-第6学年「体のつくりとはたらき」単元を事例と...

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日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015) ―7― 小学校理科におけるモデルの活用に関する実践的研究 -第 6 学年「体のつくりとはたらき」単元を事例として- Practical study about use of the model in science of an elementary school : As a case of the unit of the 6th grade on the structure and function of a body ○藤本菜菜 A , 四十谷寿子 B , 本多優 C , 甲斐初美 A FUJIMOTO, Nana A , AITANI, Hisako B , HONDA, Yuu C , KAI, Hatsumi A , 福岡教育大学 A , 射水市立小杉小学校 B , 飯塚市立平恒小学校 C Fukuoka University of Education A , Kosugi elementary school B , Hiratsune elementary school C [要約] 本研究では, 6 学年「人の体のつくりと働き」単元における体内の臓器のつくりやはたら きの理解を促すため,立体的人体モデルと,班での組み立て用に改良したそのミニモデル,および,ア ニメションモデルを活用した授業実践を行い,これらのモデルの効果を検証することを目的として, 調査を行った。その結果から,次の 2 点が明らかとなった。1 点目として,呼吸や栄養摂取,排出の学 習よりも先に,血液循環の学習を行ったことで,物質が体内外に各臓器の血管をとおして出入りするこ とをとらえさせることができた。特に,授業後に, 血液循環の重要性を認識できていたことから,各臓 器で血管をとおして物質がやりとりされる様子をイメージさせるためのアニメーションモデルが効果 的に機能したと考えられる。2 点目としては,授業後に主な臓器の配置についての理解が定着していた ことから,立体的人体モデルのミニモデルを用いて,班ごとに各臓器を組み立てさせる活動を取り入れ たことの一定の効果があったと推察される。 [キーワード]小学校理科,モデルの活用,授業実践,教材開発 1.研究目的 小学校学習指導要領において,理科では,子ど もたちに,「実感を伴った理解」を図らせること が目標とされている(文部科学省,2008p.9-10)ここでの実感を伴った理解とは,具体的な体験を 通して形づくられる理解,主体的な問題解決を通 して得られる理解,実際の自然や生活との関係へ の認識を含む理解の 3 つの側面から説明されてい る。しかし,学習対象が体内の臓器のつくりやは たらきである「人の体のつくりと働き」の単元に おいては,呼吸や消化などの具体的な観察・実験 によって得られる情報が限られているため,観 察・実験などの具体的な体験を通して得られる実 感を伴った理解を図ることが困難であると考え られる。また,問題解決の主たる部分を推論によ って補わなければならないため,適切なモデルの 活用を検討していく必要がある。 そこで,本研究においては,体内の臓器のつく りやはたらきの理解を促すために考察された立 体的人体モデル(四十谷,2014)とアニメション モデル(本多,2015)を活用しながら,授業実践を 行い,モデルの有効性について検証していくこと とする。 2.授業構想 1)第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元にお ける教科書の学習展開に関する課題 「人の体のつくりと働き」単元は,呼吸,栄養 摂取,排出,血液循環の 4 つの内容から構成され ている。これらは,ヒトの個体維持の営みのため 4 つの機能として言い換えることができる。ま た,本単元では,これらの機能を実現する構造と して,呼吸に関する主な臓器である肺,栄養摂取 に関する主な臓器である胃,小腸,大腸,肝臓, 排出に関する主な臓器である腎臓,血液循環に関 する主な臓器である心臓が取り扱われている。図

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日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

