トレンチ形成におけるエッチング特性とプラズマ物...
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富士時報 Vol.79 No.5 2006
特
集
408(64)
トレンチ形成におけるエッチング特性とプラズマ物性の関係矢嶋 理子(やじま あやこ) 脇本 節子(わきもと せつこ) 市川 幸美(いちかわ ゆきみ)
矢嶋 理子
IC・パワーデバイスのプロセス研究開発に従事。現在,富士電機ア
ドバンストテクノロジー株式会社半導体研究所。応用物理学会会員。
脇本 節子
トレンチエッチング技術,洗浄技術の研究開発に従事。現在,富士電機アドバンストテクノロジー株式会社半導体研究所。応用物理学会会員。
市川 幸美
太陽電池,ウェーハプロセスの開発に従事。現在,富士電機アドバ
ンストテクノロジー株式会社電子デバイス技術センター副センター
長。工学博士。電気学会会員,応用物理学会会員。
まえがき
トレンチ構造は,MOSFET(Metal-Oxide-Semiconduc-tor Field-Effect Transistor)や IGBT(Insulated Gate Bi- polar Transistor),素子絶縁分離,DRAM(Dynamic Ran- dom Access Memory)のキャパシタなど,さまざまなデ
バイスで使用されている。それらのデバイス作製において,
トレンチエッチング形成はキープロセスであり,トレンチ
の深さ,幅,側壁角度などにおいてさまざまな仕様を要求される。こうしたトレンチ形状を制御するためにはトレ
ンチエッチングのメカニズムを解明することが重要である。
また,最近は深いトレンチを使用したデバイスが多く開発されている。このエッチングプロセスを量産に適用するに
は,エッチングレート(ER)を向上させ,スループット
を上げる必要がある。ERは放電パワー(Ws
(1)(2)
)とマスク
パターン(1)(3)
に依存することが知られている。しかし,それら
の依存性についてプラズマ物性の立場から論じた研究は少ない。
本報告ではラングミュアプローブ法を用いてプラズマ診断を行い,プラズマ物性と Wsやパターン依存性について
調べ,それらを説明するための新たなモデルを幾つか提案する。
実 験
2.1 サンプル
実験において,サンプルは(100)面 6インチシリコン
ウェーハを使用した。パターン形成に使用するトレンチマ
スクは熱酸化膜を使用した。ERのパターン依存性を調べ
るため,パターンを変えたサンプルを用意した。
2.2 エッチング条件
トレンチエッチングは ICP(Inductively Coupled Plas-ma)-RIE(Reactive Ion Etching)システムを用いた。
エッチングレシピはCF4ガスを用いた短いブレークスルー
(BT)ステップと,HBr/SF6/O2または SF6/O2混合ガス
を用いたメインエッチング(ME)ステップとから成る。
ME条件は,圧力 3.3Pa,エッチング時間 300 s,バイアス
用高周波(RF)パワー(Wb)一定とし,ERの Ws依存性を調べるために Wsを変化させた。
2.3 計測方法
トレンチ形状の観察は断面 SEM(Scanning Electron Microscope)を使用した。また,イオンや電子の振る舞いを調べるために,高周波による電位変動を補償したラ
ングミュアプローブを使用した。図 1に実験装置の構成を
示す。プローブは,ウェーハ中央の直上 86mmの位置に
セットした。ウェーハとプラズマ間のシースにかかる電圧(1/2Vpp)は,エッチングチャンバに取り付けられたセン
サを使用して計測した。
実験結果と考察
3.1 エッチングレートのWs依存性
まず,ERとプラズマを生成させるための放電電力Ws
の関係について述べる。図 2に ERの Ws依存性を示す。
ME 条件は,SF6 流量 120 sccm(standard cc/min),O2流量 120 sccm,HBr流量 40 sccmである。ERは Wsの増加に伴って増加するが,高Wsにおいては飽和傾向を示す。
ソースパワー13.56MHz
コイル
86mm
ICP-RIE ラングミュアプローブ
ウェーハ
バイアスパワー13.56MHz
図1 実験装置の構成
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この理由を調べるため,ERと正の相関があると考えら
れる電子密度とイオン電流(密度)を測定すると,これら
の諸量は高Wsでも飽和しておらず(図 3),高Wsにおけ
る ERの阻害要因とはならないことが分かる。一方,Vpp
はステージの表面電位を表し(図 4),イオン加速のバイ
アス電圧に比例する量であるが,これは Wsの増加ととも
に減少している。したがって,バイアス電圧の低下が ERの飽和をもたらすことが分かる。
そこで ERの低下する機構を説明するため,エッチング
装置の等価回路を図 4のように考える。ここで,Cc,Cs,
Co,Ct,Ct’,Cs’はそれぞれ,ブロッキングコンデンサ,
ステージ上の絶縁コーティング,マスク酸化膜,シース,
チャンバ壁のシース,チャンバ壁の絶縁コーティング容量であり,Vppはグラウンドとステージの間の電圧である。
