フレッシュコンクリートの性状がポンプ 圧送性に及 …influence of properties of...
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技術報告�技術報告�
山� 順二*1、岩清水 隆*2、木村 芳幹*3、二村 誠二*4、吉見 正*5
Influence of Properties of Fresh Concrete on Pumpability of Concrete
フレッシュコンクリートの性状がポンプ�圧送性に及ぼす影響について�
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1.はじめに
近年、建物の高層化に伴い設計基準強度が高くなり、
使用されるコンクリートも高強度化してきている。高強
度コンクリートは粘性が高いため、一般に、ポンプ圧送
時の管内圧力損失が大きくなる傾向にある。また、普通
強度のコンクリートにおいても、骨材事情の枯渇化に対
応するため、改良砕砂など様々な種類の骨材が使用され
ており、調合条件や使用材料によってはポンプ圧送性が
大きく異なる場合がある。このような状況において、打
込み予定のコンクリートの圧送性を評価してポンプ車の
機種を選定しようとする場合、管内圧力損失の設定や評
価方法に関して不明な点が多く、施工条件に対して適切
な圧送計画がなされていないのが現状である。
そこで、関西地区において、コンクリートの調合条件
や使用材料の違いが圧送時の水平管1m当たりの管内圧力
損失(以降「K値」と記す)に及ぼす影響を調査するこ
とに加えて、調合条件やフレッシュコンクリートの性状
に応じたK値を推定する手法について検討するため、実
大規模のポンプ圧送実験および高強度コンクリート実打
設時の圧送計測を行った。
2.普通強度コンクリートのポンプ圧送性
2.1 実大規模のポンプ圧送実験の概要
コンクリートの調合条件や使用材料の違いがポンプ圧
送性に及ぼす影響を評価するために、調合条件および使
用材料の異なる計24種類のコンクリートを用いて、実大
でのポンプ圧送実験を行った。
2.1.1 圧送条件
圧送実験時の状況を写真-1に、配管状況を図-1に示す。
水平圧送距離を30mとし、3カ所(P1,P3,P2)で管内圧
力を測定した。圧送にはピストン式ポンプ車(PY120-33)
を使用し、圧力の測定区間は全て125A管で配管した。
*1 YAMASAKI Junji:(株)淺沼組 技術本部 技術研究所 建築研究グループ*2 IWASHIMIZU Takashi:(株)竹中工務店 大阪本店 建築技術部 技術担当副部長*3 KIMURA Yoshimoto:(財)日本建築総合試験所 材料部 大淀試験室室長*4 NIMURA Seiji:大阪工業大学 工学部建築学科 助教授*5 YOSHIMI Tadashi:(社)全国コンクリート圧送事業団体連合会 技術委員長
図-1 配管状況(水平距離30m)
写真-1 ポンプ圧送実験状況
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2.1.2 コンクリートの種類と調合
実験を行ったコンクリートの種類
は、高強度コンクリートを含めて水
セメント比55%、45%、35%の3水準、
スランプ18cm、21cm、23cmの3水準
とした。コンクリート製造工場は、
使用材料が異なる大阪および京都の4
工場とした。表-1に各工場の使用材
料と調合の組合せを、表-2に調合計
画の概要を示す。
2.1.3 フレッシュコンクリートの
試験項目
フレッシュコンクリートの試験項
目は、流動性や粘性を評価すること
も考慮し、通常に行われるスランプ、
空気量の試験に加え、スランプフロ
ー試験、L型フロー試験およびVロー
ト試験とし、試験方法は対応するJIS
および土木学会基準に準じた。また、
傾斜Lフロー試験、単位水量、単位容
積質量も測定した。傾斜Lフロー試験
