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90 2007.03 Tokutei Mokuteki Kaisha 調 調 調 Finance value パチンコホールにおける 事業証券化の現状と その取組み方のポイント ㈱OTIS.MANAGEMENT 代表取締役 大堀博幸 [特集関連レポート] 調 Arranger 稿

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Page 1: パチンコホー ルにおけ る 事業証券化の現状と その …OTIS.MANAGEMENT 代表取締役 大堀博幸 [特集関連レポート] 最 近 、 パ チ ン コ 事 業

902007.03

事業証券化の説明をする前に、そもそもよくい

われる「証券化」とは一体どういうものなのか。

一般的に証券化とは、保有している非流動的な資

産(広義で資源)と流動的な資産を交換する手法

といえる。わかりやすくいえば、企業がもってい

る非流動資産(たとえば売掛債権・土地・建物等)

を広く投資家へ供給することにより、投資家は流

動的な資源として資金を企業へ供給するというこ

とである。

最近、ホール業界で発表された北海道の太陽グ

ループがTMK(TokuteiM

okutekiKaisha

=資

産流動化法に基づく特定目的会社)を活用して、

固定化している不動産を流動化して資金を調達し

た。この内容が典型的な例といえる。

一方、事業証券化とはどういったものか。最大

の違いは、一般的な証券化が企業の保有する資産

(バランスシート上の売掛金や不動産等)価値で

資金の調達を行なうのに対して、バランスシート

上の資産ではなく、企業が生み出す将来にわたる

事業収益(将来キャッシュフロー)の価値に基づ

いて資金を調達する点にある。

多くのパチンコホールは、店舗として不動産を

所有しているが、通常、銀行(金融機関)の担保

価値評価では特殊物件としてみなされ、総じて評

価額は低く査定されがちである。また、企業の信

用度合いに応じた各銀行個別の与信枠や銀行全体

としてのポートフォリオ上の制約を受けるなどの

理由により、企業が希望するようなファイナンス

バリュー(Finance

value

)が得られないといっ

たケースで多くのホールオーナーは悩んでいると

思われる。

パチンコホールにおける事業証券化の現状とその取組み方のポイント

▼㈱OTIS.MANAGEMENT

代表取締役大堀博幸

[特集関連レポート]

