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105 ブルーイノベーション株式会社 ブルーイノベーション株式会社(以下、同社)は、ドローンの機体開発からドローンを活用し た点検や測量等の業務サービスまでの一気通貫ソリューションを提供、狭小空間にも対応する点 検ソリューションでインフラ等の長寿命化に貢献する。一般社団法人日本 UAS 産業振興協議会 (以下、 JUIDA)の運営を主導し、オペレーター育成事業にも参画することで、業界全体の発展と 事業ノウハウ・データ蓄積を両立、「空の産業革命」と言われるドローン業界でプラットフォーム のポジション獲得を目指す。 File 12 長寿命化 ドローンのポテンシャルを引き出し インフラ等の長寿命化に貢献

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Page 1: File 12 ドローンのポテンシャルを引き出し 長寿命化 インフラ等 … · 106 ポイント 開発から業務サービスまで一気通貫するドローンソリューションを提供。

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ブルーイノベーション株式会社

ブルーイノベーション株式会社(以下、同社)は、ドローンの機体開発からドローンを活用し

た点検や測量等の業務サービスまでの一気通貫ソリューションを提供、狭小空間にも対応する点

検ソリューションでインフラ等の長寿命化に貢献する。一般社団法人日本 UAS 産業振興協議会

(以下、JUIDA)の運営を主導し、オペレーター育成事業にも参画することで、業界全体の発展と

事業ノウハウ・データ蓄積を両立、「空の産業革命」と言われるドローン業界でプラットフォーム

のポジション獲得を目指す。

File 12 長寿命化

ドローンのポテンシャルを引き出し

インフラ等の長寿命化に貢献

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ポイント

開発から業務サービスまで一気通貫するドローンソリューションを提供。狭小空間にも対

応する点検サービスでインフラ等の長寿命化に貢献

産業の成長や普及促進を目的として業界団体を設立し、民間企業・研究者など約 8,000 会

員が加盟。そこから様々なソリューションを立ち上げる

ソリューション事業やオペレーター育成事業、飛行支援地図情報アプリなどを通して蓄積

したデータを活用し、中長期的にはプラットフォームビジネスを目指す

ブルーイノベーション株式会社

所在地 東京都文京区本郷 5-33-10 いちご本郷ビル 4F

従業員数 40 人

設立年 1999 年

資本金(百万円) 441(2018 年時点)

