小松川橋梁ペンデル支承取替工事の...

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横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月 108 小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工 小松川橋梁ペンデル支承取替工事の 設計・施工 Komatugawa bridge is a cable stayed bridge across over Arakawa River, that has passed 30 years after its opening. This bridge is equipped with the Pendel shoes (the link-bearings) in order to resist an upper lift force. In the scheduled inspection once a year, one fracture in an anchor bolt of the Pendel shoe and cracks in 5 anchor Kazuo Kobayashi * 横河工事㈱・東京橋梁本部構造技術部設計課課長補佐 小林 一雄 * The Replacement Work of a Pendel Shoe in a Cable Stayed Bridge bolts were found among 16 anchor bolts of the Pendel shoes. So, the Pendel shoes and anchor bolts were re- placed by new support system using cables. This paper reports the damage of anchor bolts, the design of the new support system, and construction work under traffic. 1.はじめに 首都高速道路 7 号線・小松川橋梁は,荒川に架かる三 径間連続鋼床版斜張橋である。全体構造を図- 1 に示す。 供用開始は昭和46年3月であり,供用後約30年が経過し ている。主桁は,幅員中央に桁高 2.4m 腹板間隔 4m の箱 桁を,その両側に主桁間隔4.5mの鈑桁を配置する鋼床版 箱桁構造である。中央の箱桁は主ケーブルにより支えら れ,外側の鈑桁は15m間隔に配置された横桁によって箱 桁と一体化されている。斜張橋は構造上,端支点に負反 力が生じることになり,これに抵抗するため,ペンデル 支承を設置することが一般的である。 本橋においても,常時負反力が作用するため,図-2に 示すように両端部橋脚にペンデル支承をそれぞれ 2 基設 置し,RC 橋脚と桁端部を連結し負反力に抵抗している。 ペンデル支承の構造としては,引張材(アイバー)と桁, 下部定着金具をそれぞれピンで連結し,下部定着金具は, 4 本のアンカーボルトを用いて橋脚内部に埋め込まれた アンカーフレームと連結されている。 17800 4500 4000 4500 2400 東京方 ペンデル支承 60300 160000 60300 ペンデル支承 千葉方 P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 M F M M 側面図 耐風板 断面図 図- 1 全体一般図

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横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

108 小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工

小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工

Komatugawa bridge is a cable stayed bridge acrossover Arakawa River, that has passed 30 years after itsopening. This bridge is equipped with the Pendel shoes(the link-bearings) in order to resist an upper lift force. Inthe scheduled inspection once a year, one fracture in ananchor bolt of the Pendel shoe and cracks in 5 anchor

Kazuo Kobayashi

* 横河工事㈱・東京橋梁本部構造技術部設計課課長補佐

小林 一雄*

The Replacement Work of a Pendel Shoe in a Cable Stayed Bridge

bolts were found among 16 anchor bolts of the Pendelshoes. So, the Pendel shoes and anchor bolts were re-placed by new support system using cables. This paperreports the damage of anchor bolts, the design of the newsupport system, and construction work under traffic.

1.はじめに

首都高速道路7号線・小松川橋梁は,荒川に架かる三

径間連続鋼床版斜張橋である。全体構造を図-1に示す。

供用開始は昭和46年3月であり,供用後約30年が経過し

ている。主桁は,幅員中央に桁高2.4m腹板間隔4mの箱

桁を,その両側に主桁間隔4.5mの鈑桁を配置する鋼床版

箱桁構造である。中央の箱桁は主ケーブルにより支えら

れ,外側の鈑桁は15m間隔に配置された横桁によって箱

桁と一体化されている。斜張橋は構造上,端支点に負反

力が生じることになり,これに抵抗するため,ペンデル

支承を設置することが一般的である。

本橋においても,常時負反力が作用するため,図-2に

示すように両端部橋脚にペンデル支承をそれぞれ2基設

置し,RC橋脚と桁端部を連結し負反力に抵抗している。

ペンデル支承の構造としては,引張材(アイバー)と桁,

下部定着金具をそれぞれピンで連結し,下部定着金具は,

4本のアンカーボルトを用いて橋脚内部に埋め込まれた

アンカーフレームと連結されている。

17800

4500 4000 4500

2400

東京方

ペンデル支承 60300 160000 60300 ペンデル支承

千葉方

P1 P2 P3

P4 P5

P6 P7 P8

M F M M

側面図

耐風板

断面図

図-1 全体一般図

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工 109

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

小松川橋梁は年1回の定期点検を実施しており,ペン

デル支承の点検は目視による亀裂・変形の有無の観察お

よびアンカーボルトの打音検査としている。平成14年度

に実施された定期点検において,アンカーボルト16 本

中,1本に破断が見つかり,(写真-1)その後の緊急調査

によって他のアンカーボルト5本にも亀裂が発見された。

(図-3)