およびVロート試験の状況を写真-2および写真-3に示す。
2.2 フレッシュコンクリート試験結果
スランプおよびスランプフローの試験結果を図-2に、
Lフロー値およびLフロー初速度の試験結果を図-3に示
す。なお、その他のフレッシュコンクリートの試験結果
は、既往の文献1)を参照されたい。
一般に、ポンプ圧送性は、フレッシュコンクリートの
レオロジー的性質(流動性・粘性)や材料分離抵抗性に
よって大きく異なるといわれているが、これらの性質を、
従来からフレッシュコンクリートのコンシステンシー試
験値として扱われているスランプ値だけで評価すること
は困難である。つまり、スランプやスランプフローは流
動性を評価した試験値であって、粘性をスランプで評価
することはできない。
一方、スランプで品質管理を行うコンクリートは、塑
性粘度の範囲が小さいことが知られている。このことか
ら、スランプで管理されるコンクリートについては、流
動性と分離抵抗性を評価することによって、ポンプ圧送
性をある程度の範囲で評価することが可能であると考え
られる。
そこで、コンクリートのコンシステンシーとワーカビ
写真-2 傾斜Lフロー試験状況
写真-3 Vロート試験状況
表-1 各工場の使用材料と調合の組合せ
表-2 調合計画の概要
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リティーを合わせて評価する場合に有効として提案され
ている2)スランプフローとスランプとの比率(式(1)で表
現されるF/S(エフバイエス))を指標として用いるこ
ととする。
F/S=(スランプフロー/スランプ)
(1)
ここでF/Sについて、スランプで管
理するコンクリートでは、F/Sが1.6~
1.9程度であれば性状が良好である2)とい
われている。つまり、F/Sが2.0以上の
場合はコンクリートが分離する傾向にあ
り、F/Sが1.6を下回るコンクリートで
は、ガサつきが見られてワーカビリティ
ーが悪い。このことから、F/Sが適正
な範囲であれば、過剰な圧送負荷や閉塞
などの問題が生じることなくポンプ圧送
が可能であると考えられる。
F/Sとフレッシュコンクリートの試
験値との関係について、図-4にスランプ
を、図-5にスランプフローを、図-6に単
位容積質量を、図-7にLフロー初速度を
それぞれ示す。なお、これらの図には、スランプの目標
値がJISの範疇よりも大きい、水セメント比が35%の調合
も併せて示してある。
図-5 F/Sとスランプフロー
図-4 F/Sとスランプ
図-7 F/SとLフロー初速度
図-6 F/Sと単位容積質量
図-2 コンクリートのスランプおよびスランプフロー
図-3 コンクリートのLフローおよびLフロー初速度
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一般に、スランプは流動性を評価した試験値であるが、
図-4より、F/Sとの関係に相関性がみられないことが分
かる。また、図-5に示したスランプフローとの関係では、
やや相関がみられるものの、一般的な値である30~40cm
の範囲においてはF/Sが大きくばらついている。さらに、
Lフロー初速度は粘性と流動性を併せて評価した試験値
であるが、図-7ではF/Sとの関係に相関性は認められな
い。このことから、F/Sはフレッシュコンクリートのレ
オロジー的性質とは異なった性質(つまり分離抵抗性な
ど)を評価した指標であると考えられる。
2.3 調合条件の違いがK値に及ぼす影響
水セメント比、単位水量、設計スランプ値などの調合
条件の違いがポンプ圧送性およびK値に及ぼす影響につい
て検討する。なお、K値はP1-P2間の圧力差より算出した。
A-a工場でのK値と実吐出量の関係を図-8に、B工場で
のK値と実吐出量の関係を図-9に示す。図にはコンクリ
ートの種類ごとに回帰線を示しているが、K値と実吐出
量との間には、両工場とも全てのコンクリートにおいて
高い相関が認められた。
