~第8回~...

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基礎現代化学 ~第8回~ 気相の反応・液相の反応 教養学部統合自然科学科・小島憲道 2014.05.28 通知:期末試験(7月30日(水)5限)

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基礎現代化学

~第8回~

基礎現代化学

~第8回~

気相の反応・液相の反応気相の反応・液相の反応

教養学部統合自然科学科・小島憲道教養学部統合自然科学科・小島憲道

2014.05.28

通知:期末試験(7月30日(水)5限)

第1章

原子

§1

元素の誕生

§2

原子の電子構造と周期性

第2章

分子の形成

§1

化学結合と分子の形成

§2

分子の形と異性体

第3章

光と分子

§1

分子の中の電子

§2

物質の色の起源

§3

分子を測る

第4章

化学反応

§1

気相の反応、液相の反応

§2

分子を創る

第5章

分子の集団

§1

分子間に働く力

§2

分子集合体とその性質Ⅰ

§3

分子集合体とその性質Ⅱ

参考書『現代物性化学の基礎』小川桂一郎・小島憲道

共編(講談社サイエンティフィク)

『原子・分子の現代化学』田中政志・佐野充

著(学術図書)

Ch. 4 化学反応と合成

気相反応の代表例:

オゾン層の破壊・光による結合切断・連鎖反応機構

溶液反応の代表例:

オレフィン・ベンゼンの酸化・臭素化・引抜反応・付加反応・置換反応

化学反応を分子軌道による理解

・ 反応を支配する要因を知る:

反応のエネルギー・遷移状態・活性化エネルギー

これまで「反応式」として暗記してきた化学反応を、分子が出会い「結合の切り替え」が起こるミクロスコピックな現象として捉える。

気相と液相での化学反応の仕組みを理解する。

~この章の狙い~

O2 O + O

O + O2 O3

O + O3 O2 + O2

1.気相の反応:オゾンの生成・分解・再生

UV

UVM

Chapman Cycle①

③④

気相で進む反応の例として、成層圏におけるオゾンの生成・分解・再生の

サイクルを取り上げる。この話題はオゾン層破壊の問題とも繋がっている。

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/

基礎知識:対流圏と成層圏

重要な大気反応は対流圏と成層圏で起こっている.

•対流圏(Troposphere)地表から10数kmの高度まで、気温は約6.5 ℃/kmの割合で減少する。

この範囲を対流圏と呼ぶ。対流圏の温度分布は、主に地表で吸収された

太陽熱が対流で上層に運ばれることによって形成される。

•成層圏(Stratosphere)対流圏の上方50 kmまでは気温は高度と共に上昇する。この範囲を

成層圏と呼ぶ。成層圏の温度分布は、主に酸素分子の光解離反応、

オゾンの分解・再生反応によって決まる。オゾンの分布は20~30 kmで

大となるが、

大気の熱容量は上層ほど小さいため、温度は50 km

付近で 大となる。

Chapman Cycle:オゾンの生成

1. オゾンの生成

高度30 km以上の成層圏で,242 nmより短波長の紫外光によって

酸素が光解離する.

O2 + hν (λ < 242 nm) →

O + O (1)

生成した酸素原子はただちに酸素分子と反応してオゾンを生じる.

O + O2 + M →

O3 + M (2)

ここでMは酸素または窒素であり,生成したO3の内部エネルギーを

奪って安定化する役割を果たす(Mを第3体という).

Chapman Cycle:オゾンの光解離と再生

2.オゾンの光分解と再生

オゾンは240-320 nmの紫外光によって光解離する.

この光解離反応は有害な紫外線を吸収するシールドになっている.

O3 + hν (λ = 240-320 nm) →

O2 + O (3)

この反応で生成した酸素原子は,ただちに(2)と同様の過程で酸素

分子と反応し,オゾンを再生する.

O + O2 + M →

O3 + M (2)

(3)で生成した酸素原子の殆ど全てが(2)によって再生されるため,

光解離はオゾン濃度を減少させる直接の原因ではない.

Chapman Cycle:オゾンの消失

3. オゾンの消失Chapmanサイクルにおけるオゾン消失過程は,

酸素原子との反応によって2個の酸素分子が生成する過程である.

O + O3 →

O2 + O2 (4)

S. Chapmanは「過程(1)~(4)が釣り合うことによって成層圏の

オゾン濃度が一定に保たれている」と考えた.

