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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) シラバス 00-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
この講義について配布日 : 2016年 9月 26日 Version : 1.1
担当教員: 川平 友規(Kawahira, Tomoki;理学院数学系・数学コース)
担当TA: 鈴木 悠(Suzuki, Haruka;理学院数学コース)
講義ウェブサイト:http://www.math.titech.ac.jp/~kawahira/courses/16W-kaiseki.html
配布されたプリントが pdf形式でダウンロードできます.また,毎週の進捗状況についてコメントしていきます.
講義の目的: ベクトル解析をできるだけ数学的に厳密に解説します.
講義の構成: 本講義は数学系 2年生を対象とした演習付き講義科目です.形式的には第 3クォーターに開講される「解析学概論第三」と第 4クォーターに開講される「解析学概論第四」に分かれており,成績も別々に評価(それぞれ 2単位)しますが,内容的には「第三」と「第四」ふたつを合わせてひとつのまとまった講義・演習となるよう構成されています 1.
講義計画(シラバスより改変):
第 3 Q 解析学概論第三の講義部分9月 26日 ベクトルの内積・外積10月 3日 多変数・ベクトル値関数の微分10月 17日 勾配ベクトル場と線積分10月 24日 ベクトル場とグリーンの定理10月 31日 曲面のパラメーター表示11月 7日 面積分11月 14日 ベクトル場の回転と発散11月 21日 筆記試験第 4 Q 解析学概論第四の講義部分12月 5日 回転とストークスの定理12月 12日 ストークスの定理の証明12月 19日 発散とガウスの発散定理12月 26日 発散定理の証明1月 16日 微分形式入門 1
1月 23日 微分形式入門 2(外微分)1月 30日 微分形式入門 2(ストークスの定理)2月 6日 筆記試験
教科書および参考書:教科書は指定しませんが,教科書代わりの講義プリントを毎回配布します.参考書として以下の本をあげておきます.
• 清水勇二,『基礎と応用 ベクトル解析』(サイエンス社)• 矢野健太郎・石原繁,『ベクトル解析』(裳華房)• 杉浦光夫,『解析入門 II』 (東京大学出版会)• スピヴァック,『多変数の解析学』(東京図書)
1ただし,平成 26年度以前に入学した学生はこれらの 2科目を旧カリキュラムの「解析概論第二」および「解析学演習 A第二」として受講してください.要相談.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) シラバス 00-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
成績評価の方法: 解析学概論第三・第四ともに,講義と演習をそれぞれ独立に評価し,それらの合計点によって評価します.講義部分については,次のように成績を評価します:
• ほぼ毎週のレポート課題を 70点満点,筆記試験を 30点満点で評価する.
• 1クォーター中,レポートを 3回以上出さなかった場合,筆記試験を受験しなかった場合はそれぞれ単位取得を辞退したものとみなす.
レポートの締め切りと提出様式: レポート問題と提出締め切りは毎週配布するプリントで指定します 2.提出場所は講義中に指示します. レポートは必ずA4 ルーズリーフもしくはA4 レポート用紙を使用し,右図のような表紙をつけてください.また,必ず左上をホチキス等でとめてください. 受講者同士で協力し合って解答してもかまいませんし,それによる減点はありません.ただし,かならず協力者の名前も明記するようにしてください.(協力者名がなく,ただの書き写しとみなされるレポートは減点します.) レポートは採点して返却します.返却が済むまで,成績への加点の対象とはしないので注意してください.(返却されたレポートは,成績が確定するまで手元に保管しておくことをおすすめします.)質問受付: 講義終了後,その場で質問を受け付けます.それ以外の時間に質問したい場合はメール等でご相談ください.(もちろん,授業中の質問は大歓迎です.)院生のみなさんによる数学相談室(月・火・木・金の 16:45~18:45,本館 1階 H113/114講義室)もぜひ活用しましょう.
よく使う記号など:数の集合(1) C: 複素数全体 (2) R: 実数全体 (3) Q: 有理数全体(4) Z: 整数全体 (5) N: 自然数全体 (6) ∅: 空集合
ギリシャ文字(1) α: アルファ (2) β: ベータ (3) γ,Γ: ガンマ (4) δ,∆: デルタ (5) ϵ: イプシロン(6) ζ: ゼータ (7) η: エータ (8) θ,Θ: シータ (9) ι: イオタ (10) κ: カッパ(11) λ,Λ: ラムダ (12) µ: ミュー (13) ν: ニュー (14) ξ,Ξ: クシー (15) o: オミクロン(16) π,Π: パイ (17) ρ: ロー (18) σ,Σ: シグマ (19) τ : タウ (20) υ,Υ: ウプシロン(21) ϕ,Φ: ファイ (22) χ: カイ (23) ψ,Ψ: プサイ (24) ω,Ω: オメガ
その他
(1) ≤ と ≦,≥ と ≧,はそれぞれ同じ意味.
(2) A := B と書いたら A を B で定義する,という意味.たとえば e := limn→∞
(1 +
1
n
)n
.
(3) (文章 1):⇐⇒ (文章 2) と書いたら,(文章 1)の意味は(文章 2)であることと定義する,という意味.たとえば「数列 an が上に有界 :⇐⇒ ある実数 M が存在して,すべての自然数 n に対し an ≤M.」
※この講義プリントは小森靖さん・坂内健一さん作成のスタイルファイルを使用しています.2プリントは講義 web page上にもアップロードされますが,講義日から 1–2日遅れることもあります.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 01-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ベクトルと内積・外積 (9/26)配布日 : 2016年 9月 26日 Version : 1.2
ベクトル解析とは. 「ベクトル解析」とは,曲線,曲面などの定量的な性質を「ベクトル」を用いて「解析」する理論である.
ベクトルとは. 高校で学んだように,「ベクトル」とは「向きと長さを持った量」と解釈できる 1.たとえば xyz空間内に 2点 A と B をとり,2点間の距離を測ると「長さ AB」という量(負で
ない実数)が定まる.同様に,A の座標 (a1, a2, a3) と Bの座標 (b1, b2, b3) の差をとると「ベクトル −−→
AB = (b1 − a1, b2 − a2, b3 − a3)」というベクトル量が定まる.これらはともに空間内の点A と B から定まる計算可能な「量」である 2.「ベクトル解析」では,空間内の点や図形からそのような「量」を抽出し,その関係を微分積
分のアイディアで解析していく.
前期の復習:n次元ユークリッド空間と内積高次元のベクトル空間としてもっとも基本的な「ユークリッド空間」の定義を思い出しておこう.
• n を自然数とし,n 個の実数を並べたもの (a1, a2, · · · , an) を n次元数ベクトルもしくは単にベクトル (vector)とよぶ 3.また,その全体からなる集合
(a1, a2, . . . , an) | ai ∈ R, ∀ i = 1, 2, · · · , n
を n次元ユークリッド空間 (n dimensional Euclidean space,もしくは n次元数空間,n次元数ベクトル空間,n dimensional coordinate space)とよび,Rn で表す.
• R1,R2,R3 はそれぞれ実数の集合 R(数直線),xy,xyz空間と同一視される.
• Rnの元 (0, 0, . . . , 0)をゼロベクトルとよび,−→0 と表す.また,n個のベクトル (1, 0, . . . , 0), (0, 1, . . . , 0),
. . . , (0, 0, . . . , 1) をそれぞれ −→e1,
−→e2, . . . ,
−→en と表し,これらをまとめて Rn の標準基底 (canonical
basis)とよぶ.
•−→a = (a1, · · · , an),
−→b = (b1, · · · , bn) を Rn の元,tを実数とするとき,その和 (sum)を
−→a +
−→b := (a1 + b1, · · · , an + bn),
実数倍 (multiple of a real number) を
t−→a := (ta1, · · · , tan)
と定義する.
•−→a と −→
b の内積 (inner product)を−→a ·
−→b = a1b1 + a2b2 + · · · + anbn
で定義する.• ベクトル −→
a の長さ (modulus)(もしくはノルム (norm))を次で定める∥∥−→a ∥∥ :=√a21 + a2
2 + · · · + a2n =
√−→a ·
−→a
また,Rn 内の 2点 −→a ,
−→b の距離 (distance) (もしくはユークリッド距離 (Euclidean distance))は∥∥−→a −
−→b∥∥ で与えられる.
1厳密には,「『ベクトル』とは『ベクトル空間』の元である」と定義する. すなわち,私たちにとって「向きと長さを持った量」にみえるものを,「ベクトル空間」とよばれる代数的構造をもった集合の「元」として表現するのである.
2一方で,ベクトル −→a = (a1, a2, a3) のことを点 (a1, a2, a3) とよぶこともある.いわゆる「位置ベクトル」の考え
方である.これは,たとえば数(量)としての√2 に数直線上の点としての別の性質を付与する考え方と同じである.
3縦ベクトルと横ベクトルの区別はしないが,必要に応じて n× 1 行列もしくは 1× n 行列と解釈することもある.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 01-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
• 内積は次のシュワルツの不等式 (the Schwarz inequality)を満たす:
|−→a ·−→b | ≤
∥∥−→a ∥∥∥∥−→b ∥∥ すなわち (n∑
i=1
ai bi
)2
≤(
n∑i=1
ai2
)(n∑
i=1
bi2
). (1.1)
•−→a と −→
b がともに −→0 = (0, 0, · · · , 0) でないとき,
cos θ =
−→a ·
−→b∥∥−→a ∥∥∥∥−→b ∥∥
を満たす θ ∈ [0, π] を−→a と −→
b のなす角(角度)とよぶ.
• θ = π/2 のとき,−→a と −→
b は垂直であるといい,−→a ⊥
−→b と表す.また,θ = 0 あるいは π のとき,
−→a と −→
b は平行であるといい,−→a //
−→b と表す.
• 任意の −→a ,
−→b ∈ Rn に対し,次の三角不等式が成り立つ:∥∥−→a ∥∥− ∥∥−→b ∥∥ ≤
∥∥−→a +−→b∥∥ ≤
∥∥−→a ∥∥+ ∥∥−→b ∥∥ (1.2)
3次元ベクトルの外積
以下ではおもに 3次元ユークリッド空間 R3 を考える.3次元ベクトルには次の「外積」が定義される 4:
定義 (外積)−→a = (a1, a2, a3),
−→b = (b1, b2, b3) ∈ R3 に対し,3次元ベクトル
−→a ×
−→b := (a2b3 − a3b2, a3b1 − a1b3, a1b2 − a2b1)
を −→a と −→
b の外積 (outer product)という.
外積は次のような性質をもつ演算である:
命題 1.1 (外積の性質) k を実数,−→a ,
−→b ,
−→c ∈ R3 とするとき,以下が成り立つ:
(1)−→a ×
−→b = −
−→b ×
−→a ,とくに −→
a ×−→a =
−→0 .
(2)−→a × (
−→b +
−→c ) =
−→a ×
−→b +
−→a ×
−→c .
(3) (−→a +
−→b ) × −→
c =−→a × −→
c +−→b × −→
c .
(4) (k−→a ) ×
−→b = k(
−→a ×
−→b ) =
−→a × (k
−→b ).
(5)−→a · (−→a ×
−→b ) = 0 =
−→b · (−→a ×
−→b ).
証明はレポート(問題 1-2)としよう.さらに,次のような幾何学的な性質ももつ:
4覚え方.外積は高校時代に学んだ人も多いだろう.いろいろと覚え方があるが,ここでは行列式を用いた次の式を紹介する:
−→a ×
−→b =
−→e1
∣∣∣∣a2 a3
b2 b3
∣∣∣∣+−→e2
∣∣∣∣a3 a1
b3 b1
∣∣∣∣+−→e3
∣∣∣∣a1 a2
b1 b2
∣∣∣∣ “ = ”
∣∣∣∣∣∣−→e1
−→e2
−→e3
a1 a2 a3
b1 b2 b3
∣∣∣∣∣∣最後の式は 3次行列式の成分に強引に標準基底を入れこんだものだが,余因子展開の式とちゃんとつじつまが合っていて面白い.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 01-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
命題 1.2 (外積の幾何学的性質)−→0 でないベクトル −→
a と −→b のなす角度を θ (0 ≤ θ ≤
π) とする.このとき,以下が成り立つ:
(1)∥∥−→a ×
−→b∥∥ =
∥∥−→a ∥∥∥∥−→b ∥∥ sin θ. とくに,この値は−→0 ,−→
a ,−→b ,
−→a +
−→b を頂点にも
つ平行四辺形の面積に等しい.
(2) ベクトル −→a と −→
b が平行 ⇐⇒ −→a ×
−→b =
−→0 .
(3) ベクトル −→a と −→
b が平行でないとき,すなわち−→a ×
−→b = −→
0 のとき,外積 −→a ×
−→b
は −→a と −→
b の両方に垂直.
証明. (1) :∥∥−→a ×−→b∥∥2
=(a2b3 − a3b2)2 + (a3b1 − a1b3)
2 + (a1b2 − a2b1)2
=(a21 + a22 + a23)(b21 + b22 + b23)− (a1b1 + a2b2 + a3b3)
2
=∥∥−→a ∥∥2∥∥−→b ∥∥2 − (
−→a ·
−→b )2
=∥∥−→a ∥∥2∥∥−→b ∥∥2(1− (
−→a ·
−→b )2∥∥−→a ∥∥2∥∥−→b ∥∥2
)
=∥∥−→a ∥∥2∥∥−→b ∥∥2(1− cos2 θ)
=∥∥−→a ∥∥2∥∥−→b ∥∥2 sin2 θ.
(2) (1) より明らか.(3) 命題 1.1の (5)より明らか.
直線と平面
空間内の「直線」と「平面」を定義しておく.
定義 (直線と平面)−→a ∈ R3 を任意のベクトルとする.
• −→v ∈ R3,
−→v = −→
0 とするとき,−→x =
−→a + t
−→v (t ∈ R)
の形で表されるベクトル −→x の全体を−→
a を通り −→v を方向ベクトルとする直線 (line)
とよぶ.
• 2つのベクトル−→v1 と
−→v2 が 1次独立であるとは,−→
v1 と−→v2 がともに
−→0 ではなく,
平行でもないことをいう.
• 1次独立なベクトル−→v1,
−→v2 ∈ R3 に対し,
−→x =
−→a + s
−→v1 + t
−→v2 (s, t ∈ R) (1.3)
の形で表されるベクトル全体を−→a を通り −→
v1 と−→v2 で張られる平面 (plane)とよぶ.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 01-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
注意.• 直線には方向ベクトル −→
v を 1単位,−→a を原点とする「目盛り」をうつことができる.これにより,
その直線上の新たな座標軸「t軸」が考えられる.同様に,平面にも −→a を原点とする「目盛り」(or
メッシュ,or 格子)を定めることができる.これにより,その平面上の新たな「st座標系」が考えられる.(たとえば,−→
x =−→a −
−→v1 +
√2−→v2 は st座標 (−1,
√2) をもつ.)
• −→v1 と
−→v2 が一次独立であることは
−→v1 ×
−→v2 = −→
0 と同値.また,線形代数の意味での 1次独立性とも同値.
命題 1.3−→a ∈ R3,
−→n ∈ R3 −
−→0に対し,集合−→
x ∈ R3 | −→n · (−→x − −→a ) = 0
は平面となる.逆に,R3 内の任意の平面はこの形の集合として表される.
証明はレポート(問題 1-3)としよう.
レポート問題
締め切りは 10月 3日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 1-1. (距離の三角不等式)−→a ,
−→b ∈ Rn の距離を d(
−→a ,
−→b ) :=
∥∥−→a −−→b∥∥ と定める.このと
き,以下の (D1)-(D3)を満たすことを示せ(三角不等式 式 (1.2)は用いてもよい):
(D1) d(−→a ,
−→b ) ≥ 0.さらに,d(−→a ,−→b ) = 0 ⇐⇒ −→
a =−→b が成り立つ.
(D2) d(−→a ,
−→b ) = d(
−→b ,
−→a ).
(D3)−→c ∈ Rn のとき,d(−→a ,−→b ) ≤ d(
−→a ,
−→c ) + d(
−→c ,
−→b ).
問題 1-2. (外積の基本性質) 命題 1.1を示せ.(Hint: 成分計算を地道にやる.)
問題 1-3. (内積と平面) 命題 1.3を示せ.(Hint: 条件 −→n · (−→x −−→
a ) = 0 から式 (1.3)のような,1次独立なベクトル −→
v1,−→v2 を具体的にもとめる.逆は
−→n =
−→v1 ×
−→v2 とすればよい.)
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 02-1
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ベクトル値関数の微分と曲線 (10/3)配布日 : 2016年 10月 3日 Version : 1.1
多変数関数の微分(前期の復習)
•−→x = (x1, . . . , xn) ∈ Rn をベクトル変数とする関数 f : Rn → R,
−→x = (x1, . . . , xn) 7→ f(
−→x ) =
f(x1, . . . , xn) を考える 1.実数 k に対し,集合
Ef(k) :=−→x ∈ Rn | f(
−→x ) = k
を関数 f の高さ k の等位面 (contour) とよぶ.
• 関数 f : Rn → R が連続 (continuous)であるとは,すべての −→a ∈ Rn に対し,「−→
x →−→a のとき
f(−→x ) → f(
−→a )」 が成り立つことをいう.
• 関数 f : Rn → R が−→a ∈ Rn において全微分可能 (totally differentiable) であるとは,あるベクトル
−→A ∈ Rn が存在し,−→
x →−→a のとき(すなわち
∥∥−→x −−→a∥∥→ 0 のとき)
f(−→x ) = f(
−→a ) +
−→A · (
−→x −
−→a ) + o(
∥∥−→x −−→a∥∥) (2.1)
が成り立つことをいう.このとき,−→A を関数 f の −→
a における勾配ベクトル (gradient (vector)) 2
とよび,∇f(−→a ) もしくは grad f(
−→a ) と表す.
• k を自然数とする.関数 f : Rn → R が Ck 級であるとは,k 階までのすべての偏導関数が存在し,それらがすべて連続であることをいう 3.関数 f : Rn → R が C∞級であるとは,すべての自然数 kに対して Ck 級であることをいう.
• 例 1(C1 級関数).関数 f : Rn → R が C1 級であるとは,すべての −→a ∈ Rn と j = 1, 2, . . . , n に
対して ∂f
∂xj(−→a ) が存在し,−→
a の関数として連続だということである.このとき,以下が成り立つ:
定理 2.1 関数 f が C1級であればすべて −→a ∈ Rn において全微分可能であり,そこでの勾配ベ
クトルは次を満たす:
∇f(−→a ) =
(∂f
∂x1
(−→a ),
∂f
∂x2
(−→a ), . . . ,
∂f
∂xn
(−→a )
).
• 次にベクトル値関数 f : Rn → Rm を考える.−→x = (x1, . . . , xn) を
−→y = (y1, . . . , ym) に対応さ
せるものであり,各 i = 1, 2, . . . ,m に対し yi = fi(−→x ) = fi(x1, . . . , xn) と表されるものとする.
k = 1, 2, · · · ,∞のとき,ベクトル値関数 f : Rn → Rm が Ck 級であるとは,これらの fi(−→x ) がす
べて Ck 級であることとする.• 例 2(平面)ベクトル値関数 f : R2 → R3 を
R2 ∋(st
)7→
s+ t+ 1s
−t− 1
∈ R3
と定めるとき,これは C∞ 級であり,平面のパラメーター表示になっている.実際,s+ t+ 1s
−t− 1
=
10−1
+ s
110
+ t
10−1
であり,ベクトル (1, 1, 0) と (1, 0,−1) は 1次独立である.
1以下の定義や定理は関数の定義域を Rn の開集合や閉領域に変えても成立する.たとえば関数 f(x, y, z) = 1/(xyz)は R3 全体では定義できないが,領域 (x, y, z) | x > 0, y > 0, z > 0 に制限すれば問題なく定義できる.以下の議論も必要に応じて関数の定義域を制限して議論すればよい.
2単に微分 (derivative)とよばれることもある.3f が連続であるとき,C0 級であるともいう.f そのものを 0 階の偏導関数とみなしているのである.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 02-2
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• ベクトル値関数 f : Rn → Rm が C1 級であるとき,各点 −→a ∈ Rn 上で勾配ベクトル ∇fi(
−→a ) =(
∂fi∂x1
(−→a ),
∂fi∂x2
(−→a ), . . . ,
∂fi∂xn
(−→a )
). が定まる.これらを i = 1 から m まで順にタテにならべた
m× n行列 ∇f1(
−→a )
...
∇fm(−→a )
=
∂f1∂x1
(−→a ) · · · ∂f1
∂xn(−→a )
.... . .
