フレッシュコンクリートの性状がポンプ 圧送性に及 …influence of properties of...

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技術報告� 技術報告� ] 順二 *1 、岩清水 *2 、木村 芳幹 *3 、二村 誠二 *4 、吉見 *5 Influence of Properties of Fresh Concrete on Pumpability of Concrete フレッシュコンクリートの性状がポンプ� 圧送性に及ぼす影響について� 17 1.はじめに 近年、建物の高層化に伴い設計基準強度が高くなり、 使用されるコンクリートも高強度化してきている。高強 度コンクリートは粘性が高いため、一般に、ポンプ圧送 時の管内圧力損失が大きくなる傾向にある。また、普通 強度のコンクリートにおいても、骨材事情の枯渇化に対 応するため、改良砕砂など様々な種類の骨材が使用され ており、調合条件や使用材料によってはポンプ圧送性が 大きく異なる場合がある。このような状況において、打 込み予定のコンクリートの圧送性を評価してポンプ車の 機種を選定しようとする場合、管内圧力損失の設定や評 価方法に関して不明な点が多く、施工条件に対して適切 な圧送計画がなされていないのが現状である。 そこで、関西地区において、コンクリートの調合条件 や使用材料の違いが圧送時の水平管1m当たりの管内圧力 損失(以降「K値」と記す)に及ぼす影響を調査するこ とに加えて、調合条件やフレッシュコンクリートの性状 に応じたK値を推定する手法について検討するため、実 大規模のポンプ圧送実験および高強度コンクリート実打 設時の圧送計測を行った。 2.普通強度コンクリートのポンプ圧送性 2.1 実大規模のポンプ圧送実験の概要 コンクリートの調合条件や使用材料の違いがポンプ圧 送性に及ぼす影響を評価するために、調合条件および使 用材料の異なる計24種類のコンクリートを用いて、実大 でのポンプ圧送実験を行った。 2.1.1 圧送条件 圧送実験時の状況を写真-1に、配管状況を図-1に示す。 水平圧送距離を30mとし、3カ所(P1,P3,P2)で管内圧 力を測定した。圧送にはピストン式ポンプ車(PY120-33) を使用し、圧力の測定区間は全て125A管で配管した。 1 YAMASAKI Junji:(株)淺沼組 技術本部 技術研究所 建築研究グループ 2 IWASHIMIZU Takashi:(株)竹中工務店 大阪本店 建築技術部 技術担当副部長 3 KIMURA Yoshimoto:(財)日本建築総合試験所 材料部 大淀試験室室長 4 NIMURA Seiji:大阪工業大学 工学部建築学科 助教授 5 YOSHIMI Tadashi:(社)全国コンクリート圧送事業団体連合会 技術委員長 図-1 配管状況(水平距離30m) 写真-1 ポンプ圧送実験状況

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Page 1: フレッシュコンクリートの性状がポンプ 圧送性に及 …Influence of Properties of Fresh Concrete on Pumpability of Concrete フレッシュコンクリートの性状がポンプ