― 6 ― ― 7 ―

うにならなかった歩き方及びグラフの特徴と

比較していくことで,「グラフの傾き」,「歩き

方」,「時間と距離との関係」を結びつけてノー

トにまとめる児童が見られた(図 9)。このこ

とは,児童が現実事象と数学的表現を関連づけ

ながら「速さ」を捉えていることの証左になる。

図 「速さ」に関する児童の関連づけ

さらに,教師の方で,「5 秒で 5m」であって

も比例にはならないグラフの歩き方を実演し

たことで,児童は,距離と時間とが比例すると

みなすことで,初めて単位量あたりの考えを適

用することができ,「 秒で mすすむ」ことが

導ける点にも気づくことができた。

授業の中盤では,教師は,○くと○けのグラフを

提示し,どちらの歩き方の方が速いか問いかけ

ながら,授業の目標を「速さ,時間,距離の関

係をまとめよう」と設定した。グラフを重ねて

傾きの微妙な違いで判断する児童や公倍数の

考えを用いて距離や時間の一方をそろえる児

童や単位量あたりの考えを用いて判断する児

童などが見られた。授業の最後には,教師が「

秒あたりに何mすすんだ」ことを何と言うのか

を問いかけたところ,児童らは「一定の速さ」

と答えた。さらに,「一定」の意味について問

うと,「 mに 秒」「きれいに分けて」「速さの

平均」という返答があった。児童が平均の速さ

の考えを見出したわけであるが,こうした考え

の背景には,本時の始めに確認した「 mを

秒ずつ歩く動作」や,比例にならないグラフの

教師の実演が鍵となっていた。なお,授業内で

は,速さ,時間,距離の関係の式を扱うことが

できなかったため,次時で扱った。

註 1) 写真のグラフ電卓は,TEXAS INSTRUMENTS社の TI-84 Plus Pocket SE,距離センサーは同社

の CBR2 であり,授業で使用したものと同型で

ある。グラフ電卓に表示される横軸は 0 秒から

9 秒までの時間を示し,縦軸は 0mから 5mま

での距離を示す。

2) 授業では,土田ほか(2010)と同様に,グラ

フ電卓に表示されるグラフの縦軸と横軸のラ

ベルが見えないように設定した。

謝辞 授業実践に当たり,鳴門教育大学の佐伯昭彦准

教授,佐賀大学文化教育学部附属小学校の荒川尚

教諭にご協力を頂いたことを感謝申し上げます。 本研究は,JSPS 科研費 26780509(代表者:

川上 貴)の助成を受けています。

引用・参考文献

廣瀬隆司: 算数教育における「速さ」の概念獲得

過程に関する研究, 日本数学教育学会誌 数学

教育学論究, 89, 9-43, 2007.

日本数学教育学会教育課程委員会検討WG: 学習

指導要領算数・数学科改訂に向けての検討課

題, 日本数学教育学会誌, 96 (11), 10-21, 2014.

川上貴・鐘ヶ江滉一・青山雄太郎・森山誠仁・

大森智史・永淵幸輝: グラフ電卓と距離セン

サーを活用した「速さ」の導入に関する検討―

「速さ」未習の児童の「文脈化」に着目して―, 2015 年度数学教育学会春季年会発表論文集, 69-71, 2015.

文部科学省: 小学校学習指導要領解説―算数編

―, 東洋館出版社, 2008.

文部科学省: 教育課程企画特別部会 論点整理

(案 ), 2015, http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/_icsFiles/afieldfile/2015/09/24/1361110_1.pdf (平成 27 年 10 月 7 日現在)

太田伸也: 第 12章 子どもにもっと考えさせるに

は, 長崎栄三・滝井章 (編著)「よい算数の授業

をつくる」, 146-155, 東洋館出版社, 2007.

佐伯昭彦・土田理・末廣聡・中谷亮子・松嵜昭

雄: 歩く事象の変化とグラフを関連づける表

現力を高めるための実験授業―他者を意識し

た「グラフの伝書」作り―, 日本数学教育学会

誌, 95 (11), 2-10, 2013.

杉山吉茂: 初等科数学科教育学序説, 東洋館出版

社, 2008.

土田理: 探究基盤型理科授業とモデリング―理

論モデルから現実世界を読む― , 日本科学教

育学会第 38 回年会論文集, 27-30, 2014.

土田理・宮崎幸樹・佐伯昭彦・氏家亮子・末廣

聡: グラフ発見学習における小学校児童の実

データ解釈と判断の事例, 日本科学教育学会

研究会研究報告, 25 (2), 11-14, 2010.

小学校理科におけるモデルの活用に関する実践的研究

-第 6学年「体のつくりとはたらき」単元を事例として-

Practical study about use of the model in science of an elementary school : As a case of the unit of the 6th grade on the structure and function of a body

○藤本菜菜 A, 四十谷寿子 B, 本多優 C, 甲斐初美 A

FUJIMOTO, NanaA, AITANI, HisakoB, HONDA, YuuC, KAI, HatsumiA,

福岡教育大学 A , 射水市立小杉小学校 B , 飯塚市立平恒小学校 C

Fukuoka University of EducationA , Kosugi elementary schoolB , Hiratsune elementary schoolC

[要約] 本研究では, 第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元における体内の臓器のつくりやはたら

