に有害なフロソガス,炭酸ガスなどの発

  生は主として先進国の責任であり,途上国は貧困から脱却するために

  工業化に必要なエネルギー,その他資源消費を増やさざるを得ない状

  況にある。

006 従って,地球環境保全の費用の大部分は先進国が負担すべきだという

   ものである。

007 他方,先進国の側では,国際収支の赤字,景気後退,旧ソ連・東欧諸

  国に対する援助要請などもあり,途上国への資金供給の増加は難しい。

008 このような事情から,資金供給のあり方が地球サミットの成否のかぎ

  を握るとの見方があり,今回の会議も世界的な注目を浴びることにな

一32一

Page 33: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

33

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

ったわけである。

文ラベル:{[5根拠6〈導〉報告]7〈対〉報告}8〈ま〉結果

このラベルから,文段の内部構造が次のような形になっていることを読みとることができる。

文5 → 文6

〈対比〉

文7

〈まとめ⇒⇒⇒〉

m亜]

2.3データベースの具体例と検索プロゲラム

 1.2で述べたラベル設定をもとに,「論壇」100文章を検索対象とするデータベースを構築し,検索

用の専用プログラムを開発した(sD。

 次に掲げたのは,一つの文章が具体的にどのようにデータベース化されているかを見るためのもの

で,001PRの文章を例として取り上げてある。

[タイトル:真に利用者のための博物館に]

 事実O01PROO1

報告

O01

今日は「地方の時代」「科学文化の時代」と言われ,各地に博物館やサイ

Gンスセソターが目白押しに建設されている。

〈添〉報告

@002公民館,図書館づくりが全国レベルで一通り建設されると,今度は博物

ル,郷土館,科学館づくりに変わってきた。

〈添〉報告

@003生涯教育,社会教育の重要性が認識されはじめ,県レベルでの博物館づく

閧ゥら,最近では市町村レベルでの建設が進んでいる

問題(疑問)

O01PROO2

〈改〉報告

@004しかし,博物館ブームという一種の社会現象は,一方でさまざまな問題も

カ起させている。

報告

O05    襲

一点豪華主義の美術館,動物のいない動物園,観光地のカネもうけ主義の

?ー館,故障だらけの科学館,物や一次資料のない歴史郷土館,学芸員の

「ない博物館。

問題提起

@006

このような博物館施設を,市民が本当に望んでいるというのだろうか。

意見(<方向)

@001PROO3

〈MP>

O07

この問題の背景には,複雑な要因が潜んでいる。

*分析(分類)

O01PROO4

〈類〉主題設定

@ 008

一つは,新設される博物館の建設過程の問題である。

報告

O09

自治体の博物館建設プロジェクトは通常,構想に数年を費やすが,実現段

Kになって行きづまると,広告代理店や展示業者に企画構想案を競技設計

フ名の下に提出させ,極端な場合には一週間で提出を命じることもある。

解釈

O10

安易に走りすぎるこのような状況では,市民の望む博物館が誕生する土壌

�ゥら放棄しているようなものだ。

一33一

Page 34: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

34

*分析(分類)

O01PROO5

〈類〉主題設定

@ 011

もう一点は,学芸員養成機関,あるいは博物館職員の再教育の場がないこ

ニである。

報告〈改〉・伝聞

@  012

わが国には博物館学講座,学芸員養成講座を持つ大学は約九十校あるが,

w芸員をめざす学生は少数と聞く。

報告く改〉・報告

@  013

時に,博物館就職の際のポスト不足も指摘されるが,学芸員免状は「花嫁

フパスポート」程度にしか認識されていないのが現状である。

主張

O14

仮に就職したとしても,再教育は必要である。

事実(対比)

O01PROO6

〈比〉報告・結果

@  015

ひるがえって,博物館の先進国フラソスでは美術館大学がその主導的役割

�ハたし,したがって博物館学(保存科学や修復科学など)が市民権を得

トいる。

報告

O16

最近では,伝統的な博物館学に対して,科学的博物館学が独立しつつあ

閨Cさらに博物館と諸工学を結びつける「博物館工学」という実験的な学

竄煢閧ホえつっある。

〈添〉(詳説)報告

@  017

この中には,物と人間のコミュニケーション学,博物館の経営戦略を扱う

歯ィ館経営工学などの内容を含んでいる。

事実(付加)

O01PROO7

〈対〉報告

@018一方,今日の世界的傾向は時代の潮流に乗って,博物館に多くのバリエー

Vョソを生み出させた。

〈添〉(例示)報告

@  019

科学と芸術の融合の場,実験都市としてのサイエソスセンター,技術集積

^公園,生態環境をそのままで見せる博物館等々。

判断

O20

今日ほど博物館に多くが期待されている時代はない。

主張

O21

博物館を体系的に研究する必要性がここにある。

意見(修正)

O01PROO8

〈改〉前提・判断

@  022

だが,いかに多くのタイプの博物館が開発されようと,博物館(学)は博

ィ館関係者のためだけにあるのではない。

理由

O23

なぜなら,博物館は市民とともに歩むべき存在だからである。

判断

O24

市民の側に立ったアプローチの研究も,分析の視点として見失うことはで

ォない。

主張

O25

これからの博物館と博物館学は,学際的な研究が必要となってくる。

結論(帰結)

O01PROO9

〈導〉希望

@026

そこで①新人学芸員や中堅職員の研修,トレーニングの場の確保②伝統的

ネ博物館学を再構築し,博物館についての総合的な視点から研究を行う博

ィ館大学の設置,の二点を私は望む。

希望

O27

これは博物館研究者たちのためだけでなく,博物館に興味をもつ市民も参

チできる開かれた大学であることを願う。

結論(付加)

O01PRO10

伝聞く添〉・主張

@  028

一部には博物館大学の構想があると聞くが,実現に向けて真剣な第一歩を

・み出すべきである。

主張

O29

その際,図書館=図書館大学,博物館罵博物館大学という対置構図的な発

zを捨てるべきである。

一34一

Page 35: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

35

          中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 これらのデータは,検索用プログラム(「資料分析システム」)によって各種の処理を行うことがで

きるようになっている。図1はこのプログラムのメニュー画面と検索画面の一部を示したものであ

る。

【図1】

資料分析システム

⊂璽⊃

’⊂亙⊃

    ’        墾馨藁’ カ藝難謬鰹難羅難謹議麺

聾・…

蟹、

 } ……

 鐘叢蕪鯉照   

…一

議 獲   韻

嚢難    

璽 

 難    . 霧

璽    .   濡 {  講 難  塾罷

難 諜団灘 並

  }

麓蕪壌雛 ウ麟灘 羅書療謎盤

蓮叢嚢1轟蕪璽藝藝籟藁蕪轟

このプログラムで実行できるのは次のような作業である6S。

(D 登録

 a.外部データの登録

    テキストファイル(シルク形式)として別に保存してあるデータを本プログラムで実行で

    きるデータとして取り込む。また,市販の汎用データベースソフト「桐」に入力されたデ

    ータはそのまま取り込むことができる。

 b.編集

    本プログラム実行用のデータとして保存してあるデータに修正を加える。また,データの

    新規登録・削除を行うことができる。

一35一

Page 36: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

36

(2)検索

 a.大分類検索

    分段ラベルによる検索を実行する。検索ラベルは第1~第3条件まで設定することがで

    き,「事実→意見→主張」などのような文段ラベルの連続状態を検索する。また検索結果

    に対して,さらに絞り込み検索をおこなうことができる。

    検索結果一覧では,ヒットした文段に含まれる文の全ての文ラベル・テキストを表示し,

    印刷することができる。

 b.中分類検索

    文ラベルを対象として検索を行う。大分類検索と同様に,3つまでの文ラベルの連続状態

    を検索できる。検索結果に対する絞り込み検索が行える。

 c.ワード検索

    テキスト中の語彙,表現等を検索する。絞り込み検索,マイナス検索も実行可。検索結果

    の印刷では,ヒットした文とその前後文を文段ラベル・文ラベルとともに表示する㈹。

 d.その他

    “大分類「事実」一中分類「報告」”のように,文段ラベルと文ラベルを組み合わせた検索

    を実行することができる。

③ 集計

 文段ラベル,文ラベル,語彙・表現,それぞれについて検索結果の集計を行う。

(4)一覧(大分類一覧)

 分析対象となる全ての文章について,文段ラベルの配列を一覧表示する。文章番号とテキストタ

 イプによってソートすることができる。この一覧は,本稿第皿章第4節に全てのデータが掲載

 してある。

3.文レベルから見たパターンについての分析

 文ラベルの配列から文章のパターンを見つけだす試みには,次に列挙するようないくつかの観点か

らの分析が必要であると考えられる。

(1)特定の表現形式,特に接続表現・文末表現・副詞などが文段内にどのように配置されている

 か。

(2)特定の文機能を担う文がどのタイプの文段に多く現れるか。

(3)文段のタイプによって,それを構成する文の配列に文機能からみた一定のパターソが存在する

 か。

以下では(1)~(3)について順に見ていくことにする。

一36一

Page 37: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

37

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

3.1表現形式からみた分析

 ある特定の表現形式が特定の種類の文段にのみ現れるということはない。例えば,「~ことが必要

だ/必要である」という表現は,典型的には「判断」あるいは「主張」の文機能をもち,一見「意見」

の文段に集中して用いられそうに思えるかもしれないが,実際に文段別の分布を調べてみると「結論」

に11例,「意見」に10例,「分析」に5例,「主題」に2例,「問題」に1例,というように,「他者」

を除くすべての文段内に分布し,またその文段内での位置も様々である。ところが,表現によって

は,出現する文段あるいは文段内での位置に一定の傾向が見られると言えそうなものがある。

 38頁~40頁に掲載したのは,「~のではないだろうか/~のではなかろうか」Galという表現を文章の

テキストを対象に検索した結果である(ヒットした文の前後の文も併せて掲載している)。抽出され

たのは全部で12例である。

 これらの文の文機能の内訳は次のようになる。

文機能 判断 推論 問題提起 提案

文の数 6 2 3 1

データ数が十分ではないため,確定的な言い方は避けなければならないが,「~のではないだろうか/

のではなかろうか」は一般的には一種の娩曲的な主張表現であるとされている㈹にもかかわらず,単

一の文の文機能として限定して見た場合,「主張」の文として機能している例が皆無であることに注

目しなければならない。一方,これらの文の3分の1に当たる4例は意見述べの文段に含まれ,前

後文と連合する形で「主張」を述べる文章を形成していることが窺われる。

 こうした事実の解明には,さらにデータを追加し,この表現の構成要素である「~のだ」の分析や,

「意見」文段を構成する他の文の文機能の分析と共に検討を加えていく必要があると思われる。

 この表現に関してもう一つ注目すべき点は,文段内での位置である。「検索結果一覧」でID欄の

上段に示されたコードのうち下三桁の数字は文段番号を表しており,三文ずつの組で見た場合にこの

数字に変化が見られるところは文段の区切れになっていることになる(三文目が空白になっている箇

所は文段の区切れであると共に文章末であることを示す)。確認作業の便宜を図り,掲載資料では文

段の末尾にあたるところに★印を付した。このようにしてみると,「~のではないだろうか/なかろう

か」が文段末尾に位置しない(★がつかない)のは4番と5番の例であるが,5番の例は6番の例と

連続した文となっているので,一まとまりとして扱うことができる。従って,12例の中で文段末尾

に位置しないのは※を付した4番の1例のみということになる。

 この事実は「~のではないだろうか/なかろうか」が潜在的に文段の“締めくくり”の役割を果た

し,読み手が文章の構造を把握しながら読解作業を行う際の一種の“シグナル”となり得る可能性を

示唆している。

一37一

Page 38: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

38

「~のではないだろうか/なかろうか」の検索結果一覧

検索ワード ID大 分 類

?@分 類内          容

004PROO7

@016意見(修正)

