ライフサイクル各期における 健康課題第1 25 2...

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24 第 1 章 婦人科領域 2 2 ライフサイクル各期における 健康課題 身体変化特徴 1 思春期第二次性徴 定 義 日本産科婦人科学会では,思春期puberty を「性機能の発現開始,すなわち乳房発育な らびに陰毛発生などの第二次性徴出現にはじまり,初経を経て第二次性徴の完成と月経周 期がほぼ順調になるまでの期間」と定義しています。わが国では,8 〜 9 歳ころから17 〜 18 歳ころまでとされています。 ホルモン動態 女性は, 10 歳ころになると視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が分泌 され,ゴナドトロピン〔卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)〕の分泌を 促進します。最初に FSH の分泌が増加し始め,やや遅れて LH の分泌が追いかけるように 上昇します。すると,卵胞が発育し,エストロゲン分泌も増加していきます。 また,エストロゲンは軟骨の成長を抑制するため,成長期に分泌が高まる成長軟骨板 は閉鎖に向かいます。 第二次性徴 思春期ころから徐々に始まるもので,発現には順序があります(表 2-1)。まず乳房が発 育し,やや遅れて陰毛が発生します。そして,この 2 年後くらいに,初経を迎えます。わが 国における初経の平均年齢は12〜13 歳ですが,近年は早発傾向が顕著であり,10 歳くら いで始まることも珍しくありません。ちなみに,男児に精通がみられるのは13 〜 14 歳が一 般的です。初経成長促進現象(p.25 参考)の約1年後に生じており,身長の伸びが早く なった分だけ,初経年齢も若くなっています。なお,初経発来の時期には,遺伝的要因, 栄養状態,光などが関与しているとされるほか,体脂肪率が17%になると初経を迎えると もされています。 ところで, 初経はほとんどすべてが無排卵性です。排卵性周期が確立するのは早くても数 年後であり,それまでは無排卵性周期が続くだけでなく,周期の乱れなどの月経異常も高率 に随伴します。つまり,月経が順調になるのは,高校を卒業する17 〜 18 歳ころになります。

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Page 1: ライフサイクル各期における 健康課題第1 25 2 ライフサイクル各期における健康課題 初経は,成長促進現象の約1年後,体脂肪率が17%になると生

24 第1章 婦人科領域

2ライフサイクル各期における健康課題

2 ライフサイクル各期における 健康課題

A 身体変化の特徴

1 思春期の第二次性徴

a 定 義

日本産科婦人科学会では,思春期puberty を「性機能の発現開始,すなわち乳房発育ならびに陰毛発生などの第二次性徴出現にはじまり,初経を経て第二次性徴の完成と月経周期がほぼ順調になるまでの期間」と定義しています。わが国では,8〜9歳ころから17〜18歳ころまでとされています。

b ホルモン動態

女性は,10歳ころになると視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が分泌され,ゴナドトロピン〔卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)〕の分泌を促進します。最初に FSHの分泌が増加し始め,やや遅れて LHの分泌が追いかけるように上昇します。すると,卵胞が発育し,エストロゲン分泌も増加していきます。

また,エストロゲンは軟骨の成長を抑制するため,成長期に分泌が高まると成長軟骨板は閉鎖に向かいます。

c 第二次性徴

思春期ころから徐々に始まるもので,発現には順序があります(表2-1)。まず乳房が発育し,やや遅れて陰毛が発生します。そして,この2年後くらいに,初経を迎えます。わが国における初経の平均年齢は12〜13歳ですが,近年は早発傾向が顕著であり,10歳くらいで始まることも珍しくありません。ちなみに,男児に精通がみられるのは13〜14歳が一般的です。初経は成長促進現象(p.25参考)の約1年後に生じており,身長の伸びが早くなった分だけ,初経年齢も若くなっています。なお,初経発来の時期には,遺伝的要因,栄養状態,光などが関与しているとされるほか,体脂肪率が17%になると初経を迎えるともされています。