まず、水セメント比がK値に及ぼす影響については、
これまでの一般的な知見と同様に、A工場およびB工場
とも、水セメント比が小さくなるほどK値が大きくなり、
かつ回帰線の傾きが大きくなる傾向が認められた。また、
同一水セメント比で比較すると、図-9に示したB工場で
は、単位水量やスランプの増大に伴ってK値が小さくな
った。図-8に示したA-a工場では、W/C45%の調合にお
いて単位水量とK値の関係が他の調合と傾向が異なるも
のもあるが、これは製造時の単位水量(水セメント比)
図-9 B工場でのK値と実吐出量の関係
図-8 A-a工場でのK値と実吐出量の関係
図-11 A-c工場でのK値と実吐出量の関係
図-10 A-b工場でのK値と実吐出量の関係
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の変動によるものであると推察される。
次に、実験結果から得られたK値と、日本建築学会コ
ンクリートポンプ工法施工指針3)に示されたK値とを比
較する。図-8および図-9に太線で示す(両図中の赤線が
下からK、2K、3K、4Kを表す)ように、普通骨材高強
度コンクリートの図に示されたK~4Kの線と、図-8に示
したA-a工場の回帰直線の傾きはほぼ一致することがわ
かる。しかし、B工場の場合については、ポンプ指針3)
に示された値よりもK値が全体的にやや大きくなってい
る。これは、実験場所までの輸送時間がA-a工場は20分
程度であったのに対し、B工場は約1時間であったことか
ら、経時変化に伴うフレッシュコンクリートの粘性増大
や、製造時の単位水量が設計値よりも全体的に小さかっ
たことなどの影響によるものと推察される。
さらに、水セメント比がK値に及ぼす影響について、
A-b工場での関係を図-10に、A-c工場での関係を図-11に
示す。両図とも、水セメント比が小さいコンクリートほ
どK値が大きくなっており、水セメント比との関連性が
認められた。
以上より、調合条件の違いがK値に及ぼす影響は、水
セメント比、単位水量および設計スランプ値が小さくな
るほど、K値が大きくなることが認められた。
2.4 使用材料の違いがK値に及ぼす影響
コンクリートの圧送性や管内圧力損失に及ぼす影響
は、骨材やセメント種類の違いによる影響も大きいと考
えられる。そこで、これらの違いがポンプ圧送性および
K値に及ぼす影響について検討する。
まず、骨材の違いがK値に及ぼす影響について、調合
①および調合②におけるK値と実吐出量の関係を図-12お
よび図-13に示す。なお、各工場で使用した細骨材およ
び粗骨材の品質を表-3に示す。
一般に、粗骨材を砕石とするよりも山砂利とした方が
ポンプ圧送性に優れていると考えられるが、図-12に示し
た調合①では、山砂利による改善効果は認められなかっ
た。しかし、図-13に示した調合②のBでは、山砂利を用
いたコンクリートの単位水量が極端に小さいにもかかわ
らず、K値は砕石を使用したコンクリートと同等であった。
これより、W/C55%程度の高水セメント比の領域では
粗骨材の粒形による影響はほとんどないが、W/C45%程
度のコンクリートにおいては、粒形の良い山砂利を使用
することによってK値が小さくなるものと考えられる。
また、石灰砕石を使用したコンクリートでは、図-13
に示すようにスランプや単位水量が小さいにもかかわら
ずK値が小さくなっている。これは、石灰砕石の周囲に
付着している微粉によって、ポンプ圧送性が若干ではあ
るが改善されたことによるものと考えられる。
一方、細骨材に改良砕砂(湿砕)を混合もしくは全量
図-12 調合①におけるK値と実吐出量の関係
表-3 各工場で使用した骨材の品質
図-13 調合②におけるK値と実吐出量の関係
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使用したコンクリートは、山砂や川砂を使用したものよ
りもK値がやや小さくなる傾向が認められた。実験に用い
