ヘッドスタートに学ぶ...56 -であり、’九七...
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一九六○年代以降〔資本主義諸国では、教育の機会均
等を実質化することを通じて社会経済的不平等を是正し
ようとする政策が本格化した。いわゆる補償教育(S三-
℃①ロの臼○二①90畳。ご)政策である。米国のヘッドスター
ト(国の己⑩己[庁)や英国の教育優先地域(団目、昌・三]
弓国・国旦少局①諾)計画は、こうした政策の代表例である。
この時期、日本でも「特措法」が制定され、奨学金制度
や同和加配教員の拡充がはかられ、学力と進路の保障を
めざす同和教育の実践が本格化した。
それから約三○年。教育を通じて不平等を是正しよう
という政策は、成功したとはいいがたい。この間行われ
てきた内外の実証研究は、社会における貧富の差が固定
論文
はじめに
ヘッドスタートに学ぶ
化ないし拡大傾向にあることを示している。曰本でも一
九八○年代後半以降、西曰本を中心に同和地区の子ども
の学力や生活状況にかんする調査が盛んに行われている
が、これらの調査結果は、同和地区の子どもの「低学力」
問題が依然として解決されていないことを示している。
「学力不振、進学機会の制約やドロップアウト、社会経
済的低位性」という悪循環の構造は、洋の東西を問わず
根強く存在し続けているのである。
従来、同和教育・保育の関係者の間では、補償教育政
策の理論的根拠であった文化剥奪論への批判が根強く、
また、この政策の失敗を示唆する実証的研究がいくつも
現れたこともあって、補償教育に関心がむけられること
は少なかった。だが、近年は、学力向上や地域における
子育て支援の課題と関わって、補償教育への関心が高ま
っているようである。
高田-宏
トに学ぶヘッドスタ55
本稿で紹介するヘッドスタートは、ジョンソン政権下
の米国で「貧困との闘い(二四二口而三①【q)」政策の一
環としてはじまった就学前教育・福祉プログラムである。
ヘッドスタートは一時期その効果が疑問視されていた
が、一九九○年代以降、人種・民族間の対立や貧困問題
の再燃、「卓越性」を強調する教育改革の動きの中で急
速に拡充されている。最近では、初等学校以後のプログ
ラムをヘッドスタートと同様の考えにたって進めたり、
ヘッドスタートと学校教育の連携を強化する政策もとら
れるようになっている。
現在、ヘッドスタートは、厚生省の児童青年家庭局
(シQ三宮宮室はopopO亘一Q局①ご》閂○二げこQ可四三]]』①の)
の所管下にある。連邦政府は、一定の要件を満たした被
交付組織(ぬニニ①の)に補助金を交付し、地方事務所を拠
点としてプログラム開発やスタッフ訓練の支援を行い、
プログーフムが適正に実施されているかを監視することに
なっている。補助金を交付されるヘッドスタート組織は、
1家族支援としてのヘッドスタート
一ヘッドスタートとは何か
民間非営利組織、コミューーティアクションの機関、公立
学校など多彩であるが、各地域の--1ズに配慮して自主
的にプログラムを開発し運営することになっている。つ
まり、連邦政府の役割は、財政基盤ならびにプログラム
の質の確保であり、組織のあり方やプログラムの開発な
らびに実施に関しては、各ヘッドスタート組織に大きな
自由裁量が認められているのである。連邦政府は次のよ
うに述べている(缶Q三三の(&は。□・ロ○三Q【①ご》目・ロ&
邑旦司口已邑】①の巴c、)。
米国で最も成功した就学前プログラムの一つとならしめ
た。非営利組織や学校システムに基盤をおく約一四○○
のコミューーティは、各々の独自のニーズを満たすユーーー
クで革新的なプログラムを開発している」。
ヘッドスタートの中心課題は、貧困層の就学前児童に
早期に学校教育の準備をはじめさせ、就学後の学業不振
を防止することにある。だが、ヘッドスタートのねらい
はアカデミックな面に限定されるものではない。例えば、
エール大学で心理学教授をつとめ、ヘッドスタートの開
始にあたって設置された「ヘッドスタート企画立案委員
会(国①四Qの画[(勺]四三旨㈹0.三三二①①)」の構成メンバ
臼Q司口Hご』]肘の骨@cm)。
「プログラムの肝要の点は、親とコミューーティの関与
