ポテンシャル法によるロボット製品の障害物回避技術の開発 ... · 2014. 3....
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三菱重工技報 Vol.51 No.1 (2014) 新製品・新技術特集
技 術 論 文 40
*1 技術統括本部 長崎研究所
*2 技術統括本部 長崎研究所 工博
*3 技術統括本部 長崎研究所 主席研究員
*4 交通・輸送ドメイン 船舶・海洋事業部 技術統括室 工博
*5 防衛・宇宙ドメイン 艦艇事業部 潜水艦部
ポテンシャル法によるロボット製品の障害物回避技術の開発
Development of Obstacle Avoidance Control for Robot Products Using Potential Method
彌 城 祐 亮 * 1 江 口 和 樹 * 2 Yusuke Yashiro Kazuki Eguchi
岩 崎 聡 * 3 山 内 由 章 * 4 Satoshi Iwasaki Yoshiaki Yamauchi
中 田 昌 宏 * 5 Masahiro Nakata
深海・宇宙空間・放射線発生領域等,人間が進入することが困難な場所で活動が可能なロボッ
ト製品開発において,人間の遠隔操作無しで動作する自律製品が求められている。より一般的な
問題への適用を考えると,自律動作には三次元空間での,未知の障害物を回避する機能が重要
である。そこでポテンシャル法を用いて制御ロジックを構築し,その有効性をシミュレーションにより
検証した。具体的には,水平方向,鉛直方向それぞれの障害物回避経路を,障害物座標のみか
ら適切に導出し,三次元空間での回避動作を効率化できることを確認した。
|1. はじめに
当社は従来,深海,宇宙空間,原子力発電所内等,人間の進入が難しい過酷環境下での運
用を前提とするロボット製品を複数開発している。近年ではコンピュータ・センサ性能の発達に伴
い,自律動作を行う製品の開発が可能となった。ロボットの自律化は,運用距離延長や人間の長
時間操作による疲労の低減が見込めることから,お客様ニーズの一つとして市場からも要求され
ている。
一方,ロボット製品投入が想定される領域では,災害等の想定外事象により,事前に用意され
たマップの情報に含まれない障害物が存在する可能性がある。このとき,障害物回避機能を有す
るロボットは障害物回避用の動作に切り替わるが,例えば事前に設定したシーケンス動作による
回避を行う場合,障害物形状によっては,同じ動作の繰り返しや過剰な回避動作となり,非効率
的な場合がある。
したがって,ロボット製品の回避動作効率化には,障害物形状に応じた回避経路を導出する手
法が必要である。また,ロボットを投入する上でより一般的な問題への適用を考えると,手法は三
次元空間での移動に適用可能であることが望ましい。
経路導出手法の一つに,ポテンシャル法(1)と呼ばれる手法がある。これは,目標位置と障害物
位置にポテンシャル関数を定義し,その関数の勾配を進行方向とすることで,障害物を回避しつ
つ,目標位置へと移動する経路を導出する手法である。また,ポテンシャル関数の計算は三次元
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に拡張可能であり,その時点までの観測情報を基に,リアルタイムに経路を変化させられるため,
未知の障害物にも対応可能となる。
本稿では,このポテンシャル法を用いてロボット製品の障害物回避経路を導出する制御ロジッ
クを構成し,その有効性をシミュレーションにより検証した結果を紹介する。制御ロジックでは,セ
ンサによって検知された障害物の座標を一定数保存,更新し,その障害物座標と目標位置座標
からポテンシャル関数と勾配を計算し,目標方向を導出する。ポテンシャル関数には重み係数を
設定し,これを状況に応じて増減させる機能を追加することで,回避経路の効率化や,目標方向
がうまく導出されず,ある場所に留まってしまう課題(停留)を解決している。制御ロジックの検証で
は,パラメータを変更することなく,異なる形状の障害物によるシミュレーションを行うことで,セン