技術報告�技術報告�

山� 順二*1、岩清水 隆*2、木村 芳幹*3、二村 誠二*4、吉見  正*5

Influence of Properties of Fresh Concrete on Pumpability of Concrete

フレッシュコンクリートの性状がポンプ�圧送性に及ぼす影響について�

17

1.はじめに

近年、建物の高層化に伴い設計基準強度が高くなり、

使用されるコンクリートも高強度化してきている。高強

度コンクリートは粘性が高いため、一般に、ポンプ圧送

時の管内圧力損失が大きくなる傾向にある。また、普通

強度のコンクリートにおいても、骨材事情の枯渇化に対

応するため、改良砕砂など様々な種類の骨材が使用され

ており、調合条件や使用材料によってはポンプ圧送性が

大きく異なる場合がある。このような状況において、打

込み予定のコンクリートの圧送性を評価してポンプ車の

機種を選定しようとする場合、管内圧力損失の設定や評

価方法に関して不明な点が多く、施工条件に対して適切

な圧送計画がなされていないのが現状である。

そこで、関西地区において、コンクリートの調合条件

や使用材料の違いが圧送時の水平管1m当たりの管内圧力

損失(以降「K値」と記す)に及ぼす影響を調査するこ

とに加えて、調合条件やフレッシュコンクリートの性状

に応じたK値を推定する手法について検討するため、実

大規模のポンプ圧送実験および高強度コンクリート実打

設時の圧送計測を行った。

2.普通強度コンクリートのポンプ圧送性

2.1 実大規模のポンプ圧送実験の概要

コンクリートの調合条件や使用材料の違いがポンプ圧

送性に及ぼす影響を評価するために、調合条件および使

用材料の異なる計24種類のコンクリートを用いて、実大

でのポンプ圧送実験を行った。

2.1.1 圧送条件

圧送実験時の状況を写真-1に、配管状況を図-1に示す。

水平圧送距離を30mとし、3カ所(P1,P3,P2)で管内圧

力を測定した。圧送にはピストン式ポンプ車(PY120-33)

を使用し、圧力の測定区間は全て125A管で配管した。

*1 YAMASAKI Junji:(株)淺沼組 技術本部 技術研究所 建築研究グループ*2 IWASHIMIZU Takashi:(株)竹中工務店 大阪本店 建築技術部 技術担当副部長*3 KIMURA Yoshimoto:(財)日本建築総合試験所 材料部 大淀試験室室長*4 NIMURA Seiji:大阪工業大学 工学部建築学科 助教授*5 YOSHIMI Tadashi:(社)全国コンクリート圧送事業団体連合会 技術委員長

図-1 配管状況(水平距離30m)

写真-1 ポンプ圧送実験状況

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2.1.2 コンクリートの種類と調合

実験を行ったコンクリートの種類

は、高強度コンクリートを含めて水

セメント比55%、45%、35%の3水準、

スランプ18cm、21cm、23cmの3水準

とした。コンクリート製造工場は、

使用材料が異なる大阪および京都の4

工場とした。表-1に各工場の使用材

料と調合の組合せを、表-2に調合計

画の概要を示す。

2.1.3 フレッシュコンクリートの

試験項目

フレッシュコンクリートの試験項

目は、流動性や粘性を評価すること

も考慮し、通常に行われるスランプ、

空気量の試験に加え、スランプフロ

ー試験、L型フロー試験およびVロー

ト試験とし、試験方法は対応するJIS

および土木学会基準に準じた。また、

傾斜Lフロー試験、単位水量、単位容

積質量も測定した。傾斜Lフロー試験

およびVロート試験の状況を写真-2および写真-3に示す。

2.2 フレッシュコンクリート試験結果

スランプおよびスランプフローの試験結果を図-2に、

Lフロー値およびLフロー初速度の試験結果を図-3に示

す。なお、その他のフレッシュコンクリートの試験結果

は、既往の文献1)を参照されたい。

一般に、ポンプ圧送性は、フレッシュコンクリートの

レオロジー的性質(流動性・粘性)や材料分離抵抗性に

よって大きく異なるといわれているが、これらの性質を、

従来からフレッシュコンクリートのコンシステンシー試

験値として扱われているスランプ値だけで評価すること

は困難である。つまり、スランプやスランプフローは流

動性を評価した試験値であって、粘性をスランプで評価

することはできない。

一方、スランプで品質管理を行うコンクリートは、塑

性粘度の範囲が小さいことが知られている。このことか

ら、スランプで管理されるコンクリートについては、流

動性と分離抵抗性を評価することによって、ポンプ圧送

性をある程度の範囲で評価することが可能であると考え

られる。

そこで、コンクリートのコンシステンシーとワーカビ

写真-2 傾斜Lフロー試験状況

写真-3 Vロート試験状況

表-1 各工場の使用材料と調合の組合せ

表-2 調合計画の概要

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リティーを合わせて評価する場合に有効として提案され

ている2)スランプフローとスランプとの比率(式(1)で表

現されるF/S(エフバイエス))を指標として用いるこ

ととする。

F/S=(スランプフロー/スランプ)

(1)