きの理解を促すため,立体的人体モデルと,班での組み立て用に改良したそのミニモデル,および,ア

ニメ―ションモデルを活用した授業実践を行い,これらのモデルの効果を検証することを目的として,

調査を行った。その結果から,次の 2 点が明らかとなった。1 点目として,呼吸や栄養摂取,排出の学

習よりも先に,血液循環の学習を行ったことで,物質が体内外に各臓器の血管をとおして出入りするこ

とをとらえさせることができた。特に,授業後に, 血液循環の重要性を認識できていたことから,各臓

器で血管をとおして物質がやりとりされる様子をイメージさせるためのアニメーションモデルが効果

的に機能したと考えられる。2 点目としては,授業後に主な臓器の配置についての理解が定着していた

ことから,立体的人体モデルのミニモデルを用いて,班ごとに各臓器を組み立てさせる活動を取り入れ

たことの一定の効果があったと推察される。

[キーワード]小学校理科,モデルの活用,授業実践,教材開発

1.研究目的

小学校学習指導要領において,理科では,子ど

もたちに,「実感を伴った理解」を図らせること

が目標とされている(文部科学省,2008,p.9-10)。

ここでの実感を伴った理解とは,具体的な体験を

通して形づくられる理解,主体的な問題解決を通

して得られる理解,実際の自然や生活との関係へ

の認識を含む理解の 3 つの側面から説明されてい

る。しかし,学習対象が体内の臓器のつくりやは

たらきである「人の体のつくりと働き」の単元に

おいては,呼吸や消化などの具体的な観察・実験

によって得られる情報が限られているため,観

察・実験などの具体的な体験を通して得られる実

感を伴った理解を図ることが困難であると考え

られる。また,問題解決の主たる部分を推論によ

って補わなければならないため,適切なモデルの

活用を検討していく必要がある。

そこで,本研究においては,体内の臓器のつく

りやはたらきの理解を促すために考察された立

体的人体モデル(四十谷,2014)とアニメ―ション

モデル(本多,2015)を活用しながら,授業実践を

行い,モデルの有効性について検証していくこと

とする。

2.授業構想

1)第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元にお

ける教科書の学習展開に関する課題

「人の体のつくりと働き」単元は,呼吸,栄養

摂取,排出,血液循環の 4 つの内容から構成され

ている。これらは,ヒトの個体維持の営みのため

の 4 つの機能として言い換えることができる。ま

た,本単元では,これらの機能を実現する構造と

して,呼吸に関する主な臓器である肺,栄養摂取

に関する主な臓器である胃,小腸,大腸,肝臓,

排出に関する主な臓器である腎臓,血液循環に関

する主な臓器である心臓が取り扱われている。図

日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

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1 は,これらの関係を整理したものである。当然

のことながら,呼吸,栄養摂取,排出は,血液循

環を抜きには,機能することはできない。そこで,

本単元の学習においては,人の体は生きていくた

めに,呼吸や栄養摂取,排出を行っているが,そ

れらが機能するのは血液循環のしくみがあるか

らであるということを理解させることが最も重

要であると考える。

ところで,大日本図書(有馬他,2015),学校図

書(霜田他,2015),教育出版(養老他,2015),東京

書籍(毛利他,2015),啓林館(石浦他,2015),信濃

教育出版(癸生川,2015)の小学校理科の 6 社の教

科書を比較すると,血液循環に関する学習は,呼

吸あるいは,栄養摂取の学習後に取り扱われてい

る。これは,血液循環よりも呼吸や栄養摂取の方

が,生きるために必要な生命活動として,子ども

たちにとっては馴染み深く,それらの機能が容易

に推論できるためであると考えられる。しかしな

がら,生きるためには,呼吸や栄養摂取によって

得られる酸素や栄養が体の隅々に行きわたる必

要性があることを前提としなければ,酸素や栄養

が毛細血管中の血液に取り込まれる必然性を理

解できない。したがって,必然性を持たない「酸

