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Value Navigator(バリューナビゲーター)本誌では、PwCのグローバルに広がる158カ国、約169,000人のプロフェッショナルネットワークを活かし、現場から得られる最新のビジネス情報やグローバルのナレッジをご紹介します。本誌がクライアント企業の皆様の価値創造を導く一助となることを願い、この誌名に表現しました。

Value of the Life18 世界をつなぐために走り続ける 有森裕子

「プロアスリート」への道の開拓者有森裕子元マラソンランナー公益財団法人スペシャルオリンピックス日本 理事長NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事株式会社RIGHTS.取締役

Greetings 01読者の皆様へPwC Japan

News 34 世界のPwCから

36 vol.3 Russia

Contents

Greetings

PwC Japanのご紹介PwC Japanは、あらた監査法人、プライスウォーター ハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース、およびそれらの関連会社の総称です。各法人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファームおよびその指定子会社であり、それぞれ独立した法人として業務を行っています。

Value NavigatorClient Newsletter fromPwC JapanVOL.4 2012

Special Feature

Corporate Integrity企業に求められる誠実さを醸成する

08 Integrity(誠実さ)を 共有する 組織の構築に向けて 原 誠一あらた監査法人リスク・コントロール・ソリューション部代表社員

12 Corporate Integrity醸成のポイントはカルチャー変革にある若林 豊プライスウォーターハウスクーパース株式会社チェンジマネジメント/グローバル人事担当パートナー

04Corporate Integrityを 育むコマツウェイ坂根正弘氏コマツ 取締役会長

Global Thought Leadership14監査の価値向上に向けたグローバルの新潮流木村浩一郎あらた監査法人 執行役(アシュアランス業務担当) 代表社員

読者の皆様へ

このたびPwC Japan(プライスウォーターハウスクーパース ジャパン)の広報誌である「Value Navigator(バリューナビゲーター)VOL.4」を皆様のお手元にお届けします。

今、日本を含め世界各国で企業の不祥事やコンプライアンス欠如と思われる行為が後を絶ちません。PwC Japanでは、企業不祥事を未然に防ぎ、コンプライアンス品質を高めるためには“Corporate Integrity(企業の誠実さ)”を重視した経営が必要であると考えています。そこで、本号では「『誠実な企業』賞─Integrity Award─」受賞企業にお話しを伺い、企業に求められる“Corporate Integrity”とは何か、“Corporate Integrity”を醸成するためのトップの役割、理念の浸透と推進への取り組みについて事例を交えてご紹介しています。本誌が、PwCとクライアントの皆様との絆を深め、ビジネスのご支援に何かしらの形でお役に立つことを切に願っております。今後とも皆様の変わらぬご愛顧とご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

2012年4月

PwC Japan

あらた監査法人 代表執行役初川浩司

プライスウォーターハウスクーパース株式会社代表取締役社長

内田士郎税理士法人プライスウォーターハウスクーパース

理事長鈴木洋之

Management Issue22

[特別対談 第2回]進化する大中華圏世界の工場から アジア展開のハブ拠点へ

[コーディネーター]齊藤 剛 (あらた監査法人 代表社員)桂 憲司 (プライスウォーターハウスクーパース

株式会社 パートナー)

[パネリスト]奥田健士 (PwC台湾 ディレクター)柴 良充 (PwC香港 パートナー)高橋忠利 (PwC中国 パートナー)

26 震災復興を乗り越え 経済復興へ

“エクセレントカンパニー”の再生椎名 茂プライスウォーターハウスクーパース株式会社 コンサルティング部門リーダーパートナー

28 欧州金融不安が日本の金融機関に与える影響経済成長の中心が西から東にシフトする中で佐々木貴司あらた監査法人執行役(金融ビジネス担当)代表社員

植田隆彦あらた監査法人総合金融サービス推進本部金融調査室主任研究員

EconomicNavigator

30 [特別対談 第1回]不確実な世界経済の中で 日本企業がグローバル展開で勝ち残るには高原豪久氏ユニ・チャーム株式会社 代表取締役社長

[聞き手]五味廣文株式会社プライスウォーターハウスクーパース総合研究所 理事長

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2 Value Navigator Value Navigator 3

Special Feature

企業に求められる誠実さを醸成する日本を含め世界各国で、企業の不祥事やコンプライアンス欠如と思われる行為が後を絶たない。これら不正行為を抑制し、利害関係者に不利益を与えないため、各国は内部統制法など各種法律でルールを定めている。日本でも会計・財務情報の正確性・透明性を高めるために、米国サーベンス・オクスリー法(SOX法)を基に、企業は内部統制システムの構築や情報開示の強化を行い、この10年でコーポレートガバナンス(企業統治)は格段に強化されたはずだった。しかし昨年、日本企業の不祥事が相次いで発覚したことで、今、日本企業の信頼は大きく揺らいでいる。

PwC Japanでは、企業不祥事を未然に防ぎ、コンプライアンス品質を高めるためには法令遵守だけではない“Corporate Integrity(企業の誠実さ)”を重視した企業経営が必要であると考える。グループ全体やグローバルにこうした意識が高い企業は、中長期的に見て市場で高い競争力を持つと言えるからだ。そこで、本特集では企業に求められる“Corporate Integrity”とは何か、“Corporate Integrity”を醸成するためのトップの役割や組織の構築、企業理念の浸透と推進への取り組みについて事例を交えて検証する。

Corporate Integrity

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Corporate Integrity

4 Value Navigator Value Navigator 5

コマツのグローバルオペレーション

見せかけの形だけの整備ではなく魂を込める

 その後、1995年に合弁会社を100%子

会社にしたことで、そうした話し合いの

場がなくなりました。しかし、海外の視

点を入れる意味でも継続させたかったの

で、インターナショナル・アドバイザ

リー・ボードを開始することにしました。

 そこに落ち着くまでは試行錯誤の連

続で、日本での取締役会に米子会社の

CEOに入ってもらったこともあります。

ですが、毎月の会議に参加してもらうの

は互いに負担が大きく、有意義な議論も

できません。それよりも、年2回イン

ターナショナル・アドバイザリー・ボー

ドを開いて補完した方がよいということ

になったのです。

 現在では、米国、欧州、アジア、日本

から各1人ずつ参加してもらい、ガバナ

ンスの考え方や事業の目指すところなど

を話し合います。たとえば1995年当時

は、日本ではなじみの薄かったROE重

視の考え方や、エレクトロニクス事業か

らの撤退などについて議論しましたが、

非常に役に立ちました。

 最近は、本社の取締役会に外国人を入

れる企業も多くなりました。しかし、海

外子会社のトップが日本人のままでは、

本当の意味での現地化とは言えません。

これでは形だけ国際化し、オープンに見

せているだけのように感じます。

 私たちは見せかけだけは絶対にやりた

くない、魂を込めたことをやろうという

思いでやってきました。ですから、現在

のコーポレートガバナンス体制や当社の

価値観を示す「コマツウェイ」の取り組

みに、とても自信を持っているのです。

ブレないように仕組みに落としてとことん追求していく

 コマツウェイを制定したのは2006年。

その前年から、私は後任社長への引き継

ぎ事項を整理していたのですが、社内の

誰もがよく理解し、トップが変わっても

これだけは守らなければならないことを

まとめようと思いました。何か書いたも

のがあれば、それを進化させていくこと

で、代を重ねるごとに強くなる企業を目

指していけると考えたのです。

 そこで、第1章のトップ・マネジメン

ト編を私がつくり、第2章のモノづくり

編は、当時の生産管掌役員であり、現代

表取締役社長兼CEOの野路國夫に作成

してもらいました。2011年から第3章

として、ブランド・マネジメント編も追

加しています。

 コマツは海外拠点が多く、外国人従

業員も半数以上を占めています。そこ

で、コマツではまだ歴史の浅い会社を

除き、現地子会社のトップは現地の人に

任せ、日本人は補佐する形にしています。

これはグローバルで共通の方針です。

 そして、日本の経営陣が四半期ごとに

現地に行き、そこで経営会議を開きます。

現地法人側が日本に来て、報告や決済の

お伺いを立てることはありません。コマ

ツの価値観さえ浸透していれば、現地事

情に合わせてスピーディーに動けた方が

いいからです。

 そのため、コマツウェイは各地域で現

地語版をつくっています。昨年5月に発

足した石川県のコマツウェイ研修セン

ターには、11カ国語版を揃えています。

 コマツウェイの中で特にガバナンスに

関連するのは、第1章の5項目です。こ

こではこの5項目をご紹介しましょう。

❶ 取締役会を活性化する コマツは欧米企業に多い委員会制度で

はなく、監査役会制度を取っています。

委員会制度の最大のメリットは、独断専

行を行うCEOを排除できる点にありま

すが、いろいろと研究した結果、コマツ

は多数の子会社を抱えているので、その

管理を徹底するためには監査体制を強化

した方がよいと考えました。コマツの取

締役会は10名ですが、その中で社外取

締役3名と会長は業務の執行に携わって

いません。つまり監視役4名、執行者6

名となり、たとえ独裁者的なトップがい

たとしても、採決で何とか阻止できる形

になっているのです。

 また、以前はコマツの取締役は30名

近くいました。でも、そんなに大勢の取

締役がいたら取締役会が活性化するわけ

がありません。しかも、社外の人は1人

もいませんでした。やはり取締役会を活

性化するには、人数を絞ることと社外の

人材は不可欠です。

 統治機構だけでなく運用面も工夫して

います。いくら会議を開いても議題選定

Corporate Integrityを 育むコマツウェイコマツ取締役会長 坂根正弘氏優れた内部統制システムやコンプライアンス(倫理法令遵守)システムを整備し、先進的な取り組みを行っている企業を表彰する「『誠実な企業』賞─Integrity Award─」。2011年度最優秀賞(受賞当時は「日本内部統制大賞(Integrity Award)」)に輝いたのは、日本を代表する建設機械メーカーであるコマツだ。売上高の海外比率80%以上、国内外連結子会社140社以上、社員の55%が外国人というグローバル企業であるコマツは、どのようにしてCorporate Integrityを醸成しているのだろうか。同社取締役会長の坂根正弘氏にお話を伺った。

 私たちがガバナンスについて本格的に

考えはじめたのは、1988年に、米国の

第2位の企業を事実上買収し、50対50

で小松ドレッサーカンパニー(現コマツ

アメリカ)という合弁会社を立ち上げた

のがきっかけでした。私はその会社の

2代目社長(COO)を務めたのですが、

その時の経験は非常に勉強になりました。

 特に感じたのが、米国と日本の考え方

に、歴然とした差があることです。たと

えば、米国はトップダウンですが、日本

は課長クラスのミドルアップ・ミドルダ

ウンのスタイルを取っています。米国人

の論理では、中間層は余計な介在物です

が、モノづくりの観点ではミドルが重要

で、そこは私たちの方が絶対に強い。し

かし、その強さがトップダウンの力を殺

いでしまうこともあります。

 両者のバランスをうまく取り、それぞ

れの強みを活かしたガバナンスを目指し

ていけば、絶対に世界のスタンダードに

なれる。そういう思いで、合弁会社では

四半期ごとに日米のトップが話し合う場

を設け、諸問題に取り組んできました。

坂根正弘氏 Masahiro Sakane

コマツ取締役会長

PROFILE

1990年小松ドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ)社長に就任。その後代表取締役副社長、代表取締役社長兼CEOを経て2007年6月より代表取締役会長、2010年より現職。社団法人日本経済団体連合会(経団連)副会長、震災復興特別委員会共同委員長。

[企業データ]

コマツ建設・鉱山機械、産業機械のグローバル企業。1921年設立。1950年代より海外輸出開始、1960年代に初の海外駐在員事務所、1970年代に初の海外生産工場を設立するなど海外展開を積極的に進め、現在、建設・鉱山機械事業では全世界に44の生産拠点を持つ。資本金は連結678億70百万円(米国基準)、単独701億20百万円。売上高は連結1兆8,431億円、単独7,425億円。連結子会社数144社、持分法適用会社数39社(2011年3月31日現在)。出所:コマツホームページ(http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/profile/global/)

