ストレートワイヤーテクニックにおけるブラケット...

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title Author(s) �, Journal �, 116(5): 370-372 URL http://hdl.handle.net/10130/4109 Right Description

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Page 1: ストレートワイヤーテクニックにおけるブラケット …ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/4109/1/116_370.pdf370 歯科学報 Vol.116,No.5(2016) 臨床のヒント

Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Titleストレートワイヤーテクニックにおけるブラケットの傾

斜角度等の設定基準について教えてください。

Author(s) 末石, 研二

Journal 歯科学報, 116(5): 370-372

URL http://hdl.handle.net/10130/4109

Right

Description

Page 2: ストレートワイヤーテクニックにおけるブラケット …ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/4109/1/116_370.pdf370 歯科学報 Vol.116,No.5(2016) 臨床のヒント

370 歯科学報 Vol.116,No.5(2016)

臨床のヒント

Q&A 53

矯正歯科系

Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼する場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会までeメールかファックスで依頼していただきたいと存じます。必ずご期待に添えることと思います。今号はエッジワイズ法に関する質問です。

Question

ストレートワイヤーテクニックにおけるブラケットの傾斜角度等の設定基準について教えてください。

Answer

Andrews, LF によるStraight Wire Appliance(SWA)の開発

SWA法は Andrews, LFによるエッジワイズ法の1種で,1960年代に行われた一連の正常咬合および矯正治療結果に関する研究の結果と臨床応用の成果によるものである。矯正治療結果の観察からは,それまでの治療結果は術者の経験と主観が大きな比重を占めていることに直面したという。その後,正常咬合者120名の歯冠配列の定性的評価を行い,さらに歯冠に基準を設け,計測することにより歯冠の位置,傾斜,配列状況に規則性があることを見出している。その結果を踏まえて,ワイヤー屈曲を最小限にした矯正用ブラケットの開発をおこなった。歯の配列に必要な情報,すなわちブラケットに治療を組み込み,治療効率を高めたという点で,革新的な成果であった。歯冠の計測基準は,臨床歯冠軸(FACC:Facial

axis of clinical crown)とその中点である FA pointを用いた。最適な咬合状態にある時,歯冠の中央を横切る平面(ミッドトランスバース平面)を連ねた平面をAndrews 平面とした。FA point は Andrews平面上にあり,咬合平面と上下歯列の Andrews 平面は平行であると仮定している(図1)。FA pointにおける FACCの近遠心的傾斜(アンギュレーショ

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ン)と唇頬舌的傾斜(インクリネーション),唇頬側へのプロミネンスなどを計測した。この情報をブラケットの構成要素であるブラケッ

トスロットに表現するために8項目にわたるブラケット構造の基準を設けている。ブラケットスロットの中点が FA point に一致し,歯冠の頬舌的傾斜と近遠心的回転はブラケットベースに組み込まれた角度と,歯冠形態に合致する湾曲によって再現されている(図2)。また,ブラケットの垂直構成部分はFACCに平行とされ,歯冠の近遠心的傾斜と対応したブラケットスロットの位置づけが可能となって

図1 歯冠配列の計測基準を示す。臨床歯冠の傾斜を示すFACC上で歯冠の上下的中央の点を FA point とした。FA point を連ねる平面が存在し,Andrews plane と定義した。上下歯列の Andrew plane と咬合平面は平行になると仮定された。この FA point における歯冠の近遠心的,唇頬舌的傾斜などが計測された。

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371 歯科学報 Vol.116,No.5(2016)

図2 SWAブラケットの構造を示す。Aはプログラム化されていない,従来の standars bracket を示す。歯冠の配列にはワイヤーの屈曲が必要となる。Bは SWAブラケットを示す。ブラケットベースに角度と湾曲が与えられ,ベースの中央とスロットの中央が一致している。FA point にブラケットが位置付けられると屈曲のないアーチワイヤーが歯冠をブラケットに組み込まれた傾斜を与え,その位置に配列する。

いる(図3)。また,ブラケットベースの厚みを調整することにより,個々の歯のインアウトとローテーションが表現されている。さらにⅡ級あるいはⅢ級の骨格関係による前歯イ

ンクリネーションの補正と臼歯Ⅱ級関係における上顎第一大臼歯のアングレーションとローテーションの補正,矯正治療による歯の近遠心移動における傾斜と捻転の補正(トランスレーションブラケット)などを組み入れてフルプログラム化された装置としている。このように,最適咬合者の解剖学的データから