最近、パチンコ事業の証券化により資金調達を

行なったという話をよく耳にする。事実、ホール

企業で事業の証券化を検討しているオーナーも少

なからず存在している。しかし、これまで当社に

相談してきた多くのホール企業のオーナーは、い

まだ事業証券化について誤った認識をもってお

り、またリスク面のみが業界内でクローズアップ

され、ありもしないリスクイメージを抱くととも

に、実態以上のコスト意識をもってしまうなど、

マイナスイメージが先行しているように思われ

る。確かに、検討をはじめたものの、アレンジャ

ー(A

rranger

=組成に関する取りまとめ役)の

能力不足や格付機関・投資家との交渉力不足で途

中で挫折してしまい、クロージングに至らないケ

ースや、あまりにも投資家サイドに立ったスキー

ムの立て付けの悪さにより、失敗に終わるケース

が存在しているのも事実である。

本稿は、当社がいままで組成に携わってきた㈱

テンガイ(旧・福友産業㈱、屋号FESTA)、

㈱ダイエー(屋号DAIEI)、㈱ガイア(屋号

GAIA)における事業証券化の実績をもとに、

事業証券化取組みの流れ、取組み上の留意点、よ

くある疑問について、ホールオーナーの目線に立

ってできるだけわかりやすく整理した。事業証券

化を検討する際の参考となれば幸いである。

①事業証券化とは何か

パチンコホールにおける

証券化とは

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04年3月、9月に合計260億円、東北地方を

地盤とするダイエーが05年12月に230億円、関

東圏を地盤とするガイアが同年12月に700億円

の3例があげられるが、3例ともそれぞれの企業

における特性が考慮され、異なったスキームが立

て付けられている。

スキームの詳細については本稿ではふれないが、

組成にあたって特に重要視した点は、それぞれの

企業がもつ強みと弱みをよく見極め、財務状況、

資産状況、店舗エリア状況、競合店状況、オペレ

ーション力等を十分に考慮し、スキーム上にいか

に反映していくかといった点である。

また、ホール経営は一見安定した売上げ・収益

を計上しているようにみられがちだが、経営を行

なっていくうえではさまざまな変動要因を多く含

んでおり、かかる変動要因に対していかにスキー

ム上の手当てを施し、安定したホールオペレーシ

ョンを継続させられるかが重要となる。

一方、投資家サイドに立った場合、いかに安全

性と透明性が確保されたスキームが構築されてい

るか、またクロージング後はスキーム上の不具合

の修正や丁寧かつ十分なモニタリング業務を遂行

できるかどうか、クロージング後のアフターケア

についても大切な要素となる。

かかる両者の満足を得られる事業証券化の組成

には、当然ながら基本的にホール経営の細部にわ

たり内容を熟知しているのはもちろんのこと、高

度な金融知識をも兼ね備えるメンバーによる組成

が重要なポイントとなる。換言すれば、組成する

アレンジャーやストラクチャリングコンサルタン

ト、モニタリング等の業務を遂行できるメンバー

事業証券化 銀行借入(シンジケート・ローン)

評価主体

店舗から生み出されるキャッシュフローをベースに返済の可否を判定するため、企業の業歴、業容等の信用力、資産力は基本的に重要ポイントとしない

企業の財産と収入で返済の可否を判定するため、営業内容、業歴、資産・負債のほかに、代表取締役の個人収入・資産背景等についても審査対象の重要ポイントとなる

調達額店舗から生み出されるキャッシュフローをベースに決定、大手機関投資家による資金供与により、大口の資金調達が可能

企業の信用力、担保、各銀行の与信枠等により決定、各銀行の個別事情により一定の制約を受ける

費用組成手数料、弁護士費用、格付費用、SPC維持費用、モニタリング費用等

組成手数料、弁護士費用、エージェンシーフィー、モニタリング費用等

資金使途営業に関する使途であれば、原則自由 店舗取得費用ならびに営業設備費用等、原則とし

て運転資金は不可

金利企業の信用力を上回る格付を取得することにより、金利コストの低減が可能

企業個別の信用力によって決定

担保物件に第1順位の抵当権設定、追加担保等の必要なし

物件に第1順位の抵当権設定、他に追加担保を求められることがある

②事業証券化と銀行借入の違い

ここで、証券化(事業証券化)と銀行借入(シ

ンジケートローン)との違いをみてみると、大別

して図表1のような違いがある。また、事業証券

化のメリット・デメリットについては、図表2を

参照されたい。

今日まで大手格付機関よりシングルA格・BB

B格といった格付を取得し、クロージングされた

事業証券化は、九州を地盤とするテンガイが20

特集

パチンコホールにおける

事業証券化への取組みの現状

メリット デメリット

事業から生まれる将来のキャッシュフローを担保として資金調達を行なうため、コーポレートローンよりも大きな調達額の実現が可能

コーポレートローンと比較し、物件に対する保全措置が要求される

対象店舗に対する投資資金を早期に回収が可能となり、投資効率を高めることが可能

コーポレートローンと比較し、手続き面で煩雑な処理が必要となり、融資実行までに時間がかかる

長期安定資金の導入により、調達の安定化が図られ、財務体質改善が可能

コーポレートローンと比較し、仕組みが複雑なため、オールインコストが高くなることがある

物件売却による場合は、オフバランスとして総資産の圧縮が図られ各種財務諸表比率の改善が可能

──

キャッシュフローを担保とすることから賃貸物件でも調達が可能 ──

調達手段に投資家が加わることで、資本調達市場へのアクセスが図られる ──

企業イメージのアップ、資本市場に対するイメージのアップが図られる ──

企業の透明性が高まると同時に、内部管理体制の整備・強化が図られる ──

図表1 事業証券化と銀行借入(シンジケート・ローン)との違い

図表2 事業証券化のメリット・デメリット

特集 パチンコホール経営

新たなビジネスモデルへの挑戦

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主 な 作 業 内 容 具体的な内容

証券化検討段階

資金調達準備段階

資金調達段階

アレンジャーとオリジネーターの基本合意 オリジネーターの要望・意向のすり合わせ 事業証券化概要説明

プロジェクトメンバーの選定 アセットマネジャー・プロパティマネジャー・弁護士事務所 監査法人・信託銀行・SPCマネジャー・サービサー等の選定 アレンジャーによるスキーム図・スケジュール等の作成 プラン(スケジュール)の作成