た改良砕砂(湿砕)は、粒形が良く角ばりが少ないもの
であったことが、K値をやや小さくした一因と考えられる。
なお、調合⑤におけるK値と実吐出量の関係を図-14に
示す。水セメント比が35%の高強度コンクリートでは、
単位セメント量が多くなるために骨材の影響よりも単位
水量の測定値の方が支配的となり、骨材の違いがK値に
及ぼす影響は明確には認められなかった。図-15にセメ
ントの違いによるK値と実吐出量の関係を示す。同一調
合の場合、一般には普通ポルトランドセメント(N)の場
合にK値が最も大きく、逆にシリカフュームセメントと
普通ポルトランドセメントの混合使用(SFC5+N5)では、
シリカフューム微粉末の効果によりコンクリートの粘性
が低減されK値が最も小さくなると推察される。本実験
においても、SFC5+N5のK値はNのK値よりもやや小さ
くなっているが、セメントの違いによる明確な差異は認
められなかった。これは、低熱ポルトランドセメント(L)
を用いたコンクリートの単位水量の実測値が極端に小さ
くなったことによると考えられる。
以上より、使用材料の違いがK値に及ぼす影響は、高
水セメント比や低水セメント比のコンクリートでは顕著
ではなかったが、細骨材では改良砕砂を用いた場合に、
粗骨材では石灰砕石や山砂利を用いた場合にK値がやや
小さくなる傾向が認められた。セメント種類の違いによ
る影響については、今後の検討が必要である。
3.高強度コンクリートのポンプ圧送性
3.1 実打設時における圧送計測の概要
実打設時における高強度コンクリートのポンプ圧送計
測は、大阪市内において鉄筋コンクリート造地上54階建
ての複合施設を建設中の作業所にて行った。
圧送計測を行ったコンクリートの計画調合を表-4に示
す。測定対象は、8階~14階に打込まれるコンクリート
とした。設計基準強度は8階、10階柱・壁(調合記号S-1,
R-1)が70N/mm2、12階、14階柱・壁(調合記号S-2,O-1)
が60N/mm2の高強度コンクリート、12階床(調合記号S-
3)が30N/mm2の普通コンクリートであった。圧送に使
用したコンクリートポンプは、P社製ピストン式ポンプ
車(形式MOLI-BSF2107-HP)である。地上部の輸送管経
路を図-16に示す。輸送管は、地上水平部分がφ139.8×
t8.8mm、鉛直部分がφ139.8×t6.6mmのものである。配
管長さは、地上水平部が約35m、鉛直部が40m~60mの
図-15 セメント種類によるK値と実吐出量の関係 図-16 地上部の輸送管配管経路
図-14 調合⑤におけるK値と実吐出量の関係
表-4 圧送計測を行ったコンクリートの計画調合
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範囲である。管内圧力の計測は地上配管部で2カ所(P1,
P2)とした。圧力計間の距離は約27m(90°ベント管を2
カ所含む)とした。
3.2 高強度コンクリートの管内圧力損失
管内圧力P1とP2の圧力差から求めた圧力損失Kpと、
ポンプ主油圧から求めた圧力損失Kgについて、吐出量と
の関係をそれぞれ図-17および図-18に示す。ただし、調
合①ではKgを測定していない。
両図より、圧力損失は吐出量の増大に伴って大きくな
ることが分かる。また、図-17に示した圧力損失Kpは、
概ね15kPa/m程度の切片を持つ一次式で回帰できると考
えられる。切片を持つ回帰式となるのは、コンクリート
はビンガム流体であるために降伏値が存在することや、
管壁のすべり抵抗の大きさが圧送速度によって異なるこ
とによると考えられる。
次に、圧力損失KpとKgとの関係を図-19に示す。同図
より、KpとKgは必ずしも同じ値で評価されず、ばらつ
きを持つ分布であることが分かる。特に、調合④ではKg
と比較してKpが小さい。この要因は今後の検討課題であ
るが、その一つには、Kgが配管全長に対して評価した値
であるのに対し、Kpがポンプ根本付近の一部の配管で評