ここでF/Sについて、スランプで管

理するコンクリートでは、F/Sが1.6~

1.9程度であれば性状が良好である2)とい

われている。つまり、F/Sが2.0以上の

場合はコンクリートが分離する傾向にあ

り、F/Sが1.6を下回るコンクリートで

は、ガサつきが見られてワーカビリティ

ーが悪い。このことから、F/Sが適正

な範囲であれば、過剰な圧送負荷や閉塞

などの問題が生じることなくポンプ圧送

が可能であると考えられる。

F/Sとフレッシュコンクリートの試

験値との関係について、図-4にスランプ

を、図-5にスランプフローを、図-6に単

位容積質量を、図-7にLフロー初速度を

それぞれ示す。なお、これらの図には、スランプの目標

値がJISの範疇よりも大きい、水セメント比が35%の調合

も併せて示してある。

図-5 F/Sとスランプフロー

図-4 F/Sとスランプ

図-7 F/SとLフロー初速度

図-6 F/Sと単位容積質量

図-2 コンクリートのスランプおよびスランプフロー

図-3 コンクリートのLフローおよびLフロー初速度

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一般に、スランプは流動性を評価した試験値であるが、

図-4より、F/Sとの関係に相関性がみられないことが分

かる。また、図-5に示したスランプフローとの関係では、

やや相関がみられるものの、一般的な値である30~40cm

の範囲においてはF/Sが大きくばらついている。さらに、

Lフロー初速度は粘性と流動性を併せて評価した試験値

であるが、図-7ではF/Sとの関係に相関性は認められな

い。このことから、F/Sはフレッシュコンクリートのレ

オロジー的性質とは異なった性質(つまり分離抵抗性な

ど)を評価した指標であると考えられる。

2.3 調合条件の違いがK値に及ぼす影響

水セメント比、単位水量、設計スランプ値などの調合

条件の違いがポンプ圧送性およびK値に及ぼす影響につい

て検討する。なお、K値はP1-P2間の圧力差より算出した。

A-a工場でのK値と実吐出量の関係を図-8に、B工場で

のK値と実吐出量の関係を図-9に示す。図にはコンクリ

ートの種類ごとに回帰線を示しているが、K値と実吐出

量との間には、両工場とも全てのコンクリートにおいて

高い相関が認められた。

まず、水セメント比がK値に及ぼす影響については、

これまでの一般的な知見と同様に、A工場およびB工場

とも、水セメント比が小さくなるほどK値が大きくなり、

かつ回帰線の傾きが大きくなる傾向が認められた。また、

同一水セメント比で比較すると、図-9に示したB工場で

は、単位水量やスランプの増大に伴ってK値が小さくな

った。図-8に示したA-a工場では、W/C45%の調合にお

いて単位水量とK値の関係が他の調合と傾向が異なるも

のもあるが、これは製造時の単位水量(水セメント比)

図-9 B工場でのK値と実吐出量の関係

図-8 A-a工場でのK値と実吐出量の関係

図-11 A-c工場でのK値と実吐出量の関係

図-10 A-b工場でのK値と実吐出量の関係

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の変動によるものであると推察される。

次に、実験結果から得られたK値と、日本建築学会コ

ンクリートポンプ工法施工指針3)に示されたK値とを比

較する。図-8および図-9に太線で示す(両図中の赤線が

下からK、2K、3K、4Kを表す)ように、普通骨材高強

度コンクリートの図に示されたK~4Kの線と、図-8に示

したA-a工場の回帰直線の傾きはほぼ一致することがわ

かる。しかし、B工場の場合については、ポンプ指針3)

