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トドマツ人工林施業の手引 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林業試験場

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Page 1: トドマツ人工林施業の手引 - hro.or.jp · ペースが鈍ってきたが,トドマツは現在も右肩上がりの増加を示す。特にトドマツで は,建築材での利用拡大や木質バイオマス発電所への供給など木材自給率向上へ向け

トドマツ人工林施業の手引

北海道立総合研究機構

森林研究本部

林業試験場

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はじめに

近年の世界的な木材需給構造の変化に伴い外材の輸入量が減少する中,充実期を迎

えた国内の人工林資源が注目されている。中でも北海道産のトドマツは,建築用材や

輸送用資材として利用されており,道内人工林資源の過半を占める豊富な資源量を背

景に,より多様な用途での持続的利用が期待されている。

しかし,トドマツ人工林は面積の7割以上が 30~50 年生に集中し,資源量が極端

に偏在している。木材を長期にわたり持続的かつ安定的に供給していくためには,伐

採時期を 60 年以上とする長伐期施業を取り入れるとともに,伐採,造林を計画的,

段階的に行う必要がある。

トドマツ人工林の施業指針は昭和 63 年にまとめられたが(「トドマツ人工林間伐の

手引」,監修 北海道林務部),高齢林分のデータが少ない時期に作成したものであ

り,また,2500 本/ha 以上の植栽密度を前提としていたことから,長伐期施業や育

林コストを削減する低密度植栽にも十分対応できていない。さらに,長伐期施業の場

合,根株腐朽による材質劣化が懸念されるが,発生予測などの対策も講じられていな

い。

これらのトドマツを取り巻く状況の変化に柔軟に対応し,持続的利用を実現してい

くためには,新たな施業指針の確立が喫緊の課題となっており,行政,森林組合,民

間企業などからの要請も多く寄せられていた。

そこで,林業試験場では平成 22~25 年度に道総研の重点研究「トドマツ人工林資

源の持続的・安定的利用を目指した新たな施業指針の確立」を実施した。本研究課題

ではトドマツ人工林資源の持続的・安定的利用を可能にするため,成長データなどを

収集・分析し量的な収穫予測技術を改善するとともに,長伐期化など多様な施業方法

やトドマツの材質を劣化させる根株腐朽の対策を組み入れた新たなトドマツ人工林施

業指針を検討した。

本手引は,前述の研究課題の成果を整理し,様々な植栽密度や伐期に対応可能な新

たなトドマツ人工林の施業体系を掲載した。これらの施業体系は低コスト化や根株腐

朽被害対策にもつながる。本手引きが,道内の林業関係者のみならず森林・林業に関

わる方々に広く活用され,今後のトドマツ人工林の木材生産機能や公益的機能など森

林の多面的機能の向上の一助となれば幸いである。

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目次

1 トドマツ人工林の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

(1)資源

(2)森林施業

(3)利用

2 地位指数曲線と地位区分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(1)地位指数曲線

(2)地位区分

3 根株腐朽被害・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

(1)被害の概要

(2)被害量の推定

(3)腐朽被害をもたらす要因

(4)被害対策と課題

4 生産目標と施業体系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

(1)トドマツ材の生産目標

(2)間伐方法および間伐指針

(3)施業体系の区分

(4)枝打ち

5 施業体系図と収穫予想表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

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1 トドマツ人工林の現況

(1)資源

北海道の人工林面積は森林全体の 27%を占め,面積は 150 万ヘクタールあり,全国

の人工林面積の 15%に相当する。針葉樹人工林の内訳は,面積ではトドマツ 53%,カ