...∂fm∂x1
(−→a ) · · · ∂fm
∂xn(−→a )
を f の −→
a におけるヤコビ行列 (Jacobian matrix)もしくは微分 (derivaitve)とよび,Df(−→a )と表す.この行列はベクトル値関数の「微分係数」に相当するものである.実際,各 fi(
−→x ) の全微分の式
fi(−→x ) = fi(
−→a ) +∇fi(
−→a ) · (
−→x −
−→a ) + [誤差]
を縦に並べることで m× 1 行列(縦ベクトル)に関する等式
f(−→x ) = f(
−→a ) +Df(
−→a )(
−→x −
−→a ) + [誤差]
が成り立つことがからわかる.ただし,ベクトル −→x − −→
a は n × 1行列(縦ベクトル)とみなしており,Df(−→a )(
−→x −
−→a ) の部分は行列の積である.
曲線
定義 (曲線) [a, b] ∈ R を閉区間,n を自然数とする.
• 連続なベクトル値関数 −→x : [a, b] → Rn のことを,Rn 内の曲線 (curve)という.そ
のような曲線を記号 C で表すとき,
C :−→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b)
と表す.また,t をこの曲線のパラメーター (parameter),もしくは時刻 (time)とよぶ.また,その軌跡にあたる集合−→
x (t) | a ≤ t ≤ b
のことも(集合としての)曲線とよぶ.
注意. この「曲線」の定義は条件が少なすぎてよくない.たとえば正方形の任意の点を通る「曲線」が存在する.(例えばペアノ曲線.)すなわち,正方形は(集合としての)「曲線」となりうる.
例 3(空間内の曲線). ベクトル値関数 −→x : [a, b] → R3 を成分で
−→x =
−→x (t) = (x1(t), x2(t), x3(t)) (a ≤ t ≤ b)
表すとき,各 xi(t) が連続であればこれは R3内の曲線を定める.
例 4. −1 ≤ t ≤ 1 に対して定まるベクトル値関数−→x1(t) = (t, t, t),−→
x2(t) = (t3, t3, t3),−→x3(t) =
(−t,−t,−t) は関数としてはそれぞれ異なるが,集合としては同じ曲線(±(1, 1, 1) を結ぶ線分)を定める.このように,ひとつの「曲線」にも様々なパラメーター付けが可能であることに注意しよう.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 02-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
曲線と向き. 曲線 −→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b) が区間 [a′, b′] ⊂ [a, b] 上で 1対 1関数であるとき,(部
分的な)曲線 −→x =
−→x (t) (a′ ≤ t ≤ b′) にはパラメーター t の増加方向に対応した「向き」を考
えることができる.例えば,−→x1(t) と
−→x2(t) は同じ向きをもつが,
−→x3(t) は異なる.あとで「曲線
に沿った積分」(線積分)を考えるが,その際は集合としては同じ曲線であっても,異なる向きをもつ曲線同士は区別する 4.
定義 (速度ベクトルと滑らか曲線) C :−→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b) を Rn内の曲線とする.
• ある t0 ∈ [a, b] に対し,極限
lim[a,b]∋t→t0
−→x (t) −
−→x (t0)
t − t0∈ Rn
が存在するとき,これを曲線 C の t0 における速度ベクトル (velocity) とよび,d−→x
dt(t0) と表す.
• 曲線 C が滑らか (smooth)であるとは,−→x がベクトル値関数として C1級であり
(したがって速度ベクトルはすべての t ∈ [a, b] で存在し連続に変化する),かつ速度ベクトルがゼロベクトルにならないことをいう.
• 曲線 C が区分的に滑らか (piecewise smooth) であるとは,有限個の実数 a = t0 <
t1 < · · · < tN = b を選んで,各 −→x : [tj , tj+1] → Rn が滑らかな曲線になるように
できることをいう.
注意(端点での速度). 曲線 C :−→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b) の始点 −→
x (a) および終点 −→x (b) での速
度ベクトルは,片側極限
limt→a+0
−→x (t) − −→
x (a)
t − aおよび lim
t→b−0
−→x (t) − −→
x (b)
t − b
によって定義する.
例5(R3 内の曲線).R3内の曲線 C が関数ベクトル値関数−→x (t) = (x1(t), x2(t), x3(t)) (a ≤ t ≤ b)
として成分で与えられているとき,速度ベクトルは d−→x
dt(t) =
(dx1dt
(t),dx2dt
(t),dx3dt
(t)
)で与えら
れる.とくに,−→x (t) が C1級であれば,速度ベクトル d
−→x
dt(t) は連続なベクトル値関数である.
例 6. 例 4の−→x1(t) は滑らかな曲線だが,
−→x2(t) は滑らかな曲線ではない.後者はパラメーター
のとり方が悪いのである.集合としては同じ曲線でも,このような差が生じてしまうことに注意しよう.
注意(速度ベクトルと接線). 「滑らかな曲線」の定義において,「速度ベクトルがゼロベクトルにならない」ことは重要である.たとえば,−→
y1(t) = (t, |t|, 0) (−1 ≤ t ≤ 1) はかど角をもつ滑らかで
ない曲線だが,C1級関数−→y2(t) = (t3, |t3|, 0) (−1 ≤ t ≤ 1) によってパラメーター付けされる.
一般に,曲線C :−→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b) が t = t0 で
−→v :=
d−→x
dt(t0) =
−→0 を満たすとき,t ≈ t0
4新幹線でいうと,「のぞみ」と「こだま」の区別はしないが,「上り」と「下り」は区別する.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 02-4
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での近似式−→x (t) ≈ −→
x (t0) +−→v (t− t0)
が成り立つ.これは曲線 C が(時刻 t0 に−→x (t0) を通り方向ベクトル
−→v をもつ)直線 −→
y (t) =−→x (t0) +
−→v (t− t0) によって近似されること意味する.すなわち,接線を持つということである.
とくに,「滑らかな曲線」とはその接線が t に関して端点まで連続に変化する.
速度ベクトルと勾配ベクトル. 次の公式は多変数関数の微分を計算するときに基本となるものである:
命題 2.2 f : Rn → R を C1級関数とし,−→x =
−→x (t) (a ≤ t ≤ b) を Rn 内の滑らかな曲
線とする.このとき,合成関数 t 7→ f(−→x (t)) の微分は「f の勾配ベクトルと −→
x の速度ベクトルの内積」で与えられる.すなわち,
d
dtf(
−→x (t)) = ∇f(
−→x (t)) ·
d
dt
−→x (t).
とくに,合成関数 t 7→ f(−→x (t)) は C1級関数である.
注意. 左辺の d
dtf(−→x (t)) は d(f
−→x )
dt(t) と書いた方が正確だろう.一般に,ふたつの C1 級写像の合成
Rm f7−→ Rn g7−→ Rl があるとき,ヤコビ行列に関して連鎖律 (chain rule)
D(g f)(−→x ) = Dg(f(
−→x ))Df(
−→x )
がすべての −→x ∈ Rm で成り立つ.上の命題 2.2は (m,n, l) = (1, n, 1) の場合である.(n 次元ベクトルの内
積は 1× n行列(横ベクトル)と n× 1行列(縦ベクトル)の積と見なせることに注意.)
参考(積分).
定義 (ベクトルの積分) 連続なベクトル値関数−→v (t) = (v1(t), v2(t), v3(t)) (α ≤ t ≤ β)
および実数 a, b ∈ [α, β] に対し,ベクトル(∫ b
av1(t) dt,
∫ b
av2(t) dt,
∫ b
av3(t) dt
)
を∫ b
a
−→v (t) dt と表す.
t ∈ [a, b] とするとき,−→x (t) :=
∫ t
a
−→v (u)du は C1級ベクトル値関数であり,−→
v (t) を速度ベクト
ルとする曲線(積分曲線)を定める.(−→x (t) は滑らかな曲線になるとは限らない.なぜか?).
レポート問題
締め切りは 10月 17日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 2-1. (外積と結合法則)
(1)−→a ,
−→b ,
−→c ∈ R3 に対し,
(−→a ×
−→b ) × −→
c = (−→a · −→c )
−→b − (
−→b · −→c )
−→a
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 02-5
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が成り立つことを示せ.
(2)−→a × (
−→b ×
−→c ) に対しても同様の公式を求めよ.
(3) 外積については,結合法則 (−→a ×
−→b )×
−→c =
−→a × (
−→b ×
−→c ) は成り立たない.その反例を挙
げよ.
問題 2-2. (ライプニッツ則) 実数 t を変数とするC1級関数 f = f(t) ∈ R と C1級ベクトル値関数−→
a =−→a (t),
−→b =
−→b (t) ∈ R3 が与えられているとき,以下を示せ:
(1)d
dt(f(t)
−→a (t)) =
df
dt(t)
−→a (t) + f(t)
d−→a
dt(t)
(2)d
dt(−→a (f(t))) =
d−→a
dt(f(t))
df
dt(t)
(3)d
dt(−→a (t) ·
−→b (t)) =
d−→a
dt(t) ·
−→b (t) +
−→a (t) · d
−→b
dt(t)
(4)d
dt(−→a (t)×
−→b (t)) =
d−→a
dt(t)×
−→b (t) +
−→a (t)× d
−→b
dt(t)
問題 2-3. (勾配ベクトル)
(a) 次の関数の勾配ベクトル ∇f(x, y, z) を求めよ:(1) f(x, y, z) = xyz (2) f(x, y, z) = sinx cos(y + z) (3) f(x, y, z) =
√x2 + y2 + z2
(b) 実数 α, β,および −→x ∈ Rn をベクトル変数とする C1級関数 f = f(
−→x ), g = g(
−→x ) ∈ R に対
し,以下を示せ:
(1) ∇(αf + βg) = α∇f + β∇g (2) ∇(fg) = (∇f)g + f∇g
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 03-1
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勾配ベクトル場の線積分 (10/17)配布日 : 2016年 10月 17日 Version : 1.1
ハイキングの原理 ある日,ハイキングに行ったとしよう.点Aからスタートし野山を歩き回り,再び点Aに戻るとき,私たちの足元の標高(海抜高度)は上下を繰り返し,再び点Aと同じ高さに戻ることになる. ごく「あたりまえ」のことだが,この事実を「ハイキングの原理」として数学的に定式化してみよう.
勾配ベクトル場
Rn 上の関数 f : Rn → R を考える.上述のハイキングの例においては,R2 の各点 −→p に標高
(海抜高度)を表す実数 f(−→p ) を対応させることでそのような関数が得られる.以下では,関数 f
はつねに C1級であると仮定しよう.野山の傾斜がどのように分布しているかを表現するものとして,次の「勾配ベクトル場」を導
入する.
定義 (勾配ベクトル場) 各 −→p = (x1, . . . , xn) ∈ Rn に対し勾配ベクトル
∇f(−→p ) =
(∂f
∂x1(−→p ), · · · , ∂f
∂xn(−→p )
)∈ Rn
を対応させるベクトル値関数 ∇f : Rn → Rn を関数 f の勾配ベクトル場 (gradient vector
field)とよぶ.
右の図は f(x, y) = xy の区画 [−2, 2]× [−2, 2] における勾配ベクトル場∇f(−→p ) = (y, x) を図示したものである.
例 1. 関数 f : R2 → R が海抜高度を表す関数であるとき,勾配ベクトル場 ∇f : R2 → R2 は「その点に置いたボールが転がり始める向き」の「逆方向」を表現する.f : R3 → R が気体で満たされた空間内の気圧を表す関数であるとき,勾配ベクトル場 ∇f : R3 → R3 は「その点における風の向き」の「逆方向」を表現する.
-2
ハイキングの線積分による表現
次に,野山を歩きながら標高の増減をカウントして行く様子を「線積分」として表現してみよう.以下,C1級関数 f : Rn → R は「標高(海抜高度)」を表す関数だと解釈して記述する.
曲線(ハイキングの経路)の設定. いま Rn 上に定点 A と B をとり,その位置ベクトルを −→a ,
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 03-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
−→b とおく.さらに点Aと点 Bを結ぶ滑らかな曲線 C を C :
−→p =
−→p (t) = (x(t), y(t)) (α ≤ t ≤ β)
ただし −→p (α) =
−→a ,
−→p (β) =
−→b
と定める.t は時刻(秒)を表すパラメーターであり,−→p (t) は時刻 α に点 Aを出発し,曲線 C
上を移動して,時刻 β に点 B に到着するのである.
歩幅と一歩あたりの上下量. いま,曲線 C 上をトータル (β − α) 秒かけて歩く.必要な歩数をN 歩とし,k歩目が完了した時刻を tk とすれば,区間 [α, β] をN 分割する点
α = t0 < t1 < t2 < · · · < tN = β
を得る.このとき,各時刻 tk (0 ≤ k ≤ N) に対応する曲線 C 上の位置を −→pk :=
−→p (tk) と表すこ
とにする 1.さらに k + 1 歩目 (0 ≤ k < N)の位置の変化量(ベクトル)∆−→pk と,そのときの標
高 f(−→p ) の変化量(実数)∆fk を
∆−→pk :=
−→pk+1 −
−→pk, ∆fk := f(
−→pk+1)− f(
−→pk)
と表すことにする.
上下量の近似. f はC1級 であるから,すべての点において全微分可能である.とくに −→p →
−→p k
のとき,f(−→p ) = f(
−→pk) +∇f(−→pk) · (
−→p −−→
pk) + o(∥∥−→p −−→
pk∥∥)
が成立する.いま「歩幅」は十分に小さく∥∥∆−→pk∥∥ ≈ 0 だと仮定すれば,上で −→
p に −→pk+1 が代入
できて,誤差項を無視すると,近似式
∆fk ≈ ∇f(−→pk) · ∆−→pk (3.1)
を得る.
いま−→b =
−→a + (
−→b −
−→a ) =
−→a +
(∆−→p0 + ∆
−→p1 + · · ·+ ∆
−→pN−1
)より
f(−→b ) = f(
−→a ) +
(f(−→b )− f(
−→a ))= f(
−→a ) + (∆f0 + ∆f1 + · · ·+ ∆fN−1)
1ハイキング中,一歩進むごとに時間を記録したのが tk で,そのときの位置を記録したのが−→pk
だと思えばよ
い.歩幅を縮めて行くことで,私たちの動きは曲線 C を限りなく近似する.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 03-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
が成り立つので,式 (3.1)より
f(−→b )− f(
−→a ) =
N−1∑k=0
∆fk :点 Bと点Aの標高の差
≈N−1∑k=0
∇f(−→pk) · ∆
−→pk (3.2)
という近似式を得る 2.
曲線の近似. 一方,曲線 C は C1級であったから,t ≈ tk のときベクトルの近似式
−→p (t) ≈ −→
p (tk) +d−→p
dt(tk)(t− tk)
が成り立つ.これに t = tk+1 を代入し ∆tk := tk+1 − tk とおけば,近似式
∆−→pk ≈
d−→p
dt(tk)∆tk
を得る.したがって,式 (3.2) から近似式
f(−→b )− f(
−→a ) ≈
N−1∑k=0
∇f(−→pk) · ∆−→pk ≈
N−1∑k=0
∇f(−→p (tk)) ·
d−→p
dt(tk)
∆tk
が成り立つことになる.最右辺の式は区間 [α, β] 上の連続関数
t 7→ ∇f(−→p (t)) · d−→p
dt(t) ∈ R
のリーマン和に他ならない.
線積分の定義とハイキングの原理. 以上の考察を踏まえると,「ベクトル変数 −→p が曲線 C に沿っ
て変化するとき,結果的に得られる関数 f の変化量」として,次のような定積分を用いるのが妥当である:
定義 (勾配ベクトルの線積分) C1 級関数 f : Rn → R が定める勾配ベクトル場 ∇f :
Rn → Rn と Rn 内の滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) に対し,勾配ベクトル場
∇f の曲線 C に沿った線積分 (line integral) を定積分∫C∇f(
−→p ) · d−→p :=
∫ β
α
∇f(
−→p (t)) ·
d
dt
−→p (t)
dt
によって定義する.また,C をこの積分の積分路 (path of integration)とよぶ.
「積分路」については次回詳しく学ぶことにする.
2この式 (3.2) において「歩幅」にあたる ∆−→pk の長さ(ノルム)を k によらず一様に 0 に近づけた極限を∫
C
∇f(−→p ) · d−→p と表したいのだが,ここでは少し遠回りをして,時間パラメーターを利用してこの値を定義す
る.計算するときは結局パラメーターを用いるので,こちらの方が実用的.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 03-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
定理 3.1 (ハイキングの原理) C1 級関数 f : Rn → R と 2点 −→a ,−→b ∈ Rn が与えられ
ているとき,これらを結ぶ任意の滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β,ただし
−→p (α) =
−→a ,
−→p (β) =
−→b )に対して∫
C∇f(
−→p ) · d
−→p = f(
−→b ) − f(
−→a ).
とくに,左辺の線積分の値は積分路 C の端点 −→a と −→
b のみに依存し,積分路 C の取り方に依存しない.また,−→
a =−→b のとき積分の値は 0.
証明. 命題 2.2より∇f(−→p (t)) · d
dt
−→p (t) =
d
dtf(−→p (t)) であるから,「微積分の基本定理」より∫
C
∇f(−→p ) · d−→p =
∫ β
α
d
dtf(−→p (t)) dt =
[f(−→p (t))
]βα= f(
−→b )− f(
−→a ).
レポート問題
締め切りは 10月 24日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)問題 3-1. (勾配ベクトル場の線積分) 関数 f(x, y) = x2 − y2 の勾配ベクトル場を求め,以下の曲線に沿った線積分
∫C∇f(−→p ) · d−→p を計算せよ.
(1)−→p (t) = (t, tα) (0 ≤ t ≤ 1) (α > 0は定数)
(2)−→p (t) =
(0, t) (0 ≤ t ≤ 1)
(t− 1, 1) (1 ≤ t ≤ 2)
問題 3-2. (空間の勾配ベクトル) α > 0 とする.次の関数 f(−→p ) = f(x, y, z) の勾配ベクトル場
∇f(x, y, z) を求め,それぞれに対し曲線 C :−→p (t) = (tα, tα, tα) (1 ≤ t ≤ 21/α) に沿った線積分∫
C∇f(
−→p ) · d
−→p を計算せよ.(結果は α に依存しないことに注意.)
(1) f(x, y, z) =√x2 + y2 + z2 (2) f(x, y, z) = ex+y+z (3) f(x, y, z) = xyz
問題 3-3. (次回の予習) 配布された予習用プリントの内容をよく読んで,以下の項目について,定義や条件を適宜補いつつ,合計 2ページから3ページでまとめよ.(次回はこれらに関連した課題に取り組みます.)
(1) R2内の「(勾配ベクトル場とは限らない)ベクトル場の線積分」の定義と具体例をひとつ.
(2) R2内の,曲線 C 上の線積分∫Cu(x, y) dx+ v(x, y) dy の定義.
(3) グリーンの定理(証明は不要)とその具体例.
(4) 誤植・計算や論理の間違い・わかりづらい点.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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グリーンの定理(10/24)配布日 : 2016年 10月 24日 Version : 1.1
ベクトル場
「勾配ベクトル場」とは限らない,一般の「ベクトル場」の定義をしておこう.
定義 (ベクトル場) Rn 内の各点(位置ベクトル)−→p にベクトル V (−→p ) ∈ Rn を対応させ
たものをRn上のベクトル場 (vector field) V とよぶ.これはベクトル値関数 V : Rn → Rn
と同じものを別の名前でよんでいるだけである.V がベクトル値関数として連続,C1級,etc. であるとき,ベクトル場 V も連続,C1級,etc. であるという.
例えば,与えられた Ck 級関数 f : Rn → R (k ≥ 1) の勾配ベクトル場 ∇f : Rn → Rn は Ck−1
級のベクトル場である.
-2 -1 0 1 2
-2
-1
0
1
2
図 4.1: 左は V (x, y) = (cosxy, sin(x+ y)),右は V (x, y) = (−y, x) で表されるベクトル場.
線積分 C1級関数 f : Rn → R の勾配ベクトル場の,滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) に
沿った線積分は∫C∇f(−→p ) · d−→p :=
∫ β
α
∇f(−→p (t)) · d
dt
−→p (t)
dt
(=
∫ β
α
d
dtf(−→p (t)) dt
)として定義された.これを念頭に,一般のベクトル場 V = V (
−→p )の線積分を次のように定義する:
定義 Rn上の連続なベクトル場 V : Rn → Rnと滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β)
に対し,ベクトル場 V = V (−→p ) の曲線 C に沿った線積分を積分∫
CV (
−→p ) · d
−→p :=
∫ β
α
V (
−→p (t)) ·
d
dt
−→p (t)
dt
により定義する.また,曲線 C をこの積分の積分路 (path of integration)とよぶ.