売上高(百万円) 2016 年 3 月 -

2017 年 3 月 -

2018 年 3 月 -

① 事業概要

開発から業務サービスまで一気通貫するドローンソリューションを提供

同社は、法人向けドローンソリューション事業などを手掛けている。国際的な競争が激しいハ

ードウェアの生産・販売は自社では行わずにメーカーと協業し、顧客の課題・解決策についての

コンサルティングサービスを提供する。実証実験等を行いながらのシステム開発サービスに加え、

その後には運用マニュアル作成や講習を行うとともに、運用段階の支援サービスも提供する。

例えば点検ソリューションでは、顧客保守人員のサポートや保守業務そのものを代行するサー

ビスがある。このように、顧客がドローンを利用するための一気通貫するサービスを提供してい

る。現在は、「点検」、「警備」、「物流」、「教育」、「イベント・エンタメ」などの業界に向けて、業

界の大手企業と共同でサービスパッケージの開発を行っている。

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図 50 同社のドローンソリューション

出所)ブルーイノベーション

狭小空間にも対応する点検サービスでインフラ等の長寿命化に貢献

高所や狭小空間など人間が作業しにくい点検作業におけるドローン利用に期待が集まっている。

しかし、墜落やパーツの落下、衝突や接触などの問題を乗り越える必要がある。2018 年、同社は

スイス Flyability 社の機体「エリオス(Elios)」を活用した点検サービスの提供を開始した。これ

はカーボンファイバーの軽量なかごに包まれている小型ドローンで、飛行中に何かにぶつかって

もドローン本体やプロペラが損傷を受けることがほとんどない。そのため、GPS 信号が入らない

工場の天井裏やトンネルの内部、さらにはボイラーやタンク、圧力容器などの機器の内部にも進

入して、飛行しながら内部の状況を映像で記録できる。

同社によると、同社自身がこうしたコンセプトの技術開発を検討していたが、Flyability 社の技

術を知り、協業を決めた。このようにソリューション提供を本業と位置付けており、社外の技術

も積極的に活用する。特に、点検分野に注力しており、送電線のたわみに合わせてドローンが自

動飛行し、効率的な点検を実施するソリューションなどを開発している。このように、社内外の

最新技術を駆使してインフラの長寿命化を実現、資源有効活用に貢献してゆく。

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図 51 同社の点検サービスの特徴

出所)ブルーイノベーション

ドローン専用飛行地図アプリの開発

2015 年 12 月よりドローン改正航空法によってドローンの航空制限が高度 150 メートル以下で

も実施されるようになった。また、議員立法や条例によって施設・地域単位で飛行禁止区域が定

まっている。こうした規制情報は一覧にされていなかったため、ドローンユーザーはどこで何を

実施できるのか・できないのかを簡単に判断できない状態にあった。そこで、JUIDA や株式会社

ゼンリンと共にドローン専用の地図アプリ「SORAPASS」を開発した。地図が見られるだけでな

く、機種名やシリアルナンバー、サイズ、重量などの機体情報や操縦者の氏名や連絡先、飛行経

歴、飛行履歴などを登録しておけば、飛行許可を得る際の各種申請の手間を軽減することができ

る機能も搭載している。また、日本気象株式会社が提供する気象情報や、平面上では確認しづら

い飛行禁止空域(空港周辺情報など)を 3 次元で確認することができる 3 次元地図の提供も実施

している。本アプリでは 2018 年 12 月より、損害保険ジャパン日本興亜株式会社とドローン保険

サービスを提供開始している。

図 52 「SORAPASS」イメージ

出所)ブルーイノベーション

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② 事業参入の経緯

防災コンサルティングサービスに用いる技術としてドローンに着目

代表取締役社長の熊田貴之氏は、津波対策などの海岸防災対策を研究して博士号を取得した後、

防災コンサルティング関連事業を立ち上げた。法人としては、父親が経営していた企業を引き継

いだが、事業は熊田氏が立ち上げたものである。2011 年の東日本大震災後、震災で失われた海岸

の復旧に取り組んだが、熊田氏は海岸の分析においては空撮が重要な要素であると考えた。そこ

で同分野の第一人者であった東京大学の鈴木教授を訪ねた。未だ「ドローン」というコンセプト

は立ち上がっていなかったが、鈴木教授は当時から自動飛行システムを研究していた。当時はセ

スナ機の航空写真しか撮れない時代であり、空撮は大きなコストがかかるため実施される頻度は

限られていた。そうした状況の中で熊田氏は、空撮の技術革新によってコストや品質が劇的に変

化し、防災コンサルティングサービスに大きな変革を及ぼすと考えていた。さらに、鈴木氏と協

議を重ねるうちに、今で言うドローンを産業用途に適用できれば大きな事業になるのではないか

とも考えた。そうして同社は鈴木教授との共同研究を開始した。

様々な業界向けのサービスパッケージを開発しドローンソリューションが本業に

鈴木教授との共同研究を行いながら、創業事業である防災コンサルティングを手掛けていた。

震災直後までは同事業のニーズが大きかったが、コンサルティングによる計画作りが終わった後

には、施工するフェーズに入り、コンサルティングニーズは急落する。売上も年を追うごとに減

少した。そうした中で同社を救い、急激な成長をもたらしたのがドローン事業である。

同社は、資金調達に苦心しながらもドローンのインテグレーターとして様々な企業との共同研

究を実施、サービスパッケージを開発して売上を徐々に拡大していった。その頃、国際航空民間

機関(ICAO)によりドローンが航空機として認定された。また、首相官邸屋上にドローンが落下

する事件が発生したこともあり、世の中で注目を集めることになった。鈴木教授との共同研究開

始から 5~6 年が経っていたが、創業事業であった防災コンサルティングの売上を上回るようにな

った。そこで社名を現在のブルーイノベーションに変更、ドローン関連事業を事業の中心に据え

るようになった。

③ 成功・差別化要因

業界が立ち上がる時期にオペレーター育成市場が着目

ドローンが産業として発展してゆくためには、まずはオペレーターの育成が重要であり、それ

が市場としても魅力的であると考え、それに関わるサービスの提供を開始した。工夫したのは、

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そのポジションである。自ら育成サービスも手掛けるが、ベンチャー企業が育成サービスで事業

