カゼインミセルの構造モデルと乳の加工一 milk science vol. 66, no. 2 2017...

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カゼインミセルの構造モデルと乳の加工 誌名 誌名 ミルクサイエンス = Milk science ISSN ISSN 13430289 著者 著者 青木, 孝良 水野, 礼 木村, 利昭 堂迫, 俊一 巻/号 巻/号 66巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 125-143 発行年月 発行年月 2017年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: カゼインミセルの構造モデルと乳の加工一 Milk Science Vol. 66, No. 2 2017 カゼインミセルの構造モデルと乳の加工 青木孝良1*・水野 礼2. 木村利昭3

カゼインミセルの構造モデルと乳の加工

誌名誌名 ミルクサイエンス = Milk science

ISSNISSN 13430289

著者著者

青木, 孝良水野, 礼木村, 利昭堂迫, 俊一

巻/号巻/号 66巻2号

掲載ページ掲載ページ p. 125-143

発行年月発行年月 2017年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: カゼインミセルの構造モデルと乳の加工一 Milk Science Vol. 66, No. 2 2017 カゼインミセルの構造モデルと乳の加工 青木孝良1*・水野 礼2. 木村利昭3

Milk Science Vol. 66, No. 2 2017

一 カゼインミセルの構造モデルと乳の加工

青木孝良1*・水野 礼2. 木村利昭3. 堂迫俊一4

(1鹿児島大学名誉教授鹿児島市星ケ峯 891-0102)

(2森永乳業株式会社研究本部食品総合研究所座間市東原 252-8583)

(3一般財団法人材料科学技術振興財団 東京都世田谷区喜多見 157-0067)

(4雪印メグミルク株式会社 ミルクサイエンス研究所川越市南台 350-1165)

Models of the structure of casein micelle and its changes during processing of milk

Takayoshi Aoki1*, Rei Mizuno2,Toshiaki Kimura列ShunichiDosako4

(1Professor Emeritus of Kagoshima University, Hoshigamine, Kagoshima 891-0102)

(2Morinaga Milk Industry Co., Ltd., Food Research & Development Institute, R&D Division, Zama 252-8583)

(3Foundation for Promotion of Material Science and Technology of Japan, Kitami Setagaya Tokyo 157-0067)

(4Megmilk Snow Brand Co., Ltd., Milk Science Research Institute, Kawagoe, Saitama 350-1165)

Abstract

Numerous studies have been performed on casein micelles because they have characteristic structure and biological

functions, and play important roles in processing of milk. More than twenty models have been proposed since Waugh

proposed the first model of casein micelle in 1958. In this review, models of the casein micelle were divided into three

groups of early stage, submicelle, and nanocluster modeles, and then their characteristics were described. Submicelle

models of Slattery, Schmidt and Walstra had been accepted by many researchers. However, since Holt proposed the

nanocluster model in 1992, most of the proposed models were modified nanocluster ones. We made discussions on the

electron micrographs which played a key role in proposing the nanocluster models. Finally, we described whether it is

possible to explain the changes in casein micelles during processing milk using the submicelle model of Schmidt,

nanocluster models of Holt, Horne, and Dalglesish & Corredig. It is impossible to explain all phenomena which occur in

casein micelles during processing of milk using any models. Further studies on casein micelles are needed.

1. はじめに

牛乳中でカゼインはカゼインミセルと呼ばれる直径30

~600nm のコロイド粒子として存在している。脂肪球

を除いた脱脂乳が乳特有の濁りを呈しているのはカゼイ

ンミセルによるものである。ウシカゼインは, O!sl一,

O!szー, [J-および Kーカゼインの 4種類から構成されてお

り,その組成比はおよそ 3: 0.8 : 3 : 1である1)。O!sl一,

*連絡者青木孝良(あおき たかよし)

〒891-0102 鹿児島県鹿児島市星ケ峯 3-27-22鹿児島大学名誉教授

(Tel: 099-265-2237, Fax: 099-265-2237, E-mail : [email protected]) 2017年 3月2日受 付

2017年 4月9日受理

[doi:10.11465/milk.66.125]

叫 2ーおよびfJーカゼインはカルシウム (Ca)感受性タン

パク質で Ca2十存在下で沈殿するが,カゼインミセルに

おいては Kーカゼインがこれらのカゼインと相互作用

し,安定化させている。カゼインミセル中には乾物当た

り6.6%の無機質が含まれており,その主要成分はリン

酸 Ca(CP)である。ミセル中の CPはコロイド状 CP

(CCP)あるいはミセル性 CPと呼ばれている2)。CCP

を可溶化するとミセルが解離することから, CCPはミ

セル構造維持のため重要な役割を果たしている。

カゼインミセルの構造と特性を理解することは乳製品

製造において不可欠である。チーズ製造においては,キ

モシン(レンネット)によるカゼインミセルの凝集やカー

ド形成は最も重要な製造工程となっている。また,ヨー

グルト製造におけるカードの物性コントロールは重要な

課題であるが,これにもカゼインミセルの構造が密接に

関わっている。練乳の増粘や粉乳貯蔵中の乳タンパク質

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126

Table 1 Author and represented year of early models, sub-micelle models and CP nanocluster models of casein micelle.

Early stage of model

Waugh7l (1958)

Payens8l (1966)

Rose9l (1969)

Parry & Carroll10l (1969)

Garnier & Dumas11l (1970)

Waugh12l (1971)

Submicelle model

Morr13l (1967)

Slattery14l (1976)

Schmidt1l (1982)

Ono & Obata15l (1989)

Walstra16l (1990)

Walstra17l (1999)

Nanocluster model

Holt18) (1992)

Holt & Home19l (1996)

Horne20l (1998)

de Kruif & Holt21l (2003)

McMahon & Oommen22l (2008)

Shukla et al.23) (2009)

Bouchoux et al.24l (2010)

Dalgleish25l (2011)

de Kruif et al.26l (2012)

Dalgleish & Corredig27l (2012)

Holt28) (2016)

の不安定化もカゼインミセルの問題に他ならない。カゼ

インミセルは乳製品製造上重要なだけではなく,生物学

的には CPのキャリヤー(運び屋)として機能している

ことから,多くの研究者の研究対象となってきた3-5)。

また, CCPは特異な形態でミセル中に存在しており,

Caの生体利用性にも優れていることから,栄養の面か

らも注目されている存在である見

カゼインミセルのモデルを初めて提案したのは Kーカ

ゼインを発見した Waugh7lで, 1958年のことである。

それ以来多くのモデルが提案されてきたi,7-2si (Table

1)。1970年代以降 Slatery14l,Schmidt1l, Walstra16,17l等

が提案したサブミセルモデルが論文などにも広く引用さ

れるようになった。日本では最近でもサプミセルモデル

が成富等にも紹介され,一般的に広く受け入れられてい

るが,国際的にはサブミセルの存在を否定した CPナノ

クラスターモデルが主流である。本稿ではカゼインミセ

ルの構造モデルがどのように変遷してきたかについて概

説した後,加熱や冷却,ヨーグルトやチーズ製造中のカ

ゼインミセルの変化がミセルの構造モデルを使ってどの

ように考察できるか述べてみたい。

第66巻

2. カゼインミセルの構造モデル

2-1. 初期のモデル

Waugh叫ま O!s―および Kーカゼインの分離に成功し,

Ca2十存在下および不在下における各成分間の相互作用

を詳細に調べた。 O!sーカゼインは30mMCa存在下で不

溶であるが, Kーカゼインは溶解すること,しかも Kーカ

ゼインは Ca2十存在下でも O!sーカゼインを安定化させる

ことを明らかにした。 O!sーカゼインと Kーカゼインが 3:

1で最も安定な複合体を形成し, Ca2十存在下でも非常

に安定な複合体になることから, Fig.laのモデルを考

えた叫このモデルでは, Kーカゼインの一部が複合体か

ら突き出した形体となっており,牛乳のレンネット凝固

の際のキモシンが Kーカゼインを分解することを上手く

説明できるとしている。 Waugh12>はこのモデルを発展

させ, Fig.lbに示すコートーコアモデルと呼ばれるモデ

ルを発表した。ミセル内部にはロゼット状に会合した

O!sーおよびfJカゼインが位置し,これをミセル表面の O!s―

Kーカゼイン複合体が安定化しており, Kーカゼインは保

護コロイドの役割をしている。 Kーカゼインが多いとロ

ゼットを解離させ,ミセルサイズが小さくなるので,ミ

セルサイズが小さくなると Kーカゼイン含量が多くなる

という事実を説明できる。

1960年代になると超遠心沈降分析やゲル電気泳動な

どが乳タンパク質の研究にも盛んに導入され,カゼイン

各成分の会合特性や成分間相互作用も明らかになってき

た。また,カゼインミセルの電子顕微鏡観察も行われる

ようになった。 Payens8lはそれまでの成果,①ミセルは

球状である,②Kーカゼインのグリコマクロペプチド

(GMP) はミセル表面にある,③Ca2+はミセル内のカ

ゼイン成分間結合に重要な役割を果たしている,④カゼ

イン各成分間の複合体形成は疎水性領域を介して起き,

疎水性領域はミセル表面にも内部にもある,⑤O!sーカゼ

インは多少コンパクト(楕円体)であるが, f]-および K一

カゼインはルーズで紐状の構造である,⑥大部分の

CCPはミセルの表面にある,という 6項目を満たすと

して,全体が球状のモデルを提案した。⑥は Roseの結

果を引用したものであったが, Roseは後に CCPの役割

を修正した。 Rose9>はカゼインミセルの解離と CCPと

の関係を詳細に調べ,ミセル構造維持のためには CCP

が不可欠であると考えた。 Roseのモデルでは,線形に

会合したfJ一カゼインに O!sーカゼインと Kーカゼインが疎

水性相互作用で結合してサプユニットを形成し,このサ

プユニットに Ca2十と無機リン酸 (Pi) が加わって CCP

架橋が形成され,ミセルが形成される (Fig.le)。ミセ

ルの形成は無制限に進行するのではなく,ミセル表面に

Kーカゼインが占められるようになるとミセルの形成は

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第 2号 127

Transverse

じLongitiudinal

にこここニニこ:ロ(a)

{b)

* + c.> + ,,.,, ••• ロ翠/

(C}

·=コ• Cls

仁=コ P

0 K Apa廿te

ヽ chain

Fig. 1 Models of casein micelle proposed in the early stage. a, by Waugh in 1958 (Prepared from ref. 7); b, by Waugh in 1971 (Prepared from ref. 12); c, by Rose in 1969 (Prepared from ref. 9)

収束する。 O!s-, fJーおよび Kーカゼインはサプユニットを

形成するが,出来上がったミセルはサプミセルを形成し

ていないので,サプミセルの概念を取っていない。

2-2. サブミセルモデル

サプミセル構造を持つモデルを最初に提案したのは

Morrら13)である。彼らは脱 Ca剤のシュウ酸塩と 6M

尿素で解離させたカゼインミセルの超遠心沈降分析を行

った。ミセルをシュウ酸塩で解離させるとカゼイン複合

体に, 6M尿素で解離させると CCP架橋と ss架橋で

会合したカゼインに解離し,シュウ酸塩と 6M尿素で

解離するとカゼイン単量体に解離することから CCP架

橋の存在を考えた。このモデル (Fig.2a) では,サプ

ミセルは内側がP-a.ーカゼイン Ca複合体,外側が K-a8―

カゼイン複合体から構成されている。このサブミセルを

カゼインのリン酸基 (Po) あるいはカルボキシル基を

介して CCPが架橋している。したがって,ミセル内部

にあるサブミセルにも Kーカゼインが存在しているが,

これはミセルサイズが小さくなるほど Kーカゼイン含量

が増加するという事実を説明できない。

サプミセルモデルを広く世界に認識させたのは

Slattery14lである。 1971年に 0!s1ーカゼインの一次構造が

決定され29), 次いで他のカゼインの一次構造も決定さ

れた。各カゼインに親水性のアミノ酸と疎水性のアミノ

酸が局在する領域があることや Poも均ーに分布してい

るのではなくクラスターを形成していることなども明ら

かになり,構造が理解しやすくなった。 Slattery14lはカ

ゼインの一次構造上の特徴から, p-カゼインは Payens

やRoseが考えるように紐状に会合するのではなく,他

のカゼイン成分と共に,界面活性剤によって形成される

ようなミセルの会合体,すなわちサプミセルを形成する

と考えた。 Shimmin& Hi1130lもミセルの内部構造の電

子顕微鏡写真から,サプミセルは球状であるとした。ま

た,サブミセルの組成は均ーではなく両親媒性で,親水

性に富むサブミセルと疎水性のサプミセルとがあり,疎

水性に富むサプミセルはミセルの内側に,親水性に富む

サブミセルがミセルの外側に位置すると考えた (Fig.

2b)。サプミセルの親水性領域を黒く,疎水性領域を白

く表した目玉のような構造は極めてユニークなものであ

った。サプミセルは疎水性領域を介して会合し,ミセル

表面が親水性の領域で占められると会合が停止する。こ

れにより小ミセルほど Kーカゼインが多いことを説明で

きる。また, Ca2十と Piによるイオン結合によりミセル

が安定化されると考えた。

Schmidt叫ま, Slatteryと同様サプミセルには Kーカゼ

インに富むものと Kーカゼインの少ないものがあると考

えた。サプミセル間をカゼインの Poを介して CCPが

架橋するモデルを提案した (Fig.2c)。CCPとカゼイン

間の結合は共有結合的なものではなく, CCPは正に帯

電しており,カゼインは負に帯電しているので両者間で

静電的相互作用が起きると考えた。カゼインに直接結合

する Caはカゼインの Poと等量であるとすると, CCP

のCa/Pi比は1.5となるので, CCPはヒドロキシアパタ

イト (HAP) ではなく Ca3(PO山となる。 CaとPiを

含む溶液を混合すると最初にできるのは無定形 CP

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128 第66巻

0 :~c::~~~~ しt0 :~c; ごこor

。 Ca6(PO,),

cluster

(a) (b) (c)

d e

z

c

.• `

z

'

. 七B.'

}二i□

心lonm

F

0 submicell f"< protrudin&

peptide chain

1, CCP

(d) (e)

Fig. 2 Submicelle models of casein micelle. a, by Morr et al. in 1967 (Prepared from ref. 13); b, by Slattery (Prepared from ref. 14); c, by Schmidt in 1982 (Prepared from ref. 1); d, by Ono et al. in 1989 (Prepared from ref. 15); e, by Walstra in 1999. (Prepared from ref. 17)

(ACP)であるが, ACPはpH7以上でのみ安定で,生

理的環境下では不安定である。しかし, ACPから安定

なHAPへの変換は Mg2+ゃクエン酸によって遅延され

るし, リソタンパク質は ACPの変換を阻害するので,

乳中の CCPはACPであると結論した。また, x-線吸

収分光学の研究か らACPは直径0.95nmの Cag(P04)5

であるとし ,これがカゼイソの Poと相互作用して,

CCP架橋が形成される。全ての PoにCaが1個結合す

るとし,カゼイソミセルの組成から架橋される Poを算

出すると,40%のPoがCCPで架橋されることになる。

Onoら15)は,カゼイソミセルを脱塩解離した後ゲル

濾過 HPLCによりサイズの異なるサプミセルを分離す

ることに成功した。大きいサプミセル (F2)はO!s!―お

よび Kーカゼインから,小さいサプミセル (F3)は0!s1―

およびfJーカゼインから構成されていた。 F3で構成され

たコアを F2が取り巻くモデルを発表した (Fig.2d)。

Onoらのモデルは,実験によりサプミセルを分離した

結果に基づいて構築されおり高く評価される。

Walstra16lは,カゼインミセルにキモシソを作用させ

ると水和半径が 5nm小さくなることを明らかにし, K一

カゼインのマクロペプチド部分が溶媒にヘア (hair)の

ように突き 出して柔軟な構造をとっているとした。それ

故 Walstraのモデルはヘアモデルと呼ばれている。彼

は1990年にはサプミセル問を CCPが架橋しているモデ

ルを発表したが,後にミセルが形成される過程では

CCPがサプミセル内に結合し,マイナスチャージを失

ったサプミセルが会合してミセルが形成されると考え,

サプミセル内に CCPが存在するモデルを提案した

(Fig. 2e) 17l。

2-3. ナノクラスターモデル

Holt1s,19,21Jはサプミセルの存在を否定し,ナノクラス

ターモデルを発表した (Fig.3a)。サプミセル否定の理

由は次の 3点である。①それまでに電子顕微鏡で観察

されたサプミセルと思われる粒子は試料調製中にできた

アーティファクトによるものであり,新しい電子顕微鏡

観察ではサプミセルに相当する粒子は観察されない。特

にMcMahonら22,31)の透過型電子顕微鏡 (TEM)を用

いた詳細な研究は,試料調製中の構造の破壊を避けるた

め可能なあらゆる注意を払いながら行われている。②力

ゼイソミセルを脱 Ca解離させると,従来の TEMで観

察さ れたサプミセルとする粒子と同じよ うなサイズのカ

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第 2号

{a)

(C)

● CP nannocluster

0 Void

◎ "Hard" region

• CPn● noduster

Fig. 3 Nanocluster models of casein micelle.

pL K....f~ {b)

(d)