注意.区分的に滑らかな曲線 C に対しては,有限個の滑らかな曲線に分割して,それぞれに沿った積分を計算し和をとったものを積分の値とすればよい.
線積分の基本性質.曲線 C の向きを逆にした曲線を −C で表す.すなわち,C :−→p =
−→p (t) (α ≤
t ≤ β) であるとき,−C :−→p =
−→p (α+ β − t) (α ≤ t ≤ β) として定まる曲線である.また,ある
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曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) に対し,適当な γ ∈ (α, β) をとってC1 :
−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ γ),
C2 :−→p =
−→p (t) (γ ≤ t ≤ β) と表すとき,C = C1 + C2 と書くことにする.次の命題は線積分の
定義よりほとんど明らかであろう:
命題 4.1 (線積分の基本性質) V = V (−→p ),U = U(
−→p ) を Rn 上の連続なベクトル場,
C = C1 + C2 を滑らかな曲線とするとき,
(1) 任意の実数 k に対し,∫C
(kV (
−→p ))· d
−→p = k
∫CV (
−→p ) · d
−→p
(2)
∫C
(V (
−→p ) + U(
−→p ))· d−→p =
∫CV (
−→p ) · d−→p +
∫CU(
−→p ) · d−→p
(3)
∫C1+C2
V (−→p ) · d
−→p =
∫C1
V (−→p ) · d
−→p +
∫C2
V (−→p ) · d
−→p
(4)
∫CV (
−→p ) · d
−→p = −
∫−C
V (−→p ) · d
−→p
具体例を計算してみよう.
例題 4.1 (ベクトル場の線積分) ベクトル場 V (−→p ) = (2x, 2y) および定数 α > 0 に対
し,積分路 C = Cα :−→p (t) = (t, tα) (0 ≤ t ≤ 1) に沿った線積分の値を求めよ.
解答. d
dt
−→p (t) = (1, αtα−1) と線積分の定義式より,
∫C
V (−→p ) · d
−→p =
∫ 1
0
V (
−→p (t)) · d
dt
−→p (t)
dt
=
∫ 1
0
(2t2tα
)·(
1αtα−1
)dt =
∫ 1
0
(2t · 1 + 2tα · αtα−1
)dt
=[t2 + t2α
]10= 2.
この値は α に依存しないことに注意しよう.実際,f(x, y) =
x2 + y2 とすると V (−→p ) = ∇f(−→p ) であるから,勾配ベクトル場
になっている.定理 3.1(ハイキングの原理)より,この線積分の値は積分路のとり方に(したがって α にも)依存しないのである.
例題 4.2 (ベクトル場の線積分) ベクトル場 V (−→p ) = (−y, x) に対し,点 (1, 0) と点
(−1, 0) を結ぶ次の積分路に沿った線積分を求めよ.
(1) C1 :−→p (t) = (cos t, sin t) (0 ≤ t ≤ π)
(2) C2 :−→p (t) = (−t, 0) (−1 ≤ t ≤ 1)
解答. C1 の場合,d
dt
−→p (t) = (− sin t, cos t) より,
∫C
V (−→p ) · d
−→p =
∫ π
0
V (
−→p (t)) · d
dt
−→p (t)
dt =
∫ π
0
(− sin tcos t
)·(− sin tcos t
)dt =
∫ π
0
1 dt = π.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 04-3
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一方 C2 の場合,d
dt
−→p (t) = (−1, 0) より,
∫C
V (−→p ) · d
−→p =
∫ 1
−1
V (
−→p (t)) · d
dt
−→p (t)
dt =
∫ 1
−1
(0−t
)·(−10
)dt = 0.
この結果と定理 3.1 (ハイキングの原理)より,「ベクトル場 V (x, y) = (−y, x) を勾配ベクトル場とする R2 上の C1級関数は存在しない」ことがわかる 1.
参考:曲線 vs. 積分路.線積分を考えるにあたって,「曲線」の概念と「積分路」の概念を分けておいたほうが都合がよい.まず大雑把にいうと,ふたつの(区分的に)滑らかな曲線が「同じ積分路である」とは,「集合
としては」同じ曲線を定めており,しかも曲線上の各点を同じ順番で通過するが,通過する時刻が同じとは限らないことをいう.正確には,次のように定義する.
定義 (積分路) • ふたつの滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) と C ′ :
−→q =
−→q (s) (α′ ≤ s ≤ β′) が同じ積分路であるとは,ある真に単調増加な C1 級関数s = ϕ(t) (α ≤ t ≤ β) が存在し,
– α′ = ϕ(α) かつ β′ = ϕ(β).
– 任意の t ∈ [α, β] に対し,−→p (t) =
−→q (ϕ(t))
が成り立つことをいう.
• C と C ′ が区分的に滑らかな曲線であるとき,これらが同じ積分路であるとは,ある分割 α = t0 < t1 < · · · < tN = β と α′ = s0 < s1 < · · · < sN = β′ が存在し,各k = 0, · · · , N − 1 にたいして−→
p =−→p (t) (tk ≤ t ≤ tk+1) と
−→q =
−→q (s) (sk ≤ s ≤
sk+1) が同じ積分路であることをいう.
• 区分的に滑らかな曲線 C と C ′ が互いに逆向きの積分路であるとは,C ′ が曲線−C :
−→p =
−→p (α+ β − t) (α ≤ t ≤ β) と同じ積分路であることをいう.
このとき,以下が成り立つ 2 :
命題 4.2 (同じ積分路は同じ積分値) ふたつの区分的に滑らかな曲線C :−→p =
−→p (t) (α ≤
t ≤ β) と C ′ :−→q =
−→q (s) (α′ ≤ s ≤ β′) が同じ積分路であるとき,任意の R2 上のベク
トル場 V : Rn → R2 に対し,∫CV (
−→p ) · d
−→p =
∫C′V (
−→q ) · d
−→q .
互いに逆向きであるときは,∫CV (
−→p ) · d
−→p = −
∫C′V (
−→q ) · d
−→q .
1「与えられたベクトル場が勾配ベクトル場(=何らかの関数の微分)になっているか」というのは極めて重要な問題意識であり,のちに微分形式の理論やコホモロジーの考え方につながっていく.
2線積分∫CV (
−→p ) · d−→p を「ベクトル場 V (
−→p ) という道具で曲線 C を測量した値」だと解釈してみよう.この命題
4.2によれば,ふたつの「同じ積分路」をベクトル場の線積分によって測量したら,つねに同じ測定値が得られるということである.すなわち,「ベクトル場の線積分」という道具では,これらの曲線を区別することができないのである.
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証明. 与えられたふたつの曲線をうまく分割することで,命題の主張は滑らかな曲線の場合に帰着できる.真に単調増加な C1級関数 s = ϕ(t) (α ≤ t ≤ β) で,α′ = ϕ(α) かつ β′ = ϕ(β) であり,任意の t ∈ [α, β] に対し,−→
p (t) =−→q (ϕ(t)) となるものを選ぶと,ds
dt= ϕ′(t) > 0 より,
∫CV (
−→p ) · d
−→p :=
∫ β
α
V (
−→p (t)) · d
dt
−→p (t)
dt
=
∫ β
α
V (
−→q (ϕ(t))) · d
dt
−→q (ϕ(t))
ϕ′(t)−1ϕ′(t) dt
=
∫ β′
α′
V (
−→q (s)) · d
ds
−→q (s)
ds
=
∫C′V (
−→q ) · d
−→q .
逆向きの場合も同様である.
線積分を表す別の記号
以下では特に断らない限り n = 2 の場合を考えよう.まずはグリーンの定理を述べるための準備として,ふたつの連続関数 u, v : R2 → R, u = u(x, y),
v = v(x, y) が与えられているとき,「線積分∫Cu(x, y)dx+ v(x, y)dy」とは何かを定義しておく.
これらの関数は R2 上の連続なベクトル場
V (−→p ) = V (x, y) =
(u
v
)=
(u(x, y)
v(x, y)
)
を定める.いま曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) が与えられているとき,勾配ベクトル場の線積
分を定義したときと同じように時刻を表す区間 [α, β] をN 個の区間に細分し,それらの端点に対応する位置と区間ごとに移動量を
−→pk = (xk, yk), ∆
−→pk = (∆xk, ∆yk) = (xk+1 − xk, yk+1 − yk)
と表すことにする.このとき,線積分の近似式∫CV (
−→p ) · d−→p ≈
N−1∑k=0
V (−→pk) · ∆
−→pk =
N−1∑k=0
(u(xk, yk)
v(xk, yk)
)·
(∆xk
∆yk
)
=
N−1∑k=0
u(xk, yk)∆xk + v(xk, yk)∆yk
が成り立つから,曲線上を歩く「歩幅」を 0に縮めた極限としてこれを∫Cu(x, y)dx+ v(x, y)dy
と表すのは自然であろう:3
3本当は∫C
u(x, y)dx+ v(x, y)dy と括弧をつけるのが「自然」だろうが,つけないのがならわしである.
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定義 (線積分の別の記号) 連続関数 u = u(x, y),v = v(x, y) と滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) に対し,「線積分
∫Cu(x, y)dx + v(x, y)dy 」を連続なベクトル場
V (−→p ) = V (x, y) = (u(x, y), v(x, y)) の C に沿った線積分として定義する.すなわち,∫
Cu(x, y)dx + v(x, y)dy :=
∫CV (
−→p ) · d
−→p .
注意.∫C
u(x, y)dx+ v(x, y)dy は簡単に∫C
u dx+ v dy と書かれることも多い.
計算公式. 線積分を実際に計算するときには,次の公式を用いるのがよい(この式を定義としてもよい):
公式 4.3 (線積分の計算公式) 連続関数 u = u(x, y), v = v(x, y) と滑らかな曲線 C :−→p (t) = (x(t), y(t)) (α ≤ t ≤ β) に対し,∫
Cu(x, y)dx + v(x, y)dy =
∫ β
α
u(x(t), y(t))
dx
dt(t) + v(x(t), y(t))
dy
dt(t)
dt
証明. そもそも線積分∫C
V (−→p ) · d
−→p の定義は
∫C
V (−→p ) · d
−→p :=
∫ β
α
V (
−→p (t)) · d
−→p
dt(t)
dt であった.
V (−→p (t)) = (u(x(t), y(t)), v(x(t), y(t))),d
−→p
dt(t) =
(dx
dt(t),
dy
dt(t)
)と成分表示して内積部分を書き直せば
求める公式をえる.
注意(3次元以上のとき). R3 内の区分的に滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) と R3 上
の連続なベクトル場 V (−→p ) = V (x, y, z) = (u(x, y, z), v(x, y, z), w(x, y, z)) が与えられているとき,
R2 の場合とまったく同様に線積分∫Cu(x, y, z)dx+ v(x, y, z)dy + w(x, y, z)dz :=
∫CV (
−→p ) · d
−→p
が定まる.一般の Rn 上のベクトル場についても同様である.
グリーンの定理
単純閉曲線.滑らかな曲線(もしくは区分的に滑らかな曲線,たとえば長方形の境界など)C :
−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β)
が単純閉曲線であるとは,始点と終点が一致し,かつ自己交差しないことをいう.すなわち,−→
p (α) =−→p (β) かつ
α ≤ t < s < β のとき−→p (t) =
−→p (s) であればよい.
単純閉曲線 C で囲まれる有界な閉集合(閉領域)を D と表そう.t を時間パラメーターと考えると曲線には自然な「進行方向」が定まるが,必要なら C を −C と置き換えて,「進行方向」の「左側」に D があると仮定してよい 4.このとき,次が成り立つ:
4厳密には,「進行方向」の「左側」とは何か,「D がある」とは何かをきちんと定義しなければならない.考えてみよ.「ジョルダン (Jordan)の曲線定理」についても調べてみよ.
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定理 4.4 (グリーンの定理) 関数 u = u(x, y), v = v(x, y) は上の D を含む開集合上で定義された C1級関数とする.このとき,∫
Cudx + v dy =
∫∫D(vx − uy) dxdy. (4.1)
例(ハイキング). f(x, y) を D 上の C2 級関数とするとき,u = fx,v = fy は C1 級関数である 5.このとき vx − uy = (fy)x − (fx)y = 0 (偏微分の順序交換).よってグリーンの定理(定理4.4)より,単純閉曲線 C に対し∫
Cfx(x, y) dx+ fy(x, y) dy = 0.
これは「ハイキングの原理」(定理 3.1)の特別な場合である.
面積の公式. 式 (4.1)において (u, v) = (0, x) もしくは (u, v) = (−y, 0) とすれば,vx − uy = 1
より D の面積を与える公式を得る 6:
公式 4.5 (単純閉曲線で囲まれる面積)
Area(D) =
∫Cx dy =
∫C−y dx.
例題 4.3 (楕円の面積) 長径 a,短径 b の楕円の面積は πab で与えられることを示せ.
解答.C :−→p (t) = (a cos t, b sin t) (0 ≤ t ≤ 2π) とおくと,公式 4.5より
Area(D) =
∫C
x dy =
∫ 2π
0
a cos t · b cos t dt = ab
∫ 2π
0
1 + cos 2t
2dt = πab.
5厳密には,(グリーンの定理の主張のように)D を含む開集合で定義された C2 級関数でなくてはならない.境界である C 上で偏導関数を定義するには,上下左右に一定のゆとりが必要だからである.
6
∫C
x dy =
∫C
−y dx は∫C
0 · dx+ x dy =
∫C
−y dx+ 0 · dy を省略したものである.
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グリーンの定理の証明. まず,∫Cu dx = −
∫∫Ωuy dx dy
を示す.必要なら図の上段のようにタテ・ヨコの線分で閉領域 D を有限個に分割して,図の下段左のようなタテ線領域(もしくは,これらを 90
度回転して得られるヨコ線領域)について定理を証明すればよい.(証明のあとの注意も参照.)なぜなら,分割線上の積分は相殺されるし,領域を分割したら面積分も分割されるからである.正確に書くと,C = C1 + C2 + C3 + C4 の形であり,C1 と C3 はそれぞれ ϕ(x) ≤ ψ(x) を満たす連続関数 y = ϕ(x) と y = ψ(x) の a ≤ x ≤ b のときのグラフであり,C2 と C4 は y軸と平行な線分となっている場合である.ただし,下段右のように,C2 と C4 のいずれか,もしくは両方が一点に潰れてしまう場合も含めるものとする.このような領域はタテ線集合であるから,積分の計算と相性がよい.このとき∫
Cu dx =
∫C1
u dx+
∫C2
u dx+
∫C3
u dx+
∫C4
u dx
となるから,例えば
C1 : (x(t), y(t)) = (t, ϕ(t)) (a ≤ t ≤ b)
C2 : (x(t), y(t)) = (b, t) (ϕ(b) ≤ t ≤ ψ(b))
C3 : (x(t), y(t)) = (a+ b− t, ψ(a+ b− t)) (a ≤ t ≤ b)
C4 : (x(t), y(t)) = (a, ψ(a) + ϕ(a)− t) (ϕ(a) ≤ t ≤ ψ(a))
と積分路をパラメーター表示して,公式 4.3に基づいて積分値を求めてみよう.まず C2 と C4 ではdx
dt(t) = 0となるので積分値は 0である.つぎに C1 と C3 では,変数変換(x = tと x = a+b−t)
により ∫C1
u dx =
∫ b
au(t, ϕ(t)) dt =
∫ b
au(x, ϕ(x)) dx∫
C3
u dx =
∫ b
au(a+ b− t, ψ(a+ b− t))(−1) dt = −
∫ b
au(x, ψ(x)) dx
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となる.よって ∫Cu dx =
∫ b
au(x, ϕ(x)) dx+ 0−
∫ a
bu(x, ψ(x)) dx+ 0
= −∫ b
au(x, ϕ(x))− u(x, ψ(x)) dx
= −∫ b
a
∫ ϕ(x)
ψ(x)uy(x, y) dy
dx
= −∫∫
Duy dx dy
となる.下線部では x を固定して,いわゆる微積分の基本定理を用いた.同様の計算で ∫
Cv dy =
∫∫Dvx dx dy
も得るから,グリーンの定理(定理 4.4)が成り立つ. 注意. 滑らかな単純閉曲線で囲まれた閉領域に対し,そのような有限個の分割が存在するかどうかは本来証明が必要である.たとえば,「滑らかな曲線は有限個の「グラフ」の和集合として表される」という命題が必要である.小平邦彦「解析入門」(岩波書店)p.337を参照せよ.
参考. グリーンの定理において V (−→p ) =
(u(x, y)v(x, y)
)として定まるベクトル場に対し,
rotV (−→p ) := − uy(x, y) + vx(x, y) ∈ R
で定まる関数をベクトル場 V (−→p ) の回転とよぶ.この記号を用いると,グリーンの定理は∫
C
V (−→p ) · d−→p =
∫∫D
rotV (−→p ) dxdy
と表現される.V = V (
−→p ) =
(u(x, y)v(x, y)
)にたいし,
rotV (−→p ) := − uy(x, y) + vx(x, y) ∈ R
で定まる関数(スカラー場)を V の回転 (rotation)とよぶ.7
この量の直感的な意味は,次のように説明される:V が風速をあらわすとしよう.点 −→p においた図のよ
うな十字型の風車(直径 2ϵ)を置くとき,その端点における風で風車の回転に寄与する分の合計は(左回りを正の向きと考えると)
v(x+ ϵ, y)− u(x, y + ϵ)− v(x− ϵ, y) + u(x, y − ϵ)
と計算される.この値が 2 rotV (−→p ) ϵ+ o(ϵ) と表されるのである.
実際,u, v は C1 関数であり全微分可能なので,上の式に u(x, y + ϵ) = u(x, y) + uy(x, y)ϵ+ o(ϵ) などを代入して整理すると,2−uy(x, y) + vx(x, y)ϵ+ o(ϵ) = 2 rotV (
−→p ) ϵ+ o(ϵ) となる.
73次元ベクトル場の回転はベクトル場となる.3次元の場合,回転軸の方向を表現する必要があるからである.
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レポート問題
締め切りは 10月 31日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 4-1. (線積分) 以下の積分の C に曲線 C1 :−→p =
−→p (t) = (t, 0) (−1 ≤ t ≤ 1),C2 :
−→p =
−→p (t) = (t2, t) (0 ≤ t ≤ 1),C3 :
−→p =
−→p (t) = (cos t, sin t) (0 ≤ t ≤ 2π) を代入して,線積分の値
を計算せよ.
(1)
∫Cdx+ dy (2)
∫Cx dx− y dy (3)
∫C(x2 − y2) dx− 2xy dy
問題 4-2. (面積) 公式 4.5を用いて,アステロイド
C :−→p (t) = (a cos3 t, a sin3 t) (0 ≤ t ≤ 2π)
で囲まれる部分の面積を求めよ.ただし,a > 0 は定数とする.
問題 4-3. (次回の予習) 配布された予習用プリントの内容をよく読んで,以下の項目について,定義や条件を適宜補いつつ,合計 2ページから3ページでまとめよ.(次回,これらに関連した課題に取り組みます.)
(1) R3内の「滑らかな曲線」の定義と具体例をひとつ.
(2) R3内の「滑らかな曲面」の定義と具体例(プリントにはないオリジナルのもの)をひとつ.
(3) R3内の「滑らかではない曲面」の具体例をひとつ.
(4) R3内の滑らかな曲面の「接平面」の定義と具体例(プリントにはないオリジナルのもの)をひとつ.
(5) わかりづらかった点とその理由の分析,誤植・計算や論理の間違い.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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曲面のパラメーター表示(10/31)配布日 : 2016年 10月 31日 Version : 1.1
「滑らかな曲線」の定義をまねて,「滑らかな曲面」を定義しよう.標語的に言うと,「どの点も接平面でなぞることができる」のが滑らかな曲面である.
「滑らかな曲線」とは何だったか
以下,α, β を α < β を満たす実数とする.
「曲線」とは.R3 内の「曲線」とは,ある閉区間 [α, β]上の連続なベクトル値関数 −→p : [α, β] → R3
のことをいい,C :
−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β)
のように表した.ここで,記号 C は(パラメーター t の増加方向を向きをとして持った)「集合としての曲線」 −→
p =−→p (t) ∈ R3 | α ≤ t ≤ β
.
