folfox/folfiri療法ベバシズマブ併用 folfox/folfiri療法 第5回...
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ベバシズマブ併用 FOLFOX/FOLFIRI療法
第5回 福岡大学病院と院外薬局とのがん治療連携勉強会
福岡大学病院 薬剤部 岡崎美和
本日の講演内容
○オキサリプラチン、イリノテカン、ベバシズマブ
の作用機序・副作用とマネジメント
○インフュージョンポンプについて
○まとめ
オキサリプラチンの作用機序
オキサリプラチン(商品名:エルプラット) 生体内変換体(ジクロロ1, 2- ジアミノシクロヘキサン(DACH)白金、モノアクオモノクロロDACH白金、ジアクオDACH白金)を形成し、癌細胞内のDNA鎖と共有結合することでDNA鎖内及び鎖間の両者に白金-DNA架橋を形成する。これらの架橋がDNAの複製及び転写を阻害
する。
G G
G A
オキサリプラチンの副作用
○知覚過敏
○アレルギー反応
○末梢神経障害
オキサリプラチンによる知覚過敏
[特徴 ]
・投与直後2日以内に生じる一過性の知覚異常
・主に手、足、口周囲、喉に症状があらわれ数日間持続する
・低温に暴露することにより誘発又は悪化することが多い
・投与を繰り返すことで、回復までの期間が延長する
[症状]
しびれ、チクチクする痛み(刺激)、手や前腕の痙攣など
※咽頭喉頭の絞扼感(1~2%)
呼吸機能自体への影響はない.症状が現れると患者は非常に驚くので事前に
説明しておくことが大切!
◎よくある患者の訴え
“食べ物、唾が飲み込みにくい” “あごがしめつけられる、のどがしめつけられる”
“舌の感覚がおかしい” “手、足、口のまわり、のどがしびれる “手、足、口のまわり、
のどが痛い
オキサリプラチンによる知覚過敏
[対処法]
○温かい飲み物や毛布を使用して温かく保つ(特に冬場)
○以下のことを患者に伝える
・オキサリプラチン投与中~投与後3日間位は、低温への暴露を避ける
・冷たい飲み物、氷の使用を避ける
・冷たい空気(外気やエアコンの冷気など)に直接あたらない
・冷たい物に触れる場合は、手袋を使用する
・手足や口周囲のしびれを感じた場合には、すぐに体を温めることで症状が改善する
・咽頭喉頭の絞扼感の症状は一過性で数分で治まる
★オキサリプラチン投与中は、安易に冷やさない!
抗がん剤投与中は、さまざまな副作用が発現する可能性があり、対処法として、「冷やす」
あるいは「氷を使用する」ことがしばしば勧められているが、オキサリプラチンの末梢神経症状、
咽頭喉頭感覚異常は、冷やすこと、冷たい物に触れることで誘発又は悪化するため。
医療スタッフのためのエルプラット点滴静注50mg100mgガイドより
オキサリプラチンによるアレルギー反応
[症状] 発疹、痒み、気管支痙攣、呼吸困難、血圧低下
[発現時期]
・発現までの投与コース中央値:8コース(範囲:1~20コース)
・発現までの投与量中央値:591mg/m2 (426~850mg/m2) (国内2005年4月6日~2007年10月、219症例の調査)
投与開始から発現までの時間は30分以内が多い.
[対処法] ただちに投与中止.
G1/2: 抗ヒスタミン薬の投与またはステロイド薬の投与
G3/4: G1/2の処置に加え急速輸液静注により循環血液量を確保し
治療抵抗性の血圧低下の場合はエピネフリンの投与も検討.
※回復後の再投与は基本的に行わない.
★数コース経過した後に発現することが多い!!