店舗毎データ・関連資料準備 店舗別パチンコ・パチスロ売上げ・稼動・粗利・コスト・エリア情報、業界動向

対象店舗の選定 対象店舗のパフォーマンス状況、賃貸借契約状況の確認

組成予定額、概算費用、格付見通し等の提示 マンデートレター(組成を授権する文書)調印に向けた最終合意確認

マンデートレター調印 アレンジャー・弁護士事務所 契約内容の検討立案および調印

デューデリジェンス開始 CL(顧客ロイヤリティ)監査実施 レポート作成(格付け会社への提出資料) データをもとにEBITDA、事業価値証券化レポート作成

対象店舗に関する不動産鑑定 対象店舗に関するERレポート

不動産鑑定士等による不動産の鑑定評価 一級建築士等による建物診断調査、地震リスク診断・環境調査

タームシート作成 アレンジャー・弁護士事務所 契約内容の検討 立案

格付分析 および スキーム説明 Moody's、S&P、FitchRatings、R&I等の格付会社

ドキュメンテーションの作成 アレンジャー・弁護士事務所 契約内容の検討立案

デューデリジェンスによる事業評価 EBITDA・CL(顧客ロイヤリティ)監査偏差値に基づく事業評価

意見書発行(法務・税務) リーガルオピニオン(弁護士事務所)・タックスオピニオン(監査法人)

AUPレポート 監査法人による会計、EBITDA、システム等の検証(AUPレポート)

金融機関・投資家向け説明 金融機関・投資家向けプレゼン資料の作成

SPC設立 SPCマネジメント会社

格付取得 Moody's、S&P、FitchRatings、R&I等の格付会社

金融機関・投資家の決定

各種契約書への調印 弁護士事務所 関係者による調印

資金調達実行

全員の総合力いかんにより、事業証券化の成否が

大きく左右されることになる。したがって、単に

条件面や組成額だけで事業証券化を検討するので

はなく、真にホール経営を理解し、豊富な知識を

もって組成能力が十分にあるメンバーによるもの

なのか、クロージング後のアフターケアも十分に

対応しうるメンバーによるものなのか、を見極め

ることが大切といえよう。

現在、事業証券化の進捗とともに、投資家サイ

ドでもホールに対する投資意欲が積極化してきて

おり、事業再生やM&Aを中心として、徐々にホ

ール業界に投資家が参入してきているのが現状で

ある。

28兆円もの市場を誇るホール業界であるにもか

かわらず、今日までほとんど投資家との結びつき

がなかったこと自体、不思議な状況であったとも

いえるが、換金問題、遵法問題から株式公開がな

かなか困難であり、非現実的といわざるをえない

実情からして、投資家の業界参入は非常に歓迎す

べき現象であると思っている。

また、投資家という第三者が多数介在すること

により、業界内に根強くある脱税、風適法違反、

反社会的勢力とのつながり等が払拭されるととも

に、結果として業界全体の健全化が、より具体的

に進展するものとして大いに歓迎したいと思う。

こうした現状を考慮し、調達手法として事業証

券化を検討するのは当然のこと、今後さらに淘汰

が進む業界内を勝ち抜いていくためには、自社の

経営基盤の安定と拡充を図るためにも、事業証券

化の活用を重視することは十分に意義があるもの

と考えられる。

図表3 事業証券化組成の流れ

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以下に事業証券化に取組む場合の一般的な流れ

を説明する。おおむね図表3の流れで進んでいく

が、以降に組成をしていくうえでの留意事項につ

いて説明する。

事業証券化を進めるうえで、ステージごとに注

意したい点は、以下のとおりである。

①事前検討段階での留意点

●組成の実現が可能なアレンジャーであるかどう

か●投資家との交渉力を十分もち合わせたアレンジ

ャーであるか

●格付機関との交渉力は十分に備えているか

●格付取得の場合は、事前に格付機関とスキーム

概要や見通しについて十分な協議が行なわれてい

るか

●自社の特性に合ったスキーム提案となっている

か●不確かな業界知識をベースとしたスキームや投

資家サイドに偏ったスキームとなっていないか 

●実現可能なスキーム、無理のない条件設定のア

ウトラインとなっているか

●対象店舗の選定は適切であるか

●プロジェクトメンバーは組成力ある信頼できる

メンバー構成となっているか(特にリーガル面、

タックス面)