価した値であることが挙げられる。つまり、管内の圧力
損失は、根本から筒先まで一定の値で推移するのではな
く、配管の状況(直管、ベンド管、鉛直管長さなど)に
よって異なるほか、フレッシュコンクリートの性状によ
ってすべり抵抗量が異なるとともに、その大きさが配管
根本で大きく筒先で小さくなる3)ことも影響していると
思われる。
4.普通強度コンクリートのポンプ圧送性評価
4.1 K値の推定に関する検討
ポンプ圧送性の評価やポンプ車の機種選定を行う際
に、圧送するコンクリートのK値が概ね推定できれば、
より精度の高い施工計画を立案することができる。
ここでは、スランプで管理するスランプフロー35cm程
度以下のコンクリートに関して、計画調合条件およびフ
レッシュコンクリートの性状などを指標として、計画吐
出量からK値を推定する手法について検討する。なお、
スランプフロー35cm以下を推定の対象としたのは、それ
以上のコンクリートについては後述するLフロー初速度
により精度良く推定できると考えているためである。
まず、K値を推定するための一般式を以下の式(2)のよ
うに定義する。ただしこの一般式は、K値と吐出量の関
係における一次回帰式を表現するものである。
ko=aX+b(ただし、K=ko/1000) (2)
ここに、
ko:水平管1mあたりの管内圧力損失(kPa/m)
K:水平管1mあたりの管内圧力損失(K値)
(MPa/m)
X:(計画)吐出量(m/h)
a、b:重回帰分析により求まる実験定数
ここで、重回帰分析により求まる実験定数a(傾き)を
一般化することを目的として、圧送実験の結果を用いて
検討する。検討にあたり、調合条件から得られる水セメ
ント比、セメント量および設計スランプの3つに加え、フ
レッシュコンクリートの試験から得られるスランプ、ス
ランプフロー、F/S、単位容積質量およびLフロー初速度
の合計8つの指標を説明変数とし、これらの変数から推定
に有用であると判断される説明変数を、重回帰分析によ
り選択することを試みる。同様に、実験定数b(切片)に
ついても、水セメント比、セメント量、スランプ、スラン
プフロー、F/Sおよび単位容積質量の6つの指標から推定
に有用であると判断される説明変数を選択することを試
みる。なお、管内圧力損失K値の単位は(kPa/m)とした。
図-17 吐出量と圧力損失Kpとの関係 図-19 圧力損失KpとKgとの関係図-18 吐出量と圧力損失Kgとの関係
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実験定数a (傾
き)および実験定
数b(切片)に関
する重回帰分析の
結果を、それぞれ
表-5および表-6に
示す。重回帰分析
では、理論上、説
明変数が多くなる
ほど回帰の精度が
高くなる。両表に
は重相関Rをそれ
ぞれのcaseごとに
示したが、特に実
験定数aについて
は、説明変数が少ない場合で
も全てのcaseでR=0.90以上の
高い相関を示しており、
case13のようにセメント量と
F/Sの2つを説明変数とした
場合でも十分に高い相関が得
られていることがわかる。
そこで、推定精度を確保し
つつ簡易にK値を推定する手
法を提案することに主眼をお
き、実用性、簡便性に配慮し
て必要最小限の説明変数を選
定する。
管内圧力損失K値は、2. 3および2. 4に示したように、
調合条件や使用材料により何らかの影響を受ける。その
ため、これら両者の影響要因を反映でき、また、容易に
得ることができる指標であり、かつ、フレッシュコンク
リートの性状やポンプ圧送性との関連性が高いと思われ
る指標を採用することが重要である。
以上のことを考慮し、調合条件として水セメント比お
よびセメント量を、フレッシュコンクリートの性状とし
て試験結果から得られるF/Sおよび単位容積質量の4つ
を、K値推定のための指標(説明変数)として採用する
こととする。これらを選定したのは、フレッシュコンク