サによる検知結果のみで適切な経路を導出し,効率的な障害物回避が可能であることを確認し
ている。
|2. ポテンシャル法
ポテンシャル法は,障害物と目標位置の座標にポテンシャル関数と呼ばれる関数を定義し,そ
の関数の勾配(座標成分ごとの偏微分)から進むべき方向を導出する手法である。図1に2次元
平面上に設計したポテンシャル場(ポテンシャル関数の重ね合わせ)のイメージを示す。障害物
に対しては正無限大,目標位置に対しては負無限大に発散するような滑らかな関数を定義する。
障害物に定義した関数の勾配は,障害物から離れる方向であり,目標位置に定義した関数の勾
配は,逆に接近する方向となる。この関数群の重ね合わせがポテンシャル場となり,ポテンシャル
場の勾配(微分)は,障害物から離れ,かつ目標位置へ接近する方向となる。障害物を回避しな
がら目標位置へ向かうには,この勾配をその時点でのロボットの目標方向とすれば良い。ポテン
シャル法の特徴として,次の3つが挙げられる。
・ その時点での情報に従って目標方向を導出するため,地形マップ等の事前情報が不要
である。
・ 障害物を発見した時点でポテンシャル場が変化するため,リアルタイムに目標経路を変更
できる。
・ x,y,…等の座標成分別に勾配を導出するため,三次元空間への適用が容易に行える。
図1 ポテンシャル法による経路導出例(二次元平面) 二次元平面状に定義したポテンシャル関数の勾配から,目標方向,経路が導出
される一連の流れを示している。
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式(1),(2)にポテンシャル関数を,(3)にポテンシャル場の計算を,(4)に勾配の計算をそれぞれ
示す。
, , 1
2 2 21
, , 1
2 2 22
, , 3
grad , , , , 4
, , :ロボット位置, , , :障害物位置, , , :目標位置, , :重み
|3. 制御ロジックの構築
ポテンシャル法による制御ロジックの概要を図2に示す。このロジックにより導出した目標方向
に従ってアクチュエータの制御を行うことで,ロボットが移動する。
図2 ポテンシャル法による障害物回避制御ロジック ポテンシャル法を用いたロジックのフローと,その実機とアクチュエータに対する位置付けを示す。
ロジックには,より効率的に障害物回避と目標位置への接近を行うために,以下の機能を追加
している。
・ 障害物座標を保存するリストを更新する機能
・ ポテンシャル場の重みを調整する機能
障害物座標リストの更新により,回避済みの障害物を削除し,考慮すべき障害物のみ対象とし
たポテンシャル場を作成できる。また重みを調整することで,より迅速な障害物の回避や,回避優
先度の低い障害物の経路への影響を小さくすることも可能となる。
障害物座標の保存と,重みを調整する機能により,停留を回避する手順を図3に示す。すべて
のポテンシャル関数からポテンシャル勾配を計算したとき,目標位置と障害物によるポテンシャル
が釣り合う場合がある。このとき,目標方向は小さい異符号の値が繰り返し導出され,その結果ロ
ボットがその場に停止するような経路となる。これは停留と呼ばれ,ポテンシャル法を用いる際の
課題となる。この問題に対して,一度接近した障害物を保存したまま,目標位置の重みを減らすこ
とで一時的に障害物から離れる動作を行う。この後に再度目標位置の重みを元に戻すと,記憶し
ている障害物を回避しつつ目標位置へ向かうため,停留を回避する経路となる。
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図3 停留回避ロジック 重みを変動させることで,障害物と目標位置のポテンシャル勾配が釣り合う停留状態を抜け出していく
ロジックの流れを示す。
|4. シミュレーション
制御ロジックの有効性をシミュレーションによって確認した。まず二次元空間での,制御ロジック
の機能確認の結果を図4に示す。障害物と目標位置は,停留が生じる位置関係とした。また,ここ
では制御ロジック単体検証のため,障害物は全方向検知可能とし,ロボットは動特性を持たず,
目標方向に遅れなく移動できるものとした。