ラマツ 31%,エゾマツ 12%,スギ 2%,その他 2%となっている(図 1-1,2011 年度)。

トドマツ人工林は国有林に最も多く面積で 57%,続いて一般民有林 31%,道有林 12%

となっており,カラマツは 75%が一般民有林に分布することと対照的である。

トドマツ人工林の齢級構成をカラマツ人工林と比較した(図 1-2,2011 年度)。トド

マツではⅧ齢級をピークとしⅦ~Ⅸ齢級に 51%が集中する極端に偏った齢級構成と

なっている。カラマツではⅨ齢級がピークとなっており,トドマツはカラマツよりも

やや若い人工林が多い。また,カラマツでは人工林の主伐・再造林すなわち世代交代

が始まりつつあり,Ⅲ~Ⅳ齢級よりもⅠ~Ⅱ齢級の若い人工林面積が多い。一方,ト

ドマツはカラマツよりも相対的に若齢であるだけでなく,成長が遅いので本格的な主

伐期を迎えておらずカラマツのような傾向は見られない。

次に人工林資源の経年変化についてみる。トドマツおよびカラマツ人工林の面積変

化について図 1-3 に示した。人工林の面積は拡大造林時代には年間 6 万ヘクタールの

ペースで造林され急激に拡大した。これは現在の造林面積の実に約 10 倍である。近年

の人工林面積は,トドマツではほぼ一定の面積約 80 万ヘクタール,カラマツでは 1970

年代から微減傾向にあり現在は約 44 万ヘクタールとなっている。一方で人工林の蓄

積は増加傾向にあると考えられている(図 1-4)。カラマツでは 2000 年以降は増加の

ペースが鈍ってきたが,トドマツは現在も右肩上がりの増加を示す。特にトドマツで

は,建築材での利用拡大や木質バイオマス発電所への供給など木材自給率向上へ向け

て伐採量の増加が予想され資源の適切な管理が望まれる。

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160

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

面積(千

ha)

齢級

トドマツ カラマツ

トドマツ53%

カラマツ類31%

エゾマツ12%

スギ2%

その他2%

図 1-1 針葉樹人工林面積の樹種別割合 図 1-2 人工林の齢級別面積

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(2)森林施業

近年の道内造林用苗木の年間生産量は約 2,600 万本であり,内訳はカラマツ 37%,

アカエゾマツ 23%,トドマツ 21%となっており,これら 3 樹種で生産量の 8 割以上

を占める(2011 年度)。トドマツについては,産地別の形態や生態が異なるため,道

内で5つの受給区分が定められている。現在,母樹林は 197.8 ヘクタールが指定され

ており,国有林内に 117.7 ヘクタール,道有林内に 57.6 ヘクタール,民有林に 22.5

ヘクタールがあり,道内各地の環境に適した育種種苗の供給のために活用されている。

図 1-5 に樹種別造林面積を示した(2011 年度)。現在の造林面積は年間 7700 ヘクタ

ールとなっており,カラマツが 52%,トドマツ 22%,アカエゾマツ 11%となってい

る。造林の実施面積は,一般民有林で最も多く 82%となっており,国有林で 11%,道

有林で 7%である。トドマツ,カラマツともに近年は造林面積が増加傾向にあり,ト

ドマツでは 2000 年以降約 1000 ヘクタール増加した(図 1-6)。これは主に,カラマツ

は一般民有林,トドマツは国有林における造林面積の増加に起因する。

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1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

蓄積(百

万m

3)

トドマツ カラマツ

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

面積(千

ha)

トドマツ カラマツ

図 1-3 人工林面積の推移 図 1-4 人工林蓄積の推移

0

1000

2000

3000

4000

造林面積(ha)

トドマツ カラマツ

トドマツ

22%

カラマツ

52%

アカエゾマツ

11%

グイマツ

7%

広葉樹

6%

その他

2%

図1-5 造林面積の樹種別割合 図 1-6 造林面積の推移

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人工林の主伐面積が 2 倍近くに急増した 2003 年以降,再造林面積は主伐面積を下