損傷を受けた桁端定着構造の補修方法として,ペンデ

ル支承を全量撤去し,桁と橋脚の定着にPCケーブルと鉛

直支承を使用した構造を設置することとした。本報告で

は,新定着構造決定までの比較検討からその設計および

施工について報告する。

C L

2000

3300

3330

10000

2498

800

ピン

ピン

端横梁

ピン

損傷位置 下部定着金具

ピン

引張材(アイバー)

桁側定着部

アンカーフレーム アンカーフレーム

図-2 ペンデル支承構造図

写真-1 破断状況写真

M F M M

東京 千葉

下流側

破断

東京 千葉

P3 P4 P5 P6

全周にUT反応

亀裂の疑いあり

半周にUT反応

車両 進入方向

車両 進入方向

No. 1

No. 2

No. 3

No. 4

No. 5

No. 6

No. 7

No. 8

半周にUT反応

No. 9

No. 10

No. 11

No. 12

アンカーボルト

基部コンクリート

アイパー

ピン

下部定着金具

亀裂の疑いあり

破断位置 No. 14

No. 15

No. 16

No. 13

P3

上流側

P6

図-3 ペンデル支承損傷状況

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2. 定着構造の検討

2.1 基本構造

損傷したペンデル支承を撤去し,新しく設置された定

着構造の最終構造案を図-4に示す。

従来のペンデル支承は以下の理由で検討対象から外し

た。

1)アンカーボルト部が破断した理由として,車両の衝撃

的な荷重によって,下部定着部の基部コンクリート面

が摩耗しアンカーボルトの部材間圧縮力が解放され,

基部コンクリートとベースプレート間で伝達していた

変動応力がアンカーボルト部に作用するようになった

ことや,ヒンジ部の回転機能が低下したことにより,

定着部に曲げモーメントが作用したことが実橋計測に

より明らかになった。従来のペンデル支承を採用する

場合には,これらの問題を根本的に解決する必要があ

る。

2)新規ペンデル支承を別の位置に設置する場合,ペンデ

ル支承と桁端部の取り合い構造が複雑かつ大規模にな

り,補強部材の追加など既設部材に対する影響が大き

い。また施工も非常に困難となる。

3)損傷したペンデル沓を全量撤去し,再び同じ位置に新

しいペンデル支承を設置する場合は,別途,架設時用

の定着構造が必要となり,工期,経済性とも不利とな

る。

本橋では,斜張橋特有の上揚力に抵抗するためケーブ

ルを使用することとしたが,活荷重の偏載荷状態によっ

ては鉛直下向きの正反力が作用することもある。この場

合,ケーブル単体では抵抗できないので,別途,鉛直支

承を設置した。支承システムとしてはケーブルと鉛直支

承の2系統のシステムとなるが鉛直支承の浮き上がり状

態は避けなければならず,ケーブルにプレストレスを導

入し,鉛直支承の反力を増やす必要があった。定着ケー

ブルと鉛直支承の反力分担比は断面剛性の比で配分され

るため,反力変動分のほぼすべては鉛直支承で負担する

ことになる。つまり,鉛直荷重の伝達機能は鉛直支承で

分担することになる。

2.2 ケーブル配置の検討

ケーブルは設置位置によって,発生張力や施工性が大

きく左右されるため,表-1に示す3案を選定し比較検

討を行った。

1)A案-張り出しブラケットによるケーブル定着構造

工場製作の箱断面ブラケットを横梁両端部に取付け,

このブラケットと橋脚張り出し部を定着ケーブルで連

結する構造である。左右のケーブル間隔を広く確保で

きるため,活荷重偏載などによるねじりに対してケー

ブル張力を小さくできる。 ただし,ブラケットのバッ

クアップ材を横梁内に設ける必要があり,狭隘な場所

での精度の高い溶接施工が必要となる。

2)B案-主桁腹板ケーブル定着構造

横梁内部の主桁腹板にボルト接合した定着部と,橋脚

内部に設置した定着部をケーブルで連結する構造であ

る。桁側,橋脚側とも密閉部での作業となる。橋脚の

ケーブル貫通孔は橋脚側からの上向き施工となり作業

性が悪い。桁側定着構造は,ボルト接合が可能であ

り,既設部材への影響度は低い。

3)C案-橋脚前面ケーブル定着構造

橋脚前面部と主桁腹板部に鋼製ブラケットを設置し,

この間をケーブルで連結する構造である。定着ケーブ

ルは全長に渡って橋脚前面に露出するので貫通孔の施

工はない。橋脚付きのブラケットは片持ち構造とな

り,大型の定着アンカーが必要となる。主桁箱桁内部

図-4 端部構造(補修前後)

10000

ペンデル支承 (損傷箇所) 点検用扉

水平支承

(補修前)

(補修後)

点検用扉 橋脚定着構造 (新設部材)

上部工定着構造 (新設部材)

鉛直支承 (新設部材)

定着ケーブル (新設部材)