(旨く○}『①三①亘)であり、このことが、ヘッドスタートを
56
-であり、’九七○年代前半にヘッドスタートを管轄し
ていた児童発達局(○霊、①。【○三Q□①ぐ①]・己三①三)の長
であったジグラーは、次のように述べている(N垣①【囚己
三口①ごso雪ご缶)己・〆・)。
「我々は、ヘッドスタートは教育プログラムをはるか
に超えるものであり、その成功の多くは、その総合的な
医療および家族支援サービスに帰することができると主
張する。しかし、教育を、アカデミックな教授という狭
い意味ではなく、子どもの養育(gび国口、ご伽・【O三s①ご)
を含むよう広い意味で定義すれば、ヘッドスタートは、
米国の最も重要な教育の実験である。我々は、このよう
な広い意味において、年少児の教育が国家の重要課題に
なったのだと確信する」。
ジグラーのいう「広い意味での」教育とは、どのよう
なものなのだろうか。連邦政府は、ヘッドスタートは、
教育、保健(ず①囚]岳)、親の関与(b弩①ご豆三・」ご①三①亘)、
ソーシャルサービスという四つの柱からなるとしている
(シQ己旨宮三は○ご【CHO毎]Q【①ロニ旦司四三』屋①の』毛函)。
・教育亜ヘッドスタートの教育プログラムは、子ども、
コミューーティ、そしてそれらの民族的・文化的特色
に由来するニーズを満たすようデザインされる。子
ども一人ひとりは、知的・社会的・情緒的成長を促
進するさまざまな学習経験を提供される。
・保健叩ヘッドスタートは子どもの健康問題を早期に
発見することを重視している。子ども一人ひとりは、
予防接種、内科、歯科、精神医療、栄養補給を含む
総合的な保健医療プログラムに参加する。
・親の関与函ヘッドスタートの本質的要素は、親教育
(己昌①員①旦巨、昌一・ロ)とプログラムの計画および運
営への参加である。多くの親が政策評議会(己。}]e
Oo三口]の)や委員会(S三三茸①①の)の構成員として
働いており、管理ならびに運営上の意志決定に発言
権をもつ。親は、子どものクラスや子どもの発達に
関するワークショップに参加したり、家庭訪問を受
けることによって、子どものニーズや家庭での教育
活動について学ぶことができる。
・ソーシャルサービス卵各家族のニーズが明らかにさ
れたのち、具体的なサービスが各家庭の事情に応じ
て提供される。サービスは次のような内容である。
スタッフが地域に出向き、登録の推薦をし、家族の
ニーズを評価し、子どもを登録しプログラムに参加
させること、緊急支援および、または危機への介入。
ヘッドスタートは単なる就学前教育プログラムではな
い。それは、保護者の関与をうながしつつ展開される総
トに学ぶヘッドスタ57
合的な家族支援プログラムである。だが、政策の開始当
初、”ヘッドスタートに関する調査研究の焦点は短期的な
教育効果に集中し、他の側面に関する調査研究はごくわ
ずかであった。そして、教育面におけるヘッドスタート
の効果を疑問視する見解が有力になるにつれ、この政策
への支持は急速に失われていった。初期の調査研究が再
検討され、ヘッドスタートの長期的、総合的な効果に関
する調査研究が行われるようになったのは、一九七○年
代末以降のことであった。
図1は、ヘッドスタートへの連邦政府の支出ならびに
参加児童数の推移である。参加児童数からみると、ヘッ
ドスタートが開始された一九六五年度から一九六九年度
までは、六○万人から七○万人程度である。その後、一
九七○年代に入ると参加児童数は急減し、’九七七年に
は三○万人近くまで減少する。その後、一九八○年代ま
で参加児童数は大きくは増えないが、’九九○年代に入
ると、一転して参加児童数は急増し、現在の参加児童数
は約八○万人となっている。連邦政府の支出も、とくに
一九九○年代に入ってからの伸びが顕著である。このよ
うに規模の面から見るとヘッドスタートの政策展開は、
2ヘッドスタートの現状
図1ヘツドスタートの参加児童数と連邦の支出額
叩咽噸
噸魍加
加川川棚咽加川川川血
川川川加川川加川川叩
汕川柳川”剛泗Ⅷ伽”
迫邦の支出頓(ドル)
Ⅲ
m
m
m
伽皿
0
噸瓢
如切
切肌
3
2
◆加児宜敷〈人)
■
◆ 夕
少◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ぃタマ・~つつ一-.M