& CCP

● CCP __ ,, 翠 a,浪 CN

~K·CN

£Hydrophobically bound f3・CN

129

a, by Holt in 1992 (Prepared from ref. 18); b, by Horne in 1998; (Prepared from ref. 20) c, by Bouchoux et al in 2010 (Prepared from ref. 24; d, by Dalgleish & Corredig in 2012 (Prepared from ref. 27)

ゼイン会合体(サプミセル)が分離されるが,会合体の

サイズは濃度依存性である。このように試料調製法と濃

度によってサイズが異なり,サブミセルが存在するとす

るのには問題がある。③組成の異なるサプミセルができ

るとは考え難く,そのメカニズムが示されていない。

Holtのモデル (Fig.3a) 18lはある程度均ーなタンパ

ク質のマトリックスの中に CPナノクラスターが存在

し, ミセルの周囲には Kーカゼインの GMPが突き出し

た構造となっている。なお Holtは, CPナノクラス

ターはミセル中でカゼインを架橋している CPを指し,

CCPより狭義の意味で使用している。このモデルの特

徴は, CPナノクラスターの形成がミセルを形成させる

としている点である。 Holt32,33lは, p-カゼインホスホぺ

プチド (4Poを含む N端 1-25残基, SerP4Casと略)

のPo,Ca, Mg, Pi, クエン酸が牛乳中の濃度と同じにな

るように pH5.5で溶解し,その溶液中に入れた尿素を

ウレアーゼで分解することにより pHを緩やかに6.7に

上昇させて CPナノクラスターを形成させた。この穏や

かな pH上昇が均ーで単分散性の CPナノクラスターを

生成させた。 CPナノクラスター全体の粒子量は超遠心

沈降平衡で197.6kDa, Ca/ (Pi+ Po) 比は1.3, コアの

CPの粒子量は61kDa, コアの半径は2.3nm (直径4.6

nm) である。コアを49個の SerP4Casが取り囲み,次

式のように表された。

[Ca13.2(Pi厨 Mg1.0Cit1.3SerP4Cas]4g

なお, Citはクエン酸である。このモデル系で調製し

たCPナノクラスターがミセル形成の際にも出来るとし

た。 CPナノクラスターは不定形で, Caの交換性があ

り,その塩組成や性質がカゼインミセル中の CCPと似

ていることから, McMahonら31)がカゼインミセルを

TEMで観察した時に見られた 2-3nmの電子密度の高

い部分は CPナノクラスターのコア部分であると考えた。

CPナノクラスターにカゼインの Poを介してカゼイソ

が結合しナノクラスターを形成する。ナノクラスターで

は親水性の Poクラスターが CCPで架橋されており,

カゼインの疎水性領域が外側になっている。このナノク

ラスターの成長は,ミセル表面が Kーカゼインの GMP

で覆われるまで続く。このモデルでは,カゼインは柔軟

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130 第66巻

{a) (b)

(c)

Fig. 4 Model of casein micelle proposed by Holt in 2016.

(a)、Micelleas a sphere of radius 100 nm, voluminosity 4 ml gー1and mass 2 x 108 Da (about 10,000 peptide chains) with simplest nanocluster substructure comprising 800 calcium phosphate core particles of mass 6. 1 x 1び Daand radius 2.4 nm, separated from nearest neighbors by an average distance of 18 nm; (b-e), Sections through 4 ensem-ble structure depicting an approximately homogeneous matrix (b)、amatrix with void space (c), a matrix with condensed protein region (d), and a matrix and void space and condensed protein region (e). (Reprinted from ref. 28 with permission of Elsevier Ltd.)

な構造をしており,流れ (Folw)に対応して構造を形

成するレオモルフィック (Rheomorphic) であるという

仮説に基づいている34)。そして中性子小角散乱の測定

結果から,半径2.3nmの一定数の CCP (CPナノクラ

スターのコア部分)が18nmの間隔で分布している。

Holtはカゼイソミセルのモデルを 4回発表している

が (Table1), 2016年に最新のモデルを発表した (Fig.

4a)28)。このモデルではカゼイソのゲルマトリックスが

より一層均ーになっており,カゼイソ間の結合はカゼイ

ンPolartract (CNPT)間の相互作用(凝縮)によると

している。そして,カゼイソミセルの内部構造はダイナ

ミックで,異なった 4タイプのサプストラクチャーが

溶媒や外部環境に対応して全体として調和のとれた構造

をとっているとしている。それら 4タイプのサプスト

ラクチャーは,多少均ーなマトリックス (Fig.4b), 空

隙をもったマトリックス (Fig.4c), 凝縮した夕‘ノパク

質の構造をもったマトリックス (Fig.4d), 空隙と凝縮

したタンパク質の構造をもったマトリックス (Fig.4e)