を表すものでもあった.しかし,この定義では私たちが「曲線」とは呼びたくないような集合まで「曲線」となってしまう.(例えば「ペアノ曲線」.)そこで,「連続」よりも強い条件を加えて,私たちの感覚にあった「曲線」に対象を制限するのが普通である.
「滑らかな曲線」と「接線」. 「滑らかな曲線」とは,C1級のベクトル値関数 −→p : [α, β] → R3
であり,d−→p
dt(t) = −→
0 がすべての t ∈ [α, β] で成り立つことをいうのであった 1.これは標語的にいえば,
接線がすべての点で存在し,境界点も含めて連続に変化する
ということである.
このことを式で確認しておこう.まず接線の定義をしておく 2.
定義 (接線の方程式) 滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) の −→
p0 =−→p (t0) におけ
る接線 (tangent line) とは,−→p (t0) を通り,
−→v :=
∂−→p
∂t(t0) を方向ベクトルとする直線
−→q =
−→q (t) =
−→p0 + (t− t0)
−→v (t ∈ R)
のことをいう.
この直線が「曲線に接する」という幾何学的性質は局所的なものであるから,実際にはパラメーター t の範囲は t0 を含む十分小さな閉区間に制限して,「接線分」を考えれば十分である.
1もちろん C1 級であれば連続(C0 級)である.教科書によっては C∞ 級を仮定することもあるが,この講義では無限回偏微分したりしない.
2「−→a ∈ R3 を通り −→
v ∈ R3 を方向ベクトル(速度ベクトル)とする直線」のパラメーター表示は −→p =
−→p (t) =
−→a + t
−→v (t ∈ R) で与えられるのであった.このとき,d
−→p
dt(t) ≡
−→v (∀ t ∈ Rで一定) が成り立つことに注意.
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速度ベクトルの定義より t→ t0 のとき−→p (t)−−→
p (t0)
t− t0→ −→
v = −→0
である 3.よって t が t0 に十分に近いとき,近似式−→p (t)−−→
p (t0)
t− t0≈ −→v ⇐⇒ −→
p (t) ≈ −→p (t0) + (t− t0)
−→v
が成り立つ 4 .これは上の接線のパラメーター表示に他ならない.しかも,t 7→ −→p (t) が C1級で
あることから,−→p 0 =
−→p (t0) と
−→v =
d−→p
dt(t0) は t0 に関してに連続に変化する.これは,「接線分」
が境界点まで連続に変化することを示唆している.
「滑らかな曲面」への準備
まずはいくつか言葉の復習をしておく.
• ふたつのベクトル −→u ,
−→v ∈ R3 が 1次独立 (linearly independent) であるとは,ともにゼロ
ベクトル −→0 ではなく,平行でもないことをいう.
このとき,次が成り立つ(証明はレポート問題):
命題 5.1 (1次独立性と外積) R3 内のふたつのベクトル −→u ,
−→v が 1次独立であることの
必要十分条件は−→u ×−→
v = −→0 が成り立つことである.
• 1次独立なベクトルの組 −→u ,
−→v ∈ R3 と −→
a ∈ R3 が与えられたとき,「−→a を通り −→
u と −→v で
張られる平面」のパラメーター表示は−→p =
−→p (s, t) =
−→a + s
−→u + t
−→v , ((s, t) ∈ R2)
で与えられる.
• U ⊂ R2 が領域 (domain) であるとは,連結な開集合であることをいう.ここで開集合 U が「連結である」とは,U 内の任意の 2点に対し,それらを結ぶ折れ線(あるいは曲線)が U
の部分集合として取れることをいう 5.
• Ω ⊂ R2 が閉領域 (closed domain) であるとは,ある領域 U が存在し,Ω が U の閉包になっていることをいう.すなわち,Ω = U(= U ∪ ∂U).
3厳密には,「(∀ ϵ > 0)(∃ δ > 0) 0 < |t− t0| < δ =⇒
∥∥∥∥∥−→p (t)−
−→p (t0)
t− t0−
−→v
∥∥∥∥∥ < ϵ」ということ.4いま t は t ∈ [α, β] を満たしながら t0 に近づく,と仮定している.とくに端点においては,片側極限を考える.す
なわち t0 = α のときは t → α+ 0,t0 = β のとき t → β − 0 としたときの極限である.5これは開集合が「弧状連結」であることを言っている.一般の位相空間における連結性は弧状連結性よりも弱いが,
ユークリッド空間内の開集合についてはこれらの概念が一致する.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 05-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
「滑らかな曲面」の定義
以上をふまえて,まずはただの「曲面」を定義しよう.ここでは R2 を st平面とみなし,Ω はR2 内の閉領域を表すものとする.
定義 (R3内の曲面) 閉領域 Ω ⊂ R2 上のベクトル値関数 −→p : Ω → R3 が連続であると
き,これを R3 内の曲面 (surface)とよぶ.S をそのような曲面とするとき,
S :−→p =
−→p (s, t) ( (s, t) ∈ Ω )
のようにも表す.また,この関数の像にあたる集合−→p (s, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω
も(集合としての)曲面 S とよぶ.ベクトル値関数 −→
p =−→p (s, t) を曲面 S の「パラメー
ター表示」とよび,その変数 (s, t) ∈ Ω を「パラメーター」とよぶ.
この定義も広すぎて,私たちが「曲面」と認めたくないものまで「曲面」になってしまう.たとえば「立方体」も「球体」も,「曲面」として表現できてしまう.そこで,「曲線」に条件を加えて「滑らかな曲線」を定義したときを参考に
「接平面」がすべての点で存在し,境界点も含めて連続に変化する
ような条件を加えよう.
すなわち,次のようなアナロジーに基づいて定義をする:
滑らかな曲線 滑らかな曲線閉区間上のベクトル値関数 −→
p (t) 閉領域上のベクトル値関数 −→p (s, t)
C1級 ?d
dt
−→p (t) =
−→0 ?
各点で接線が存在 各点で接平面が存在接線は連続に動く 接平面は連続に動く
定義 (滑らかな曲面) R3 内の曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) が滑らかな曲面
(smooth surface)であるとは,−→p (s, t) がΩ を含む開集合上で定義されたC1級ベクトル
値関数であり,かつすべての (s0, t0) ∈ Ω において,ふたつのベクトル
−→u :=
∂−→p
∂s(s0, t0),
−→v :=
∂−→p
∂t(s0, t0)
が一次独立であることをいう.すなわち,−→u × −→
v = −→0 が成り立つことをいう.
注意. 下線部はなぜ,単に「Ω 上で定義された」C1級ベクトル値関数ではないのだろうか.理由を考えてみよ.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 05-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
注意(記号). ここで,−→u =
∂−→p
∂s(s0, t0) とは(ベクトルの)極限
lim∆s→0
−→p (s0 + ∆s, t0)−
−→p (s0, t0)
∆s∈ R3
のことであり,−→u =
−→ps(s0, t0) とも表す.
−→p (s, t) = (x(s, t), y(s, t), z(s, t)) と C1級関数で成分
を表示すれば,−→u =
∂−→p
∂s(s0, t0) =
(∂x
∂s(s0, t0),
∂y
∂s(s0, t0),
∂z
∂s(s0, t0)
)となる.−→
v についても同様である.
例 2(平面の一部). Ω ⊂ R2 を閉領域,−→u ,
−→v ∈ R3 を 1次独立なベクトルとするとき,「−→
a を通り −→
u と −→v で張られる平面の一部」
S :−→p =
−→p (s, t) =
−→a + s
−→u + t
−→v , ((s, t) ∈ Ω)
は滑らかな曲面である.このとき,∂−→p
∂s(s, t) ≡
−→u ,
∂−→p
∂t(s, t) ≡
−→v は (s, t) によらず一定.
例 3(球面の一部). 0 < r ≤ 1 を満たす r に対し,Ωr =(s, t) ∈ R2 | s2 + t2 ≤ r2
,
Sr :−→p =
−→p (s, t) = (s, t,
√1− s2 − t2), ((s, t) ∈ Ωr)
とする.0 < r < 1 のとき,Sr は滑らかな曲面である.しかし,r = 1 のとき,曲面ではあるが滑らかな曲面ではない(理由を考えてみよ).
接平面
「滑らかな曲面」に対しては,各点で接平面が存在し,境界点まで連続に動くことを確認しよう.まずは接平面そのものを定義する:
定義 (接平面) S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) を R3 内の滑らかな曲面とする.S上の点
−→p0 =
−→p (s0, t0) における接平面 (tangent plane) とは,−→
p0 を通りふたつの 1次独立なベ
クトル−→u :=
∂−→p
∂s(s0, t0),
−→v :=
∂−→p
∂t(s0, t0) (すなわち
−→u ×
−→v =
−→0 )で張られる平面
−→q =
−→q (s, t) =
−→p0 + (s − s0)
−→u + (t − t0)
−→v
((s, t) ∈ R2
)のことをいう.
例 4(平面の接平面). 例 2のような平面のパラメーター表示が与えられているとき,その任意の点における接平面はもとの平面と(集合として)一致する.
例5(球面の接平面).例3の球面の (s, t) = (0, 0)における偏微分は−→ps(0, 0) = (1, 0, 0),
−→pt(0, 0) =
(0, 1, 0) であるから,−→p (0, 0) = (0, 0, 1) における接平面は −→
q = (0, 0, 1) + (s − 0)(1, 0, 0) + (t −0)(0, 0, 1) = (s, t, 0) ((s, t) ∈ R2).
実際に,これらが「接平面」として曲面を近似していることを証明しよう(こういう計算を自在にできるようになってほしい).
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 05-5
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
命題 5.2 (接平面による曲面の近似) 与えられた C1級ベクトル値関数−→p : Ω → R3 とパ
ラメーター (s0, t0) ∈ Ω に対し,−→p0 :=
−→p (s0, t0),
−→u :=
∂−→p
∂s(s0, t0),
−→v :=
∂−→p
∂t(s0, t0)
とおくと,(∆s, ∆t) → (0, 0) のとき∥∥−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) − (−→p0 + ∆s
−→u + ∆t
−→v )∥∥ = o(
√∆s2 + ∆t2).
が成り立つ.とくに,S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) が R3 内の滑らかな曲面であれ
ば,−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) は −→
q =−→p0 + ∆s
−→u + ∆t
−→v で近似され,その誤差は高々長さ
o(√∆s2 + ∆t2) のベクトルである.
ベクトル値関数 −→p =
−→p (s, t) は C1級なのでベクトル −→
p0,−→u ,−→
v はいずれも (s0, t0) に関して連続に変化する.これは接平面を張るベクトルの方向が連続的に変化することを表している 6.証明. −→
p (s, t) = (x(s, t), y(s, t), z(s, t)) と成分で表現すると,各成分は Ω 上の C1 級関数であり,各点で全微分可能である.たとえば (s0, t0) ∈ Ω に対しある実数の組 (u1, v1) ∈ R2 が存在し,(∆s, ∆t) → (0, 0)のとき
x(s0 + ∆s, t0 + ∆t) = x(s0, t0) + u1∆s+ v1∆t+ o(√
∆s2 + ∆t2)
と書ける.この (u1, v1) は関数 x : Ω → R の (s0, t0) における勾配ベクトルであって,
(u1, v1) = ∇x(s0, t0) =(∂x
∂s(s0, t0),
∂x
∂t(s0, t0)
)が成り立つ.同様にして関数 y, z : Ω → R についても (u2, v2) := ∇y(s0, t0), (u3, v3) := ∇z(s0, t0) とおくことで,(∆s, ∆t) → (0, 0) のとき
y(s0 + ∆s, t0 + ∆t) = y(s0, t0) + u2∆s+ v2∆t+ o(√
∆s2 + ∆t2)
z(s0 + ∆s, t0 + ∆t) = z(s0, t0) + u3∆s+ v3∆t+ o(√
∆s2 + ∆t2)
が成立する.したがってx(s0 + ∆s, t0 + ∆t)y(s0 + ∆s, t0 + ∆t)z(s0 + ∆s, t0 + ∆t)
=
x(s0, t0)y(s0, t0)z(s0, t0)
+
u1∆s+ v1∆tu2∆s+ v2∆tu3∆s+ v3∆t
+
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
(5.1)
⇐⇒−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) =
−→p (s0, t0) + ∆s
u1u2u3
+ ∆t
v1v2v3
+
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
(5.2)
6法線ベクトル −→u ×−→
v (もしくは長さを 1に揃えた単位法線ベクトル (−→u ×−→
v )/∥∥−→u ×−→
v∥∥)も連続に変化する.
こちらをイメージしたほうが接平面が連続に変化する様子が理解しやすい.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 05-6
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
いま
(u1, u2, u3) =
(∂x
∂s(s0, t0),
∂y
∂s(s0, t0),
∂z
∂s(s0, t0)
)=∂−→p
∂s(s0, t0) =
−→u
であり,同様に (v1, v2, v3) =∂−→p
∂t(s0, t0) =
−→v であるから,式 (5.2)より
∥∥−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t)− (−→p0 + ∆s
−→u + ∆t
−→v )∥∥ =
∥∥∥∥∥∥o(
√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
∥∥∥∥∥∥ = o(√
∆s2 + ∆t2).
注意. いま,式 (5.1)はx(s0 + ∆s, t0 + ∆t)y(s0 + ∆s, t0 + ∆t)z(s0 + ∆s, t0 + ∆t)
=
x(s0, t0)y(s0, t0)z(s0, t0)
+
u1 v1u2 v2u3 v3
(∆s∆t
)+
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
o(√∆s2 + ∆t2)
と変形できる.下線部を誤差として無視すると,近似式
−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t)−
−→p (s0, t0) ≈ D
−→p (s0, t0)
(∆s∆t
)を得る.D−→
p (s0, t0) はベクトル値関数−→p =
−→p (s, t) の (s0, t0) におけるヤコビ行列(微分係数)であり,
パラメーターの変化量 (∆s, ∆t) に応じて−→p の変化量は線形写像
(∆s∆t
)7→ D
−→p (s0, t0)
(∆s∆t
)によって近似
されることがわかる.
レポート問題
締め切りは 11月 7日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 5-1. (1次独立性と外積)−→u ,
−→v ∈ R3 に対し,以下がすべて同値(互いに必要十分条件)で
あることを示せ.
(a)−→u と −→
v がともにゼロベクトル −→0 ではなく,平行でもない.
(b) 実数 α, β に対して α−→u + β
−→v =
−→0 が成り立つならば,α = β = 0.
(c)−→u ×
−→v =
−→0 .
問題 5-2. (接平面) 以下で与えられるR3 内の曲面に対し,与えられた点 −→a における接平面のパ
ラメーター表示(−→p =
−→a + s
−→u + t
−→v の形)を求めよ.
(1) S1 :−→p =
−→p (s, t) = (s, t, s2 + t2)
((s, t) ∈ R2
),
−→a =
−→p (1, 2)
(2) S1 :−→p =
−→p (s, t) = (s, t, s2 + t2)
((s, t) ∈ R2
),
−→a =
−→p (0, 0)
(3) S2 :−→p =
−→p (s, t) = (s, t,
√1− s2 − t2)
((s, t) ∈ Ω =
(s, t) | s2 + t2 ≤ 2/3
),
−→a =
−→p (1/
√3, 1/
√3)(注:これは境界点だが接平面は意味を持つ.)
(4) S3 :−→p =
−→p (s, t) = (s+ t, st, s2 + t2) ((s, t) ∈ Ω = (s, t) | t ≤ s− 1),
−→a =
−→p (2, 1)(注:これも境界点だが接平面は意味を持つ.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 05-7
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
問題 5-3. (次回の予習:面積分) 配布された予習用プリントの内容をよく読んで,以下の項目について,定義や条件を適宜補いつつ,合計 2ページから3ページでまとめよ.(次回,これらに関連した課題に取り組みます.)
(1) R3内の滑らかな曲面 S の面積 Area(S) の定義と,面積計算の具体例をひとつ.
(2) R3 上の関数 f : R3 → R の,滑らかな曲面 S 上での面積分の定義と,計算の具体例をひとつ.
(3) R3内のベクトル場 V : R3 → R3 の,滑らかな曲面 S 上での面積分(流束積分)の定義と,計算の具体例をひとつ.
(4) 現実の世界において,関数やベクトル場の曲面上の面積分を用いてどんな量が(近似)計算できるだろうか?具体例をひとつ調べるか,考えよ.
(5) わかりづらかった点とその理由の分析,誤植・計算や論理の間違い.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 06-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
関数(スカラー場)の面積分(11/7)配布日 : 2016年 11月 7日 Version : 1.1
以下,Ω は st平面 R2 内の閉領域を表すものとする 1.
滑らかな曲面と例
復習(滑らかな曲面). 「滑らかな曲面」とは,標語的には
「接平面」がすべての点で存在し,境界点も含めて連続に変化する
ような曲面であった.正確には,R3 内の曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) が「滑らかな曲面」
であるとは,関数 (s, t) 7→−→p (s, t) ∈ R3 がΩ を含む領域で定義されたC1級のベクトル値関数で
あり,すべての (s0, t0) ∈ Ω において,ふたつのベクトル
−→u =
−→ps(s0, t0) :=
∂−→p
∂s(s0, t0),
−→v =
−→pt(s0, t0) :=
∂−→p
∂t(s0, t0)
が一次独立であることをいう.すなわち,−→u × −→
v = −→0 が成り立つことをいう.このとき,点
−→p0 :=
−→p (s0, t0) ∈ S を通り−→
u と −→v で張られる平面
−→q =
−→q (s, t) =
−→p0 + (s − s0)
−→u + (t − t0)
−→v
((s, t) ∈ R2
)のことを −→
p0 における S の「接平面」と呼ぶ 2.実際,∆s := s− s0 と ∆t := t− t0 がともに十分0 に近ければ,近似式
−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) ≈ −→
p0 + ∆s−→u + ∆t
−→v
が成り立つのであった.
例 1(関数のグラフ). Ω 上の C1級関数 f : Ω → R,f = f(s, t) に対し,そのグラフ S を曲面
S :−→p =
−→p (s, t) := (s, t, f(s, t)) ((s, t) ∈ Ω))
によって定義する.このとき−→ps = (1, 0, fs),
−→pt = (0, 1, ft)
(ただし −→ps =
−→ps(s, t), fs = fs(s, t),etc.)はそれぞれ (s, t) ∈ Ω の連続なベクトル値関数であり,
−→ps×
−→pt = (−fs,−ft, 1) =
−→0 .よってグラフは「滑らかな曲面」の条件を満たす.−→p0 =
−→p (s0, t0) =
(s0, t0, f(s0, t0)) における接平面を求めてみよう.−→q = (x, y, z) を変数として接平面の式を書き下
すと,−→q =
−→p0 + s
−→ps(s0, t0) + t
−→pt(s0, t0)
⇐⇒
xyz
=
s0
t0
f(s0, t0)
+ s
1
0
fs(s0, t0)
+ t
0
1
ft(s0, t0)
⇐⇒
x− s0
y − t0
z − f(s0, t0)
=
s
t
sfs(s0, t0) + tft(s0, t0)
⇐⇒ z = f(s0, t0) + (x− s0)fs(s0, t0) + (y − t0)ft(s0, t0).
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 06-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
図 6.1: グラフの面積
法線ベクトルと曲面積 .滑らかな曲面 S の −→p (s0, t0) における接平面は
−→ps(s0, t0) と
−→pt(s0, t0)
で張られていた.このとき,外積−→ps(s0, t0)×
−→pt(s0, t0)はこれらのベクトルに垂直であるから,接
平面そのものにも垂直である.一般に,あるベクトルが外積−→ps(s0, t0)×
−→pt(s0, t0) と平行である
とき,滑らかな曲面 S の −→p (s0, t0) における法線ベクトル (normal vector)という.ようするに,
接平面と垂直なベクトルのことを法線ベクトルと呼ぶのである.
接平面による近似. いま (s0, t0) は Ω の内点であるとし,∆s, ∆t > 0 を
∆Ω :=(s, t) ∈ R2 | s ∈ [s0, s0 + ∆s], t ∈ [t0, t0 + ∆t]
⊂ Ω
となるように選ぶ.このとき,∆s, ∆t が十分に小さければ,曲面 S の対応する部分 ∆S =−→p (∆Ω)
は接平面の断片−→p (s0, t0) + (s− s0)
−→ps(s0, t0) + (t− t0)
−→pt(s0, t0) | (s, t) ∈ ∆Ω
で近似される 3. これはベクトル ∆s
−→ps(s0, t0) と ∆t
−→pt(s0, t0) で張られる平行四辺形を
−→p (s0, t0)
を通るように移動させたものであるから,面積は∥∥(∆s−→ps(s0, t0))× (∆t−→pt(s0, t0))
∥∥ =∥∥−→ps(s0, t0)×−→
pt(s0, t0)∥∥∆s∆t
で与えられる.そこで,以下のように定義する:
図 6.2: 曲面の断片の平行四辺形による近似
1積分を考えるときには,(必要ならもとの集合を無限個に分割することで)Ω が有界であることを仮定する.2このとき,−→
q (s0, t0) =−→p (s0, t0),
−→qs(s0, t0) =
−→ps(s0, t0),
−→q t(s0, t0) =
−→pt(s0, t0) が成り立つ.