@反論

前)私などは,さらに構成上まことに困難ではあるが,将来

フ理想として縦糸としての「歴史」と横糸としての「地理」

�牛№オたものを構想しているのである。

1 のではない

セろうか★

004PROO7

@017意見(修正)

シ定・推論

本)それが仮に「世界の風土と歴史」といった教科として成

阯ァつとすれば,それこそ高校における必修教科としても,

サれほど異論がないのではないだろうか。

004PROO8

@018意見(帰結)

@感想

後)このような私の構想の角度から今回の改定を見ると,ま

セまだ過渡的なものだろうといった感をぬぐえない。

022PROO3

@012 問題(帰結)

q添〉(追加)報告

前)また,昨今の住宅事情から,その保存は難しい状況にあ

驕B

2 のではない

セろうか★

022PROO3

@013問題(帰結)

O提・判断

本)地方自治体が公と民の感計で成り立っている以上,草の

ェ的民間資料の収集・保存を軽視することは,かえって公文

聡[実の意味を薄れさせるのではないだろうか。

022PROO4

@014事実(展開)

q転〉報告

後)実は私たちは一九七六年の四月,こうした資料の収集・

�J・保存を目的に「住民図書館」を東京都内に設立した。

0410BOO4

@012分析(転話)

@報告

前)こうした高校生を受け入れた大学教育の困難な実態を,

蜉wの先生方から聞くことが多い。

3 のではない

セろうか★

0410BOO4

@013分析(転話)

シ定・判断

本)「新テスト」が私立大学も含んで選別の物差しの役割を

ハたすようになるとしたら,大学教育はさらに悪化するので

ヘないだろうか。

0410BOO5

@014他者(転話)

qMP>報告

後)高一の生徒たちは,次のような意見を寄せている。

0410BOO8

@022

問題(疑問)

`聞〈改〉・

サ断(反語)

前)新聞によれば,今秋五万人を対象にした試行テストを行

、とあるが,それ以前(七月)に各大学は「新テスト」参加

�mZに予告できるのだろうか。

※4 のではない

セろうか

0410BOO8

@023問題(疑問)

@判断

本)試行テストの結果を見て参加か不参加の判断をするので

ヘないだろうか。

0410BOO8

@024問題(疑問)

O提・判断

後)矛盾を含んだまま「新テスト」が強行されるならば,受

ア性たちはまさにモルモットにされたことになるであろう。

062EXOO2

@006問題(付加)

竭闥�N

前)「正常な」株価水準とはどの程度のものなのか。

5のではない

セろうか

062EXOO2

@007問題(付加)

竭闥�N

本)バブル経済のもとで急騰した株価のほうが異常だったの

ナはないだろうか。

のではない

セろうか

062EXOO2

@008問題(付加)

q添〉問題提起

後)そして異常な高値に達した相場は必ず是正されると考え

驍フが正しいのではないだろうか。

一38一

Page 39: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

39

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

検索ワード ID大 分 類

?@分 類内          容

のではない

セろうか

062EXOO2

@007問題(付加)

竭闥�N

前)バブル経済のもとで急騰した株価のほうが異常だったの

ナはないだろうか。

6のではない

セろうか★

062EXOO2

@008問題(付加)

q添〉問題提起

本)そして異常な高値に達した相場は必ず是正されると考え

驍フが正しいのではないだろうか。

062EXOO3

@009分析(展開)

シ定・推論

後)いま仮に,八五年十二月の平均株価と比較すると,九日

フ一六,五九八円は約二八%上昇した水準である。

066PROO1

@002 問題

q添〉報告

前)それは,日本は経済大国になったのだから,いくばくか

フ世界奉仕をしなければならないという発想である。

7のではなか

?、か ★

066PROO1

@003 問題

竭闥�N

本)というのは,そのためにも大いに貿易黒字を増やそうと

「うごとになると,それ自体が国際非貢献なのではなかろう

ゥ。

066PROO2

@004分析(展開)

@判断

後)貿易や経常収支の黒字があろうとなかろうと,国際貢献

フ役割は存在するはずである。

073ASOO4

@008 分析(転話)

q添〉(追加)予測

前)さらに環境,援助といったグローバルな問題について

焉C統一ドイッはわが国とともに,より大きな役割を果たす

アとを求められよう。

8

のではなか

?、か ★

073ASOO5

@009意見(#<方向)

@ 判断

本)これらのことを考えると,わが国としても統一ドイッと

フ今後の関係については,国際責任,二国間関係の二面から

ト検討し,強化する必要があるのではなかろうか。

073ASOO6

@010意見(#転話)

@ 報告

後)また本年は二月のゲインシャー外相の訪日,今回の宮沢

�竃K独,七月のミュンヘン・サミット,十月のコール首相

?冾ニ,公式の出会いの機会が多いほか,野党社民等からも

Gンホルム,ラフォンテーヌ,ラウら多くの領袖(りょうし

繧、)の訪日が予定されている。

075RTOO8

@027結論(帰結)

@主張

前)台湾問題の平和的な解決のためにも,台湾の正確な理解

ェ必要である。

9のではなか

?、か ★

075RTOO8

@028結論(帰結)

@提案

本)東アジアの安定のためにも,相互理解をめざした今回の

謔、な国際会議などの試みが,日本を中心にもっと頻繁に開

ゥれてもよいのではなかろうか。

後)

088ASOO6

@015意見(修正)

@判断

前)その人々が集まって成り立った国家という集団の内外政

�ノも,失策があり得ることはむしろ当然のことかもしれな

「。

10 のではなか

?、か ★

088ASOO6

@016意見(修正)

@判断

本)日本が戦前・戦中に犯したあやまちについて,哀心から

リ国,中国などお隣のアジアの国々に対しておわびする謙虚

ネ姿勢で対応すれば,困難な諸問題の解決は思ったよりも容

ユなのではなかろうか。

088ASOO7

@017結論(帰結)

@〈MP>

後)そのため私は次のようなことを切に強調してやまない

一39一

Page 40: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

40

検索ワード ID 大 分 類

?@分 類内          容

090PROO7

@018結論(帰結)

@報告

前)日本政府の憲法・自衛隊法解釈では,集団的自衛権行使

�O提とするこの種の他国間‘安全保障ネットワーク’に日

{は参加できない。

11 のではなか

?、か ★

090PROO7

@019 結論(帰結)

q改〉過程・推論

本)しかしPKO法案が成立し,日米両政府の合意によって

セ石構想が実現されることにでもなれば,PKO協力を口実

ノ,事実上は憲法のそのような制約も破られることになるの

ナはなかろうか。

後)

094EXOO6

@024意見(帰結)

q対〉感想

前)反対に,東京は優位を固めながら,機に乗じて「いじめ

O交」をしているという印象をぬぐえない。

12 のではない

セろうか★

094EXOO6

@025意見(帰結)

@判断

本)これは,霞が関外交とその隣国観が,田中角栄元首相が

恁�ノあたって述べ,当時外交上の笑い話になった,「中国

走ッに多大のご迷惑をおかけした」という発言で済ませよう

ニしたころの感覚をいまだに越えていないことを如実に反映

キるものではないだろうか。

後)

3.2 文機能と文段機能との関係

 【表1】は主な文機能ラベルの出現数を示したものである。

【表1】 [文機能ラベル出現数]

文機能 出現数 文機能 出現数

問題提起 39 結  果 44

主題設定 52 根  拠 18

報  告 1,256 同  意 8

引  用 64 反  論 13

伝  聞 82 限  定 4

定  義 9 感  想 76

推  論 79 主  張 163

判  断 866 提  案 15

解  釈 29 希  望 47

原  因 15 決  意 6

理  由 90 意  図 4

中でも突出して出現数の多い文の種類は「報告」(1,256例)と「判断」(866例)である。これらの

文ラベルのうちのいくつかについて,どの文段の中で用いられているかをまとめてみると【表2】の

ようになる。

一40一

Page 41: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

41

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

【表2】 [文機能別にみた各文段内での出現数]

事実 主題 問題 意見 他者 分析 結論 合計

問題提起 一6 21 5

一6 1 39

主題設定 1 26 6 4一

10 5 52

報  告 530 61 74 152 17 382 40 1,256

判  断 80 22 64 276 4 323 97 866

主  張 3 4 5 70一

40 41 163

決  意 1 1一

2一 一

2 6

意  図 一 一 一1

皿2 1 4

 これらのデータで注目すべきことは,事実文を示す「報告」の文が「事実」を記述した文段に多い

ということや「判断」や「主張」の機能をもつ文が「意見」の文段に多いというようなことではなく,

むしろ「報告」が「意見」の文段にも数多く現れていること,「判断」や「主張」の文が「事実」の

文段にも現れていること,などの一見矛盾した関係にある組み合わせであろう。「事実」の文をどの

ように文章の中に組み入れていくか,「主張」や「判断」の文をどのように配列すれば効果的な意見

述べができるか,といった事柄が論述文の作成における最も重要な点であり,かつ習得が難しいもの

であると考えるからである。このことに関しても,さらに詳しい分析をする必要があろう。

 次に,特定の文段における文の文機能の分布をみる。ここでは「事実の提示」を行う文段を例とし

て取り上げる。【表3】がその集計結果である。

【表3】 [「事実」文段における文機能の分布]