で構成されている。 CNPTは本来的には,夕‘ノパク質

のアミノ酸配列において解離基と疎水性基が少なく,ア

スパラギン,グルタミン (Gln)などの極性アミノ酸に

富む配列に適用されるものであるが35l,Holtはプロリ

ン (Pro) とGlnが多く,長いエクソンによ ってコード

される親水性のアミノ酸配列を CNPT とした。この定

義に従えば, CNPTのアミノ酸残基数はウシ C'islーカゼ

イソでは51個,/J-カゼイソでは166個, K-カゼイソでは

96個で '/Jーカゼイソが特に多い。また, Proは

Bigelow36)の疎水性スケールによれば疎水性の強いアミ

ノ酸に分類されるが, Kyte& Doolittle37)のスケールに

従えばヒスチジソに近く親水性であるとしている。そし

て,ペプチド結合している Proのカルポニル基は水素

結合受容体であり,ポリペプチド(主鎖)間で水素結合

を形成できると考えている。疎水性相互作用は球状タン

パク質が折りたたまれる際に働くものであり,カゼイン

のように開いた構造のタンパク質の側鎖間では主要な力

としては働かない。したがって, CNPT間の結合は疎

水性相互作用によるものではなく,水素結合によるもの

だとしている。 Bigelowの疎水性スケールに従えば,カ

ゼイン特に fJーカゼインと Kーカゼインは疎水性の強いタ

ソパク質に分類されてきたが,現在では Bigelowの疎

水性スケ ールは使われていない。そして ,Kyte&

Doolittleのスケールに従えば,カゼイソはほとんどの

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第 2号

球状タンパク質よりも親水性である, とHoltは主張し

ている。温度上昇と共に強くなる相互作用は吸熱的(エ

ンタルピー変化△H>O)であるが,必ずしも疎水性相互

作用によるものではない38)。疎水性相互作用は,△H>

o, エントロピー変化△S>Oであるが, CNPT間の相互

作用も疎水性相互作用と似た性質(△H>〇,△S>O)を

示す。水素結合の形成が他の作用(例えば側鎖間の疎水

性相互作用)と協同的に働く場合には,水素結合が発熱

的であるとするのは誤りである。そして,主鎖間の相互

作用と側鎖間の相互作用が区別できない場合,タンパク

質(カゼイン)間の吸熱的な会合をエントロピックな相

互作用と呼ぶのが適切であるとしている5¥1992年の Holtのモデル18)以降Walstra17lのものを除

いて,それぞれに若干の特徴はあるが,全て Holtのナ

ノクラスターモデルを基本としている (Table1)。最近

の論文で引用されるのは多くがナノクラスターモデルを

基本としており,国際的にはナノクラスターモデルが主

流である。では, Holtのナノクラスターモデルに問題

点はないだろうか。 CPナノクラスターの調製にあたっ

ては,ミセル中の全ての Poがクラスター形成に加わっ

ているとしているが, Kーカゼインの Poは架橋形成に加

わっていない。 Aokiら39)の報告ではfJーカゼインの53.8

%が CCPで架橋されていない。また, CPナノクラス

ターでは49個もの SerP4Casが会合しておりそのサイズ

が大きすぎないだろうか。カゼインが CCP架橋会合体

を形成する時 Poクラスター以外の部分が立体障害と

なり,架橋会合体の形成を抑制している可能性がある。

カゼインが CCPで架橋されるのに比べて, SerP4Casの

会合はより進行しやすく,会合度の高い会合体を形成す

る可能性が考えられる。 Aokiら40)が分離した CCP架橋

カゼイン会合体は多分散性であるが,そのピーク位置の

推定分子量はおよそ120kDaあり,カゼインのおよそ 5

量体に相当する。

Holtのナノクラスターモデルの改良型であるデュア

ルバインディングモデルも報告されている (Fig.3b)20l。

Holtのモデル (Fig.3a) 18lがCPナノクラスターによる

カゼインの会合に着目しているのに対して, Horneの

デュアルバインディングモデル20)では,カゼイン分子

の疎水性相互作用と CCPによる分子間架橋という 2つ

の結合を介してミセルが成り立つと説明している。つま

り個々のカゼイン分子は疎水性領域を介して会合する

が,会合の進行は分子の親水性領域 (Poクラスタ一部

位)の負電荷の反発により阻害される。しかし,そこに

CCPが結合すると分子間架橋が形成され,再び会合が

進行する。このような機序でカゼイン分子は会合し,枝

分かれし,そして三次元構造を形成するが, Poクラス

タ一部位を有しない Kーカゼインが疎水領域に疎水性相

互作用するとカゼイン分子の会合は終結してミセルの成

131

長は止まることになる。また Horneらは, CCPの形状

およびサイズについても考察している。最低 3つのホ

スホセリン (Ser-P)残基から成るカゼイン分子の Poク

ラスタ一部位が,四面体結晶状またはそれが 2つ結合

した二角錐状の CCPの各面と結合すると考え,計算上

のモル質量を4,897g/molから9,757g/mol, 大きさを

約3nmと推定している41,42)0

Dalgleish25,27lはCPIタンパク質ナノクラスターがサ

プストラクチャー(ユニット)となり,ユニット間ある

いは他のカゼイン分子と会合してミセルが形成されると

考えた (Fig.3d)。なお,この CPIタンパク質ナノクラ

スターは,内側では CPとカゼインの親水性の Poクラ

スターが結合しており,外側はカゼインの疎水性領域と

なっている。したがって,疎水性相互作用でユニット間

の会合が可能である。 Kーカゼインはこの CPIタンパク

質ナノクラスターと疎水性相互作用で結合することがで

き, Kーカゼインがミセル表面を覆うとミセル形成は終

結する。この CPIタンパク質ナノクラスターはサプミ

セルが存在しないという観点からモデルが構築されてい

るが,サブストラクチャーを有するという点でサプミセ

ルモデルと類似性がある。特に Walstraのサブミセル

内に CCPがあるとするモデル (Fig.2e) とは, CCPで

架橋されたカゼイン会合体がユニットとなりミセルが形

成されているという点で共通点がある。ただし,

Walstraのサプミセルではその中に数個の CCPが点在

しているが, DalgeishのCPIタンパク質ナノクラス

ターでは CCPは中心にあるという違いがある。また,

Walstraのサブミセルはカゼイン組成が異なる。 CPIタ

ンパク質ナノクラスターのカゼイソ組成について言及は

ないが,カゼイン組成には差はないであろう。 Dal-

gleish & Corredig27lのモデル (Fig.3d)では,カゼイ

ンミセルは乾物 lg当たり 3-4gの水を含んでいること

から,内部にfJーカゼインが通る水路を取り入れてい

る。カゼインミセルの水和に着目した Bouchouxら24)

は,ミセルを圧縮するとミセルが水を失い収縮する現象

をX線小角散乱で解析し,スポンジモデル (Fig.3c)

を発表している。このモデルでは溶媒で満たされたポロ

ノイセルと CCPナノクラスターとタンパク質でできた

硬いボロノイセルで構成されている。因みに,ボロノイ

セルとは平行な平面でつくられる凸多面体で乎行移動に

より全空間を覆い尽くせるものである。

前述したように1990年以降に発表されているモデル

はWalstraのものを除いてサブミセルを否定したもの

である。サプミセルは存在するのか?これは1998年に

開催されたカゼインシンポジウムで講演した Walstra

の演題でもある。サブミセルモデルを広めた Slattery

もサブミセルの存在を否定した Holtも,大きな拠り所

としたのはカゼインミセルの電子顕微鏡写真である。

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132 第66巻

Fig. 5 Electron micrograph of bovine casein micelles obtained by unstained, embedded thin section. The picture surrounded

with the square fame shows the enlarged micelle indicated with a arrow, and the parts seemed to be submicelles are

surrounded with circle. [Reprinted from by Knoop et al. 44) (1979) with permission of Cambridge University Press]

3. カゼインミセルの電子顕微鏡写真の検証

1990年以降に登場したナノクラスターモデルは,2-3

で詳述のとおり ,その拠り所のひとつになっている電子

顕微鏡像の解釈は大変重要なポイソトとなる。ここで

は,その電子顕微鏡データについて,対象論文をしぽっ

て,掲載されている電子顕微鏡像の解釈について考察を

試みる。

3-1. 透過電子顕微鏡 (TEM) のコントラスト

問題の核心に入る前に,まず TEMの像形成の基本を

理解しておかなければならない。はじめに,TEMのコ

ントラス トの成因についてふれる。

TEM像は散乱コソトラスト,位相コントラスト, 回

折コソ トラストに由来して形成される。この中で,カゼ

インミセルを観察する場合に関係し,また本稿のナノク

ラスターを考察する際に理解しておかなければならない

コソトラストは散乱コソトラストである。

散乱コソトラストは試料へ入射した電子が試料構成原

子に衝突すると,入射電子は散乱され偏向することによ

る。偏向角度が大きい場合は対物レソズの絞りにさえぎ

られ,絞りの孔を通過せず,像形成に関与しない。その

部分の像は黒く写し出される。一方,散乱物質がないと

ころを透過した電子は対物レソズの絞り孔を通過し白く

写し出 さ れる。この散乱電子の有無で白 • 黒の散乱コソ

トラストを生じ像形成する ことができる。

散乱には二種類ある。入射電子が試料原子の核に衝突

すると,核の質量が大きいため核は変化せず,入射電子

はエネルギーを失わずに大きく偏向する。これを弾性散

乱という。もう一方は,試料原子の軌道電子に衝突した

場合で,両者の質量は同じなので入射電子はエネルギー

を失いながら少し偏向し,対物レンズの絞りを通過す

る。これを非弾性散乱という。

弾性散乱,非弾性散乱の強さは構成原子の種類によ っ

て変わり ,原子番号の大きい原子により 強 く散乱され

る。このような元素の違いよるコントラストなので元素

コソ トラスト ,あるいは原子番号 Zに依存するので Z

コソトラストと呼ぶことがある43)。

タソパク質を観察する場合,構成する原子は軽元素が

多いので散乱される程度が少ない。その部分は白く写し

出され,ほとんどコソトラストが生じない。そのため,

カゼイソミセルを観察する場合,オスミウム,ウラソの

ような重元素の化合物を結合させる染色処理をして観る

のが一般的である。オスミウムは弾性散乱能が大きいの

で,その部分は黒く写し出される。このような弾性散乱

する物質が存在する部位を,「電子密度 (electronden-

sity) が高い」と表現することが多い。オスミウムの化

合物である四酸化オスミウムはタンパク質とよく反応し

結合するので,オスミウムの存在に基づくコソトラスト

で,タソパク質の形態を知ることができる。

カゼイソミセルの観察で考えると,従来法では四酸化

オスミウムで染色するのが一般的で,タンパク質部分は

黒い像として写しだされる。 Fig.5は例外的に無染色の

カゼイソミセルを包埋し超博切片を作製し観察したもの

である。

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第 2号 133

Fig. 6 Low dose cryo-electron micrograph of frozen, hydrated, unstained, unfixed skimmed milk. [Reprinted from Bruggen etal.451 (1986)]

カゼイソミセルを無染色で観察すると,タンパク質は

軽元素であるから弾性散乱能は少ないので白く写しださ

れる。一方,ミセル内のCCPは,その Caとリソの弾

性散乱能により ,カゼインの白い下地に黒く写し出され

る。 Knoop44lの観察した Fig.5はこのようになってお

り,白く写しだされたサプミセルの周りを埋めるように

CCPが存在しているようにみえる。

3-2. カゼインミセルの電子顕微鏡写真の解釈

Holt18lが初めてナノクラスターモデルを提示した際,

これまでに 4種の方法で観察されたカゼイソミセルの

TEM写真を説明している。その 4種は①凍結割断法,

②回転蒸着法③無染色超博切片法 (Fig.5), ④無染色

凍結氷包埋法 (Fig.6)である。

このうち,①,②の方法は 2-3項で Holtが述べたサ

プミセルの存在を否定する理由の 1点目に関連する。

Holtは「これまでの方法による結果はアーティファク

トである」としているが,①凍結割断法は化学固定をせ

ずに物理的な凍結固定によるもので,生物分野では広く

用いられてきた完成度の高い優れた方法であり,その根

拠を示さずにアーティファクトと片付けるのは理解しづ

らい。ついで,Holtはアーティファクトがないと思わ

れる 「④の新しい方法ではサプミセルに相当する粒子は

観察されなかった」としている。

③の方法で観察した Fig.5は1976年の Knoop44lによ

るもので,前項で述べたように白いタンパク質の下地に

Caとリソが黒く写し出されている。無染色であるから

コントラストは弱くサプミセルの存在は分かりづらい。

そこで,この図の矢印のミセルを拡大し,サプミセルと

思われる部分に筆者が矢印を加筆した。矢印の付いたサ

プミセルの周囲に,点あるいは線状の黒い CCPが存在

することがわかる。 Knoop44lはこのサブミセル間の隙間

に存在する散乱コソトラストで黒く見えている CCPが

サプミセルを連結し,ミセル内にCCPが均ーに存在し

ているわけではないと解釈している。

しかし,Holt18lはFig.5において「サプストラクチ

ャーは無染色のカゼイソミセルの薄い切片中,低密度の

マトリックス中に均ーに分散したより大きな電子密度の

部分と共に観察された」とし,KnoopがCCPであると

する部分にカゼインのサプストラクチャーが混在してい

ると解釈している。また,新しい方法とされる④の無染

色凍結氷包埋法(クライオ TEM法)で観察した Fig.6

において「サプストラクチャーと同様の粒子を別の方法

で示した」としている。

Holt18lはこのような解釈から,従来のサプミセル説と

はまった< 逆の位置関係とも言える, CCPを中心にそ

の周囲にカゼイソが会合するナノクラスターモデルを提

案した。

③,④の方法で観察した Fig.5および Fig.6の像解

釈では注意点がある。いずれの方法もある厚さをもった

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134 第66巻

Fig. 7 Transmission electron micrographs of freeze-dried poly-L―lysine immobilized casein micelles. (A): without uranyl

oxalate impregnation, and (B) showing increased contrast obtained with uranyl oxalate impregnation. [Reprinted from

by McMahon & Oommen22l (2008) with permission of Elsevier Ltd.]

