genesis selling england by the pound foxtrot nusery cryme

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囜民䞻矩の賞味期限〜前田朗『週刊 MDS』「非囜民がやっおきた」 田䞭利幞『怜蚌「戊埌民䞻䞻矩」』䞉䞀曞房、幎 「囜民䞻矩の賞味期限」を珟圚の日本で問うこずは、䞀方で近代囜民囜家の賞味期限を論 じるこずであり、他方で東アゞアにおいお倧日本垝囜が残した負の遺産を論じるこずであ り、䞡者を぀なげ盎しお考えるこずです。 しかし、それに尜きるわけではありたせん。戊埌民䞻䞻矩の日本を問い盎すこずが䞍可欠 だからです。 平和䞻矩ず民䞻䞻矩の日本であるにもかかわらず、「日本囜民統合の象城」たる倩皇制 が残存し、しかも珟実に圧倒的倚数の「囜民」が倩皇䞻矩者ずしお振る舞っおいたす。 平和䞻矩ず民䞻䞻矩の日本であるにもかかわらず、日本囜憲法よりも䞊䜍に日米安保条 玄がそびえ立ち、しかも珟実に日本政府の倖亀及び軍事政策はアメリカの「属囜」ず蚀うよ り他にない䜓たらくです。 こうした意味で、日本では「囜民」が二重䞉重のねじれた存圚ずならざるを埗ないからで す。 「囜民䞻暩」の名の䞋に倩皇に拝跪する囜民。 「囜民䞻暩」の名の䞋にアメリカに拝跪する囜民。 この謎は長い間、人文瀟䌚科孊の混迷の枊の䞭心を成しおきたした。歎史孊においおも文 孊においおも、法孊においおも政治孊においおも、぀ねに論究の察象でした。 ブリティッシュ・プログレッシノ・ロックの雄、ゞェネシス Genesis の「Selling England by the Pound」になぞらえお蚀えば、「日本をグラム単䜍で売り飛ばすこずこそ戊埌日本政 治の芁諊であり続けた」ずいうこずになりたす。 唐突な比喩で枈みたせん。「Foxtrot」や「Nusery Cryme」など初期ゞェネシスの熱烈なフ ァンだったものですから。フィル・コリンズがマむクを握る前、ピヌタヌ・ガブリ゚ルが異 圢の「音楜階士」だった時代のこずです。 さお、「日本売りたす」――沖瞄を売り、思いやり予算を぀ぎ蟌み、兵噚の爆買いをする のも、日本囜民の、日本囜民による、日本囜民のための民䞻䞻矩であるずいう奇怪な「喜劇 悲奇劇きげきひきげき」泡坂劻倫の傑䜜ミステリヌから蚀葉だけ借甚には、「君、売 り絊うこずなかれ」ずいう台詞は甚意されおいたせん。安倍商店の倧出血サヌビスが続く由 瞁です。 この謎に迫った研究は少なくありたせんが、最近の優れた研究ず蚀えば、田䞭利幞『怜蚌 「戊埌民䞻䞻矩」』を筆頭にあげるべきでしょう。田䞭は冒頭、次のように問題蚭定したす。 「いわゆる『慰安婊日本軍性奎隷』や『城甚工』の問題で日韓関係が最近ひじょうに 険悪化しおいるこずからも明らかなように、戊埌幎も経぀ずいうのに、なぜ日本は『戊

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Page 1: Genesis Selling England by the Pound Foxtrot Nusery Cryme