リートの性状を代表できる値であると考えられることに
加えて、説明変数が少なくても実験定数aおよび実験定
数bの推定精度に大きな影響を与えていないことが重回
帰分析の結果から認められるためである。
以下に、実験定数aおよび実験定数bの推定式のうち、
実験定数aについては表-5に示すcase9とcase13により得
られた推定式を式(3)および式(4)に、実験定数bについ
ては表-6に示すcase6とcase11により得られた推定式を式
(5)および式(6)に例として示す。
-実験定数a-
case9:a=-3.540-0.0039(W/C)+0.00102(C)
+0.133(F/S)+1.524(単容質) (3)
case13:a=-0.789+0.00201(C)+0.237(F/S) (4)
-実験定数b-
case6:b=38.211-1.2742(W/C)-0.10585(C)
-14.754(F/S)+41.516(単容質) (5)
表-5 実験定数a(傾き)に関する重回帰分析結果
表-6 実験定数b(切片)に関する重回帰分析結果
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case11:b=6.155+0.00384(C)-7.998(F/S) (6)
ここに、W/C:水セメント比(%)
C:単位セメント量(kg/m3)
F/S:スランプフロー/スランプ(式(1))
単容質:フレッシュコンクリートの単位容積質量
(kg/l)
式(3)~式(6)を用いて実験定数aおよびbを求め、施工
時の計画吐出量を設定すれば、式(2)により任意の計画
吐出量に対するK値が推定できる。実験定数aおよびbは、
表-5および表-6に示した上記以外のcaseの係数と説明変
数を用いて推定することも可能である。
ここで一例として、図-9に示したB工場の調合①、②
および⑤の3種類のコンクリートの任意の吐出量に対す
る管内圧力損失(K値)の推定を試みる。K値の推定に
際し、調合条件は表-2に示されたものを、フレッシュコ
ンクリートの性状はポンプ圧送実験時に得られた測定結
果を用いることとする。
case9とcase6(説明変数はW/C、C、F/S、単容質の4
つ)を組み合わせた推定結果(case9,6)およびcase13
とcase11(説明変数はC、F/Sの2つ)を組み合わせた推
定(case13,11)結果と実測値の関係を図-20に示す。
今回提案した手法によるK値の推定結果は、調合②
(case13,11)の切片については実測値との間にやや差
が生じているが、それ以外の調合や回帰線の傾きに関し
ては、いずれも高い精度で推定できていることが分かる。
今後、さらにデータを蓄積することにより、材料の違
いが管内圧力損失(K値)に及ぼす影響などをより明確
に把握することができれば、使用材料による係数を今回
提案した推定式に取り込むこと等により、推定精度をさ
らに向上させることが可能になると考える。
5.高強度コンクリートのポンプ圧送性評価
5.1 吐出量と圧力損失の関係
普通強度コンクリートのポンプ圧送実験結果と高強度
コンクリートの実施工での計測結果を併せてポンプ圧送
性に関する検討を行う。なお、検討にあたっては、高強
度コンクリートのデータ数を増やすため、表-7に示す㈱
竹中工務店のデータも含め、併せて検討を行った4)。
図-21に圧力損失と吐出量の関係を示す。高強度コン
クリートの測定結果である実施工データおよび竹中デー
タと比較すると、低強度領域のデータである圧送実験時
のデータは傾きが緩やかになっている。また、同じ吐出
量でもKの値は広範囲に分布しており、ポンプ圧送性の
評価のためにはフレッシュコンクリートの性状を考慮す
る必要があることが分かる。
5.2 Lフロー初速度によるK値の推定
実験データの検討結果から、コンクリートの粘性の評
価指標であるLフロー初速度と高強度コンクリートの圧
力損失が以下の式(7)を用いて推定できる可能性がある