0
1111111111111111111111111111111111 9999999999999999999999999999999999 6666677777777778888888888999999999 567890123456789012.3456789012345678
一●加児宜敷一◆-連邦の支出餌
58
一九六○年代、’九七○年代から一九八○年代、一九九
○年代以降の三つの時期に区分できるように思われる。
表1から表4は、連邦政府の支出の内訳とヘッドスタ
ート組織の現状をしめしている。支出のほとんどが各ヘ
ッドスタート組織への交付金であるが、スタッフの訓練
や調査研究の補助金にも、多額の予算が割かれている。
ヘッドスタート組織のあり方は多彩であり、民間の非営
利組織が大きな比重を占めていることが注目される。プ
ログラムが提供される時間をみると、保護者のフルタイ
ム就労の前提条件と思われる週五曰、一日六時間以上は、
一三%にとどまる。一九九六年の福祉改革で、貧困家庭
への児童手当(シ]9(・可四三国①の三岳ロ①己①己①曰O三‐
&①ご)が廃止され、就労を促進する法律(勺①Hの○三]
閃①の□・口の三]ご囚己二・具○℃b・再三ご肉①no己」畳。ご
シg)が制定されたが、これ以降、フルタイムのプログラ
ムの提供が以前にもまして重要な課題になっている。
表5から表8は、参加児童の家庭背景や属性をしめし
ている。ヘッドスタートに参加する資格のある児童は、
政府の定めた「貧困線」を下回る所得の家庭の子どもで
(1)
あり、キンダーガーテンクーフスに入る前の四歳児と一一一歳
児が中心である。また、一九七五年の障害児教育法成立
以後、障害児が参加児の一○%以上になるよう定められ
表1連邦政府の支出(98年度)
各地のヘツドスタートプロジェクトへの交付州、海外領土のプロジェクト
先住民、季節労働者むけのプログラム3,948,956,809
283,476,265
小計
支援活動
スタッフの訓練、技術的支援、障害児の特別プログラム
調査、デモンストレーション、評価モニター、プログラムのレビュー
4,232,433,074
90,100,000
12,000,000
12,900,000
小計 115,000,000
合計4,347,433,074(約43億5千万ドル)
※98年度の参加児童数は822,316人、連邦の交付金を受ける組織の数は1,513である。
また、有給スタッフは167,130人、ボランティアのスタッフは1,389,715人である。
59ヘッドスタートに学ぶ
表3プログラムの時間(93年)表2連邦の交付金を受ける組織(93年)
コミュニティアクションの組織35.4%
(communityactionagency)
民間非営利組織35.1%
(privatenon-profit)
学校(schools)18.8%
地方政府(localgovernInent)55%インディアン居留区53%
(IndianTribes)
%%%%
5528
332
週5曰未満
週5曰、1日6時間未満
週5曰、1曰6時間以上
家庭で(homebased)
表4連邦の交付金の支出内訳(92年)
教育414%
管理13.2%
スタッフの雇用13.1%
保健・栄養補給8.5%
移動7.9%
ソーシャル・サービス5.2%
親の参加4.2%
障害児むけサービス3.0%
その他3.5%
表5児童の年齢内訳(93年→97年)
5歳以上7%→6%
4歳63%→60%
3歳27%→30%
3歳未満3%→4%
表6児童の人種/民族内訳(93年→97年)
黒人37%→36%
白人33%→31%
ヒスパニック23%→26%
アメリカン・インディアン4%→4%
アジア系3%→3%
表7児童の保護者(93年)
2人親41%
1人親55%
養親(fostercare)1%
その他3%
表8保護者の就労状況(93年)
就労してない(unemployed)フルタイム
パートタイム
季節労働者(seasonal)
職業訓練中
引退/障害者
%%%%%%
539652
43
60
ている。政府は、九三年時点で、有資格者のうち、ヘッ
ドスタートに参加している児童は、三歳児で一一一%、四
歳児で五三%と推計していた。また、九六年時点のある