● 生産体制■ 販売体制▲ パーツセンター▲ リマン・リビルドセンター▲ トレーニングセンター

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コマツのコンプライアンス5原則

Corporate Integrity

6 Value Navigator Value Navigator 7

で漏れがあったら意味はありません。こ

れは社長だけでは把握しきれないので、

常勤監査役、法務部長、総務部長、経営

管理部長、監査室が入って議題選定検討

会議を行っています。

 議題は報告、討議、決議の3段階にす

るという基準もつくっています。報告と

討議を社内会議だけで行い、最後の決議

だけをいきなり取締役会にかけるパター

ンがよく見られますが、それでは社外取

締役に理解できるわけがありません。

 たとえば、事業売却がテーマだとした

ら、最初に報告を行います。それを踏ま

えて討議を行い、売却する方針が決まっ

たら売却先を探して何回か討議にかけ、

その後でようやく決議に行くというよう

に、3段階を必ず踏むことにしています。

❷ 全ステークホルダーとの コミュニケーションを率先垂範する

 コマツでは、決算発表の翌朝に社内の

全員を集めて、社長が1時間半くらいか

けて会社の現状を説明します。今までや

ろうとしてきたことのうち何がうまくい

き何がうまくいっていないかを説明し、

質疑応答を行います。また、その様子を

ビデオに撮り、英語版もつくってウェブ

配信しています。

 さらに、社長は国内の全工場を回り、

直接、全員集会を行います。子会社の

トップも年2回決算発表のたびに必ず全

員集会を開くことになっています。

 ここまで情報開示するのは、あれこれ

命じるよりも、よい情報も悪い情報も含

めて会社の状況を伝え続けることで、み

んなが自ら考えるようになってもらいた

いからです。その方がはるかに大きな成

果につながります。

 ですから協力企業や販売店の集まりで

も、社員にするのとほぼ同じ話をしてい

ます。われわれがセイム・ボートである

ことの実践です。これだけ多くの人に会

社の状況を開示しているところはなかな

かありません。コマツが世界一、真面目

にやっていると誇れる部分です。

❸ ビジネス社会のルールを遵守する 私の社長時代のことですが、何度か不

祥事が報じられ大変恥ずかしい思いをし

ました。いずれも以前なら許されていた

ものが、ルールや社会の基準の変化でア

ウトになったものでした。特に悔しい思

いをしたのが、欧州の休眠会社の清算を

発表したことが株価操作に当たると、金

融庁に指摘されたことです。

 従業員ゼロ、資産価値ゼロの休眠会社

の清算でも、規則上はインサイダー情報

に該当すると言われ、処罰の対象となり

ました。しかしその2年後には資産価値

が一定比率以下ならインサイダー情報に

当たらないと、法改正されました。

 その時につくづくと感じたのは、人間

だからミスはある、不正も社会の基準が

変わるとすれば起こる、ということです。

そこで、問題を起こした人よりもそのこ

とを隠した人を徹底して処分しようと決

心しました。

 そうは言ってもなかなか悪い情報は上

がってきません。そこで2005年に子会

社を含めた全社員に徳政令を発しました。

「今回は不問に付すので、怪しいと思う

ものは全部明らかにしてほしい。その日

を境に今後は発生する悪いニュースは必

ず上げるように」と指示したのです。

 しかしそれでもまだ徹底されません。

そこで、役員や子会社社長が月初に前月

の結果をCEOに報告するフラッシュ・

レポートで意識付けすることにしました。

従来は冒頭に業績を示すのが定型パター

ンでしたが、順番を変えて最初にコンプ

ライアンス、環境、安全に関する悪い

ニュースを、2番目に担当製品の大きな

品質問題、3番目に補給部品の達成状況、

最後に業績報告を書いてもらうことにし

ました。

 このようにさまざまな手を打ってきた

つもりでしたが、それでも十分ではあり

ませんでした。そのことがわかったのは、

新聞に協力企業の工場の労災事故が報じ

られたからです。その協力企業とは資本

関係がなかったため、担当者がこの労災

事故の報告を上げていなかったのです。

 私は、「協力企業は同じ船の一員でセ

イム・ボートといつも言っているのに部

外者の扱いか」と、担当者を叱責しまし

た。そうしたら協力企業の社長が慌てて

やってきて、「コマツのトップがそこま

で自分たちを身内として関心を持ってい

るとは思わなかった」と言われました。

 こうしたコンプライアンス問題につい

ては、とことん追求する執念がないと会

社の仕組みとして定着しませんし、いま

だ100%の確信を持てません。

❹ リスク処理を決して先送りしない 悪いニュースを毎日聞かされるのは精

神的につらいことです。社長が「もう

聞きたくない」「辞めよう」と言っても、

仕組みがしっかりしていれば、社内から

ブーイングが出て歯止めとなります。

 悪いニュースがきちんと報告されてい

れば、よほどのトップでもない限り、「問

題は先送りしていい」「隠しておけ」とは

言えません。社長に上がってくるのです

からすでにかなり多くの人が知っている

はずなので、たいていは「開示しろ」「手

を打て」と対応することになります。

 もっとも、上層部の不正については倫

理観だけでは押さえきれない部分があり

ます。したがって、CFOなどに慎重な

ブレーキ役を配置するというように、人

事面でバランスを取ることも非常に大切

です。

❺ 常に後継者育成を考える 日本企業では、役員が引退することに

なった段階で後任選びがはじまり、芋づ

る式に場当たり的な人事が行われること

があります。当社ではそれを避けるため、

社長を除き役員や子会社社長は後任者候

補のリストを作成し、毎年1回、社長と

議論することにしています。

 リストに上がった人たちを社内留学制

度に出し、海外駐在をしていなければ経

験させるなど、計画的に育成していきま

す。米国の後継者育成はトップ階層のみ

が一般的ですが、当社ではもう少し下の

レベルでも行っています。日本企業は内

部昇格ですから全員にチャンスがあり、

競争させるスタイルの方がいいと思うの

です。

 リストを見ていると、前年度と候補名

が変わったり複数の部署で同じ人の名前

が上がったりするので、人望や期待され

ている人物が自ずと見えてきます。

 コマツではこのリストは人事部預かり

としています。というのも、優秀な部下

が長期研修に行くと業務に支障が出るた

め、上司が手放したがらないケースがど

うしても起こるからです。そこで、上司

には人事権を持たせないようにするなど、

仕組みの面でカバーするようにしていま

す。

*  *  *

 これがトップ・マネジメント5項目で

すが、こういうものは形だけ整えても何

の役にも立ちません。どこまで魂を込め

て真面目に追求できるか。細かい部分を

押さえ社内の仕組みとしていくか。それ

が会社の実力につながります。それを守

りつつ代々進化させていけば、かなり強

い会社になると思います。もちろん、コ

マツもまだまだ道半ばです。 V

トップ・マネジメント5項目を守りつつ、代々進化させていけば、かなり強い会社になると思います。

出所:コマツホームページ(http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/profile/conduct/)

どんな状況であっても、誰に頼まれても、ルールに反したことを行ってはならない。1

不正やミスを繕ったり、隠したりしてはならない。3不正やミスを発見したときは、即時、是正するとともに、再発防止策をとらなければならない。4ルール違反を知ったときは、直ちに、コンプライアンス責任者に報告しなければならない。(通報したことにより、本人がいかなる不利益も受けないことを確約します。)5

ルールを知らないことは、言い訳にならない。分からないことは、自分で調べるか、専門家に問い合わせなければならない。(コマツグループの各社員は、「コマツの行動基準」を熟読し、理解しなければなりません。)

2

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Corporate Integrity

8 Value Navigator Value Navigator 9

復過程においては、現場も巻き込んだコ

ンプライアンス専門部門主体の非常時・

有事のコンプライアンス態勢が必要とさ

れるのはやむをえない。だが、平時にお

いても、非常時と同様の態勢を構築・維

持することは、むしろ現場における日常

業務の阻害要因となる懸念がある。

新たなコンプライアンス態勢の 必要性

 それでは、今日求められているコンプ

ライアンスの姿とはどのようなものであ

123

法令遵守主体の伝統的なコンプライアンスには限界がある

求められるコンプライアンスの姿とは、組織の利害関係者の合理的な期待に応えることである

判断基準は、組織として共有されている価値観である

Key Point

これまで組織における不祥事の顕在化に対応する形で、各種のコンプライアンス態勢の構築、強化が繰り返し行われてきたが、その実効性には疑問が多い。本稿は、従来のコンプライアンス態勢はどのような課題あるいは限界を有しているのか、さらにこれを克服する手段としてのIntegrity(誠実さ)を共有する組織の構築に向けた動きについて紹介する。

図表1◉コンプライアンスにおける「常識」

ろうか。それは法令遵守を内包しつつも、

より広い視点に立ち、組織の安定的・持

続的な成長に貢献しうる指針となる存在

である。

 ここでは、この新たなコンプライア

ンスをコンプライアンスの語源である

Comply(応える)に即して、「組織の

利害関係者の合理的な期待に応えるこ

と」と定義する。

 組織にはそれを取り巻く各種の利害関

係者が存在する。営利企業であれば、株

主をはじめとしてクライアント、取引先、

地域社会、国、地方自治体、さらに組織

の構成員である役職員などが組織に対し

てさまざまな期待を有している。

 今日の組織が直面する最大のチャレン

ジはこれら複数の利害関係者が抱く、場

合によっては矛盾する各種の期待にどの

ように優先順位をつけながら応えていく

かという点にある。

 コンプライアンスは「常識」であると

いうことがよく言われるが、それではな

ぜ「常識」を実行することが難しいので

あろうか。それは「常識」が1つではな

Integrity(誠実さ)を 共有する 組織の構築に向けて

伝統的なコンプライアンス態勢とその限界

 日本企業におけるコンプライアンス態

勢の整備の歴史は、当局の規制を強く受

ける業界、特に金融業界において「法令

遵守」という言葉が「コンプライアン

ス」と同義語として用いられることから

伺えるように、法令・規定(ルール)を

守ることに主眼を置いた狭義の対応か

らスタートした。言い換えると、法令・

規定に定められた「やるべきこと」と

「やってはいけないこと」を周知徹底す

ることが、その主たる目的である。

 そこでは、繰り返し法令・規定に関す

る知識を一方的に提供し、その定着度合

をモニタリングすることがコンプライア

ンスプログラムの中心となっていた。

 また、他の業界においても食品偽装に

代表される各種の不祥事の発覚を受けて、

再発防止策の一環として新たにコンプラ

イアンス部門を設立するなどの、態勢整

備を行うといった形式から入る事例が見

受けられる。

 法令遵守主体の伝統的なコンプライア

ンスの限界は、ルールを守ることそのも

のが目的となってしまい、ルールが制定

された背景やルールが達成しようとして

いる目標を見失いがちになることである。

さらには、ルールを形式的、表面的、外

形的に守りさえすればよいという、一種

の思考停止状態に陥ってしまう危険性も

ある。

 法令違反や不祥事の顕在化後の信頼回

世間と組織のギャップ

組織と社員のギャップ

社員が考える常識

実際の取り組み範囲

世間が考える常識

組織が考える常識

取り組みのレベル(難易度)小 大

想定される常識の範囲(期待値)

原 誠一 Seiichi Hara

あらた監査法人 リスク・コントロール・ソリューション部 代表社員

PROFILE

金融機関、事業法人向けにリスク管理・ガバナンス・コンプライアンス関連のアドバイザリーサービスを提供。石屋製菓株式会社コンプライアンス確立外部委員会委員、株式会社赤福コンプライアンス諮問委員会委員、メルシャン株式会社社内調査委員会委員などを歴任。

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Corporate Integrity

10 Value Navigator Value Navigator 11

く、組織と社会、組織とその構成員の間

にそれぞれ二重のギャップが存在するか

らである(図表1)。

 図表1の中央の楕円形は、組織として

社会(各種利害関係者の集合)の期待に

応えるための対応策の集合を表しており、

具体的には各種の施策やルールとして具

現化している。

 第一のギャップは、社会が組織に対し

て一般的にさらに高い期待水準(社会の

常識)を有しており、これに応えるため

には組織としてより高いコストが必要と

なることだ。

 第二のギャップは、組織としての取り

組み水準(組織の常識)を機関決定して

も、これを実行に移す組織の構成員が

「この程度で十分であろう」と認識して

いる対応水準(社員の常識)との乖離で

ある。

 さらに、この期待への対応を困難にし

ているもう一つの要因は、時間の経過と

ともに、「常識」の水準が変化していく

ことにある。

 具体的には、去年あるいは昨日と同様

の対応では、高度化する社会の期待に

応えられないという事態が頻発してい

る。言い換えると、これまで許されてい

た(と思われた)行為が、もはや社会の

常識から見て許されないことに気付かず、

厳しい社会的批判を受ける例は枚挙にい

とまがない。

実効性のあるコンプライアンスの 実現

「法令遵守」から「利害関係者の合理的

な期待に応える」というコンプライアン

スの深化に伴い、伝統的な知識提供型コ

ンプライアンスプログラムの限界も明ら

かになっている。つまりルールに関する

知識を社員に一方的に提供するだけでは

組織が求める結果に結び付かず、むしろ

社会の期待を裏切る結果になりうるとい

うことである。

 それでは、繰り返しルールを教え込み、

知識を身につけさせても結果に結び付か

ない理由はどこにあるのだろうか。

 ここでは知識 → 認識 → 判断 → 行動→ 結果という一連の過程に即して、こ

の課題を明らかにしていきたい(図表2)。

 まず認識とは、そもそもコンプライア

ンスをどう捉えるかという軸であり、狭

く厳格に解釈すれば法令を念頭に置いた

固めの解釈になるし、広く利害関係者の

期待を想定すれば、より柔軟な解釈が必

要となる。

 次の判断とは、自らが置かれている状

況をどのように解釈するかという軸であ

る。自分自身を座標軸の原点に置いた絶

対的な見方がある一方で、より俯瞰的、

鳥瞰的に自分自身を他者との相対的な位

置関係の中で捉える見方も可能である。

 さらに行動とは、有事や非常時に効果

を発揮する主体的スタイルと、平時に有

効な協調的スタイルの軸である。

 留意すべきポイントは、これらの軸は

常にどちらかが正しいあるいは有効とい

うことではなく、その場の状況や局面に

おいてプラスにもマイナスにも作用しう

るということ、言い換えると、組織の文

化や風土、さらに個々の構成員のそれぞ

れの軸における立ち位置を確認し、それ

がどのような状況で強みになり弱みにな

るのかを知っておくことが重要である

(図表3)。

利害関係者の期待に応えるために

 認識、判断、行動の3つの軸は、利害

関係者の期待に応えるために組織に内在

する3つの要素の実効性に影響を与える。

具体的には認識はルール、判断は意識、

行動は体制という対応関係にある。

 それぞれの関係を見ると、まずコン

プライアンスをどう捉えるかという軸

は、「固い」場合には組織として統一的

なルールの適用につながる反面、形式

的・表面的な対応に陥る危険もある。一

方、「柔軟」な場合には幅広い期待に応

えることも可能であるが、ぶれやすいと

いう批判を受ける可能性もある。

 判断の「絶対」「相対」という軸は、

どこまで広く利害関係者を想定して、自

分自身を含めて相互の関係を第三者的

に客観視できるかどうかという視点であ

る。絶対的な視点から見ると、自らの立

ち位置が安定しているという利点もある

が、相対的に見ることによって各種利害

関係者間相互の(時には)矛盾する期待

の優先順位をつけることも可能になる。

 行動スタイルの「主体」「協調」とい

う軸は、支店・部・課といった組織の部

分集合における人間関係に強い影響を与

える要素だ。この軸は、支社・支店、本

社・本部間の相互関係において、有利に

も不利にも働く場合がある。

 体制やルールといった、組織の目的を

達成するための外形的な仕組みを有効に

機能させることができるかどうかは、現

実に組織を構成し、ルールを運用する役

職員の意識に依存する部分が大きいとい

う観点からは、判断の軸は重要な位置を

占める。

Integrity(誠実さ)の共有

 高度化、多様化する利害関係者の期待

に応えるためには、伝統的なコンプライ

アンスを強化しても限界がある。そもそ

もビジネスの現場で直面する課題には、

唯一絶対の正解が存在しない場合も多い。

 そのような状況において判断のよりどこ

ろとして有効なものは、詳細かつ網羅的

に明文化されたルールではなく、むしろ

組織として共有されている価値観である。

 より具体的には、組織の使命から導か

れる、組織として推奨される発言や行動

が、組織の構成員、特に要となる立場の

人材によって体現されているかどうかだ。

 ここで注意しなければならないのは、

経営者がどんなに立派な信条を対外的に

表明していても、組織の体制やルールが

その信条と矛盾していると、組織の構成

員は経営者の真意に疑問を持ち、信条に

共感できずに価値観の共有に失敗する可

能性が高いことである。

 最後に、個人がある行為を実行するか

どうかの判断に悩むような局面で、有効

と思われる自問を紹介しよう。

 これは「○○新聞テスト」と呼ばれる

ものであり、「○○」にはお好みの全国

紙の名称を入れる。つまり「明日の○○

新聞の一面に今やろうとしている行為が

報道された時に、自分は利害関係者にき

ちんと説明できるか」という問いである。

 組織の利害関係者のみならず、自分自

身の利害関係者(家族・友人・知人・同

僚・上司・部下・クライアント・取引先

など)に対して、その行為の正当性が説

明できるかどうかという問いを自らに発

することによって、今一度自分自身の置

かれている状況を客観視し、行為の結果

に対する想像力を働かせることが、個人

とその属する組織が大きな過ちを回避す

ることに結び付くものと期待する。 V

図表3◉コンプライアンス上の「立ち位置」

知識 認識 判断 行動 結果

伝統的なコンプライアンスプログラム(知識を一方的に提供して結果を求める)

先進的なコンプライアンスプログラム(知識から結果への過程を重視する)

行動(協調)

認識(固い)

認識(柔軟)

行動(主体)

判断(絶対) 判断(相対)

例:(やや柔軟、かなり相対的、やや協調的)

図表2◉コンプライアンスにおける「知識」から「結果」への流れ

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Corporate Integrity

12 Value Navigator Value Navigator 13

後の人材に求めるバリュー(求める人材

像)」を明らかにし、これをカルチャー

として共有・定着させるための取り組み

に自らコミットし注力した(図表2)。

 これまでの考え方や行動のあり方とは

異なるバリューの全社浸透に向け、新

トップが真っ先に着手したことは、役員

層を含む適切なリーダー人材の確保・登

用であった。リーダー層は部下社員に

対して範を示す存在であり、組織の行動

様式やカルチャーに大きな影響を与える。

全社的意識改革・カルチャー変革を推進

するためにも、まずはリーダー層におけ

るバリュー浸透に着手したのだ。

 具体的手段として、役員・拠点長層に

対し、会議・勉強会や個別面談などの場

においてトップ自身の思いを繰り返し伝

え続けた。また、ディスカッションセッ

ションを設け、経営の抱える課題や解決

策を役員・拠点長層自身が考え行動する

よう促した。そのうえで、日頃の行動観

察、人事考課、360度評価、私たちのよ

グローバル化の裏側で人的リスクは増加している

 日本企業のグローバル化が加速する中、

人材の多様性もまた一挙に加速している。

一方、グローバル化の裏側で多くの企業

が生き残りを賭けた国内事業の再編を進

めており、有望ビジネスへの集中と要員

のシフト、雇用構造転換なども加速して

企業のインテグリティをいかに維持・向上させるか。ITや統制システムを整備することはもちろん不可欠である。しかし、一人ひとりの従業員の行動をITや統制システムで微に入り細に入り、すべて監視・管理することは実質的に不可能に近い。従業員の共有する行動指針、ひいては組織のカルチャーとして浸透させるというアプローチがどうしても必要となる。このテーマは、ピープルファクターに携わるコンサルタントにとっても、近年最大のテーマの一つであり、チャレンジでもある。