ところで,初経はほとんどすべてが無排卵性です。排卵性周期が確立するのは早くても数年後であり,それまでは無排卵性周期が続くだけでなく,周期の乱れなどの月経異常も高率に随伴します。つまり,月経が順調になるのは,高校を卒業する17〜18歳ころになります。

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25第1章 婦人科領域

2ライフサイクル各期における健康課題

初経は,成長促進現象の約1年後,体脂肪率が17%になると生じる

成長促進現象 growth spurt身長は乳児期と思春期に著しく増加しますが,思春期にみられる著しい身長の増加を成長促

進現象といいます。この成長促進現象は,第二次性徴の開始が男児より2年ほど早い女児の方が早く出現します。

2 更年期女性の排卵機能低下

a 閉経 menopause,更年期 climacterium

閉経とは,卵巣の活動性が次第に低下し,ついには月経が永久に停止することです。更年期とは性成熟期から老年期への移行期で,一般的には閉経の前後5年間を意味しま

す。閉経年齢は個人差がありますが,45歳ころより徐々に増加し始め,55歳になると,ほとんどの女性で閉経を認めます。わが国の平均閉経年齢はおおよそ50歳です。

表2-1 女性の第二次性徴発現の経過

年齢(歳) 第二次性徴 9~10

10~11

11~12

12~13

13~14

14~15

15~16

16~17

骨盤・乳頭の発育乳房の発育陰毛の発生,腟粘膜(腟上皮,腟脂膏)の変化,内外性器の発育乳頭の色素沈着,乳房の著明な発育腋毛の発生,初経正常妊娠可能尋常性痤瘡(にきび),声変わり骨端閉鎖

参考

20(cm)

growth spurt

19(歳)年 齢

15 16 17 1814131 12111098765432

加増長身間年

男児女児

181614121086420

身長発育速度の年齢による変化の例

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128 第2章 産科領域

4分娩の生理と管理

2 産 道 birth canal

産道は胎児および付属物の通り道で,外側の骨産道と内側の軟産道に分けられます。

a 骨産道 bony birth canal

大骨盤と小骨盤(図4-3)大骨盤は,後方は仙骨と尾骨,側方と前方は寛骨(腸骨,坐骨,恥骨の融合体)によっ

て作られます。一方,小骨盤は骨盤分界線によってくり抜かれますが,この線は後方の岬こうかく

角に始まり,腸骨の弓状線と恥骨櫛を経て,前方の恥骨結合上縁に終わります。骨産道はこの小骨盤で構成されます。したがって,産科で重要なのは小骨盤なので,骨盤腔は原則として小骨盤を意味します。

区 分(図4-4)骨盤腔(=小骨盤=骨産道)は,骨盤入口部,骨盤濶部,骨盤峡部,骨盤出口部の4つ

に分かれます。

●骨盤入口部(図4-5)骨盤分界線によって作られます。ただし,骨盤分界線が多少とも上下するために,正確

には岬角と恥骨結合上縁を含む面とそれと平行かつ骨盤分界線の下縁を含む面によって構

仙腸関節

大骨盤

弓状線骨盤分界線

腸恥隆起恥骨櫛恥骨稜 坐骨結節

恥骨結合坐骨棘

小骨盤

腸骨稜岬角骨盤入口部は骨盤

分界線(岬角→弓状線→恥骨櫛→恥骨結合上縁)で作られます。

図4-3 大骨盤と小骨盤

骨盤濶部 濶部上腔濶部下腔

坐骨結節骨盤出口部 骨盤峡部

尾骨先端仙骨先端

坐骨棘

第2,第3仙椎融合部

岬角

恥骨結合

骨盤入口部

図4-4 骨盤腔の区分

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129第2章 産科領域

4分娩の生理と管理

成されるスペースと定義されます。骨盤入口部の縦径のうち,岬角の中央から恥骨結合上縁の中央までの最短距離は解剖学

的真結合線と呼ばれ,その平均値は11cm です。そして,岬角の中央から恥骨結合後面までの最短距離を産科的真結合線と呼び,10.5〜12.5cmを正常値とします(平均値は10.7cm)。