40167900

鉄筋コンクリート

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工 111

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

において,定着ブラケットが主ケーブルの定着構造と

近接しているため,配置と補強が困難である。

以上,A~C案を比較検討し,設計・施工性・維持管

理について総合的に優れたB案による定着構造を採用す

ることとした。

表-1 ケーブルの配置検討

設計

構造

架設

ケーブル

鋼材重量

備考

評価 △

評価 ○

評価 ○

60ton

A案

<張り出しブラケットによるケーブル定着構造>

F270PH  4本×4箇所=16本 引張荷重=2622kN  外径=75.5mm

・側主桁は主桁作用に対して設計されているが,アップリフトに対しては設計されていない。十分な内部補強が必要である。

維持管理

総合評価 ○

・定着部が河川直上に露出され,腐食に対する環境条件が不利である。点検メンテナンスは容易である。

上部工 ・密閉部での作業は少なく,B案に比べて短期間での施工が可能である。

橋脚側 ・ケーブル貫通孔の施工は下向きの標準作業で可能。

40ton

B案

<主桁腹板ケーブル定着構造>

F310PH  4本×4箇所=16本 引張荷重=3040kN  外径=83.5mm

・主桁腹板にケーブル定着部をボルト接合するので,既設部材への影響や補強部材は最も少ない。

・日常点検,メンテナンスは容易である。

・密閉部での作業が多い。横梁内部に部材を搬入するため,マンホールの拡大,補剛材の一時撤去が必要である。

・ケーブル貫通孔は上向き施工となり作業性が悪い。

20ton

C案

<橋脚前面ケーブル定着構造>

F170PH  4本×8箇所=32本 引張荷重=1680kN  外径=61.6mm

・鋼製ブラケットに作用する曲げに対して,アンカーボルトの強度を十分に確保する必要がある。

・A案と同じで定着部の腐食条件が不利であるが,メンテナンスは容易である。

・箱桁内部は主ケーブル定着部と近接しているため定着ブラケットの配置とその補強が困難である。

・ケーブル貫通孔の施工はない。ブラケットの定着アンカーは大型である。

作業性

箱断面ブラケット

ケーブル ケーブル

ケーブル 鉛直支承 鉛直支承

鋼製定着部

上部工定着構造 上部工定着構造

橋脚定着構造

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工112

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

2.3 鉛直支承配置の検討

鉛直支承の設置位置および個数について,比較検討を

行い,最適な位置と個数を決定した。

検討方針は以下のとおりである。

1)鉛直支承の反力,定着ケーブル張力および横桁応力度

に着目する。

2)鉛直支承を設置する箇所には,横梁内部に支点補強が

必要となることから,鉛直支承の設置位置は横梁内の

既設ダイヤフラムの直下もしくは側主桁直下に限定す

る。

3)設置個数は1橋脚あたり,2個もしくは4個とする。

4)ケーブルの配置は 2.2で決定した配置に限定する。

5)ケーブルプレストレス量は,鉛直支承に負反力が発生

しないように決定した。

以上の検討方針から,表-2に示す4案に対して検討

を行った。

1案のケーブル張力は2案と比較すると大きいが,鉛直