文機能 文の数 文機能 文の数

問題提起 一 結  果 12

主題設定 1 根  拠 6

報  告 530 同  意 一

引  用 33 反  論 2

伝  聞 31 限  定 2

定  義 6 感  想 17

仮  定 11 主  張 3

推  論 、  10 提  案 一前  提 1 希  望 一

判  断 80 決  意 1

解  釈 3 予  測 1

原  因 4 意  図  

理  由 21 試  行 一

 ここでも【表2】で見たのと同様の関係が観察できる。すなわち,「事実」の提示をしているはず

の文段で「仮定」・「判断」・「推論」・「感想」・「主張」といった文機能をもつ文が現れているのである。

一41一

Page 42: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

42

 木下(1990)や言語技術の会(1990)では,事実を述べる時に判断を表す表現や文を割り込ませ

ないようにすべきであるとが主張されている。あることを述べる時に,それが「事実」なのか,ある

いは「判断」なのかを明確に意識しながら論述していくことは非常に重要なことであると思う。しか

し,現実には,ここで観察したように,「事実文」と「判断文」は混在したかたちで文章に現れ,複

雑な認知過程を経て文段全体としては「事実」あるいは「意見」として理解されていくのである。事

実と判断の混在した文章が“よくない文章”と決めつけてしまうのは容易いが,ここで分析の対象と

なった文章が“悪文”であると言い切ることはできないと思われる。また,これらが日本語母語話者

による典型的な論述文の例の一つであると考えるならば,その混在のしかたを見極め,日本語の論述

文がどのように展開されていくのかをさらに分析していく意味があると思う。そのために,さらに分

析方法・ラベル設定等の妥当性に検討を加え,十分なデータに基づく分析を続けていきたい。

4.文段レベルの連接およびパターンについての分析

 一つのまとまった文章(テキスト)はそれ自身で一つの大きな書き手の思想を表現している。その

思想は,外見上は,表現の最小単位としての一つ一つの文のつながりによって表されているのである

が,その一つ一つの文は個々に独立して存在していると同時に,それぞれが意味的関連性の強弱をも

っていくつかの集合をなし,テキストを形成する中間的単位を形成している。その中間的単位がさら

に有機的に結合することによってテキスト全体の思想が組み立てられている。文章の構造はそのよう

な二重構造を成していると考えることができる。そして,テキスト全体は,個々の文によってより

も,むしろこの中間的な文の集合によるまとまり(ここではそうした文の集合を便宜上「文段」と呼

ぶことにする)によって,その構造が形成されていると考えたい。

 前節におけるテーマが,個々の文の内容的連関に関するミクロ的構造を主な対象としていたのに対

し,ここでは,そうした文の集まりが一段高次の意味的まとまりをなして文章全体の構造をどのよう

に形づくっているかを見たいと思う。

4,1「文段」について

 一つの大きなテキストを構造的に分析しようとすると,実際には,一つ一つの文をその最小単位と

決めるにしても,その中間にはいくつもの段階を想定することが可能である。その中間段階の種類と

数は,書き手の選択した文体によっても,文章の量によっても当然違ってくると考えられる。そうす

ると,テキストの構造を正確に把握するには文章によって様々な内容とレベルの「文段」を設定しな

ければならなくなり,それによって「文段」の意味が不明確になり,結局は文章構造を捉えるための

マーキングとしての役割も非常に弱いものになってしまう。

 こうした複雑さと分かりにくさをできるだけ回避するには,ある程度テキストの枠組みを限定して

おく必要がある。そのためにまず・本研究では扱うテキストを,「意見のべ」,「主張」,「問題点の解

説」が中心の論述文形式のものに限定する。論述文では,たとえそれがどんなに長いものであって

も・テキスト全体が章立てや小見出しもなしに何頁にもわたって書き続けられるということはほとん

一42一

Page 43: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

43

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

どなく,たいていはそれぞれの章や節が明確なテーマを持っている。つまり,テキストの単位をごく

短いものに設定し直すことも不可能ではない。したがって,「文段」は章や節などの題をもったもの

の内部構造に設定するとしておけば,中間にはほぼ一つないし二つの「文段」レベルを設けるだけで

よいという予測が立てられる。また,テキストの長さによる「文段」基準のゆれをできるだけ回避す

るには,分析対象とするテキスト長をそろえておくことでかなり解決ができると考える。実際には,

テキストの長いものを扱うとテキスト長をそろえることは不可能なので,文章例を数多く集めようと

すると,どうしても長さに制限のある,雑誌や新聞記事に頼らざるを得ない。朝日新聞の「論壇」を

テキストに選定した一番の理由はそこにあった。

 テキスト長の制限によって,文とテキストの間の中間単位を一,二のレベルに限定することがおお

むね可能となるように思うが,最も重要なのは「文段」という単位をどのように決めていくかという

ことである。文章の構造が最もよく見えてくるのは文章をどのように切り分けた場合なのか。

 一つの安直な考え方は「形式段落」(テキスト通りの改行をマークとする段落)を利用するという

方法であるが,この点については従来から実際の意味内容や論理構造とのずれの大きさが指摘されて

おり,文章構造の分析には問題点が多いので不向きである。また,「意味段落」という考えを援用す

る方法もあるが,しかし,「『意味段落』とは,いくつかの形式段落を意味の上から群化したものを言

う。」㈹のであれば,「形式段落」と同様の問題から免れることはできないことになる。「意味段落」と

いう用語はなかなか魅力的な語感を有していると思うので,できれば新たな定義付けを行って用いた

いところであるが,不用意な誤解を招くことは避けたいと思う。

 そこで,本研究では「文段」という用語を用いたいと思う。この用語はかなり以前から用いられて

いるようであるが,ここでは,市川孝氏の「文段」概念に依拠して使用することにしたい。「文段」

の概念は市川(1978)によって次のように規定されている。

「わたしは,段落とは別に,『文段』という概念を設定して,それを内容上のまとまり一文連接

の内容上の連合という観点から規定したいと思う。

 文章の内部において,内容上の一つのまとまりとして区分される部分,すなわち一文段は,一

つの文から成ることもあるが,一般には,いくつかの文から成っている。その場合,単なる文の

羅列は文段を成しえない。いくつかの文が連接して一つの文段を成しうるためには,その文連接

が,内容の上で,なんらかの連合を成していなければならない。さらに,第二の文段が第一の文

段と区分され,かつ,たがいに連関を持ちうるためには,一般に,その冒頭の文が後続の文とな

んらかの連合を成すことにおいて,それ以前の文連接に対して内容上なんらかの距離と連関を持

っていなくてはならない。

 さらに,第一の文段と第二の文段とが連合して,より高次の文段を形作ることもあり,逆に,

第一・第二の各文段の内部に,より低次の文段を内包することもある。このように,文段の構造

は一様ではない。いくつかの文段は並びあい,また,一っが他を含み,他に含まれ,大小幾重も

の包摂関係の生じる場合が少なくない。要するに,文段とは,一般に,文章の内部の文集合(も

一43一

Page 44: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

44

しくは一文)が,内容上のまとまりとして,相対的に他と区分される部分のことであると言えよ

う。」㈹

 私たちが注目するのは,具体的な文段認定の基準についての議論など,市川氏の「文段」規定によ

って引き起こされるさまざまな問題点ではなく{6’),この引用の最後にある「文段とは,一般に,文章

の内部の文集合(もしくは一文)が,内容上のまとまりとして,相対的に他と区分される部分のこと

である」という文段規定の基本的考え方であるに過ぎない。この規定は曖昧と言えば曖昧であるが,

「文」と「テキスト全体」の中間にあってテキストの構造を分析するための概念としては大変便利な

用語である。

 だが,問題はここからである。「内容上のまとまり」をどう規定していくかという点については,

どうしてもテキストを読む側の解釈や見解の違いによって異なることは避けられない。しかし,テキ

ストを論述文に限定し,テキスト文長をほぼ一定にするという枠組みを設ければ,多くの文例を試行

錯誤的に分析していくことによって,そこに何らかの一定のパターン化が可能な連接形式が見出せる

ようにも思う。

 もちろん,「文段」認定の基準をどのように設定していくかなど,実際には難しい問題がどうして

も残るであろう。しかし,それは今後の課題として残し,本稿では,一つの試行として案出した「文

段」ラベルにより,論述文の構造分析を行ってみたいと思う。

 文段ラベルの決定に際しては,実際のテキストを分析しながらの試行錯誤が繰り返された。結果と

しては,文段の内容を軸とした分類と文段間の関係を軸とした分類を併用することで全体の構造を見

ようということになった。「文段」を二つの軸によって規定するという考えは,市川市の,段落相互

の関係を,内容の論理的関係から見る「連接」の観点と,まとまった内容の配置のされ方を見る「配

列」の観点から捉える,という考え方圃が参考になっている。

4.2 文段の連接のし方

 文段の内容と文段間の関係の二つの要素によってテキストの構造を見ることにする。

 以下に,100例のそれぞれのテキストについての文段の連接形式を掲げるが,テキストは六つのタ

イプ(主張文,提議文,解説文,報告文,反論文,支持文)にグループ分けされており,テキスト・

タイプと文段の現れ方との関係も見られるようにしてある。

[主張(AS)コー33例一 ※ *は下位レベルの構造を成していることを示す。

005AS 事実分析(付加)事実(分類)*分析(付加)事実(分類)*分析(付加)主題(帰結)分析(帰結)

    結論(帰結)

008AS 主題事実(転話)意見(付加)意見(転話)事実(転話)意見(分類)*意見(付加)意見(分類)

    結論(帰結)

009AS 事実意見(〈方向)事実(分類)事実(分類)事実(付加)意見(〈方向)意見(分類)意見(分

    類)

一44一

Page 45: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

45

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

013AS

O21AS

023AS

O24AS

O28AS

029AS

O37AS

038AS

039AS

O45AS

049AS

O50AS

O52AS

O53AS

O54AS

O55AS

O56AS

O57AS

O58AS

O59AS

065AS

O67AS

O68AS

O73AS

079AS

O86AS

O88AS

O91AS

事実結論(付加)分析(展開)分析(転話)分析(転話)結論(帰結)意見(付加)意見(転話)

事実事実(展開)意見(付加)主題(展開)分析(転話)分析(転話)事実(修正)意見(帰結)

結論(帰結)

主題事実(転話)主題(〉方向)事実(展開)事実(付加)意見(転話)意見(転話)結論(帰結)

主題問題(展開)主題(付加)他者(転話)意見(付加)意見(展開)結論(帰結)

主題事実(付加)意見(疑問)*意見(展開)*意見(転話)*事実(転話)*事実(付加)結論(帰

結)

分析分析(付加)分析(転話)分析(転話)分析(帰結)事実(転話)意見(対比)結論(帰結)

主題分析(展開)分析(付加)分析(帰結)主題(〈方向)意見(展開)意見(転話)意見(付加)

結論(帰結)

事実意見(付加)意見(展開)分析(分類)分析(分類)分析(分類)分析(分類)分析(分類)

結論(帰結)結論(付加)’

主題問題(展開)意見(付加)事実(付加)事実(対比)問題(対比)結論(帰結)

あいさつ主題問題(展開)他者(転話)他者(対比)意見(帰結)意見(転話)事実(転話)意

見(修正)事実(対比)結論(帰結)

事実事実(展開)事実(付加)事実(転話)事実(転時)事実(対比)意見(帰結)結論(帰結)

意見主題(付加)事実(転時)事実(付加)事実(因果)事実(転話)意見(帰結)結論(帰結)

意見意見(修正)分析(展開)意見(付加)分析(転話)結論(帰結)

主題分析(展開)分析(転話)分析(転話)分析(転話)結論(帰結)

事実事実(〉方向)分析(分類)分析(分類)分析(分類)結論(帰結)

事実事実(付加)事実(対比)事実(転話)事実(転話)意見(帰結)結論(帰結)

主題*分析(展開)*分析(転話)問題(対比)分析(付加)意見(付加)結論(帰結)

問題意見(分類)*意見(付加)意見(分類)意見(分類)意見(分類)意見(分類)意見(帰結)

事実他者(付加)他者(転話)意見(帰結)意見(転話)結論(帰結)

主題事実(展開)意見(〈方向)*意見(分類)*意見(分類)*意見(分類)*意見(分類)*意見

(分類)結論(帰結)

事実意見(分類)意見(分類)*意見(付加)*意見(転話)結論(帰結)

意見事実(転時)意見(付加)意見(転話)意見(転話)意見(付加)意見(転話)結論(帰結)

事実結論(付加)事実(展開)事実(転話)意見(付加)意見(付加)結論(帰結)

問題分析(展開)分析(付加)分析(転話)意見(#<方向)意見(#転話)意見(#分類)意見(帰

結)(※ここでの#は展開形式と内容に論理的矛盾があることを示す)

事実意見(帰結)事実(展開)意見(付加)意見(付加)意見(転話)意見(転話)意見(転話)

事実問題(付加)分析(転話)分析(付加)意見(帰結)*意見(付加)結論(帰結)

意見問題(付加)事実(展開)事実(因果)意見(付加)意見(修正)結論(帰結)結論(付加)

問題意見(展開)意見(転話)意見(転話)意見(修正)意見(転話)意見(転話)結論(帰結)

一45一

Page 46: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

46

093AS 事実事実(付加)問題(転話)分析(転話)分析(付加)分析(転話)結論(帰結)

097AS 問題分析(展開)分析(転話)意見(帰結)分析(付加)

[提議(PR)]-25例一

〇〇1PR 事実問題(疑問)意見(<方向)*分析(分類)*分析(分類)事実(対比)事実(付加)意見(修

    正)結論(帰結)結論(付加)

002PR 事実分析(疑問)事実(付加)主題(帰結)*事実(論拠)*意見(論拠)*意見(論拠)*意見(付

    加)結論(帰結)

004PR 主題事実(展開)事実(帰結)事実(付加)分析(修正)意見(付加)意見(修正)意見(帰結)

    結論(帰結)

006PR 事実事実(転時)*事実(付加)分析(帰結)意見(展開)問題(疑問)問題(付加)意見(帰結)