ことが分かった。分析にあたっては、圧送速度5m3/hrの
範囲ごとに、図-22に示すように回帰式を求め、係数Bは
図-21 管内圧力損失と吐出量の関係
表-7 竹中工務店での圧力損失実測データの概要
図-20 K値の推定値と実測値の関係
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計算値の平均である「-1.2」を採用した。
K=A・Lv B (7)
ここに、
K:水平管1m当りの管内圧力損失(MPa/m)
A:圧送速度による係数(値は図-23に示す)
B:-1.2(定数)
Lv:Lフロー初速度(cm/sec)
図-23には、吐出量5m3/hrの範囲ごとにK=A・Lv-1.2
としたときの最適な係数Aの値を最小二乗法により求め、
その結果から得られた回帰式を用いて計算した吐出量ご
との係数Aの値を示した。なお、分析に当たっては、前
述したようにLフロー初速度の精度に問題がありそうな
スランプフロー35cm以下のデータを削除している。
式(7)を用いて推定したKと測定Kの関係を図-24に、
また、推定誤差の絶対値の平均および推定誤差の最大値
を表-8に示す。誤差はあるものの、ある程度の精度で推
定が可能であることが分かる。誤差の原因としては、ポ
ンプ圧送中のコンクリートの性状変化などが考えられる
ため、今後の詳細な検討が必要である。
図-25には、スランプフロー35cm以上、吐出量
70m3/hr以下を対象とした、Lフロー初速度(Lv)ごと
の管内圧力損失Kと吐出量の関係を示す。図中には、日
本建築学会コンクリートポンプ工法施工指針3)に示され
ているスランプ21cm(SL=21cm)の普通コンクリート
の値も参考に示した。Lフロー初速度が速くなるほどコ
ンクリートの流動性が向上し、K値も小さくなることが
分かる。
6.吸込み効率の推定
ポンプ圧送性を評価し、コンクリート施工時の打設計
画を詳細に立案する場合には、管内圧力損失K値の推定
に加えて、吸込み効率(ポンプの容積効率ηv3)と同意)
の大きさを考慮することも重要である。特に、高強度コ
ンクリートなど高粘性のコンクリートでは、ポンプ圧送
時の吸込み効率が、時間当たりの吐出量やコンクリート
打設量に大きな影響を及ぼす場合がある。
表-8 K値推定誤差(単位:MPa/m)
図-25 水平管1mあたりの管内圧力損失Kと吐出量の関係
図-24 推定Kと測定Kの関係
図-23 係数Aの検討
図-22 水平圧力損失とLフロー初速度の関係
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そこで、高強度コンクリートの吸込み効率を推定する
ための手法について検討を行なった。なお、吸込み効率
の検討に当たっては、2005年および2006年に行った高強
度コンクリートの実打設時の圧送計測の結果に加え、実
大規模のポンプ圧送実験(Field実験)のうち、高強度コ
ンクリートの結果1)も対象とした。
6.1 調合条件と吸込み効率
吸込み効率と単位セメント量の関係を図-26に示す。
ある程度の相関が認められ、単位セメント量が多くなる
ほど吸込み効率は大きくなる傾向を示している。また、
吸込み効率と水セメント比の関係を図-27に示す。単位
セメント量と同様にある程度の相関が認められ、水セメ
ント比が大きくなるほど吸込み効率が低下する傾向を示
している。
単位セメント量と水セメント比は共にコンクリートの分
離抵抗性に関係の深い調合条件であり、単位セメント量が
多く水セメント比が小さいコンクリートほど分離抵抗性が
高くなり、吸込み効率が高くなったものと推察される。
6.2 フレッシュコンクリートの性状と
吸込み効率
まず、吸込み効率とフレッシュコンクリートの荷卸し
時の試験から得られたスランプフローの関係を図-28に
示す。特に明確な相関関係は認められなかった。
次に、吸込み効率とLフロー初速度の関係を図-29に示
す。年度ごとに層別することによって、ある程度の相関