支承の設置間隔が短いため,横桁の作用応力に対して有

利な配置となり,鉛直支承,定着ケーブル,横桁とも総

合的にバランスのとれた設計が可能である。2案はケー

ブル張力が最も小さくなるが,鉛直支承設置間隔が長い

ため,横桁に作用する応力度が許容応力度を超過する。3

案については,定着ケーブルの外側に鉛直支承を2箇所

設置すると,定着ケーブルのプレストレス力が内側の鉛

直支承を支点として,外側の鉛直支承に負反力を生じさ

せることになる。外側の鉛直支承を上方に強制変位させ

れば負反力を打ち消すことは可能であるが,もともと

ケーブルプレストレスが大きく,横桁の応力度が許容応

力度を超過する。4案のように定着ケーブルの両側に鉛

直支承を配置すると,ケーブルプレストレスによる反力

は正反力のみ生じ,3案のような負反力は発生しない。た

だし,本橋の場合,支承間隔が狭く活荷重の偏載による

負反力が大きくなる。よって,負反力を打ち消すための

ケーブルプレストレス量が大きくなり,横桁に作用する

応力度が許容応力度を超過する。これらの比較検討の結

果,1案を採用することとした。

表-2 鉛直支承の配置検討

1案

ダイヤフラム直下に鉛直支承を配置。 支承個数=2

設計反力=5104kN

設計張力=3833kN 設計張力=3090kN 設計張力=5060kN 設計張力=8169kN

(内訳)活荷重  ケーブルプレストレス

RL=2104kN Rp=3000kN

(内訳)プレストレス(一次)=765kN プレストレス(二次)=3000kN 活荷重=68kN

負反力  活荷重 RL(-)=-1402kN

鋼床版 σ=85N/mm2(σa=140) 腹板 τ=79N/mm2(τa=80) 下フランジ σ=73N/mm2(σa=140)

2案

鈑桁直下に鉛直支承を配置。 支承個数=2

設計反力=3533kN

(内訳)活荷重  ケーブルプレストレス

RL=1533kN Rp=2000kN

(内訳)プレストレス(一次)=765kN プレストレス(二次)=2000kN 活荷重=325kN

負反力  活荷重 RL(-)=-981kN

鋼床版 σ=151N/mm2(σa=140) 腹板 τ=59N/mm2(τa=80) 下フランジ σ=129N/mm2(σa=140)

3案

1案+2案の位置に鉛直支承を配置。 支承個数=4

設計反力=5696(1370)kN ( )内は外側の支承を示す。

(内訳)活荷重 ケーブルプレストレス 支点強制変位

RL=1943(863)kN Rp=6617(-2123)kN Rm=-2864(2630)kN

(内訳)プレストレス(一次)=765kN プレストレス(二次)=4500kN 活荷重=29kN 支点強制変位=-234kN

負反力  活荷重 RL(-)=-1890(-236)kN

鋼床版 σ=128N/mm2(σa=140) 腹板 τ=101N/mm2(τa=80) 下フランジ σ=109N/mm2(σa=140)

4案

1案+ダイアフラム直下に鉛直支承を配置。 支承個数=4

設計反力=8417(3476)kN ( )内は外側の支承を示す。

(内訳)活荷重 ケーブルプレストレス

RL=2517(1948)kN Rp=5900(1528)kN

(内訳)プレストレス(一次)=765kN プレストレス(二次)=7400kN 活荷重=4kN

負反力  活荷重 RL(-)=-2888(-510)kN

鋼床版 σ=90N/mm2(σa=140) 腹板 τ=139N/mm2(τa=80) 下フランジ σ=77N/mm2(σa=140)