回り,いわゆる造林未済地が発生した(図 1-7)。これらと同時期に起きた現象として

植栽密度の低下があげられる。2000 年以前はトドマツ,カラマツともに植栽密度は

2500 本/ha 以上であったが,2000 年以降は徐々に植栽密度が低下し現在では 2000 本

/ha となっている(図 1-8)。また,針葉樹人工林の間伐は年間約 26000 ヘクタールを

対象に実施されており,2300 千 m3が伐採されている。一般民有林のトドマツ人工林で

はⅤ~Ⅸ齢級が間伐作業の中心で,間伐率は 25%前後,間伐材の搬出率はカラマツよ

りも低い。また,道内一般民有林の針葉樹人工林のうち間伐など施業履歴がない林分

は約 4 割に及ぶとされ適切な間伐の実施が課題となっている。平成 23 年度以降は森

林整備事業制度が改正され間伐材の搬出が基本となった。さらに,近年は列状間伐施

業の推進や路網整備,施業の集約化など木材自給率向上に向けた施策が様々取り組ま

れており,今後はトドマツ人工林材の供給力向上が期待される。

(3)利用

現在のトドマツ(エゾマツ含む)の道内需要は,丸太換算で約 2600 千 m3 であり,

内訳は製材用 54%,パルプ用 39%,合板用 6%となっている(2011 年度)。製材用は

主に建築材として利用されており,垂木,筋交いなど羽柄材での使用が多い。合板用

としては,トドマツはカラマツよりも強度が低いが材色を生かし構造用合板だけでな

く内装用合板としての活用も期待されている。なお,トドマツ丸太(末口径 30~38cm)

の材価は,12900~14500 円/ m3であり,カラマツ丸太(末口径 20~28cm)の 9300~

10000 円/ m3 よりも高い(2009~2013 年度)。今後のトドマツ人工林材は,2×4 材,

集成材など住宅の構造材での利用や豊富な資源を背景とした合板やバイオマス利用な

どの利用拡大が課題となっている。

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2000

4000

6000

8000

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

面積

(ha)

皆伐 再造林

1500

2000

2500

3000

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

2005

2010

植栽密度(本/ha)

カラマツ トドマツ

図 1-7 人工林の皆伐および再造林面

積の推移(一般民有林)

図 1-8 植栽密度の推移

(一般民有林)

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2 地位指数曲線と地位区分

(1)地位指数曲線

地位指数は,土地の生産力の指標である。林分収穫予測表などを構築する上で重要

な要素である。地位指数は,林分密度の影響を受けにくいとされる樹高を基に算出さ

れる。一般的には,上層木の平均樹高(上層高(m))を用いる。トドマツでは,上層高

を高い方からヘクタール当たり 250 本相当の上層木の平均樹高とし計算した。全道民

有林および道有林約 1900 点のデータについて,林齢(年生)と上層高との関係を図 2-

1(白丸)に示した。このデータに対し,樹高成長曲線としてリチャーズ式を当てはめ,

これを地位指数曲線群のガイドカーブとした。地位の指標として,林齢 40 年生の上層

高を用い,これを地位指数とした。

(2)地位区分

地位は,局所的な立地要因(標高や土壌型,気象条件など)に影響を受ける。本手

引では,調査地の地位指数と立地要因との関係について検討したところ,地位指数が

気温,土壌型,表層地質,および傾斜により影響を受けることが明らかとなった。こ

の結果より推定される市町村レベルでの平均地位指数を求め,地位指数マップを作成

した(図 2-2:全道平均 17)。市町村の合併により,行政区の境界が大きく変わってい

るが,ここではより地域的な要因を反映するため,2004 年以前の区分を使用した。こ

の図は,植栽後の成長予測の目安として使用することができる。

図 2-1 調査地の林齢と上層高との

関係(白丸)および地位指数曲線群

(実線)

地位指数曲線群は,下位 13 から上

位 24 まで 1 刻みに示した。

図 2-2 立地要因より推定した市町

村別地位指数マップ(暫定版)