骨盤入口部の横径は左右の弓状線間の最長距離で,その正常値は11.5〜13.0cm です。骨盤入口部の斜径は,左右の仙腸関節から反対側の腸恥隆起までの距離で,その平均値

は12.5cm です。なお,右の仙腸関節から左の腸恥隆起に至るものを第1斜径,その反対に左の仙腸関節から右の腸恥隆起に至るものを第2斜径と呼びますが,両者は通常は同じ長さです。

●骨盤濶かつ

部(図4-6)骨盤腔の中で最も広い場所です。濶部は入口部のすぐ下に位置するので,濶部の上面は

骨盤入口部の下面に一致します。これに対して,濶部の下面は恥骨結合下縁から左右の坐骨棘を経て,そのまま仙骨前面に延長した線によって作られます。濶部は縦径13.5cm,横径12.5cmです。●骨盤峡部(図4-6)

広い濶部の下には狭い峡部が続きます。したがって,峡部の上面は濶部の下面と一致します。一方,峡部の下面は仙骨先端と恥骨結合下縁を結ぶ線によって作られます。峡部の縦径の平均値は11.5cm,横径の平均値は10.5cm です。●骨盤出口部(図4-6)恥骨結合下縁から左右の坐骨結節を経て尾骨先端を結んだ線によって作られます。その

縦径は恥骨結節下縁から尾骨先端をまっすぐに結ぶ最短距離となりますが,その平均値は9.5cm です。ただし,分娩時には尾骨が後ろにずれるので,11.5cmまで伸びます。そして,横径は左右の坐骨結節間の距離です。その平均値は11.0cmです。

岬角

恥骨結合後面恥骨結合上縁中央

第2斜径(12.5cm)

縦径(11cm)=解剖学的真結合線

第1斜径(12.5cm)

解剖学的真結合線産科的真結合線

横径(11.5~13cm)

図4-5 真結合線と骨盤入口部の計測

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274 第3章 新生児〜思春期

1新生児の特徴

1 新生児の特徴

A 新生児の分類生後28日未満(満27日まで)の児を新生児と呼びます。

1 出生体重による分類

a 低出生体重児

出生体重が2,500g未満の児を低出生体重児,1,500g未満を極低出生体重児,1,000g未満を超低出生体重児と呼びます。一般に,胎外環境に適応して生きていくのに必要とされる成熟状態に達していないものを未熟児(ただし,医学用語でありません)と呼びます。

詳細に関しては p.306の低出生体重児の項を参照してください。

b 高出生体重児

出生体重が4,000g以上の児で,いわゆる巨大児のことです。分娩外傷や出生時仮死を引き起こす頻度が高くなります。

2 在胎週数による分類(図1-1)

a 正期(満期)産児

現在のわが国では,妊娠37週0日〜41週6日までに出生した児をいいます。

b 早産児

妊娠37週未満に出生した児のことです。なかでも,妊娠28週未満で出生したものは超早産児と呼ばれます。ちなみに,妊娠34週以上37週未満で出生したものは後期早産児と呼ばれます。

c 過期産児

妊娠42週0日以降に出生した児のことです。

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275第3章 新生児〜思春期

1新生児の特徴

3 出生体重と在胎週数を加味した分類在胎週数別出生体格基準値を用いて分類したもので,以下のようになります。

a 相当重量児

身長も体重も10パーセンタイル以上かつ,90パーセンタイル未満の児のことで,在胎期間に相当する体重の児という意味です。英語表記の appropriate for gestational age infantを略して AGA児とも呼ばれます。

b 不当軽量児

出生身長に関係なく,出生体重が在胎期間相当の10パーセンタイル未満の児を LFD(light for date)児,出生身長も出生体重も在胎期間相当の10パーセンタイル未満の児をSFD(small for date)児または SGA(small for gestational age)児と呼びます。

c 不当重量児

出生身長に関係なく,出生体重が在胎期間相当の90パーセンタイル以上の児をHFD(heavy for date)児,出生身長も出生体重も在胎期間相当の90パーセンタイル以上の児を LGA(large for gestational age)児と呼びます。