014PR 問題事実(展開)*意見(論拠)事実(転話)問題(疑問)意見(付加)

016PR 事実問題(疑問)分析(展開)分析(転話)事実(展開)事実(転時)事実(転話)事実(付加)

    結論(帰結)意見(付加)

017PR 事実事実(転話)結論(帰結)事実(付加)問題(疑問)意見(付加)事実(転話)事実(帰結)

    事実(転話)意見(帰結)

018PR 主題分析(展開)事実(転話)問題(帰結)結論(帰結)意見(論拠)意見(付加)事実(対比)

019PR 主題問題(疑問)分析(展開)分析(転話)分析(転話)結論(〉方向)意見(帰結)問題(疑問)

022PR 事実事実(転時)問題(帰結)事実(展開)結論(帰結)*意見(付加)

027PR 問題分析(展開)分析(付加)分析(転話)分析(転話)*分析(付加)分析(帰結)結論(帰結)

033PR 結論問題(疑問)主題(付加)主題(展開)分析(分類)分析(分類)分析(分類)事実(転話)

035PR 事実事実(帰結)意見(修正)*分析(分類)*分析(分類)*分析(分類)*事実(付加)意見(付

    加)結論(帰結)

036PR 事実事実(付加)事実(展開)事実(<方向)事実(分類)事実(分類)事実(帰結)結論(帰結)

040PR 問題問題(付加)分析(展開)分析(対比)分析(帰結)分析(付加)分析(付加)結論(帰結)

047PR 問題問題(転時)主題(付加)分析(展開)分析(転話)分析(転話)意見(帰結)結論(帰結)

064PR 事実他者(付加)意見(付加)事実(転話)事実(転時)問題(転話)結論(帰結)

066PR 問題分析(展開)分析(転話)分析(修正)結論(展開)事実(転時)問題(疑問)結論(帰結)

070PR 主題事実(分類)事実(分類)事実(分類)意見(転話)結論(帰結)

078PR 主題意見(分類)意見(分類)意見(分類)意見(分類)

081PR 問題意見(付加)分析(展開)意見(疑問)意見(転話)意見(修正)結論(帰結)

090PR 問題*事実(付加)事実(付加)分析(展開)分析(付加)事実(転時)結論(帰結)

092PR 主題分析(展開)分析(転時)分析(転話)結論(帰結)

095PR 問題分析(展開)分析(付加)分析(付加)事実(転話)分析(転話)結論(帰結)

099PR 分析意見(付加)事実(展開)意見(付加)意見(転話)意見(転話)結論(帰結)

一46一

Page 47: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

47

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

[解説(EX)]-18例一

〇〇3EX 主題*事実(付加)*事実(付加)*事実(付加)*事実(付加)事実(修正)意見(帰結)結論(帰

    結)

010EX 事実事実(修正)事実(付加)事実(転時)事実(付加)事実(転話)結論(帰結)

012EX事実主題(付加)分析(展開)事実(転話)分析(付加)分析(付加)意見(修正)

015EX 事実事実(付加)事実(転話)事実(転話)事実(転話)意見(付加)意見(帰結)

051EX 事実分析(展開)分析(付加)分析(転話)事実(転話)分析(転話)結論(帰結)

060EX主題分析(展開)分析(転時)分析(転時)分析(転時)分析(転時)分析(帰結)結論(帰結)

061EX 主題分析(展開)分析(付加)事実(転話)分析(付加)分析(転時)意見(付加)

062EX 事実問題(付加)分析(展開)分析(付加)意見(帰結)分析(付加)分析(帰結)結論(帰結)

071EX 分析分析(付加)分析(付加)分析(対比)分析(帰結)結論(帰結)

072EX事実分析(付加)問題(転話)分析(転時)分析(転話)意見(転話)意見(転話)分析(付加)

    分析(帰結)

074EX 結論分析(展開)分析(付加)分析(付加)分析(付加)分析(帰結)分析(転話)結論(帰結)

    意見(付加)

076EX 問題分析(分類)*分析(付加)分析(分類)*事実(付加)他者(転話)分析(付加)分析(帰結)

077EX 分析分析(修正)分析(付加)分析(付加)分析(転話)分析(付加)意見(転話)結論(転話)

084EX 主題事実(展開)事実(付加)分析(転話)*分析(転時)結論(帰結)

085EX 主題事実(展開)事実(付加)事実(転話)事実(対比)事実(転話)他者(対比)意見(帰結)

    意見(転話)結論(帰結)

087EX 結論分析(分類)分析(分類)分析(分類)結論(帰結)

089EX 事実事実(展開)分析(付加)分析(付加)分析(転話)分析(付加)分析(転話)

094EX 問題分析(展開)分析(付加)分析(付加)分析(転話)意見(帰結)

[報告(RT)]-11例一

〇〇7RT事実事実(転話)事実(転時)事実(転話)問題(疑問)事実(展開)事実(対比)事実(転話)

    意見(帰結)

030RT事実事実(展開)意見(付加)事実(転話)意見(転話)事実(論拠)意見(帰結)問題(転話)

    結論(帰結)

031RT 事実意見(付加)事実(展開)事実(転時)事実(転話)事実(転話)意見(転話)結論(帰結)

048RT事実意見(帰結)事実(転時)*事実(転話)*事実(転話)事実(転時)事実(転話)結論(帰結)

063RT主題分析(展開)*分析(分類)*分析(分類)分析(帰結)結論(帰結)

069RT 主題事実(展開)*事実(付加)事実(<方向)*事実(分類1)*事実(分類2)*事実(付加)結論

    (帰結)

075RT事実事実(転時)意見(付加)分析(付加)分析(転話)分析(付加)分析(転話)結論(帰結)

一47一

Page 48: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

48

080RT事実事実(転時)事実(転話)事実(転時)意見(転話)結論(帰結)

083RT事実主題(付加)事実(展開)*事実(付加)問題(付加)事実(付加)*事実(転話)事実(転話)

098RT事実問題(付加)主題(付加)分析(展開)分析(対比)事実(〉方向)分析(分類)*分析(対

    比)分析(分類)結論(帰結)

100RT事実事実(付加)事実(転話)意見(付加)事実(転話)意見(付加)結論(転話)事実(付加)

    事実(転話)問題(疑問)

[反論(OB)]-12例一

〇110B あいさつ主題他者(展開)意見(修正)分析(論拠)分析(帰結)事実(付加)事実(#転論)

    あいさつ

0200B 事実問題(疑問)意見(展開)主題(付加)分析(展開)意見(付加)事実(転話)結論(帰結)

0250B 主題他者(付加)意見(疑問)事実(論拠)事実(付加)意見(分類)意見(分類)意見(付加)

0260B 事実事実(付加)事実(付加)意見(転話)意見(付加)意見(付加)意見(転話)結論(帰結)

0320B 意見分析(展開)分析(付加)分析(展開)分析(付加)結論(帰結)結論(付加)意見(転話)

0340B 事実主題(展開)事実(分類)*事実(付加)事実(分類)*事実(付加)意見(帰結)

0410B 主題問題(展開)分析(展開)分析(転話)他者(転話)意見(転話)意見(転話)問題(疑問)

    結論(帰結)

0420B 主題問題(疑問)*分析(付加)*分析(転話)*分析(転話)*分析(転話)意見(転話)意見(転

    話)意見(帰結)

0430B 主題分析(展開)*分析(付加)*分析(転話)意見(転話)意見(帰結)結論(帰結)

0440B 事実問題(付加)意見(展開)意見(転話)主題(転話)意見(展開)意見(対比)結論(帰結)

    結論(付加)

0460B 事実問題(疑問)分析(展開)*分析(付加)分析(転話)*分析(付加)分析(付加)結論(帰結)

    結論(付加)

0960B 問題主題(〉方向)分析(展開)分析(転話)分析(帰結)意見(転話)意見(転話)結論(帰結)

[支持(SP)]-1例一

〇82SP 事実意見(付加)意見(展開)事実(転話)事実(対比)事実(対比)分析(帰結)意見(転話)

    結論(帰結)

4.3 文段のパターン形成

 以下に,文段の出現形態や展開パターンに関して,比較的目立った特徴を示している点をいくつか

取り上げてみることにする。詳細な分析については今後の作業を待つ部分が多いが,これまでの分析

結果について,輪郭の比較的明瞭になった点をここにまとめ,次の研究段階への足がかりとしたい。

一48一

Page 49: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

49

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

4.3.1文段とテキスト・タイプとの関連性

 テキストタイプとの関連を中心に文段ラベル(内容軸)の現れ方を調べてみた。

 まず,テキストタイプ別の文段ラベルの出現数を表1に示す。

(表1) ラベルの出現数(全体)

     テキスト宴xル

主張文i33例)

提議文i25例)

解説文i18例)

報告文i11例)

反論文i12例)

支持文i1例)

合 計i100例)

主題の設定 16 10 6 4 9 0 45

問題の提起 12 23 4 5 7 0 51

事   実 監 56 52 33 48 16 4 209

分   析 45 45 62 13 23 1 189

意   見 87 36 13 11 27 3 177

他者の意見 5 1 1 0 3 0 10

結   論 31 24 13 9 11 1 89

ラベル数 252 191 132 90 96 9 770

テキスト・タイプ別に見た文段の内容的傾向として指摘できるのは次のような点である。

①主張文では,意見が中心となって文段が展開されることが多い。

 ex.059AS主題事実(展開)意見(<方向)*意見(分類)*意見(分類)*意見(分類)*意見

      (分類)*意見(分類)結論(帰結)

②提議文では,事実,分析,意見の三つが必要に応じて組み合わされることが多いようである。

 ex.004PR主題事実(展開)事実(帰結)事実(付加)分析(修正)意見(付加)意見(修正)意見

      (帰結)結論(帰結)

  しかし,さらに詳しく分析すれば,分析型,意見型,混合型などのタイプが抽出できるのかも

 しれない。

③解説文では,分析が中心となって文段が展開されることが多い。

 ex.060EX主題分析(展開)分析(転時)分析(転時)分析(転時)分析(転時)分析(帰結)結論

      (帰結)

④報告文では,事実が中心となって文段が展開されることが多い。

 ex.031RT事実意見(付加)事実(展開)事実(転時)事実(転話)事実(転話)意見(転話)結論

      (帰結)

⑤「主題の設定」や「問題の提起」が一度もなされずに論が展開される例が全体で33例あったが,

 その傾向は「解説文」で顕著であった(18例中9)。「論壇」は極めて今日的な問題を論じたもの

 が殆どで,また字数の制限も大きいことから,主題はタイトルなどで置き換えられることが多い

 ようである。

一49一

Page 50: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

50

 また,文段の「主題の設定」「問題の提起」に係る部分を始発部,文段の「結論」「(帰結)」に係る

部分を終結部とし,それぞれの文段ラベルの現れ方を見ると,次のような傾向となっている(表2,

表3を参照)。

(表2)始発部のラベル数

    テキスト宴xル

主張文i33例)

提議文i25例)

解説文i18例)

報告文i11例)

反論文i12例)

支持文i1例)

合 計i100例)

主題の設定 11 8 6 4 6 0 35

問題の提起 4 14 3 1 4 0 26

事   実 18 13 8 10 7 1 57

分   析 3 1 5 0 0 0 9

意   見 6 3 0 1 1 1 12

他者の意見 1 1 0 0 1 0 3

結   論 2 1 2 0 0 0 5

ラベル数 45 41 24 16 19 2 147

(表3)終結部のラベル数

     テキスト宴xル

主張文i33例)

提議文i25例)

解説文i18例)

報告文i11例)

反論文i12例)

支持文i1例)

合 計i100例)