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3 根株腐朽被害

(1)被害の概要

木材の腐朽は,きのこの仲間によって材が分解される現象で,生立木の根や根元付

近の樹幹が侵されるときに根株腐朽と呼ぶ。腐朽した木材は強度が低下することから

用材として使うことができなくなり,材積の大きい一番玉から劣化する根株腐朽被害

では経済的価値が大幅に低下する。例えば,建築材など用材として用いられるトドマ

ツ材の価格は 15000 円 / m3 前後だが,腐朽や曲がりなどの欠点によりパルプ材にな

ると三分の一の 5000 円 / m3 程度となる。さらに,腐朽により樹幹の強度や根の支持

力が弱くなった林木は風害を受けやすくなり,台風などの強風時に根返りや幹折れを

起こす。また,被害木の樹勢自体も低下することから,根株腐朽被害は林業や健全な

森づくりの大きな障害となっている。

これまで,北海道の森林における腐朽病害の調査は,主に 1940~70 年代にかけて針

葉樹天然林を中心に行われてきた。これらの調査からは,北海道の天然生針葉樹はお

びただしい菌害に侵されており,根株腐朽に限っても,平均してトドマツの約 50%,

エゾマツの約 30%,場所によっては 100%もの針葉樹生立木に腐朽が発生しているこ

とが明らかとなった。それでは,人工林のトドマツはどのくらい腐朽しているのだろ

うか? 道内の民有林 224 林分 232 ヶ所のトドマツ人工林 24~90 年(平均 57 年)で

根株腐朽被害を調べるために伐根 13288 本の調査をした結果では,トドマツの 26.3%

(3493 本)に根株腐朽被害が発生していた。各調査地の本数被害率は林分によって大

きく異なり 0~94.0(平均 28.3)%で,林齢があがるほど被害を受けている割合が多

かった(図 3-1)。また,被害の程度を表す指標として伐根木口面の腐朽面積を調べた

結果からは,腐朽面積も本数被害率と同様,林齢があがるほど増えていくことが明ら

かになった(図 3-2)。

(2)被害量の推定

図 3-1 からは,林齢 50 年でほぼ 20%,60 年で 30%弱,80 年で 45%,100 年では

60%を越えるトドマツに根株腐朽が発生することが予想される。また,図 3-2 はひとつ

の伐根上に複数の腐朽があった場合,損傷の有無毎にそれらを合算しているが,もし,

それらを合算せずに1伐根上で最大の腐朽を予測するときは,腐朽面積(cm2)=2.5671

×林齢(年)となる。これを腐朽径に換算すると,1 本のトドマツに発生する根株腐朽

のうち最も大きな腐朽部の大きさは林齢 50 年で直径 13cm 弱,60 年で 14cm,80 年で

16cm,100 年では直径 18cm となる。また,トドマツの場合,伐根面の腐朽直径の約 15

倍が腐朽高になることがわかった(図 3-3)。これを上述で予測した 1 伐根上最大の腐

朽の径にあてはめると,トドマツに根株腐朽が発生した場合の腐朽高予測値は,地表

からおおまかに林齢 50 年で 2m 弱,60 年で 2.1m,80 年で 2.5m,100 年では 2.8m 弱と

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なる。ただし,これは腐朽とその初期段階の変色を含めた高さであり,直径 5cm 程度

の微細な腐朽を無視するのであれば,この値より 1.5m 程度差し引いた高さをそれぞ

れの腐朽高とみなすことができる。

(3)腐朽被害をもたらす要因

これまでの研究で,トドマツ樹幹に材が露出するような損傷ができるとその原因に

よらず確実に腐朽が始まることがわかっている。伐根調査においても損傷があるとそ

の 100%が腐朽しており,根株の損傷もやはりトドマツの腐朽をもたらすことが明らか

となった。損傷由来の根株腐朽(図 3-4)は,本数,面積ともに伐根調査で確認された

被害の約 3 割に達しており,大きな割合を占めていることがわかった。この損傷由来

の根株腐朽に影響する要因について一般化線形混合モデルを用いて解析したところ,

n=232

林 齢 (年)