に示された値よりもK値が全体的にやや大きくなってい

る。これは、実験場所までの輸送時間がA-a工場は20分

程度であったのに対し、B工場は約1時間であったことか

ら、経時変化に伴うフレッシュコンクリートの粘性増大

や、製造時の単位水量が設計値よりも全体的に小さかっ

たことなどの影響によるものと推察される。

さらに、水セメント比がK値に及ぼす影響について、

A-b工場での関係を図-10に、A-c工場での関係を図-11に

示す。両図とも、水セメント比が小さいコンクリートほ

どK値が大きくなっており、水セメント比との関連性が

認められた。

以上より、調合条件の違いがK値に及ぼす影響は、水

セメント比、単位水量および設計スランプ値が小さくな

るほど、K値が大きくなることが認められた。

2.4 使用材料の違いがK値に及ぼす影響

コンクリートの圧送性や管内圧力損失に及ぼす影響

は、骨材やセメント種類の違いによる影響も大きいと考

えられる。そこで、これらの違いがポンプ圧送性および

K値に及ぼす影響について検討する。

まず、骨材の違いがK値に及ぼす影響について、調合

①および調合②におけるK値と実吐出量の関係を図-12お

よび図-13に示す。なお、各工場で使用した細骨材およ

び粗骨材の品質を表-3に示す。

一般に、粗骨材を砕石とするよりも山砂利とした方が

ポンプ圧送性に優れていると考えられるが、図-12に示し

た調合①では、山砂利による改善効果は認められなかっ

た。しかし、図-13に示した調合②のBでは、山砂利を用

いたコンクリートの単位水量が極端に小さいにもかかわ

らず、K値は砕石を使用したコンクリートと同等であった。

これより、W/C55%程度の高水セメント比の領域では

粗骨材の粒形による影響はほとんどないが、W/C45%程

度のコンクリートにおいては、粒形の良い山砂利を使用

することによってK値が小さくなるものと考えられる。

また、石灰砕石を使用したコンクリートでは、図-13

に示すようにスランプや単位水量が小さいにもかかわら

ずK値が小さくなっている。これは、石灰砕石の周囲に

付着している微粉によって、ポンプ圧送性が若干ではあ

るが改善されたことによるものと考えられる。

一方、細骨材に改良砕砂(湿砕)を混合もしくは全量

図-12 調合①におけるK値と実吐出量の関係

表-3 各工場で使用した骨材の品質

図-13 調合②におけるK値と実吐出量の関係

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使用したコンクリートは、山砂や川砂を使用したものよ

りもK値がやや小さくなる傾向が認められた。実験に用い

た改良砕砂(湿砕)は、粒形が良く角ばりが少ないもの

であったことが、K値をやや小さくした一因と考えられる。

なお、調合⑤におけるK値と実吐出量の関係を図-14に

示す。水セメント比が35%の高強度コンクリートでは、

単位セメント量が多くなるために骨材の影響よりも単位

水量の測定値の方が支配的となり、骨材の違いがK値に

及ぼす影響は明確には認められなかった。図-15にセメ

ントの違いによるK値と実吐出量の関係を示す。同一調

合の場合、一般には普通ポルトランドセメント(N)の場

合にK値が最も大きく、逆にシリカフュームセメントと

普通ポルトランドセメントの混合使用(SFC5+N5)では、

シリカフューム微粉末の効果によりコンクリートの粘性

が低減されK値が最も小さくなると推察される。本実験

においても、SFC5+N5のK値はNのK値よりもやや小さ

くなっているが、セメントの違いによる明確な差異は認

められなかった。これは、低熱ポルトランドセメント(L)

を用いたコンクリートの単位水量の実測値が極端に小さ

くなったことによると考えられる。

以上より、使用材料の違いがK値に及ぼす影響は、高

水セメント比や低水セメント比のコンクリートでは顕著

ではなかったが、細骨材では改良砕砂を用いた場合に、

粗骨材では石灰砕石や山砂利を用いた場合にK値がやや

小さくなる傾向が認められた。セメント種類の違いによ

る影響については、今後の検討が必要である。

3.高強度コンクリートのポンプ圧送性

3.1 実打設時における圧送計測の概要

実打設時における高強度コンクリートのポンプ圧送計

測は、大阪市内において鉄筋コンクリート造地上54階建

ての複合施設を建設中の作業所にて行った。

圧送計測を行ったコンクリートの計画調合を表-4に示

す。測定対象は、8階~14階に打込まれるコンクリート

とした。設計基準強度は8階、10階柱・壁(調合記号S-1,

R-1)が70N/mm2、12階、14階柱・壁(調合記号S-2,O-1)