主題の設定 0 0 0 0 0 0 0

問題の提起 0 1 0 1 0 0 2

事   実 0 2 0 1 2 0 5

分   析 1 0 4 0 1 0 6

意   見 7 7 5 1 6 0 26

他者の意見 0 0 0 0 0 0 0

結   論 29 20 11 8 11 1 80

ラベル数 37 30 20 11 20 1 119

4.3.2連続する文段(内容軸)の型

 連続する2文段,3文段の展開のし方を見ていくと,「問題→分析→意見」「事実→意見→結論」「主、

題→事実→意見」といった代表的なパターソを指摘することができるが,その他のパターンについて

はサンプルが十分ではなく,もう少し文例を増やしてさらに分析を進める必要がある。

一50一

Page 51: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

51

    中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

(表4)文段ラベルの型(2文段)※○は始発部に●は終結部に関わるものを示す

○●

●○ ○○

●○ ●●●●○○○○○○○○○○○

テキスト 主張文 提議文 解説文 報告文 反論文 支持文 合 計ラベル (33例) (25例) (18例) (11例) (12例) (1例) (100例)

事実一問題 3 8 1 4 3 0 19

〃一モ見 21 7 2 11 3 1 45

〃一分析 4 5 4 1 0 1 15

〃一主題 1 1 1 1 0 0 4

〃一鋸_ 4 5 1 2 1 0 13

〃一他者 1 1 1 0 0 0 3

意見一分析 4 3 0 1 2 0 10

〃一鋸_ 18 8 0 3 4 1 34

〃一問題 0 2 0 1 1 0 4

〃一鮪タ 8 5 0 4 2 1 20

〃一主題 2 0 0 0 2 0 4

分析一問題 1 0 1 0 0 0 2

〃一事実 4 7 4 0 1 0 16

〃一モ見 5 4 6 0 4 1 20

〃一結論 7 6 6 3 2 0 24

〃一主題 2 0 0 0 0 0 2

〃一他者 0 0 0 0 1 0 1

結論一事実 1 2 0 1 0 0 4

〃一モ見 1 4 1 0 1 0 7

〃一問題 0 1 0 0 0 0 1

〃一ェ析 1 0 1 0 0 0 2

主題一事実 6 3 3 2 1 0 15

〃一分析 4 4 3 2 3 0 16

〃一問題 2 1 0 0 2 0 5

〃一モ見 1 1 0 0 2 0 4

〃一他者 1 0 0 0 2 0 3

問題一意見 2 5 0 0 2 0 9

〃一鮪タ 1 3 0 1 0 0 5

〃一ェ析 5 6 4 0 3 0 18

〃一結論 1 3 0 1 1 0 6

〃 主題 1 2 0 1 1 0 5

〃一他者 1 0 0 0 0 0 1

他者一意見 3 1 1 0 3 0 8

(表5)文段ラベルの型(3文段)※○●については前表と同様

○○

テキスト 主張文 提議文 解説文 報告文 反論文 支持文 合 計

ラベル (33例) (25例) (18例) (11例) (12例) (1例) (100例)

意見一事実一意見 5 2 0 4 1 0 12

分析一〃一意見 2 2 0 0 0 0 4

主題一〃一意見 5 2 1 0 1 0 9

意見一〃一分析 0 0 0 0 0 1 1

主題 〃一分析 0 1 1 0 0 0 2

分析一〃一分析 1 1 3 1 0 0 6

一51一

Page 52: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

52

○○○○○○

●●○○○○OO

事実一意見一分析 1 2 0 1 0 0 4

事実一〃一結論 0 5 1 3 1 0 10

事実一〃一事実 5 0 0 5 0 1 11

分析一〃一分析 2 0 2 0 0 0 4

分析一〃一結論 2 2 1 0 2 1 8

分析一〃一事実 0 0 0 0 1 0 1

事実一分析一事実 2 2 1 0 0 0 5

事実一〃一結論 1 1 2 1 0 0 5

事実一〃一意見 0 2 2 0 0 1 5

主題一〃一事実 1 1 2 1 0 0 5

主題一〃一結論 2 1 1 1 0 0 5

主題一〃一意見 0 0 0 0 3 0 3

問題一〃一事実 0 1 1 0 0 0 2

問題一〃一結論 1 2 0 0 1 0 4

問題  〃一意見 4 1 3 0 1 0 9

意見一〃一事実 0 1 0 0 1 0 1

意見 〃一意見 0 1 0 0 0 0 1

意見一結論一意見 0 0 0 0 0 0 0

分析一〃一意見 1 1 1 0 1 0 4

事実一主題一分析 0 0 1 0 0 0 1

意見一〃一分析 1 0 0 0 1 0 2

事実一〃一事実 1 1 0 1 1 0 4

意見一〃一事実 1 0 0 0 0 0 1

事実一問題一意見 0 2 0 0 2 0 4

事実一〃紛析 2 0 1 0 1 0 4

意見一他老一意見 0 0 0 0 0 0 0

4.3.3「話題・場面」「時間」「論理」の大きな変化と展開パターンとの関係

 文段の流れの中で重要な位置を占めるのは,当然のことながら,始発部を形成する核である「主題

の設定」「問題の提起」,および,終結部を形成する核となる「結論」ないしは(帰結)であるが,展

開パターンを見る上で重要なのはむしろ文段間の関係を示すラベルである。その中で,(転話)(転時)

(#転論)というラベルがついた文段について見ておきたい。

(表6)文段の類別に見た(転話)(転時)(#転論)の出現数

事実 主題 問題 意見 分析 他者 結論 計

(転話) 47 1 4 45 49 5 2 153

(転時) 17 0 1 0 9 0 0 27

(#転論) 1 0 0 0 0 0 0 1

一52一

Page 53: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

53

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 それぞれの出現数は表6の通りであり,(転話)が「事実」「意見」「分析」の文段においてかなり

頻繁に行われていることが分かる。また,(転時)が「事実」以外ではほとんど見られないのは,「事

実」を述べる時でなければ時間を変化させることが難しいことを物語っている。(#転論)は論理的な

矛盾を示すものであり,もともとあってはならない文段である(具体的な展開パターンについては,

4.2のリストを参照)。

 このうち特に(転話)の形式についてコメソトすれば,これは,視点,論点を変えることにより,

論じている内容や議論に幅を持たせ,結果として文章全体のテーマに深みを与える一技法として,そ

の働きを捉えることができる。しかし,この技法は,全体を支配する統一テーマへの収敏を常に見据

えたものでなければ,かえって全体のテーマを不明瞭にしてしまうことになる危険性を持っているも

のでもある。おそらく,作文の指導の中では最も指導の難しい技術の一つと考えていいであろう。こ

の技法は書き手のセンスの問題として捉えるべき部分が大きく,学習内容として効果が期待できるも

のかどうかという点については疑問が残る。

 紙幅の関係で,これ以上の議論は別稿にゆずらなければならないが,今後は分析方法の見直しを行

いながら,ここで取り上げた一部の分析についての再検討をも含めて,より詳細な考察を進めていき

たいと思う。

N.教材作成に向けて

 第1章~第皿章は,求められる作文教材開発のための基礎研究となるものであった。本研究の最終

的な目的の一つはは大学レベルでの上級日本語学習者のニーズに応じた論述文作成を支援する教材の

開発であるが,それに先立ち,その一歩手前のレベルの中級用日本語作文教材を開発した。この章で

は,まず現在の日本語作文教材の現状を概観し,続いて,新たに開発した教材に関する基本的な考え

方と教材の概要を紹介したい。

1. 日本語教育における作文教材の現状

 近年,日本語教育を始めとする言語教育ではコミュニカティブ・アプローチが注目され,これに基

づく教材も開発されるようになってきている。既存の教科書の多くは「文法シラバス」を採用したも

のであったが,初級レベルの教科書では「機能」や「状況・場面」をシラバスとしたBasic Function-

al JaPanese(ペガサスランゲージサービス)やSituational.Functional faPanese(筑波ラソゲージグル

ープ)などの登場以来,文法・文型一辺倒ではなくなってきていると言えよう。しかし,話し言葉を

中心とする学習段階の性質上,そこでの作文指導の方法・位置付けは必ずしもはっきりとしたもので

はなく,「書く」ことは文型定着のための補助手段としての色彩が強くならざるを得ないのが実状の

ようである。中級段階の作文教材では「場面シラバス」を採用したものが多くなるが,話題性を持た

せることによって学習者の動機づけを高めるといった効果はあるものの,文型定着が主眼となってい

ることに変わりはない。機能・表現意図を軸とした作文指導の必要性は,池尾スミ(1974)等で指

一53一

Page 54: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

54

摘されているところであるが,そのような教材開発のための具体的研究が進んいないために,実際の

授業は個々の教師の経験に依存する度合いが強く,また開発された日本語教育用教材も少ないという

状況を生み出しているように思われる。

 英語教育ではPincas(1982)Teaching English Writing, White(1980)Teaching VVritten English,

Johnson(1981)Writing等で基礎的研究が行なわれており, PincasのWriting in English 1,2,3等は

その研究が具現化されたものであると言える。しかし,これらの教科書で取り入れられている手法を

日本語教育にそのまま応用するのは難しい点があり,一歩踏み込んだ教材開発が必要であると思われ

る。

 そうした現状の中で,表現意図をシラバスとした佐藤政光他(1986)r実践にほんこの作文』や,

文章の段落構成に着目させる試みが行われている羽田野・倉八(1995)『日本語の表現技術』は注目

に値する。また,斉山・沖田(1996)r研究発表の方法』は大学在学の留学生に焦点を絞り口頭発表

やレポート作成の具体的手順・作業を示しながら作文指導を行うもので,より高いレベルの日本語学

習者のニーズに応えたものであると言える。

 これらはいずれも中~上級の日本語学習者を対象とする作文教材であるが,初級(学習時間300時

間程度)を終えてこの段階に至るまでの穴を埋めるような機能・表現意図をシラバスとした作文教材

は依然として不足していると言わざるをえない。

2.教材開発の基本的な考え方

 『表現・テーマ別 にほんご作文の方法』は初級後半から中級レベルの学習段階に入って間もない

日本語学習者を対象とした作文教材である。より具体的には,大学進学を目的に日本語学校等で学習

している日本語学習者を念頭に置いている。

 話し言葉と書き言葉とのスタ・イルの違いは日本語学習のかなり初期の段階で指導されるべき内容で

あると考えられるが,初級では日常的なコミュニケーション能力を身につけるための練習が主体にな

ることが多いため,現実には中級前期レベルの学習者はこれらを混同しがちである。そのため,本開

発教材では,丁寧体の表記は原則として練習から排除した㈹。

 この教材開発における基本的方針は,次の通りである。

  ①ディスコースの流れの中で特定の表現形式が担う機能・表現意図に注目し,より具体的な文

   章の展開を学習者に提示することを目指す。

  ②コミュニカティブ・アプローチ(69に基づき,まとまった内容を書き言葉によって的確に伝達

   する能力を養うことを目的とし,単なる文法的な文の羅列を排除する。

  ③コミュニカティブ・アプローチに基づき,話しことばを中心として学習する初級段階から書

   きことばを中心とする段階への自然な移行を目指す。

  ④学習項目となるべき表現を抽出し,それらがパラグラフ(段落)の中で担っている機能を明

   確にする。

  ⑤「書くこと」と他の三技能(話す・聞く・読む)を結びつけた形での文章表現の指導法を模

一54一

Page 55: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

55

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

索する。

3.教材開発の手順と教材の概要

 具体的な中級用作文教材の開発㈹にあたっては,まずPincas(1982)等を参考に,学習項目として

取り上げるべき表現意図の抽出を行った。最終的には,複数回に分けて取り上げた方がよいと判断し

たものを含め,各課で一つの表現意図をもつ文章を書くことを目標にした全16課の教材作成を行う

ことになった。次に,各課の執筆分担老が表現意図を考慮してトピックを選び,モデル文となる

400~500字前後の文章を書き下ろした。自然な表現を心がけ,結果として出てきた難しい漢字表記

についてはルビを付すとともに,表現・語彙リスト(英訳付き)を巻末に加えた。各課で取り上げた

表現意図㈹の分類およびトピックは【表1】が示す通りになっている(60。

【表1】 [各課で学習項目となる表現意図]