推計では、三歳および四歳児の有資格者のうち、ヘッド
スタートに参加しているのは三八%であるという
e①ぐぢ①]》向}三・・Q四己伊・ぐ①》」毛『》□□・]○]Iご←・)。参
加児童の内訳を見ると、半数以上が一人親家庭であり、
白人が約三割、残りはマイノリティの子どもたちである。
また、保護者がフルタイムの仕事に従事している家庭は
約三分の一、何らかの理由で就労していない家庭が約半
(2)
数である。
規模の面から見ると、一九七○年代から一九八○年代
にかけてヘッドスタートは停滞していた。だが、年表に
しめすように、この時期、ヘッドスタートの内容は大き
く変化している。
第一は、プログラムの長期化である。ヘッドスタート
は、初年度、夏期のみの短期プログラムとして実施され
た。後述する『ウェスティングハウス報告』で短期プロ
グラムに効果が認められないことが明らかになると、’
九七○年代のはじめには通年プログラムが主流となっ
3初期の評価とその後の改善
年表1964
1965
1966
1967
1969
1970
〔経済機会法〕、〔公民権法〕1965へツドスタート開始、〔初等中等教育法〕1966<コールマン報告>
1967【親子センター】や【フォロースルー】を盛り込んだ経済機会法の改正1969<ウェスティングハウスレポート>
1970【児童発達局(OfficeofChildDevelopment)】新設。フォロー・スルーは教育局、親子センターは児童発達局の所管に。
1972【児童発達士】養成プログラム創設。1973全国へツドスタート協会(NationalHeadStartAssociation)設立1975障害児教育法、〔ヘツドスタート実施基準〕公表1979教育省設立。ヘッドスタートは厚生省の管轄に1985<TheIInpactofHeadStartonChilderen,FamiliesandCommunities.> 1988教育省の事業として、成人基礎教育や親教育を提供するEvenStartが始まる1990乳児と妊産婦向けの実施基準を公表(ProgramPerformanceStandardsfor
HeadStartPrograrnsServinglnfants,Toddlers,andPregnantWomen) 1991スクールレディネス法(ScoolReadinessActofl991)議会を通過1992ヘッドスタート参加児の弟妹にもヘルスサーピスを行うよう議会が勧告1993ヘッドスタートの拡充に関する委員会報告
<CreatingaTwenty-firstCenturyHeadStart> 1994〔ヘッドスタート法〕改正【早期ヘッドスタート】開始1996〔ヘッドスタート実施基準〕の改定(早期ヘッドスタート等の基準)〔〕法律・法令.【】ヘッドスタートの改善く>主な報告書
トに学ぶヘッドスタ61
たC現在では短期プログラムは廃止されている。
第二は、質の底上げである。とくに、一九七○年代に
導入されたプログラム実施基準(弓『・伽三三勺①瓜・【三四口、①
のごpgaの)と児童発達士(O亘]Q□①『①]○℃己①昌少のmoQ‐
胃の)の資格制度は、重要である。ヘッドスタートのプロ
グラムを実施するのは、連邦政府から補助金を受ける各
地域の組織であるが、質のばらつきは開始当初からの大
問題であった。実施基準は、この問題を解決するために
設けられた。実施基準を満たさない組織は、補助金をう
ち切られることもある。実施基準はいくたびか改訂され、
最新版は一九九六年二月のものである。児童発達士の
資格は、有償スタッフの実務能力を向上させるために設
けられたものである。ボランティアとしてヘッドスター
トにかかわる保護者にもこの資格の取得が奨励されてお
り、保護者の職業訓練や一雇用確保に果たしてきた役割も
大きい。
第三は、「デモンストレーション。プログラム」とよば
れる実験的プログラムがいくつも実施されたことであ
る。その代表例は、通常のプログラムに加えて、妊産婦
や三歳未満の子どもとその親を対象とするプログラムを
提供する親子センター(O三。口己勺弩①昌○の三①H)事業
や、さまざまな困難に直面する家族にソーシャルサーピ
スを提供するOニロロ&同国昌一『用①mopHOの勺ご伽三三な