図表2◉ リテール企業の事例

図表1◉カルチャー変革・浸透のアプローチ

うなプロフェッショナルによるアセスメ

ントなどの多角的情報収集を通じ、現

リーダー人材およびリーダー候補のバ

リュー保有・体現度合を精査し、過去に

例を見ない大胆なリーダー層の入れ替え

を断行した。

 次年度には全社員向けバリュー浸透施

策として、一般従業員の人事考課にもバ

リュー評価を組み込んだ。評価者研修も

充実させ、ケーススタディなどを通じて

各職場でのバリュー体現の具体的イメー

ジを管理職間で議論・共有するために多

くの時間を費やした。その後、毎年の評

価会議においても、バリュー体現のあり

方について、具体的な評価ケースを通じ

て役員・拠点長層が議論を戦わせ、その

理解と共有が進められている。

 あわせて、改革初期段階からリーダー

層だけでなく、現場第一線の社員を巻き

込む取り組みにも着手している。トップ

自らが各拠点に赴き、一般従業員層との

直接対話の場を通じて、現場が抱える悩

み・不安、また改革への意欲などを吸い

上げる取り組みである。現場の声に耳

を傾けたうえで、改革やバリューの意

義・意味を丁寧に説明し続けた。この取

り組みは、リーダー層を介してだけでは

十分に見えない現場の実態をつかみ、バ

リュー浸透に向けた課題および解決策発

見にも寄与した。A社はこれらを一過性

のイベントとしてではなく、改善・工夫

を加えながら現在も継続している。

 掲げたバリューがカルチャーにまで昇

華できたかの判断は別の機会に譲るとし

て、全従業員の意識に着実に定着しはじ

めてきていることだけは間違いない。

カルチャー変革を成功させるにはあらゆる施策を継続的に実施すること

 インテグリティをコーポレートカル

チャーとして定着させるためには、事例

に見るとおりあらゆる施策を継続的に実

施することが重要である。また、そのた

めにはトップ自らの強いコミットメント、

カルチャーに影響を与える重要なリー

ダー陣をはじめとするステークホルダー

の早期の巻き込み、継続のエネルギーを

費やさないための危機感や問題意識の共

有、そのための直接対話などが重要なポ

イントとなってくる。

 さらに、従業員意識調査や顧客満足度

調査など、目に見える形での変化のモニ

タリングや、場合によっては思い切った

抜擢人事など、象徴的クイックウインの

上手な活用の仕方もカルチャー変革成功

のポイントとなってこよう。 V

Corporate Integrity 醸成のポイントは カルチャー変革にある

いる。これも人材構造の多様化、短期的

収益確保への強い執着、雇用施策への反

発など、インテグリティを考えるうえで

人的リスクファクターを増加させる可能

性をはらんでいる。

 いかにして企業のインテグリティをカ

ルチャーとして維持・向上させていくか。

コーポレートカルチャーの根底には、創

業時からの経営理念、経営者の信条、価

若林 豊 Yutaka Wakabayashi

プライスウォーターハウスクーパース(株) チェンジマネジメント/グローバル人事担当 パートナー

PROFILE

総合電機メーカー、コンサルティング会社HR部門代表、PwC HRS株式会社代表を経て2010年より現職。人事領域を中心に幅広いコンサルティング経験を有する。近年は次世代リーダー育成、グローバル・タレント・マネジメントなどのプロジェクトを数多く手掛けている。

Deliver Results

Share &Develop for Success

Act with Integrity

Think Strategically 適切なリーダーの

選任・解任・配置

浸透セッショントレーニング

人事評価など制度への組み込み

現場との直接対話

トップによるメッセージ発信

A社のコアバリュー

値観といったものがあり、また、今まで

積み重ねてきたビジネスの成功ストー

リーと構築してきたビジネスモデル、さ

らにはそれらの土台には国民性といった

要素もある。一朝一夕に変革できるもの

ではない。逆に言えば、カルチャーを変

革・浸透させていくにはありとあらゆる

手を使い、総合的かつ継続的に取り組ん

でいくことが必要となる。

 PwC(プライスウォーターハウス

クーパース)では、クライアントの経営

理念・価値観の浸透やコーポレートカル

チャーの変革を図る際に、経営トップか

らの継続的なメッセージ発信といったコ

ミュニケーション施策から、経営理念や

求めるべき価値観を人事制度や組織ガバ

ナンスの制度の中に経営システムの一つ

としてビルトインしていくことまで、あ

らゆる手を尽くし継続的にカルチャーと

しての定着を図る支援を行っている(図表1)。ここでは、あるリテール企業が

行っている事例を紹介しよう。

ケーススタディ A社の場合

 A社は全国に数百の拠点を有するリ

テールビジネスを業とする企業である。

バブル崩壊後、同社の業績は急速に悪化

していた。英断の末、合従連衡による立

て直しを図るも立ち行かず、ついには外

部資本の助けを得て、経営体制の刷新・

抜本的改革に着手した。

 新たに着任したトップは、全社的改革

を推進するための中核施策として、「今

施策実行

継続的改善

モニタリング

•従業員意識調査•カルチャー診断•リーダーシップアセスメント•顧客満足度調査etc

変革準備

浸透する理念と価値観の明確化

変革レディネス調査

施策企画

浸透シナリオ/プラン策定

トップによるメッセージ発信直接的コミュニケーション

ステークホルダーの巻き込みや配置

浸透セッション各種トレーニング

組織・人事制度への組み込み

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Global Thought Leadership

14 Value Navigator Value Navigator 15

はないかという声はあるし、会計監査人

の選任や報酬の決定を経営者からより独

立した形で行うようにするための法律改

正は提案されている。しかし、監査の制

度や基準の見直しは、これから議論が活

発化してくるものと見られる。

 わが国の監査法人が、日本の資本市場

のいわば番人としてより意義ある存在と

なり、欧米の会計事務所のように広く企

業などの価値向上に貢献できる存在とな

るために、今何が求められているだろう

か。欧米での議論を踏まえて、その可能

性を探ってみたい。

ファームローテーション

「監査人(ファーム)のローテーショ

ン」は、欧米での監査改革に関する議

論の中でも特に高い注目を集めている。

「ローテーション」とは、特定のファー

ムによる監査の期間を、たとえば5〜

10年の間の特定の年数に限定し、その

年数が経過したら強制的に別のファーム

に交代させるというものである。これに

より監査人の独立性や客観性を維持し、

職業専門家としての健全な懐疑心を発揮

させようというのが提案の趣旨だ。

 PwC(プライスウォーターハウス

クーパース)はこの提案の趣旨には賛同

しているものの、ファームを強制的に

ローテーションさせても監査の品質向上

にはつながらないとして、この制度化に

反対している。同様の意見は会計事務所

のみならず、上場企業、監査委員会、投

123

欧米では、監査制度・基準の見直しなどの改革議論が活発化している

金融危機の失敗を繰り返さないためには、監査の品質、コーポレートガバナンス、企業報告、この3つを向上させることが必要である

より幅広い保証業務やガバナンス主体との協調を通じて、監査法人は日本の資本市場の魅力の向上に貢献できる

Key Point

欧州におけるグリーンペーパー「監査に関する施策:金融危機からの教訓への意見形成プロセス」(GREEN PAPER: Audit Policy: Lessons from the Crisis)をはじめ、欧米では監査の有用性を増すべく、さまざまな改革案が議論されている。わが国においては、いくつかの企業不祥事を受けて、コーポレートガバナンス(企業統治)に関する議論が活発になっているが、監査の改革については今後具体的な議論が行われる見込みである。しかし、ガバナンスの強化はもはやわが国の喫緊の課題であり、対応の遅れは許されない。監査法人としても、制度改革を待つまでもなくガバナンス強化への貢献策はいくつもある。

資家、規制当局、学者など、多くのス

テークホルダーから出されており、米国

PCAOBからの提案に対しては、612通

の意見の内92%が反対を表明している。

 また、この議論は決して新しいもので

はない。過去に何度も提起されたが、多

くの場合は、監査の独立性や品質の向上

に直結する効果が、少なくともこれに伴

うコストを上回らないとして否定されて

きた。韓国のように、一度制度として導

入したものの、その後撤回した国もある。

 監査人の独立性は、監査人がその機能

を果たすための基盤となるものであり、

すでに厳しく規制されている。わが国で

も、上場企業の監査報告書に署名する業

務執行社員は、5年ないし7年を超えて

担当することはできない。また、監査法

人は監査先企業と共同事業を行うなどの

利害関係を持つことはできず、監査に従

事する者も利害関係を持てない。このよ

うにして維持されている厳格な独立性を、

ファームのローテーションによってさら

に強化できることは実証的に説明できず、

むしろ他の手段によって監査人の独立性、

客観性、職業専門家としての健全な懐疑

心の発揮を確保すべきというのが多くの

意見だ。

 では、他の手段とはどのような方法が

考えられるだろうか。PwCが提案して

いるのは、監査委員会や同様の役割を担

うガバナンス主体と監査人とのより密接

な連携や、会計事務所・監査法人から品

質管理に関してより積極的な情報開示を

行うことなどである。もちろん、企業が

コーポレートガバナンスの一環で自主的

に定期的な監査人の交代や見直しを定め

ることも有効であろう。

 ガバナンス主体と監査人とのより密接

な連携においては、たとえば下記のよう

な事項について深度ある議論を行うこと

を提案している。

◦ 監査人が監査上のリスクとして何を重

要と考え、これをどのような監査手続

により検証したのか

◦ 監査による検出事項が重要か否かをど

のように判断し、結論を得たのか

◦ 不正が存在するリスクをどのように評

価し、それに対して実施した監査手続

の結果はどうであったのか

 これらはわが国の監査法人においても、

すぐに実践できることばかりだ。監査委

員会や監査役会、独立取締役とこれらに

ついて議論を行うことは、企業側から見

て監査の有効性を判断する一つの材料と

なるし、監査法人としても企業により近

い立場のチェック役との協調を通じて、

実効性の高い監査が可能となるはずであ

る。

監査以外のサービスの提供範囲

 欧米での監査改革に関する議論の中

でもう一つ高い注目を集めているのが、

「監査人に監査以外のサービス提供をど

こまで認めるか」に関する議論だ。監査

人である会計事務所が監査先にコンサル

監査の 価値向上に向けた グローバルの新潮流

欧米の監査改革に関する議論

 金融危機の反省を踏まえ、欧州では監

査の改革を提案するグリーンペーパーが

発行され、法制化に向けた議論が活発化

している。これは、会計監査人が財務諸

表に対して「適正」とお墨付きを与えた

にもかかわらず数カ月後に倒産してしま

う金融機関が相次いだのはなぜか、監査

人は監査先企業から十分に独立した立場

で言うべきことをきちんと言えていたの

か、といった問題意識に端を発する議論

だ。

 同様の議論は米国でも行われている。

監査基準を設定するPCAOB(公開会社

会計監督委員会)から、監査人(ファー

ム)のローテーション制度の導入、監査

報告書の記載の拡充、監査を担当した

パートナーの個人名や関与した主要海外

事務所の開示に関する新たな提案が出さ

れている。

 当初欧州での議論が先行したが、米国

はいったん議論がはじまると進展は速く、

監査報告書の記載の拡充や監査を担当し

たパートナーの個人名などの開示は年内

にも制度化される見込みだ。

 ひるがえってわが国においては、いく

つかの企業不祥事を受けて、コーポレー

トガバナンスに関する議論が活発になっ

ているが、監査法人について大胆な改革

を促す声は欧米ほど大きなものとはなっ

ていない。

 もちろんより厳しい監査ができたので

木村浩一郎 Koichiro Kimura

あらた監査法人 執行役(アシュアランス業務担当) 代表社員/公認会計士

PROFILE

国内・海外の監査業務、システム導入業務などへの従事を経て、2009年より監査業務部門を統括。本年6月より、あらた監査法人代表執行役就任予定。

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16 Value Navigator

Global Thought Leadership

Value Navigator 17

ティング業務などを提供することで、監

査人としての独立性や客観性が弱まり、

職業専門家としての健全な懐疑心を十分

に発揮できなくなるのではないかとの問

題意識から、監査人には監査以外のサー

ビス提供を基本的に認めないという提案

がなされている。

 監査人には、すでに厳格な独立性の維

持が課されており、以下のサービス提供

は禁止されている。

◦ 経営者が果たすべき機能を代行するこ

ととなるサービス

◦ 成果物が自らの監査対象となるサー

ビス

◦ 監査先企業の代理をすることとなる

サービス

 現在提供されている監査以外のサービ

スはこれらに抵触せず、独立性を保持で

きるような安全策(セーフガード)を確

保できるものだけだ。

 企業の活動が複雑化し、監査人もより

深度ある監査を実施することが期待され

る中、監査に関与するのは会計の専門家

のみならず、金融商品や企業価値の評価、

年金数理、ITシステム、リスク管理な

どの高度な専門技能を有する者も不可欠

となっている。したがって、会計事務所

はこれらの専門技能を有する者を多く抱

える必要がある。この優秀な人材を確保

し、彼らの技能を常に高度かつ最新の状

態に保てるのは、彼らに日々実践を通じ

てこれを磨く機会を与えられればこそで

ある。

 また、独立性を維持できる範囲で監査

以外のサービスに従事することで、監査

人は監査先に関する理解を深めることが

でき、これがひいては監査の実効性の向

上につながることも経験的に知られてい

る。

 わが国の企業でも、米国で行われてい

る事前承認制度1)を自主的に採用するこ

とは、有価証券報告書に開示される監査

以外のサービスに対する報酬額の開示と

あわせ、株主など他のステークホルダー

へのアカウンタビリティ(説明責任)を

果たす観点からも有効かもしれない。

三位一体改革の必要性

 欧米で行われている監査の改革に関す

る議論は、監査人のローテーションや

サービス提供範囲以外にも幅広く行われ

ており、PwCは監査品質の向上に資す

る多くの提案について支持を表明してい

る。この監査の改革に関する議論は、金

融危機の反省に基づくものであり、同じ

ような失敗を繰り返さないことが目的だ

が、このためには監査の品質向上と同時

に、コーポレートガバナンスの向上と、

企業報告の向上をあわせた三位一体の改

革が必要であるとPwCは主張している

(図表1)。

 監査人が独立性や客観性を維持し、職

業専門家としての健全な懐疑心を発揮す

るためには、前述のとおり、企業のガバ

ナンス主体との実効性の高い協調関係が

効果的だ。しかし、これを当事者間で行

うだけでは企業としてのアカウンタビリ

ティを果たしきれない。これを説明し、

企業におけるリスクの所在とこれに対す

る管理や施策も含めて、企業価値の源泉

がどこにあるかの評価を読者に可能なら

しめる企業報告が期待される。

注目される「統合報告」

 この観点で注目されるのが、「統合報

告(Integrated Reporting)2)」だ。詳細

は本誌Vol.3(2011年10月発刊)に譲

るが、いわゆる財務情報も非財務情報も

すべて統合し、企業価値について一貫し

た説明をすることを目的としており、現

在、このフレームワークづくりが世界か

らの参加者を集めて進められている。

 このような統合された企業報告をしよ

うとする時、企業を取り巻くリスクに着

目することが有用だ。企業はその存在価

値を発揮すべく、それぞれ事業目的を

持って日々活動を行っているが、この目

的の達成を阻害する要因としてのリスク

は常に存在する。すなわち、企業価値を

的確に説明するためには、企業の抱える

リスクを説明することが不可欠なのであ

る。しかも、リスクを説明するだけでは

読者は十分な企業価値の評価はできない。

これらのリスクに対して、企業がどのよ

うな対応を取り、どれだけの成果を上げ

ているのかも説明しなければならない。

 実は、事業目的、リスク、対応、そし

てこれらの統合という一連の流れは、監

査においても伝統的に採られてきた企業

分析のアプローチなのだ。このような分

析の結果を監査人とガバナンス主体が共

有し、また企業内で共有するとともに、

企業とステークホルダー間の対話におい

ても用いられることにより、わが国の資

本市場において日本企業の企業価値がよ

り正当に評価されるようになるのではな

いか。

 そして、この統合報告が価値あるもの

であれば、その内容に対する第三者の保

証もまた有用なものであろう。すでにCSR

(Corporate Social Responsibility)