(%)

図 3-1 各調査地の林齢と根

株腐朽本数被害率

図 3-2 伐根毎の腐朽面積(腐朽伐根

のみ表示,ひとつの伐根上に複数の腐

朽があった場合,それらを損傷の有無

別に合算)

(cm2)(○),y=2.4913x (●),y=2.7187x

図 3-3 伐根木口面の腐朽直

径と腐朽高

林 齢

(年)

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林齢が高くなるほど,また,特に“丘陵地+尾根”で根際の損傷に由来する根株腐朽

が発生しやすいことが示された。

一方,損傷に由来しない根株腐朽被害について,発生確率を増やす環境要因を一般

化線形混合モデルで調べたところ,もっとも影響が大きいのが林齢で,その次に地形

の影響が大きいことがわかった。傾斜や方位,暖かさの指数などは選択されなかった。

林齢が上がるほど腐朽が発生し,地形の中では丘陵地がもっとも腐朽しやすい(図 3-

5)。山地・火山地・低地での発生確率は同程度であり,台地・段丘では腐朽が発生し

にくい。損傷と無関係の根株腐朽が林齢 80 年生時に発生する確率は,丘陵地:0.43,

山地・火山地・低地:0.33~0.35,台地・段丘:0.24 となる。

(4)被害対策と課題

トドマツ人工林で起こる根株腐朽被害への対策と課題としては,以下のことが挙げ

られる。

○林齢と環境条件からある程度の被害発生予測が可能になったので,将来の被害量を

林分毎に予測し,被害量が多い林分では収穫期を早めにして収量低下の軽減を図る。

北海道各地の地形については国土交通省のホームページからそれぞれの 20 万分の 1:

地形分類図をダウンロードすることにより調べることができるので,参考にするとよ

い(http://nrb-www.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/20-1/01.html)。

○トドマツ損傷木には確実に腐朽が入るので,損傷が生じた場合は長く放置しない。

また,根際の損傷をなくすだけで根株腐朽被害の 3 割を回避することができるので,

林内作業やネズミ害などによるトドマツの損傷をなくすことが被害軽減のうえで非常

図 3-4 損傷部(矢印)から広

がった腐朽のある伐根 図 3-5 損傷に由来しない根

株腐朽被害が発生する確率

林 齢

(年)

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に重要である。特に,損傷由来の根株腐朽被害が多い“丘陵地+尾根”では,今後,