実際には,NOx サイクルやClOx サイクルなどの反応によって

成層圏のオゾンが消失する.

サイクルを促進する要因:NOxサイクル: 排ガスClOxサイクル: フロンガス

NO2NO

O3 O2

O2 O

ClOCl

O3 O2

O2 ONOxサイクル ClOxサイクル

フロンガスと、ClOxサイクル

CF2 Cl2UV

(190-200 nm)

成層圏オゾン層(~30km):フロンを分解する190-210 nmの紫外線が到達する。

Clは、徐々に水溶性のHClなどになって、成層圏から消えるが、この反応は遅い。Clが成層圏にある間に、ひとつのCl原子あたり十万個のO3を破壊する。

フロンの光分解反応によって生じた塩素は、ClOx サイクルを促進する。

(CFC-12)

フロンの性質:化学的に極めて安定で(無毒・不燃性)

ClOx サイクル Cl + O3

ClO + O

O + O3

ClO + O2

Cl + O2

O2 + O2

CClF2 + Cl

人工衛星の映像が、まるで穴があいたように見えることからオゾンホールと呼ばれるようになった。

南極上空のオゾンが毎年春期に減少することの発見は、ジョセフ・ファーマン、ブライアン・ガード

ナー、ジョナサン・シャンクリンの1985年の論文 (Farman et al. 1985 “Large losses of total ozone in Antarctica reveals seasonal ClOx/NOx interaction.” Nature, 315, 207-210) によって発表されている

が、 初の報告は1983年12月の極域気水圏シンポジウムおよび翌1984年年ギリシャで開かれた

オゾンシンポジウムでの、気象庁気象研究所(当時)による日本の南極昭和基地の観測データの

国際発表である。

南極上空のオゾンホール

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/

紫外線による遺伝子への影響

オゾン層が破壊されると、紫外線が地表まで降り注ぎ、光による核酸塩基の互

変異性が起こるため、遺伝子に深刻な障害を与える。

N

NN

N

NH H

N

NN

N

NH

H

NN

N

N

NH

H

NN

O

O

H

CH3

NN

N

N

NH

NN

N

O CH3

H

HH

UV

A(アデニン) A'

A T(チミン) C(シトシン)A'(~ G)

正常 読み違え

NN

N

N

O

H

NH2

G(グアニン)

塩基の 大吸収波長:A (260 nm), G (253 nm), C (271 nm), T (267 nm)

DNAの糖RNAの糖

糖、塩基、リン酸によるDNA, RNAの形成

Nucleic Acid

Nucleoside Nucleotide

Ribose Deoxyribose

http://www.chem-station.com/yukitopics/dna.html

水素結合による分子認識

二重らせんの形成糖、塩基、リン酸によるDNAの形成

紫外線による遺伝子への影響

オゾン層が破壊されると、紫外線が地表まで降り注ぎ、

光による核酸塩基の互変異性が起こるため、遺伝子に深刻な障害を与える。

N

NN

N

NH H

N

NN

N

NH

H

NN

N

N

NH

H

NN

O

O

H

CH3

NN

N

N

NH

NN

N

O CH3

H

HH

UV

A(アデニン) A'

A T(チミン) C(シトシン)A'(~ G)

正常 読み違え

NN

N

N

O

H

NH2

G(グアニン)

rhodopsin

cis-trans photoisomerization of retinal

視細胞のメカニズム

cone

rodlight

retinal

キリヤ化学

http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q52.html

レチナールの光異性化が膜タンパク(ロドプシン)

にストレスを与え、膜のイオンチャンネルが開き、

膜電位の変化が起こる。

何故、色が見えるのか

CH2 CH2

π 結合が形成されているため回転できない。

C CH

CH3H3C

H

C CCH3

HH3C

H

活性化障壁

エネルギー

一般的にEa ~ 100 kJ/mol以上の障壁があれば、室温で異性体を単離できる

Ea ~ 250 kJ/mol

エチレン

(π 結合の切断)シス

トランス

二重結合の異性体については「シス」or「トランス」を用いる。

4.2 kJ/mol

シス‐トランス異性体(幾何異性体)

cis (Latin: on this side of)

trans (Latin: over, beyond)

1 kJ/mol = 1.2 × 102 K

= 1.0 × 10-2 eV

π−π*遷移による光吸収共役系が伸びるに従い、小さいエネルギーの光吸収で励起される。

HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital): 高被占軌道

電子の入った軌道のうちで、エネルギーのもっとも高いもの。LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital): 低空軌道