3「線分」に対応する言葉として,平面の断片を「面分」とよぶこともある.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 06-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
定義 (曲面の面積) 滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) に対し,関数 −→
p =−→p (s, t) が 1対 1のベクトル値関数であると仮定する.このとき,曲面 S の面積 Area(S)
を重積分Area(S) :=
∫∫Ω
∥∥−→ps(s, t) ×−→pt(s, t)
∥∥ dsdtによって定義する.
注意. ここで 1対 1のベクトル値関数とは,(s, t) = (s′, t′) のとき −→p (s, t) =
−→p (s′, t′) が成り立
つことをいう.また,−→
p =−→p (s, t) がベクトル値関数として C1 級であることから,被積分関数 (s, t) 7→∥∥−→ps(s, t)×−→
pt(s, t)∥∥ は連続である.Ω は有界な閉領域であったから,この重積分は存在し,S
の面積はつねに定まる.
参考(ガウスの記法).E :=−→ps·
−→ps,F :=
−→ps·
−→pt,G :=
−→pt·
−→ptとおく.ただし,これらはすべて (s, t)
の関数であり,E(s, t) :=−→ps(s, t) ·
−→ps(s, t) などと解釈する.このとき
∥∥−→ps ×−→pt∥∥ =
√EG− F 2
が成立するので,Area(S) =
∫∫Ω
√EG− F 2 dsdt
が成り立つ.
面積素.dA :=
∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥ dsdtを面積素 (area element)という.概念的には,微小面積(実数)
∥∥−→ps ×−→pt∥∥∆s∆t を無限小化した
ものなのだが,現時点では,単に複雑な記号を省略して書いているだけだと考えるのがよい.これを用いて,Area(S) =
∫SdA と表すこともある(あとで出てくる関数(スカラー場)の面積分
の特別な場合.)
例 2. 有界な閉領域 Ω 上の関数 f = f(s, t) のグラフの面積は∫∫Ω
√f2s + f2t + 1 dsdt
となる.実際,−→p (s, t) = (s, t, f(s, t)) に対し
∥∥−→ps ×−→pt∥∥ =
∥∥(−fs,−ft, 1)∥∥ =√f2s + f2t + 12 が
成り立つからである.
関数(スカラー場)の面積分
「ベクトル場」は空間の各点にベクトルをひとつずつ対応させたものであり,「ベクトル値関数」と同じものである.同様に空間の各点にスカラー(要するに,ふつうの数)対応させたものを「スカラー場」とよび,これは関数と同じである(例えば気温や密度の分布).
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 06-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
定義 (関数(スカラー場)の面積分) 空間上の連続関数(スカラー場)f : R3 → R, f =
f(−→p ) と滑らかな曲面 S :
−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) に対し,関数 f の曲面 S 上での面
積分 (surface integral)を次の重積分で定義する:∫Sf(
−→p ) dA :=
∫∫Ωf(
−→p (s, t))
∥∥−→ps(s, t) ×−→pt(s, t)
∥∥ dsdt. (6.1)
意味. S は小惑星(の表面)であり,その表面の土地を売買できるとする.土地の単価(地価)は各点 (s, t) で決まっていて,単位面積あたりの地価は連続な関数 f(s, t) で表現されるとしよう.このとき,「関数 f の S 上での面積分」とは小惑星(の表面)全体の価格を意味している.
例 3(グラフの面積). f が定数関数 f(−→p ) ≡ 1 の場合,面積 Area(S) =
∫SdA となる.
例題 6.1 (グラフ上の積分) ベクトル変数 −→p = (x, y, z) に対し,関数 f = f(
−→p ) = z
を考える.R3 内の滑らかな曲面が S :−→p = (s, t, 1 − s − t) ((s, t) ∈ Ω),Ω =
(s, t) ∈ R2 | s ≥ 0, t ≥ 0, s+ t ≤ 1,として与えられているとき,
∫Sf(−→p ) dAを求めよ.
解答.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 06-5
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
レポート問題
締め切りは 11月 14日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 6-1. (滑らかな曲面の中の滑らかな曲線) 集合 Ω を st平面内の閉領域とし,R3内の滑らかな曲面 S :
−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) を考える.ただし,(s, t) 7→
−→p (s, t) 自体は C1級ベクトル値
関数として Ωを含むある領域上で定義されているものとする.いま,Ω が滑らかな曲線 C を含むとき(それは Ω の境界線かもしれない),像 −→
p (C) ⊂ S も R3 内の滑らかな曲線であることを示せ.
問題 6-2. (スカラー場の面積分) 次の関数 f = f(x, y, z) と曲面 S :−→p =
−→p (s, t) に対し,面積分∫
Sf(x, y, z)dA を求めよ.ただし,曲面 S の面積素を dA =
∥∥−→ps ×−→pt∥∥dsdt で表すものとする.
(1) f(x, y, z) = 1, S :−→p =
−→p (s, t) = (r cos s sin t, r sin s sin t, r cos t) (0 ≤ s ≤ 2π, 0 ≤ t ≤ π)
(2) f(x, y, z) = x+ y + z, S :−→p =
−→p (s, t) = (s+ t, s− t, 1) (|s| ≤ 1, |t| ≤ 1)
(3) f(x, y, z) = z2, S :−→p =
−→p (s, t) = (cos s, sin s, t) (0 ≤ s ≤ 2π, |t| ≤ 1)
問題 6-3. (次回の予習) 配布された予習用プリントの内容をよく読んで,以下の項目について,定義や条件を適宜補いつつ,合計 2ページから 3ページでまとめよ.(次回,これらに関連した課題に取り組みます.)
(1) R3内の滑らかな曲面に対し,「パラメーターの取り換え」とは何か説明せよ.また,具体例をひとつ与えよ.
(2) プリントで説明されている「スカラー場の面積分がパラメーター表示に依存しない」とはどういうことか,「ベクトル解析が苦手な人」にわかりやすく解説せよ.また,具体例をひとつ与えよ.
(3) 同様に「ベクトル場の面積分がパラメーター表示に依存しない」とはどういうことか,「ベクトル解析が苦手な人」にわかりやすく解説せよ.また,具体例をひとつ与えよ.
(4) わかりづらかった点とその理由の分析,誤植・計算や論理の間違い.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 07-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ベクトル場の面積分(11/14)配布日 : 2016年 11月 4日 Version : 1.1
以下,Ω は st平面 R2 内の閉領域を表すものとする.
ベクトル場の面積分
復習:スカラー場の面積分.空間上の連続関数(スカラー場)f : R3 → R, f = f(−→p ) に対し,関
数 f の曲面 S 上での「面積分」を∫Sf(−→p ) dA :=
∫∫Ωf(−→p (s, t))
∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥ dsdt (7.1)
と定義した.また,記号の dA もしくは∥∥−→ps(s, t)×−→
pt(s, t)∥∥ dsdt の部分を「面積素」とよぶので
あった 1.
「ベクトル場の面積分」を考える前に,「ベクトル面積素」について考えよう.
法線ベクトルとベクトル面積素. いま滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) の点 −→
p (s, t)
における法線ベクトル(のひとつ)は外積 −→ps(s, t) ×
−→pt(s, t) =
−→0 で与えられた.このとき,曲
面 S の(接平面の)単位法線ベクトル (unit normal vector)は
−→n =
−→n (s, t) :=
−→ps(s, t)×
−→pt(s, t)∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥で与えられることに注意しよう.これをもとに,ベクトル面積素とよばれる「記号」を次で定義する:
d−→A :=
−→n dA (「長さ dA」の法線ベクトル)
=
−→ps(s, t)×
−→pt(s, t)∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥dsdt=(−→ps(s, t)×
−→pt(s, t)
)dsdt.
ベクトル場の表現する「流束」. いま,空間内に連続なベクトル場 V = V (−→p ) ∈ R3 と,滑らか
な曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) が与えられているとする.ただし,パラメーター表示は 1対
1であると仮定しておく 2.いま,S上の関数
S ∋−→p 7→ V (
−→p ) ·
−→n ∈ R :内積
を考えてみよう.なんとなくわかりづらいが,具体的な値としては各 −→p ∈ S に対してパラメー
ター (s, t) ∈ Ω がひとつだけ定まり −→p =
−→p (s, t) と書けるので,関数の値としては V (
−→p ) · −→n :=
V (−→p (s, t)) · −→n (s, t) を計算すればよい.これは,ベクトル V (
−→p ) を曲面の(接平面の)単位法線
ベクトル −→n に正射影したときの長さを計算しているのである.
1本講義における「面積素」は数学的に厳密な概念ではなく,記憶を助け表記を簡略化するための「記号」と解釈している.
21対 1でない場合も,曲面を分割することでそのように仮定できる.ただし,このあとの面積分の定義においては必ずしも 1対 1とは仮定しない.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 07-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
定義 (ベクトル場の面積分) R3 上の連続なベクトル場 V : R3 → R3, V = V (−→p ) と 1
対 1な滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) に対し,ベクトル場 V の曲面 S 上で
の面積分 (surface integral) もしくは流束積分 (flux integral)を次の重積分で定義する:∫SV (
−→p ) · d−→A :=
∫S(V (
−→p ) · −→n ) dA
=
∫∫Ω
V (
−→p (s, t)) ·
−→n (s, t)
∥∥−→ps(s, t) ×−→pt(s, t)
∥∥ dsdt (7.2)
=
∫∫Ω
V (
−→p (s, t)) ·
(−→ps(s, t) ×
−→pt(s, t)
)dsdt. (7.3)
面積分のパラメーターへの非依存性
式 (7.1)と式 (7.3)は曲面 S のパラメーター表示 −→p =
−→p (s, t) に依存しているように見える.座
標やパラメーター表示の取り方はふつう人為的なものであり,測定者が自由に選ぶことができる.もしそのとり方によって面積分の値が恣意的に変えられるのであれば,それを計算する意義そのものに疑問が生じてしまう 3.しかし,パラメーター表示が 1対 1である限り,
スカラー場の面積分はパラメーター表示に依存しない.また,ベクトル場の面積分はパラメーター表示によって符号のみ変わる可能性がある
のである.それを確認しておこう.
パラメーターの取り替え. (集合としての)滑らかな曲面 S に対しふたつの 1対 1なパラメー
3たとえば物理学では,物理的対象 X から何かしらの量が測定者や観測者に依存しない形で取り出せたとき,初めてそれを X 固有の物理量だとみなす.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 07-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ター表示
S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω)
S :−→q =
−→q (u, v) ((u, v) ∈ Ω′)
が与えられているとする.ただし Ω,Ω′ はそれぞれ st平面,uv平面の中の有界な閉領域であり,−→p ,−→
q はそれぞれが S の滑らかな曲面としてのパラメーター表示を与えているものとする.いま,−→
p =−→p (s, t) と −→
q =−→q (u, v) が 1対 1であることから,−→
p (s, t) =−→q (u, v) となる
(s, t) ∈ Ω と (u, v) ∈ Ω′ の間にも 1対 1の対応が存在する.そのような (s, t) から (u, v) への写像 Φ : Ω → Ω′, (u, v) = Φ(s, t) = (
−→q )−1(
−→p (s, t)) を「パラメーターの取り替え」という.
命題 7.1 (ヤコビ行列の存在) パラメーターの取り替えを与える Ω から Ω′ への写像
(u, v) = Φ(s, t) = (−→q )−1(
−→p (s, t)) はC1 級であり,ヤコビ行列DΦ =
(us ut
vs vt
)はΩ の
すべての内点で逆行列を持つ.また,そのヤコビアン detDΦ = usvt− utvs はΩ 上でつねに正の値をとるか,もしくはつねに負の値をとる.
証明は意外と複雑である.レポート問題を参考にして考えてみること.
曲面の向づけ. パラメーターの取り替え (u, v) = Φ(s, t) のヤコビ行列DΦ =
(us ut
vs vt
)に対し,
正または負の値をとるヤコビアン detDΦ = usvt − utvs = 0 が定まる.
(1) ヤコビアン detDΦ = usvt − utvs が Ω 上でつねに正であるとき,向きを保つ (orientation
preserving)パラメーターの取り替えとよび,「パラメーター−→p =
−→p (s, t) と −→
q =−→q (u, v) は
曲面 S に対し同じ向きを定める」という.
(2) ヤコビアン detDΦ = usvt−utvs が Ω上でつねに負であるとき,向きを逆にする (orientation
reversing)パラメーターの取り替えとよび,「パラメーター−→p =
−→p (s, t) と −→
q =−→q (u, v) は
曲面 S に対し逆の向きを定める」という.
曲線の場合,パラメーター表示が異なっていても,集合として一致しかつ同じ向きを持つもつものは「同じ曲線」とみなすのであった.曲面の場合も同様である.パラメーター表示が異なっていても,前者のように集合として一致しかつ同じ向きを定めるものは「同じ曲面」とみなす.一方,後者のように集合として一致しても逆向き担っている場合は「異なる曲面」と考え,たとえば S :
−→p =
−→p (s, t) に対して−S :
−→q =
−→q (u, v) のように表現することもある.
例. Ω = Ω = (s, t) | |s| ≤ 1, |t| ≤ 1 に対し,S :−→p =
−→p (s, t) = (s, t, 0), ((s, t) ∈ Ω) かつ
S :−→q =
−→q (s, t) = (t, s, 0), ((s, t) ∈ Ω) とすると,−→
p (s, t) =−→q (s, t) のとき s = t,t = s.よっ
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 07-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
て写像 (s, t) = Φ(s, t) = (t, s) は detDΦ = −1 をみたす,向きを逆にするパラメーターの取り替えになっている.
命題 7.2 (面積分のパラメーター非依存性 1) 集合としての曲面 S の 1対 1なパラメーター付け−→
p =−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) と−→
q =−→q (u, v) ((u, v) ∈ Ω′),および任意の連続関数
(スカラー場)f : R3 → R, f = f(−→p ) に対し,
I :=
∫∫Ωf(−→p (s, t))
∥∥−→ps(s, t)×−→pt(s, t)
∥∥ dsdtI ′ :=
∫∫Ω′f(−→q (u, v))
∥∥−→qu(u, v)×−→q v(u, v)
∥∥ dudvとおく.このとき,I = I ′ が成り立つ.よって面積分
∫Sf(−→p )dA の値は S のパラメー
ターの取り方に依存しない.
証明のスケッチ.変数変換により,|detDΦ(s, t)|−1∥∥−→ps(s, t)×−→
pt(s, t)∥∥ =
∥∥−→qu(u, v)×−→qv(u, v)
∥∥という関係がある.一方で積分の変数変換の公式からパラメーター平面の面積素について | detDΦ(s, t)|dsdt = dudv
が成り立つ.
命題 7.3 (面積分のパラメーター非依存性 2) 集合としての曲面 S の 1対 1なパラメーター付け−→
p =−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) と−→
q =−→q (u, v) ((u, v) ∈ Ω′),および任意の連続なベ
クトル場 V : R3 → R3, V = V (−→p ) に対し,
J :=
∫∫Ω
V (
−→p (s, t)) ·
(−→ps(s, t)×
−→pt(s, t)
)dsdt
J ′ :=
∫∫Ω′
V (
−→q (u, v)) ·
(−→qu(u, v)×
−→q v(u, v)
)dudv
とおく.このとき,以下が成り立つ:
(1)−→p と −→
q が S に対し同じ向きを定めるとき,J = J ′ が成り立つ.よって面積分∫SV (
−→p ) ·d−→A の値はS の向きを保つパラメーターの取り替えに対して不変である.
(2)−→p と −→
q が S に対し逆の向きを定めるとき,J = −J ′ が成り立つ.よって面積分∫SV (
−→p ) · d−→A の値は S の向きを逆にするパラメーターの取り替えに対して符号
のみ変化する.
証明は命題 7.2 と同様なので,ぜひ自力で考えてみよう.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 07-5
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
レポート問題
締め切りは 11月 21日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 7-1. (ベクトル場の面積分) 次のベクトル場 V = V (x, y, z) ∈ R3 と曲面 S に対し,面積分∫SV · d
−→A を求めよ.ただし,曲面 S のベクトル面積素を d
−→A = (
−→ps ×
−→pt)dsdt で表すものと
する.
(1) V = (x, y, z), S :−→p =
−→p (s, t) = (s, t,
√1− s2 − t2)
(s2 + t2 ≤ 1
),
(2) V = (x, y,−y), S :−→p =
−→p (s, t) = (cos s, sin s, t) (0 ≤ s ≤ 2π, |t| ≤ 1)
問題 7-2. (パラメーターの取替え) Ω,Ω′ をそれぞれ st平面,uv平面の中の有界な閉領域とする.Ω上の C1級関数 f = f(s, t) のグラフ
S :−→p =
−→p (s, t) = (s, t, f(s, t)) ((s, t) ∈ Ω)
は,別の 1対 1なパラメーター表示
S :−→q =
−→q (u, v) ((u, v) ∈ Ω′)
に関しても滑らかな曲面になっていると仮定する.このとき,パラメーターの取り替えを与える写
像 Φ : Ω → Ω′, (u, v) = Φ(s, t) = (−→q )−1(
−→p (s, t)) は C1 級であり,ヤコビ行列DΦ =
(us ut
vs vt
)は Ω のすべての内点で逆行列を持つことを示せ.
注意. グラフでない一般の滑らかな曲面のパラメーターの取替えが C1 級であることを示すには,一般に『滑らかな曲面はいくつかのタイプの関数(z = f(x, y), y = g(x, z),x = h(y, z) の形)のグラフを張り合わせたもので表現できる』という事実を用いて上の問題に帰着させればよい.
問題 7-3. (テスト対策) 想像力と情報力を駆使して次回 (11/21)の筆記試験の予想問題 1問とその解答を作成せよ.(もっとも近似のよい問題を作った人には賞品贈呈します.)
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があればメールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 09-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ベクトル場の回転とストークスの定理(12/19, 1)配布日 : 2016年 12月 19日 Version : 1.1
回転と単純な曲面
ベクトル場の回転(復習). 以下,V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 を C1級ベクトル値関数(ベクトル場)とする.このとき,
rotV = ∇ × V :=
(∂V3
∂y−
∂V2
∂z,∂V1
∂z−
∂V3
∂x,∂V2
∂x−
∂V1
∂y
)= (∂2V3 − ∂3V2, ∂3V1 − ∂1V3, ∂1V2 − ∂2V1)
(ただし ∇ = (∂x, ∂y, ∂z) = (∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z) = (∂1, ∂2, ∂3)) として定まるベクトル場 rotV =
∇× V をベクトル場 V の回転 (rotation) とよぶのであった.
単純な曲面. R3 内の滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) が単純な曲面 (simple surface)
であるとは,以下の条件を満たすことをいう 1:
• Ω は st平面上の有界な閉領域であり,その境界 ∂Ω は区分的に滑らかな単純閉曲線.
• −→p =
−→p (s, t)は Ωを含むある領域上で定義されており,Ω上では1対1なC2級ベクトル値関数.
• ∂S :=−→p (∂Ω) は R3 内の区分的に滑らかな単純閉曲線.
• 曲線 ∂S には図のように,S の法線ベクトル −→ps ×
−→pt といわゆる「右ねじの法則」から定
まる「自然な」向きが決まる 2:
ストークスの定理
以上の条件のもと,次の定理が成り立つ:
定理 9.1 (ストークスの定理) 単純な曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) と任意の C1級
ベクトル場 V : R3 → R3 に対し,次の等式が成り立つ:∫SrotV (
−→p ) · d−→A =
∫∂S
V (−→p ) · d−→p (9.1)
すなわち,左辺の面積分の値は右辺の線積分の値と一致する.