関係が認められた。これは2005年のデータは単位セメン
ト量が500kg/m3以上、2006年のデータは500kg/m3以下
であり、単位セメント量の違いが吸込み効率に影響を与
えたためと考えられる。なお、Lフロー初速度は、ポン
プに最も近いコンクリートの特性をあらわす値というこ
とを考慮し、荷卸し時の値を用いて検討した。
また、図-30には、吸込み効率と単位容積質量の関係
を示した。図-29と同様にセメント量で層別しているが、
ある程度の相関があることがわかる。これらより、吸込
み効率は、調合条件における水セメント比および単位セ
メント量との間に高い相関があることから、結果として
単位容積質量も相関がある結果となっているものと考え
られる。
6.3 吸込み効率の推定
以上の検討結果から、調合条件を代表するものとして、
水セメント比と単位セメント量を、フレッシュコンクリ
ートの性状を代表するものとしてLフロー初速度を選定
し、それらを説明変数として吸込み効率に関する重回帰
分析を行なった。得られた回帰式を式(8)に示す。分析
の結果、重相関係数はR=0.906となり、高い相関が認め
られた。
吸込み効率=
-0.01739×W/C-0.00049×C+0.00423×Lv (8)
ここに、
W/C:水セメント比(%)
C:単位セメント量(kg/m3)
Lv:Lフロー初速度(cm/sec)
図-28 吸込み効率とスランプフローの関係
図-27 吸込み効率と水セメント比の関係
図-26 吸込み効率と単位セメント量の関係
GBRC Vol.32 No.2 2007.4
28
式(8)から計算された推定吸込み効率と実測吸込み効
率の関係を図-31に示す。両者は良い相関を示しており、
式(8)を用いることによって吸込み効率の推定が精度良
く行えることが分かった。また、図-32には、推定誤差
の実測値に対する割合と実測吸込み効率の関係を示し
た。実測吸込み効率が高いほど誤差の割合は大きくなっ
ている。
以上の検討結果をまとめて表-9に示す。式(8)により推
定した吸込み効率は、最大でも5%程度の誤差であり、
極めて精度の高い推定が可能であることが分かった。
7.まとめ
使用材料やフレッシュコンクリートの性状がポンプ圧
送性に及ぼす影響、管内圧力損失K値の推定手法などに
ついて検討した結果、以下の知見が得られた。
(1)調合条件の違いがK値に及ぼす影響は、水セメント
比、単位水量および設計スランプ値が小さくなるほど
K値が大きくなることが認められた。
(2)使用材料の違いがK値に及ぼす影響は、細骨材では
改良砕砂を用いた場合に、粗骨材では石灰砕石や山砂
利を用いた場合にK値がやや小さくなる傾向が認めら
れた。
(3)スランプフロー35cm以下のコンクリートについては
水セメント比、セメント量、F/Sおよび単位容積質量
の4つの指標を用い、また、スランプフロー35cm以上
のコンクリートについてはLフロー初速度を用いるこ
とにより、K値を精度良く推定する手法を提案した。
(4)水セメント比、セメント量およびLフロー初速度を用
いて、吸込み効率を精度良く推定する手法を提案した。
【参考文献】
1)大阪生コンクリート圧送協同組合;第2回圧送技術研究会─生コンクリートの性能とポンプ圧送性について─,2005.7.
2)山�順二,立松和彦:京都地区の天然砂利を用いた高強度コンクリートの実構造物への適用とその品質管理,日本建築学会技術報告集,第7号,Vol.114,No.1434,pp.13-16,1999.2.
3)日本建築学会:コンクリートポンプ工法施工指針・同解説,p.31,p.39,1994.
4)大阪生コンクリート圧送協同組合;第1回圧送技術研究会-コンクリートの圧送技術の現状と課題-,2004.7.
表-9 吸い込み効率の推定誤差
図-32 推定誤差割合と実測吸込み効率の関係
図-31 推定吸込み効率と実測吸込み効率の関係
図-30 吸込み効率と単位容積質量の関係
図-29 吸込み効率とLフロー初速度の関係