fish in water 1210
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八ッ場ダム建設からみる
政治過程の分析
佐藤公俊ゼミナール 8 期 FISH IN WATER
関本 髙橋(慈) 戸田 1
目次
1. 本研究のねらい
2. 先行研究
3. 仮説
4. 八ッ場ダム建設の政治過程
5. 分析
6. 考察
7. 結論 2
1.本研究のねらい
日本の政策決定過程における政党と官僚、それぞれの影響力を明らかにし、彼らの関係性を示すことをねらいとする。
本研究では、短期間での政策転換があった八ッ場ダム建設を事例に検証していく。
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2.先行研究
マックス・ウェーバーによると・・・
官僚制は、高度に専門的な知識のゆえに
政策の立案・決定に強い影響力をもつとされている。
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専門的な知識とは
専門知:専門書に書かれているような知識のこと。
現場知:組織の業務遂行にあたり伝統的に受け継がれるノウハウのこと。
2.先行研究
日本の政策過程研究では「官僚優位論」と「政党優位論」の見解の対立がある。
・・・「官僚優位論」についてはエージェンシー理論を参考に、 「政党優位論」については真渕の研究を参考にする。
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2.先行研究
6
市民 政治家 官僚
PAP
A
エージェンシー理論
P :本人( principal )A :代理人( agent )
2.先行研究
エージェンシー・スラック( AGENCY SLACK )とは
政治家(本人)の政策立案・決定に対する期待・理想と実際に業務を行う官僚(代理人)の行動結果の間に生じる差のこと。
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2.先行研究
エージェンシー・スラックが生まれる原因官僚は、個人・組織人としての欲求(出世、組織拡大)を持っており、常に政治家の意向通りに行動するとは限らないため。
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2.先行研究
① 官僚の行動の直接的な監視(監視コストをかける)
② 政治家自身による政策形成(立法コストをかける)
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エージェンシー・スラックを小さくするには
2.先行研究
現状では政策形成に必要な専門的知識が高度化したために、
① 官僚の行動の直接的な監視② 政治家自身による政策形成
が困難になっている
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エージェンシー・スラックが大きい=官僚の力が強い
官僚優位論の主張
2.先行研究
真渕( 2010 )によると
日本は戦前から戦後にかけて官僚が積極的に政策立案・決定を行ってきた。 しかし、次第に政党の影響力も高まってきた。現状、官僚は政策立案・決定において消極的な立場へと変化しており、今後さらにその傾向は強まると考えられている。
官僚
官僚
政党
政党
大 小
小 大
官僚・政党の影響力の変容
政党優位論の主張
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3.仮説
先行研究より・・・
日本は政策立案・決定において、官僚の影響力は大きい。 政
治家は官僚とのエージェンシー・スラックを小さくするために
監視コスト・立法コストをかけることで、徐々に政党の影響力
も強まってきている。
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民主党政権時の八ッ場ダム事業では、立法コストをかけた政策立案・決定の動きが見られた。
3.仮説
【仮説】
政党優位が強まっている。八ッ場ダムの建設中止から再開までの期間の
政党・官僚の動きに焦点を当て、検証していく。
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
八ッ場ダムの概要1952 年に建設省(現在の国土交通省)が群馬県長野原町と東吾妻町の町境に建設を計画した、国直轄の多目的ダム。
利根川の氾濫による洪水被害を防ぐとともに、首都圏の住民の生活用水や工業用水を確保する目的がある。
完成予定年度は 2019 年度で、建設費用は約 4,600億円の予定。
4.八ッ場ダム建設の政治過程
1952 年 利根川改修改定計画の一環として調査着手。
40年以上経過した末・・・
1992 年に長野原町、1995 年に東吾妻町で、
「八ッ場ダム建設に係る基本協定書」が締結された。
15ダム建設が決定
《建設決定まで》
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
2008 年 8月 18日
鳩山由紀夫幹事長(当時)、八ッ場ダムを視察する。
2009 年 8月 30日
衆院選で 308議席獲得、政権与党になる。
2009 年 9月 17日
前原誠司国交相、八ッ場ダム建設中止を明言。
2009 年 10月 26日
前原誠司国交相、八ツ場ダム事業の必要性の再検証を検討。
2010 年 11月 6日
馬淵澄夫国交相、八ッ場ダム視察。
2011 年 2月 13日
大畠章宏国交相、八ッ場ダム視察。
2011 年 9月 2 日 野田佳彦内閣発足、前田武志氏が国交相に就任。
2011 年 9月 13日
関東地方整備局、八ッ場ダム建設に関して「最も有利な案」と発表。
2012 年 12月 22日
前田武志国交相、八ッ場ダムの建設継続を決定。関係自治体に伝える。
《中止から継続までの流れ》
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《市民と政治家の結託》「八ッ場ダム研究会」・・・ 2007 年に発足。
反対派市民や 国会議員 、地方議員によって構成される。
4.八ッ場ダム建設の政治過程
市民活動から政治闘争(選挙の争点)へ発展
研究会の目的
民主党所属の中島政希議員、石関貴史議員
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《鳩山幹事長 八ッ場ダム視察》2008 年 8月 18 日 八ッ場ダム研究会が鳩山幹事長を 八ッ場ダムに呼ぶ。
視察後、鳩山氏は次期衆院選のマニフェストに
“八ッ場ダム建設中止”を盛り込むことを約束する。
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《民主党の「政権政策 MANIFESTO 2009 」》「国の総予算 207兆円を徹底的に効率化。ムダづかい、
不要不急な事業を根絶する。」として、
「川辺川ダム、八ッ場ダムは中止。時代に合わない国の
大型直轄事業は全面的に見直す。」
と明記した。
4.八ッ場ダム建設の政治過程
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《衆院選勝利》2009 年 8月 30 日 衆院選で 308議席獲得、政権与党となる。
新政権で「脱・官僚依存」が掲げられる。
(政官癒着の解消)
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2009年 9月 ダム事業中止 【民主党政権・鳩山内閣】
4.八ッ場ダム建設の政治過程
《中止表明》
前原誠司国土交通大臣が、中止の方針を表明。マニフェストに書いてあるので中止する。ダムに頼らない治水(河川整備)を進める。
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《中止表明後》関係自治体・地元住民は反発
地元住民
(前原氏との意見交換会に対し)中止ありきでは国交相に会えな
い!