空軌道のうちで、エネルギーのもっとも低いもの。

HOMO

HOMO

LUMO

LUMO

ΔE

ΔEhν

hν = ΔE = ELUMO −

EHOMO を満たす光のみ吸収される。

エチレン

ブタジエン

π軌道の結合次数:1 → 0 π結合が切れ、σ結合の

軸回りの回転が起こる

光誘起シス-トランス転移

11-cis-レチナール all-trans-レチナール

視細胞中での光感知における共役系の働き

NH

X

HX

NH

X

HX

NH

X

CHO

CHO

視細胞中で11-cis-レチナールはタンパク質ロドプシンと結合している。ロドプシンが

光を吸収すると、シス構造を取っている二重結合が回転して全トランス構造になる。

このプロセスが刺激となって、神経伝達を通して脳に光の検出が伝わり、視覚として

関知される。

All-trans-レチナールはATPの働きにより、11-cis体に戻る。

90º

ATP

O

OH

O

HO OO−

O−

O

アルカリ

無色赤色

フェノールフタレインの構造変化

アルカリ性溶液中は分子全体に共役系が拡がるため

HOMOとLUMOのエネルギー間隔が小さくなり可視光(緑色)を吸収するために透過光は赤色に見える。

H+

OH-

OC O

HO

OHOH

HO O

O

OO

H2O

H2O

フェノールフタレイン:pHによって分子構造が変化する仕組み

ルイス構造における共鳴と極限構造

いずれも平面構造

付加反応(1)

付加反応(2)

極限構造による付加反応の理解

2. 液相の反応

不飽和脂肪酸:

代謝して分解されやすい。

飽和脂肪酸:

代謝されにくく、血管にたまりやすい。

二重結合の有無により、分子の反応性が異なる

このような反応性の違いは、脂肪酸の臭素との反応においても顕著に見られる。

不飽和脂肪酸

O

HO

DHA(ドコサヘキサエン酸)

2) 不飽和脂肪酸の臭素化 (実験)

HO

O H

HBr

Br

臭素化

オレイン酸(不飽和脂肪酸)

ステアリン酸(飽和脂肪酸)

臭素溶液

オレイン酸溶液

ン酸溶液

溶媒:四塩化炭素

混合直後 攪拌後(約一分後)

オレイン酸

ン酸

ン酸

オレイン酸

混合前

(実験:小松博士提供)

HO

O

HO

O H H

オレフィンの臭素化の機構

H

HH

H H

HH

BrH Br

BrH

HH

Hトランス付加

Br

Br

H

HH

H H

HH

BrHBr

px , py

pzy

x

z

・・・・

π*

π Br

H

HH

HBr:

H

HH

HBr2

H

Br

H

Br

H

H+

HBrBr2+ +

置換反応ベンゼンの臭素化

オレフィンとは、どこにちがいがあるのだろうか?

H Br

ベンゼンの臭素化の機構

Br HBr HBr H

Br H Br H

HBr

Br H Br

HBr+

付加

置換

ベンゼンの6π電子が特に安定

→芳香族性

Br

Br

BrBr

Br

フェロセンは空気中で安定なオレンジ色の固体である。対称性が良く分子

全体として中性であることから、ベンゼンなどの通常の有機溶媒には可溶

であるが、水には不溶である。 この分子は、 (4n + 2)電子則を満たすよう

に鉄原子から環状ポリエンに電子が移動し、安定化する。

フェロセン

電子を失うと芳香族性を示す分子

S

S S

S S

S S

S

7π 7π

7π 7π 6π

6π 6π

TTF(テトラチアフルバレン)

-2e−

-2e−

+ +

++

環状共役分子のπ分子軌道

*共役とは:不飽和結合と単結合が交互に連なると、π軌道の相互作用による安定化や

電子の非局在化などが起こる。そのような系を共役系と呼ぶ。

95 % 5 %

フロンティア軌道

A Molecular Orbital Theory of Reactivity in Aromatic HydrocarbonsK. Fukui, T. Yonezawa, H. ShinguJournal of Chemical Physics, (1952), Vol. 20, p.722-725.

0.3620 0.138 0.097

0.1930.08

0.387

Naphthalene(無色)

Naphthacene (Pentacene)(赤色)

Anthracene(無色)

0.0670.026

0.1120.2950

π軌道(HOMO)の電子密度分布