●スケジュールプランに無理はないか

前述のとおり、単に条件面や調達額で判断する

ことなく、最も重要な役回りであるアレンジャー

を十分に見極めることが大切となる。

②マンデートレター締結時の留意点

●マンデートレター(Mandate

Letter

=組成を授

権する文書)には、組成予定額、金利条件、フィ

ー水準、クロージング予定日、組成不成立時の違

約金条件、その他交渉上の制約等、必要な条件提

示が明記されているか

●不成立時の違約金については、かかる要因に対

する内容が明記されているか

●費用発生のタイミングと意思確認が行なわれる

ことになっているか

●外部委託作業が優先されていないか

●やみくもに組成期間が延長されることとなって

いないか

当社で相談を受けたなかには、クロージング不

成立でも一定のフィーや違約金の請求、認識して

いなかった外部委託費用(税理士・弁護士・不動

産鑑定等費用)等の支払いを余儀なくされたケー

スが多く聞かれる。とかく、アレンジャーは組成

を急ぐあまり、オリジネーター側に費用負担の意

思確認もなく、外部委託作業を進めることがよく

ある。

また、投資家との協議を進めていくうえで、当

初スキームを大幅に変更する要求や本来想定して

いなかった条件等が提示されることもある。

こうした状況が発生した場合は、いったん進捗

を停止し、十分に内容を再検討したうえで進捗を

図ることが大切となる。

③組成作業上での留意点

マンデートレター締結後は組成作業に着手し、

さまざまな作業が開始されるが、注意すべき点は

以下のとおりである。

●店舗のデューデリジェンス(D

ueDiligence

資産の適正評価手続き)は必要不可欠な内容が網

羅されており、手落ちがないか

●各種レポート内容は格付機関・投資家の満足に

足る内容として作業を開始しているか

●外部委託費用については、事前に費用の見積り

や負担額、支払時期等の説明が適切に行なわれて

いるか

●スケジュール内容に無理がないか

●クロージング後のオリジネーター

(Originator

=資金調達を行なう事業主体)の履

行義務の内容に無理はないか

各種費用が発生するので、十分に内容を理解し

たうえで、着手に応諾をすることが大切である。

よくみかけるのは、格付機関や投資家との協議不

足により、無駄な作業や追加作業の発生等によっ

て、費用が予定以上に膨らんでしまうことがある。

また、クロージング後オリジネーターとして履行

しなければならない義務についても、契約で定め

られていくので、そのつど、確認のうえ無理のな

い履行義務になっているかの確認が大切である。

④クロージングに際しての留意点

組成作業と並行して、アレンジャーは投資家へ

の説明を開始する。クロージングに向けて注意す

べき点は以下のとおりである。

●投資家サイドから改ためて想定外の要求が出て

特集

事業証券化を進めるうえでの

留意事項

特集 パチンコホール経営

新たなビジネスモデルへの挑戦

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参考資料:OTIS.MANAGEMENTに寄せられた証券化に関する主な質問と回答

Q1 物件を所有していないと事業証券化ができないと聞いているがA1 そのようなことはありません。物件を所有していなくても事業の証券化は可能です。事業証券化はあくまでもホールから生み出されるキャッシュフローをベースにしていますので、基本的には不動産の所有の有無は問いません。

Q2 賃貸物件では事業証券化はできないと聞いているがA2 賃貸物件でも可能です。地主、家主との権利関係について、将来にわたり賃貸借契約が確保されていること、また第三者への転貸借契約が極端に制約された契約でなければ、賃貸物件での事業証券化は可能です。また、所有物件の場合は、物件に金融機関等の担保権が設定されているケースがほとんどですので、金融機関への返済をしたり、担保権を抹消したりする必要がないぶん、手許に残るキャッシュは多くなり、むしろ賃貸物件のほうがよいケースがみられます。

Q3 SPCに物件を売却しなければならないのかA3 不動産証券化の場合は、基本的にSPC(Special Purpose Company=特別目的会社)へ物件を売却する、セール&リースバック(Sale&Leaseback=対象不動産を売却後引き続き賃借人として転借する形態)方式が採られており、譲渡損益が発生するとともに、煩雑な税務上の処理が必要となる場合があります。かかる煩雑な処理を回避すべく、リース&リースバック(Lese&Leaseback=対象不動産を売却せずに、いったん所有物件の賃貸契約を締結し、再度賃借人として転借する形態)方式による事業証券化の成功例もすでに報告されておりますので、アレンジャー任せにせず自社の保有資産(法人・個人)の状況、売却した場合の税務上の問題点等をよく検討し、最大メリットが期待できる方法を検討されることをお奨めします。