が60N/mm2の高強度コンクリート、12階床(調合記号S-

3)が30N/mm2の普通コンクリートであった。圧送に使

用したコンクリートポンプは、P社製ピストン式ポンプ

車(形式MOLI-BSF2107-HP)である。地上部の輸送管経

路を図-16に示す。輸送管は、地上水平部分がφ139.8×

t8.8mm、鉛直部分がφ139.8×t6.6mmのものである。配

管長さは、地上水平部が約35m、鉛直部が40m~60mの

図-15 セメント種類によるK値と実吐出量の関係 図-16 地上部の輸送管配管経路

図-14 調合⑤におけるK値と実吐出量の関係

表-4 圧送計測を行ったコンクリートの計画調合

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範囲である。管内圧力の計測は地上配管部で2カ所(P1,

P2)とした。圧力計間の距離は約27m(90°ベント管を2

カ所含む)とした。

3.2 高強度コンクリートの管内圧力損失

管内圧力P1とP2の圧力差から求めた圧力損失Kpと、

ポンプ主油圧から求めた圧力損失Kgについて、吐出量と

の関係をそれぞれ図-17および図-18に示す。ただし、調

合①ではKgを測定していない。

両図より、圧力損失は吐出量の増大に伴って大きくな

ることが分かる。また、図-17に示した圧力損失Kpは、

概ね15kPa/m程度の切片を持つ一次式で回帰できると考

えられる。切片を持つ回帰式となるのは、コンクリート

はビンガム流体であるために降伏値が存在することや、

管壁のすべり抵抗の大きさが圧送速度によって異なるこ

とによると考えられる。

次に、圧力損失KpとKgとの関係を図-19に示す。同図

より、KpとKgは必ずしも同じ値で評価されず、ばらつ

きを持つ分布であることが分かる。特に、調合④ではKg

と比較してKpが小さい。この要因は今後の検討課題であ

るが、その一つには、Kgが配管全長に対して評価した値

であるのに対し、Kpがポンプ根本付近の一部の配管で評

価した値であることが挙げられる。つまり、管内の圧力

損失は、根本から筒先まで一定の値で推移するのではな

く、配管の状況(直管、ベンド管、鉛直管長さなど)に

よって異なるほか、フレッシュコンクリートの性状によ

ってすべり抵抗量が異なるとともに、その大きさが配管

根本で大きく筒先で小さくなる3)ことも影響していると

思われる。

4.普通強度コンクリートのポンプ圧送性評価

4.1 K値の推定に関する検討

ポンプ圧送性の評価やポンプ車の機種選定を行う際

に、圧送するコンクリートのK値が概ね推定できれば、

より精度の高い施工計画を立案することができる。

ここでは、スランプで管理するスランプフロー35cm程

度以下のコンクリートに関して、計画調合条件およびフ

レッシュコンクリートの性状などを指標として、計画吐

出量からK値を推定する手法について検討する。なお、

スランプフロー35cm以下を推定の対象としたのは、それ

以上のコンクリートについては後述するLフロー初速度

により精度良く推定できると考えているためである。

まず、K値を推定するための一般式を以下の式(2)のよ

うに定義する。ただしこの一般式は、K値と吐出量の関

係における一次回帰式を表現するものである。

ko=aX+b(ただし、K=ko/1000) (2)

ここに、

ko:水平管1mあたりの管内圧力損失(kPa/m)

K:水平管1mあたりの管内圧力損失(K値)

(MPa/m)

X:(計画)吐出量(m/h)

