ブレグジット交渉の現状と対応の方向性 - meti...•...
TRANSCRIPT
ブレグジット交渉の現状と対応の方向性
平成30年8月経済産業省
2016年6月23日 EU離脱をめぐる国民投票において、「離脱」派が過半数を獲得
2017年3月29日 英国が、欧州連合条約第50条に基づき、EUに対して離脱を正式通知6月19日 英EU間の交渉開始
12月15日 第1段階の交渉に合意
2018年3月22日 2020年末までの「移行期間」の設置を含む、「離脱協定」の一部に合意
残る論点は、①司法手続、②アイルランド問題、③将来枠組み等7月 6日 英国閣僚会合で、将来枠組みについての交渉方針※に合意
※物品についての「自由貿易地域」の創設等7月19日 欧州委員会は「クリフエッジ」の可能性が排除できず、あらゆる結果を
考慮して対応することを求める文書を発表(離脱協定の批准手続を考慮すると、2018年10月までの合意が一つの目途)
2019年3月30日 英国のEU離脱
英国の欧州離脱に係る経緯
1
【市民の権利保障】• 離脱協定の市民の権利については、離脱日までの欧州司法裁判所(ECJ)の判例に
沿って解釈。• 英国は、市民の権利に関するECJ判決に妥当な考慮を払うメカニズムを8年間維持。
【アイルランド国境問題】• 英EUは、1998年4月のベルファスト合意を維持。• 英国は、南北アイルランド間の国境措置を回避。不可能な場合には英国は具体的な
解決方法を提案。合意に至らない場合には、英国は域内市場と関税同盟の規則との完全な調和を維持し、南北アイルランド間に新たな規制や国境措置を導入しないことを保証。
【財政負担】• 英国は2020年予算までの拠出と2020年末までに発生した債務等について分担。※支払スケジュール・方法は、第2段階で議論。
第1段階の合意(2017年12月)
2017年12月、英国政府及び欧州委員会は、ブレクジット交渉の第1段階の合意に至ったことを公表。①在英EU市民・在EU英国市民の権利保障、②アイルランドとの国境問題、③財政問題の解決(清算)について合意。※アイルランドとの国境問題についての詳細は、第2段階に積み残し。
合意のポイント
2
離脱協定案の公表(2018年3月)
• 移行期間の設置に合意(2019年3月30日~2020年12月31日)
• 移行期間中、EU法を英国にも適用(=英国は関税同盟及び単一市場に残留)、また、
英国は、EUと第三国との国際協定上の義務を負う。
• 英国は、通商協定を含むEUの排他的権限に関する国際条約について、移行期間中にEUの第三国と交渉、署名、批准可能。ただし、EUが認めない限り発効せず。
• 移行期間終了までに英国及びEUに入国する市民、労働者は全ての権利義務を維持
• 英国は、2020年までの財政負担を負う。
離脱協定案のポイント(移行期間関係)
本年3月、英EUは移行期間の設置を含む「離脱協定案」を公表。
残された論点
• 移行期間中の司法手続(欧州司法裁判所の管轄権)
• アイルランド問題
※英国の立場:アイルランドにおける「ハードボーダー」は排除する一方、関税や規制に
関する境界を設けることで、英国自身の単一市場の分断も受け入れず。
※EUの立場:交渉で解決または特例措置が講じられない場合には、移行期間終了後も
北アイルランドのみは関税同盟に残留。
3
※EUの括弧内のパラは補完的交渉指令英EUの将来関係についての英国の交渉方針(2018年7月12日)
7月12日、英国政府は、英EU将来関係についての交渉方針である「離脱白書」を公表。
• 英EUは、農産品・食品を含む全ての物品について共通のルールブックを維持。サービスについては、物品とは異なる取決を追求。
• 英EUは、国家補助に関する共通のルールを適用し、環境、気候変動、雇用、消費者保護等に係る高度な規制水準を維持。
• 英EUと共通のルールブックを適用し続ける分野において、英国はEU判例法に妥当な考慮を払いつつ、英国は英国裁判所にて判断を行う。
• 英国とEUが結合された関税地域であるかのように、通関検査を免除する円滑化された「通関取決」の導入に向けて作業。英国は、英国を仕向地とする物品には英国の関税・通商政策を、EUを最終仕向地とする物品にはEUの関税・貿易政策を適用。
英国提案のポイント
• 物品については自由な移動を維持し、人とサービスについては移動の自由を停止する英国提案は、単一市場の基盤を損なう。
• 交渉は良い結果に到達できる。EUの原則を尊重しつつ、新しい野心的なパートナーシップを創設することは可能。
EU側反応(バルニエ首席交渉官・8月2日)
• 英国政府が結論に至ったことに歓迎。特に、物品について『自由貿易地域』を目指すことにしたことは良いニュース。EU側も柔軟性をもってオープンに受け止めてほしい。
英国産業連盟の反応(7月20日)
4
今後想定されるシナリオ
離脱協定に係る交渉は、本年10月頃が妥結の目途。仮に合意に至ったとしても、英E
U双方での批准手続が必要。
離脱協定に係る交渉
離脱協定に合意 合意せず
①「No-Deal」?②交渉期間延長?③英国の再国民投票?