その結果,障害物と停留を回避しながら目標位置へ進んでいることから,制御ロジックの妥当
性が確認できた。
図4 二次元平面でのシミュレーション結果 開発した制御ロジックにより,障害物と停留を回避しながら目標位置へ
向かうことが可能であることを示している。
次に,鉛直方向を加えた三次元空間でのシミュレーションの結果を示す。このシミュレーション
では,ロボットの動特性を考慮しており,実際のロボットと同等の特性となっている。障害物は前方
と,左右斜め下2方の,計3方向のみ検知可能とした。
水平方向の障害物回避の結果を図5に,鉛直方向の障害物回避の結果を図6にそれぞれ示
す。回避動作効率化の比較のため,方向転換→上昇→直進→下降からなる,シーケンス動作で
の回避結果を併せて示す。それぞれのシミュレーションにおいて,制御ロジックの設計パラメータ
は共通である。また,障害物座標は事前に与えず,設定したセンサ範囲に存在する障害物の座
標を取得できるとした。
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図5 三次元空間での鉛直方向障害物回避
シミュレーション結果
(赤:シーケンス動作,
青:ポテンシャル法による動作)
図6 三次元空間での水平方向障害物回避
シミュレーション結果
(赤:シーケンス動作,
青:ポテンシャル法による動作)
まず鉛直方向の障害物回避では,シーケンス動作による回避の場合,一度上昇を行った後障
害物を上方に避け,次に下降して目標位置へ到達する。ポテンシャル法による制御ロジックの場
合,衝突を避ける程度に旋回しながら上昇し,上方回避後に下降して目標位置へ到達する。
次に水平方向回避においては,シーケンス動作による回避の場合,不要な旋回動作を含んだ
経路を通り,目標位置へ移動している。これはそれぞれの動作の動作時間を,鉛直方向の障害
物回避に合わせてチューニングしているためであり,シーケンス動作では異なる障害物形状に対
して,非効率な回避動作を含んでしまうことを示している。一方でポテンシャル法による回避経路
には,不要な旋回は含まれない。このことからポテンシャル法では,障害物形状に合わせたポテ
ンシャル関数が定義されるため,同一のパラメータでも適切な回避経路が導出されることを示して
いる。なお,ポテンシャル法による経路が波打つような形状となる理由は,ロボットの動特性を考
慮すると,瞬時に方向転換ができないためである。
回避動作効率を数値的に比較したものを図7,8に示す。鉛直方向,水平方向いずれもポテン
シャル法による制御ロジックの所要時間が短く,アクチュエータ動作量から求めた消費エネルギ
ー指標も減少している。以上より,ポテンシャル法による制御ロジックによって,障害物回避動作
が効率化されているといえる。
図7 障害物回避所要時間比較
(赤:シーケンス動作,
青:ポテンシャル法による動作)
図8 障害物回避消費エネルギー比較
(赤:シーケンス動作,
青:ポテンシャル法による動作)
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|5. まとめ
ポテンシャル法を用いて三次元空間に適用可能な障害物回避ロジックを構築し,シミュレーシ
ョンによって,障害物形状に応じた経路が導出され,回避動作が効率化されることを確認した。本
手法を用いることで,未知の障害物を効率的に回避することを可能にし,複雑地形領域でのロボ
ットの自律移動につながると考えられる。
今後はセンサ範囲やロボットの動特性に合わせた重みの設計手法等,実機適用に必要な要
素の研究を進めていき,運用につなげたい。
参考文献 (1) Jen-Hui Chuang et al,An analytically tractable potential field model of free space and its application in
obstacle avoidance,IEEE TRANSACTIONS ON SYSTEMS,MAN,AND CYBERNETICS-PART B:
CYBERNETICS,VOL. 28,NO. 5 (1998) p.729-736