建設中止をいったん白紙に戻してほしい。中止を表明する前に地元の声に耳を傾けてほしかっ
た。
群馬県大澤正明 知事
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前原大臣は関係自治体、
地元のダム建設推進派との対話のため、
八ッ場ダム事業の必要性を再検証する検討に入った。
4.八ッ場ダム建設の政治過程
《再検証開始》地元の反発を受けて・・・
国交省に再検証指示
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《中止撤回》2010 年 9月 【菅第一次改造内閣】 馬淵澄夫国交相就任
就任時は建設中止の方針だったが・・・
(八ッ場ダム視察後)
『中止の方向性』という言葉には言及しない。
事実上の中止撤回
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《中止撤回》2011 年 1月 【菅第二次改造内閣】 大畠章宏国交相就任
(八ッ場ダム視察後)
馬淵澄夫前国交相の
方針を継承したい。
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2011年 12月 建設継続決定 【民主党政権・野田内閣】
《建設継続の決定》
前田武志国土交通大臣は、「事業継続」の対応方針を決定。
4.八ッ場ダム建設の政治過程
建設続行が妥当
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4.八ッ場ダム建設の政治過程
《その後の流れ》2012 年 12月 太田国土交通大臣は、当時の前田大臣の判断
を尊重して、早期完成を目指すとの方針を表明
2013 年 5月 「利根川・江戸川河川整備計画」策定
2015 年 1月 ダム本体建設工事開始
2019 年 完成予定
5.分析
今回の分析で判明したこと
①脱・官僚依存の失敗
② エージェンシー・スラックの発生
③官僚出身大臣の登場
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5.分析 ①脱・官僚依存の失敗
2008 年 8月 18日
鳩山由紀夫幹事長(当時)、八ッ場ダムを視察する。
2009 年 8月 30日
衆院選で 308議席獲得、政権与党になる。
2009 年 9月 17日
前原誠司国交相、八ッ場ダム建設中止を明言
2009 年 10月 26日
前原誠司国交相、八ッ場ダム事業の必要性の再検証を検討
2010 年 11月 6日
馬淵澄夫国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 2月 13日
大畠章宏国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 9月 2 日 野田佳彦内閣発足、前田武志氏が国交相に就任
2011 年 9月 13日
関東地方整備局、八ッ場ダム建設に関して「最も有利な案」と発表
2012 年 12月 22日
前田武志国交相、八ッ場ダムの建設継続を決定。関係自治体に伝える。
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中止から継続までの流れ
①
5.分析 ①脱・官僚依存の失敗
鳩山政権時での脱・官僚依存に向けての策として、
「党政府一元化」が進められる
30
政策部会を廃止する政策立案・決定の権限を政務三役に集中させ
る
党政府一元化とは
5.分析 ①脱・官僚依存の失敗
・政策部会の廃止により、各省庁の「部会」がなくなり
族議員による政官癒着の入り口は塞がれた
・政務三役の権力が増大
・一般議員は政策決定過程から外された31
5.分析 ①脱・官僚依存の失敗
建設反対派の一般議員が意見を述べたり、
働きかけをする機会がなくなった
官僚の裁量の余地を広げることになる
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5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
2008 年 8月 18日
鳩山由紀夫幹事長(当時)、八ッ場ダムを視察する。
2009 年 8月 30日
衆院選で 308議席獲得、政権与党になる。
2009 年 9月 17日
前原誠司国交相、八ッ場ダム建設中止を明言
2009 年 10月 26日
前原誠司国交相、八ッ場ダム事業の必要性の再検証を検討
2010 年 11月 6日
馬淵澄夫国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 2月 13日
大畠章宏国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 9月 2 日 野田佳彦内閣発足、前田武志氏が国交相に就任
2011 年 9月 13日
関東地方整備局、八ッ場ダム建設に関して「最も有利な案」と発表
2012 年 12月 22日
前田武志国交相、八ッ場ダムの建設継続を決定。関係自治体に伝える。
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中止から継続までの流れ
②
5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
2009 年 10月 26 日
前原国交相
関係自治体、地元のダム建設推進派との対話のため、 八ッ場ダム建設の再検証を決定
しかし、検証作業の主体は建設主体である
国交省の関東地方整備局に任せる。34
5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
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前原氏は・・・
しかし官僚たちは検証過程で、自らの欲求のためダム建設継続に向け優位に進めていく
5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
国交省「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」設置
※有識者の多くが国交省推薦のダム推進派
有識者会議で作成された「中間とりまとめ」を基に
「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」作成
36流域の治水や利水方法について、八ツ場ダムが「最も有利な案」
関東地方整備局
5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
一方民主党では・・・
国土交通大臣部門会議が建設反対の意見を提出
→明確な建設反対の意思は示さなかった
前原氏は・・・
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マニフェストの変更は単なる行政の判断にとどまらず、
政治的判断が加えられるべきだ。
5.分析 ②エージェンシー・スラックの発生
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エージェンシー・スラックが発生してい
た!