ど(一九八三年に廃止)である。また、現在は教育省の
所管となっているが、ヘッドスタート修了児を対象とし
た、小学三年生までの教育プログラムとしてフォロース
ルー(句。]]・二目冑・ロ召)が一九六八年以来行われてい
る。これらのプログラムの対象者は少なく、その直接的
な効果は限られているが、ヘッドスタートを改善するた
めの知見を提供してきた。
ヘッドスタートの政策展開に、マイノリティ集団の政
治運動と世論の動向、時の政府の政治姿勢、大統領と議
会の関係など、狭義の政治的要因が影響していることは
確かである。だが、それ以上に重要なのは、プログラム
の効果に関する調査研究の存在である。政府機関はヘッ
ドスタートに関する報告書をいく度か公表しており、非
政府組織や研究者グループによる調査研究も膨大な数に
のぼる。それらのうち、後の政策や研究に大きな影響を
与えた政府関係の報告書を以下にあげておく。
一一ヘッドスタートに関する調査研究
62
カーター大統領の求めに応じて、ヘッドスタート一五
年間の成果と課題をまとめた報告書である。この報告書
では、一九七○年代なかば以降現れたヘッドスタートの
効果に関する研究を回顧し、保健サービス、学業達成、
家庭での保護者の養育、保護者のキャリア開発などの面
主に子どもの認知発達に焦点をあてたものであり、ヘッ
ドスタートの総合的な効果を評価するものではなかっ
た。だが、ヘッドスタートに参加した時にみられた認知
的能力の向上の効果が小学校入学後まもなく消失すると
いう調査結果は、政策開始時の期待を裏切るものであっ
た。調査結果は通年プログラムにいくぶんかの肯定的効
果があることをしめし、専門家からはサンプリングに重
大な欠陥があるとの批判も出た。しかし、当時、補償教
育の効果に疑問がもたれていたことも影響して、報告書
公表後は、ヘッドスタートの効果を否定する見解が有力
となった(三①の言召・口の①F①昌口㈹○・・℃①量は○二@$)。
ヘッドスタートに関する初の全国調査の報告書であ
る。この調査はヘッドスタートのさまざまな側面のうち、
2『八○年代のヘッドスタート』
1「ウェスティングハウス報告」
現在のヘッドスタートを方向づけることになった報告
書である。全国のヘッドスタートの実施状況をふまえて、
スタッフの資質向上、ヘッドスタートと学校の連携の強
化、「二世代プログラム」とよばれる保護者むけプログラ
ムの充実などを提言している。また、アカウンタピリテ
ィを強調し、プログラムの効果を評価する指標(厚・‐
ぬ三三句①H【・【三三・①三①四m言①の)を開発するよう、厚生省
に求めている。この報告書を受けて、学齢期への移行プ
ロジェクト(目三口の昼。ご印・]①R)が本格化し、妊産婦や
三歳未満児とその保護者を対象とする早期ヘッドスター
一九八○年の報告書と同様、ヘッドスタートの効果を
総合的に評価している。学業達成に関しては、ヘッドス
タート参加児は高校のドロップ・アウト率が低いことや
特殊教育クラスに入る者が少ないことなどが明らかにさ
れているe①己四再三①亘○帛国①四一号囚ごQ出口三二の①二]、①の
骨①、⑰)o
で」、ヘッドスタートが長期的な成果をあげたとしている
(□①b四再三①二○{国①四]弓四口Q国巨三口どののご』O①のこぎ)。
4コ一一世紀のヘッドスタートの創造』
3「子ども、家族、コミュニティへの影響」
トに学ぶ63 ヘッドスタ
ト(同囚1国西①ロロ⑩己耳)も開始されたe①宮三口①ロ(・[
国①四一(ロロョ四二三二の①三』、①の』毛』)。厚生省からは、効
果を評価する指標に関わる調査の中間報告書が、これま
でに一一回公表されているe①己【曰〕①昌・【国①囚一吾四己
西口三四口の①HaO①のど二)]毛、)。
ヘッドスタートは、連邦政府においては厚生省が所管
しへ補助金は各地域のヘッドスタート組織に直接交付さ
れている。各地のヘッドスタート組織の中では、民間非
営利団体が大きな位置を占めており、保護者の参画やプ
ログラムの運営に関する意志決定への関与が強調されて
いる。このような実施形態は、各家庭の一一-ズに柔軟に
対応する総合的なプログラムの提供を可能にするもので
ある。各家庭が必要とする支援は、子どもの保育・教育
だけではない。メンタル・ケアを含めた保健医療、成人