報告書に対する保証3)業務はわが国で

も行われており、米国では電子開示の

対 象となっているXBRL(eXtensible

Business Reporting Language)データ

に対する保証4)も拡大している。監査法

人は、前述のとおり、監査先に対する厳

格な独立性を保持しており、また複雑な

企業活動を評価するための多様な専門家

を揃えている。より幅広い保証を提供す

ることで、日本の資本市場の地位向上に

寄与したい。

わが国における貢献

 わが国においても、監査の制度や基準

の見直しに関する議論がこれから活発化

してくるであろう。しかし、ガバナンス

の強化はもはやわが国の喫緊の課題であ

り、制度改革を待たずとも監査法人とし

て果たせる役割は多くある。欧米の実務

からよいところを積極的に採り入れ、ま

た議論されている改革案についても、表

面的な形にとらわれることなく、多方面

から幅広い検討を行うことで、わが国の

監査を価値あるものとしたい。

 東日本大震災から1年を経過し、日本

企業の本源的価値に着目した経営はます

ます重みを増している。わが国の財政赤

字が拡大し、経常収支が赤字になること

も予想される中、日本の資本市場の魅力

を高めることができるよう、監査法人と

しても精いっぱいの貢献を行わなければ

ならない。 V

1)事前承認制度監査人が監査先企業に対して提供するサービスについて、その実施に先立ち、独立取締役により構成される監査委員会が承認することで、監査人の独立性・客観性を確保する仕組みのこと。監査委員会の承認を得られないと、監査人はそのサービスを提供できない。

2)統合報告企業が対外的に行う報告には、有価証券報告書やCSR報告書などさまざまなものがあるが、これを「企業価値」という観点から統合した報告書のこと。社外への報告のみならず、社内管理まで一貫したものとすることで、ブレのない経営にも資するものとなる。

3)CSR報告書に対する保証企業の社会的責任に関するアカウンタビリティを果たす目的で作成されるCSR報告書の内容について、企業から独立した立場の第三者が、その正確性、十分性などにつき検証すること。保証をつけることは義務ではないが、信頼性が付与されることで情報の価値が増す。

4)XBRLデータに対する保証インターネットを通じてアクセスできる、企業情報の開示における言語として世界標準になっているXBRLデータの正確性を、企業から独立した立場の第三者が検証すること。データに関する保証業務は、財務諸表の監査とは大きく異なるフレームワークの中で行われることになる。

m e m o

CorporateDisclosure

CorporateGovernance

Quality ofAudit

コーポレートガバナンス

監査の品質企業報告

図表1◉監査の品質、コーポレートガバナンス、企業報告のすべてを向上させる三位一体の改革が必要

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Value of the Life

18 Value Navigator Value Navigator 19

「マラソンランナー」という木を、2個の五輪メダルという糧を得て大きく豊かに成長させた有森裕子。その太い幹から長く伸びた枝葉は、陸上競技の世界を大きく越え、国際支援活動や知的障害を持つアスリートを支援する活動へと広がった。国連人口基金親善大使としてタンザニアで開催された「Ekiden for Peace

(平和のために駅伝を)」大会や、自らが代表理事を務めるNPO法人ハート・オブ・ゴールドが運営協力する「アンコールワット国際ハーフマラソン」などで、彼女はプロのランナーとして“走る”。“走る”ことで、チャンスに恵まれない人々、選択肢が限られている人 に々、チャンスと希望をつかむきっかけを届ける。チャンスをつかむためにいつも本気で臨み、絶対に成功させなければならないことだけに目標を絞り込み準備する。これは、有森裕子独自の戦略だ。

元マラソンランナー/公益財団法人スペシャルオリンピックス日本 理事長 NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事/株式会社RIGHTS.取締役

有森裕子 Yuko Arimori

PROFILE1966年岡山県生まれ。日本体育大学卒業後、リクルート入社。90年フルマラソンに初参戦し、2年後のバルセロナ五輪で銀、続く96年のアトランタ五輪で銅メダル獲得。バルセロナの銀は日本女子陸上競技では64年ぶりのメダル。また2大会連続のメダル獲得は、日本女子陸上初の快挙。98年、スポーツを通して国際支援活動を行うNPO法人「ハート・オブ・ゴールド」を設立し、代表理事に就任。2002年にはアスリートのマネジメント会社「ライツ(現在はRIGHTS.)」設立に参画、取締役に就任する。2007年、プロマラソンランナーを引退。日本陸上競技連盟理事、国際陸連女性委員会委員、国連人口基金親善大使などを歴任し、2008年より認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本(現在は公益財団法人)の理事長を務める。2010年、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞受賞。同年、カンボジア国王陛下よりロイヤル・モニサラポン勲章大十字受章。

世界をつなぐために走り続ける 有森裕子「プロアスリート」への道の開拓者

狙った的ははずさない勝因は「絶対的目標」を絞ること

 人生を1本の木に喩えるとしたら、私

は走ることで木を育ててきました。その

幹となってさまざまな人との出会いや人

生の幅を広げてくれたのが、92年のバ

ルセロナと96年のアトランタ、2つの大

会で獲った五輪メダルです。

 人生の大きな幹となってくれたのはマ

ラソンの実績ですが、高校で陸上部に

入ってから2007年に引退するまでの25

年間で走ったレースは12回。実はすご

く少ないんです。私は1回レースに出る

と、その後の回復が遅いので走れる回数

は少ない。でも、狙ったことは基本的に

はずしません。

 実はこれ、それほど難しいことではな

いんです。何事も、すべてうまくやろう

とするから難しくなる。その中で「絶対

に成功させなければいけないこと」は、

そんなにないはず。

 だから、まず目標を絞る。結果が必要

なのはそこだけです。それ以外はすべて

過程であり、絶対的目標を達成するため

の準備。準備の過程では、結果が良かろ

うが悪かろうが、その先にある目標にプ

ラスに働くものを生めばいい。過程で大

切なのは、結果ではなく内容です。

 五輪で勝つことが最終目標なら、それ

までのレースは何位であろうと、内容を

もって走ることができればいいわけです。

毎回テーマを設定し、それをクリアする

ことに集中して、必要以上の結果は期待

しない。実際、私のフルマラソン初優勝

は1つ目の五輪メダルを獲った3年後で

した。絶対的目標を達成するには、こう

した割り切りも大切だと思います。

2つ目の五輪メダルは「人生の必要条件」だった

 バルセロナでのメダルは“目標”でし

たが、次のアトランタ五輪は違います。

「出たい」ではなく、「出なければいけな

い」。何色であれ、そこで2つ目の五輪

メダルを獲らなければ、その先の人生が

ひらけなかったんです。

 バルセロナ五輪の後、私は技術に磨き

をかけ、ランナーとしてさらにステップ

アップしたいと考えていました。そのた

めにやりたいことが山ほどあった。で

も、それを口にすると「天狗になってい

る」とか、意欲を燃やしているのに「燃

え尽き症候群だ」とか言われる。だんだ

んチームにいづらくなり、もやもやした

まま納得のいかない時間だけが過ぎてい

きました。

 メダルを獲った瞬間は称えてもらえて

も、その先に競技を通して世界が大きく

ひらけるわけではない。そこにすごく疑

問を感じたんです。疑問を感じたのは私

だけではありません。同じように疑問を

持ち、悩んでいた選手は他にもいました。

 スポーツ選手が自分の考えを世の中に

発信し、何かを変えようとした時に一番

有効な肩書きは五輪メダリストです。で

も、世界を見渡せば五輪メダリストなん

て山ほどいる。ぼんやりしていたら2年

くらいであっさり忘れられます。これは

もう本当にシビアです。金メダリストで

さえ、よほどのインパクトを残さない限

り「何やってた人だっけ?」ということ

になる。まして銀や銅で覚えていてもら

うのは至難の技。となると「私は次のア

トランタを目指すしかない」と思いまし

た。

 そのためにまず故障していた足の手術

を受けることにしました。自分は走れる

のか、本当に走りたいのか。そこを確か

め、自分の選択肢をはっきりさせるため

です。手術に失敗したら走ることをやめ

る。成功しても走ることに迷いがあるな

ら、それはやる気がないということだか

らやめた方がいい。でも、成功して痛み

がとれ「これでまた走れる!」と思えたな

ら、その時は全力で五輪を目指そう、と。

 手術は成功し、決心がつきました。そ

の後、バルセロナ以来3年ぶりのレース

で初優勝。アトランタの出場も決め、メ

ダルも獲れた。もがき悩んだ末に自分に

課した2つ目の五輪メダル。色は銅でも

自分にとっては100点満点でした。

つねに全力疾走だからこそチャンスを逃さない

 人生の突破口となる2つ目の五輪メダ

ルを獲った後、私はすぐに日本陸上競技

連盟とメディアにアナウンスしました。

みんなが自分のできることを仕事にして

いるように、私は走ることを仕事にした

い。プロランナーとして生きていくため

に肖像権を自主管理する、と。

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20 Value Navigator

Value of the Life

Value Navigator 21

ピックスもそうです。

 私は基本的に不器用なので、すべてが

全力なんです。淡々と本気でやってきた。

全力で淡々とあきらめずにやってきたか

らこそ、時を逃さずチャンスに出合えた

のだと思います。似たような“時”は何回

もきますが、絶対的に大事な“時”は1回

しかこない。それを逃さないための一番

の条件は、やることに対して“本気であ

る”ことだと思うんです。

 本気ならちゃんとその“時”に気付ける

し、必死ならきっとつかめる。私はいつ

も何かをつかもうとしているし、つかん

だらそれを何とかしようとする。だから

何をつかんでもマイナスにはなりません。

他の人には取るに足らない小石でも、そ

れをつかもうとした気持ちを石に込めれ

ば何かにはなる。絶対的な目標は絞るけ

れど、つかみや気付きは多ければ多いほ

どいいと思います。

まだまだチャンスの少ない人 に々希望をつかむきっかけを届けたい

 世の中には準備しても機会に出合えな

い人たちがいます。知的障害のあるアス

リートたちがそうです。彼らには自分の

能力や練習の成果を発揮する場がない。

身体障害のある人たちと違って、知的障

害のある人たちは自分たちでそのチャン

スを持てる持てないを決められないんで

す。決めるのは周囲の人。知的障害者と

いうことで「あなたはこっち」と決めら

れてしまう。そして、決められてしまっ

ても、彼らにはわからない。自分から表

現したり、発信したりすることができな

いことでチャンスが閉ざされてしまうの

は不幸です。

 そうした状況を改善するために、ス

ポーツを通して知的障害の人たちにチャ

ンスを継続的に提供していく。それがス

ペシャルオリンピックスです。

 幸運とは、準備が機会に出合うこと

である——これはアメリカのトーク

ショー司会者、オプラ・ウィンフリーの

言葉ですが、私はスペシャルオリンピッ

クスでこの言葉をよく引用します。人の

幸不幸を決めるのは、何を持っているか

ではなく、持っているものを活かす場に

出合えるかどうかだ、と。まさにそのと

おりだと思います。障害があることが不

幸なのではなく、チャンスが閉ざされ、

生き方を制限されていることが不幸なん

です。

 子どもたちに変化を起こさせたスポーツイベントに可能性を見出す

 チャンスをつかむきっかけを必要とし

ているのはカンボジアの子どもたちも同

じです。私がはじめて彼らに会ったの

は、96年の第1回アンコールワット国際

ハーフマラソンでした。対人地雷の犠牲

になり、義手・義足をつけて生活してい

る人々を応援するためのチャリティー国

際認定レースです。

 その1回目に招待されて走ったのです

が、はじめてだったこともあり、わけの

わからない感覚しか残りませんでした。

でも、1つだけとっても気になるものが

ありました。それは、現地の子どもたち

の目です。体力もないし、ただでさえお

腹が空いているのに「走るなんてとんで

もない!」という感じで、全然のってこ

ない。しかも物乞いをする子どもたちが

山ほどいて、みんな食らいつくような目

をしていたんです。

 当時のカンボジアは、私たちからは考

えられないくらい悲惨な状況でした。で

も、その子どもたちのギラギラした目が

ある意味とても魅力的で、どうしてここ

まで生きることに貪欲なんだろうって、

強烈な印象を残したんです。

 ところが、翌年にはニコニコしながら

練習している。物乞いをする目が、楽

しみの目に変わったんです。「スポーツ

 当時、実業団に登録した選手は肖像権

をJOC(日本オリンピック委員会)に

預けることになっていました。そのため、

走ることを仕事にしようとしてもできな

かったんです。本人の許可なく肖像権が

預けられたり使われたりするのはおかし

いし、絶対に変えられると思ったので、

紆余曲折ありましたがとにかく待ちまし

た。

 お金の話に注目が集まりがちですが、

私が本当に言いたかったのは、選択肢が

ほしいということです。肖像権を預ける、

自分で管理する、どちらを選択してもい

いはず。要は自分の人生を自分で選べる

よう選択肢がほしいということ。自分の

生き方にはきちんとこだわりたい。そこ

に価値を持ちたいし、それなりの評価も

求めたい。主張・要求すれば軋轢も生み

ますが、そこは譲れないポイントでした。

 2つの五輪メダルを獲ってプロ宣言

し、マラソンランナーとしての大きな木

ができると、その木を見た人から「これ、

やってみない?」「こんなこともできる

よ」と声がかかり、たくさんの枝が伸び

ていきました。カンボジアでの支援活動、

国連人口基金親善大使、知的障害のある

アスリートのためのスペシャルオリン

有 森 さ ん に と っ て の「 Va l u e o f t h e L i f e( 人 生 の 価 値 )」と は ?