図1-1 在胎週数による新生児の分類

超早産児早産児 正期産児 過期産児

22週 28週 37週 42週 ~

37 38 42

巨大児

低出生体重児

極低出生体重児

超低出生体重児

在胎週数

不当重量児

不当軽量児

早期産

相当重量児

90パーセンタイルまたは+1.3SD

10パーセンタイルまたは-1.3SD

出生体重(g)4,000

3,0002,500

1,5002,000

1,000正期産 過期産

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402 第6章 助産管理

2助産所の管理・運営

つき4.3平方メートル以上とする。◦2階以上の階に入所室を有する場合は,入所する母子が使用する屋内に直通階段を設ける。

◦3階以上の階に入所室を有する場合は,避難に支障がないように避難階段を2つ以上設ける。ただし,前項に規定する直通階段を建築基準法施行令に規定する避難階段としての構造とする場合は,その直通階段の数を避難階段の数に算入することができる。

◦入所施設を有する助産所では,床面積9平方メートル以上の分娩室を設けなければならない。

◦火気を使用する場所には,防火上必要な設備を設ける。◦消火用の機械または器具を備える。

E 嘱託医および嘱託医療機関医療法第19条では,「助産所の開設者は,厚生労働省令の定めるところにしたがって,嘱

しょくたく

する医師および病院または診療所を定めておかなければならない」と規定しています。ただし,助産所と嘱託医および嘱託医療機関の関係は,医療法施行規則で次のように規定しています。まず,第15条の2では,「分娩を取り扱う助産所の開設者は,分娩時等の異常に対応するため,医療法第19条の規定に基づき,病院または診療所において産科または産婦人科を担当する医師を嘱託医師として定めておかなければならない」と規定し,これ以外の医師を嘱託とすることはできません。また,医療法施行規則第15条2の3では,「診療科名中に産科または産婦人科および小児科を有し,かつ,新生児への診療を行うことができる病院または診療所(患者を入院させるための施設を有するものに限る)を嘱託する病院または診療所として定めておかなければならない」とし,分娩を扱わない医療施設は嘱託医療機関とすることはできません。

包括的指示書の変更包括的指示書に変更の必要がある場合,または嘱託医および嘱託医療機関等から変更の指示

や意見があった場合は,見直しを検討します。変更があった場合は,包括的指示書にその内容を記載し嘱託医・嘱託医療機関と共有しなければなりません。

F 助産所の広告医療法第6条の7では「助産師の業務または助産所に関しては,文書その他いかなる方法によるを問わず,何

なんぴと

人も次に掲げる事項を除くほか,これを広告してはならない」と規定しています。以下に,広告できる内容のポイントを挙げます。

参考

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403第6章 助産管理

2助産所の管理・運営

◦助産師であること◦助産所の名称,電話番号および所在の場所を表示する事項ならびに助産所の管理者の氏名

◦就業の日時または予約による業務の実施の有無◦入所施設の有無もしくはその定員,助産師その他の従業者の員数その他の助産所における施設,設備または従業者に関する事項

◦助産所において業務に従事する助産師の氏名,年齢,役職,略歴その他の助産師に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの

◦患者またはその家族からの医療に関する相談に応じるための措置,医療の安全を確保するための措置,個人情報の適正な取扱いを確保するための措置その他の助産所の管理または運営に関する事項

◦嘱託する医師の氏名または病院もしくは診療所の名称その他の助産所の業務に係る連携に関する事項

◦助産録に係る情報の提供その他の助産所における医療に関する情報の提供に関する事項など。以上からわかるように,「どこよりも温かいお産」や「安い・早い・うまい出産」などの

キャッチフレーズは広告できません。