八ッ場ダム建設中止のための検証
八ッ場ダム建設継続のための検証
民主党の思惑
官僚の思惑
5.分析 ③官僚出身大臣の登場
2008 年 8月 18日
鳩山由紀夫幹事長(当時)、八ッ場ダムを視察する。
2009 年 8月 30日
衆院選で 308議席獲得、政権与党になる。
2009 年 9月 17日
前原誠司国交相、八ッ場ダム建設中止を明言
2009 年 10月 26日
前原誠司国交相、八ッ場ダム事業の必要性の再検証を検討
2010 年 11月 6日
馬淵澄夫国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 2月 13日
大畠章宏国交相、八ッ場ダム視察
2011 年 9月 2 日 野田佳彦内閣発足、前田武志氏が国交相に就任
2011 年 9月 13日
関東地方整備局、八ッ場ダム建設に関して「最も有利な案」と発表
2012 年 12月 22日
前田武志国交相、八ッ場ダムの建設継続を決定。関係自治体に伝える。
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③
中止から継続までの流れ
5.分析 ③官僚出身大臣の登場
2011 年 9月 2 日
前田武志氏 国交相に就任
<経歴>
京都大学工学部土木工学科卒業。同大学院修士課程(土木)修了。建設省入省、国土庁専門調査官、建設省河川局計画専門官・・・利根川渇水対策プロジェクトに尽力。元自民党所属。
建設省(現国土交通省)のOBである 40
5.分析 ③官僚出身大臣の登場
建設継続へと話が進む中、藤村修官房長官、前原政調会長、前田国交相の三者で会談が行われ、藤村氏は裁定を示す。
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「河川整備計画と生活再建法案の見通しが立たなければ八ッ場ダムの本体工事に着手しない」
裁定の内容
5.分析 ③官僚出身大臣の登場
しかし前田国交相は、会談後その日のうちに
八ッ場ダム建設継続、それに伴う来年度予算への計上を決定することを発表 42
(裁定について)前原・前田氏とも一言一句受け入れた
藤村修官房長官
5.分析 ③官僚出身大臣の登場
前田国交相は裁定にある「上記の2点を踏まえ」を
「念頭に置いて」と解釈した
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条件をクリアしなくても予算を計上できる
6.考察
今回の分析で判明したこと
①脱・官僚依存の失敗
→政党優位とはいえない。
② エージェンシー・スラックの発生
→官僚は政治家(前原氏)の期待・理想に沿わず、八ッ場ダム建設 継続へ向けて行動した。
③官僚出身大臣の登場
→官僚の意向に沿った政策立案・決定を行う。 44
6.考察
【仮説】
政党優位が強まっている。
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立証されず
官僚は政策立案・決定において影響力が強い
7 . 結論
今回の分析から、
(1)官僚のほうが政策立案・決定能力が高い現状では、立法コストをかけることによる政治主導には失敗した。
(2)官僚と対立するような政治主導の進め方は生産的でない。
46
7 . 結論
(1)及び(2)より、
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監視コストをかけることによる政治主導には一定の効果が期待できるのではない
か。
出典
・真渕勝『官僚 社会科学の理論とモデル』( 2010 )東京大学出版会
・民主党 HTTPS://WWW.DPJ.OR.JP/
・前原誠司、馬淵澄夫、大畠章宏、前田武志、羽田雄一郎各氏の
公式ホームページ
・宮原田綾香『それでも八ッ場ダムはつくってはいけない』( 2010 )芙蓉書房出版
・中島政希『崩壊 マニフェスト~八ッ場ダムと民主党の凋落~』( 2012 )平凡社
・日本経済新聞 2009 年 8月 19 日~ 2012 年 12月 28 日
・朝日新聞 2009 年 8月 19 日~ 2012 年 12月 28 日 48