チャンスがあること。そのチャンスをつかむために、常に本気であること。「幸運とは、準備が機会に出合うことである」これは、オプラ・ウィンフリーの言葉ですが、まさにそのとおりだと思います。

イベントでこんな変化が起こせるんだ。

走ってきて本当によかった!」。この時、

心からそう思いました。子どもたちが私

に誇りを持たせ、スポーツの可能性を見

せてくれたんです。スポーツを通して

共に学び、共に育つことができるなら、

もっと主体的に関わりたい。そう考えて

「ハート・オブ・ゴールド」というNGO

(現在はNPO法人)を立ち上げました。

 ここでの活動の柱は、子どもたちが希

望を持って人生を切り拓いていくための

きっかけづくりと、その活動を担ってい

く人材を現地で育成すること。私たちが

希望を与えるのではなく、彼ら自身が希

望や自信をつかみ、自立することを側面

からお手伝いする活動です。状況やニー

ズはどんどん変化していきますから、と

にかく現地で彼らとたくさん話をするこ

とを大事にしています。

 設立して17年。初回大会に10歳で参

加した子どもが27歳になり、一緒に大

会をつくっていく側になりました。私た

ちの活動に賛同・協力してくださる企業

の方々にも、まずは現地に来ていただき、

子どもたちが育っていく様子を一緒に感

じていただいています。そうやって実際

に変化を感じていただくことが、応援の

環を広げ、息の長い活動ができている理

由の一つだと思います。でも、私たちの

最終目標はこの活動に終止符が打てるよ

うになること。私たちが必要なくなるこ

となんです(笑)

たすきが被災地の学校を縦断する日本一周駅伝プログラムを企画

 東日本大震災後はハート・オブ・ゴー

ルドで「3.11子どもanimoプロジェク

ト」を立ち上げ、東北地方での子どもた

ちへの支援を進めています。津波で流さ

れた教材など物資の支援も行いましたが、

ここでもやはりメインはスポーツを通じ

たソフト面での支援活動です。

 学校で子どもたちが楽しみにしていた

遠足や運動会といった行事ができなく

なったということで、サマーキャンプを

開いたり、小学校でランニングの授業を

行ったりしています。スポーツだけでな

く、子どもたちが育てられるものをつく

りたいという要望を受けて、今年3月に

は石巻市の蛇田小学校で桜の植樹を行い、

バンクーバー日系ガーデナーズ協会の協

力を得てカナダガーデンもつくりました。

 これからも被災地の学校で、現地の

方々と交流しながら必要な支援を続けて

いきたいと考えています。その一つとし

て現在企画しているのが、子どもたちの

体力向上を図る日本一周駅伝プログラム

です。

 誰が何キロ走ってもいいので、とにか

く全員が走り、走った距離を日本地図の

上にどんどん書き込んでいく。毎日走っ

て全員で日本一周できたら、次の学校に

たすきを渡し、また全員で日本一周して

もらう、というプログラムです。楽しみ

ながら体を鍛え、みんなで協力して目標

達成を目指すと同時に、そのたすきに被

災地を縦断してもらうことで子どもたち

の気持ちをつないでいってもらえたらと

考えています。

 震災では多くのものが失われました。

でも、失ったものを数えるのではなく、

残ったものやできることを考えて、輝き

をつかんでほしいと思います。

 今、自分にできることを考えることが

大事なのはレースでも同じです。レース

までにやるべきことが10あって、その

うち9つできなかったとしても、レース

当日に考えることは、できた1つ。でき

なかったことを数えたり考えたりしても

何の力も生みません。そんな反省は後で

すればいい。レース当日は、たった1つ

であっても自分ができたことをどう活か

すかに最大限頭と力を使った方がいい。

本番で力を出し切るには、その切り替え

も大事です。

 7月に開幕するロンドン五輪は、日本

にとって震災後はじめての五輪。スポー

ツの力や諦めないことの可能性を表現で

きる大会であってほしいですね。それが

何かの解決に直接的にはつながらないに

しても、多くの人が「よし!」と勇気を

もらえるような、そんな姿がたくさん見

られるといいなと思います。 V

団長として参加した「2011年スペシャルオリンピックス夏季世界大会・アテネ」。 開催地は、オリンピック発祥の地ギリシャ共和国アテネ写真提供:スペシャルオリンピックス日本

「これは、ハート・オブ・ゴールドでつくった東日本応援Tシャツです。お買い上げいただいた収益はすべて「3.11子どもanimoプロジェクト」として、被災地の子どもたちや学校復興に使わせていただきます」(有森氏)

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Management Issue

22 Value Navigator Value Navigator 23

世界の工場から世界の市場へと急成長を遂げる中国、香港、台湾。今、この大中華圏は、アジア展開のためのハブ拠点としても世界中から注目を浴びている。税務リスクや人件費高騰などの懸念材料はあるものの、本社機能の一部を移転する企業も出はじめた。今回は、中国、香港、台湾に駐在するPwC Japanese Business Networkの駐在員から、「今の中華圏」の現状について語ってもらう。  意外に思われるかもしれませんが、日

本企業の進出は、中小企業を中心に高い

レベルで続いています。昨年度は過去最

高の会社設立件数(日系、非日系を含む

すべて)でした。

奥田:昨年の台湾経済は、前半が好調、

後半がスローダウンといったところです。

ただ、1人当たり購買力平価ベースでは

日本を上回るので、その購買力に着目し

て、海外各国からの投資がかなり増えて

います。台湾の代表的な産業は、パネル

やモニター、PCなどのEMS(電子機器

製造受託サービス)です。そのため、従

来はその下請けメーカーの進出が多かっ

たのですが、最近ではサービス産業の進

出も増えてきました。

 台湾への日本企業の進出は、完全に止

まっている印象を持たれている方が多い

と思いますが、昨年は441件と統計上こ

こ何年かは増加傾向にあります。日本企

業と台湾の関係は歴史的に長くしかも深

いものです。進出企業数は累計でNo.1、

金額ベースでも実質米国に次いでNo.2

です。台湾政府もセミナー開催や企業訪

問を行うなど日本企業の誘致活動を積極

的に行っており、その効果が出てきてい

るようです。

税務リスクと人件費上昇に要注意

──中国での税制や法規制などにおいて、

最近はどのような動きがありますか。日

本企業のビジネスに与える影響も含めて

教えてください。

高橋:税制面はまさに中国ビジネスにお

ける最大のリスクの一つです。日々諸問

題が発生し、中国に進出している日本企

業、中国企業と取引している日本企業は

非常に苦労されています。最近の動きと

しては、駐在員に対しても社会保険が課

されるようになりました。駐在員の給与

はネット保証1)なので、企業にとって社

会保険負担は相当のコスト増になります。

 また、流通税改革も行われています。

流通税はまず上海などの主要都市でパイ

ロットプランが導入され、その後、中国

全土に展開されるケースが多く見られま

す。ただ、制度が導入されても末端の地

方税務当局の担当者レベルまで情報がう

まく伝わっていないケースが見られます。

そのため 、詳細を問い合わせても適切な

回答が得られず時間も取られます。

 税務調査は非常に厳しい部類に入ると

思います。移転価格税制2)などは、2

〜3年がかりになることも多く、進出企

業のビジネスに深刻な影響を及ぼすケー

スも見られます。さらには、日本企業

の場合は日本本社からの出向者のPE課

税3)の問題などもよく指摘されています。

これらの問題は税務当局と交渉するのも

難しく、どの企業も説得にはかなり苦労

されています。

──国内ビジネスが厳しいため、中国ビ

ジネスはいわば「稼ぎ頭」となっている日

本企業も多くなっていますが、今後の懸念

材料については、いかがお考えでしょうか。

高橋:リスクを挙げるなら、政府当局か

らの許認可の問題、税務面、人件費の上

昇、人材の流動性、住居の家賃高騰など

でしょう(図表1)。

 法規制では、外貨送金問題で苦労され

る企業が多いようです。関税も税務当局

と同じくらい厳しく、税関当局の実際の

評価と合わないと差額部分に課税するな

ど強い態度で臨んできます。HSコード4)

や関税評価額は細かくチェックされます

し、輸出加工区5)の扱いにも注意が必要

です。

 また、外資の進出は分野によって認め

られない場合があります。メディアコン

トロールがある出版業などは苦労されて

いますし、私たちのような会計事務所も

規制産業に含まれます。

 加えて、人件費は毎年上昇を続けてい

ます。前年比で数パーセント程度の上昇

と思っていても、数年単位で見ると給与

水準が5割近いアップ率になっていたり

するので注意が必要です。中国に製造工

場や拠点を構えている日本企業は、この

まま給与上昇が進んでいけば事業の採算

──今回は、大中華圏の現状についてで

す。まず、中国の最近の経済やインフラ

などの状況を教えてください。

高橋:私は上海を中心に、大連、青島、

瀋陽など、さまざまな拠点をカバーして

います。日本から見れば瀋陽などは地方

都市のように感じられるかもしれません

が、実際には大阪をしのぐほどの大都市

です。中国にはそういう地方都市が何カ

[コーディネーター]

齊藤 剛 Tsuyoshi Saitoあらた監査法人 代表社員/公認会計士

桂 憲司 Kenji Katsuraプライスウォーターハウスクーパース(株) パートナー

[パネリスト(五十音順)]PwC 台湾 奥田健士 Kenji Okudaディレクター/公認会計士

PwC 香港 柴 良充 Yoshimitsu Shibaパートナー

PwC 中国 高橋忠利 Tadatoshi Takahashiパートナー

所もあり、急成長を遂げています。

 鉄道や高速道路などのインフラは、ソ

フト面ではまだ遅れていますが、ハード

面は国家戦略である5カ年計画に沿って

計画どおりに着々と整備されています。

日本での震災後は中国が見直され、日本

企業の進出も増えています。特に、上海

に近い蘇州などでは進出ラッシュとなっ

ています。

──日本での震災以後、進出の仕方には、

何か変化が見られるのでしょうか。

高橋:震災やタイの洪水などを受けて、

製造拠点を分散させること以外にも、中

国への捉え方が変わってきました。これ

までは、日本の本社がアジア地区に直接

投資していましたが、最近では中国を中

心に他の国々と取引するようになりまし

た。取引拠点だけでなく、本社機能を中

国に移転しようと検討をはじめている企

業もあるようです。

 中国はこれまで世界の工場でしたが、

今は世界の市場へと変化しています。

 

──中国の成長は続いているようですが、

香港と台湾はいかがでしょうか。

柴:香港の経済は、昨年度のGDPが5%

成長と、比較的堅調に成長しています。

株と不動産の街なので、特にこれらの分

野が活発なのが大きな特徴です。

 中国返還前までは、香港は返還後に空

洞化するのではないかと危惧されていま

した。しかし、今では本土との取引が活

発で、経済は非常に好調です。最近では、

中国国営企業の民営化が加速し、香港の

証券市場を通じた新規上場(IPO)も相

次いでいます。IPO件数は10年前は年間

わずか10〜15件でしたが、昨年度は100

件と桁違いに増えました。

 また、昨年度から香港と広州間の高速

鉄道の整備や、マカオと直通する橋の建

設など10大インフラ計画もはじまりま

した。これらは主に中国の華南地区と香

港を結ぶインフラ整備です。

高橋忠利(PwC中国)2001年より台湾、2009年より上海に在住。上海を中心に蘇州、重慶、成都など中国の華中エリア、2011年からは北京、天津、大連、青島を含む華北エリアも担当。経営者に対し会計、内部管理、税務実務を中心に、中国事業再構築にかかるアドバイスを提供している

[特別対談 第2 回]

進化する大中華圏世界の工場からアジア展開のハブ拠点へ

図表1◉ 日本企業の中国展開における課題

出所: JETRO在アジア、オセアニア日系企業活動実態(2009年、2010年調査)

❶税務(法人税、移転価格課税)の負担❷現地通貨の対円為替レートの変動❸現地通貨の対ドル為替レートの変動

財務・金融・為替面

❶競合相手の台頭(コスト面での競合)❷主要取引先からの値下げ要求❸新規顧客の開拓が進まない

販売・営業面❶調達コストの上昇❷品質管理の難しさ❸原材料、部品の現地調達の難しさ

生産面

❶通関など諸手続きが煩雑❷通関に時間を要する❸通達、規制内容の周知徹底が不十分

貿易制度面

❶従業員の賃金上昇❷従業員の質❸人材の採用難

雇用・労務面

❶現地人材の育成が進まない❷幹部候補人材の採用難❸現地人材の能力、意識の低さ

経営の現地化の面

123

中国・香港・台湾の大中華圏は、世界の工場から世界の市場へと進化し、香港・台湾は中国市場へのゲートウェイとして機能している

グローバル展開する世界中の企業から、アジア展開のハブ拠点としても着目されている

中国での税務や法律、政治など新興国特有のカントリーリスクは依然として注意が必要である

Key Point

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Management Issue

24 Value Navigator Value Navigator 25

性が確保できなくなる可能性があるので、

給与体系など人事面の整理が必要となる

でしょう。

 一般的に、中国人は給与アップを求め

て転職するケースが多く、人材の流動性

は日本に比べて高いと言えます。その一

方で、中国人はワーク・ライフ・バラン

スを日本人以上に重視しています。先ほ

どの話と矛盾するかもしれませんが、た

とえ給与が下がっても、自分の時間が増

える仕事を選ぶ中国人も増えてきていま

す。赴任したばかりの頃、中国人のこの

ライフスタイルには驚かされました。

香港・台湾が小売業や飲食業を中心とした中国市場へのゲートウェイとして着目

──中国ビジネスにおいて、香港はどの

ような位置付けになっていくでしょうか。

柴:香港は20年前から広東省との一体

化が進み、安い賃金でモノをつくって輸

出する加工貿易モデルが取られていまし

た。しかし、人民元の上昇と米ドルの下

落により、人民元で支払い米ドルで入金

される同モデルは成り立たないことが、

この5〜6年で明確になってきました。

 その中で外資系企業、特に流通業や最

終消費財を扱う産業が中国進出を目指す

ための新しいゲートウェイとして香港を

位置付けるようになっています。特に、

今まで内需型ビジネスモデルとされてい

た小売業や外食産業からの進出が目立ち

ます。さらに、そうしたビジネスを展開

していくうえで、資金調達やブランド認

知のために、香港でのIPOを目指す企業

が増えています。

──人材活用の面などで変化は見られま

すか?

柴:従来は中国本土のマネジメント層と

して香港から出向や転籍していくパター

ンが多かったのですが、最近では現地の

中国人がかなり成長し、経営幹部も育っ

ています。特に流通業や最終消費財を扱

う産業では、中国市場で中国の人々にモ

ノを売るので、香港人よりも現地人材の

プレゼンスが高まっています。

 また、日本でタックスヘイブン対策税

制6)が改正されたのを受けて、香港で

の統括会社の活用方法が広がりました。

ただし、最近では税金面で優遇されるか

らというよりも、R&Dや市場調査など

市場に近いところに機能を持たなくては

ならない業務を、本社機能から切り出し

て香港に移すケースが見られます。

 さらに日本と香港の間で租税協定が結

ばれたことで税金面で二重課税が起こっ

た時の救済策が設けられたことも、本社

機能の一部を香港に移転することへの抵

抗感が薄れている背景の一つになってい

ると思います。

高橋:機能の移転については、中国本土

でも研究開発部門を中国に移し、本部機

能として位置付けている企業が増えてい

ます。税務面で検討すべき課題もあるの

ですが、北京や上海を中心として中国に

統括機能を移す企業も出てきています。

移転した後でどれだけ効率的・効果的に

統括機能を果たせるかが注目されるとこ

ろです。

──台湾では、中国本土との関係や位置

付けなどで、どのような変化が見られま

すか?