Q4 店舗が他人(投資家)に取られてしまうのではないかA4 SPCに物件を売却するセール&リースバック方式の場合は、物件売却による売却代金を受け取りますので、通常の売買契約を締結した場合と相違はありません。SPCに物件売却をしないリース&リースバック方式の場合は、貴社とSPCとの間で賃貸借契約を締結し、貴社に転借するスキーム

です。一定の定められた条件を履行している以上、物件が他人(投資家)に渡ってしまうということはありません、仮に条件不履行が発生した場合でも、物件処分を行なって融資金を回収するという行為そのものは、銀行が担保を処分して融資金を回収する方法となんら変わるものではありません。

Q5 バックアップオペレーターに乗っ取られるのではないかA5 事業証券化も資金調達という面では通常の融資と同様に、一定の制約や制限といった条件は当然必要とされます。ホールの事業証券化の場合は、当初のオリジネーターとして約束した一定の条件がクリアできず、トリガーに抵触する事態が発生した場合、最終的にバックアップオペレーターを導入して、スキームを継続していく方法が採られていますが、かかる最終手段に着手する以前に、さまざまなイエローシグナルに対し、回避する方法が施されております。したがって、いきなりオペレーター交代事由を行使するということではありません。かかる意味で、ホールの事業証券化で大切なことは、万一、証券化した店舗のパフォーマンスが低下した場合、オリジネーターがいかにパフォーマンスを回復することが可能な弾力的な対応策がスキーム上構築されているか、また、かかる対応策に対して投資家として十分な満足を与えることができているか、といった点が大切な要素であるといえます。

Q6 リザーブが多く資金効率が悪いのではないかA6 ご指摘のとおり、事業証券化はストラクチャードファイナンスとしてスキームを維持していく関係上、いくつかのリザーブ(Reserve=スキーム上留保される資金)を必要とします。(賃料、保険料、店舗修繕費、SPC維持費用等)通常のコーポレートファイナンスやシンジケートローン等と比較した場合、かかる指摘は当てはまると思いますが、現在は格付機関並びに投資家のホール事業に対する理解が進んでいることもあり、以前と比較し格段にリザーブ条件は緩和されつつあります。また、全体的な調達額の多さとファイナンスの期間的な面を考えた場合、事業証券化は資金効率面でのデメリットを吸収して余りあるメリットがあるものと思います。

Q7 組成のコストが極端に高いのではないかA7 事業証券化の組成にあたっては、さまざまな専門家(弁護士、税理士、不動産鑑定士等)の協力を得て組成されていきます。したがって通常ローンに比べて、組成コストは確かに割高に感じるかもしれません。ただし、前述したように最近は従来コストと比較にならないほど少ないコストで組成が可能となっていること、また全体としてのオールインコストでみた場合、通常ローンと比較して極端に高いということはありません。個別のコストを比較検討することは、もちろん企業にとって大切ですが、コスト面を重視するあまり、肝心なストラクチャーの良し悪しやクロージングの成否、またクロージング後の投資家対応の良し悪しについて、見落としてしまうことのほうが、企業にとって結果として大きなダメージにつながります。そうした意味で、アレンジャーの選定はコストを検討する以上に重要な要素となります。

Q8 日々の粗利が拘束され運転資金に困るのではないかA8 事業証券化はキャッシュフローを担保としている関係上、店舗から生み出されるキャッシュを一時的に企業本体から分離して管理を行ないます。確かに過去の事業証券化の例にキャッシュの拘束期間があまりにも長く、質問のような失敗例はありますが、現在はそのようなことはありません。現在は、一時的に受け入れたキャッシュから必要とする費用を控除し、残金について月中2、3回、毎週1回といったように、基

