チケットレス化・キャッシュレス化への...
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研究員の視点
〔研究員の視点〕
チケットレス化・キャッシュレス化への鍵を握るQRコード
交通経済研究所副主任研究員 河口 雄司※本記事は、『交通新聞』(2020年 3月 26日付)に執筆したものを転載いたしました
沖縄都市モノレールで導入 沖縄都市モノレール(ゆいレール)では、2014 年から改札機でQRコードも利用可能である。これは、券売機にてQRコードが印刷された乗車券を現金決済にて購入し、乗降の際に改札機の読み取り部分にQRコードをあて通過し、乗車券は「使用済きっぷ入れ」に入れる方式である。 この乗車券を導入した背景には、磁気の乗車券では紙詰まりが発生することが多く、改
札機のメンテナンスにかかるコストが高かったことが挙げられる。QRコードを読み込む形式に変更することでメンテナンスコストが抑えられ、さらに、乗車券は通常の紙でも使用できることから環境にやさしく、発券コスト、廃棄コストも低くなるメリットがあることから導入された。また、乗車券の一部に黒い帯でコピーガードが施されており、これは特殊な光でないと情報が読み込めないため、安全性が確保されながらコスト削減を可能にしたといえる。
写真1:�沖縄都市モノレール(ゆいレール)で導入されているQRコード対応の改札機 写真2:使用済きっぷ入れ
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研究員の視点
訪日外国人の利便性向上等の検討 沖縄は中国人観光客も数多く訪れている。中国では、スマートフォンでの決済が普及しており、公共交通の決済でも QR コードの利用が増えている。これらを背景に、ゆいレールでは 2018 年 7 月に中国の QR コード決済サービス大手「Alipay(アリペイ)」に対応するサービスの実証実験を実施した。スマートフォンのアプリで決済し、画面上に表示された QR コードを改札機に読みこませる形で実施された。 利用者としては Alipay が使えるため便利であったとの意見がある一方で、スムーズに改札を通過できないケースもあった。特に、スマートフォン特有のトラブルとして下記のものが挙げられる。
1. 端末の画面に保護シートが貼ってあるため、読み込みできない。
2. 表示される QR コードが画面サイズに影響を受けるために、機種によって表示されるサイズが変わり、読み込みしやすい機種や、読み込みしにくい場合がある。
3. 端末の画面輝度を下げている又はかざした時に画面が暗くなる設定をしている場合は、読み込みができない。
4. NFC(近距離無線技術のことで、かざす
だけで通信が可能)が搭載されているスマートフォンの場合は、改札機にかざした際に NFC が反応し、QR コードの画面を隠して読み込みができない。
ゆいレールは、実証実験ではかざす場所がわからないといった事象もみられたものの、慣れるとスムーズに対応できるケースが多
かったとし、スマートフォン特有の課題である読み込みにくいといった事象については、本格的な運用に向けて、表示側のソフト及び改札機側のハードの両面での対策を検討しているとしている。
Suicaをはじめとする交通系ICカードの導入 ゆいレールでは 2014 年に地域独自の交通系 IC カード「OKICA」も導入しており、OKICA はモノレール以外にタクシーやバス、船などに利用可能である。しかし、沖縄の地域性から国内外の観光客が多い一方で、観光客は OKICA を持っていないことが多く、ゆいレールを利用する際には、訪日外国人も含め、ほとんどの観光客が券売機で乗車券を購入している。そのため、券売機で混雑が発生し、それに対応するため人員も配置せざるを得なくなり課題となっていた。 これらの課題を解消するために、ゆいレールでは OKICA だけでなく、全国相互利用可能な交通系 IC カードの導入を決定し、2020 年 3 月 10 日 か ら Suica が 利 用 可能となった。また、Suica と相互利用可能な Kitaca、PASMO、manaca、TOICA、PiTaPa、ICOCA、はやかけん、nimoca、SUGOCA も利用できることになり、沖縄を訪れる観光客の多くが所有していると見込まれる、こうした交通系 IC カードの利用によって、今後の混雑解消が期待される。
今後の利用可能性 ゆいレールにおける QR コードの活用は、改札にかかるコスト削減を可能にさせたが、現金決済での乗車券の発売では、券売機の混雑は解消されないなどの課題が残されている。したがってスマートフォンによる QR
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研究員の視点
コード決済を利用可能にすることで、チケットレス化、キャッシュレス化が推進されれば、利用者にとっての利便性向上に寄与するだけでなく、事業者側にとっても発券コストや現金管理に要するコストの削減につながる。 QRコードの活用を模索しているのは、都市圏の鉄道会社においてもみられる。たとえば、JR東日本でもシームレスな移動の実現に向けた取組みの一つとして、2020年 2月よりQRコード乗車券の対応も可能とする改札機を設置し、改札通過への影響を把握するため実証実験をおこなっている。また、阪神電鉄でも旅客の利便性向上や磁気券の削