奥田:台湾ではモノづくりのコストが高

すぎるので、中国本土への工場移転が進

んでいました。しかし、政府の税制改正

で法人税率が25%から17%に、相続税

率が最高50%近くから10%へと引き下

げられたことで、台湾資本のビジネスが

かなり台湾に戻ってきています。

 また、2010年夏に中台間の貿易協定

(ECFA)が結ばれ、台湾で生産された

モノを中国に輸出する際の関税が優遇さ

れるようになったことで、台湾での製造

機能も見直されています。

 世界トップの生産量を誇るパネル、モ

ニター、PCなどのメーカーが製造拠点

を戻しているので、そこに部品を供給し

ている日本メーカーにとっても、台湾拠

点の重要性は増しています。それを受け

て日本企業が拠点を増やしたり、グルー

プ内での取引の管轄を台湾に戻したりす

る傾向も見られます。

 また、台湾は基本的に紳士的ながら中

国の文化をそのまま持っています。そこ

で、中国マーケットの実験市場として台

湾に進出し、中華圏の人々の好みやビジ

ネスのやり方を学び、その後、台湾人を

幹部に据えて中国に進出しようと考えて、

台湾に進出してくる企業も増えています。

これは特に、飲食業やコンテンツ分野な

どで目立ちます。ある研究機関の調査で

は、中国への直接投資よりも台湾経由の

方が10%程度成功率が増すという報告

もあるようです。

 台湾を拠点とする企業が中国本土の企

業と人事交流する傾向も強くなっていま

す。従来は台湾と中国の拠点はバラバラ

に動いていましたが、それが兼務になっ

たり、台湾で経験を積み中国語を習得し

た人材が、そのまま中国に転勤されるパ

ターンも増えています。

──日本企業が大中華圏での競争に勝ち

残るために、経営者の方々へのアドバイ

スをお願いします。

高橋:中小企業の中国進出セミナーや現

地で企業訪問をした時に私がよくお話す

るのが、中国でのリスクを整理し、事前

に把握することの重要性です。リスクが

わかれば対応を考えられますから。

 進出企業の経営者の皆さんには、中国

の法規制の現状や競合他社の対応につい

てお話しするようにしています。競合は

日系同士だけではありません。韓国企業

や台湾企業、他の多国籍企業も含まれま

す。たとえば、台湾企業は税務専門の人

材を配置していますし、韓国企業もトッ

プ直轄の税務リスク担当者を置いて対応

しています。日本企業はこうした税務リ

スクへの対応が遅れているので、海外企

業の取り組みはとても参考になります。

 グローバル人材も重要なテーマです。

グローバルな観点で組織を捉え、マネジ

メントできる日本人や中国人幹部がどれ

だけいるかが大切になってきます。現地

で成功している日本企業には、必ず日本

の本社やグループ内の他の拠点との連

携を上手に調整できる人材がいます。地

元の人々、台湾や香港系企業の人々とう

まくつきあうことができ、国有企業や政

府当局ともコミュニケーションや連携を

図っていける。そういう人材が欠かせま

せん。

安易なIPOやアライアンスは失敗する

柴:香港の役割が中国市場のゲートウェ

イと考えると、セールスのトップが香港

人や中国人であるというように、より踏

み込んだ経営陣の現地化が必要です。日

本人でも構いませんが、その場合は3年

ローテーションの赴任ではなく、長期的

にコミットメントして現地事情に精通す

るようにならないと中国でモノを売って

いくには限界があると思います。

 最近、IPOに関する相談を受けるケー

スが増えています。中には、日本では

なく香港でいきなり上場しようと考える

企業もありますが、日本でIPOできない

から香港でという発想ではうまくいきま

せん。また、上場するための経済合理性、

つまり今後の中国でのビジネス展開につ

いてきちんと考えておくことが大切に

なってくるでしょう。

奥田:IPO案件は、台湾でも増えていま

す。台湾では企業規模が小さくてもIPO

の検討が可能ですが、柴さんの言うとお

り中国を絡めながらどうビジネスを展開

するかという絵を描いておくことが大切

ですね。

 台湾特有の状況としては、最近決まり

文句のように出てくるのが「日台アライ

アンス」です。日本でも、新聞や雑誌、

テレビなどで特集が組まれ、認知度が上

がっているかと思いますが、それに合わ

せて私たちにも、日本企業と台湾企業の

双方から、提携先を探したいという相談

が増えています。提携先候補企業の洗い

出し、仲介交渉、契約書など法務面の

サービスまでお手伝いしていますが、意

外にも日本側からの話が成約する確率は

低いのです。

 これは、日本企業側に、日本企業が組

みたいと言えば台湾企業は誰でも組んで

くれると思い込んでいる傾向があり、そ

れがネックになっているからです。

 もともと日本企業と台湾企業の提携と

いうのは、日本も台湾も単独で中国市場

を攻略するには限界があるので、各国企

業と戦っていくために日台が協力して強

みや弱みを補完し合おうということです。

したがって、思いつきベースでは決して

うまくいきません。自社の現状をきちん

と分析し、どのように相互補完し、中国

で展開していくかという戦略やビジョン

を持つことが大切です。そうすれば、台

湾企業は個人から大企業まで中国進出を

していますので、サイズに見合ったパー

トナーが見つかる確率が高くなります。

──本日はありがとうございました。V

1)ネット保証雇用主が従業員に対して一定の純手取金額(所得税、地方税、社会保障税などを差し引いた金額)を保証する方式のこと。企業が税金相当額を負担する。

2)移転価格税制 親会社と子会社などとの間で取引を行う際の販売価格のこと。国ごとに課税制度が異なるため、価格設定によっては不平等が生じる。そのため、独立企業との間の取引価格を参考にして、差異が大きい場合には差額分を徴収する制度が設けられている。

3)PE課税国際法で、二重課税を避けるために恒久的施設(Permanent Establishment)を持たない外国法人は事業所得を課税されないことになっている。外国企業が中国国内において、建設、エンジニアリングサービス、据付・操業指導を伴う設備機器の販売、ターンキープロジェクト、ならびに長期の技術指導、コンサルティング業務、各種業務支援などの役務提供を行う場合には、PE認定により中国現地での業務に対して課税されることになる。

4)HSコード商品の名称および分類の統一システムのこと。

5)輸出加工区中国政府が加工貿易を効率的に管理するために、経済開発区内に加工貿易企業のみを集めたエリアのことで、課税などの優遇策が適用されている。

6)タックスヘイブン対策税制低課税国に保有する子会社の留保利益に対し、日本の会社で課税する制度。

m e m o

柴 良充(PwC香港)1995年より香港在住。広東省を中心に中国華南地区と香港を担当。17年におよぶ香港で培った経験は、香港・中国における会計監査、税務、事業活動関連まで幅広くカバーしている

奥田健士(PwC台湾)2000年より香港、2010年より台湾在住。台湾、香港、中国の大中華圏各国制度、税務、会計に精通し、その知識・経験を活かし、幅広くサービスを提供している

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Management Issue

26 Value Navigator Value Navigator 27

このように製造機能と同様に他の機能に

ついても、市場や労働者に近い海外への

移転は加速していくだろう。

❷ イノベーション

 IMD(国際経営開発研究所)が発表し

ている国際競争力ランキングでは、残念

ながら日本は90年代前半のトップ独走

状態から坂道を転げ落ちるかのように低

迷している。ただその一方で、失われた

20年を生き延びている企業がたくさん

あるのも事実である。日本には、まだま

だ他国では追従しきれない技術的な底力

があるのだ。この技術的優位性を付加価

値に結び付けていく“稼ぐためのモノづ

くり”を実現していくことが重要である。

 “モノづくり”は、戦後の奇跡的な経済

成長の基礎となった、日本の強さの源泉

である。歴史的には、日本のかつてのエ

クセレントカンパニーは、この“モノづ

くり”の優れた能力、つまり製品開発や

生産技術、自動車業界における擦り合わ

せ技術、テクノロジー産業の品質におけ

る数十年間にわたる圧倒的な優位性を成

功の足掛かりとしてきた。この技術基盤

が、日本人が「モノづくり文化」と呼ぶ

ものの背景にある力である。製造拠点の

多くは引き続き海外に移転するだろうが、

今一度、日本の“モノづくり”の知識基盤

を見直し、根本的な強みとして展開すべ

きであろう。

❸ 人材

 真のグローバル経営を行うためには真

震災復興を乗り越え 経済復興へ

“エクセレントカンパニー”の再生日本には“エクセレントカンパニー”と呼ばれる世界に誇るべき企業が存在していた。東日本大震災のみならず、タイの洪水被害によるサプライチェーンの断絶や超円高、さらには周辺新興国の台頭が日本を波状攻撃しており、今その競争力は失われつつある。日本は、震災復興のみならず、日本の経済復興に立ち向かわなければならない。そこで、本稿では「かつて“エクセレントカンパニー”と呼ばれた日本企業を再生させるには何が必要か?」という重要な問題を考えてみたい。

取り組むべきテーマ

 あの大震災を乗り越え、さらに経済復

興していくためには、日本の企業に根本

的な変化が求められているのは明らかで

ある。しかし、どのように変化すればい

いかということは、いまだ明確ではない。

だがPwC(プライスウォーターハウス

クーパース)がグローバルで実施した第

15回世界CEO意識調査(2012年)を通

じて聞こえてきた声もある。それは「グ

ローバル化」「イノベーション」「人材」

の3点に関してだ(図表1)。

❶ グローバル化

 日経平均を構成するような大企業は、

今や日本をはるかに越えてグローバルに

活動している。こうした企業はすでにグ

ローバルブランドを確立してきており、国

内外の投資家から提供された資本を活用

し企業活動を行っている。しかし、企業

に求められるグローバル化の波は日増し

に大きくなる一方である。従来は「低コ

スト生産」を求めての海外展開が中心で

あったが、最近では新興国の台頭を背景

に、新興市場を求めての海外進出が多い。

安くつくるだけではなく、新興国などのよ

り大きな市場を求めて、そこで売れるモ

ノをつくらなければならないのである。

 市場の動きに敏感なモノづくりをして

いくためには、市場に近いところにマー

ケティング機能を置き、さらには研究開

発機能を置いていく必要が出てくる。生

産するための工場や販売拠点だけではな

く、今後はマーケティング機能や研究開

発機能の海外移転も進むだろう。真のグ

ローバルカンパニーとなっていくために、

椎名 茂 Shigeru Shiina

プライスウォーターハウスクーパース(株) コンサルティング部門リーダー パートナー

PROFILE

大手コンピュータ会社の研究員として人工知能の研究に従事。専門は制約論理言語と最適化アルゴリズム。入社後はその経験を活かし、企業におけるSCM最適化における戦略立案、業務およびITコンサルティングに取り組む。昨年末よりPwCで発足した“Future of Japan”のプロジェクトリーダーを兼任。

のグローバル人材が必要である。これこ

そが、かつてのエクセレントカンパニー

が現在直面している課題である。このよ

うな企業は、積極的な国外の競合他社と

の激しい競争、真のグローバル化の取り

組み、企業改革や人材の活用に対応する

中で、どのようにすれば日本企業の歴史

的な強みと特性を保持することができる

だろうか?

 急速に超高齢化社会を迎えている日本

では、労働人口はすでに減少の一途であ

る。この現象の穴を埋めるためには、女

性労働人口を増加させるか、いったん退

職した人々を再雇用していくか、もしく

は積極的に外国人労働者を受け入れるか、

あるいは日本を捨ててグローバルへ活動

拠点を移していくしかない。いずれにし

ても、従業員のタイプが非常にバラエ

ティに富んだ状態になり、それらに対応

できるさまざまな働き方を企業側が提供

していかなければならない。まさしく真

のダイバーシティ経営への対応が重要と

なってきているのだ。

 グローバルな経営をしていくための真

のグローバル人材をどのように育ててい

くのか、あるいは採用していくのか。ま

た、それらグローバル人材を適正に配置

し評価していくための管理手法はあるの

か? 女性の活躍の場をどのように提供

していくのか? 女性が働きやすい職場

環境とは? スキルを持った人材を再雇

用していくためには何が必要か?

 これらのテーマに取り組むのは当然で

あるが、いかにすばやく対応するかが問

われるところである。俊敏に対応可能な

変革スピードこそ企業の命である。

復興への道のり

 戦後の復興で証明されたように、日本

は、国民が一つにまとまった時に集団的

な相乗効果を引き起こし、そして信じら

れないスピードで復興を実現させること

ができる国である。また、日本政府は

この復興支援策としてすでに23兆円を

予算計上している。新たに新規参入する

産業分野としてエネルギー安全保障やス

マートシティ、サステナビリティ、ディ

ザスターリカバリーなどの領域は将来有

望である。これらの領域で、日本の強み

を活かせるチャンスがあるだろう。

 日本はいまだに世界第3位の規模の経

済地域であり、同時に高い水準の生活環

境と職場環境を提供している。また教育

も高水準を維持しており、人々のモラル

も非常に高い。スキルや知識、社会的安

定や整備されたインフラ基盤。日本は多

くの国から羨望されるような資産を有し

ている。必要なのは強い意志とそれを実

現していくスピードである。共有された

目標や全国民の強い意思があれば、直面

している問題も必ずや克服できるだろう。

 たしかに復興の道は険しい。明確な道

筋が引かれているわけではない。PwC

では、その道筋のヒントを提供すべく、

今後も引き続き日本の将来展望を探るた

めにさまざまな調査を続け、レポートを

発刊していく予定である。かの松下幸之

助翁も言っている。「いくらでも道はあ

るからな」†1と。 V

†1 出所:松下幸之助著『リーダーになる人に知っておいてほしいことII』PHP研究所、2010年

◦ グローバル化を促進するためには、どのような戦略モデルを展開すべきだろうか?

◦ 製造拠点や販売拠点など、企業の活動拠点が海外に移転する中、どのような機能を日本に残すべきだろうか?

◦ ますますグローバル化するビジネス環境下で、どのようにすれば言語や文化の違いを埋めることができるだろうか?

◦ 対外・対内直接投資は、今後の日本経済においてどのような役割を果たすだろうか?

◦ 日本のコーポレートガバナンスは、国際基準と適合するように変える必要があるだろうか?

❶ グローバル化

◦ 日本企業はこれまで築いた技術と品質という資産をどのように活かすことができるだろうか?

◦ エネルギーやサステナビリティ、ヘルスケアがますます重視されていることを利用して、成長領域に取り入れることができるだろうか?

◦ サプライヤーと顧客を新たなアイディア、製品、流通、サービスで結び付けるためには、どのようなモバイルデバイスやソーシャルメディアを活用していく必要があるだろうか?

◦ 現在の競争環境を生き抜くためには、どの程度の企業改革が必要だろうか?

❷ イノベーション

◦ 団塊世代の定年退職は日本企業からの膨大なスキルの喪失にも繋がる。日本の急速な超高齢化と人口減少は、企業にどのような影響をもたらすだろうか?

◦ 中途採用は増加するだろうか?◦ 女性のキャリアモデルはどのように変わるだろうか?◦ 外国人労働者は増えるだろうか?◦ 人材のダイバーシティに日本企業は積極的に取り組

んでいけるだろうか?◦ 若者の新しい活力や想像力を活用して経済の復活

を進めることができるだろうか?