を拡大するには人手が掛かりすぎ、事業拡大に時間を要してしまう。そこで、育成サービスを手

掛ける企業にノウハウを提供し、同社がライセンスの認定者になるポジションを選んだ。自動車

で言えば、教習所事業は他社が実施し、同社は免許センターの役割を果たす。現在では全国で 200

を超える「教習所」が存在しており、これらを運営する様々な企業の裏方として育成事業に取り

組んでいる。

また熊田氏は、「オペレーター育成事業」から、後述する「プラットフォーム事業」に至る事業

展開ステップを描くに当たって、「パソコン産業を参考にした」と言う。まずはユーザーが増える

環境を整え、後には OS のようなプラットフォームのポジションを握って大きな収益を得るステ

ップを描いた。

プラットフォーム事業展開を見据え、顧客のフライトデータ取得体制を構築

同社は、ドローン専用地図アプリ「SORAPASS」を提供し、ユーザーによるドローン利用を促し

て産業の成長を図り、顧客のフライトデータを集積することを考えている。その理由としては、

後述するプラットフォーム事業を中長期的に展開することを見据えると、他社に先駆けてデータ

取得体制を構築することが重要だと考えているからだ。将来的にデータ量で他社との差別化を図

るため、現在は 10 万人の会員獲得を目指している(2019 年 1 月現在約 3.5 万人)。

業界団体を設立してブランディングを行い、大手ユーザー企業との共同開発を実現

上記のような事業を行うに当たって、2014 年に JUIDA を立ち上げた。産業として成立・成長

させるためには、産官学が連携して各種ルールを整備する必要があると考えたためである。そ

こで同社が旗振り役となり、鈴木教授を理事長とする JUIDA を立ち上げ、「安全ガイドライ

ン」などを国による法改正に先駆けて作成してきた。この JUIDA がオペレーター育成事業を主

催し、そこに同社が参画している。民間企業が上記のようなライセンス関連事業を手掛けるの

は難しいが、産官学が連携することで可能になる。協会の発足・運営にはコストが掛かるため

に、ベンチャー企業の同社としてはリスクの伴う決断であったが、防災コンサルティング事業

で培った政府や業界団体との接し方に関するノウハウを活用、現在では JUIDA は約 8,000 の会

員数を誇るまでに拡大させた。JUIDA を通して人・企業とのネットワークを構築し、大手との

協業実現に成功した。

大学・研究者のニーズに配慮した協業

熊田氏自身は博士号を持っており、また創業時の仲間は大学の研究者も多く、そうしたもの

を活かし、大学との密接な協力関係を築いてきた。大学との共同研究に際しては、直接的に事

業・売上にはつながらなくても、論文作成や学会発表といった活動を積極的に実施し、研究者

の信頼を得てきた。リソースが豊富とは言えないベンチャー企業にとっては短期的には負担に

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なったが、中長期的には、こうして構築した大学との協力関係が自社への信頼となり、現在の

様々なソリューション開発につながった。

④ 事業ビジョン・展望

蓄積したユーザー情報を活かして更に多様なソリューションを開発

現在はユーザー企業と共同で様々なサービスパッケージを開発する「ソリューション事業」

を手掛けているが、先行して開発する様々なサービスパッケージについてのノウハウやオペレ

ーター育成事業を通して蓄積しているユーザー情報を活用し、より多様な顧客課題の解決に貢

献するソリューション事業を行いうると考えている。元々得意としてきた点検や物流向けのソ

リューションのほか、ポテンシャルが大きいと言われる農業分野などでのソリューション開発

も検討する。

「プロダクトパッケージ事業」を展開

現在、基本的に各顧客に合わせてカスタマイズしたソリューションを提供しているが、今後

はそういったソリューションを、幾つかのパターンのパッケージとして顧客に提供する「プロ

ダクトパッケージ事業」展開に注力する。

中長期的にはプラットフォームビジネスを目指す

中長期的には、「プラットフォーム事業」を手掛けたいと考えている。同社は「Blue Earth

Platform」のコンセプトを打ち出しており、これはミドルウェアや OS のようなもので、他社が

開発するアプリケーションをプラットフォームに載せて顧客に提供し、アプリケーションプロ

バイダからプラットフォーム利用料を取得するモデルであるとのことだ。

総務省とともに長年プラットフォーム技術の開発を手掛けてきた株式会社国際電気通信基礎

技術研究所(ATR)と共同で、「ドローンの航空管制システム」などの事業化に取り組んでい

る。

⑤ 政府への要望

法制度の更なる整備

例えば、郊外での目視外飛行に関する規制は緩和されたが、人口集中地区では規制されたま

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まである。2020 年代以降を目途とした規制改革のロードマップが描かれているが、同社として

は、更なる産官学の協議のもと、「空の産業革命」に向けた規制の改革が進むことを期待してい

る。

ベンチャー企業がソリューション開発できる環境整備

同社によると、様々なソリューションを開発する際、ベンチャー企業にとっての資金繰りの

問題が深刻になるとのことだ。ソリューションを開発するような受託契約の場合、対価が最終

的に全額支払われるのは、長い期間をかけて開発した後であることが一般的である。これ自体

は仕方の無いことだが、現実問題としてベンチャー企業にとっては資金繰りの問題が生じる。

この時、政府による補助金等の公的予算が存在するが、その受託者選定基準が、大手からベン

チャーまで幅広い企業が受託しやすい選定基準とすることを望んでいる。

ブルーイノベーション株式会社

代表取締役社長

熊田 貴之さん

博士(工学)。日本初のドローンによる

海岸モニタリングシステムを開発。現

在、ドローン・インテグレータとして、

教育・点検・警備等の分野でドローンサ

ービスを提供。産官学のコンソーシア

ム JUIDAの立ち上げ、事務局を務める。