囜民䞻矩の賞味期限〜前田朗『週刊 MDS』「非囜民がやっおきた」

田䞭利幞『怜蚌「戊埌民䞻䞻矩」』䞉䞀曞房、幎

「囜民䞻矩の賞味期限」を珟圚の日本で問うこずは、䞀方で近代囜民囜家の賞味期限を論

じるこずであり、他方で東アゞアにおいお倧日本垝囜が残した負の遺産を論じるこずであ

り、䞡者を぀なげ盎しお考えるこずです。

しかし、それに尜きるわけではありたせん。戊埌民䞻䞻矩の日本を問い盎すこずが䞍可欠

だからです。

平和䞻矩ず民䞻䞻矩の日本であるにもかかわらず、「日本囜民統合の象城」たる倩皇制

が残存し、しかも珟実に圧倒的倚数の「囜民」が倩皇䞻矩者ずしお振る舞っおいたす。

平和䞻矩ず民䞻䞻矩の日本であるにもかかわらず、日本囜憲法よりも䞊䜍に日米安保条

玄がそびえ立ち、しかも珟実に日本政府の倖亀及び軍事政策はアメリカの「属囜」ず蚀うよ

り他にない䜓たらくです。

こうした意味で、日本では「囜民」が二重䞉重のねじれた存圚ずならざるを埗ないからで

す。

「囜民䞻暩」の名の䞋に倩皇に拝跪する囜民。

「囜民䞻暩」の名の䞋にアメリカに拝跪する囜民。

この謎は長い間、人文瀟䌚科孊の混迷の枊の䞭心を成しおきたした。歎史孊においおも文

孊においおも、法孊においおも政治孊においおも、぀ねに論究の察象でした。

ブリティッシュ・プログレッシノ・ロックの雄、ゞェネシス Genesis の「Selling England

by the Pound」になぞらえお蚀えば、「日本をグラム単䜍で売り飛ばすこずこそ戊埌日本政

治の芁諊であり続けた」ずいうこずになりたす。

唐突な比喩で枈みたせん。「Foxtrot」や「Nusery Cryme」など初期ゞェネシスの熱烈なフ

ァンだったものですから。フィル・コリンズがマむクを握る前、ピヌタヌ・ガブリ゚ルが異

圢の「音楜階士」だった時代のこずです。

さお、「日本売りたす」――沖瞄を売り、思いやり予算を぀ぎ蟌み、兵噚の爆買いをする

のも、日本囜民の、日本囜民による、日本囜民のための民䞻䞻矩であるずいう奇怪な「喜劇

悲奇劇きげきひきげき」泡坂劻倫の傑䜜ミステリヌから蚀葉だけ借甚には、「君、売

り絊うこずなかれ」ずいう台詞は甚意されおいたせん。安倍商店の倧出血サヌビスが続く由

瞁です。

この謎に迫った研究は少なくありたせんが、最近の優れた研究ず蚀えば、田䞭利幞『怜蚌

「戊埌民䞻䞻矩」』を筆頭にあげるべきでしょう。田䞭は冒頭、次のように問題蚭定したす。

「いわゆる『慰安婊日本軍性奎隷』や『城甚工』の問題で日韓関係が最近ひじょうに

険悪化しおいるこずからも明らかなように、戊埌幎も経぀ずいうのに、なぜ日本は『戊

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争責任問題』を解決できないのであろうか。この疑問に぀いお考えるためには、単に日本の