❸ 人材

図表1◉ 日本企業の再生に向けた懸案事項

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Management Issue

28 Value Navigator Value Navigator 29

日本の金融機関にとっては追い風

 このような欧州金融機関を中心とする

貸出余力の低下、資産売却の動きは、ア

ジアを中心にグローバル展開を企図する

日本の金融機関にとって新たな事業機会

を生む追い風になると見る向きが多い。実

際、信用力の面でも優位になりつつある日

本の金融機関が欧州金融機関の事業を買

収したり、アジアの金融機関への投資拡

大を行っているなどの事例が見られる。

 また、円高による生産拠点の移転や新

興国における消費需要の獲得を背景とし

た、日系企業のアジアを中心とする海外

進出加速や新興国のインフラ建設に伴う

資金需要なども、日本の金融機関の動き

を後押ししている。

一段と存在感を高める新興国

 確かに、グローバル化を進めている日

本の金融機関にとってはチャンスと言え

るであろう。しかし一方で、新たな視点

も必要とされる。

 PwCでは、“Project Blue”†2と称する

枠組みで、長期的な経営課題についての

問題提起を行っている。ここでは、金融

に関連してPwCが提起している主な視

点を踏まえつつ、日本の金融機関にとっ

てのインプリケーションについて述べる

こととしたい。

❶ 欧州経済の低迷や米州でのバランス

シート調整が続くことによって経済成長

欧州金融不安が 日本の金融機関に与える 影響経済成長の中心が西から東にシフトする中で欧州金融不安が持続する中で、金融機関の国際的な勢力図のリバランスが起きようとしている。この流れは、アジアを中心にグローバル化を進める日本の金融機関にとって追い風になると見る向きが多い。一方で、新興国経済の台頭によって新興国の金融機関との競合が高まる可能性もある。大きな枠組みが変化する中で、より一層、長期的な視野にたった経営戦略の構築が求められる。

不安定な状態が続く欧州

 ギリシャの財政危機に端を発した欧州

債務問題により、欧州経済は不安定な状

態が続いており、ギリシャ、ポルトガル

のみならず、イタリア、フランスといっ

た中核国にも影響が出ている。EU全体

の2012年の経済成長についてはマイナ

ス成長を予測するところが多く、経済、

財政、金融面での悪循環が懸念される。

 こうした傾向は、ロンドンにある金融

イノベーション研究センター(CSFI)

がPwC(プライスウォーターハウス

クーパース)の協力を得て行った経営リ

スクに関する世界の銀行関係者へのア

ンケート調査(Banking Banana Skin

2012†1)でも確認できる。今回の調

査では、従来上位にランクされていた

「信用リスク」や「規制リスク」を抑え

て、「マクロ景気の先行きへの不安」が、

1996年の調査開始以来はじめて懸念事

項のトップとなった(図表1)。欧州の

ソブリンリスクを中心とした景気先行き

懸念が改めて注目されている。

 このような状況の中で、欧州の金融シ

ステム強化を図る動きが見られる。たと

えば、欧州銀行監督機構(EBA)は主

要金融機関に対して資本増強、資産圧縮

を通じて、今年6月末までにコアTier1

比率を9%まで引き上げることを求めて

いる。こうした動きを受けて、欧州では

クレジットクランチの発生や自己資本比

率引き上げのために資産売却の動きが加

速すると見られている。

2008年

流動性信用リスク信用スプレッドデリバティブマクロ経済動向リスク管理の質株式市場規制が多すぎること金利水準ヘッジファンド

2010年

政治の介入信用リスク規制が多すぎることマクロ経済動向流動性資本のアベイラビリティデリバティブリスク管理の質信用スプレッド株式市場

2012年

マクロ経済動向信用リスク流動性資本のアベイラビリティ政治の介入規制が多すぎること収益性の確保デリバティブコーポレートガバナンスリスク管理の質

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

順位

の西側(先進国)から東側(新興国)へ

のシフトが一段と加速する。

❷これに伴って、銀行の資産規模につ

いても新興国の金融機関が先進国に

キャッチアップしていくものと考えられ

る。PwC英国では昨年、景気や人口の

見通しを織り込みながら銀行の資産規模

に関する試算(Banking in 2050†3)を

行った。これによれば、2007年に同様

の試算を行った際と比べて、新興国の銀

行資産規模が先進国のそれを上回る時期

が10年早まり、特に中国の銀行資産規

模は2020年代のうちに米国のそれを上

回ると予想される。すでにG20などの国

際会議では、新興国の発言力が高まりつ

つある。このような変化が加速すること

は、国際的な金融協調のあり方にも今後

影響を及ぼしてこよう(図表2)。❸ 経済成長や個人の所得や金融資産の

蓄積を通じて、新興国の金融機関の競争

力が高まることで、先進国の金融機関が

進出先での新興国市場において、思うよ

うに業容を拡大できなくなる懸念がある。

日本の金融機関はアジアを中心に国際業

務の拡大を展開しているが、地場金融機

関の台頭により拡大ペースが維持できな

くなる可能性も念頭に置いておく必要が

あろう。❹ 新興国の金融機関が自国での基盤強化

に留まらず、先進国の市場に進出してく

る可能性がある。これまでは買収したり

出資する側に回っていた先進国の金融機

関が逆の立場に置かれるようになったり、

先進国において新興国の金融機関が商品

佐々木貴司 Takashi Sasaki

あらた監査法人 執行役(金融ビジネス担当) 代表社員/公認会計士

PROFILE

大手銀行、地方銀行、政府系および系統金融機関、保険会社などの監査およびアドバイザリーサービスを担当。当法人設立以来、フィナンシャル・サービス・アシュアランス部の部長を務め、金融機関の監査部門を統括している。

植田隆彦 Takahiko Ueda

あらた監査法人 総合金融サービス推進本部 金融調査室 主任研究員

PROFILE

大手銀行で主に調査部門、国際部門に所属。エコノミストとして日本経済、米国経済分析を担当したほか、米国、カナダ、タイで海外拠点マネジメントに従事。調査企画業務を担当。

を提供するようなこともありえよう。❺ 新興国の経済体制は、必ずしも欧米諸

国のような“自由主義”ではない。こうし

た経済体制をベースとした金融機関との

競合については、時として国家が強く影

響を及ぼすことがあり、従来とは異なっ

た視点が必要になってくる場合もある。

枠組みの変化を認識した戦略展開を

 リーマンショックに加え、欧州の金融

不安の影響を受けて、経済成長の中心が

西から東へシフトする流れが一段と加速

する中で、金融機関の国際的な勢力図に

ついてもリバランスが起きるであろう。

これは成長力のあるアジアに近接し、ア

ジアをメインターゲットとする日本の金

融機関にとってチャンスであると同時に、

これまであまり想定されてこなかった新

興国の金融機関との競合が高まることに

つながるかも知れない。

 一方日本では、直面する高齢化社会に

即応した金融モデルへの転換を図ってい

るところであるが、これはやがて中国な

どでも活用していけるビジネスモデルで

ある。 V

†1: http://www.pwc.com/gx/en/banking-capital-markets/banana-skins/index.jhtml

†2: http://www.pwc.com/gx/en/financial-services/projectblue/index.jhtml

†3: http://www.pwcaarata.or.jp/knowledge/industry/bcm-10.html

図表1◉ Banking Banana Skin過去3回の調査との比較 (金融機関の経営リスクに関する上位10項目)

図表2◉ 新興国の銀行資産が先進国の銀行資産を凌駕する時期2007年における試算 2011年における試算

出所:Banking Banana Skins 2012, CSFI in association with PwCより和訳

出所:PwC英国 Banking in 2050 注:E7諸国は中国、インド、ブラジル、ロシア、メキシコ、インドネシア、トルコ

2046年 2036年

2043年 2023年

2041年 2033年

E7諸国がG7諸国を凌駕する年

中国が米国を凌駕する年

インドが日本を凌駕する年

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Economic Navigator

30 Value Navigator Value Navigator 31

 1994年頃に「21世紀の経営プロジェ

クト」を立ち上げ、同世代のメンバーと

一緒に10年後の姿について検討しました。

アジアの新興国、国内の大人用介護用品

など、いわゆるホワイトスペース1)と呼

ばれる分野に、経営資源をつぎ込んでい

きました。その最中で外部から厳しい洗

礼を受けたのです。

 当社のグローバル化はここ数年で大き

く動き出したように見えますが、90年

代後半からの取り組みの成果がようやく

出てきた結果なのです。先の見えない時

代ですが、それでも10年先を見て事前

準備することが大切だということです。

世間の風潮に惑わされず、データや事象から10年先を見抜く

五味:90年代後半というと、経営の現

場でも金融機関でも、何か様子が変だと

感じつつも、金融危機やアジア通貨危機

を予見した人はわずかでした。そういう

時期に10年後を見据えて踏み出すのは、

なかなか難しいと思いますが。

高原:人口動態は統計的にすぐに変わる

ものではありません。少子高齢化や人

口減少がはじまることは70年代からわ

かっていました。ただし当時、マスコミ

はそういうことを言いませんでした。

五味:しかし、そういうところにビジネス

の行き先があり、そこを眺めたうえで今

何をすべきかを考える。自転車や自動車

のように、少し視線を先に向けて運転し

ないといけない、という話ですね。とはい

え、足元の日本経済が変調をきたしてい

る状況で迷いはなかったのでしょうか。

高橋:当時は若いメンバーでしたし、本

音を言うと、創業者である父親や年上の

人々を煙たく思っていました。面従腹背

など、オーナー企業の弊害も見られました。

 ただ、自分のアイデンティティや存在

感をきちんとつくって発揮することと、

会社の発展が共通の目的になれば、ファ

ミリー企業はものすごく強い。だから、

あまり複雑に考えずに、日本が低成長で

人口も減っていくなら逆のところに行こ

うと思ったのです。

五味:前向きの発想ですね。

高原:そうですね。アジアは人口が増え

て、これから民力も上がり収入も増えて

いく。まさに日本の60〜70年代の姿です。

そこに舞台を移していくのが経営者の役

割だと思いました。

 強烈なカリスマ性で「俺についてこい」

というやり方は瞬間的にできても、成功

を続けるのは不可能です。負け惜しみ

ではなく、私は適材適所型のミクロリー

ダーでいいと思っています。管理系に向

いた人、インドの奥地に平気で行く人な

ど、それぞれの適性を踏まえてうまく束

ねていく資質がリーダーには必要です。

 それにオーナー一族の最大のアドバン

テージは政治力です。官僚などの縦割

り社会では優秀な人々が揃っています

が、そこに横串を通すのが大変です。考

え方の違う社員を結び付けて組織を強く

していくためには、政治力が問われます。

オーナー企業では誰が自分の給料を決め

るかが明確です。オーナーがそれほど間

違ったことを言っていなければ、社員は

迷わないものです。

最も強い組織とは全員が同じ方向を向いていること

五味:国内外に多数の拠点がある大きな

組織の中では、トップ一人が政治力を

持って頑張ってもまとめきれるものでは

ありません。企業のガバナンスや経営管

理において、どのような工夫をされてい

るのでしょうか?

高原:最も強い組織とは全員が同じ方向

を向いていることだと私は思っています。

先が見えない世の中なので、その方向で

正しいかどうかは、経営者でも不安です。

したがって、目標は常につくり変えなく

てはなりません。

 ユニ・チャームでは、企業価値を最大

化するための道筋や海図をカスケード

方式2)でつくっています。全社戦略か

ら足元の戦略まで戦略体系を構造化し、

期間も10年、3年、1年、半年、四半期、

1カ月、1週間の単位でつくっていきま

す。これを毎週繰り返していけば、いく

ら先が見えない環境でも理論上は毎週

中長期の方向性を調整できるというわ

けです。

不確実な世界経済の中で 日本企業がグローバル展開で 勝ち残るには[特別対談 第1回]高原豪久氏(ユニ・チャーム株式会社)生き残りをかけてアジア展開を図る企業は多い。だが、実際に成功している企業はごく一握りでしかない。ユニ・チャームは、過去6年間で海外売上高比率を24.1%から42.4%に高めるなど、成功している数少ない企業の1社だ。同社の成功の鍵は、10年先を視野に入れた先見性と、組織全体でベクトルを合わせ日々 の行動を粘り強く繰り返していく、ユニ・チャーム独自の経営管理手法「SAPS(サップス)経営モデル」にある。今号では、グローバル企業であるユニ・チャーム株式会社 高原豪久社長に、 プライスウォーターハウスクーパース総合研究所の五味廣文理事長が、グローバル戦略、ガバナンス、グローバル人材をめぐる考え方についてお伺いする。

五味:最近の世界情勢を見ていると、経

済と国家との間の猛烈な相克を感じま

す。経済はグローバル化し、金融市場が

実体経済をはるかに超えた結果、リーマ

ンショックやヨーロッパの債務問題など

が起こりました。こうした問題に対して、

経済合理性で解を考えれば、限られてい

ますが解はあります。でも、政治的には

必ずしもその選択が取れない。それは、

高原豪久氏 Takahisa Takahara

ユニ・チャーム株式会社 代表取締役社長

2001年、ユニ・チャーム株式会社代表取締役社長に就任。新コーポレートマーク「チャームリング」の導入、新企業理念「NOLA&DOLA」を打ち出す一方で、事業を創業時の衛生用品事業に集中させ、業績をV字回復させた。アジアを中心に海外進出を積極的に推進、2020年度には世界シェア10%達成を目指す。

国家や政治には国境があり、民主主義的

手続きで意思決定することが存在基盤と

なっているからです。

 一方、企業はグローバルに活躍しなけ

れば成長できません。企業は基本的に国

境には関係なく、経済合理性に基づいて

意思決定しますが、政治的な背景も無視

できず克服しなくてはなりません。

 御社は海外での生産活動が業績の大き

なウエイトを占め、全体を牽引している

印象を受けます。ここ5〜6年はその動

きが顕著です。グローバルに注力して

いった背景や戦略的な考え方について教

えていただけますか?

高原:私企業の立場では、国境を感じる

ことは少なくなっています。シンガポー

ルやスイスなど、政治の力で経済を引っ

張っている小国もありますが、私たちは

国境の意識も人種の違いも薄らいでいる

のが現実です。

 ユニ・チャームのグローバル化は、

2001年の危機が一つの起爆剤となりま

した。同年8月に日経金融新聞で当社

が「時価総額1兆円遠く、市場の成長期

待崩れる」と酷評されたのです。当時

はITバブル崩壊で株価が下落していま

したが、それ以上に当社の株価が下がり、

業績も非常に厳しい状況でした。

 それより前の時代は多角化の全盛期で、

多角化しなければ経営者ではない、とい

う風潮さえありました。私が1991年に

ユニ・チャームに入社して最初に行った

のは、多角化の残骸を整理し、会社の方

向性を見直すことでした。

五味廣文 Hirofumi Gomi

株式会社プライスウォーターハウス クーパース総合研究所 理事長

PROFILE

東京大学法学部第一類卒業後、大蔵省入省。同省主計局主計官、金融監督庁検査部長、金融庁検査局長、監督局長を経て、2004年から2007年まで金融庁長官。西村あさひ法律事務所顧問を経て2009年10月より現職。