オキサリプラチンによる末梢神経症状
[特徴]
用量依存性に発現する持続性の手足などの機能障害
[発現時期]
・機能障害を伴う重篤な末梢神経障害発現までの投与コース
中央値:9コース(1~18コース)
・末梢神経障害発現までの投与量中央値:703mg/m2
※426mg/m2以上 (5~6コース目)で発現が増加する
(国内2005年4月6日~2007年10月、61症例の調査)
[症状]
ボタンがかけにくい、歩きにくい、文字が書きにくい
飲み込みにくい
がん治療副作用対策マニュアル、医療スタッフのためのエルプラット点滴静注50mg100mgガイドより
オキサリプラチンによる末梢神経症状
[対処法]
・投与量の減量あるいは休薬 ※Stop and Go Strategy
・5-FU/ℓ-LVの投与スケジュールは変更しない
・症状をコントロールして日常生活への影響を最小限にくいとめる
[処方例]
• 牛車腎気丸
• プレガバリン
• オキシコドン塩酸塩
• ガバペンチン など
★早期発見が重要!!
イリノテカンの作用機序
イリノテカン(商品名:トポテシンⓇ ) ・1983年に抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンから合成された抗悪性腫瘍剤
・生体内でカルボキシルエステラーゼにより活性代謝物(SN-38)に加水分解される
プロドラッグ
・Ⅰ型DNAトポイソメラーゼを阻害することによって、DNA合成を阻害する。殺細胞効果
は細胞周期のS期に特異的であり、制限付時間依存性に効果を示す
トポ-Ⅰ
その後の
反応停止
SN-38
(活性代謝物)
DNA鎖 DNA トポⅠ複合体
結合
DNA・トポⅠ・SN-38複合体 安定化
DNA合成の阻害
=
癌細胞増殖抑制
(抗腫瘍効果)
イリノテカンの副作用
○主な副作用
・骨髄抑制(好中球減少:73.1%)
・下痢(44.3%)
○重篤な副作用
・腸管麻痺(0.4%)
・腸管穿孔(0.02%)
・間質性肺炎(0.9%)
イリノテカン UGT1A1遺伝子多型と副作用発現率
トポテシンの活性代謝物であるSN-38は主に肝臓のUDP-グルクロン酸転移酵素(UDP-
glucuronosyltransferase:UGT)の1分子種であるUGT1A1によりグルクロン酸抱合され、
抱合体であるSN-38Gとなり、主に胆汁排泄される.
トポテシン適正使用ガイドより
遺伝子多型 グレード3以上の
好中球減少発現率
グレード3以上の
下痢発現率
UGT1A1*6とUGT1A1*28をともにもたない
14.3% 14.3% UGT1A1*6またはUGT1A1*28をヘテロ接合体としてもつ
24.1% 6.9% UGT1A1*6またはUGT1A1*28をホモ接合体としてもつ、もしくはUGT1A1*6とUGT1A1*28をヘテロ接合体としてもつ
80.0% 20.0%
(CPT-11を100mg/m21週間間隔あるいは150mg/m22週間間隔で投与)
各種がん患者55例にCPT-11を単独投与し、UGT1A1遺伝子多型と
副作用発現との関連性を検討した結果
遺伝子の型により、重篤な副作用の発現が高くなる!!
イリノテカン UGT1A1遺伝子多型と副作用発現率
トポテシン添付文書より
イリノテカンによる下痢
○早発性(投与中・直後)の下痢
○遅発性(投与24時間後以降数日後)の下痢
[発症機序]
コリン作動性で一過性
[症状]
発汗、腸管蠕動運動亢進
[治療]
※副交感神経遮断薬
処方例:ブチルスコポラミン臭化物の頓服
早発性(投与中、直後)の下痢
遅発性(投与24時間後以降数日後)の下痢
SN-38はグルクロン酸抱合を受けて不活化されSN-38Gとなり胆汁を経由し腸管内へ
排泄される. 腸内細菌叢のβ-グルクロニダーゼにより脱抱合を受け再び活性のある
SN-38と変換され、腸管粘膜を障害する.