素や栄養は血液に取り込まれるもの」という情報

については,単なる機械的暗記を促すしかなくな

ってしまうと考えられる。このような授業展開で

は,子どもたちに有意味に概念を構築していくよ

うな学習姿勢を保持させられなくなるのではな

いかと危惧される。

2)第 6 学年「人の体のつくりと働き」単元に

おけるモデルを用いた授業の構想

①単元構想の概要

本単元の標準配当時間は,11 時間である(星野,

2015)が,事前・事後テストや単元テストの時間を

勘案し,8 時間で構成した。構想した単元の流れ

と理解のための手立てとなるモデルを整理した

ものが図 2 である。

本単元において,主として理解させたいことは,

血液循環によって,呼吸や栄養摂取,排出が機能

し,それらの機能を実現するための様々な臓器の

構造があるということである。そこで,単元の流

れは,図 2 に示すとおり,生きるために必要な酸

素や栄養をどのように体の隅々に行き渡らせて

いるかという課題設定をしながら,最初に血液循

環を取り扱い,その後,呼吸,栄養摂取,排出の

順に,体内外の物質のやりとりのしくみを取り扱

うものとする。これにより,血管が様々な臓器と

つながっていることを前提に,呼吸,栄養摂取,

排出の学習を進めることが可能となる。また, 呼

吸や栄養摂取の学習の際に,酸素や栄養を血液に

取り込む理由についても容易に理解することが

できると考えられる。

②各授業の具体的構想

児童の学習前の認識調査において,タンポポ,

スギ,カブトムシ,メダカ,カエル,ワニ,アヒ

図 1 単元における機能と構造

心臓

肺 胃 小腸 大腸 肝臓 腎臓

血液循環

呼吸 栄養摂取 排出

機能

構造

図 2 単元の流れと理解のための手立て

日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

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ル,ウサギ,ヒトの 9 つを動物であるかどうかに

ついて回答させると,図 3 に示すような結果にな

った。このことから,30%の児童は,ヒトを動物

と見なしておらず,アヒル,ワニ,カエル,メダ

カ,カブトムシのように,下等な動物になるにつ

れて,動物ではないと認識する児童が増加してい

る。一方で,本単元では,人以外の他の動物の体

のつくりと働きについての考えをもつようにさ

せることも求められていることから(文部科学省,

2008,p.62), 本単元の学習を行うにあたっては,

動物は,動くことのできる生物であるという動物

の定義を確認させておく必要がある。

そこで,見通しの授業では,まず,動物と植物

の分類をさせ,動物を植物とは異なる生物である

ことをとらえさせた後,これらの動物たちに共通

している生きるために必要な行動とその理由を

考えさせるようにする。おそらく児童は,食べ物

を食べることや呼吸することについて挙げると

考えられるため,それに対し,なぜ食べ物を食べ

たりや呼吸をしたりしなければならないのかに

ついて問うことで,「食べなければ力が出ない」

や「頭が働かない」,「苦しくなる」という考えを

引き出すようにしていきたい。その上で,食べた

ものや呼吸をして取り入れたものを脳や手足な

どの体中の隅々まで送り届けるために,体の中は

どのようになっているのだろうかと問うことで,

血液循環の学習へとつなげていくものとする。

さらに,血液循環の授業では,心臓のしくみに

ついて考えさせるために,心拍数と脈拍数の測定

を行う。運動前後の心拍数と脈拍数を測定し,心

拍数と脈拍数が連動して変動することの理由を

考察させることによって,運動を行うと体中に酸

素や栄養などが含まれる血液を送らなければな

らないという考えを引き出し,心臓は体中に血液

を送るはたらきをしていることについておさえ

るものとする。

次に,呼吸の授業では,吸う前の空気と吸った

後の空気の酸素と二酸化炭素の濃度を調べる実

験をとおして,呼吸は,酸素を血液に取り込み,

いらなくなった二酸化炭素を体の外にはき出し

ていることを推論させたい。特に,肺のつくりの

説明を行うときには酸素は肺からどこへ取り込

まれるのか,また,いらなくなった二酸化炭素は

肺までどのように運ばれてくるのかと問うこと

で,血液との関係を考えさせるものとする。ここ