英EUとも批准 批准せず
2020年末まで
2019年3月30日移行期間開始
正式離脱
2018年10月頃?
5
機密性○英国のEU離脱に備えたEUの対応①
• 全ての関係者に対して、英国の離脱に備え必要な対策をとることを求める。
• EU離脱について、以下の二つのあり得べきシナリオに備えることが必要。
(シナリオ①):離脱協定に合意(=移行期間あり)
(シナリオ②):「No-deal」又は「Cliff-edge」• 対策の実施・不測の事態に備えた計画(コンティンジェンシープラン)の必要性を指摘。
• 民間事業者には、 「No-deal」(シナリオ②)に備え、2019年3月までに、事業への影響の
評価、必要な手順の決定等の必要性を指摘。
• 欧州委員会として、EU関税割当の英国・EU間での配分の決定、EU関連機関の移設
等、必要となる法規制面での対応の概要を指定。
• これに加え、加盟国政府が実施している対応事例を紹介。
7月19日,欧州委員会は,英国のEU離脱に対する備えるよう要請する文書を公表。
欧州委員会文書のポイント
6
英国のEU離脱に備えたEUの対応②
• EU外の製造者は、英国の離脱以降、規制当局への申請のために、英国以外のEU2
7か国に設立された代表者を持つことが必要。
例①:自動車型式認証
2018年春、欧州委員会は、ブレクジットに関して、分野別ステークホルダーへの通知
文書(約70分野)を公表。民間企業の対応として欧州委員会が提示した内容は以下の
通り。
• 販売許可を得る法人は、EU(若しくはEEA)内に設立される必要あり。
• 販売後の安全性に関する監視等はEU(若しくはEEA)内で設立された者が行う必要
あり
例②:医薬品・医療機器
• 英国のEU離脱に伴い、個人情報保護のEU27か国からEUへの移転に、一定の手
続きが必要となる。
例③:個人データ保護
7
No-Dealを巡る各国要人の反応
フォックス英国国際貿易大臣:
• 英国が「No-Deal」のままEUから離脱する確率は60%(8月5日)
• 交渉期限の延長は認められない(7月27日)
イングランド銀行カーニー総裁(8月3日):
• 「No-Deal」のリスクは不快なほど高い(uncomfortably high)
ボンバルディア社北アイルランド支社長(8月6日):
• 「No-Deal」は、必要となる在庫の積み増しにより、北アイルランドでの同社ビジネスに
3000万ポンドのコスト増につながる
英国自動車製造販売者協会(SMMT)(7月):
• 「No-Deal」は英国だけでなく、欧州の経済に深刻な影響を与える
No dealの可能性も排除されない中で、各国要人の発言も相次いでいる。
レオバラッカー・アイルランド首相(7月24日):
• No dealよりは、(3月の離脱期限の)延長が好ましい
8
出典:報道情報等
英国のEU離脱に関する影響分析の例(IMF)
• IMFは、英国のEU離脱についてシナリオ別の試算を実施(2018年7月)。
• 「No-deal」となった場合、EU域内のGDPが1.5%減少し、雇用の0.7%(100万人
以上)が失われるおそれがあると分析。
9
企業の動向①
• ブレクジットに対して何らかの「コンティンジェンシー・プラン」を採ったと回答した企業
は800社中1/3以下。
• その他の企業は、将来の英EU関係のあり方が明確になることを待つとの回答。
• 半数程度の企業は、「コンティンジェンシー・プラン」を用意することを想定せず、また
ブレクジットによる悪影響は予想されないと回答。
英国経営者協会(IoD)調査(8月3日)
• 在英日系企業について、「規制、法制度の変更への対応」を実施・検討した企業は回
答全体の約45%。
• 「拠点の見直し」(一部機能の移転・撤退を含む)を実施・検討した企業は回答全体の
約1/4。
JETROアンケート調査(2017年12月)
2.8
1.7
3.7
9.2
1.9
8.3
16.7
25.8
50.7
23.1
24.2
31.9
拠点の見直し
(一部機能の移転・撤退を含む)
(n=215)
規制、法制度の変更への対応
(n=229)
実施済み 実施中 実施予定 実施を検討中 予定なし わからない
10出典:JETRO
企業の対応動向②
仏企業運動(MEDEF) 「仏企業のためのBrexitガイドライン」を公表。「ハードBrexit」となる場合の仏企業への影響について10の要素別(人材、規制等)に分析。
ビジネスヨーロッパ 英国がEUから離脱した場合の税関手続への影響を分析し