『戊争責任意識の欠萜』だけに芖点を圓おるのでは解決にはならない。日本の『戊争責任問

題』は、最初から、米囜の自囜ならびに日本の『戊争責任』に察する姿勢ず耇雑に絡み合っ

おいるこずを知る必芁がある。さらには、その絡み合いが日本の『戊埌民䞻䞻矩』を深く歪

め、匷く性栌づけおきたのであり、そうした歎史的経緯の結果ずしお、倚くの日本人の『戊

争責任意識の欠萜』ず珟圚の日本政府の『戊争責任吊定』があるこずを明確にする必芁があ

る」。

そこで田䞭は「戊争責任問題」を歎史的に読み解くために空爆、原爆、平和憲法の点に

絞っお切開を始めたす。それゆえ本曞は次のような構成ずなりたす。

序文 アゞア倪平掋戊争ず「戊埌民䞻䞻矩」

第1ç«  米軍による日本無差別空爆ず倩皇制ファシズム囜家の「防空䜓制」

第2ç«  「招爆責任」ず「招爆画策責任」の隠蔜――日米䞡囜による原爆神話化

第3ç«  「平和憲法」に埋め蟌たれた「戊争責任隠蔜」の内圚的矛盟

第4ç«  象城倩皇の隠された政治的圱響力ず「倩皇人間化」を目指した闘い

第5ç«  「蚘憶」の日米共同謀議の打砎に向けお――ドむツの「文化的蚘憶」に孊ぶ

各章のタむトルを眺めればそれだけで、埓来の戊埌民䞻䞻矩論や平和憲法論ぞの厳しい

挑戊が意図されおいるこずがわかるでしょう。

先に「日本をグラム単䜍で売り飛ばすこずこそ戊埌日本政治の芁諊であり続けた」ず衚珟

した、露骚にむき出しにされながら「秘密」であり続けた戊埌史の謎を解明するこずが課題

です。

歎史孊者の田䞭利幞は、日本軍性奎隷制「慰安婊」問題に関する英語による研究曞を早

い時期に出版し、問題解決に向けお倧きな前進をもたらすずずもに、『空の戊争史』『戊争犯

眪の構造』などで科孊技術の発展が戊争圢態を倉え、容易に人道に察する眪が起きおしたう

時代を迎えたこずに譊鐘を鳎らしおきたした。

他方、ゞョン・ダワヌやハワヌド・ゞンの著䜜を翻蚳玹介するなど、幅広い芖点で歎史ず

珟圚を考察するこずに力を泚いできたした。

広島垂立倧孊平和研究所時代には反栞、反原発、平和を求める運動をリヌドするずずもに、

幎には「原爆投䞋を裁く民衆法廷」を実珟にこぎ着け、〜幎には「原

発を問う民衆法廷」の刀事を務めたした。

『怜蚌「戊埌民䞻䞻矩」』においお田䞭は、戊埌民䞻䞻矩ず平和䞻矩に立脚した私たちの

戊埌思想を「再審」に付したす。それたでの自身の芋解も含めお、その原初に立ち返っお培

底怜蚌したす。

第 1 の着県点は、日本の戊争責任ずアメリカの戊争責任を単に䞊列させるのではなく、

䞡者を接合しおその党䜓構造を問うこずによっお、戊争責任隠蔜の構造をあぶり出すこず

です。

Page 3: Genesis Selling England by the Pound Foxtrot Nusery Cryme

アゞア倪平掋各地における日本軍による残虐行為の数々は、東京裁刀極東囜際軍事裁刀

においおいちおう裁かれたように芋えたす。

しかし、東京裁刀で裁かれたのは日本の戊争犯眪の䞀郚に過ぎたせんでした。被告垭に立

぀べき最倧の責任者が䞍圚であっただけではありたせん。日本軍性奎隷制をはじめずする

数々の残虐行為が調査䞍十分のたた残されたした。郚隊の凊遇もその䞀぀です。

米軍による無差別空爆ず原爆投䞋も人類史に刻たれる巚倧な人道に察する眪でした。し

かし、田䞭は米軍の犯眪だけを糟匟するのではなく、日本偎のお粗末な「防空䜓制」にも目

を向けたす。䜏民を守る぀もりのない日本政府が、珟に無差別空爆によっお䜏民が塗炭の苊

しみにあえいでいるのに、戊争終結を適時に決断するこずなくいたずらに死傷者を増やし

おいったからです。

「かくしお、戊時䞭、『防空䜓制』ずいう欺瞞的な名称の囜民支配䜓制で倚くの囜民を敵

軍による空爆の犠牲者ずしおおきながら、戊埌は被害者に『戊争損害受忍論』を抌し぀けお

いる日本政府の無責任は、単に自囜民が受けた『被害』に察する責任を隠蔜しおいるだけで

はない。原爆被害をできるだけ利甚しながら、『戊争被害日本囜』ずいうむメヌゞを囜内倖

に広めるこずで、幎ずいう長期にわたる戊争䞭にアゞア倪平掋各地で犯した様々な残

虐行為に察する『加害責任』をも隠蔜しようずしおいるこずを、我々はここではっきりず確

認しおおく必芁がある。このように、『被害責任』ず『加害責任』の隠蔜は、実は巧劙に絡

み合わされおいるのであっお、この政治的に組み合わされた『責任隠蔜の絡み合い』を、我々

垂民が解きほぐし、日本囜の責任、米囜の責任、そしお我々垂民の責任、そのそれぞれの責

任を明確にしない限り、戊争責任問題に察する根本的な解決は䞍可胜なのである。」

第 2 の着県点は、「原爆神話」の二重のレトリックです。原氎爆犁止日本囜民䌚議議長を

務めた瀟䌚科孊者の岩束繁俊の「招爆論」を導線ずしお、田䞭は原爆投䞋に至る歎史的経緯

を掗い盎したす。

戊略的状況を把握できず戊争継続に固執した昭和倩皇。゜連参戊の期日を暪目に原爆投

䞋を急ぎ、戊埌䞖界の構築における䞻導暩を狙ったトルヌマン。原爆投䞋や゜連参戊ずいう

最重芁事項に䞀切蚀及しなかったポツダム宣蚀。原爆投䞋ず「囜䜓護持」をめぐる裏取匕。

それゆえの無差別倧量殺戮の正圓化。

「かくしお、日米䞡囜ずもが、原爆衝撃効果を政治的に利甚し、あたかも原爆ずいう恐ろ

しい新兵噚が戊争終結をもたらす決定的圹割を果たしたかのように装ったのである。その

結果、米囜は、『招爆画策責任』ず䞇人以䞊に䞊る無差別垂民倧量殺戮の犯眪性ず責任

を隠蔜し、他方、日本偎は、原爆によっおもたらされた戊争終結によっお、本来あるべき姿

である『平和の象城的暩嚁』ずしおの『囜䜓』を取り戻し、維持しおいくのだずいう詭匁を

匄するこずで、裕仁ず日本政府の『招爆責任』ず戊争責任を基本的にはうやむやにしおした

った。」

『怜蚌「戊埌民䞻䞻矩」』における田䞭利幞の第の着県点は、「『平和憲法』に埋め蟌た

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れた『戊争責任隠蔜』の内圚的矛盟」ずいう衚珟で提瀺されたす。これは驚くべきこずです。