SWA standard bracket の処方を設定し,その上で,患者の骨格関係,抜歯の有無,臼歯固定量などを考

図3 前歯部 SWAブラケットの模式図を示す。スロット底の中心が FA point と一致し,FACCとブラケットの垂直構造を平行に位置付けることにより,ブラケットに組み込まれたアンギュレーションが歯冠の近遠心的傾斜をもたらす。

慮して12通りのセットアップとしてブラケットの処方を決定している(表1,2)。

Roth RHによる

Roth prescription(セットアップ)について

Roth RHは機能咬合の概念を矯正治療の中に導入する中で,オーバーコレクションを見越した独自の prescription を提唱した。1970年に Andrews による SWAが優れた装置であることを確認し,その後,1976年に Roth セットアップを発表している。Andrews の SWA standard との比較では,上顎前歯のインクリネーションが大きくなり,上下犬歯のアンギュレーションが強められている。臼歯では,

表1 アンギュレーションの計測値,設定値を示す degree

U1 U2 U3 U4 U5 U6 U7

Andrews 計測値 3.59 8.04 8.40 2.65 2.82 5.73 0.39

SWA Standerd 5 9 11 2 2 5 5

SWA Class Ⅱ setup 0* 0*

Roth 5 9 13 0 0 5 5

MBT 4 8 8 0 0 0 0

O-PAK 3 6 7 2 2 0 -2

L1 L2 L3 L4 L5 L6 L7

Andrews 計測値 0.53 0.38 2.48 1.28 1.54 2.03 2.94

SWA 2 2 5 2 2 2 2

SWA Class Ⅱ setup

Roth 2 2 7 -1 -1 -1 -1

MBT 0 0 3 2 2 0 0

O-PAK 0 0 3 2 2 2 2*:上顎片顎抜歯における臼歯Ⅱ級フィニッシュ用

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表2 トルク(インクリネーション)の計測値,設定値を示す

歯科学報 Vol.116,No.5(2016)

degree

Andrews 計測値SWA StanderdClass Ⅱ setupClass Ⅲ setupRothMBTO-PAK

Andrews 計測値SWA StanderdClass Ⅱ setupClass Ⅲ setupRothMBTO-PAK

U1

6.107212121712

L1

-1.70-14-6-1-61

U2

4.403-28

8108

L2

-3.20-14

-6

-1-61

U3

-7.30-7

-2-7-3

L3

-12.70-11

-11-6-6

U4

-8.50-7

-7-7-7

L4

-19.00-17

-17-12-12

U5

-8.80-7

-7-7-7

L5

-23.60-22

-22-17-20

U6

-11.50-9-9

-14-14-9

L6

-30.70-30

-30-20-25

U7

-8.10

-9

-9

-14

-14

-9

L7

-36.00

-35

-30

-10

-25

より遠心傾斜,遠心回転するように処方されていて,抜歯症例における切歯の過度な舌側傾斜の予防と臼歯部での固定の保護が図られている。Roth はこの処方で広範囲な症例に適応できるとした。例外としては,Angle Ⅱ級2類あるいは上顎前歯後方移動量の大きな症例用に上顎前歯部のトルクを増加したセットアップや大臼歯のⅡ級仕上げ用などがある。またこのセットアップは Tru-arch と名称されたアーチフォームを用いることや,空隙閉鎖にダブルキーホールループを用いるなどの特徴あるメカニクスに対応していることを理解する必要があると言える。

その後の

Fully Programmed Appliance(FPA)の変遷

Roth 以後の FPAに関する変更は,McLaughlinらにより行われている(MBTブラケット)。すなわち,SWA standard 値に対し上顎前歯,犬歯部と上顎臼歯部のアンギュレーションの軽減(前歯配列を計測値に近似させ,固定へ配慮),上顎前歯と上顎臼歯でインクリネーションを増加(舌側咬頭の調整)

した。また,下顎前歯でインクリネーションを増加(唇側傾斜の抑制)し,下顎小臼歯,大臼歯で減少(頬側へアップライト)させている。また,犬歯の処方を3種類として症例によって使い分ける様にしている。一方,日本では小坂によって日本人最適咬合者

のデータをもとに,Kosaka plane arch system が提唱され,1995年に Oriental preadjusted appliance-KOSAKA(OPA-K)と命名され,商品化された。日本人の解剖学的計測結果に加え,臼歯アンギュレーションやインクリネーションについては治療結果を考慮して調整が加えられている。また,FAポイントに可及的に近づけたアーチワイヤーの数学的設定を行い,ブラケットベースの厚みを薄く設計している。この装置は,当然のことながら小坂の提唱する治療のメカニクスをもとに設定されていることを理解する必要があると言える。

Answer:末石研二東京歯科大学歯科矯正学講座

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