では,肺におけるガス交換のアニメーションモデ

ル(本多,2015)を用いて説明を行う。

また,栄養摂取の授業では,だ液によるでんぷ

んの分解実験をとおして,だ液などの消化液には

でんぷんを別の物に変えるはたらきがあること

をとらえさせるものとする。また,小腸で取り込

まれた栄養についてもどのようにして体中に運

んでいるかを推論させることで,血液循環との関

係を意識させる。その後,食べ物が口から取り込

まれて,便として出てくるまでの過程については,

消化吸収のアニメーションモデル(本多,2015)を

用いて説明する。

そして,排出の授業においては,体の中ででき

た不要なものは血液中に存在し続けるのだろう

かという問いから,尿や汗に着目させ,便とは異

なる尿のでき方について,血液循環と関連づけて

とらえさせたい。その際,腎臓での不要物排出の

アニメーションモデル(本多,2015)を用いて説明

を行う。

最後に,まとめの授業では,図 4 に示す四十谷

考案の立体的人体モデル(四十谷,2015)と,その

ミニモデル(図 5)を用いて,臓器の位置関係や血管

による臓器間のつながりについて話し合わせな

がら,組み立てさせ,描画絵を用いてまとめさせ

る活動を行わせるものとする。ちなみに,ミニモ

デルは,班で組み立て活動を行うことを目的とし

図 3 動物の分類

0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%

100%

動物である 分からない 動物でない

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て,四十谷のモデルを元に,1/8 スケールにして

作成したものであり,1体あたり,およそ 1,000

円前後の材料費で作成可能である。

3.調査の実際

1)調査時期および調査対象

授業実践は,2015 年 5 月中旬から 6 月中旬まで

の期間で,F 市内の小学校,第 6 学年 4 クラスを

対象として行った。

2)調査概要および分析方法

体内の臓器のつくりやはたらきの理解を促す

ために考察された立体的人体モデル(四十谷,

2014)と,班での組み立て用に改良したそのミニモ

デル,および,アニメ―ションモデル(本多,2015)

を活用した授業実践の成果を明らかにするため

に,授業前後に,図 6 に示すような記述式の調査

を行った。図 6 にあるように,上段の調査 1 は,

ヒトの体の外枠が描かれており,体の中の様子を

絵や文章で自由にかかせるようにさせた。また,

下段の調査 2 は,体の中のはたらきについて文章

で自由に書くように指示した。調査時間は,調査

1,2 を合わせて 15 分である。

分析の方法として,まず,体の中の様子をかか

せる調査 1 では,血液循環,呼吸,栄養摂取,排

出の 4 つに関係する心臓,血管,肺,食道,胃,

小腸,大腸,肛門,肝臓,腎臓,ぼうこうなどの

臓器を描画によって位置がわかる形で名称を記

述しているものをカウントした。描画のみの場合

は,位置や数,臓器間のつながりなどの表現から,

明らかに特定の臓器を示していると判断される

もののみをカウントした。次に,体の中のはたら

きについて文章で書かせる調査 2 では,血液循環,

呼吸,栄養摂取,排出の機能に関する,血液循環,

拍動,血流,呼吸,ガス交換,消化,吸収,貯蓄,

排便,排尿の 10 個の観点に関する記述をカウン

トした。分析対象は,授業前後の調査を受けた 4

クラス 141 名である。

3)調査結果および考察

まず,図 7 は,調査 1 の結果を示したものであ

る。図 7 のグラフにあるように,授業後には,血

管,食道,肛門を除く,心臓,肺,胃,小腸,大

腸,肝臓,腎臓,ぼうこうのような主な臓器につ

いては,少なくとも 60%以上の児童が,表現する

ことができている。授業前後で比較すると,小腸,

大腸,肝臓,腎臓,ぼうこうについて記述できる

児童が大幅に増加していることがわかる。また,

児童の回答例を示したものが,図8と図9 である。

図4 四十谷考案のモデル

(左:内臓諸器官,

右:血液循環有)

図5 班活動用のミニモデル

(左:内臓諸器官,

右:血液循環有)

図 7 体の中の様子の調査結果

0

20

40

60

80

100

120

140(人)