切片像であるから,その厚さとサプミセル径の関係を理

解しておかなければならない。切片の厚さがサプミセル

経の数倍ある場合,切片中に数個の粒子が重なっている

可能性がある。また,その粒子の周囲には CCPが存在

する。このような厚さ方向の情報をもっている切片を被

写界深度が十分にある TEMで二次元的に圧縮する透過

像として見た場合には, CCPはHoltが述べたようにミ

セル中にほぽ均ーに分散しているように見える。

この煩わしさを解決するには, 1964年 Shimminと

Hill30lが超薄切片法で,初めてカゼイソミセル中のサプ

ミセルを TEMで観察した方法のように, 切片の厚さを

粒子径と同等あるいはそれ以下にする必要がある。しか

し, 20nm程度の超薄切片を作製することは技術的に簡

単ではない。近年においてもそのような報告例は見当た

らない。また,別の方法として,三次元的な重なりのな

い二次元平面のみの情報を観察することができる①の凍

結割断法を採用することである。これら凍結割断法およ

び超薄切片法による結果は,いずれもサプミセルの存在

を示している。

McMahonの論文22)はHoltのナノクラスターモデル

を支える電子顕微鏡像を示しているひとつである。この

論文では試料調製法の検討を加えながらカゼイソミセル

の構造に言及している。

観察方法は以下に示す手順で行っている。大まかに言

えばシュウ酸ウラソ染色,凍結乾燥, TEM観察である。

① 場合によっては脱脂乳をグルタルアルデヒドで化学

固定。

② 脱脂乳を蒸留水あるいは脱脂乳の限界i慮液で100倍

に希釈。

③ ポリ Lグルタミソをコーティングした支持膜を貼

ったグリットを試料液にかぶせ

試料をグリットに静電的に吸着。

④ 非静電的に付着したタソパク質を再蒸留水で二回洗

浄。

⑤ 12mMシュウ酸ウラソ溶液と60秒問接触させて染

色。

⑥ 過剰な染色液を水洗。

⑦ 液体窒素で ー159℃に冷却されたフレオ'/22中にグ

リッドを浸漬し急速凍結。

⑧ 真空中に置かれた ー159℃に冷却された真鍮プロッ

クの上に,⑦のグリッドを載せて室湿まで一晩放置

し凍結乾燥。

⑨ TEMで加速電圧80kv, 倍率 5万から14万倍で観

察。

⑲ ステレオ写真は試料の傾斜角度 8度で撮影。

最初の問題は Fig.7aおよび bの像解釈である。 aは

染色をせずに観察し, bはシュウ酸ウラソで染色してい

る。「低 pHでシュウ酸ウラソを用いた染色をするとタ

ンパク質の構造が変化すると予想したが,なんの変化も

なく染色,無染色で同じ構造であった」と述べ,aとb

の違いは「染色された bのほうが高い電子密度を有す

るコソトラストの差だけである」と,述べている。この

説明の前に,著者は,「他の生物系のウランイオンの挙

動に基づいて,ウラソとカゼイン, CPナノクラスタ ー

が結合すると仮定」している。そのため, bのシュウ酸

ウラソで染色した像の黒い部分は,カゼイソと CPナノ

クラスターであると解釈している。しかし,この解釈に

は疑問がある。

aの像は像無染色であるから ,Holt18lも引用した

Knoop44lの無染色の切片像 (Fig.5) と同様に,黒く写

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第 2号 135

100nm

Fig. 8 Transmission electron micrographs of freeze-dried poly-L一lysineimmobilized casein micelles that have been (A)

calcium depleted with EDTA, and (B) fixed with glutaraldehyde. [Reprinted from by McMahon & Oommen22J (2008)

with permission of Elsevier Ltd.]

し出されているのはリソと Caの存在に由来する散乱コ

ントラストによるものである。カゼイソは電子密度が低

いので電子線は散乱されず白く写し 出されている。 bで

はaで薄黒く 見えたリソと Caの部分の黒さが増してい

るだけである。彼らの仮定に基づきカゼインと CCPの

両方が染色されたのであれば,aでは見えていなかっ

た,圧倒的に多いカゼイソの部分が新たに染色され,黒

い部分の面積が増えていなければならない。しかしなが

ら, bはそうではない。 aと同様で,著者が述べるよう

にaよりやや コソトラストが増しているだけである。 b

はaのリソと Caの部分だけが染色されていて,カゼイ

ンは染色されていない。著者が仮定した「CCPとカゼ

インの両方が染色される」とする仮定は,成立していな

いのである。

bの像は Fig.5と同様であり,あたかもネガティプ染

色像ilのようである。カゼイソ部分が染色されているよ

うには見えない。

bのシュウ酸ウラソの染色時間は60秒間である。この

短時間の染色でウランイオンがカゼインと結合 しポジテ

1ネガティプ染色像 :一般的な染色は試料と染色剤が結合し陽(ポジティプ)に染色されるが,この方法は試料と染色剤は反応せずに,試料の周囲だけが陽に染まり ,試料は陰 (ネガ

ティプ)に染色されるのでネガティプ染色と呼ばれる。夕‘ノパク質やウイルスなどの軽元素で構成される試料に電子線を照射しても電子線は散乱されないので,コ‘ノトラストもなく像形成されない。そこで重金属塩からなる染色剤溶液を試料分散液と短時問混合すると, 目的とする試料の周囲に染色剤が浸透し,染色剤の高電子密度部分に囲まれた試料が白く写し出される。例えばカゼイソミセルの場合,サプストラクチャーの隙間に染色剤が浸透しサプストラクチャ ーの輪郭が確認できる。この方法による写真はイソフルエンザウイルス,ノロウイルスなどを説明する電子顕微鏡写真として,テレピ放映で目にする機会が多い。

ィプに(黒く)染色されるかどうか疑問が残る。カゼイ

ソミセルの固定 ・染色のために一般的に使われている四

酸化オスミウムの場合,箪者の処理時間は2時間であ

る。さらに長時間の染色時間の処理をし,しっかりカゼ

イソと結合させた場合にはどのような像になるのか?

Fig. 7bと違ったカゼイソミセル全体が黒く染まる Fig.

8bの像のようになる可能性がある。

この論文の二つ目の疑問はFig.8bの解釈である。こ

の写真は EDTAを加える前にグルタルアルデヒドで固

定したカルシウム除去ミセルで「グルタルアルデヒドで

固定すると,カゼイソミセルは高電子密度になった」と

述べている。その理由は,「グルタルアルデヒドがタン

パク質の周囲で結合し重金属のようになった」としてい

る。このようなことは考えづらい。アルデヒドがどんな

に結合しても所詮は水素,炭素,酸素からなる物質であ

るから,重金属のように変化するとは考えられない。

Fig. 8aはシュウ酸ウランで染色し,シュウ酸ウラソが

タソパク質に十分に結合していると説明している。 Fig.

8bもFig.8aと同様の処理をしているのであれば,こ

の像こそがシュウ酸ウラソによるポジティプ染色された

像ではないか と考えられるが, Fig.8bの染色処理につ

いては明記されていない。

三点目の文献は McMahon& McManus31lによるもの

で,冒頭, TEMを使ってカゼイソミセルの研究を成功

させるには 3つの必要条件を説明している。すなわち,

「①高い解像度をもつ装置があること,②電顕の分野を

完全に理解しているスペシャリストがいる こと,③その

スペシャリス トが酪農化学を深く 理解していることを挙

げ,これらの 3条件が整ったときに電子顕微鏡はカゼイ

ソミセルの構造を理解するのに重要なツールとなるであ

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136

100nm

Fig. 9 Transmission electron micrograph of casein

micelles I raw milk. Sample preparation involved

solidifying milk by mixing with molten agar, cut-

ting the milk and agar mass into 1-mm3 cubes

and fixing in 2. 5% glutaraldehyde in phosphate

buffer, pH 7 .0, postfixing in 1 % Os 04, dehydrat-

ing in ethanol series, infiltrating with Spurr's

epoxy resin, hardening the resin, cutting 70-nm

thick sections, and then imaging at 85,000x

magnification. [Reprinted from McMahon & McManus31> (1998) with permission of Elsevier

Ltd.]