私たちは、日本囜憲法はアゞア倪平掋戊争ずいう䟵略戊争を反省しお囜際協調䞻矩ず平

和䞻矩戊争攟棄、軍隊䞍保持を掲げた、ず理解しおきたした。憲法前文は「政府の行為

によ぀お再び戊争の惚犍が起るこずのないやうにするこずを決意し」ず明蚀し、「われらは、

党䞖界の囜民が、ひずしく恐怖ず欠乏から免かれ、平和のうちに生存する暩利を有するこず

を確認する」ずしおいたす。田䞭は憲法前文及び条の歎史的意矩をもちろん高く評䟡しお

いたすが、同時に田䞭は、そこには実は昭和倩皇裕仁の戊争責任隠蔜のメカニズムが働いお

いたこずを指摘したす。田䞭によるず、埓来の憲法理解では第条を取り出しおその意矩を

語っおきたしたが、条は前文から切り離しお論じるべきではありたせん。たた憲法第章

から切り離すべきでもありたせん。

囜際協調䞻矩ず平和的生存暩の前文を受けお、第条が恒久平和䞻矩を掲げたずいう理

解には、䞀぀の難点がありたす。それならば第条は第条であるべきだったのではないか。

なぜ第章第条〜第条の倩皇制の諞芏定が間に割っお入っおいるのでしょうか。

単に圢匏䞊の問題だけではありたせん。倧日本垝囜憲法では神聖䞍可䟵、元銖そしお元垥

ずされ、実際にアゞアに察する䟵略戊争の䞻導者であった倩皇が、憲法前文ず第条の間に

居座っおいるのです。

この謎を解明するために、田䞭は憲法制定過皋を怜蚌したす。GHQ ずマッカヌサヌの䞻

導により始たり、垝囜議䌚で制定された憲法の制定過皋をここで玹介する䜙裕はありたせ

ん。田䞭の結論は次のようにたずめられたす。

「かくしお、憲法条に内圚する『普遍原理囜家性・囜家暎力吊定』ず、憲法第章を

根底から芏皋づけおいる『囜家原理軍事暎力機構の独占』には、解き難い決定的な矛盟が

あるこずは明らかなのである。この矛盟は、再床匷調しおおくが、『平和憲法』が、『平和に

察する眪』を犯した裕仁の免眪・免責を垳消しにするために蚭定されたずいう、床し難い矛

盟に起因しおいるこずは明らかなのである。」

䟵略戊争を真に反省しお新憲法を制定したのであれば、倩皇制を廃棄しおいれば自然だ

ったのです。君䞻制は敗戊によっお打倒されるのが䞖界の垞識でした。ずころが、その䟋倖

が倩皇制ずなっおしたったのです。

それゆえ田䞭の第の着県点は、「象城倩皇の隠された政治的圱響力ず『倩皇人間化』を

目指した闘い」ずなりたす。「戊埌民䞻䞻矩」は「恒久平和䞻矩」ず象城倩皇制によっお匕

き裂かれおきたした。

沖瞄をアメリカに売り飛ばした倩皇メッセヌゞ。戊争を反省したようでいお、怍民地支配

をおよそ反省しなかった瀟䌚意識。戊争攟棄ず称しながら日米安保䜓制を構築し、䞖界最匷

の軍隊を抱える日本列島。「慰安婊」問題や城甚工問題をはじめずする戊争責任問題を解決

できない日本政治。察米远随に明け暮れながら、アゞアに察する蔑芖を匷化し、圚日朝鮮に

察する差別ずヘむトに励む日本瀟䌚。

これらは個々別々の珟象ではなく、日本囜憲法が抱え蟌たされた矛盟が政治・経枈・瀟䌚

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の至る所で激突し、眅割れを起こしおいるず芋るべきです。日米安保䜓制ず、象城倩皇制ず、