a、b:重回帰分析により求まる実験定数

ここで、重回帰分析により求まる実験定数a(傾き)を

一般化することを目的として、圧送実験の結果を用いて

検討する。検討にあたり、調合条件から得られる水セメ

ント比、セメント量および設計スランプの3つに加え、フ

レッシュコンクリートの試験から得られるスランプ、ス

ランプフロー、F/S、単位容積質量およびLフロー初速度

の合計8つの指標を説明変数とし、これらの変数から推定

に有用であると判断される説明変数を、重回帰分析によ

り選択することを試みる。同様に、実験定数b(切片)に

ついても、水セメント比、セメント量、スランプ、スラン

プフロー、F/Sおよび単位容積質量の6つの指標から推定

に有用であると判断される説明変数を選択することを試

みる。なお、管内圧力損失K値の単位は(kPa/m)とした。

図-17 吐出量と圧力損失Kpとの関係 図-19 圧力損失KpとKgとの関係図-18 吐出量と圧力損失Kgとの関係

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実験定数a (傾

き)および実験定

数b(切片)に関

する重回帰分析の

結果を、それぞれ

表-5および表-6に

示す。重回帰分析

では、理論上、説

明変数が多くなる

ほど回帰の精度が

高くなる。両表に

は重相関Rをそれ

ぞれのcaseごとに

示したが、特に実

験定数aについて

は、説明変数が少ない場合で

も全てのcaseでR=0.90以上の

高い相関を示しており、

case13のようにセメント量と

F/Sの2つを説明変数とした

場合でも十分に高い相関が得

られていることがわかる。

そこで、推定精度を確保し

つつ簡易にK値を推定する手

法を提案することに主眼をお

き、実用性、簡便性に配慮し

て必要最小限の説明変数を選

定する。

管内圧力損失K値は、2. 3および2. 4に示したように、

調合条件や使用材料により何らかの影響を受ける。その

ため、これら両者の影響要因を反映でき、また、容易に

得ることができる指標であり、かつ、フレッシュコンク

リートの性状やポンプ圧送性との関連性が高いと思われ

る指標を採用することが重要である。

以上のことを考慮し、調合条件として水セメント比お

よびセメント量を、フレッシュコンクリートの性状とし

て試験結果から得られるF/Sおよび単位容積質量の4つ

を、K値推定のための指標(説明変数)として採用する

こととする。これらを選定したのは、フレッシュコンク

リートの性状を代表できる値であると考えられることに

加えて、説明変数が少なくても実験定数aおよび実験定

数bの推定精度に大きな影響を与えていないことが重回

帰分析の結果から認められるためである。

以下に、実験定数aおよび実験定数bの推定式のうち、

実験定数aについては表-5に示すcase9とcase13により得

られた推定式を式(3)および式(4)に、実験定数bについ

ては表-6に示すcase6とcase11により得られた推定式を式

(5)および式(6)に例として示す。

-実験定数a-

case9:a=-3.540-0.0039(W/C)+0.00102(C)

+0.133(F/S)+1.524(単容質) (3)

case13:a=-0.789+0.00201(C)+0.237(F/S) (4)

-実験定数b-

case6:b=38.211-1.2742(W/C)-0.10585(C)

-14.754(F/S)+41.516(単容質) (5)

表-5 実験定数a(傾き)に関する重回帰分析結果

表-6 実験定数b(切片)に関する重回帰分析結果

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case11:b=6.155+0.00384(C)-7.998(F/S) (6)

ここに、W/C:水セメント比(%)

C:単位セメント量(kg/m3)

F/S:スランプフロー/スランプ(式(1))

単容質:フレッシュコンクリートの単位容積質量

(kg/l)