[治療]ロペラミド塩酸塩の頻回投与 処方例: ロペラミド塩酸塩 2mg 下痢が止まるまで2~4時間ごとに内服
ロペミン添付文書より
タンニン酸アルブミンは抗がん剤による下痢に使用されることがあるため、ロペミンとの相互作用に
注意が必要!
[発症機序] SN-38による腸管粘膜障害によるもの
ベバシズマブの作用機序
ベバシズマブ(商品名:アバスチンⓇ ) ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対する遺伝子組換え型ヒト化モノクローナル抗体
[作用機序]
VEGFと選択的に結合することにより、血中のVEGFが血管内皮上に発現
しているVEGF受容体(VEGFR-1とVEGFR-2)と結合するのを阻害する
VEGF結合後のシグナル伝達経路を遮断することで腫瘍組織の
血管新生を抑制する
※腫瘍組織の間質圧を正常化することで、抗悪性腫瘍剤の腫瘍組織への
到達を補助する機序も考えられている
○主な副作用
• 高血圧(約20~40%)
• 出血(約20~50%)
• 蛋白尿(約10~40%)
• 白血球数・好中球数減少(中等度以上の減少:約37%)
○重篤な副作用
• ショック・アナフィラキシー様症状(前投薬の規定なし)
• 消化管穿孔
• 創傷治癒遅延
(術後28日間、術前5,6週間は投与しないことが望ましい)
・血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症等)
など
ベバシズマブの副作用
ベバシズマブによる高血圧
[発症機序]
分子標的薬トータルマネジメント(RichHill Medical)2010.11.1より
[発現時期] ・明確な傾向はないが、ベバシズマブ治療開始後、どの時期にも発現 (海外臨床試験)
・投与開始後4週以内と、比較的早い時期 (国内特定使用成績調査)
[対策] ・通常の降圧療法を行う.
※ACE阻害薬、ARBが推奨される.利尿薬は下痢や体重減少のリスクが増大するため
推奨されない
・グレード3の高血圧では血圧がコントロール可能になるまで休薬
・高血圧性クリーゼ(グレード4)を発症した場合、投与中止
ベバシズマブによる出血
[特徴]
• 出血時間5分未満の鼻出血から、原発巣、転移部からの出血
が見られる
• 消化管出血のほか、海外では肺出血、脳出血の報告もある
[発現時期]
投与開始早期の発現割合が比較的高い(臨床試験より)
[対処法]
• 少なくとも投与開始後5ヵ月間、投与回数10回、および累積投与量
5,000mg程度において出血のリスク管理を厳重に行う
• 重度の出血が現れた場合、投与を中止し再投与は行わない
アバスチン適正使用ガイド、がん治療副作用対策マニュアルより
インフューザーポンプ
○特徴
・FOLFOX療法、FOLFIRI療法では、5-FUの持続注入を行う際に使用
・バルーン(風船)が縮む力を利用してチューブに薬を押し出す仕組み
・一定の速度 (5mL/hr)で薬が注入される
○終了の目安
終了時刻には5時間程度の誤差が生じることがある
→ ①終了予定時刻より早くても、バルーンが完全にしぼんでいれば
その時点で終了
②終了予定時刻より5時間を過ぎても少量残っている場合はその
時点で終了
③終了予定時間から5時間を過ぎてもバルーンがほとんどしぼまずに薬が大量に
残っている場合は病院に連絡
大腸癌 外来化学療法の自己管理 2007(医薬ジャーナル社)より
まとめ
• オキサリプラチンでは、知覚過敏、アレルギー反応、末梢神経障
害が問題となる。知覚過敏は、冷感刺激を避けることで予防でき
る.アレルギー症状はどのサイクルでも発現する可能性があるた
め注意が必要である.また、末梢神経障害を早期に発見すること
が治療継続において重要となる.
• イリノテカンでは下痢が問題となる.ロペラミド塩酸塩などで対応
するが、腸管麻痺や、タンニン酸アルブミンとの相互作用などに
注意が必要である.
• ベバシズマブでは高血圧が問題となる.血圧のモニタリング及び
コントロールが非常に重要である.