減に向け、QRコード乗車券の導入を検討しており、2020 年 3 月より実証実験をおこなう予定である。 交通事業者にとって、コスト削減の取り組みと利用者の利便性向上につながる施策は、一般的にはトレードオフの関係にあると考えられる。これに対応する打開策の一つとしてQRコードが挙げられ、地域性、国内外における交通系 IC カードの普及状況、QRコードの普及状況などといった要素も踏まえながら今後、交通事業者においてQRコードの導入が今後、検討されていくのではないだろうか。
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訪日外国人の利便性向上等の検討 沖縄は中国人観光客も数多く訪れている。中国では、スマートフォンでの決済が普及しており、公共交通の決済でも QR コードの利用が増えている。これらを背景に、ゆいレールでは 2018 年 7 月に中国の QR コード決済サービス大手「Alipay(アリペイ)」に対応するサービスの実証実験を実施した。スマートフォンのアプリで決済し、画面上に表示された QR コードを改札機に読みこませる形で実施された。 利用者としては Alipay が使えるため便利であったとの意見がある一方で、スムーズに改札を通過できないケースもあった。特に、スマートフォン特有のトラブルとして下記のものが挙げられる。
1. 端末の画面に保護シートが貼ってあるため、読み込みできない。
2. 表示される QR コードが画面サイズに影響を受けるために、機種によって表示されるサイズが変わり、読み込みしやすい機種や、読み込みしにくい場合がある。
3. 端末の画面輝度を下げている又はかざした時に画面が暗くなる設定をしている場合は、読み込みができない。
4. NFC(近距離無線技術のことで、かざす
だけで通信が可能)が搭載されているスマートフォンの場合は、改札機にかざした際に NFC が反応し、QR コードの画面を隠して読み込みができない。
ゆいレールは、実証実験ではかざす場所がわからないといった事象もみられたものの、慣れるとスムーズに対応できるケースが多
かったとし、スマートフォン特有の課題である読み込みにくいといった事象については、本格的な運用に向けて、表示側のソフト及び改札機側のハードの両面での対策を検討しているとしている。
Suicaをはじめとする交通系ICカードの導入 ゆいレールでは 2014 年に地域独自の交通系 IC カード「OKICA」も導入しており、OKICA はモノレール以外にタクシーやバス、船などに利用可能である。しかし、沖縄の地域性から国内外の観光客が多い一方で、観光客は OKICA を持っていないことが多く、ゆいレールを利用する際には、訪日外国人も含め、ほとんどの観光客が券売機で乗車券を購入している。そのため、券売機で混雑が発生し、それに対応するため人員も配置せざるを得なくなり課題となっていた。 これらの課題を解消するために、ゆいレールでは OKICA だけでなく、全国相互利用可能な交通系 IC カードの導入を決定し、2020 年 3 月 10 日 か ら Suica が 利 用 可能となった。また、Suica と相互利用可能な Kitaca、PASMO、manaca、TOICA、PiTaPa、ICOCA、はやかけん、nimoca、SUGOCA も利用できることになり、沖縄を訪れる観光客の多くが所有していると見込まれる、こうした交通系 IC カードの利用によって、今後の混雑解消が期待される。
今後の利用可能性 ゆいレールにおける QR コードの活用は、改札にかかるコスト削減を可能にさせたが、現金決済での乗車券の発売では、券売機の混雑は解消されないなどの課題が残されている。したがってスマートフォンによる QR
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コード決済を利用可能にすることで、チケットレス化、キャッシュレス化が推進されれば、利用者にとっての利便性向上に寄与するだけでなく、事業者側にとっても発券コストや現金管理に要するコストの削減につながる。 QRコードの活用を模索しているのは、都市圏の鉄道会社においてもみられる。たとえば、JR東日本でもシームレスな移動の実現に向けた取組みの一つとして、2020年 2月よりQRコード乗車券の対応も可能とする改札機を設置し、改札通過への影響を把握するため実証実験をおこなっている。また、阪神電鉄でも旅客の利便性向上や磁気券の削
減に向け、QRコード乗車券の導入を検討しており、2020 年 3 月より実証実験をおこなう予定である。 交通事業者にとって、コスト削減の取り組みと利用者の利便性向上につながる施策は、一般的にはトレードオフの関係にあると考えられる。これに対応する打開策の一つとしてQRコードが挙げられ、地域性、国内外における交通系 IC カードの普及状況、QRコードの普及状況などといった要素も踏まえながら今後、交通事業者においてQRコードの導入が今後、検討されていくのではないだろうか。