式(3)~式(6)を用いて実験定数aおよびbを求め、施工

時の計画吐出量を設定すれば、式(2)により任意の計画

吐出量に対するK値が推定できる。実験定数aおよびbは、

表-5および表-6に示した上記以外のcaseの係数と説明変

数を用いて推定することも可能である。

ここで一例として、図-9に示したB工場の調合①、②

および⑤の3種類のコンクリートの任意の吐出量に対す

る管内圧力損失(K値)の推定を試みる。K値の推定に

際し、調合条件は表-2に示されたものを、フレッシュコ

ンクリートの性状はポンプ圧送実験時に得られた測定結

果を用いることとする。

case9とcase6(説明変数はW/C、C、F/S、単容質の4

つ)を組み合わせた推定結果(case9,6)およびcase13

とcase11(説明変数はC、F/Sの2つ)を組み合わせた推

定(case13,11)結果と実測値の関係を図-20に示す。

今回提案した手法によるK値の推定結果は、調合②

(case13,11)の切片については実測値との間にやや差

が生じているが、それ以外の調合や回帰線の傾きに関し

ては、いずれも高い精度で推定できていることが分かる。

今後、さらにデータを蓄積することにより、材料の違

いが管内圧力損失(K値)に及ぼす影響などをより明確

に把握することができれば、使用材料による係数を今回

提案した推定式に取り込むこと等により、推定精度をさ

らに向上させることが可能になると考える。

5.高強度コンクリートのポンプ圧送性評価

5.1 吐出量と圧力損失の関係

普通強度コンクリートのポンプ圧送実験結果と高強度

コンクリートの実施工での計測結果を併せてポンプ圧送

性に関する検討を行う。なお、検討にあたっては、高強

度コンクリートのデータ数を増やすため、表-7に示す㈱

竹中工務店のデータも含め、併せて検討を行った4)。

図-21に圧力損失と吐出量の関係を示す。高強度コン

クリートの測定結果である実施工データおよび竹中デー

タと比較すると、低強度領域のデータである圧送実験時

のデータは傾きが緩やかになっている。また、同じ吐出

量でもKの値は広範囲に分布しており、ポンプ圧送性の

評価のためにはフレッシュコンクリートの性状を考慮す

る必要があることが分かる。

5.2 Lフロー初速度によるK値の推定

実験データの検討結果から、コンクリートの粘性の評

価指標であるLフロー初速度と高強度コンクリートの圧

力損失が以下の式(7)を用いて推定できる可能性がある

ことが分かった。分析にあたっては、圧送速度5m3/hrの

範囲ごとに、図-22に示すように回帰式を求め、係数Bは

図-21 管内圧力損失と吐出量の関係

表-7 竹中工務店での圧力損失実測データの概要

図-20 K値の推定値と実測値の関係

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計算値の平均である「-1.2」を採用した。

K=A・Lv B (7)

ここに、

K:水平管1m当りの管内圧力損失(MPa/m)

A:圧送速度による係数(値は図-23に示す)

B:-1.2(定数)

Lv:Lフロー初速度(cm/sec)

図-23には、吐出量5m3/hrの範囲ごとにK=A・Lv-1.2

としたときの最適な係数Aの値を最小二乗法により求め、

その結果から得られた回帰式を用いて計算した吐出量ご

との係数Aの値を示した。なお、分析に当たっては、前

述したようにLフロー初速度の精度に問題がありそうな

スランプフロー35cm以下のデータを削除している。

式(7)を用いて推定したKと測定Kの関係を図-24に、

また、推定誤差の絶対値の平均および推定誤差の最大値

を表-8に示す。誤差はあるものの、ある程度の精度で推

定が可能であることが分かる。誤差の原因としては、ポ

ンプ圧送中のコンクリートの性状変化などが考えられる

ため、今後の詳細な検討が必要である。

図-25には、スランプフロー35cm以上、吐出量

70m3/hr以下を対象とした、Lフロー初速度(Lv)ごと

の管内圧力損失Kと吐出量の関係を示す。図中には、日

本建築学会コンクリートポンプ工法施工指針3)に示され

ているスランプ21cm(SL=21cm)の普通コンクリート

の値も参考に示した。Lフロー初速度が速くなるほどコ

ンクリートの流動性が向上し、K値も小さくなることが

分かる。

6.吸込み効率の推定

ポンプ圧送性を評価し、コンクリート施工時の打設計

画を詳細に立案する場合には、管内圧力損失K値の推定

に加えて、吸込み効率(ポンプの容積効率ηv3)と同意)

の大きさを考慮することも重要である。特に、高強度コ

ンクリートなど高粘性のコンクリートでは、ポンプ圧送

時の吸込み効率が、時間当たりの吐出量やコンクリート

打設量に大きな影響を及ぼす場合がある。

表-8 K値推定誤差(単位:MPa/m)