課 表 現 意 図 ト   ピ   ッ   ク

1 物の形・状態・場所を説明する 部屋探し・比較・場所の様子の説明

2 物事の前後関係を説明する 日記・予定・待ち合わせ

3物事の仕組み・手順・方法を説明す

驕i1)

図書館の利用法・病院での診察・空港までの交通・洗濯

4 物事の因果関係を説明する コンビニエンス・ストア

5 行為の理由・目的を説明する 手紙(留学の計画)・悩みへのアドバイス・推薦

6共通点・類似点・相違点を説明するi1)

見舞いの時の習慣・比較・習慣の違い

7 引用・伝聞 大学生日米比較・世代差

8 意見を述べる 突然死・塾通い・クリスマスの過ごし方

9 物事の変化・推移・過程を説明する 手紙(近況報告)・化石の出来方・人物の経歴・生活の変化

10物事の仕組み・手順・方法を説明す

驥A

地震・料理の作り方・ゲームの遊び方

11 物事の因果関係を説明する(2) 出生率低下・推理

12 行為の理由・目的を説明する 大学生のアルバイト・動機

13共通点・類似点・相違点を説明するi2)

東西の味の違い

14 具体的事実から全体的特徴をっかむ 日本語と韓国語・人の性格・寝る時間・大学学進学率・生活レベル

15賛成意見・反対意見を述べる 生活の豊かさ・高校生のアルバイト・終身雇用制度・結婚後の女性の

d事16 文章を要約する 物語文・説明文・意見文

 次に,書き下ろしの文章それぞれについて,難易度の面から見て中級学習者に提示するのに適当で

あるかどうかの検討を加え,適宜修正を行った後,「作文技術」として取り上げるべき表現を機能別

一55一

Page 56: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

56

に選定した。学習項目となるこれらの「作文表現」は,その課で中心に扱われる表現意図に強く関わ

りを持つものと,たまたま作文モデルの中に現れた「その他の重要表現」とに分類されている。各課

で取り上げられた表現とその機能は,【表2】のようにまとめられる。(機能の欄で[]内に入って

いるのは「その他の重要表現」)

【表2】 機能・表現一覧

課 機   能 表          現

1 物の形・状態・場所

評価の度合 大変・とても・非常に(いい)

かなり・なかなか

だいたい

あまり~ない

ぜんぜん~ない

位置 ~から(近い/遠い)

~から/より(10分)以内

~から/より(歩いて)10分位

~まで(歩いて)10分位 ~まで(10分)以内

(東ノ西/南/北)向き

[比較] ~とくらべると

[順序コ まず~,次に~

[添加] また,~

[原因] そのため,~[逆接] だが,~

[評価] ~すぎる

2 物事の前後関係

順序 まず・次に・そのあと・最後に

[~している]あいだ,[~し]ながら

[~する]前(に),[~した]あと(で)

[~して]から,[~し]たら

そのあと(で)~ その前(に)~

[~し]ないうちに,~までに

[開始時点] ~て以来

[変化] (動詞)ようになる

[意志・意図] ~っもりだ ~(よ)うと思う[予定] ~ことになっている[推測] ~はずだ

3 物事の仕組み・手順・方法

順序 Aして,Bする。 Aしてから, Bする。

Aする。そのあと,Bする。

まず,Aする。次に, Bする。(そして, Cする。)

それから,Dする。

場合 ~場合/~とき(に)

[条件] ~なら

[目的] ~ために

一56L

Page 57: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

57

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

課 機   能 表          現

4 物事の因果関係

因果関係 A(の)ため(に),B。

A(の)おかげで,B。 cf.~(の)せいで

B(の)はAしたためだ。

B(の)はAしたおかげだ。

[範囲] ~から~まで

[添加] その上,~。それに,~。

[変化コ [イ形容詞]くなる [動詞]ようになる

[不要] ~なくて(も)すむ

5 行為の理由・目的(1)

目的 [~し]に(行く/来る)

[~する]ために cf.[~する]のに,[~する]ように

理由 B。なぜならAからだ。

Bのは,Aからだ/ためだ。

Aしたい。そのため(に),Bする。

希望 [~し]たい

[~し]たいと思っている

意図 う/よう(かな)と思っている/考えている

[提案] [~しては/したら]どうだろう(か)

~のはどうか

6 共通点・類似点・相違点(1)

共通 AもBも~という点では同じだ/変わらない。

比較・対照 AとBを比べると,~。

Aは~が,(しかし,)Bは~。

Aが~のに対して,Bは~。

Aは~。一方,Bは~。

それ/これに対して,

それ/これにくらべて,

Aより(も) Bのほうが~

相違 (AかBかは)~によって違いがある。

[場合] ~の場合,

[伝聞] ~によると,~そうだ。

7 伝聞・引用

引用 ~は「~」と言っている/と答えている。

~は~と言っている/述べている/書いている/説明している。

~という[記事]

伝聞 ~によると/~の話では~そうだ。

~という。

~ということだ。

~らしい。

[疑問の提示] どうして~のだろうか。

一57一

Page 58: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

58

課 機   能 表          現

8 物事の仕組み・手順・方法

判断 ~だ/である。

~だろう/~であろう。

~(だ/だろう)と思う ※(私には)~と思われる

と考える           と考えられる

~(の)ではないか

(の)ではないだろうか/(の)ではなかろうか。

(の)ではないかと思う。

~(の)ように思う   ※~(の)ように思われる

~(の)ような気がする

~かもしれない

(私には)信じられない[否定]

主張 ~べきだ

[~した]ほうがいい

[例示] ~とか~とか

[付加] それに,~ また,~

[疑問の提示] なぜ~のだろうか。

[出来事の可能性] [~する]ことがある。cf.[~した]ことがある。

〔意外な結果] かえって~

9 物事の変化・過程

変化 [名詞]になる [イ形容詞]くなる [ナ形容詞〕になる

[動詞]ようになる

推移 ~てから,(時間)が過ぎた

~てから, ~,今は~をしている

一後,

~てくる/~ていく

~につれて,~

最初(は)~ ついで,~ やがて~

[話題の提示] ~のことだ。

[実行しない状態の持続] ~ずにいる(~ないでいる)

[可能性] もしかしたら~かもしれない

[意志・予定] ~う/よう(かな)と思っている

~う/ようと考えている

10 物事の仕組み・手順・方法②

順序 まず,Aする。次に, Bする。それから, Cする。さらに, Dする。

Aして,Bする。 Bする前に, Aする。

場合 ~場合は/~とき(に)は/~たら

[原因] ~ため(に)

[伝聞] ~によると~という。

11 物事の因果関係(2)

因果関係 Aから,B

Aので,BAため(に),B

A(の/した)結果,B

一58一

Page 59: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

59

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

課 機   能 表          現

11 因果関係 A。したがって,B

A(したこと)によって,B

B(したことの)原因として,A(こと)が挙げられる

推理 Aということは(つまり) Bということだ

にちがいない

(たぶん/当然)~のだろう/~と考えられる

[意図・目的] ~う/ようと~した

[解説] (つまり)~ということだ

[根拠] その考えは~がもとになっている。

12 行為の理由・目的(2)

理由 ~から,~ので,

目的 [動詞]ため(に),[名詞]のため(に)

[~し]に(行く/来る)

意図 ~う/よう(かな)と思っている/考えている

消極的な行為 しかたなく~する cf.すすんで~する

[伝聞] ~という/~そうだ

[予感・予想] [~し]そうだ

13 共通点・類似点・相違点(2)