1本講義だけで用いる便宜的な用語.予習用プリントから少し条件を変更した(下線部)ので注意!!2これは図を用いた直観的な定義だが,厳密な定義はどのように与えればよいだろうか?各自考えてみよう.(Hint:
まずは Ω も空間内の集合だと考えて,Ω と ∂Ω の「向き」を決めてみる.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 09-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
注意. 曲面 S の境界線 ∂S が 2つ以上の区分的に滑らかな単純閉曲線 C1, C2, · · · , CN からなる場合(たとえば球面から円柱をくりぬいたものなど.曲線の向きは曲面の法線ベクトルから「自然に」決まるものを選ぶ)についても,ストークスの定理は次の形で成り立つ:∫
SrotV (
−→p ) · d−→A =
N∑k=1
∫Ck
V (−→p ) · d−→p
さらに,ストークスの定理は単純な曲面を境界の曲線で張り合わせてできるような曲面(集合)についても成り立つ.(たとえば,直方体の表面に円板上の穴をあけたものなど.)これらの一般化は,与えられた曲面を適当に有限個の単純な曲面に分割することで証明できる.
注意. ストークスの定理は「グリーンの定理」を拡張したものだと考えられる(理由を考えてみよ).また,「ハイキングの原理」も特別な場合として含んでいる.その理由も考えてみよ.
無限小版ストークスの定理(回転の意味)
ストークスの定理が成立する「原理」を,「無限小レベルで」確かめてみよう.
加法性. いま単純閉曲線 ∂S 上から勝手に異なる 2点を選び,それら 2点を結ぶ滑らかな曲線 L
を端点以外が S − ∂S に含まれるように選ぶ 3.このとき S は 2つの曲面 S1 と S2 を曲線 C に沿って結合したものになっており,境界 ∂S1 と
∂S2 もそれぞれ単純閉曲線になっている.したがって,面積分について∫S=
∫S1
+
∫S2
が成り立ち,境界での線積分についても,L 上で積分が相殺されることから∫∂S
=
∫∂S1
+
∫∂S2
が成り立つ.したがってストークスの定理は,与えられた曲面 S を十分に細かく分割して単純な形となった曲面の小片について証明すれば良いことがわかる.
微小な正方形でのストークスの定理. いま任意に小さな ϵ > 0 と (s0, t0) ∈ Ω = Ω− ∂Ω をひとつ固定し,一辺 ϵ の正方形上の閉領域
Ω(ϵ) :=(s, t) ∈ R2 | s0 ≤ s ≤ s0 + ϵ, t0 ≤ t ≤ t0 + ϵ
が Ω に含まれるとする.(いま ϵ は固定はしているが,ϵ → +0 とした極限を考えるためのパラメーターでもあると意識しておこう.)
曲面の近似.ここで,S(ϵ) := −→p (Ω(ϵ)) ⊂ S の形状について考えてみよう.いま −→
p0 :=−→p (s0, t0),−→
u :=−→ps(s0, t0),
−→v :=
−→pt(s0, t0) とおくと,0 ≤ ∆s ≤ ϵ, 0 ≤ ∆t ≤ ϵ のとき
−→p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) =
−→p0 + ∆s
−→u + ∆t
−→v +
−→o (√
∆s2 + ∆t2)誤差
3このとき,パラメーター集合 Ω は L =−→p (C) を満たす曲線 C を含む.L が滑らかであれば C も滑らかであり,
その面積はゼロである.したがって L 自体はスカラー場やベクトル場の面積分には一切寄与しない.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 09-3
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の形で表される.ここで,−→o (
√∆s2 + ∆t2) とはすべての成分が (s, t) の関数として o(
√∆s2 + ∆t2)
と表されるようなベクトルを表す.(そのようなベクトルの長さも o(√∆s2 + ∆t2) と表されること
に注意.)また,√∆s2 + ∆t2 ≤
√2ϵ であるから,−→
o (√∆s2 + ∆t2) を −→
o (ϵ) と表すことにしよう.すなわち,ベクトル −→
p (s0 + ∆s, t0 + ∆t) はベクトル −→p0 + ∆s
−→u + ∆t
−→v で近似されるが,その誤
差の大きさ(誤差に相当するベクトルの長さ)は,正方形の一辺の長さ ϵ をスケールの基準としたとき,o(ϵ) 程度である.特に,「相対誤差」(全体量に占める誤差の割合,%)はいくらでも小さくできるということである.0 ≤ ∆s ≤ ϵ, 0 ≤ ∆t ≤ ϵ のとき,ベクトル −→
p0 + ∆s−→u + ∆t
−→v は「−→
p0 を始点として,ϵ−→u と ϵ
−→v
で張られる平行四辺形 P (ϵ)」上を動く.ϵ が極めて小さいとき,P (ϵ) と S(ϵ) はほとんど区別がつかなくなる.もちろん,境界の ∂S(ϵ) も平行四辺形の周 ∂P (ϵ) によって近似される.
ベクトル場の近似. 次に積分の対象であるベクトル場の近似を考えてみよう.いま与えられたベクトル場 V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 は C1 級関数であるから,ヤコビ行列 DV (
−→p ) (3 × 3 行
列)を考えることができる.とくに ∆−→p →
−→0 であるとき,
V (−→p0 + ∆
−→p ) = V (
−→p0) +DV (
−→p0)∆
−→p +
−→o (∥∥∆−→p )
∥∥)と書ける.ただし 3次元ベクトルはすべて 3 × 1 行列(縦ベクトル)とみなす.上の議論により−→p =
−→p0 + ∆
−→p が ∂S(ϵ) 上を動くとき
∥∥∆−→p ∥∥ = o(ϵ) であり,誤差ベクトル −→o (∥∥∆−→p ∥∥) の長さは
o(ϵ) となる.したがって,S(ϵ) 上では(1次)近似式 V (−→p ) ≈ V (
−→p0) + DV (
−→p0)∆
−→p が成り立
つ.より詳しく,ヤコビ行列を J0 := DV (−→p0) = (Jij) とおき,
−→p = (x, y, z),−→
p0 = (x0, y0, z0),−→V 0 = V (
−→p0) = (V1,0, V2,0, V3,0) とすれば,ベクトル場は
V (−→p ) ≈ −→
V 0 + J0(−→p −−→
p0) =
V1,0 + J11(x− x0) + J12(y − y0) + J13(z − z0)
V2,0 + J21(x− x0) + J22(y − y0) + J23(z − z0)
V3,0 + J31(x− x0) + J32(y − y0) + J33(z − z0)
という 1次関数で近似されるのである.
微小曲面上での面積分の近似.
以上の近似における誤差部分を無視して,次の状況でストークスの定理が成立することを確認しよう.
命題 9.2 (“無限小ストークスの定理”) ある正の定数 ϵ,ベクトル−→p 0,
−→V 0 ∈ R3,−→
u ×−→v =
−→0 を満たすベクトル −→
u ,−→v ∈ R3,3 × 3行列 J0 に対して,曲面 S とベクトル
場 V を
• S = P (ϵ) :−→p =
−→p0 + s
−→u + t
−→v ((s, t) ∈ Ω(ϵ)):すなわち,曲面は平行四辺形.
• V (−→p ) =
−→V 0 + J0(
−→p −
−→p0):すなわち,ベクトル場は「1次関数」.
と定める.このときストークスの定理(定理 9.1)が成り立つ.
証明. いま J0 = (Jij) と成分で表すと,回転は
rotV (−→p ) = (J32 − J23, J13 − J31, J21 − J12) = rotV (
−→p0)
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という一定のベクトルになることに注意しよう.したがって,ストークスの定理の左辺は∫S
rotV (−→p ) · d
−→A =
∫∫Ω(ϵ)
rotV (−→p0) · (
−→u ×
−→v )dsdt = ϵ2 rotV (
−→p0) · (
−→u ×
−→v )
となる.つぎにストークスの定理の右辺の線積分を計算しよう.S = P (ϵ) の境界線を次のように分割する:同じ
パラメーター t ∈ [0, ϵ] に対し,
C1 :−→p =
−→p0 + t
−→u (0 ≤ t ≤ ϵ)
C2 :−→p =
−→p0 + ϵ
−→u + t
−→v (0 ≤ t ≤ ϵ)
C3 :−→p =
−→p0 + ϵ(
−→u +
−→v )− t
−→u (0 ≤ t ≤ ϵ)
C4 :−→p =
−→p0 + ϵ
−→v − t
−→v (0 ≤ t ≤ ϵ).
このとき, ∫C1
V (−→p ) · d−→p =
∫ ϵ
0
V (−→p (t)) · d
−→p
dtdt =
∫ ϵ
0
−→V 0 + J0(t
−→u )· −→u dt
=
∫ ϵ
0
−→V 0 ·
−→u + t (J0
−→u ) ·
−→udt
= ϵ−→V 0 ·
−→u +
ϵ2
2(J0
−→u ) · −→u .
同様に計算すれば, ∫C2
V (−→p ) · d
−→p = ϵ
−→V 0 ·
−→v + ϵ2
(J0
−→u ) ·
−→v +
1
2(J0
−→v ) ·
−→v.∫
C3
V (−→p ) · d−→p = −ϵ−→V 0 ·
−→u − ϵ2
(J0
−→v ) · −→u +
1
2(J0
−→u ) · −→u
.∫
C4
V (−→p ) · d
−→p = −ϵ
−→V 0 ·
−→v − ϵ2
2(J0
−→v ) ·
−→v .
となるから, ∫∂S
V (−→p ) · d−→p =
∫C1
+
∫C2
+
∫C3
+
∫C4
= ϵ2(J0
−→u ) ·
−→v − (J0
−→v ) ·
−→u.
したがって,rotV (
−→p0) · (
−→u ×
−→v ) = (J0
−→u ) ·
−→v − (J0
−→v ) ·
−→u
であることを確認すればストークスの定理が確認できる.この等式の確認は練習問題としよう.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 10-1
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ストークスの定理の証明 (12/19, 2)配布日 : 2016年 12月 19日 Version : 1.1
次の「ストークスの定理」に証明を与えよう.
定理 9.1(ストークスの定理,再).単純な曲面 S :−→p =
−→p (s, t) ((s, t) ∈ Ω) と任意の
C1級ベクトル場 V : R3 → R3 に対し,次の等式が成り立つ:∫SrotV (
−→p ) · d−→A =
∫∂S
V (−→p ) · d−→p (10.1)
ストークスの定理(定理 9.1)の証明
ステップ 1. まず前回解説した「加法性」により,曲面 S を十分に小さく分割したものについて証明すればよい.このとき,分割した一つ一つの曲面は「2変数関数の 3次元グラフ」になっていると仮定してよい.すなわち区分的に滑らかな閉曲線で囲まれた閉領域 Ω とその上の C2級関数f : Ω → R を用いて
(ア)S :−→p =
−→p (x, y) = (x, y, f(x, y)), (x, y) ∈ Ω ⊂ R2
(イ)S :−→p =
−→p (y, z) = (f(y, z), y, z), (y, z) ∈ Ω ⊂ R2
(ウ)S :−→p =
−→p (z, x) = (x, f(z, x), z), (z, x) ∈ Ω ⊂ R2
のいずれかの形であると仮定してよい(→レポート問題参照).これらの違いは本質的に軸の名前の付け方の違いだけであるから,(ア)の場合に定理を証明すれば十分である.
ステップ2:面積分の計算. 曲面が(ア)の形で与えられる関数の 3次元グラフの場合,−→px =
(1, 0, fx),−→py = (0, 1, fy) より
d−→A = (
−→px ×
−→py)dxdy =
−fx−fy1
dxdy.
一方,ベクトル場 V = (V1, V2, V3) に対し rotV = (∂2V3 − ∂3V2, ∂3V1 − ∂1V3, ∂1V2 − ∂2V1) (ただし (∂x, ∂y, ∂z) = (∂1, ∂2, ∂3))であるから,式 (10.1)左辺の面積分は∫
SrotV (
−→p ) · d−→A =
∫Ω(∂2V3 − ∂3V2)(−fx) + (∂3V1 − ∂1V3)(−fy) + (∂1V2 − ∂2V1)dxdy
(10.2)
となる.ただし,たとえば ∂2V3 とは,3変数関数 V3 = V3(x, y, z) を y に関して偏微分して得られる関数 ∂2V3 = ∂2V3(x, y, z) に曲面 S の点 (x, y, f(x, y)) を代入して得られる 2変数関数である.すなわち,∂2V3 = ∂2V3(x, y, f(x, y)) を意味する.
ステップ3:線積分の計算.次に式 (10.1)右辺の線積分を考えよう.境界を ∂S :−→p =
−→p (t) (α ≤
t ≤ β) とパラメーター表示すると,∫∂SV (
−→p ) · d−→p =
∫ β
αV (
−→p (t)) · d
−→p
dt(t) dt (10.3)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 10-2
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これを成分で−→p (t) = (x(t), y(t), f(x(t), y(t))) と表すとき,
d−→p
dt=
(dx
dt,dy
dt,∂f
∂x
dx
dt+∂f
∂y
dy
dt
)であるから 1,式 (10.3)右辺の被積分関数は
V (−→p (t)) · d
−→p
dt(t) = V1
dx
dt+ V2
dy
dt+ V3
(∂f
∂x
dx
dt+∂f
∂y
dy
dt
)= (V1 + V3fx)
dx
dt+ (V2 + V3fy)
dy
dt
となる.ただし,たとえば V1 とは 3変数関数 V1 = V1(x, y, z)に ∂S の点 (x(t), y(t), f(x(t), y(t)))
を代入して得られる t に関する 1変数関数である.すなわち,V1 = V1(x(t), y(t), f(x(t), y(t))) を意味する.fx も同様に,fx(x(t), y(t)) を意味する.ここで k = 1, 2, 3 に対して Vk(x, y) := Vk(x, y, f(x, y)) とおくと,たとえば
V1(x(t), y(t), f(x(t), y(t)))dx
dt(t) dt = V1(x, y, f(x, y)) dx = V1(x, y) dx
といった解釈ができるから,∫∂SV (
−→p ) · d−→p =
∫∂Ω
(V1 + V3fx) dx+ (V2 + V3fy) dy
=∗
∫Ω
∂
∂x(V2 + V3fy)−
∂
∂y(V1 + V3fx)
dxdy. (10.4)
ただし,V1 + V3fx とは関数 V1(x, y) + V3(x, y)fx(x, y) のことである.また,=∗ のところで 2変数関数に関するグリーンの定理を用いた(Vk が C1 級であること,f が C2 級であることから,線積分の被積分関数が C1級となりグリーンの定理が適用できる.)したがって,式 (10.4)の被積分関数が式 (10.2)右辺の重積分の被積分関数と一致することを確認すれば定理の証明が終わる.
そこでまず,k = 1, 2, 3 に対して∂Vk∂x
(x, y) を計算してみよう.y を固定し定数と思い,関数
x 7→ Vk(x, y) = Vk(x, y, f(x, y)) を関数 xあ7−→ (x, y, f(x, y)) と関数 (x, y, z)
い7−→ Vk(x, y, z) の
合成関数と考える.その微分は関数「あ」の(曲線としての)速度ベクトル∂
∂x(x, y, f(x, y)) =
(1, 0, fx(x, y)) と関数「い」の勾配ベクトル∇Vk = (∂1Vk, ∂2Vk, ∂3Vk) の内積であるから,
∂Vk∂x
(x, y) =
1
0
fx(x, y)
·
∂1Vk(x, y, f(x, y))∂2Vk(x, y, f(x, y))
∂3Vk(x, y, f(x, y))
= ∂1Vk(x, y, f(x, y)) + ∂3Vk(x, y, f(x, y)) fx(x, y)
となる.これを (Vk)x = ∂1Vk + (∂3Vk)fx などと略記しよう.同様に (Vk)y = ∂2Vk + (∂3Vk)fy が成り立つから,式 (10.4)の被積分関数は
(V2 + V3fy)x − (V1 + V3fx)y
=(V2)x + (V3)xfy + V3fyx
−(V1)y + (V3)yfx + V3fxy
=∂1V2 + (∂3V2)fx+ ∂1V3 + (∂3V3)fxfy − ∂2V1 + (∂3V1)fy − ∂2V3 + (∂3V3)fyfx=(∂2V3 − ∂3V2)(−fx) + (∂3V1 − ∂1V3)(−fy) + (∂1V2 − ∂2V1)
と変形できる.ただし,f が C2 級であることから fxy = fyx が成り立つことを用いた.これは式 (10.2)右辺の被積分関数と一致する.
1正確にはd
dt
−→p (t) =
(dx
dt(t),
dy
dt(t),
∂f
∂x(x(t), y(t))
dx
dt(t) +
∂f
∂y(x(t), y(t))
dy
dt(t)
)と書くべき.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 10-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
レポート問題(今回も間があくので少し多めです)
締め切りは 1月 16日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)
問題 10-1. (グラフでの表現) Ω を st 平面 R2 内の閉領域とする.滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t) = (x(s, t), y(s, t), z(s, t)) ((s, t) ∈ Ω) が与えられている.いま (s0, t0) を Ω の内点とし,点
−→p0 :=
−→p (s0, t0) における法線ベクトル
−→ps(s0, t0) ×
−→pt(s0, t0) の第三成分(z成分)は 0 でな
いと仮定する.このとき,(s0, t0) 中心の閉円板 D ⊂ Ω,xy平面上の閉領域 D′,D′ 上の C1級関数 f : D′ → R で,次を満たすものが存在することを示せ:−→
p =−→p (s, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ D
=(x, y, f(x, y)) ∈ R3 | (x, y) ∈ D′.
すなわち,S の−→p0 を含むある断片は関数 f のグラフとして表される.(Hint:第 1,第 2成分に
着目して逆関数定理を適用する.)
注意. 一般に「滑らかな曲面」という条件から法線ベクトルはゼロベクトルではない.すなわち,いずれかの成分は 0 ではない.よって上の問題と同様の議論により,滑らかな曲面は局所的には(ア)~(ウ)のいずれかの形のグラフとして表現されることがわかる..
ちなみに,ストークスの定理の証明では与えられた滑らかな曲面に対して実際に有限個のグラフへの分
割を与える必要がある.証明を考えてみるとよいだろう 2
問題 10-2. (ストークスの定理) 次のベクトル場 V と曲面 S に対し,ストークスの定理を用いて
積分∫SrotV (
−→p ) · d
−→A を求めよ.
(1) V (x, y, z) = (y,−x, x3y2z), S : x2 + y2 + 3z2 = 1, z ≤ 0.
(2) V (x, y, z) = (1 + y + z,−x+ 2z, 2 + x), S :−→p (s, t) = (s, t, s+ t), 0 ≤ s ≤ 1, 0 ≤ t ≤ 1
問題 10-3. (ストークスの定理)
(1) 空間内の単純な曲面 S に対し,∫∂Sx dx+ y dy + z dz = 0
を示せ.
(2) 曲線 C を円柱(x, y, z) | x2 + y2 = 1
と平面 3x+ 2y + z = 2 の交線とし,向きは平面の
法線ベクトル (3, 2, 1) から自然に定まるものをとる 3.このとき線積分∫Cx5 dx+ x3 dy + z6 dz
を計算せよ.
問題 10-4. (次回の予習:ガウスの発散定理) 配布された予習用プリントの内容をよく読んで,以下の項目について,定義や条件を適宜補いつつ,合計 2ページから3ページでまとめよ.(次回,これらに関連した課題に取り組みます.)
2まずは「滑らかな曲線が有限個の(x軸もしくは y 軸方向の)グラフに分割できる」ことを証明してみよう(小平「解析入門」p.337).
3C を平面 z = 0 に射影したとき,xy 平面の単位円を反時計回りに回っているように見える向きと一致する
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 10-4
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(1) R3内の「線領域」の定義とその具体例,および「線領域ではない領域」の例.
(2) R3内の「単純な閉領域」の定義と「単純ではない閉領域」の例.
(3) R3内の球体(球面で囲まれた閉領域)は単純であることを示せ.
(4) 「ガウスの発散定理」の主張と,その自明でない具体例(たとえば V =−→0 はだめ).
(5) 「無限小ストークスの定理」(命題 9.2)の真似をして,「無限小ガウスの発散定理」を作れ.(余力があれば証明もつける.)
(6) (予習プリントで)わかりづらかった点とその理由の分析,誤植・計算や論理の間違い.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があれば
メールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合
はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 11-1
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発散とガウスの発散定理(1/16)配布日 : 2017年 1月 16日 Version : 1.1
ベクトル場の発散
空間内に気体や液体の流れがあるとき,各点でその速度ベクトルが定まる.(したがって,ベクトル場が定まる.)このとき,各点での局所的な流れを観察して,その点で「単位体積あたりの流出(流入)量」を
計算してみよう 1.
以下では,「流入」は「負の流出」と解釈することにする.