図-25 水平管1mあたりの管内圧力損失Kと吐出量の関係

図-24 推定Kと測定Kの関係

図-23 係数Aの検討

図-22 水平圧力損失とLフロー初速度の関係

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そこで、高強度コンクリートの吸込み効率を推定する

ための手法について検討を行なった。なお、吸込み効率

の検討に当たっては、2005年および2006年に行った高強

度コンクリートの実打設時の圧送計測の結果に加え、実

大規模のポンプ圧送実験(Field実験)のうち、高強度コ

ンクリートの結果1)も対象とした。

6.1 調合条件と吸込み効率

吸込み効率と単位セメント量の関係を図-26に示す。

ある程度の相関が認められ、単位セメント量が多くなる

ほど吸込み効率は大きくなる傾向を示している。また、

吸込み効率と水セメント比の関係を図-27に示す。単位

セメント量と同様にある程度の相関が認められ、水セメ

ント比が大きくなるほど吸込み効率が低下する傾向を示

している。

単位セメント量と水セメント比は共にコンクリートの分

離抵抗性に関係の深い調合条件であり、単位セメント量が

多く水セメント比が小さいコンクリートほど分離抵抗性が

高くなり、吸込み効率が高くなったものと推察される。

6.2 フレッシュコンクリートの性状と

吸込み効率

まず、吸込み効率とフレッシュコンクリートの荷卸し

時の試験から得られたスランプフローの関係を図-28に

示す。特に明確な相関関係は認められなかった。

次に、吸込み効率とLフロー初速度の関係を図-29に示

す。年度ごとに層別することによって、ある程度の相関

関係が認められた。これは2005年のデータは単位セメン

ト量が500kg/m3以上、2006年のデータは500kg/m3以下

であり、単位セメント量の違いが吸込み効率に影響を与

えたためと考えられる。なお、Lフロー初速度は、ポン

プに最も近いコンクリートの特性をあらわす値というこ

とを考慮し、荷卸し時の値を用いて検討した。

また、図-30には、吸込み効率と単位容積質量の関係

を示した。図-29と同様にセメント量で層別しているが、

ある程度の相関があることがわかる。これらより、吸込

み効率は、調合条件における水セメント比および単位セ

メント量との間に高い相関があることから、結果として

単位容積質量も相関がある結果となっているものと考え

られる。

6.3 吸込み効率の推定

以上の検討結果から、調合条件を代表するものとして、

水セメント比と単位セメント量を、フレッシュコンクリ

ートの性状を代表するものとしてLフロー初速度を選定

し、それらを説明変数として吸込み効率に関する重回帰

分析を行なった。得られた回帰式を式(8)に示す。分析

の結果、重相関係数はR=0.906となり、高い相関が認め

られた。

吸込み効率=

-0.01739×W/C-0.00049×C+0.00423×Lv (8)

ここに、

W/C:水セメント比(%)

C:単位セメント量(kg/m3)

Lv:Lフロー初速度(cm/sec)

図-28 吸込み効率とスランプフローの関係

図-27 吸込み効率と水セメント比の関係

図-26 吸込み効率と単位セメント量の関係

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式(8)から計算された推定吸込み効率と実測吸込み効

率の関係を図-31に示す。両者は良い相関を示しており、

式(8)を用いることによって吸込み効率の推定が精度良

く行えることが分かった。また、図-32には、推定誤差

の実測値に対する割合と実測吸込み効率の関係を示し

た。実測吸込み効率が高いほど誤差の割合は大きくなっ

ている。

以上の検討結果をまとめて表-9に示す。式(8)により推

定した吸込み効率は、最大でも5%程度の誤差であり、

極めて精度の高い推定が可能であることが分かった。

7.まとめ

使用材料やフレッシュコンクリートの性状がポンプ圧

送性に及ぼす影響、管内圧力損失K値の推定手法などに

ついて検討した結果、以下の知見が得られた。

(1)調合条件の違いがK値に及ぼす影響は、水セメント

比、単位水量および設計スランプ値が小さくなるほど

K値が大きくなることが認められた。

(2)使用材料の違いがK値に及ぼす影響は、細骨材では

改良砕砂を用いた場合に、粗骨材では石灰砕石や山砂

利を用いた場合にK値がやや小さくなる傾向が認めら

れた。

(3)スランプフロー35cm以下のコンクリートについては

水セメント比、セメント量、F/Sおよび単位容積質量

の4つの指標を用い、また、スランプフロー35cm以上

のコンクリートについてはLフロー初速度を用いるこ

とにより、K値を精度良く推定する手法を提案した。

(4)水セメント比、セメント量およびLフロー初速度を用

いて、吸込み効率を精度良く推定する手法を提案した。

【参考文献】

1)大阪生コンクリート圧送協同組合;第2回圧送技術研究会─生コンクリートの性能とポンプ圧送性について─,2005.7.

2)山�順二,立松和彦:京都地区の天然砂利を用いた高強度コンクリートの実構造物への適用とその品質管理,日本建築学会技術報告集,第7号,Vol.114,No.1434,pp.13-16,1999.2.

3)日本建築学会:コンクリートポンプ工法施工指針・同解説,p.31,p.39,1994.

4)大阪生コンクリート圧送協同組合;第1回圧送技術研究会-コンクリートの圧送技術の現状と課題-,2004.7.

表-9 吸い込み効率の推定誤差

図-32 推定誤差割合と実測吸込み効率の関係

図-31 推定吸込み効率と実測吸込み効率の関係

図-30 吸込み効率と単位容積質量の関係

図-29 吸込み効率とLフロー初速度の関係