「No-Deal」の可能性も念頭に影響を低減するための方策を
提言。
SANOFI社(仏) No-Dealシナリオに備え、14週間分の医薬品の在庫積み増しを計画。
エアバス社(仏) 離脱条件が離脱期限の2019年3月になってもまとまらない場
合、拠点の縮小等、対英投資の見直しを警告。
BMW社(独) 離脱条件を今夏までに明確にならない場合は、緊急時対応計画(システム変更や倉庫確保等)の作成の必要性が生じ、英国の競争力が失われると強調。
11出典:各社ウェブサイト、報道情報等
外国政府の対応
• EU加盟国のうち、オーストリア、アイルランド、オランダ等の政府は、英国離脱による
中小企業が直面するリスクの評価を行うウェブサイトを立ち上げ。
• アイルランド政府は、1社あたり5000ユーロを上限として、計画策定、イベントへの参
加、サプライヤーの変更が必要な場合の関係構築等への支援を実施。
• オランダ、フランス、ベルギー、アイルランド政府は、それぞれ新たに数百名規模の税
関職員の増強を計画
税関職員の増強ウェブサイト立ち上げ企業支援
税関職員の増強 ウェブサイト立ち上げ
税関職員の増強
税関職員の増強ウェブサイト立ち上げ
12
経済産業省等の対応
1.官民意見交換会の開催 第1回(平成28年6月)、第2回(平成29年3月)
2.情報収集• 英国進出企業等に対する対応状況の聴取、我が国産業界の要望等について継続的
に情報収集。• JETROによるアンケート調査(2017年9月~10月・約1100社)を実施
3.英国等への働きかけ• 英国側要人に対して、産業界の懸念事項を繰り返し申し入れ。
4.中堅・中小企業向けの情報提供• ジェトロのホームページに英国のEU離脱に係る特設ページを開設。ジェトロメンバー
ズの中小企業(約2,000社)に逐次メール配信。• 併せて、ジェトロ主催/協力セミナー等を通じた情報提供を実施
5.相談窓口の設置• ジェトロ、日本政策金融公庫、沖縄振興開発公庫、商工中金、信用保証協会、商工会
議所、商工会連合会、都道府県中小企業団体中央会、よろず支援拠点、全国商店街振興組合連合会、中小企業基盤整備機構、経済産業局(計1085拠点)に相談窓口を設置。
13
(参考)日本政府からEU/英国へのメッセージ
【英国及びEU双方への要望事項】• 現行の関税率や通関手続等の維持• 原産地規則の累積規定の導入• 英国籍・欧州大陸籍の労働者へのアクセスの維持• 金融単一免許制度を含む金融サービスの提供及び設立・開業に関する自由の維持• 国境を越えた投資・サービスやグループ企業間を含む資金移動の自由の維持• 情報保護の水準とデータ移転の自由の維持• 統一的な知財の保護• 英・EU間の規制・基準の維持(既に確立している相互承認や同等性の枠組みの維持を含む。)• ユーロ決済センターの機能,欧州医薬品庁等の英国内EU機関の立地等の利便性確保• EU研究開発予算へのアクセス,日EU共同研究開発への英国の関与【英国のみに対する追加的要望事項】• 関税や税関手続等の負担の無い物品貿易の自由• 必要な技能を持つ労働者へのアクセスの維持• 外資参入に係る基本政策の維持• 投資促進策の実施• 独自のデータ保護法制を制定する際の情報保護の水準とデータ移転の自由の維持• 英国の独自規制・基準のEUの規制・基準との整合性の確保• 英国研究開発予算へのアクセス【EUのみに対する追加的要望事項】• 単一免許制度に係る経過措置等の導入
2016年9月、「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース」において採択。具体的要望事項は以下のとおり。
14
今後の対応の方向性
① 政府から英EU双方への働きかけ
• 日系企業の現状・ニーズを踏まえ、移行期間の設置による法的安定性・予見可能性
の確保等、企業の要望について、英・EU双方に対する働きかけを継続。
② 海外政府・産業界の対応等についての情報収集
• JETRO等とも連携しつつ、交渉の見通しやクリフエッジシナリオへの対応も含め情報
収集を継続。
③ 相談窓口等を通じた情報提供
• ジェトロ等に設置した相談窓口やウェブページ、セミナー開催等を通じた、企業への情
報提供を継続。
④ コンティンジェンシープランの構築
• クリフエッジ・シナリオの可能性も踏まえ、事業者によるコンティンジェンシープランの
検討。
⑤ 将来の日英経済的パートナーシップに係る検討
• サプライチェーンの柔軟性を確保すると共に、日EU・EPAの早期発効及び将来の日英
経済的パートナーシップに向けて検討。
15