Cc,Cs’は大きな容量を持ちインピーダンスは十分に小さ
いために無視でき,また Cs,Coは一定である。
一方,電子密度が増加するにつれてシースが薄くなるた
め,Ct,Ct’は増加する。Wbは一定なのでバイアス高周波振幅はほぼ一定と考えられ,結果として,電子密度の増加とともに Ctに加わる電圧は減少する。すなわち,Wsの
増加につれて Vppが減少することになり,高Wsにおいて
ERが飽和傾向を示す要因の一つとなる。
このほかに,エッチングによる副生成物のトレンチ側壁への付着量が Wsの増加につれて増すことも確認している。
Wsの増加とともに電子密度が増加すると,エッチング生成物が増加するのに対して排気速度は一定であることが原因であると考えられ,エッチングを阻害するもう一つの要因と考えられる。
3.2 エッチングレートのパターン依存性
ERは開口率(ウェーハ面積に対するエッチング領域の
比率)やパターン寸法に依存することが知られている。そ
こで,これらについてもプラズマ物性の観点から調べてみ
ると,以下のことが分かる。
(1) 開口率依存性 図 5にトレンチ ERの開口率依存性を示す。開口率の増加につれて ERが減少する原因として,一般的には次のよ
うな説明がなされている(1)
。
(a) エッチング面積増加によるラジカル消費量の増加 (b) エッチング面に付着する反応生成物の量の増加によ
るエッチングの阻害 しかしプラズマ物性を調べてみると,上記の機構だけ
ではなく,以下のような機構も関与していることが分か
る。図 6に開口率① 0%,② 50%,③ 100%におけるラン
グミュアプローブの I-V特性を示す。ME条件は,SF6流量 30 sccm,O2流量 20 sccm,Ws = 400W,Wb = 0Wで
ある。図 6は,開口率が増加するにつれて電子電流は減少し,正イオン電流は変化しないことを示している。このこ
ER( m/min)
(W)WS
8004000 1,200 1,600
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0
図2 エッチングレートのWs依存性(Wb = 140W)
コーティング表面
チャンバ壁
バイアスRF
ステージ電極シース
Cc
C c
V pp
V pp
C s
C s'
C o C t C t'
プラズマ
図4 RF放電の等価回路
開口率(%)
ER( m/min)
1050 15 20 100
2.01.51.00.50
2.53.03.5
図5 トレンチエッチングレートの開口率依存性
電子密度(/m
3)
イオン電流(×10-20A)
RFピーク電圧(V)
(W)WS
8004000 1,200 1,600
250
200
300
350
400
450
500
0.8×1016
0.6×1016
0.4×1016
0.2×1016
0
1.0×1016
1.2×1016
1.4×1016
1.6×1016
1.8×1016 電子密度
イオン電流
RFピーク電圧
図3 電子密度,イオン電流,RFピーク電圧のWs依存性 (Wb = 140W)
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とは負イオン密度の増加を意味している。正イオンと電子の飽和電流の比率が減少するとプラズマ-ウェーハ間に加わるセルフバイアス電圧が減少する
(4)(5)
。したがって,開口率が増加するにつれてイオンの加速エネルギーが減少し,こ
れも ERが減少する要因の一つと考えられる。
(1) パターン依存性 開口率が同じでも,パターン寸法が異なると ERも変化する。これについて調べるため,図 7(a)に示すような
三つの異なったマスクパターンを用意した。それぞれ①100 µm× 100 µm格子,② 50 µm× 50 µm格子,③ライ
ン &スペース(L/S= 5 µm/5 µm)パターンであり,開
口率はすべて 50%とした。本実験で用いたプラズマのデ
バイ長λDは約 100 µmであり,③の場合にはλDに比べて
パターンははるかに微細である。
図 7(b),(c)にそれぞれマスクパターン①,②,③におけ
るラングミュアプローブの I-V特性,ERを示す。図 7(b)は,①,②,③すべて同じ I-V特性を示し,開口率が同じであれば,ウェーハ上部でのプラズマの状態は同じであ
り,電子温度,電子密度,活性種には変化がないことを示している。図 7(c)のME条件は,SF6流量 120 sccm,O2流量 120 sccm,HBr流量 40 sccmであるが,図に示すよ
うに,パターン③の ERは,パターン①,②よりも大きい。
通常,トレンチ幅が減少するのに従って ERは減少する(3)
。 しかし,今回の結果では,トレンチ幅の広いパターン①,
②の方が,幅の狭いトレンチパターン③よりも ERが低い
結果となった。
図 7(c)の結果は,次のように解釈することができる。
(a) ウェーハの全表面が熱酸化膜によって覆われている
ときはシース厚は一様であり,図 8(a)のようなプロー
ブ(I-V)特性を動特性として自己バイアスが発生す
る(4)(5)
。
(b) 全表面がシリコンの場合,シリコンの方が熱酸化膜よりも二次電子放出係数(γ係数)が大きいと考えら