○ △ × ×

構造

反力

評価

ケーブル 張力

横梁 断面力

ケーブル張力

鉛直支承

ケーブル張力 ケーブル張力

鉛直支承

強制変位

ケーブル張力 鉛直支承 鉛直支承

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工 113

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

3. 定着ケーブルの設計

使用したケーブルは図-5に示すように,7本よりPC

鋼線(公称径 12.4mm JIS-G3536)を,さらに19束ねより

合わせた多重PC鋼より線である。

3.1 安全率について

斜張橋ケーブルの安全率は,道路橋示方書1)Ⅱ鋼橋編

16.5 にてν=2.5 を用いるものと規定されている。しか

し,本工事で新設する定着ケーブルは一般的な斜張橋

ケーブルとはその機能や分担する荷重変動,温度変化に

よる影響など異なるものが多く,斜張橋ケーブルの安全

率をそのまま用いることは出来ない。定着ケーブルはプ

レストレスを加えることにより活荷重による変動軸力は

微小であり,これは活荷重による疲労に対しては耐久性

が高いことを示す。一方,温度変化による桁端変位は,定

着ケーブルに曲げ応力を発生させ,二次応力の影響を増

大させる。これらのことより,定着ケーブルには吊橋の

メインケーブルで採用されているν=3.0の安全率を採用

することとした。

1定着部のケーブル最大張力: P=3832(kN)

ケーブル1本の引張荷重: Pu=3044(kN)

1定着部のケーブル本数:4本  

よって 安全率:(3044× 4)÷3832= 3.18≧ 3.0

3.2 ケーブルの疲労設計について

疲労設計については,活荷重の繰り返し載荷による疲

労耐久性の照査,および温度変化に伴う応力変動に対す

る疲労耐久性の照査を行った。なお,ケーブル本体の疲

労強度等級は鋼道路橋の疲労設計指針2)表 3.2.3 にある

ケーブル本体のロープの疲労強度等級であるK2等級と

みなした。この場合,一定振幅応力下での疲労限度に対

応する応力範囲の限界値(打ち切り限界)は

Δσce= 200(N/mm2)

7本より 公称径12.4mmJIS G3536 PC鋼より線

多重PC鋼より線

ケーブル断面

82mm

12.4mm

図-5 ケーブルの構造

立体解析における活荷重による軸力変動の最大値は

Δσmax= 13.2(N/mm2)

このように,本構造形式においては,活荷重による変

動荷重の大部分は支承反力の変動で分担され,プレスト

レスを導入した定着ケーブルには,活荷重による変動応

力がほとんど発生しない。したがって,活荷重に対して

は十分な疲労耐久性を有している。

温度変化にともなう桁端部の変位により,定着ケーブ

ルは偏向具位置(図-6)で曲げられる。したがって,温度

変化による疲労照査においては,立体解析から算出され

る平均断面としての応力変動に加え,偏向具位置での曲

げによる局部的な応力変動を考慮して照査した。ケーブ

ルの曲げによる応力変化は,PC斜張橋のケーブル疲労試

験値3)により類推した。また,考慮した温度変化は現地

計測にて記録された最大温度変化量(10.1 度)に対して2

倍の安全率を考慮し,一日の温度変化を20度(±10度)

として照査した。

ケーブルの曲げによる応力変化はケーブル疲労試験値3)

から類推し,

 Δσ=81(N/mm2)(温度変化±10度=曲げ角度0.59度)

立体解析での温度変化による応力変化は

 Δσ=56(N/mm2)(温度変化量20度)

合計の変動応力は

 Δσmax= 56+ 2×81= 218(N/mm2)

したがって,

 Δσmax= 218(N/mm2)>Δσce= 200(N/mm

2)

平均変動応力に曲げによる局部変動応力を加えると,一

定振幅応力を若干超過する。

疲労損傷までの繰りかえし数を計算すると,

N=2000000×200 5

≒1300000 (回)218

解析から算出される変動応力

曲げによる変動応力

偏向具

偏向具

温度伸縮

図-6 ケーブルの変動応力

( )

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工114

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

疲労寿命は

N=1300000÷ 365≒ 3560 (年)