薄い色…授業前

濃い色…授業後

図 6 調査用紙

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それぞれ,左は授業前,右は授業後に行った調査

の結果である。図 8,図 9 に示すように,どちら

の児童も今回学習した主な臓器をすべて描くこ

とができている。特に,図 8 の児童は,心臓と他

の臓器とのかかわりを表現しており,図 9 の児童

は,心臓から各臓器へとつながる血管を 2 本表現

していることから,血液循環を理解していると読

み取れる。

しかし,このように血管を心臓と各臓器をつな

ぐ形ですべて記載できている児童は,ごく少数で

あることから,血管については,色を変えて表現

させるなどの調査の工夫を行うことで,潜在的に

理解できている児童をカウントできるのではな

いかと考えられる。一方で,自由記述式というこ

のような難易度の高い表現を要求しているにも

かかわらず,血管,食道,肛門を除く主な臓器を

少なくとも 60%以上の児童が表現できているこ

とを考えると,授業実践の一定の効果があったも

のと推察される。特に,子どもの表現は,ミニモ

デルの配置に模したような表現が多く見られた

ことからも,組み立て式の立体的な人体モデルを

活用した効果があったのではないかと考えられ

る。

また,図 10 は,調査 2 の結果を示したもので

ある。児童の表現の分析からは,最も重要な機能

を中心に記述している傾向が見られたことから,

図 10 のグラフにあるように,血液循環の機能に

関する記述が比較的多いことがわかる。特に,酸

素や栄養を体内に行き渡らせる血流や拍動の機

能を記述している児童が多いことから,血液循環

に関する機能の重要度を認識している様子が見

て取れる。一方,調査時間の関係から,児童が調

査 1 に時間を取り過ぎ,調査 2 の回答が途中であ

る者も多かったことから,結果的に,呼吸,栄養

摂取,排出の機能に関する記述数が少なくなって

しまっている。つまり,児童に,考えられる多く

のはたらきを記述する

ことを求めなかったた

め,血液循環に関する機

能のみを記述している

児童が他のはたらきに

ついて理解しているの

かどうかを,確かめるこ

とができなかった。自由

記述式の調査の限界で

あると考えられる。

図 10 体の中のはたらきの調査結果

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100(人)

薄い色…授業前

濃い色…授業後

図 9 児童の回答例(左:授業前,右:授業後)

図 8 児童の回答例(左:授業前,右:授業後)

日本科学教育学会研究会研究報告  Vol. 30 No. 2(2015)

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4.全体の考察と今後の課題

本研究では, 第 6 学年「人の体のつくりと働き」

単元における体内の臓器のつくりやはたらきの

理解を促すため,立体的人体モデルと,班での組

み立て用に改良したそのミニモデル,および,ア

ニメ―ションモデルを活用した授業実践を行い,

これらのモデルの効果を検証することを目的と

して,調査を行った。その結果から,次の 2 点が

明らかとなった。

まず,1 点目として,呼吸や栄養摂取,排出の

学習よりも先に,血液循環の学習を行ったことで,

物質が体内外に各臓器の血管をとおして出入り

することをとらえさせることができた。特に,授

業後に, 血液循環の重要性を認識できていたこと

から,各臓器で血管をとおして物質がやりとりさ

れる様子をイメージさせるためのアニメーショ

ンモデルが効果的に機能したと考えられる。

2 点目としては,授業後に主な臓器の配置につ

いての理解が定着していたことから,立体的人体

モデルのミニモデルを用いて,班ごとに各臓器を

組み立てさせる活動を取り入れたことの一定の

効果があったと推察される。特にこのミニモデル

は,呼吸器系,消化吸収系,排出系のそれぞれの

パーツを 1 つずつ配置していくことができるため,

それぞれの構造と機能がリンクした形で理解で

きたのではないかと考えられる。しかし,心臓か

ら数本の血管が出ている血液循環系の組み立て

については,血管の長さで,貼りつけるべき臓器

を判断させることを想定していたが,児童には,

難易度が高かったようであった。そこで,血管と

臓器の各貼りつけ箇所には,番号をつけておいた

り,血管に貼りつける臓器の名前を書いておいた

りする工夫などを行う必要がある。児童が自分た

ちで貼りつけられるようになってから,このよう

な手立てを減らしていくことで,血管と臓器のつ

ながりを意識していくことができるのではない

かと考える。

今後は,さらに,モデルを改良し,実践成果を

積み重ねていきたい。

引用及び参考文献

四十谷寿子:小学校理科の生命概念構築に関する

基礎的研究,福岡教育大学理科教育教室卒業

論文, 2014

有馬朗人:新版たのしい理科 6 年,pp.36-57,大

日本図書,2015

石浦章一他:わくわく理科 6,pp.22-41,啓林館,

2015

癸生川武次:楽しい理科 6 年,pp.20-39,信濃教

育出版,2015

霜田浩一他:みんなと学ぶ小学校理科 6 年,

pp.28-46,学校図書,2015

星野昌治他:新版たのしい理科 6 年教師用指導書

朱書編,pp.44-67,大日本図書,2015

本多優:生命概念構築における効果的なモデルの

活用に関する研究―第 6 学年「人の体のつく

りと働き」単元に着目して―,福岡教育大学

理科教育教室卒業論文,2015

毛利衛他:新編新しい理科 6 年,pp.28-47,東京

書籍,2015

文部科学省:小学校学習指導要領解説理科編,大

日本図書,2008

養老孟司他:未来をひらく小学校理科 6,pp.22-49,

教育出版,2015