共通 AもBも,~という点では 共通している/同じだ。

AもBも,どちらも~。

比較・対照 AはBに比べて~。

Aは~という点でBと違う/違っている。

Aが~のに対して,Bは~。

Aは~。それに対して,Bは~。

Aは~。一方,Bは~。

[予想と違う結論] ~かというと,(実は)そうではない/違う

~(の)ように見えるが,実は~ない

14 具体的事実から全体的特徴をつかむ

例示 たとえば,~

説明の列挙 まず,~。また,~。さらに,~。

要約 このように,~。

一般化 ~と言うことができる(だろう)。

~と言っていいのではないだろうか。

[類似] AとBは~が同じだ。似ている。

共通している。

[例え] Aは いわば’Bだ。

15 賛成意見・反対意見

引用 ~によると~そうだ

~によると~という

~によると~ということだ

~によると~らしい

~と言っている/述べている/語っている/説明している/指摘している/主張し

ている/結論している/…

一59一

Page 60: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

60

課 機   能 表          現

15 容認と主張 (確かに)~については~だ。しかし/だが,~。

~という点では~だ。

~かもしれない。

~(こと)は否定できない。

主張 ~しなければならない

~するべきだ/べきである/べきだろう

~することが必要だ/重要だ

~する必要がある

~したほうがいのでは ないか/なかろうか

※その他第8課の表現を参照

指摘 (それは)~という点で~だ。

解釈 (それは)~ということだ。

[規則] ~ということになっている

[帰結] ~。そういうわけで,~。

[比較] ~と肩を並べる

16 文章の要約

要約のポイント 名詞修飾を使う

文と文をつなぐ

指示語「これ,それ,この~,その~」を使う

適切な順序で表現する

※第16課の文章の要約については,練習の性格上具体的な表現を列挙せず,

別途“要約の手順”図示した。

 これらの表現意図・表現・機能の抽出は前節で示した教材開発の基本方針①~④に基づくものであ

る。

 各課の具体的な構成は,基本的には(1)作文モデルの提示と理解,(2)「作文技術」で取り上げられた

個々の表現に関わる練習,(3)まとまりのある文章の記述(文章構成やトピックに一定の枠を設けられ

ていることが多いものの,かなり自由度の高い作文),という順序をとっている。これは第皿章で概

観したPincas(1982)で提示されている練習形態にほぼ依拠したものとなっている。

 ⑤の「書くこと」の技能と他の三技能との統合については,次のように考えている。

 まず,作文モデルを各課の先頭に提示することにより,「読むこと」との結びつけを図っている。

これは既存の教科書でも多く取り入れられている手法だが,作文モデル執筆の際にはいわゆる“教科

書的な日本語”(恣意的な表現・語彙の選択によって生じる不自然な日本語)とならないよう配慮し

たつもりである。その結果中級レベルとしては難易度の高い語彙やその課で学習する「表現意図」と

は直接関わりを持たない表現が含まれる結果となったが,それらは「語彙リスト」と「その他の重要

表現」の項目をたてることによって解決を図った。

 次に,「聞くこと」との関連を持たせるため,会話文・インタビューのスクリプト等を利用した練

習を各所に配置してある。音声テープなどを併用し,会話文から得た情報を文章化するといった練習

を行うことを想定している。また,文章作成の前に十分なディスカッションを行うことを想定し,社

一60一

Page 61: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

61

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

会問題なども作文のテーマとして積極的に取り入れるようにした。

4.上級用教材の開発に向けて

 『表現・テーマ別 にほんご作文の方法』は初級から中・上級への橋渡しとなることを目指したも

のであるが,コミュニカティブな作文教材としては試作的な要素がまだ残っている。実際の授業での

試用を重ねて,作成した教材と学習効果との関連についてもさらに調査・研究を重ねていかなければ

ならない。また,提示した作文モデルが適切なイソプットとして機能しているかどうかについても検

討しなければなるまい。そういった検討を加える上でも,第皿章で述べた文段機能・文機能について

の研究をさらに深めていく必要があると考えられる。

まとめ

 本研究で考察しようとしたことは本稿の「はじめに」に述べたとおりであるが,最後に,今後の研

究の展望と残された課題を整理する方向で,本稿で扱った問題をまとめておきたいと思う。

 第1章・第1章では,クラシェンの理論を下敷きにして,作文能力についての再検討を行い,中~

上級学習者に対する作文指導法を考察してみた。そして,書き言葉コードの習得という点から作文指

導には読解力の十分な向上が要求されること,練習においては「作文プロセス」についての知識が身

につくような工夫が必要であること,また,作文という行為における学習老の精神的苦痛を取り除く

努力が練習には必要であること,等を確認した。

 しかし,たとえば,「読み」によって習得される「書き言葉コード」とは具体的にどのようなもの

であるのかについては認知心理学的研究の進展を待たなければならない部分が大きいし,具体的な作

文指導の内容練習のさせ方などについても,今後とも試行錯誤をしながらの検討が必要である。

 第皿章では,中~上級の学習者に対する論述文作成の指導ということを目標に,その教材開発の基

礎資料となる論述文の分析を試行した。試行研究としては,論述文分析上の諸問題が明らかになった

点で,大きな意味があったと思われる。

 具体的な論述文分析に関しては,特に,複文レベルでの連接と文段レベルでの連接とパターン分析

という点に焦点を当てることにより,いくつかの諸特徴を見出すことができたと思われる。だが,デ

ータの不足など,この試行研究はまだ途上の段階にあるために,確かな成果が得られたとは言い難

い。今後は,必要とされるデータの充実と分析方法の見直しを実施し,より詳細な考察を進めていく

必要があろう。

 第]V章では,研究の成果として,望まれる教材のあり方を考察してみた。そして,この考察の結果

として,実際に中級用作文教材の作成も試みた。しかし,教材は多くの現場での試用を通して改良を

加えていかなければならないものであり,試作された教材はある程度時間をかけなければその検証結

果から正しいデータも得られない。こうした点も考慮しながら,今後一層の検討を重ねていきたいと

思う。

                                         (佐藤)

一61一

Page 62: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

62

                       〔注〕

〔1〕

(1)福沢(1991),139頁。

(2)同上,141頁。

(3)沖原勝昭(編)(1985),1頁。

(4)茂呂(1988)は,作文という行為を認知論的に分析しているが,「場」の意味を次のように述べている。「規

 範・手順といわれてきた書くことが,場の中の有意味性を保障するとき容易に獲得されるものだといえる。」

 (156頁)

(5)ヒートソ(1975),138頁。

(6)リヴァーズ(1987),271頁。

(7)ピンカス(1982)参照。

(8)ピンカス(1982)は,この場合,文字の書写力と表記能力はすでに備わっているものとして述べている。

(9)同上,26頁。

⑩ 実は,私たちは常に作文の際に悩んでいるわけではない。幼児期の,絵を描くことと字を書くこととが未だ

 未分化な状態にあるとき,作文は何の苦労もなく楽しい遊びであったと考えることができる。私たちは,年を

 とるにつれて,書き言葉の習得につきものの様々な規則や不本意な課題をこなすことが求められることにより,

 作文に悩むようになったと言うことができる。

(11)クラシェソ(1984)参照。

㈲ クラシェソが取り上げている先行の調査研究の信頼性の度合い等については,ここで論じることはできない。

⑬話し言葉と書き言葉の違いを沖原(編)(1985)『英語のライティソグ』から引用する。

話 し こ と ば 書 き こ と ば

発生・形態 声帯からの音波 書くという行為による書記記号

習得方法 自然習得による 人為的な教育による

機能的特徴

韻律的特徴(イソトネーショソ,ストレスな

ヌ)と非言語的要素(ジェスチャー,表情な

ヌ)が伴う。

言語の書記記号のみに依存する。

使用場面相手からのフィードバックが存在する。 相手からの直接のフィードバックは存在しな

「。

まとまり・体裁言語的な不備,内容的なまとまりの欠如が認

゚られることが多い。

より意識的に練られ,構成されることが多

「。

記録としての特徴

言語使用のプロセスがそのまま記録されるた

゚,種々の不完全さが残る。

後で読まれることを意識して言語使用の結果

ェ記録されているため正確な記録となってい

驕B

  また,A. S.ホーニング(1987)は,話しことばと書きことばの構造上の違いを強調し,書きことばは第二

 の言語を形成している,というふうに説明している。筆者(1989)も,「『話しことば』と『書きことば』は,

 言語一般の基底的な部分ではもちろん一致するのであろうが,実際の言語表現の現れ方においては,それぞれ

 が別の体系を構築していると考えるべきではないだろうか。そして,『書く』能力の指導というものは,『書き

 ことば』の体系の中で行われてこそより望ましい結果が得られるのではないだろうか。」と述べたことがある。

㊥ クラシェン(1984),21頁。

⑮ 『国立国語研究所報告26』の「小学生の言語能力の発達」によると,「作文」と「読解」,「聞く」,「話す」と

一62一

Page 63: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

63

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

 の相関は次のような結果であったという(参考文献33より重引)。

   読解と 生活文作文0.44

   読解と 手紙・記録・報告・意見・感想文作文0。54

   読解と 聞く0.32

   読解と 話す0.20

㈹ D.バーン(1979)は,作文を一つの伝達手段と考え,その特質と,推敲といった意識的な努力の必要性を次

 のように説明する。

 「書くということは,あるメッセージの記号化(encoding)をその中に含み持っている。つまり,私たちは自ら

 の思想を言語に翻訳するのである。読むということは,このメッセージの記号解読(decoding)ないしは解釈

 をその中に含み持っている。しかし,自分自身の用のために書いているような場合(買い物リストはこうした

 目的のために書くものと言えよう)を除くと,読み手というのは物理的には存在しない誰かである。このこと

 が,つまるところ,なぜ私たちがより一般的な話の伝達方法ではなくてこうした特別な伝達方法を自然に選択

 するかの理由なのである。そして,読み手が存在しないために,また,時には私たちにとって未知の存在であ

 るために,私たちは自ら書いたものが何の助けも要せず理解されうることを保証しなければならないのである。

 私たちがものを書くときに注意を払うのはそのためである。書くという手段によって私たちが読み手とうまく

 コミュニケートできるのは,最大限に明快で完全な一つのテキスト,つまり,首尾一貫した全体へと文章が構

 成されることによってなのである。」(1頁)

㊥ クラシェソ(1981)参照。

⑱ 同上,7頁。

⑲ クラシェン(1984),21頁。

?o)同上,27頁。

〔1〕

⑳ クラシェソ(1984),29頁。

㈲ 同上,32頁。

 書き手本位の文章から読み手本位の文章へと転換していくということは,読み手との共通の関心事を探ること

 であり,事実と具体的詳細を概念に移し換え,叙述的物語的スタイルを,書き手の目的に即して組み立てられ

 た解説的スタイルへ,と変えていくことである,というフラワー(1979)の説を引用している。

㈹ 次の作文例は,十年ほど前に,日本語歴三年以上の留学生に,「日本語の難しい点について」という課題で書

 かせた作文の一部である。話し言葉と書き言葉の混用の例として引用する。

 「……日本語が難しいという人は大分ほとんど漢字を書けなくて読めない人だと思う。こういう人は西洋人が多

 いと思う。そういう人が国の文化は漢字系じゃないからぜんぜん別の文化なので彼らにとって勿論むずかしい

 でしょうね!わたしによって?そうね!勿論むずかしいところもあるし,楽に勉強できるところもあります。

 私は中国人ですからね!日本人と同じように漢字をよめるしかけますので。けれども文法的には勉強の初の頃

 にはいつも違ってめちゃくちゃでした。「します」とか「しています」とかいつも違いました。今は大丈夫だけ

 どやばっり外人ですね,たまに違いました。

  同じ漢字をかけくて読めますけれどやばっり外国人なので日本語を勉強のがある程度までに勉強すればでき

 ますけれども,もし日本人のようになりたかったらとてもむずかしいと思う。大分これらは私の頭がいいとは

 ないからかもしれませんけどねえ!でも,これは私の場です。……」

図 冨田(1987),32頁。

㈱ 同上,32頁。

㈲ ビローズ(1972),198頁。

一63一

Page 64: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

64

㈲ 池尾(1974),3頁。

㈲ 沖原(編)(1985)『英語のライティソグ』では,この問題を「質重視派」と「量重視派」の問題として次表

 のように整理している。

質 重 視 派 量  重  視  派

ライティング観

文法上,語法上の正確さ(accuracy)が重

vである。自由に書けるようになるためには

攝ァされた練習を十分に積む必要がある。基

{的にはAudio-1ingualismの立場に立っ。

一定時間に書ける内容の豊富さ(fluency)一

?フ的には語数の多さ一が重要である。実際

ノ書く経験を積むことによって書く力は養成

ウれると考える。

練習形態

形態面の練習から始め,各々の段階で様々な

ァ限や統制を加えた練習を課す。上級レベル

ノ進むにつれて次第に統制を緩め,自由作文

ヨと導く。

初期の段階から自由英作文形式の練習を課

オ,書かせる回数も多くする。

エラーに対する態

x

形態面のエラーは極力防止・訂正すべきであ

閨C言語材料や指導法にそのための手だてを

uじる。

エラーをすることによって書くことを学んで

「く面もあるので,形態面のエラーはそれほ

ヌ気にしなくてよい。特に初期の段階ではエ

堰[は害がない。

評価の視点文法的に正しい文を用い,書き言葉の形式に

フっとってある内容が書けているかどうか。

本当に必要なことや,書き手の言いたいこと

ェ十分盛り込めているかどうか。

㈲ 佐藤(1989)参照。

㈹ ライムズ(1983),6頁。

⑳ 同上,6-11頁。

㈹ ピソカス(1982)参照。

岡 同上,13-14頁。

図 同上,14頁。

岡 同上,14頁。

㈹ 同上,36-43頁。

(3D 同上,63頁。

㈹ 同上,56-59頁。

㈲ 沖原(編)『英語のライティング』39頁より重引。なお,プロセス・アプローチの具体的な方法論を詳細に提

 示したものとして,White&Arndt(1991)がある。

㈹ カプラソ(1966),15頁。

㈹ 名柄・茅野(1989),6-7頁。

㈲ 佐藤喜久雄(1991),60-61頁。

㈹澤田(1977),(1983)参照。

㈲ 木下(1981),(1990)参照。

㈲ 木原(1983)参照。

㈹ バーソ(1979),4-5頁。

㊥ この点と心理学的問題とを,クラシェソ(1981)は「感情フィルター」と呼び,インプットが無駄なく実現

 されるためには感情フィルターをできるだけ低く抑えることが重要だという。

一64一

Page 65: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

65

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

[皿]

㈹ 「予測読み」は文章展開に関わる知識のみでなく先行知識・背景的知識などによって可能になるものであると

 されている。詳しくはGoodman(1967)を参照。

㈲ 山元(1994)では,「問題」「目的」「解決」「結果」など文脈の機能を表す語彙がテキスト中にSigna互として

 表されている場合,文章読解にプラスの効果がある場合があったことが論じられている。また,館岡(1996)