作業路,集材路のつけ方,間伐時の作業方法などを検討し,損傷木の発生を抑える効

率的な林内システムを構築する必要がある。

○根株腐朽の原因となる木材腐朽菌は,きのこがつくる胞子のほか,罹病木や病原菌

の増殖源となる林地に残された木質残渣から伸びる菌糸・菌糸束によって感染拡大を

行う。被害多発地では,これら感染源と感染機会を減らして,病原菌の伝播を断つこ

とを目的とした施業が推奨される。例えば,たとえ小径木であっても残存木を残さな

い徹底した皆伐,木質残渣(捨て伐り木や倒木,伐根,枝条など)の撤去,抵抗性樹

種への樹種転換,広葉樹を交えた混交林化,低密度植栽などが考えられる。

4 生産目標と施業体系

(1)トドマツ材の生産目標

トドマツ材は,現在中小径材が中心であり,主に羽柄材などの建築用途として流通

している。今後,資源の充実とともに大径化が進み,より価値の高い利用が求められ

る。また,平成 25 年度より,トドマツ人工林の標準伐期齢が見直され,伐期を 40 年

に設定することが可能となった。これは高齢級化に伴い,根株腐朽被害などが懸念さ

れる林分においては,腐朽被害が深刻化する以前に収穫を行うことが可能となったこ

とを意味する。

トドマツ人工林資源を有効かつ持続的に利用するためには,多様な施業方法を検討

する必要がある。1988 年に発行された「トドマツ人工林間伐の手引き」では,植栽密

度および伐期が同一の収穫予測表を提示していた。本手引き書では,根株腐朽被害回

避のための伐期の前倒しや,低コスト化に伴う植栽本数の変化などへの対応を踏まえ

た施業を行うこととした。地位が高く,腐朽被害のリスクが低い場合には,より大径

材の生産を目指し,また,地位が低い場合には,中径木の充実を目指した。

(2)間伐方法および間伐指針

間伐方法は,間伐効果が現れやすい全層間伐を基本とした。また,間伐の強度は極

端に林分成長量が低下しないと考えられている林分材積で 30%程度とした。また,成

長量を確保するために,なるべく早期に間伐を行うように設定した。

密度管理は,樹高,相対幹距比,形状比,および収量比数などを目安とした。

(3)施業体系の区分

本手引きでは,全道約 1900 林分の調査結果から,最多密度線を求め林分密度管理図

(図 4-1)の作成を行った。また,林分の径級別収穫予測を行うため,β型の Y-N 曲

線による収量-密度図を作成した(図 4-2)。

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伐期を標準伐期齢の 40 年,60 年,および長伐期の 80 年に設定した。また,植栽本

数を 1500 本/ha,2000 本/ha,および 2500 本/ha の 3 通りとし,地位指数 13,15,17,

19,21 の場合について,中庸,疎仕立ての 90 通りのシミュレーションを行い,林分

収穫予測表を作成した。

地位別,仕立て方法別,植栽本数別の収穫予測(全 90 タイプ)は,表 4-1 の通りで

ある。

(4)枝打ち

トドマツは耐陰性が高く,輪生枝を形成するため,局部的に節が発生し,強度性能

図 4-1 北海道トドマツ人工林の

林分密度管理図

上層高により,林分材積と林分密

度との関係を把握することがで

きる。

図 4-2 北海道トドマツ人工林の

初期本数 2000 本の収量-

密度図

任意の上層高における直径階分

布等の情報を得ることができる。

林分密度管理図とは,最多密度曲

線,自己間引き曲線,収量比数線

などを共有する。

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等にも影響すると考えられる。また,トドマツの枯れ枝は 40〜50 年生でも残っている

場合が多い。そのため,枯れ枝による死節が形成され,材質に対して影響を与える可

能性が高く,枝打ちが必要となる。一方,トドマツの場合,全木枝打ちの後に,凍害

やヤニ垂れといった問題が生じる場合がある。枝打ちの強度は,立木の樹高成長や林

分密度などを勘案し,林縁木の枝打ちを控えたり,或いは主伐候補木に絞って施業を

行ったりすると,枝打ちをしない立木の樹冠が周辺の枝打ち木の幹を保護する。

具体的には,主伐候補木について,地位指数 20 より上では,地上高 8m まで,地位

指数 15〜20 では地上高 4m までの枝打ちを,樹高に対する枝打ち高の比率が 50%以下

にとどめて若い内に行うことを推奨する。

5 施業体系図と収穫予測表(全 90 タイプ)

見開き 2 頁の左頁に施業体系図,径級構成表,右頁に収穫予測表を示した。タイプ

別の施業体系図および収穫予測表の内訳は以下の表 4-1 の通り。

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地位指数 植栽本数 仕立て方 主伐林齢 地位指数 植栽本数 仕立て方 主伐林齢

40 40

60 60

80 80

40 40

60 6080 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 6080 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40 40

60 60

80 80

40

6080

40

60

80

40

60

80

40

60

80

40

60

80

40

60

80

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

中庸

13

15

17

19

1500

2000

2500

1500

2000

2500

21

2500

1500

2000

2500

1500

2000

2500

1500

2000

表 4-1 施業体系図,径級構成表,および収穫予測表の内訳

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平成26年作成