ろうし,一つでも欠けると新しい情報は得られないし,

間違った結論が導き出される」と,述べている。まった

くの同感である。

この論文でも従来法の走査電子顕微鏡 (SEM) によ

るカゼインミセルの外観と超薄切片像による内部構造を

示している。 SEMのデータでは実際に写真を示し「表

面が不規則であること以外にミセルの構造を決定する根

拠を提出しないし,カゼイソミセルのモデルの違いを区

別するのに役立たない」としている。これはある意味,

SEMの表面を観察するという能力からして当然である。

超薄切片像では乳を寒天溶液に分散しゲル化後そのゲ

ルを lm面 に細切し,グルタルアルデヒドと四酸化オ

スミウムで固定 し, 脱水・樹脂包埋• 薄切し, 70nmの

切片を観察している。この時気になるのは固定液の緩

衝液にリン酸緩衝液を使用している点である。リン酸緩

衝液はリソ酸ナトリウムが主成分であるから CCPと反

応する。 CCPのCaとナトリウムのイオソ交換作用が起

きCCPの架橋が減少しサプミセルが解離する可能性が

ある。一般的に,乳の固定時にはリ‘ノ酸緩衝液は使用せ

ず,カコジレート緩衝液などのカゼインと反応しない緩

衝液を用いるのが普通である。彼らが示した Fig.9の

切片像にはミセル内部に空間が多く観られるのはこのこ

とに関係している可能性も考えられる.

彼らは従来の電顕的方法では何らかのアーティファク

第66巻

トが生じるので,ネイティプな状態に近いカゼインミセ

ルの形態を画像化する方法の開発から始めた。その方法

は前述のVanBruggenらの報告45)と同じクライオ TEM

法と呼ばれるもので,試料は化学固定せずに凍結で瞬時

に固定する方法である。凍結固定後は電子顕微鏡内の試

料台を液体窒素で冷却しながら凍結状態を維持して観察

するのがクライオ TEM法の本来なのだか,この論文で

は凍結乾燥してから観察している。ここに問題が潜んで

いる可能性がある。

無固定の試料を常湿で観察すると,電子ピームによる

熱ダメージを受け変形する可能性もあるので,あまり賛

同できる方法とは言えない。せっかくクライオ TEM法

を用いるのであれば,凍結状態を維持したまま観察でき

るTEMを使用するべきであった。

Fig. 10はステレオペア像で,ミセルを 3次元的な解

像度をもつ方法で観察をした。このステレオ像を見ると

確かに10nm以下の小さな黒い粒子が円を描くように連

結している。これら粒子はサプミセル説で言われている

20nmの粒子よりかなり小さい。黒い粒子が囲んでいる

白い空間部分のサイズも10nm程度で20nmのような大

きいものはない。

Fig. 10ステレオ像の情報と Fig.7bをルーペで拡大し

比較するとよく似ている。黒い小さな粒子が白い空間を

丸く囲むように連なっている。そうすると ,Fig.10も

カゼイソがポジティプに染色されたわけではなく,ネガ

ティプ染色像である可能性もある。

McMahon & McManus31)はこの論文の結論として,

「今回のクライオ TEM法で,サプミセルモデルを支持

する証拠はなかった」「しかし,サプミセルかあるいは

ナノクラスターかどうか,今回は決定できなかった」と

も述べている。

ナノクラスター説を提示する電子顕微鏡観察に使われ

ている染色剤は,共通してシュウ酸ウラソであった。シ

ュウ酸塩は 2-2項で解説のようにカゼイソミセルに対

して解離剤として作用する。そのため,試料本来の形態

を保持したままを観察するという顕微鏡的研究の目的に

は適していない可能性もある。ウランの化合物は酢酸ウ

ランなどネガティプ染色剤として用いられているのが一

般的である。このようなウランの化合物を使用し,従来

から生物試料の電顕観察に固定 ・染色剤として広く使わ

れている四酸化オスミウムを用いていない。サプミセル

説の根拠になってきた多くの研究に用いられている四酸

化オスミウムをなぜ使用しなかったのか,疑問が残る。

最低限,両方の染色剤を使用し,比較しながら考察する

ことが必要であろう。

以上のようにナノクラスター説の拠り所になっている

電子顕微鏡写真及びその像解釈には多くの疑問点がある。

今後,電子顕微鏡的にカゼイソミセルのサプストラク

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第 2号 137

JOO nm

杓g.10 Stereo pair of transmission electron micrographs of casein micelles in raw milk fixed with 4% 1-(3-

dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide. Micelles ware adsorbed onto a parlodion-coated grid, the grid was rinsed

in distilled water, stained with uranyl oxalate (pH 7. 2), plunge-frozen in liquid nitrogen-cooled Freon 13, and freeze-

dried. Imaging was at 250,000x magnification. [Reprinted from McMahon & McManus31) (1998) with permission of

Elsevier Ltd.]

チャーを確かめるために以下のような取り組みが考えら

れる。まず,現状で最もアーティファク トの少ない方法

と考えられる加圧凍結を併用した氷包埋によるクライオ

TEM法を用い,化学固定,染色処理をせずにミセル中

のCPPを観察する。ついで,カゼインサプストラクチ

ャーをポジティプに染色する。この染色には四酸化オス

ミウムをまず使用し,さらに,シュウ酸ウラソの染色時

間とコントラストの関係を整理し, 確実にカゼイソがポ

ジティプに染色されていることを確かめた上で像解釈に

進む。このようなステップをとれば,カゼインミセルの

内部構造に関するより精度の高い情報が得られるはずで

ある。

4. 乳加工において観察される現象と各カゼインミセル

の構造モデル

サプミセルモデルおよびナノクラスターモデルのどれ

が実際のカゼイソミセルのモデルとして正しいのかにつ

いては,現在も議論が続いている。それぞれのモデルの

妥当性は電子顕微鏡などによる観察結果,ならびに実際

に観察される様々な現象を論理的に説明可能かどうかで

検証することができる。そこで,ここでは観察される現

象の一部についてサプミセルモデルおよびナノクラス

ターモデルのそれぞれに基づいて考察を試みる。いくつ

かの現象に関する考察した概要を Table2に示す。な

お,ナノクラスターモデルはデュアルバインディングモ

デル, Holtのモデルおよび Dalgleishのモデルのそれぞ

れに分けて検討する。なお,ここで考察するサプミセル

モデルは Schmidtのモデル1)である。

4-1. カゼインミセルから解離する各カゼインの比率は

何故温度や pHにより異なるのか。

現象: 牛乳を低温下で保存しておくと,/Jーカゼインが

カゼインミセルか らホエイ 中に遊離してくる。ホエイ 中

に遊離したfJーカゼインの一部はミセル中のfJーカゼイン

と入れ替わるが,全てがミセルと置き換わるわけではな

ぃ46)0 /Jーカゼインがカゼインミセルから遊離してくる

ばかりでなく ets1ーカゼインや Kーカゼインも遊離し,そ

の遊離量は,/Jーカゼイソ>as 1ーカゼイン ~ Kーカゼイン

である47)。この現象は pHおよび湿度に依存し,どのカ

ゼインも低湿では遊離塁は多いが, 30℃ではわずかで

あり,遊離量が最も多くなる pHは温度により若干異な

る。 4℃では pH5.15付近, 20℃では pH5.4付近, 30℃

では pH5.45付近である。すなわち, CCPがミセルか

ら遊離する pH (5.2-5.4)付近においてカゼインの遊離

量は最大となるが,カゼインの全てが可溶化するのでは

ない。最も遊離量が多い 4℃においても,/Jーカゼインで

約50%が,ets1ーカゼインでは約25%が可溶化するが残

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138 第66巻

Table 2 Explanation of well-known phenomena based on casein micelle models.