流量を測るセッティング. C1級ベクトル場(ベクトル値関数)V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 と点−→p0 = (x0, y0, z0) が与えられているとする.また,十分に小さな ϵ > 0 を固定し,次で与えられる立方体(閉区画)を考える:
Q = Q(ϵ) :=(x0 + ∆x, y0 + ∆y, z0 + ∆z) ∈ R3 | ∆x, ∆y, ∆z ∈ [0, ϵ]
.
その境界 ∂Q は 6つの正方形の和集合である.x軸と垂直な面がふたつあるが,x座標が x0 であるほうを S−
1 ,x0 + ϵ であるほうを S+1 とする.同様に,y軸と垂直な面ふたつのうち,y座標が
y0 であるほうを S−2 ,y0 + ϵ であるほうを S+
2 とする.また,z軸と垂直な面ふたつのうち,z座標が z0 であるほうを S−
3 ,z0 + ϵ であるほうを S+3 とする.
すなわち,
∂Q =3∪
k=1
(S+k ∪ S−
k
).
また,R3 の標準基底を−→e1 = (1, 0, 0),
−→e2 = (0, 1, 0),
−→e3 = (0, 0, 1)とおくとき,S±
k (k = 1, 2, 3)
の向き(法線ベクトル)は ±−→ek と平行になるようにとる(図).すなわち,「Q から外にでる」方
向を各面の向きであると考える.
1「単位体積あたりの流出(流入)量」といってもなかなかイメージがわかないだろうから,ベクトル場とはあまり関係のない例をひとつ.東京都のある 1 年間の人口の増減(出生・死亡数は除く)を考えてみよう.それは,他県や海外から東京都へ移住する人の数から,逆に他県や海外へと移住する人の数の差である.それの増減数を東京都の面積(km2)で割ったものが単位面積(1km2)あたりの人口の流出(流入)量である.同様のことを,水槽の中の小魚の群れで考えたり,容器の中の気体の分子で考えたりすれば,ちょっとずつ「単位体
積あたりの流出(流入)量」のイメージがつかめてくると思う.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 11-2
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流出量の収支. ベクトル場 V が表現する「流れ」に対し,x 軸方向の「流出量」の収支を局所的に計算してみよう.(Q への「流入」は「負の流出」と解釈することに注意.)単位時間当たりに
S+1 を通過する「流れ」の体積が面積分
∫S+1
V (−→p ) · d
−→A であったことを思い出すと,
[x軸方向の流出量の収支] :=
∫S+1
V (−→p ) · d−→A +
∫S−1
V (−→p ) · d−→A
=
∫S+1
V (−→p ) · −→e1dA+
∫S−1
V (−→p ) · (−−→
e1)dA
=
∫S+1
V1(−→p )dA−
∫S−1
V1(−→p )dA = (∗).
ここで,V1 はベクトル場 V の第 1成分の関数であった.その S+1 上での面積分
∫S+1
V1(−→p )dA は
重積分∫∫
[0,ϵ]×[0,ϵ]V1(x0 + ϵ, y0 + s, z0 + t) dsdt として計算できる.同様にして S−
1 上の面積分も
計算すれば,上の式に続けて
(∗) =∫∫
[0,ϵ]×[0,ϵ]V1(x0 + ϵ, y0 + s, z0 + t)− V1(x0, y0 + s, z0 + t) dsdt
となる.関数 V1 は C1級であったから,平均値の定理より,各 (s, t) ∈ [0, ϵ] × [0, ϵ] に対し,ある η ∈ (0, ϵ) が存在して,
V1(x0 + ϵ, y0 + s, z0 + t)− V1(x0, y0 + s, z0 + t) = ∂xV1(x0 + η, y0 + s, z0 + t) ϵ
とかける.さらに ϵ をパラメーターとして考えたとき,関数 ∂xV1 : R3 → R は連続であるから,ϵ→ +0 のとき(η, s, t→ +0 となるので)
∂xV1(x0 + η, y0 + s, z0 + t) = ∂xV1(x0, y0, z0) + o(1)
と表されることに注意しよう.よって,
[x軸方向の流出量の収支] =
∫∫[0,ϵ]×[0,ϵ]
∂xV1(x0, y0, z0) + o(1) ϵ dsdt
= ∂xV1(x0, y0, z0) ϵ3 + o(ϵ3)
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を得る.同様に y軸方向,z軸方向での流出量の収支を計算し合算すれば,
[Q = Q(ϵ)での単位体積あたりの流出量] :=[Q上での流出量の収支]
[Qの体積]
=(∂xV1 + ∂yV2 + ∂zV3)(x0, y0, z0)ϵ
3 + o(ϵ3)
ϵ3
= (∂xV1 + ∂yV2 + ∂zV3)(x0, y0, z0) + o(1)
→ div V (−→p0) (ϵ→ +0).
これがベクトル場の発散の値の意味である.ごく大雑把に言うと,−→p0 の十分近くにある閉領域 M
では,そこでの単位時間における流出量はほぼ div V (−→p0) に M の体積に掛けたものだと考えて
よい.
無限小版「ガウスの発散定理」
これから学ぶ「ガウスの発散定理」(定理 11.2)とは,3次元閉領域 M がそれほど複雑ではない境界 ∂M もつとき,与えらえた C1級ベクトル場 V に対し等式∫∫∫
Mdiv V (
−→p ) dxdydz =
∫∂M
V (−→p ) · d
−→A (11.1)
が成り立つ,というものである.「無限小ストークスの定理」と同じアイディアで,ベクトル場を 1次近似したものに対してこ
の後で述べる「ガウスの発散定理」の「無限小版」が成立することを確認してみよう.C1級ベクトル場 V : R3 → R3 の点
−→p0 におけるヤコビ行列 DV (
−→p0) を J = (Jij) とおくと,
ベクトル場W =W (
−→p ) := V0 + J(
−→p −−→
p0)
(ただし V0 := V (−→p0),R3 の元は縦ベクトルと見なす)はベクトル場 V を 1次近似したベクトル
場だと考えられる.いま Q = Q(ϵ) を上のようにとるとき,次が成り立つ:
定理 11.1 (無限小版ガウスの発散定理) 上のベクトル場 W と閉領域(立方体) Q =
Q(ϵ) に対し,次の等式が成り立つ:∫∫∫QdivW (
−→p ) dxdydz =
∫∂Q
W (−→p ) · d
−→A . (11.2)
与えられた閉領域 M を無数の微小な立方体で埋め尽くせば,それぞれの立方体では V とその 1
次近似は微小な誤差しかない.よって微小な誤差を除けば,「無限小版ガウスの発散定理」の足しあわせとして一般の「ガウスの発散定理」が成り立つように思われる 2.
証明のスケッチ. divW = J11 + J22 + J33 = tr J は定数関数であるから,式 (11.2)の左辺の積分の値は (trJ)ϵ3.式 (11.2)の右辺の面積分は前節の流量の計算と同様にして,x 方向について∫
S+1
W (−→p ) · d−→A +
∫S−1
W (−→p ) · d−→A =
∫∫[0,ϵ]×[0,ϵ]
(∫ ϵ
0J11 dx
)dydz = J11ϵ
3
と計算できる.y, z 方向と合わせると式 (11.2)の右辺の面積分も (trJ)ϵ3 となる. 2M がレゴブロックでできた立体のような形(『マインクラフト』の世界の物体?)ならそのような議論はうまくい
くが,一般には話はそれほど簡単ではない.境界での面積分を正しく近似するためには,うまく「四面体で」埋め尽くさなくてはならないからである.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 11-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ガウスの発散定理
線領域. まずは平面における「タテ線領域」,「ヨコ線領域」の概念を 3次元に拡張しよう.ある区分的に滑らかな単純閉曲線で囲まれた R2 の閉領域 Ω と,すべての (s, t) ∈ Ω に対して
ϕ1(s, t) ≤ ϕ2(s, t) を満たすふたつの C1 級関数 ϕ1, ϕ2 : Ω → R が存在し,
K =(s, t, z) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ z ≤ ϕ2(s, t)
と表されるような有界閉集合 K を z方向の線領域 (line domain) とよぶことにする 3.ようするに,関数 z = ϕ2(x, y) と z = ϕ1(x, y) のグラフで囲まれた領域である.「x 方向の線領域」「y 方向の線領域」も同様に
K ′ =(x, s, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ x ≤ ϕ2(s, t)
および
K ′′ =(s, y, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ y ≤ ϕ2(s, t)
の形で表現される有開閉集合として定義される.いま有界な閉領域 M ⊂ R3 が単純 (simple)であるとは,以下を満たすことをいう:
• M の境界 ∂M は有限個の C1級曲面の和集合になっている.
• M は有限個の x方向の線領域の和集合に「分割」される.
• M は有限個の y方向の線領域の和集合に「分割」される.
• M は有限個の z方向の線領域の和集合に「分割」される.
「分割」の意味は次回正確に定義する.
例. 立方体,球体,円柱,円錐などは,すべて単純である.
発散定理. このとき,次が成り立つ:
定理 11.2 (ガウスの発散定理) V : R3 → R3 を C1 級のベクトル場とし,M ⊂ R3 を単純な有界閉領域とする.このとき,次が成り立つ:∫∫∫
Mdiv V (
−→p ) dxdydz =
∫∂M
V (−→p ) · d
−→A . (11.3)
ただし,∂M の向きは M の内部から外部へ抜ける向きとする.
注意. 式 (11.3)左辺の積分記号 3重積分∫∫∫
M
は∫M
と,体積要素を表す dxdydz は dµ と略記するこ
ともある.
レポート問題
締め切りは 1月 23日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)問題 11-1. (発散定理) ガウスの発散定理を用いて,次の曲面 S 上で,ベクトル場 V (x, y, z) =
(x3, 0, 3z2) の面積分∫SV · d−→A を計算せよ.
3これはこの講義だけで用いる便宜的な用語.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 11-5
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
(1) 球面 S =(x, y, z) | x2 + y2 + z2 = 1
. ただし,向きは半径方向(球面の外に出る向き)と
する.
(2) 円柱(x, y, z) | x2 + y2 ≤ 1, 0 ≤ z ≤ 1
の境界面(上面・底面・側面すべて合わせたもの)
S.ただし,向きは円柱内部から外部へ向かう方向とする.
問題11-2. (無限小版ガウスの発散定理のさらに四面体版) 互いに 1次独立なベクトル−→a ,
−→b ,
−→c ∈
R3 を固定し,
T = T (ϵ) :=−→p0 + ϵ
s−→a + t
−→b + u
−→c| s, t, u ∈ [0, 1], s+ t+ u ≤ 1
と定める.境界面 ∂T は T の内部から外側に出る向きとなるように選ぶ.このとき定理 11.1において Q(ϵ) を T = T (ϵ) に置き換えたものが成立することを示せ.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があれば
メールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合
はあとでメールで連絡いただければポイント加算します.)
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 12-1
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
ガウスの発散定理の証明 (1/23)配布日 : 2017年 1月 23日 Version : 1.1
ガウスの発散定理(再)
線領域. まずは平面における「タテ線領域」,「ヨコ線領域」の概念を 3次元に拡張しよう.ある区分的に滑らかな単純閉曲線で囲まれた R2 の閉領域 Ω と,すべての (s, t) ∈ Ω に対して
ϕ1(s, t) ≤ ϕ2(s, t) を満たすふたつの連続関数 ϕ1, ϕ2 : Ω → R が存在し,
K =(s, t, z) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ z ≤ ϕ2(s, t)
と表されるような有界閉集合 K を z方向の線領域 (line domain) とよぶことにする 1.ようするに,関数 z = ϕ2(x, y) と z = ϕ1(x, y) のグラフで囲まれた領域である.このとき,∂K の向きはK の内部から外部へ抜ける向きとする.「x 方向の線領域」「y 方向の線領域」も同様に
K ′ =(x, s, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ x ≤ ϕ2(s, t)
および
K ′′ =(s, y, t) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ y ≤ ϕ2(s, t)
の形で表現される有界閉集合として定義される.以下では,線領域に対して以下の過程をおく:
• 連続関数 ϕ1, ϕ2 は Ω の内部で C1級 2.
• 線領域 K の境界面は外向きの法線ベクトルをもつ
いま有界な閉領域 M ⊂ R3 が単純 (simple)であるとは,以下を満たすことをいう:
(1) M の境界 ∂M は有限個の C1級曲面の和集合になっている.
(2) M は有限個の x方向の線領域の和集合に分割できる.
(3) M は有限個の y方向の線領域の和集合に分割できる.
(4) M は有限個の z方向の線領域の和集合に分割できる.
ここで,「分割できる」の正確な意味は次のとおり:以下の(ア)~(ウ)を満たす N 個の x方向の線領域 K1,K2, · · · ,KN が存在する.
(ア)M =
N∪n=1
Kn,
(イ)任意の M 上の連続関数 f :M → R に対し,∫Mf(x, y, z)dxdydz =
N∑n=1
∫Kn
f(x, y, z)dxdydz.
1これはこの講義だけで用いる便宜的な用語.2すなわち,∂Ω では偏微分の値が発散するかもしれない.この条件がないと球体の扱いに困ることになる.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 12-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
(ウ)M 上の連続なベクトル値関数 V :M → R3に対し,∫∂M
V (−→p ) · d
−→A =
N∑n=1
∫∂Kn
V (−→p ) · d
−→A
例. 立方体,球体,円柱,円錐などは,すべて単純である.
練習. i = j のとき,Ki ∩Kj = ∂Ki ∩ ∂Kj を示せ.(すなわち,内部は共有しない.)
発散定理. このとき,次が成り立つ:
定理 12.1 (ガウスの発散定理) V : R3 → R3 を C1 級のベクトル場とし,M ⊂ R3 を単純な有界閉領域とする.このとき,次が成り立つ:∫∫∫
Mdiv V (
−→p ) dxdydz =
∫∂M
V (−→p ) · d−→A . (12.1)
ただし,∂M の向きは M の内部から外部へ抜ける向きとする.
注意.式 (12.1)左辺の 3重積分∫∫∫
M
は∫M
と,体積要素を表す dxdydz は dµ と略記することもある.
定理 12.1の証明
ステップ 1:ベクトル場の分解. ベクトル場 V : R3 → R3,−→p 7→ V (
−→p ) を成分で V (
−→p ) =
(V1(−→p ), V2(
−→p ), V3(
−→p )) と表すことにする.このとき,各 Vk : R3 → R (k = 1, 2, 3) はC1級関数
であり,V は次のように 3つの C1級ベクトル場 Vk : R3 → R3 (k = 1, 2, 3) の和に分解できることに注意しよう:
V (−→p ) = V1(
−→p ) + V2(
−→p ) + V3(
−→p )
ただし V1(−→p ) :=
V1(−→p )
0
0
, V2(−→p ) :=
0
V2(−→p )
0
, V3(−→p ) :=
0
0
V3(−→p )
.
したがって,各 Vk (k = 1, 2, 3) に対して式 (12.1)を証明し,和をとればよい.以下では V3 について式 (12.1)を示すが,他の V1 や V2 でもまったく同様である.
ステップ2:単純な領域の分解.いまM は単純であったから,条件 (4)より有限個の z 方向の線領域K1,K2, . . . ,KN に分解することができる.また,条件(イ)と(ウ)より,各 Kn (n = 1, 2, . . . , N)
に対して式 (12.1)を示せば十分である.以下では M は Kn のうちのひとつであり,z 軸方向の線領域であると仮定する.すなわち,
ある区分的に滑らかな単純閉曲線で囲まれた R2 の閉領域 Ω と,すべての (s, t) ∈ Ω に対してϕ1(s, t) ≤ ϕ2(s, t) を満たすふたつの(Ωの内部では C1 級な)連続関数 ϕ1, ϕ2 : Ω → R が存在し,
M =(s, t, z) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω, ϕ1(s, t) ≤ z ≤ ϕ2(s, t)
と表現されると仮定しよう.この閉領域とベクトル場 V3 について,式 (12.1)を示せば十分である.
ステップ 3:左辺(3重積分)の計算. ベクトル変数を成分で−→p = (x, y, z) と表すことにする
と 3,式 (12.1)の左辺の重積分は,div V3(x, y, z) = ∂zV3(x, y, z) であること,および M が z 方3括弧を重ねて V (
−→p ) = V ((x, y, z)) とは書かずに V (x, y, z) と書く.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 12-3
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
向の線領域であることから,∫∫∫M
div V3(x, y, z)dxdydz =
∫∫Ω
(∫ ϕ2(x,y)
ϕ1(x,y)∂zV3(x, y, z)dz
)dxdy
と累次積分として表現できる.
ステップ 4:右辺(面積分)の計算. ∂M は,「側面」「下面」「上面」の 3つに分割することができる.具体的には,「集合として」
• 下面:S1 :=(s, t, ϕ1(s, t)) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω
• 上面:S2 :=
(s, t, ϕ2(s, t)) ∈ R3 | (s, t) ∈ Ω
• 側面:S3 :=
(s, t, z) ∈ R3 | (s, t) ∈ ∂Ω, ϕ1(s, t) ≤ z ≤ ϕ2(s, t)
と書き下すことができる.それぞれについて面積分を計算することになるが,その際,各面の向きについては十分な注意が必要である.
下面S1:まずは上のような「集合として」の表現を用いてS1 :−→p = (s, t, ϕ1(s, t)) ((s, t) ∈ Ω)とパ
ラメーター付けしてみよう.−→ps = (1, 0, (ϕ1)s),
−→pt = (0, 1, (ϕ1)t)より
−→ps×
−→pt = (−(ϕ1)s,−(ϕ1)t, 1)
となる.これは S1 を−→p = (s, t, ϕ1(s, t)) とパラメーター付けした場合,法線ベクトルの第 3座標
は正であり,ベクトルが「上方向」を向いていることを意味する.ところが,∂M は M から出る(流出する)方向に向き付けられているから,M の「下面」である S1 は「下方向」に向き付けられていなくてはならない.すなわち,法線ベクトルの第 3座標が負になるように符号の調整が必要である 4.具体的には,積分を計算するときベクトル面積素は d
−→A = (
−→ps ×
−→pt)dsdt ではなく
符号を変えた d−→A = (−−→
ps ×−→pt)dsdt を用いるべきである.よって∫
S1
V3(−→p ) · d−→A =
∫∫ΩV3(
−→p ) · (−−→
ps ×−→pt)dsdt
=
∫∫Ω
0
0
V3(−→p )
·
(ϕ1)s
(ϕ1)t
−1
dsdt
= −∫∫
ΩV3(s, t, ϕ1(s, t)) dsdt.
上面 S2:下面 S1 のときと同様に上のような「集合として」の表現を用いてS2 :−→p = (s, t, ϕ2(s, t))
((s, t) ∈ Ω) とパラメーター付けして計算すればよい.この場合は向きの補正は必要なく,ベクトル面積素は d
−→A = (
−→ps ×
−→pt)dsdt のままで∫S2
V3(−→p ) · d−→A =
∫∫ΩV3(s, t, ϕ2(s, t)) dsdt
を得る.
側面 S3:側面は z軸に平行であるから,その法線ベクトルはつねに z軸と垂直である.すなわち,いかなるパラメーター付け S3 :
−→p =
−→p (s, t) に対しても,法線ベクトル
−→ps ×
−→pt は (0, 0, 1) と垂
4集合としては正しく S1 を表現しているが,∂M の一部としての「向き」が適切ではなかったのである.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 12-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
直である.一方ベクトル場 V3(−→p ) = (0, 0, V3(
−→p )) は (0, 0, 1) と平行,あるいは V3(
−→p ) = (0, 0, 0)
である.よって(ベクトル面積素は d−→A = (
−→ps ×
−→pt)dsdt であることに注意すると)∫
S3
V3(−→p ) · d
−→A = 0.
まとめ. 以上をまとめると,式 (12.1)の右辺の面積分は∫∂M
V3(−→p ) · d−→A =
∫S1
+
∫S2
+
∫S3
= −∫∫
ΩV3(s, t, ϕ1(s, t)) dsdt+
∫∫ΩV3(s, t, ϕ2(s, t)) dsdt+ 0
=
∫∫Ω
(∫ ϕ2(s,t)
ϕ1(s,t)∂zV3(s, t, z) dz
)dsdt.
先の 3重積分に関する議論により,これは∫∫∫
Mdiv V3(x, y, z)dxdydz と一致する.
レポート問題(グリーンの公式の調和関数への応用)
締め切りは 1月 30日の講義開始前とします.(研究室(H210)メールボックスへの提出は当日朝 10時 30分まで.)問題 12-1. (グリーンの公式) f, g : R3 → R を C2級の関数とする.