「恒久平和䞻矩」ずいう、異質の理念が盞互に吊定しあい、拮抗しあっおきた。「戊埌民䞻

䞻矩」は危うい䜍眮で揺れ動いおきた。田䞭はこうした認識抜きの玠朎な「戊埌民䞻䞻矩」

芳念を指匟したす。

田䞭利幞が問い盎しおいる「戊埌民䞻䞻矩」は、䞀方では茝かしい平和䞻矩であり、同時

に高床経枈成長の神話の時代でした。

「戊埌民䞻䞻矩は虚劄だった」ずいう批刀もあり、「アメリカの圱」も指摘され、それで

も「戊埌民䞻䞻矩の虚劄に賭ける」ずいった蚀説も飛び亀いたした。右からも巊からも支持

され、同時に右からも巊からも攻撃された「戊埌民䞻䞻矩」は「戊埌民䞻䞻矩は虚劄だった

ず発蚀しおいられるほどに安定した戊埌民䞻䞻矩だった」ずも蚀えたす。

問題は議論が぀ねに「日本」に内向しおいく傟向を持ったこずです。日本の「戊埌民䞻䞻

矩」が、アゞア諞囜・諞民族ずの関係でいかなる䜍眮にあったのか。アメリカの䞖界戊略に

いかに芏定されおいたのか。これらが無芖されたわけではないにしおも、十分に詰められた

こずはなかったず蚀っおよいでしょう。それゆえ、田䞭は「戊埌民䞻䞻矩」を培底的に掗い

盎す䜜業を続けたす。

第 1 の論点は、日本の戊争責任ずアメリカの戊争責任を単に䞊列させるのではなく、䞡

者を接合しおその党䜓構造を問うこずによっお、戊争責任隠蔜の構造をあぶり出すこずで

した。

第の論点は「『平和憲法』に埋め蟌たれた『戊争責任隠蔜』の内圚的矛盟」ず衚珟され

たした。

第の論点は「象城倩皇の隠された政治的圱響力ず『倩皇人間化』を目指した闘い」ず茪

郭づけられたした。

それでは田䞭は、どこに、どのように着地しようずするのでしょうか。

田䞭の課題は「『蚘憶』の日米共同謀議の打砎」ず呜名されたす。「原爆戊争終結神話」ず

「倩皇裕仁平和䞻矩者神話」を打ち壊し、原爆投䞋ずいう人道に察する眪を暎き、適切に裁

く思想を我が物ずするこずです。そのために匕蚌されるのは、ドむツのホロコヌストに関す

る蚘憶の継承です。田䞭はテオドア・アドルノのオヌトノミヌ自埋性論を芖野に収め、

ケヌテ・コルノィッツの圫刻「ピ゚タ」や゚ルンスト・バルラハの圫刻「空䞭に浮かぶ倩䜿」

を召喚し、ドむツの「過去の克服」運動における「蚘憶ず継承」ずしおの远悌斜蚭運動にた

どり着きたす。ノむ゚ンガンメ旧匷制収容所資料通、ノェヌベルスブルク収容所博物通、ハ

ダマ―旧粟神病院远悌斜蚭等々。

ドむツだけでなく、欧州各囜においおそれぞれの「過去の克服」が進行しおいたす。ワル

シャワ・ゲットヌ蜂起蚘念碑、幎ハンガリヌ革呜歎史研究所、ブカレストのホロコ

ヌスト远悌蚘念通等々、枚挙にいずたがありたせん。連合囜によるドレスデン空爆も「過去

の克服」の察象ずなっおいたす。

Page 6: Genesis Selling England by the Pound Foxtrot Nusery Cryme

「ヒロシマ・長厎原爆無差別虐殺、南京虐殺、マレヌシア華僑虐殺、ベトナム空爆被害者、

ボスニア戊争被害者、・テロ被害者など、あらゆる戊争ずテロ行為における倧量虐殺

被害者を悌む」こずが提起されたす。

田䞭は「文化的蚘憶」の日本独自の方法論を線み出しおいくこずの重芁性を唱えたす。そ

れは日本だけの物語を意味したせん。「『蚘憶』そのものが、時間ず堎所にかかわらず存続す

る『普遍性』を内包しおいなければならない」からです。ヒロシマの原爆被害の歎史的特殊

性を特殊性におしずどめるのではなく、特殊性の䞭に普遍性を芋出しおいく粟神の働きが

䞍可欠です。

日本にも先進的取り組みがなかったわけではありたせん。田䞭は、栗原貞子の『ヒロシマ

ずいうずき』、䞞朚䜍里・俊の「原爆の図」等に蚀及した埌、䌝統芞術である胜楜、特に倚

田富雄の新䜜胜「原爆忌」「長厎の聖母」「沖瞄残月蚘」等に「文化的蚘憶」のモデルを芋出

したす。