よって,十分な疲労強度が確認された。

4.施 工

工事全体の施工フローを図-7に示す。

4.1 定着ケーブルの施工

定着ケーブルに導入するプレストレスは,ペンデル支

承切断時の衝撃を避けるため,2段階に分けて張力導入

を行った。1回目の張力導入では,ペンデル支承が受け持

つ死荷重による負反力と同じ張力を定着ケーブルに導入

する(1次緊張)。この状態では,ペンデル支承に作用する

軸力はゼロになるため,ペンデル支承切断時の衝撃は発

生しない。

ペンデル支承を切断し,負反力を定着ケーブルに受け

替えた後は,あらかじめ所定の高さに調整した鉛直支承

に荷重を負担させながら,再度を定着ケーブルに張力を

導入する。最終的な導入張力は負反力照査式により鉛直

支承に負反力が生じない張力とした(2次緊張)。これらの

緊張手順を図-8に示す。

4.2 ケーブル緊張状況

本工事での支承反力の受け替えは,全ての作業工程に

おいて供用下で施工した。よって,施工中の変状確認が

必須であり,1次緊張から2次緊張の各段階で応力および

変位の測定を行った。

定着ケーブルの緊張により,横梁に応力が導入される

とともに横梁がたわみ,路面高が変動することが予測さ

れた。設計計算によって計算されるそれらの値は図-9

のように,横梁中央で4mmの沈下,張り出し先端部で

2.6mmの上昇であった。一方,実施工において横梁変位

を測定した箇所を図-10に示し,最終的な変位量を図-

9中にプロットする。(データは千葉側桁端部を示す。)実

施工においては,1次緊張開始からペンデル支承切断ま

ではほとんど変位しないが,2次緊張開始直後より横梁

は変位し,ケーブル位置での横梁の最終たわみは5.89mm

まで沈下した。設計値との差2mmについては,実際の桁

と沓との隙間が設計値の1.5mmよりも大きかったことが

考えられる。張り出し先端部においては,下流側で1mm

上昇,上流側で2mmの沈下と,異なった動きを示してい

る。上流側については測定誤差および沓の隙間が影響し

ているものと推測される。

開始

鉛直支承の架設

定着金具の架設

定着ケーブルの架設

定着ケーブルの1次緊張

ペンデル支承 アイパー切断

定着ケーブルの2次緊張

完了

図-7 施工フロー

【補修前】

【1次緊張】 ペンデル沓切断

【2次緊張】 プレストレス導入

ペンデル沓  死荷重張力 =0kN

定着ケーブル 1次張力 =765kN

ペンデル沓 死荷重張力=765kN

主桁 主桁 主桁

定着ケーブル 1次張力=765kN 2次張力=3000kN

鉛直支承

図-8 定着ケーブルの緊張手順

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小松川橋梁ペンデル支承取替工事の設計・施工 115

横河ブリッジグループ技報 No.34 2005年1月

5.まとめ

本工事は,供用下における斜張橋ペンデル支承の取替

え工事であり,これまで前例のない内容の補修工事で

あった。一般的に斜張橋のペンデル支承はピン構造で構

成されており,その機械的な構造と設置される場所がす

べて環境条件の厳しい桁端部となることから,設計上,

想定されている回転機能が永久に確保されるとは言い難

く,本橋以外の斜張橋においても,同様な損傷が発生す

ることは十分考えられる。本橋の完成以降,多くの斜張

橋が建設されているが,本補修工事の設計施工事例が,

今後の斜張橋の補修対策に役立てば幸いである。

最後に,本工事において適切なご指導,ご助言を頂い

た首都高速道路公団の関係各部署の皆様に感謝致します。

参考文献 

1)(社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説,Ⅰ共通編・

Ⅱ鋼橋編,丸善株式会社,平成14年 3月

2)(社)日本道路協会:鋼道路橋の疲労設計指針,丸善株

式会社,平成14年 3月

3)埼玉県土木部:秩父公園橋工事報告書,1994.9

図-9 変位量

ケーブル位置

床版端部

床版端部

図-10 変位量測定位置

写真-2 下部工定着部

写真-3 下部工定着部の緊張

横桁の変位(設計値)

A-【1次緊張+ペンデル切断】

 B-【2次緊張】 ※Aによる変位を含む

C-【鉛直沓隙間】

【合計値】B+C(実測値)下流側 1.04mm

(実測値) -5.24mm

(実測値) -5.89mm

(実測値) 上流側 -2.32mm

2.6mm

-1.5mm

4.1mm

1.1mm

-4.0mm

-2.5mm

-0.9mm