(1) ∇ · (f∇g) = (∇f) · (∇g) + f(∆g) を示せ.ただし,∆ = ∇ · ∇ はラプラシアンである.
(2) 単純な領域 M の境界 ∂M に対し,与えられたパラメーター付けに付随して決まる単位法線ベクトルを
−→n とするとき,∂n g := (∇g) ·
−→n と定める.いまガウスの発散定理を V = f∇g
として適用することで,以下を示せ(−→n dA = d
−→A であることに注意) :∫∫∫
M(∇f) · (∇g) + f(∆g)dxdydz =
∫∂M
f(∂n g) dA.
(3) (2) で得られた公式を用いて∫∫∫M
|∇f |2 + f(∆f)
dxdydz =
∫∂M
f(∂n f) dA
を示せ.
(4) (1)を用いて次を示せ.∫∫∫M
f(∆g) − g(∆f)dxdydz =
∫∂M
f(∂n g) − g(∂n f) dA.
これら一連の公式をグリーンの公式と呼ぶ.
問題 12-2. (調和関数の性質) 単純な閉領域 M 上で定義された f, g : M → R が調和関数であるとき,以下を示せ:
(1)
∫∫∫M
|∇f |2dxdydz =
∫∂M
f(∂n f) dA.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 12-5
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
(2)
∫∂M
f(∂n g) − g(∂n f) dA = 0.
問題 12-3. (境界での値による一意性) M を単純な閉領域とするとき,以下を示せ:
(1) C2級関数 f :M → R が∇f =−→0 (一定)を満たすとき,f は定数関数であることを示せ.
(2) M 上の調和関数 f : M → R が ∂M において恒等的に 0 であるとき,f も恒等的に M 上で 0 であることを示せ.(Hint:問題 12-2の (1)を用いる.)
(3) M 上の調和関数 f, g : M → R が ∂M において恒等的に f = g であるとき,M 上でも恒等的に f = g であることを示せ.
ボーナス問題(+1 point). このプリントに誤植・計算ミス・論理的な間違い・分かりづらい点があれば
メールでご指摘ください.(もちろん,講義中・直後に直接教えていただいたほうが助かります.その場合
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微分形式入門(1/30)配布日 : 2017年 1月 30日 Version : 1.1
微分形式
これから紹介する「微分形式」の理論を用いると,
• これまで線積分・面積分のなかでただの「記号」として扱ってきた線素 d−→p ,ベクトル面積
素 d−→A などを(将来的には一般の次元で)統一的に扱うことができる.
• grad,div や rot といった演算に統一的な解釈を与えることができる
• 座標変換によって不変な性質を表現しやすい
といった効用がある.正式には「曲線」や「曲面」の概念を一般化した「多様体」とよばれる空間を定義してから展開されるべき理論であるが,ここでは上記の「効用」について説明することに主眼を置いて,数学的な厳密さは追求せずに,大雑把に理論の概要を述べてみよう.以下,R3 は xyz空間とみなし,R3 上の C∞級関数全体からなる集合を C∞(R3) と表す.ま
た,M は R3 内の単純な閉領域とし,
C∞(M) = f :M → R | f は C∞級
とする.すなわち,M 上の C∞級関数全体からなる集合である 1.この集合はR 上のベクトル空間の構造を持つ.実際,C∞級関数の和は C∞級だし,C∞級関数の実定数倍はやはり C∞級関数である.(ゼロベクトルにあたるのは,各点で 0 となる定数関数である.)また,実数 C を定数関数 f(
−→p ) ≡ C (∀
−→p ∈M) とみなすことで,実数の集合 R は C∞(M) の部分集合だと解釈する.
微分形式.k = 0, 1, 2, 3に対して,M 上のk-形式 (k-form)(もしくはk次の微分形式,differentialk-form)を以下で定義する.
(1) k = 0:ベクトル空間 C∞(M) の元のことをM 上の 0-形式とよぶ.
(2) k = 1:C∞(M) の元 f1, f2, f3 を用いて
f1 dx+ f2 dy + f3 dz
と表される「記号」を M 上の 1-形式とよぶ 2.
(3) k = 2:C∞(M) の元 g1, g2, g3 を用いて
g1 dy ∧ dz + g2 dz ∧ dx+ g3 dx ∧ dy
と表される「記号」を M 上の 2-形式とよぶ.
(4) k = 3:C∞(M) の元 h を用いてh dx ∧ dy ∧ dz
と表される「記号」を M 上の 3-形式とよぶ.1グラフなどは考えず,M の各点に値が割り振られている様子をイメージせよ.たとえば M は太陽系のある小惑
星で,関数 f ∈ C∞(M) は M の各点の温度を与える関数,別の関数 g ∈ C∞(M) は M の各点での圧力を与える関数,といった具合である.
2「記号」以上の意味があるがここでは深入りしない.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 13-2
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注意.
• 記号 dx 自体も定数関数を用いて表される 1-形式 1 dx+0 dy+0 dz だとみなす.同様に,実定数 C について C dx も 1-形式である.2-形式,3-形式についても同様.
• 1-形式全体の集合はベクトル空間の構造をもつ.実際,1次微分形式ω = f1 dx+f2 dy+f3 dz,ω′ = g1 dx+ g2 dy + g3 dz,実定数 C に対し,和とスカラー倍を
ω + ω′ = (f1 + g1) dx+ (f2 + g2) dy + (f3 + g3) dz,
Cω = (Cf1) dx+ (Cf2) dy + (Cf3) dz
と定義することができる.ゼロベクトルにあたるのは f1 = f2 = f3 = 0 (定数) の場合にあたる 0 dx+ 0 dy + 0 dz であり,これを単に 0 と表すのが慣例である.また,定数倍を一般化して,任意の h ∈ C∞(M) による「関数倍」の演算
hω = (hf1) dx+ (hf2) dy + (hf3) dz
が定義できる 3.2-形式,3-形式全体の集合も同様にベクトル空間の構造と関数倍の演算をもつ.ゼロベクトルは同じく 0 で表す.
ウェッジ積. 以下,f, g, h および fj , gj , hj (j ∈ N) はすべて C∞(M) の元を表すものとする.ω1, ω2, ω を 0 から 3 までのいずれかの次数の微分形式とする.このとき,ウェッジ積 (wedge
product,外積ともよばれる) を以下の性質を満たすものとして定義する:
(1) f ∧ ω = ω ∧ f = fω.
(2) (fω1) ∧ ω2 = ω1 ∧ (fω2) = f(ω1 ∧ ω2).
(3) 分配法則:(ω1 + ω2) ∧ ω = ω1 ∧ ω + ω2 ∧ ω. すなわち,和のウェッジ積はウェッジ積の和.
(4) 結合法則:(ω1 ∧ω2)∧ω = ω1 ∧ (ω2 ∧ω). すなわち,ウェッジ積をとる順序は変えてもよい.(ただし,項の順番は変えてはいけない.下の交代性参照.)4
(5) 交代性:ω1 と ω2 が 1-形式であるとき,ω1 ∧ ω2 = −ω2 ∧ ω1. とくに,
dy ∧ dz = −dz ∧ dy, dz ∧ dx = −dx ∧ dz, dx ∧ dy = −dy ∧ dx.
また,dx ∧ dx = −dx ∧ dx ⇐⇒ 2dx ∧ dx = 0
より dx ∧ dx = 0.同様に以下が成り立つ:
dx ∧ dx = dy ∧ dy = dz ∧ dz = 0.
31-形式全体は「環 C∞(M) 上の加群」とよばれる構造を持つ.4ω1 ∧ ω2 ∧ ω を定義するには (ω1 ∧ ω2)∧ ω あるいは ω1 ∧ (ω2 ∧ ω) の 2通りの可能性があるが,これらは同じ値で
あるからいずれを用いて定義(計算)してもよい,ということである.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 13-3
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計算例 1. ふたつの 1次形式 ω1 = f1 dx+ f2 dy + f3 dz,ω2 = g dy のウェッジ積は次のように計算できる:
ω1 ∧ ω2 = (f1 dx+ f2 dy + f3 dz) ∧ (g dy)
= (f1 dx) ∧ (g dy) + (f2 dy) ∧ (g dy) + (f3 dz) ∧ (g dy)
= (f1g) dx ∧ dy + (f2g) dy ∧ dy + (f3g) dz ∧ dy= (f1g) dx ∧ dy + 0− (f3g) dy ∧ dz= −(f3g) dy ∧ dz + (f1g) dx ∧ dy.
結果は 2-形式である.一般に,1-形式同士のウェッジ積は(ゼロベクトルにならなければ)2次形式となる.
計算例 2. 結合法則より
(dx ∧ dy ∧ dz) ∧ dy = dx ∧ dy ∧ dz ∧ dy= dx ∧ dy ∧ (−dy ∧ dz)= −dx ∧ (dy ∧ dy) ∧ dz= −dx ∧ 0 ∧ dz = 0.
このような計算から,4次以上の微分形式はすべて 0 となり意味を持たないことがわかる.
ベクトル場との対応
C∞ 級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 (すなわち V1, V2, V3 ∈ C∞(R3))に対し,便宜的に
ω[V ] := V1 dx+ V2 dy + V3 dz
η[V ] := V1 dy ∧ dz + V2 dz ∧ dx+ V3 dx ∧ dy
と表すことにする.このとき,以下が成り立つ:
命題 13.1 (内積と外積) ふたつの C∞ 級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) および W =
(W1,W2,W3) に対し,以下が成り立つ:
(1) ω[V ] ∧ ω[W ] = η[V ×W ].すなわち,
(V1 dx+ V2 dy + V3 dz) ∧ (W1 dx+W2 dy +W3 dz)
=(V2W3 − V3W2) dy ∧ dz + (V3W1 − V1W3) dz ∧ dx+ (V1W2 − V2W1) dx ∧ dy.
(2) ω[V ] ∧ η[W ] = (V ·W ) dx ∧ dy ∧ dz.すなわち,
(V1 dx+ V2 dy + V3 dz) ∧ (W1 dy ∧ dz +W2 dz ∧ dx+W3 dx ∧ dy)=(V1W1 + V2W2 + V3W3) dx ∧ dy ∧ dz.
注意. じつは ω[V ] ∧ η[W ] = η[V ] ∧ ω[W ] が成り立つ.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 13-4
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
行列式との対応. 3つの C∞ 級ベクトル場
A = (a1, a2, a3) : R3 → R3
B = (b1, b2, b3) : R3 → R3
C = (c1, c2, c3) : R3 → R3
(すなわち j = 1, 2, 3 に対し aj , bj , cj ∈ C∞(R3))に対し,これらを縦ベクトルとみなして並べた行列
J [A,B,C] :=
a1 b1 c1
a2 b2 c2
a3 b3 c3
を考える.このとき,次が成り立つ:
命題 13.2 (行列式との関係) 上記のベクトル場 A,B,C に対し,
ω[A] ∧ ω[B] ∧ ω[C] = det J [A,B,C] dx ∧ dy ∧ dz.
これを行列式の定義とみなすこともできる.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 14-1
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微分形式入門2・外微分とストークスの定理(2/6)配布日 : 2017年 2月 6日 Version : 1.1
記号. 以下,R3 は xyz空間とみなし,M ⊂ R3 は単純な閉領域とする.また,
C∞(M) = f :M → R | f は C∞級
とする.さらに C∞ 級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 (すなわち V1, V2, V3 ∈ C∞(R3))に対し,
ω[V ] := V1 dx+ V2 dy + V3 dz
η[V ] := V1 dy ∧ dz + V2 dz ∧ dx+ V3 dx ∧ dy
と表すことにする.このとき,以下が成り立つ:
外微分
微分形式の「外微分」とは,k-形式から (k + 1)-形式をつくる微分演算である 1.
定義 (外微分) k = 0, 1, 2, 3 に対し,k-形式の外微分 (exterior derivative)を次のように定義する.
• 0-形式 f ∈ C∞(M) の外微分 df を
df := ∂xf dx + ∂yf dy + ∂zf dz (= ω[grad f ])
と定義する.これは関数の,「全微分」(total differential) にあたるものである.
• 1-形式 ω = f1 dx+ f2 dy + f3 dz (f1, f2, f3 ∈ C∞(M)) の外微分 dωを
dω := df1 ∧ dx + df2 ∧ dy + df3 ∧ dz
と定義する.
• 2-形式 η = g1 dy ∧ dz + g2 dz ∧ dx+ g3 dx ∧ dy (g1, g2, g3 ∈ C∞(M)) の外微分 dη
をdη := dg1 ∧ dy ∧ dz + dg2 ∧ dz ∧ dx + dg3 ∧ dx ∧ dy
と定義する.
• 3-形式 θ = h dx ∧ dy ∧ dz (h ∈ C∞(M)) の外微分 dθ を
dθ := dh ∧ dx ∧ dy ∧ dz
と定義する.ただし,dh∧ dx∧dy∧dz = (∂xh dx+∂yh dy+∂zh dz)∧ dx∧dy∧dz = 0
なので,はじめからdθ := 0
と定義しても同じことである.
1ここでは k ごとに定義しているが,k によらない一般的な定義も可能である.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 14-2
担当教員:川平 友規 研究室:本館 H210 東京工業大学 理学院(数学系)
例. ω = zex+y dx とすると,
dω = d(zex+y) ∧ dx = (zex+y dx+ zex+y dy + ex+y dz) ∧ dx = ex+y dz ∧ dx− zex+y dx ∧ dy.
外微分と grad, rot, div. 外微分の定義より,任意の関数 f ∈ C∞(M) に対して
df = ω[grad f ]
が成り立つ.すなわち,外微分は grad という微分演算を含んでいるのである.じつは,それだけではない.rot や div も外微分の概念に包含されてしまうのである:
定理 14.1 (外微分と回転・発散) C∞級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) に対し,以下が成り立つ:
(1) d(ω[V ]) = η[rotV ].すなわち,
d(V1 dx+ V2 dy + V3 dz)
=(∂yV3 − ∂zV2) dy ∧ dz + (∂zV1 − ∂xV3) dz ∧ dx+ (∂xV2 − ∂yV1) dx ∧ dy.
(2) d(η[V ]) = (div V ) dx ∧ dy ∧ dz.すなわち,
d(V1 dy ∧ dz + V2 dz ∧ dx+ V3 dx ∧ dy) =(∂xV1 + ∂yV2 + ∂zV3) dx ∧ dy ∧ dz.
証明は練習問題としよう.最後に,外微分のもつ一般的な性質をまとめておく.こちらも証明は練習問題とする.
命題 14.2 (外微分の性質) k と l は 0,1,2,3 のいずれかとする.
(1) ω1, ω2 がともに k-形式であるとき,d(ω1 + ω2) = dω1 + dω2.
(2) ω1, ω2 がそれぞれ k-形式,l-形式であるとき,
d(ω1 ∧ ω2) = dω1 ∧ ω2 + (−1)kω1 ∧ dω2.
(3) ω が k-形式であるとき,d(dω) = 0.
微分形式の積分
以下で扱う微分形式はすべてR3 上で定義されたものだが,必要に応じて曲線や曲面に制限して考える.また,微分形式の係数として用いる f, g, h, fk, gk (k = 1, 2, 3) はすべて C∞(R3) の元であるとする.一般化されたストークスの定理を述べるにあたって,微分形式の積分を定義していこう.
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解析学概論第三/第四(2016年3Q/4Q) プリント 14-3
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定義 (微分形式の積分) k = 1, 2, 3 に対し,k-形式の積分を以下のように定義する:
• R3 上の 1-形式 ω = f1 dx + f2 dy + f3 dz と区分的に滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β) に対し,積分
∫Cω を ω の係数が定める C∞ 級ベクトル場
Vω = (f1, f2, f3) : R3 → R3 の C 上での線積分として定義する.すなわち,∫Cω :=
∫CVω(
−→p ) · d
−→p .
• 2-形式 η = g1 dy ∧ dz + g2 dz ∧ dx + g3 dx ∧ dy と滑らかな曲面 S :−→p =
−→p (s, t)
(だだし (s, t) は平面内の閉領域を動く)に対し,積分∫Sη を η の係数が定める
C∞級ベクトル場 Vη = (g1, g2, g3) : R3 → R3 の S 上での面積分として定義する.すなわち, ∫
Sη :=
∫SVη(
−→p ) · d−→A .
• 3-形式 θ = h dx∧ dy ∧ dz と単純な閉領域 M に対し,積分∫Mθ を θ の係数の M
上での 3重積分として定義する.すなわち,∫M
θ :=
∫∫∫M
hdxdydz.
一般化されたストークスの定理
以下では,微分形式の積分を用いてストークスの定理,ガウスの発散定理,ハイキングの原理をそれぞれ表現してみよう.
1-形式とストークスの定理. C∞級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 が与えられているとき,対応する 1-形式 ω := ω[V ] = V1 dx+ V2 dy+ V3 dz が定まる.また,V の回転 rotV と 2-形式 η[rotV ] には自然な対応がつくが,定理 14.1より,dω = η[rotV ] が成り立つのであった.いま,滑らかな曲面 S の境界 ∂S が(区分的に)滑らかな単純閉曲線であるとき,ストークス
の定理から ∫∂SV (
−→p ) · d−→p =
∫SrotV (
−→p ) · d−→A
が成り立つ.これを 1-形式 ω = ω[V ] および 2-形式 dω = η[rotV ] の積分を用いて表現すると,等式 ∫
∂Sω =
∫Sdω (14.1)
を得る.
2-形式とガウスの発散定理.C∞級ベクトル場 V = (V1, V2, V3) : R3 → R3 が与えられているとき,対応する 2-形式 η = η[V ] = V1 dy∧dz+V2 dz∧dx+V3 dx∧dyが定まる.また,V の発散 div V と3-形式 (div V )dx∧dy∧dz には自然な対応がつき,やはり定理 14.1より,dη = (div V )dx∧dy∧dzが成り立つのであった.いま,任意の単純な閉領域 M に対し,境界 ∂M は滑らかな曲面の有限個の和集合であった,
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ガウスの発散定理より, ∫∂M
V (−→p ) · d
−→A =
∫∫∫M
div V (−→p ) dxdydz
が成り立つ.これを 2-形式 η = η[V ] と 3-形式 dη を用いて表現すると,∫∂M
η =
∫Mdη (14.2)
を得る.
0-形式とハイキングの原理.いま与えられた C∞級関数 f と 2点 −→a ,
−→b ∈ R3 に対し,−→
a を始点とし −→
b を終点とする区分的に滑らかな曲線 C :−→p =
−→p (t) (α ≤ t ≤ β,
−→p (α) =
−→a ,
−→p (β) =
−→b )
を任意に選ぶと,「ハイキングの原理」∫Cgrad f(
−→p ) · d−→p = f(
−→b )− f(
−→a )
が成り立つのであった.(すなわち,勾配ベクトル場の線積分は積分経路によらない.)これは∫Cfx dx+ fy dy + fz dz = f(
−→b )− f(
−→a )
とも表されるから,少なくとも左辺は微分形式の積分と対応がつくことがわかる.右辺も微分形式の言葉で定式化するために,0-形式の積分を(それこそ形式的なものではある
が)定義してみよう.まず,C の端点−→a ,
−→bを C の「境界」とよび,∂C と表すことにする.
もちろん −→a =
−→b の可能性もあるが,C の「向き」から定まる「始点」 −→
a と「終点」 −→b とい
う属性を考慮して異なる 2点と解釈する 2.このとき,0-形式 f の ∂C における積分を∫∂Cf := −f(−→a ) + f(
−→b )
と定義するのである.いま f の外微分は df = fx dx+ fy dy + fz dz であったから,上記の「ハイキングの原理」は∫
∂Cf =
∫Cdf (14.3)
と表現できることになる.
まとめ. 以上をまとめると,次のようになる 3:
定理 14.3 ω を R3上の k-形式(k = 0, 1, 2) とし,k の値に応じて集合 X を以下のように選ぶ:
k X ∂X
0 滑らかな曲線 C 始点と終点 ∂C
1 滑らかな曲面 S 単純閉曲線 ∂S
2 単純な領域 M 滑らかな曲面の和集合 ∂M
このとき,次が成り立つ: ∫∂X
ω =
∫Xdω.
2あるいは,C を 2分割することで始点と終点が異なる 2点である場合に帰着できる.3この定理をみて,高次元空間における「ベクトル解析」の世界が思い描けた人は,今すぐにでも「多様体」の教科
書を読んで,先へと進んでほしい.たとえば,参考文献に挙げたスピバックの教科書もよいし,志賀浩二『ベクトル解析 30講』(朝倉書店),あるいは松本幸夫の『多様体の基礎』(東大出版会)なども面白い.
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