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くることがある。アレンジャーはクロージングの

ため、とかく投資家の要求を受け入れがちだが、

要求内容がオリジネーターにとって許容できる内

容かどうか

●当初の条件提示とクロージング条件に乖離がな

いか

●トリガー(Trigger

=物事を引き起こすきっか

け)条件やコベナンツ(C

ovenant

=遵守事項、契

約事項)条件に変更はないか

●想定していなかった契約への調印依頼がないか

●クロージング以降のオリジネーターとして行な

わなければならない義務に、無理な履行条件の提

示はないか

最終的な条件変更は銀行融資でもよくあること

だが、十分に確認のうえでクロージングを進めな

ければならない。

⑤クロージング以降の留意点

クロージング以降は、オリジネーターとして日

単位・月単位・年単位で履行しなければならない

事柄が細かに定められる。

●事前に確認をしたオリジネーターとしての履行

義務に変更はないか

●万一変更がある場合は履行が可能かどうか?

●アレンジャーとしてアフターケアに万全な態勢

となっているか

●プロジェクトメンバーのそれぞれの役回りに変

更はないか。遂行能力はどうか

事業証券化は組成過程も重要だが、組成後はオ

リジネーターにとって相手は投資家になる。アレ

ンジャーのなかには組成後はわれ関せずで、ほか

のプロジェクトメンバーに任せきりのアレンジャ

ーもいる。特別に問題が発生しない場合はよいが、

重要な問題の発生や、やむをえないクロージング

後の契約変更等も予想されるため、最後まで責任

をもつアレンジャーであってほしいものである。

事業証券化を検討するうえでよくある質問

当社では、いままでに事業証券化についてのさ

まざまな質問を受けてきたが、そのほとんどが中

途半端な知識による内容や、従来の失敗例に基づ

いた誤解などが多く見受けられた。また本来、正

しい理解をしていなければならない金融のアドバ

イザーや金融機関の人でさえ、正しく理解できて

いない状況が多く存在している。誤解やなんとな

くネガティブなイメージを払拭し、事業証券化に

ついて正しく理解していただき、業容拡大の一助

として検討いただけるよう、これまで当社に寄せ

られた質問の内容と回答を参考資料としてまとめ

たので、参照されたい。

以上、事業証券化について概略を説明してきた

が、ぜひホールオーナーには正しい認識をもって

いただき、業界淘汰が進む厳しい状況のなかで、

事業証券化への取組みが事業発展に貢献できるこ

とを願うしだいである。

大堀博幸(おおほりひろゆき)

1978年東京相和銀行入行、支店長や業務推進部長を歴任、01

年東京スター銀行入行、法人金融本部法人開発部長としてホール

企業を開拓。04年福友産業㈱(現㈱テンガイ)入社、東京事業本

部長としてホール業界初の事業証券化を組成、同年10月個人にて

経営コンサルタント開業、05年12月㈱ガイア、㈱ダイエーの事業

証券化を組成。06年10月事業証券化の組成メンバーで㈱

OTIS.MANAGEMENT

(オーティス・マネジメント)設立。現在に至る。

本的にはオリジネーターの要望に合わせ返還する仕組みとなっています。また最近は通常ローンにおいても、よく店舗の売上金を拘束する例が多くみられますが、基本的にはかかる内容となんら違いはありません。

Q9 少ない店舗でも組成が可能かA9 証券化する対象店舗がふえることにより、リスクの分散化が図られることになり、大きな調達額が実現可能となります。現時点では4、5店舗以上を対象として検討されることが望ましいと思います。

Q10 全部の店舗を証券化できるかA10 理論的には可能ですが、店舗によって収益性は異なりますので、収益の出ていない店舗を対象とした場合、調達額が思うように出ないわりには、組成費用や手間がかかることになりますので、全店舗を証券化することは、あまり得策とはいえない場合があります。

Q11 既存の取引金融機関に理解してもらえないのではないかA11 事業証券化を組成するうえで、対象店舗に付加されている金融機関の担保権等を抹消しなければならない場合があります(自己調達分)。当然、既存の金融機関への融資金返済を伴うことから、金融機関によっては十分な説明が必要となります。過去の経験から申し上げれば、残念ながら一部金融機関によっては難色を示されるケースが散見されますが、事業証券化は既存金融機関への肩代わりを目的としているものではないこと、また事業証券化を進めていくことにより、企業の透明性が高まり、信用力の向上とともに、業容の拡大ならびに将来上場の布石となる企業体質の改善に直結していくこと等を説明し、理解を求めることが大切であると思います。

特集 パチンコホール経営

新たなビジネスモデルへの挑戦