グレンイーグルス・ サミットが残した課題 - jica...2 開発金融研究所報...
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2 開発金融研究所報
本年7月6日から8日までスコットランドの緑豊かな町グレンイーグルスで英国
主催のG8サミットが開催され、2003年のエビアン・サミットと同様にアフリカが
“1地域の問題”として主要議題の一つとなった。しかも今年の主催国英国の力の
入れ様は、2年前の主催国フランスよりかなり熱が入ったものの様に見えた。例え
ば、グレンイーグルス・サミット開催の遥か前、2002年9月の英国DFIDによる
『Making Connections - Infrastructure for Poverty Reduction』の発刊に始まり、
次に『International Financial Facilities : IFF』の提案と、2004年6月の上海スケ
ーリング・アップ会合でのIFFについての熱心な根回し。更に、2004年からの『ア
フリカ委員会:Commission for Africa』の開催と、2005年3月の同委員会報告の
発表。また拡大HIPCs対象国に対して世銀、IMF等国際機関が有する債権のほぼ無
条件放棄を主張する独自案の発表。同5月には、南アフリカ共和国のケープタウン
で『“G8+アフリカ”インフラ会合』を主催。同6月にはDFIDのシンクタンクと
も言われる“Overseas Development Institute : ODI”のミッションが来日し、
JBIC開発金融研究所と熱心な意見交換を行った他、政策研究大学院大学(GRIPS)
と共同セミナーを開催し、アフリカ支援に関する英国の考え方を日本側関係者に対
して熱心に説明した。筆者も同セミナーにパネリストの一人として参加したが、7
月初旬のサミット開催直前ギリギリまで“オール・英国”で執拗にアピールを続け
る姿は、極めて印象的であった。
こうした英国の周到な事前準備を経て開催されたグレンイーグルス・サミットで
は、英国が強く主張したIFF構想が日・米の反対で大幅に後退したものの、「アフ
リカ問題」に関する主要な成果は、(1)G8その他のドナーの新たなコミットによ
り、2010年迄に、アフリカ向けODAは年間の総額で250億ドル増加、この結果、
2004年と比較して2倍以上に増加すること、(2)拡大HIPCsイニシアテイブの下
で、Completion Point(CP)に達したアフリカ14ヶ国に対して世銀・IMF・アフ
リカ開銀が有する債権の100%放棄、(3)広域インフラ整備等促進の為、“国際イ
ンフラ・コンソーシアム”形成の努力継続、(4)日本が、アフリカ向けODAの3
年倍増と、民間セクター支援の新たなスキームEnhanced Private Sector
Assistance for Africa(EPSA)を提唱し、JBIC円借款とアフリカ開銀との協調の
下、5年間で10億ドルの円借款供与を発表、等というものだった。サミット閉幕に
際してのブレア首相の議長総括も、今回サミットの成果を高く評価する内容のもの
だった。
ただ、ここで筆者が指摘したいことは、今回のG8サミットが同時に非常に重大
な課題を幾つか残したという事実である。例えば、次の2つの課題に如何に対応す
グレンイーグルス・サミットが残した課題
開発金融研究所長
橘田 正造
2005年5月 第26号 3
るのか。いずれも具体的な対応策はかなりの難題であり、G8側がこれらへの対応
を誤ると、却ってのちのち大きな負担となってG8側に跳ね返って来る可能性があ
る。即ち、
1.今回の国際機関による債権100%放棄については、拡大HIPCsに参加せず、真
面目に公的債務の返済努力を続けるアフリカやアジアのLDC諸国からの不満の
声に対して、如何に説明し対応するのか。バングラデッシュなど公的債務を真面
目に返済し続ける諸国の一部から既に出ている、或いは今後も出てくる何らかの
救済策を求める声に対してどう応えるのか。『魚の採り方=経済的自立の方法』
を教えずに、『魚を与える=債務帳消し、無償協力』援助のみを主張し続ける英
国(並びに、同意見の欧州の中小ドナー諸国)のチャリテイー精神に基づく方法
論こそ、モラルハザードを生んでいないか。
2.今回のサミットの結果、今後サブサハラ諸国向けのODA資金が増加すること
が確実になった。しかし、今後増加するODA資金をサブサハラ諸国が如何に効
果的且つ効率的に使用して具体的成果を挙げるか、その為のサブサハラ諸国の政
府や実施機関側の制度能力は既に備わっているのか。答えはCP到達国といえど
も現実は極めて不安な状況と言わざるをえず、早急なキャパシテイー・デベロッ
プメントが必要。現地政府の活動を支援或いは監視する現地市民社会(CSOs)
に対しても、個々のTORに沿ったキャパシテイー・デベロップメントの支援が
急務。この緊急の課題に如何に対応するのか。
上記1の課題については、拡大HIPCsに参加した諸国のうちCP到達国は、英国
のイニシアテイブで1999年の独ケルン・サミット時に合意された“二国間ODA債
務の100%帳消し”に加えて、今回のグレンイーグルス・サミット合意により“世
銀など国際機関への債務100%帳消し”も得たことになる。換言すれば、安易に
『会社更生法の適用申請』を行わず、必死に汗をかいて公的債務の返済に取り組ん
でいる会社よりも、早々と『会社更生法の適用申請』を行い、莫大な公的債務につ
き返済義務の放棄を宣言した会社の方が“ダブルで得をする”という、モラルハザ
ードとも言える国際的ルールを英国のイニシアテイブにより、独ケルン・サミット
に次いで再び導入したと言えよう。今後、この新たな国際的ルールの導入が、一方
で公的債務の返済努力を続けるLDC諸国に対する別の新たな救済策導入に繋がり、
日本等G8に新たな財政的負担を生じさせる結果にならないかと危惧される。
更に、上記2の課題については、今後増加する対アフリカODAの効率的・効果
的な活用に失敗すると、『またか、やはりアフリカは駄目だ』という評価がなされ、
折角盛り上がったアフリカ支援のモメンタムが急速に冷え込んでしまう。それを防
ぐ為にも、アフリカ諸国の政府・実施機関、更には現地CSOsのキャパシテイー向
上・強化の為に、G8各国が自国のCSOsも総動員して、各々が比較優位を有する
分野と支援方法を活かして早急に取り組み、アフリカ各国の夫々の国別の発展シナ
リオに沿って具体的成果を出す必要がある。
尚、英国や欧州中小ドナーが唱える『魚を与える』援助での貧困削減の成功実績
は、アフリカを含めて皆無。アジアにおける貧困削減での日本の貢献実績を経済学
的に理論化し、日本型の『魚の採り方を教える』援助の有効性を世界にアピールす
るチャンスでもある。