基礎教育や職業訓練、親教育、経済的サポート、家庭内
暴力や児童虐待への対応など、多岐にわたる。そうした
一一-ズに対応して、ヘッドスタートは、当事者参加を促
しつつ地域レベルで教育と福祉の統合をはかる家族支援
プログラムとして展開されてきたのである。
三ヘッドスタートから何を学ぶか
このことと関わって、われわれがヘッドスタートに学
ぶべきことは少なくないように思う。同和保育・教育に
おいては、家庭、地域、学校園所の「連携」の大切さが
いわれてきた。しかし、その「連携」の内実はいかなる
ものであったか。隣保館(解放会館)、児童館・教育集会
所(青少年会館)、保育所、幼稚園、学校、診療所などの
施設間の連携は十分にとれているだろうか。小中学校の
連携が比較的進んでいるのに比べ就学前・就学後の連
携は弱いのではないか。子育てに困難を抱える家庭に対
する支援は、上述した機関や個人がバラバラに行ってい
るというのが実状ではないか。保護者や地域住民の「参
加」はどうか。対行政の要求運動(これ自体は必要なこ
とであるが)以外の場面で当事者のボランタリーな活動
はどれほど行われてきただろうか。
米国の貧困問題の現状は、ヘッドスタートが貧困に対
する「勝利」をもたらすものではなかったことをしめし
ている。好景気に沸く米国ではあるが、社会における貧
富の差は今なお大きく、マイノリティ集団と白人の社会
経済的格差は近年固定化ないし拡大する傾向にある。ヘ
ッドスタートへの参加は有資格者の一部にとどまってお
り、参加児童の学業成績や教育達成も、ミドルクラス出
身の子どもを凌駕しているわけではない。ヘッドスター
64
卜の成果を好意的に評価するにしても、次の見解が妥当
なところであろう(N侭]①H囚己のご【、。』毛@℃.]令・)。
「我々は奇跡を期待するべきではない。早期の介入
(]三①三①貝】・ロ)は、子どもの就学準備を助け、家族の機
能のある側面を強化することができる。しかし、早期の
介入は、貧困を根絶したり、公教育システムをオーバー
ホールしたり、強力な国家経済を保障したりはできない
のである」。
教育を通じて不平等を是正し貧困を撲滅するという
「貧困との闘い」は、敗北に終わったかのようにみえる。
しかし、教育が完全に無力だったというわけではない。
教育には何ができ、何ができないのか。家庭、教育機関、
就学前と就学後の取り組みを接続するためにはどうすれ
ばよいのか。素朴な楽観論と悲観論を排した冷静な議論
が求められている。そうした議論は、信頼に足るデータ
に依拠したとき、はじめて可能になる。ヘッドスタート
においては、効果評価の手続きがあらかじめ組み込まれ
た実験的プログラムがいくつも行われており、アクショ
ンリサーチが盛んである。『ウェスティングハウス報告』
以後、大規模な調査も何年かごとに行われている。これ
らの調査の詳細は、機会を改めて詳しく紹介したい。
教育には何ができ、何ができないのか。家庭、教育機雫
福祉機関はそれぞれどのような役割を担うべきなのか
。
それにしても、日本の同和教育・保育における実証的
研究は立ち後れているといわざるを得ない。調査研究を
めぐる日米のちがいは、主には、曰本では教育における
不平等の問題が社会一般で(そして研究者の間でも)関
心をもたれてこなかったために生じている。くわえて、
社会科学的な調査が政策立案や実践に寄与することが期
待されてこなかったという事情もある。「現場」と「研究」
の断絶である。同和教育や保育に関わる調査が盛んにな
りつつある今だからこそ、研究者としては、実証的な証
拠にもとづいた政策提一一一一口を軽視していないか、調査研究
が「業績稼ぎ」の手段に堕していないか、反省してみる
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67 ヘッドスタ トに学ぶ
本稿は、拙稿「ヘッドスタートの研究lその歴史と今曰的評
価」(『姫路工業大学環境人間学部研究報告」第二号、二○○○
年)を下じきにしている。同和教育・保育の側からの補償教育
政策の評価などについて、本稿よりもくわしく検討している
ので、あわせてご覧いただければ幸いである。
追「HU
一三口子どものエンパワメントと教育
。』『》》》》州》蹄》》》》》》密墹》|部落解放・人権研究所編