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32 Value Navigator

Economic Navigator

Value Navigator 33

書化は多少簡易的でも構わないと思って

います。

高原:当社では、情報はオープンすぎる

ほどオープンにしています。多少のアク

セス制限はありますが、若手でも見よう

と思えばイントラでかなり中枢の情報ま

で見ることができます。社員から見て、

私のやっていることがわからないとすれ

ば、それは自ら見にいく努力をしていな

いだけです。

 最近、トップがボトムに対して形式的

な配慮をしすぎているように感じます。

なぜそういう関係になるかというと、ボ

トムがトップの考えていることを正確に

知る機会が少ないからだと思います。

 いくら私が時間をかけてコラムを書い

て週次で情報発信しても、社員には思っ

たほど理解されません。だから、情報発

信を続けつつ、社員と徹底的に居酒屋で

飲むようにしています。これは海外でも

同じです。1回顔を合わせただけでは、

社員は胸の中まで見せてくれません。で

すから繰り返し行います。

 私がSAPS経営モデルで目指している

のは共振の経営です。最前線のメンバー

もトップが何を考えているかわからない

と言わずに聞きに来てほしい。トップか

らも最前線のメンバーに聞きに行く。そ

れを繰り返す中でお互いの引力が釣り合

い、気持ちよい頃合いに収まる。そうす

れば現場からの知恵を吸い上げて戦略に

変換できるし、私がズレていたら直言し

てくれる若い人が出てくると思うのです。

どちらか一方からの働きかけでは長続き

しません。

五味:なるほど、ただツールを入れるだ

けの話ではないのですね。グローバル展

開で悩みを抱えたり、今後進出しようと

したりしている企業に向けて、グローバ

ル展開やガバナンスの観点で何か参考に

なることはありますか。

高原:ユニ・チャームはモノづくりと

マーケティングが強い会社です。一方で、

私が以前勤めていた銀行などと比べると、

数字の精度や書類作成の完成度といった

管理面は十分ではないかもしれません。

そういった足りない部分は、外部のパー

トナーの力もお借りしながら対処してい

ます。

 本来は人材が育つまで待って海外に出

ていくのが理想ですが、ビジネスではス

ピードが重要です。企業価値を創造する

うえで重要な開発やマーケティングで人

を出せるようになったら進出し、それ以

外は社外パートナーを活用する。それが

実際的なやり方だと思っています。

グローバル人材に求められる6つの資質

五味:海外に人を出す際にどのような人

事方針を採っていらっしゃいますか。

高原:海外に責任者として派遣できる共

振人材の資質を6つ挙げています。

 1番目は創造力です。皆が奮い立つ共

通の的を創造できる、という意味です。

2番目はコミュニケーション能力。語学

力も大切ですが、普段から現場の知恵を

経営に活かそうとする場をつくっていけ

ることが大切です。3番目は直観力。あ

りのままの一次情報を正しく認識できる

かどうか。4番目は実践力。各人の暗黙

知を誰もが共有できるように標準化し、

形式知に変える。それには論理性も必要

です。5番目は政治力。自分の意思やア

イデアについて、集団で実行できるよう

に導く。正反対の考えの人々を引っ張っ

ていくには、胆力や人間力が求められま

す。最後が徹底力です。SAPS経営モデ

ルの実践は楽ではありませんが、組織全

体に徹底的に浸透させてはじめて仕組み

の力が出てきます。成果が出るまでやめ

ないしつこさがなければ、いくらホワイ

トスペースを見つけても成功しません。

 6つをすべて兼ね備えるのは難しいに

せよ、少なくとも何かが秀でていること

が大切です。ユニ・チャームでは、人の

グローバル化に後10年はかかるでしょ

う。それまでは6つの要件を実践でき、

後ろ姿で語れる人材を育てていきたいと

思っています。

五味:海外に長く出すから人が育つとい

う側面もありますよね。周りの環境がす

べて整うまで待っていればずっと海外に

出ていけないし、それでは成長もない。

日本の閉塞状況を破るのは、民間企業の

リスクを取る姿勢なのでしょう。

 本日は貴重なお話をありがとうござい

ました。 V

 これはベテラン幹部から若手や言葉の

通じない外国人まで、個人レベルでも作

成します。いわゆる目標管理のツールと

なっています。

五味:目標をつくっても個人の実践には

なかなかつながりません。同じ方向を向

くのもそう簡単ではないと思うのですが。

高原:そうですね。よい会社をつくろう

と言えば誰も反対しませんが、よい会社

の定義は人によって違うので、それをま

とめなくてはなりません。そうした定義

をできるだけ可視化し、定量化する作業

が、先ほどのカスケード方式の計画だと

思っています。

 また、よい会社に関する考え方、創

業者の言葉や価値観をまとめた「ユニ・

チャーム ウェイ」というバインダーも

配布しています。これは、自己開発、組

織開発、仕組み開発、生産管理の手法な

ど、いくつかの章立てでまとめたもので、

日々の行動指針です。

 全社戦略からカスケードされた部門や

チームの戦略を基に、「ユニ・チャーム

ウェイ」の行動指針に沿って個人個人が

行動計画を立て、それを実行し、その成

果を振り返り、次の計画に活かすという

プロセスを、ユニ・チャームでは常に繰

り返しています。それが「SAPS経営モ

デル」です。「SAPS」とは、スケジュー

ル、アクション、パフォーマンス、スケ

ジュールの頭文字を取ったものです。

 SAPS経営モデルを言葉で説明する

とごく当たり前のプロセスのようです

が、ユニ・チャームでは、計画が達成で

きない場合その理由を必ず見つけること

と、徹底的に繰り返すこと、この2点に

特にこだわっています。それは、SAPS

経営モデルが社員を成長させて幸せにす

るツール、人間をまさに尊重するための

ツールだと思っているからです。

人種や国境の壁を越えて価値観を浸透させる

五味:海外拠点で働いている社員に対し

ては、どのように価値基準の共有を行っ

ていらっしゃるのですか。

高原:まったく同じ内容のバインダーを

中国語版、インドネシア語版、タイ語版

など、さまざまな言語で作っています。

 私は社長になって以来、毎週コラムを

書いて、社内に発信しています。1週間

遅れで英語版も発信します。それから

毎週月曜にテレビ会議システムで国内

外60カ所をつないで、SAPS経営会議を

行っています。これには全社の幹部が

300名くらい参加します。

 会議では、まず経営サイドから情報発

信します。会社の中核を担う面々が、世

の中の環境を見て何を感じているかを共

有することで、私も含めて各自が軸足や

感覚のブレを確認するためです。

 その後、輪番制で幹部2名が各自の

「今週の重点」3)を1人20分程度説明し、

それに対してアドバイスが行われます。

これも仕掛けの一つで、地域や部門の壁

を越えて共通の目標をつくり、それに組

織のベクトルを合わせるのが目的です。

 たとえば、経営企画部長の話を、購買

部長、四国の工場長、インドネシアの社

長などが聞くことになります。口では

「協力します」と言っても、その人の仕

事内容を知らなければ具体的に何を協力

すればいいかわかりません。それがわか

るような場をつくっているのです。

風通しをよくするためにはトップとボトムの双方が歩み寄る

五味:社内で何が起こっているかをオー

プンにする機会を頻繁に持っているなら、

内部統制上、本来あるべきことがその場

で行われていると言えますね。

 内部統制報告制度の導入は、私が金融

庁にいた頃に検討されましたが、その議

論の中では内部統制報告制度など不要だ

という意見もありました。実際、経営に

携わる人々が時々の課題や経営方針を頻

繁に話し合いすり合わせができていれば、

簡易的なルールや仕組みでもよいのかも

しれません。

 でも、5〜6人の中小企業ならそのよ

うな簡易的なものでもよいかもしれませ

んが、大企業では無理があります。そこ

で、一定の書式に落として情報共有し、

手続きを確認する。大事なことは、内部

統制に求められている書類の作成ではな

く、チェック機能を果たすことだと、私

たちは企業の担当者の方に一生懸命説明

したのですが、ずいぶん誤解されました。

 個人的には、御社のようにきちんとガ

バナンスができていれば、内部統制の文

「今年のお正月、みんなに配る手帳に『自分の10年』を書いてもらったんです。まったくど素人のことでもきっとできると。一念発起して10年かけてやりたいという自分の目標です。入社した当時、私も自分の10年を書いたんですよ。その時は20年経ったら社長になりたいと書いたんです。10年でやらせてもらいましたけどね」(高原氏)

1)ホワイトスペース中核となる事業領域「コアスペース」の外側にある空白領域のこと。

2)カスケード方式小さな滝が連なったカスケードのように、全社目標から個人目標まで、長期目標から短期目標まで、連続性や一貫性を持たせて作成する方式。

3)今週の重点「1Pローリング」表を使って、週単位

で重点課題(1P:First Priority)を洗い出し、それに対する行動計画を立てる。ユニ・チャームでは、一定期間が終った時点で振り返るだけでなく、常にその先の一定期間分の計画を立てていくローリング方式を用いている。

m e m o

「よい会社」の定義、価値観をまとめた独自のユニ・チャーム ウェイ。日本語、英語だけでなく、中国語、インドネシア語、タイ語、マレーシア語など7カ国語を用意。全社員が常に携帯し、価値観の共有を図る

Page 19: Greetings · 2015. 6. 3. · Greetings 01 読者の皆様へ PwC Japan News 34 世界の PwCから 36 vol.3 Russia Contents Greetings PwC Japanのご紹介 PwC Japanは、あらた監査法人、プライスウォーター

 プライスウォーターハウスクーパース株式会社は、このたび、SAPジャパン株式会社の『SAP AWARD OF EXCELLENCE 2012』において、「スーペリアー・コンサルティング・アワード」を受賞しました。 『SAP AWARD OF EXCELLENCE』は1998年に創設され、SAPジャパンのビジネスへの貢献度や顧客満足度などにおいて、きわめて高く評価されたパートナー企業に授与される賞です。2月17日に行わ

れた同社のパートナー向けコンベンション『2012 SAP Partners Summit Day』において、受賞パートナーが発表されました。 当社の受賞理由は、「多くの優れた案件およびプロジェクトにおいて、その上流コンサルティングのフェーズで高い技術力と知見で貢献し、SAPビジネスの拡大とプロジェクトの成功を導かれたことを高く評価」されたためです。

News

News from Global News from Japan

 あらた監査法人は、初川浩司 現代表執行役の任期満了にともない、後任に木村浩一郎 現執行役が新代表執行役に就任することを3月5日の社員総会で決定しました。正式には6月1日付で就任予定です。 木村は1986年青山監査法人に入所し、米国基準および日本基準の財務諸表監査を多数手掛け、テクノロジー系企業、エンタテイメント系企業、海運会社を中心に担当。1993年から1997年までのプライス ウオーターハウス米国法人シカゴ事務所出

向中は、主に自動車関連企業の監査業務に従事しました。2000年に中央青山監査法人の代表社員に就任した後、2006年あらた監査法人システム・アンド・プロセス・アシュアランス部部長、2009年同執行役に就任しました。XBRL Japanでの活動のほか、日本公認会計士協会XBRL対応専門委員を3年間務め、現在はPwCのGlobal Assurance Leadership Teamに日本代表として参画しています。

あらた監査法人、新代表執行役に木村浩一郎が就任

 プライスウォーターハウスクーパース株式会社は、4月4日から6日まで開催された日本オラクル株式会社主催の『Oracle OpenWorld Tokyo 2012』にグランデスポンサーとして参画しました。 Oracle OpenWorldは、経営層・IT担当者、オラクルパートナー企業の従業員、ITエンジニアを対象として、オラクルの製品や関連技術、業界動向について情報提供するイベントで、1994年から開催されており、今

回のテーマは「Engineered for Innovation─技術の融合が、世界を変える。」です。 最終日の6日には、「次世代に向けたIdentity Management(IDM)」というテーマでPwC米国法人IDM Solution Leaderのレックス・セクストン(Rex Thexton)が基調講演を行い、この分野で先進している米国での数多くの実績を基に、オラクルのIDM関連ソリューションの活用事例および導入ポイントを紹介しました。

『Oracle OpenWorld Tokyo 2012』に協賛

『SAP AWARD OF EXCELLENCE 2012』において、「スーペリアー・コンサルティング・アワード」を受賞

PwC Globalによる、東日本震災復興支援および日本経済復興支援

PwCが、学生が選ぶ『世界の最も魅力的な企業』ランキングで第3位に選ばれる

PwC、『Asia-Pacific M&A Award 2011』にて2部門を受賞「Mid-Market Financial Advisor of the Year」「Accountancy Firm of the Year」

 PwC Globalはこれまでにハイチ大地震、ハリケーンカトリーナ、ビクトリア州山林火事、米国同時多発テロをはじめとする世界の大規模災害において、復旧・復興支援のプロセスに携わってきました。このような世界規模でPwCが培かった知見や経験を活かし、少しでも東北の震災復旧ならびに日本の経済/産業復興を全面的に支援したいという思いから、PwC Global主導のもと、PwC Japanも連携し、日本経済復興に向けた取り組みを開始しました。 2011年4月より東北地方において具体

的な活動を開始し、7月に「未来のまちづくりに向けて」をテーマにフォーラムを開催しました。昨年末からは“Future of Japan”をテーマに活動規模を拡大し、今年1月のダボス会議ならびに3月の東京での復興セミナーにて、PwC会長デニス・ナリー(Dennis Nally)がPwCの復興への取り組みを紹介しました。さらに、日本の産業・経済復興への提言をまとめたレポートの出版、復興フォーラムの開催を予定しており、引き続き日本の復興に向けた取り組みを強化していきます。

 PwCはこのたび、ユニバーサム(Univer-sum)社が経営学専攻の学生を対象に実施した『The World's Most Attractive

Employers 2011』で第3位に選ばれました。 このランキングは企業ブランディングを手掛けるユニバーサム社が毎年実施しているもので、英国、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、米国、カナダ、スペイン、中国、インド、ブラジル、日本の12カ国の求職者を対象に、ビジネス部門とエンジニア部門に分けて調査しています。 総合1位は昨年同様Googleが選ばれ、PwCはビジネス部門で昨年の4位から1

つ順位を上げ、トップ3に入りました。 また、魅力ある企業の要素を各項目別に調査した結果では、「研修・人材開発」「将来のキャリア形成に有利」「チャレンジできる環境」の3項目でPwCがトップに選ばれ、PwCがグローバル一体となって推進している専門的な育成プログラムやダイバーシティの取り組みなどが、求職者から高く評価されたことを示す結果となりました。

 PwCは、マージャーマーケット(merger-market )社およびフィナンシャルタイムズ 紙 に よる『Asia-Pacific M&A Award 2011』において、「Mid-Market Financial Advisor of the Year」と「Accountancy Firm of the Year」の2部門で受賞しました。 この賞は、M&A専門の情報サービス企業であるマージャーマーケット社が自社のM&A案件情報をベースに独自の方法で選

出するもので、アドバイザリー会社、法律事務所、会計事務所、プライベート・エクイティ・ファームなどをランク付けするために実施されています。 PwCは、アジア太平洋地域に120名のパートナーを含む1,600名以上のディールスペシャリストを擁し、アドバイザリー業界において主導的なポジションを占めています。

ダボス会議で講演するPwC 会長 デニス・ナリー

授賞式にて。左: SAPジャパン株式会社代表取締役社長

安斎富太郎氏右: プライスウォーターハウスクーパース株式会社

代表取締役社長内田士郎

「次世代に向けた Identity Management(IDM)」というテーマで講演するPwC 米国法人レックス・セクストン

新代表執行役に就任予定の木村浩一郎

34 Value Navigator World Newsr 35

Page 20: Greetings · 2015. 6. 3. · Greetings 01 読者の皆様へ PwC Japan News 34 世界の PwCから 36 vol.3 Russia Contents Greetings PwC Japanのご紹介 PwC Japanは、あらた監査法人、プライスウォーター

パートナー 67% 33%

ディレクター 50% 50%

マネジャー 46% 54%

全体 62% 38%

法務専門職

パートナー 54% 46%

ディレクター 69% 31%

マネジャー 71% 29%

全体 65% 35%

税務専門職

女性 男性パートナー 24% 76%

ディレクター 50% 50%

マネジャー 60% 40%

全体 62% 38%

会計専門職

PwCロシアにおける各専門職の男女比率

36 Value Navigator

ロシアで大々的にお祝いされる 「国際女性の日」 日本ではあまり馴染みがありませんが、3月8日は「国際女性の日」であり、ロシアでは祝日(法定休日)となっています。「国際女性の日」は、女性の参政権を求める活動からはじまり、女性の平等な社会参加を求める日、と国連で定められています。 ロシアでは20世紀はじめ、この日に起きた女性労働者のデモが革命に発展し、最終的に帝政の崩壊・ソビエト連邦の形成につながったこともあり、「国際女性の日」は政治的な意義を有する日となりました。しかし、今日では政治色は完全に消え、女性を讃える日となっています。前日の3月7日は、お花屋さんやお菓子屋さんにとっては書き入れ時です。 PwCロシアでも、花やチョコレートといった女性職員へのプレゼントがクライアントなど各方面から届けられ、お祝いムードに包まれます。実際、その日の夕方にはモスクワ事務所でも、各チームごとにこの日を祝う集いがありました。 ところで、現在5名いるPwCロシア日本企業部門ではどうでしょうか。マネジャーからパートナーの女性率は0%です。

しかし、ここはロシア。女性陣の発言力は7割くらいあるのではないでしょうか(笑)

vol.3 Russia

世界のPwCから

Russia

グローバルに広がるPwCの活動を、現地オフィスがレポートします。

たくましいロシアの女性たち 専門職で活躍目立つ

特派員松嶋希会 Kie MatsushimaPwCロシア法人 モスクワ事務所日本企業部門

「国際女性の日」をお祝いする私たちのチーム

 ロシアの女性はたくましいというイメージを持っていましたが、イメージに違わず、ロシアの女性はたくましいと感じます。 PwCロシアでは約2,600名の従業員が働いており、監査部門やエネルギー産業の税務チームでは男性が比較的多く働いているものの、専門職における女性の多さに驚きます。左の統計が示すとおり、会計・税務・法務のどの部門においても専門職の半数以上が女性です。結婚・出産を経ても長く働き続け、パートナーとして活躍する女性も多くいます。ちなみに、2009年のPwCパートナー女性率は、英国で13%、米国で17%、ロシアを含む中東欧地域で23%、中国で28%です。 税務部門や法務部門のメンバーに、何か理由があるのか聞いてみました。「女性の方がストレスに強いから」「女性の方が優秀だから」といった冗談めいた意見も聞かれましたが、歴史的な背景も関係しているようです。 ソ連時代、性別に関係なく人々には働く義務がありました。無職が「犯罪」だった時代です。現代でも家庭外で働くことは女性にとっても当然の選択のようです。

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