 は,日本語と異なる文章構造をとる言語の母語話者が,日本語の評論文の読解で理解度が低くなることを指摘

 している。

㈹ 「論述文」は,市川(1973)が「線状的・直接的文脈」と呼んでいる文章の統合方式をとる文章の一つであ

 る。市川によれば,「線状的・直接的文脈」では,「文や連文が密接な内容上のつながりを保ちつつ時間的に展

 開」し,「接続詞などが文間に用いられたりして前後の関係が論理的に構成される」(市川(1973),p.25)とい

 う。

㈱ 朝日新聞朝刊1988年1月12日~3月24日掲載分50例及び1992年4月1日~6月11日掲載分50例。入力作業は

 200例を対象としていたが,作業途中でラベル設定の妥当性の検討を行った結果,ラベル付けに変更が必要とな

 ったため,検索対象にすることができるデータは100例となっている。

画 「文段」の概念は,市川(1973)に依拠している。これは,「論理的段落」とも呼ばれるもので,必ずしも文

 章の書き手が設定した「形式段落(行頭を一字分下げることによって明示化された段落)」とは一致しない。本

 研究でのデータベース作成のための文段設定に関しては,本稿第皿章4.1を参照。

㈹ 佐藤(1990)の分類のうち,「意見陳述」は「主張」に,「整理」および「強調」はそれぞれ〈文関係表示ラ

 ベル〉の「まとめ(〈ま〉)」と「添加(〈添〉)」に組み入れた。また,「暗示」「確認」は削除し,新たに「意図」

 と「試行」を追加した。

(sD データベースのラベル入力には田辺和子(日本女子大学日本語講師),池上摩希子(中国帰国者定着促進セン

 ター日本語講師)両氏の協力を得た。また,検索プログラム開発については,富田健治(㈱ソフト流通センタ

 ー),佐藤武(㈱東北情報センター)両氏の技術的支援を受けた。

岡 プログラム実行に必要なコンピュータのシステム構成・インストール手順・使用説明については「機能仕様

 書」として別にまとめてある。

㈹ 「~のだ」「~というわけだ」等の文末表現や指示詞の使用には先行文・後続文との関わりが重要であるため,

 この機能を加えた。

㈲ 文機能および統語的特性から判断して,これら二つの表現は同一表現の変異形とみなし,一つの項目として

 扱った。

鯛 例えば,佐藤他(1986)『実践にほんこの作文』では「~のではないだろうか」が比較的確信度の低い「主

 張を表す文」の例として提示されている。

㈲ 市川(1975),114頁。

㈹ 市川(1978),145-146頁。

㈹文段の認定基準については,佐久間(1987a),(1987b)が詳しく論じている。

画 市川(1978),128-135頁参照。また,このようにして出来上がった文段基準の客観性を検証するための一つ

 の手段として,テキストの10例を使ったアソケート調査を28人の被験者(文学部の学生,大学院生,日本語教

 師)に実施し,こちらで作った区切り基準にどれくらいの一致・不一致があるかを見た(なお,この作業には

 田辺和子,池上摩希子両氏の協力を得た)。その結果については別の稿にゆずるが,その一部を参考までに掲載

 する。

一65一

Page 66: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

66

[テキスト・コード:058AS](A-2は被験者,*は佐藤を示す)

   12345678A

D

G

J

P

S

1

9 10 11 12 13 14 (文番号)

             5(文段数,以下同じ)

             4

             5

             7

             5

             6

             5

[Iv]

㈹ 例外として一部「手紙文」を掲載した課があるが,これも話し言葉と書き言葉の違いを顕在的に示すことが

 目的となっている。

㈹ コミュニカティブ・アプローチについては,本稿第1章2.3.1を参照のこと。

㈹ 実際の作業では,田中幸子(上智大学外国語学部)および池上摩希子(中国帰国者定着促進セソター)両氏

 に執筆分担を依頼した。また,出版にあたり,第三書房編集長広沢浩一氏に大変お世話になった。

㈹ ここで「表現意図」と呼ぶのは,Pincas(1982)が「論理的機能(logical functions)」としているものに相

 当する。

㈲ これ以外に第1課~第5課の各課に句読法に関する解説と練習問題が含まれている。また,巻末には付録と

 して日常生活で必要になる各種のフォーム(銀行の振込依頼書,初診者カード,図書管理用申込書,履歴書等)

 の記入例が紹介してある。

一66一

Page 67: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

67

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

                     〔参考文献〕

1 相原林司(1984)『文章表現の基礎的研究』明治書院

2     (1987)「接続語句と文章の展開」『日本語学』9月号,明治書院

3 亜細亜大学留学生別科(1987)『現代日本語作文』亜細亜大学

4 池尾スミ(1974)『文章表現』凡人社

5 石田敏子(1986)『日本語教授法』大修館書店

6 市川 孝(1975)「文章論」『覆刻文化庁国語シリーズX 文章の構成・表現』教育出版

7     (1978)『国語教育のための文章論概説』教育出版

8稲垣滋子(1986)『日本語の書き方ハンドブック』くろしお出版

9沖原勝昭(編)(1985)『英語のライティング』大修館

10 長田久男(1995)『国語文章論』和泉書院

11 木下是雄(1981)『理科系の作文技術』中公新書

12     (1990)『レポートの組み立て方』筑摩書房

13 木原 茂(1983)『文章表現十二章』三省堂

14 言語技術の会(編)(1990)『実践・言語技術入門』朝日新聞社

15 小森 茂(1990)「小学校における作文教育」r日本語学』7月号,明治書院

16 佐久間まゆみ(1985)「文章理解の方法一読解と要約一」「応用言語学講座第1巻日本語の教育』明治書院

17       (1987a)「文段認定の一基準(1)一提題表現の統括一」『文芸言語研究・言語篇』11,筑波

 大学文芸・言語学系

18       (1987b)「段落の接続と接続語句」『日本語学』9月号,明治書院

19       (1989)「作文力の養成法一段落作成と要約作文一」『講座日本語と日本語教育13 日本語教育

 教授法(上)』明治書院

20 佐藤喜久雄(1991)「作文教育から見た日本語教育と国語教育」『日本語学』9月号,明治書院

21 佐藤・加納・田辺・西村(1986)『実践にほんこの作文』凡人社

22 佐藤政光(1987)「大学留学生に対する作文教育」『明治大学教養論集』通巻203号

23     (1989)「作文能力とは何か一外国人留学生に対する作文指導のために一」『明治大学教養論集』通

 巻223号

24     (1990)「論述文の展開パターンについて」『明治大学教養論集』通巻232号

25     (1992)「日本語学習老の作文における連文レベルの誤用について」『明治大学教養論集』通巻251

 号

26 佐藤政光・戸村佳代(1993a)「中・上級日本語学習老における誤用例〔分析一覧〕」『明治大学教養論集』通

 巻259号

27          (1993b)「中・上級日本語学習者における誤用文の統語論的意味論的分析と研究」『明

 治大学人文科学研究所紀要』第33冊

28 佐藤・田中・戸村・池上(1994)『表現テーマ別 にほんご作文の方法』第三書房

29 澤田昭夫(1977)『論文の書き方』講談社学術文庫

30     (1983)『論文のレトリック』講談社学術文庫

31 C&P日本語教育・教材研究会編(1988)『日本語作文1一身近なトピックによる表現練習 』専門教育出

 版

32     (1988)『日本語作文E一中級後期から上級までの作文と論文指導一』専門教育出版

33 鈴木英夫(1989)「文章の構成」『講座日本語と日本語教育5 日本語の文法・文体(下)』明治書院

一67一

Page 68: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

68

34 田中 望(1988)『日本語教育の方法 コースデザインの実際一』大修館

35 館岡洋子(1996)「文章構造の違いが読解に及ぼす影響」『日本語教育』Vol.88

36 筑波ランゲージグループ(1992-95)Situational Functional/bpanese. VoL 1-3

37 土部 弘(1976)「読解力と表現力」『現代作文講座7 作文教育の方法』明治書院

38 冨田隆行(1987)「初級段階での作文教育」『日本語と日本語教育』15号

39 永野 賢(1986)『文章論総説』朝倉書店

40 名柄 迫・茅野直子(1989)『外国人のための日本語例文・問題シリーズ9文体』荒竹出版

41 西田直敏(1986)「文の連接について」『日本語学』10月号,明治書院

42 野地潤家(1990)「国語教育のなかの作文教育」『日本語学』7月号,明治書院

43林四郎(1960)『基本文型の研究』明治図書

44     (1973)『文の姿勢の研究』明治図書

45     (1983)「日本語の文の形と姿勢」『談話の研究と教育1』大蔵省印刷局

46 速水博司(1990)「高校における作文教育」『日本語学』7月号,明治書院

47 福沢周亮(1991)『言葉と教育』放送大学教育振興会

48 ペガサスラソゲージサービス(編)(1987)Basic Functional/ilPnaese.ジャパンタイムス

49 北條淳子(1989)「複文文型」『談話の研究と教育皿』大蔵省印刷局

50 本多勝一(1982)『日本語の作文技術』朝日新聞社

51森岡健二(1975)「文章の構成法一コンポジショソー」『覆刻文化庁国語シリーズX 文章の構成・表現』教

 育出版

52 森田良行(1985)「文章分析の方法」『応用言語学講座第1巻 日本語の教育』明治書院

53     (1987)「文の接続と接続語」『日本語学』9月号,明治書院

54     (1989)「連文型」『談話の研究と教育皿』大蔵省印刷局

55     (1993)『言語活動と文章論』明治書院

56 茂呂雄二(1988)『なぜ人は書くのか』東京大学出版会

57 渡辺 実(1985)「文章のつかみ方」『応用言語学講座第1巻 日本語の教育』明治書院

58 山梨正明(1993)「語用論と推論のメカニズム」『英語青年』Vol.139-5, pp.8-10

59 山元啓史(1994)「Signalingが日本語の科学技術文献読解に及ぼす効果」『世界の日本語教育』4, pp.45-60

60K・ジョンソン/K・モロウ編著(小笠原八重訳)(1984)『コミュニカティブ・アプローチと英語教育』桐原

 書店

61 スティーブン・D・クラッシェン/トレイシー・D・テレル(藤森和子訳)(1986)『ナチュラル・アプロー

 チのすすめ』大修館書店

62 ウィルガ・M・リヴァース(天満美智子・田近裕子訳)(1987)『外国語習得のスキルーその教え方』(第2

 版)研究社出版

63H. Dulay, M. Burt, S. Krashen(牧野高吉訳)(1984)『第2言語の習得』弓書房

64 F・L・ビローズ(納谷友一訳)(1972)『外国語教育の指導技術』大修館

65 Byme, Donn(1979)7セσo加πg砺’勿g 5ん燃. Longman

66 Goodman, K.S.(1967)‘‘Reading:a psycholingtiistic guessing game”,ノburnal of Reading SPecialist

67 Kaplan, Robert B.(1966)‘‘Cultural Thought Patterns in Inte卜Cultural Education”. Language Learning 16:

 1-20

68 Krashen, Stephen D.(1981)Second Language、Acquisition and Second Language Learning. pergamon press

69      (1984)Writing-Research,丁勿oη, and∠4pplication, Pergamon Institute of English

70 Heaton, J.B.(1975)Wn’ting English Language Tests. Longman

一68一

Page 69: 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 · 中~上級日本語学習者に対する作文指導法 の研究と教材開発 佐 藤 政 光 戸 村 佳 代

69

中~上級日本語学習者に対する作文指導法の研究と教材開発

1234FO

77777

Hinds, John(1.983)‘℃ontrastive rhetoric:Japanese and English”, Text 3:183-195

Homing, Alice S.(1987)Teaching VVrking as a Second五anguage. Southem Illinois University Press

Pincas, Anita(1982)Teaching幽English Wri°ting. Macmman Press

Raims, Ann(1983)Techniques勿Teaching Wri’ting. Oxford University Press

Adriana Bolfvar(1994)‘‘The structure of newspaper editorials”。 in M. Coulthard(ed.),、4dvances in Written

 Text/1malysis. Routledge

76 White, Ron&Arndt, Valerie(1991)Process Wri’ting. Longman

77Wilkins, D.A.(1976)ハrotiomal Syllabuses. Oxford University Press

(さとう まさみつ)

   (とむら かよ)

一69一