れるので,二次電子放出が見かけ上のイオン電流増加に寄与する。そして,プローブ特性のプラズマ浮遊電位(Vf)は図 8(b)のようにプラズマ空間電位側,すな
わち高電位側へシフトする。結果として,図 9に示す
ように,イオンを加速するエネルギーが減少する。
②
電位(V)
電流(×10-3A)
0-20-40 20 40
1.0
0.5
0
1.5
2.0
2.5
①
③
①開口率 0%②開口率 50%③開口率 100%
図6 ラングミュアプローブI-V 特性の開口率依存性
電位(V)
ER( m/min)
電流(×10-3A)
(a)マスクパターン
(b)ラングミュアプローブ - 特性のパターン依存性
(c)トレンチエッチングレートのパターン依存性
① ② ③
②① ③
0-20-40 20 40
1.50
1.45
1.55
1.60
1.65
1.70
1.75
1.0
0.5
0
1.5
2.0①,②,③
VI
図7 トレンチエッチングのマスクパターン依存性
電子電流
ステージ電流
ステージ電流
プラズマ
プラズマ
プラズマ
シース
シース
シース
SiO2
SiO2
Si
放出による電子電流
イオン電流
(二次電子放出なし)V f
(二次電子放出なし)V f
(二次電子放出あり)V f
Si
プラズマ
シース
SiSi
(a)全表面がSiO2に覆われたとき
(b)全表面がSiのとき
(c)パターン周期>プラズマデバイ長
(d)パターン周期<プラズマデバイ長
図8 ステージI-V 特性
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(c) 図 8(c)のようにパターン周期がデバイ長と同等,も
しくは長いとき(図 7(a)①,②に相当),シースはパ
ターンに追従する。このとき,表面が熱酸化膜に覆わ
れた部分のプローブ特性は図 8(a)となり,表面がシリ
コン部分の特性は図 8(b)となる。
(d) パターン周期がデバイ長よりも短いとき(図 7(a)③に相当),シースはマスクパターンに追従せず,図 8
(d)に示すように図 8(a)と(b)の平均を示す。この場合,
シリコン表面における Vfは Vsを基準として図 8(b)よりもマイナス側へシフトし,イオンを加速するエネル
ギーが増加する。
結果として,パターン図 7(a)③のシリコン露出面に加わ
るバイアス電圧はパターン図 7(a)①,②よりも大きくなる。
上で提案したモデルは,従来あまり着目されていなかっ
たエッチング表面からの二次電子放出がバイアスに及ぼ
す効果を定性的に説明したものである。図 7(c)におけるパ
ターン①,②,③の ERの差は,上記の二次電子放出効果
で説明できるが,より詳細な実験により検証する必要があ
る。
あとがき
誘導結合型プラズマ(ICP)エッチャにおいて,ERに
対する Wsとパターンの依存性についてプラズマ物性を調べ,そのメカニズムを考察した。トレンチエッチングの制御性を上げることは,今後ますます重要になってくる。富士電機は精密なエッチング制御を目的として,いまだよく
分かっていないエッチングメカニズム解明の研究を進めて
いく所存である。
終わりに,本研究を行うにあたり,実験ならびに解析に
おいて多大なる助言をいただいた武蔵工業大学の松村昭作教授に感謝する次第である。
参考文献
(1) Cabrujya, E. ; Schreiner, M. Deep trenches in silicon using photoresist as a mask. Sensors and Actuators A. 37-38,
1993, p.766-771.
(2) Vyvoda, M. A. el al. Effects of plasma conditions on the shapes of features etched in Cl2 and HBr plasmas. I. Bulk
crystalline silicon etching. J. Vac. Sci. Technol. A vol.16,
no.6, 1998-11/12, p.3247-3258.
(3) Cooper, K. et al. Magnetically enhanced RIE etching of submicron silicon trenches. SPIE. vol.1392, Advanced
Techniques for Integrated Circuit Processing. 1990 ,
p.253-264.
(4) 市川幸美ほか.プラズマ半導体プロセス工学.内田老鶴圃.
2003-7.
(5) Lieberman, M. ; Lichetenberg, A. プラズマ/プロセスの原
理.EDリサーチ社.2001-11.
セルフバイアス小
セルフバイアス大
RF電流
プラズマ電位
バイアス電圧
V
t
t
I
γ係数大
図9 二次電子放出効果によるセルフバイアス電圧変化
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* 本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。