Nanocluster model Submicelle

model Dual-Binding Holt Dmalgoldeeisl h model model

Ratio of caseins (as1-, a52-, /J-, and K-CN) dissociated from micelles varies depend-ing on temperature and pH. △ △ X

゜Dissociation of caseins, particularly K-CN, from casein micelle upon heating

Micelle size of yogurt keeps constant, while releasing CCP during fermentation

Meltability of cheese upon heating

X

X

△ △

Emulsification of process cheese △

゜X

゜0 : mostly explainable, △ : partly explainable, x : insufficient to explain

りは超遠心により沈降する。

サブミセルモデルに基づいた解釈: Dalgleish & Law47)

は,サプミセル単位でカゼインが遊離するならば,遊離

してくる各カゼインの比率は pHや温度が異なってもほ

ぼ一定になるはずであり,そうなっていないことはサブ

ミセル単位での遊離ではなく,各カゼインが独立で遊離

すると考えるべきだと指摘している。しかし,サブミセ

ルではサプミセルに含まれる各カゼインの構成比は必ず

しも一定ではなく,カゼインミセルの内部に存在してい

るサプミセルは疎水性が高く,表面近くには疎水性が低

いサプミセルが分布していると考える (2-2参照)。し

たがって, pHや温度により疎水性相互作用と静電的反

発力は変化し,その結果ミセルから解離するサブミセル

の量や各カゼインの比率は異なると考えることができ

る。しかしながら, CCPが外れても全てのカゼインが

可溶化するわけではない点をどう解釈するか。 pHが等

電点に近い場合には静電的反発が低下し,疎水性相互作

用が働く 30℃では CCPが外れたサプミセルが凝集し可

溶化しないと考えられる。しかし,疎水性相互作用が働

かない 4℃でも可溶化しないカゼインが多い点はサプミ

セルモデルでは説明しにくい。

デュアルバインディングモデルに基づいた解釈:このモ

デルにおいても主として疎水性相互作用で会合している

各カゼインが,低温にて疎水性相互作用が働かないとミ

セルから遊離してくると考えることができる。しかし,

何故fJーカゼインが最も遊離しやすいのかについては説

明が不十分である。等電点付近にて CPナノクラスター

が可溶化しても全てのカゼインが遊離しない理由につい

ては,静電的反発が減るので疎水性相互作用により凝集

すると考えることができる。しかし,低湿においても可

溶化しないカゼインが相当量ある点については説明しに

くい。 Dalgleish& Law48)はカゼインミセルの構造を維

持する何か別の結合が働いていると述べているが,どの

ような結合かは不明である。

Holtのモデルに基づいた解釈: Holtの考え5)では 2-3

にて説明したように,カゼインは CPナノクラスターを

核とし,紐状カゼインの GlnやProに富む CNPTにて

水素結合する。しかし,主鎖全体としては△H<Oとは

ならず,△H>O, △ S>Oとなる疎水性相互作用とは別の

相互作用で会合する(注,熱力学では水素結合は△H<

0, △ S>O, 疎水性相互作用は△H>O, △ S>Oとなる。

しかし,球状タンパク質ではない紐状タンパク質では必

ずしも当てはまらないと Holtは考えている。また,力

ゼインが規則的な 2次構造を持っているのか,持ってい

ないのかについては議論が続いている。)。したがって,

pHが低下し CCPが可溶化すると CPナノクラスター

から外れたカゼインは主として△Hと△Sが共に正とな

る相互作用を介して会合している。この会合体の大きさ

は不明であり遊離するカゼイン量が pHおよび温度によ

り異なる点に関する解釈が難しい。

Dalgleishのモデルに基づく解釈: Dalgleish & Corre-

dig27)の考えでは疎水性相互作用の役割を認めているの

で, pHや湿度による遊離カゼイン量の差については説

明可能である。 (J-カゼインはカゼインミセルの水路付

近に分布していると考えているので, (J-カゼインが最

も遊離しやすい点も説明しやすい。

4-2. 乳を高温加熱すると何故カゼイン,特にKーカゼ

インがミセルから解離するのか。

現象:乳を135-140℃にて加熱すると,各カゼインが,

特に Kーカゼインがミセルから遊離する49)。粒径が中程

度のミセルからは,およそ Kーカゼイン: cxsーカゼイン:

/Jーカゼイン=50 : 27 : 15の割合でミセルから遊離す

る。さらに,この現象は100℃以下の加熱においても観

察されている50)。

サブミセルモデルに基づいた解釈: Kーカゼインの解離

はpH依存性があるため,静電気的反発がカゼインの解

離に関与していると考えられる。また,疎水性相互作

用は温度が上がると強くなるが, 60-70℃以上になると

徐々に弱まる51)。このため,ミセルの外側に位置して

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第 2号

いるサプミセルを構成している Kーカゼインおよび Kーカ

ゼインと相互作用している Cl.51ーカゼインやfJーカゼイン

が,静電的反発が強くなる pHではミセルから遊離する

と考えることができる。サブミセルはカゼインの SerP

を介して CCPにより互いに架橋されているので,ミセ

ル内部のサブミセルからは Cl.51ーカゼインやfJーカゼイン

は遊離しにくい。しかし,ミセルの外部近傍に位置して

いるサブミセルのカゼイン構成比に関する情報がないと

それ以上の考察は難しい。

デュアルバインディングモデルに基づいた解釈:サプミ

セルモデルに基づいた解釈とほぼ同様に考えることがで

きる。 CCPは遊離していないので,ミセル外部近傍の

CPナノクラスターが結合に関与していない部分では静

電的反発が高まり,疎水性相互作用が低下すればカゼイ

ンが遊離してくる。しかしサブミセルモデル同様ミセ

ル外部近傍における各カゼインの構成比に関する情報が

なければ十分な解釈は難しい。

Holtのモデルに基づいた解釈: Holtはナノクラスター

モデルに基づいた説明をしていない。

Dalgleishのモデルに基づいた解釈: Dalgleish & Corre-

dig27)は負電荷による電気的反発が大きくなることを指

摘している。さらに,変性ホエイタンパク質が Kーカゼ

インと結合し,ミセルに結合することが関与している可

能性を指摘した。しかし,カゼインの遊離はホエイタン

パク質が存在しなくても起きる49)ことから,ホエイタ

ンパク質のミセルヘの結合が直接的な引き金になってい

るとは考えにくい。

4-3. 酸乳調製時にカゼインミセルはどのように挙動し

ているのか。

現象:乳の pHを乳酸菌で下げていくと,カゼインミセ

ルの CCPがミセルから失われていく。 pH5.2付近にて

すべての CCPがミセルから外れ,さらに pHが等電点

に近づくとカゼインが凝集しカードを生成する。 pH

5.2付近でカゼインミセルはどうなるのかについて十分

には解明されていないが,いくつかの重要な実験事実

が示されている。①pH 5.4付近にてカゼインがカゼイ

ンミセルから遊離する。この現象は温度依存性があり,

低温ではカゼインが遊離するが, 30℃では遊離は少な

ぃ48,52)。通常のヨーグルト製造に倣って,脱脂乳に脱脂

粉乳を加え,固形分を12%に調整した牛乳を90℃にて

15分間殺菌して調製したヨーグルトを凍結割断法で電

子顕微鏡観察した結果が報告されている53)。pH5.2に

おいて,やや大きいカゼインミセルと直径20-30nmの

カゼイン粒子が認められる。②等電点においてはカゼイ

ンミセルから遊離するカゼインは殆どなく,凝集物の大

きさは元のミセルのそれと大きな変化はない52)。電子

顕微鏡観察の結果54)でも,凝集物の大きさは元のミセ

139

ルよりやや大きいものの,顕著な違いではない。但し,

形状はやや異なっており,球状というより不定形な凝

集物になっている。③pH 5.2付近にて,カゼインミセ

ルの□電位はゼロに近づき55), 水和してミセルが膨潤す

る56)。

サプミセルモデルに基づいた解釈: pHが低下すると,

サブミセル間を架橋する CCPはミセルから解離する

が,静電気的反発が低下するために疎水性相互作用によ

りカゼイン粒子は凝集する。電子顕微鏡観察53)にて,

pH 5.2付近で観察される直径20-30nmのカゼイン粒子

はサブミセルだと解釈することはできる。しかし,サブ

ミセルは超遠心分離を行っても沈降しないので, 30℃

では沈降しないカゼインは殆どない48)という実験結果

と矛盾する。したがって, CCPがミセルから遊離して

も,サプミセルに解離していないと考えられ,サブミセ

ルモデルでは説明することが難しい。

デュアルバインディングモデルに基づいた解釈: pHが

下がれば CCPがカゼインミセルから遊離するが,デュ

アルバインディングモデルでは CPナノクラスター以外

にも静電気的相互作用や疎水性相互作用でカゼインが会

合している。このため, pH5.2付近で静電的反発力が

低下すると,低湿では疎水性相互作用が働かないので,

カゼインがミセルから遊離しやすくなる。 30℃では疎

水性相互作用が働くため,カゼインは遊離しにくいと解

釈することができる。 Lucey& Singh54lはpH5.2付近

でCCPがミセルから外れると負電荷が増え,水和が高

くなると説明しているが,負電荷が増えたにも関わらず

pH 4.6の等電点以外でも口電位がゼロに近づく理由は

説明されていない。 Horne57lはCCPが遊離してもカゼ

インミセルが解離しないのは, CPナノクラスター架橋

以外にカゼイソ間に何らかの相互作用が働いているため

と考えている。その候補は疎水性相互作用と水素結合で

あると推定したが詳細を明らかにするにはさらなる研究

が必要と考えた。

Holtのモデルおよび Dalgleishのモデルに基づいた解

釈:ナノクラスターモデルでは CPナノクラスターを核

とし,△Hおよび△Sが共に正となる非共有結合により

相互作用している。このため, pHが下がり CPナノク

ラスターが可溶化すると,カゼインミセルはカゼイン単

量体が水素結合や△Hと△Sが共に正となる相互作用の

みで会合する。 Holt& Horne19JはCCPが遊離するとカ

ゼイン間の結合は減るが,負電荷が中和され静電気的反

発が低下する。そのため,カゼインミセルからカゼイン

が遊離し粒子の平均分子量は低下するが,流体力学的有

効半径は殆ど変化しないと説明している。△H>O, △S

>0となる相互作用は低温では働きにくく,加温すると

安定になると考えられる。そのため, 30℃にてカゼイ

ンがミセルから遊離しにくく,低温では遊離しやすいと

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140

考えられる。

4-4. チーズを加熱すると何故融ける(メルトダウンす

る)のか。

現象:チーズの種類によりメルトダウン性は異なる。例

外はあるが,一般的にカード中の残存 Ca(CCP)が多

いチーズでは加熱すると柔らかくなるが流れ出すことは

ない。一方,残存 CCPが低いチーズでは,加熱すると

流れ出す。カードのゲル強度はカードに残存する Caと

リン酸の比が関連している58)。チェダーチーズの貯蔵

弾性率 (G') は温度上昇に伴い低下し,損失正接 (tan

<5)は40℃以上で高くなり, 50℃付近で 1を超える。さ

らに温度が高くなると70℃付近で最大値を示した後,

温度と共 tan<5は低下する59)0

サブミセルモデルに基づいた解釈:このモデルによれば,

CCP量が減少するとサブミセル問の架橋が減り,加熱

によるサブミセルの運動性が上がる。 CCPが多いとサ

プミセル問の結合が強く,加熱しても運動性は限定的に

なると考えることができる。しかし,疎水性相互作用が

強くなる40℃以上からチーズの軟化が始まる理由は説

明できない。

デュアルバインディングモデルに基づいた解釈:

Horne20lは,レンネットカードのゲル強度は40℃付近で

最大となり,それより低い温度でも高い温度でもゲル強

度は低下すると述べている。温度が上がると疎水性相互

作用が強くなるとともに, Caのカゼインヘの結合が増

ぇ,電荷を中性化することで静電気的反発が低下する。

その結果,全体的な相互作用が高まり,ゲル強度が上が

る。一方,さらに温度が高くなると CPの溶解度が低下

し, CPナノクラスターの状態が変化するととともにカ

ゼインから Caが引き抜かれ,結果としてカゼインの電

荷が増加する。そのため,カゼインミセルが解離する

には至らないものの,カゼイン間の結合が弱くなり,ゲ

ル強度が低下すると説明している。(注,加熱すると可

溶性 Caの溶解度が低下し,ホエイ中の Caが減る。し

かし,ホエイ中の Caはカゼインに結合するのか,吸着

するだけなのかは不明である。さらに40~50℃という

温度でカゼインから Caが引き抜かれるという証拠はな

い。) Luceyら59)もカゼイン間に働く疎水性相互作用の

重要性を指摘しており,疎水性相互作用が強くなるとカ

ゼインが収縮し,カゼイン粒子間の接触面積が減少す

る。その結果として,全体的な相互作用が低下し,ゲル

強度が低下すると説明している。湿度が高くなると全体

的な相互作用が低下する理由として,静電的反発力の増

加も関係する51)(注,クーロンカ F=q1q2/ (4冠 r2), q1,

知:電荷, e:水の比誘電率, r: 電荷間の距離。 8は温

度依存性で,温度が高い方が低い。)

第66巻

Holtのモデルおよび Dalgleishのモデルに基づいた解

釈: HoltもDalgleishもこの現象について言及していな

い。しかし,チーズの硬さは CPナノクラスターの状態

に依るとともに,カゼイン間の相互作用にも依存する。

CPナノクラスターの状態はカードの pHと関係し,

チーズの種類により異なる。一方,カゼイン間の相互作

用は△H, △S共に正となる相互作用であり,温度が高

い方が安定だと考えられる。したがって,加湿により

チーズが軟化する現象を説明するには不十分である。

4-5. プロセスチーズにおける乳化機構

現象:プロセスチーズの物性には原料チーズ, pH, 副

原料など様々な因子が関係するが,特に使用する溶融塩

(注,乳等省令上は乳化剤)の種類に左右される。原料

チーズカード中の CCPが溶融塩によりキレートされる

と,電子顕微鏡写真60)では直径約20nmの小粒子(サ

プユニットと表現されている)が観察される。脂肪球は

均ーなカゼインマトリックスの中に分散している。ナチ

ュラルチーズを加熱した場合には脂肪が分離するが,プ

ロセスチーズの場合脂肪は安定的に分散し,カゼインマ

トリックスから分離してこない。

サブミセルモデルに基づいた解釈:原料チーズ中でパラ

カゼインのマトリックスから CCPが溶融塩のキレート

作用により可溶化されると,サブミセルの凝集体になる

と解釈できる。このサプミセル凝集体は CCPが外れた

Poにナトリウムが結合しカゼインナトリウムとなり,

水との親和性が増し均ーなカゼインマトリックスとな

る。カゼインミセルを構成しているサプミセルは疎水性

の高い領域と親水性が高くなった領域が存在し,疎水性

が高い領域が脂肪と相互作用すると考えることも可能で

ある。もし,そうであれば,プロセスチーズ中の脂肪周

囲にサブミセルが吸着しているはずである。しかし,そ

のような報告はない。

デュアルバインディングモデルに基づいた解釈: Lucey

ら61)はpH5.3-6.7にて CPナノクラスターが除去され

たカゼインの上清をゲルろ過し, pH<5.3ではカゼイン

ミセルからカゼインは殆ど遊離しないが, pH;?;5.6では

カゼイン会合体およびカゼイン単量体が遊離してくるこ

とを報告した。溶融塩を作用させ CCPが可溶化された

場合に遊離してくるカゼインが会合体か単量体かは不明

であるが, Luceyら61)の結果と同様に,カゼインの Po

にナトリウムが結合するとカゼインが分散し,それらが

会合した状態になる可能性がある。その結果,部分的に

会合したカゼインの疎水性領域が脂肪に吸着し,脂肪を

安定的に分散させていると解釈できる62,63)。電子顕微鏡

写真では脂肪の周辺に何も見えないのは,カゼイン単量

体あるいは小会合体は小さいため観察されないと考えら

れる。

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第 2号

Holtのモデルおよび Dalgleishのモデルに基づいた解

釈: CPナノクラスターが可溶化されると部分的に会合

したカゼインになる。しかし,親水性が高くなったカゼ

インがどのようなメカニズムで脂肪を安定化するか説明

しにくい。 Dalgleish& Corredig27lの考えではデュアル

バインディングモデルと同様に説明することが可能だが,

Holtの考えでは脂肪球に吸着し乳化する現象を説明で

きない。

このように,いずれのモデルも実際に観察される現象

を十分に説明しきれていない。

5. おわりに

日本では SchmidtやWalstraのサブミセルモデルが

広く受け入れられているが,国際的にはサプミセルの存

在を否定したナノクラスターモデルが主流である。サブ

ミセルの存在を否定する大きな根拠の一つは電子顕微鏡

写真であるので,本総説ではカゼインミセルの電子顕微

鏡写真に対する考察を行った。また,提案されている代

表的なモデルを使って,乳加工中に起きる現象をどの程

度説明できるかを検証した。どのモデルも乳加工中に起

きるカゼインミセルの変化を十分に説明することが出来

なかった。カゼインミセルには未だ謎の部分が多い。カ

ゼインミセルの構造を明らかにするにはさらなる研究の

精み重ねが必要である。

なお,本稿の 2章は青木と水野, 3章は木村, 4章は

堂迫と水野が中心となって取りまとめた。

謝辞

本総説を執筆するに当たり,カゼインミセルに関する

議論を通して貴重な知見や資料を提供して頂きました山

梨大学生命環境学部教授谷本守正博士, 日本獣医生命学

部准教授佐藤蕪博士,雪印メグミルク株式会社神垣隆道

氏,チェスコ株式会社田中穂積氏,同三原茂氏,チーズ

プロフェッショナル協会坂上あき氏に心まり感謝しま

す。また, Slatteryのカゼインミセルのモデルを作図し

て頂きました南日本株式会社中野智木博士にお礼申し上

げます。

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